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日本精神保健看護学会誌 V
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〔研究報告〕
統合失調症の闘病記の分析
一古川奈都子『心を病むってどういうこと?:精神病の体験者より J
の構造のテキストマイニングー
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キーワード:闘病記.ナラテイプ教材.テキストマイニング.伝記分析.統合失調症
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,副長晶画込仕吋証.,,,.;,−,,骨""岨ー,
(要約)
闘病記は当事者のナラテイプであり.看護学の教材としての利用が期待される.本研究の目的
は.ある統合失調症当事者が書いた闘病記の構造を明らかにし,その内容をより深く考察するこ
とにある.古川奈都子『心を病むってどういうこと?:精神病の体験者より j を対象に.テキス
トマイニングと伝記分析の個別分析の手法により分析を行った各章ごとの特徴を見ることによ
り.自分の体験の告白だけでなく.周囲の人や.一般社会に対して理解を求めるポジティプで具
体的なメッセージがあることが確認された.本書のような.体験者の物語りと積極的な意見が統
合されているような闘病記は,当事者や家族だけでなく広く一般の人々にも偏見をなくしたり,
当事者との付き合い方を知るという教育効果がある.このような闘病記はナラテイプ教材とし
て,間接的に当事者の体験や生きる姿を知ることにより.精神看護学の教育に有効に活用される
べきであることが示唆された
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言
I 緒
芸富田
宮=且ヨ型・件骨萄司Z
官官=特許叫ヨ
た.そのうちの文章で記述された「閤病記Jのジャン
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)は,「慢性の患者は.自分の病い
ルで,統合失調症の闘病記においては代表的ともいえ
についての専門家である(あるいは専門家になること
0
0
1)を本研究で取り上げる.著
る作品である古川(2
ができるようになる).さらに,自分の疾患の手当を
者は企業教育研究会(2
0
0
8)の偏見低減教育にも協力
するための多少の専門的な技能を身につけることもで
している著名な当事者である.
きる.ヴイデオテープや文書教材を,特にこの目的の
古川(2
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0
1)の「寛解」についての記述は,科学
ために用意することもできるだろう.J(
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4
3
)と述
とナラテイプの関係を考えるうえで興味深い.「寛
べ,また医学教育においては,「学生の経験は.患者
解Jは国立国語研究所の市民アンケートによる患者
の世界から生まれた伝記やフィクションを読むことに
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0語の中のひとつである
がわかりづらい医師の言葉 1
よって豊かなものにすることができる.J(
p
.3
3
8
)と.
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8年7月8日).論理ー科学的様式
(朝日新聞朝刊 2
当事者によるナラティプを重視している.
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2.)である精神医学事典(弘文堂)
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)や B
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)
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1),「陽性症状が消失し,安定し
によれば(永田. 2
の指摘のように.浦河ぺてるの家の援助論や精神看護
た病像が見られれば『寛解j という」とされている.
学におけるタイダルモデルなどの新しいアプローチで
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)で語って
しかしながら.物語的様式(B
は.当事者の紡ぐナラテイプに注目している.
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0
1)によれば.「精神病には,完全に治っ
いる古川(2
小平・伊藤(2
0
0
9
),小平・いとう(2
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b)は,当
た状態ではなく.発病前のようにもどるのではなく,
事者の知恵が豊かに含まれるナラテイプは,看護学な
発病前とは全く違う別の状態で.なんとか社会生活が
どの教材として活用できることを提案し.そのような
営める状態になることを『寛解j という言葉で言うこ
教材を「ナラテイプ教材 j と命名したうえで,「患者
とができる.(中略)『寛解j したとは.自分自身が大
の病いの体験を患者や家族などが自ら自分のことばで
p
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2
1
3
)と記
きく成長した,飛躍したことです.J(
語った物語りが表現された作品であり.学習者にとっ
述している.このように古川は.難解な「寛解」とい
てその体験の理解を促進したり.助けになる目的で看
う用語について,病いの体験を踏まえたうえで鮮やか
護教育などに利用されうる形に教材化されたもの Jと
に述べている.
定義した.そして.このようなナラテイプ教材は闘病
看護学や看護教育の分野で闘病記や手記を用いる
記をはじめコミックエッセイ.録画された TV番組.
実銭は.病気について知りたいと思っている当事者
}POP-VOICEなどのウェプサイトなど,メディアの種
だけでなく,援助者である看護師にとっても,看護
類によって七つに分類されるのではないかと考えられ
を学ぶ学生にとっても.そして看護学教育に携わる看
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1ー
精神保健看護会誌 V
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護教員にとっても.貴重な資料を提供してくれ.当事
あるといえる.本研究では.テキストマイニングの手
者と援助者が,ともに学びを得られるものである(山
法を用いて,その構造を量的に分析することにより,
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9).和田が.その設立に深くかか
口・和田, 2
本書における病いの語りの構造を質的分析ではなく量
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で知られる英国 DIPEx(
的な根拠に基づいて明らかにすることを目的とする.
