...

第6版 はしがき - LEC東京リーガルマインド

by user

on
Category: Documents
112

views

Report

Comments

Transcript

第6版 はしがき - LEC東京リーガルマインド
第6版
はしがき
セブンサミット入門編の前版が刊行されてから1年が経ちました。この間、改正会社法の施行、短
答式試験3科目化等の見直し後初めての司法試験の実施、民法債権法大改正案・刑事訴訟法重要改正
案等の平成 27 年度通常国会提出といった出来事がありました。
また、平成 27 年度司法試験の最終合格者数は、大方の予想に反し、前年度から減少することはあり
ませんでした。平成 27 年度の司法試験受験者数は 8,016 人であり、平成 26 年度の司法試験受験者数
8,015 人とほぼ同数であるにもかかわらず、平成 27 年度司法試験の最終合格者数は 1,850 人であり、
平成 26 年度司法試験の最終合格者数の 1,810 人よりも 40 人増加しています。しかし、政府は司 法 試
験 合 格 者 数 を 「年間 1,500 人以上」とする旨の閣議決定をしており、今後、長期的に見れば、1,500
人程度まで暫時減少することが予想されます。
以上のような変化の中にあっても、法科大学院修了ルート、予備試験合格ルートのいずれにおいて
も、司法試験最終合格のため、入門の段階から基礎的事項の着実な理解と法的思考法を体得しておか
なければならない点については、いささかも変わりはありません。
実務法学入門の門を叩いた皆さんにおかれましては、試験制度の変化に翻弄されることなく、着実
に学習を積み重ねていかれることを、願ってやみません。
さて、学習内容に目を転じると、行政不服審査法が全面改正され、国民にとって利便性が高く、公
正性も向上された行政不服申立制度が始動しようとしています。改正法は平成 28 年4月1日に施行さ
れますが、受験生においては、速やかに新法を学習しておく必要があります。民法債権法大改正・刑
事訴訟法重要改正の成立のタイミングも注視しなければなりません。
本書は、従来から、司法試験等の制度・傾向の変化、法令の改正、および判例の進展に対応すべく、
年々、改良を重ねてきましたところ、今回の改訂も、上記の大きな変動に対応しています。
それに加えて、今回の改訂では、現行司法試験の傾向の定着に鑑み、従来は入門編・発展編と分冊
されていた基本7科目のセブンサミット・テキストを、入門講座用テキストとして統合しました。そ
して、発展的な内容は文字を小さくして掲載するなど、学習内容のメリハリをつけるという従来から
の本書の特長は、改訂後も損なわれていません。入門講座の講義とテキストとで知識の入力は完了す
べく編集されておりますので、2年目以降は、演習等の実戦の学習に専念できます。なお、平成 27 年
度通常国会で成立したいわゆる安保法制は、憲法生活上の大きな出来事ではありますが、受験上の出
題予想事項とは言いがたいため、本書においては格別の記述をしておりません。
今回の改訂により一層内容が充実した「セブンサミット・テキスト」を活用して、実務法学入門の
門を叩いた皆さんが、法科大学院既修者コース入学試験・司法試験予備試験・司法試験の合格をスム
ーズに達成されることを心よりお祈り申し上げます。
2015年12月吉日
LEC東京リーガルマインド
法律総合研究所
司法試験部
第5版 はしがき
セブンサミット入門編の前版が刊行されて1年が経過する間、会社法及び行政不服審査法が大幅に改正されまし
た。会社法は、平成 17 年に制定されて以来最大の法改正となり、新たな制度が多く盛り込まれました。これにより、
会社経営者や企業法務に携わる実務家に多大な影響が及ぶのみならず、日本における企業の在り方全体に多大な変
化がもたらされることが予想されます。また、行政不服審査法も全面改正され、国民にとって利便性が高く、公正
性も向上された行政不服申立制度が始動しようとしています。会社法は平成 27 年5月1日に施行されることが政令
によって決定し、行政不服審査法は平成 28 年中に施行されるとの公算が高いと目されていますが、受験生において
は、速やかに新法を学習しておく必要があります。
また、司法試験制度も大きく変わりました。司法試験の試験科目の適正化及び法科大学院における教育と司法試
験との有機的連携を図るため、司法試験短答式試験の試験科目が憲法・民法・刑法の3科目に絞られるとともに、
5年間の受験期間内に3回しか受験できないという制限も廃止され、毎回受験することができるようになりました。
さらに、平成 26 年度司法試験の最終合格者数も減少するに至りました。平成 26 年度の司法試験受験者数は
8,015 人であり、平成 25 年度の司法試験受験者数 7,653 人と比べて増加したにもかかわらず、平成 26 年度司法試
験の最終合格者数は 1,810 人であり、平成 25 年度司法試験の最終合格者数の 2,049 人よりも約 200 人弱ほど減少し
ています。このような減少傾向は、来年度以降も継続する可能性があります。
本書は、従来から、司法試験等の制度・傾向の変化、法令の改正、および判例の進展に対応すべく、年々、改良
を重ねてきましたところ、今回の改訂も、上記の大きな変動に対応しています。
なお、憲法では、司法試験の裁判実務重視の傾向の定着に鑑み、学説の争いの状況を見直して解釈論部分(<問
題の所在><考え方のすじ道><アドヴァンス>の塊)を減少させて説明文化し、<考え方のすじ道>を、できる
限り判例・通説の立場にするとともに立場いかんにかかわらず短文にすることに努めました。また、条文の少ない
憲法における他の科目に比しての判例学習の重要さに鑑み、判旨・決旨の比較的長い引用に努めるという旧版以来
の方針を維持しています。
今回の改訂により一層内容が充実した「セブンサミット・テキスト入門編」を活用して、実務法学入門の門を叩
いた皆さんが、法科大学院既修者コース入学試験・司法試験予備試験・司法試験の合格をスムーズに達成されるこ
とを心よりお祈り申し上げます。
2015年3月吉日
LEC東京リーガルマインド 法律総合研究所 司法試験部
第4版 はしがき
第3版が刊行されてから1年が経ちました。この間、各分野で法改正が行われ、注目すべき判例・裁判例が多数
出されました。とりわけ、従前から問題となっていた非嫡出子の法定相続分について、平成 25 年9月4日、民法第
900 条第4号ただし書部分を違憲とする判例が出されたことは、大きな話題となりました。
第4版では、第3版刊行後の法改正に対応したことはもちろん、上述の判例をはじめ、入門講座の段階でおさえ
ておくべき最新の重要判例を新たに掲載し、平成 25 年実施の司法試験及び予備試験の短答式試験問題の中から、基
本的かつ重要な良問を厳選して追加しました。また、本文の記述の誤植訂正及び表現・二色刷りの更なる適切化に
努めました。さらに、はじめて法律を学ぶ皆さんが短期間で司法試験・予備試験に合格することができるよう、本
文をより実務的で簡潔な表現に改めました。とくに、重要な論点については、判例・実務の立場で一貫した学習を
することができるよう、論証内容や取り扱う学説等の記述を見直し、一層の充実を図りました。
本書を使用し、くり返し復習を重ね、上級講座でのより細部にわたる学習と実戦的訓練を重ねれば、司法試験・
予備試験の合格水準を優に超えることができるはずです。そのような意味で、本書は、司法試験・予備試験合格を
目指す皆さんに対して、学習の到達点を示すことができたものと自負しております。
今回の改訂によって、「セブンサミット・テキスト入門編」が、受験生の皆さんに一層お役立ていただけるもの
となっていることを、心より願っております。
2014年1月吉日
LEC東京リーガルマインド 法律総合研究所 司法試験部
第3版 はしがき
司法試験の受験資格を得るには、法科大学院修了ルートと、予備試験合格ルートの2ルートがあります。
入門講座を受講なさる皆様の中には、いずれのルートを目指すか悩んでいらっしゃる方も多いかと思われます。
セブンサミット・テキスト入門編第2版刊行から1年あまりが経過致しましたが、その間にも、法曹養成にかかわ
る状況は大きく変動しています。
まず、法科大学院では統廃合の動きが進みました。司法制度改革の一環として生まれた法科大学院ですが、実際
は各校の司法試験合格率に大きな差が出ているため、今後は合格率上位校への人気が高まり、合格率上位校に入学
するためにはより一層の学習が必要になると思われます。
他方、予備試験は、2012 年に第2回予備試験が実施されました。また、第1回予備試験合格者が受験した 2012
年司法試験では、予備試験合格ルート受験生の合格率は 68.2%と高水準となっています。予備試験合格は司法試験
における高確率での合格につながるといえます。
もっとも、司法試験合格者全体の中では、法科大学院修了者が圧倒的に多いことに変わりはありません。そのた
め、法科大学院修了ルート、予備試験合格ルートいずれにおいても、司法試験最終合格のためには入門の段階から
基礎的事項の着実な理解と法的思考法を体得しておくことが求められています。
セブンサミット・テキストは法科大学院進学を目指す方にとっても、予備試験合格を目指す方にとっても充実し
た内容を提供するテキストとなっております。
第3版では、第2版刊行以降の法改正に対応し、入門講座の段階で学ぶべき重要判例を新たに追加致しました。
また 2012 年司法試験および予備試験の短答式試験の過去問題を厳選して追加するとともに、本文の記述の誤植訂正
および表現・二色刷りの更なる適切化に努め、より一層充実したテキストとなっております。
入門講座を受講される皆様が「セブンサミット・テキスト」を用いて、法的基本的知識と思考法を修得し、将来
の法曹界を担う人材となっていかれることを切に願います。
2013年1月吉日
LEC東京リーガルマインド 法律総合研究所 司法試験部
第2版 はしがき
法曹になるための新しい道である予備試験が実施されてから1年が経とうとしています。資格試験対策において
は、試験内容の分析・検討をすることが最も有効、かつ重要な事項となります。第2版の改訂にあたっては、以上
の観点から全体の記述の見直しをしております。
また、憲法の論文式問題を解く上では違憲審査基準論についての理解が必須となりますが、今回の改訂では、伝
統的な従来型の違憲審査基準論だけでなく、有力な学説についても詳述いたしました。それらを比較・参照すれば、
より一層の理解を深めることができるでしょう。
この度の改訂が、「セブンサミット・テキスト」を使用される受験生の方の役立つものとなることを切に願って
おります。
2012年4月吉日
LEC東京リーガルマインド 法律総合研究所 司法試験部
初版 はしがき
私たちは 30 年余の司法試験受験界を指導し、この間多くの受験教科書を作成してきました。「プロヴィデン
ス・テキスト」は、<問題の所在><考え方のすじ道><アドヴァンス>の三部構成による論点の立体的理解、
入門編・論基礎編・択基礎編の三段階で段階的・発展的に知識を増やしていく画期的構成、自然と頭に入ってく
る文章・豊富な図表、といった特長によって、多くの受験生の支持を得てきました。今回の「セブンサミット・
テキスト」は、これまでの「プロヴィデンス・テキスト」の良い点を残しつつ、その後の法改正・新判例を盛り
込み、新たな図表を挿入して、一層の分かりやすさを追求しました。
☆
2011 年は法曹養成にとって節目となる年になりました。法科大学院を修了せずとも司法試験の受験資格を得る
ことができる予備試験が始まったからです。法科大学院へ進学する時間的・経済的余裕の無い社会人にとっては、
法曹への道が再び開かれることになります。大学生にとっては、在学中に自分の力を試すことができる機会とし
て予備試験というチャンスを活かすことができます。「セブンサミット・テキスト」は、予備試験合格の出題科
目のうち、法律基本科目である憲法・行政法・民法・商法(会社法)・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法の7科目
を網羅しています。
☆
資格試験の勉強では、ゴールから逆算することが重要です。予備試験合格にせよ、法科大学院への入学・修了
にせよ、通過点です。司法試験合格から逆算した場合、従来の「プロヴィデンス・テキスト」では不十分な点が
ありました。「セブンサミット・テキスト」は、法科大学院で何を学ぶか、司法試験で何が問われるか、という
観点から内容を充実化させました。全科目にわたって充実化させた点は3つです。
まず、判例の理論構成をより詳細に理解できるよう、判決文の引用を長めにしました。もちろん、二色の塗り
分けを活用していますので、詳細さと見易さを両立しています。
次に、入門講座の段階で学ぶべき内容と、発展的な講座(予備試験に特化した講座)で学ぶべき内容の区分け
を見直しました。法科大学院入試や予備試験は、旧司法試験に比べて、出題範囲が圧倒的に広がっています。特
に、行政法で学習する様々な行政事件、会社法が定める企業再編の制度、民事訴訟・刑事訴訟の実務的な制度な
どは、旧司法試験では必ずしも勉強していなかった分野です。これらの知識を入門段階からしっかりと押さえる
一方で、応用的な論点は入門段階からは外しました。初めから全てを理解しようと無理するのではなく、基本的
(ただし、幅広い)知識の修得に焦点を当てたテキストとなっています。
最後に、学界・実務での最新の議論をコラム的に紹介しています。法科大学院では、教授や実務家が独自の視
点から条文の構造(複数の条文が組み合わさって1つの制度が構築されています)を解説したり、判例の解釈に
ついて通説とは異なる見方を紹介したり、といったことがあります。入門段階では難しい部分もありますが、法
科大学院での勉強や合格後の実務の先取りとして、きっと皆さんの将来に役立つことでしょう。
☆
司法試験における判例重視、実務的な知識の出題傾向を盛り込み、予備試験・法科大学院・国家公務員試験を
受験する方々を広く対象としたテキストとしています。
セブンサミットテキストにおいては、いずれも入門講座と論文対策講座に分けて構成しています。
☆
セブンサミット憲法の特長として、大きく見ると、以下の2点があります。
1.「憲法解釈の応用と展開」を参考に考えてみる
近年、司法試験受験生の支持を受けている宍戸東大准教授の「憲法解釈の応用と展開」を参考に、重要論
点について、あらためて、深く考えてみるというコーナーを設けました。
2.時事問題を考えてみる
通常の教科書にはそれほど述べられていませんが、最近の国際情勢などから、知っておくべき重要論点に
ついて、TOPIC、あるいはコラムとして、独立のコーナーを設けました。
以下の項目です。
児童ポルノ、大阪府で起きた教員の国家斉唱の際における起立の強制、代理出産、クローン技術、古紙持
ち去り、監視カメラ、同性婚、裁判員制度と裁判を受ける権利、集団的自衛権、有事法制、国家安全保障の
法制度、行政手続法、国民投票法、首相の靖国参拝。
☆
法律を学ぼうとする多くの方が、「セブンサミット・テキスト」を用いてリーガルマインドを修得し、21世
紀の法曹界、そして高度知識情報社会を担っていかれることを切に願っております。
2011年8月吉日
LEC東京リーガルマインド
法律総合研究所 司法試験部
「セブンサミット・テキスト」編集著者代表
反町 勝夫
「セブンサミット・テキスト」の特長
1
事例
導入事例で制度の概要のイメージを持つ!
