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電気化学成長法による酸化物半導体薄膜の 導電性制御と太陽電池応用
The Murata Science Foundation 電気化学成長法による酸化物半導体薄膜の 導電性制御と太陽電池応用 Control of Electrical Conductivity of Oxide Semiconductor Thin Films Prepared by the Electrochemical Process for Solar Cell Application H25助自03 代表研究者 芦 田 淳 Atsushi Ashida 大阪府立大学 大学院工学研究科 電子・数物系専攻 電子物理工学分野 准教授 Associate Professor, Department of Physics and Electronics, Graduate School of Engineering, Osaka Prefecture University Cu2O is a p-type semiconductor and a prospect for a material of safe, non-toxic and low cost solar cells. In recent years, not only the small payback time, but also small “energy” payback time is required for mass-produced solar cells. Thus, the electrochemical deposition (ECD) process was employed to fabricate Cu2O thin films in this study. ECD process proceeds at the temperature less than 100 ºC under the atmospheric pressure with high material efficiency. In addition, it is suited to large area deposition. One of the issues of Cu2O to apply to the absorption layer of solar cells is its high resistivity. The origin of the p-type carrier is a copper vacancy (VCu). To increase the carrier density, we tried to increase the density of VCu by changing the reaction rate-limiting factor to be insufficient of Cu supply. To reduce the supply of Cu2+ to the reacting surface, the concentration of Cu2+ in the electrolyte was decreased. The applied cathodic potential is unified and the cathodic current density decreases with decreasing the concentration of Cu2+, which means the electrochemical reaction is limited by the supplying ratio of Cu2+. Though, the ionized acceptor NA+ does not depend on the Cu2+ concentration. The cause of this unexpected outcome is under consideration. On the other hand, the NA+ increases with increasing the concentration of OH- which is the source of oxygen in Cu2O. Therefore, we have succeeded to demonstrate the control of electrical property of Cu2O prepared by the ECD under the growth condition of excessive supply of oxygen source, which is important to realize the Cu2O based safe, non-toxic and low cost solar cell. 機器の廃棄における有害物質による環境汚染 研究目的 を防ぐためのWEEE指令においては、当初太 近年、化学物質汚染をはじめとする環境問 陽電池は指令の対象品目には含まれなかった 題への対応が喫緊の課題となる中、工業生産 が、その後他の電子機器と同様に規制の対象 活動ならびに工業生産品に対する様々な社会 となった。従って今後普及する太陽電池は、 的要求が高まり、太陽電池も例外ではなくなっ 環境に影響を与える可能性のある元素や化合 ている。例えば鉛などの有害元素や有害化合 物を一切使用しないこと、あるいは大きなコス 物の使用を禁止する欧州のRoHS指令や電子 トをかけて使用済みの太陽電池パネルを回収し ─ 41 ─ Annual Report No.29 2015 安全に処分することが必須条件となる。さらに 暖化対策や省エネルギー生産、省資源といっ 地球温暖化対策や省エネルギー、省資源といっ た課題も否応なく突き付けられている。