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0弔)が.がん患者の語りを公開したこ
とは NHKのニュースでも紹介され,看護学生などの
教育においての活用にも取り組みを開始した(和田.
1
. 分析対象
古川奈都子(2
0
0
1)『心を病むってどういうこと?:
精神病の体験者より j ぶどう社.
2
0
1
0
).また,門林(2
0
0
5)は.がん患者やその家族
の多数の闘病記を分析して.がんと診断されたときの
2
. 分析手願
本人に対する「告知jの意味が,死の宣告(門林の表
量的分析の方法として.本研究はテキストマイニン
記では「猫疑心・がん=死J
).衝撃・苦悩.総力戦・
グを用いた.テキストマイニングとは,いわば対象と
闘う姿勢,共生共存・闘わない生き方と.時代ととも
したテキスト(鉱山)からマイニング(発掘)を行い,
に変遷し.闘病記の内容もそのよ.うに変化していくこ
鉱石を見つけだすことであり,つまりはテキストから
とを明らかにした.
知見の発掘を量的に試みるものである.テキストに関
精神科医師の入木(2
0
0
9
)は.最近の闘病記への関
する分析は.これまで質的に分析を試みることが多
心の高まりに触れ.「精神医学がこのことに無関心で
かった.しかしながら
本研究で用いるテキストマイ
あってはなるまいし,精神病理学の基本は当事者の語
ニングは. I
Tおよびコンビューターの発達によって
りから出発するべきである j と述べ.闘病記の精神医
分析が可能となった新しい分析手法である.金
学における根源的な重要性を指摘している.
(
2
0
0
9)や小平ら(2
0
0
7)によれば.テキストマイニ
斎藤(2
0
0
3)は.ナラテイプの最も一般的な定義と
ングという手法は.文字(テキスト)という質的デー
して「あるできごとについての記述を.何らかの意味
タを,多変量解析なども用いた量的方法で分析する手
のある連関によりつなぎ合わせたものj と述べ,「ナ
法であり.質的なテキストデータに基づいたうえで.
ラテイプという用語は物語の内容というよりは,語り
統計的手法を用いる量的な分析である.また.本研究
手自体も完全には気づいていない『物語の構造j を意
で用いたソフトウェアである T
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o(
数
味する Jとした看護学教育および看護師の知識創造
理システム社)は
にとって闘病記の意義が大きいとして.ナラテイプ教
分析結果から質的データを参照できる機能(原文参照
材としての闘病記の有用性を強調した小平・いとう
機能)を備えていることが特徴であり,量的結果と質
(
2
0
1
0
a
b)を受け,本研究では統合失調症の当事者に
的データを同時に参照できる.
テキストマイニングによる量的な
0
0
1)を取り上げ.
よる代表的な闘病記である古川(2
9
9
6)によって示された伝記分
質的分析は.西平( 1
病いの体験と語りの構造を明らかにし.精神看護学と
析(伝記研究.伝記法.伝記的方法)である.生育史
看護援助への示唆を得るものである.
心理学研究の手法によるルーティンの中に,個人につ
,その個人と類
いて個別的に分析する「個別分析法j
E 目 的
似した人物または対照的な人物とを比較する「比較伝
企業教育研究会(2
0
0
8)が精神障害のアンチステイ
. そして.この二つの分析を進めるうちに.
記的方法J
グマ研究会(代表世話人:佐藤光源)とも連携して
さらに深く入り込み,数人の人物に共通の心理的特性
「こころの病気を学ぶ授業Jの開発に取り組んでいる.
や心理学的な言葉(たとえばナルシシズムなど)に注
古川奈都子の 2
0
0
1年の著書である『心を病むってどう
目して分析する「テーマ分析jがある.
いうこと?:精神病の体験者より j は.この授業の指
0
0
3)が述べたナラテイプの定義と意味のよ
斎藤(2
導案・教材の中でも紹介されており.優れた闘病記で
うに.物語がどのような構造を持つものであるかを明
2
. 基本統計量
らかにしておく必要があろう.それにあたっては,テ
個別の分析の前に本書の全体的特徴を量的に示すた
キストマイニングの手法はテキストの山から発掘(マ
イニング)を行うことで.図や表によって物語の構造
めに基本統計量を算出した
表 lは,テキストマイニングにおいて基本となる古
を可視化できる.という点からも妥当であるという判
0
0
1)のテキスト情報量を基本統計量として示し
川(2
断ができる.
