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転換点にきた日本の住宅政策

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転換点にきた日本の住宅政策
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目
次
住宅月間中央イベント・公開シンポジウム
〈平成 18 年 10 月 17 日(火)於
住宅金融公庫 すまい・るホール〉
開会挨拶 ··································································· 1
社団法人 住宅生産団体連合会専務理事
浅
野
宏
基調講演『これからの社会と住宅・住環境』 ······························· 3
青森大学教授・エッセイスト
見
城
美枝子
パネルディスカッション『転換点にきた日本の住宅政策] ·················· 7
モデレーター
浅
見
泰
司
元 NHK 解説主幹・作新学院大学教授
小
林
和
男
株式会社ニッセイ基礎研究所 土地・住宅政策室 室長
篠
原
二三夫
明治大学理工学部建築学科 助教授
園
田
眞理子
社団法人 日本経済研究センター・客員研究員
吉
野
源太郎
東京大学空間情報科学研究センター 副センター長・教授
パネリスト
開催挨拶
(社)住宅生産団体連合会 専務理事
浅
野
宏
住団連専務理事の浅野でございます。住宅月間中央イベントは、私どもが中心になりま
して開催をいたしておりますが、今年で第 18 回ということになりました。その中のイベン
トの一環といたしまして、本日、公開シンポジウムを開催させていただきました。
ご承知のことだと思いますけれども、私どもは住宅を造る側の団体あるいは企業の集ま
りでございますので、住宅について非常に関心があるわけでございます。わが国の住宅の
状況については、端的にいうと欧米の優れた住宅と住環境とを比べてみても、まだ劣って
いる点が一杯あるのではないか、まだまだ、改善する余地があるのではないかという考え
で、いろんな活動をやってきております。特に最近では昨年 6 月に開催された私どもの総
会におきまして、
「住宅基本法」の制定をやって欲しいということで、提言を取りまとめま
した。その後、経団連さんにも同じような主旨の提言をしていただきまして、産業界をあ
げて、住宅に関する基本的な法律が必要だということを訴えてまいりました。
また、私どもは、IHA(国際住宅協会)と連携し、臨時総会を東京で開催していただき、
同様な主旨のことを東京宣言としてまとめていただきました。また、11 月には経団連のホ
ールで大きな公開シンポジウムを実施し、雰囲気を盛り上げる活動等を行ってきました。
その成果として、今年の 6 月には「住生活基本法」という基本的な法律が制定されました。
ご承知のように、現在全国の基本計画が制定されておりまして、年度一杯かけて各都道府
県の基本計画が作られるという手順になっております。そういう意味では今年は住宅産業
界にとりまして、非常に画期的な年でありますし、大きな転換の年であるということで、
今日のシンポジウムのテーマとさせていただきました。
本日はそういう意味で最初に基調講演として、見城美枝子先生からのお話しを頂きまし
て、その後のパネルディスカッションでは、5 人の先生方にお話しを頂くことになってお
ります。
私どもは住宅政策の中で、一番重要な位置を占めるのは、住宅に関する税制だと思って
おります。特に来年の参議院選挙が終わった後の秋には、消費税の値上げの話が具体的な
議論になってくるというように承知しております。これから 1 年くらいあるわけですが、
消費税を中心にした住宅に関する税制の見直し論議のための、いろんな準備をしていきた
いと思っております。私どもでは、展示場での「住宅の消費税アンケート調査」
、あるいは
「消費税の意見募集」というようなことをやりながら、私どもの気持ちとしては、住宅に
かかる消費税はできれば 5%のままで据え置きにしておいて頂きたい。食料品等でいろん
な意見が出てくると思いますが、そういうことをお願いしたいという気持ちでいろんな活
― 1 ―
動をやっております。繰り返しになりますが、住生活基本法で謳われました理念を実現し
ていくための税制とはどうあるべきかを、関係の皆様方といろんな議論をして詰めていっ
て、各方面に働きかけをしたいと考えている次第です。今後とも、皆様方のご協力を宜し
くお願いしたいと思います。
本日のシンポジウムが実りの多いものになりますように祈念いたしまして、簡単ですが
冒頭の主催者のご挨拶とさせていただきます。
― 2 ―
基調講演
これからの社会と住宅・住環境
見
城
美枝子
私は、住宅・建築が好きで大学院では「日本の住空間の研究」をしていました。特に上
がり框に代表されるように段差の美学に惹かれました。ですから時間があると京都や奈良
に出かけては、神社仏閣の空間や軒裏を見上げて日本の美の美しさに惹かれております。
私は、大学を出てメディアの世界に入りました。取材で世界各地に参りまして、日本人
の特性とは何だろうかと改めて考えさせられました。それは、日本の住空間で生まれ育く
まれた所作、立ち振る舞いが大きく原因しているだろうと思いました。日本の住空間の間
尺(キョリ)にあった生き方、礼節、所作、立ち振る舞い、言葉のあり方が日本人を日本
人らしくしたのではないかと興味を持ち大学院で建築を研究するようになったのです。
住生活基本法が成立し、先日も北側国土交通大臣との対談(2006 年 8 月)があり、大臣
から法案を作られたときの思いを伺いました。住生活基本法の中で良質の住宅ということ
が謳われておりますが、現在の住宅は、床はフラットでユニバーサルデザイン化していく
中で、私は問いたい。物理的な安全も大事でしょうが、日本人の所作・動作や誇りを育ん
だ心の空間が、段差の美学が無くなってよいのか皆さんに問いかけたいと思います。2007
年以降団塊世代が大量にリタイヤをしていく中では、
すべての床をフラットにすることが、
本当に住宅の質を高めることなのか考えさせられます。
椅子座と座方
日本人の骨格は、
果たして長年強固な石造りの、
例えばイタリア人のように石造りの大理石をこよ
なく愛して、あの硬い大理石の椅子座で耐え抜い
てきた骨格と比較してどうでしょうか。
日本人は、
西洋化したといっても、まだ座方の DNA の国だ
と思います。木やイグサの畳の感触で育ってきた
人間にとって石の上での生活には無理があると思
います。美としていろいろなものを取り入れるの
― 3 ―
は良いのですが、基本にある日本人が培ってきたものをどう 21 世紀型にするかです。
それから良質ということでもうひとつ。高齢化社会といえばバリアフリーと言われます
が、日本の伝統や生活習慣に適した研究や提案がなされているのでしょうか。以前、福祉
機器政策小委員会で、椅子になれてない DNA の日本人がずっと腰かけたままでも居心地
の良い車椅子はどのようなものなのか。
上足と下足を履き替えている生活スタイルなので、
車椅子も外用、家用が必要です。それに比べ、私が取材に行ったデンマークのご高齢の方
などは、車椅子で一人で暮らしていました。それができる理由は、椅子座で履物を履いて
いる生活スタイルにあると思いました。欧米人は、居間で靴を履いたまま椅子に座りくつ
ろげるが、日本人は靴を脱いで家の中に入り、胡坐をかいたり、横座りして安堵の気持ち
を感じます。福祉機器もこういった日本人の生活スタイル、住空間に合うものを「ああで
はないか、こうではないか」と自分たちの問題として発信していかないと、いつになって
も上質なものは作れません。私が、段差の美学といいましたが、日本人の履物を脱いだ座
の生活スタイル、
狭い和室の空間の作り方等々、
日本には上質な暮らしの美学があります。
庭造りにしても、ベルサイユの幾何学模様でシンメトリーなガーデンと枯山水に代表され
る日本庭園とでは感性が全く違います。
私が、以前住宅の番組を 7 年間やりまして 350 軒ほどの住宅を見てきて感じたことです
が、施主はほとんどが素人の方です。いろいろアイデアを出してご自分の好みでお建てに
なるのはいいんですが、道路からのファサード、街並みの景観等含めて上質な住環境を提
案できるのかと思いました。そこで、私は住環境や都市づくりの教育を小学校レベルから
させて欲しいと提案したのです。
食事も食育と言われ、
食育しないとキチンとした食事ができる子は育たないと思います。
給食の時間に「いただきます」と言うことに対して「給食費を自分で出しているのに、何
でいただきますなんだ」と文句をつけた保護者がいたという話があります。
「いただきま
す」の理由も分からない親や子供が多すぎるような気がします。人間の営みとして、
「生あ
るものを殺生してそれをいただくという感謝の気持ち」であるのに、それがないから「お
金を出していただくはないだろう」ということになる。このような中で、住環境を良くし
ていこうとするには、皆さん方からのアプローチも大変重要かと思います。
団塊世代 1,300 万人と団塊ジュニア世代がキー
先ほど団塊世代の話をしましたが、今後住宅産業にとって 1,300 万人といわれている団
塊世代がどう動いてくれるかということが大きく作用します。
ひとつは、少子社会で 1 人が 2 軒や 3 軒建てなくても家を持ってしまう時代が来ること
です。そういうときに、その家を廃屋にするのか、利用するのか?こういう提案がまだで
きておりません。
それから今、世田谷や杉並のかつての中流都市生活者の理想的な住宅街が年老いてきて
しまったことです。虫食い状に空き家が目立ち、街の活気も失われ始めています。その空
― 4 ―
地・街をどう再生していくかも皆さんの提案力にかかっていると思います。リフォームの
提案にしても過去の延長線上であり、上質な空間づくり、その家らしさの美を出す提案、
バリアフリー等少しでも工夫すれば投資ももっと多くなるのではないかと思います。
それから私「100 万人の故郷回帰支援センター」という NPO 法人の理事をやっておりま
て、私たちの世代がみな東京へ、東京へと出てきましたが、リタイヤしたら故郷ないし地
方に家を建てるなり、家を持ってセカンドライフを楽しむ提案をしています。農業を実際
にする人、農業の周辺でアイデアを出して企画する人、コーディネートする人等々。先日
も若い県知事の方と話しましたが、皆さん口を揃えて「人材がいない」とおっしゃってい
ます。行政面でもいろいろなサポートを考えてプロポーズしてきています。これから団塊
の世代がどれくらい動くか分かりませんが、地方での建築が増えるかもしれません。
次に団塊ジュニア世代です。ここが次の膨らみでありまして、35 歳前後ですが、男性の
半数、女性の 30%が独身です。それと離婚率が高いのです。この世代が良質の一軒家を持
とうとするのか、賃貸で過ごすのかといった自分の住宅観が育っていないのです。前にも
申し上げたように教育されていませんので致し方ないことかも知れませんが。
このように団塊の世代がどう動くのか、団塊のジュニアがどういう住宅に一歩踏み出すの
か、日本列島全部を視野に入れて考えるべきではないかと思います。
消費税引き上げと需要の減少
それから、日本の借金が負債合わせて国が 800 兆円、地方自治体が 170 兆円、合わせる
と約 1,000 兆円の負債を持っています。このような状況ですから、国は税金を何とか増収
にしていかなければやっていけないということで動いている訳です。その中で消費税が上
がると、私たちの動きにも大きく影響します。バブル崩壊後の経済不況も住宅ローンと雇
用不安が消費意欲を削いだというデータがあります。一時は、高齢者が消費を率先してい
たのですが、
年金の問題が起きた段階で牽引力が削がれました。
住宅ローンの大型減税は、
消費意欲に火をつけましたが、消費税が上がれば途端に需要が落ち始めるのではないかと
思います。
住宅の頭金のための貯蓄と住宅ローンの返済の合計が 2003 年段階で 400 兆円弱
あったものが、2015 年には 544 兆円になるという
数字が出ている。これに今後、住宅の消費税が引
き上げられると、住宅は持つものか借りるものか
の選択に迫られ、住宅ローンに耐えられるか、諦
めてしまうかといった大きな境目になってくると
思います。日本人の最大の買い物は家ということ
で、2003 年の日本人の総資産 2,533 兆円の内、住
宅は 1,080 兆円と日本人の総資産の半分が家にな
っています。
― 5 ―
食と住は一緒、住宅は文化
衣食住といって住が最後に来ていますが、私は食住衣ではないかと思います。食と住は
一緒になっているものだと思います。昔は、多くの家では、食事の時間に礼儀を教えてい
ました。このことがすべてのスタートになってきたと思います。住まい作りの基本に私は
“火と水のある所に人は集まる”を入れています。その習性からも子供の躾の場としてダ
イニングが重要であり、こだわりを持って作りました。
家が礼儀作法・躾の教育の場となり、人がその家で育まれ立派な社会人になる。こんな
提案をしていくことが、もう一度住宅に目を向かわせるきっかけになるのではないかと思
います。
住宅・住空間を造ることは、過去の記憶、現在の記録、未来の予感の 3 つが重なり文化
となっていると思います。住宅は、目に見えている文化であり、過去の遺産も見ることが
でき、
現在建っていることで記録も分かります。
これから建てようと思っているところは、
未来の予感です。将来日本の文化度は、皆さんの住宅文化、建築文化度にかかっていると
思います。
公共建築賞の審査委員をさせていただいておりますが、本当に各地にも素晴らしいもの
があるということも実感しております。そういった郷土、故郷、土地柄、地産地消、そん
な言葉も皆さん住宅とは関係ないと思わないで、是非そういった言葉も取り入れながら、
すばらしい日本列島にしていただければと思います。
― 6 ―
パネルディスカッション
住宅月間中央イベント・公開シンポジウム
豊かな住生活の実現に向けて -転換期にきた日本の住宅政策-
これから求められる豊かな住生活とは?
