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口顔指症候群の1例 - J
小 児 耳Vol.14,No,1,1993 原 著 呼 吸 不 全 と徐 脈 発 作 を繰 り返 した 口顔指症候群の1例 越 智 文 子,安 原 昭博,東 野 博 彦,荻 野 廣 太郎,小 林 陽 之助 (関西 医科 大 学 小 児科) Oral-facial-digital syndrome respiratory Ayako Ochi, Akihiro Yasuhara, type II: An infant failure Hirohiko with repeated and bradycardia Higashino, Hirotaro Ogino and Yohnosuke Kobayashi Department of Pediatrics, Kansai Medical University, Moriguchi, Osaka A 2-month-old male infant with oral-facial-digital syndrome (OFD-II) presented laryngeal anomalies and syndactyly of the left foot. The following malformations were observed: hypertelorism, broad nasal bridge, micrognathia, cleft soft palate, glossoptosis, lobulated tongue and hypertrophic oral frenula and syndactyly of the left foot. The child was hypotonic and hyporeactive and presented a horizontal nystagmus. During the course of his hospitalizations, he presented frequent apneic spells with cyanosis, prolonged episodes of shallow and rapid breathing, respiratory distress, sleep apnea and bradycardia. Laryngeal hypoplasia and glossoptosis were demonstrated on computed radiography, and he underwent an elective tracheotomy. Although growth and neurological development had been severely retarded, neurological development after tracheotomy was much improved. 1は ・死 産 の 既 往 は な か った じめ に 口顔 指 症 候 群 は,分 葉 舌 ・口腔 粘 膜 索 状 小 帯 な ど の 口腔 内 奇 形 と,幅 広 の 鼻 根 部 ・眼 間 解 離 ・小 顎 症 な どの 顔 面 小 奇 形 と,指 趾 奇 形 を 特 徴 とす る 遺 伝 性 奇 形 症 候 群 で,1∼y型 Thurston型,Varadi型,Whelan型 分 類 さ れ て い る1)。1型 で あ っ た 。 患 児 は 第3子 。 両 親 の染 色 体 は 正 常 で あ る 。 第1子 患 児 とほ ぼ 同 様 の 奇 形 が あ る が,染 XYと 正 常 で あ っ た 。 第2子 には 色 体 は46, は18ト リ ソ ミー で お よび の7型 に の 患 者 は 女 性 の み でX 連 鎮 性 優 性 遺 伝 で あ る の に 対 し,皿 型 は 男 女 両 方 に み られ る2)。 口腔 内 奇 形 と小 顎 の た め,哺 乳 障 害 や 呼 吸 障 害 が あ り,乳 児 期 に 死 亡 す る例 が 多 い3・4)。 今 回,呼 吸 不 全 と徐 脈 発 作 を 繰 り 返 し た 口顔 指 症 候 群 皿型 の1例 を 経 験 した の で 報 告 す る。 皿 症 患 児=2ヵ 例 主 訴:無 月 の 男 児(図1)。 家 族 歴:両 呼 吸 発 作,呼 吸 困 難,チ ア ノーゼ。 親 に 血 縁 関 係 は な く,健 康 で,患 出 生 時,父34歳,母31歳 児 で あ った 。 母 親 に流 一78一 図1患 児 の 顔。 幅 広 の鼻 根部,眼 間 解 離,小 顎 症 な ど が 認 め られ る。 小 児 耳Vol.14,No.1,1993 生 後3ヵ 月 時 呼 吸 不 全 で 死 亡 した 。 