抽象的な法律概念を身近な事例とともに紹介しています。具体的なイメージをつかんでから学
習することができます。
2
判例
判旨のより深い理解のために事案もしっかりと掲載!
従来の予備校教材における判例の紹介は、判決要旨の紹介にとどまっており、簡潔な整理に役
立ちますが、判例理論を事案に基づいて理解するという視点からは十分ではありませんでした。
そこで、事案が判例理論の要素となっている判例について事案と判決理由を詳細に紹介していま
す。また、必要に応じ、第1審・控訴審の判断のポイントも紹介しています。
3
整理表
混同しやすい知識を表でコンパクトに整理!
似たような概念だが、要件や手続が異なっていたり、効果が全く違っていたり、ということが
法律の世界にはよくあります。初学者が間違えやすい知識を明確に区別できるように表で整理し
ています。
4
論点
論争点と論証点の取扱いの違い
単に答案記載事項ではなく学説上の議論のある「論争点」には、もはや定説とでもいうべき考
え方が通用しているもの(以下、「論点」)と、未だに学説対立が厳しく試験において論証すべ
きもの(以下、「論証点」)とがあります。前者は、本文中に理由とともに掲載するにとどめ、
後者は、学説状況等を丁寧に解説しています。
5
<問題の所在>
論証点の答案表現モデル
論証点について、単なる項目として覚えるだけではなく、事例問題の答案として問題提起でき
るように、<問題の所在>として文章化しています。論証例、論証ブロック等々と呼ばれる受験
アイテムの前提となるものです。
6
<考え方のすじ道>
論証点の自説の答案表現モデル
論証点について、事例問題の答案として自説を展開できるように、<考え方のすじ道>として
文章化しています。判例・通説の場合は、他説批判は基本的に展開していません。反判例の場合
は、判例について触れたうえで論証する流れになっています。
7
<アドヴァンス>
論証点の他説を含めた詳細な解説
論証点について、論証例、論証ブロック等々と呼ばれる受験アイテムをただ暗記するのは良く
ありません。なぜ問題なのか、なぜ自説を採るのか、暗記の前提となるしっかりとした理解が、
暗記したものを吐き出すだけでは足りない、応用問題を自力で解決する素となるのです。
8
発展編
入門レベルと発展レベルを区別し、相互にリンク
法律には、最初に理解しておくべき事項の他、一通りの学習ができてから改めて取り組むべき
問題もあります。「今の段階でどの程度まで学習をしておくべきか」は初学者を悩ませる課題で
す。そこで、入門レベルと発展レベルの記述の仕分けをしています。
発展レベルの内容は
発展
発展
のマークで明示して活字ポイントを小さくしているの
で、メリハリをつけて学習できます。
9
改正情報
本試験受験時に予定されている改正法に準拠しつつ、改正前の法もフォロー
近年、法改正が活発化し、学習当初に学んだ法律が改正されてしまうという現象もしばしば。
そこで、皆さんが本試験を受験される際に成立しているであろう改正法に準拠させているので、
試験直前の法改正にも余裕を持って対応することができます。さらに、学部試験対策として改正
前(もしくは施行前)の現行法によるフォローもしています。
10
まとめ表
複雑な条文・学説・判例もまとめ表でわかりやすく整理!
法律の条文の多くは難解なものです。単文、複文が入り混じったり、適用対象となる事象が読
み取りにくかったりします。また、学説の対立などもわかりにくいことが多いものです。そのよ
うな難解な事項もまとめ表で問題のレベル、判例の立場などが一目で分かるように工夫していま
す
セブンサミット憲法
目
次
Ⅰ
第1編
憲法総論 ................................................... 1
第1章 憲法の意義と立憲主義の展開 .............................................1
第1節
第2節
憲法の意義 ....................................................................1
憲法の生成と立憲主義の展開 ....................................................5
第2章 憲法の基本原理 ........................................................12
第1節 基本原理 .....................................................................12
第1款 根本価値としての個人の尊厳 .................................................12
第2款 憲法原理 ...................................................................13
第2節 法の支配 .....................................................................21
第3章 憲法の持続と変動 ......................................................25
第1節 憲法の変動 ...................................................................25
第1款 憲法の変動総説 .............................................................25
第2款 憲法改正 ...................................................................25
第3款 憲法の変遷 .................................................................28
第2節 憲法保障 .....................................................................29
第4章 日本国憲法の成立過程 ..................................................31
第1節
第2節
日本国憲法の制定 .............................................................31
日本国憲法の構造 .............................................................34
第5章 国民主権の原理 ........................................................37
第1節
第2節
第2編
国民主権 .....................................................................37
天皇制 .......................................................................40
基本的人権の保障 .......................................... 47
第1章 基本的人権総論 ........................................................47
第1節 基本的人権総説 ...............................................................47
第1款 人権の歴史 .................................................................47
第2款 人権の観念および類型 .......................................................53
第3款 人権の憲法的保障 ...........................................................55
第2節 人権享有主体性 ...............................................................57
第1款 外国人の人権 ...............................................................57
第2款 法人の人権 .................................................................68
第3款 天皇・皇族の人権 ...........................................................74
第4款 未成年者の人権 .............................................................75
第3節 人権の妥当範囲 ...............................................................75
第1款 人権の妥当範囲総説 .........................................................75
第2款 私人間効力 .................................................................76
第3款 特殊的法律関係 .............................................................83
第4節 人権保障の限界 ..............................................................103
第1款 公共の福祉 ................................................................103
第2款 パターナリスティックな制約 ................................................107
第5節 国民の義務 ..................................................................112
第2章 包括的基本権と法の下の平等 ............................................113
第1節 生命、自由および幸福追求権 ...................................................113
第1款 個人の尊厳.................................................................113
第2款 生命、自由および幸福追求権 ................................................113
第2節 法の下の平等 ................................................................133
第1款 法の下の平等総説 ..........................................................133
第2款
第3款
第4款
第5款
14 条1項の法的性格........................................................135
「法の下の平等」の意味 ....................................................136
違憲判断の基準 ............................................................149
家族生活における平等 ......................................................152
第3章 精神的自由権 .........................................................173
第1節 思想良心の自由 ..............................................................173
第2節 信教の自由と政教分離の原則 ..................................................181
第1款 信教の自由 ................................................................181
第2款 政教分離原則概説 ..........................................................186
第3款 政教分離原則違反の裁判所による審査 ........................................190
第3節 学問の自由 ..................................................................207
第1款 学問の自由 ................................................................207
第2款 大学の自治 ................................................................210
第4節 表現の自由 ..................................................................215
第1款 表現の自由の意義と重要性 ..................................................215
第2款 表現の自由の現代的意義 ....................................................219
第1目 知る権利 ............................................................................................................................ 219
第2目 報道・取材の自由 ................................................................................................................ 226
第3目 アクセス権 .......................................................................................................................... 236
第3款
表現の自由に対する制約 ....................................................242
第1目
第2目
第3目
第4目
第5目
第4款
第5款
第6款
選挙運動の自由の権利性と制約 ............................................................................................ 242
差別的表現の自由の権利性と制約 ......................................................................................... 249
営利広告の自由の根拠条文と制約 ......................................................................................... 252
表現の自由と名誉・プライバシーによる制約.............................................................................. 254
その他の表現行為に対する規制 ............................................................................................ 260
検閲の禁止 ................................................................268
集会・結社の自由 ..........................................................283
通信の秘密 ................................................................295
第4章 経済的自由権 .........................................................297
第1節 経済的自由権総説 ............................................................297
第2節 職業選択の自由・居住移転の自由 ..............................................297
第 1 款 職業選択の自由 ............................................................297
第1目 営業の自由 ........................................................................................................................ 297
第2目 営業の自由に対する制約の違憲審査基準 ............................................................................... 298
第3目 営業の自由に対する制約の具体的検討 .................................................................................. 307
第2款 居住、移転、外国移住の自由 ................................................314
第3款 国籍離脱の自由 ............................................................320
第3節 財産権(29 条各項の整合的理解)..............................................320
第1款 29 条1項..................................................................320
第2款 29 条2項..................................................................322
第3款 29 条3項..................................................................329
第5章 人身の自由 ...........................................................341
第1節
第2節
第3節
人身の自由総説 ..............................................................341
法定手続の保障 ..............................................................342
刑事手続上の諸権利 ..........................................................357
第6章 国務請求権と参政権 ...................................................365
第1節 国務請求権(受益権) ........................................................365
第1款 請願権 ....................................................................365
第2款 裁判を受ける権利 ..........................................................367
第3款 国家賠償請求権 ............................................................373
第4款 刑事補償請求権 ............................................................377
第2節 参政権 ......................................................................378
第1款 選挙権 ....................................................................378
第2款 被選挙権 ..................................................................381
第7章 社会権...............................................................383
第1節
第2節
社会権総説 ..................................................................383
生存権 ......................................................................384
第1款 生存権総説 ................................................................384
第2款 裁判所における争い方 ......................................................387
第3節 教育を受ける権利 ............................................................396
第1款 教育を受ける権利総説 ......................................................396
第2款 教育の自由 ................................................................401
第3款 義務教育の無償 ............................................................411
第4節 労働基本権 ..................................................................412
第5節 勤労権 ......................................................................416
Ⅱ
第3編
統治機構 ................................................. 417
第1章 統治総論 .............................................................417
第1節 権力分立 ....................................................................417
第1款 権力分立総説 ..............................................................417
第2款 権力分立の現代的変容 ......................................................418
第2節 代表民主制と選挙・政党 ......................................................418
第1款 代表民主制 ................................................................418
第2款 選挙 ......................................................................419
第1目
第2目
第3目
第4目
第3款
選挙の意義、原則、および選挙区制・選挙方法・投票方法 .......................................................... 419
現行法の選挙制度............................................................................................................... 431
選挙の争訟 ........................................................................................................................ 436
議員定数不均衡訴訟 ........................................................................................................... 438
政党 ......................................................................459
第2章 国会.................................................................463
第1節 国会の地位 ..................................................................463
第1款 国民の代表機関 ............................................................463
第2款 国権の最高機関 ............................................................471
第3款 唯一の立法機関 ............................................................473
第2節 国会の組織と活動 ............................................................490
第1款 二院制 ....................................................................490
第2款 衆議院の優越 ..............................................................492
第3款 国会の活動 ................................................................493
第3節 国会議員の地位 ..............................................................496
第1款 不逮捕特権 ................................................................496
第2款 免責特権 ..................................................................497
第3款 国会議員の権能 ............................................................502
第4節 国会の権能 ..................................................................503
第1款 国会の権能総説 ............................................................503
第2款 条約締結の承認権 ..........................................................503
第5節 議院の権能 ..................................................................508
第1款 議院の自律権 ..............................................................508
第2款 国政調査権 ................................................................514
第3章 内閣.................................................................520
第1節 行政権と内閣 ................................................................520
第1款 行政権の概念 ..............................................................520
第2款 独立行政委員会 ............................................................522
第2節 内閣の組織と権能 ............................................................526
第1款 内閣の組織と権能総説 ......................................................526
第2款 文民 ......................................................................528
第3款 内閣総理大臣の地位・権能 ..................................................529
第4款 内閣の権能と責任 ..........................................................533
第5款 総辞職 ....................................................................538
第3節 議院内閣制 ..................................................................540
第1款 議院内閣制総説 ............................................................540
第2款 議院内閣制の本質 ..........................................................541
第3款
衆議院の解散 ..............................................................542
第4章 財政.................................................................550
第1節
第2節
第3節
第4節
第5節
財政総説 ....................................................................550
予算 ........................................................................559
公金支出の禁止 ..............................................................565
国費支出・国庫債務負担行為 ..................................................569
決算・財政状況の報告 ........................................................571
第5章 地方自治 .............................................................573
第1節 地方自治の本旨 ..............................................................573
第2節 地方公共団体 ................................................................576
第1款 「地方公共団体」の意義 ....................................................576
第2款 地方公共団体の機関 ........................................................580
第3款 地方公共団体の権能 ........................................................582
第1目 地方公共団体の事務内容 ..................................................................................................... 582
第2目 地方公共団体の機関の権能.................................................................................................. 583
第3目 条例制定権 ........................................................................................................................ 584
第6章 裁判所と憲法訴訟 .....................................................595
第1節 裁判所 ......................................................................595
第1款 司法権 ....................................................................595
第1目 司法権の範囲と限界 ............................................................................................................ 595
第2目 司法権の帰属 ..................................................................................................................... 611
第2款 司法権の独立 ..............................................................615
第3款 裁判所の構成と権能 ........................................................623
第4款 裁判の公開 ................................................................627
第2節 違憲審査制 ..................................................................632
第1款 違憲審査制総説 ............................................................632
第2款 違憲審査権の法的性格 ......................................................632
第3款 違憲審査権の主体 ..........................................................637
第4款 違憲審査の対象 ............................................................638
第1目 条約 .................................................................................................................................. 638
第2目 立法不作為 ........................................................................................................................ 642
第3目 私法行為 ........................................................................................................................... 652
第3節 憲法訴訟 ....................................................................653
第1款 憲法訴訟総説 ..............................................................653
第2款 訴訟要件 ..................................................................657
第3款 憲法判断の方法 ............................................................660
第4款 違憲審査の方法と基準 ......................................................671
第5款 違憲判決の効力 ............................................................680
第6款 憲法判例の意義 ............................................................685
参
考 文 献 表 ・ 文 献 略 記 表
「憲法Ⅱ(新版)」(有斐閣)、宮沢俊義著
...................................
「憲法(第6版)」(岩波書店)、芦部信喜著・高橋和之補訂
「憲法学Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ(増補版)」(有斐閣)、芦部信喜著
...................
...........
...........................
「憲法判例を読む」(岩波書店)、芦部信喜著
.....................
「日本国憲法論」(成文堂)、佐藤幸治著
(芦部・演習・頁)
(芦部・判例を読む・頁)
...................................
「憲法(第3版)」(青林書院)、佐藤幸治著
...........................
.......................
「比較憲法(全訂第3版)」(青林書院)、樋口陽一著
(芦部・頁)
(芦部・憲法学Ⅰ~・頁)
「演習憲法(新版)」(有斐閣)、芦部信喜著
「憲法(第3版)」(弘文堂)、伊藤正巳著
(宮沢・頁)
(伊藤・頁)
(佐藤・憲法・頁)
(佐藤・日本国憲法論・頁)
...............
(樋口・比較憲法・頁)
「憲法Ⅰ・Ⅱ(第5版)」(有斐閣)、野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利著
...........................
「立憲主義と日本国憲法(第3版)」(有斐閣)、高橋和之著
「憲法判断の方法」(有斐閣)、高橋和之著
「憲法入門」(羽鳥書店)、長谷部恭男著
「憲法
...................
...................
「憲法(第5版)」(新世社)、長谷部恭男著
(憲法Ⅰ、Ⅱ・頁)
(高橋・憲法判断の方法・頁)
...............................
.............................
