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第41号(2013年3月) - 一般財団法人 茨城県メディカルセンター
茨城県メディカルセンター 広報誌[いずみ] 乳がんの 自己検診も、 きちんと習慣づけ ましょう。 「女性特有のがん」は、 「女性専用の健診」で 見つける、防ぐ。 IMCの 女性健診 1 今日か 始めて ら みよう っと! 41 2013.3 「女性特有の がん」は、 [特集] 今回のIZUMI では、 女性特有の IMCの 女性健診 「乳がん」と「子宮頸がん」を 特集してお届けします。 どちらの病気も、正しい知識を持って、 年に一度の女性健診を受けることで、 ほぼ確実に予防や早期発見を することが 可能です。 周囲 ま まんべ で 触るこ んなく なの とが大切 ね。 指でつままず、 手のひらや指の腹 でまんべんなく 触ります。 2 「女性専用の 健診」 で 見つける、防ぐ。 IMCの女性健診 │ ①乳房検診の重要性 35 歳を過ぎたら、 年に一度の乳がん検診を 忘れずに ! 乳がんは、 「マンモ」 「超音波」 「視触診」 の “三本柱” で見つける。 植野 映 もともと乳がんは欧米人に多い病気でしたが、日本で うえの・えい 筑波メディカルセンター・ブレストセ ンター長。東京医科大学医学部卒 業。1983 年に筑波大学臨床医学系 乳腺外科学講師となり、2004 年に は助教授、2006 年には病院教授に 就任。国際乳房超音波診断会議理 事長を務めるなど、世界を舞台に活 躍する日本の乳がん治療・診断の権 威。現在でも、月に一度、IMCの乳 房検診の診断にあたっている。 も団塊の世代以降、この病気にかかる人が年々増え続 けています。 2011年には、日本の乳がん患者が年間で 6 万人を突 破したと推測されており、この数字は、日本女性の「13 人にひとり」が乳がんを患うことを示しています。 患者数の増加に伴い、乳がんで亡くなる人も増えてい ます。2007年あたりから乳がんによる死亡者数は年間で 1万人を超え、現在では年間1万2500人にまで達してい ます。たとえば、交通事故で亡くなる人の数と比較してみ 乳がんができやすい場所 内上部 20% 年間約 2500人となります。ですから、乳がんで亡くなる 50% 乳 輪部 ると、交通事故死者数は近年減少して年間 5000人以下 となり、男女同比率と仮定すると*、女性の死亡者数は 外上部 内下部 5% 5% 外下部 10% 女性の数は、交通事故で亡くなる女性の数の、なんと約 5 倍にもなるわけです。その多さにちょっと驚きますね。 食の欧米化と晩婚化・非婚化 により、 リスクが増大 他、複 数の 領 域 など 10 % 乳がんができやすいのは、 乳房の外上部で、50%が この場所にできる。 乳がんの発生にいちばんに関与するのは、卵巣の機 能です。卵巣が活発に機能し、 「エストロゲン」という、 卵巣から分泌される女性ホルモンの量が体内で増える と、乳がんになる確率が高くなります。では、どういう条 件下で「卵巣が活発になる」のかというと、ひとつは「食 生活が豊かで栄養価の高い食事を摂ること」 、そしてもう ひとつは「妊娠しない期間が長く続くこと」です。戦後の 日本では、食の欧米化が進んで栄養状態がどんどんよく なり、また近年は、女性の晩婚化・非婚化の進行により、 妊娠しない期間が長い女性が増加しているため、乳がん にかかる女性が増加しているというわけです。 *実際は男性の交通事故死亡者数が女性の交通事故死亡者数を上回っています。 3 健診会場では「乳がんの自己検診モデル」に触ることもできます。 病気を発見するために、 乳房をできるだけ薄く 伸ばして撮影します。 少の 、多 のは ら だか がある だ。 痛み ないん 仕方 マンモグラフィ検査風景 *写真撮影用に検査衣を着用しています。実際の検査は検査衣を脱いだ状態で行います。 乳がん検診では パイオニア的存在のIMC 技師が存在することが大前提となります。IMC の超音 乳がんは、早期に発見すれば治癒率は高く、1cm 以 でおり、私は、IMC の乳がん検診の精度は、大げさで 下のがんであれば95%が治ります。この1cm以下の乳が なく世界でも高いレベルにあると考えています。 んというのは、触ってもまずわかりません。発見するには、 波技師、X 線技師の能力は非常に高く、定評があります。 皆が誇りと情熱を持って、乳がんの早期発見に力を注い 発見された乳がん50 症例を見ても、うち36 症例は、触っ 乳がん検診に加え、 日々の自己検診も、ぜひ習慣に ただけではわからない(非触知)ものでした。 