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磁気共鳴画像 (MRI)に よる直腸癌術後骨盤内再発の診断

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磁気共鳴画像 (MRI)に よる直腸癌術後骨盤内再発の診断
日消外会誌 21(7)i2029∼ 2037,1988年
磁気共鳴画像 (MRI)に よる直腸癌術後骨盤内再発 の診断
X線 コンピュータ断層法 との比較
東京女子医科大学放射線科
木村 文 子
磯 部 義 憲
上 野 恵 子
同 消 化器病 セ ンター外科
五十嵐達紀
秋 本
山 田 明 義
伸
DIAGNOSTIC VALUE IN MAGNETC RESONANCE IMAGING
OF INTRAPELVIC RECURRENC回
OF RECTAL CARCINOMA:
COMPARISON TO COMPUTED TOMOGRAPHY
FuIIlko KIMURA,Yoshinori ISOBE,Eよ
o UENO,Tatsuki IGARASHI中
,
Shin AKIMOTOt and Akiyoshi YAMADA春
Division of Radiology and Division of Surgeryt,Institute of
Gastroenterology Tokyo Women's Medical College
直腸癌 の局所再発腫場 の診 断, と くに再発腫瘍 と疲 痕 組織 の 鑑別 にお け る magnetic resonance
inaging(MRI)の 有用性 を知 るため,X tt computed tomography(CT)の 診 断能 と比較検 討 した.
対象 は局所再発 の疑われ た18症例 であ る。MRIの T2強 調画像 において再発腫瘍 9例 は全all筋肉 よ り
高信号強度 を示 し,瀬 痕組織 6例 中 5例 は筋 肉 よ り低信号強度 を示 し,両 者 の鑑別 は可能 で あ った .
残 り371jは精嚢 逮 び腫大 した子宮頸部 で あ りT2強 調 画像 で 高信号 強度 を示 す ことよ り再発腫瘍 と
誤認 した。X tt CTで は全例均 一 な軟部組 織腫瘤 として描 出 され再 発腫瘍 と疲痕組織 の鑑別 が 困難 な
ことが 多 か った。 MRIは 局所再発 の診 断 に有用 であ りT2強 調画像 が有効 であ った 。
索引用語 :magnetic resonance imaging,X tt computed tomography,直腸癌術後骨盤内再発の診断
言
は あ るが,画 像 のみで局所再発 と確認す ることは しば
直腸癌 の遠隔成績 は早期診 断 の普及, 手 術手技 の進
しば困難 であ り,CT下 穿刺生検 の併用 が必要 とな る。
結
歩 に よ り著 し く改善 された。し か し直腸癌 では癌 再発
今 回われわれ は直腸癌 の局所再発診断, と くに再発
の約半数 が根治術後 の手術野 におけ る再 発, す なわ ち
腫瘍 と線維 化 した疲 痕組織 の 鑑 別 に お け る magnetic
resonance imaging(以下 MRIと 略記)の 有用性 につ
局所再発 で あ り, 局 所再発 は遠 隔成績 の 向上 を妨 げ る
最大 の 因子 とな ってい る。局所再発 に対 しては, 外 科
的手術療 法 以外 に根本的 な治療 法 は な く1 ) , 遠隔成績
の 向上 のため早期発見 が必 要 で あ る。
いて,CTと 比較検討 し,新 しい知見 を得 たので報告す
る。
対象 お よび方法
しか し, 局所再発 の早期診断 は しば しば困難 を伴 い,
1985年7月 か ら1987年7月 まで に,臨 床所見 お よび
臨床症状 であ る会 陰部痛 の 出現す る時期 には, す で に
CTに よ り直腸癌術後骨 盤 内再発 が疑 わ れ,東 京 女子
高度 の浸潤 のため再切除不能 とな る症例 が多 い. また ,
