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「公共政策とは何か」 =第 5 回= 政策決定に関する合理性の問題

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「公共政策とは何か」 =第 5 回= 政策決定に関する合理性の問題
【論説Ⅰ】 シリーズ論説「公共政策とは何か」 =第 5 回=
公共政策や政策評価などについて考えるシリーズ論説:「公共政策とは何か」。第 5 回は「政策に関する合理性の問題」
です。前回までに整理した「政策決定の基本モデル」を踏まえ、政策決定モデルの選択自体に関する合理性とは何かに
ついて考えます。
政策決定に関する合理性の問題
〔目次〕
1.前回の概要
2.政策決定に関する合理性の問題
(1)政策決定モデルの選択に関する合理性
(2)政策決定における合理性と非合理性
(3)合理的な意思決定に関する要素
(4)ブランチ法
3.政治的意思決定
値」とを把握し、両者の比率あるいは差を計算する
1.前回の概要
ことが可能であること、⑤もっとも効率的な代替案
前々回から2回にわたり「OF」の知識と呼ばれ
を選択する能力があること、など極めて理想型の前
る「政策決定の基本的モデル」について取り上げて
提を必要としている。こうした純粋型の合理的意思
きた。とくに前回では、「合理的モデル」としての
決定条件には現実問題として多くの障害があり、実
「増分主義モデル」、「ゴミ箱モデル」、「厚生経
際の政策決定との間には大きな隔たりがある。この
済モデル」、「公共選択モデル」、「ゲーム理論モ
ため、合理的モデルは、現実の政策決定への適用と
デル」、「システム理論モデル」等を取り上げた。
いうよりは、政策決定の理想型として現実に展開さ
れる政策決定のものさし的役割を果たしていると
まず「合理的モデル」とは、政策目標に焦点を当
いうことができる。
て、その効率的達成を追及するモデルであり、直接
的に金額で測定できるものだけではなく、すべての
第1に「増分主義モデル」は、将来の公共政策の
社会的・政治的・経済的価値を視野に入れて追求す
姿を過去の政策の延長線上に捉えるものであり、政
るモデルである。
策を「逐次的・制限的」に展開することが基本とな
合理的モデルの純粋型では、政策決定者は、①政
る。その特色は、まず現実の政策問題の特徴と複雑
策の価値に関する社会的選好と相対的重要度につ
さを把握し、模索的思考プロセスによって政策決定
いての情報をすべて形成し把握すること、②採用し
する試行錯誤型をとる点にある。このため、既存の
得るすべての政策的代替案についての情報を持つ
政策プログラムの正当性が政策決定プロセスにお
こと、③各代替案を採用した時のすべての結果につ
いて先行的に容認されることから、既存政策の継続
いての情報を持つこと、④各代替案について、その
を優先し、そこからの増分的変化を議論する政策形
実施によってもたらされる「犠牲価値」と「達成価
成となりやすい。既得権を維持し積み上げる「引き
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出し型の政策」である。増分主義モデルは、現実へ
システム内部でそれらを変換し、外的環境にアウト
の適合性は高いものの、政策決定の指針としては保
プットを提供する仕組みである。
守的傾向を強めやすい点に留意する必要がある。
第2に「ゴミ箱モデル」は、政策決定を各種問題
2.政策決定に関する合理性の問題
とその解決案とが乱雑に混ざり合っているゴミ箱
の中での選択として捉える。具体的には、政策形成
(1)政策決定モデルの選択に関する合理性
を通じて関与する人々や組織が、①不明確な選好、
以上のように、前回まで政策決定に関する基本的
②明らかではない技術、③流動的参加をベースとし
モデルについて整理してきた。そこで今回は、伝統
て活動することにより、「組織化された無秩序」の
的モデルと合理的モデルの両者を視野に入れなが
中で政策形成プロセスが形成されると考える。
ら、まず政策決定モデルの選択自体に関する「合理
ゴミ箱モデルの特性としては、第1に、初めに特
性」とは何かについて考えることにしたい。
定の問題があって、それを解決しようとして人々が
政策決定モデルの選択自体についての合理性問
動き始めるのではなく、解決案が先にあり、それが
題は、伝統的モデルか合理的モデルか、さらには各
特定の問題を探し始めることが多いこと、第2に、
モデルの類型のうち如何なる具体的モデルを選択
参加者の特定の組み合わせから、可能な場合にの
するかといった「技術的問題」にとどまらず、より
み、人々は問題の解決に積極的に取り組むこと、第
本質的には政策を形成する哲学の問題と深く関わ
3に、論理的に問題解決をするのではなく、解決案
っている。したがって、政策に関与する者が政策の
と問題とが選択状況における別々の流れとして同
根底にある思想を如何に認識し共有するかによっ
等な地位を占めること、第4に、解決案の人気は、
て、選択される技術的モデルの種類や範囲も変化す
人々がどの問題を考慮の対象として取り上げるの
ることになる。
かに影響する場合も多いこと、第5に、選択状況に
このため、まず政策形成の哲学を明確にして共有
おける流れによっては、従来、試みられなかった結
することが前提となる。その上で、如何なるモデル
合が出現し、極めて急激な変化が生まれる可能性も
