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ワーキングメモリに情動課題非関連情報が及ぼす影響とその年齢差

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ワーキングメモリに情動課題非関連情報が及ぼす影響とその年齢差
ワーキングメモリに情動課題非関連情報が及ぼす影響とその年齢差
○勝原摩耶 1・苧阪満里子 2・苧阪直行 1
(1 京都大学文学研究科・2 大阪大学人間科学研究科)
キーワード:ワーキングメモリ,高齢者,情動
The effect of task-irrelevant and emotionally information on working memory and its age difference
Maya KATSUHARA1, Mariko OSAKA1 and Naoyuki OSAKA2
1
( Graduate School of letters, KYOTO Univ., 2 Graduate School of Human Sciences, OSAKA Univ.)
Key Words: working memory, ageing adults, emotion
目 的
数々の先行研究から、高齢者においてワーキングメモリの
低下が確認されている。このようなワーキングメモリ低下の
背景としては,注意のフォーカスの変更や、課題非関連情報
の抑制(Hasher and Zacks,2007)など注意の柔軟かつ能動
的なコントロールに支障が出ていることが挙げられている。
このような高齢者のワーキングメモリ過程に影響を与える要
因のひとつとして情動情報がある。情動的な情報の記憶や注
意には比較的加齢の影響が少ないことが確認されているが,
課題非関連な negative 情動情報を抑制することが求められ
るストループなどの注意課題においては,課題成績の低下が
見られる(Pratto & John,1991)
。一方,positive 情報の処理
の際には,そのような自動的かつ優先された処理は行われな
いとされる。さらに,positive mood 誘起時には,global-local
task において注意のフォーカスの範囲が拡大することや
(Fredrickson and Branigan,2005)ハノイの塔,ロンドン塔
課題などの創造性課題の遂行において,認知のレパートリを
増加し,認知課題の遂行が促進されることが示されている
(Isen et al.,1987)
。このような positive mood の認知課題促
進の背景を,ドーパミン仮説(Ashby et al.,1999)では,ド
ーパミン投射のレベルの増加によって,
前頭葉への情報の SN
比が高くなるためと説明している。しかし,positive 情報そ
のものがワーキングメモリにおいて必要とされる注意の運用
に与える影響についてはほとんど検討されていない。
本研究では、高齢者における抑制機能の低下と,情動情報の
情動価による処理特性の違いがワーキングメモリ過程にどの
ような影響をあたえるのかについて検討した。
文の音読処理と並行して文中の語の保持が求められる
reading span test(RST)で negative な課題非関連情報(文)
の抑制が求められる場合,自動的な処理が優先される高齢者
ではより情動的に neutral なターゲット語の保持成績に低下
がみられると考えた。一方, positive の課題非関連情報に対
しては抑制のコストがかからず,positive mood と同様のメカ
ニズムでワーキングメモリ過程が促進されるのであれば,高
齢者,若年者共に neutral 語の保持成績が上がると予想した。
方
法
実験参加者:高齢者 36 人(男性 20 人,女性 16 人,平均年齢
71.7 歳,SD = 5.35),若年者 36 人(男性 18 人,女性 18 人,平
均年齢 19.5 歳, SD = 0.88)
刺激:予備調査を実施し,それぞれ neutral, positive,
negative と評定された 45 文×3 条件を用いた。ターゲット語
は neutral 語であった。
手続き:実験参加者には刺激文の提示後すぐに音読を開始し,
同時に赤い下線を引いたターゲット語を記銘,保持するよう
求めた。実験者は参加者が文を音読するとただちに新しい文
を提示した。規定数の文の音読が終了すると、参加者は口答
でターゲット語を系列再生して報告した。一度に報告するタ
ーゲット語の数(set size)は,2 つから始まり,5 試行ごと
にターゲット語の数が増え,最後には 4 つのターゲット語を
報告することが求められた。各条件は 45 試行(2,3,4 の set
size×5 試行)で,条件の実施順序は参加者間でカウンターバラ
ンスした。
分析:情動条件(positive, neutral, negative:被験者内)×set
size(2,3,4:被験者内)×年齢群(高齢者,若年者:被験者間)
の 3 要因混合計画であった。
結 果 と 考 察
以下に各情動条件の set size,年齢群ごとの正答率を記述す
る。3要因分散分析の結果,年齢群の主効果が有意であり(F
,若年者に対して高齢者の正答率が低下
(1,70) = 87.1, p <. 01)
していた。また,情動の主効果(F (2,140) = 12.9, p <. 01)
,が
有意であり,negative 条件の正答率が neutral, positive 条件に
対して低下する一方,positive 条件の正答率は他の2条件と比
較して高かった。さらに,set size の主効果(F (2,140) = 251.6,
p <. 01)が有意であり,set size2,3,4 の順番に正答率が低下
していた。
情動条件と年齢群の交互作用は有意傾向だった(F (2,140) =
2.76, p =.058)
。両年齢群とも情動の主効果が有意であり(F
(2,140) = 14.45, p <. 01, for older adults, F (2,140) = 6.04 p <. 01,
for younger adults),neutral, negative 条件に対して positive
条件の正答率が高かった。
しかし,
高齢者においては negative
条件と neutral 条件の間に有意な成績差(p <.01)が見られる
一方,若年者においては有意な成績差が見られなかった。
これらの結果
から,高齢者
のワーキング
メモリ過程に
おいて,若年
者よりも
negative 情
報による妨害
の効果がある
ことが示され
る一方,positive 情報の干渉はなく,むしろ,課題遂行の過
程が促進されることが示された。
その他の分析の詳細,考察については,学会当日,ポスター
にて発表する。
引用文献
Hasher, L., Lustig, C., & Zacks, R. T. (2007).Inhibitory mechanisms and the control of
attention. In A. Conway, C. Jarrold, M. Kane, A. Miyake, A., & J. Towse (Eds.), Variation
in working memory. Pp. 227-249. New York: Oxford University Press.
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