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HIV 治療における薬剤耐性検査

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HIV 治療における薬剤耐性検査
H I V 治療における薬剤耐性検査
国立国際医療センター・エイズ治療研究開発センター
岡
愼一
本邦において HAART 療法が開始されて3年を経過した。HAART 療法は、今までの逆
転写酸素阻害薬2剤での治療に比べると、有意に CD4 リンパ球数の上昇と血清中ウイルス
量(VL)の低下を可能にした。これにより臨床的にも日和見感染症の劇的な低下や死亡率
の低下をもたらした。しかし一方で、治療失敗例も増えつつあり、このような患者からは
抗 HIV に対する耐性を獲得したウイルスが分離されている。かかる背景から、HIV 治療に
おける薬剤耐性検査は非常に重要であるといえる。
耐性検査にはいくつかの方法があるが、いずれも1回数万円以上はかかる検査法である。
したがって、いつどのような患者においてどのような検査を行ったら良いのかを整理して
おく必要がある。現在我々は、genotype assay と Magic5 細胞を用いた phenotype assay
の両方を行っているが、これらの基礎データを示す。使用している検体は共に血漿である。
検査期間は、genotype 法で約1週間、phenotype 法で約2週間である。検出感度は、genotype
法で VL が 1000/ml、phenotype 法で 10,000/ml である。
HAART 療法が有効であるとプロテアーゼ阻害薬の治療歴のない患者の場合、だいたい治
療開始3∼6ヶ月目には VL が 400/ml 以下になってくる。したがって、治療開始3ヶ月目
の耐性検査が非常に大切になってくる。この場合、この時点で VL が 1000/ml 以下になっ
ている患者に対しては耐性検査は不要であり、VL が 10,000/ml 以上であれば耐性検査を行
うまでもなくその治療は失敗である。したがって、耐性検査は治療開始後3ヶ月目の VL が
1000/ml∼10,000/ml の患者に対し、genotype 法を行うのが先ず第一回目となる。
すでに治療歴があり治療の変更を行ってきても十分な治療効果の得られなかった患者群
も増えつつある。このような例では genotype を見るとすでに多数の耐性変異が入っており、
未使用薬も含め交差耐性が問題となる。このような例では多くの場合 VL も 10,000/ml 以上
であり、phenotype 法の方が結果の解釈は分かり易い。実際に、昨年末に認可となった
abacavir(ABC), efavirenz(EFZ),amprenavir(APV) を 使 っ た salvage 療 法 の 成 否 は
phenotype 法でみた APV の耐性の有無が最も関与していた。
以上の結果はすべて retorospective にみた結果の解析であるが、今後は耐性検査結果を
治療に活かせるように使用経験を積み重ねていきたい。
宿主およびウイルス制御因子による H I V - 1 の転写調節機構
名古屋私立大学医学部分子医学研究所分子遺伝学部門
岡本
尚
AIDS の原因ウイルスである HIV の全塩基配列が決定され、次いで全遺伝子の同定がな
されてからおよそ15年になる。この間に、これらの遺伝子の構造と機能に関する分子生
物学的作用の概略がほぼ解明された。それとともに、感染細胞におけるウイルス増殖のラ
イフサイクルメカニズムや宿主免疫機構に対するウイルスの病原性のメカニズムが明らか
にされていった。他方、ウイルスの逆転写酵素とプロテアーゼに対する阻害剤の開発によ
って、AIDS 治療は近年新たな段階を迎えるに至った。しかしながら、HIV は感染者の体
内に潜伏感染しつづける性質を持つため、完全なるウイルスの抑制と体内からの除去を期
待することはできない。しかも、潜伏感染細胞からのウイルスの増殖は準種 quasispecies
の形成を伴い、これが基盤となって薬剤耐性と免疫監視機構からのエスケープが可能とな
っている。
HIV は複雑型 complex レトロウイルスに属し、感染細胞の中で種々の制御蛋白を産生し、
これらの制御蛋白が細胞の諸機能を司る宿主因子と密接に相互作用することによって、ウ
イルスのライフサイクルと増殖を細胞の諸機能の発現と種々の段階で巧みにリンクさせて
いる。これらの課程の内で、ウイルスの遺伝情報が増大するのはプロウイルスからの転写
の段階であり、HIV による AIDS の発症には、潜伏感染細胞でのプロウイルスからの転写
レベルでの活性化が不可欠である。莫大な量のウイルスの産生は結果的には免疫担当細胞
の機能と生存を傷害し、その結果 AIDS の発症に導く。すなわち、ある意味では、HIV 感
染症はウイルスゲノムからのヒトゲノムに対する挑戦といえよう。私たちは HIV 遺伝子発
現を主な研究対象にし、この課程を制御するウイルス(Tat)および宿主の制御因子(NF-kB
とその関連蛋白)の作用機構の解明を進めてきた。
H I V ワクチン開発へ向けて:粘膜免疫システムを応用した最近の展開
大阪大学微生物病研究所
清野
宏
粘膜を介したワクチン投与は生体の初発感染防御機構である粘膜免疫システムと HIV に