解釈論の応用と展開(第2版)」(日本評論社)、宍戸常寿著
(長谷部・頁)
(長谷部・入門・頁)
...........
「憲法学の現代的論点(第2版)」(有斐閣)、安西文雄ほか著
...........
「憲法の急所
.................
権利論を組み立てる」(羽鳥書店)、木村草太著
「基礎から学ぶ憲法訴訟」(法律文化社)、永田秀樹・松井幸夫編著
「『憲法上の権利』の作法(新版)」(尚学社)、小山剛著
(小山・作法・頁)
...........
(小山ほか・論点・頁)
(アルマ1、2・頁)
...................................
.............
(渋谷・頁)
(渋谷・論じ方・頁)
.................................
「日本国憲法(第3版)」(有斐閣)、松井茂記著
(木村・頁)
...............
「憲法1・2(第5版)」(有斐閣)、渋谷秀樹・赤坂正浩著
「憲法(新版)」(ぎょうせい)、戸波江二著
(現代的論点・頁)
(永田=松井・頁)
.........
「日本国憲法の論じ方(第2版)」(有斐閣)、渋谷秀樹著
(宍戸・頁)
.......
「論点探究憲法(第2版)」(弘文堂)、小山剛・駒村圭吾編
「憲法(第2版)」(有斐閣)、渋谷秀樹著
(高橋・頁)
.............................
(戸波・頁)
(松井・頁)
「憲法学教室(全訂第2版)」(日本評論社)、浦部法穂著
.....................
(浦部・頁)
「憲法解釈の論点(第4版)」(日本評論社)、内野正幸著
.....................
(内野・頁)
「憲法Ⅰ
「注釈
統治」(有斐閣)、毛利透・小泉良幸・淺野博宣・松本哲治著
日本国憲法
.........
上巻・下巻」(青林書院)、樋口陽一郎・佐藤幸治・中村睦男・浦部法穂著
.................................
「注解法律学全集
(注釈・頁)
憲法Ⅰ~Ⅳ」(青林書院)、樋口陽一郎・佐藤幸治・中村睦男・浦部法穂著
.............................
「憲法の解釈
(LQⅠ・頁)
(注解Ⅰ~・頁)
Ⅰ総論・Ⅱ人権・Ⅲ統治」(三省堂)、野中俊彦・浦部法穂著
.......................
「憲法判例百選Ⅰ・Ⅱ(第6版)」(有斐閣)
...............
(解釈Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ・頁)
(百選Ⅰ、Ⅱ〔事件番号〕・頁)
「憲法判例百選Ⅰ・Ⅱ(第5版)」(有斐閣)
........
(百選Ⅰ、Ⅱ[第5版]〔事件番号〕・頁)
「憲法判例百選Ⅰ・Ⅱ(第4版)」(有斐閣)
........
(百選Ⅰ、Ⅱ[第4版]〔事件番号〕・頁)
「平成~年度
重要判例解説」(有斐閣)
.........................
(H○重判〔事件番号〕)
「憲法判例(第7版)」(有斐閣)、戸松秀典・初宿正典編著 .........
(憲法判例〔事件番号〕)
「プロセス演習憲法(第4版)」(信山社)、棟居快行・工藤達朗・小山剛編
.........................
(プロセス演習・頁)
「ケースブック憲法(第4版)」(弘文堂)、長谷部恭男・中島徹・赤坂正浩・阪口正二郎・本秀紀
編著
...............................................................
(弘文堂 CB・頁)
「ケースブック憲法」(有斐閣)、高橋和之編、安西文雄・佐々木弘通・毛利透・淺野博宣・巻美矢
紀・宍戸常寿著
......................................................
「憲法の争点」(有斐閣)、大石眞・石川健治編
「法学教室」(有斐閣)
「ジュリスト」(有斐閣)
...............................
..................................
「法学セミナー」(日本評論社)
(有斐閣 CB・頁)
........................
(争点・頁)
(著者名・法教・(号).(頁))
(著者名・法セミ・(号).(頁))
....................................
(ジュリスト(号).(頁))
第1編
第1編
第1章
憲法総論
第1章
憲法の意義と立憲主義の展開/1
憲法総論
憲法の意義と立憲主義の展開
第1節 憲法の意義
一
憲法の意味
1
憲法と国家
国家とは、一定の限定された地域(領土)を基礎として、その地域に定住する人間が、強制力を
持つ統治権のもとに法的に組織されるようになった社会をいう。したがって、領土と人と権力は、
古くから国家の3要素といわれてきた。
この国家という統治団体の存在を基礎づける基本法、それが通常、憲法と呼ばれてきた法である。
2
立憲的意味の憲法と固有の意味の憲法
⑴
立憲的意味の憲法(近代的意味の憲法)
立憲的意味の憲法とは、権力を制限することにより自由を保障しようという考えを基本理念
とし、絶対王制における国王の権力を制限し、国民の自由を守ることを目的とする憲法である。
それゆえ、ここでの憲法は、第一に、自由権の保障を謳い、第二に、権力の制限を可能とする
統治機構として権力分立を採用することを要求された。
1789 年のフランス人権宣言は、その 16 条で、「権利の保障が定かでなく、権力分立も定めら
れていないような社会は、いずれも憲法を持つとはいえない」と規定したが、立憲的意味の憲
法の観念を典型的に表現したものと受け取られている。
憲法とは、国家権力の濫用を抑制し、国民の権利・自由を守る基本法である。
⑵
固有の意味の憲法
固有の意味の憲法とは、国家の統治の基本を定めた法としての憲法である。この意味の憲法
はいかなる時代のいかなる国家にも存在する。
3
実質的意味の憲法と形式的意味の憲法
⑴
実質的意味の憲法
実質的意味の憲法とは、憲法がどのような形態をとって存在しているか(成文か不文か、憲
法典の形をとっているか)とは関係なく、その内容に着目して捉えた場合の憲法概念である。
3でみた立憲的意味の憲法と固有の意味の憲法の区別は、憲法の内容を問題としており、実質
的意味の憲法についての区別である。
⑵
形式的意味の憲法
形式的意味の憲法とは、憲法という「法形式」をとって存在している憲法を指す。
これは、憲法の存在「形式」に着目した憲法概念である。
2/第1編
⑶
憲法総論
第1章
憲法の意義と立憲主義の展開
立憲的意味の憲法と実質的意味の憲法
立憲的意味の憲法はイギリスのような例外を別にすれば、通常、憲法という形式で存在する。
しかし、実質的意味での憲法に含まれる規範でありながら、憲法の形式をとっていないもの
もある(選挙法が定める選挙制度に関する諸規定など)。逆に、憲法の形式で定められている
が、内容的には憲法とはいえないような規定も存在する(スイス憲法旧 25 条の2「出血前に麻
痺せしめずに動物を殺すことは一切の動物の殺戮方法および一切の種類の家畜について例外な
くこれを禁止する」という規定など)。
二
憲法の法源
憲法の法源とは、さまざまな様式で存在する実質的意味の憲法をその存在様式に着目して捉えた
観念をいう。
1
成文法源
実質的意味の憲法が成文化されるときは、まず、憲法という形式で行われるのが通常である。
しかし、形式的意味の憲法で全てを規定しつくすということはほとんど不可能であり、また、必
ずしも好ましいことではない。そこで、憲法典では原則的なことのみを決め、より具体的な定め
は他の法形式に委ねるのが通常である。
日本国憲法の成文法源として以下のものが挙げられる。
⑴
条約(平和条約、日米安全保障条約、国際連合憲章、経済的・社会的及び文化的権利に関す
る国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、女子差別撤廃条約、児童の権利に関す
る条約、等)
⑵
法律(皇室典範、皇室経済法、国事行為の臨時代行に関する法律、国籍法、請願法、人身保
護法、教育基本法、国会法、公職選挙法、内閣法、国家行政組織法、国家公務員法、裁判所法、
検察庁法、恩赦法、財政法、会計法、会計検査院法、等)
2
⑶
議院規則(衆議院規則、参議院規則)
⑷
最高裁判所規則
⑸
条例(公安条例、青少年保護条例、等)
不文法源
一般に不文法源としては慣習法と判例が問題となるが、憲法についても憲法慣習(法)と憲法判
例が問題となる。
⑴
憲法慣習
イギリスのような不文法国といわれる国では憲法の重要な部分が長い間の慣行を通じて慣習
法として形成されてきた。このように慣習法の形で存在する憲法を慣習憲法という。
これに対し、成文法国においては、実質的意味の憲法は形式的意味の憲法以下の諸形式で定
められているから、慣習憲法は存在しない。しかし、成文法国においても、憲法問題の全てを
成文の諸形式で具体的に定めつくすことは不可能であり、憲法に関する慣習が必然的に生み出
第1節
憲法の意義/3
されてくる。すなわち、具体的な行為を一義的に命ずる法規定がないままに行われた特定の具
体的な行為は、その後の先例・慣行となり、それが長期に繰り返されることを通じて慣習法化
していく可能性が存在するのである。
このように、現実の必要に応じて法規定のないままに行われた具体的行為が先例・慣行とな
り、それが長期にわたり反復され、その先例に法的価値を承認する広汎な国民の合意が成立し
た場合、その憲法に関する先例は法的性格を獲得し、憲法慣習(法)と呼ばれる。
⑵
憲法判例
憲法判例とは、ある法や行為が合憲か違憲か、また、それはいかなる理由によってかという
憲法問題についての判例である。
日本国憲法が採用した違憲審査制度は、一般には付随的審査制であると解されているから、
憲法問題そのものを独立の審査対象として下された判決は存在せず、したがって、憲法判断は
原則として判決の主文中には現れず、主文を根拠づける理由中に示されるにすぎない。判例と
して価値があるのは、主文に表示される判決の結論を出すのに不可欠な役割を果たしている理
由(レイシオデシデンダイ)である。憲法判例というのはそのような理由が憲法問題について
の判断を内容としているものをいい、合憲・違憲の判断及びその理由からなる。
判例に法源性、法的性格を認めうるかについては議論がある(判例の先例拘束性)が、通説
は肯定する。
三
憲法の分類
1
成文憲法と不文憲法
憲法典が存在するかしないかを基準とする分類。
立憲的意味の憲法は、通常、成文憲法として存在するが、イギリスは成文憲法をもたない。
*
もっとも、イギリスの憲法が、全て慣習法として存在するというのではなく、その多くの部
分を成文の法律として定めている。単に成文の憲法典が存在しないというだけである。
2
硬性憲法と軟性憲法
憲法改正の手続が通常の立法手続と同じ(軟性憲法)なのか、それともより困難な手続が定めら
れている(硬性憲法)かを基準とする分類。
3
欽定憲法と民定憲法
憲法の制定主体が誰かによる分類。
君主が制定して国民に授けたという形をとっている場合が欽定憲法であり、国民が制定したとい
う形をとっている場合が民定憲法である。
4
近代型憲法と現代型憲法
近代立憲主義との関係を基準にした分類。
4/第1編
憲法総論
第1章
憲法の意義と立憲主義の展開
憲法の内容をその依拠する基本思想に即して比較すると、近代に制定された憲法と現代に制定さ
れる憲法とでは相当異なる原理・思想を基礎にしていることが理解される。
すなわち、近代の憲法は近代立憲主義の諸原理を基礎としているのに対し、現代の憲法は多かれ
少なかれそれを修正した原理を基礎としているのである。
四
憲法規範の特質
⑴
授権規範性
<国法秩序の段階構造>
授権・制限
(国民)
憲法
授権・制限
法律
命令
国会
内閣
国民の権利
国民自身が憲法をつくり、国民の権利を制限する作用を下位の法規範に授権する
↓しかし
国家権力を制限できる法としての憲法である以上、全く無制限な授権をするわけにはいかない
∥
権力の濫用を防止し、人権保障を図るべく憲法による枠づけが必要
↓そこで
⑵
制限規範性
↓そしてこの制限規範性を実効的なものにするには
⑶
最高法規性
憲法に反する法律などは効力を有しない(98Ⅰ:形式的最高法規性)。
11 条と重複する内容の 97 条が最高法規の章に存在する意義は、このような人権を保障して国
家権力を抑制する法である憲法だからこそ最高法規性を有するものであるとして、最高法規の
実質的根拠を示すものである(実質的最高法規性)。そして、99 条では、国家権力の行使を担
当する公務員の憲法尊重擁護義務を定めている。
発展
ちなみに、明治憲法下における法令が新憲法下において効力を有するかどうかについて、判例(最大判昭
27.12.24/百選Ⅱ〔210〕)は、内容説(明治憲法下の法令であってもその内容が新憲法の条規(98Ⅰ)に
反しない限り、新憲法下においても有効であるとする説)を採用したものとしたと一般に評価されている。
なお、補足意見は、内容説を明示的に採用している。
⑷
基本価値秩序としての憲法
憲法というのは、価値中立的に統治の機構を定めるものではなく、政府が実現すべき、あるい
は、政府がよるべき基本価値の選択がそこに表現されているのである。立憲主義の憲法の基本
価値は、「個人の尊厳」である。それがさまざまな人権の保障に具体化される。そして、そこ
での統治機構は、人権をもっともよく保障しうるような構造へと組み立てられる。立憲的意味
の憲法の目的は人権保障であり、統治機構はそれを実現するための手段である。
発展
第2節
憲法の生成と立憲主義の展開/5
<人権保障の体系>
派生
13
個人の尊厳
自由主義・民主主義・平等主義・
憲法
原理
福祉主義・平和主義
具体化
目的
人
統
憲
*
権
規
治
機
法
定
構
訴
手段
訟
憲法は個人の尊厳の理念を達成するための人権保障の体系であり、統治機構・憲法訴訟もこの人
権保障のための手段(システム)である。
第2節 憲法の生成と立憲主義の展開
一
近代立憲主義の成立
1
中世立憲主義
多元的な社会における憲法
↓
身分的特権のために権力を抑制する(個人の人権保障のためではない)
<中世の身分制社会>
身分社会性
2
①
旧き良き法を基礎とする身分的自由・特権の保障
②
身分的特権に基づく権力の相互制限
③
身分制議会(等族議会=強制委任)
中世→近代
⑴
連続性(マグナ・カルタ、権利章典が今日まで効力を有している)
⑵
断絶性
①
身分の特権の保障→個人の人権保障
②
権力の分散→国家への主権の集中
6/第1編
憲法総論
第1章
憲法の意義と立憲主義の展開
<中世国家から近代国家への変遷>
中世国家
近代国家
国王
教会
権 力 の国家
への集中
大学
個人の人権
領主
身分
自治都市
個人
身分からの解放
・自治都市
・大学
中間団体の否認
・ギルド
3
市民革命期
個人の重要性の認識
↓
下からの革命
↓
「国家からの自由」を求める
↓そのために
国家が積極的に介入して国民の自由を創設
ex.ギルドの解体
∥
自由の基盤づくりを行なった
→国家による自由
<近代立憲主義憲法の2つの要素>
人権保障(人権)
近代立憲的意味の憲法
(近代立憲主義憲法)
権力分立(統治)
*
フランス人権宣言 16 条(1789)