であったとしても、第1に、情報活動に基づく「問
あること、などの点を上げることができる。
題抽出」、第2に、設計活動に基づく「代替案のリ
第3に「厚生経済モデル」と「公共選択モデル」
ストアップとその比較」、そして第3に、「代替案
は、アプローチとして本シリーズの第1回で取り上
の選択活動」を基本形として共有することになる。
げた通りである。
しかし、こうした基本共有モデルは、現実におい
第4に「ゲーム理論モデル」は、2人またはそれ
て単純には機能しない。なぜならば、基本共有モデ
以上の参加者が行動選択を行い、その結果が参加者
ルが機能するためには、①意思決定者が単一性を持
それぞれに行う次の選択に影響することを踏まえ
つこと、②確実性が担保されていること、③結果の
て、合理的意思決定を追求するモデルである。
生起の即時性(政策の帰着点としての効果の生起に
第5に「システム理論モデル」は、公共政策を政
大きなタイムラグがないこと)について仮定が成立
治システムのアウトプットとして捉え、複数の相互
すること、④代替案間での価値前提に同一性がある
に関連付けられた構成要素から形成されると考え
こと、などの前提条件が必要となるからである。し
る。具体的には、外的環境からインプットを受け、
かし、現実にこうした前提条件がすべて満たされる
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ことはない。なぜならば、現実に展開される政策決
意思決定に関する要素として上げられるのは、①意
定では、すべての利害関係者の異時点間に渡る不確
思決定者、②目的、③自然状態、④選択の対象とな
実な価値を結合するものとなり、最善の代替案を決
る代替的行動案、⑤結果、⑥代替案について何らか
定することは不可能な状況にある。こうした、現実
の順位付けを生み出す関係、⑦選択の7つである。
と基本共有モデルの前提条件とが生み出すモデル
こうした意思決定に関する要素を認識すること
の複雑性を予め認識することが重要となる。
は、如何なる要素において不一致が深刻化しやすい
かを考える上で有用である。
この7要素を通じて合理的な意思決定の前提と
(2)政策決定における合理性と非合理性
なるのは、以下の事項である。
次に、政策決定自体がもたらす非合理性について
第1に、意思決定者は、明確に定義された目的を
考察する。
持ち、異なる価値の対立に悩まされることはなく、
政策決定自体の非合理性は、政策決定プロセスに
おいてもたらされる不一致によって生じる問題で
対立があるとしても、それは何らかの手続きによっ
る。その不一致とは、第1に、事実判断の不一致が
て解消できる仕組みとなっていること。
第2に、選択対象の代替的行動案の集合は、意思
もたらす「政策の効果に関する判断の不一致」、第
決定者に完全に既知のものとなっていること。
2に、価値判断の不一致がもたらす「政策効果の望
ましさに関する判断の不一致」によって構成され
第3に、意思決定者は、各代替的行動案に対して
る。こうした不一致を少しでも克服することが、政
あらゆる面にわたって結果を予測し、その結果の望
策決定の非合理性を改善する要素となる。
ましさを目的に照らして判断した上で、代替案を順
第1の事実判断の不一致がもたらす「政策の効果
位付ける能力と情報を持っていること。そして、も
に関する判断の不一致」を克服する要素として、
っとも望ましいものを選択する仕組みが存在して
「実証的科学分析」が上げられる。しかし、実証的
いること。
さらに、合理的な意思決定の特徴としては、以下
科学分析が事実判断の不一致をすべて克服するも
の諸点が上げられる。
のではない。なぜならば、事実判断の現実的なプロ
セスに価値判断が共存したり、事実判断の不確実性
第1に、価値あるいは目的の明確化が、代替的行
を自らの価値判断に有利になるように利用し、その
動案の経験的な効果分析と明確に区分され、かつそ
上で導き出された科学的判断を政策に対する正当
れに先行すること。
性の根拠として活用する場合も少なくないからで
第2に、行動選択は分析・手段によって行われる
ある。こうした、事実判断と価値判断の交錯が政策
こと。すなわち、まず分析が行われ、次いで目的を
意思決定における合理性の問題を一層複雑化さ
達成するための手段が求められること。
第3に、分析は包括的であり、全ての関連要因を
せ、不一致の構図を深刻化させる結果となる。
考慮すること。
第4に、理論に依存すること。
(3)合理的な意思決定に関する要素
第5に、良い行動案であるか否かのテストでは、
組織の意思決定は、基本共有モデルにおいて触れ
たように、①問題の認識、②代替案に関する情報処
定められた目的に対して最も適切な手段であるこ
理、③選択というプロセスを経由する。その中で、
とが示されること。
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あろう結果について計算し行動をする、いわゆる
そして、合理的な意思決定において、政策決定者
「計算的合理性」を有している。また、行動支持の
には以下の点が求められる。
基礎となる知識や情報は、あるシステムの中で時間
第1に、対象とする政策問題について、すべての
的に進展していくものであり、意思決定者が完全に
利害関係者とのコンセンサスを確認すること。
決定の正当性を把握していることは難しい点にも
