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4)文化財修理用資材需要の今後の見通し はじめに 近年、社会・経済

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4)文化財修理用資材需要の今後の見通し はじめに 近年、社会・経済
4)文化財修理用資材需要の今後の見通し
はじめに
近年、社会・経済情勢の著しい変化に伴い、文化財建造物の修理に不可欠の国産材の
内、大径材や高品位材、ケヤキ、クリ等の広葉樹の生産が極端に減少してきており、今
後の木造の文化財の修理用資材の安定的確保が緊急の課題となっており、これら資材の
需要の見通しを立て、具体的な対策を講ずることが必要な事態となってきている。
現在、わが国には「文化財保護法」(昭和 25 年5月 30 日法律第 214 号)により約 3、600
棟の建造物(内9割が木造)が重要文化財に指定・保存の措置が講じられている。保存
のためには適期に周期的に修理が必要となるが、屋根葺替、塗装、壁塗替などの修理は、
20 から 50 年の周期、建造物を一旦解体し破損部を補修し再び組み立てる本格的な修理
は、100 から 200 年の周期で実施されるなどさまざまである。なお、修理は多額の費用
を要し、文化財所有者のみの負担では実施することは困難であり、ほとんどの修理事業
は国・都道府県・市町村からの補助金を受けて行われてきている。このように、さまざ
まな周期並びに種々の補助金の交付の下で実施される修理用資材の需要を見極めること
は非常に困難である。そこで、本研究においては、本章において、文化財修理用資材調
査及び需要予測のテ-マを掲げ、1)修理用資材の調査、2)文化財補修のための木材
需要予測、3)文化財建造物修理の現状とその考え方、についての3項目を検討してき
た。本項では、これらの検討結果に基づき、文化財修理用資材需要の今後の見通しにつ
いてのまとめと課題を提示し、次章以降への橋渡しをすることとする。
A.修理用資材の調査結果
A-1.本調査は以下の2種類の資料を使用した。その1は、「国宝重要文化財補助事業実
績報告書」であり、これを用いて文化財修理で購入・消費した木材の樹種、品等、材積
を調査した。この調査では、昭和 51 年度から 61 年度までに実施した 264 件(社寺 88、
民家 155、洋風 15、その他6)の「実績報告書」を分析した。その2は、「構成部材調書」
であり、この中には柱、梁、垂木など建物物を構成する各部材の材種、寸法、員数など
が一覧表形式にまとめられている。なお、この「調書」はその1の「実績報告書」の基
となった補助事業のうち、解体修理等の本格的な修理事業において、文化財修理技術者
によって作成されたものである。この「調書」では、65 件を分析資料とした。
A-2.上記調査の分析結果は以下のとおりである。第1に、12 年間の年当たり木材消費
量は平均約 620m3であるが、大規模修理年度を除くと通常 500m3である。第2に、消費
量を樹種別にみるとヒノキ、スギ、マツの順で多く、この3種で 2/3 を占める。第3に、
消費量の多い樹種の品等をみると、ヒノキは無節4%、上小節 25%、小節 42%と高品位
材が求められ、スギは無節1%、上小節 22%、小節 43%とヒノキとほぼ同様の高品位材
が求められているが、マツは、無節1%、上小節 23%、小節 27%とヒノキ・スギほどの
高品位材は求められてはいない。一方、丸太材が 28%と消費量が多いことが特徴となっ
ている。第4に、建造物を構成する部材が修理(本格的修理事業に限定)の際にどのよ
うな割合で取り替えられるか(取替率)をみると、取替率は建造物の種類によって顕著
な差違をみることができないが、全体の取替率は 1/3 から 2/3 程度であり、化粧材の取
替率が野物材のそれより少ない傾向にある。
B.文化財補修のための木材需要予測に関する調査結果
B-1.本調査は、将来にわたって必要とされる木材の需要予測をするために、対象とな
る指定建造物文化財の種類、量、補修実態を解明し、今後の補修予測を試みたものであ
る。調査は多岐にわたるが、以下の4項目である。1.重要文化財建造物の指定に関する
状況。2.指定建造物の保存修理補助事業による保存修理の実態。3.文化財補修の予測に
関する検討。4.文化財建造物別の使用木材と補修の傾向。
B-2.上記の調査結果から将来にわたって必要とされる木材の需要に関する主要な点は
以下のとおりである。①指定されている寺院、神社、城郭、民家、住宅、洋風建築など