「権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていないすべての社会は、憲法を持つもの
ではない」
第2節
二
近代立憲主義の内容
1
はじめに
憲法の生成と立憲主義の展開/7
近代立憲主義:近代的意味の憲法に基づいて国家運営を行うこと。
2
消極国家
国家による干渉はできるだけ少なくする方が人権保障のために役立つという考え方。
→国家活動は警察・防衛等の必要最小限の範囲にとどめる。自由放任主義。
<立憲主義諸国家における権力構造の相異>
発展
英・仏→
議会中心主義
←議会に対する信頼が前提
法律による人権保障
=
立憲主義の先進国
(行政から国民を守る)
→ 徹底した権力分立 ←議会に対する不信が前提
法律からの人権保障
=
米
違憲立法審査権を裁判所に
与えて法律からも国民を守る
↑
1803 年の連邦最高裁判所の判例による
立憲主義後の後進国
ドイツ(1871) → ビスマルクによる統治の手段
(外見的立憲主義)
日本(1889)
→ 近代国家としての体裁を整える手段
↑
上からの押しつけ憲法であったため立憲主義が根付かなかった
<英・仏と米国における人権保障の違い>
(英・仏)
法律
(米)
=
議会
憲法
個人
行政
市民
法律
=
侵害
侵害
個人
行政
侵害
=
法律による人権保障
法律による裁判
法律からの人権保障
=
法律による行政
議会
裁判所による人権保障
市民
裁判所
8/第1編
3
三
憲法総論
第1章
憲法の意義と立憲主義の展開
ヨーロッパ型とアメリカ型
⑴ 議会中心主義(イギリス、フランス)
議会に最高の権限を与える
↓すなわち
国民代表議会が法律によって人権保障をする(行政権の濫用から人権を守る)
↓さらに
法律自体が憲法に適合しているか
フランス→あまり問題にしない(形式的法治主義)
イギリス→議会自体が判断する
* なぜ議会中心主義として展開したか
↓
主権者たる国民の意思をもっとも良く反映しうるところに議会が位置するから
↓すなわち
① 民意を十分に反映した議会だから
② 少数者の意見を尊重した民主主義(立憲民主主義)だから
⑵ 徹底した権力分立(アメリカ)
=三権対等の権力分立
↓
裁判所に違憲審査権を与える
↓
裁判所が憲法の規定を適用することによって人権保障をする
(議会すなわち法律から人権を守る)
近代立憲主義の危機
消極国家の下では無制限な自由競争を認めたため、多くの社会的・経済的弱者の犠牲の下で少数
の富める人々を保護する結果になった(資本主義の矛盾)
↓
このような状況では社会的・経済的弱者の個人の尊厳を守ることはできない
↓
そのため近代立憲主義に修正が加えられていくことになった
四
1
現代立憲主義
積極国家
①
社会権の保障(ex.生活保護、義務教育)
②
国家による積極的な政策の実行(ex.公共事業の創出、産業基盤の整備)
<近代立憲主義と現代立憲主義の比較>
近代立憲主義
現代立憲主義
人権
自由権
国家からの自由
(形式的自由)
自由権+社会権
国家による自由も加わる
(実質的自由)
統治
消極国家
積極国家
発展
第2節
憲法の生成と立憲主義の展開/9
<近代立憲主義から現代立憲主義へ>
近代立憲主義
現代立憲主義
社会権
2
目的
自由権
拡大
自由権
手段
消極国家
拡大
積極国家
議会制の変貌(政党国家)
近代議会制は、国民代表観念により選挙民の指図から解放された議員よりなる議会に、国民の自
由の守護と統合の機能を発揮せしめようとした。
しかし、資本主義の進展に伴う社会的矛盾と緊張を背景とする政治の民主化の要求の高揚は、選
挙権の拡大(終局的には普通選挙の確立)を帰結するところとなり、それとともにかつてのよう
に議会の超然さを許さなくなり、むしろ議会は民意を忠実に反映・代弁すべきであると考えられ
るようになる。
この過程で重要な役割を果たしたのは政党である。そして政党は、組織力を強め、国政レヴェル
におけるその重要性を高めていく(政党国家現象)。その結果、議員は議会における自由な討論
に基づいて意思を形成し表決するというよりも、政党の党議に従って行動する存在と化し、議会
における意思形成は政党間の確執と妥協の下に行われるようになる。そして、社会の階級対立の
激しさに比例して政党間の妥協が困難となり、議会の意思形成・統合能力を失わせることになり、
ドイツのように「左」「右」の挟撃にあって議会制が沈没してしまうところもでてきた。
第二次大戦によって、議会制をつぶした後には結局最悪の圧制しかありえぬことが実感され、大
戦後は種々の方策を講じて議会制の修復・維持が図られることになる。第一は、政党を憲法体系
上明確に位置づけようとする試みであり、第二は、直接民主制の部分的導入と地方自治の拡充に
よって議会制を補完せしめようとする試みである。
3
行政国家現象
⑴
背景
資本主義が高度に発達した現代においては、資本主義の矛盾(失業、貧困の増大)を解消するた
め、国家が積極的に国民生活に関与することが要求される(福祉主義、国家による自由)
↓そこで
この要求に応えるためには、専門的技術的判断と、迅速かつ円滑な対応が必要である
10/第1編
憲法総論
第1章
憲法の意義と立憲主義の展開
↓そのため
かかる能力を有する行政権の機能が拡大し(行政権の肥大化)、本来法の執行機関にすぎな
い行政権が国家の基本的政策決定に中心的役割を営むようになった(行政国家現象)
ex.委任立法の増大、内閣の法案提出権
↓そして
かかる行政国家現象は福祉主義の実現のために不可避的であり、これは憲法自身も認めてい
ると考えられる(25 以下)
⑵
行政国家現象の問題点
行政国家現象は福祉主義実現には資する
↓しかし
行政国家現象は行政権への過度の権力集中を招くことになり、権力相互の抑制・均衡によって国
民の権利・自由を守ろうとした権力分立の趣旨を没却する危険がある(自由主義への脅威)
↓また
行政権は、主権者たる国民に直接的な民主的基盤を有しないため、国民の意思とかけ離れた
国家意思形成が行われる危険がある(民主主義への脅威)
⑶
行政国家現象に対する歯止め
必要以上に国家権力が強大化しないように憲法によって制限していくべき
↓そこで
行政権の拡大を抑制する方法
⒜
⒝
議会主義の復権(代表過程の重視と国会の権限の強化)
①
半代表
②
政党による民意の組織化
③
議院内閣制による行政権のコントロール
④
選挙制度の見直し(比例代表制の是非)
⑤
国会中心立法の維持
⑥
直接民主制の部分的採用(特に地方自治)
⑦
地方自治による補完
⑧
国政調査権の行使
裁判所の権限の強化
①
行政機関による終審裁判の禁止
②
違憲法令審査権の付与
→裁判所が政治部門にかわって、一定の政策形成機能を果たす
第2節
憲法の生成と立憲主義の展開/11
<行政国家現象を抑制する国会・裁判所の権限>
議会主義の復権
国会
抑制
国民
内閣
行政権
裁判所
司法国家現象
抑制
行政国家現象
4
憲法の規範力強化への試み(司法国家現象)
議会の地位が相対的に低下したため、憲法の規範力を裁判所を通じて確保・強化しようとする傾
向が顕著となっている。これも現代立憲主義の特徴である。
議会が自ら憲法の擁護者であった段階では、議会による憲法侵害という問題は顕在化せず、憲法
と法律との質的区別さえそれほど明確ではなかった。
ところが、議会制の凋落(立法権不信)を背景に、かつ基本的人権保障の緊要性が自覚されると、
違憲立法審査制が立憲民主制下の諸国の憲法体系に取り入れられるところとなった。この推移は、
「自然的正義」→「実定的正義」ないし「法的正義」→「憲法的正義」として表現されることが
ある。
もっとも、「憲法的正義」の実現の方法は、各国の歴史的事情を反映して一様ではない。裁判所
に対する信頼感の強い英米法系の国では、通常の司法裁判所が「憲法的正義」の実現の主たる担
い手となったのに対して、大陸法系の国では、憲法裁判所という特別の裁判所がその任にあたる
傾向がある。旧体制下における経験から伝統的に裁判所不信が強いフランスでは、裁判所以外の
機関(第五共和制憲法下の憲法院等)に憲法審査を行わせる傾向がある。
5
平和国家への志向
元来、戦争は、立憲主義にとって最大の敵であるはずである。とりわけ、現代戦争は総力戦であ
って、人権(私的領域)の徹底的な制限・破壊を伴い、立憲主義体系に壊滅的な打撃となる。
そこで、平和主義・国際協調主義への志向を、憲法体系の中に取り込み、憲法自体において明記
するものがみられるようになった。
12/第1編
6
憲法総論
第2章
憲法の基本原理
憲法とその想定する人間像の変容
近代立憲主義には、いわば抽象的な「完全な個人」を想定し、そうした人間像を前提に人権の保
障や統治のあり方が考えられたようなところがある。そして、「身分」からの自我の解放を目指し
た近代人にとって、集団ないし結社は自我の確立を妨げ、個人の自由な活動の前に立ちふさがり、
あるいは公共性をかき乱し、安定した外的な統治機構を瓦解に至らしめるものと考えられた。
しかし、現実の人間は、自己をとりまく様々な社会経済的諸条件に縛られ、その関係する様々な
人間集団の規律や方針などとの絡み合いの中で行為することが少なくないはずである。上述のよ
うに、資本主義の進展は、近代立憲主義がその出発点とした建前と現実との乖離を次第にあらわ
なものとした。ここに、社会の中における具体的人間に即して、権利の保障や統治のあり方が考
えられるようになった。社会的基本権の保障に象徴される積極国家観の登場である。
第2章
憲法の基本原理
第1節 基本原理
第1款
根本価値としての個人の尊厳
憲法は、個人の尊厳を達成するための、人権保障の体系である。
<人権保障の体系>
派生
13
個人の尊厳
自由主義・民主主義・平等主義・
憲法
具体化
原理
福祉主義・平和主義
目的
人
規
治
機
統
権
憲
法
定
訴
構
訟
手段
第1節
第2款
一
基本原理
第2款
憲法原理/13
憲法原理
5つの憲法原理の相互関係
<個人の尊厳と5つの憲法原理の相互関係-有機的一体性>
個人の尊厳
個人の尊厳
手段
手段
平
目的
民
和
主
主
平等主義
自由主義
義
主
義
福祉主義
補充
補充
権力分立
法の支配
憲法 13 条の「個人の尊厳」を出発点とする。国民に自由・平等・福祉の価値を実現することを目的
として、そのための手段として民主主義・平和主義を保障する。そして、このような統治体系を制度
的に維持・発展させるために「権力分立」・「法の支配」の原理が基底におかれている。
二
自由主義
定義:人は本来的に自由な存在であり、国民は国家から干渉を受けないという原理。
→個人の尊厳を保障するためには、各人の生き方を自分で決める自由(人格的自立権)を保障す
ることが不可欠。
<自由主義の憲法上への具体化>
国家から干渉
人権面→自由権(18、19、20、21、22、23、29、31、33~39)
されないこと
統治面
権力分立
→三権分立(41、65、76Ⅰ)
違憲審査制(81)
二院制(42)
地方自治制(第8章)
専ら自由主義に
14/第1編
憲法総論
三
民主主義
1
はじめに
第2章
憲法の基本原理
定義:治者と被治者の自同性
なぜ民主主義という原理をとるのか
↓
①
政治的価値の根源は全ての個人(国民)に存するから
②
人権保障に最もふさわしい手段だから
<民主主義の憲法上への具体化>
治者と被治者の自同性
2
人権面
→
参政権(15Ⅰなど)
統治面
→
国民主権(前文1段・1)
自由主義との関係
①
目的、手段の関係
②
国民に自由主義を保障するために、統治手段として、民主主義を採用する
↓
いずれにせよ自由主義と民主主義は密接不可分
<立憲民主主義における多数決原理>
立憲民主主義
少数意見を十分に尊重した自由な討論、審議が必要不可決な前提となる
(人権保障=自由を目的にした民主主義)
民主主義
理の政治
数の政治
多数決主義的民主主義
四
平等主義
1
はじめに
定義:各人を人間として平等に尊重しなければならないという原理
→個人の尊厳を保障し、人間を人間らしく扱うためにはすべての人が平等であることが必要
2
形式的平等(自由主義的)
不平等な国家の干渉を排除する=機会の平等
すべて人は生れながらにして平等であり、自由・権利において平等である(アメリカ独立宣言・
フランス人権宣言)
第1節
基本原理
第2款
憲法原理/15
<形式的平等の姿>
生まれながらにして皆平等である
3
実質的平等(福祉主義的)
資本主義経済の発展により、現実生活上不平等が拡大した
平等を達成するために国家の介入を求める=条件の平等(結果の平等ではない)
<実質的平等の達成>
累進課税
独占禁止法
社会権の保障
五
→
社会国家的公共の福祉
☆自由競争の前提となる条件の整備
福祉主義
定義:国家に国民が個人の尊厳を保障するための積極的作為を要請する原理
資本主義の矛盾
↓
国家による自由の確保の必要性
↓すなわち
国家が介入して個人の尊厳を確保する
↓しかし
福祉主義を強調しすぎることは過大な国家権力の介入を招く危険性あり(実質的平等も同じ)
↓よって
福祉主義はあくまでも自由主義の補完原理として考えるべき
↓
あくまでも国家からの自由が本質であることを忘れてはならない
↓また
福祉主義を自由主義の補完と考える以上、福祉主義も民主主義によって実現すべきであり、福祉
主義と民主主義は目的・手段の関係にある
六
平和主義
個人の尊厳が保障されるためには何よりも平和が保障されていなければならない。
自由権や社会権の基礎にあって、その享有を可能にする基底的権利である。
16/第1編
発展
憲法総論
第2章
憲法の基本原理
1
憲法における平和主義
⑴ 平和主義と憲法
従来、国際法や憲法において制限ないし禁止された戦争は、いずれも「侵略戦争」にとどまる。これに対
して、日本国憲法9条に示された平和主義は、①侵略戦争を含む一切の戦争と武力の行使を放棄し、②それ
を徹底するために戦力の不保持を明示した上で、③さらに国の交戦権を否認している点において、憲法史上、
画期的な意義をもつものである。
⑵ 憲法9条成立の沿革
平和主義原理が日本国憲法に採用された背景には、1941年8月の大西洋憲章、45年7月のポツダム宣言、
46年2月のマッカーサー・ノートなど、国際的な動向、とりわけアメリカを中心とする連合国側の動きがあ
るが、それに加えて、日本側の意向もかなり反映されているとみることができる。特に日本国憲法制定当時
の幣原首相の平和主義思想が、マッカーサー・ノートのきっかけになっていたと考えられる。
2
日本国憲法前文の平和主義
⑴ 平和国家
日本国憲法前文は、日本は世界平和を理念とする平和国家であることを表明している。
前文第一段 「日本国民は、」「われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、……自
由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうに
することを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」。
前文第二段
第一文 「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚す
るのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持
しようと決意した。」
第二文 「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努め
てゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」
第三文 「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権
利を有することを確認する。」
前文第三段 「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであ
つて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維
持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」
前文第四段 「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓
ふ。」
⑵ 平和的生存権
日本国憲法は前文第二段第三文において、「平和のうちに生存する権利」を規定している。この平和的生
存権が日本国民にとって「権利」としての実体を有するか、すなわち、個々の国民が自らの権利として、平
和的生存権の侵害を理由に、裁判所にその救済を求めうるかについて争いがある。これは、憲法前文の裁判
規範性の問題と関連する。
* なお、前文から「平和的生存権」を直接に導き出すことができないとしても、包括的な人権が保障され
ている 13 条を手掛かりとして、国民個人の平和的生存権を根拠づけることが可能であることや、9条の
戦争放棄規定は、個々の国民の権利としての平和的生存権を客観的な制度として保障する意味をもつこと
などを根拠としてその裁判規範性を肯定する見解もある。
◆ 長沼事件一審判決(札幌地判昭 48.9.7/百選Ⅱ〔171〕) ⇒p.36
◆ 長沼事件二審判決(札幌高判昭 51.8.5/百選Ⅱ[第5版]〔182〕) ⇒p.36
◆ 百里基地訴訟(最判平元.6.20/百選Ⅱ〔172〕) ⇒p.80
第1節
3
容
憲法規範を公権力を直
接拘束する「現実的規
範」と国家の理想を示す
「理想的規範」とに二分
した上で、9条は「理想
的規範」であるとする
9条が為政者を拘束す
る法規範性を有すること
を認めた上で、その裁判
規範性は極めて希薄であ
り、国会等の政治的な場
でその合憲性が判断され
る政治規範としての性格
を有するとする
9条の裁判規範性を認
めた上で、憲法制定後の
事情の変化によりその規
範的意味が制定当時と全
く変わってしまい、9条
の規範内容についていわ
ゆる「変遷」が生じたと
する
9条は、法規範とし
て公権力と国民に対し
て拘束力を保持すると
する
9条は「理想的規範」
として国家の理想を示し
た国際政治のマニフェス
トである
9条には高度の政治的
判断を伴う理想が込めら
れており、裁判所による
規範的意味の確定が困難
であり、また、かりにそ
れを確定しえたとしても
裁判所が政治的紛争に巻
き込まれ、裁判所本来の
機能を果たしえなくなる
①
憲法制定後の国際情
勢及びわが国の国際的
地位の著しい変化によ
り、今日では制定当初
の9条解釈の変更を必
要とするに至った
本条に反する国家行
為は、単に政治的不当
の問題を生ずるだけで
なく、違法・違憲とさ
れなければならない
②
国民の規範意識も変
化し、現在では自衛の
ための戦力の保持を容
認している
憲法の規定は多かれ少
なかれ政治的性格を有す
るものであり、憲法事件
に関する判断のもつ政治
性を理由に9条を単なる
政治規範と解すべきでは
ない
9条「変遷」の要件と
される国際情勢の変化お
よび国民の規範意識の変
化に関する認識は一面的
である
由
判
憲法原理/17
憲法9条の法規範性
憲法9条が、法規範として、公権力と国民に対して拘束力を保持するものか争いがある。
<9条の法規範性の整理>
政治的
法規範性肯定説
政治規範説
9条変遷説
マニフェスト説
(通説)
理
批
第2款
日本国憲法9条の規範構造
⑴
内
基本原理
戦争放棄の規定が前文
ではなく、9条として憲
法本文におかれている以
上、9条を単なる政治的
宣言と解すべきではない
9条は「前文」的性
格を有している
18/第1編
⑵
憲法総論
第2章
憲法の基本原理
戦争放棄
<戦争放棄の学説の整理>
9条1項の「国際紛争を
解決する手段としては」
の文言は何にかかるか
「国権の発動たる戦争」「武力による威嚇」「武力の行使」
の全てにかかる
9条1項の「国際紛争を
解決する手段として」の
「戦争」の意義
国家の政策の手段としての戦争、すなわ
ち、侵略的な行為のみを放棄する
9条2項の「前項の目的
を達成するため」の意義
結論
⑶
1項の侵略的な行
為の放棄という目
的を指し、その目
的を達成するため
に、戦力の不保持
と交戦権の否認を
定める
「正義と秩序を基
調とする国際平和
を誠実に希求」す
ることを指し、そ
の目的を達成する
ために、2項で戦
力の保持を無条件
で禁じ、また、交
戦権まで否認して
いる
自衛戦争や国際秩
序の破壊に対する
武力による制裁措
置への参加は何ら
否認されず、また
こうした行動をと
るに際しては、交
戦権も否認され
ず、そのための
「戦力」ないし
「自衛力」を保持
することも認めら
れる(限定放棄
説)
1項で留保された
自衛戦争等も、2
項により事実上不
可能となり、9条
全体で全てが放棄
される結果となる
(全面放棄説・遂
行不能説)
「武力による威
嚇」と「武力の行
使」のみにかかる
一切の戦争・武力
行使・威嚇が放棄
されている
2項の規定を待つ
までもなく、1項
により自衛戦争等
を含む一切の戦
争・武力行使・威
嚇が放棄される
(全面放棄説・峻
別不能説)
「国権の発動なる
戦争」については
無条件に放棄され
ているが、武力の
行使・威嚇につい
ては「国際紛争を
解決する手段とし
て」放棄されてい
るにすぎず、自衛
権の範囲内での武
力の行使は禁止さ
れていないとする
戦力の不保持
⒜ 自衛権と日本国憲法の立場
「自衛権」とは、国際法上、一般に、急迫又は現実の不正な侵害に対して、国家が自国を防衛するため
にやむをえず行う一定の実力行使の権利をいう。
そして、「自衛権」の行使が正当化されうるのは、①急迫又は現実の不正な侵害があり(違法性)、②
侵害を排除するためには一定の実力行使以外に他に選択する手段がなく(必要性)、③自衛のためにとら
れた実力行使が、急迫な侵害を防ぐ上で、又は、加えられた侵害を排除するために必要な限度で行使され、
侵害行為とつり合っている場合(均衡性)に限られる。
このような、国際法上一般に認められた「自衛権」を、日本国憲法は放棄しているのかについては争い
がある。
第1節
基本原理
第2款
憲法原理/19
<自衛権の学説の整理>
自衛権
放棄説
自衛権
留保説
⒝
実質放棄説
9条は、形式的には自衛権を放棄していない。しかし、自衛権を認めることは
戦争の誘発に連なる「有害な考え」であるとし、9条は自衛権を実質的に放棄
しているとする
形式放棄説
自衛権が不可避的に「戦力」の発動を伴うものである以上、「戦力」の保持を
禁じた日本国憲法の下では、自衛権は形式上も放棄されている
非武装
自衛権説
国家がその固有の権利である「自衛権」自体を放棄することはありえず、9条
2項は警察力を超える実力である「戦力」や「武力」を用いて「自衛権」を行
使することを禁じている(全面放棄説と結びつく)
自衛力
肯定説
国家「固有」の「自衛権」が憲法上放棄されることはありえない以上、急迫・
不正の侵害に対して自衛行動をとることは当然認められ、自衛のために必要な
「戦力」に至らない実力を保持することは9条2項の禁ずるところではない
(限定放棄説と結びつく)
自衛戦力
肯定説
9条は、国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄し、そのための戦力を保
持することを禁ずるが、しかし、「自衛権」に基づいて自衛戦争を行い、その
ための戦力を保持することは否定されていない(限定放棄説と結びつく)
「戦力」の意味
9条2項において「保持しない」と宣言した「陸海空軍その他の戦力」をどのように理解するか、「自
衛権」をめぐる論議と関連して問題となる。
<「戦力」の意義についての学説の整理>
学説
内容
自衛隊は「戦力」か
転用可能な
潜在能力説
「戦力」とは、陸海空軍のように武力として組織されたもの
のほかに、戦争に役立つ可能性をもった一切の潜在能力を含
む
「戦力」にあたる
警察力を
超える実力説
「戦力」とは、通常、「軍隊」もしくは「軍備」と呼称され
ている「目的および実体の両面からみて、対外的軍事行動の
ために設けられている人的組織力と物的装備力」と有事の際
これに転用しうる実力部隊をいう
「戦力」にあたる
近代戦争
遂行能力説
「戦力」とは、近代戦争遂行に役立つ程度の装備、編成を備
えるものをいう
*
自衛に必要な
最小限度を
超える実力説
「戦力」とは、自衛に必要な最小限度の実力を超えるものを
いう
「戦力」にあたらない
*
近代戦争遂行能力説によると、この見解が主張された当時の保安隊・警備隊は「戦力」にあたらない
とはいえるが、現在の自衛隊が「戦力」にあたるか否かは明確には判断できないことになる。
⒞
自衛力の限界
政府は、第一次鳩山内閣の統一見解以来、今日に至るまでほぼ一貫して「戦力」の意味について「自衛
に必要な最小限度を超える実力」説に立ち、自衛権に基づく自衛のために必要な最小限度の実力は9条2
項の「戦力」にあたらないとする。このように考えると、「戦力」と「自衛力」の区別が相対的なものと
なり、「戦力」に至らない自衛力とはどの程度の実力なのかという困難な問題を生ずる。
政府は、保持できるのは近代戦争遂行能力をもたない防衛用の兵器のみで、他国に対して侵略的脅威を
与えるようなものであるとか、性能上相手国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられるものは保持でき
ないとしているが、兵器の目的や性能によって、攻撃的兵器と防衛的兵器を区別することは非常に難しい。
結局、政府の考え方によれば、日本をとりまく国家ないし国家群がどの程度の実力を保持し、また日本
に対して直接または間接に侵略を企てるおそれがどれくらいあるか等、その時々の状況によって「自衛力
の限界」が定まることになる。これでは、実質的に自衛力の限界は存在しないに等しいといえよう。
20/第1編
憲法総論
第2章
憲法の基本原理
⒟
⑷
自衛行動の範囲
「自衛のため必要な最小限度の実力」は、自衛権を行使することができる地域的範囲をどのように考え
るかによっても、当然違ってくる。この範囲について、政府は、日本の領域に限定されるものではなく、
自衛権行使に必要な限度において公海・公空にも及ぶとし、さらに外国からの急迫不正の侵略により日本
が滅亡の危機にある場合において、ほかに自衛の方法がないときには敵基地を攻撃することも許されると
する。
これに対して、武力行使の目的で自衛隊を他国の領域に派遣する「海外派兵」は、「自衛のための必要
最小限度」を超えるものであって、憲法上許されない。
交戦権の否認
9条2項で否認された「交戦権」の意味について、争いがある。
<「交戦権」の意味>
甲説
国際法上、武力行使に訴える権利とされてきた「国家として戦争を行う権利」と解する
説
乙説
武力行使に訴える際、交戦法規により「国家が交戦者として有する権利」と解する説
(通説)
*
4
戦争放棄についての全面放棄説(峻別不能説、遂行不能説)の場合には、甲乙いずれの説を採ることも
可能であるが、限定放棄説の立場からは乙説と結びつかざるをえない。
日米安保体制と憲法9条
⑴
日米安全保障条約
日米安全保障条約は、1952 年、連合国の占領を終結させるサンフランシスコ平和条約が締結された時、
それと同時にアメリカとの間で締結された。その後、防衛力増強の義務を定めた 54 年の MSA 協定を経て、
60 年に新安保条約が締結された。その主要な内容としては、まず第一に、日米の相互防衛の体制を確立し、
一方の当事国への武力攻撃に共同して対処することを約している。ただし、そこでの相互防衛は、日本国の
施政下にある領域における武力行使に対するものに限られている。第二に、アメリカ軍を日本国内に配備す
る権利をアメリカに認めている。
また、1997 年9月に、新しい「日米防衛協力のための指針」(新指針)が策定された。これは、冷戦の
終結により国際情勢が大きく変化する中で 1978 年に策定された「日米防衛協力のための指針」(旧指針)
を見直し、「アジア・太平洋」という広大で曖昧な地域に在日米軍を展開させ、物品役務相互協定(ACSA)
を日本周辺有事の際にも適用して、日本が水や食糧の補給を行うとともに、物資や人の輸送、侵攻時の機雷
掃海、船舶の臨検、情報の提供など後方から全面支援するというものであり、安保条約の実質的な意味転換
を図るものであるといえよう。
99 年に、新指針を受けて、これを具体化した周辺事態法(「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を
確保するための措置に関する法律」)が制定された。同法により、自衛隊は、「後方支援」として物資の補
給などを行うことが可能となった。しかし、「後方」か否かは不明確で、結局は、日本政府が憲法上禁じら
れていると説明している集団的自衛権の行使にあたるのではないかと批判されている。
⑵ 駐留米軍の合憲性
米軍が日本領土に駐留することは、9条の戦力不保持規定に反しないかについて争いがある。
<アドヴァンス>
⒜ 合憲説
イ 非戦力説
(理由)
9条2項の「戦力」とは、日本が指揮・管理権を行使しうる戦力、すなわち、「日本の軍隊」
を指すものであり、外国の軍隊は、それが日本に駐留するとしても、「戦力」にはあたらない。
ロ 暫定措置説
(理由)
9条の平和主義が国連による集団的安全保障の方式を展望し、その完成に至るまでの過渡的な
暫定措置として、外国軍隊の駐留による安全保障の可能性を否認しているとは解されない。
第2節
法の支配/21
ハ
準国連軍説
(理由)
戦力不保持の規定は、日本の権力の及ぶ範囲内に戦力を置かない趣旨であり、したがって、外
国軍隊が日本国内に駐留することは違憲であるが、しかし、それを国連軍に準ずるものとみなし
うるならば、憲法に違反しない。
⒝ 違憲説
(理由)
① 駐留米軍が日本区域外に自由に出動し、日本と直接関係のない武力紛争に巻き込まれるおそれ
のある旧条約を締結した日本政府の行為は、憲法の平和主義に反する疑いがある。
② 日本が自国防衛の目的で米軍の駐留を認めていることは、指揮権の有無、米軍の出動義務の有
無にかかわらず、9条2項の「戦力」にあたる。
⒞ 憲法欠缺説
(理由)
憲法制定当時において、米軍の駐留は全く予想されなかったところであり「憲法欠缺」にあたる
憲法解釈の限界を超えた問題なので、憲法制定権者たる国民にその判断を委ねるべきである。
◆ 砂川事件判決(最大判昭 34.12.16/百選Ⅱ〔169〕)
事案: デモ隊員がアメリカ空軍基地内へ侵入した行為が、日米安保条約に基づく刑事特別法違反に問
われ、日米安保条約の合憲性が争われた事件。
判旨: 戦力とは「わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使しうる戦力をいうものであ
り、結局わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、こ
