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11視覚芸術論レジュメ.cwk (WP)

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11視覚芸術論レジュメ.cwk (WP)
 2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 1 1. 授業の概要と導入
[授業の概要] 美や芸術という、普段もっぱら感性的にとらえ、享受しているものを学問的対象として考察し、
論ずるなら、どのような論理的アプローチが可能であろうか?
当科目は、まず古代ギリシアを起源とする西洋美術を研究対象とした美学や美術史学の基本的な問題
意識と概念、および方法論から始める。次に19世紀半ばから20世紀半ばまでの芸術を論じたモダニズム
理論を検証し、さらに私たちと同じこの時代に生み出されている現代アートが置かれている状況や、現
代アートがなにをどのように表現しているのかを考察していく。
また、芸術/非芸術の区分を超えた視覚文化という広い視野のもとで「美」や「芸術」という概念をと
らえなおしたり、「イメージを見る」ということが文化や社会の中でどのように機能しているかをも問
うていく。
[到達目標] 視覚芸術の歴史と様々な芸術論の基礎的知識を習得し、それを足がかりとして美や芸術について自分で
考え、言葉にしていく力を身につけることを目標とする。
[授業計画]
09/28 1. 授業の概要と導入 (+プリント配付、機材の調整)
授業内容と進行の予定、成績評価方法についての説明。
小テストやレポートについての説明は初回しか行いませんので必ず出席して下さい。
10/05 2. 様式論(1) 中世キリスト教美術、ルネサンス
10/12 3. 様式論(2) 古代ギリシア、ロココ、新古典主義、ロマン主義
10/19 4. 様式論(3) ルネサンスとバロック
10/26 5. 意味論(1) イコノロジーとイコノグラフィー
11/02 6. 意味論(2) マニエリスムとネーデルラント絵画
11/09 7. モダニズム論(1) 印象主義と表現主義
11/16 8. レポート1提出および小テスト1と解説
11/23 9. モダニズム論(2) 抽象絵画とフォーマリズム
11/30 10. モダニズム論(3) アヴァンギャルドと反芸術
12/07 11.視覚論(1) 近代の視覚性
12/14 12.視覚論(2) 写真の視覚性
12/21 13.視覚論(3) 視線の政治学
01/11 14.視覚文化論(2) 現代アートとサブカルチャー
01/18 15.レポート2提出および小テスト2と解説
[成績評価方法]
平常点評価 100 % 8回目と15回目の授業内で40点満点の小テストを2回行い、それぞれの答案用紙
とともに10点満点のレポートも2回提出する。
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 2 小テストは選択問題と記述問題によって、授業内容の習熟度と論述における合理性及び独自性を見る。
レポートは授業内で配付する所定の用紙を用い、授業内容の理解度と参考文献等による自主学習の
度合いを見る。
2回のレポートはどちらもプリントともに配付するA3の所定の用紙で、この用紙1枚の両面に自由に
授業内容のまとめや参考文献等で調べた内容を書き込み、テストの際に参照してよい。ただし、自筆に
限り、コピーや貼付けは不可。
テスト日に欠席する場合は要相談。実習や部活動等、公欠によってどちらかのテストを欠席した場合、
これまではレポートを提出した上で、受験したテストの点数を倍に措置をとってきました。
[受講および研究に関するアドバイス]
参考文献や参考ウェブサイトおよび配付資料は、次の授業用ホームページでも公開しています。
http://www.eonet.ne.jp/~artichoke/ (立命館大学のWebCTではありません)
「Class」のページに配付資料、「Links」のページに参考URLのリンク、
「News」のページに連絡事項などを掲示
授業中に提示する画像は毎回50点以上あり、画質やサーバーの容量や著作権等々の理由により、
配付資料やホームページでの公開は行っていません。よって、授業中は作品画像を見ながら素速く
メモを取っていく集中力が必要となります。
[授業外学習の指示]
授業で提示する作品の多くはインターネット上で検索して見ることができるので、参考文献と併せて
授業の復習に役立てましょう。
授業内容に関連した展覧会があれば紹介し、自主的な美術展見学や作品鑑賞を推奨
[参考文献]
大森淳史、川田都樹子、岡林洋編『アートを学ぼう』ランダムハウス講談社、2008年
金悠美『美学と現代美術の距離』東信堂、2004年
高階秀爾監修『カラー版 西洋美術史』美術出版社
