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商業教育における観点別評価規準と評価の研究報告 ~「確かな学力」の
はじめに 以下の研究は、平成18年度~20年度の3カ年において、本校の商業科で観点別評価 規準と評価の在り方について研究したものです。特に前文科省初等中等教育局参事官付視 学官である吉野弘一先生のご指導のもと発展的に研究したものでもあります。商業教育に 携わる多くの先生方にご覧いただきたく、今般、HPに掲載いたしました。研究について は半ばのものもありますが多くの先生方にご覧くことにより、諸先生方からの貴重なご指 導・ご鞭撻を頂きたくことを考えています。 栃木県立高根沢高等学校 教諭 添田 修 商業教育における観点別評価規準と評価の研究報告 ~「確かな学力」の伸長と「生きる力」の涵養のために~ (ビジネス基礎・課題研究・情報処理の評価の在り方) 報告要旨 教育基本法の改正及び学校教育法の一部改正は、今まで充分に共通理解され ていなかった「知識基盤社会の主要能力」である「生きる力」の明確な理念や その涵養すべき教育内容が極めて明瞭になったと言える。 つ ま り 、 高 校 教 育 の 中 で 「 生 き る 力 」 や 「 確 か な 学 力 」、「 学 力 の 要 素 」 等 の 捉え方がまちまちであり、ゆとり教育と詰め込み教育の相互に対等する二極化 のなかで、真に必要な学力の伸長が充分に涵養されていなかったとも考えられ ま す 。「 生 き る 力 」 を 支 え る も の と し て ① 確 か な 学 力 、 ② 豊 か な 心 、 ③ 健 や か な体の3要素が明らかになり、更に確かな学力を伸長するためには、基礎的・ 基本的な知識の習得がその大前提にあり、学習指導要領上おおよそ満足となる まで再指導・再評価(スパイラル)を繰り返し、満足水準に達した段階で、初 めて次の段階に立つことができ、ここから思考力・判断力、そして表現力を向 上させることで「確かな学力」の涵養が可能になるのが理解できます。 しかし、これらの概念を理解するだけで生徒の学力向上は見込まれません。 同時に必要な知識の習得の後に指導しなければならない思考力・判断力、表現 力を伸長させる授業を展開させなければならないのです。つまり、各教科、科 目ごとに指導方法に手を加え、伸長すべき能力を的確に捉え、この能力の伸長 のために授業に対して工夫・改善の計画を行なわねばならないのです。また、 同時に、能力の伸長についての具体的な評価を実施するための評価規準を作成 しなければなりません。 以下においては、商業科目の中で基礎的な知識と技術を習得させる観点から 設けられた「ビジネス基礎」及び生徒の多様な実態に応じて個々の生徒の特性 や問題解決のための継続的な学習の推進をねらいとして設置された科目である 「 課 題 研 究 」( 吉 野 弘 一 著 : 商 業 科 教 育 法 ) に つ い て の 観 点 別 評 価 規 準 と そ の 評価について、更にはビジネスにおける情報活用能力の育成科目でもある「情 報処理」について、事例を取り入れ報告いたします。 < 評価の考え方 > ○水平的な観点別の考え方から垂直的な観点別評価への移行 関・意・態 技能・表現 思考・判断 知識・理解 *参考事例 ノート整理 正確さ・スピード 計画書・提出物 マナー・態度 提出物等 課題等 定期テスト 小・確認テスト 評価の割合 評価の割合 評価の割合 評価の割合 30% 10% 10% 50% 評価規準 評価規準 評価規準 評価規準 ABC ABC ABC 100点法 *ABCについては、最終的に100点法で換算していく。 言うまでもなく、この方法論で評価規準を決定し評価を行うことは、本来の 観 点 別 評 価 の 概 念 に 合 致 す る も の で な く 、適 正 な 評 価 手 段 で あ る と は 言 い 難 い 。 つまり、評価についての連続性がなく、部分的な評価に陥りやすいことが考 えられる。とりわけ、テストに対して重み付けを行い、評価割合を増加させれ ば、必然的に他の観点を軽視する可能性も生じてしまう。この問題を回避する ために、水平的な考え方から垂直的な思考への転換を推奨します。比較的、分 かり易く評価規準を作成することが可能になります。 <垂直的な評価の考え方について> 基 本 的 は 、「 知 識 ・ 理 解 」 に つ い て 学 習 指 導 要 領 上 の 「 お お む ね 満 足 す る 水 準 」に 到 達 す る ま で 再 指 導 を 実 施 し 、こ れ を も と に 再 評 価 を 行 い ま す 。従 っ て 、 観点別の基盤は、関心・意欲・態度をその土台とし、この上に従来の知識の習 得 が 考 え ら れ ま す 。 重 要 な こ と は 、「 確 か な 学 力 」 を 伸 長 し 「 生 き る 力 」 を 涵 養させるためには、この必要な知識を基に展開される、思考・判断能力や技能 ・表現能力の伸長にあると考えるからです。 評価は下方から 上方へ 思考・判断 技能・表現 再指導 と再評価 知識・理解 関心・意欲・態度 50% ~ 60% 評価割合 40% ~ 50% 評価割合 以 上 商業教育における観点別評価規準と評価の研究報告 ~「確かな学力」の伸長と「生きる力」の涵養のために~ (ビジネス基礎・課題研究・情報処理の評価の在り方) 栃木県立高根沢高等学校 教諭 添田 修 報 告 要 旨 で 述 べ ま し た が 、観 点 別 評 価 を 充 分 に 理 解 し 、こ れ を 授 業 に 取 り 入 れ る こ と は 、 従来の知識基盤型の授業において大きな工夫改善が必要となります。授業時間の確保が容 易でない状況においては、教科指導上の基礎基本となる知識・理解に対して充分な再指導 と再評価を実施するにしても本来の授業の中では時間不足のため指導上かなりの無理が生 じ、放課後等を利用した課外授業などで対応していると考えられます。つまり、限られた 授業時数の中で下記の内容の①関心・意欲・態度、②知識・理解を指導評価し、更に、伸 長させねばならない能力である③技能・表現、④思考・判断能力を向上させるための授業 を展開するためには、今までの授業の在り方に大きな工夫改善を行うと同時に指導内容を 評価は下方から 上方へ 再指導 と再評価 *⑤ 思考・判断 *④ 技能・表現 *③ 知識・理解 *② 関心・意欲・態度 *① 厳選し、計画的に授業を展開しなければなりません。以下においては、 1 、「 学 校 概 況 」 の 説 明 2 、「 ビ ジ ネ ス 基 礎 」 の 評 価 規 準 の 在 り 方 に つ い て * * * (「 平 成 1 8 ・ 1 9 年 度 国 立 教 育 政 策 研 究 所 教 育 課 程 研 究 セ ン タ ー 関 係 指 定 事 業 の 学 習 指 導 要 領 に 定 め る 目 標等の実現状況の把握に関する研究」をもとに取り組んだ内容についての説明) 3 、「 課 題 研 究 」 に お け る 評 価 規 準 の 在 り 方 に つ い て ***昨年度より試験的に研究した内容報告 4 、「 情 報 処 理 」 の 垂 直 的 な 観 点 別 評 価 規 準 を 導 入 し た 研 究 授 業 ***今年6月の教育実習生による研究授業の展開事例 (将来、商業科教員を希望する教育実習生に対して知識理解のみを教授する授業展開にとどまらず、観点別評価 を理解することで新たな能力の伸長が可能であることを認識させ、同時に授業に対しての工夫改善について正し く 考 え て も ら う こ と を 目 標 に 研 究 授 業 を 計 画 し ま し た 。) について報告いたします。 1、学校概況 (1)学校・地域の特色及び実態 本 校 は 平 成 1 8 年 4 月 よ り 栃 木 県 の 高 校 再 編 計 画 に よ り 、「 総 合 選 択 制 高 校 」 と し て 校 名を栃木県立高根沢高等学校に改めた。これまでは、昭和42年より栃木県立高根沢商業 高校として約40年間、県北の単独商業高校としてその役割を果たしていた。以前は、商 業科3クラスと流通経済科 1 クラスの学年4クラスから構成されていたが、再編により現 在は商業科3クラス、普通科2クラスの学年5クラスで構成されている。また、総合選択 制高校として本校の特色及び役割は、 ①基礎・基本の確実な定着を図り個性を生かす教育を実践する学校であること。 ②ビジネス教育や情報教育を柱として勤労観や職業観を涵養し、多様な進路目的に対応 した教育を実践する学校であること。 ③地域と連携し特色ある学校行事を行うことで、創造性に富み、社会に貢献できる人材 の育成を実践する学校であること。 