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抵抗変化スイッチング材料におけるスイッチング機構の解明
抵抗変化スイッチング材料におけるスイッチング機構の解明 113 抵抗変化スイッチング材料におけるスイッチング機構の解明 *弓 野 健太郎* Switching mechanism in resistive switching materials Kentaro Kyuno* Details of the forming process of planar-type Cu2O resistive switching device has been clarified. The area between electrodes melts during the forming process, in which thermal dissociation of Cu2O into Cu is likely to play an important role. The reduced area is identified by Electron Beam Induced Current (EBIC) and the existence of a Cu filament is directly confirmed by Transmission Electron Microscopy (TEM). The time evolution of the position of the heated area of the filament, which corresponds to a high resistance area, is also observed during the forming process, which shows that the anodic side of the filament has the highest resistance. 1.は じ め に グ現象について調べ、実際に TEM を用いて Cu の細線の ReRAM(Resistive Random Access Memory)素子はフ 形成を確認した。加えて、フォーミング中の表面の状態 ラッシュメモリが有する不揮発性と DRAM の高速性を をリアルタイムで観察し、フォーミングの機構について 有しており、次世代の不揮発性メモリとして期待されて 考察を行った。 1) 2),3) い る 。ReRAM に お い て は nio 4),5) 、Tio2 6),7) 、Cuo などの二元系酸化物の抵抗変化スイッチング現象が利用 されている。 高抵抗状態から低抵抗状態への遷移(セット)、低抵 抗状態から高抵抗状態への遷移(リセット)が同じ極性 で起こるものをユニポーラ型の素子と呼び、抵抗変化現 2.実 験 方 法 銅のプレート(厚さ 0.2mm)を空気中で 1000ºC に保 持し、10 時間加熱した後、表面の研磨を行った。X 線回 折法により、作製された試料は Cu2o に酸化されている ことを確認した。この試料の表面にマスクを用いた真空 象を起こすためにはデバイス作製直後にフォーミングと 蒸着により、直径 200μ m の金電極(距離 300μ m)を形 いう処理を施す必要がある。このプロセスにより導電性 成した。スイッチング特性は、電流・電圧曲線の測定に の細線(フィラメント)が生成し、抵抗変化スイッチング より確認し、フォーミング途中の表面の変化を光学顕微 を起こすようになると考えられている。スイッチングに 鏡 に よ り リ ア ル タ イ ム で 観 察 し た。 ま た、Scanning 関する研究は盛んに行われているが、フォーミングに関 Electron Microscopy(SEM)、TEM により試料表面、内 してはほとんど理解が進んでいないというのが現状であ 部の観察を行った。 る。フォーミングはスイッチングの舞台となる細線を形 成するプロセスであり、安定したスイッチングを実現す 3.結果および考察 るためには、その機構の解明が必要である。通常の素子 隣り合う電極に電圧を印加することにより、図 1 (a) は薄膜の表と裏に電極が付いているが、平面型の素子で に示すようなユニポーラ型のスイッチング挙動を確認し は表面の二つの電極間でフォーミング、スイッチングを た。フレッシュなサンプルにおいて、60V 付近でフォー 起こすため、現象の観察が容易である 。最近、yasuhara ミングが確認され、電流が急激に増加した。同じ極性で らは、Cuo を用いた平面型の素子に対して X-Ray Ab- (Voff)で電流が急激に減少 再び電圧を印加すると約 3V 6) sorption Spectroscopy を 用 い た 測 定 を 行 い、 電 極 間 が 7) Cu2o あるいは Cu に還元されていることを見出した 。 本研究では、Cu2o を用いた ReRAM 素子のフォーミン 2011 年 2 月 18 日 受理 * 豊田理化学研究所研究嘱託 (芝浦工業大学) して、オフ状態へ遷移するリセットが確認された。