末永照和監修 『カラー版 20世紀美術史』美術出版社、2000年
太田喬夫編『芸術学を学ぶ人のために』世界思想社、1999年
ジョン・A・ウォーカー/サラ・チャップリン『ヴィジュアル・カルチャー入門』晃洋書房、2001年
その他、授業中に紹介
[備考]
・出席は取りません。授業は全授業出席している受講生を念頭に置いて進めていきます。よって、
公欠を除く欠席や遅刻・途中退出によって、授業の進行についていけなくなったり、連絡事項や
試験問題についてのヒントを聞き逃したりしても、フォローはないことを理解しておいてください。
・質問・連絡は基本的に教室で直接行うこと。
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 3 2. 様式論(1) 中世キリスト教美術、ルネサンス 様式:あるグループの作品に共通する形式(かたち、外見)の特徴
時代様式、地域様式、個人様式
西洋美術史 略歴年表
先史時代
石器時代
BC30000∼BC5000
BC 5000∼
メソポタミア
BC 3000∼
エジプト
BC 3000∼
エーゲ海
BC 600∼BC 323
ギリシャ
BC 323∼AD 476
ローマ
3世紀∼10世紀
初期キリスト教
330∼
ビザンティン
10世紀∼12世紀
ロマネスク
12世紀∼14世紀
ゴシック
13世紀∼14世紀
初期ルネサンス
14世紀∼16世紀半
盛期ルネサンス
近世
16世紀半
マニエリスム
(近代)
14世紀∼16世紀
北方ルネサンス
17世紀
バロック
18世紀
ロココ
18世紀半∼
新古典主義
1780ʼS∼1830ʼS
ロマン主義
1830ʼS∼
自然主義
1850ʼS∼
写実主義
1870ʼS∼
印象主義
古代
中世 476∼14 世紀
近代
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 4 様式の変化を研究する美術史の方法
美術史家ジョルジョ・ヴァザーリ Giorgio Vasari 1511-74 (イタリア)
『いとも卓越した画家・彫刻家・建築家』、通称『芸術家列伝』1550年に初版→1568拡大版 邦訳『ルネサンス画人伝』(平川祐弘訳)白水社、1989
『ルネサンス画人伝 続』(平川祐弘訳)白水社、1995
『ルネサンス彫刻家建築家列伝』(上野恒夫訳)白水社、1989
1 幼年期 自然を範 Cimabue c.1240-1302?
Giotto c.1267-1337
2 青春期 古代を範 Masaccio 1401-28
Brunelleschi 1377-1446
Donatello 1386?-1466
3 壮年期 完璧 Leonardo da Vinci 1452-1519
Michelangelo Buonarroti 1475-1564
Raffaelo Sanzio 1483-1520
中世以降衰退していた美術の再生 rinascita とイタリア美術の栄光を三期に分けて跡づける
rinascita → 仏.renaissance
ヴァザーリの美術の価値基準とは?
中世ヨーロッパ キリスト教が思想的にも社会的にも強大・・・神や教会中心
精神を尊び、肉体や感覚を否定
↓
ルネサンス(近代の始まり) ギリシャ文化の復興+人文主義・・・人間中心
精神+知性と協調性を尊び、感覚も肯定
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 5 3. 様式論(2) 古代ギリシア、ロココ、新古典主義、ロマン主義
美術史家ヨハン・ヨアヒム・ヴィンケルマン Johann Joachim Winckelmann 1717-68 (ドイツ)
『ギリシャ芸術模倣論』1755
『古代美術史』1764
邦訳、(中山典夫訳)中央公論出版社、2001
1古い様式 BC7世紀 (アルカイック期)
猛々しい勢いを持つが、堅い。力強いが優美さに欠ける。
2大いなる様式 BC5世紀頃 (クラシック期)
硬さではなく鋭さに。美しく、高貴に、偉大に。美しくあるより偉大さが勝る。
彫刻家フェイデアスPheidiasやポリュクレイトスPolykleit
3美なる様式 BC4世紀 (クラシック期)
優美。高度な美の理念。ギリシア美術の最盛期
彫刻家プラクシテレスPraxitelesやリシュッポスLysippus
4模倣の様式 BC4∼1世紀 (ローマ時代、ヘレニズム期)
先に進めず後戻り。独自の研鑽の足りない分、入念な仕事に。細部にこだわる。
穏やかではあるが気の抜けた、可憐ではあるが内容のない造形
ヴィンケルマンの著作の目的
1. 美術の誕生、生長、変化、衰亡の命ある流れを古代の文献と美術遺品で歴史的に証明。
2. ギリシャ美術の卓越性を体系的に論拠。
「高貴なる単純さと静かなる偉大さ」
3. 美術とは何か、その本質的な意味をギリシャ美術に即して解明。
ヴィンケルマンの同時代美術への評価は?