浅見泰司氏
それではパネルディスカッションを始めたいと思います。タイトルは「転
換点にきた日本の住宅政策」です。何故、転換なのか。実は既に先
程から名前が出ていますけれども、住生活基本法というのができま
した。今までずっと住宅建設を主にしてきた住宅建設法があって、
これが日本の住宅政策を大きく形づくってきた訳です。その基であ
った機関というのは公営住宅、公庫、公団、こういった公が住宅建
設ないしは民間の建設に補助をしてきた。そうしたことを主にして
日本の住宅政策をつくってきたわけです。ところが今度の法律は、
住生活基本法、つまり住生活がメインになっています。これはやはり住宅政策における重
点の置き方が大分変わってきています。
実際に住生活基本計画が発表されましたけれども、
これを見てみますと、住宅の価値を高める、ハウジング・バリューを高めるということに
重きを置いています。今まで住宅の質をいってきたわけですが、価値というところまでは
言及してこなかったのです。ここが大きな転換点を示しているということが言えると思う
訳です。
それから、もう一つ。その住宅という言葉を使わないで、住生活という言葉を使ってき
たということは、今まで住宅が量から質へというところまできた訳ですが、今度は質では
なくて住生活だと。住宅単体の質ではなくて、むしろ住生活全体を見なければいけないの
だと言うことになってきた訳です。そういった意味で、これからの住生活の意味というも
のはどういうものなのかということを考える必要がありますし、それに基づいて住宅政策
の在り方はどうあるべきかを考えなくてはならない。それが今日のパネルディスカッショ
ンのメインテーマということにつながってくる訳です。このパネルディスカッション、大
きく 2 つのパートでディスカッションしていきたいと思います。まず、パート 1 では「こ
れから求められる豊かな住生活とは何か」ということで、今までの経験に基づいた住生活
といったことをお話しいただきます。それからパート 2 では、
「これからの住宅政策の在り
方」ということで、住宅政策はどう在るべきかということをご議論いただく予定でおりま
す。それでは、最初に小林さんから宜しくお願いいたします。
― 7 ―
小林和男氏
皆さんこんにちは。小林和男でございます。初めにお断りしておきますけ
れども、ほかの先生と違って私は住宅の専門家ではありません。ロ
シア問題を専門にしておりまして、長い間、海外で 14 年間暮らして
おりました。そういう経歴ですけれども、住宅については一家言持
っております。それは何かといいますと、日本がこれから一番力を
入れて行かねばならないものは何だろうかと。少子化の問題とかい
ろいろの問題が絡むわけですけれども、私は、それは住宅であると
いう信念を以前から持っております。
何故、そういう結論に至ったかということについて、まずお話しを申し上げたいと思い
ます。先ほど申しましたように私、長い間、外国で暮らしておりました。初めて NHK 特
派員として、国外に派遣されたとき、5 年間一度も日本に返して貰いませんでした。その 5
年間のうち最後の 3 年間はオーストリアのウィーンでありました。ウィーンの森に囲まれ
た、素晴らしい住環境で最後に 3 年間を暮らして、日本に帰った時のショックというのが
私の住宅観の大本になっております。何と言ったらいいでしょうか、電車の車窓から流れ
ていく外の住宅の風景を見たときに、
「ああ、これはいかん」と。私はまるでスラムのなか
に帰ってきたのだ、という感じを持ちました。
緑豊かでしっかりした住宅に囲まれたウィーンから 5 年ぶりに日本を見た時の感じとい
うのは、本当にショックでありました。それ以来、まず住宅を手当てするということから、
私の生活を始めました。今住んでいる住宅はそれから作った 2 つ目のものですが、2 つ目
で大変満足のいく住宅ができました。今は本当に良い家だと喜んでいるのでけれども、そ
の家にロンドンにいるイギリス人の娘婿がやって来まして、彼も大いに感心いたしました。
もう本当に真夏の暑い時に、室内の温度は一定だし、それから空気は乾いているし、湿気
も関係ないと。それからトイレなどもウォシュレットですから、まあイギリスなどではほ
とんどありませんから。そういうのを見て非常に感心したのですけれども、その娘婿がひ
っくり返ったことがあります。それは何か。その住宅地の中に、
「えっ、電柱がたっている」
ということでした。確かに私が住んでいる住宅地は、800 戸ほどの規模ですが、車は通り
抜けできないようになっておりまして、
それから歩道の代わりに桜の並木になっています。
各戸は住宅協定で生け垣にしなければいけない、ブロック塀は作ってはいけないという協
定ですから、かなり良い住環境になっています。その住宅街の中に、
「もう 100 年以上も前
にロンドンを初め世界の大都市から姿を消した電柱が、まだ立っているのだ!」という驚
きです。しかも、それが第 2 の経済大国の日本の姿だということを知って、呆れ果てたと
いう経緯がございます。
私も今、住宅地の中で埋設運動をやっていますけれども、台風が来るたびに、地震があ
る度に問題になるのは電柱です。
神戸で何故 6,000 人もの人たちが亡くなったのか。
何故、
消防車、救急車が入ることが出来なかったのか。その神戸で倒れた電柱は 2 万本近くにの
ぼるといわれていますが、この間、行ってきましたらまた電柱が立っているというような
― 8 ―
状況です。
私はこれから求められる豊かな住生活、住生活という大変良い言葉を使っていますけれ
ども、住生活の豊かさを達成していくためには、私はキーになる言葉というのはコーディ
ネーション、ハーモニー・調和ではなくてこれから街全体を並木も道路も住宅もコーディ
ネートして造っていくということが豊かな住宅政策の柱になるのではないかというように
思います。そして、後からの問題になりますけれども、それが安全につながっていくと思
います。電柱が無くなれば倒れることはありません。さらにみんなが歩く街、これは安全
の基本です。そういうことを考えますと、私はこれからの豊かな住生活を達成していくた
めのキーワードがコーディネーションだと考える訳です。電力会社だけでやるのではなく
て、ガス会社が勝手にやるのではなくて、あるいはケーブル TV の会社が勝手にやるので
はなくて、皆さんの住宅建設会社も不動産会社も、そして電力会社も道路を建設する会社
も、コーディネートして事を進めるというのが、安全で豊かな街づくりをする基本ではな
いかというように、最初に申し上げてまず私の話とします。
浅見泰司氏
どうもありがとうございました。続きまして園田さんにお願いいたします。
園田眞理子氏 まず申し上げたいのは、21 世紀になって、まるまる 5 年間経ったわけで
すが、
豊かな住生活を考えるにあたって、
頭を相当切り換えないと、
実は生活像を描けないのではないかということです。今日は皮切り
に、居住というものを考える大前提が相当変わってくるのだという
話題を提供したいと思います。
どうしてかと言いますと、今、造っている住宅・住環境は、10 年、
15 年で無くなってしまうものではなく、20 年、30 年は当たり前で、
できれば 50 年、もっと言えば 100 年、200 年経っても、丈夫で長持
ちで良い環境をつくるということに他ならないからです。だから、かなり先々までを考え
ておかないといけない。そこで、少し先の時代をにらみながら、今どういう大転換が起き
ているのかを確認していきたいと思います。
大きくは 4 つぐらいの大変化が起きています。
その第 1 が、いよいよ日本は人口縮減や世帯の縮減時代に入ったということです。予想
をはるかに上回って、2004 年の時点で総人口についてはピークになって、去年から減り始
めています。世帯数の方は、もう暫く家族の規模が小さくなっているので増えるわけです
が、2015 年には減り始める。
2 つ目は、よく言われている少子高齢化です。小子化の方は、合計特殊出生率 1.29 で、
回復の見込みがない。最近、このことに対して私が一番のショックだったのは、女子学生
から言われたことですが、
「先生、私たちが子供を産むかどうかということは、お金が掛か
るかどうかではないのです。私たちはキチッと働いて、しかも子育てができること。つま
― 9 ―
― 10 ―
り、働くこと、子育て、それとごく普通の生活をすることがトータルに持続できないと、
なかなか子供を持つことに踏み切れません」と。なかなか鋭いなぁと。ともするとお金の
問題ではないかというところに議論が行くのですけれども、かなりこの背景には深いこと
があると思います。
もう一つが高齢化の問題です。2000 年の日本の人口ピラミッドと 2050 年のそれを比較
すると、2000 年には、7 割近くの人たちが 15 歳から 64 歳までのいわゆる生産年齢人口に
該当していました。ところが、2050 年には、約 5 割にまで落ち込んでしまいます。残り半
分が一方の支えられる人たちです。相対的に重いのが、年齢が上の方でして、高齢化率が
2050 年には、何と 3 分の 1 を超える人たちが 65 歳以上になるということです。しかしな
がら、高齢化を地域的に見ると、実は日本の中でモザイク状に進んでいるのです。どうい
うことかと言いますと、これから先 10 年でどれくらい高齢化が進むのかというと、実は地
方の高齢化は終わってしまっているのです。例えば一番トップは島根県、次が高知で、3
番目と 4 番目が東北の秋田、山形ですが、これから 10 年間ぐらいの間に高齢化率は、それ
らの県では 2 ポイントか 3 ポイントしか上昇しないのです。
では、どこが増えるのかというと今、若いところなのです。一番若いところは何と埼玉
県です。そこはだいたい 13%くらいから 20%を超えるくらいまで高齢化率が増えていきま
す。第 2 位に若いのは今、神奈川ですが、神奈川もすごく進むのです。3 位がチョット変
で沖縄ですけれど、4 位が千葉、5 位が愛知、6 位が大阪。その次が東京です。これは何を
意味するのかというと、これから都市で爆発的に高齢化が進むということです。高齢化と
― 11 ―
いうのは、これからは大都市のむしろ量の問題です。どうやって対応していくのかが大き
な課題です。そのときに、実はお手本は地方にあるということです。そこから都市は沢山
のことを学ばなければならないと。そういう状況になっています。
3 つ目は家族の問題です。是非、住宅に関わっている人に認識して頂きたいのですが、
21 世紀前半は単身化の時代です。私もこの世界に永くて、四半世紀が経つのですが、私が
大学を出て働き始めた頃は文字通り核家族と呼ばれるお父さんとお母さんと子供さん 2 人
が理想というのが当たり前で、本当に世の中で、一番多かったのです。ですから LDK 型の
マンションですとか、戸建て住宅を購入するということは意義があった訳です。しかし、
2003 年時点でその核家族は一番メジャーではないのです。単身・夫婦のみを合わせた割合
よりも核家族の割合が低いのです。さらに 20 年経つとどうなるか。何と全世帯の半分以上
を単身と夫婦の世帯が占めるようになる。
しかも単身の方が多い。
頭の切り換えとしては、
20 世紀後半が核家族の時代であったとしたならば、21 世紀は単身化の時代なのです。単身
者の住む住宅、住環境は何だろうと考えると、これはなかなか難しい問題です。もし住宅
ということを考える時、それから住む、生活するということを考える時に、相当に頭を切
り換えないといけないと思います。
4 つ目は、家計構造の大変化です。私は、経済は専門外ですので、日本で格差社会の問
題を最初に指摘された大阪大学の大竹先生のデーターをお借りして説明したいと思います。
ジニ係数というのは、世の中でどのくらい所得の格差が開いているのかと言うことを見る
尺度だそうです。そのジニ係数を見ると、段々、年ごとに拡大しています。新聞報道で知
― 12 ―
ってショックだったのは、OECD 30 ヵ国の中で所得格差が開いているのが、(私は、日本
は非常に平等な国だと思っていたのですが)日本がアメリカに次いで世界第 2 位だという
のです。非常に驚いてしまったのですが、大竹先生の説によると、年齢が若い時には所得
の差があまりないのですが、年齢が上がるほどその差が開いていく。もう一つは、実は専
業主婦という問題です。昔は富裕な男性の奥様は専業主婦で、1 馬力で一家族を養ってい
た訳ですが、今は富裕な男性の奥さんも富裕に働くキャリア・ウーマンなのです。そうい
うところは 2 馬力なのですが、所得の低い男性の奥さんはパート・タイムとか、あるいは
子育て中で、それを 1 馬力で大変ということです。つまり、これだけで昔に比べると 4 倍
の格差が生じてしまうのです。こういう状況がどうも日本では相当短時間の間に生まれて
きた。稼ぐ夫は妻も働くと。
何故、このことを申し上げているのかというと、いわゆる住宅を考えた場合、年功序列
と終身雇用を前提に、長い年月にわたるローンを組んで購入するということがこれまで一
般的だったからです。こうしたすべての前提が崩れたときに、例えば住宅ローンなどの信
用というものを、お金を借りる方も、
それから貸す方も一体どういう風に考えていくのか。
この辺りで、相当難しい問題を突きつけられているのではないかと思うのです。例えばニ
ートとかフリーターというと、住宅業界は関係ないように思われるかも知れませんが、そ
ういう若者が増えるということは、将来、良い住宅・良い環境を目指してくれる人たちが
相対的に少なくなってくるということです。買いたくとも、実現したくとも、その手段が
