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小学生の集団描画活動による学級適応に関する研究

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小学生の集団描画活動による学級適応に関する研究
小学生の集団描画活動による学級適応に関する研究
専 攻:学校教育
コース:生徒指導
氏 名:竹間智子
本研究では,学校の特質・機能に合った心理療
って,描画を媒体とした仲間との連帯感,
法的視点を生かした授業を行うことで,児童の
一体感が得られ,互いを受けとめることが
人格及び社会性の発達を促しながら,学級適応
できるようになると考えられた。
がどのように変化するのかを検討することが目
的であった。
そこで,描画療法の視点を生かし,図画工作
科における集団描画活動を取り上げ,学級適応
の変化を調査することにした。
1 図画工作科の時間を用いて集団描画活
動を行った理由
図画工作科は,他教科と異なり,通常2
以上の点から,図画工作科の時間を用い
た集団描画活動が,学級集団で生活してい
る児童にとって,より良い適応を促す点で
有効にはたらくと考えた。
2 実践計画及び方法
埼玉県の都市部にある比較的平均的な公
立小学校4,6年生(計115名)を対象とし,
6月中旬から7月初旬にかけて著者によっ
時限続きの授業という時間枠で行われて
て集団に実施した。各学級単位で,男女別
いることが多い。これは,児童にとって,
の3∼4人の小集団を構成し,模造紙程度
時間により活動が制限されることは少な
の大きさの紙に1枚の描画を制作した。描
く,作業を完成まで進めることが可能であ
画課題は,この小集団で図画工作科の時間
る。また,ゆとりをもって描くことは,心
内(90分)で完結可能なものとし, 「島の
理的圧迫が軽減され,自由にしかも喜んで
共同画」と「スクィグルから合同スクリプ
取り組みやすい。一方,教師にとって,1
ル」というテーマで共同画を作成した。
時限だけの授業では見られないような,児
童の行動を開始から終了まで継続的に観
3 学級適応と集団描画活動
今回の実践のなかでは,集団描画活動が
察,把握できる。また,図画工作の授業を
児童の学級適応感に及ぼす影響をグルー
学級担任が行うことが多いことから,他の
プ単位で検討したが,今回使用した質問紙
授業での児童の行動と比較も可能となる。
での測定では,グループでの学級適応感に
こうしたことから,児童の新しい面を発見
影響を与えているとはいえないと考えら
できるきっかけを得られる可能性が高い。
れた。しかし,4年生において,対人関係
描画は作品として記録に残ることから,
児童が相互に鑑賞でき,友だちの特質を認
め合うことも可能である。
さらに,集団で描画活動を行うことによ
における心理的距離を縮める効果のある
傾向が認められた。
次に,集団描画活動が児童の社会測定
的地位と学級適応感に及ぼす影響を検討
した結果,4年生の社会測定的地位の高
描かれた作品を通じて教師は,児童の学級適
い男子群のみ,同学年の社会測定的地位
応感をある程度とらえることができるという
の低い男子群より有意に学級適応感が高
結果が得られた。しかし,集団描画作品に対
いことが示された。しかし,集団描画活
する印象評定の方法で学級適応の把握が難し
動の前と後の学級適応感と社会測定的地
い児童においては、質問紙により学級適応の
位との有意な差は見られなかった。
状態を的確に把握し対処していくことが,指
また,活動後,学級適応感が上昇する
児童は,発想が豊:かであり,自分と異な
る意見にも耳を傾ける柔軟さをもつ傾向
導を行う判断材料として有効な手毅といえる。
5 今後の課題
本研究は,2回の集団描画活動の実践授業
にあった。一方,学級適応感が下降する
の結果である。よって,この実践授業を継続
児童は,自分の意見に固執し,協調性に
的に実施することにより,さらに明確な学級
欠ける面が認められる傾向にあった。こ
適応の変化を把握できるとも考えられ,今後
うしたことから,今回の集団描画活動で
の実践の継続を要する。
は,集団に対する協調性をもち,異なる
今回は,集団描画活動を取り上げ,児童の
意見にも耳を傾けることができる児童に
学級適応を高める支援として検討してきたが,
対して,適応感が上がる可能性が考えら
多岐にわたる教育活動の中で,別の集団活動
れた。
場面における学級適応の検討も行った上で,
活動直後のふり返り表の自由記述より,
集団描画活動の効果を検討する必要があると
児童が集団描画活動をどのように捉えて
考える。
いたのかを検討した。両学年間の相違点
また,今回は描画課題として「島の共同画」
として,4年生では「メンバーによる受
「スクィグルから合同スクリプル」を選択し
容」があげられた。これは,4年生はギ
たが,児童の興味関心,生活経験,地域性を
ャングエイジとして集団で行動すること
配慮しながら,課題自体のもつ影響も検討す
を好むため,仲間からの受容される体験
を必要としていると考えられた。6年生
では「今までにやったことのない図工」
「描画に対する意外性」というカテゴリ
・一一一
ェあげられた。このことから,6年生
る必要があると考える。それによって,学級
適応にさらに有効な描画課題の選択も可能に
なるであろう。
本研究は,図画工作科における集団描画活
動を取り上げ,学級適応における有効性の検
は,描画素材や制作人数が今までと違う
討を行った。今後,児童の学級適応を高める
こと,また,1本の線に対する意外性とい
授業形態を研究し,深める必要があると考え
う新たな視点で集団描画活動をとらえて
いたと考えられた。
最後に,集団描画作品に対する教師の
印象評定と児童の学級適応感の検討を
行った。その結果,両者に相関が見られ,
る。また,多くの教師が,児童の学級適応を
高める授業に取り組めるよう目指していきた
いと考える。
主任指導教官:上地安昭
指導教官:上地安昭
平成13年度 学位論文
小学生の集団描画活動による学級適応に関する研究
兵庫教育大学大学院
学校教育研究科 学校教育専攻
生徒指導コース
MOOO55K
竹 間 智 子
Tomoko CHIKUMA
目 次
第1章 問題及び目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 1
第1節
「心の教育」の必要性と日常の教育活動の課題・・・・・…
1
1
「心の教育」の必要性
2 目常の教育活動の課題
3 図画工作科における描画活動の授業の特質
第2節
集団描画活動について・・・・・・・・・・・・・・・・…
1 学習指導としての集団描画活動
2 描画療法の視点を生かした描画活動
6
1)個人に及ぼす影響
2)集団に及ぼす影響
第3節
人間一環境相互交流(man−environment transaction)論における
学級適応について・・・・・・・・・・・・・・・・・…
・9
1 人間一環境相互交流(man−environment transaction)論に
おける適応
2 本研究における学級適応
3 「学級適応」と「心の教育」の接点
第4節
第5節
先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…
1 学級適応に関する先行研究
2 集団描画活動に関する先行研究
本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・…
・ 12
・ 16
第2章 集団描画活動の実践計画及び方法・・・・・・・・… 17
第1節
第2節
実践計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…
1 対象児童および実践校
17
2 描画課題
3 実践授業の手続き
展開例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 20
1 「島の共同画」
2 「スクィグルから合同スクリプル」
第3節
実践の評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…
1 評価尺度
2 評価の方法
28
第3章集団描画活動の実践についての分析・・・・・・… 30
第1節
研究1 集団描画活動が児童の学級適応感に及ぼす影響…
1 目的
2 方法
30
3 結果・考察
第2節
研究H 集団描画活動が児童の対人関係に及ぼす影響・…
1 目的
2 方法
33
3 結果・考察
第3節
研究皿 集団描画活動が児童の社会測定的地位と学級適応感に
及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・… 38
1 目的
2 方法
3 結果・考察
第4節
研究IV 集団描画活動による学級適応献言児童の分析e“・・42
1
目的
2
方法
3
結果・考察
1)学級適応感上昇群・下降群児童の特徴
2)学級適応感上昇群・下降群児童における集団描画活動
前後の各分析のデータ比較
第5節 研究V 児童の自由記述によるアンケート分析・・・・… 51
1
目的
2
方法
3
結果・考察
1)4年生の自由記述の分類と考察
2)6年生の自由記述の分類と考察
3)両学年の自由記述の分類における類似点と相違点
第6節 研究V【 集団描画活動作品に対する教師の印象評定と児童の
学級適応感の分析・・・・・・・・・・・・・… 59
1
目的
2
方法
3
結果・考察
1)集団描画活動前の児童の学級適応感の因子分析
2)集団描画活動作品に対する教師の印象評定の因子分析
3)学級適応感因子得点と教師の印象評定因子得点の相関
第4章 総合考察と今後の課題・・・・・・・・・・・・… 65
第1節 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 65
第2節 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 70
引用・参考文献一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…
Appen(lix ’・・・・…
1
2
3
4
’’” ・・’’’’’’’’’’’” 74
学級適応感に関する質問紙
心理的距離の測定に関する質問紙
集団描画活動直後のふり返り表
集団描画活動作品の印象評定に関する質問紙
71
第1章 問題及び目的
第1節 「心の教育」の必要性と日常の教育活動の課題
1「心の教育」の必要性
昨今のわが国では,不登校や凶悪化する青少年の犯罪行為が,
ますます増加している。そのため,子ども達の問題行為の日常化
と拡大化は,子どもの教育に対する危機的状況を映し出している
との認識がもたれている。上地(2001)は,健全な心の育成が,学校
教育の第1の目標であるべきだが,その教育の成果は,社会の期
待に十分に応えているとは言えないとして,「心の教育」の本格的
な学校現場への導入に伴い,その実践への真剣な取り組みが緊急
の課題であると述べている。
また,國分(1998)は「心の教育」を「サイコエジュケーション」
ととらえ,集団に対して,心理学的な考え方や行動の仕方を能動
的に教える方法として,学校教育における予防・開発的なアプロー
チとしての1つの形態であるとし,重視している。
中央教育審議i会(1998)の中間報告「幼児期からの心の教育の在り
方について」では,「心を育てる場としての学校教育を見直そう」
という方向性が示されている。学習指導要領においても,自ら課
題を発見し解決しようとする能力の育成として「生きる力」や「心
の教育」の大切さを指摘している。
高地(1999)は,戦後,日本の従来型教育は,常に結論と正答の教
授をマニュアル化した学習に重点を置き,正答を懸命に覚える学
習が行われ,教師は知識習得の効率性を重視し,豊かな発想や感
性・創造性の育成を軽視したど述べている。それが,現在の子ども
達の心の荒廃を生んだと指摘している。そして,今後の教育につ
いて,個性的で創造性豊かな人間を育むことをねらいとすべきで
1
あると主張している。具体的には,創造的な表現活動を通して心
や感性を培いながら表現する喜びを体験すること,心の危機への
予防として表現する中での昇華によって心の平静を保持すること
の2点が重要であるとした。
2 日常の教育活動の課題
「心の教育」を教師が展開する際の利点は,「ホームルームや図
工の時間,遊びの時間などに心理臨床的アプローチを取り入れる
ことができ,それが本来の授業の目的と抵触なくできることであ
る」と東山(1991)はいう。その一方で,教師は児童・生徒達と接し
た経験は豊富にあるが,心に対する知識や心に働きかける技術に
対する知識は乏しいとも指摘している。この点に関して,近藤
(1993)は,心理療法は高度な理論と専門的技術によって発展してき
たものであり,学校教育相談の方法として,そのまま取り入れる
ことは困難であると述べた上で,学校の特質機能に合った心理療
法の原理や治療者の態度を教育活動に生かす指導は可能であると
提案している。このような観点に立脚して,心理療法的視点を生
かした指導を,教師が工夫すると,Table1−1のようにまとめられ
る。
2
Table1 一1心理療法とその視点を生かした指導例(近藤1993をもとに著者が作成)
心理療法
カウンセリング
.
児童との触れ合いの中で日常の会話,児
童の立場になって聴く個人及び集団面接
面接指導
指導。
心 集団における児童の人間関係の調整・改
力動集団療法
.
小集団指導
理
療
善と役割を適合化し,集団を通して児童
フ人格を伸長させる。集団場面を利用す
る集団学習,集団討議,集団活動など集
cのダイナミックスによる指導。
法 落書き,指絵,絵画や工作,音楽,リズ
描画療法
ケ楽療法 .
V戯療法
心
理
劇
一一一
表現指導
劇化指導
的
ム運動,遊戯(遊び)などを行うことで,
緊張の解放,情緒の安定,自由な発想,
:葛藤の吐露を促進させ,観察し,指導す
視
る。
点
即興劇は,「今ここで新しく」という役割
を演ずることによって,自己認識を深め,
対人関係の拡大を促進させる。
を
生 文学作品の読書による情緒の安定,カタ
読書療法
一一)
読書指導
か
し
文章療法
.
作文・日記
指導
た
泣Vス,物語の人物との同一視,物語と
現実の自分との比較,自己洞察を促進さ
ケる。
困ったこと,憎らしいこと,悩みなどを
文章に綴らせることによって,諺積され
た感情を吐露させ,情緒の安定を図り,
フラストレーションの解消等促進させる。
指 体育的活動は,自由な自己表現の場であ
スポーツ療法
.
