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150℃まで低温での焼結が可能となった非酸化銅微粒子
150℃まで低温での焼結が可能となった非酸化銅微粒子 高分子に保護された金属銅微粒子の合成と焼結 (北大院工)○米澤 徹、塚本 宏樹、松原 正樹 [3S09] (Tel: 011-706-7110) 北海道大学 大学院工学研究院の米澤徹教授、塚本宏樹研究員、松原正樹研究員らの研究 グループは、安価な生体高分子であるゼラチンを用いて合成した非酸化銅微粒子を再分散さ せてインクもしくはペースト化して薄膜を形成した。そして、焼結の条件を最適化し、銅の 酸化還元プロセスを巧みに利用することにより、その焼結温度を低温では 150℃から高温で は 900℃以上での焼結ができることを可能とした。この結果、高分子、セラミックスの基板 上に、非常に幅広い温度領域で銅電極・銅配線を作ることを可能とした。この結果により、 これまで銀が用いられてきたナノ粒子インク・ペーストを用いた印刷配線形成の分野に、よ り安価でコモンメタルである銅微粒子を用いることを可能にすると期待される。 ゼラチンは、古くから金属微粒子を安定に保護する生体高分子としてよく知られている。 ゼラチンはアミノ酸の重合体であり、容易に分子量制御できるほか、少量の添加で金属微粒 子を薄膜で保護して安定に分散させることが可能である。我々はこのゼラチンを用いて、酸 化銅(II)のマイクロ粒子から還元剤を用いて銅微粒子を大量に合成できることを示した。さ らに、ゼラチンには等電点(アニオンになる官能基とカチオンになる官能基の両方を持つ化 合物で電荷の平均が0になる pH のこと。ゼラチンはアミ ノ酸の重合体なので等電点がある)があるので、pH を制 御することによって容易に微粒子を弱く重合させること ができ、そのためデカンテーションによって微粒子を短 時間で容易に回収することができる。つまり、我々の手 法は遠心分離やろ過といった時間のかかる工程を含まず 粒子を溶媒から分離できるために、他の手法よりも生産 性が高く、より低コストでの製造が可能になるという利 点がある。 図 1 ゼラチン保護銅微粒子を用 この微粒子は、粉末状態では容易に酸化せず、適切に いた銅ペーストとその塗膜。 再分散させることで、高濃度ペースト化できることも示 されている。このペーストはドクターブレードで容易に薄膜化できた。 こうして得られた塗膜を焼結して導電性電極・配線とするが、本研究では、その焼結時に 銅の酸化還元挙動を巧みに利用し、微粒子の大きさは 100 nm 以上でありながら 150℃での 低温焼結を可能とした。これまで低温焼結し導電性電極・配線を得るための材料には、多く の場合 10 nm レベルの粒子径をもつ、できるだけ微細な金属ナノ粒子が用いられてきた。金 1 属をナノ粒子(100 nm 以下)化すると焼結開始温度が徐々に下がることが示されているた め、より小さい金属ナノ粒子を合成し、低温焼結させようとしている。しかし、銅の場合に は、粒子を小さくすると、その比表面積の増大から、非常に粒子の酸化が促進されてしまい、 安定に保持できず工業的に使いづらくなること、また、それを防ぐために多くの有機物を導 入する必要があることなど、導電性を妨げる要素が大きくなってしまうために、まだまだ未 完成であり、今後クリアしなくてはならない課題も多い。さらに、こうした微細な銅ナノ粒 子の製造コストが、その添加剤や製造プロセスのせいであまりに高くなると、導電材料とし て銅を使うメリットが大きく減じられてしまう。 一方、私たちの銅微粒子は 130-150 nm 程度の粒子径を持っており、低温焼結に向けた微 粒子としては相当大きい部類に属する。この微粒子をそのまま焼結しネッキングさせ粒子同 士をつなごうとするときには比較的高温を与える必要がある。実際、セラミックス基板上へ の導電性銅薄膜の形成では、我々の微粒子を高温で焼結処理することが有効である。 しかし、低温焼結では、ゼラチンなどの銅微粒子をコートしている高分子は焼き飛ばされ ない。そこで、銅微粒子の焼結を 2 step で行うことによってこの問題を解決することに成功 した。1 段目には、酸素を導入した酸化的焼結を行う。この過程では、銅微粒子の表面は酸 化する。SEM で観察したところ、小さなナノ粒子が微粒子を薄くコートする高分子層を越 えて酸化銅が角を出して現れていた。結晶構造を詳細にチェックしたところ、これは亜酸化 銅(酸化銅(I)、Cu2O)であった。そののちに同じ温度で、3%の水素を導入した条件で還元 的焼結を行ったところ、この亜酸化銅がこの温度で還元され、金属銅となり、銅微粒子同士 がネッキングして結合していることが分かった。つまり、この小さな亜酸化銅ナノ粒子が高 分子層を越えて多点で銅微粒子同士をつなげたあと、微細な亜酸化銅ナノ粒子が低温で還元 され、銅微粒子同士をネッキングでつなげることによって導電性が確保されるたのである。 (図 2)また、得られた焼結膜表面は残余の高分子でおおわれたままであり、焼結膜の安定 性もより高くなることが期待できる。 図 2 我々のゼラチン保護銅微粒子の低温 2 step 焼結メカニズムの模式図。 <適用分野>電子部品、高分子基板配線形成、プリンテッドエレクトロニクス、携帯電話、 パソコン、セラミックス基板配線形成、自動車用電装部品、太陽電池、セラミックスコンデ ンサ、パワー半導体放熱接着剤 2