若い時にそうなってしまうとなかなかそこに到達できないわけです。非常に大きな問題で
はないかと思います。
― 13 ―
以上の 4 つの大転換で悲観的な雰囲気を与えてしまったかも知れません。しかし、そう
いう状況に対してネガティブになるのではなくて、すべてがバラバラになってしまったと
ころから、もう一回、例えば単身同士が力を合わせることによって、協調とか、協力とか、
使い古された感じもありますが共生とか、いろんな言い方がありますが、一人ずつが力を
出し合って 1+1 は 2 ではないといったあたりをどうやっていくのか。特に、自然だとか、
緑だとか、そういうようなものは、たった一人で努力しても良くはならないものだと思い
ます。どうやって上手く協調を図って良いものを造っていくのか。それから昨今話題の防
犯性というものも、
たった一人でやろうと思うと城壁を築くか武装するしかないわけです。
けれども、これをみんながお互いにコラボレートすれば、もっと緩やかな形でより質の高
いものが目指せるのではないかと思っております。それらをどう解いていくのかが、今、
私たちに突きつけられた、21 世紀初頭の課題かと思っています。
浅見泰司氏
どうもありがとうございました。やはりかなり大きな転換点に来ていると
いうことを再認識しました。皆さんもそういう感じを受けたと思います。それでは吉野さ
ん、お願いいたします。
吉野源太郎氏
日経の吉野です。どうぞ宜しく。この間まで 40 年、新聞記者をやってお
りまして、人の話を専ら聞く方だったので、途中で舌が縺れるかも
知れませんが、その時はお許し下さい。
住宅問題というと、どうしても姉歯問題を生々しく思い出してし
まうのです。この問題が人々にショックを与えたのは、日本の貧困
を浮き彫りにしたからだと思います。第 1 は経済的な貧困であり、
第 2 は安全面での貧困だと私は思います。経済的な貧困とは何かと
いえば、やはり驚いたのはこんな安物が、安普請がまだ世の中で売
られていたのだ、しかも、こんなにたくさん売られていたのだということ。そして、それ
に飛びついた消費者がたくさんいたのだと。ということです。
今、盛んにいわれていることは、日本の人口の都心回帰であって、都心でどんどんマン
ションが売れる。マンション・ブームだといわれています。都心だから当然、値段は高い。
だから当然高級だろうとみんな思い込んでいる。もちろんなかにはしっかりしたものもあ
ります。しかし、その一方、今年のマンションの新規着工ベースで見た平均面積は 85 ㎡。
これは 6 年連続で減少です。どんどん、どんどん家が狭くなっている。高級かも知れない
けれど、狭い。中には安普請なのに狭いのがあった。これは一体どういうことなのだろう。
最近は、ストックは十分なのだ。これからは、住宅は質なのだといわれてきたのは、あれ
は嘘だったのかと。という驚きであります。
日本の住宅はウサギ小屋だ、何とかしなくてはいけないのだといわれて久しい訳です。
ウサギ小屋とは一体、何だったのかと。考えるところは、このポイントだと思います。そ
― 14 ―
れは住宅というものを日本人が、人生を過ごす家と見てこなかったということです。住宅
は日本人にとって資産なのですね。住宅を建てる重要な目的が資産形成だった。だから大
切なのは住宅より土地ということになる。家を造るのは「男子一生の面目」という考えの
意味は、土地を手に入れて資産形成することです。それは、昔話ではなくて、つい最近ま
で、あるいは今も根強くあって、そういう日本人の生き方が日本の住宅貧困に反映してい
ると思わざるを得ない。今日の主催者団体は住宅の業界でありますけれども、業界もこの
日本人に悪乗りしてあまり上等でない住宅を売りまくったのは紛れもない事実でした。だ
けど、もっと悪いのは国であります。とにかく「しっかりした住宅を造りましょう、それ
が国づくりの基本です」なんていうことを考えたことは過去に一度もなかった。第一次住
宅 5 ヶ年計画というのは確か昭和 43 年に始まり、そこから 7 次計画まで 5 ヶ年計画が繰り
返されてきた訳ですが、これはすべて住宅の量の供給を目的にしていました。質の問題は
殆ど真剣に取上げられなかった。
国のこの姿勢の過ちは最初から明らかだった。というのは、第一次五箇年計画のスター
トした僅か 2 年後に日本の住宅はストックベースで需要を上回ったからです。もちろん、
その中には粗悪な木賃住宅などもたくさんあったのですから、これで日本の住宅不足問題
は解決したなどという話ではなかった。しかし、だからこそ今後はどうするのかという住
宅問題の方向が、量の供給ではなく、質の向上だということを本来はそのときに本気で考
え、政策を転換すべきだった。
国にその自覚がなかった証拠は、日本の住宅政策が金利政策一辺倒だったということに
現れています。これからどなたかがおっしゃるかも知れないけれども、例えば消費税問題
は、日本では不動産取得税と消費税という形で住宅に二重に課税しているわけです。こん
な国は先進国でひとつもない。住宅にまるまる消費税をかけている先進国も一つもないの
です。こういうことをやってきた半面、住宅需要を金利で操作しようとしてきたことが何
を意味しているのかと言えば、住宅政策を景気政策に利用してきたということです。金利
を引き上げる、住宅金融公庫の金利を引き上げれば、直前に駆け込み需要が殺到するわけ
です。つまり、住宅建設は景気施策にとっては非常に有効な手段だったのです。国民に本
当に家庭の、あるいは生活の豊かさの拠点として住宅を作りなさいと言わずに、景気政策
の道具として国民に住宅を買わせてきたのが日本の国なのです。
貧困の第二は安全の貧困です。これは国民も非常に深刻な反省をせざるを得ない。それ
は何かというと、御上頼みだと言うことです。確かに姉歯事件は、今の法律上では国、自
治体に検査の責任があるわけですから、この責任を国や自冶体がまるまる逃れることは出
来ないのですけれども、そもそも国や自治体が本当に安全の検査を事前にすることなど可
能なのだろうか、事前規制というものが出来るのだろうかと考えれば、不可能に決まって
いるわけです。毎年 100 万戸も造る住宅についてそんなことを求めるということは、例え
ば病院で患者を治療するときにいちいち国がそれを事前に規制するのと同じことです。そ
んなこと出来ないに決まっている。分かり切った話です。それにも関わらず、国は安全に
― 15 ―
対する規制を手放そうとしなかった。そして中途半端な規制緩和をしたのです。本来は根
本から民間に任せるべきだった。例えば強制保険を使って保険会社にリスクを管理させる、
あるいは住宅ローンの会社に責任を持たせるなどという方法が当然考えられるべきで、そ
ういう仕組みを作って悪質な違反を行った業者には事後に大変厳しいペナルティーを課す
といった、こういう仕組みに改めなければいけないのに、国は中途半端な規制緩和をして
しまった。
この問題の本質は国の体質にある。それは建築基準法に表れている。基準法というのは
類い希なる中央集権的な法律です。安全についての構造規制というものは当然のことなが
ら、全国一律の規制です。しかし、その基準に基づいてどこの場所にどんな家を造ること
を認めるかということは、本来は地域が決めることであります。その住宅には人間が住む
ことになるわけですから、北海道に住む人間と沖縄に住んでいる人間が同じ建物に住まな
くてはいけないなんていう理屈はない。誰が考えたって分かるのだけれども、それが堂々
と通用してきているのが今までの日本だったのです。細かい話は省きますけれども、そう
いう意味でのいわゆる「集団規制」に関して景観法という立派な法律ができて、地域で独
自の規制が出来るようになったというのは、大変喜ばしい話なのですが、それは逆に言え
ばいかに今まで醜い街づくり、あるいは家づくりをしてきたかということだと思います。
では、どんな家を造らなくてはいけないか、と考えると重要な視点があります。第一に、
人間は地域を離れて暮らすことは出来ないわけですから、地域の中でどんな家を造ろう、
例えば壁の色は全部同じにしようと考えるのは当然です。しかし、こういうことを全く思
わずに粗悪な住宅を乱売してきたのが日本の現実だということ。それからもう一つは、こ
れはもっと重要なことかも知れませんが、住宅を造ることの意味は資産形成だけでない。
それでは何かといえば生活の幸せの拠点であるということです。つまり家庭であります。
住宅の問題を考えるときに改めて問題にならざるを得ないのは、国民の生活、幸せという
ものが何であるかということです。日本人は住宅の中で営む家庭にしっかりとした生き甲
斐というか、充実した人生観というものを持っていたのだろうかと。本当はそこの貧困が
この住宅問題の貧困に表れているのではという気がしてなりません。残念なことに我が身
を含めて反省すると、そういうことを痛切に思わざるを得ないと思うのです。だから、そ
ういうことをまず考えることからもう一回再出発しようというのが、今の住宅問題の我々
に突きつけられている問題だと思います。
浅見泰司氏
どうもありがとうございます。それでは篠原さんお願いいたします。
― 16 ―
篠原二三夫氏 ニッセイの篠原でございます。宜しくお願いいたします。色々なお話が
でてきましたので、何をお話したらよいのか分からなくなりました
が、気を取り直してマイペースでお話したいと思います。まだ子ど
もの頃、物心が付いたばかりの頃、アメリカに行った際、エアーポ
ートを車で出てすぐに、緑豊かな居住地がひろがり、中心市街地に
つながっていった記憶があります。これは何か違うところに来たと
感じた思いがありました。最近になって、つい先月もサンフランシ
スコやロサンゼルスに行きましたが、相変わらず、居住環境はやは
りすばらしいと思いました。ただし、敷地の細かい家が建ち始めたという感じは受けまし
た。住宅価格がかなり上がっているということです。アメリカの住宅価格は、ご案内の通
り近年上昇を続けておりまして、資産効果というか、担保価値が上昇したことを活用して
多めのローンに借り換えて、現金を得て消費に使うことが行われています。それが消費を
支え、アメリカの経済を支えてきた経緯があります。
〈図表 1〉
こういうことは日本ではどうなのかということについては、いろいろな価値観、見方が
あります。アメリカにおける豊かな生活が、住宅や環境の素晴らしさに加えて、こうした
家計を支える制度、優れたストックという存在があって支えられていることは確かだと思
います。私の方はこういう形で、豊かさを金額に置き換えて考えていきたいと思います。
― 17 ―
アメリカの住宅価格の高騰が随分と話題になりましたが、最近はかなり落ち着いてきて
います。最近では、図表 2 に示すように、地域で見ても住宅価格は横這い傾向にあります。
これは FRB が利子率を調整して住宅市場における価格のソフトランディングを図ってい
るためです。アメリカの場合は、日本のバブル崩壊の過程を非常に詳しく研究しまして、
へたな規制をしたら大変なことになるとよく理解しています。したがって、規制というよ
― 18 ―
りも、マクロ政策を使って、価格の誘導や調整をやっております。アメリカの住宅取得支
援措置で有名な、住宅ローン利子所得控除制度をいきなり止めてしまえば、日本のバブル
崩壊と同じことが起こると十分に理解している訳です。ストックに対する課税とか、規制
の強化は不動産市場に重大な指標を与えることが認識されたため、アメリカやイギリスで
は、その他の国も同様ですが、規制や課税については非常に慎重に考えるようになってい
ます。
次ぎに〈図表 4〉イギリスの場合ですが、やはり住宅価格 INDEX は急激に上昇しました
が、利子率調整というマクロ政策によってソフトランディングを図ったということであり
ます。次の図表 5 は OECD の資料です。もっと、いろいろな資料がありますが、すべては
掲載できませんでした。アメリカとイギリスの住宅価格は過去 10 年間ずっと上がってきた
し、アメリカの場合は 30 年以上、上がり続けている感じがしますね。ドイツは東西の統合
という日本では想像を絶するような社会経済のインパクトを受けた状況下で、価格が下が
ってきた経緯があります。日本はどうだったでしょうか。ここ 15 年間、価格は下がり続け
てきたということがこれでお分かりかと思います。もちろん、価格が下がった背景には、
今、園田先生がおっしゃったような人口動態とか景気動向とか、いろいろな要因があると
思いますが、私は税制の影響もかなり大きいのではないかと考えております。
先進諸国の中で、今、課題になっていることについて、先ほど格差という話がありまし
たが、格差が生じたとしても、所得が高い層に与えられた居住環境の良さを、さらに低所
得者層にも伝えていくという考え方があります。アメリカは世界で最も格差が高いわけで
― 19 ―
すが、重要な居住環境を整備することについては、非常に大変な努力をしております。特
に、マイノリティーの移民量は大変な水準にあります。これほど大量の移民を受け入れて
いるのは、アメリカとイギリス位かも知れません。日本ではとても考えられません。日本
の住宅政策がこれほどの移民に耐えられるかというと、まったくだめであろうと思います。
こういったところでは、こうした政策に加えて、既存の有効な制度をきちんと維持して
おります。アメリカでは、有名な利子所得控除制度が長期にわたって維持されています。
イギリスでは MIRAS という制度があり廃止されてしまいましたが、住宅の新築に対する付
加価値税については、ゼロ税率の適用ということを頑なに維持しております。これらの二
つの政策は、
アメリカとイギリスの住宅市場において、
結構なインパクトをもっています。