医科大学放 射線科 において MRIを 施行 した18例を 対
c a r c i n o e m b r y o n i c a n t i g e n下
(以
C E A と 略記) 値 に よ
が
いた
る早期 発 見 も上昇程度 低
め 困難 とされ るの。 X
象 とし,そ の 内訳 は表 1に 示す。年齢 は39∼69歳 (平
均年齢55,7歳),男 性16例,女 性 2例 で あ る。原発腫瘍
線 computed tomography(以
下 C T と 略記) は 有用 で
はいずれ も腺癌 で あ った 。
<1988年 3月 9日 受理>別 刷請求先 :磯 部 義 憲
〒162 新 宿区河 田町 8-1 東
京女子 医科大学 消化
器病 セ ンター放射線科
18例の うち組織学 的 に局所再発 の確認 された症例 は
9例 で,内 5例 は手術 に よ り,4例 は生 検 (3例 は CT
下穿刺 生検, 1例 は会陰部腫瘤 の 吸引細胞診)に よっ
112(2030)
MRIに
よる直腸癌術後骨盤内再発の診断
表1 対 象
日消 外会誌 21巻
使用 した CTの 機種 は,東 芝 TCT60A,70Aお
7号
よび
日立 CT W‐600であ る。撮影範 囲 はほ とん どの症例 で
腸骨稜 か ら会陰部 まで とし,lcm間 隔 の連続 ス キ ャン
+iit
F *r|[
五
言
言
1手 術1再 項
生検
再
1
60,M
I
APR
I経
13
6 9 ぅヽ I
APR
I
14.53,i
窪
APR
完悔癖
再
45t
11
発距辱
1 再
生犠
生 犠
発 に幻
*rF$r
過観察
!壊
通 観察
i療 痕 組聡
€€EA
T
痕組 織 電 ]
農
T'ETTT IT
を施行 した。全例 に前処置 として検査 2∼ 3時 間前 に
希釈 した ガス トログ ラフ ィンを経 口投与 し,検 査時 に
は経静脈性 に ヨー ド造影剤 を使用 した。
MRIは retrOspectiveに
検 討 し,CTの 所 見 と比 較
した。MRIで は Tlお よび T2強 調 画像 にお け る腫瘤 の
信号強度 を,同 一 画像上 の筋 肉,脂 防 の信号強度 と比
較 した。この比較 を客観的 にす るため ,184/1中
17例で,
一
同 画像上 での筋 肉,脂 肪 の信号強度 (pixel bright・
ness)を,TVモ ニ タ ー上 に関心領域 を設定 して求 め,
同一 画像上 で腫 瘤 と筋 肉,腫 瘤 と脂 肪 の信号強度 の比
を計算 した。残 り 1例 (症例 2)に つ いては,デ ー タ
欠如 のため,信 号強度 の測定 は施行 で きなか った。 な
お,関 心領域 の設定 にはなるべ くア ーチ ファク トの少
な い部位 で選定 し,腫 瘤 内 の信号強度 が不均 一 な症例
118
AR!
44,H
i
APR
I
経
過 観察
精
宝 疑
│
前 方切除術
APR;
ぼ
会陰式直虜切断村
では,画 像上 で高信号強度 を示す領域 を中心 にそ の信
号強度 を測定 した。
結
た。一 方, C T 上 , 骨 盤 内 に腫瘤 を認め なが ら, 局 所再
発 が否定 された症 例 が 9 例 あ り, この うち 1 例 は C T
下穿刺生検 に よ り疲痕組織 のみが認 め られ , 1 例 は手
術 に よ り肥厚 した 子宮頭部 を腫瘍 と誤認 していた こと
が確認 された, 残 りの 7 例 は, 臨 床的 お よび C T に よ
る 8 カ 月以上 の経過観察 にて変化 が 認 め られず , 再 発
腫瘍 ではない と判 断 した 。 この うち 2 例 は, 部 位 お よ
果
全 症 例 に お い て CTで 指 摘 され た 骨 盤 内腫 瘤 は,
MRIで も同部位 に確認す る こ とがで きた。また ,使 用
した全 てのパ ル ス系列 の画像 で腫瘤 を描 出す る こ とが
で きた。
び形 態 よ り精嚢 を腫瘍 と誤認 していた と考 え られ, 残
再 発 腫 嬉,赦 痕 組 織 お よび精 裏 の CT所 見 お よび
MRI所 見 を表 2に 示す。