本研究は.対象となる闘病記の内容や意味の質的分
ている.表 lにおける総行数とは.各章における節の
1
9
9
6
)の個別分析法)を行うとともに,テ
析(西平 (
総数であり,平均行長は各節当たりの文字数の平均で
キストの量的分析に, T田α M
泊加gS
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oV位.3を用い
ある.そして平均文長とは一文当たりの文字数となっ
c
剖 M
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泊gS
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oでは単語頻度分析で出現回数.
た. T
ており.総文数は句点(マ jレ)等で区切られた文の総
対応分析で各章と類出単語との関係,特徴語分析で各
数である.また.延べ単語数とは.本書の記述におけ
章に特徴的な単語の抽出を行い.闘病記の構造と特徴
る内容語についての総数であるとともに.記述におけ
を質的・量的に明らかにした.
る内容語の異なり語数を単語種別数として示してい
る.単語種別数におけるカウントは.同一単語の出現
がテキスト中に複数回見られたとしてもーっとカウン
3
. 倫理的配慮
本書は一般に出版されている書籍であり.著作権に
トした.
表 1から各項目の基本統計量を見ると.まず全体と
配慮した
0
0
1)のテキストは 6
0の節によって構成
して古川(2
W 結
,
3
8
7 (数)の文で成り立っているとともに.
され, 1
果
1
2
,
5
7
5(個)の述べ単語数と 2
,
8
0
3種類の単語が見ら
1
. 闘病記の内容の要約
闘病記の内容を要約すると,「はじめに Jでは「心
れていた.次に.各章および項目ごとに算出されたテ
の病を持つ人のことを知ってください」と題して,本
キストの基本統計量を見ていく.「はじめに Jでは節
書の執筆動機が精神分裂病(以下,統合失調症)を持
7(数)の文で構成され, 1
7
6(
個
)
の数は一つであり, 1
つ人への理解をしてほしいことが述べられていた第
の述べ単語数とともに 1
1
2種類の単語が含まれてい
l章「私から.あなたへj では.精神障害はさげすむ
た 第 1章は七つの節があり.全体で 1
8
8 (数)の文
ものではなく.特別なことでもないということが「寛
で成り立つとともに 1
,
7
8
3(数)の述べ単語数と 6
7
1
解Jをキーワードに述べられている.第 2章「病気に
種類の単語が見られていた・次に第 2章については,
なれてよかった」では著者自身の生育歴と発病経験.
9の節で構成され. 3
3
9(数)の文で成り立っている
現在までの経過が紹介されていた.第 3章「こんなふ
とともに 2
,
4
8
1 (個)の述べ単語数と 1
,
0
1
6種類の単語
うにしてもらえたら Jでは
自分の経験を基盤に統合
4の節で構成されており,他の章
があった.第 3章は 2
失調症を持つ人の弱さや苦労の具体例と.それに対す
との比較において節数が最も多かった 2
4の節で構
る対応の仕方について述べられていた.第 4章「 f
あ
成された第 3章は 4
2
3 (数)の文が見られ, 4
,
2
1
6(
数
)
なたj と『私jの関係でJでは.家族や周囲の人,さ
の述べ単語数とともに 1
,
3
8
4種類の単語が見られてい
らには社会がどのように統合失調症の人々を考え.関
るなど,各章との比較においてもテキストの情報量
係を取り結んで、ほしいかが述べられていた「おわり
7の節で構成され.
が大きかったそして.第 4章は 1
Jではお互いの違いを認
に」の「『みんな.いっしょ J
3
5
9 (数)の文が見られるなかで述べ単語数は 3
,
2
5
5
めながらも.一人ひとりの人権を尊重することの重要
(個)であり. 1
,
1
7
2種類の単語が見られた.「おわり
r
性が述べられていた. あとがき Jではこの本を書い
に」については.節の数は一つで. 1
8(数)の文で構
た経過と.「病者として語ること Jという義母のアド
成され. 1
5
5(個)の述べ単語数とともに 9
1種類の単
バイスによる(著者の)社会的役割の認識.人生を通
語が含まれていた.最後に.「あとがき j では一つの
しでかかわった人々と生活を支え続けた家族に対する
節のなかに, 4
3(数)の文で成り立っており.5
0
9(
個
)
感謝が述べられていた
の述べ単語数と 2
7
6種類の単語が含まれていた
-13ー
精神保健看護会誌 Vol1
9
.N
o
.2
,2
0
1
0
表 1 古川(2001)の各章や項目と全体によるテキストの情報量(基本統計量)
項目
総行数
平均行長(文字数)
総文数
平均文長(文字数)
述べ単語数
単語種別数
項目
値
総行数
平均行長(文字数)
総文数
平均文長(文字数)
述べ単語数
単語種別数
訟行数
平均行長(文字数)
総文数
平均文長(文字数)
述べ単語数
単語種別数
7
回7
.