日本はどうかというと、バブル崩壊以降に遅れて税の重課を行い、明らかに地価が下が
り始めたのに税制をきつくしていった経緯があります。逆に、景気が回復し、地価が上昇
し出したことには敏感でして、昨今のように急に日銀や金融庁などが相当な介入をしはじ
めております。このように、日本では常に規制を念頭にして、住宅市場をコントロールし
ようとしており、これではアメリカのような長期にわたる住宅市場の安定成長はとても見
られないと思います。
次ぎに図表 6 ですが、アメリカやイギリスの住宅ローン市場の規模は、日本に比べて非
常に大きいことが分かります。横軸は、融資残高を GDP で割ったものですが、日本とかド
イツの規模は小さくなっています。こうした国々の住宅資産からの限界消費傾向(どれだ
け消費に回るかということ)をみると、住宅市場が発達していない国々の限界消費傾向は
― 20 ―
非常に低いということが分かります。したがって、こういう研究成果を見ると、日本では
いくら住宅を造っても他の国々と比べると、豊かになりにくいという話になってきます。
日本には、どこかに豊かになれない仕組みがあることになります。
今日は資料を持ってくるのを忘れてしまいましたが、住宅税制の比較がありまして、取
引税、流通税の負担が大きいところは住宅市場の効率が悪いということが研究成果として
出ています。
次ぎのスライドにいきます。ここでは豊かな住生活がテーマなのですが、このように日
本では住宅の価値とか質は維持できるのかということがあります。公庫の業務としての住
宅融資はなくなりました。その替わりに、証券化を導入し、民間金融機関のローン債権を
買い取ることによって、住宅ローン供給を促す方法に変わっています。このこと自体は、
長期固定のローン資金を無理なく調達するという点では非常に良いことだと思っています
が、利子率自体は概ね市場金利ベースになってきています。
また、所得税の定率減税がなくってしまいますし、住宅ローン減税は平成 21 年以降未定
となっています。住宅税制関係では、特例を維持するための調査委託を受けることがあり
ます。来年度税制改正に向けては、地方への税源委譲から生ずる、ローン減税の効果縮小
分を補う必要がありますが、今年度に実施した措置を、来年度にまた要望しなければなら
ないわけですが、今年度までは大丈夫だったが、来年度税制改正では同じことが通らず、
駄目かも知れないと言うような話を聞くことがあります。私の方は毎年度、税制改正に向
けた調査を受託できるので良いのですが、このようなことを、毎年毎年いつまで続けてい
― 21 ―
くのかという気持ちになります。住宅の流通税の特例措置は来年 3 月で無くなるかも知れ
ません。0.3%の登録免許税の特例です。明るい要素は、やっと景気が良くなってきたこと
や、法人税収が伸びれば、やがて家計所得も伸びることが期待され出したことです。
もう一つ、建物の価値や質が維持できるかどうかについて、根本的な課題を申し上げま
す。日本の制度では、住宅の建物と土地は、完全に分離して扱われています。税制もそう
ですし、鑑定評価でもそうですし、売買においてもそうです。分けて評価されますから、
建物価格は毎年減価してしまうことになります。一方、マンション価格は比較的一体的に
取り扱われていますので、価格の下がり方が戸建てほど大きくはないようです。賃貸住宅
の価格は収益価格によるため、一体的に価格形成が行われます。戸建て住宅では、よく言
われることですが、中古住宅の建物価値は短期間にほとんどなくなってしまうということ
です。そのよう住宅に、誰が投資するのかということが懸念されるかと思います。
価値ある住宅、そうした住宅があるからこの地域全体の価値が上がるのだというような
ことが日本にあるかというと、実はそうでもありません。アメリカは建売分譲の世界です
から、デベロッパーが相当の計画を立てて、住宅をデザインし、周辺とマッチするような
住宅を建設していますが、日本のように、注文住宅の世界では、その場所に好きな住宅を
建てればよいということになります。地域の景観に対応した住宅を建設することは、ほと
んど考えられてこなかったと思われます。従って、良い家を建てたと思っても、回りから
みるとあまり価値はないということになります。そうであれば住宅への過剰投資はやめて、
標準的な住宅を建てて、むしろコミュニティーに投資し、地域環境を改善した方が住宅価
格の維持のためには良いかも知れないという議論にもなるわけです。
というわけで、ややこしいお話で申し訳ありませんが、建物だけではなかなか豊かさは
― 22 ―
見出せないが、地域で行けば見出せる可能性があること、建物の価値を語る場合、日本の
制度では土地と建物を分けて考えることから、建物の価値だけが下がるという問題がある
ことを言いたい訳です。
浅見泰司氏
どうもありがとうございます。小林さんからは、自身のご体験からして特
にコーディネーション。コーディネーションというのは単に 1 社が頑張るというのではな
くていろんな主体が頑張って街を良くしていく、それが安全性につながるのだという話を
頂きました。園田さんからは 4 つの時代を変えていく要因というもののお話しを頂きまし
た。特に、私の記憶に残ったところでは今後は地方がお手本なのだと、高齢化社会という
意味では地方がお手本なのだということ。あるいは単独世帯がマジョリティーになるのだ
ということ。むしろ不平等が高まっていく、日本の不平等が高まっていくのだと。そうい
うようなお話しをして頂きました。吉野さんからは、日本の住宅政策の在り方としてもと
もと住宅政策ではなくて景気政策であった。だから本当の意味で、質への転換は実は図れ
ていなかったという問題提起を頂きました。篠原さんからは、特に住宅の価格についてフ
ォーカスを当てていただいたのですが、
実は日本においては諸外国と比較すればするほど、
住宅を造っても国が豊かにならない、というような構図があるのではないか。こういうこ
とをお話しいただきました。そうすると、住宅だけを見ていてもしょうがないのではない
か、というようなお話しを頂きました。
そこで、特にこの中で共通のキーワードとして出てくるのが、住宅の質ということだと
思います。実際の質というのがなかなか上がらないという、ある種のイライラ感というも
のがある。と同時に実は質を高めても本当の意味で地域の価値が上がらない可能性がある
という問題提起もあったと思うのですが、こういった質をどう今後考えていくべきかにつ
いて、何かご意見ございますか。
小林和男氏
突然ですが、皆さん、ソビエトという国が崩壊して 15 年になります。何で
崩れたと、あの国は駄目になっていったと想われますか。どなたかご意見のある方、いら
っしゃいませんか。
あの大きな大国がアッという間に崩れていきました。
何故でしょうか。
何で国力を失って、活力を失って、簡単に、いとも簡単に世の中から消えていったのでし
ょうか。これは日本の住宅事情と関係すると思うのですが、悪平等です。格差を付けては
いけないという思想で、一生懸命水準を低く、低く、労働の質も量もそうですし、ものの
質もそうです。低いところに押さえてしまいました。人間というのは、易きに流れ、低い
ところに収まってしまうと努力をしなくなります。その結果、国力を失い、アッという間
に消えてしまった。つまり、駄目な国になってしまったということです。
日本の住宅政策を見て下さい。私のところはですね、具体的に申し上げた方が宜しいか
と思いますので、私が本当に探して、探して見つけたところです。今から 30 年前に大手の
不動産会社が志を持って、開発した川崎市北部の王禅寺という地区で、戸数 800 戸ほどあ
― 23 ―
るわけですけれども、良い住宅地を造ろうということで、道路の幅は全部 6 ㍍ですからお
客さんが来てもパーキングにまったく問題はない。しかも、通り抜けは出来ません。外か
らの車が通り抜けできないように設計してありますので、非常に快適です。そして、住宅
協定で塀を立てさせないで緑にするという決まりです。違反する人もいない訳ではありま
せんが、そういうことで春に花、そして秋には落ち葉を楽しめるという良い場所になって
いますけれども、30 年経って何が起こっていると思いますか?そこで、みんな住宅を壊し
ているのです。もの凄い量の産廃です。産廃の山を作っているのです。30 年で駄目になっ
ている家です。具体的なことを申し上げると差し障りがあるかも知れませんが、それだけ
志を持って造った住宅が、実は 30 年経ったら駄目になる住宅なのです。解体されているそ
の住宅、今は非常に丁寧に解体されていますので、ガラス、窓枠、屋根と別々に取り払っ
て、非常に時間をかけて丁寧にやっていくのを見てみますと、なんてひどい材木を使って
住宅を造っているのだと。
これを考えた時に私は直ぐに浮かぶのは「これはソビエトだ」と。悪平等です。そして、
私はですね、園田先生が「日本で格差が広がっている。心配だ」ということを仰有いまし
たけれども、私は次の住宅政策のキーワードは「格差を恐れるな」だと思います。つまり、
質の良い住宅をどんどん供給する。そして水が高いところから低いところに流れるように
ですね、良いものを体験したら決して低いものには集まりませんよ。そして循環させてい
く。アメリカの場合、私はカリフォルニア州のオレンジカウンティーの住宅開発に、ちょ
っと友達の関係で関わったことがあるのですが、そこに行って驚いたのは、住宅全体の価
値を上げるためにみんなが凄い努力をします。街並み、植える樹木、屋根の色、これはう
るさいくらい。で、時間を掛けています。建売といいますけれど、私が関わった物件は 6
ミリオンですから、6 億以上の住宅ですけれども、そういうものを造って、そこに金持ち
が集まってくる。そしてその金持ちが住んでいた家というものに、また誰かが入ってきて
いる訳です。循環がある訳です。常に価値を持って、その循環をしているというのが私は
その住宅の在るべき、基本的な姿ではないかというふうに思います。
日本の場合どうだろうか。また同じ私の住宅地の例ですが、私の友人が近くに住んでい
ます。息子が一人います。その息子が、その住宅の受け取りを拒否しているのです。この
家には住めない、と。つまり、もう 30 年経ってあばら家ですよね。あばら家というのは大
袈裟ですが。アメリカに住んだ経験がある息子さんですから、状態が良く分かって。これ
はアメリカのスタンダードからすれば、もう人が住める場所ではないと。大手メーカーが
造った結構な住宅です。志を持って造ったいい家ですよ。でも、それだけ駄目になるもの
を造ってしまっている。私は次の時代に、その住宅政策の中心になるべきものは何かとい
うと、格差を尊重しようではないか、そしてそれを循環させていく形を作っていかなけれ
ば、私はいつまでたっても日本の住宅は全体として貧弱でマッチ箱とからかわれてしまう
ようなものになってしまうのではないかと心配します。これは皆さんの利益につながって
いくことになりませんでしょうかね。
― 24 ―
それから先ほど、消費税の問題が出て参りました。私の娘がロンドンにいて、今から 13
年前にロンドンで住宅を取得した体験があります。確かに消費税は払っていません。ゼロ
だといいました。しかし、その建物はフラットですけれども、150 年前のビクトリア朝時
代の建物です。そして、契約書を見るとなんのことはない、99 年のリースなのです。だか
ら、消費税はあり得ないわけです。借りたのですよ、99 年間。ですから私はどう考えてみ
ても、今日、専務理事の挨拶の中で「消費税が 5%でとどまるように運動を続けていかな
ければならない」という、確かにその気持ちは分かるのですが、私は日本人の感情からす
るとですね、住宅だけ 5%にとどめて、あとの品物に対して 10%に上げるということは、
私は、政治家もやらないし官僚も絶対やらないと。しかし、その住宅に対して消費税を掛
けていないという国のことを考えてみた時に、その住宅というのはほぼ永久なものなので
すよね。消費ではないのですよ。ドイツにしたってそうですし、イギリスは勿論です。そ
のことを考えると、やっぱり私は消費税、それは確かに気持ちとしては住宅業界の皆さん
が、その問題に固執することは分かりますけれども、もう少し長い目で見て質の良い住宅
を、子供が引き取りたいと思うような住宅を造っていくことが私はこれから求められる日
本の住宅政策ではないかというふうに思います。何か、野党にいちゃもんを付けるようで
すけれども、格差を尊重しようではないかと、それが日本のこれからの住宅地、価値を上
げていくひとつのきっかけになっていくと思います。ソビエトという悪平等の国が力を失
った姿を見てきた私には、どうも日本の住宅政策、住宅の現状というのは、その崩れたソ
ビエトの二の舞をやっているような気がします。
浅見泰司氏
どうもありがとうございます。格差を恐れるなというのは、なかなか今ま
でにない重要な提言かと思います。恐らく、格差を恐れるなという中には、実は住宅を耐
久財にしましょうと、消費財にするのではなく、耐久財にしましょうと。それによって、
次々と良い住宅が他の家庭に移っていくということが出来るのではないかと。それをしな
いで消費してしまうと、結局、格差を恐れるなと言うことを大胆に言えなくなるというこ
となのかなぁと思って伺いました。他の方、何かどうぞ。
園田眞理子氏 私が決して格差があるのが悪いと言っている訳ではないのですが、その
もう一つ前に問題があると思っています。
それは、築 30 年の家がどんどん壊されていくという現実です。とっても良い住環境のと
ころで、住宅が壊されていくというのは、本当は 30 年前にもっと良い質の家をキチンと造
っていれば何も問題はなかったはずです。そこで、もし、もう一回だけやり直しがきくの