前述 の方法 にて,MRIの 同一 画像上 で 関心領域 を設
定 し,腫 瘤 と筋 肉,腫 瘤 と脂肪 の信号強度 の比 を計算
り5 例 は, 疲 痕組織 が強 く疑われた。
し,グ ラフを作成 した。
使用 した M R I の 機種 は常電導0 . 1 5 T e d a 日 立 G ‐1 0
まず ,腫 瘤/筋肉比 につ いて検討 した (図 1).Tl強
で あ る。測定領域 は3 2 c m ま た は3 6 c m で , ス ライス幅
は1 . O c m ま たは1 . 5 c m で あ る。画像構成 のため の測定
調画像 では,再 発腫瘍 は筋 肉 と同等 また は高信号強度
マ トリックスは2 5 6 X 2 5 6 で あ り, 表 示 マ トリックスは
5 1 2 ×5 1 2 であ る。積算 回数 は 4 な い し 6 回 であ る。
で あ つたo T2強調画像 では,全 ての再 発腫瘍 が筋 肉 よ
患者 の体位 は原只J として背臥位 とし, 会 陰部痛 の強
い患者 のみ腹 臥位 とした 。検査 の約 1 時 間前 よ り排尿
均 1.63±0.35)であ った.赦 痕組織 は Tl,T2強 調画像
ともに筋 肉 よ り低信号強 度 を示す ものが多 く,腫層/筋
を禁止 し, 勝 洸 内 に尿 の貯留 した状態 にて, あ らか じ
め C T で 指摘 された腫 瘤存在部位 を中心 に横 断像又 は
肉比 は,Tl強 調画像 で0.39∼1.09(平 均 0.66±0.27),
T2強 調 画像で0.39∼1,99(平均0.83±0.60)であ った。
失状 断像 を撮 像 した。S p i n e c h o 法( 以下 S E 法 と略記)
にて, パ ル ス系列 は T l 強 調画像 として主 に T R 5 0 0
6例 中 5例 で腫瘤/筋肉比 は 1以 下 で あ ったが,1例 の
み 1以 上 を示す症例 が認 め られた。こ の症例 では腫瘤
が 非常 に小 さ く,適切 な関心領域 を設定 しがたか った。
m s e c , T E 3 0 m s e c , T 2 強 調画像 として主 に T R 2 , 0 0 0
m s e c , T E 6 0 m s e c , 1 0 0 m s e c を 使用 した。多 くの症例
で マル チス ライス法 を用 い, T 2 強 調画像 では, ア ル チ
エ コー法 を使用 した。
を示 し,腫 瘤/筋肉比 は0.90∼1.53(平 均 1.12±0.29)
り高信号強 度 を示 し,腫 瘤/筋肉比 は,1.22∼ 2.25(平
TI,T2強 調 画像 のいずれ において も再発腫場 の腫瘤/
筋 肉比 は疲痕組織 よ り高値 を示す傾 向にあ り,T2強 調
画像 の方 が二 者 の分離 は容易であ った。子宮頸部,精
1988年7月
113(2031)
表 2 再 発腫瘍,赦 痕組織,精 襲 の CTお よび MRl
所見
肪)
図 2 相 対的信号強度 (腫瘤/8旨
T2強 調画像
Tl強 調画像
塩理ヽ■呂 営出想い ]
図 1 相 対的信号強度 (腫瘤/筋肉)
Tl強 覇 画 像
T2強
田画僚
的強 い造影効果を有す る こと,隣 接す る骨破壊を有す
る ことおよび小腸や尿管を巻 き込 んでいることなどに
よ り,画 像 のみで も明 らかな局所再発腫瘍 と判断で き
た。残 り13例については画像上 では局所再発 が疑われ
ほ機 ヽ使日 〓 出想 い 単
電張 ヽ使日 ヽ電想 い む
た。 この うち 4例 では再発腫瘍 が証明 されたが, 9例
では再発腫瘍 が否定 された。画像 のみでは,再 発腫瘍
と赦痕組織 の鑑別 は困難な ことが多かった。
症例呈示
症例 1(表 1-症 pl1 4)
61歳,男 性.昭 和58年 6月 ,直 腸癌 にて腹会陰式直
腸切断術施行.昭 和62年右腎部痛出現.昭 和62年 6月 ,
手術 にて局所再発 が確認 された,
CTに て仙骨前方 か ら右側 にか けて,帯 状 の軟部組
織腫瘤 が認 め られ,再 発腫瘍 が疑われ た (図 3-a).