体育指導
導
り,人間関係を発展させたり,欲求不満
フ解消を促進させたりして,阻止された
欲求の安全なはけ口や耐性の強化を図
る。
3
このように,教師は様々な指導の機会をとらえ,児童に心理的
援助を与えうる可能性を持った存在であることを改めて認識する
必要があると考える。「心の教育」を考えていく上で,各教科にお
いて,心理療法的視点を生かした授業を行い,その授業が児童に
どのような心理的変化をもたらすかは検討されるべき重要な課題
である。
3 図画工作科における描画活動の授業の特質
そこで本研究では,小学校の図画工作科の描画活動を授業とし
て取り上げる。その授業の特質の主なものを以下に3つ述べる。
1つは,図画工作科は他教科と異なり,2時限を通しての授業
という時間枠で行われていることが多い。これは,児童にとって
時間の制限の意識が少なくなる。そのため,作業を完成させる時
間が十分に確保され,心理的圧迫感が軽減されると考えられる。
2時心あることで,教師は1時限だけの授業では見られない児童
の行動や様子を継続的に把握することも可能と考えられる。また,
学級担任が授業を行っていることが多いため,他の授業との児童
の様子と比較することも可能である。このような点から,日常の
教科活動では見ることができない児童の新しい面を発見できる
きっかけを得られる可能性が高いと考えられる。
2つめは,描画活動の授業は,与えられたテーマをもとに児童
自ら目標を定め,時間的空間的な行動様式を決定することができ
る活動である。また,この授業は,その際に生じた間違いを児童
自身が修正できる自由さを備えている。このように,児童が自ら
の意思で自由に描くことは遊びの要素を含み(村瀬,1996),遊びの
要素は,本質的な満足を与える(D.W. Winnic・tt,1979)ため,喜ん
で取り組みやすいと考えられる。
3つめは,教師は,音楽や演劇などの表現様式でも児童の行動
から心理的変化を読み取ることができる。しかし,これらの表現
4
様式は,時間の経過とともに記憶の変容が進み,フィードバック
して再度,検討することは教師や児童にとっても困難であると考
えられる。堀井(1988)は,「音楽や演劇はただ行為が終わった瞬間
に消えてしまうが,描くこと,それ自体が記録的な意味を持つ」
と述べているように,出来上がった描画作品は,形として残る。
徳田(1997)は,絵の場合,繰り返し見ることができるので,描い
ている時の心の状態等を追体験しやすいという利点を指摘してい
る。また,その作品を,児童が相互に鑑賞できる利点もある。こ
の点について,松原(1985)も,描画について「相互に作品を鑑:賞
し合うことによって,他者の特質を認め合う」と指摘している。
これらのことから,描画活動を授業で行うことは,描画の制作過
程や制作途中の作品を通して,追体験や相互の特質を認め合う機
会の場となりうると考えられる。
5
第2節 集団描画活動について
1 学習指導としての集団描画活動
高地(1999)は,描画指導において教師が,生徒のありのままの
表現を見守ることで,生徒は安心感を持ち,それが創作活動の意
欲やさらに上達しようという技能の向上に結びつくとしている。
また,教師が生徒の表現を尊重する姿勢は,生徒の表現への思い
を支援する助言や新たな展開を引き出す指導につながり,生徒は
教師に心を次第にひらき始め,技能的な指導も抵抗なく,受け入
れることが可能になると指摘している。ゆえに,創造的意欲や技
術の向上においても,児童の内面性を配慮した指導が重要である
と考えられる。
また,学習指導要領図画工作編(1999)の目標の内容についての
説明では,「自らつくりだす喜びは,友人や身近な社会とのかか
わりによって一層満足できるものになる」と示されている。その
うえで,表現の指導について「適宜,共同して作り出す表現活動
を取り上げるようにすること」を指示している。共同して作り出
す表現活動は,グループの一員としての役割行動を意識させるこ
とにもつながると考えられる。以下に,この表現活動の主な利点
について,3点述べる。
1つめは,1人で作品ができたときに感じる喜びより,友達と
一緒に作ることができたときに感じる喜びのほうが大きく,それ
は次に意欲となって増幅する(大橋,1999)ということである。
2つめは,他者のアイディアの意外性に驚いたり,共通の話題
で共感しながら語り合ったりできる(宿谷,1988)ことである。これ
は,表現活動の場と表現活動によって生じた思考を相乗的に拡大
させると考えられる。
3つめは,共同で何かを創り上げる場合,他者とのかかわりの
6
中で生じる感動や心の変化は大きく,そのかかわりを通して互い
の心が触れあい,より豊かに柔軟で寛大になる(金丸,1999)ことで
ある。
ただし,指導者としては,児童同士の関係に配慮することで,
その効果がより活性化する点も忘れてはならないと考える。
2 描画療法の視点を生かした描画活動
1)個人に及ぼす影響
描画療法の視点を生かした描画活動を取り上げる場合,個人
に及ぼす影響として,主に以下の3つのことがあげられる。
1つは,自己表現としての内面表出である。徳田(1988)は,描
画を通しての内面の表出について,「一般的に受け入れにくい
感情がもたらすエネルギー(例えば性的なもの,攻撃的なもの)
を適切な方法で表出を可能にさせる」と述べている。これは,
絵画表現行為そのものが,代償や置き換え,昇華の意味を持つ
ている(宿谷,1988)ことを示している。
2つめは,カタルシス効果とイメージの統合である。山中
(1978)は,子どもは遊びや絵画の中に,ごく自然に自分の心象
風景を投影するため,表面化していない心のわだかまりが,イ
メージという形でその出口を見つけると,表現の中でそれまで
は内にこもっていた感情や情緒が発散していくというカタルシ
ス効果を指摘する。また,その際,生じるイメージがさらに新
たなイメージをよび,新しいつながりを生じさせ,心の中での
統合(まとまり)が可能となって心の問題が解決していくとして,
イメージの統合という内的変化についても指摘している。
3つめは,自己理解から自己受容へ導くことである。村瀬
(1996)は,イメージや観念は「描きだされる」ことで,具体的・
可視的な形を得て,明確に認識しやすくなり,自己理解を促す
としている。また,描いている過程や作品から,描き手自身の
7
未知の自分への驚きや発見があり,自己洞察の手段や手がかり
をもたらすと指摘する。描き手は,描かれたものを通して内面
を省察し,次第に自分の感情を自分のものとして受け入れ,自
己洞察から自己受容へと進むとしている。
2)集団に及ぼす影響
描画療法の視点を生かした描画活動を取り上げる場合,集団
に及ぼす影響として,集団における相互交流があげられる。
関(1998)は,集団での描画活動は,集団への帰属感と凝集性
を高め,メンバー間の依存欲求を満たし,相互交流を引き出す
としている。つまり,作品そのものがコミュニケーションの媒
体となり,描画活動を通じてメンバー間の感情交流を生じさせ
る作用がある(徳田,1988)。
描画療法の視点を生かした描画活動を,集団で行う場合には
描画という媒体を通して,仲間との相互作用,一体感,連帯感,
共同の場での主張,受容などの作用が生じるといえる。これは,
「集団の中ではさまざまに生じる感情を集団内部で共有し,分
かち合い,助け合うことによって互助努力が芽生えてくる」と
高江洲(1998)が述べている点と一致している。
以上,描画療法の視点を生かした描画活動の,個人及び集団
に及ぼす影響を述べてきた。
本研究では,こうした心理療法的視点を取り入れながらも,
学校の特質・機能に合った,描画活動を素材として研究に取り
組んでいくことにした。
8
第3節 人間一環境相互交流(ffgxan 一 environme1itt eifenxtsactioit)
論における学級適応について
1 人懸一環境棚互交流《waame一@Wtwaw@mema@rm9翻甑§繊礁沁齢論に
おける適応
小泉(1992)は,人心と環境の相互作用に関する理論として,
比較的短期間の相互作用のダイナミズムを理解するにあたって
は,Wapnerらの提唱する人間・一環境相互交流論(Wapner,1987;
Wapner, Kaplan&C・hen,1973)が有用であると述べている。
山本・S.ワップナー(ggga)は,人間と環境とは切り離して分
析することは出来ず,1つのシステムとしてとらえ,「人間一環
境システムが分析の単位である」と論じている。すなわち,そ
こでは環境からの刺激に対してのみ反応する個人の心理・行動
(受動的適応)とか,個人の環境に対する一方的な働きかけ(能動
的適応)といった関係ではなく,環境と個人は相互に作用し合い,
9つの人間一環境システムを形成しているとしている。
また,彼らは,「人は,目的をめざして環境と相互交流を行う
目的志向性を持っている」と述べている。この『目的志向性』
とは,人は自己を取り巻く環境を構造化することや,それに意
味を与え,構造化された環境の中で自分自身を定位するように,
差し向けられていることを指している。
また,「人間一環境システムは,発達するにつれて,未分化な
状態から分化し,階層的に統合された状態へと移行する」と述
べ,これを,『定向進化の原理』とよんでいる。この原理は,個
体発生(年齢に伴う変化)だけに対象を限定した大部分の発達
的アプローチとは異なり,「受精から成熟・老年までの個体発生
だけではなく,他の継続的変化,たとえば微視発生にもあては
まる」と論じている。この『微視発生』(microgenesis)とは,「知
9
覚する,考える,行動するなどの活動をすべて徐々に発展する
過程であり,数秒のものであろうと数時間,数日かかるもので
も発達的な連続の中で生じる」と説明している。
また,彼らは個人を取り巻く環境について,『物理的環境』,
個人の対人ネットワークとしての『対人的環境』,社会的な習慣
や規範などを含む『社会一文化的環境』の3種に分類している。
人間一環境相互交流(man−environment transaction)論では,
アメーバーから人間にいたるあらゆる有機体である生活体が,
その環境と調和した望ましい関係にある状態,あるいはそのよ
うな関係を作り出すために自己や環境を変化させて相互に調整
し,均衡化をはかること『適応』としている。
2 本研究における学級適応
本研究では,この人間一環境相互交流論に基づき,小学生の
集団描画活動による学級における適応を検討する。小泉(1986)
はこの理論に基づき,教師及び級友の双方を対人的環境とし,
学校環境の中心ともいえる学業を社会一文化的環境ととらえ,
この2つの環境を教育環境と提示した。本研究では,学級の場
における教育環境を学級環境とし,この環境と個人の均衡化の
状態を「学級適応」とした。そうした状態における主観的受け
とめ方を「学級適応感」と呼ぶことにした。
3
「学級適応」と「心の教育」の接点
伊藤(1989)は,「心の教育」の重要な視点として,人間を信頼
することをあげている。子どもは,人から信頼されることで主
体的に行動しようとする意欲が生じ,責任感を持ち,問題解決
に向けて努力すると述べている。そのような過程を通して,子
どもは課題に向かって自ら解決していこうとする人間に成長し
ていくと指摘する。児童は,学校における教師や友達という対
人的環境や校則や学業という社会一文化的環境の中で自分の役
10
割を認識していきながら,それらの環境と均衡をはかり,適応し
ていくと考えられる。児童のこの均衡化を進めようとすること
が,あらゆる変化に対して積極的に対応し,社会規範を修得す
るという生きる力を伸ばすことにつながり,適応力を伸ばすと
考えられる。ゆえに「学級適応」と「心の教育」は,創造性豊
かな人間を育む上で関連が深いと考えられる。
11
第4節 先行研究
1 学級適応に関する先行研究
古川・藤原・井上・石井・福田(1983)は,Wapnerらの人間一環境
相互交流論にもとつく適応の研究の中で,対人的環境の再構成
に着目した。そして,大学新入生の対人関係網について微視発
生的な検討を行った。彼らは,新環境移行に伴う対人関係の変
化をPsychological Distance Map(以下PDMと略す)の内容を
基に分析,検討している。PDMの有効性は, PDMと対人距
離尺度・対人関係調査との結果から検討され,PDM上に表され
た特定の人物に対するPDM上の心理的距離と評定尺度で表さ
れた心理的距離との間には有意な相関が見られた。また,知人
群との心理的距離は非知人群のそれに比べてより近いことから
も対人関係尺度としてのPDMの有効性を確認している。また,
PDMを測度として,4Aから5.月にかけての変動状態とそれ
以降の変動内容を検討した結果,新環境の適応にとって,5A
中旬という時期が1っの臨界点であると報告している。
小泉(1984,1986)は,小学生の転校を取り上げ,その適応過程
を検討した。小泉は,環境を構成する3次元(物理的環境,対人
的環境,社会一文化的環境)での適応過程を総合的に捉えている
点で特徴的である。彼は,児童が転校した直後から4ヶ月間に
わたって,合計4回の調査を実施し,転校生の対人関係や学業
関係を教育環境適応尺度を用いて測定している。また,学校内
の設備や遊具の存在場所の認知内容を測定し,物理的環境の認
知を微視発生的観点から検討した。これによると,物理的環境
認知や対人交流の側面に関して,転校直後,新転入群は受け入
れ児童群より低得点であったが,対人的環境次元であるクラス
への感情や社会一文化的環境次元である学業への関心において
12
差はなく,転校による影響を受けにくい環境領域であることが
報告されている。この点について,クラスや学業といった側面
は,制度あるいは学校付随の本質的側面と見なされるので,新・
旧環境間に存在する個別の相違点を超えてクラスへの愛着,学
業への志向性が一般化されるのではないかと説明している。ま
た,個人の変数として社会的困難度が低い転校生ほど,対人交
流が活発であったことから,社会的場面で不安や困難を感じに
くい転校生は,新環境での対人交流を活発化できる可能性をも
っことを示唆している。さらに,新環境の再構成化の時期につ
いて,対人的環境次元では転校後3ヶ月目の6月が1つの目安
となり,物理的環境次元ではさらに時間を要し,7E以降をな
ることを報告した。
また,米澤(1986)は,小学校期の学校環境への適応の状態が,
中学校進学後の学校生活適応感にどのような影響を与えるのか
検討した。そこで,中学校生活での適応感をとらえるため,学
校適応感尺度を,中学校新入生に4Aから7月の間,1ヶ.月間
隔で計4回実施した。この結果,小学校期に形成された個人の
学校生活に対する適応感の程度が,中学校入学後の適応感に強
く影響することを見出した。さらに,入学後1ヶ月が,新環境
移行への適応にとって最初の分岐点になることと報告している。
小学校から中学校への環境移行において,浅川・米澤・小泉・古
川(1985)は,中学新入生の対人関係網の再構造化過程を焦点化
し,入学直後から4ヶ月にわたって計4回のPDMによる調査
を行っている。PDMに表出された友人を新旧のカテゴリーに
分類し,入学前に実施された学校適応感尺度得点により群分け
した対友人関係適応感水準の高群,低群から分析をした。この
結果より,入学後,1ヶ月で描出された友人度数上からも,心
理的距離上からも,旧友人と新友人との差がなくなることを見
13
出した。また,旧友人との心理的距離に時期による変化はない
ものの,新友人とのそれは,時期を追って有意に親近的になる
ことも見出した。さらに女子は,男子に比べて,新友人より旧
友人を多く選択することを示唆している。また,小学校期にお
ける友人関係の適応感がより高いものほど,中学校進学後もP
DM上に表す友人数は有意に多く,心理的距離においてもより
親近的であったとしている。
これらの研究は,発達段階や環境の違いなどがあるにしても,
個人は環境を自己の目的や計画に合うように構造化し,その個
人特有の構造化された環境を作り上げていくといった存在であ
ることを示唆しているといえる。これらの結果は,取り扱った
問題,領域は異なるものの,Wapnerら(1973)の人間一環境相互
交流論の仮説を支持するものと考えられる。
また,井上・高橋ら(2000)によれば,Furman&Buhrmester(1985,1992)
