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ネット選挙運動解禁と 政治参加の変化の可能性

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ネット選挙運動解禁と 政治参加の変化の可能性
市町村アカデミー 講義
Again
ネット選挙運動解禁と
政治参加の変化の可能性
明治学院大学法学部教授 川上 和久
〈第23回参議院議員選挙とネット選挙運動解禁〉
第23回参議院議員選挙は、2013年7月4日に公示さ
用されてきた。
しかし、
「パソコン通信」から「インターネット」と、
電子媒体による情報通信手段が発達していくにつれて、
れ、7月21日に投開票が行われた。この参議院議員選
新しい情報通信手段を用いた政治活動が始まり、それ
挙の結果自体は、自民党が65議席(選挙区47議席、比
にともなって、選挙運動に利用することに対する関心が
例区18議席)を獲得し、衆議院だけでなく、参議院で
高まっていったのは、当然の成り行きだった。
も民主党が第一党だった状況から第一党を奪還した。
その黎明として、1996年には、当時の政党「新党さ
また、1人区は31選挙区中、岩手県と沖縄県を除く29選
きがけ」が当時の自治省に、インターネットの選挙活動
挙区で議席を獲得するという好調ぶりだった。
利用に関する質問書を提出している。当時は、以下のよ
公明党は11議席(選挙区4議席、比例区7議席)を
)
。
うな質問と回答がなされている(1(2)
獲得し、非改選も含めた自民党・公明党の与党の議席
数は、135議席と過半数となり、衆参のねじれが解消し
1.規制の合憲性に関する質問
た。
インターネットのホームページは極めて低廉な費用で
それまで参議院で最大議席を有していた民主党は、
開設・維持できる点で、公職選挙法上規制されている
結党以来最少となる、17議席(選挙区10議席、比例区
他の選挙運動手段(ビラ・ポスター等)と格段に異
7議席)に留まる大きな敗北となり(非改選含め59議
なっている。もともと、公職選挙法142条・143条等で選
席)
、参議院第一党の座から陥落した。
挙運動用の文書図画の頒布・掲示を制限しているのは、
一方、この参院選に先立って、公職選挙法が4月19
金のかからない選挙の実現のため必要やむを得ないも
日に改正され、
「インターネット選挙運動」が一部認めら
のであるとして当該制限が合理性ありとされるからであ
れることとなった。
る。
この、ネット選挙運動解禁の影響についても、この参
したがって、仮にインターネットのホームページを同
議院議員選挙では1つの焦点となった。本講では、ネッ
法142条・143条違反と解釈運用した場合、当該運用は
ト選挙運動解禁の実際と、それが、今後の政治参加に
憲法違反(表現の自由及び政治活動の自由を規制する
どのような変化をもたらすかについて考えてみたい。
に当たり、規制目的に照らし規制手段が合理性を欠い
〈インターネット黎明期の、新党さきがけによる
問題提起〉
(回答)
公職選挙法第142条の合憲性については、昭和39
公職選挙法は、1950年に制定されたが、もちろん、
年11月18日最高裁判所判決等により、同法第143条の
当時はインターネット等もない時代である。したがって、
合憲性については、昭和30年4月6日最高裁判所判
インターネット選挙運動が解禁されるまでは、インター
決等により、それぞれ確認されております。
ネットは「文書図画」にあたるという「拡大解釈」で運
20
ている)となるのではと考えるが、どうか。
vol.111
川上 和久(かわかみ かずひさ)
1957年生まれ
1980年 東京大学文学部社会心理学科 卒業
1986年 東京京大学大学院社会学研究科社会心理学専攻博士課程 単位取得
退学
1986年 東海大学文学部広報学科情報社会課程 専任講師
1991年 同 助教授
1992年 明治学院大学法学部 助教授
1997年 同 教授
現在に至る
専門は政治心理学、戦略コミュニケーション(行政広報、情報操作)論
読売新聞 国政選挙ネットモニター調査監修
神奈川県明るい選挙推進協議会副会長
東京都明るい選挙推進協議会委員
総務省選挙部「常時啓発事業のあり方等研究会」委員 等
著書