代表される病原微生物が体内に侵入した時に働く末梢形免疫システムを使った排除機構と
いった二段構えの感染防御免疫を誘導することが示唆されている。現在までは腸管を中心
とした粘膜免疫機構の詳細な解析とその経口ワクチン開発への応用性の検討が進められて
きた。近年、我々は呼吸器の粘膜免疫システムに注目し、その中心的役割を果たす鼻咽頭
関連リンパ組織(NALT)の免疫生物学的検討とそれを応用した HIV 経鼻ワクチンの可能性
について研究を進めている。NALT には、抗原刺激により Th1 型・Th2 型になりうる Th0
型細胞や将来 IgA 産生細胞になりうる IgA 前駆 B 細胞が高頻度で存在している。蛋白抗原
を新規粘膜アジュバントとして期待されている無毒化コレラ毒素(mCT)と混合して経鼻免
疫すると効果的に抗原特異的 Th2 型細胞と IgA 産生細胞が粘膜面に誘導された。さらに
YK-12 にも効果的な粘膜免疫増強作用が確認され、粘膜ワクチン開発に向けて新規粘膜ア
ジュバントとして期待されている。粘膜免疫用ハイブリッドワクチンデリバリーシステム
として、最近、注目されているセンダイウイルスの膜融合能をリポソームに付与した膜融
合型リポソームに HIV 抗原を封入して経鼻免疫すると効果的に生殖器を含めた粘膜免疫系
と全身免疫系両方に HIV 特異的免疫応答の誘導が確認された。これらの結果は、NALT を
使ったエイズ経鼻ワクチン開発に向けて新しい展開が始まっていることを示唆している。
H I V のウイルス学−−ウイルス増殖とその制御
東京医科歯科大学医学部微生物
山本
直樹
HIV(human immunodeficiency virus)/AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)の
研究分野では1980-85年頃に、新しい疾患概念の確立とういるすの発見、それに引き
続く活発な研究が行われました。研究の常と言っても良いかもしれませんが、それに比較
するとその後の約10年間はむしろ静かに推移しました。しかし1985、6年に至り、
エイズのウイルス学と治療研究において大きな進展がいくつもありました。ひとつは、エ
イズの新しい治療薬である HIV プロテアーゼ阻害剤を従来の HIV 逆転写酵素阻害剤2つと
組み合わせた3剤併用療法によって、血中のウイルス濃度を検出限界以下に減少・維持さ
せることに成功したことです。これにより実際、アメリカではエイズを新たに発症した人、
エイズで死亡した人の数が始めて減少傾向に転じるという画期的なことがおこりました。
さらに PCR 法を用いて、ウイルス量(RNA)を鋭敏勝つ正確に定量することが可能となりま
した。これによりこのウイルスが毎日ダイナミックに産生と崩壊を繰り返していること、
同時に CD4 陽性細胞も破壊と再産生を繰り返していることなどが明らかとなりました。こ
れらのことは、HIV 感染症ではこの活発なウイルスの増殖が決定的に重要であり、これを
制御する事が発症を抑えることになるのです。感染者固体ではこの激しいウイルス増殖を
支える様々なシグナルが存在すると考えられますが、それはサイトカイン等を代表とする
種々の生理的物質であり、また他の微生物などを含む非生理的物質でもあると考えられま
す。もう1つの大きな発見は、HIV のレセプターとして CD4 が発見された当時からその存
在が示唆されながら十年以上不明であったコレセプター(セカンドレセプター)の同定が
なされたことです。この発見により、HIV-1 の細胞指向性(トロピズドレセプター)が標
的細胞でのコレセプターの発現によって決定されることも明らかになりました。さらに、
この発見に関連してわかった重要なこととして、コレセプターやケモカインに関連した遺
伝子の変異が発症を修飾するという事実です。中でも CC chemokine receptor 5 (CCR5) を
遺伝的に欠失した人(健常人)が HIV-1 の感染・発症に抵抗性を示すことが報告されまし
た。この事実は治療的に重要な意味を持っており、HIV-1 のコレセプターのアンタゴニス
トが患者の免疫系に悪影響を及ぼさないでウイルスが細胞へ侵入するのを阻害できること
を示すこととして、コレセプターを標的にした薬剤の開発に多くの研究者・企業が乗り出
したのです。
Immunization Strategies in Development of an AIDS Vaccine
Center for Neurovirology and Cancer Biology
College of Science and Technology, Temple University
Danuta Kozbor
Significant obstaacles to vaccine development are related to the ability of the HIV virus to
establish perisistent infection in the face of active host immune responses as well as the marked
genetic heterogeneity of viral population. The hypervariable V3 loop of gp160 induces both