やFeiring&Lewis(1991)は,小学生の適応の研究について友人と
のよい関係と関連すると示唆する。また,対人関係の測定では
友達のみに注目するが,個人の対人関係の内容を重視していな
いとしている。
小学校3・6年生を対象に,井上・高橋ら(2000)は,絵画愛情
関係テスト(以下PARTと略す)を用いて,対人関係の枠組みを測
定した上で心理的適応との関係を検討した。小学生は,自ら選
んだ複数の重要な他者と良い関係を持つ限り,適応を支えてい
るとし,適応について友人との関係のみを重要視していない。
また,対人的交渉の相手が豊かでない子ども(話し相手がいな
い子,目立たない子)は相対的に適応が低いと報告している。
このように,絵画を見ながら質問に答える形としての適応の研
究はなされているが,描画活動と適応との関係は,明らかにさ
れていない。
14
以上のことから,学童期である小学校生活の中での人間一環
境相互交流論に基づいた,適応を高める支援としての集団描画
活動を検討する研究は試みられていないと考えられる。
2 集団描画活動に関する先行研究
集団描画療法の実践「子どもの描画療法における歴史と将来
の展望」の中で,松本(1999)は,「日本の研究の特徴として従来
は,研究の対象として不登校児が多かった」と述べ,阪神大震
災を機に健常児を対象とした研究が初めて報告されており,今
後の描画における研究の発展の可能性と課題としては,「健常
児への適用の拡大」と「集団を対象とした技法の導入」が重要
であるとしている。
また,彼女は集団における描画活動の研究は,阪神大震災で
被災した子ども達への心理的援助という目的で,描画を用いた
森(1997,2000)と藤井・長尾(1997)の研究のみと述べている。これ
らの研究は,震災後の児童の心的外傷への治療的関わりを描画
グループワークを通して検討している。また,このワークは,
1グループに1,2名の臨床に携わる経験をもったファシリ
チーターがつくグルー一・一プ構成で実施されている。また,これら
の研究は,集団内における個人の描画研究であり,集団におけ
る共同画の研究ではない。
15
第5節 本研究の目的
本研究では,学校の特質機能に合った心理療法的視点を生かした
授業を行うことで,児童の人格及び社会性の発達を促しながら,学
級適応がどのように変化するのかを検討することが目的である。
そこで,描画療法の視点を生かし,図画工作科における集団描画
活動を取り上げる。なお,本研究では,人間一環境相互交流論に基
づき,学級環境における学級適応を検討することにした。
本来,児童と学級環境には相互交流があり,そこでは一定の学級
適応が成立している。そこに児童が,集団描画活動を行うことで,
集団内で描画を媒体として個人の内面を表出する。児童は,そうし
た内面の表出を通して,自己洞察や自己受容が生じ,集団への帰属
感や周囲への信頼感が高まると考えられる。その結果,児童と学級
環境との相互交流は活性化され,集団内の協調・協働関係や良好な
対人関係が生じ,学級適応の在り方に変化が生じると考える。
具体的には,以下の3点を目標とした。
(1)集団描画活動が,児童の学級適応にどのような変化をもたら
すのか明らかにする。
(2)集団描画活動が,児童の対人関係に与える影響はいかなるも
のであるのかを明らかにする。
(3)児童が,集団描画活動をどのようにとらえているのか,また,
集団描画活動作品に対する教師の印象と児童の学級適応との
関連を明らかにする。
16
第2章 集団描画活動の実践計画及び方法
第1節 実践計画
1 対象児童及び実践校
埼玉県の公立小学校4年生2学級(男子31名,女子30名),6年
生2学級(男子30名,女子24名)を対象児童とした。各学年と
もに,新年度におけるクラス編制は実施されていない。
実践校は,埼玉県の都市部に位置する人口約100万人の市内に
ある公立小学校であり,全校児童約350名である。都市部に位
置する小学校としては,平均規模といえる。実践校の学区の特
徴としては,市を代表する由緒ある神社があり,3世代同居家
族が比較的多い。また,学区近くの駅周辺では,再開発による
近代的な公共施設の建設が著しい。学校は,特に荒れているこ
ともなく,調査当初は,市の総合的学習の時間についての研究
指定校として,その指導に力が入れられていた。学級適応に関
する指導,描画に関する指導について,特に特色あるものをし
ていたとは聞いていない。
以上のことから,対象校は都市部の比較的平均的な公立小学校
であると考えられる。
2 描画課題
本研究で用いる描画課題は,3∼4人の小集団で図画工作科
の時間内(90分)で完結するものを取り上げ,また,その内容
は,個人的な問題を直面化させるようなものではなく,子ども
が興味・関心をもち,描画に抵抗なく活動できるものが好まし
いと考えた。以上のことから,今回は子どもの人数,心身の状
態,発達レベルなどを考慮し,「島の共同画」と「スクィグルか
ら合同スクリプル」という遊びの要素を含んだテ・・一一一・マで共同画
17
を作成することにした。
これらの描画課題は,関(1998)の「集団絵画療法の実際」の中
に,掲載された集団絵画療法のテーマから選択した。また,課
題については,六二ご本人と検討した結果,小学校現場で用い
ても安全であるとのご指摘をいただいたので取り組むことにし
た。以下に2つの描画手順を述べる。
「島の共同画」は,まず,グループの仲間で1本のサインペン
(黒)を順番に手渡していき,ラシャ紙(模造紙程度の大きさ)
に線を描きながらっないでいく。それを島に見立て想像をふく
らませる。続いて,この島について,グループの仲間と話し合
いながらイメージを広げ,クレヨンを用いてそのイメージを全
員で描き込んで完成させるものである。
「スクィグルから合同スクリプル」は,各児童が,画用紙にカ
ラーマジックを用いて,なぐりがきの線を1本描いていくとい
う『線遊び』から始まる。これを2枚作成し,グループの仲間
と交換した上で,各自,「その線が何に見えるか」という線につ
いての『見つけ遊び』へと展開していく。その線からイメージ
されたものを,クレヨンを使って画用紙に描き込んで,一枚の
絵として完成させる。次に,その画用紙に描かれた絵の部分を
切り取り,それを大きなラシャ紙の上に貼り付ける。さらに,
足りないところはラシャ紙に描き加えるなどして,全体で1枚
の絵として完成させるものである。
この2つの描画課題は,まず集団で描画に取り組み,出来上
がった作品を鑑賞した後,出来上がった作品にグループごとに
物語や題名をつけて,再度,言語的にまとめ直すものである。
本研究では,集団での描画行為のみを集団描画活動ととらえる
のではなく,出来上がった絵を鑑賞することにより作られる物
語をも含めて集団描画活動と定めることにした。
18
3 実践授業の手続き
2001年6E20日∼7月10日まで主に図画工作の授業の時
間内に,各描画課題を2回(1回90分),計180分,著者に
よって集団に実施した。
各学級単位で,男女別の3∼4人の小集団を構成し,共同で
1枚の描画を制作した。各学級において2回の描画活動に処遇
交替デザインを用いた(Table2−1)。なお,小集団の構成は担任
に一任した。
Table2−1描画課題と提示順序
学年
描画方法・回数
組
1 組
4学年
2 組
1 組
6学年
2 組
1回目
島の共同画
スクィグルから
∮ッスクリプル
島の共同画
スクィグルから
∮ッスクリプル
19
2回目
スクィグルから
∮ッスクリプル
島の共同画
スクィグルから
∮ッスクリプル
島の共同画
第2節 展開例
1「島の共同画」
実施日時:2001年6月20日第3・4二時(10:45∼12:25,ll:30
∼11:40は休み時間)
実施場所=プレイルーム
準備するもの:各グループにつきラシャ紙1枚と黒サインペン
1本
各児童につきクレヨン
実施者の指示(●)と児童の反応と行動(★)
●これからグループのみんなで絵を描きます。ここでは,絵の上手
下手は全く関係ありません。自由に楽しくグループの友達と絵を
描いてみましょう。
★何が始まるのか不思議がる。
●では,一緒に絵を描くグループのメンバーに自己紹介して握手を
しましよう。そして,ジャンケンをして描く順番を決めてくださ
い。
★名前を言って握手し,ジャンケンをする。
●ジャンケンが終わりましたか。ではこちら(黒板)を見てくださ
い。
一実施者は,教壇に2人の児童をよぶ。3人でジャンケンをし,
線を描く順番を決める。そして1番目の児童に黒のサインペン
を渡す。
●これから,黒板にある大きな紙に順番に黒のサインペンで線を引
いていきます。右利きの人は左手で,左利きの人は右手を使いま
す。真っ直ぐな線でも曲がった線でもいいですよ。
一代表の児童が1本線を引く。
●次の人にサインペンを渡して,前の人に続いてその線を伸ばして
20
ください。描き終わったら,また,次の人にサインペンを渡して
いきます。そして,線をのばして1つの形を作っていきましょう。
線を描いている時は,グループのメンバーがどんな線を描いてい
るか,お話をしないで見ていましょう。
一実施者は,代表児童の2人と順に線をつなげていく。2順目に
は,1本の線がとじる形になるようにする。
●では,みなさんもグループの人と床にある大きな紙に1本のサイ
ンペンを手渡しながら,描いてみましょう。
★大きな紙を前に1本の線を自由に描き,1つの形を作っていく。
●今,みんなが描いた不思議な形は,実は島だったんです。今から
グループのみんなでその島に行ってみましょう。
一児童達がグループで描かれた島を見ながら,その周囲を1冷す
るように促す。
●この島はどんな島でしょうか。きれいな砂浜があるかもしれない
し,険しい崖があるかも知れませんね。どんな動物がいるのでしょ
う。もしかしたら無人島かもしれないし,宇宙にある謎の島なの
でしょうか。グループのみんなで話し合いながら思ったことをク
レヨンで描いてみましょう。
★思いえがいたイメージをグループの仲間と話し合いながら描いて
いく。
●絵を描き終わったら,どんな島ができたか空の高いところがら島
を一周してみましょう。
一描き終えたグループに対して,グループ全員が立ち上がり絵の周
りを一周して島巡りをするように促す。
★いろいろな角度から完成した作品を見ていく。
●島を一周できたら,自分達の島を見て感じたことや思ったことを
グループで話し合ってみましょう。そしてどんな島かお話を作っ
てみましょう。
21
一実施者は児童のつぶやきを温かく受けとめられるよう配慮する。
以下に,4年生女子(A子,B子,c子)グループによる作品(Fig.2−1
参照)とその島の物語(Table2−2)をあげる。
Table2−2題名「天空の島ラピュタ」の物語
A子 周りの雲はいろいろな色に毎日一目変化し,その島は,悪魔の国
ダークランド,光の国ライトランドに分かれています。
C子 ダークランドには,抜けられない迷路,アレルの森,欲望の洞窟,
白蛇の怨念畑がある。ここの神様を怒らせるとライトランドにも危
険を及ぼすといわれ,ライトランドのものがダークランドを滅ぼそ
うというものはいなくなった。ダークランドには昔,多くの戦士が
挑んだが4つの国があり,未だに滅ぼせない。
A子 反対にライトランドは,幸せがいっぱいです。ダークランドへ向
かって誰一人攻撃をしなくなりました。ここは,花や蝶がいっぱい
で光のように輝いています。
C子 ダークランドにあるアレルの森の実を食べると死んでしまいます。
でも,1つだけ助かる方法がある。森の深くにある花のペンダント,
これは,森で倒れた天使のものです。欲望の洞窟にも1つだけ光が
ある。それは,宝。でも宝を取ろうとしたものはやマタノオロチに
食べられてしまう。白蛇の怨念畑には,作物がたくさんなっている
が,これは悪魔の畑。
B子 ライトランドには,3匹の竜がいます。ダークランドで何か起こり
そうな予感なので,3匹はそろってダークランドに押し寄せていっ
てみようと考えています。
C子 でも,ダークランドの神はそんなに甘くない。3匹が攻めてきても
ダークランドを封じることはできないでしょう。
B子 でもいっか,ライトランドの光がダークランドを滅ぼすでしょう。
22
Fig.2−1作品「天空の島ラピュタ」
●自分達の島を一緒に作ったグループのメンバーと自分に「頑張り
ました」の拍手をして終わりにしましょう。
★出来上がった作品を見て,グループのメンバーと握手をする。
23
2 「スクィグルから合同スクリプル」
実施日時:2001年6月30日第1・2校紀(8:35∼10:10,9:20
∼9:25は休み時間)
実施場所=図工室
準備するもの:各グループにつきラシャ紙1枚と水性カラー
マジック1箱
児童1人につき8つ切り画用紙2枚
各児童につきクレヨン,はさみ,のり
実施者の指示(●)と児童の反応と行動(★)
●これからグループのみんなで絵を描きます。ここでは,絵の上手
下手は全く関係ありません。自由に楽しくグループの友達と絵を
描いてみましょう。
★何が始まるのか不思議がる。
●では,一緒に絵を描くグループのメンバーに自己紹介して握手を
しましよう。
★名前を言って握手をする。
一8つ切りの画用紙を1人につき2枚ずつ配る。
●各グループにある水性マジックの中から,好きな色を1っ選んで
ください。右利きの人は左手で,左利きの人は右手にマジックを
持ちます。今から,線遊びを始めます。配られた画用紙に1枚ず
つ,1本の自分の好きな線を描いてみましょう。真っ直ぐな線で
も曲がった線でもいいですよ。
一わからない児童には実践者が近くに行って例示してみせる。
★なぐり描きをする。
●好きな線が描けたら,グループのメンバーの線が描かれた画用紙
と一緒に並べて,いろいろな方向から見てみましょう。そして,
自分の描いた線以外で気に入ったものを2つ選んでみましょう。
★画用紙の向きを変えながら,メンバーの描いた線を選ぶ。
24
●選んだ線をよく見て,頭に浮かんだものをクレヨンで描いてみま
しよう。
一後でこの絵をはさみで切り抜くことをこの時点で伝えておく。
●出来上がった絵をはさみで切り抜いてから,グループのメンバー
と話し合い,これから配る大きいラシャ紙の上にそれぞれの絵を
置いてみましょう。
●切りとった絵をラシャ紙のどこに置いたらよいか話し終わったら,
それを糊で貼ります。そして,出来上がった絵を見て,足りない
ところや描き足したいところがあったら,ラシャ紙にクレヨンで
描きだしてみましょう。
一それぞれのなぐり描きしたものを台紙であるラシャ紙に貼るこ
とで,1つの作品ととらえ直し,新たなイメージが浮かぶ可能
性がある。児童がそのイメージを描けるよう実践者は,急がせ
たりせず,温かく見守る。
●出来上がった絵を見て,グループの友達と台詞を書き込んだり,
物語を作ってみましょう。
一グループで1つの物語にまとまらない場合は,1人ひとりの物
語を大切にするよう配慮する。
25
以下に6年生女子(D子,E子,F子)グループによる作品(Fig.2−2
参照)と物語(Tab l e2−3)をあげる。<なお物語は,実践者とのやり
とりの形で表す〉(Tは実施者)
Table2−3題名「巨人から見た風景」の物語
D子
T
D子
T
D子
F子
T
D,E,F子
えっと,「巨人から見た風景」です。
火星?
巨人…(笑い)
あっ,「巨人から見た風景」。ごめんなさい。どこが巨人から見
た風景なのかな。ちょっと説明してください。
向こうの方に指が見えるんですけれど,(うん)…
…あれが巨人の手で,巨人がその・…(緊張している・4秒)
リラックス,リラックス(笑い)
(笑い)
T
D子
T
D子
T
大丈夫,大丈夫…巨人の手で…
E子
(うなつく)
T
D子
E子
T
D子
T
D子
T
E子
島の風景が見えた。
なるほど… 巨人は誰が描いたの?
(E子を指す)
E子さんが描いたの。
スイカが島のように見えるんですけれど…
(にこつと笑って)スイカのような島を作りました。
(笑いながら大きくうなずく)
あとこれは何か大切なもの,何か光っているものをもっている
みたいね。なあに?
それは,巨人が持っているこっちの島の景色の見える・…
(声が小さくなる)
なあに,聞こえない。巨人が持っている…
ものは,(うん)こっちの風景が見えるようになっています。
ああ…(驚く。撮影中断)E子さん,ひとこと,どうぞ。
島は最初は普通の島だったけど,スイカにしたところがとって
もおもしろかったです。(笑い)
T
D子さん,何か言い残したことはありますか。
D子
T
特にありません(笑い)
F子
はい,ないです。
T
F子さんは?