だとすると、これからどうするのかということが今日のテーマかなぁと思います。
そういう意味で小林さんのお話が示唆に富んでいたと思います。住宅や住環境の質をど
う考えるのかという問題です。私たちは今まで住宅の価値イコールその経済価値、吉野さ
んのお話しで言えば、それが儲かるのか、儲からないのかというところで判断してしまっ
― 25 ―
ていたということが、かなり大きな問題としてあると思います。
そういう意味で、貨幣価値に還元できないと、価値がないとか、あるとか説明できない
わけですが、例えば、本当に自然が豊かだとか、近所付き合いがすごく活発だとかの価値
をもっとみんなが共有化できるような、そんな仕掛けが出来ないかなぁと思います。
もう一つは、篠原さんのお話を伺って思ったのですが、あまりにも私たちは制度に合わ
せすぎたというか、制度にぶら下がって、
「こうやればよいのではないか」「ああやればい
いんではないか」と、売る方も買う方もどうも考えすぎたのではないかと思います。それ
は、高度成長期に国全体で良くなるぞ、良くなるぞと、ちょうど今の中国みたいな感じで、
すごくみんなの目的意識が強く、はっきりしていた時には良かったと思うのですが、そう
した時代はとっくに終わってしまっている。80 年代以降、もっと言えばバブルが崩壊して
以降、実はどこに私たちの目的を見出していいのか、分からないままに、景気刺激策のよ
うなところで、制度がどんどん変えられて、それに何とか合わせてというところの綻びが
今、行くところまで行っちゃったと。そういう意味で言うと、制度そのものを、もう一度、
消費税なども含めて根本的に考え直して見てはどうかと思います。
― 26 ―
「これからの住宅政策のあり方」を問う
浅見泰司氏
どうもありがとうございました。そろそろ 1 時間くらい経ってしまいまし
たので、パート 2 に入りたいのですが、これからの住宅政策の在り方、既にもうご発言、
一部頂いていると思います。そういうところはカットして良いと思います。今後の住宅政
策の在り方について、ご発言していただきたいと思います。
吉野源太郎氏 先ほど篠原先生のパワーポイントで出てきた話の中に、非常に重要なポ
イントがあると思うのですが、日本の資産デフレは都心を除くとまだ続いているという事
実です。これは住宅政策を考える上で、さらに日本人の人生観と先ほど私、申し上げまし
たが、これからの生き方を考える上で非常に重要なポイントだと思います。住宅に対する
需要は今も衰えていないけれど、その中身がかなり変わっているのだろうと思うのです。
どういうことかと言えば、かつての土地神話が生きていた頃、地価は右肩上がりの一方で
した。そういう時には住宅を求める人たちの頭には、住宅の建つこの土地を手に入れれば
資産価値は将来必ず上がると、ちゃんとヘッジされているのだ、考えた訳です。そのリス
ク管理が住宅取得の前提になっていた。
ところが、今は違う。今は誰が見ても、ローン返済期間の 10 年、20 年、30 年の間土地
が上がり続けると信じる人はいなくなった。にもかかわらず住宅を求めていると、どうい
う問題が起きるのか。これは大変に重要なポイントだと私は思っています。やや強引です
が、どういう人が、どういうように住宅を手に入れるかのモデルを考えて見ました。そう
すると、30 歳で年収が 600 万円そこそこ、普通よりも少し高いかも知れませんが、そうい
うケースについて政府は年収の 5 倍が住宅の取得価格の標準だといいます。それは今の都
心では到底叶わない話ですが仮にそう言えたとします。すると、年収 600 万の人なら 3,000
万、3,500 万ぐらいの住宅ということになる。500 万円を頭金だとして、3,000 万円をロー
ンで借ります。ここから大事なのですが、今は大変な低金利です。しかし、30 年の間に金
利が上がらないというのは絶対にあり得ない。で、30 年間の平均の金利を奇跡的に 5%で
抑えられたとする。多分、無理だと思うのですが、5%に抑えられたとして、エクセルで計
算をしてみますと、返済の総額が 5,855 万円になる。だいたい 6,000 万円。つまり 3,000
万円借りると 6,000 万円返す。これは世の中でいわれている常識を裏付ける話ですが、そ
れは 5%の金利を想定していっている訳ですね。その 6,000 万円返す際に日本人は、給料
が上がっていくだろうと漫然と考えている。だからローンを借りるのです。ところが、ど
うも昨今、給料は上がらないかも知れない。重要なポイントは今から申し上げる話です。
例えば 600 万円で 30 年、3,000 万円のローンを組んだとします。そうしますと、この 600
万円の方の 30 年間の総年収は、乱暴な計算をすると税金を別として手取りで 1 億 8,000
万円になります。1 億 8,000 万円のうち、住宅ローンの返済に関わるものは 6,000 万円。
常識的にいって保険とかメンテナンスには金利と同じくらいかかる訳ですから、そうする
― 27 ―
と 9,000 万円。つまり年収、人生の総年収額の半分を住宅に費やしているということにな
る。これはどういうことなのか。逆算すると実質的な年収は 300 万円ということです。今
日のどこかの新聞にも出ていましたが、格差が開いて下の方は年収 200 万円台だと書いて
ある。200 万円台を格差の下の方だというのが日本の社会です。ところが 600 万円で住宅
を買うと、殆どその 300 万円、今いわれている格差の下の方、その人たちに近づいてしま
う。このモデルはまだ 30 代の人ですからこれから子供を大学に入れなくてはいけない。教
育費がかかる。老後の蓄えをしなくてはいけない。一体どうやったら可能ですか。こうい
う話が日本の住宅問題の本当の本質だと私は思うのです。
経済財政諮問会議はこの間、「これからの目標は住宅、住居に縛られない人生設計であ
る」と高らかに格調高く謳い上げた。まったくごもっともだ。だけど白々しい。縛られざ
るを得ないのです。住宅問題というのは、日本人を殺してしまいかねない。職を失ってロ
ーンを払えなくなった方の多くが家を出てしまうと聞きます。中には自殺に追い込まれる
方もいる。つまり住宅が家庭を殺してしまう。こんな国はあるのだろうかと、私は思うの
です。悲しい国に住んでいると思います。
人生設計の基本に住宅問題がある。そう考えると日本は非常に危ういところに来ていま
す。何故なら超低金利の時代がいよいよ終わりを告げようとしているからです。今後、ど
んどん金利は上がっていくだろう。地価も上がっていく可能性もありますが、それは東京
都心や名古屋だけの話です。土地が頼りにならないとなると、ローンの中身、住宅の価値
といわれているものの中身は土地ではなくて、住宅そのものだという話が段々あらわにな
ってくるはずです。これは大変なことです。実態は 30 年間もたない住宅です。あるいは仮
に良心的なメーカーがいて、30 年以上もつ住宅を売っているとして、これからも、そうい
ったものが増えていったとしても、日本には流通市場というものがない。住宅が売買され
た流通量全体のうちアメリカでは 76%が中古です。イギリスは 88%、フランスが 76%。
それに比べて日本は 11%しかない。つまり日本の住宅流通市場というものは、全く無いに
等しい。こういうところで、仮に良い住宅を手に入れたって、そんなものは宝の持ち腐れ
という話になってしまう。リストラされたらしょうがない。二束三文でたたき売るしかな
い、そういう話です。これが「幸せな国なのか」と思います。
こういうところから本当に見直さないと豊かな国なんて来るはずがない。
さらに言えば、
企業も変わりつつあり、終身雇用制度が根幹から揺らぎ始めている。そうすると 30 年のロ
ーンを組む、組んだのはよいけれども 30 年間も勤められる保証はない。一体どうすればよ
いのか。その答えを見つけるには日本の住宅問題の根幹をひっくり返して考えて、全部制
度を洗い直して見るしかない、と私は思うのです。
年収 300 万円というのは、アメリカのホワイトカラーの平均の年収です。彼らはそんな
悲壮な覚悟で住宅を取得しようなどと考えてはいません。つまり、人生に関わる、あるい
は生活に関わる日本のコスト体系というものを組み替えない限り、この問題をどうやって
いじったって、結局、壁にぶつかる。私はそこまで問題が来ているのだろうと思っている。
― 28 ―
ですから、新しい総理のいうように「美しい国」になるには、この問題を解決しないとど
うにもならないでしょう。しかし、即効薬はないから、ここで解決策を示すわけにはいき
ませんが、そういう厳しい問題に日本人は直面していることだけは間違いない。
浅見泰司氏
どうもありがとうございます。住宅の財政的な状況を組み替えなければい
けない、そして家計が所得などが不安定な状況でも豊かな生活を送れるようにしないとい
けないということなのですが、それでは篠原さんお願いいたします。
篠原二三夫氏 また、どうお話したらよいか落ち込んでしまいましたが、マイペースで
いきたいと思います。パート 2 ということですが、消費税と住宅投資の推移について、か
なりミス・リーディングな図を作ってしまいました。
〈図表 7〉一番上の緑の線が住宅投資
でございます。平成元年のところでいきなり棒グラフが出ていますが、ここで消費税 3%
が導入されました。平成 9 年から税率は 5%となりました。棒グラフは、消費税の総税収
に対する住宅からの消費税の割合を描いています。ミス・リーディングと言うのは、税率
が5%になったときに、住宅投資が矢印のようにかなり落ち込んで、5%の消費税収が逆に
大幅に上がっているところです。これではあたかも増税がすべての理由のようですが、そ
うではありません。しかし、経済の要因が非常に大きかったということはあるのですが、
デフレの中で税率がアップされたわけですから、消費税の増税は悪いという意味では絶妙
なタイミングであり、結果として、かなり住宅投資の落ち込みを助長したという感じがし
ます。これは別に消費税の増税だけではなく、非常にタイミングが悪かったのです。
そして、棒グラフ(消費税の総税収に占める住宅からの消費税の割合)の動きをよくみ
ていただくと、これは試算したものですが、増えておらず、逆に縮小しています。ようす
― 29 ―
るに、消費税率をアップしたのですが、住宅投資からくる消費税収は、構成率から見ると
上がっていない。実際には税額としては上がっているものの、構成率は下がっているとい
うことであります。従って、住宅には他の財と違って特殊な状況が起きているということ
と考えています(住宅投資が減ることや、駆け込みによって構成率はむしろ下がってしま
った)。
もう一つ、ミス・リーディングなのは、一番右
側のところで、消費税 8%、消費税 10%の部分に
ついて、消費税収の線を延長している部分です。
青線は地方税ですけれども、上の方は国税を含め
た消費税額です。これらが大きく跳ね上がってい
ます。こんなに極端に変わってしまう。そういう
中で、住宅投資の方は単純に延長しただけで、し
っかりした推定をしていないのですが、実際の市
場ではどうなるかということが大いに気になるところでしょう。税収がこれだけ大きく変
化するのですから、経済、産業の全般にわたって、相当の影響があるということは伺える
でしょう。
次の図にいきます。これは海外では手を替え品を替えというと、
「出羽の神」と揶揄され
ることがありますが、どうしても、比較したくなる事情があります。図表 8 では、主要国
における付加価値税の比較というものをやっています。最初に基本制度の部分からみます
と、アメリカの場合は不動産取引に対する消費、付加価値税というものはありません。小
売税はありますが、これも住宅にはかかりません。どこかではかかるのではないかと、か
― 30 ―
なり調べましたが、どの州や地方自治体でも、住宅取引に小売税がかかることはありませ
ん。日本の税率は一桁で、EU に比べると軽いと言われます。フランスの付加価値税の標
準税率は 19.6%、
ドイツは 16%ですけれども来年から 19%になります。
イギリスは 17.5%
です。
次の図をお願いいたします。
〈図表 9〉それでは、住宅についてはどうかということです。
日本は建物に対しては新築であれ、中古であれ 5%が掛かります。中古については掛から
ないと思われるかも知れませんが、これは課税業者ではない個人が取り引きするからかか
らないだけであって、業者が売買すれば中古住宅にも消費税はかかります。
フランスは新築なら土地も含めて 19.6%がかかりますが、中古ならかかりません。ただし、
流通税の 4.89%がかかります。例外もありますが、基本的には付加価値税と流通税の併課
は避けています。
ドイツでは新築、中古ともに住宅取引についての付加価値税はかかりませんが、流通税
として 3.5%の負担があります。
イギリスでは新築住宅の取引は非課税ではないのですが、仕入れ控除が可能なゼロ税率
が適用されるという形になっています。住宅購入者からみれば、実質的に非課税というこ
とです。事業者などの企業にとっては仕入れ控除が可能になります。これがもし非課税で
すと仕入れ控除が出来なくなりますので、納税分について、事業者は価格に転嫁して消費
者に負担してもらわないとまずいことになります。転嫁できない市場であれば、自分が損
― 31 ―
をするということになりかねません。しかし、ゼロ税率なら、その他の取引もあるでしょ
うから、全体として仕入れ控除ができるため、事業者の負担になることはありません。そ
のほかには土地印紙税というものがありますが、これは新築でも中古でもかかりますが、