6
1
8
8
2
1
.
9
1
,
7
8
3
6
7
1
総行数
平均行長(文字数)
総文数
平均文長(文字数)
述べ単語数
単語種別数
1
・
5 第4章
項目
値
値
9
臼3
.
3
3
3
9
1
6
.
8
2
,
4
8
1
1
,
0
1
6
1
・
6 おわりに
値
総行数
平均行長(文字数)
総文数
平均文長(文字数)
述べ単語数
単語種別数
2
4
4
2
1
.
5
4
2
3
2
3
.
9
4
,
2
1
6
1
,
3
8
4
1
・
7 あとがき
項目
項目
値
総行数
平均行長(文字数)
総文数
平均文長(文字数)
述べ単語数
単語種別数
1
3
7
4
1
7
2
2
1
7
6
1
1
2
1
4 第 3章
項目
1
3 第 2章
1
・
2 第 1章
1
・
1 はじめに
項目
1
7
4
5
9
.
8
お9
2
1
.
8
3
,
お5
1
,
1
7
2
総行数
平均行長(文字数)
詑文数
平均文長(文字数)
述べ単語教
単語種別数
値
1
3
7
4
1
8
2
0
.
8
1
5
5
9
1
1
・
8 全体
値
1
1
,
2
1
8
4
3
2
8
.
3
5
0
9
2
7
6
項目
値
総行数
平均行長(文字数)
総文数
平均文長(文字数)
述べ単語数
単語種別数
4
9
5
.
2
1
,
3
8
7
2
1
.
4
1
2
,
5
7
5
2
,
8
0
3
3
. 単語鎮度分析
ω
り,また「病者j も20回出現している.第 4章では.
本書全体と各章の叙述の特徴を裏づけることを目的
「生きる J(
2
3回)や「言葉 J(
2
1回)が最も多く出現
に.各章ごとの単語頻度分析を行った.表 2は,各章
(
4
1回)や「病者」(24回)の単語も多く
し,「病気 J
または項目ごとに頻出して見られる上位 20件までの
1
8回)や「良
見られ.「家族J(31回).そして「心J(
単語類度を示している.
いJC26回)といった単語も多く出現している.さら
「はじめに jでは「人Jが 15回出現しているが.「病
に第 4章では.上位 20単語すべてが 1回以上出現して
r話 J「病者j「生きる Jといった単
気」「家族」「言葉 J
いた.「おわりに Jでは,「人 jが 7回出現しており,
r
語は出現しなかった.第 1章は. まわり J
(
1
1回)や
「自分」と「病気Jもそれぞれ 6回ずつ出現している.
「生きる J(IO回)があらわれており,「人間 Jについ
「あとがき jでは,「おわりに Jと単語頻度数について
ても 13回出現していたことがわかった.第 2章では,
共通した傾向が見られたしかしながら.「あとがき j
「本人j と「病者Jの単語は出現しておらず.「病気j
の単語頻度について「おわりに Jと比較すると.「今J
が1
1回出現しており.章ごとの比較でいえば頻度が
という単語は「おわりに」においてのみ見られ.反対
最も少なかった.しかし「今J(28回)や「人間」( 14
に「家族」や「心j といった単語は.「あとがき j に
回)については,第 2章に最も多く出現している.第
おいてのみ見られているといった特徴があった.
3章においては.「話 J(35回)や「言う J(45回).そ
して「考える J(
1
8回).さらには「自分J(
1
2
5回)に
4
. 特徴語分析
ついて各項目と比較した場合に最も多く出現してお
- 1
4一
表 3は
,
i
畢木・萩田
(
1
9
9
5)によって開発された補
0
0
1)における各章・項目ごとの単語鎮度分析(上位 20件
)
表 2 古川(2
合計
A
’
司
AUqδnυ
A
司
品
’
’
−
A 4 せ 内o n,
u
唱
’
舟
’
ω 町田白白日必必伍
a EFoqohUAuhunu i
白臼印刷
nuhUFO
mmmmmmnη
あとがき
−
−
−
E
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内
,
円,
−
品
Z
ponuponU o
司 nunυqonURdnununUAUnU 冒
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’
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.
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’ A ’A 司a
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唱 ’
唱 1 ・ 唱i ’
’i
’
守
おわりに
第 2章では.「母 J
「町J
「学校J
「友人J
「結婚Jなど
完類似度を指標値にして,各章ごとに算出された上位
2
0件の特徴語を示している.