ヴィンケルマンの著作の影響力は?
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 6 4. 様式論(3) ルネサンスとバロック 美術史家ハインリッヒ・ヴェルフリン Heinrich Wölfflin 1864-1945 (スイス)
『美術史の基礎概念 ─近世美術における様式発展の問題』1915
邦訳、(海津忠雄訳)慶應義塾大学出版会、2000
盛期ルネサンスとバロックの美術を理解するための科学的方法を樹立
ルネサンス - バロックの五つの対立概念
1 線的−絵画的
線的(彫塑的):人物や事物が背景からくっきりと浮かび上がる。触覚的
絵画的:人物や事物が全体的に融合されている。視覚的。
2 平面−奥行き、
平面:全体を平面、あるいは層の並列で表す。
奥行き:前後関係の奥行きを強調。
3 閉じられた形式−開かれた形式
閉じられた形式:規則的構造
それ自身で完結する構成
開かれた形式:不規則的、否構造的。
4 多数性−統一性
多数性:各部分が独立し、多元統一を形成
統一性:部分が全体のうちに融合して単一的な統一を示す
5 明瞭性 ─ 不明瞭性
(絶対的明瞭性─相対的明瞭性)
『基礎概念』で例示される代表的な芸術家
ルネサンス
Botticelli 1444/5-1510
Bronzino 1503-72
Tiziano c.1485-1576
バロック
Velázquez 1599-1660 スペイン
Rembrandt 1606-69 オランダ
Vermeer 1632-75 オランダ
Rubens 1577-1640 フランドル
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 7 5+6. 意味論(1) 、(2)
美術作品の意味・内容を論理的に読み解こうとする方法論
イコノグラフィー Iconography(図像学)
ギリシャ語 eicono graphia 「像の記述」
↓
ルネサンス期、古代の著名人の肖像画を鑑定する画像論に
↓
19世紀、キリスト教考古学で学問的形象論として発展
↓
美術作品の寓意的・象徴的形象分析
美術史家エルヴィン・パノフスキー Erwin Panofsky 1892-1968 (ドイツ生まれ)
『イコノロジー研究 ─ルネサンス美術における人文主義の諸テーマ』1939
邦訳、(浅野徹、阿天坊耀、塚田孝雄、永澤峻、福部信敏訳)筑摩書房、2002
イコノロジー Iconology(図像解釈学)を提唱
意味解釈の三段階
第1段階 自然的意味:前イコノグラフィー的記述
第2段階 伝習的意味:イコノグラフィー的分析
第3段階 内的意味・内容:イコノロジー的分析
イコノロジー的分析
無意識に一人の人物によって定められ、一つの作品に凝縮される国家、時代、
階級、宗教的もしくは哲学的信条の基本的態度を明らかにする根本原理。
美術史家エルンスト・ゴンブリッチ Ernst Gombrich 1909-2001 (オーストリア生まれ)
「イコノロジーの目的と限界」1972(『シンボリック・イメージ』平凡社、1991年所収)
イコノロジーの目的は、作品の本来の構想を再構成すること。
作者だけでなく、注文主の意図や当時の政治・社会等の条件の証拠が必要。
それらが全て揃わなければ、不可能。ここに限界がある。
美術史家ルーロフ・ファン・ストラーテン Roelof van Straten (オランダ)
『イコノグラフィー入門』1985、邦訳、(鯨井秀伸訳)星雲社、2002
パノフスキーの3段階目を二つに分ける
3.イコノグラフィー的解釈
芸術家によって明瞭に意図された意味
4.イコノロジー的解釈
芸術家によって明瞭に意図されていないが作品に含まれている意味
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 8 線図 イコノグラフィーと
イコノロジーの各段階
『イコノグラフィー入門』p.32
イコノグラフィーの具体例
『イコノグラフィー入門』p.34
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 9 7. モダニズム論(1) 印象主義と表現主義
モダンアートのはじまり
古代ギリシャ・ローマやルネサンスを模範とするアカデミーからの離反
↓
権威ある芸術から、新しい芸術の可能性へ
写実主義 Realism
Gustave Courbet 1819-77
バルビゾン派
Jean-François Millet 1814-75
印象主義 Impressionism 1874年に第1回印象派展開催 アカデミー主催のサロンからの離反
Claude Monet 1840-1926
August Renoir 1841-1919