次に,特色ある教育活動については、 ①ライセンス教育の充実(普通科・商業科とも時代に対応できる社会性の育成と進路希 望 の 実 現 に 有 効 な 手 段 と す る た め の 資 格 取 得 を 推 進 す る 。) ②キャリア教育の充実(勤労観や職業観を涵養し自己実現能力を育成するために、1 年 次よりビジネス教育や情報処理教育を実践し,学年においては,将来の進路選択に有 効 な 学 習 活 動 を 校 内 外 に お い て 展 開 す る 。) ③地域連携活動の充実(地域との連携と福祉を大切にする人材を育成するために、各学 年 に お い て 地 域 と の 交 流 事 業 や 福 祉 活 動 を 行 う 。) ④マナー教育の充実(豊かな人間性を育成し、規範意識を高め社会に柔軟に適応できる 人 材 を 育 成 す る た め に 、 学 習 に 基 づ い た ビ ジ ネ ス マ ナ ー 教 育 を 展 開 す る 。) 2 、「 ビ ジ ネ ス 基 礎 」 に お け る 観 点 別 評 価 規 準 と 指 導 法 (1)指導と評価計画 この科目においては、①ビジネスの担当者、②売買取引と代金決済、③売買に関する計 算において、学習の実現状況の把握と指導の改善及び観点別の評価規準を作成しました。 以下においては、①ビジネスの担当者についての学習指導について報告いたします。 研究の方法としては、具体の単元の領域において、どの時点で実現状況の把握を行うの かを計画し、更にこのために必要な授業の改善をどのように工夫するかを考えると共に評 価規準についてもテスト以外の観点でどのように設定するかを具体的に計画していきます。 なお、評価規準の作成と評価については、ABCの3段階の評価を基本とするが、A評 価の中で内容や表現方法において特に優れているものをA+として評価します。他方、C の評価において特に劣るものをC-で評価することを考えます。また、平成18年度の調 査研究との関係については翌19年度については規準内容を大幅に変更しました。 表 1 が 、「 平 成 1 8 年 度 の 指 導 と 評 価 の 計 画 」 に な り ま す 。 (表 1) 評価項目が多く、特に提出物の評価回数と小テストの内容・実技等において生徒の負担 が著しく授業展開に支障が生じたため、平成19年度の指導と評価の計画について、これ を表2の内容に変更しました。 「 指 導 と 評 価 の 計 画 」( 表 2) 表2の「平成19年度の指導と評価の計画」は、評価項目を精選することで指導内容に 強弱を持たせ、興味関心や意欲を底上げすることで,知識・理解の向上をめざし、更に生 徒によるグループ別の研究発表や問題の作成など技能・表現や思考・判断の能力の向上を 最終的なねらいとして指導しました。 (2)指導の改善計画 この単元では、一方的な説明や資料に基づいた授業展開ではなく、各生徒が理解したこ とを、他の生徒に適切に「説明」する、または、自分の考えを正しく「伝える」などの機 会 を 導 入 し た 授 業 を 計 画 し ま し た 。「 見 る 」「 聞 く 」「 書 く 」 そ し て 「 解 答 」 す る と い う 、 一連の過程以外に表現や判断の能力を引き出すことを計画しました。 補足として同時に計画した、具体の単元における「売買に関する計算」においては、計 算能力の開きが顕著であることが判明したため、再指導再評価を兼ねて放課後を利用した 補習授業を行った。今年度は学習時間の確保はもとより、売買に関する基礎計算能力の向 上と思考・判断の能力を向上させる授業の指導改善を計画した。 (本校はビジネス基礎を2単位で履修していることから(1)ビジネスの担当者の単元の 予定時間数は20時間となります。13時間については各ビジネスの担当者の役割や機能 における知識・理解を高めることを重視し、残りの全ての時間については,グループ学習 を計画しました。方法については、基礎的な知識・理解や興味関心を満足する水準まで引 き上げ、グループによるビジネスの担当者についての「調べ学習」と「発表」を計画しま す 。) ○「ビジネスの担当者」の観点別の評価規準と評価は次のような結果となりました。 ①関心・意欲・態度 ビジネスと流通活動のかかわりに関心をもち、経済活動における流通の経済的特質や その担い手である企業及びビジネスの担当者について、意欲的に調べたりまとめたり し よ う と す る 。 → 90 % 以 上 が 評 価 A ・ B ②思考・判断 流 通 活 動 の 特 徴 や そ の 担 い 手 で あ る 企 業 に つ い て ,様 々 な 角 度 か ら 考 察 す る と と も に 、 基礎的・基本的な知識を活用して流通活動の諸問題の因果関係や相互関係をとらえて いる。 → 92.5 % が 評 価 A ・ B ③技能・表現 流通活動の特徴やその担い手である企業に関する様々な資料を活用して,ビジネスと 流通活動とのかかわりについて把握するとともに、その結果を具体的に説明すること が で き る 。 → 約 72.5 % が 評 価 A ・ B ④知識・理解 ビジネスと流通活動に関する基礎的・基本的な意識を身に付け、流通の意義や役割及 びビジネスの担当者の活動の概要を理解している。 → 85 % 以 上 が 評 価 A ・ B 、 15% は , 評 価 C 授 業 を 経 験 す る こ と で 、生 徒 た ち が 学 習 に 対 し て の 自 信 を 持 て た こ と が 実 感 で き ま し た 。 ま た 、表 現 力 や 思 考 ・ 判 断 の 能 力 が こ の 学 習 の 過 程 で 向 上 し た の が 印 象 的 で も あ り ま し た 。 ともあれ、教師と生徒間及び生徒と生徒間の双方向の効果的な授業が展開できたことは事 実です。同時に、検討する内容としては、授業において「ビジネス基礎」の商業科目にお ける役割とその重要性をさらに認識するためには、現状の2単位では充分ではなく、その 重要性を考慮すれば3単位以上で履修することが適切であると考えられました。 (調べ学習と発表の模様) この研究以前の授業では、定期テストや小テストの結果や関心・意欲・態度を重視した 評価を行っており、知識・理解を学習の到達目標としていたのが事実でありましたが、習 得 し た 知 識 ・ 理 解 を も と に さ ら に 一 段 階 踏 み 込 ん だ 授 業 の 展 開 を 計 画 し た 結 果 、改 め て「 技 能・表現」と「思考・判断」の能力が向上されたものと判断できます。教科の特性や履修 単 位 は 異 な る が 、全 て の 教 科 に お い て「 知 識 ・ 理 解 」を 満 足 す る 水 準 に 到 達 し た 段 階 で「 技 能・表現」と「思考・判断」の能力を向上させる授業を計画することが可能であることが 理解できました。 (3)評価規準についてのまとめ ①観点別の評価規準 研 究 に お い て は 、 小 テ ス ト を 含 む 定 期 テ ス ト 等 の 割 合 を 評 価 の 約 40 % で 考 え 、 残 り を 他の3観点で評価することにします。その際の各観点別の評価規準は、A+・A・B ・C・C-の5段階で評価するものとし、更に評価項目ごとに「重み付け」を行い、 これを点数に換算する方法を採用ました。留意事項としては、特にA+やC-につい ての今後の規準の確立でした。 ま た 、 複 数 の ク ラ ス を 複 数 の 教 科 担 当 者 で 担 当 す る 場 合 、「 技 能 ・ 判 断 」 や 「 思 考 ・ 判断」の評価については、効果が得られる学習内容を精選することと同時に共通理解 が必要となります。 ②関心・意欲・態度 ノートの内容やファイルの整理などについての評価に「関心・意欲・態度」の項目を 利用した。また、マナーや言葉遣い等もこの評価に導入することが可能である。 ③技能・表現 単元の途中でこの能力を把握するための方策を導入することは可能であるが、単元の 内容と特徴に対応することが必要となる。しかし、充分な効果を得るためには、単元 の終了後、まとめ学習の機会を確保し、この中で能力を把握することが容易であると 思われる。 ④思考・判断 技能・表現の把握と同様に単元の内容に応じた対応が必要である。また、知識・理解 をおおよそ満足とする水準まで引き上げた後に、この能力を向上させるための学習活 動を実施することが極めて効果があり、生徒は新たな興味関心と意欲、そして、思考 ・判断能力を向上させることができることが実証された。 ⑤評価項目の設定 単元において、多くの評価項目を設定し、正確に評価することを重視してしまうと、 生徒に多くの負担がかかってしまう。充分に学習に対しての理解ができないまま新た な問題に挑戦することになりかねない。評価項目は、効果的な内容を充分に厳選する ことが必要である。