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情報社会論II 第1回 イントロダクション
情報化社会論II 第6回 インターネットの倫理問題 東邦大学2003年秋学期講義 2003年11月14日 Agenda 前回の授業内容の復習 インターネットの倫理問題 3つの倫理理論 インターネットをめぐる倫理的問題 倫理的問題を難しくするインターネットの3つの特 徴 まとめ 前回の授業内容の復習 インターネットの本格的普及は、インターネッ トが商業化された1990年代以降。 爆発的普及のきっかけは、インターネット接 続機能が内蔵されたWindows95の発売 (1996年)。 前回の授業内容の復習 インターネット利用者数は、約6900万人 ( 2002年末現在)。 インターネット接続可能な情報機器の普及率 は、都市部で高く、地方では低い傾向にある。 携帯電話の契約者数は、約7566万人。携帯 電話インターネット契約者数は約6216万人 (2002年末)。 前回の授業内容の復習 2002年度末ブロードバンド回線契約数は、約 913万件。 急激に価格が低下していることが、ブロード バンド回線契約数急伸の一つの要因だろう。 前回の授業内容の復習 ブロードバンドインターネット普及によって、法的問 題・倫理的問題が生じつつある。 インターネット普及初期(1994∼1996年)には、コ ンテンツ規制が問題となった。 一部の人々だけの問題だった知的財産権侵害問題 が一般の人々にも身近なものとなりつつある。 電子商取引や電子自治体の普及、電子カルテなど 個人情報の電子化によって、プライバシー保護とセ キュリティ対策の必要が高まっている。 インターネットの倫理問題 3つの倫理理論 インターネットをめぐる倫理的問題 倫理的問題を難しくするインターネットの3つ の特徴 本日の参考書:Deborah Johnson『コン ピュータ倫理学』(水谷雅彦・江口聡監訳 2002年 オーム社) 3つの倫理理論 功利主義(utilitarianism) 義務論(deontology) 徳倫理学(virtue ethics) この質問にあなたならどう答えるか? なぜうそをついてはいけないか? 功利主義者ならば、たとえば、 うそをつくことを許すと、その結果として人々の信頼を 損ない、社会全体に悪影響があるから。 義務論者ならば、たとえば、 うそをつくという行為自体が悪であるから。 徳倫理学者ならば、たとえば、 うそをつくということは、その人が正直という徳をもた ないことであり、不正直という悪徳を有しているから。 3つの倫理学理論は どこに注目しているか? 功利主義・・・ 義務論・・・ 行為の結果(帰結)に注目している。帰結主義 (concequentialism)という立場の一種である。 行為そのものに注目している。 徳倫理学・・・ 行為者に注目している。 功利主義 代表的哲学者:J. Bentham, J. S. Mill 行為の結果(帰結)に注目。帰結主義 (concequentialism)という立場の一種である。 行為のよしあしは、幸福に対する功利性(utility:経 済学的は効用と訳される)によって決まる。 結果が自分によいか悪いかではなく、ある社会全体 にとってよいかどうかが問題である。 最大多数の最大幸福(J. Bentham,”The Greatest Happiness of the Greatest Number” ) 功利主義における功利性の理解 内在的価値(intrinsic value)と道具的価値 (instrumental value) 内在的価値・・・そのものが目的であるような価値。 功利主義では、幸福(happiness,well-being)とさ れる。 道具的価値・・・ほかの価値の手段となるような価 値。 功利主義における功利性の理解 功利主義においては、内在的価値=幸福を実 現・促進するために、ある行為の結果がどれだけ 役立つか(どれだけ功利性があるか)を問題とす る。 結果として、最大多数の最大幸福を実現する行 為が正しい行為である。 功利主義に対する批判 人によって幸福は異なるのではないか? 人間はすべての帰結を見通すことができるのか? 異なる質の幸福を合算して、幸福の総量を計算できるの か? 倫理学を経済学に変えてしまうのでは? 費用・便益計算(calculation of cost-benefit) 最大多数の最大幸福を実現するが、不正な行為はないか? 功利主義においては、幸福の総量のみが問題で、その配分は問題 にされない。 少数の人間を奴隷にして、多数の人間の幸福を促進することによっ て、最大多数の最大幸福を実現できるのではないか? 行為功利主義と規則功利主義 行為功利主義(Act-utilitarianism) 最大多数の最大幸福を実現するような行為を行 うべきである。 規則功利主義(Rule-utilitarianism) もしすべての人々がしたがうならば長期的に幸福 を最大化するような規則が採用されるべきである。 義務論 代表的哲学者:I. Kant 義務は義務ゆえに遂行されなければならない。 定言命法(後述)としての義務。 道徳的存在としての人間を重視する。 人間の行為は自然法則によって完全に決定されるので はなく、自分自身を統御する能力がある。 合理的能力があるゆえに、人間は道徳的存在となる。 人格を目的として扱い、決して手段として用いては ならない。 