んん,なるほど,巨人の手ねえ。
26
Fig2−2「巨人から見た風景」
●一緒に作ったグループのメンバーと自分に「頑張りました」の拍
手をして終わりにしましょう。
★出来上がった作品を見てグループのメンバーと握手をする。
27
第3節 実践の評価
1 評価尺度
次の4種類の質問紙を使用した。
(1)学級適応感に関する質問紙=小学生の学級環境への適応を測
話するため,質問紙を用いた。教育環境適応尺度(小
泉:1984,1986)の質問紙の質問項目から,1名の大学教官と7
名の現職教員が協議して質問項目を決定した。各質問項目へ
の反応方式としては,1∼4点の4段階評定,9項目であっ
た(Appendix1参照)。
(2)心理的距離の測定に関する質問紙:小泉(1984)が
Wapner(1978)の作成したPDMを小学生対象に作成しなお
したもので,125mm×125mmの正方形の枠の中央に自分を表
す顔の絵が記してある。枠内に7人まで○で友だちを表し,
その氏名を記入すること,その際,親しい友だちほど中央
の自己に近くなるよう位置付けることを求めた。これによ
り,対人関係と社会測定的地位をそれぞれ調査することに
した(Appendix2参照)。
(3)集団描画活動直後のふり返り表:(1)(2)の質問紙では,把握
が難しい児童の集団描画活動に対する感想を調査するため
4段階評定と自由記述を求めた(Appendix 3参照)。
(4)集団描画活動作品の印象評定に関する質問紙:岩下(1979)に
おける情緒的意味特性因子を参考に,1名の大学教官と3
名の現職教員が協議して質問項目を決定した。各質問項目
への反応方式としては,1∼4点の4段階評定,20項目で
あった(Appendix4参照)。
28
2 評価の方法
第1回目の調査は,実践授業をはじめる1週間前,2001年6
月中旬に実施した。調査内容としては,学級適応に関する質問
紙とPDMが用いられ,各教室において学級担任より集団で実
施された。なお学級担任には,調査趣旨,実施方法,および注
意事項等を説明し,確認を行った。2回目の調査は,2回の実
践授業を終えた時に1回目と同様に実施された。
また,2回の活動後には,学級担任を通してふり返り表のア
ンケー一・一トを実施された。
なお,集団描画活動作品の印象評定は,集団描画活動の実践
の終了後,H:大学院に在籍する小学校教諭経験10年以上の男女
9名により,実施された。
29
第3章 集団描画活動の実践についての分析
第1節 研究1 集団描画活動が児童の学級適応感に及ぼす影響
1 目的
集団描画活動を行うことで,小学生にどのような学級適応感
の変化が生じるのか明らかにする。
2 方法
第2章の第3節(p28∼p29)に述べた学級適応感に関する質問
紙を用いて実践の評価に基づき,分析する。
3 結果・考察
本研究の手続きに従って得られた児童の学級適応感得点にっ
いて,まず,学年別,性別及び調査時期別の差異が生じている
かどうかを検討した。’この分析にあたっては,それぞれの描画
活動グループを1標本とした。そのため,各グループに属する
全児童の学級適応感得点を当該グループの児童数で除した値が
標本値となった。学年別,性別及び調査時期ごとに平均学級適
三郎得点とその標準偏差値を整理したものがTable3−1である。
Table3−1学年別,性別,調査時期の平均学級適応感得点()内はSD
生男1 グループ数
PRE
嵩
ROST
男子
Nニ9
落q
N=9
男子
N=9
落q
N=7
24.44(2.67)
25.27(4.14)
Q5.09(2.82)
Q4.13(4.11)
23.67(3.49)
24.06(3.43)
Q2.89(1.98)
Q3.14(2.35)
4年
6年
この結果に基づいて2(学年)×2(性別)×2(調査時期)の混合
計画による3要因の分散分析を行った。その結果,Table3−1から
30
も明らかであるが,学級適応感において,有意な差は見られなかっ
た。(Fig.3−1参照)。
(点)
25.5
+4年(N=18)
+6年(Nニ16)
25.0
e一一一一一一一一一一一一一 i
24.5
24.0
23.5
23.0
22.5
o
x
授業前
授業後
Rg3−1 学年男iJSFig学糸i及遥疏感尋点、
この結果により,集団描画活動が今回使用した質問紙での測定では,
グループでの学級適応感に影響を与えているとはいえないと考えら
れる。その理由として,小泉(1984)が作成した27項目の教育環境適応尺
度を9項目に厳選したことが考えられる。また,小泉(1984,1986)によると,
5,月中旬から6月中旬にかけて対人的環境再体制化の時期にあたり,
その後,児童の適応感は安定するとしている。本研究では調査時期
を6A中旬から7月上旬に設定したため,すでに学級環境と個人が
31
安定した状態であったことが考えられる。さらに,学級編制が昨年
度,実施され,本年度は行われていないため,両者が安定していた
ものとも考えられる。また,今回は,グループを1標本として検討
したため,個人の変化としては言及できない。仮に,グループ内の
個人の変化を検討したならば,グループ内では同得点であっても,
個人の得点には顕著なものが表れたとも考えられ,今後の課題であ
る。
32
第2節 研究皿 集団描画活動が児童の対人関係に及ぼす影響
1 目的
集団描画活動を行うことで,小学生の対人関係における心理
的距離に,どのような変化が生じるのかを明らかにする。
2 方法
前述したPDMは学級適応感の1つの側面を反映していると
考えられる。第2章の第3節(p28∼p29)に述べた実践の評価に
基づき,分析する。
3 結果・考察
PDMに描出される人数の分析より
本研究の手続きに従って得られた児童のPDMについて,まず
描出人数に学年別,性別及び調査時期別の差異が生じているか
どうかを検討した。この分析にあたっては,研究1と同様にそ
れぞれの描画活動グループを1標本とした。そのため,各グルー
プに属する全児童が描出した人数を当該グループの児童数で除
した値が標本値となった。学年別,性別及び調査時期ごとに平
均描出人数とその標準偏差値を整理したものがTable3−2である。
この結果に基づいて2(学年)×2(性別)×2(調査時期)の混合
Table3−2学年別,性別,調査時期のPDMにおける平均描出人数()内はSD
PRE
ROST
性別 グループΨ
学年
6.15(0.82)
5.53(1.25)
男子 N=9
4年
U.17(0.85)
U.25(0.90)
落q
Nニ9
男子
N=9
5.64(0.89)
5.81(0.92)
落q
N=7
S.90(0.75)
T.21(1.05)
6年
計画による3要因の分散分析を行った。その結果,Table3−2か
らも明らかであるが,PDM上の描出人数において,学年差が
有意な傾向にあることがわかり,6年生群(M=5.39)よりも4年
33
生群(M=6.03)の方がより多いことが示された(F=3.89,df=1/30,
p<.06)。これ以外の主効果はいずれも有意ではなかった。また,
学年×調査時期の交互作用にのみ有意な傾向があるという結果
が得られた(F=4.00,df=1/30, p〈,06)。この有意な交互作用の
内容を検定するために下位検定を行った。その結果,集団描画
活動を行う以前では,PDM上の描出人数に有意な差があり,
6年生群(M=5.27)が4年生群(M=6.16)よりも有意に描出人数
が少なかったが,活動後には,この差は消失して同じ水準(4
年:M=5.89,6年:M=5.51)になるというものであった(Fig.3−2参
照)。
(人)
6.4
+4年(N=18)
+6年(N=16)
6.2
6.0
5.8
5.6
5.4
5.2
o
授業前
授業後
Rg.3−2学年別PDMにおける平均描出人数
34
PDMに描出された人物との心理的距離についての分析
集団描画活動が児童の友達に対する心理的距離に影響を及ぼす
のかどうかを検討した。この分析を行うため,PDM上に描出さ
れたそれぞれ友達と描出者との距離をまず測定した。この測定に
あたっては,描出者自身をあらわす「自分」から1cm刻みで10
の同心円を描き,最近接の同心円内にある人物に心理的距離得点
1を,そして最も遠い円内にある人物に心理的距離得点10を付与
した。次に,各個人と描出された人物との平均心理的距離得点を
算出した。この値をもとにそれぞれの描画活動グループの平均心
理距離得点が定めた。この値に基づき,学年別,性別及び調査時
期ごとに平均心理的距離と標準偏差値をまとめたものがTable3−3
である。
Table3−3学年別,性別,調査時期のPDMにおける平均心理的距離 ()内はSD
学年
性別 グループ’
PRE
ROST
12.88(3.05)
男子
N=9
18.22(2.89)
落q
N=9
P8.79(3.94)
P5.52(4.72)
男子
N=9
12.92(5.79)
12.38(4.07)
落q
N=7
P3.98(5.95)
P2.68(6.53)
4年
6年
この表に基づいて2(学年)×2(性別)×2(調査時期)の混合計
画による3要因の分散分析を行った結果,学年の主効果が有意
であり,6年生子の学級における心理的距離が4年生群の心理
的距離よりも有意に近いという結果が得られた(F=4.44,
df=1/30, p<,05)。また,調査時期の主効果も有意であり,集団
描画活動前の心理的距離よりも,活動後の心理的距離が有意に
接近していることが認められた。(F=16.00,df=1/30, p〈.01)。
さらに,学年×調査時期の交互作用も有意であった(F=6.71,
df=1/30, p<.05)。対友達との心理的距離に関して6年生群
(PRE:M=13.45, POST:M=12.53)は,調査時期を経ても有意な変化
35
はない。4年生群(M=18.51)は当初,心理的には6年生よりも隔
たった友達関係を持っているが,活動後には,6年生と同じ水
準(M=14.20)になるまで,心理的距離が接近していることを示唆
する結果であった(Fig.3−3参照)。
(cm)
20
+4年(Nニ18)
+6年(N=16)
19
18
17
16
15
14
13
’×××××一
12
11
o
授業前
授業後
Rg 3−3学年別PDMにおける平均心理的蹄准
36
これら2っの分析結果より,集団描画活動が心理的距離に及ぼ
す影響は,6年生に比べ,4年生のほうが大きいと考えられる。
4年生は,はじめ親近的でない多くの友達を持っているが,集団
描画活動を通してその数は減り,より親近感のもてる友達のみを
描くという結果が得られた。このことから,4年生は,多くの友
達との心理的距離を永続的に維持することが難しいと考えられる。
6年生は,描出人数,心理的距離にも4年生ほど変化が見られ
なかった。その理由としては,以下の2つが考えられる。
1っは,6年生は1度,友達として選択した場合,ある程度安定
した対人心理網を持っていると考えられる。このことについて,
河井(1985)は,「高学年になると,大きな集団で行動するより,少
数の仲良しの友達と強く結びついて行動を共にすることを好むよ
うになる」と述べている。また,高学年ほど,性格的に似ている
という内面的特徴を理由として友達を選択する(古川・小泉・浅川,
1991)からと考えられる。
2つめの理由として,ここで使用されたPDMでは「この学級
で生活をしたり学習したりするときにあなたにとって大切な人を
かいてください」と示されており,児童は,学級内の友達のみ,
記入するという受けとめ方をしている。課外活動やクラブ活動を
中心に進める6年生は,交友範囲も広がり,学級外に友達が多い
ことも十分考えられる。そうすると,学級内の友達には変化が見
られないかもしれないが,他クラス,他学年の児童も含めて対象
としたならば変化は見られたかもしれないと推察する。
37
第3節 研究皿 集団描画活動が児童の社会測定的地位と
学級適応感に及ぼす影響
1 目的
集団描画活動を行うことで,小学生の学級内における社会測
定的地位と学級適応感との関係性と明らかにする。
2 方法
第2章の第3節(p28∼p29)に述べた学級適応感に関する質問
紙とPDMを用いて実践の評価に基づき,分析する。
3 結果・考察
集団描画活動を通して,児童の学級内における社会測定的地位
を測定し,学級適応感との関連があるかどうかを検討した。ま
ず,田中(1981)による社会測定的地位指数(以下ISSSと記す)を,
PDMに描かれた選択人数から算出した。この値をもとに各個
人の学級適応感得点と対応させ,男女別に各学級ISSSの上位,
下位それぞれ4名,計8名を上位群と下位群(以下,H群・:L群
と記す)とし,それぞれの値を学年別,性別および調査時期ごと
に学級適応感得点の平均と標準偏差値をまとめたものが
Table3−4学年別,性別, ISSS高低群,調査時期の平均学級適応感得点O内はSD
1SSS
学年
性別
男子
:子躍
%:週心愁
PRE
POST
H群
人数
N=8
28.13(3.94)
30.38(2.20)
L群
N=8
19.88(3.83)
19.38(4.96)
H群
N=8
23,63(4.27)
23.75(5.42)
L群
N=8
25,50(4.72)
24.63(4.93)
H群
N=8
24.38(5.63)
25.63(3.34)
L群
N=8
24.00(5.61)
22.63(5.13)
H群
Nニ8
23,75(3.33)
24.38(2.88)
L群
N=8
23.75(3.45)
23.63(3.02)
4年
女子
男子
6年
女子
38
Table3−4である。
この結果に基づいて,2(学年)×2(性別)×2(ISSS高低群)
×2(調査時期)の混合計画による4要因の分散分析を行った。
その結果,Table3−4からも明らかであるが, ISSS高低群におけ
る学級適応感において,有意な差があることがわかり,ISSSの
L群(M=22.93)よりも}1群(M=25.50)の方がより高いことが示さ
れた(F=21.24,df=1/56, P<.01)。これ以外の主効果はいずれ
も有意ではなかった。また,学年×ISSSと性別×ISSSの一次の
交互作用がともに有意であった。(学年×ISSS:F=7.63, df=1/56, p〈.01,
性別×ISSS:F=30.27, df=1/56, p<. ol)。そして,学年×性別×
ISSSの二次の交互作用も有意であった(F=18.72, df=1/56,
p〈.Ol)。二次の交互作用については,Fig.3−4に示すとおりであっ
た。
39
(点)
31
睡H群(N=8)
□L群(N=8)
27
23
19
藤
o
4年
6年
男子
4年
6年
女子
Fig.3−41sss高低群別平均学級適応感得点
この図からもわかるように,男子群,女子群とでは,学年と社会
測定的地位の交互作用の形態が異なるという結果が得られた。下位
分析の結果,6年生の男子群には,H群, L群における有意な差は
見られなかったが,4年生の男子群ではH群(M=26.47)がし群
(M=22,35)より有意に高いことが示された(F=7.63,df=1/56,p<.05)。
女子群では,有意な年齢差も社会測定的地位水準差も認められな
かった。
井森(1997)は,小学校3,4年生以降,仲間集団に属したい,
仲間から受容されたいという欲求が強くなると述べているが,今
回の実践では,4年生男子群の:L群が,学級適応感が低いことが