多くの評価項目を設定した結果、クラスの平均点と各生徒の平均 点、最低点がともに上昇する結果となることが判明した。当然の結果ではあるが、学 力を把握する場合には適切ではない方法といえる。 (4)成績の比較(ビジネス基礎まとめ) 2カ年の研究を通して、様々な授業の工夫改善や評価規準の在り方について考察しまし たが、報告のまとめとして成績散布図を提示します。 当 初 、「 単 に 成 績 の み を 向 上 さ せ る の で は な く 」、 真 に 「 確 か な 学 力 」 を 涵 養 し 、 更 に こ の結果を評価することは、私にとって難解なものでもありました。暗中模索の中で多くの アプローチを試すことを計画しました。多角的なアプローチを行った結果、授業進度に遅 れが生じ、学習指導要領上の学習の到達目標に達するために、補習等を行うことでその調 整をしなければならなくなりました。また、観点別評価規準の設定やその考え方について も初年度の研究については充分でなかったかのように思われます。平成19年度において は、18年度の結果を踏まえ、以下の内容について改善すべき点を具体的に変更すること で学習指導要領上の到達目標に近づける成果を出すことができました。 ○改善した内容 ①観点別評価規準と評価項目の厳選 ②確かな学力を涵養するための授業の工夫改善の精選 ③年間学習指導計画の改善 ④教科担当者の観点別評価と学力に対する理解 以上の改善内容に留意し研究を実施した結果、生徒の学習活動にも変化が生じ、活気の ある授業が展開できました。また、生徒自身、受け身ではなく「進んで学習し、考える資 質」が涵養されたようにも感じられました。この研究で授業の工夫・改善方法や評価方法 に つ い て 研 究 し ま し た が 、「 確 か な 学 力 観 」 を 念 頭 に 置 き 関 係 す る 教 科 で 具 体 的 な 実 践 指 導を行うことにより、今までにない効果が生じてくるのではないかと思われます。 【分析結果】 【平成18年における成績散布図】 ○左側は従来の成績処理を実施 ○ 授 業 の 工 夫 改 善 と 評 価 規 準 の 見 直 (項目多い) 平 成 18年 度 従 来 の 散 布 図 平 成 18年 度 授 業 の 工 夫 改 善 後 の 散 布 図 100 100 80 80 60 60 得 点 得 点 40 40 20 20 0 0 0 10 20 30 生徒番号 40 0 10 20 30 生 徒 番 号 40 この2つの成績散布図は、平成18年度の成績結果を従来型(本校)の算出規準による ものと、観点別評価規準を盛り込んだ成績結果の比較ですが、前述したように、18年度 においては、観点別評価項目が極めて多く、授業の工夫改善はあったものの、単に成績が 上昇した結果になったかのように思われます。 しかし、指導内容について年間計画において厳選し、評価項目についても受け身になり がちな項目より動的な事柄に重み付けを行い、授業を展開した結果、下の2つの散布図の 結果を得ることができました。 【 平 成 1 9 年 度 に お け る 成 績 散 布 図 】( 指 導 と 評 価 の 計 画 表 の 2 2学期成績の散布図 従 来 の 方 法 によ る 成 績 の 散 布 図 得 点 参照) 100 100 80 80 60 得 点 40 60 40 20 20 0 0 1 11 21 31 生徒番号 1 11 21 31 生徒番号 授業内容は、そのベースに関心・意欲・態度と知識・理解とし、さらに思考・判断、技 能・表現の能力を向上するための授業の工夫改善を行った結果を表したものです。 この2つの散布図は全く別の観点から算出した結果ですので、比較対照とはならないも のありますが、明らかに、成績によるバラツキが少なくなり、生徒たちも積極的に授業に 参 加 し 、そ の 中 で 授 業 の 面 白 さ ・ 大 切 さ を 理 解 す る こ と が で き た よ う に 思 わ れ ま す 。ま た 、 能力を向上させる授業展開により、成績の底上げができたと思われます。上位層の評価に ついては、5段階評価のA(+)の規準において、今後の検討が必要であると感じられま すが、解消すれば、上位層の引き上げも可能であると思われます。 