乳がん検診の“三本柱” のうち、マンモグラフィについ 茨城 県は、乳がん検 診の先 進 県です。なかでも、 ては、被ばくの問題があるため、20 代では受けるべきで IMCは、日本の乳がん検診を牽引する役割を果たして はありません。35 歳になったら乳がん検診を受診し始 きた健診施設のひとつです。 め、超音波検査と視触診は毎年、マンモグラフィについ 1984 年、IMC 初代所長の泉將氏から、当時つくば ては医師の判断に任せて行うのが理想的です。それに 大学講師として乳がんを専門としていた私に「IMCで乳 加えて、自己検診も忘れずに。自己検診は、思い立った がん検診を始めたい」との打診があり、当時最先端だっ らすぐに、今日からでも始めてください。入浴時に行う習 た「マンモグラフィ」と 「超音波検査」の機器を揃え、 「視 慣をつけるのがお勧めです。顔と同様、ご自分の乳房の 触診」を加えた“三本柱での乳がん検診” を、日本の健 状態も毎日よく観察し、覚えるようにしましょう。 診施設として初めて開始しました。 日本人の乳がん検診受診率は、まだ 30%未満です。 現在、厚生労働省ではマンモグラフィと視触診の二本 13人にひとりが乳がんにかかる時代です。早期に発見さ 立てを乳がん検診の基準としていますが、茨城県ではそ えすれば治すことができる病気ですから、皆さん、ぜひ こに超音波検査を加えた “三本柱” を乳がん検診の標準 乳がん検診と日々の自己検診を習慣になさってください。 定期的に検診を受けること、これに尽きます。過去2 年 間に、茨城県メディカルセンター( IMC)の乳房検診で としています。実際、1990 年ごろから、IMCでは、マン モグラフィより、超音波検査で見つかる乳がんのほうが 多くなっています。これは、日本人の乳房が、欧米人の 乳房と比べて脂肪が少なく、乳腺が塊になっているとい う特徴があり、超音波のほうがみつけやすい場合が多い ということに起因していると考えています。 もちろん、乳がんの発見には、訓練を積んだ優秀な 4 IMC の女性のための健診メニュー [一日人間ドックオプション検査] ● 女性健診 (乳房+ 子宮検診)8,400 円 [単独検査] ● 乳がんドック 7,560 円 入浴時の習慣にしましょう。 日ごろから自分の乳房の状態をよく把握することが、 乳がんの早期発見には欠かせないことです。 日々の自己検診を、ぜひ習慣づけましょう。 乳がんの自己検診 目 で見て確かめる [視診] 両手を下ろした状態で 乳房をよく見る 乳がんの自覚症状は「しこり」だけではありません。 えくぼ状の「くぼみ」がないか、左右の形に「目立った 違い」がないか、 「湿疹」のようなものはないかなどを、 鏡の前に立ってよく観察しましょう。 腰骨をぎゅっと押し、 前かがみになってよく見る 両手を上げた状態で 異常がないか見る 手 で触って確かめる [触診] 触診には、手のひらで触る 「平手触診」と、両手の指の 腹で行う「指触診」がありま す。入浴時に素手にせっけ んをつけて行うとスムーズ です。乳房の周辺まで広い 範囲を調べましょう。 触診は指をそろえて、 行います。 円を描くように胸全 体を まんべんなく触る 外から中、中から外へ と滑らせる 乳 頭をつまみ、茶 色 や 血 の 混じったよう な分泌 物がないかど うかを調べる 片手をあげ、乳 房周辺の 両手の指で、鎖骨の下から 広い範囲まで触る 脇の下まで押さえて調べる 5 乳房の大きい人は、寝た状態のほうが わかりやすい。水平に寝て背中にタオルなどを 入れ、乳房を平らにして行う 20 歳になったら年に 一度のHPV検査と 子宮検診を。 IMC の女性健診 │ ②子宮頸がん検診の重要性 子宮頸がんは、 “がんになる前の 状態” で防ぐ 小林 昇 こばやし・のぼる 茨城県メディカルセンター名誉所長。 産 婦人科を専門とする。新 潟大 学医学部卒業後、東北大学医学 部大学院を修了。1980 年に国立 水戸病院の産婦人科医長に着任。 2001年にIMC 婦人科健診部長と なり、2005 年所長に就任。名誉 所長となった現在も、子宮検診を 中心に現場で活躍を続ける。 子宮がんには、「子宮体がん」と「子宮頸がん」があり がんを患う人が増えているのは、少子高齢化の日本にお ます。 「子宮体がん」は、子宮の体部にできるがんで、お いてたいへん好ましくない問題です。 もに閉経後の 50 代以降の方に発症します。自覚症状と 近年の研究 * で、子宮頸がんの発症は、「HPV (ヒト しては、不正出血があることが多いのが特徴です。 