奴隷的労働と合意に基づく雇用契約 カントの義務論 道徳の命令:定言命法 仮言命法「もし∼ならば、∼せよ」 定言命法「∼せよ」(義務は義務ゆえに遂行されるべき) 定言命法の2つの形式 自然法則の方式:「汝の行為の格律が、汝の意志によっ て、あたかも普遍的自然法則となるかのように行為せよ」 目的の方式:「汝自身の人格にある人間性、およびあらゆ る人格にある人間性を、つねに同時に目的として使用し、 けっして単に手段として使用しないように行為せよ」 権利(rights) 道徳的主張や行為を権利にもとづいて正当 化することもよく行われる。 義務論と結びつけて理解されることが多い。 義務論・・・人間はそれ自体目的として扱われる。 権利・・・・・扱い「に対する権利」がある。 消極的権利と積極的権利 消極的権利 他人の行動を制限する権利。 ∼されない権利。Ex.殺されない権利。 積極的権利 他人の行動を要求する権利。 ∼される権利。逆に言えば、われわれは他人に 対して∼する義務があることになる。 消極的権利よりも議論が多い。 徳倫理学 代表的な哲学者:Plato, Aristotle ギリシア語の徳(arete)ということばは、卓越性を意 味した。 PlatoとAristotleの問い 「よい人とは何か」 「よい人となることにかかわる徳は何か」 徳のリスト:勇気、博愛、寛大、正直、寛容、自制な ど。 よい性格・特質と、習慣の涵養を重視する立場。 インターネットをめぐる倫理的問題 コンピュータ/ネットワーク専門家の専門家倫理 クラッキング/ハッキング プライバシー 所有権とソフトウェア 責任の拡散 表現の自由 民主的価値とインターネット などなど・・・(『コンピュータ倫理学』の目次から) 専門家倫理 (professional ethics) 倫理綱領(Code of Ethics) 専門職団体が規定している、専門家がしたがう べき行為規範。 専門家が社会に対して、われわれは専門的知 識・技術を悪用しないと宣誓する形を取る。 (おそらく)最古の専門家倫理:ヒポクラテスの誓 い 倫理綱領はなぜ必要か? 専門家は専門的知識・技術によって、きわめて大きな力を もっている。 倫理綱領を有することによってみずからの社会的責任を果 たす。 社会全体に対して、専門家としての個人の責任認識を表明し、専門 家として一般に承認される倫理的行動の原則を述べることで、ブラッ クボックス化している技術的つぃ機を社会に対して悪用することがな いことを証明する。 各会員個人が、とくに組織内で倫理にもとる行為を要求されたとき、 それに抵抗する根拠として参照することを可能にする。 土屋俊「情報技術者の職能倫理−「情報処理学会倫理綱 領」を中心に」『情報倫理学』(ナカニシヤ出版、2000年) 倫理綱領の例 情報技術関連学会・協会の倫理綱領の例 ACM Code of Ethics IEEE Code of Ethics http://www.standardsamericas.net/portal/index.jsp?pageID= corp_level1&path=about/whatis&file=code.xml&xsl=generic. xsl 情報処理学会倫理綱領 http://www.acm.org/constitution/code.html http://www.ipsj.or.jp/gaiyo/ipsjcode.html 電子情報通信学会倫理綱領 http://www.ieice.org/jpn/about/code.html インターネット利用における 自己責任論は妥当か? 自己決定の根拠は? インフォームドコンセント 生命倫理において確立された、意思決定の倫理。 医師は十分に患者や患者の家族に情報を提供し、治療方針(治療継 続、治療断念なども含む)などは患者・患者の家族の合意(consent) をもとに決める。 ユーザーにすべて高度な知識を求めることができるか? 自己決定能力 自己決定を行うための前提知識 オープンソース、フリーソフトウェアはソースコード公開だが、これを読 める人は一握りの専門家である。 情報技術者は専門家の社会的責任を果たしているか? インターネットの3つの特徴 グローバルな多対多通信 ある種の匿名性 複製可能性 Deborah G. Johnson『コンピュータ倫理学』 (オーム社、2002年)pp.127-140 グローバルな多対多通信 全世界規模の高速で容易な双方向通信 身体的に比較的軽い労力で多数の人々とコ ミュニケーションが取れる。 双方向性 ラジオ、テレビなどのマスメディアは一方向(ただ し、電話など別のメディアを使えば別)。 匿名性 見知らぬ町でわれわれは匿名か? 食料品店で買い物をする私は匿名か? 巻き毛で紫色のかつらをつけて、片足にギプスを つけた私は匿名か? 匿名性 匿名性(Wallace, 1999) 自分たちに関する情報が他の情報とリンク、また は連携させることができるかという点で理解され ている。 インターネットにおける匿名性 身体的外見へのアクセス不可能性: インターネットでは偽名を利用できる。 インターネットでは顔が見えない。 誰であるかという認識に、われわれは外見に関する情報 を利用することが多い。 偽のメールアドレス、偽の名前。 別の観点から見れば、匿名性はインターネットのほ うが低い。 オンラインでの監視は現実世界よりも容易である。 複製可能性 デジタルデータの限界複製費用(1単位複製 を増やすのに必要な費用)はきわめて低い。 インターネット上に多数のコミュニケーション の痕跡の複製(ログ)が残っていることがある。 電子メールログ アクセスログ 課金用ログ情報