普通の住宅、例えば 25 万ポンド(約 5,750 万円)までであれば、1%程度の土地印紙税の
負担で済みます。12 万ポンド以内ですと、これは低所得者向けの施策ですが、非課税とな
り流通税も一切掛かりません。
日本の場合は消費税が建物で 5%ということですが、流通税のうち、登録免許税 0.3%が
本則の 1%あるいは 2%まで戻ると、結構、負担は大きくなります。少なくとも現状でもイ
ギリスよりも流通税の負担が大きいことは確かです。19.6%という税率を付加価値税とし
てかけているフランスでも、住宅改修工事については、
労働集約型産業ということで、5.5%
の軽減税制を設けています。あのフランスですら軽減税率を設けざるを得ない分野がある
のだということが重要なポイントです。
次の図をお願いいたします。
〈図表 10〉アメリカの住宅税制は実に羨ましいものです。
金持ち優遇という批判を受けながら、住宅ローン利子控除が維持されていまして、ほとん
ど縮小しておりません。若干の縮小はありますけれども、さしたるものではありません。
毎年 600 億ドル、7 兆円を超えるような規模の支援が持ち家に対する利子所得控除制度に
よって行われています。加えて、地方税である不動産税(日本の固定資産税)を連邦取得
税から控除できるようになっており、賃貸住宅と同様に扱われています。
住宅の譲渡における非課税措置は日本でもありますが、アメリカでは単身で 25 万ドル、
夫婦共同で 50 万ドル(6,000 万円)までカバーされています。
イギリスはどうでしょうか。先ほど申し上げたように流通税は低くて取引に有利である
ため、中古住宅取引はアメリカ以上に盛んです。住宅に対する付加価値税がゼロ税率とい
― 32 ―
うのはかなり決定的です。標準税率 17.5%の世界の中でゼロ税率ですから、かなり相対的
に住宅は支援されていることになります。
次の図をお願いいたします。
〈図表 11〉カナダ、豪州ということですが、カナダはこれ
まで 15%の税率でしたが、今年の 7 月から 1%引き下げ 14%となりました。財政的に回復
したということで、素直に引き下げています。日本はいったん増税したら、下げることが
あるでしょうか。なさそうに思われます。付加価値税率は住宅に対しても 14%ですが、住
宅を買いますと、最大で 7,560 ドルの「リベート」を税務当局は返還してくれます。昔の
大蔵省時代に、このことを説明したら、
「それはあり得ない。それは多分、住宅を担当する
省からの補助金だろう」と言われました。当時、大蔵省は「カナダの税当局がリベートと
して返すのはおかしい。絶対ない」と言ったのですが、カナダの制度の理解に間違いはあ
りません。このリベートによって、実効ベースで、2.3%位の軽減措置になります。
豪州の場合は税率 10%ですけれど、
導入時に合計 17,000 豪州ドルの補助がありまして、
今は 7,000 ドルになっています。当時、豪州の財務省は、導入時に多分住宅需要は 2.3%
低下するだろうという予測を行い、こうした補助金を設けたものです。このような財務省
の存在は日本には考えられないでしょう。
イタリアの場合は、標準税率 20%ですけれど、住宅取引には住宅の内容によって 4%及
び 10%の軽減税率があります。豪華なものは 10%ですけれども、社会住宅という公営住宅
のようなものは 4%です。スペインは 16%ですが、新築住宅には 7%の軽減税率がありま
す。
EU の場合、軽減税率は最大 2 種類で、5%以下にはしないという、5%以上ならいいわ
けですが、標準税率は 15%以下にしなさいというガイドラインが設けられています。中古
― 33 ―
にも課税しないということになっています。それから、住宅の改修工事など、労働集約型
産業には軽減税率の適用が認められています。労働の提供が主な産業の売上げは実質的に
賃金ですから、これに付加価値税を掛けたら、まずいということだろうと思います。
さて、このような主要国の状況があるなかで、政府税制調査会の中には「日本では二桁
の消費税にならなければ、
軽減税率など考える必要がない」
と言われる方もおられました。
国会の議論でも、そのようなことが言われてきました。どうもその点は、良く考える必要
があります。まず、軽減税率は主要国にも存在している訳ですし、5%から 8%位の範囲内
で使われています。このことを真剣に考えなければいけません。その国の市場において、
ある水準の軽減税率でないと社会経済が回らない可能性がある、特定の分野には必要とい
うことを我々の先輩たちである主要国は示唆してくれている訳であります。従って、簡単
に二桁にならないと何も考えてはいけないという意見はあまりにも乱暴ということです
(一桁の税率下であっても、相対的に負担が増えると困る産業もある)
。
次の図表に移ります。
〈図表 12〉消費税を導入すると何が問題になるかということです。
この図には消費税 3%が導入された 89 年と 5%にアップした 97 年を示してあり、住宅着工
の実績値と消費税の導入が過去になかった場合の住宅着工予測をモデルによって試算して
います。この予測と実績の差をみれば、導入時と増税時にかなりの着工駆け込みがあると
いうことが分かるかと思います。消費税を導入し、増税すると、必ず駆け込みが生じて反
動が生まれます。このことによって住宅市場における中期的な需給のバランスが壊れてし
まいます。先ほど、景気対策という話がありましたが、駆け込みによって住宅需要が一次
― 34 ―
的に増えても、反動が生じて、後でとんでもないことになります。こうした経験を持った
ことから、駆け込みを期待するという姿勢は業界にはなくなったはずです。逆に、こうし
た大きな変化のために、雇用の調整ですとか、設備投資についてかなり負担がかかったと
いうお話を聞きます。
それから、次の図をお願いします。
〈図表 13〉これはカナダの住宅価格の推移(インデ
ックス)ですが、消費税導入によって、かなり明確な駆け込みと反動が生まれたことが分
かります。カナダでは土地に対してもかかるため、土地需要にも大きな駆け込みが生じま
した。91 年の 1 月に付加価値税が導入される前に大きな駆け込みがあり、その後、反動に
よって 7~8 年ほど、
住宅価格は横這いを続け、
最近になって上がってきたということです。
このように、駆け込みと反動が、経済に非常に大きな影響を与えるということです。
次の図をお願いします。
〈図表 14〉それでは、どうしたらこのような駆け込みや反動が
ないようにできるかということです。こういえば怒られそうですが、少しずつ課税すれば
良いということです。取引時点で住宅に消費税を一括して課税すると、本来は住宅に居住
するというサービスに対する毎年毎の課税を、取引時点で一括して負担することになるわ
けです。
これが一般の消費財と違う点でして、
住宅は取引時の消費で終わるわけではなく、
長期に渡って、居住者に住宅サービスを提供し続けるということをご理解ください。した
がって、そうしたサービスに対し、毎年課税すれば、負担は少ないのですが、将来の分も
含めて、取引時点で一括して課税しているのが現状です。
初期住宅価格を 3,000 万円として、50 年間、日本の住宅は維持可能だろうという前提で
計算しました。図のように、単純に 60 万円ずつ住宅サービスが毎年提供されることになる
― 35 ―
わけですが、毎年の住宅の減価分も考慮し、それに対して毎年消費税がかかるものとしま
した。その消費税額は、その時点の金額ですから、今、課税されるとして、現在価値に置
き換えて、50 年間分を合計すると、当初の消費税 150 万円に対して、50 年間の住宅サービ
スに対する消費税の現在価値の合計は 30 万円ぐらいになります。これは、元の消費税 150
万円の 20%という水準です。これもミス・リーディングな計算でしょうか。
これを日本の住宅はもっと短期しか持たないということで、計算してみると、10 年では
現在価値で 67 万ぐらいになりまして、150 万円の 44%くらいになります。約半分くらいま
でくるということですね。20 年にするとその間ということになります。ここに住宅取引に
は軽減税率を導入すべきという、主張が生まれることになります。
難しい議論ですが、長く保つ住宅を造る負担は少なく、保たない住宅なら負担は大きい
ということになるのかなという、議論も出てきます。
一方、この住宅を賃貸した場合、家賃の方に消費税がかかったとしましょう。これはま
さに毎期の住宅サービスに課税するということと同じです。日本では家賃には課税されて
いませんが、ここでは仮に課税されたとして計算しています。賃貸住宅なので、しっかり
修繕もやり、家賃更新も 2 年で 2%ずつ見てあげて、それに対して消費税を掛けたらどう
なるかということです。この家賃は土地も含めた不動産も全体に対するものなので、調整
しますと、だいたい建物分で 74 万円ぐらいの現在価値となります。簡単に比較してはいけ
ないのですが、150 万円に比べて 5 割位になります。
家賃から逆算して資産価値を求めると、建物価格をみると、1 千数百万円になるので、
概ね計算が合うような気がします。賃貸住宅経営をきちんとやって、良い住宅を維持し、
家賃という分かりやすい住宅サービスの額を使っていくと、将来の消費税と現在の消費税
― 36 ―
とが一致することになりそうです。しかし、持ち家の場合は、帰属家賃と言っているので
すが、自分で買って住んでいるために、毎期の家賃が非常に低いことになるし、自分で住
んでいるわけですからメンテをしなくても納得できる。そういう状況で、消費税をかける
と、相対的に、現在の消費税の負担はかなり大きいということになります。逆にいうと、
多分、持ち家の方が初期段階で質が良い住宅であり、高い税を負担しているのに対し、賃
貸の方は質が悪いために、それほど負担していないということかも知れません。
簡単な試算ですが、非常に分かりにくい結果となり、どう結論付けしたらよいのか分か
らないのですが、これだけの試算では説明できない部分が相当あるということかと思いま
す。
ただし、
少なくとも持ち家についていえば消費税を取引時に一括して取られることは、
住宅サービスに対して課税すべきという前提からすれば、取られ過ぎという感があるとい
うことです。こういった資産に対する課税は消費という観点から見て、住宅サービスにつ
いてのみ課税するのであれば、5%ではなく、さらに低い軽減税率を適用されても良いとい
うことになります。毎期、毎期に課税すればよいのですが、それは実務的になかなか難し
いということであれば、期初の段階で例えば消費税率が 10%に上がったとするならば、住
宅取引には軽減税率として 5%を適用するという措置が適切ではないかと思う訳です。
次ぎに住宅政策の在り方ということですが、建物の質を高めるということであれば、土
地建物の課税が分離され一体に出来ないことから、私は土地だけに対して、流通税や固定
資産税を課すという方が合理的かと思います。
逆に、土地に対して固定資産税をかけると、
逆にコミュニティーの質が悪くなるという見方もありますが、課税分がしっかりコミュニ
ティーに還元されるという仕組みがあれば、コミュニティーの質は高まることになるかと
思います。この場合、住宅の建物の資産に固定資産税は課税しないのですが、そこから出
るサービスについては付加価値税を課税してもよいかと思います。賃貸住宅の家賃にも課
税することになりますので、みなさんに怒られるかも知れませんが、賃貸住宅家賃に課税
する場合には、持ち家に対する課税も、将来の住宅サービスに課税する分の現在価値とい
う考え方が正当化されます。実は日本でも、導入時は、賃貸住宅の家賃にも課税していま
したが、その後、賃貸経営者が家賃への課税によって仕入れ控除ができるようになり、益
税が発生するというような状況などが生まれ、非課税になった経緯があるようです。
事業用の賃貸オフィスなどの賃料に対しては消費税がかかりますが、デベロッパーは不
満を言っていません。むしろ、そのほうが初期の建設費を仕入れ控除できるので都合が良
いという感じです。したがって、住宅業界と不動産業界全般の姿勢も、消費税については
やや異なっており、私もやや困っています。私のスタンスとしては建物に固定資産税など
の課税をやらないで、消費税については将来の住宅サービスの現在価値に対してかけると
いうものです。実務的には難しいので、軽減税率を導入するか、別途に負担を相殺する支
援策を講じる必要があるということです。
住宅政策はご案内の通り少子化対策とか、介護政策といったものと整合的な重要な政策
でして、
厚生省が住宅政策をやっていた時代があったわけですから、
こうした状況に対し、
― 37 ―
不整合である、
財政事情しか配慮しない、消費税の単純増税は非常に安易かと思われます。
それから、例えばやや飛躍した話ですが、年金との関係もあります。誰も既に破綻して
いる年金なんか信用していないということもあります。国債にしか投資していなかったら、
国民の資産は国の経営に左右されてしまいます。アメリカでは公的年金ですら、分散投資
を重視し、1974 年の ERISA 法導入以来、株式投資がうまくいかない時には、不動産にも投
資するなど、資産変動に対するリスクをヘッジしてきました。日本はそれをやっていませ
んから、
過去15年間、
景気が悪くなったら年金も危ないという懸念が高まってきました。
そうした状況で、一般の家計が唯一できたのは住宅不動産投資であり、それによって自ら
リスクヘッジを行ってきたということになります。そのような住宅資産に対し、消費税を
増税するのは、どういったものなのかと思われてなりせん。消費税の増税は、いろいろな
