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家庭用燃料電池の普及拡大策について ~東京都北区
家庭用燃料電池の普及拡大策について ~東京都北区を事例として~ R07049 高橋 辰弥 担当教員 松村 隆 1. 研究背景と目的 家庭部門での消費エネルギーの半分以上は暖房や給湯 などの熱需要であり、特に給湯は全体の約 3 割と割合が 高い。したがって、家庭でのエネルギー消費の削減を図 るためには熱需要の削減が重要である。この熱需要の削 減対策としては、電気と熱を同時に供給できるコージェ ネレーションシステムが大きな役割を果たしうる。 そこで本研究では家庭でのコージェネレーションシス テムとして2009年から商品化された家庭用燃料電池 (エ ネファーム)を取り上げ、地元東京都北区での家庭用燃 料電池の普及取組について、関係企業などへのヒアリン グ調査や文献調査により検討を行うとともに、同結果を もとに課題解決の提案をまとめることが目的である。 2. 研究の概要 第 1 にエネファームを巡る動向について既存文献等で レビューを行い、現状での問題点を把握した。第 2 に事 例対象地域での取組状況を行政機関及び関係企業への聞 き取り調査により把握し、普及上の問題点について検討 した。第 3 に、以上の結果をもとに今後の普及策の検討 を行う。 3. エネファームを巡る動向 3.1 エネファームのしくみ 燃料電池は 「水の電気分解」 と逆の原理で発電する。エネ ファームは必要な水素源とし て都市ガスを用い、発電の際 に発生する熱を利用してお湯 を作る。装置は燃料電池ユニ ット及び貯湯ユニットから構 成されており、現在市販 図 1、エネファーム外観 1) されているものは、約 2.5m×0.8m の設置スペースが必 要である。 3.2 導入状況 家庭用燃料電池の開発は 10 数年以上前にさかのぼる ことができるが、2005 年からの 4 年間の大規模実証実 験をうけて今回のエネファーム販売・開発に至っている。 東京ガスへのヒアリングによれば、2009 年 2 月の販売 開始以来、 全国で累計約4500台以上が導入されている。 3.3 これまでに指摘されている課題 さまざまな課題指摘があるが、エネファームについて の大きな課題は①高価格及び②スペース制約の 2 つであ り、この点が普及拡大の妨げとなっているとされる 2)。 4. 行政機関及び関係企業等への聞き取り調査結果 4.1 北区役所への聞き取り調査 補助制度:1 台あたり 10 万円の区補助金が出されている。 また、国からは 1 台あたり 130 万円を上限として交付さ れる。両者を併用することは許されているとのこと。 4.2 東京ガスライフバル北区営業所への聞き取り調査 北区における設置状況:表 1 に北区及び周囲の区での設 置状況を示す。同表1のとおり、北区は周囲の区に比べ 台数が尐ないのが現状である。しかしながら、潜在的に は設置可能家庭は 2400 件もあるとのことであった。 表 1 エネファーム設置状況 H21年度(台数) H22年度(~9月)(台数) 表 4、戸建、集合住宅世帯数、割合 新築 既築 新築 既築 北区 6 6 2 5 足立区 11 13 15 16 練馬区 18 28 17 13 年度 取組の状況と課題に関する指摘事項 1) エネファームに対する照会自体は多い。特に、高齢者 からの照会が多いということであった。 2) 太陽光発電との組み合わせ(W発電)の相性が良いの で両者を組み合わせることで普及を進めているとの ことであった。 3) 普及担当の人的資源について聞いたところ専門知識 を持ったスタッフは 2 名との回答であった。 4) 補助制度を持っている区役所とは各種のイベントで は連携していること。ハウスメーカーや工務店などと の連携はとっていないとのことであった。 5) 高価格とスペース制約が普及の妨げになっているこ とは事実とのことであった。 4.3 東京ガス本社への聞き取り調査 課題に関する指摘事項:北区以外の状況を把握するため、 東京ガス本社担当者への聞き取り調査を行った。上記営 業所と概ね同様の内容であったが、追加的な事項は次の とおりであった。 1) エネファームに限らず新製品を定着させるためには 認知度を高める必要があるとのことであった。 2) 導入実績から判断すると分譲住宅では導入困難度が 高く、注文住宅、特に大手ハウスメーカーが扱う高級 注文住宅での導入実績が高いとのことであった。 4.4 UR都市機構への聞き取り調査 スペース制約に関連して、特に集合住宅での導入困難 性が度々指摘されているので、東京都足立区ハートアイ ランド新田三番街の集合住宅で 2006 年に行われた実証 実験の結果について聞き取り調査を行った。 