第4章
E
A
−
’
司
第3
章
n4n4Qd司
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E
E
’
’
ゐ
唱.
且
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司
AU冒A 氏u o o n 4 0 0 h u n V 胃i n U
4
E
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’
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.
a
,
,.
a
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円
第2章
400nUFO
E
,
,
−
−
.
.
.
りるる
分人気う族いつう葉くわ者るきえ間
人自本病言今家良持心思言よ話ま病い生考人
第1
章
,
Rdpon
u
i
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’i n v E u a句 ponuq,GEAAUda’aE.,
司
,
・
内
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E
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A
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’
宅
司
.
.
.
はじめに
5EA1 1 0 2 2 0 1 2 3 1 0 0 0 0 0 2 0 1 2
・
品詞
詞
詞詞調詞詞詞詞容詞詞詞調詞詞詞詞詞詞詞詞
名名名名動名名形動名動名副名名名動動動名
単語
生育歴に関する単語が特徴的であった.第 3章では,
r
表 3から.「はじめにjでは. 優しい」「仲間」「人
「妄想H身体J「幻聴Jなど.著者の身体に起こる他の
たち jや「体験」など, 同じ病いの仲間のことや体験
人には理解しづらい体験についての単語が特徴的であ
を知ってほしいという表現が特徴的である. たとえ
る
. 第4章では.「能力j「家族J
「障害者jや f
娘J
r
社
ば,「仲間jについては「そして.私の仲間はみな,
会j などの単語があらわれており.家族や社会への
お人好しで.まじめで,優しすぎるくらい優しい人た
メッセージが特徴的であった.「おわりに Jと「あと
ちです.Jと原文で述べられており,「体験Jについて
がき Jでは.「病気J
「分裂病J
f
体験jなど.病気と共
原文参照を行うと「私は,自分がこの病を体験するこ
に付き合うことについての思いがあり.「共感j「人達J
とによって,自分自身を変え,成長させることができ
「与える Jといった著者の希望と夢が特徴である.
るようになりました.Jと語られていた.第 l章では.
「
子J
「病気J
「障害J
. そして「寛解Jが特徴的であり,
5
. 対応分析と特徴語分析
この章では寛解をキーワードに.過去を振り返り』現
図 lは.各章において見られた頻出単語(上位 2
0件
)
在を肯定している姿が描かれていた第 l章において
と章ごとの関係を,林( 1
9
9
3)の数量化 E類と同等の
特徴的にあらわれた「子Jについて原文参照を行うと,
統計手法による対応分析にて示した この分析によっ
その前後において古川は子という単語を用いて,自身
て.本書の中心となる頻出単語と各章ごとの関係性が
の子ども時代のエピソードを記述していた.いい子で
)と併用
明らかになるととともに.特徴語分析(表 3
あると大人から評価・期待された子ども時代を経て,
することによって全体の構造が明らかになった.
古川が経験した「障害jについては「私は障害を持つ
図l
から,第 1
章は「自分自身J
や「障害J
「いつ」「子
ことにより.多くのことを学び, 日常にはできない肉
ども jとの距離が近いことがわかった.第 l
章におい
体的に苦しむという経験をした Jと述べていること
てのみ見られる単語は.「子J
r精神病」「姿Jであり.
が原文から明らかになった.「寛解Jについては「緒
特徴語分析(表 2
)とともに第 1
章は.自分自身(著者)
言j のところで紹介したとおりである.
が過去を振り返り. そして現在を肯定する姿があっ
-15-
o
l1
9
.N
o
.2
.2
0
1
0
精神保健看護会事 V
掛値一M
m却 却 muumuum凶 随 時 同 一M M M u u u
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鉢一概一向 M m m u m n 口組鴨川品。
性度一m u u m m 9 u m m M 8 U U 9 U 8 7 7沼 6
章一属頗一
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詞詞詞詞詞詞飼詞間関詞詞間詞詞詞間関間関
名名名名名名動動名名名動動名副副動名動名
U
MMMmお お お お n m m m U U尚一山崎山均一日
榔値一Um品M
体度一∞川町羽お初目指幻お錦町田河沼崎泊おロ6
全額一 M M 1
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.
