Comments
Description
Transcript
消化管運動に関する研究 - J
93 Kitakanto Med J 2013;63:93∼94 消化管運動に関する研究 術後消化管運動障害に対する腸管内グルタミン投与の有用性 大 は じ め 野 哲 郎 に 腹部外科手術後にはしばしば, 一過性の消化管運動障 害 (postoperative ileus; POI) が起こる. これは術後患者 の嘔気, 不快感, 在院日数の 長等につながり臨床的に 問題である. 非必須アミノ酸であるグルタミンは, 体内に最も豊富 に存在するアミノ酸であり, 消化管のエネルギー源とし ても重要である. しかし, critical な状況下 (手術後, 飢餓 状態, sepsis など) においては合成量が消費量を下回り, conditionally essential amino acid とも言われる. グル タミンは既に, 消化管の粘膜修復作用や抗炎症作用の面 で注目されている. 本研究では, 腸管のエネルギー源と しても重要であるグルタミンを腸管内投与することによ (図 1) を測定し, グルタミン群とコントロール群で比較 り, 術後の消化管運動の回復を早めることができるかど した. また, 術前後の経時的なグルタミン血中濃度を測 うかについて基礎実験および臨床研究で検討した. 定した. 対 象 と 方 法 基礎実験 では, 成犬を開腹し幽門側胃切除術を施行し た. 残 胃, 十 二 指 腸, 空 腸, 結 腸 に フォース ト ラ ン ス デューサーを縫着, 残胃前壁より胃瘻を挿入留置した. 術直後より, グルタミン 1 g/水 40ml, または水 40ml 臨床研究 では幽門側胃切除後の患者をグルタミン投 与群 (15 例) と非投与群 (16 例) の 2 群にわけ, 術後 2 日 目よりグルタミン 3 g/dayを投与した. 術後 12 日目に内 圧測定法を用いて消化管運動を測定した. 結 果 (control) をそれぞれ胃瘻より定時に注入し, 消化管運動 動物実験では, 術後グルタミン血中濃度は低下したが, を測定した. 空腹期伝播性強収縮 (IMC) 出現までの時間 グルタミン投与群はコントロール群より低下が抑えられ 図1 手術直後からの消化管運動測定チャート (グルタミン投与群, イヌ). この個体では手術終了から約 22 時間 で IMC が出現している. ▼ : グルタミン投与 ↓ : IMC の出現 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科病態 合外科学 平成24年10月29日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科病態 合外科学 大野哲郎 94 消化管運動に関する研究 結 論 術後の消化管運動障害の原因の一つは生体内グルタミ ンの不足と えられ, これを投与することによって, 収 縮障害を予防する可能性が示唆された. 謝 辞 このたび, 平成 24 年度北関東医学会奨励賞を頂き, こ れまでの研究に対しご指導賜りました群馬大学大学院病 図2 手術終了から IMC 出現までの時間の比較. グルタミ ン群で有意に短かった. *:P<0.05 態 合外科学の桑野博行教授をはじめ, 教室員の方々に 深謝いたします. 文 た. また, グルタミン群はコントロール群に比べ,IMC 出 献 現までの時間が有意に短かった (21.3 hours±4.0 S.E.M. 1. Ohno T, Mochiki E, Ando H, Fukasawa T, Toyomasu vs.37.8 hours ± 4.0 S.E.M.,P=0.01) (図 2). 臨床研究に Y,Ogata K,Aihara R,Asao T,Kuwano H. Glutamine おいて消化管収縮能 (motility index) は投与群では 145, decreases theduration ofpostoperativeileusafterabdomi- 非投与群で 97 であり, 有意に投与群で消化管運動が良 好であった. IMC の発生は投与群で有意に多く観察され た (60% vs. 18.7%). nal surgery: an experimental study of conscious dogs. Dig Dis Sci 2009 Jun ; 54(6): 1208-13. Epub 2008 Aug 27. 2. Mochiki E, Ohno T, Yanai M, Toyomasu Y,Andoh H, Kuwano H. Effects of glutamine on gastrointestinal motor activity in patients following gastric surgery. 2011 Apr; 35(4): 805-10.