第2に、政策問題に関わる目的をすべて明確に定
注意を要する。
義し、それらの間の一貫した順位付けを行うこと。
以上の問題点を克服するために活用される方法
第3に、それぞれの政策目的の達成に貢献するす
として、逐次的意思決定・限定的意思決定たる「ブ
べての政策代替案を確認すること。
ランチ法」がある。プランチ法の特色は、第1に、
第4に、各代替案を選択した場合に生じるであろ
目的・価値選択と行動の経験的分析が、お互いに明
うすべての結果を予測しなければならないこと。
第5に、各政策代替案によってもたらされる結果
確に区分されずに絡み合っていることである。第2
を比較して、目的を最大限に達成する代替案を選択
に、目的と手段が切り離せないため、目的手段分析
しなければならないこと。
が不適当で効果も限られていることである。第3
に、分析は、①起こり得る重要な結果でも無視され
ることがある、②重要な代替案でも無視されること
しかし、こうした合理的意思決定をめぐる要素
は、既に述べたように実際には困難な場合が多い。
がある、③重要な価値でも無視されることがある、
なぜならば、第1に、政策の評価が通常多元的であ
④代替案は逐次的比較がなされるため、理論への依
る目標のあらゆる側面を包括的かつ正確に反映す
存は大幅に減少することがある、⑤良い行動案であ
ることは実際には不可能であること、第2に、代替
るかどうかは、多数の支持を得られるか否かで決定
案的政策が選択に先立って網羅的にリストアップ
されることがある等の点を前提とすることである。
されることはなく、実際には二、三の代替案しか評
このため、「ブランチ法」による政策決定は、①
価の対象にならないこと、第3に、選択に続いて生
現状維持と増分的しか違わない政策目的のみを考
じる諸結果についての知識は部分的であり、不完全
慮しやすい、②考慮すべき政策代替案の数・予測さ
なものに過ぎないこと、などによる。
れる結果の範囲を限定しやすい、③政策目的と政策
したがって、現実的に合理的意思決定を展開する
代替案との間で相互に調整を行いやすい、④新しい
ことは難しく、現実の非合理的意思決定に対するも
情報が得られる過程で、問題を絶えず定式化し直
のさしとして、何が不足しているのかを認識し、政
す、⑤政策代替案の分析と評価は、逐次的・段階的
策決定に伴うリスク管理を展開するための役割を
に行われ、選択は時間の経過と共に修正される、⑥
期待することになる。
問題を一度に完全に解決しようとするのではな
く、連続的に改善する、⑦分析と評価の責任が多く
の集団に分担されるため、政策プロセスが分割化・
(4)ブランチ法
人間の知的能力の限界によって合理的意思決定
断片化するなどの特性を持つ。ブランチ法の核心
は制限される。人間が政策決定に関わる以上、少な
は、目的の明確化および目的と手段との分離の困難
からず非合理性を内包している。
性を強調している点にあるといえる。
人は目的達成のための行動からもたらされるで
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のか、スキャニングの努力の追加がどれだけのコス
3.政治的意思決定
トと時間を必要とするのかなどによって決定され
政治的意思決定とは、異なる価値の間の衝突を含
る。すなわち、合理性モデルと増分主義とがお互い
む社会的・政治的決定であり、いわゆる「政治問題
に他の要素の持つ欠点を補う方法であり、混合操作
化」である。価値について意見の一致がない場合、
法によって、民主主義社会ほどには増分主義的では
良い政策であるか否かは何によって決定されるの
なく、全体主義社会ほどには合理主義的ではない戦
か。この場合、政策そのものについての意見の一致
略を追求し、民主主義よりも高いコンセンサス形成
が唯一の最大化・最適化のテストといえる。こうし
能力と、全体主義よりも有効な社会のコントロール
た政治的意思決定プロセスは、対立する価値観の統
能力の達成を目指すことになる。
合や調整によって特徴付けられる。いわゆる、「統
合的・調整的意思決定」であり、問題が基本的に衝
突や無秩序な状態にある場合、有効性を持つ。すな
わち、現実的政策においては、双方の組み合わせが
必要になることを意味する。
政治的意思決定では、合理性モデルと増分主義と
に代わる第三の立場が指摘される。増分主義は、①
保守的、現状維持志向が強い、②大部分の政策選択
が社会におけるもっとも強力な利害関係によって
決定する、③政策選択の問題には、その広がり、複
雑さ、重要性などにおいて相違があることを十分に
認識していない、などの問題点を有する。
これに対して「混合操作法」は、戦略的選択と業
務的選択とを区別し、直面する問題の性質に適合し
た選択方法を採用すべく合理性モデルと増分主義
との要素を結合したアプローチをとろうとする。い
わゆる「第三の立場」である。
問題が戦略的であるほど合理性モデルのアプロ
ーチが適当であり、業務的な性質のものであるほど
増分主義のアプローチが有効である。また、混合操
作法では、ある部分については詳細に合理的な検討
を行い、他の部分については簡略化した大まかなス
キャニングを形成する。この二つの方法をどのよう
に配分するかが重要となる。
その手法の選択については、たとえばトラブルス
ポットを見直すことがどれだけの損失をもたらす
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