反日プロパガンダの読み解き方(PHP研究所)2013年
橋下維新は3年で終わる∼民衆に消費される政治家たち(宝島社新書)2012年
二大政党制は何をもたらすか(ソフトバンク新書)2006年
イラク戦争と情報操作(宝島社新書)2004年
メディアの進化と権力(NTT出版・第6回大川出版賞)1997年
情報操作のトリック∼その歴史と方法(講談社現代新書)1994年 等
2.構成要件該当性に関する質問
a)
「文書図画」
画を置き、自由に持ち帰らせることを期待するような
相手方の行為を伴う方法による場合も「頒布」に当
公職選挙法142条・143条は、選挙運動用の「文書
たると解しております。また、
「掲示」とは、文書図画
図画」を規制している。ところで、インターネットのホー
を一定の場所に掲げ、人に見えるようにすることのす
ムページは電子的記憶としてサーバー上に保持されるも
べてをいいます。したがって、パソコンのディスプ
のであり、通常の「文書図画」とは常識的には異なって
レーに表示された文字等を一定の場所に掲げ、人に
いると考える。同法の「文書図画」に当たるのか否か、
見えるようにすることは「掲示」に、不特定又は多数
当たるとすればその理由は何か。
の方の利用を期待してインターネットのホームページ
あるいは、同法142条2項で規制している「アドバ
を開設することは「頒布」にあたると解しております。
ルーン、ネオン・サイン又は電光による表示、スライド
その他の方法による映写等の類」に当たるのか否か、
3.政党等の政治活動規制に関する質問
当たるとすればその理由は何か。
インターネットのホームページは公職選挙法201条の5
(回答)
公職選挙法の「文書図画」とは、文字若しくはこ
れに代わるべき符号又は象形を用いて物体の上に多
で規制している政治活動手段に当たらないと思うが、ど
うか。
仮にインターネットのホームページは選挙運動に用い
少永続的に記載された意識の表示をいい、スライド、
れば公職選挙法142条・143条違反となるが、それ以外
映画、ネオンサイン等もすべて含まれます。したがっ
の政治活動として用いれば、政党等が用いても、選挙
て、パソコンのディスプレーに表示された文字等は、
期間中でも違反ではない(公職選挙法201条5の規制の
公職選挙法の「文書図画」に当たります。
範囲外)となった場合には、
「選挙運動」と「政治活
b)
「頒布・掲示」
公職選挙法142条・143条が規制しているのは、選挙
運動用の文書図画の「頒布・掲示」である。仮にイン
動」の区分けが極めて重要となる。
「選挙運動」の間の
線引きはどのようになっているか。
(回答)
ターネットのホームページが「文書図画」に当たるとし
公職選挙法の「文書図画」の解釈は、A-2 a)の
ても、通常のビラ、ポスターの場合と異なり、相手方か
とおりですので、文書図画として同法第201条の13の
らアクセスして利用するものであり、候補者などの側が
規制を受けますし、更に、立札及び看板の類として
積極的に「頒布」又は「掲示」しているものではない。
の態様において用いられれば、同法第201条の5の規
「頒布・掲示」に当たるか否か、当たるとすればその理
由は何か。
(回答)
制を受けます。
政治活動とは、一般的抽象的には、政治上の主義
若しくは施策を推進し、支持し、若しくはこれに反対
公職選挙法の「頒布」とは、不特定又は多数人
し、又は公職の候補者を推薦し、支持し、若しくは
に文書図画を配布することをいい、従来より、文書図
これに反対することを目的として行う直接間接の一切
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21
の行為をさすということができますが、公職選挙法に
効果を考えた場合、インターネットを選挙運動手段とし
いう「政治活動」とは、上述の一般的抽象的意味で
て追加することが適当ではあるが、選挙の公正を確保
の政治活動のうちから選挙運動にわたる行為を除い
するために、インターネットの導入に伴い発生する問題
た行為であると解されております。
をできるだけ小さくするための措置が必要、としている。
したがって、選挙運動にわたる政治活動は、公職
また、検討事項として、インターネットによる選挙運
選挙法においては、政治活動としての規制ではなく、