こにいう戦力には該当しない」とし、また、安保条約は高度の政治性を有するものであって、一
見極めて明白に違憲無効であると認められない限り、司法裁判所の審査には、原則としてなじま
ない性質のものである、と判示した。
* これに対し、第1審判決は、安保条約によって、「わが国が自国と直接関係のない武力紛争の渦中
に巻き込まれる虞があ」るとして、駐留軍が9条2項の戦力に該当して違憲である、と判示した。
⑶ 米軍基地等に対する共同防衛行為
日米安保条約に基づく共同防衛行動は、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する
武力攻撃」に対処してとられる。これに関連して、在日米軍基地が攻撃を受けた場合の共同行動をどのよう
に説明するかが問題となる。
この点について、米国は集団的自衛権の行使と考えるが、日本政府は、「自国と密接な他国が侵略された
場合、自国の侵略と同じく他国まで出かけて防衛する」集団的自衛権は、日本国憲法の下では許されないと
考え、在日米軍基地に対する攻撃は日本領域の侵犯行為であり、日本に対する攻撃にほかならないから、そ
れに対処する行動は日本の個別的自衛権の行使であると説く。
第2節 法の支配
発展
一
法治主義
1 はじめに
定義:司法は独立した裁判所により法律を適用して行われ、行政は法律に基づき法律を適用して行われると
いう原則
→大陸法系の国で発達
→国民の権利・自由の保障を目的にしているという点では法の支配と共通
2 分類
⑴ 本来的意味の法治主義(19 世紀のフランス)
国民の権利を奪い、義務を課す場合には法律上の根拠が必要(法律による行政・裁判)。
→権力分立を前提とする
⑵ 形式的法治主義(第二次世界大戦前のドイツ、日本)
行政権は法律に基づかなければ国民の権利を制限することはできない。
↓
法律によれば国民の権利を自由に制限できる。
発展
22/第1編
第2章
憲法の基本原理
① 法律の内容は問わない
② 行政が法律に適合しているか否かの判断は行政権の一種である行政裁判所が行う
実質的法治主義(現在のドイツ・フランス)
行政権・司法権のみならず立法権も憲法(最高法規)に拘束される。
↓
法律の内容は憲法に違反してはならない(正しいものでなければならない)
→内容の適正は裁判所が判断する
⑶
3
憲法総論
法律の留保
⑴ 本来的意味
行政権は国民代表議会の立法権に基づく法律に基づかなければ国民の権利を制限することはできない。
⑵ 形式的意味
立法権は、法律によりさえすれば国民の権利・自由を制限することができる。
二
法の支配
1
はじめに
定義:主権者もそのあらゆる機関も、原理に従って行動すべく、専断的恣意によって行動しては
ならないこと、すなわち理性に従うべく、恣意に従ってはならないとする原理。
→正しい法(正義の法)に基づく支配(法の内容を問題にする)
→国民の権利、自由を保障することが目的
→英米法系(イギリス、アメリカ)の国々で発達
法の支配=理性による支配
2
反対概念:人の支配=恣意による支配
法の支配の内容
⑴
個人の人権保障
法の支配を採用した目的が国家権力の権限濫用から国民を守り、個人の尊厳を確保すること
にあるから。
⑵ 憲法の最高法規性の承認(憲法は行政権のみならず立法権をも拘束する)。
仮に憲法に優先する法が認められるならば憲法による支配を行うことができないから。
⑶
手続の適正を要求する(適正手続=due process of law)。
⑷
裁判所の役割の重視(最高法規性の担保)。
→行政が法律に従っているか否かを裁判所がチェック(イギリス、アメリカ)
→議会が正しい法(憲法)に従っているか否か
3
①
議会自らがチェック→イギリス
②
裁判所がチェック→アメリカ(法の支配をより徹底している)
日本国憲法における法の支配のあらわれ
「正しい法=憲法」よって「法の支配=憲法による支配」
⑴
第3章
国政における人権の尊重とその強度の保障は、「法の支配」の核心である。
発展
第2節
⒜
法の支配/23
国家権力の行使を抑制する機能を持つ個人の自由権を中心におく人権規定の構造は、自由
主義を前提とした「法の支配」の理念の存在を示す。
⒝
⑵
人権保障規定は、「法律の留保」を認めず、また立法権をも拘束する(13)。
81 条・第 10 章
⒜
81 条
法の支配の最も徹底した表現、アメリカ判例法の明文化。
⒝
97 条
「法の支配」の核心。
→人権保障(基本的人権の永久性・不可侵性)の確認
→実質的最高法規性。個人の権利と自由が公権力により侵害されたときには憲法の基礎が
崩壊することを示す
⒞
98 条1項
形式的最高法規性。
→現行憲法が実質的最高法規であること(97)によって根拠づけられる。憲法に反するす
べての国家行為を無効とし、権力作用がすべて憲法に従うべきことを示す
→法優位の思想を基礎とする
⒟
99 条
「法の支配」の理念の1つ。
→国家権力の行使者が憲法に従うべき義務をもつこと
→法の支配の名宛人は、権力行使者=統治者であることを示す
⑶
31 条
⒜
規制が適正な手続の下に行われること、特に司法手続としての刑事手続が適正であること
(現代においては行政手続にも適正手続の保障が及ぼされるべきである)。
⒝
⑷
法の規制の実体が適正であるという法の内容の適正も憲法上の要請となる。
第6章
⒜
司法権は、民事・刑事の裁判の他、行政事件を含むあらゆる種類の法律上の争訟を裁判す
る権限をもつ(76Ⅰ・裁3)。
⒝
特別裁判所の禁止、行政機関による終審裁判の禁止(76Ⅱ)。
⒞
裁判所の規則制定権(77)、裁判官の懲戒処分に立法・行政機関が関与しない(78)。下
級裁判所裁判官の指名権(80)。
⒟
司法権の独立(76Ⅲ)
⒠
違憲法令審査についての最高裁判所の終審の保障(81)
24/第1編
発展
三
憲法総論
第2章
憲法の基本原理
「法の支配」と「法治主義」
1 「法の支配」と「法治主義」
<法治主義とその限界>
「法治主義」 本来、国民の権利・自由の保障を目的とする
自由主義
法律による行政と法律による裁判
国民主権(民主主義)
しかし、形式化の危険を内包していた
↓すなわち
法律によって国民の権利・自由を制限する危険性をもつ
(原因)
① 法律の内容の適正について議会が自ら判断した。
② 民主主義の未成熟。
→議会は必ずしも国民の意思を正しく反映するものではなかった
↓これに対して
法の支配 ① 立法権も最高法規としての憲法に拘束される。
② 法の内容の適正が要求される。
③ 内容の適正については裁判所が判断。
*
2
実質的法治主義は法の支配(現在の日本)と裁判所の位置付けが違うだけである。
→法の支配においては憲法適合性を通常の司法裁判所が判断し、実質的法治主義においては司法裁判所
以外の特別裁判所(憲法裁判所等)が判断する
憲法適合性の判断権者
① 議会中心主義の国々→議会が判断
② アメリカ他現在の多くの国々→裁判所が判断
最高法規たる憲法の担い手が裁判所に移ってきた。
↓
裁判所において憲法違反を主張して争えるようになってきた。
↓
憲法が裁判所における裁判の基準(規範)になる。
↓すなわち
憲法は「裁判規範性」を原則として持つようになった。
<憲法適合性の判断権者は、国によって異なる>
法律の
憲法適合性を
問題にするか
問題にしない
問題にする
議会が判断
裁判所以外の機関が判断
司法裁判所
近代のフランス・ドイツ
(形式的法治主義)
イギリス
現在のフランス
アメリカ・日本
←私権保障型
裁判所が判断
憲法裁判所
(特別裁判所)
現在のドイツ・
オーストリア・
イタリア
←憲法保障型
第1編
憲法総論
第3章
憲法の持続と変動/25
<法治主義と法の支配は、大陸法系と英米法系においてどのように異なるか>
大陸法系(仏、独)
イギリス
アメリカ
社会的背景
議会への信頼
裁判所への不信
議会への信頼
裁判所への不信
議会への不信
裁判所への不信
近代において
法は誰を拘束するか
行政権・司法権を拘束
(議会を拘束しない)
↓
法の内容の適正は不問
↓
形式的法治主義
行政権のみならず
議会も拘束
↓
法の内容の適正を要求
↓
法の支配
行政権のみならず
議会も拘束
↓
法の内容の適正を要求
↓
法の支配
行政権に対しては
→裁判所
立法権に対しては
→議会自身
↓
法の支配という点では
やや不徹底
行政権に対しては
→裁判所
立法権に対しても
→裁判所
↓
違憲法令審査権
(法の支配の徹底)
現代において
法の適正性を
誰が判断するのか
第3章
仏-憲法院
独-憲法裁判所
憲法の持続と変動
第1節 憲法の変動
第1款
憲法の変動総説
憲法は、社会的状況や価値観の変化の中で自己の規範性・安定性を維持していくとともに可
変・適応性も必要となる。そして、憲法の規定は基本的・抽象的で、複数の意味に理解できるの
が普通であるから、その範囲内で、変化した社会により適合的な意味へと解釈が変更されるのが
通常の場合である。しかし、その範囲内での解釈の変更では状況の変化に対応できない社会変動
が発生した場合に、規定そのものの改正が必要となる。
第2款
一
憲法改正
はじめに
憲法改正とは、憲法所定の手続に従い、憲法典中の個別的条項につき、削除・修正・追加を行う
ことにより、または、新たなる条項を加えて憲法典を増補することにより、意識的・形式的に憲
法の改変をなすことをいう。
発展
26/第1編
発展
1
憲法総論
第3章
憲法の持続と変動
改正の手続
憲法改正について定める 96 条は、①「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」による国会の発議・提案と、
②「特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票」における国民の過半数の賛成による「承認」と
を要求し、最後に③天皇によって「国民の名で、この憲法と一体を成すものとして」直ちに「公布」されるも
のとしている。この規定を受けて、2007 年に、日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)が制定され、
2010 年5月 18 日に施行された。以下、国民投票法に則った手続について解説する。
⑴ 国会による発議
国会による発議とは、憲法改正案が国会において議決されることを意味し、改正案の提出・審議・可決
という過程を経る。
⒜ 発案
発案(憲法改正案の提出)権が両議院の議員にあることには争いはないが、内閣にも発案権があるかに
ついては、憲法上明文規定がないため、争いがある。
<アドヴァンス>
イ 内閣の法案提出権を否定し、ましてや憲法改正発案権は否定するという立場
(理由)
内閣は、法律案についても発案権を有しない以上、憲法改正発案権も有しない。
ロ 内閣の法案提出権は肯定するが、憲法改正発案権は否定する立場
(理由)
憲法改正は法律と異なり、国民投票が予定されている以上、その発案権も国民に直結する国会議
員に留保されていると解すべきである。
ハ 内閣の法案提出権を肯定し、憲法改正発案権も肯定する立場
(理由)
① 発議それ自体は、両議院の議決による国会の意思の決定であり、発案権は国会議員に限るとい
うことを当然に意味するものではない。
② 内閣に発案権を認めても、国会の自主的審議権が害されるわけではない。
⒝ 審議・議決
審議の方法については、憲法自身は特に定めておらず、特別の法律もないから、法律案の審議に準ずる
と考えてよい。
改正の議決には「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」が必要である。衆議院の優越は認められてい
ない。
ここで、「総議員」の意味について争いがある。
<アドヴァンス>
イ 法定の議員数と解する説
(批判)
欠員数だけの議員が常に反対投票をしたのと同じように扱われることとなり妥当でない。
ロ 議員定数から欠員を差し引いた現に在職する議員の総数と解する説
* なお、議決にあたっての定足数は、論理的に三分の二以上でなければならないが、それ以前の単なる
審議の場合についての定足数については争いがある。
<アドヴァンス>
イ 議決と同じく三分の二以上とする説
(理由) 議事の重大性を考慮すべきである。
ロ 一般の議事の場合(三分の一以上)と同様でよいとする説
⑵ 国民による承認
国民の承認は「特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票」によって行われるが、後者の場
合は、事の性質上全国的規模で行われる選挙(衆議院議員総選挙または参議院議員通常選挙)でなければな
らない。 cf.最高裁判所裁判官の国民審査(79Ⅱ)
また、憲法改正が成立するためには「その過半数の賛成を必要とする」が、過半数の基準をいかに解する
か争いがあった。有権者総数を基準とする説、投票総数を基準とする説、有効投票総数を基準とする説が対
立していたが、平成 19 年5月 14 日に成立した「日本国憲法の改正手続に関する法律案」においては、有効
投票総数を基準とする説が採用されている。すなわち、賛成の投票の数が投票総数(憲法改正案に対する賛
成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数)の過半数と定められている。この理由は、書きそこないそ
の他の理由による無効投票を全て反対投票に数えるのは不合理であることによる。
第1節
⑶
2
二
憲法の変動
第2款
憲法改正/27
なお、同法によれば、18 歳以上の全国民に投票権が与えられている。
公布
天皇が「国民の名で」公布するとは、憲法改正が主権の存する国民の意思によることを明らかにする趣旨
である。
形式的効力
成立した憲法改正は、日本国憲法と一体を成すものとなり、最高法規となる。
憲法改正の限界
<問題の所在>
憲法改正の手続に従えば、いかなる内容の改正を行うことも法的に許されるか。憲法改正に法理
論的に限界があるかが問題となる。
なお、改正手続に従いさえすれば、事実上いかなる内容の改正もできるが、それは政治的問題で
あり、ここでの問題ではない。
<考え方のすじ道>
民主主義に基づく憲法は、国民の憲法制定権力によって制定される
↓そして
憲法改正権は、かかる制憲権が憲法典の中に取り込まれ、制度化されたもの
↓とすれば
改正権が自己の存立の基盤である制憲権の所在(国民主権)を変更することは理論的に許され
ないというべき
↓また
近代立憲主義憲法は、人権保障という自然権に由来する思想を成文化したものであり、このよ
うな自由の原理は、民主の原理たる国民主権と不可分に結び合っている
↓したがって
改正権が、そのような憲法の中の「根本規範」というべき人権宣言の基本原則を改変すること
は理論的に許されないというべき
<アドヴァンス>
1
⑴
無限界説
法実証主義的無限界説(美濃部)
法規は規律する社会の事情を基礎として存在するものである以上、社会的な事情の変動に
より、法規が変更されるのは当然であると捉える。憲法の価値的序列を認めず、自然法的な
規範も他の憲法規範と同列になるため、すべての規定が改正の対象になる。また、たとえ改
正禁止条項があったとしても、それ自体を改めることができるとする。
⑵
主権全能論的無限界説
改正権を全能の制憲権と同視する立場であり、改正権は、憲法の外に存在し実定法的拘束
を受けない制憲権と同じであるから、何らの制約を受けることはないとする。
発展
28/第1編
憲法総論
第3章
憲法の持続と変動