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章一属額一
第一
搬一値一 Mwmmmmm倒的倒的四回目白 M U Uロ ロ ロ u m m
体度一 M U M U 8 U M 4 臼 η 3 7お η M 2 2 2 2
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一
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問問問問問問問調詞問問問問問調詞調詞間詞
名名動動名名名動名名名名名名動名動名名動
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体度一泊お花田沼招印話回9
14
全頻
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性度一泊却担お初倒的 n G U 9 u n u ω 9 7 U 6 6
章一属額一
的
倒
第一
間
詞詞詞詞間詞容間関調詞調調関調詞詞岡田間
名動名動動名形名名名名名名名副動名動名名
付き合う
一人
わかる
あな
自分自身
詞詞調詞詞詞詞調詞詞詞詞詞詞詞調詞詞詞詞
名名名名名動名名名名副名動名名動名名名動
ヒント
糊値一日目別”で仰泣おおお n n m四 四 時 四 一 出 口 同 U 9
出版社
体度一 η 部 倒 的 羽 詰 時 四 却 品 目 ∞ η 2 ∞ 3 6 U臼 1
全額一
134
内
町
・・・・
−−!
乗り越える
きっと
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治る
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体験
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人
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共感
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U沼 田 臼 お お 日 四 回 目 ロ お お 日
与える
間関詞向調同調詞問詞間関問問調詞問飼間関
動名名副名動動副名動名動名名名動副名助名
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持つ
体 度 一 日 ∞ umU沼m
全額一 1 3 1
家族
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自分
1
病
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単語
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人
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社会
性 度 一 伺 お お お 回 目 口 幻 担 却 却 初 日 MUumuu9
1
章一属頻一
第一
希望
方々
体験
違う
変わる
障害者
雷葉
間関
詞詞詞調調詞詞詞詞詞調詞詞詞詞容詞詞詞容
名名動名動名名動動助国名名名動形動名名形
書く
分裂痛
そう
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思う
偏差値
敬しい
本
原稿
艶む
病
気
規則
必要
品開
単語
責任
人間
体度一∞ M 5 m倒的位 2 6 M M店 舗 部 品 位 ηη 向 1
全額一 4
お人好し
−
。
唱
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罫える
以前
寛解
かかる
ハード
援助
与える
思い
大人
いる
思う
持つ
今
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辛い
理解
人聞
決して
考える
できる
体験
人
幻聴
雷葉
自分自身
娘
友人
精神病
人間
まじめ
やる
かかる
知る
病筑
起こる
わかる
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なぜ
身体
性格
It \•つ
ペース
講者
良い
妄想
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に一属類一 1
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話
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結婚
雷う
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間〈
学校
折り紙
書く
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、
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開問答詞間関詞詞詞詞関詞詞詞詞詞詞詞詞詞
名名形名名名名名動動動名名名動動動名名名
仲間
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家族
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優しい
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単語
,
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.
人
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姿
病気
品調
単語
品詞
単語
品詞
単語
評価
品詞
単語
第一
0
0
1)における各章と項目の特徴語(上位 2
0件
)
表 3 古川(2
広U
’
2
姿
08
。
日
第2軸
・
0
病 者 一
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・
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・
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02
・
.
.
e
第 1軸
図 1 各章および項目と使用鎮出単語(上位 20件)の対応分析
r友人j との距離
た.第 2章は.単語では「今」「私J
置づいている.これに対して第 2軸を中心とした章ご
が近く.また.「はじめに j と「あとがき」といった
との関係では,第 1章が他の部分と上方向へ大きく隔
章との関係も見られた特徴語分析(表 3
)において
たっている点が特徴的である.
見られるように.第 2章は生育歴に関する単語が多く.
図 1では今の自分.そして私(著者)の人間関係が対
V 考・察
応分析から見えていた次に,第 3章は「病者j との
1
. 古川(2
0
0
1)による閤病記の構造の可視化
距離が最も近く.この章のみに「話J
「本人J
「身体J
r
状
統合失調症の病気の特徴と絡めながら,図 1におけ
態j といった表現があらわれていた病いの体験(妄
る各章の関係について考察すると.第 4章は.第 1∼
想、幻聴)についての単語が特徴語分析(表 2
)にも
3章をつなぐ役割を呆たしているといえる.本研究に
あらわれているように.第 3章は著者の病いの体験を
おいては,そのような物語の構造がテキストマイニン
通して.病いの専門家としてのアドバイスが記述され
グの手法により,図 1のように可視化が可能になった
)から「社
ていた.そして第 4章は,特徴語分析(表 3
といえる.第 l章は「病気J
「障害」「寛解Jなどの特
会jや「家族j「
娘Jなどがあらわれ.図 lからは「心J
徴語にあらわれたように,病気の過去を振り返ってい
や「気持ち j との距離が近かった第 4章は.社会や
る.第 2章は「母J
「町J
r
学校J
「友人J
「結婚j など人
家族に向けた気持ちゃ心があらわれ.包括的に図 1の
生の歩みの振り返りであり.自伝の中核をなす生育歴
中心に位置していた.