動の範囲(インターネットの利用方法の限定、事前運動
選挙運動としての規制を受けることとなります。なお、
規制との関係、量的規制との関係、選挙の種類による
公職選挙法にいう「選挙運動」とは、
「特定の公職
規制)
、第三者の選挙運動、インターネットによる選挙
の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者
運動に関する費用、インターネットにおけるなりすましや
に当選を得させるため投票を得又は得させる目的を
誹謗中傷等も検討事項とされた。
もって、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘
研究会では、まとめとして、以下のように提言された。
その他諸般の行為をすること」と解されております。
ネット選挙運動に関する見解は、基本的に、2013年
第1に、現行の選挙運動規制は維持しつつ、新たに
に公職選挙法が改正されるまで、
「選挙運動期間中に
インターネットによって選挙運動を行うことを可能とする
おけるホームページの更新は、文書図画の頒布にあた
こと。
る」という回答のスタンスが続いていたと言ってよい。
1997年5月には超党派の国会議員により、インター
ネット選挙運動を可能とする法律案の成立を目指すイン
第2に、インタ−ネットによる選挙運動については、
ホームページによる選挙運動のみとすること。
第3に、ホームページによる選挙運動については、全
ターネット政治研究会が初会合を開き、1998年6月には、
ての選挙について導入することとし、また、量的な制限
民主党がネット選挙解禁を盛り込んだ公職選挙法の一
は設けないこととすること。
部を改正する法律案が提出したが、成立には至らな
かった。
〈政府サイドの問題意識の変化:IT時代の選挙運
動に関する研究会〉
第4に、ホームページによる選挙運動については、候
補者又は政党以外の第三者が選挙運動を行うことがで
きるようにすること。
第5に、選挙運動を行うホームページは、第三者によ
る書き込みを行わせることができるものであること。
政府のサイドから、こういった状況に対し、インター
第6に、候補者及び出納責任者と意思を通じて支出
ネット選挙運動に対する積極的な提言を行ったのが、
したホームページによる選挙運動に要する経費について
2001年10月に総務省が設置し、2002年8月に報告書と
は、従来通り選挙運動費用に参入すること。
してまとめられた、蒲島郁夫東京大学教授(当時)を
第7に、候補者以外のホームページによる選挙運動
座長とする「IT時代の選挙運動に関する研究会」で
に要する経費は、出納責任者と意思を通じることなく支
(3)
あった 。
この研究会では、インターネット選挙運動のメリット、
デメリットを整理したうえで、インターネット選挙運動の
解禁に対して、積極的な姿勢をにじませている。
インターネットを選挙運動手段として位置付けること
の効果として、第1に、
「候補者情報の充実」
、第2に
出することができるようにすること。その場合の経費は、
選挙運動経費に算入されないものとすること。
第8に、ホームページ上のなりすましや誹謗中傷等の
対策としては、ホームページの開設者に電子メールアド
レスの表示を義務づける等の措置を講じることとするこ
と。
「政治参加の促進」
、第3に「有権者と候補者との直接
第9に、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理
対話の実現」
、第4に「金のかからない選挙の実現」を
委員会においては、有権者及び候補者等の便宜を図る
あげている。
ため、候補者(比例代表選挙にあっては政党)のホー
一方で、課題としては、第1に「デジタルディバイド
の存在」
、第2に、
「インターネットの悪用」
、第3に、
「イ
ムページアドレスの周知を図るなど利用の便宜性に努め
るものとすること。
ンターネットの付随する費用の増加」を挙げている。
そういったことから、インターネットによる選挙運動の
22
vol.111
この研究会では、メールの利用については、検討課
題として慎重な姿勢を見せたが、メールとホームページ
動が解禁されたわけだが、今回のインターネット選挙運
を明確に区分したうえで、ホームページの選挙運動へ