現 病 歴:患 児 は,在 身 長48cm,頭 胎36週,出 張 低 下,口 生 体 重2,636g, 経 過:入 チ ア ノ ー ゼ,呼 で あ っ た 。 出 生 時 か ら筋 緊 蓋 裂,小 顎 症,左 認 め た(図3)。 プ ガース コァは 囲32cmで,ア 1分4点,5分8点 dBHL)を 足 第2・3趾 の合 院 後,ミ た め,ミ ル クの 経 口哺 乳 時 に,徐 脈, 吸 抑 制 を き た す こ とが 判 明 した ル クの 経 口哺 乳 を 中 止 し経 鼻 栄 養 に 変 更 して 退 院 した 。 しか し,そ れ 以 後 も呼 吸 不 全 指 症 に 気 付 か れ て い た 。 生 後40日 に 心 房 中 隔 と徐 脈 発 作 の た め 合 計8回 欠 損 ・貧 血 が 認 め られ 外 来 で 経 過 観 察 して い た し た 。 生 後4カ が,生 し無 呼 吸 状 態 とな り,入 院 した 。 気 管 内 挿 管 し 後2ヵ 月 時 に 感 冒 様 症 状 と と も に,経 口哺 乳 時 に 徐 脈,無 呼 吸 発 作,チ ア ノーゼ を認 め た た め 入 院 した 。 入 院 時 時 現 症=分 成,小 顎 症,眼 梁,左 足 第2・3趾 下,水 平 性 眼 振,1パ 間 開 離,幅 蓋 裂,唇 小帯 の過形 広 の 鼻 根 と低 い 鼻 の 皮 膚 性 合 指 症,筋 緊 張低 圧度 の収 縮 期 心 雑 音 が あ り,全 身 チ ア ノー ゼ,陥 没 呼 吸 を 認 め た 。 検 査 所 見:血 液 生 化 学 検 査 で は 呼 吸 性 ア シ ドー シ ス が あ っ た 。 染 色 体 核 型 は46,XYで 部CTス 月 時 に は,夕 キ ャ ソで,脳 梁 欠 損,小 間 後 に,呼 月時 には ミ 吸 停 止,徐 脈を きた し,気 管 内挿 管 し呼 吸 管 理 を 施 行 した 。 生 後7ヵ 月 時 に は 睡 眠 時 無 呼 吸 発 作 の ため 気 管 内 挿 管 を し て 呼 吸 管 理 を 行 っ た 。 生 後10ヵ 月 時 に は,夕 方 か ら陥 没 呼 吸,顔 色 不 良,四 肢 冷 感 を 認 め 呼 吸 不 全 の た め 入 院 した 。Computed radiography(図4)に て 舌 根 沈 下 と下 顎 低 形 あ った。 頭 脳 虫 部欠損 が 証 明 さ れ た(図2)。 脳 波 は 正 常 で あ った 。 ABRで 延 長(刺 は 両 側 の1波 方突然意識消 失 て 呼 吸 管 理 を 施 行 し た 。 生 後6カ ル ク を 飲 ん だ1時 葉 舌,口 の 入 退 院 を 繰 り返 激 閾 値 は55-65 図3患 児 のABR。 両 側 と も1波 の 延 長 を 認 め る。Lは 左 側 記 録,Rは 右 側 記 録,L-stは 左 刺 激,Rrst}量 右 刺 激 を示 す 。 図2頭 部CT。 る。 脳 梁 欠 損,小 脳 虫 部 欠 損 が 認 め られ 図4Computedradiography。 上 気 道 の 閉 塞 を 認 め る。 ↓は舌 根 沈 下 に よる気 道 閉 塞 部 位 を 示 す 。 一79一 小 児 耳Vo1.14,No.1,1993 成 に よ る 上 気 道 の 閉 塞 を認 め,舌 OFD症11型 の前方 固定術 に認 め られ る 主 な 理 学 的 所 見 は, を 施 行 した と こ ろ 呼 吸 状 態 は著 明 に 改 善 した 。 分 葉 舌,舌 しか し,糸 の緩 み の た め 呼 吸 困 難 を 再 発 し,生 正 中 唇 裂,中 後11ヵ 月 時 に 再 度 舌 を 前 方 固 定 した と こ ろ 呼 梁,眼 吸 は 改 善 した 。 しか し,歯 肉か ら糸 が は ず れ て 湾 曲,皿 しまい 手 術 の効 果 が あ った の は 短期 間 で あ った。 な どで あ る。 こ の うち 本 症 例 で は,分 1歳 時 に 感 冒 症 状 と と もに 次 第 に 呼 吸 困 難 が 増 蓋 裂,唇 強 し,徐 脈,無 広 の 鼻 根 と低 い 鼻 梁,左 呼 吸 が 出現 した た め 気 管 内挿 管 し呼 吸 管 理 を 施 行 した 。 今 度 は舌 と下 顎 を ボ タ ン で 固 定 す る 手 術 を 行 っ た 。 し か し,睡 SaO2が30%に 舌 根 沈 下 を 抑 鯛 で き て い な か っ た た め,再 挿管 を 必 要 と した 。 舌 固 定 術 で は これ 以 上 の 改 善 を 望 め ず,1歳1ヵ た 。 術 後,動 月 時 に 気 管 切 開 術 を施 行 し 作 が 活 発 に な り,表 情 も豊 か に な った 。 