腫瘤/ 筋肉比 は T l , T 2 強 調画像 ともに 1 よ り大 き く,
MRIの Tl強 調画像 (SE 500/30msec)では,腫 瘤 は筋
肉 よ りやや高 い信号強度を示 し(図3-b),T2強 調画像
(SE 2,000/60,100msec)で は,更 に高 い信号強度 と
再発腫瘍 の それ と同等 で あ った。
して描出 された(図3-c)。MRI上 も再発腫瘍 として典
続 いて,腫 瘤/脂防比 について検討 した (図 2)。Tl
強調画像における腫瘤湖旨肪比 は,再 発腫瘍 で0.35∼
型的な症例である。画像上,SE 2,000/60msecと SE
2,000/100msecに明 らかな差は認め られなか った。腫
0.67(平均0。
49±0.13),赦痕組織 で0.14∼0.43(平均
0.27±0,11)であった。T2強 調画像 における腫瘤湖旨肪
瘤後方 に Tlお よび T2強調画像 にて線状 の低信号強度
域 が認め られ,再発腫瘍周囲の疲痕組織 と考 えられた。
比は再発腫瘍で0.41∼1.13(平均0.74±0,23),赦痕組
織 で0.14∼0.62(平 均0,31±0.17)で あった。 グラフ
に示す ごとく,Tlお よび T2強 調画像 ともに腫瘤/筋肉
症例 2(表 1-症 例 6)
62歳,女 性,昭 和59年 2月 ,直 腸癌 (Rs)りにて前方
切除術施行.昭 和60年10月直腸癌再発に対 して,Hart‐
比 と同じ傾向を示 し,再発腫瘍 の腫嬉湖旨肪比 は疲痕組
mann手 術を施行.昭 和61年 7月 ,会 陰部痛強 く,再 入
織 よ り高値を示す傾向にあった。また,T2強 調画像 の
方 が二者 の分離 は容易であった,
院.CT下
襲 の信号強度 は グ ラフの その他 の項 に示 した。両者 の
吸引細胞診にて腺癌が証明 された。
Tlお よび T2強 調画像で,再 発腫瘍 と赦痕組織 の両
者 の腫瘤湖旨肪比 は,腫瘤/筋肉比 より低 い値を示 した。
CTに て,仙骨前方 か ら尾骨前方,右側に比較的強 い
造影効果を有す る軟部組織腫瘤 が認め られ,尾 骨 の骨
破壊を伴 い,再発腫瘍 と診断 した。MRIの Tl強 調画像
CTで は,18例 全例 で骨盤内 に軟部組織腫瘤像 が認
め られた。18例中 5例 では,腫 瘤 が大 きいこと,比 較
図 4-a),T2強 調画像 (SE 2,000/60,100
度を示 し く
(SE 500/30msec)では,腫 瘤 は筋肉 とほぼ同 じ信号強
114(2032)
MRIに よる直腸癌術後骨盤内再発の診断
図 3 再 発腫瘍
a.X tt CTに て,仙骨前方から右側 にかけて,軟部組
織腫瘤 (矢印)が 認め られる。手術により再発腫瘍 で
あることが確認 されている。
日消外会誌 21巻 7号
図 4 再 発腫瘍
a.MRIの Tl強調画像 (SE 500/30msec)にて,腫 瘤
(矢印)は 筋肉とほぼ同じ信号強度を示 している.
.
b 瘤 る
て,腫
MRIの T2強調画像 (SE2,000/60mttc)に
(矢印)は 筋肉より非常に高い信号強度を示 してい
b o M R I の T l 強調画像 ( S E 5 0 0 / 3 0 m s e c )て
に, 腫 瘤
( 矢印) は , 筋 肉よりやや高い信号強度を示 している.
お よび T 2 強 調 画像 にて腫瘤前 方 に認 め られ る線 状 の
.