・外光のもとで制作→固有色からの離反
・筆触による色彩分割(=視覚混合)
・近代的なテーマ
印象とは見る者の眼を通して知覚された自然を意味する。・・・一つのリアリズム
ポスト印象主義 Post Impressionism 印象主義から各々独自の方向へ
Vincent van Gogh 1853-1890
Paul Gauguin 1848-1903
Paul Cézanne 1839-1906
表現主義 Expressionism 20世紀初頭のドイツで興ったドイツ表現主義は、激しい色彩と筆触
代表的な二つのグループ、
・ブリュッケ(1905-13)Kirchner 1880-38 ・青騎士(1911-14)
中心的画家 ワシリー・カンディンスキー Wassily Kandinsky 1866-1944(ロシア生まれ)
『芸術における精神的なもの』1912
邦訳『抽象芸術論 : 芸術における精神的なもの』(西田秀穂訳)美術出版社, 2000
抽象絵画に至る三段階
1. 印象:外的な自然からの直接的印象
2. 即興:精神的性質を持った大部分無意識的な偶発的表現
3. コンポジション:精神的内面性を時間をかけて練り上げて形成したもの
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 10 2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 11 9. モダニズム論(2) 抽象絵画とフォーマリズム
抽象表現主義:1940年代にアメリカで興る抽象絵画運動の呼び名の一つ
Jackson Pollock 1912-56
Willem de Kooning 1904-97 Barnett Newman 1905-70 Mark Rothko 1903-70
美術批評家ハロルド・ローゼンバーグ Harold Rosenberg 1906-1978
論文 American Action Painters 1952 「ある時、一群のアメリカの画家たちにとってキャンヴァスは実際のあるいは想像上の対象を
再生し、再現し、分析し、あるいは表現する空間であるより、むしろ行為する場としての
闘技場に見え始めた。キャンヴァスの上で起こるべきものは絵ではなく事件であった。」
従来の絵の見方
「キャンヴァスに何が、どう描かれているか」
↓
ローゼンバーグのアクション・ペインティングという新しい絵画のとらえ方
「キャンヴァスの上で何が、行われているか、行われていたか」
‖
画家の身体行為とその痕跡としての絵画
↓
「パフォーマンス」という新しい芸術表現
では、作品としての絵画の質はどうなのか?
作品それ自体の質を問うのがグリーンバーグの批評理論
美術批評家 クレメント・グリーンバーグ Clement Greenberg 1909-94
邦訳『グリーンバーグ批評選集』(藤枝晃雄編訳)勁草書房、2005
論文「アヴァンギャルドとキッチュ」1939
論文「『アメリカ型』絵画」1955
論文「モダニズムの絵画」1960
モダニズムの本質=自己批判であり、モダン・アートは「純粋さ」を求めて自己限定していった。
最終的に以下の三つの要因へと還元される
平面性
支持体の形
絵の具の特性
それ以外の要因、例えば三次元性や文学性は放棄される・・・厳格なフォーマリズムFormalism
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 12 10. モダニズム論(3) アヴァンギャルドと反芸術
アヴァンギャルドavant-garde (=前衛的)なモダンアートの展開は、
反「芸術」、反「美学」の動きを含む
例えば、1910年代の未来派 FUTURISMやダダ DADAは
既成の価値としての「芸術」や芸術の制度を批判
美学の中にも反「芸術」の動き 哲学者ジョン・デューイ John Dewey 1859-1952
唯一の美学的著作『経験としての芸術』1934
邦訳『芸術論 経験としての芸術』(鈴木康司訳)春秋社、1964
この著作の中で重要な概念「一つの経験」
「経験された事象が一定の経過を経て完成する時、我々は一つの経験を得る。
その時、そしてその時にのみ、経験は内面的に統合されて、経験全体の流れの中で
他の諸経験から区別されるのである。・・・こうした経験は一つの統一体であり、
それ自体を個別化しようとする質と自己充足性を備える。それが一つの経験なのである。」
芸術は経験そのものの性質を理解する鍵
しかしデューイは美術館を批判
芸術と日常生活の連続性
芸術は人間の生を豊かにするという実用性を持つ
↑
↓
芸術の純粋性・自律性を説くモダニズム
デューイの美学は連邦芸術事業計画FAP (Federal Art Project) 1934-43 に反映