再 び、電圧の印加を開始すると今度は 17V 付近で急激に電 流が増加し、オン状態へ遷移するセットが確認された。 このようなスイッチング現象は 151 回確認され、Von と Voff は次第に減少する様子が確認された。低抵抗状態で の抵抗値(Ron)と高抵抗状態での抵抗値(Roff)はそれ 抵抗変化スイッチング材料におけるスイッチング機構の解明 114 図1 (a)フォーミング過程、最初のセット過程、最初のリセット過程における典型的な電流・電圧曲線。 (b)スイッチングを連続して行ったときの低抵抗状態でのデバイスの抵抗値(Ron)と高抵抗状態でのデバイス の抵抗値(Roff)の変化。 ぞれ 0.6V、1.4V での電流値から求め、図 1( b )に示し テンシャルの勾配により電流が生じたことを示唆してい た。データに若干のばらつきが見られるものの、Roff は る。 Ron に比べて二桁ほど大きな値となっている。 図 2( a )にはフォーミング完了後の表面の SEM 像を示 す。二つの電極を結ぶ領域には平坦で、窪んだように見 この白くなった部分の変化を詳しく見るために図 2 ( b )中の白い線の部分で TEM 観察を行った。図 3( a )にこ において表面が溶融し、凝固したことを示している。先 の部分の断面の High Angle Annular Dark Field- Scanning Transmission Electron Microscopy (HAADF-STEM) 像を示す。SEM でも観察された窪んだ領域が見られ、 行研究においても、フォーミング過程において Cu2o 相 この領域の下に白い点がたくさん存在することがわか える領域が認められる。このことは、フォーミング過程 が電流によるジュール熱のために溶融することが指摘さ る。Energy Dispersive X-ray Spectroscopy(EDX)分 析 ( a )中にはレーザー顕微鏡による像が挿 れている 。図 2 によりこの白い点は主として Cu からなることがわかり、 6) 入してあるが、陰極方向に向かう波模様が観察される。 回 折 像 か ら fcc Cu で あ る こ と が 確 認 さ れ た(Fig. 3 これは、凝固が陰極から陽極側へ進行したことを示唆し ( b ))。図中の点 1 にある白い点がフィラメントの断面で ( b )には同じ領域における EBIC 像を示す。 ている。図 2 あるとし、電極間の断面積が一定で、純粋な Cu である 電流は SEM 観察中に、図中の上部にある電極で測定し とすると、フィラメントの抵抗は約 13Ω と見積もられ た。中央の窪んだ領域に、先ほどの SEM 像には見られ る。図 1( b )よりスイッチングを続けると Ron は 20Ω に近 なかった白い点がいくつか観察される。これは、この部 づいており、見積もりと近いため、この一番大きな白い 分に何らかの新しい相、つまり異相界面が形成され、ポ 点がフィラメントであると考えられる。 図2 (a)フォーミング後における試料表面の SEM 像。挿入図はレーザー顕微鏡による像。明瞭な波模様が見られ、 凝固が陰極から陽極側に進んだことを示す。 (b)同じ領域における EBIC 像。 抵抗変化スイッチング材料におけるスイッチング機構の解明 115 図3 (a)図 2 (b)の白線における HAADF-STEM 像。 (b) (a)内の点 1 における電子線回折像。入射電子線は Cu の[112]方向。 (c) (a)内の点 3 における電子線回折像。入射電子線は Cu2o の[112]方向。 (d) (a)内の点 5 における電子線回折像。入射電子線は Cuo の[213]方向。 点 5 の下には再結晶化した領域が認められ、回折像か ら Cuo であることがわかった(図 3( d ))。温度の上昇に より Cu2o 相が酸化したものと考えられる。残りの領域 央部分(最も温度が高いと思われる)の Cu2o が熱的な 解離により Cu に還元されたと考えられる。この場合に は、 熱 力 学 的 な デ ー タ に よ る と、 こ の 部 分 の 温 度 は 8) は、Cu2o であることが確認された(図 3(c ))。点 2,3,4,6 2300 から 2400K に達していたことになる 。これにより における回折像はすべて同じ方位を有していたことから、 電流がこの低抵抗部分に集中し加熱領域の幅が狭まると 観察している領域は一つの結晶粒であると考えられる。 ともに、温度が低下すると推測される。 図 4 にはフォーミング中の表面の変化の様子を光学顕 この 10μ m の幅というのは図 3( a )の TEM 像における 微鏡により観察した結果を示す。図 4( b )に示す最初の 窪んだ領域に対応する。窪んだのは、恐らく Cu2o が Cu 段階においては、比較的幅の広い領域がジュール熱によ に解離した際の o の脱離によるものであると考えられ る加熱により赤くなっていることがわかる。この部分の る。還元の直後においては、窪んだ部分すべてにわたっ 幅は約 20μ m であり、図 2( a )の SEM 像における平坦な て Cu となっていた可能性もある。 