よって た課題から、エネルギー回収期間(エネルギー 今後開発されるべき太陽電池は、発電効率や ・ペイバック・タイム)短縮の要求も加速してい コストのみならず、安全・安心・豊富な構成物 る。すなわちこれからの太陽電池は、発電効率 質から成り、かつその製造方法が低エネルギー やコストのみならず、安全な構成物質から成り、 消費プロセスであることが強く求められる。こ かつその製造方法が低エネルギー消費プロセス れ ら の 要 求 に 対 し て 本 研 究 で は 、n - Z n O / であることが強く求められる。 p-Cu 2 Oヘテロ接合を基本とする太陽電池を完 これら要求に対して本研究では、n - Z n O / 全水溶液プロセスで作製することを目指す。亜 p-Cu 2 Oヘテロ接合を基本とする太陽電池を完 鉛や銅は安全かつ資源量も比較的豊富であり、 全水溶液プロセスで実現することを目指す。 希少元素を用いない点で元素戦略上意義が大 C u 2 Oを光吸収層に用いた太陽電池の理論的 きい。さらにこれら元素の酸化物は電気化学 な予想変換効率はおよそ20%であるのに対し、 プロセスによって直接結晶化させることができ これまでの最高変換効率は約6%である。低い るため、真空あるいは減圧槽を必要とせず、か 変換効率の主な原因は直列内部抵抗に起因す つ100℃以下の常圧で大面積に製膜できる。 る低い開放端電流と接合部の界面欠陥ならび C u 2 Oを光吸収層に用いた太陽電池の理論 にバンドアラインメントにある。前者に対して 的な予想変換効率はおよそ20%であるのに対 は、Cu 2 O層の伝導ホールの起源である欠陥の し、これまでの最高変換効率は約6.1%である。 制御が必須である。本研究では、Cu 2 O薄膜を 低い変換効率の原因の一つは直列内部抵抗に 電気化学的に成長させる際の反応の速度律速 あり、Cu 2 O層の伝導ホールの起源である欠陥 因子を制御することで伝導ホールの起源である の制御による解決が期待される。本研究では、 Cu欠損(V Cu)の量を制御して、低抵抗Cu 2 Oを Cu 2 O薄膜を電気化学的に成長させる際に反応 実現することを目的とする。 状態を原料イオン供給律速とし、銅の供給源 (電解液中のCu 2+)の量と酸素源(OH -)の量を 概 要 変化させることで伝導ホールの起源であるCu 太陽電池は半世紀以上の歴史を持つ再生可 欠損(VCu)の生成量を変化させ、Cu2Oのキャリ 能エネルギー獲得の手法である。現在普及し ア密度制御を目指した。 ている太陽電池の原料には、シリコン系、Cu Cu 2 Oは、硫酸同水溶液を電解液とし定電位 (InGa)Se2系、III-V族系化合物等が、また次世 印加によって電気化学的に成長させた。電解 代の安価な太陽電池材料としては有機物等が 液の温度は45℃一定とした。また溶存酸素の ある。一方近年、化学物質汚染をはじめとする 影響を避けるために、電解液は製膜開始直前 環境問題への対応が喫緊の課題となる中、工 までArによるバブリングを行った。Cu2Oの電気 業生産活動ならびに工業生産品に対する様々 伝導を支配するV Cu の生成密度を制御するため な社会的要求が高まり、太陽電池もその例外 に、電解液中の銅イオン濃度[Cu 2+]ならびに ではなくなっており、今後普及する太陽電池は 酸素源である水酸基の濃度[OH-] 、すなわち電 安価であることに加えて安全・安心な物質のみ 解液のpHを変化させた。基板(作用極、陰極) を用いることが必須条件となる。さらに地球温 にはc面サファイア単結晶上にスパッタリング ─ 42 ─ The Murata Science Foundation 法で製膜したエピタキシャル成長(111)Pt薄膜 変えてキャリアを制御しようとする当初の目 を用いた。対向極は電解液に対する安定性か 論見は、 [Cu2+]を変化させることでは実現でき らPt、また参照極はAg/AgClとした。電気化学 なかったが、 [OH -]≧10 -3 mol/Lの領域で達成 成長では基板に導電性が必要なため、得られ できた。この結果は、安全・安心・安価なZnO/ た薄膜のホール効果測定によるキャリア密度 Cu 2 O系太陽電池を、低消費エネルギープロセ 評価が困難である。これに代わる手法として、 スである電気化学堆積法によって実現するた C-V法を用いて薄膜中のイオン化アクセプター めの重要な一歩である。 濃度(N A )を評価し、キャリア密度制御の可 + 能性を検証した。 電子顕微鏡観察ならびにX線回折測定により 基板及び薄膜のる面外及び面内の方位関係を 評価し、得られたCu 2 O薄膜は全て連続薄膜で ありかつエピタキシャル成長していることを確 認した。これらの試料の電気的特性評価のた めに、表面電極としてTiを、またその上に金を 蒸着した。電極の直径は100mmである。Cu2 O/ Ti界面のショットキー障壁を利用して容量-電 圧(C-V)特性を測定し、その結果からN A+を見 積もった。 [Cu2+]を変化させた場合には、N A+は[Cu2+] に対して明瞭な相関を示さかった。この原因 の一つとして、電解液中に存在するCu2+はOHに取り囲まれているために、Cu 2+ の量を減らし ても反応場に供されるCu2+と酸素源であるOHの比が大きく変化しなかったことが考えられる が、現時点で詳細は明らかではない。一方電解 液中の[OH -] 、すなわちpHを変化させた場合 のN A + は、 [OH -]=10 -3 mol/L付近を境にして変 化の傾向を異にする。 [OH -]が小さくCu 2+ が過 剰と考えられる領域では、N A + 濃度は[OH -]に 対して明確な依存性を示さない。一方で[OH-] が10 -3 mol/L付近より大きい領域では[OH -]の 増大に伴いN A+ の濃度が増大する。これは酸素 源であるOH-が大過剰であるためCu2+の供給が 不足し、結果結晶成長中にV Cu が生成したため と考えられる。 [OH -][ / Cu 2+]を変化させることでV Cu 量を ─ 43 ─ -以下割愛-