体 重 増 加 は 順 調 で 筋 力 も増 し,急 速 に 発 達 遅 滞 も改 善 して い る。 皿 考 例 を 最 初 に 報 告 し,Claussenが 候 群(以 に4人 下 の兄 弟 そ の家 族 を 追 候 群 と し て 確 立 した5)。OFD症 の 遺 伝 的 異 質 性 はRimoinとEdgertonに て 指 摘 され,2群 びThurston型,Varadi型,Whelan型 age&Psaumeの OFD症lr型 心 疾 患,呼 はX連 間 開 離i,幅 足 第2・3趾 の皮膚 性 天性 音 性 難 聴 な どが あ る2)。 1波 潜 時 の 延 長 お よび 刺 激 閾 値 の 上 昇 が 認 め ら れ,伝 音 性 難 聴 が 存 在 した 。 ま た,OFD∬ は 口腔 内 奇 形 と小 顎 の た め,哺 型 乳障 害や呼 吸障 害 が あ り,呼 吸 器 系 の 易感 染 性 も加 わ り,乳 幼 症 例 の呼 吸 障 害 は, 所 見か ら中枢性 の呼吸 障害 は否 ッ ク ス線 写 真 や 臨 床 症 状 か ら上 部 気 道 の 閉 塞 が 原 因 と考 え られ た 。 呼 吸 状 態 の 悪 化 の た め に 最 終 的 に 気 管 切 開 を行 った が,気 管 切 開後 は 呼 吸 状態 や神 経 発 達 が 良 好 とな っ 考 え られ る症 例 で は,よ ∼5万 人 に1人 り早 期 の気 管 切 開 を 考 慮 す べ き で あ る と思 わ れ た 。 参 考文 献 1) Toriello HV: Heterogeneity and variability in the oral-facial-digital syndromes. Am J Med Genet Suppl 4: 149-159, 1988. 2)有 賀 正,太 田 文 夫,太 川 詔 夫:Mohr℃laussen症 と言 わ れ て い る5)、 五型 は 比 較 的 まれ で 約30例 OFD症1型 吸 障 害,伝 の7型 候 群 皿型)の が 報 告 さ れ て い る に過 ぎ な い5)。 皿型 とy型 は さ ら に まれ で,数 葉 否,口 本 症 例 は 心 房 中 隔 欠 損 が 存 在 し,ま たABRで が 最 も 多 く,Papi110n-Le- … 報 告 以 来4万 顎 症,眼 尺側 緊 張低 下 の そ の 他 の 特 徴 と し て,先 およ に 分 類 され て い る が1),本 症 例 は この う ち の 豆 型 と思 わ れ る 。1型 柱 側 蛮,筋 た 。 本 症 例 の よ うに,上 部 気 道 の 閉 塞 が 原 因 と よっ の 疾 患 単 位 に 分 類 さ れ た2)。 臨 床 像 の差 異 と遺 伝 的 異 質 性 か ら1∼y型 広 の 鼻 根 と低 い 鼻 側 多 合 母 趾,V指 小 帯 の 過 形 成,小 定 的 で あ り,エ と略)はMohrが1941年 顎,両 一W指 の 合 摺,脊 児 期 で の 死 亡 率 が 高 い.本 察 跡 調 査 し,症 間 解 離,小 脳 波 やABRの 口 顔 指(Oral-facial-digita1)症 OFD症 切 歯 欠 損,幅 槽 隆 起 不 整, 合 指 症 が 認 め られ た 。 眠中 低 下 す る こ とが 多 く,睡 眠 中 の ・唇 小 帯 の過 形 成,歯 例 報 告 が あ る の み で あ る1)。 鎖 性優 性遺 伝 で患 者 のほ ぼ 全 例 が 女 性 で あ る の に 対 して,豆 型 は 男 女 双 方 に み られ る 。 ∬型 は 男 女 比 が1.7で 常 染 色 体 劣 田 八 千 雄,長 工例 。 小 児 診 療45:498-501,1982. 3) Silengo MC, Bell GL, Biagioli M, Franceschini P: Oro-facial-digital syndrome II. Transitional type between the Mohr and the Majewski syndromes. Report of 2 new cases. Clin. Genet. 31: 331-336, 1987. 4) Haumont, D. & S. Pelc: The Mohr syndrome: are there two variants? Clin. Genet. 24: 41-46, 1983. 5)梶 井 正,黒 木 良 和,新 川 詔 夫:口 群 皿 型Oral-facial-digitalsyndrometype皿.先 性 遺 伝 と考 え られ て い る。 形 症 候 群 ア ト ラ ス:68-71,1990. 一80一 谷 直 樹,新 候 群(Orofaciodigita1症 ・顔 ・指 症 候 天奇