C瘤
M R I の T 2 強調画像 ( S E 2 , 0 0 0 / 6 0 m s e c )て
に
,腫
( 矢印) は さらに高い信号強度を示 している。
低信号強度域 は, 再 発腫瘍 周囲 の赦痕組織 と考 え られ
こ,
ブ
症rl1 3(表1-症 例 9)
65歳,男 性.昭 和60年 6月 ,直 腸癌 (Rb,P)め にて,
腹会陰式直腸切断術施行.昭 和 62年 1月 よ り,会 陰部
痛 および CEA値 の上昇 (8.9ng/ml)が出現 した。 さ
らに会陰部に硬結 を触知 し,吸 引細胞診を施行 し,腺
癌 が証明 された。
CTに て,会 陰部 よ り尾骨前方 にのびる軟部組織腫
瘤 が認め られ,再 発腫瘍 が疑われた (図5二a).MRIの
Tl強調画像 (SE 500/30msec)(図5-b),T2強 調画像
(SE 2,000/60,100msec)(図5-c)で は,会 陰部 の腫
瘤 の大部分は筋肉 とほぼ 同等 の信号強度を示 した,た
だ し,T2強 調画像で は,腫 瘤内 に点状 の散在す る高信
m s e c ) では筋肉より非常に高い信号強度を示している
M R I 上 も直腸癌再発腫瘍 と考えられた。T l
( 図4 - b ) 。
号強度域および,限 局性 の高信号強度域 が認め られた
(図5-c,d),非 典型的ではあるが,MRIで も直腸癌の
1988年7月
図 5 再 発腫瘍
a.X tt CTに て,会 陰部に軟部組織腫瘤 (矢印)が認
め られる。会陰部腫瘤の吸引細胞診にて腺癌が証明さ
れている.
b.MRIの Tl強調画像 (SE 500/30msec)にて,腫 瘤
(矢印)は 筋肉とほぼ同じ信号強度を示 している。
再発腫瘍 と診断 した。今回検討 した再発腫瘍の うち,
低信号強度域が 目立つ症例である。
症4/j4(表 1-症 例15)
66歳,男 性.昭 和59年8月 ,直 腸癌 (Rb)めにて腹会
陰式直腸切断術施行.
CTに て,仙 骨 お よび尾骨前方 に軟部組織腫瘤 が認
め られた(図 6-a).術 後初回の CTで は再発腫瘍が疑
われたが,約 2年 5カ 月の経過観察にて も変化な く,
115(2033)
c,MRIの
T2強 調画像 (SE2,000/60msec)に て腫瘤
(矢印)の大部分は筋 肉 と同 じ信号強度 を示すが,腫 瘤
内 に点状に散在す る高信号強度域を含 んでいる。
d . M R I の T 2 強調画像 ( S E 2 , 0 0 0 / 6 0 m s e c ), で
図 5
c よ り尾側の画像 ( 図5 - d ) に おいて, 腫 瘤内には限
局性 の高信号強度域 ( 矢印) が 認め られる。
c ) . M R I の 矢状 断像 にて疲痕組織 の範 囲 が腹会陰式直
腸切 断術 の際 の景J 離面 に一 致 してい る こ とが明瞭 にわ
かる (図 6-d).
症例 5 ( 表 1 - 症 例 1 8 )
4 4 歳, 男 性. 昭 和 5 9 年 7 月 , 家 族 性 ポ リポ ー シスに
のため, 腹 会陰式直腸切 断術 お
合併す る直腸癌 ( R s ) 。
よび左結腸切 断術 を施行 .
術後初 回の C T に て, 仙 骨前方 に ガス トログ ラフィ
ンを含 んだ 小腸係臨 が認め られ, そ の両側 に左右 ほぼ
赦痕組織 と考 えられてい る。MRIで は,Tl強 調画像
(SE 500/30msec),T2強調画像 (SE 2,000/60,100
msec)と もに,腫 瘤 は筋 肉 より著明に低 い信号強度を
対象 の軟部組織腫瘤 が見 られ, 再 発腫瘍 が疑 われた。
示 し,赦 痕組織 として典型的な症例である (図6-b,
瘤 の大 きさ, 形 態 に変化 な く, 再 発腫瘍 ではない と診
しか し, C T に よる約 2 年 3 カ 月 の経過観察 にて も, 腫
116(2034)
MRIに
よる直腸癌術後骨盤内再発 の診断
図 6 線 維性疲痕組織
a.X tt CTに て,尾 骨前方に軟部組織腫瘤 (矢印)が
認め られる。約 2年 5カ 月の経過観察により腫瘤の大
きさ,形 態 に変化な く,疲 痕組織 と考 えられている。
て,腫 瘤
b.MRIの Tl強調画像 (SE 500/30msec)に
(矢印)は 筋肉より低い信号強度を示 している.