について語った部分である.第 3章は「妄想」「身体J
軸を中心に章の関係を見ていくと.「第 3
章Jが
第1
「幻聴j など統合失調症に特徴的な理解しづらい体験
f
はじめに J
「
第 2章J
「あとがき J
「おわ
の記述であった.第 4章は.家族や社会へのメッセー
りに Jが左側に一つのかたまりとしてとらえられる.
∼ 3章をつなぐような位置にあ
ジが特徴であり.第 l
章Jと「第 4章Jが位
そしてこれらの中間には.「第 1
る.統合失調症の当事者に共通の思いともいえる居場
右側に位置し,
’
守
o
l
.1
9
.N
o
.2
.2
0
1
0
精神保健看護会誌 V
−
oe
l
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−−
−−
所のなさから考察すると,第 4章は自分の存在の希薄
師の自己研鍛にとっても,ナラテイプ教材として貴重
さを乗り越えた社会への実在的なメッセージというか
である.闘病記は.当事者だけでなく環境側の問題も
たちでの希望である. したがって第 4章が中心に座
0
0
5
,2
0
0
9
a
b
)
含めた「生きにくさ j の体験(武井, 2
り.すべての円(章)をつないでおり.これが本書の
の実例が豊富であることが,本書の分析の結果におけ
ナラテイプの構造であると考えられた.目次のつけ方
る第 2章の生育歴の記述や,第 3章における心身の症状
を見ると,第 l
章は「私からあなたへj という一方向
の記述や.第 4章における周囲の人との対人関係の錐
的なメッセージであり,第 2章「病気になれてよかっ
しさの記述の分析から明らかになった精神看護にお
たJは.世間の偏見や自己の苦しみを乗り越えていっ
いて,臨床場面での直接的ナラテイプ体験とともに.
た病気になった自分への高い自己評価(圏方.
闘病記を読むことを通して得られる看護の現場から離
2
0
0
9
)の表明である.第 3章は「こんなふうにしても
れた間接的ナラテイプ体験の持つ意味が大きい.
−−
i;
らえたら j というタイトルで.読者,特に当事者の周
0
0
4
)の経験を知に変換する f
知
このことを.中山(2
あ
りの人々への願いを表し.第 4章では.題目が「 f
識創造Jの図式において,図 2のように闘病記を位置
なたj と『私j の関係で」としているように.対等で
づけた.闘病記は患者の経験という点では.現実の範
双方向的な関係構築を目指す思いが表現されている.
囲に入っているとはいえ,看護師にとっての直接的現
なお,「はじめに」 f
あとがき J
. 第 2章が図 1において
実ではなく.間接的なナラテイプ体験として位置づけ
近接しているのは.自己評価を保持しつつ病気につい
ることができると考えた. このような当事者という他
ての理解を求めている内容が共通していると考えられ
者の物語り的な経験を,看護師や看護学を学ぶ者が間
る.第 4章と「おわりに」が近いのは,未来へのメッ
接的に体験できるというナラテイプ教材(小平・伊
セージという点で共通しているからである.「おわり
藤. 2
0
0
9;小平・いとう. 2
0
1
0
b)が持つ他の教材に
にJの最後の部分には「一人一人の自分と違う考えを
ない大きな特徴である.このような当事者の著書を読
認め/違う人にも.それでいいよって/お互い受け入
むことにより.ロールモデル(模範)を得ることがで
れ合おうよ/そう生きたい j と締めくくっているよう
きることが読者にとっての効果と考えられる.
0
0
9
b
,p
.2
3)は.森実恵の闘病記(森.
武井(2
に,精神障害の有無を超えた多文化共生の思想が脈
2
0
0
6)を引用しつつ精神病体験の苦痛を説明してい
打っている.
る.本書は,その生きにくさの体験の告白にとどまら
2
. ナラティブ教材としての古川(2
0
0
1)の闘病記
ず.理解を求め.偏見をなくすようにとの積極的な
の有効性
メッセージが込められていることも分析によって明ら
本書は.第 1章「私から.あなたへJにおいて「子J
かになった.
「病気j「障害」「寛解j などの言葉を用いて病いを語り.
0
0
9)は自己評価の高い統合失調症の当事者
園方(2
「
町J
r学
第2章「病気になれてよかった Jにおいて「母J
の QOLが高いことを先行研究から見いだしている.
