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スクリプトに基づくストーリーの記憶における感情の効果 心理学専攻 4年

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スクリプトに基づくストーリーの記憶における感情の効果 心理学専攻 4年
スクリプトに基づくストーリーの記憶における感情の効果
認知ゼミ 4 年
大矢智子
目的 スクリプトに基づくストーリーに主人公の感情の記述を加えることで、スクリプトに典型的な行動の記憶が促進されるという
仮説を検討すること。また、非典型的な行動も含ませ、consistency effectが見られるのか、また、ソース・モニタリングを行うこ
とで、再認時の情報ソースに行動の典型性による違いが見られるのかを検討する。consistency effectとは、期待に一致した項目よ
り不一致の項目の方がよく再生・再認されるという現象である。さらに、Remember/Know手続きを導入し、スクリプトの記憶を
個人の主観的意識経験という点から検証する。
方法
6 つのスクリプトに基づくストーリーを提示し、直後と 24 時間±4 時間後に再認テストをした。ストーリーは、スクリプト
に典型的な行動と非典型的な行動で構成されるニュートラルバージョン(ニュートラル群に提示)と、ニュートラルバージョンに
ポジティブな感情の記述を加えたポジティブバージョン(ポジティブ群に提示)と、ネガティブな感情の記述を加えたネガティブ
バージョン(ネガティブ群に提示)の 3 パターン。再認テストでは、ストーリー内で“述べられていた”と判断したものについて
Remember/Know判断し、Remember判断をしたものについては、ソース・モニタリングとして、“知覚”“思考”“感情”“文脈”
のうち、回想しているものすべてを選択した。
“知覚”
;視覚的な記憶や聴覚的、
“思考”
;イメージしたことや連想したこと、
“感情”;
自分が持った感情、“文脈”;その内容が出てきた位置や前後の内容であった。
結果
①正再認率(図 1)
典型的行動は直後であっても非典型的行動よりも再認されにくく、時間の経過とともに大きく忘却さ
れた。→ストーリーの理解と記憶に各個人の持つスクリプトが利用されていたことの反映。非典型的行動の再認成績が非常に高い。
→consistency effect。24 時間後の典型的行動について、ネガティブ群は、ポジティブ・ニュートラル群よりも正再認率が有意に低
かった。→非典型的行動では見られなかったので、スクリプトに特有の感情の効果であると言える。
提示された項目に限った場合の正再認率(図 2)
②感情の記述と結び付けて
ポジティブ・ネガティブ群の直後で典型的行動が非典型的行動と同じくらいよ
く再認された。→感情の記述を伴うと直後の再認でconsistency effectが生じなくなる。ポジティブな感情の記述と結び付けて提示
された典型的行動は、時間が経ってもよく再認されることが示唆。
③正再認におけるRemember判断率
典型的行動よりも非典
型的行動の方が有意に多かった。Rememberという回想の意識は、典型的行動でも非典型的行動でも時間とともに減少するが、典
型的行動の方が減少の程度が大きかった。→逆にKnowという熟知性の意識は典型的行動の方が有意に多く、時間が経つにつれて増
加。
④正しくRemember判断された場合のソース・モニタリング
非典型的行動の方が情報ソースが豊富。典型的行動では感情
<知覚・思考<文脈という順で、非典型的行動では知覚<感情・思考・文脈という順で情報ソースとなっていた。→典型的行動は
スクリプトを利用しているため文脈に依存して回想、非典型的行動は自分の感情や思考といった内的に得られた記憶が後の回想に
役立っている。群ごとでは、ポジティブ・ネガティブ群は、直後では感情・知覚<思考・文脈という順で情報ソースとし、24 時間
後には感情・知覚<文脈となるという同じ傾向を示したのに対し、ニュートラル群では直後は感情・知覚・思考<文脈、24 時間後
は感情・知覚<思考・文脈という順で情報ソースとする傾向が見られた。→ストーリーの主人公の感情の記述がイメージや連想を
喚起し、直後の再認における意識的な回想に役立っているようである。
率
⑤典型的行動の正再認と誤再認におけるRemember判断
正再認の方が誤再認よりもRemember判断をしていたが、誤再認も約半数がRemember判断されていた。→スクリプトの影響
で虚偽の記憶も鮮明な形で生み出されてしまう。誤再認におけるRemember判断率がニュートラル群は有意に低かった。→ポジテ
ィブ・ネガティブという感情が、ストーリー中で述べられていなかった典型的行動を回想の意識を持って誤って再認することにも
影響。
本研究では、大きくまとめると、時間が経つとポジティブな感情はスクリプトの記憶に促進的に、ネガティブな感情は抑制的に
働く、という相反する効果がある可能性を見出した。
positive
negative
neutral
1.0
0.9
0.8
正 0.7
再 0.6
0.5
認 0.4
率 0.3
0.2
0.1
0.0
正
再
認
率
positive
negative
neutral
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
直後
直後
24時間後
典型的行動
直後
24時間後
24時間後
典型的行動
直後
24時間後
非典型的行動
非典型的行動
図1 正再認率の平均値
図2 感情記述あり項目の正再認率の平均値
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