大恐慌の中、生活に困窮する芸術家計4万人を雇い、約15万点の作品を制作
FAPのディレクター ホルガー・ケイヒル Holger Cahill 1887-1960 はデューイの美学を実践
後に全米に数多くのギャラリーやアートセンターを設立
参考文献
ニコス・スタンゴス編『20世紀美術─フォーヴィスムからコンセプチュアル・アートまで』
(宝木範義訳)PARCO出版、1997年
金悠美『美学と現代美術の距離─アメリカにおけるその乖離と接近をめぐって─』東信堂、2004年
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 13 11. 視覚論(1) 近代の視覚性
ハル・フォスター編『視覚論』(榑沼範久訳)平凡社、1999年
原題 Vision and Visuality, 1988
Vision 視覚 = 肉体のメカニズムとして形成される
Visuality 視覚性 = 社会的事実として形成される
われわれは見たものを社会的環境に由来する認知コードで分節化する
「媒介されない」視覚 = 世界を見ること
「媒介された」視覚 = イメージ(画像・映像)を見ること
近代は視覚が支配的な時代 さまざまな視覚装置の発明がある
・透視図法Perspective(幾何学的遠近法/線遠近法)の発明
1420年代 ブルネッレスキ Fillippo Brunelleschi
「絵画とは与えられた距離と視点と光に応じて或る画上に線と色で
人為的に表現されたピラミッドの裁断面に他ならない」
レオン・バティスタ・アルベルティ『絵画論』1436
透視図法に基づいた絵を描くための様々な装置 そのうちの一つCamera Obscura
ピンホール現象を利用
透視図法の不自然さを指摘
エルヴィン・パノフスキー『象徴形式としての遠近法』1924-5
邦訳 『<象徴形式>としての遠近法』(木田元訳)哲学書房、1993年
・望遠鏡の発明
1608 リッペルハイ Jan Lipperhey
1609 ガリレオ Galileo Galilei 望遠鏡で木星の衛星発見 → 地動説を確信
・顕微鏡の発明
1590年頃 ヤンセン親子 Hans & Zacharias Jansen
17世紀後半 レーウェンフック Antoni van Leeuwenhoek
顕微鏡で赤血球、微生物、精子を発見
・写真の発明
1839 ダゲール Louis Jacque Mande Daguerre(1787-1851)
ダゲレオタイプと命名 「媒介された視覚」の展開
↓ ますます視覚が支配的に・・・視覚中心主義 Ocularcentrism へ
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 14 12. 視覚論(2) 写真の視覚性
絵画とは異なる写真の特徴
・カメラという光学装置による撮影+現像という化学的処理
・客観性
・複数性
・瞬間性
・独自の画質
最初期の写真
1826頃 ニエプス Nicéphore Niépce 1765-1833 ヘリオグラフィで撮影成功
1839年8月19日 ダゲールがダゲレオタイプをフランスの科学アカデミー+芸術アカデミーで発表
①銅板に銀メッキ+ヨウ素結合させた感光板
↓
②暗箱に入れて露光(潜像ができる)
↓
③銀に水銀を結合させて現像
↓
④定着(+調色、枠装)
1841 トールボット William Henry Fox Talbot 1800-77 がカロタイプで特許取得 ①銀とヨウ素の混合液を塗布した感光紙/印画紙
↓
②暗箱に入れて露光
↓
③洗浄+ハイポで定着ネガ作成
↓
④ネガを別の感光紙に重ねて露光
↓
⑤洗浄+定着
1844に史上初の写真集『自然の鉛筆』出版
19世紀の写真家によるイノベーションがもたらした視覚性
ナダール Nadar 1820-1910
1854 肖像写真スタジオ開き大人気に
1858 航空写真で特許
1861 アーク灯で地下を撮影
マイブリッジ Eadweard Muybridge 1830-1904
1878 疾走する馬の連続写真を撮影
1887 Animal Locomotion として出版
【参考文献】
クエンティン・バジャック『写真の歴史』創元社、2003年
横江文憲『ヨーロッパの写真史』白水社、1997年
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 15 13. 視覚論(3) 視線の政治学
Gaze: 眼差し → 見る主体 と 見られる客体 が存在する。 見る者と見られる者の関係は対等だろうか? 見る者と見られる者の間にある力関係が「媒介された」視覚に現れているのではないか?
ex. パリ人類博物館やロンドン医学会が所蔵する写真とナダールの肖像写真は同じか?