パピローマウイルス)」の子宮頸部への感染に起因する 一方の「子宮頸がん」は、子宮頸部にできるがんで、 ことがわかっています。HPVというのは、口中や陰部に おもに30 代から40 代で発症しますが、近年の日本では 日常的に存在するウイルスで、感染は性交によって起こ それより若い層、20 代から30 代における発症率および ります。種類は多く、100 種類にも上りますが、このう 死亡率が急増しています。 ち、婦人科領域の病気に関係するHPVは15種類程度で、 なかでも「16 型」と「18 型」と呼ばれるものが、発がん 子宮頸がんの原因は、 HPVというウイルス 性を持つ高リスク型のウイルスです。 現在、20 歳から39 歳の日本人女性における婦人科領 域のがん発症率を調べると、子宮頸がんの発症率が乳 若い女性が検診をためらうと がんになるまで気づかない がん発症率を大きく上回り、2 倍近くにも達している状況 HPVに感染しても、90%は人間の免疫機能により自 です。これから結婚して子供を産むという時期に子宮頸 然治癒します。残りの10%が「異形成」といわれる「が 子宮頸がんができる場所 子宮頸がんと子宮体がんの比較 卵管 子宮体部 卵管 子宮頸がん 自覚症状 卵巣 卵巣 子宮頸部 膣 ここにできるのが 子宮頸がん 発病しや すい年齢 リスク要因 初期は無症状 子宮体がん 不正出血 3 0 ~ 4 0代 閉経後の50代以降 (20~30代で急増) 高リスク型 H P Vウイルス感染 肥満・高血圧・糖尿 病/未経産婦、エス トロゲン製剤などの 長期使用など *ヒトパピローマウイルス(HPV)が発見されたのは1983 年のこと。この、 「子宮頸 がんを引き起こすパピローマウイルス」を発見した独がん研究センターのハラルド・ ツア・ハウゼン名誉教授には、2008 年度ノーベル医学生理学賞が授与されました。 6 最近気になる 自覚症状は ありませんか? る ってい 気にな 診で ら か 、問 普段 あれば 。 ことが いいのね ば れ え 伝 問診風景。血圧測定後、気になる自覚症状などを伺います。 んになる前の状態」へと進行し、軽度、中等度、高度と 進んでいきますが、これも免疫機能により90%は正常に 戻ります。 残りの約10%が高度の異形成から「上皮内がん」そし て「浸潤がん」に進みますが、正常な細胞ががん化する 正常細胞が子宮頸がんになるまでの過程 正常細胞 この段階であれば HPVワクチンが 有効 (ワクチンの対象年齢:11~14歳 ) くりと進む病気であり、急激に進行し、すぐに死に至る ということはありません。定期的な検査を受けてさえい れば、「がんになる前の状態」で発見し、がんになること を予防することが十分に可能なわけです。 HPVが感染した状態 HPV 女性の約 6 0%が感染 感染者の9 0%が自然治癒する 数週間~2年 までには5 年以上かかります。つまり、子宮頸がんはゆっ しかし、若い女性が、子宮細胞診(子宮の細胞を採取 する検査)の受診をためらっていると、HPV 感染から段 異形成(前がん状態) 合によっては死に至ることもあります。日本における子宮 感染者の1~ 6%が この状態になる 頸がん検診受診率は、欧米と比べ著しく低いのが実状 です。 在、子宮細胞診は 20 歳から受診できるよう法律が改正 されています。20 歳になったら、迷わず、子宮細胞診と HPV 検査を受診し、年に一度の検査を習慣づけるとい この状態で見つければ、 がんにならない 子宮頸がん検診で がんになる前に 発見することが可能! う風潮を、日本でもぜひ定着させていきたいものです。 10 中等度 高度 なお、11 歳から14 歳まで(性交渉未経験と考えられる 施されています。このワクチンは、子宮頸がんの発症を 上皮内がん/浸潤がん 70%予防できるという非常に有効な手段です。現段階 感染者の0.1%が発症 では、医療保険の適用外のため、5 万円前後の費用が かかりますが、栃木県の大田原市など、自治体によって 7 [一日人間ドックオプション検査] 茨城県でも今後、そういった取り組みを行う市町村が増 ● えてくると予想されます。 ● 女性健診(乳房 + 子宮検診)8,400 円 HPV検査 4,410 円 数年 年齢)の女性を対象に、ワクチンを注射する予防法も実 は、公費で全額を負担するところも出てきているようです。 数年 性交渉を経験する年齢が下がっていることを受け、現 軽度 数年~ 階を経てがんを発症し、結果として子宮を失ったり、場 IMC ニュース 注目の「性差医療」をテーマに 「IMC 学会」を開催しました。 