日消 外会誌 21巻
7号
d.MRIの T2強調画像 (SE 2,000/60msec)の
矢状断
像 にて,低 信号強度域で示 される赦痕組織 (矢印)の
範囲が腹会陰式直腸切断術の剣離面 に一致 しているこ
とが明瞭にわかる。
断 された (図 7-a).CTで
指摘 された腫瘤 は,Tl強 調
画像 (SE 500/30msec)で は,筋 肉 とほぼ同 じ信号強
度 を示 し (図 7-b),T2強 調 画像 (SE 2,000/60,100
msec)で は,脂 肪 と同程度 に非常 に高 い信号強度 を示
した (図 7-c).CTに よる経過観察 に よ り変化 が ない
こ と,腫 瘤 の部位,形 態 お よび MRIの T2強 調 画像 に
て高信 号強度 を示す こ とよ り,精 襲 を見 ていた と考 え
られた。
考
近年,MRIの
察
臨床応用 は急速 な進 歩 を遂 げ,各 領域
の疾患 の診 断 において重要 な役割 を果た してい る。骨
盤領域 の MRIは 呼 吸性移動 が 少 ないた め,比 較 的 良
好 な画像 が得 られ る。 そ のた め,勝 脱 癌 り。,前 立 腺
, ︶
c 本 る
MRIの T2S貧調画像 (SE 2,000/60msec)において
腫嬉 (矢印)は 筋 肉 よ り低 い信号強度を示 してい
)ぉけ る MRIの 有 用 性 は
癌 "の お よび婦 人 科 腫 瘍 98湾
多数報告 がみ られ る。周知 の ご と く,Tl,T2値 のみか
らは良,悪 性腫瘍 の鑑別 は困難 で あ るが1い121,放射線
照射 に よってお こ った線維症 と再 発腫瘍 との鑑別 には
1つ た
MRIが 有効 で あ る と報告 され てい る1ゆ
。ま ,MRI
に よ り大腸癌 の局所再発 と疲痕組織 が鑑別 で きた とす
る症例報告 も散見 され る1。
.本 論文 では,MRIを 用 い
て,そ の信号強度 の違 いに よる,直 腸癌 の局所再発 の
診 断, と くに再発腫瘍 と線維化 した疲痕組織 との鑑Fll
を試 み,CTの
成績 と比較 した.
なお,直 腸癌根治手術後 の局所再発 とは,骨 盤 内再
発 とい う意味での広義 の局所再発 で あ る。したが って,
この なかには,骨 盤側壁 にお け る再 発,す なわ ち,内
腸骨 血 管 周囲で の リンパ節再発,骨 盤 内隣接臓 器 にお
1988年7月
図 7 精 襲を再発腫瘍 と誤認 した症例
a.X tt CTに て,仙骨前方の小腸の両側に,左右 ほぼ
対称 の軟部組織腫瘤 (矢印)が 認め られる。約 2年 3
カ月の経過観察により腫瘤 の大 きさ,形態に変化なく,
再発腫場ではないと半」
断した,
b . M R I の T l 強調画像 ( S E 5 0 0 / 3 0 m s e c )て
に, 腫 瘤
( 矢印) は 筋肉と1 / a ぼ
同 じ信号強度を示 している。
117(2035)
co MRIの T2強調画像 (SE 2,000/60msec)に
て,腫
瘤 (矢印)は 筋肉より非常 に高 い信号強度を示 してい
る.腫 瘤 の部位,形 態 および MRIの T2強 調画像 にて
高信号強度を示す ことよ り,精 襲を見 ていた と考えら
れる。
導 MRIで
は,検 査時間 が長 び き,会 陰部痛 の あ る息者
に施 行す る こ とは困難 な ことが多 い.ま た,わ れわれ
の経験 では,Tl,T2値
は,磁 場 の強度やそ の他 の複雑
な因子 の影響 を受 け,そ の値 にはば らつ きが認 め られ
る。 これ らの こ とよ り,Tl,T2値 の計測 のかわ りに,
MRIの 同一 画像上 に必ず 認め られ る皮 下脂 肪 お よび
筋 肉 の信号強度 を求 め,腫 瘤 の信号強度 と比較 した。
MRIで は,再 発腫瘍 は Tl強 調画像 で 筋 肉 と同等 ま
た は,や や高 い信号強度 として描 出 された。こ の こ と
か ら,再 発腫瘍 の Tl値 は測定 していないが,筋 肉に近
い値 と推察 され る。T2強 調 画像 では,再 発腫瘍 のす べ
てが筋 肉 よ り高信号強 度 の領域 を含み ,腫瘤/筋 肉比 は
全例 で 1以 上 を示 した 。
疲痕組織 は,Tl,T2強
け る再 発 お よび 肉芽組織, 軟 部組織 内 での再発 を含 ん
で い る1 6 ) .