の件数の推移はその傾向がそれぞれ異なり、近年、洋風建築の件数が増えつつある。こ
れらから予想される修理件数の傾向は異なるので資材の生産、調達に長期的見通しが要
求される。②指定物件の修理件数は社会状況や経費の関係などに支配されるので、修理
が必要とされる物件の推定とずれる可能性も高い。③建築物の種類(用途)によって樹
種名、断面寸法、品等が異なり、特に地域性がかなりある。④修理における補足材の一
般的傾向として、雨水や基礎周辺の水の停滞による損傷が生じやすい構成部材は、屋根、
小屋、外壁、床、土台などである。⑤上記の補足部材調査から今後逼迫する可能性が高
い樹種はマツである。特に水の影響を受けやすい回り廊下の床板や小屋梁などの大きな
材の補足材が要求される。⑥束石にのっている柱下部は結露によって腐朽などが予想さ
れ根継ぎ材としての大径材が必要である。
C.文化財建造物修理の現状とその考え方について
ここでは、文化財建造物修理の現状とその考え方について、以下の6項目を検討した。
①定期的な修理の必要性:重要文化財建造物は野外に建っているのが普通で、これらの
木造建物や植物性材で葺かれた建物は、風雨による風蝕や腐朽を避けることはできない。
雨に常に濡れる屋根材などはその材種によってほぼ耐久期間が決まっている。したがっ
て、その期間に合わせてそれぞれの建物について常に周期的に修理を行う必要がある。
②文化財修理の方法:文化財建造物の修理は大別して維持修理と根本修理の二つに分け
られる。維持修理は比較的周期の短い修理で、屋根葺替、塗装修理、部分修理などが行
われる。根本修理は半解体修理と解体修理に分けられる。
③文化財建造物修理の体制:(文化財修理の援助)「文化財保護法」は文化財の修理は所
有者が行うことになっているが、修理には多くの費用と専門的知識を必要とすることか
ら、国等の援助と技術的指導が受けられることになっている。(文化財修理の組織体制)
修理工事の設計監理は、経験の積んだ修理技術者(修復建築家)によって行われる。特
に、国の補助による工事は、文化庁が認めた主任技術者が設計監理を行うことが必要で、
修理工事の行う建造物の規模や重要性によって主任技術者の修理経験や技術のレベルが
二段階(普通・上級)に決められている(現在、これらの主任技術者は全国で延べ約 180
人を数える)。
④文化財修理の目的:「文化財保護法」の目的は「文化財を保存し、且つ、その活用を図
り、もって国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献する」ことにあ
る。具体的には以下の3つを目的として行われている。(文化財的価値の維持・継承及び
向上)文化財的価値の維持と継承は、指定時に指定書に書き上げられた建造物のもつ文
化財としての価値を保存するための行為で、修理としては現状の形状を維持する現状修
理が該当する。また、文化財的価値の向上は、修理前よりも文化財としての価値を上げ
るための修理を行うもので、基本的には現状変更をすることによって現在以外のある一
定の時代の姿に復原修理することが該当する。(安全性の確保)文化財の活用を図ろうと
するとき、建造物の中に人が入ることを当然考えられる。この場合、構造上耐震的な考
慮をしておく必要がある。また、構造とは別に、火災の危険がある町中の茅葺き民家な
どは、防火上屋根全体を鉄板で覆う工事等が行われることもある。(建築性能の向上)文
化財にかかる負担を最小限にして、それらの建築における性能を向上させることは、文
化財の保存にとっても必要である。
⑤特に大径長大材の交換:我が国の歴史的建造物で、大径長大材が使用されているのは、
主に社寺建築や城郭建築の柱や梁で、民家の梁や大黒柱や木造の橋桁などにも使われて
いる。柱や梁などの軸部構造材において腐朽や破損が発見された場合、それらの欠陥は
地震や風などの外力によって建物全体の被害につながることから、欠陥が拡大する前に
修理される。その際留意することは、交換される材積が大きく、加工方法などを含めて
失う材が最小限になるよう特に慎重に扱うことである。柱は、根元が腐朽することが多
く、この場合、その腐朽部分からやや上方を切断し、下方の腐朽部分を取り替える根継
ぎ修理とする。補足材にはほとんど同質の材が使われ、多くの場合、古材は木目の詰ん
だ材が多く、同等のものが望まれる。
⑥文化財修理の今後:
(修理技術者の確保と要請)仮に修理部材の変更がやむを得ない場
合でも、取り替えられた部材は元の技法や工法によって修理することによって、可能な
限りの価値を残すことが必要となる。従って、一定の職人などの技能者が常に修理の仕
