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生活習慣病の予防 - ひろの内科クリニック
第29回健康教室 ひろの内科クリニック Vol.29 2008/6/29 特集:生活習慣病の予防 はじめに 平成20年4月より「特定健診」と「特定保健指導」がはじまりました。 これは脳卒中や、心筋梗塞、糖尿病などの生活習慣病を引き起こすと言われ ているメタボリック症候群あるいはそれに近い人を早期に発見し、日常生活 上の悪習慣を改善する目的の新しい健診です。今回は特定健診を機に、生活 習慣病にならないためにどうすればよいか、特に運動療法を中心にまとめま した。 なお主な資料は厚生労働省「健康づくりのための運動指針2006」です。 メタボリック症候群とは 表-1 内臓脂肪がたまり、複数の生活習慣病をあ わせ持つ状態をメタボリックシンドローム (症候群)と呼びます。 このメタボリッ ク症候群は急速に動脈硬化を進行させるこ とがわかっています。内臓脂肪が多く、さ らに高血圧、高血糖などがあると、それぞ れの異常は軽度であっても動脈硬化を促進 します。右の表-1の習慣がある人は要注 意です。内臓脂肪蓄積があり、表-2の他 の危険因子のいずれか二つ以上あればメタ ボリック症候群と診断されます。 また複数の動脈硬化危険因子が重なる と、心筋梗塞のような冠動脈疾患の発 症危険度は、飛躍的に増します。 (図-1) 表-2 図-1 1 メタボリック症候群を改善させるには メタボリック症候群の状態を改善させるためには、食事療法と運動療法が必要 です。食事療法だけでも体重を減らすことはできますが、運動をしないと筋肉 量や骨量が減り、基礎代謝量が減少するためかえって体調を悪くしてしまいま す。運動量の増加と食事の改善により、内臓脂肪を減少させてメタボリックシ ンドロームを改善し、心筋梗塞や脳卒中のリスクを軽減することが期待できま す。 内臓脂肪蓄積の指標となる腹囲の1cm減少は、約1kgの体重(大部分が脂肪) の減少に相当します。体重を1kg減少させるためには、運動によるエネルギー 消費量の増加と食事改善によるエネルギー摂取量の減少を合わせて約7,000kcal が必要となります。例えば1ヶ月かけて1cm腹囲を減少させるためには、1日当 たり約230kcalが必要となります。運動のみで体重を減少させるのに比べ、食事 改善と合わせて行った方が体重の減量がしやすく、内臓脂肪の減少量も大きく なります。 運動療法の考え方 体を使ってエネルギーを消費することを身体活動とすると、身体活動には日 常生活におけるエネルギーを消費する「生活活動」と目的をもって体を動か す「運動」があります。これらの身体活動の強さの単位を「メッツ」と呼び、 その強さに実施時間(時)をかけたものを「エクササイズ」と呼んで身体活 動の量を表します。じっとしている状態(安静)は1メッツで、それを基準 に身体活動の強さを表しています。1時間安静にしていると身体活動量は1エ クササイズになります。例えば、普通の歩行は3メッツですので、普通歩行を 1時間行うと3エクササイズになります。(表-3) 従来の運動療法は何カロリーの運動 というように表現していましたが、 この「メッツとエクササイズ」とい う考え方は日常生活における行動に 対し運動の強さと時間で表現して運 動療法を行いやすくしています。し かしながら同じエクササイズ(メッ ツ・時)でも、体重によりそのエネ ルギー消費量が異なるので注意が必 要です。(表-4) 表-3 表-4 週に23エクササイズ以上の活発な身体活動(運動・生活活動)を行い、そのうち4エクサ サイズ以上の活発な運動を行うことが目標です。 60kgの人だと約1500kcalの運動 量です。なお、この目標に含まれる活発な身体活動とは、3メッツ以上の身体活動 です。したがって、座って安静にしている状態は1メッツですが、このような3メッツ 未満の弱い身体活動は目標に含みません。(次ページの図-2を参照) 2 3メッツ以上の身体活動 週に23エクササイズ以上の活発な身体活動(運動・生活活動)の活発な身体活動という のは3メッツ以上の活動です。(図-2、表-6)これらを組み合わせて週に23 エクササイズになるようめざし、そのうち少なくとも「運動」で4エクササイズ以上を 行うことが目標です。活発な身体活動を行うと代謝が活発になり内臓脂肪が減少し 生活習慣病の予防につながります。(表-5) 図-2 表-5 表-6 3メッツ以上の活動 チェックシートを活用しよう 図-2や表-6を参考に1週間の身 体活動を評価してみましょう。 たとえば週に23エクササイズの活 動をすべて普通歩行で行うとする と1日あたり約70分程度の歩行とな ります。毎日の活動を下の表-7 のようなチェックシートを用いて 評価してみましょう。 なお少なくとも「運動」で4エクササイ ズ以上を行うことも目標です。 表-7 3 内蔵脂肪を減らそう 内臓脂肪の蓄積は腹囲でおおよそ判断ができます。男性では85cm 以上、女性では90cm 以 上が内臓脂肪蓄積と判断されます。ただしこの基準に対しては様々な意見がありおおよそ の数字として考えたほうがよいでしょう。腹囲は立位でへその高さで計測します。呼吸は 意識せずに普通にして、呼気の終わりに目盛りを読み取ります。例えば、あなたの腹囲が 95cm あったとしましょう。これを減らすために当面の目標として90cm を設定し、毎月1cm ずつ5ヶ月かけて減らしていくとします。(図-3、①~③)腹囲を1cm 減らすという事 は体重は1kg 減らすことと同じです。そのためには7000キロカロリー(kcal)のエネル ギーを減らさなくてはなりません。そうしますと合計で3万5000kcalを減らす必要があり、 1日あたり約230kcal の減量が必要です。 (図-3、④、⑤)そのエネルギー量を例えば、 運動で毎日80kcal、食事で150kcal減らすとする(図-3、⑥)と、 (体重が一定である とした場合ですが)現在の生活における運動と食事内容から表-8の様に計画を立てるこ とになります。 図-3 特定健診における指導区分 表-8 表-9 平成20年4月から始まっ た特定健診ではメタボ リック症候群に焦点をあ て、未病に防ぐために生 活習慣の改善に向け、積 極的に介入するために特 定保健指導も行われます。 その判定区分は表-9の通 りで判定する側にとって も面倒な区分です。現在 まで受診者は例年に比べ かなり少ないようですが、 保健指導がネックになっ ている可能性があります。 また受診率によって後期 高齢者保険に対する財政 支援の増減があること (いわゆる飴と鞭)も賛 否が分かれるところです。 4