その学説の一つは、制憲権は始源的であり無制約であるが、制度化された制憲権である改
正権はそれとは異なり、憲法の定める手続に従わなければならないとする。すなわち、改正
権は実質上は制憲権、形式上は憲法によって作られた権力であると捉え、改正手続を遵守す
る限り改正の対象は無制限であるとする。
2
限界説(通説)
⑴
法理論的・憲法内在的限界説
改正権は憲法によって作られた権力なので、制憲権の所在(主権規定)やその所産たる基
本原理の変更はできないとする立場。
⑵
自然法的限界説
制憲権も改正権も自然法の下にあり、その拘束を受けるとする立場。
*1
芦部先生は、限界説に立つが、⑴⑵のいずれかに割り切れるわけではない。たとえば、制
度化された制憲権たる改正権は自己の存立の基盤というべき制憲権の所在、すなわち、制憲
権が憲法内化された国民主権原理を変更することは、理論的には不可能であるとする。他方
で、人権宣言の基本原則については、近代立憲主義憲法が自然権に由来する思想を成文化し
たものであり、かかる自由の原理は、民主の原理たる国民主権と不可分に結び合っている以
上、改変することは理論的に許されないとする。
*2
限界説に立った場合、日本国憲法の改正の限界は具体的には何かが問題となる。まず、憲
法制定権力の所在を示す国民主権、およびそれと密接にかかわる人権尊重主義ならびに平和
主義の諸原理があげられる。さらにこれらの諸原理に加えて、憲法改正規定があげられる。
それは憲法制定権力が、自ら創設した憲法典を持続させるために設けた規定であり、憲法改
正権を拘束すると考えられ、少なくともその実質を変更することは、改正の限界であり、許
されないと一般に解されている。
第3款
一
憲法の変遷
はじめに
憲法の変遷とは、一般には、憲法の定める憲法改正の手続を経ることなしに、憲法を改正したの
と同じ効果が生じることをいう。
二
「憲法の変遷」概念
⑴
社会学的意味での憲法変遷
憲法正文の規範内容と現実の憲法状態との間に「ずれ」が生じていることを客観的事実とし
て記述する言葉。
⑵
解釈学的意味での憲法変遷
憲法正文の規範内容と現実の憲法状態との間の「ずれ」を前提とした上で元の規範内容に代
わって新しい憲法規範が成立していることを指す言葉。
第2節
発展
三
憲法保障/29
解釈学的意味での憲法変遷の肯否
社会学的意味での憲法の変遷という現象が存在することについては争いはないが、解釈学的意味での憲法変遷
を認めるかどうかにつき争いがある。
<アドヴァンス>
1 肯定説
一定の要件(継続・反復および国民の同意等)が充たされた場合には、違憲の憲法現実が法的性格を帯
び憲法規範を改廃する効力をもつと解する。
(理由)
ある憲法規範が国民の信頼を失って実際に守られなくなった場合には、それはもはや法とはいえな
い。
(批判)
① 肯定説のうち、実効性が失われた憲法規範はもはや法とはいえないという立場をとると、いかなる
段階で実効性が消滅したと解することができるのか、その時点を適切に捉えることは容易ではない。
② 実効性が大きく傷つけられ、現実に遵守されていなくとも、法として拘束性の要素は消滅しないと
解することは可能であり、将来、国民の意識の変化によって、仮死の状態にあった憲法規定が息を
吹き返すことはありうる。
2 否定説(通説)
(理由)
硬性憲法の下では、憲法改正の国民の意思は、憲法改正手続及びそこでの国民投票によってのみ示
発展
されるべきである。
発展
第2節 憲法保障
一
発展
はじめに
憲法が社会的・政治的変遷の中で自己の規範性を維持していくためには、可変・適応性だけでなく、それと相
対立する要請である安定性が必要となる。そのため、通常は自らの中に持続を確保するための憲法保障のメカニ
ズムを組み込んでいる。
きょうせい
定義:国の最高法規である、憲法の内包する規範、価値に対する侵害を事前に予防し、又は事後に 匡 正 する
こと、あるいはそのための装置。
目的:人権保障。
<憲法保障の全体構造>
最高法規性(98Ⅰ)、憲法尊重擁護
宣言的保障
義務(99)、人権の普遍性、永久性
(11・97)
事前的保障
手続的保障
硬性憲法・厳重な改正手続(96)
(予防的保障)
権力分立(41・65・76Ⅰ)、議院内
憲法内在的保障
機構的保障
(正規的保障)
閣制(66Ⅲなど)、二院制(42)、
地方自治制(第8章)
事後的保障
機構的保障
違憲立法審査権(81)
(匡正的保障)
超憲法的保障
(非常手段的保障)
抵抗権、国家緊急権
30/第1編
二
三
憲法総論
第3章
憲法の持続と変動
抵抗権
1 意義
抵抗権とは、国家権力が人間の尊厳を侵す重大な不法を行った場合に、国民が自らの権利・自由を守り人間
の尊厳を確保するため、ほかに合法的な救済手段が不可能となったとき、実定法上の義務を拒否する抵抗行為
をいう。
2
抵抗権の歴史
抵抗権の考えは古くからあり、人権思想の発達に大きな役割を果たしたが、それが実際に重要な意味をもっ
たのは近代市民革命の時代であった。すなわち、自然法の思想と結び合って、抵抗権が若干の人権宣言の中に
もうたわれた。例えば、「人民が政府を改廃して新たな政府を組織する権利」の存在を宣言したアメリカの独
立宣言や、「圧制への抵抗」の権利を承認したフランス人権宣言(1789・1793 年)を挙げることができる。
その後、近代立憲主義の進展とともに、憲法保障制度が整備され、抵抗権は人権宣言から姿を消してしまう。
しかし、第二次世界大戦時におけるファシズムの苦い体験を経て、戦後、抵抗権思想が復活し、それを再び
人権宣言の中に規定する憲法も現れるようになった(ドイツなど)。
3
抵抗権の根拠
抵抗権の根拠を何に求めるかは争いがある。
<アドヴァンス>
⑴ 「自然権」を基礎とする立憲民主主義憲法に内在するところの、実定法上の権利とする説
⑵ 自然法にその根拠を求める説
⒜ 実定憲法上の規定の有無にかかわりなく保障される権利であるとする説
⒝ 抵抗権は実定法上の義務をそれ以外の何らかの義務を根拠にして否認することが正当とされる権利
(つまり実定法を破る権利)であって、ゆえに抵抗権を実定法上の権利とすることは論理矛盾であると
する説
⑶ 「歴史の発展法則」に抵抗権の存在根拠と発動基準を求める史的唯物論の立場からの説
国家緊急権
1 意義
国家緊急権とは、戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害など、平時の統治機構をもっては対処できない非常
事態において、国家の存立を維持するために、国家権力が、立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置をとる
権限をいう。
2
国家緊急権の問題点
この国家緊急権は、一方では、国家存亡の際に憲法の保持を図るものであるから、憲法保障の一形態といえ
るが、他方では、立憲的な憲法秩序を一時的にせよ停止し、執行権への権力の集中と強化を図って危機を乗り
切ろうとするものであるから、立憲主義を破壊する大きな危険性をもっている。
そこで、19 世紀から 20 世紀にかけての西欧諸国では、非常事態に対する措置をとる例外的権力を実定化し、
その行使の要件等を予め決めておく憲法も現れるようになった。それには、①緊急権発動の条件・手続・効果
などについて詳細に定めておく方式と、②その大綱を定めるにとどめ、特定の国家機関(ex.大統領)に包
括的な権限を授与する方式の2つがある。しかし、危険を最小限度に抑えるような法制化は極めて困難であり、
2つの方式はいずれも、多くの問題点と危険性をはらんでいる。特に②は、濫用の危険が大きい(ex.ワイ
マール憲法 48 条の定める大統領の非常措置権)。
3 わが国における国家緊急権
わが国では、明治憲法は緊急権に関する若干の規定を設けていたが(8条の緊急命令の権、14 条の戒厳宣告
の権、31 条の非常大権など)、日本国憲法には、国家緊急権の規定はない。
第1編
四
憲法総論
第4章
日本国憲法の成立過程/31
事後的救済としての違憲審査制と憲法保障
西欧型の立憲主義憲法において、憲法保障制度として最も重要な役割を果たしているのが、違憲審査制である。
かつてヨーロッパ大陸諸国では、裁判所による違憲審査制は民主主義ないし権力分立原理に反すると考えられ、
制度化されなかったが、第二次世界大戦中に経験した独裁制に対する深刻な反省から、人権は法律からも保障さ
れなければならないと考えられるようになり、戦後の新しい憲法によって広く違憲審査制が導入されるに至った
のである。
①
<違憲審査制には2つのタイプがある>
個人の人権保障が目的 ← アメリカ、日本はこれが中心
違憲審査制(81)
②
憲法保障が目的(憲法自体を守ること) ← ドイツ、オーストリア
等大陸系の国々では
①を中心に考える立場→私権保障型の違憲審査権
これが中心
②を中心に考える立場→憲法保障型の違憲審査権
ただし、現代はこの2つの立場が接近しつつある。
→合一化の傾向にある
日本国憲法でも 81 条を憲法保障の手段の一つと考える(ただし補充的に)。
第4章
発展
日本国憲法の成立過程
第1節 日本国憲法の制定
一
日本国憲法の制定
1 ポツダム宣言の受諾と日本占領統治の開始
1945.8.14 ポツダム宣言(軍国主義の除去、平和的傾向を有する政府の樹立、基本的人権の尊重、国民主
権の確立を目的)の受諾
8.30 連合国最高司令官ダグラス・マッカーサーが厚木に到着して総司令部(GHQ)を設置し、日
本に対する占領統治を開始
2
日本政府および国民の憲法改正の動向
10.4 マッカーサーが憲法改正を示唆
10.9 幣原内閣成立
1946.1.9 松本私案
① 天皇主権
② 議会の権限拡大と大権事項の削減
③ 国務大臣は国務全般について議会に対して責任
④ 自由および権利の保護の拡大
3
総司令部の態度とマッカーサー草案の起草
2.1 総司令部は自ら改正案を作成することを決定
2.2 マッカーサー三原則 ① 天皇は、国家の元首
皇位は世襲
天皇の職務及び権能は、憲法に基づき行使され、憲法に表明された
国民の基本的意思に応える
② 戦争廃棄
軍備撤廃
③ 華族制度の廃止
予算の型はイギリス型
2.13 マッカーサー草案を日本側に示す
発展
32/第1編
4
5
憲法総論
第4章
日本国憲法の成立過程
マッカーサー草案に基づく日本政府案の作成と議会審議
1946.3.6 マッカーサー草案に基づく憲法改正草案要綱公表
4.17 憲法改正草案公表
6.20 明治憲法 73 条の憲法改正手続に従って、憲法改正案を衆議院に提出
10.7 帝国議会の審議完了
11.3 公布
1947.5.3 施行
主権者の変更と憲法改正権の限界
1条は「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の
総意に基く」としている。一方、日本国憲法の上諭は「帝国憲法第 73 条による帝国議会の議決を経た帝国憲
法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる」としている。この改正は君主主権の憲法を国民主権の憲法に
変革するものであり、改正の限界を超えると考えられる(憲法改正限界説)。そこで、この主権者の変更とい
う事態を法理論的にどのように説明するのかが問題となる。
⑴ 憲法改正限界説
⒜ 無効説
明治憲法73条の憲法改正という形式をとる日本国憲法は、明治憲法の根本建前である天皇主権主義を否
定して国民主権主義を採用しているが、これは改正の限界を超えるもので許されない。したがって、日本
国憲法には正当性の根拠がない。
⒝ 有効説
イ 八月革命説(宮沢)
国民主権主義を採ることを要求しているポツダム宣言を受諾した段階で、明治憲法の天皇主権は否定
されるとともに国民主権が成立し、日本の政治体制の根本原理となった。
→ポツダム宣言の受諾によって法的に一種の革命があったと考えて、日本国憲法が明治憲法の改正と
いう形式で明治憲法が容認しない国民主権主義を定めたことの正当性を基礎づける
→明治憲法 73 条による改正という手続を採ったのは、明治憲法との形式的連続性を持たせることが
実際上便宜的であったことによる(秩序と平穏のうちに革命行為をなしとげるために明治憲法 73
条が便宜上借用された)
ロ 新憲法制定説(佐藤)
ポツダム宣言受諾により、日本は同宣言の内容を履行すべき法的義務を課された。そして、受諾後も
明治憲法秩序は存続しているため、天皇は同宣言を履行する趣旨から憲法所定の手続に従って改正案を
帝国議会に提出したのである。その内容は改正の限界を超えるものであったが、審議過程で日本国憲法
を制定するという主権者たる国民の意思が議会を通じて現れたと考える。
→この見解も一定の政治的配慮から明治憲法所定の手続の形式を借用したと考える
⑵ 憲法改正無限界説
⒜ 有効説(佐々木)
憲法の改正には法的な限界は存在しない。したがって、天皇主権から国民主権へと主権の所在を変更す
る改正も許される。明治憲法73条の改正として制定された日本国憲法は明治憲法との法的連続性がある。
⒝ 無効説
イ 押しつけ憲法論
占領軍の威力を背景にマッカーサー元帥によって強要された日本国憲法は、憲法の自律性を認める国
際法にも違反し、国民の自由な意思の発動ではなく、無効または占領終結により失効されるべきである。
(批判)
当時の政府の指導者には総司令部の態度が単なる警告以上のものとして映ったことは推測されるも
のの、そうしたことも含めて諸事情を考慮し、日本政府の決断がなされたと解すべき。
ロ ハーグ陸戦法規 43 条違反論
日本国憲法の制定は、外国軍の占領下になされたものであり、占領軍の被占領国の法令の尊重を定め
るハーグ陸戦法規 43 条に違反し、無効である。
(批判)
① ハーグ陸戦法規は戦時占領の際のものであるから、ポツダム宣言の受諾により休戦条約が成立し
ている以上、適用されない。
第1節
日本国憲法の制定/33
②
日本国憲法はわが国自身によって制定されたのだから、陸戦法規違反を理由に憲法の無効を帰結
するのは無理である。
<現憲法制定行為の有効説・無効説の論拠>
無効説
法的連続性否定説
(憲法改正限界説が背景)
八月革命説
有効説
新憲法制定説
有効説
法的連続性肯定説
(憲法改正無限界説が背景)
押しつけ憲法論
無効説
ハーグ陸戦法規 43 条違反論
二
日本国憲法の正当性
国民が憲法を制定したといえるのか。
→肯定できる
(理由)
① 男女平等の普通選挙によって選出された特別の議会で制定された。
② 現在も日本国民がこれを受け入れている。
三 日本国憲法の展開
1 占領と憲法
日本国憲法は、連合国軍の占領下で、しかも、最高司令官のイニシアチブに基づいて制定された。そして、
憲法施行後も、1952 年4月 27 日まで占領状態は継続した。占領にあたって、占領軍総司令部は原則としてい
わゆる間接統治の方式を採用し、日本政府を通じて占領政策を実施した。
そのため、日本政府は、総司令部の指示に基づいてポツダム緊急勅令 542 号を発し、占領軍の指示を具体化
する命令を制定するという形をとった。その結果、占領中には、日本国憲法の下での法体系とは別に、管理法
令の体系が二元的に存在することになり、連合国最高司令官の発する命令に基づいて制定された法令が憲法に
抵触する場合、当該法令を無効と解すべきか否かが争いとなった。
この点について、①そもそも、緊急勅令は「公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要」があ