動解禁で変わった主要な点は、公職選挙法の改正や、
の利用については、積極的な姿勢を見せた。この提言
従来の法律の適用も含めて以下の通りである(4)。
は、2013年の公職選挙法改正に引き継がれていくことと
なった。
〈10年以上、実現してこなかったインターネット
選挙運動の解禁〉
第1に、ウェブサイト等を利用する選挙運動について
は、ウェブサイト(HP、ブログ、SNS、動画共有、動
画中継サイト等)を用いた選挙運動が可となった(142
条の3第1項)
。
ただし、選挙運動用ウェブサイトには、電子メールア
「IT時代の選挙運動に関する研究会」の報告が2002
ドレス表示が義務付けられている(142条の3第3項)
。
年8月に出てから、SNS、フェイスブック、ツイッター、
また、ウェブサイトのコンテンツは投票日当日も据置可
さらにはLINEなど、インターネット自体も進化を遂げて
(142条の3第2項)ではあるものの、投票日の更新は不
いったが、公職選挙法の改正は、その後も実現に至ら
なかった。
可とされた(129条)
。
第2に、選挙運動の電子メールの利用については、
民主党は、インターネットでの選挙運動を解禁する公
電子メール利用は候補者・政党等のみに限られ、第三
職選挙法の改正案を2006年6月にも国会に提出してい
者の利用は禁止された(142条の4第1項)
。電子メール
るが不成立に終わった。
を利用する方法とは、特定電子メールの適正化等に関
2010年の通常国会では、インターネット選挙運動の
する法律第2条第1号に規定する方法で、その全部又
利用を拡大する公職選挙法改正を視野に与野党協議
は一部にシンプル・メール・トランスファー・プロトコル
が行われ、
「ウェブやブログを使った選挙運動を合法と
が用いられる通信方式(SMTP方式)と、電話番号を
し、なりすましや誹謗中傷については刑法の名誉毀損
送受信のために用いて情報を伝達する通信方式(電話
罪や公職選挙法の虚偽表示罪などで対処する」などの
番号方式)の2つが定められている。
与野党合意が固まっていった。しかし、2010年6月に鳩
一般の電子メールを用いずにフェイスブックやLINE
山由紀夫首相から菅直人首相に交代し、7月に行われ
などユーザー間でやりとりするメッセージ機能は、電子
る参院選を睨んで、国会が早く閉会されたために、国
メールを利用する方法ではなく、ウェブサイト等を利用
会審議がなされず、インターネット選挙運動は、解禁さ
する方法に含まれるので、候補者・政党等以外の一般
れなかった。
有権者も利用できるとされた。
例外として、東日本大震災により福島県の一部の住
また、選挙運動用電子メールの送信先は、送信に同
民が避難したことを受け、2011年11月20日の福島県議会
意したものに限るとされ(142条の4第2項)
、メールには、
議員選挙、及び警戒区域に指定された一部自治体の首
送信者の氏名・名称やアドレス等の表示を義務付けた
長、議員選の選挙公報が選挙管理委員会のウェブサイ
トに掲示されたが、あくまで例外的措置とされた。
公職選挙法改正法案自体は、東日本大震災への対
応などで審議が進まず、2012年に衆議院が解散となり、
(142条の4第6項)
。
同時に、選挙運動用電子メール送信者には、一定の
記録の保存が義務づけられた(142条の4第4項)
。
第3に、有料インターネット広告については、政党等
2010年参院選と同じく、インターネットによる選挙運動
に限り、選挙運動用ウェブサイトにリンクする有料広告
が解禁されないまま、2012年衆院選となった。
の掲載が可となった(142条の6第4項)
。これは、候補
しかし、選挙公報については総務省の了解のもと、
者が、法定限度近くまで選挙資金を用いて有料広告に
各選挙管理委員会のホームページに記載される形で全
投下した場合、かなりの効果が見込める可能性がある
選挙区においてはじめて公式に公開されるようになった。
一方で、資金力の差(法定限度よりかなり低い額までし
〈そして実現した公職選挙法改正によるインター
ネット選挙運動解禁の概要〉
か資金調達できない候補が不利になる)が生じる恐れ
があるところから定められたものである。
第4に、ネットで問題になる「誹謗中傷・なりすまし」
そして、2013年の参院選を前に、いわば、15年越し