humoral and cellular responses against HIV, but also undergoes frequent mutations. Using
peripheral blood mononuclear cells of HIV-infected individuals, we showed increased CTL activities
against conserved epitopes of the envelope (env) glycoprotein in cultures stimulated with the V3
loop-deleted mutant compared to those stimulated with the wild-type env gene products. Similarly,
it has been suggested that antibodies generated by the wild-type gp160 are largely strain specific,
and the V3 loop may have a decoying effect on the development of primary and secondary responses
to the virus. Therefore, we hypothesized that the wild-typeenv glycoprotein contains epitopes that
induce immune responses to variable regions that are of little protective significance and the
elimination of the V3 loop may prove useful in the development of broadly protective vaccines and
therapeutic strategies.
To faclitate the conduct of detailed analyses of host immune responses to the V3 loop-deleted
env glycoprotein, we have developed a strategy to induce systemic and mucosal immunity in mice
by
an
oral
immunization
with
gp160-encoded
DNA
plasmid
encapsulated
in
polu(DL-lactide-co-glycolide) microparticles and liposome-associated recombinant vaccinia
expressing the env glycoprotein. T increase safety of the vaccine, the pathogenic recombinant
vaccinia virus was replaces with a replication-attenuated modified virus Ankara. The overall goal
of this effoort was to derive ways to maximize the immunogenicity and safety of the HIV vaccine by
directing immune responses to selected regions of HIV. Using BALB/c and the HLA-A2/Kb
transgenic mice, we showed that oral vaccination with DNA and viral vectors expressing gp160 was
capable of inducing high levels of cellular and humoral responses in systemic and mocosal tissues of
the gut. Immunization with the V3 loop-deleted mutant elicited increased CTL and antibody
responses to highly conserved epitopes located in the N-terminal region of gp160 than vaccination
with the wild-type env glycoprotein. Altogether, results of these studies demonstrated that
elimination of the V3 loop from gp160 induced a qualitative shift in the immune response from the
variable epitopes of V3 to conserved epitopes of gp160 that may elicit more effective immune
responses to protect against HIV infection.
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