政策との矛盾を来すことになり、不合理性を感じざるを得ません。
そういった観点から消費税の増税の話に対しては、
しっかり議論していく必要があるし、
資産デフレがようやく落ち着こうという状況ですから、住宅税制、不動産税制についても
今でこそ抜本的に見直す時期であると思う訳です。
浅見泰司氏
どうもありがとうございました。それでは園田さんお願いいたします。
― 38 ―
園田眞理子氏 先ほど吉野先生が、住宅が国を殺してしまうとおっしゃった瞬間シーン
となっちゃいました。実は、今日、ゼミとして若い学生をここに呼んでいますので、20 代
前半の彼らのために明るく前向きにいってみようと思います。
とはいいながら、まず認めましょう。実は、私たちは 20 世紀後半に仕掛けられた住宅の
貧困の罠にはかかってしまったのです。でも、大丈夫です。全員でかかったから。一人だ
けかかったのなら大問題ですが。
「住宅の貧困の罠」
と最初におっしゃったのは東京大学の
野城先生なのですが、先生は短寿命の住宅が膨大な環境負荷、要するにゴミをつくって、
借金の山を築く。これが、さっき小林先生がおっしゃったドンドン壊されて心配ですとい
うところなのです。ですけれども、私は実は罠はそれだけではなかったと思います。私の
考えたところの罠では、皆頑張って 35 歳頃に住宅を買うわけです。30 年ローンを払って、
「いよいよリタイアだぞぉ」という時に、この住宅が盤石であったらよいのですが、実は
家はボロボロ、老後はあと 30 年という有様です。自分が先か、家が先かという、まあ、そ
ういう状態にさらされているわけです。でも、皆さんは、本当は住宅を良く管理されてい
るのです。手入れもされているのです。しかし、今、日本の住宅の中古市場では良い管理、
良い質の住宅であっても、ただ築 30 年だというだけで市場が評価していないという大問題
があるわけです。
高度成長期の、
まぁ私よりチョット年齢が上の方々ですが、
「この住宅に投資しておけば
将来安心だ、備えになるのだ」ということで、頑張ってそこに投資してきたのに、最後の
最後になって、
「ゴメンナサイ。それはあまり価値がなかったのです」と言われれば、これ
― 39 ―
は罠と言わずして何というのか。そういう意味では、裏切られたとしか言いようがない。
しかし、これは 20 世紀の罠ですから、私たちはこの罠から一刻も早く脱して、本当に良
い住環境を目指したいと思うわけです。これから、こうした罠をなくすためには、
(今、お
話しのあったことと関係するのですが)良いメンテナンス、質が評価される住宅にする。
その住宅に対して消費税というのはおかしいですよね。消費してしまったら、もう無いじ
ゃないですか。例えば、現行の消費税 5%も、私は考えたのですが、安全税とか環境税と
すると、みんな納得するのかなぁと。構造偽装問題もありましたが、
「きちんと住宅を安全
なものにするために貴方の税金が使われるのです」とあれば、あるいは「良い環境をつく
ることに使います」というのであれば払うかも知れない。あるいは、反対にそういったこ
とに頑張った人に対しては、あとでいろいろ社会的にかかる負荷がその人の頑張りによっ
て軽減される訳ですから、それは十分に減免というか減税してもしかるべきではないかと
思います。住宅に消費という言葉、言葉尻を捉えているようですが、そぐわない。こうし
た考え方を変えていくだけで随分と違いがあるのではと思います。
2 つ目は、先程来、あまり打つ手が無いというお話しもあったのですが、そうは言って
いられないので何かしないといけません。私は今一番ボリュームがあるのは若い人ではな
くて中高齢者ですから、そこからエンジンをかけたらどうかと思っています。それはどう
いうことかというと、高齢者の今の住宅資産を使ってですね、ドンドン住み替えていただ
く。あるいはリフォームしていただくのも良いと思うのです。そこのところのエンジンが
かかると、そういう方たちの古いけれども良くメンテされた、古いけれども緑が大きくな
― 40 ―
ったものが出てきたところに、若い方が住み替わる。先程来、30 年ローンが若い人が本当
に組めるのかというお話しがあったのですが、だったらリスクの低い中古住宅を安いお値
段で買う。あるいは賃貸で借りるという、そういう活性化をしていったらどうだろうか。
歳をとった人が大きい住宅を持て余していて、一方で若い人が小さい住宅で一生懸命子育
てしているという、そういう住宅規模のミスマッチみたいなことも、相当解消できるので
はないかと思います。
そうすると、今日もたくさん来ていらっしゃるハウスメーカーの方の仕事が無くなるの
ではないかという心配をなさるかも知れませんが、そうではないと思います。私は、一旦
中古住宅に住んで頂いて、そこで建て替えていただくというのも、果報は寝て待てという
作戦もあるのではないかと思います。
なぜ、そういうことを申し上げるのかというと、ショックだったのですが、本当に緑が
たわわになって、一緒に行った学生が「先生、軽井沢のようですね」と言った住宅地が八
王子にあります。不動産の販売会社に入ってチラシを貰ってビックリしたのですが、60 坪
の更地の土地が 2,800 万円でした。40 坪の家が付いていると 2,880 万円だったのです。た
った 80 万円しか違わなかったのです。
ということは、一度、
中古住宅に住んでいただいて、
十分にそこがどうかということを見極めていただいた後の新築需要というものが出てくる
と思うのです。
何かそういうふうに考えることによって、今、循環型市場と書きましたが、相当今まで
の市場と違ってくるのではないかと思っています。その時に、税制も出番だと思います。
例えば、今までの住宅に関するいろんな税というものは、新築優遇です。また、若者優遇
です。ローンを組んで買う人にはローン減税が有りますが、中高齢者は先々ローンも貸し
てくれないかも知れないし、蓄えで買うわけですからローン減税の対象にもならない。ロ
ーン減税をやるなら、中高齢の人たちの住み替え優遇税制をやれば、マスとして大きいわ
けですから、反対に相当の経済効果があるのではないでしょうか。
それからアメリカでも行われている売却益非課税の制度です。歳をとった方が住み替え
る時の売却益は確かにありますけれども、それを思い切って「ご苦労さまでした」とあげ
てしまっても良いのではないか。また、持ち家から賃貸住宅に移り変わるときには、そう
いった売却益減税は、
一切受けられない違いがある。その辺りを変えていくことによって、
循環型市場の実現が期待できるのではないかと思っています。もう一つは、先ほど明るく
いくと言ったのですが、ちょっとショッキングな言い方をすれば、都市の荒廃が起きてい
るわけです。さっきお話しした八王子の住宅地なのですが、お父さんに「お帰りなさいパ
ーティー」を、市をあげてやっています。何かというと、来年から団塊の世代がドンドン
とリタイアするからです。
「お父さんお帰りなさい。貴方の経験は、地域の財産」というこ
とです。その住宅地に行きますと、本当に遊び場に子供が人っ子一人居ないのです。シー
ンとした住宅地になっている訳です。本当に良い住宅地が、活力を持って持続できるよう
に何か良い方策はないものかと考えます。ここに例えば共働きの若い人が住みなさいとい
― 41 ―
ったら、都心に通うのはやっぱり無理です。しかし、この近くにすごい能力の高い女性の
働く場所があって、子育てをしながら、車で通勤できて、子供のことで何かちょっとあっ
た時に自由に行き来できる。そういうふうに考えると、もう一回働く場所を本当にどこに
作るのか、今、都心回帰、都心回帰といわれていますけれども、本当に郊外にこそ、のん
びりと、きちっと働けて高い所得の得られる働き場所を配置したらどうか。一方、車中心
のままだと、
特に車の運転が出来なくなった高齢者にはなかなか辛いところがある訳です。
ですから、そういう高齢者の方々はまち中に帰っていただいて、ここは子育ての方々に十
二分に使っていただく。そういう世代間流通というようなものが出来ないものかと思った
りします。
もう一つは地方の問題です。地方のまち中問題は、90 年代終わり頃からいろいろ行われ
てきた訳です。しかし、今やシャッター街です。これからは、むしろまち中居住をもっと
真剣に考えないといけない。90 年代後半、商業中心に再興を考えてきた訳ですが、本当は
住む人を戻さないともう駄目です。私が、もし地方の首長さんだったら、三位一体改革で
地方にいろいろな税源とか権限が委譲されるのであれば、郊外部からこういうまち中に移
転するような人を優遇します。あるいは緑を甦らすということに対してグリーンクーポン
みたいなものを配ってもいいです。
この写真は、山形県の某市なのですが、今年の冬にたくさんの雪が降りました。1 ㌔の
道を除雪するために、
ものすごいお金がかかり、
市の財政をすごく圧迫させているのです。
― 42 ―
― 43 ―
そういうことを考えると、本当にお金の使い方をどういうふうにしたら自分たちにとって
良いのかということを、きちっと考える必要がある。タックスペイア、タックスを払って
いるのは市民ですから、その使い道まで考える責任が市民にはあります。
だから、まち中居住なのですが、まち中居住というと、どういう訳か郊外型のマンショ
ンがスコーンと建ってしまう。しかも、人口 10 万ぐらいとかそんなところでは、2 つか 3
つまではけっこう勢いよく建つのですが、そこでピタッと止まってしまうのです。どうし
てかなぁと思うのですが、実は私たちの日本の居住文化にあったはずのまち中居住の遺伝
子が、実はほとんど失われてしまっているのです。よくよく考えたら、近世の町家まで帰
るか、戦前の同潤会アパートまで遡るしかない。そこまでいかないとまち中でどういうふ
うに住むかという、原型がないのだと思います。皆さん、パリは素敵だったとか、ドイツ
の小さな街は素敵だと出かけられる訳ですが、今こそまち中に住むということを、空間の
イメージを合わせて考えてみる必要がある。何かそういうものを再提案していけば、やっ
ぱりここに住みたいという若い人やお年寄りも出てきて、まちは賑わいを取り戻すかもし
れない。今回の住生活基本法というのは、量から質、質からさらにということで、働くこ
ととか、子供を育てるとか、あるいはお年寄りにとって本当に豊かな老後を過ごすことが
できる、そういう空間を実現するということも課題だと思っています。どうでしょうか。
多少は明るくなりましたでしょうか。
浅見泰司氏
どうもありがとうございます。何か少し光が見えてきたかなぁという感じ
がいたします。園田先生のお話を伺っていて、
「なるほどなぁ」と思ったことが御座います
が、今まで日本では中古市場は貧困であると。住宅が安くしか評価されないので、なかな
か中古市場に良いものが回っていかないということを嘆いていたのですが、むしろ逆手に
とって安いということを上手く使って、安いということで、
上手くパッと取得しておいて、
暫くは当座を凌いでその後でそこを再生していく、ゆっくりと再生していく。そういうの
も実は現実的なのではないかということをおっしゃった訳ですが、なかなか「なるほど、
そうだなぁ」という感じもします。そういった意味で、もしかすると今後の住宅政策の在
り方というものも、中古市場で安いということをあまり敵にしないで、むしろ安いという
ことを上手く使ってですね、そしてその間、育てていって、最終的には中古市場が育った
形の国にしていくのが一つの在り方なのではないかという感じがしました。
住宅の貧困トラップという話を最初にされまして、これは実際、我々が高齢になったと
きになかなか銀行はローンなどで相手にしてくれませんから、ローンを借りられない。
しかも、住宅はボロボロになったと。という悲惨な状況も確かに目に見えるところも御座
います。これと、先ほど園田先生が高齢化ということで、実は地方は、高齢化は終わって
いるのだと。むしろ都市部で今後高齢化がどんどんと進むのだという話がありましたが、
そうするとある意味で高齢社会の一つのお手本が地方にあるということをおっしゃいまし
た。但し地方をお手本にする時に、貧困トラップというのが、地方では何か解決されてい
― 44 ―
るのか、あるいはそこが解決されていないので別な手だてが必要かですね、その辺りを教
えていただけますでしょうか。
園田眞理子氏 私も地方で高齢化が終わったということを最近気が付いたのですが、そ
ういう意味でいうと、お手本は地方にあるといいましたが、その意味は反面教師という意
味合いが強いと思います。地方の全部が全部駄目ではないのですが、上手くいっているの
は非常に少ないわけです。90 年代、バブルのピークの時からこの 10 年、小泉さんが登場
されるくらいまで、実は地方に相当なお金が注ぎ込まれたのです。だけれども、今の状況
に至ってしまった。高齢化率だけで見れば高齢化の問題は終わったとも言える訳ですが、
私がお手本は地方にあると申し上げた意味は、多くの疲弊する地方のようにならないため
に、できれば都市部が地方を助け、お手本を示せるように、皆さん何とか頑張りましょう
という意味だったのです。
浅見泰司氏
ありがとうございます。もう一つ、税制についてですね、特に住み替え優
遇ですとか、中古市場を発達させるために税制を上手く使ったら良いのではというお話し
が御座いました。税制について言及されていました小林さん、あるいは篠原さん、何かご
意見ございますか。
篠原二三夫氏
先ほど小林さんの方からオレンジカウンティーの話が出ました。そこの
アーパインという所に 4 年ぐらい前に住団連の皆さんと、アメリカの住宅流通が盛んな理
由を見てこようと、ミッションを組んで行ったことがあります。素晴らしい住宅地なので