調 画像 ともに,筋 肉 よ り低信
号強度 を示す ものが 多 く,6例 中 5例 で腫 瘤/筋 肉比 は
め られた。C T 上 , 明 らかに再発腫瘍 と診断 され る症例
1以 下であ った。本論文 では,疲 痕組織 の Tl値 ,T2値
は測定 して い な いが,線 維組 織 は特 徴 的 に Tl値 が 長
く,T2値 は短 い と報告 されてい る1つ
。 この ことは,赦
痕組織 が Tlお よび T2強 調 画像 ともに低信号強 度 を示
以外 では, 画 像 のみでは再発腫瘍 と赦痕組織 お よび手
した ことと,よ く合致す る。
術 に よ り偏位 した骨盤 内臓器 との鑑別 は困難 な ことが
再発腫瘍 の Tl強 認画像における腫瘤/筋肉比 は,波
痕組織 のそれ よ りわずかに高値を示す傾向にあったた
が,両 者 には重な りも認め られた(図 1)。それに比べ,
今回 の対象 では 肉芽組織, 軟 部組織 内 での再発 が主
で あ り, C T 上 , 全症f r l で
骨盤腔 内 に軟部組織腫瘤 が認
多 か った 。多 くの症例 で, これ らの鑑別 のために C T 下
穿刺生検や C T に よる経過観察 を必要 とした。
今回 の検討で は, 腫 瘤 の T l , T 2 値 の計測 は施行 しな
か った. T l , T 2 値 を計預J するには, T R 値 を一 定 に し,
T E 値 の異 なる S E 法 お よび i n v e r s i o n r e c o v e r y下
(以
I R と 略記) 法 が必要 とな る。 われわれの使用 した常電
T2強 調画像 における腫瘤/筋肉比 は赦痕組織 に比 べ高
く, 1以 上の値を示 した赦痕例 の 1例 を除 いて再発腫
瘍 と疲痕組織 は明 らかに分離 された。この腫瘤/筋肉比
が 1以 上を示 した赦痕例 は腫瘤 自体 が非常 に小 さく腫
118(2036)
MRIに
よる直腸癌術後骨盤内再発 の診断
日消 外会誌 21巻
7号
瘤部 の関心領域 の設定 に よる信 号強度 の測定 に信 頼性
いわれ ている2の
,ま た ,腹 会陰式直腸切断術後 に,精 嚢
が欠 け るため と考 え られ る.従 って,信 頼 性 に足 る関
は仙骨前方 に移動 す る こ とが あ り,CTに
心領域 を設定 で きた症例 では,再 発腫瘍 と赦痕組織 の
お いて も再発 腫瘍 の 鑑 別 診 断 の 1つ に上 げ られ て い
る21).cTと 同様 に MRIで も仙骨前方 の腫瘤 として描
分離 には T2強 調 画像 が Tl強 調 画像 よ り有 効 で あ った
よる診 断 に
(図 1)。これ は,再 発腫瘍 の T2値 が疲痕組織 に比 べ て
出 され ,そ の信号強度 も再発腫瘍 と似 た傾 向を示す。
長 い こ とに よる と考 え られ る。
MRI上 は,精 裏 は その左右対称性 の形態 以外 には,再
T2強 調 画像 に て,再 発 腫場 の 信 号 強度 に は 幅 が あ
発腫瘍 との鑑別点 はない と考 え られ る。経過観察,ま
り,症 例 2の ご とく筋 肉 よ り著 明 に高信号強度 を示す
た は,症 例 に よっては,CT下 穿刺生検 も必要 と思われ
ものか ら(図 4-b),症 例 3の ご と く筋 肉 とほぼ同 じ信
こ.