【参考資料】 (得点比較) (バラツキの解消) 3 、「 課 題 研 究 」 に お け る 評 価 規 準 の 在 り 方 に つ い て (1)課題研究における観点別評価の考え方 課題研究の科目のねらいが、専門的な知識と技術の深化・総合化を図り、自ら課題を発 見し解決する、主体的な学習態度や創造的な学習に取り組むことであることから、第一義 的に考えなければならないことは、専門的な知識と技術の把握であると考えられる。つま り、課題研究における「学習の到達目標」に達するためには、この時点で専門的な知識や 技術が「おおむね満足」する水準に到達してはじめて課題研究を学習する基盤が整うこと に な る 。 換 言 す れ ば 、「 お お む ね 満 足 」 で な い 状 況 に あ る 生 徒 が 存 在 す る 場 合 に は 、 必 然 的に知識・理解に対しての再指導が必要になると考えられる。このことから、当初、必要 な学習指導としては、各生徒が不足していると考えられる知識を充足させることである。 具体的な指導法としては、商業科目の基礎・基本である簿記・情報処理・商業経済及び ビジネス計算能力の向上であると考えられる。年間学習指導計画の中で4~6月の2ヶ月 間において各生徒に各々の目標を具体的に設定させ、これに対して検定試験受験と検定試 験合格という形で結果を求め、同時にこれらを評価する方法を採用している。 評価については、学習の過程と検定結果を考慮し、観点別として評価結果を知識・理解 に充当させる方法をとる。 (知識の底上げのための授業展開:1学期実施、これを経験して2学期の学習活動に取り組む) ①についての評価規準 課題研究の手引き(ノート)の整理や提出物、内容について A・B・C評価 ②についての評価規準 学習段階(各学習分野)における提出物・検定結果 A・B・C評価 *ただし、特に優れた内容についてはA+とする。また、極端に劣る場合に として評価する。 評価は下方から 上方へ 再指導 と再評価 *⑤ 思考・判断 *④ 技能・表現 *③ 知識・理解 *② 関心・意欲・態度 *① はC- ③④についての評価規準 6月下旬から7月中旬にかけて2学期以降の取り組みについて計画することになる。 具体的には、学習してきた商業科目の能力を活用し2学期においてどのような研究活動 を行うか計画していく。評価対象としては、学習計画表の内容や、研究テーマの設定理由 を評価することになる。 (2)評価割合と評価換算 *1学期においては①②の割合が全体の70%程度を割り当て、30%程度を③④で評 価していく。しかし、2学期以降は指導内容が異なることから割合の%は一定ではない。 思考・判断 技能・表現 知識・理解 関心・意欲・態度 1学期は30%程度の評価 上記 ③④ 1学期は70%程度の評価 上記 ①② 課題研究ノート・手引きの学習日誌と押印簿 ○毎回提出の学習日誌 ま と め と 学 習 に つ い て は 、具 体 的 に 記 載 す る 。ま た 、自 己 評 価 に つ い も 必 ず 記 入 さ せ る 。 ○1学期末に作成する「課題研究計画書」 この内容についての評価は、1学期における重要項目になる。 ○テーマについて充分でない場合は、添削指導を実施する。 (3)2学期における観点別評価規準と評価 2学期の評価は、生徒の自発的・創造的な学習計画を実施していくことになるが、1学 期の評価と異なり、主に技能・表現や思考・判断について重み付けを行い評価することに なる。 留意しなければならないことは、a)調査研究実験分野、b)作品制作分野、c)職業 資格の取得分野について同一の方法による評価を行うことである。 <評価割合と評価換算> 評価は、1学期と同様にA・B・Cで評価し、換算において重み付けを行う。 思考・判断 技能・表現 知識・理解 関心・意欲・態度 (4)今後の課題と改善 2学期は70%程度の評価 研究過程・成果・発表までの評価 2学期は30%程度の評価 日誌の提出と整理、計画書の内容等 課題研究の第2・3学期の成績について~2学期の成績~ (異なる評価規準による評価についての分析結果 100 100 80 80 60 60 40 40 20 20 0 昨年度実施の資料) 0 1 6 11 16 平均点 21 26 31 36 59.6点 1 6 11 16 21 26 31 平均点 74.5点 最高点 100 点 最高点 93 点 最低点 30 点 最低点 45 点 36 ○散布図を利用し分析した結果、いくつかのことが明らかになりました。 