すが、新しい所はよいのですが、古い所には廃れた場所もありました。王様の開発といわ
れた一筆の土地の開発なので、日本に比べれば楽勝のはずですが、その中でも開発コンセ
プトの違いによって、地域に差がでているわけです。非常に住宅というのは難しいし、維
持していくことも大変難しい感じた訳です。
その際、三井ホームの赤井氏がミッションの代表でしたが、彼に中古住宅を流通させて
良いのですか、
皆さんは新築住宅を造りたいのでしょうとお聞きしました。アメリカでは、
中古住宅取引は 500~600 万戸もあるが、新規は 170 万戸位しかない。日本も同じような比
率になったら困るのではないですかとお聞きしたわけです。赤井氏は、「新築住宅を造った
って、それがその後流通しないようなものだったら仕方がない」と明確に言われました。
その点は、立派な考え方であるなと感じました。
実は、彼が指摘したのは古くからある理論なのですが、専門的にはフィルタリング効果
と言いまして、高い住宅を造ってそれが段々と中古として価格が下がり、低所得者の人も
買えるようになっていく。このプロセスによって、人々は優れた住宅に住み、良い生活が
できるのだということです。このフィルタリング効果がなぜ発揮されずに、アメリカで発
揮されているのかということが、大きな論点なのです。
― 45 ―
アメリカは持ち家市場ですが、賃貸もないわけではありません。ただ、貸家率はそんな
に高くありません。持ち家率は今 7 割位になっていますが、マイノリティーまで持ち家を
持つようになると、全体の持ち家率はやがて 8 割にもなってしまうかも知れません。しか
し、アメリカでは、そうすることによって、住民が地域に定着し、しっかり家を管理し、
世帯主として地域に貢献し、アメリカの経済も社会も安定する。これこそ持ち家政策の重
要性だと言われています。このためには、フィルタリング効果が効くようにしなければ、
質がよくて(古くても)
、安い住宅が市場に供給され、いろいろな人たちが購入できるよう
になりません。そのフィルタリング効果が発揮されている一番の理由は税だと思われるし、
融資も重要です。消費税はかからず、流通税も低い。譲渡益課税は実質的にかからないと
か、住宅取得の負担が利子や地方税の所得控除によって軽減されているなど、かなりの配
慮がなされています。課税の条件において、中古も新築の違いもなく、同等の扱いを受け
ています。日本は、かつてはそうではなく、新築だけが特に優遇されていた時期がありま
した。今は変わりつつありますが。融資も先ほど、日本の住宅市場は発達していないとい
う話をしましたけれども、
イギリスやオランダなどでは、
住宅ローンは非常に多様でして、
破綻した人でも住宅融資を受けられるための制度などもあります。これは公共ではなく、
民間がつくった制度です。それほど、あちらの市場は進化しており、多様な融資商品があ
ります。私も詳しくは見ていませんが、高齢者が住宅融資を受けられる制度とか、三世代
的融資とか、いろいろなローンのメニューがありますが、ブローカーがいて、どういう商
品なのか十分な情報を説明してくれます。いろいろな階層や立場の消費者が、安心して借
りることができるような制度があり、日本とはかなり状況が違っています。
そういうことで、フィルタリング効果が発揮できるような方法を税制や融資などを導入
していけば、日本でも大きな改善が期待できると思います。
それと、住宅の仕様自体にも改善が必要です。アーパインに行ったとき、いろいろな住
宅をみて、日本でも今では導入されているホーム・インスペクションなどの実態も見学し
ました。ちょうど、ホーム・インスペクションをやっている際に、インスペクターが「こ
の家は 100 万ドルで売りたいと言っているが、60 万ドル程度でしか売れない」言っており、
その理由を聞いたところ、廊下の両脇に本棚を造ってしまうなど、特殊な住宅になってい
るためだということでした。元々のレイアウトによるツーバイフォー住宅だったら 100 万
ドルで売れただろうが、いじくりすぎたからだめなのだというわけです。つまり、アメリ
カでも、一定の規格による流通しやすいような住宅でないと再販は難しいということにな
ります。日本では持つことが目的で、売ることは考えておらず、終の棲家を得るのがライ
フワークでしたから、そうした結果の特殊な中古住宅は売れにくく、価値がないのかもし
れません。
浅見泰司氏
ありがとうございました。どうですか。
― 46 ―
小林和男氏
大袈裟でも何でもなくて、私は住宅産業に携わっている皆さんの双肩に日
本の将来がかかっているというふうに考えています。それは何かと言いますと、少子化の
問題です。何故、若い人たちが子供を作らないのだと、先ほどお金だけではないよという
お話しもありましたが、フランスではこの 5 年間、合計特殊出生率が 1.90 をずうっと上回
っています。日本はご存知のような惨憺たる状態ですけれども、そんなこともあって今年
の春にセーヌ川の河畔を少し視察してきたのですが、それで分かったのは、やっぱりこれ
は住宅に関係有りです。ゆったりとした住宅、そして素晴らしい住環境、周囲と環境です
ね、そういうものが一つ大きな、私はフランスが何で出生率が回復してきているのかいう
ことの中に大きな原因があるだろうと私は勝手に推測をしてきました。そんなに推測が当
たっていないわけではないだろうというふうに思います。
今、フィルタリングの話が出ましたが、私は是非ともですね、マーケットに乗って持ち
主が次から次へと代わっていくような住宅を考えてマーケットに乗せて頂きたいと。30 年
で息子も拒否するような住宅では、私は日本の将来に関わる少子化問題にも、皆さんの責
任が生じますということだと思います。
それともう一つ、簡単に申し上げますと住宅と設備です。老後の住宅問題、2007 年問題
の話が出ましたが、お金を持っている年輩の方々のお金を吸収するためにも、その人たち
が本当に楽しめる住宅を考えて見る必要があると思います。私のところは2回目に造ると
きに居間全部をホームシアターにしました。テレビも映画もオペラも 100 インチの大画面
で見ることができます。その結果、毎日家に帰るのが楽しみです。そういう知恵と組み合
わせていけば、私はたったひとつの例ですけれども、高齢者のお金を吸収する大きな要因
になるのではないかと考えます。話が細かくなりましたが。
浅見泰司氏
ありがとうございます。今、楽しめる住宅というお話しをいただきました
が、実際、生活していくうえで、地域で楽しめることは重要なことだと思うのですね。先
ほども、
吉野さんから地域の中での家造りが重要だというお話しを頂いたのですけれども、
具体的にどういうことをしていくと地域の中での住まいづくりにつながっていきそうかと
いう、何かヒントがあればお教えいただきたいのですが。
吉野源太郎氏
最近、中心市街地活性化とかコンパクトシティというテーマが脚光を浴
びていますが、私はそれにちょっと疑問を持っております。先ほど申し上げましたように
マンション、
あるいは新築住宅の面積がどんどん狭くなっています。
その中身を調べると、
悲惨なのですね。いろいろメーカーの方が工夫をして、トイレの幅を狭くしてみたり、削
るところを削る。削るところが無なくなるとリビングダイニングを削るわけです。これは
どういうことかと言えば、一家で集うスペースが無くなってももういいということです。
子供は飯を食ったら直ぐに自分の部屋に帰ってしまうのだからいいよという話かもしれま
せん。私は、最初は老人夫婦が都心に帰ってくるから、だからそういうようになるのかな
― 47 ―
ぁと思ったら、そうではないのです。
やっぱり、これは家庭の崩壊という現象とどこかで通じるものがあるのではないかと思
います。家庭の在り方というものを根底に据えなければ、国も地域も建て直しが効きませ
ん。今の都市計画には先ほど景観法の話をしましたが、その他にもいろいろなツールがあ
りまして、例えば地区計画だとか、建築協定だとかを使うとこの地区にはこういう家以外
は建ててはいけない、というような取り決めが可能です。もちろんそこに住んでいる人の
総意でそういうことをやらないといけない訳ですが、考えてみればその前提は住民の発意
というか、熱意ですから、それを実現しようという地区の皆さんの意志が問われます。本
当の民主主義というものは、そこが根底にないといけないのではないのでしょうか。住宅
問題というのは人生に差し迫った動機になり得ます。それを巡って地域の人たちが自分の
家庭の在り方まで真剣に考えて、踏み込んだ街づくりというものを話しあっていくことを
通じて、どこかに脱出する道が僅かな手がかりとしてあるのではないかと思います。
あと一言付け加えますと、何と言っても国の怠慢をここで改めなくてはいけない。先ほ
ど消費税の話もありましたが、住宅減税額を住宅予算に見立ててみますと、それの予算歳
出額に対する比率というのは、アメリカは 6%です。日本は 1%弱ですね。ヨーロッパの国
はすべて 3%ぐらいです。この政策の貧困というのは、政治の姿勢だと私は思います。こ
の問題に国がしっかり取り組むこと、それから一方で国民が地域に根づいた街の在り方、
人生の在り方というものを考えるということを通じて、自分たちの孫子の代に何とかまと
もに住める豊かな国を作ろうと目指せば、希望は持てるのではないでしょうか。
浅見泰司氏
どうもありがとうございます。そろそろもう時間が来てしまったので、今
日の議論をまとめさせていただきます。1 つ重要な点というのは、住宅というものを耐久
消費財、本当は消費財といってはいけないのですね。耐久財として的確に維持し、あるい
は改修し、使っていくと。そういったことが必要なのだろうと思います。
それがひいては健全な中古市場ですとか、あるいはフィルタリング機能といったものが
働く社会になっていくのかなぁと思います。それから、中古市場についてですね、むしろ
今、安いのだということを上手く使って、今後の市街地を造っていくという方法もあるの
ではないかというヒントを頂きました。これはもしかすると、今後、皆様方のビジネスに
つながるところがあるのかなぁという感じがします。また、その税制についても、中古、
実際には最近、既存住宅というのですが、既存住宅を優遇していくような税制の在り方も
必要ではないかというお話しもありました。あと実際に住宅を造っている方々に対しては、
少し住宅の規格化ということも考えた方が良いのではないか。アメリカのようにですね。
規格化ということを考えることによって、流通もしやすくする。これも非常に重要な工夫
なのかなぁというお話しもあったと思います。
全体を通じて私が感じますのは、そこで生活される生活者を考えた住宅づくり、あるい
は生活を考えた住宅地づくり、こういったことをすることによって、削りたいところをド
― 48 ―
ンドン削るというような在り方ではない住宅生産の在り方が、最終的には我々を豊かにす
るのではないかという感じがします。以上、いろいろな議論を頂きまして、ありがとうご
ざいました。以上をもちましてパネルディスカッションを終わりにしたいと思います。ど
うもありがとうございました。
― 49 ―
あとがき
わが国の住宅の量は、昭和 40 年代には「一世帯一住宅」を実現し、これからは質の時代
であると叫ばれて久しい年月が経ちました。その間には、住宅の性能や設備機器の著しい
進歩はありましたが、先の阪神・淡路大震災では、多くの家屋が倒壊したり、姉歯事件の
ような耐震偽装問題もありました。
また、少子高齢化・人口縮減社会の到来、環境問題、居住形態の変化等住宅を取り巻く
環境も多様化してきました。
そのような状況の中で「住生活基本法」が成立し、豊かな住生活の実現に向けて 4 つの
基本理念が示されました。この理念を実現していくには、行政・国民・業界が連携協力し
努力していかなければ、
「仏作って魂入れず」となりかねません。国民一人ひとりが自分た
ちの問題として理解できる情報の公開性も大切であろうし、いじめ問題が多発している中、
もう一度住まいを通して家庭について考えることも大事な時期ではないでしょうか。そこ
で皆さん、
「住まいとは、私達にとって何であるか?」自問自答してみてください。
ところで、大切な住いに消費税がかかることを知らない方が、私どもの調査では 20%位
いらっしゃいました。住宅は、人生で最大の買い物であり、一生に一度の買い物と言われ
ますように、直面しないと気づかないことは致し方ないことかもしれません。
然しながら、ご自分で住宅を建てる段になったとき、消費税のお金があれば、あれも出
来る、これも出来る、ローンも少なく出来る等々と夢が膨らみます。住宅に、消費税が本
当に必要なのでしょうか。皆さんのご意見をお寄せ下さい。
http://sumai.judanren.or.jp/syouhizei/
最後に、シンポジウム参加者アンケートをご紹介しますのでご参考にしてください。
□総来場数
241 名
アンケート回答数
140 名
□住宅の消費税引き上げについてのアンケート
1.そもそも住宅に消費税がかかるのがおかしい
75 名(53.5%)
2.住宅取得は特別で、現行の 5%のままがよい
41 名(29.3%)
3.他の財と同じで、住宅取得についても引上げてよい
12 名( 8.6%)
4.わからない
12 名( 8.6%)
〈お問い合せは〉
社団法人
住宅生産団体連合会
〒105-0001
東京都港区虎ノ門 1 丁目 6-6 晩翠軒ビル 4 階
Tel 03(3592)6441
― 50 ―
Fax 03(3592)6464
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