認められた。また,井森は,社会測定的地位が低い子どものパタV一一・一
ンとしては,攻撃的,非協調的感情を露骨に表現するといった特
40
徴をもつ行動過多の子どもである場合と,消極的,内気で不活発
な引っ込み思案な子どもである場合を指摘している,今回の対象
児童と一致していると考えられ.た。彼らは,学級の友達に対して
自らの関心は高いのだが,友達と行動を共にすることが難しいゆ
え,他の児童の認知は低い。その結果,L群の学級適応感が低い
と考えられる。
また,4年生女子,6年生男子,女子に社会測定的地位水準差
が認められなかったのは,自らの人気度に関係なく,ある特定の
友達がいれば学級適応感に影響を与えないということが考えられ
る。また,6年生は,課外活動やクラブ活動を中心となって進め
るため,学級を越えた交友範囲が考えられる。また,委員会活動
や学校行事等で下級生の世話をすることで慕われる児童もいる。
ゆえに,学級における社会測定的地位は低くても,全校児童にお
ける社会測定的地位は高い可能性も考えられるであろう。
しかし,この研究では,集団描画活動前後の学級適応感と社会
測定的地位との有意な差は,見られなかったため,集団描画活動が
社会測定的地位に効果をもたないのか,もしくは社会測定的地位
の低下を阻止しているのかは不明である。
41
第4節 研究1V 集団描画活動による学級適応感別児童の分析
1 目的
すでに,集団描画活動が児童に及ぼす学級適応感について,
グループ単位での検討を研究1で行った。そこで,研究rvでは,
学級適応感の上昇・下降した児童の特徴を活動の様子やふり返
り表の自由記述をもとに検討する。
2 方法
1)学年ごとに,集団描画活動前後の学級適応感の差から上昇群と
下降群に分ける。その中で,それぞれ著しい変化のあった児童
を各学年5人ずつ抽出し,学級適応感上昇群・下降群児童とす
る。これらの児童達の活動の様子やふり返り表の自由記述から,
晶群の児童の特徴をまとめ,検討する。なお,対象児童115人
中,学級適応感が上昇した児童は,59人(51.3%)平均上昇得点
2.46点,下降した児童は44人(38.3%)平均下降得点2.91点,変
化しなかった児童は12人(10.4%)であった。
2)上記にあげられた学級適応感上昇群・下降群児童の集団描画活
動前後の各分析データの差の平均値より,晶群の児童の特徴を
検討した。
3 結果・考察
1)学級適応感上昇群・下降群児童の特徴
(1)学級適応感上昇群児童の事例分析と考察
学級適応感上昇群児童の事例の概要をTabIe3−5に示し,考察
をする。
42
Table3−5 学級適応感上昇群児童の事例の概要
対象児童
分析データ
@ ・上昇得点
A男(4年)
7点上昇
(23→30)
PDM人数 3.0→2.0
PDM距離 7.5→5.0
ISSS
O.26→0.18
性格・活動の様子等
人がよく,嫌とはいえない性格のA男
は,活動中,笑顔が絶えなかった。同
グループの仲間が泣いていたら,慰め
るなど仲間を思いやる行動が見られ
た。普段はおとなしく,人前での発表
を進んでしない。しかし,活動中は,
仲間と全身を使ってダイナミックに
絵を描く姿や,床に寝そべって描く姿
が見られ,物語の発表の時も楽しそう
にしていた。
B男(4年)
5点上昇
PDM人数 7.0→7.0
PDM距離14.5→16.0
(25→30)
ISSS
O.4→0.4
体を動かすことを好むB男は,グルー
プの仲間と冗談を言い合いながら,活
動していた。自分のアイディアを仲間
に伝え,仲間がそれを絵に表現し,そ
れを見て喜んでいる姿が印象的だっ
た。また,他グループの作品を見たり,
そこの仲間と話をしたりして,行動範
囲が広かった。
C男(4年)
PDM人数 7.0→6.0
5点上昇
PDM距離18.5→17.0
(27→32)
ISSS
O.55→0.45
常に笑顔で活動しているC男は,仲間
のアイディアをよく聞いていた。普段
は,おっとりしていて,あまり目立つ
行動は好まない。また,人前に立つと
緊張しやすい。活動中は,他のグルー
プの作品を見ては,面白いアイディア
など同グループの仲間に伝えている
様子が見られた。
D子(4年)
4点上昇
PDM人数 6.0→5.0
PDM距離21.5→12.5
(21→25)
ISSS
O.1→0.08
D子は,活動時に同グループの仲間と
打ち解けていない様子であった。しか
し,仲間の動きを見てD子なりに活動
に参加していた。その姿は,仲良くや
ろうと頑張っているようにも見えた。
アンケートには「無視されることが
あったけれど楽しかった」と記されて
いた。
43
対象児童
分析データ
性格・活動の様子等
恥ずかしがり屋のE子は,仲間と寄
3点上昇
PDM人数 7.0→6.0
PDM距離 14.0→7.5
(22→25)
ISSS
@ ・上昇得点
E子(4年)
O.54→0.45
り添いながら,常に絵を描いていた。
活動中に他のグループの仲間にきつ
い一言を言われたのが原因で,泣く
場面も見られた。しかし,周囲の仲
間に慰められ,再び,笑いながら活
覚していた。好んで絵を描いている
様子がうかがわれた。
9点上昇
PDM人数 7.0→7.0
PDM距離 9.5→4.0
(18→27)
ISSS
F男(6年)
O.56→0.56
F男は,いつも周囲の仲間を笑わせ
ることを好む。活動中も他のグルー
プに行っては,絵について楽しいこ
とを言って仲間を笑わせる姿が見受
けられた。自ら面白いアイディアを
出しては笑っていたが,調子に乗り
すぎる場面も見られた。絵には,漢
字の当て字を書き,楽しんでいた。
G男(6年)
5点上昇
(13→1$)
G男は,体調が悪いためか,活動中
の会話はほとんどなかった。学級で
は,常に1人でいることが多い。ほ
とんど絵も描く姿を見受けられな
かった。しかし,大変真面目な性格
で几帳面であるので,常に仲間のほ
PDM人数 6.0→6.0
PDM距離33.0→22.5
ISSS
O.18→0.18
うに体を向けていた。
4点上昇
PDM人数 4。0→4.0
PDM距離 2.0→2.0
(22→26)
ISSS
H子(6年)
おとなしい性格だが,芯が強いH子
は,グループ内の仲間が描く絵を見
ては微笑んでいた。仲間の意見も聞
き,アイディアを出し合い,活動を
楽しむ姿が見られた。描画もとても
丁寧に取り組み,出来上がった作品
O.38→0.54
をじっと眺めていた。
1子(6年)
PDM人数 4.0→4.0
おとなしく,自分から行動すること
3点上昇
PDM星巨離 17.5→6.0
(19→22)
ISSS
の少ない1子は,仲間の描く絵を見
ながら,自分なりのペースで活動し
ていた。初めのうちは,仲間に対す
O.29→0.22
る遠慮からか,取り組み方がわから
なかったのか,ためらっている様子
に見えた。仲間の声かけにより,次
第に活動中の笑顔が増えていく様子
がうかがわれた。
44
対象児童
分析データ
性格・活動の様子等
PDM人数 5.0→6.0
PDM距離22.0→15.5
J子は,グループの仲間を気遣いな
がら,自分の考えをわかりやすく伝
えていた。また,仲間から,面白い
アイディアを聞くと進んでそれを取
り入れていた。作業が丁寧で,友達
の描く部分を手伝う場面も見受けら
@ ・上昇得点
J子(6年)
2点上昇
(22→24)
ISSS
O.31→0.33
れた。また,出来上がった作品をじつ
くりと見つめていた。
(→は集団描画活動の前後の変化を示す)
事例分析と考察
学級適応感上昇群児童について,以下の4つの特徴が観察でき
た。
・活動中,笑顔を絶やさず,仲間と楽しく活動していた児童が
多い。
・穏やかな性格で,人前で発表するときに緊張しやすい児童が
多い。
・自分とは異なる仲間の意見を聞くことができる。
・発想が豊かである児童が多い。
学級適応感上昇群児童において,自らのアイディアを仲間に
楽しそうに伝え,仲間の意見を丁寧に聞く積極的なコミュニ
ケー一一一ションが見られた。児童達は発想が豊かであり,異なる意
見にも耳を傾ける柔軟性があると考えられる。また,人前で発
表するときに緊張しやすい児童もいたが,仲間とともにいるこ
とで相乗的に安心感が高まり,安定感が生じたのではないかと
考えられる。このことは,Wrightsman(1960)の実験からも,他
者と一緒にいると不安が低減されることが確認されている。
また,上昇群の事例の中には,学級では常に1人でいる児童
が,この授業を通して一時的に集団に所属できたことから生じる
帰属感や,活動中に些細な中傷を受けても仲間に励まされるこ
45
とで生じた連帯感から学級適応感が上昇したのではないかと考
えられるものもあった。
(2)学級適応感下降群児童の事例分析と考察
学級適応感下降群児童の事例の概要をTable3−6に示し,考察
をする。
Table3−6 学級適応感下降群児童の事例の概要
対象児童
@ ・上昇得点
K男(4年)
5点下降
(27→22)
分析データ
性格・活動の様子等
PDM人数 7.0→7.0
PDM距離12.5→31.5
ISSS O.24→0.33
通常の図画工作の授業でも何を描く
かじつくり考え,取り掛かりが遅れ
るK男は,今回も,時間をかけて何
を描こうか考えていた。同グループ
の仲間達が描きすすめる中,仲間の
描いたものをまねて描く場面が多く
みられた。描くよりも,仲間が描い
た絵を見たり,絵について話したり
することを好んでいた様子であっ
た。
L男(4年)
4点下降
(24→20)
PDM人数 7.0→6.0
PDM距離19.0→15.5
ISSS O.24→0.15
口数の少ないL男は,2枚の描画と
も木の幹にこだわり,描いていた。
木の幹の塗り残した部分を指を使っ
てじかに塗りこめようとする姿が印
象的だった。「島の共同画」で島の名
前を決める際,仲間と意見がまとま
らず,実施者がそのグループに介入
した。その話し合いでも,最後まで
自分の意見を通し続けた。
M子(4年)
6点下降
(26→20)
PDM人数 7.0→7.0
PDM距離18.0→13.5
ISSS O.18→0.26
絵を描くことを好むM子は,のびの
びと活動していた。しかし,仲間の
意見を聞かず,自分の意見を押しつ
ける場面が数多く見られ,実施者が
グループに随時介入した。活動の途
中で,他のグループから,絵をまね
たと指摘され,一時黙り込む場面も
見受けられたが,すぐに活動を再開
した。
46
対象児童
@ ・上昇得点
N子(4年)
6点下降
(21→15)
分析データ
性格・活動の様子等
几帳面なN子は,はじめどのような
絵を描いたらよいか,迷っている様
子だった。活動中は,実施者を呼び
PDM人数 2.0→2.0
PDM距離 6.0→5.0
ISSS
O.0!→0.01
とめ,何度も描いた絵の説明を行い,
承認を求めた。また,自分の思い描
いたように表現できないと,苛立っ
た様子だった。しかし,物語を作る
ときは生き生きしていた。
終始,表情の硬かった0子は,描画
0子(4年)
PDM人数6.0→6.0
8点下降
PDM距離28.0→27.7
(25→17)
P男(6年)
3点下降
(27→24)
時の仲間との会話は少なく,丁寧に,
黙々と絵を描き続けていた。自分の
lえをもっているが,それが相手の
意見と異なるとさつと引いて黙り込
む場面が見受けられた。仲間との話
し合いでは,物語は1っにまとまら
ず,実施者がグループに介入し,個
人で作ることになった
PDM人数 7.0→7.0
絵を描くことを好むP男だが,今回
PDM距離14.5→19.0 は同グループの仲間が率先して制作
に取り組んだためか,自分の意見や
ISSS O.63→0.63
思いを伝えることをためらいがちで
あった。また,活動中に仲間からか
らかわれ,苦笑いをしていた場面も
ISSS
O.37→0.31
見受けられた。
Q男(6年)
4点下降
i26→22)
Q男は,開放的な性格で活動中は他
のグループの作品をよく見て回って
「た。みんなで話し合い,紙を出来
驍セけ小さく畳み込んで意図的にし
わをつけて楽しんでいた。作品の出
PDM人数 7.0→6.0
PDM距離 3.5→12. O
hSSS
O.54→0.54
来上がりは早く,描き終わった後,
今度は1人でこの紙に描きたいと実
施者に伝えた。
R男(6年)
13点下降
i27→16)
PDM人数 2.0→4.0
R男は,仲間との協力が得られな
PDM距離 4.5→6. O
かったためか,活動中,徐々に苛立っ
hSSS
トいる様子だった。作業は思うよう
ノ進まないため,絵は乱雑になって
いた。最終的には,リーダーシップ
を取って活動にしていた。活動後の
O.11→0.04
感想は無記入であった。
47
対象児童
分析データ
@ ・上昇得点
S子(6年)
PDM人数 5.0→5.0
3点下降
PDM足巨離 11.0→9.0
(19→16)
ISSS
性格・活動の様子等
S子は,実践期間中,学級内で親し
い友達と口をきかない状態が続いて
いた。活動中は終始,硬い表情で仲
間や描画作品と距離をおいている印
象を受けた。仲間との会話は,非協
力的な様子で描画も積極的に取り組
む様子ではなかった。出来上がった
作品は,空白部分の多いものであっ
O.47→0.42
た。
T子(6年)
PDM人数 7.0→7.0
4点下降
PDM距離21.0→18.5
(28→24)
ISSS
O.49→0.42
普段あまり交流のない仲間と活動を
ともにしたT子は,「今の仲間が嫌
いではないが今度はグループ替えを
したい」と感想に書いていた。また,
活動が,なかなか進まないので自ら
リードしていた。仲間からのアイ
ディアが少なかったせいか,少し苛
ついている場面も見受けられた。
(→は集団描画活動の前後の変化を示す)
事例分析と考察
学級適応感下降群児童について,特徴的なことは,その児童
達が所属するグループに実施者が,介入することであった。そ
の理由として,活動中のけんか,メンバー間の意見の対立やメ
ンバー同士が非協力的であったことがあげられる。
下降群児童は,自分の意見に固執するあまり,仲間に対する
発言のしかたが個性的であり,攻撃的となる場面が見られた。
そのため,仲間との衝突が生じやすく言い争いとなったと考え
られた。また,自らの意見に固執し,他の仲間の意見を聞き入
れる柔軟性が乏しく,意見がまとまらなかったとも考えられる。
活動に対して,仲間が非協力的であった理由として,メンバー
同士が活動以前から互いにあまり仲の良い状態でなかったとい
う情報も担任から得た。
48
このことから,下降群児童は,グループ内のまとまりが悪かっ
たことが下降の原因の1つと考えられた。
下降群児童の中には,描きたいものがなかなか見つからない
ことから生じる迷いや,自分の意見を仲間に上手に伝えられな
いためらいが原因で学級適応感が下降したのではないかと考え
られる事例もあった。また,「今度は1人でこの紙に描きたい」
と発言し,仲間と描くことに不自由さを感じる児童もいた。
以上のことから,日常の図画工作科の活動の中で,教師は,
随時,児童が描画に取り組みやすいよう助言をする必要性があ
ると考えられた。また,児童が,自分の意思を伝えることがで
きるよう社会的スキルの指導を取り入れることも重要であると
考えられた。
本研究にあたっては,実施者は,各学級担任にグループ作り
を一任している。ゆえに,教師は,個々の児童が持ち味を生か
しながら,好ましい活動の展開ができるよう集団を形成してい
く教育的配慮が必要であると考えられた。
また,教師は集団の活動で生じる帰属感,連帯感を生かしな