については、当選、落選の目的で真実ではない氏名、
の懸案だった公職選挙法改正が実現し、ネット選挙運
名称、身分を表示してインターネットで通信することは
vol.111
23
虚偽表示罪(235条の5)にあたり、
図1 参院選 年代別投票率の推移
落選目的での虚偽事項を公表するこ
とは、虚偽事項公表罪(235条の2)
、
また、事実を摘示し、名誉を毀損す
ることは名誉毀損罪(230条の1)と
なる。しかし、真実の証明があれば
罰しない(230条の2第3項)とされて
いる。
第5に、サイバー犯罪となるような、
ウェブサイトの改ざんについては、選
挙の自由妨害(225条の2)にあたる
とされ、また、不正アクセス罪(不正
アクセス等に関する法律3条、11条)
、
ウィルスの頒布、D-Dos攻撃(234条
(5)
、電子計算機損壊等業務妨害
の2)
罪(刑法234条の2)などで規制をか
けている。
また、プロバイダ責任制限法の特例として、削除同
実際、ネット選挙運動解禁後、初の国政選挙となった
意照会期間が7日から2日になった(改正プロバイダ等
第23回参議院議員選 挙の比例代表での投票率は
責任制限法3条の2第1項)
。
52.61%で、第22回の57.92%から5.31%低下した。ネット
第6に、ネットで選挙運動をした者に、その対価とし
選挙運動解禁による劇的な投票率の向上がもたらされ
て報酬を支払うことは、買収罪にあたるものの、システ
ることを期待する向きもあったが、それは、残念ながら
ムを構築した労働の対価は、報酬とされている。
裏切られたと言わざるを得ない。
第7に、ネットによっても、未成年者の選挙運動は禁
しかし、変化の萌芽は表れているともいえる。
止されている。ふだん、フェイスブックで、政治家と
「友達」としてつながっている未成年の大学生もいるわ
1つの、興味深い結果を紹介したい。第23回参議院
けであり、その「友達」の政治家の、選挙運動期間中
議員選挙における30歳代の投票率を見ると48.79%から
のメッセージをシェアするような行為は、未成年者の選
43.78%へと5.01%の低下だが、20歳代では36.17%から
挙運動と見なされ、選挙違反となる。
33.37%へと2.8%の低下であり、もともとの投票率が低い
ということもあるが、他の世代と比較して投票率の低下
このような主要な諸点以外にも、投票日後の挨拶行
為について、ネットを利用した投票日後の挨拶行為が可
となった(178条の2)
。
また、平成26年5月に発表された、明るい選挙推進
協会による第23回参議院議員通常選挙全国意識調査
また、ネット選挙とは直接の関係はないが、屋内演説
の中の、
「政治・選挙の情報の入手元」を見ると、20歳
会場での映写が解禁され、ポスター、立て札、看板等
代から30歳代では、
「新聞」が7.1%に対してインター
の規格制限が撤廃された(143条の1第4項の2、143条
ネットが11.1%と、情報源として、すでに新聞を上回って
の9、201条の4第6項の3)
。
(7)
。米国や韓国でも、政
いることが示されている(図2)
特定の候補者を当選させるための「事前運動」は、
ネット選挙が解禁になっても引き続き禁止されている。
〈ネット選挙解禁の行方〉
24
(6)
。
が小幅にとどまっている(図1)
治や選挙の情報の入手元はネットがすでに多くなってお
り、日本においても、将来、似たような状況が生じる可
能性は否定できない。
若い世代の「新聞離れ」は、新聞読者層の投票率
今回のネット選挙運動解禁は、あくまでネット選挙運
が高かった従来の傾向を考えても、憂慮すべき状況で
動の「小さな始まり」としか位置づけることはできない。
あり、
「新聞離れ」→「投票率の低下、政治離れ」に
vol.111
図2
性が広がっていくかもしれない。
政治・選挙の情報の入手元(明るい選挙推進協会・第23回参議院
議員通常選挙全国意識調査より)
全体 20-30代 40-50代 60歳以上
れる「魅力あるコンテンツ」を発見し、製作し、提供す
66.2
58.6
これからは、政党も政治家も、有権者に受け入れら
るプロデュース力を問われることになるのではないか。
61.2
とはいえ、まだまだ手さぐり状態が続いているのも確
52.1
かであり、2014年8月にも、地方議員が小学生や中学
生と、