厳選した内容の評価項目を設定し、これに重み付けを行い評価換算してみると、従来の 方 法 ( 課 題 研 究 に お い て 欠 席 や 提 出 物 の み で 評 価 し た 場 合 ) と 比 較 し 、「 ビ ジ ネ ス 基 礎 」 の 場 合 と 同 様 に 、成 績 の バ ラ ツ キ が 解 消 さ れ 平 均 点 と 最 低 点 が 上 昇 す る こ と に 気 づ き ま す 。 評価の観点を見直すことで、授業の在り方・進め方・伸長させる能力に違いが現れ、結 果として新しい能力を伸長させることが可能になります。商業教育における全ての科目か ら 得 た 知 識 を 活 用 し 、 創 造 性 豊 か な 授 業 を 展 開 す る と い う 、「 課 題 研 究 」 の 学 習 指 導 要 領 上の目的を考えれば、大いに「思考・判断」能力の向上を意識した授業展開を行うことが 必要であると考えられます。 (校内の研究成果発表の模様) 4 、「 情 報 処 理 」 の 垂 直 的 な 観 点 別 評 価 規 準 を 導 入 し た 研 究 授 業 ***今年6月の教育実習生による研究授業の展開事例 (1)展開事例 ①日時 平成20年6月上旬 ②対象 1年生商業科 ③理解状況 情報処理:理解度については簡単な関数を利用し、作表ができる程度。 ④内容 教育実習生に対して、観点別評価を導入した授業を展開する ⑤授業の展開 指導者(実習生)に対して充分に観点別評価についての説明を行い、思 考判断や技能表現能力の向上を目的とした授業展開を計画した。 ⑥授業内容 本校生徒の地域別出身中学校の年度間比較と将来の予想について考える。 (過去のデータを使用して、今後の地域別の出身者数の動向を各生徒が工夫し作成し た 表 を 参 考 に 判 断 し 、 こ の 内 容 に つ い て 発 表 す る 。) ⑦指導経過 a)はじめに関数の利用や絶対番地についての説明と例題を充分に行う。 b )問 題 の 趣 旨 を 充 分 に 説 明 し 、最 終 的 に は 生 徒 が 分 析 ・ 発 表 を 行 う こ と を 説 明 す る 。 c)データの提示→割合による別表作成→グラフ作成→分析→発表の順で展開する。 d ) 指 導 者 作 成 の 模 範 解 答 を 提 示 す る 。( 模 範 解 答 ) e)観点と規準について データ作成について・・・ 関心・意欲・態度、知識・理解 ①操作速度も標準であり、意欲的に授業に参加できる。 ②データの意味、関数・操作等の理解 ③1時間の学習内容と問題の意味を正しく理解しなければならない。 ④ sum 、 絶 対 番 地 、 割 合 の 計 算 、 % 表 示 、 罫 線 表 示 作表について・・・・・・ 知識・理解、思考・判断 ①データを基に見やすく・わかりやすい表を作成することができる。 ②凡例やデータ数値について適切に表示することができる。 ③データ領域を正しく理解できた。 問題の解答・・・・・・・ 思考・判断 ①問題の意味を理解し、間違いのない解答を導き出すことができる。 発表・・・・・・・・・・ 技能・表現 ①グラフを基に問題に対する解答を分かりやすく、さらに正しく伝えることがで きる。 (生徒作成グラフの事例) (生徒解答例) (ア ) 塩 谷 地 区 の 出 身 者 数 の 動 向 ①減ってきている。 ②年々に減ってきている。 ③約50%ずつ減ってきている。 ④塩谷地区の出身者数は、年々減少していっている。 平成9年から平成17年にかけてだんだん減ってきている。 ⑤平成9年に比べ、平成14年、平成17年は減少している。 ⑥塩谷地区の出身者が平成9年から平成17年までにかけて約15%も減っている。 (イ)平成21年度の予想 (生徒解答例) ①宇都宮地区が増えて行って、逆に塩谷地区が減って行くと思います。 ②20年には、高根沢・宇都宮・那須烏山・那珂川地区の出身者数が、更に増えると思う。 ③塩谷地区は平成14年と17年になって減っているので平成20年になっても減少していくと思う。 宇都宮地区はだんだんと割合が上がっていくと思う 他はあまり変わらないと 思う ④宇都宮地区の出身者数が増えると思う。 那須烏山、那珂川の出身者数が増えると思う。 塩谷地区の出身者数が減りそう。 高根沢地区はあまり変わらない。 芳賀地 区の出身者数はあまり変わらない。 ⑤塩谷は、相変わらず減ってそう。 