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都市における自転車交通の役割と課題:東京都内
都市における自転車交通の役割と課題:東京都内レンタルサイクル事業を事例として R07039 篠原 潤也 指導教員 松村 隆 1.研究の背景と目的 近年、環境意識の向上、健康問題に対する関心の高ま りなどを背景に、都市を中心に自転車を毎日の交通手段 に用いる人が増えてきている。 こうしたなか、パリ市など海外の都市では自転車利用 促進のためのさまざまな取組が進められてきている。国 内でも、これまでの観光地での取組に加え、都市内での 自転車利用促進の試みが増えてきている。 そこで本研究では、わが国都市内での自転車利用促進 の事例分析を通じて、自転車利用拡大に向けた課題を明 らかにするとともにその解決方法の提案を行う。 2.研究の方法及び範囲 2.1 研究の方法 1) 国内事例として東京都足立区、練馬区、豊島区及び世 田谷区での取組をとりあげ、各事業の実施状況、問題 点などを事業毎に把握する。 2) 上記 4 事業を比較することでレンタサイクル事業実 施に関する共通課題を抽出する。 3) 本研究のまとめとして、事例対象地以外の取組も参考 にしながら、自転車交通のよりよい普及策に向けた解 決策を提案する。 2.2 研究の範囲 1) 自転車交通に関しては、自転車そのものの機能の問題、 道路整備などハード面の問題、自転車の利用方法など のソフト面の問題など多様な側面がある 1)。 2) 本研究では主としてソフト面での問題としてレンタ サイクル事業に焦点を当てる。 3.現地調査・ヒアリング調査の概要 3.1 概要 2010 年 8 月から 11 月の間、足立区、練馬区、豊島区 及び世田谷区で現地調査及びヒアリング調査を行った。 3.2 足立区 経緯:2009 年に「観光やビジネスなどに利用するあらた な交通手段となるか需要をはかる」ことを目的に千住及 び竹ノ塚の 2 つの拠点駅で社会実験がスタート。提案型 協働推進事業として、株式会社 JTB 首都圏に事業委託。 事業結果の概要:レンタサイクルの主な利用者は営業回 りに利用するビジネスマンである。周辺に大規模な工場 や会社、大学等がないこともあり通勤・通学の利用者は 少ない。現在、千住地区は実施していない。 問題点:ヒアリング調査では、収益性、利用者マナー問 題などの指摘があった。他方、実際に利用してみるとポ ートの設置場所が駅から遠く、分かり難い(図 1) 。また、 進んで乗りたくな 200m るような自転車の デザインでは無い などの問題がある と感じた。 3.3 練馬区 経緯:バス路線が 確保できない地域 図 1 竹ノ塚駅のポート設置場所 が存在し、また、 交通渋滞のためバス利用よりも自転車を利用した方が便 利であることなどのため 1989 年にスタート。 事業結果の概要:利用者の 90%は通勤通学。次に多いの は業務(営業目的)だが、それでも 10%未満。通勤通学 用での利用者は定期利用者。一方、後者は当日のみの利 用者である。 問題点:ヒアリング調査では、コスト面の問題として初 期導入経費が高額であったこと、管理人件費がかさむこ となどのほか利用率の低いポートについては一部閉鎖を 示唆するなど利用率の低さに対する指摘があった。 3.4 豊島区 経緯:放置自転車 の減少、自転車利 用者の利便性向上、 自転車駐車場の効 率的な運用などを 目的に 2000 年に 導入したが 2008 図 2 放置自転車の様子 2) 年に事業休止。 事業結果の概要:利用者のうち約 20%が「通勤・通学」 、 約 30%が「買物・レジャーと業務用」で、残りの約 50% は「その他」となっており、本来の目的とは反した使わ れ方であった。 問題点:区担当者へのヒアリング調査では事業休止の理 由として、事業収益性が悪かったこと、駐輪場をポート として利用していたため、利用されないレンタサイクル が駐輪場を圧迫していたこと、当初の利用目的とは反し た利用が全体の半数近くになってしまっていたことなど の指摘があった。 3.5 世田谷区 経緯と事業結果の概要:放置自転車問題を改善するため 1994 年 3 月にスタート。