「LINE」でやりとりし、トラブルになったという事
34.9
例も発生している。政治家も、インターネットの利用が
22.9
政治の活性化につながる可能性に注目しながらも、そ
19.1
の使い方について、試行錯誤を繰り返している面もある。
11.1
7.1
5.1
5.3
1.2
テレビ
新聞
インターネット
2.8 4.2 2.6 2.3
家族や友人からの話
「ネット選挙運動」は、その意味で、これからも、海
外の事例も参考にしながらの試行錯誤状態がしばらく
は続いていくのではないかと思われる。
結びついていかないように、ネットという若い世代で親
そういった状況もふまえながら、公職選挙法の、そう
和性が高いメディアを通して、政治参加を促していく方
いった状況にも合わせた、電子メールの扱い等を含め
策が喫緊に求められていると言えよう。
たさらなる改正も視野に、推移を見守っていく必要があ
しかし、それが、安易な「世論=ポピュラー・センチ
ろう。
メント」の称揚に終わり、
「輿論=パブリック・オピニオ
ン」の涵養に結びつかなければ、
「投票質」の低下とい
う問題にもつながっていく。
ネット選挙が活性化することで、センセーショナリズ
ムが煽られる部分もある。ネガティブキャンペーンの問
題や、イタリア総選挙で躍進したコメディアン、ベッペ・
グリッロの「5つの星運動」のような、センセーショナリ
ズムの問題は、他のメディアがそうであると同じように、
危険な可能性だ。
(1)質問は、1996年10月2日 新党さきがけによる自
治省選挙部長への回答願より
(2)回答は、平成8年10月28日 自治省行政局選挙部
選挙課よりの回答より
(3)総務省 IT時代の選挙運動に関する研究会報告書
2002年8月
(4)総務省 インターネット選挙運動解禁に関する情報
http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/
naruhodo/naruhodo10.html
(5)DDoS攻撃
(Distributed Denial of Service attack)
とは、踏み台と呼ばれる多数のコンピュータが、標的と
ネットによる選挙運動が解禁されたとはいっても、政
されたサーバなどに対して攻撃を行うことである。別
治活動としてのネット利用は、すでに前例として続けら
名として、協調分散型DoS攻撃、分散型サービス拒否
れており、政治活動でネット利用を活性化させることで、
攻撃などがある。
さらに、ネットが政治や選挙の情報源として利用される
可能性はある。
ふだんの政治活動におけるネット利用がより活性化し、
単一のホスト(通信相手)からの攻撃ならばそのホ
ストとの通信を拒否すればよいが、数千・数万のホス
トからでは個々に対応することが難しい。したがって、
通常のDoS攻撃よりも防御が困難であり、攻撃による
特に若い世代がネット利用によって政治に対する関心を
被害はDoS攻撃よりも大きくなると考えられる。攻撃を
深めるような、さまざまな「入口」が工夫されれば、今
受けたサーバには踏み台となったコンピュータが攻撃
後、ネットを通して政治情報へのアクセスの延長線上
で、選挙時においても選挙情報にネットを通してアクセ
スする習慣が生まれる可能性がある。
ネットで「候補者比較サイト」等ができ、候補者の
政策や政治活動をより精査して、ネット利用層の判断基
準になり、米国の草の根政治運動「ティーパーティ」の
ような掘り起こしに結び付いていけば、
「ネットにおける
主として認識される。
(6)公益財団法人明るい選挙推進協会 参議院議員選
挙 年代別投票率の推移
http://www.akaruisenkyo.or.jp/070various/
072sangi/679/
(7)公益財団法人明るい選挙推進協会・第23回参議院
議員通常選挙全国意識調査報告書 2014年5月
http://www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/
uploads/2011/07/23sanin1.pdf
輿論」が形成され、新たな「公共空間」としての可能
vol.111
25
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