近代を支える科学・・・合理性+客観性・・・五感の中で最も客観的とされる視覚
西洋中心主義が潜む視覚中心主義
絵画をはじめとする芸術作品の中にも
ミシェル・フーコー『監獄の誕生─監視と処罰』1975年 (邦訳 田村俶、新潮社、1977年)
Panopticon 一望監視装置/全望監視装置
1791 哲学者ジェレミー・ベンサムが構想した合理的な監視システム
眼差しが持つ力・・・権力の行使
「見られることなく見るまなざし」
絵画作品に関わるまなざし
まなざしがもたらす快楽・苦痛・支配・反感
Edouard Manet 1832-83
Alexandre Cabanel 1823-89
Jean-Auguste-Dominique Ingres 1755-1814
現代美術作品に関わるまなざし
Cindy Sherman 1954-
参考文献
ジョン・バージャー『イメージ─Way of Seeing』(伊藤俊治訳)PARCO出版社、1986年
ジル・モラ『写真のキーワード ─技術・表現・歴史─』昭和堂、2001年
グリゼルダ・ポロック『視線と差異−フェミニズムで読む美術史』(萩原弘子訳)新水社、1998年
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 16 14. 視覚文化論(2) 現代アートとサブカルチャー
1. サブカルチャーを意識的に素材とテーマにした現代アートの出現
1960年代アメリカでおこる Pop Art
1962年にニューヨークの画廊で開かれた「New Realist」展がはじまり
直後からマスコミが「ポップ・アート」と呼ぶ
Andy Warhol 1928-87
Roy Richtenstein 1923-98
素材はマンガ、映画、雑誌、広告、家庭用品(=大衆文化)
抽象絵画と違って、「軽い」?、「楽しい」?、「明るい」?、「親しみやすい」?
技法:コラージュ、アッサンブラージュ、シルクスクリーン
イメージの反復、引用、機械的制作方法 制作の労力軽減
具象、機械的な制作方法・・・反抽象表現主義
引用・・・反オリジナリティ
大衆文化と芸術の境界を崩す・・・反純粋芸術
社会批判やメディア批判の問題含む
ウォーホルの〈惨劇〉シリーズ
2. 1990年代以降の日本のサブカルチャーを代表するオタク系文化
「オタク」についての諸議論
サブカルチャー文化論、社会学、精神分析、ジェンダー論、ポストモダン論、経済学等々
2000 村上隆 1962- 「スーパーフラット」展 アートとしてのオタクが注目される+批判
Super Flat宣言(『スーパーフラット』)
「・・・日本のいまはsuper flat。
社会も風俗も芸術も文化も、すべてが超2次元的。この感覚は日本の歴史の水面下を澱み
なく流れつづけ、とくに美術にわかりやすく顕在化してきた。現在では強力なインターナ
ショナル言語となった日本のスーパーエンタテインメント、ゲームとアニメにとくに濃密
に存在している。・・・私達のリアリティはどこにあるのか。
この本は「super flat」を、自分達の、つまり日本文化を潜在的に構築してきた、そし
て、いまもしつづけている大きな感性であり世界観として捉え直し、過去から現在、そし
て未来へとつながるオリジナルなコンセプトとして、提示していくためのものである。」
2011年度後期 視覚芸術論 W 担当:竹中 悠美 17 「スーパーフラット」という概念への疑問 日本美術との関連づけが恣意的、オタク文化を日本の伝統の枠に閉じこめる、
村上隆にはオタク的感性が欠如している・・・作品には「萌え」がない
東浩紀:村上はオタクの外部にあるからこそ、オタク批評が可能となる。
ルイ・ヴィトンとのコラボや「スーパーフラット・ミュージアム」という戦略における
オタク的価値観および消費活動のアートへの導入
↓
子供服メーカーを著作権侵害で提訴した村上にとっての「アート」とは? 参考文献
村上隆『スーパーフラット』、マドラ出版、2000年
斉藤環『戦闘美少女の精神分析』、太田出版、2000年
東浩紀『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』、講談社、2001年
東浩紀編著『網状言論F改 ポストモダン・オタク・セクシュアリティ』、青土社、2003年
森川嘉一郎編『おたく:人格=空間=都市 ヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展-日本館
カタログ、幻冬舎、2004年
大塚英志『「おたく」の精神史 1980年代論』、講談社、2004年
椹木野衣『美術になにが起こったか1992−2006』、国書刊行会、2006年
四方田犬彦『「かわいい」論』、筑摩書房、2006年
岡田斗司夫、唐沢俊一『オタク論!』、創出版、2007年
会田誠『Monument for Nothing』グラフィック社、2007年
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