世田谷区は南北の交通が弱く、 バスも通れないくらい道幅の狭い道も多いとの道路事情 のため全体の約 10%の利用者は南北への移動手段とし 表 1 豊島区のレンタサイクルの事業収支(円) 2,000m 年度 利用料収入(A) 事業経費(B) A-B 2003 年度 2,238,000 9,147,000 -6,909,000 2004 年度 2,278,000 8,719,000 -6,441,000 2005 年度 2,098,000 8,952,000 -6,854,000 2006 年度 1,794,000 8,928,000 -7,134,000 2007 年度 1,820,400 8,932,982 -7,112,582 合計 10,228,400 44,678,982 -34,450,582 人件費である。他方、利用料収入が少ないため収支バラ ンスが取れない結果となっている。 4.4 利用者マナー 図 3 世田谷区のポートの設置状況 ヒアリング調査で利用者マナーの問題が多く指摘され て利用している。ポートは区内 6 箇所に設置(図 3) 。 た。レンタサイクル自体が放置自転車となってしまう、 問題点:区担当者へのヒアリング調査では、ポート追加 返却をせずに独占してしまう、破損・破壊行為など。こ に必要な用地取得費が高額であること、自転車のメンテ れらは、各自のモラルの問題でもあるが、不便な返却シ ナンス・修理や維持管理コストが収益性を悪くしている ステム、罰金などの制度が不明確なところも少なからず との指摘があった。 要因としてある。 4.レンタサイクル事業が抱える課題 5.まとめ:事業収益性の改善策 ここでは、利便性、デザイン性、事業収益性及び利用 ここでは本研究のまとめとして、事業収益性の問題に 者マナー問題の 4 つの視点からの考察結果を述べる。 関する改善策を述べる。 4.1 利便性:ポートの設置場所 5.1 支出の削減 ポートの設置場所は利便性の確保という点から見てレ 支出の大部分は管理人件費及び用地費である。管理人 ンタサイクル事業で最も重要なポイントの 1 つである。 人件費を削減するため、 非接触型 IC カードやクレジット 駅の近くにあること、 より多く複数あることが望ましい。 カードと連動した無人貸出管理システムへの変更を提案 今回の事例でも設置場所が分かり難い事例があったが、 する。個人を特定できるため破壊・盗難などによる支出 潜在的な自転車利用者が利用しやすい環境をつくること も減少する。用地費については、極力歩道等の無償拠点 で結果的に料金収入も見込める。 を貸出ポート用地として利用するのが望ましく、公共用 4.2 デザイン性 地の利用も必要である。 おしゃれなデザインの自転車を使用することは利用者 5.2 収入の増加 の乗りたい意欲をかきたてることになる。また、そのよ 1 日 1,000 円のような従来の料金体系から、ヴェリブ うな自転車自体が知名度を向上させる広告にもなる。今 や JTB が採用しているような 30 分以内無料それ以降は 回対象とした 4 区では、 一般的な自転車を使用しており、 課金するといった料金体系の導入を提案する。前述のと お世辞にも格好良いとは言えない。パリ市のヴェリブや おりポート設置場所の増加・改善による利便性の向上、 国内でも JTB が行った実験事業では特別仕様の自転車を 乗りたい意欲をかきたてるデザインの自転車の採用をあ 用いている(図 4) 。 わせて進めることで利用率が上がり収入増加も見込める。 こうしたデザイン 5.3 まとめ 性の優れた自転車 従来のレンタサイクル事業では単独での運営が困難な の採用により周り ため、その多くが実証実験で終わっている。海外事例や からの注目も集め、 民間企業の実験結果を参考にしながら、地域にあったシ 乱暴に扱うなどの ステムへの変換をすることが大切である。 トラブルの軽減に 引用・参考文献 もなると思われる。 1) 高田邦道ほか(2009) 、自転車交通の計画とデザイン、地域科 図 4 ビーンズハウス外観 3) 4.3 事業収益性 学研究会 今回の事例調査を通じて区の担当者が共通して指摘 2) いけぶくろ・ねっと していた事項はレンタサイクル事業単独ではコスト的に http://www.ikebukuro-net.jp/backnumber/200605.html 成立しない点である。表 1 は豊島区の事業収支を示して 3) 高知尾昌行(2010) 、 (株)JTB首都圏の挑戦、コミュニティ いる。収益性を悪くしている主な理由は支出面では管理 サイクル、p.166、化学工業日報社