事を経験できるような修理の体制を造ることが肝心である。このためには、文化財建造
物の修理費を確保すること、修理に必要な一定の職人を常に確保し育成することが必要
である。(材料の安定供給)文化財修理に使用される木材は、木材業者に発注され、その
ほとんどは一般市場で確保される。しかし、大径長大材や特殊材は一般市場には流通せ
ず、木材関係業者が独自に備蓄していた材を探して購入することになる。これらの材は
探すのに時間がかかり、値段がかなり高額となり、文化財建造物の円滑な修理を妨げる
状況となっている(周知のように、現在の我が国の林業は、大径長大材や特殊材を生産
する状況にはない)。これらに対処するため、第1に、現在使用されている大径長大材を
失わないよう努力することが必要である。第2に、万が一失った大径長大材については、
それを一般市場に依存することは前述のとおり望めないので、天然林等において供給可
能な大径長大材用の立木の存在を確認し、その供給の体制を整える方法が考えられる。
そして更に、将来的にはそれらの立木を育成できる森林を確保し、育林方法の検討・確
立を含めて、大径長大材供給システムの整備を図る必要がある。
D.文化財修理用資材需要の今後の見通しと課題
ここでは最後に、以上の検討結果に基づき文化財修理用資材需要の今後の見通しにつ
いて概観し、そのための課題を列記しておくこととする。
第1に、建造物文化財は、その種類によって指定件数がことなっているが、既指定数
が増加傾向にあり、「文化財保護法」の目的を遵守する場合、修理件数は必然的に増加す
ることとなり、そのための修理用資材の需要は当然増加することを確認すべきである。
また、文化財建造物は、風雨による風蝕や腐朽を避けることのできない樹種・材種によ
って、ほぼその耐久期間が決まっており,そのため期間に合わせてそれぞれの建造物につ
いての修理の周期が存在しており、科学的な計算によって毎年の修理件数(維持修理と
根本修理の合計値)の必要件数が存在する。しかし、その必要件数が何らかの要因で実
施できなかった場合、その持ち越された修理件数分だけ将来の資材需要増加の要因とな
る。補助金の存在如何によって修理件数が左右される事態をどのように打開すべきかは
本研究の対象外であるが、上述の理由によってそのような事態は早急に是正されるべき
であろう。
第2に、文化財建造物の修理用資材を木材に限定した場合(檜皮材については、別途
検討されている。6章参照)、その需要に対して最も重要な材は、樹種では、ヒノキ、ス
ギ、マツ、ケヤキ、クリであり、材質等では大径材(径 40cm 以上樹齢 300 年以上)、高
品位材(赤身8割以上、無節、上小節、年輪幅3mm 以下)、特殊材(幅2尺以上で厚さ
70~80mm の厚木)である。これらの木材は維持修理と根本修理の如何を問わず需要され
るが、量的には当然根本修理が多量となる。
第3に、以上の第1、2の文化財修理用資材需要の今後の見通しを前提として、その
資材の供給体制の整備に向けた課題が出てくる。その1は、現在使用されている大径材、
高品位材、特殊材を失わないよう努力することが必要である。その2に、失った大径材
等については、天然林等において大径材等を採取出来る立木の確認が必要である。その
3は、将来的にはこれらの立木を育成できる森林を確保し、そのための育林方法の確立
を図る必要がある。
第4に、第3のその2を具体化するために、本研究においては全国の 26 大学の附属演
習林 132 千 ha を対象に大径木のフィ-ルド分布調査を実施した。その結果については後
述するとおりであるが、そこで得られたフィ-ルド分布調査のマニュアルが有効である
と確認されれば、フィ-ルド分布調査の対象を国有林・公有林に広げる必要がある。増
加する大径材等の需要に応じるためには、公的所有森林が最も相応しく、また、その所
有する森林面積も大きいからである(林野庁所管国有林;7、647 千 ha、公有林;2,730
千 ha-平成7年度末現在)。
第5に、第3のその3を具体化するために、本研究では保存林(文化財用備林)の国
内外の事例の調査研究及び保存林設定の提言を行っている(それらの結果については後
掲参照)。この場合、大径材等を育成するための保存林を設定することはそれほど困難な
ことではないが、超長期にわたって保存林を維持し、育林方法を検討・確立するフィ-
ルドとしては、大学演習林がその使命からみても最も相応しいと思われる。
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