校J
「友人J
「結婚Jなどの語を用いて自身の生育歴を援
本研究での古川奈都子の場合も自己評価と QOLの高
り返っており.本人の苦しみの記述だけでなく.自分
い生活をしていることがうかがえる. このような自己
自身の歩みを振り返りながら病気とともに歩む自己を
評価と QOLの高い要因として,家族の理解があった
肯定的に語っている.さらに.第 3
章「こんなふうに
こと.パートナーに恵まれたこととともに.家族や仲
してもらえたら Jにおいて「妄想J
「身体j「幻聴Jなど
間などの居場所(小平. 2
0
0
3
/
2
0
0
6)があることが大
r
rあなたj と f
私j の関係
r家族J
r障害者J
f社会Jなどの
でJにおいて「能力 J
きい要因であるといえよう.「無条件でいてよい居場
0
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.1
6
6
1
6
8)の確保が重要なので
所 J(広沢. 2
単語を用いて家族など周囲の人や広く社会の理解を求
ある.このような当事者の回復過程は,中村(2
0
0
8
.
めている記述により.非当事者の読者に当事者の苦労
2
0
1
0)のコミックエッセイや.ウェプサイト ]POP-
を理解してほしいというメッセージにあふれでいた.
VOICE (
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句
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.
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/)の「統合失調症と向き
このような語りの内容は.看護学生の教育および看護
合う jの語りからも見ることができる(孫ら.2
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1
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)
.
病状の体験を語り.第 4章
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理−知
経験
理輸知
図 2 経験を知に変換する「知議創造J(
中
山
, 2004
)への闘病記の位置づけ
3
. テキストマイニングによる伝記分析の方法論的検
分析と対応分析により明らかにすることができた.こ
討
のことにより.西平の仮説生成的手法としての伝記分
本研究は.テキストマイニングによる闘病記を用い
析に.文字データの多変量解析という仮説検証的な役
た伝記分析である.そもそも伝記分析という手法は,
割も付加することができた.ただしテキストマイニ
西平( 1
9
9
6
)が集大成した研究方法であり,主に偉人
ングの現在は.形態素分析の粗密や,類義語の定義方
の発達過程における葛藤とその克服を発達心理学理論
法.ソフトウェアの不十分さと分析のプラックボック
に依拠しつつ,伝記や自伝を対象に明らかにする方法
ス化の問題もあり,より透明性と再現性の高い手法に
である.
なるための開発途上の方法でもあるといえる.
大野( 1
9
9
8
,2
0
0
8)は伝記分析の信頼性.資料の量
的比較.心理学的見地からの資料的価値,伝記資料の
羽本研究の限界
公共性の 4点から肯定的評価を行いつつ,実証研究と
本研究は.闘病記の個別分析をテキストマイニング
の違いとして,解釈と蓋然性をキーワードに問題提起
によって行ったという点で他に類例を見ない新しい
をしている.言い換えると
伝記分析は多様な解釈が
手法を採用したこの点で斬新さがあるとはいえ,テ
可能な文脈での仮説生成的な研究であり.実証主義に
キストマイニングという手法の限界が同時に本研究の
よる仮説検証的な研究とは性格が異なる研究スタイル
限界となっている.すなわち.単語の出現の頻度とい
である.
う分析上の基準が.その内容・意味を反映しているか
本研究では.テキストマイニングによる伝記(闘病
記)の分析により 西平が仮説生成的方法と位置づけ
どうかという根本的問題がある.テキストマイニング
は.言外の意味は拾えない方法だからである.
た個別分析の方法を踏まえつつ.単語類度分析などを
四まとめ
はじめとするデータマイニングの手法で新しいアプ
ローチを試みた.本研究は,古川(2
0
0
1)の資料を各
本研究は.ある統合失調症当事者の闘病記を西平
章および項目ごとに特徴的な単語(内容語)を特徴語
(
1
9
9
6)による伝記分析の個別分析の方法と.テキス
-1
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精神保健看護会言怠 V
内容と構造を明らかに
る理論知と現実経験の狭間を埋める役割を果たしう
した.また.この闘病記がナラテイプ教材として.看
る.第 3
の教育的な資源としての可能性を持っている
護師・看護学生の理論知と現実経験(臨床実習)に加
(小平・伊藤. 2
0
0
9;小平・いとう, 2
0
1
0
b
)
.
トマイニングを用いて分析し
えて第 3の資源であり.ナラテイプ教材としての意義
謝 辞
があることを明確にした. K
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n(
1
9
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8
)は「病い
本研究は 2
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0
9年 度 お よ び 2
0
1
0年度の聖隷クリスト
の経験についての患者や家族の語りを教育課程におい
てもっと中心的なものにすることが必要である.J(
p
.
ファ一大学共同研究費の助成を受けた.資料整理に協
3
3
7
)と述べているが これは医学教育だけでなく看
力してくれた守下
護教育にもあてはまる.闘病記は病いの経験について
に感謝致します.また
の間接的な語りであるという特質上.看護教育におけ
読者の方々に感謝いたします.
理きんをはじめ.関係者の皆さん
貴重なご意見をいただいた査
引用文献
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研究者:和凪恵美子)主催. 4
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