導入概要:35 戸(3LDK) の住戸に設置。右図のよ うな配置(供用部分)で ある。 課題に関する指摘事項 1) 集合住宅におけるス ペース制約が大きい ことは事実であるが、 全く導入できないと いうことではない。正 確には妻住戸(端の住 戸)以外への設置が困 図 2、エネファーム配置箇所 難とのことであった。 2) 給湯槽の小型化は必要だが、家族構成や年齢層によっ てニーズは異なるとのことであった。 3) さらに、スペース制約のなど度々指摘のある事項以外 の問題も大きいとのことであった。具体的にはガス会 社と電力会社との連携の難しさと燃料電池自体の認 知度をいかに高めるか、逆に言うと認知度の低さが導 入の難しさを加速しているとの側面がある。この 2 つの問題は集合住宅独特の問題ではないと思うとの ことであった。 4.5 聞き取り調査結果の考察 1) 北区においては周辺区に比べ導入事例が尐ない。この 点に関し、各区の住宅構成及び関係スタッフの数を調 べた。表 2 は住宅構成を比較したものである。同表の とおり、住宅構成に大きな違いがあり、こうした差が 導入実績の差につながっていることが推測される。 表 2、住宅構成の比較 北区 足立区 練馬区 一戸建 集合住宅 総数 集合住宅 世帯数 世帯人員 世帯数 世帯人員 世帯数 世帯人員 割合(%) 44909 116877 122180 200412 167052 317289 73.1% 93235 267847 222439 396058 315674 663905 70.5% 105205 291374 224427 401719 332794 693093 67.4% また、北区の関係スタッフが 2 名であるのに対し、足 立区及び練馬区のスタッフのうち専門知識を持って いる人数は 10 名であり、こうした専門スタッフの違 いも関係していると考えられる。 2) 高価格とスペース制約が大きな問題であることは否 め無い事実。しかし、認知度の向上については複数の 者から指摘があった。この点は北区に限らないが重要 な点であろう。 3) スペース制約については、分譲住宅と注文住宅との間 で導入困難度に違いがある。また、集合住宅への導入 についても全く不可能ということではなく、さらに小 型化の程度についても年齢や家族構成で異なるとの 指摘であった。北区は周辺区に比べ集合住宅比率が相 対的には高い(表 2)。したがって、住宅特性や住民ニ ーズにあわせた対応が必要であろう。 4) UR都市機構で指摘のあった関係者間の連携につい て、北区での聞き取り調査ではそうした連携事業は確 認できなかった。 6. W発電による環境効果の試算 聞き取り調査時にW発電による効果への言及があった ので、公表資料を用いて、現在は認知度の面で上回って いるオール電化 (+太陽光発電付き) との比較を行った。 図 3 に試算結果を示した。同図のとおり、エネファーム と太陽光発電との組み合わせの方が環境効果が高い。 図 3. 環境効果の試算結果の比較 6.普及拡大策の提案 今後の普及拡大を図るうえでの課題は、①高価格 ② スペース制約 ③認知度向上 ④関係者間の連携体制の 整備 及び⑤技術面での支援に大別できる。 これらの事項のうち、スペース制約などについて、聞 き取り調査の結果等を念頭に置きつつ、改善策を考える と以下のとおりとなる。 1) ニーズに合った複数パターンの小型化:北区では集 合住宅の占める割合が相対的に高い。そこで、装置の 小型化を進めるなかで複数パターンを準備すること は北区における導入量を増すものと思われる。 2) 認知度の向上を図るための情報発信の強化:北区に 限定される問題ではないが認知度向上のための情報 発信は普及拡大の基盤的事項として重要である。 3) 関係者間の連携の強化:行政機関と関係企業との連携 強化のため共催イベントの開催増加を検討するべき である。 4) 技術面での支援体制の強化:関係企業での技術スタッ フの強化は企業努力によるべき問題であるが、環境効 果が高いことや認知度向上効果も考慮すると、環境ア ドバイザーや環境コンシェルジュといった中立的な 専門家の活用が有効である。 7.参考文献 1) 西部ガスニュース・リリース(2009 年 3 月 2 日付) http://www.saibugas.co.jp/info/kouhou/htmls/nr546.htm 2) 駒橋 徐(2009) 、動き出したエネファーム、月刊エネルギ ー(第 42 巻第 8 号) 、pp.10-17 3) 東京ガスエネファームスペシャルサイト http://home.tokyo-gas.co.jp/enefarm_special/index.html