がらも,集団で描くことの不自由さを感じる児童に対しては,
別の集団活動場面を設定する必要があると考えられる。
49
2)学級適応感上昇群・下降群児童における集団描画活動前後の各分
析のデータ比較
学級適応感上昇群・下降群児童ごとに集団描画活動前後の各
分析デL一一Lタ(Table3−5,3−6)の差の平均値を整理したものが
Table3−7である。
Table3−7学級適応感上昇・下降群児童の集団描画活動前後の
各分析データの差の平均値(Nニ20)
学級適応感
上昇群
下昇群
十4. 7
−5.6
PDM人数
一〇. 3
0
PDM距離
一5. 2
2
1SSS
一〇. O18
−O. O17
この表から,PDM人数とISSSにおいて,両群ともに大きな
差は見られなかった。しかし,PDM距離においては約7・cm上
昇群の方が近づいている結果が得られた。このことから,学級
適応感上昇群児童の方が下降群児童より,心理的距離は近く
なり,親密的になる傾向があると考えられた。
50
第5節 研究V 児童の自由記述によるアンケート分析
1 目的
集団描画活動直後のふり返り表の自由記述より,児童が集団
描画活動をどのように捉えていたのかを明らかにする。
2 方法
H大学院に在i籍する現職教諭5名(男性4名,女性1名,うち
小学校教諭2名)により,児童の自由記述をKJ法的手法により,
学年別に特徴のあるものに注目して,分類,整理する。
3 結果・考察 吟日,グループで絵をかいて感じたこと,思ったことがあったら書いてくださw
ここにあげる言葉は,各カテゴリーの中の特徴的なものであ
る。言葉は原文を意味など変えないように配慮した上で,ほぼ
児童の言葉を用いた。
1)4年生の自由記述の分類と考察
(1)グループ活動のよさ
「いっしょに協力してやって楽しかった」
「1人でかくよりグループでかくとおもしろいんだなあと思っ
た」
「みんなといっしょだといろいろなアイディアがうかび上がって
くる」
「みんなと力を合わせてやったからうまくかけた」
「みんなといっしょに絵を描いて,友達と仲良くなれた」
これらの言葉は,グループ活動のよさを表していると思
われる。仲間と共に活動することにより,新しい発想が芽
生え,より上手に描くことができるなどグループ活動の効
果を表していると考えられる。また,その結果として仲間
への親近感も生じていると思わ.れる。
51
(2)描画時に話し合うことの楽しさ
「みんなで絵をかいて話し合うことによって,絵をかくことが楽
しくなると思う」
「いろいろ意見が合わなかったけれど,みんなでいろいろ決めて
かけたので,楽しかった」
これらの言葉は,描画時に仲間と話し合うことの楽しさ
を表していると思われる。仲間との意見の相違が生じても,
絵の完成という共通の目標を達成しようとする話し合いが
進められたと考えられ,また,描画時に話し合うことによ
り,描画活動も楽しくなったということも考えられた。
(3)物語を作ることの楽しさ
「物語を作っていたときの方が心がはずんでいた」
「物語を作ることで絵も楽しくなった」
これらの言葉は,描画後の仲間との物語作りの楽しさを
表していると思われる。描画表現ではなく,言語表現とし
ての物語を作るほうに楽しさを感じる児童がいたと考えら
れる。また,仲間と物語を作ることで描いた絵に対する感
情が肯定的に変化することも示していると思われる。
(4)描画自体の楽しさ
「大きな紙に絵をかいてとても楽しかった」
「いろいろな絵がかけて楽しかった」
「もっと絵をかきたい」
これらの言葉は,描画自体の楽しさを表していると思わ
れる。描画課題に遊びの要素を取り入れた投影法を用いた
点や通常の授業で使用しない大きな紙やクレヨンを使用し
た点が,描画自体の楽しさを引き出した原因とも考えられ
る。
52
(5)メンバーによる受容
「みんな私の思っていることをわかってくれた」
この言葉は,描画活動を通しての話し合いの中でメン
バーに受容されたことを表していると思われる。仲間に自
分の思いを受容されながら,仲間と共に活動することは,
安心感を生じさせると考えられた。
(6)グループ活動による拘束
「自分の好きなように決めたりしてはいけないと思った」
「自分のかきたいようにかける人とそうでない人がいるから,1
人で小さな紙にかきたい」
「1人がたくさんかいているからグループがえをしたい」
「絵のことを相談すると無視されることがあった」
「けんかをした人もいたけれど楽しかった」
「臨むかっくこともあったけれど少しうれしいこともあった」
これらの言葉は,グループ活動による拘束を表している
と思われる。観察の結果からもグループ内の規範を守らな
い仲間に対して,他の仲間が不快に感じていたことや,活
動を通してグループ内で対立的な感情が表出し,けんかや
無視といったことが生じていた。しかし,「けんかをした人
もいたけれど楽しかった」「営むかっくこともあったけれど
少しうれしいこともあった」と記述にあるように,仲間に対
して,否定的な行動や感情が生じても,肯定的な感情が消
失するとは言いがたいとも考えられる。以上のことから,
児童はグループ内で,肯定的,否定的感情の両方を抱きな
がら活動していると考えられた。
53
(7)作品への評価
「最終的には自分が思ってもみなかった絵ができた」
「不思議な絵ができた」
「友達がおもしろいものをかいて,おもしろかった」
「他の人も絵が上手だと思った」
「いろいろ工夫していい作品だなあと思った」
これらの言葉は,作品への評価と思われる。出来上がった
描画作品の意外性に対する感想,共に活動した仲間のよさを改
めて認識するなど集団描画活動ゆえの意見と考えられる。
2)6年生の自由記述の分類と考察
(1)グループ活動の楽しさ
「グループで一緒に活動するのが面白かった」
「みんなといろいろ相談しながら描けてとても楽しい」
「グループで絵をかいて楽しかった」
「みんなと協力して1つの絵を完成させたから,グループの人と前
より仲良くなった」
これらの言葉は,グループ活動の楽しさを表していると思
われる。仲間と一緒に活動することを,楽しさとして受けと
め,仲間との親近感も生じていると考えられる。
(2)今までにやったことのない図画工作
「今までにやったことがなかったので楽しかった」
「今までにやっていないことをやったので少し考えた」
「久しぶりにクレヨンで絵をかいたのでとても楽しかった」
「いつもの図工は1人ひとりが自分の作品を作っていたから,4人
くらいのグループでやって楽しかった」
これらの言葉は,通常の図画工作の授業とは異なり,今まで
で体験したことのない図画工作であったことを示していると
思われる。その異なる点として,描画素材,制作人数につい
てあげられていた。その違いを積極的に捉えているものもあ
れば,「少し考えた」と記述にあるように多少の戸惑いが生じ
54
た児童もいることから,今回の活動に対して慎重に受け止め
る様子がうかがわれる。
(3)描画に対する意外性の発見
「1本の線からいろいろなものがうかんできた」
「1本の線からこんなおもしろい物語できるとは思わなかった」
これらの言葉は,描画に対する意外性の発見を表している
と思われる。特に,なぐり描きであるスクィグルを用いた描
画課題は,『写実期に移行する高学年の6年生にとっては新鮮
であったと考えられる。
(4)展開していく楽しさ
「1人が絵を描いて,また1人が絵を描いて,また1人が絵を描い
ていくと個性が重なり合って,おもしろいことができた」
「みんなで少しずつ描いてアイディアを出していろんなふうにか
けて楽しかった」
「1つの形から何かをつけたすことで絵の中の世界が広がってい
くのが,絵のすばらしいところだと思った」
これらの言葉は,集団で絵を描くことによって,絵が展開し
ていく楽しさを示していると思われる。児童は,仲間と一緒
に絵を展開していくことを個性の重なり合いととらえたり,
この活動により絵のすばらしさを見出したとも考えられた。
(5)自由に描くことの楽しさ
「自分達の描きたいことを好きなようにたくさん描けたのでとて
も楽しかった」
「しっかり描くのもいいけれど楽しく描くのもいいと思う」
「意味不明な絵を描いたりして,かなりおもしろかった」
これらの言葉は,自由に描くことの楽しさを表している
と思われる。「しっかり描くのもいいけれど楽しく描くの
もいい」と記述にあるように技能的なものを過度に要求さ
れず,また,教師から評価されないことが自由に描くこと
55
の楽しさとして生じていると考えられる。
(6)作品に対する自己評価
「みんなと協力して自分としては,いい絵が描けたなあと思った」
「友達とよく相談してとてもいい作品ができた」
「前回よりもうまくできた」
これらの言葉は,児童の作品に対する自己評価を示して
いると思われる。いずれも肯定的な評価であり,仲間とと
もに創り上げた作品に対しての満足感がうかがわれる。
(7)グループ活動の難しさ
「少しグルー一一一プを変えたい。同じ人とやりすぎると逆につまらなく
なってしまう」
「みんなと描きたいと思ったのに『どうする?』と聞くと,『知ら
ない』『わからない』と言われた」
「あまりいい気持ちにならなかった」
これらの言葉は,グループ活動の難しさを示すものと思
われる。6年生の場合,日常の友達関係がグループの活動
に影響を与えることが考えられる。特に,6年生女子の場
合,親密でない子でグループを構成するとグループの機能
が円滑に働かない場合があり,今回は話し合いの減少とい
う形であらわれたと考えられる。
3)両学年の自由記述の分類における類似点と相違点
(1)両学年の自由記述の分類における類似点
a「グループ活動」について
カテゴリ・一一一一に分類をする際に,4年生,6年生を通して,
グループ活動をただ一緒にいることのみをさす「仲間と一緒
にいる活動」と狭くとらえるのか,話し合いを含め,グルー
プで行う活動すべてをグループ活動と広くとらえるのか2っ
56
の観点が提示された。そこで,今回は,後者のとらえ方では,
カテゴリーの多くの分野を包含しているため,前者の「仲間と
一緒にいる」という観点でグループ活動をとらえることにし
た。
両学年ともに,グループ活動に対する肯定的,否定的なカ
テゴリーとして4年生では「グループ活動のよさ」「グループ
活動による拘束」,6年生では「グループ活動の楽しさ」「グ
ループ活動の難しさ」があげられた。
この否定的面を示すカテゴリーの4年生の記述に,同時に
「楽しかった」という表現が見られ,4年生は肯定的な感情
も同時に体験していると考えられた。また,観察からも4年
生での対立は深刻化することなく,すぐに仲良く活動にもど
る姿がみられた。4年生は肯定的,否定的感情の両方を生じ
ながらも積極的に活動していると思われる。このことから,
4年生の方が6年生より,感情表出をしても対人的環境に適
応しやすいと考えられた。
b「楽しさ」について
4年忌の自由記述に対する全体的な印象として,楽しそう
な印象を受けたという意見があった。「描画時に話し合うこと
の楽しさ」「描画自体の楽しさ」「物語を作ることの楽しさ」
というカテゴリーがあげられた。このことから,4年生は,
話し合うことや物語を作るという言語表現の楽しさと,描画
という非言語的表現の楽しさの両方を感じていると思われる。
一方,6年生全体を通しては,「自由にかけて楽しい」「好
きなようにたくさん描けたので楽しかった」などの記述が多
いという意見があった。「自由に描くことの楽しさ」が強調さ
れる理由として,2つのことが考えられる。1っは,6年生
57
は,日常の教育活動の中で,高学年としての自覚を求められ
ていることが多いことから,多方面から規制が加わっている
ものと考えられる。それがこの活動を通して規制が緩み,自
由が実感され,楽しさに結びついたと考えられる。2つめは,
この活動は図画工作の授業として取り組んだわけだが,通常
は絵を描く場合にも評価がともなっていて,それを6年生自
身どこかで意識していると考えられる。しかし,この活動の
場合,評価からの解き放されたということが楽しさにつな
がったと考えられる。また,「展開していく楽しさ」から,描
画表現が集団で行うことによって,活動空間や思考空間の広が
りをもつ楽しさを感じていると考えられる。
(2)両学年の自由記述の分類における相違点
4年生の記述にのみ,「メンバーによる受容」のカテゴリv一一・が
あげられた。ギャングエイジとして集団で行動することを好む
4年生の方が,6年生よりも集団に受容される体験を必要とし
ていると考えられる。
6年生では,「今までにやったことのない図工」「描画に対する
意外性」というカテゴリーがあげられた。これは,6年生では,
描画素材,制作人数が今までと異なること,また1本の線に対
する意外性という新たな視点で集団描画活動を捉えていたと考
えられた。
58
第6節 研究VI集団描画活動作品に対する教師の印象評定と
児童の学級適応感の分析
1 目的
集団描画活動作品に対する小学校教諭の印象評定と児童の学
級適応感の関係を検討する。
2 方法
まず,集団描画活動前に個々の児童の学級適応感の因子分析を
行う。次に,集団描画活動作品の印象評定に関する質問紙
(Appendix4参照)を用いて, H大学院に在籍する小学校教諭経験
10年以上の男女9名(男性:6名,女性:3名)が絵の印象評定を行う。
2つの描画課題で描かれた集団描画活動作品(4,6年生の作品
68枚)を1枚ずつ提示し,印象評定をもとめた後,因子分析を
行う。そして,それぞれの因子の解釈に用いた項目の平均を因子
得点として,「島の共同画」「スクィグルから合同スクリプル」に
ついて学級適応感因子得点と教師の印象評定の評定値の因子得
点の相関について検討する。
3 結果・考察
1)集団描画活動前の児童の学級適応感の因子分析
学級適応感に関する質問紙の評定値を因子分析(主成分分
析・プロマックス回転)し,教育環境適応尺度(小泉,1984)に
基づき,3因子解にした。それぞれの因子を解釈するにあたり,
1つの因子に対する負荷量が0.5以上で他の因子への負荷量の絶
対値との差が0.1以上の項目を採用した(Table3−8参照)。
59
Table3−8 集団描画活動実施前の学級適応感の因子分析
項目内容
因子1因子2因子3
あなたはクラスの入について不満(気に入らないことが)ありますか,ありませんか
.82
一.14
一.19
あなたは担任の先生に何でも話しかけたりたずねたりしますか,しませんか
あなたのクラスではあなたがなかまにはいりにくいと感じるときがありますかTありませんか
.61
一.17
.25
.60
.23
.09
あなたは,今している勉強がつまらないと思うときがありましか,ありませんか
.53
.39
一.14
あなたは勉強のやり方がわからなくてこまるときがありますか,ありませんか
一.13
.83
.05
あなたは,近ごろ勉強する気がしないと感じるときがありますか,ありませんか
.16
.71
.13
あなたは,クラスに何でも話すことができる友だちがいますか,いませんか
一.09
.09
.79
あなたは,クラスの人に何でも話しかけることができますか,できませんか
.oo
.20
.72
あなたのクラスの人があなたのことをいい子だなあと思っていると感じるときがありますか,ありませんか
A3
一.42
.51
.12 .20
F1因子との因子間の相関
F2因子との因子間の相関
.11
因子抽出法=主成分分析
第1因子は,“あなたはクラスの人について不満(気に入らないこ
と)がありますか,ありませんか”“あなたは,担任の先生に何でも