領域と同じ幅を有するため、溶融した Cu2o 相である可 ( b )~( i ))においては、溶融部分が左 次の過程(図 4 能性が考えられる。材料の絶縁破壊を防ぐために電流値 ( i ))溶融部分が (陽極)側へ縮んでいき、最後には(図 4 に上限を設定しているが、この時点ですでに上限である 消失する。 30mA に達している。次の段階でこの領域は急激に暗く 凝固が左(陽極)方向へ進む理由は現時点では明らか なり、幅も約 10μ m と狭くなる(図 4( c ))。一つの可能 ではないが、一つの可能性は共晶反応による凝固であ 性として、図 4( b )において加熱された帯状の部分の中 る。図 4( c )において、Cu2o が解離し Cu に還元された 116 抵抗変化スイッチング材料におけるスイッチング機構の解明 図4.フォーミング途中における試料表面の顕微鏡写真。 図中には像が撮影された時間が示してある。赤くなった部分は溶融領域であると考えられる。 参考文献 時 点 で は、 先 に 述 べ た よ う に 最 も 温 度 の 高 い 部 分 は 2300K を超えているものと思われる。しかし、いったん 溶融 Cu が生成すると抵抗値の減少による温度低下が起 こるため、溶融 Cu はある程度の酸素を溶解する必要が ある。Cu-o 系の平衡状態図によると 1066 ℃に Cu-o の 溶融物が固体の Cu、Cu2o に相分離する共晶反応が存在 9) する 。一方、Cu-o の溶融物においては、o イオンの拡 10) 散は比較的容易であると考えられるので 、o イオンの 濃度は陰極に近いほど低く、結果として陰極に近いほど ジュール熱による加熱も小さいものと推測される。従っ て、凝固(共晶反応)は陰極側で始まり、陽極側へ進む と解釈できる。図 2( a )に示した挿入図内の波模様は凝 固が陽極方向へ進むことによる。 01) R. Waser and M. Aono: Nat. Mater. 6 (2007) 833 02) K. Kinoshita, T. Tamura, M. Aoki, Y. Sugiyama, and H. Tanaka: Appl. Phys. Lett. 89 (2006) 103509 03) D.C. Kim, S. Seo, S.E. Ahn, D.-S. Suh, M.J. Lee, B.-H. Park, I.K. Yoo, I.G. Baek, H.-J. Kim, E.K. Yim, J.E. Lee, S.O. Park, H.S. Kim, U-ln Chung, J.T. Moon, and B.I. Ryu: Appl. Phys. Lett. 88 (2006) 202102 04) K.M. Kim, B.J. Choi, Y.C. Shin, S. Choi, and C.S. Hwang: Appl. Phys. Lett. 91 (2007) 012907 05) B.J. Choi, D.S. Jeong, S.K. Kim, C. Rohde, S. Choi, J.H. Oh, H.J. Kim, C.S. Hwang, K. Szot, R. Waser, B. Reichenberg, and S. Tiedke: J. Appl. Phys. 98 (2005) 033715 06) K. Fujiwara, T. Nemoto, M.J. Rozenberg, Y. Nakamura, and H. Takagi: Jpn. J. Appl. Phys. 47 (2008) 6626 4.ま と め Cu2o を 用 い た 平 面 型 の 抵 抗 変 化 型 素 子 を 作 製 し、 フィラメントの形成過程について調べた。TEM を用い た観察により、還元された fcc 構造の Cu の存在が確認さ れた。また、フィラメント形成途中の表面観察の結果か ら、この Cu 細線は Cu2o がジュール熱により熱的に解離 したことにより生成したものであると考えられる。 謝辞 本研究は、芝浦工業大学工学部材料工学科の鈴 木和典氏、五十嵐勲英氏との共同研究の成果であり、各 位に対して心より感謝の意を表します。 07) R. Yasuhara, K. Fujiwara, K. Horiba, H. Kumigashira, M. Kotsugi, M. Oshima, and H. Takagi: Appl. Phys. Lett. 95 (2009) 012110 08) I. Barin: Thermochemical Data of Pure Substances (VCH, Weinheim, 1995) 3rd ed. 09) H. Baker: ASM Handbook, Vol.3 Alloy Phase Diagrams (ASM International, Ohio, 1992) 10)N. Sasaki, K. Kita, A. Toriumi, and K. Kyuno: Jpn. J. Appl. Phys. 48 (2009) 060202