ブ
号強度域 内 に点状 の高信号強度域 を含む ものな ど (図
5-c,d),必 ず しも一 定 しない。今回 の検 討で は,比
較的信号強度 の低 い腫場 は 9例 中 2例 であ った。また ,
あ る。 この症例 では,MRI上
腫大 した子宮頸部 を再発腫瘍 と誤認 した症例 が 1例
,子 宮頸部 は,再 発腫瘍
と同様 に,Tl強 調画像 にて筋 肉 と同等 の信 号強度 を示
症例 3に 示す ご と く,CTの 画像 でみ る と腫 瘤 部 は比
較的均 一 でやや造影効果 の認め られ る軟部組織腫瘤 と
して描 出 されて い る(図 5-a)。 MRIで は部位 に よ り,
腸癌 に対す る初 回の手術 の際,原発巣 と子宮 が癒着 し,
信号強度 に違 いが認 め られ,全 体 としては比 較的低信
腫瘍 と診断 した。手術 に よ り,子 宮陸部 は全周性 に浮
号強度 の領域 内 に点状 また は限局性 の高信号強度領域
腫状 に腫大 してい るが,癌 組織 は認 め られ ない ことが
が認 め られ る (図 5-c,d).直
確 認 された。
揚癌 の再発腫瘍 は疲痕
組織 内 に癌病巣 が散在 してい る こ とが多 い といわれて
い る18)。
また,T2値 の短 い腫瘍 の特徴 として腫瘍細胞
数 が 少 な い こ と,お よび膠原線維 が豊富 で あ る ことが
挙 げ られ ている1り
。今回 の検討 で見 られた信号強 度 の
いは
違
,組 織学的立証 はないが,同 一 腫瘤 内 の疲痕組
し,T2強 調画像 では筋 肉 よ り高信号強 度 を示 した。直
子宮 の部 分切除 を施行 されていたため,MRI上 は再発
結
語
直腸癌再発腫瘍 の診 断, と くに再発腫場 と疲痕組織
の鑑別 にお け る MRIの 有用性 につ いて検討 し,以 下
の よ うな結論 を得 た 。
1.MRIは
,再 発腫瘍 と赦痕組織 の鑑別 に有 用 で あ
織 と腫 瘍細胞 の量 の違 いに原 因す る可能性が あ り,今
り,特 に T2強 調 画像 が有用 で あ った,CTに
後 の検討 が必要 と思われた。再発腫瘍 が T2強 調画像 で
瘍 と赦痕組織 の鑑別 が 困難 な場合,MRIで はその信号
筋 肉 とほぼ同 じ信号強 度 を示 した症例 で も,腫 場 の 内
部 お よび周囲には必ず高信号強度域 が存在 し,疲 痕組
強度 の 違 いに よ り両 者 の 鑑別 が 可 能 とな る こ とが 多
ヽヽ
.
織 との鑑別点 にな る と考 え られ た。
2,MRIの
Tlお よび T2強 調 画像 ともに,再 発腫瘍 と疲 痕組織
の腫瘤/8旨
肪比 は,腫 瘤/筋肉比 の場 合 と同 じ傾 向を示
した 。しか し,Tlお よび T2強 調 画像 ともに,脂 肪 の信
号強度 は高 く,ほ とん どの症例 で疲痕組織 お よび再発
腫瘍 は脂肪 よ り低信号強度 として描 出 され る (図 2).
このため,画 像上 にお け る,再 発腫瘍 と疲 痕組織 の鑑
別 には,腫 瘤 と脂防 の信号強度 の比 較 よ り,腫 瘤 と筋
肉の比較 の方 が有用 と考 え られた。
精嚢 を再発腫瘍 と誤認 した と思われ る症 例 が 2例 あ
る。両症例 ともに,精 嚢 は Tl強 調画像 で筋 肉 と同程度
また はや や高 い信号強度 を示 し,T2強 調 画像 で は脂肪
と同程度 の高信号強度 を示 した (図 7-a,b,c)。
1年
以上 の CTに よる経過観察 に よって も変化 が認 め られ
なか った こ と, また腫 瘤 の形態 お よび部位 か ら,精 嚢
を再発腫瘍 と誤認 していた と思われ る。精嚢 の T2値 は
長 く,T2強 調画像 では,非 常 に高 い信号強度 を示す と
て再 発腫
T2強 調 画像 で,腫 瘤 が筋 肉 よ り高信号強
度 を示 し,腫 瘤/筋 肉比 が 1以 上 の ときには,再 発腫瘍
が最 も疑われ る。
3.MRIの
Tlお よび T2強 調 画像 で腫瘤 が 筋 肉 よ り
低信号強度 を示 し,腫 瘤/筋肉比 が 1以 下 の ときには,
疲痕組織 と考 え られ る。
本論文の要 旨は第30回日本消化器外科学会総会 (昭和62
年 7月 2日 ,東 京)に おいて発表 した。
文 献
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