話しかけたりたずねたりしますか,しませんか”などの項目からな
り,「学級生活への感情」(α=.57)と命名した。第2因子は“あな
たは,勉強のやり方がわからなくてこまるときがありますか,あり
ませんか”“あなたは,近ごろ勉強する気がしないと感じるときがあ
りますか,ありませんか”の2項目からなり,「学業への関心」(α
=.62(r=.46,p〈.01))と命名した。第3因子は“あなたはクラスに
何でも話すことのできる友だちがいますか,いませんか”“あなたは
クラスの人に何でも話しかけることができますか,できませんか”
の2項目からなり,「友達との交流」(α=.45(r=.39,p<。01))と命
名した。また,第1因子と第3因子の問に弱い相関が見られた(r=.20,
p〈. 05)o
60
2)集団描画活動作品に対する教師の印象評定の因子分析
集団描画活動作品の印象評定に関する質問紙の評定値を因子
分析(主因子法・バリマックス回転)し,固定値の推移を参考にし
て2因子解を採用した。1つの因子に対する負荷量が0,4以上
で同時に他の因子の負荷量とは絶対値で0.2以上の差があるこ
とを基準に因子の解釈を行った(Table3−9参照)。
Table3−9集団描画作品に対する教師の印象評定の因子分析(バリマックス回転後)
項目内容
因子1
因子2
ゆったりとした感じ一はりつめた感じ
.93
.05
おだやかな感じ一はげしい感じ
のどかな感じ一緊迫した感じ
やわらかな感じ一固い感じ
.92
=17
.90
.11
.90
.11
上品変な感じ一下品な感じ
.90
一.Ol
好ましい感じ一いやらしい感じ
.84
.34
美しい一みにくい
.82
.26
明るい感じ一暗い感じ
親しみやすい感じ一親しみにくい感じ
.79
.52
.78
.42
優雅な感じ一がさつな感じ
.78
.11
一.34
.88
一.13
.87
ホットな感じ一クールな感じ
.36
.85
うきうきした感じ一しみじみした感じ
.32
.84
ユーモラスな感じ一きまじめな感じ
.18
.80
明朗な感じ一哀調をおびた感じ
晴れやかな感じ一うれいをおびた感じ
.76
.57
.73
.56
好き一きらい
.61
.53
高尚な感じ一俗っぽい感じ
深みのある感じ一うすっぺらな感じ
固有値
.34
.29
.20
.38
9.43
5.45
寄与率(%)
47.15
27.26
累積寄与率(%)
47.15
74.41
動的な感じ一静的な感じ
にぎやかな感じ一落ちついた感じ
因子抽出法:主因子法
61
第1因子は“ゆったりとした感じ一はりつめた感じ”“おだやか
な感じ一はげしい感じ”“のどかな感じ一緊迫した感じ”など10
項目が大きな負荷量を示したことから,「好印象因子」(α=.97)と
解釈した。第2因子は“動的な感じ一静的な感じ”“にぎやかな感
じ一落ちついた感じ”など5項目が大きな負荷量を示したので,
「活動因子」(α=.92)と解釈した。
3)学級適応感因子得点と教師の印象評定因子得点の相関
「島の共同画」「スクィグルから合同スクリプル」の2つの描画
課題は,作業方法に相違があり,児童の巧緻性や好みの活動等
から考え,2つの描画課題別に分析を試みた。
前述した学級適応感と教師の印象評定におけるそれぞれの因
子の解釈に用いた項目の平均を因子得点として以下の分析に利
用する。
(1)「島の共同画」について
「島の共同画」における学級適応感因子得点と教師の印象評
定因子得点の分析の結果をTable3−10に示す。
Table3−10 「島の共同画」における学級適応感因子得点と
教師の印象評定因子得点の相関(N=34)
学㈱情学業への開ひ 友達との交流好印象因子 活動因子
#mei!iNZIasS
学業への関心
友達との交流
.04
.16
好印象因子
.11
活動因子
.48**
.29
.33 t
一. 41*
.04
一. 09
.26
t p〈.10 *p〈. 05 **p〈. Ol
これらの結果から,「学級生活への感情」と「活動因子」は
有意な正の相関がみられた。このことより,学級生活への感
情が肯定的であるグループの作品は,学級に対しての満足感
62
が高いため,活動的な絵を描いていると教師から受けとめら
れていると考えられる。ここから,学級生活への感情と活動
因子に関係があることが認められる(P<.01)。
また,「学業への関心」と「好印象因子」は有意な負の相関
がみられた。これは,学業への関心が低いグループの作品は,
今回の描画課題に遊びの要素が含まれているため,のびのびと
表現でき,教師からの好印象をもたれる絵を描いていると考え
られる。ここから,学業の関心と好印象因子に関係があるとい
うことが認められる(p〈.05)。
「友達との交流」と「好印象因子」との間には,相関に有意
な傾向が見られた。ここから,友達との交流のさかんなグル・一一
プの作品は仲間と協力して描画課題に取り組むため,教師が
好印象をもつ絵を描いていると考えられる。ここから,友達
との交流と好印象因子に関係があるという傾向が見られる
(p〈. 10)o
(2)「スクィグルから合同スクリプル」について
「スクィグルから合同スクリプル」における学級適応感因子
得点と教師の印象評定因子得点の分析の結果をTable3−11に
示す。
TabIe3−11「スクィグルから合同スクリプル」における学級適応感因子得点と
教師の印象評定因子得点の相関(N=34)
瀞の感青学業への関心 友達との交流好印象因子 活動因子
wwwtF.
学業への関心
友達との交流
.05
.16
好印象因子
活動因子
.11
.30†
.29
.49**
一. 05
.15
.02
.22
t p〈.10 *p〈.05 **p〈.O1
63
これらの結果から,「学級生活への感情」と「活動因子」との
問には,相関に有意な傾向が見られた。このことより,学級生
活への感情が肯定的であるグループの作品は,学級に対しての
満足感が高いため,活動的な絵を描いていると教師から受けと
められていると考えられる。ここから,学級生活への感情と活
動因子に関係があるという傾向が見られる(pぐ10)。
また,「友達との交流」と「好印象因子」との間に有意な正の
相関がみられた。このことは,友達との交流のさかんなグルー
プの作品は,仲間と協力して描画課題に取り組むため,教師に
好印象をもたれる絵を描いていると教師に受けとめられてい
ると考えられる。ここから,友達との交流と好印象因子に関係
があるということが認められる(pぐ01)。
以上のことから,小学校教諭は,集団で描かれた描画から,描い
た児童達の学級適応感をある因子については把握できる可能性が
あることを示唆していると考えられる。
64
第4章 総合考察と今後の課題
第1節 総合考察
本研究では,学校の特質・機能に合った心理療法的視点を生かした
授業を行うことで,児童の人格及び社会性の発達を促しながら学級
適応がどのように変化するのかを検討することが目的であった。
そこで,描画療法の視点を生かし,図画工作科における集団描画
活動を取り上げ,学級適応の変化を調査することにした。
1 図画工作科の時間を用いて集団描画活動を行った理由
図画工作科は,他教科と異なり通常2時限続きの授業という
時間枠で行われていることが多い。これは,児童にとって時間
により活動が制限されることは少なく,作業を完成まで進める
ことが可能である。また,ゆとりをもって描くことは,心理的
圧迫が軽減され,自由にしかも喜んで取り組みやすいという面
もある。一方,教師にとって,1時限だけの授業では見られな
いような,児童の行動を開始から終了まで継続的に観察し,把
握できる。また,図画工作の授業を学級担任が行うことが多い
ことから,他の授業での児童の行動との比較も可能となる。こ
うしたことから,児童の新しい面を発見できるきっかけを得ら
れる可能性が高い。
描画は,作品として記録に残る。ゆえに,児童が相互に描画
を鑑賞でき,描画を通して友だちの特質を認め合うことも可能
である。
さらに,集団で描画活動を行うことにより,描画を媒体とし
た仲間との連帯感,一体感が得られ,互いを受けとめることが
できるようになると考えられた。
65
以上の点から,図画工作科の時間を用いた集団描画活動が,
学級集団で生活している児童にとって,より良い適応を促す点
で有効にはたらくと考えた。
2 学級適応と集団描画活動
今回の実践の中で,集団描画活動が児童の学級適応感に及ぼ
す影響をグループ単位で検討したが,今回使用した学級適応感
に関する質問紙では,影響を与えているとはいえないと考えら
れた。
また,集団描画活動が児童の対人関係に及ぼす影響について
もグループ単位で検討した。6年生は,描出人数,心理的距離
にも4年生ほど変化が見られず,4年生は,はじめ親近的でな
い多くの友達を持っているが,集団描画活動を通してその数は
減り,より親近感のもてる友達のみを描くという結果が得られ
た。このことより,6年生よりも4年生において,集団描画活
動が,対人関係における心理的距離を縮める効果が認められた。
また,6年生では心理的対人網が安定していることから,それ以
前の学年でこの活動を取り入れることが,学級適応に影響を与
えるのではないかと考えられた。
次に,集団描画活動が児童の社会測定的地位と学級適応感に
及ぼす影響を検討した結果,4年生の社会測定的地位の高い男
子群のみ,同学年の社会測定的地位の低い男子群より有意に学
級適応感が高いことが示された。しかし,集団描画活動の前と
後の学級適応感と社会測定的地位との有意な差は見られなかっ
た。
そこで,著しく学級適応感が上昇・下降した児童の特徴を活
動の様子やふり返り表の自由記述をもとにさらに検討を加えた。
今回の集団描画活動では,集団に対する協調性をもち,異なる
意見にも耳を傾けることができる児童,この活動を通して安定
66
感が増した児童に対して,学級適応感が上昇する可能性が考え
られた。一方,自分の意見に固執し,協調性に欠ける面が認め
られる児童,描くことに対する迷いを抱き,自己主張の難しい児
童に対して学級適応感が下降する可能性が考えられた。
このことより,教師は,随時,児童が描画に取り組みやすい
よう助言をする必要があると考えられた。また,児童が,自分
の意思を伝えることができるよう,日常の教育活動に社会的ス
キルの指導を取り入れることも重要であると考える。教師は,
集団の活動で生じる帰属感,連帯感を生かしながらも,集団で
描くことの不自由さを感じる児童に対しては,別の活動場面を
設定する必要性のあることも今回の実践からわかった。
次に,活動直後のふり返り表の自由記述より,児童が集団描
画活動をどのように捉えていたのか検討した。両学年間の自由
記述の相違点として,4年生では「メンバーによる受容」とい
うカテゴリーがあげられた。これは,4年生は,ギャングエイ
ジとして集団で行動することを好むため,仲間からの受容され
る体験を必要としていると考えられた。6年忌では「今までに
やったことのない図工」「描画に対する意外性」というカテゴ
リーがあげられた。このことから,6年生は,描画素材や制作
人数が今までと違うこと,また,1本の線に対する意外性という
新たな視点で集団描画活動をとらえていたと考えられた。
最後に,集団描画作品に対する教師の印象評定と児童の学級
適応感の検討を行った。その結果,両者に相関が見られ,描か
れた作品を通じて教師は,児童の学級適応感をある程度とらえ
ることができるという結果が得られた。しかし,集団描画作品
に対する印象評定の方法で学級適応の把握が難しい児童におい
ては,質問紙により的確に把握し対処していくことが,指導を
行う判断材料として有効な手段といえる。
67
小学校では,学級集団で生活しているため,集団活動という
要素は排除して考えることはできない。また,生活班や掃除当
番などグループで活動することも多い。ゆえに,本研究では,
仲間とともに活動し,描画を通して感情交流を行い,その作品
をみてみんなで物語を作る話し合いをすることが,学級適応の変
化に影響を及ぼしていると考えられる。
3 学級適応を促す教科教育活動の必要性
先行研究(米澤,1985:浅川ら,1985)より,小学校での適応が中学
校進学への適応に影響を与えることが指摘されている。また,
小泉(1992)は,小学校環境において早期に学級や学校に対する適
応についての処置,教育的介入プログラムの開発や充実が必要
であると述べている。以上のことから,日常の教科教育活動の
中で,学級適応を促す授業を展開していくことは今後,重要な
課題と考える。
4
「心の教育」と集団描画活動
日常の教育活動において,心理療法的視点を生かした授業と
して集団描画活動を行うことは,児童の対人関係の心理的距離
を縮め,親近感を増すという効果が認められた。また,教師に
とって,描かれた作品から,児童の学級適応の状態を把握でき
る可能性があることは,児童の心の安定を理解し,心の危機に
対して早期に対処が出来ると考えられる。また,児童にとって,
この創造的表現活動である集団描画活動は,学級環境との間で
均衡状態を維持するのに役立ち,心の安定や充実感を味わうこ
とが可能であると考えられる。また,この活動は,児童の感性
を養いながら,心の平静を保持するのに有効であり,心の危機
への予防にも効果があると考えられる。
以上のことから,「心の教育」と集団描画活動は,相互に関連
が深く,「心の教育」を進めていく上で集団描画活動は,有益な
68
学習活動といえる。
5 「心の教育」と学級適応
児童は,本来,学級環境における自らの役割を認識し,環境と
自らとの均衡をはかろうとする。集団での描画活動では,児童
同士の協調性や信頼関係が必要とされ,それにより心の安定が
生じると考えられた。児童達は,この信頼関係による心の安定
を基礎に,共通の課題に向かって自ら解決していこうとする。
このような過程を通して,児童は,学級環境との均衡をはかる
力,適応力を身につけていき,この適応力があらゆる変化に対
して積極的に対応できる生きる力を伸ばすことにつながり,社
会への適応力を伸ばすと考えられる。その結果,創造性豊かな
心をもつ人間を育むことになると考えられ,学級適応を促進す
ることは,「心の教育」において重要な要素になると考える。
69
第2節 今後の課題
本研究は,2回の集団描画活動の実践授業の結果である。よって,
この実践授業を継続的に実施することにより,さらに明確な学級適
応の変化を把握できるとも考えられ,今後の実践の継続を要する。
また,集団描画活動を行うことによる学級適応感の変化に有意な
差が見られなかった理由として,調査時期が,小泉(1984,1986)が指
摘する対人的環境再体制化をすでに終え,既に児童の学級適応感が
安定していた時期であったこと,学級適応感を調査する質問項目を
9項目に厳選したことが考えられ,再検討を要する。
今回は,集団描画活動を取り上げ,児童の学級適応を高める支援
として検討してきたが,多岐にわたる教育活動の中で,別の集団活
動場面における学級適応の検討も行った上で,集団描画活動の効果
を検討する必要があると考える。
また,今回は描画課題として「島の共同画」「スクィグルから合同
スクリプル」を選択したが,児童の興味関心,生活経験,地域性を
配慮しながら,課題自体のもつ影響も検討する必要があると考える。
それによって,学級適応にさらに有効な描画課題の選択も可能にな
るであろう。
本研究は,図画工作科における集団描画活動を取り上げ,学級適
応における有効性の検討を行った。今後,児童の学級適応を高める