芳賀地区は、変わらない。 高根沢は、変わらず。 高根沢地区・その他は、変わらない。 宇都宮地区は、増加、塩谷地区は、減少。 ⑥宇都宮地区と那須烏山・ 那珂川地区は増加していくと思う。 高根沢地区・その他の地区は変わらないと思う。 塩谷地区は、減少していくと思う。 芳賀地区は、変わらないと思う。 ⑦宇都宮地区の出身者数は増えていくと思う。 塩谷地区はこのまま減っていくと思う。 高根沢地区とその他の地域はあまり変わらないと思う。 芳賀地区は少しずつ減っていくと思う。 那須烏山・那珂川は増えていくと思う。 ⑧高根沢地区は増えていると思う。 宇都宮地区は増えていると思う。 那須烏山・那珂川は増えていると思う。 塩谷地区は減っていると思う。 芳賀地区はあまり変わっていないと思う。 その他の地区はあまり変わってないと思う。 ⑨芳賀地区の割合が0.4以下になっていると思う。 宇都宮地区の割合が多くなっていると思う。 那須烏山・那珂川は徐々に割合が多くなっていると思う。 高根沢地区が1%ぐらいあがっていると思う。 その他の地区はあまり変わっていないと思う。 高根沢地区の割合よりも宇都宮地区のほうが割合が高くなると思う。 全体的な割合で一番多いのは宇都宮地区だと思う。 塩谷地区は徐々に減少していくと思う。 研究授業の模様 説 明 解答例の提示 ⑧実施結果 授業の最終目標でもある生徒発表については、少人数の生徒のみ発表ができたが充分で な か っ た 。そ の 為 、次 の 授 業 で 発 表 を 継 続 さ せ 、プ リ ン ト の 提 出 で 評 価 を 行 う こ と と し た 。 ○作表について 解答例からも判断できるように、各生徒ともに創意のあるものを作表できた。指導の 中で「データ系列」について説明したが、生徒の中にはデータ数値の表示やXY軸の 単位や表題についても自ら考え工夫したものが目立った。また、グラフの種類につい ても折れ線以外に実に様々なものを作成している。問題の趣旨を正しく理解し、使用 するデータに対して適切なグラフを見つけることができたと考えられる。 ○分析・将来の予想 授業の目的でもある将来予想についてのコメントにおいては、初めての経験でもある が間違った解答もなく、分析の工夫が見受けられる。導き出した解答を文書として表 現することで様々な解答が得られた。同時に、表現力においてかなりの能力差がある ことが判明した。→生徒の解答例参照 ○発表 多くの生徒の発表はできなかったが、解答には間違いはなかった。ただし、文章の表 現と同様に発表についても、表現力不足であることが判明した。 ⑨課題 知識・技能については、問題ない授業でも具体的に表現力を要する授業展開を導入し た結果、今後指導しなければならない要素が確認できた。まさに、思考・判断能力と 技能・表現能力の指導の必要性が感じられた。 ○おわりに 将来、社会において必要となる好ましい人間関係や豊かな人間性を身につけさせること は、高等学校教育のねらいにとどまらず、従来の商業教育からなる近年のビジネス教育の 根 底 を 成 す も の で あ る と 言 え ま す 。 換 言 す れ ば 、 現 在 の 「 ビ ジ ネ ス 教 育 」 は 、” 人 を 創 る 教育の源”と考えることができます。 また、このように重要かつ確実性を有する商業科目群を指導する場合、私たちは常に教 科指導において「生きる力」を涵養するための指導上の工夫・改善を考えなければなりま せん。大きな教育の節目ともいえる現在、教基法とその理念を充分に理解し、同時に商業 教育で伸長すべき確かな学力は何か、更には豊かな人間性をどのように育成するのかを考 え 、「 生 き る 力 」 を 涵 養 し な け れ ば な ら な い の で す 。 指導においては充分に観点別評価と規準を確立しすることで、確実に学力の向上が見込 まれると考えられます。結果として、商業教育の素晴らしさや魅力、そして必要性が認め られるのではないでしょうか。 教育環境が著しく変化している言葉を慢性的に耳にしますが、主体としての生徒・家庭 ・地域の変化が先行している観があります。しかし、現実には私たち教師側の教育の在り 方について大きな変化・変革が訪れているのではないでしょうか。今後も私たちは、限ら れた時間の中で教育における新たな、そして様々な問題を解決し、確実で満足な指導を実 施しなければならないと思われます。 以 記載責任 教諭 添田 上 修