続いて、佐久間正祥先生(水戸赤十字病 ししました。 上段左:IMC 石光所長、右:天野恵子先生 下段左:平沼ゆり先生、右:文由美先生 続いて、石渡千恵子先生(石渡産婦人科 院院長)に座長を務めていただき、演者に 病院副院長)と橋本由美子先生(住吉クリ 天野恵子先生(静風荘病院特別顧問)を迎 ニック病院消化器内科)に座長をお願いし、 えての特別講演「男と女で病気はちがう。 基調講演が行われました。 性差医療(女性外来)事始め」が行われま 最初の講演は、平沼ゆり先生による「人 した。アメリカの医療現場での経験が長 間ドックでの性差医療。レディースフロ く、日本における「性差医療」の第一人者 アーとレディース検診」。つくば総合健診 である天野先生は、たとえば、動脈硬化 センターの診療部長として、女性受診者 は男性は 20 歳から始まるが、女性はエス の声を活かした「女性専用健診フロアー」 トロゲン(女性ホルモン)の作用により閉経 を実現するまでの過程と、細やかな配慮 までは少ないなどの「病気の性差」が、医 がいきとどいた特徴ある施設の内部をご 療関係者の間で認識されつつも、きちん 紹介いただきました。 と分析されてこなかった背景を話されたあ 次に、文由美先生による「当院におけ と、各疾病ごとの男女別データを示しな 平成 25 年 2月23日㈯ 16 時 から、 「平 る女性専門外来の実状」と題した講演が がら、病気の「性差」をわかりやすく解説 成 24 年度 IMC 学会」が開催されました。 行われ、自らが外科部長を務めるつくば されました。そして、性差医療の実践で、 今回はいま注目を集める「性差医療」を セントラル病院に「女性専門外来」を立ち 無駄な医療費の削減など、もたらされる テーマに、一般の方々にも参加も募って 上げ、不定愁訴の女性に対し、 「ゆっくり 多大なメリットについても指摘されました。 の開催となりました。 話を聞くこと」から始めるナラティブベー いずれのお話も、今後の医療が進むべ IMC 理事長の齋藤浩による開会のあい ストメディスン(当事者の語りに基づく医療) き方向性を示唆する、たいへん貴重な内 さつの後、IMC所長の石光敏行がキーノー を、アロマテラピーや漢方なども採り入れ 容でした。なお、当日、機材の不調によ ト・レクチャーを行い、 「性差医療」に至 て丁寧に実践されている様子を解説いた りご迷惑をおかけしましたことを、ここに るまでの医学の発展の歴史についてお話 だきました。 あらためてお詫び申し上げます。 東日本大震災から2年が経過しました。水戸市 絆が、2 年の月日を経て弱まっているように感じら なかなか難しい部分もありましたが、先生方をはじ 内はだいぶ復旧が進みましたが、東北地方はまだ れるのは、私だけではないと思います。再び絆を め、スタッフの協力もあり、無事発行できたことに まだ途上のようです。思い起こせば、震災の起きた 固く結び直すべきときであると、3月11日を迎えて 感謝申し上げます。 2011 年を表す一文字は 「 絆」 でした。絆とは「家 あらためて思いました。 族や友人など人と人とを離れがたくしている結びつ さて、今回は、「女性健診」をテーマに特集を組 き」をいう言葉だそうです。被災地と結ばれていた みました。初めて取り上げるテーマで、男の私には 今後もIMC は、受診者の皆さまと「健康」そして 「健診」という太い絆でつながっていきたいと願っ ています。 (秋葉 ) TEL 02 9 -24 3 -1111(代表) FA X 02 9 -24 3 -110 8 水戸市笠原町 4 8 9 - 4 〒 310 - 8 5 81 ● ● 一日人間ドック 乳がんドック ● 肺がんドック 029-243-1111 ● 働く人の健診 幼児・児童・生徒の検診 029-243-1113 ● 特定保健指導 029-243-1114 ● 目の検査 029-241-7908 ● 耳の検査 029-241-7906 ● 救急医療機関の即時案内【24時間体制】 029-241-4199 ● 茨城子ども救急電話相談 ● 毎日夜間 1 8 : 3 0 ~ 2 3 : 3 0 /休日昼間 9 : 0 0 ~ 17: 0 0 携帯とプッシュ回線から #8000 (または 029-254-9900) ホームページでも事業の詳細をご案内しております。 http://www.imc.or.jp メールアドレス [email protected] 「IZUMI」No.41 発行所:茨城県メディカルセンター │ 発行責任者:所長 石光 敏行 │ 発行日:平成 25 年 3月26日 8 ヤ