授業形態を研究し,深める必要があると考える。また,多くの教師
が,児童の学級適応を高める授業に取り組めるよう目指していきた
い。
70
L易tm・参孝文嵌一量7
1)浅川潔司・米澤孝夫・小泉令三・古川雅文 1985 小学校から中学校への環境移行(2)
中国四国心理学会第41回大会発表論文集 58
2)D.W. Winnicott橋本雅雄訳 1979遊ぶことと現実 岩崎学術出版社
3)遠藤友麗 1999 芸術に学ぶ心の教育表現する心 持田行雄・金丸和子編 芸術・
宗教に学ぶ心の教育 日本文化センター
4)藤井昌子・長尾圭造 1997災害時のメンタルケアと子どものアトリエ活動一阪神・
淡路大震被災者の絵から 児童青年精神医学とその近接領域
5)原田碩三・斎藤とみ子・坂下喜佐久共著 2000 幼児の役割遊びと身体表現 教育
医事新聞社
6)東山紘久 1999 学校の心理臨床 金子書房
7)東山紘久 1991 これからの学校カウンセリングと学校カウンセリングの問題 ミ
ネルヴァ書房
8)堀井昭広 1988 絵画療法と理論とi実施 徳田良仁・村井三児編 アートセラピー
日本文化科学社
9)井森澄江 1997 仲間関係と発達 井上健治・久保ゆかり編 子どもの社会的発達
東京大学出版会
10)井上まり子・高橋恵子 2000 小学生の対人関係の類型と適応一絵画愛情関係テス
ト(PART)による検討 教育心理学研究 48
11)伊藤隆二 1989 こころの教育の時代 慶雁通信
12)岩井 寛 1983 集団療法としての絵画療法 徳田良仁編 精神療法における芸術
療法 牧野出版
13)岩下豊彦 1983 SD法によるイメージの測定 川島書店
14)金丸和子 1999 芸術に学ぶ心の教育 感動する心 持田行雄・金丸和子編 芸術・
宗教に学ぶ心の教育 日本文化センター
15)河合芳文 1985 ソシオメトリー入門 学級の子どもたちを理解するために みず
うみ書房
16)古川雅文・藤原武弘・井上弘・石井真治・福田宏 1983 環境移行に伴う対人関係
の認知についての微視発達的研究 心理学研究,53(6)
17)古川雅文・小泉令三・浅川潔司 1991小・中・高等学校を通した移行 山本多喜司・
S.ワップナー編著 人生移行の発達心理学 北大路書房
18)古池若葉 1997 描画活動における感情の発達過程 教育心理学研究,45
19)小泉令三 1984 児童の新しい環境への適応に関する研究一転校生を中心にして
1984年度兵庫教育大学大学院修士論文(未公刊)
20)小泉令三 1986 転校児童の新しい学校への適応過程 教育心理学研究,34
71
21)小泉令三 1992 中学校進学時における生徒の適応過程 教育心理学研究,40
22)小泉令三 1995 中学校入学時の子どもの期待・不安と適応 教育心理学研究,43
22)國分康孝 1998 サイコエジュケーションとは何か 國分康孝編集 サイコエジュ
ケーション 図書文化
23)近藤馨一 1993 学校における教育相談 秋山俊夫監修 図説生徒指導と教育臨床
北大路書房
24)Margaret Naumburg 中井久夫監訳 内藤あかね訳 1995 力動指向的芸術療法
25)松原郁二 1985 人間性の表現と教育一新しい美術教育理論一 造形教育センター
編 造形教育の理念 サクラクレパス出版部
26)松本真理子 1999 子どもの描画療法における歴史と将来の展望 心理臨床学研究
27)文部省 1998 中央教育審議会中間報告 幼児期からの心の在り方について 文部
時報4月臨時増刊
28)文部省 1999 小学校指導要領解説 図画工作編 日本文教出版株式会社
29)森茂起・白川敬子・鈴木暁子・利根川雅弘・戸田みな子・宮本茂子・森地明子・久松睦典
2000 描画グループワークによる心的外傷への治療的かかわり 心理臨床学研究
30)盲判起 1997 描画グループワークによる子どもの援助 兵庫県臨床心理士会編
災害と心の癒し一兵庫県臨床心理士たちの大震災 ナカニシや出版
31)村瀬嘉代子 1996 治療技法としての描画 日本描画テスト・描画療法学会編 臨
床描画研究XI金剛出版
32)中井久夫 1979 造形療法ノートより 徳田良仁・武正健一編 芸術療法講座1
星和書店
33)大橋利恵子 1999 芸術に学ぶ心の教育 持田行雄・金丸和子編 芸術・宗教に学ぶ
心の教育 日本文化センター
34)関則雄 1998 集団描画療法の実際 徳田良仁・大森健一・飯森眞喜雄・中井久夫・山
中康裕監修 芸術療法2実践編 岩崎学術出版
35)関則雄 2000 集団絵画療法 飯森眞喜雄編 こころの科学92 日本評論社
36)Seymour Wapner,Jack Demick;鹿島達哉訳 1991有機体発達理論的システム論的ア
ブローチ 山本多喜司・S.ワップナー編著 人生移行の発達心理学 北大路書房
37)高江洲義英 1979 絵画療法の実際一実践を通しての覚書一 徳田良仁・武正健一
編 芸術療法講座1 星和書店
38)高江洲義英 1981芸術療法の適応ということ 大森健一・高江洲義英・徳田良仁
編 芸術療法講座3 星和書店
39)高江洲義英 1998 集団精神療法と芸術療法 徳田良仁・大森健一・飯森眞喜雄・
中井久夫・山中康裕監修 芸術療法1理論編 岩崎学術出版社
40)高江洲義英・徳田良仁 1981絵画療法の諸技法とその適応決定 大森健一・高江
洲義英・徳田良仁編 芸術療法講座3 星和書店
72
41)高瀬克義 1987 新入生の高校生活への適応過程 1987年度兵庫教育大学大学院
修士論文(未公刊)
42)高地秀明 1999 芸術に学ぶ心の教育 持田行雄・金丸和子編 芸術・宗教に学ぶ心
の教育 日本文化センター
43)田中熊次郎 1966 贈訂ソシオメトリーの理論と方法 明治図書
44)田中勝博 1993 スクィグルの実際 日本描画テスト・描画療法学会編 臨床描画
研究皿 金剛出版
45)徳田良仁 1979 芸術療法の展望 徳田良仁・武正健一編 芸術療法講座1 星和
書店
46)徳田良仁 1988 神経症の絵画療法 徳田良仁・村井靖児編 アートセラピー 日
本文化科学社
47)徳田良仁 1997 心を癒す芸術療法 ごま出版
48)徳田良仁 2000 芸術療法の現在一日本の現況と海外の動向一 飯森眞喜雄編 こ
ころの科学92 日本評論社
49)宇田川友子 1988集団絵画療法 徳田良仁・村井球児編 アートセラピー 日本
文化科学社
50)上地安昭 2001 学校の時間制限:カウンセリング ナ力ニシや出版
51)Wr i ghtsman, L S. Effects of Wa i t i ng with Others on Changes i n Leve l of Fe l t
Anxiety.Journal of Abnormal and SoGial Psychoiogy, 1960, 61, 216−222.古屋健
1987 孤独と親和欲求 斎藤勇編 対人社会心理学重要研究集2 誠信書房
52)山中康裕 1999 心理臨床と表現療法 金剛出版
53)宿谷幸治郎 1988 入院絵画療法一集団絵画療法を中心として 徳田良仁・村井靖
児編 アートセラピー 日本文化科学社
54)山中康裕 1978 少年期の心 中公新書
55)山中康裕 1993私のスクイグルーMSSM+Cへの招待一 日本描画テスト・描画療
法学会編 臨床描画研究皿 金剛出版
56)山本多喜司・S.ワップナー 1991人生移行の発達心理学 北大路書房
57)米澤孝雄 1986 小学校から中学校への移行過程の研究 1986年度兵庫教育大学大
学院修士論文(未公刊)
73
1
学級適応感に関する質問紙
2
心理的距離の測定に関する質問紙
3
集団描画活動直後のふり返り表
4
集団描画作品の印象評定に関する質問紙
74
学級適応感に関する質問紙
アンケート
なまえ
年組 名前
このテストは,晟績とは簡篠ありません。思った通りに 歪う置に答えてください。.
と
つぎの1∼9の問いについて,(れい)にならって,4っの答えのうち
1つに○をつ
けてください。
(れい)あなたは,ひとりで買い物に行く
ことが ありますか。
とき よく どき あまりほとんど
あ・ますトート㊦一あ・ません
※この甥谷 {あまりありません}ということに なります
へんきょう
1 あなたは,近ごろ,勉強する気がし
かん
ないと感じるときが
ありますか,
ありませんか。
よく
とき
どき あまり ほとんど
・・ますトート十一1あ・ません
2 あなたのクラスの人が,あなたのこ、
とをいい子だなあと思っている と
愚じるときがありますか,ありませ
んか。
よく
とき
どき
あまり ほとんど
・・ますトートH一→あ・ません
3 あなたは,萢き掻のやり方がわからな
くてこまるときが ありますか,あ
りませんか。
よく
とき
どき あまり ほとんど
・・ますト十十あ・ません
4 あなたは,今している勉き掻がつま
らないと思うときが ありますか,
ありませんか。
よく
とき
どき あまり ほとんど
あ・ますトートートーあ・ません
75
5 あなたのクラスでは,あなたが な
かまにはいりにくいと 懸じるとき
がありますか,ありませんか。
とき
どき
よく
ほとんど
ト→一刊一Hあ・ません
あります
6 あなたは,クラスの人について矯禽
とき
よく
(気に入らないこと)がありますか,
ありませんか
あまり
どき
あまり
ほとんど
トートー1一一あ・ません
あります
7 あなたは,クラスに何でも話すこと
のできる友だちが いますか,いま
たくさん すこし あまり ほとんど
い・すトートート■
せんか。
たんにん
8 あなたは,担任の先生に 何でも話
しかけたりたずねたりしますか,し
いません
よく すこし あまり ほとんど
しますト■一一H
しません
ませんか。
9 あなたは,クラスの人に 何でも話
たい とき
てい どき
しかけることができますか,できま
せんか。
あまり
ほとんど
できますトートートート・ません
76
心理的距離の測定に関する質問紙(Psychological Distance Map)
わたし・ぼくのたいせつな人
年
組
なまえ
わたし・ぼく
上のわくの中に,あなたがこの学級で生活をしたり学習したりするとき,あなたにとっ
てたいせつな人を,例のように○でかいてください。
◎たいせつな人ほど「わたし・ぼく」の
(れい)
近くになるようにかいてく
0
o
ださい。
◎書く場所は 自由です。
◎何人かいても かまいませんが
@.. o
多くても,7人までにしてくだ
め作レ1訳
さい。
◎○の下に,名前もかいてくださ
い。
o
77
。
集団描画活動直後のふり返り表
アンケート
なまえ
名前
年 組
このテストは,晟羅とは衡篠ありません。思った通りに 今の気持ちを 孟う置に答え
てください。
1 あなたは,今,みんなといっしょにや
とてもまあまあすこしとても
っ縮劃がすきですか,きらいですヵ㌔す・ト十十一1きらい
2 あなたは,みんなといっしょに轄劃を
して 今,うきうきしていますか,し
ていませんカ・D
とてもまあまあ あまりぜんぜん
す・トートートー1・な・・
3 あなたは,みんなといっしょに箔劃を
して 今の気持ちはあかるいですか,
くらいですヵ㌔
とてもまあまあすこしとても
あか・いトー→一→一■・らい
4 あなたは,みんなといっしょに活動を
して 今,きゅうくつな懸じがします
か,しませんカ㌔
とてもまあまあすこしとても
す・トートー1一■・な・・
5 あなたは,みんなといっしょに活動を
して 今,もっと絵をかきたいと思い
とてもまあまあすこし とても
ますか想いませんカ・e
お・・トート十一→.お・わない
今日,グループで絵をかいて感じたこと,思ったことがあったら書いてください。
78
集団描画作品の印象評定に関する質問紙
次の絵を見て感じた印象に近いものにそれぞれ○印をつけてください。
とても
1
まあまあ
まあまあ
とても
きらい
好き
とても
まあまあ
まあまあ
とても
・糺みやすい感じトー一一トー一→一一一1
とても
まあまあ
まあまあ
親しみにくい感じ
とても
・いやらし憾じトー一一一トー一一一1一一一■
とても
4
まあまあ
まあまあ
好ましい感じ
とても
上品な感じ
下品な感じ
とても
まあまあ
まあまあ
とても
5 のどかな感じ
緊迫した感じ
とても
まあまあ
まあまあ
とても
6おだやかな感じトーL一トー一一トー一H
とても
まあまあ
まあまあ
はげしい感じ
とても
7やわらかなtes vH一一十一一一刷
とても
まあまあ
まあまあ
固い感じ
とても
・ゆったりとした劇一一
とても
まあまあ
まあまあ
はりっめたい感じ
とても
9にぎやかな感じトー一一トー一一十一一一1
とても
10
まあまあ
まあまあ
とても
動的なlu:N I」トー一一十一
とても
まあまあ
まあまあ
・・ホットな感じトー一一→一一十一一一ヨ
79
落ちついた感じ
静的な感じ
とても
クL一・一・ルな感じ
とても
まあまあ
まあまあ
とても
12浮き浮きした劇一一一一一トー一一→一一一一ヨ
とても
13
まあまあ
まあまあ
しみじみとした感じ
とても
明るい蹴トー一十一一十一一→
とても
まあまあ
まあまあ
暗い感じ
とても
14晴れやかな感じトー一一うれいをおびた感・
とても
15
まあまあ
まあまあ
とても
明朗な感じ
哀調を帯びた感じ
とても
まあまあ
まあまあ
とても
16=一モラスな感じトー
とても
17
まあまあ
まあまあ
優雅な感じ
とても
みにくい
まあまあ
まあまあ
とても
深みのある感じトー一十一一一一十一一一H
とても
20
とても
美しい
とても
19
まあまあ
がさっな蹴トー一一
とても
18
まあまあ
きまじめな感じ
まあまあ
まあまあ
とても
高尚な感じトー一一十一一一一トー一一1
80
うすっぺらな感じ
俗っぽい感じ
謝 辞
大学院生活を終えようとしている今,この2年間を振
り返って見ますと,自分がたいへん恵まれていたことに
改めて気づきます。指導教官の上地安昭教授をはじめと
して,ご指導いただきました渡邉満教授,八並光俊助教
授,安原一樹助教授,上地完治助手に厚くお礼申し上げ
ます。また教育臨床講座の浅川潔司教授には,統計処理
をはじめ諸々のご指導をいただきまして,感謝いたして
おります。
この2年間は,新しい出会いの連続でした。これまで,
こんなにすばらしい理論や実践があることも知らずに,
児童達の前に立っていたことに恥ずかしさを感じること
もしばしばありました。そのうえ,2年間の研究を通じて,
教師としての自分の在り方を見つめ直す目を養うことが
できたと感じております。
この研究を終えるにあたり,実践授業を通じて論文で
は表現できないさまざまなことを教えてくれた児童達に
心から感謝します。
今回の研究の機会を与えてくださった埼玉県教育委員
会,さいたま市教育委員会,さいたま市立大宮北小学校
前校長の岡田弘子先生,同じく現校長の出野宏先生,実
践授業の際にも喜んで協力してくださったさいたま市立
大宮北小学校の諸先生方にお礼申し上げます。
ゼミをはじめ,多くの時間をともに過ごさせていただ
いた上地ゼミの皆様には,様々な場面でお世話になりま
した。生徒指導コース21期生の皆様,また先に現場に帰
られた先輩方や22期生の皆様,この研究に際し,協力し
てくださった他コL一一一一スの院生の皆様にも心より感謝申し
上げます。
最後に,豊かな自然に囲まれた社という地で2年間,
学ばせていただいたことに深く感謝します。
2001年12月20日
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