る場合のみ発することができるのであって(明憲8)、ポツダム緊急勅令が規定するような将来的必要は、本
来の意味での「緊急ノ必要」と解することはできないこと、②ポツダム緊急勅令のような、無制限の罰則を含
む広汎な一般的委任は立法権を侵害するものであることを理由に、違憲無効であるとの主張や、ポツダム緊急
勅令は新・旧両憲法に抵触するものであり、したがって、当該緊急勅令に基づく命令もまた違憲の疑いが濃厚
であるとした上で、しかし、これらの管理法令は超法規的効力を有するとする考え方が対立した。
2
平和条約の締結と日米安保体制
1951 年9月8日、サンフランシスコにおいて対日平和条約が調印され、52 年4月 28 日発効した。これによ
り、占領体制が解かれ、日本国の主権は回復し、その結果、憲法は国家の最高法規としての地位を確立するに
至った。
対日平和条約と同時に、日本が米国との間に「安全保障条約」を締結し、米国占領軍はそのまま日本国内に
駐留することになったことが、憲法の平和主義との関係で特に問題となる。安保条約は 1960 年に全面改定さ
れ、旧条約の片務的なものが双務的なものへと改められたにも拘わらず、日本国の主権に対して事実上制約を
加え、憲法の平和主義の実現を妨げる大きな要因となっている。
34/第1編
3
憲法総論
第4章
日本国憲法の成立過程
憲法調査会の活動と改憲問題
連合国最高司令官のイニシアチブに基づいて制定された日本国憲法について、いわゆる「占領憲法」「押し
つけ憲法」論が強く唱えられ、憲法改正の風潮が高まった。政府は、1956 年に憲法調査会を設置し、1964 年
に最終報告書を内閣に提出した。
近時、衆参両院に憲法調査会が置かれ、2005 年4月に報告書を衆参議長に提出した。もっとも、同報告書は
統一した結論が報告されているわけではなく、ほとんどの論点で各種意見が併記されたにとどまる。
第2節 日本国憲法の構造
一
日本国憲法の構成
日本国憲法は、前文と本文 11 章 103 ヵ条からなる成文法典である。
本文の章別の配列は、第二章に「戦争の放棄」が加えられたほか、第一章「天皇」から第七章「財
政」まで、名称に若干の異同はあるものの、明治憲法と全く同じである。第八章「地方自治」と第
十章「最高法規」は、明治憲法にはなく、日本国憲法で新たに置かれたものである。また第九章
「改正」は、明治憲法第七章補則中の改正規定(明憲 73)を独立の章として起こしたものである。
このような構成は、日本国憲法が明治憲法の「改正」として、明治憲法との継続性に配慮しつつ
作成されたところから、明治憲法の編別が基本的に踏襲されたことによるものである。
二
上諭
憲法の一部を構成するものではない。
三
前文
1
憲法制定の目的(前文1段1文)
①
国民主権(狭義の民主主義)
②
自由の確保(人権保障)
③
平和主義
広義の民主主義(国民主権)
人類普遍の原理。
→自然法思想の現われ
憲法よりも上位の規範の存在を認めている
(前文1段3文)。
*
2
人権保障、平和主義を目的としないものは民主主義(国民主権)とはいえない。
国民の信託による国政(前文1段2文)
→ジョン・ロックの思想の影響
第2節
3
日本国憲法の構造/35
前文の法規範性
前文も法規範性あり
→前文は「日本国憲法」という法典の一部をなし、その改変は、憲法改正手続(96)によらなけ
ればならない
→前文も憲法の一部として 98 条で最高法規となる(通説)
・ 法規範性肯定説(通説)
(理由)
①
日本国憲法の前文は「日本国憲法」という題名の後におかれ、憲法制定の由来・目的
および憲法の基本原理・理想に関して述べるかなり詳細なものである。
②
前文には憲法の憲法というべき根本規範が謳われており、また憲法制定権力の所在が
示されていることから、前文の改正は憲法の改正の限界という問題に結びつく。
4
前文の裁判規範性
<問題の所在>
前文には裁判規範性があるのであろうか。例えば前文2段3文にある「平和のうちに生存す
る権利」を直接の根拠として裁判で争うことはできるのであろうか。
<考え方のすじ道>
↓そもそも
前文の内容は、国民主権・基本的人権・平和主義など、抽象的な原理ないし理念であって、
裁判規範と為しうるほどの具体性を欠いている
↓よって
前文には裁判規範性はない
↓したがって
「平和のうちに生存する権利」を直接の根拠として裁判で争うことはできない
もっとも、裁判規範性否定説に立ったとしても、前文の趣旨を各条文の解釈の中に及ぼして
いくことはできる(各条文解釈の指針)
<アドヴァンス>
⑴
裁判規範性否定説(伊藤)
前文は直接裁判規範となりえず、法律などの違憲性の主張は直接には本文各条項に違反す
るとして主張されるべきである。
(理由)
①
前文の内容は、国民主権・基本的人権・平和主義など、抽象的な原理ないし理念であ
って、具体性を欠いている。
②
一般に、すべての法規が裁判規範であるとは限らない。特に憲法はその性質上裁判規
範でない規定(統治組織に関する規定など)を含んでいる。
36/第1編
憲法総論
③
第4章
日本国憲法の成立過程
前文は憲法構造における最高位の規範であり、その内容は本文各条項に具体化される。
これによれば、裁判規範となるのは本文各条項であって、前文ではない。本文各条項の
意味内容が問題となったときにのみ前文が解釈指針として用いられる。
④
憲法本文各条項に欠缺がある場合には前文が直接適用されることは理論的には存在す
る。しかし、具体的に本文各条項に欠缺があるとは考えられない。
⑵
裁判規範性肯定説
前文に裁判規範性はある。ただし、前文が適用されるのは、本文各条に適用すべき条文が
ない場合である。
(理由)
①
前文の抽象性と本文の具体性の差異は相対的であり、このことから前文の裁判規範性
を一般的に否定することはできない。
②
憲法の場合、裁判規範でないものが多いが、そのことだけで前文の裁判規範性を否定
することにはならない。
③
前文は最高位の規範であるからといって、そのことが前文の裁判規範性を否定する理
由とはならない。
④
否定説は本文各条項に欠缺がないというが、例えば平和のうちに生存する権利は本文
第3章に規定のない基本的人権であるというべきであり、この権利を侵害する法律や行
為に対して直接この前文の規定を適用して違憲と判断されるべきである。
◆
肯定例(長沼事件第1審判決/札幌地判昭 48.9.7/百選Ⅱ〔171〕)
事案:
航空自衛隊のナイキ基地建設のために農林大臣が国有林の指定を解除したことに対
して地域住民が憲法9条の規定がある以上自衛隊の基地建設には「公益上の理由」
(森林 26Ⅱ)がないとして処分の取消しを求めた。
判旨:
「基本的人権尊重主義・平和主義の実現のために地域住民の『平和のうちに生存す
る権利』すなわち平和的生存権を保護しようとしているものと解するのが妥当であ
る」。
「この、社会において国民一人一人が平和のうちに生存し、かつ、その幸福を追求
することのできる権利をもつことは、さらに、憲法第3章の各条項によって、個別的
な基本的人権の形で具体化され、規定されている」。
*
この判決は、平和的生存権を前文自体に基礎づけるとともに、第3章の各条によっても
具体化されているとして、平和的生存権の裁判規範性を肯定するものである。
◆
否定例(長沼事件第2審判決/札幌高判昭 51.8.5/百選Ⅱ[第5版]〔182〕)
前文「第2項の……理念としての平和の内容については、これを具体的かつ特定的に規定
しているのではなく、……崇高な理念ないし目的としての概念にとどまるのであることは明
らかであって、前文中に定める『平和のうちに生存する権利』も裁判規範として、なんら現
実的、個別的内容をもつものとして具体化されているものではない」。
*
この判決は、平和的生存権の内容は抽象的で、裁判規範として現実的個別的内容をもつ
ものとして具体化されていないとして平和的生存権の裁判規範性を否定した。
第1編
*
憲法総論
第5章
国民主権の原理/37
最判昭 57.9.9/行政法百選Ⅱ〔182〕は、訴えの利益が消滅したとして、上告を棄却し、
前文の裁判規範性については、直接言及していない。
*
その他、百里基地訴訟(⇒「事案」参照 p.80)第1審判決、同第2審判決とも裁判規範
性を否定している。
第5章
国民主権の原理
第1節 国民主権
一
1
2
はじめに
主権の意味
①
国家への主権の集中(最高独立性)というときの主権
②
統治権としての主権
③
国家における主権の所在(国政の最終決定権)というときの主権
最高独立性としての主権
今日では「対外的最高独立性」のことをいうのが一般的である。
ex.「政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、
他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」(前文第3段)
<中世国家から近代国家への変遷>
中世国家
国王
近代国家
教会
権 力 の国家
への集中
大学
個人の人権
領主
自治都市
身分
個人
身分からの解放
・自治都市
・大学
中間団体の否認
・ギルド
*
市民革命
→国家権力を一つに集中させた上で国家作用ごとに分散させた(権力分立)
→国家の主権はあくまでも単一不可分
→今日では、対内的最高独立性は問題にされないのが一般的
38/第1編
3
憲法総論
第5章
国民主権の原理
国家権力そのもの(国家の統治権)としての主権
ex.「日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州、及ビ四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラル
ベシ」
4
国政の最終決定権としての主権
国の政治のあり方を最終的に決定する力または権威という意味であり、これが国民に存すること
を国民主権という。
ex.「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの
子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を
確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、
ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」(前文第1段第1文、
1)
二
国民主権の意味
<問題の所在>
日本国憲法では、国の政治のあり方を最終的に決定する力または権威という意味の主権は国民に存
するが、ここにいう「国民」を全国民と考えるべきか、それとも有権者の総体と考えるべきか。
国民主権の原理において、国の政治のあり方を最終的に決定する権力を国民自身が行使するとい
う権力的契機と、国家の権力行使を正当づける究極的な権威は国民に存するという正当性の契機を
どのように考えるかという点と関連して問題となる。
<考え方のすじ道>
憲法は個人の尊厳を確保するため、政治は国民の自律的意思による政治でなければならず、国政
の最終決定権が国民に属するという国民主権原理を採用した(前文1段、1)
↓この点
主権者たる国民を有権者の全体と捉え、「主権」の本質を憲法制定権力であるとして、有権者と
しての国民が国政のあり方を直接かつ最終的に決定すること(権力的契機)が国民主権であると
する見解もある
↓しかし
それでは、独裁を許す危険があり、また、国民が主権者たる国民とそうでない国民とに二分され、
治者と被治者の自同性に反し、妥当でない
↓そこで
基本的には、主権者たる国民は一切の自然人である国民の総体と捉え、国民主権とは全国民が国
家権力の源泉であり、国家権力の正当性を基礎づける究極の根拠であると解する
↓ただ
憲法改正権の存在(96)等から、国民(有権者)が国の政治の在り方を直接かつ最終的に決定す
るという権力的契機も不可分に結合していると解すべきである(折衷説)
第1節
国民主権/39
↓
以上のように解すると、原則として国民は直接には権利行使をなし得ないから、代表民主制の採
用が必然となり、代表者たる議員は「全て」の国民の代表者となる(43 参照)
<アドヴァンス>
天皇はここにいう「国民」ではないことについては定説である。なぜなら、「国民主権」は天
皇主権に対する抗議概念として生まれ天皇主権を否定するところに意味があるからである。
1
有権者主体説=「国民」を有権者の総体と考える見解
⑴
主権=憲法制定権とすることを根拠とする説(清宮)
主権を憲法制定権(力)、すなわち一定の資格を有する国民(選挙人団)の保持する権力
(権能)とする。したがって、憲法制定権の主体である国民には天皇を含まず、また権能を
行使する能力のない、未成年者も除外されるとする。
*
権力的契機を重視するが、そこから導かれる具体的な制度上の帰結を示してはいない。
(批判)
①
全国民が主権を有する国民と主権を有しない国民とに二分されることになるが、主
権を有しない国民の部分を認めることは民主主義の基本理念に背く。
②
選挙人の資格は法律で定めることとされているため(44)、国会が技術的その他の
理由に基づいて年齢・住所要件・欠格事項等を法律で定めることによって主権を有す
る国民の範囲を決定することとなり、論理的矛盾となる。
③
⑵
代表民主制を国政の原則とする前文の文言と、解釈上必ずしも適合的でない。
フランスの議論を採り入れる説
日本国憲法は、リコール制を認めたと理解しうる 15 条1項や、95 条、96 条1項のように
人民(プープル)主権に適合する規定もあるが、基本的な性格としては、43 条1項や 51 条に
示されているように国民(ナシオン)主権を基礎とする憲法である。
しかし、憲法の歴史を踏まえた将来を展望する解釈が必要であるから、日本国憲法の解釈
は人民(プープル)主権の論理に基づいてなされなければならない。したがって、国民の意
思と代表者の意思を一致させるために、43 条の国民代表の概念や 51 条の議員の免責特権の再
検討が要請される。
*
権力的契機の重視とともに、そこから導かれる具体的な制度上の帰結を示している。
(批判)
上記①から③の批判に加え、フランスの議論は必ずしもすべての国の憲法に法律的意
味においてそのまま妥当する議論ではない、という批判がなされている。
2
全国民主体説
「国民」とは、老若男女の区別や選挙権の有無を問わず、「一切の自然人たる国民の総体」を
いうとする見解。
*
このような国民の総体は、現実に国家機関として活動することは不可能であるから、この
説にいう国民主権は、天皇を除く国民全体が国家権力の源泉であり、国家権力の正当性を基
礎づける究極の根拠だということを観念的に意味することにすぎなくなる。
40/第1編
憲法総論
第5章
国民主権の原理
(批判)
国民に主権が存するということが、建前にすぎなくなり、国民主権と代表制とは不可分に
結びつくが、憲法改正の国民投票(96)のような、直接民主制の制度について説明が困難に
なる。
3
折衷説(2説基調)
「国民」を、有権者(選挙人団)および全国民の両者として理解する見解(芦部)。
*
「国民」=全国民である限りにおいて、主権は権力の正当性の究極の根拠を示す原理であ
るが、同時にその原理には、国民自身(≒有権者の総体)が主権の最終的な行使者(憲法改
正の決定権者)だという権力的契機が不可分の形で結合しているとする。
第2節 天皇制
一
象徴天皇制の成立
1
成立の経緯
ポツダム宣言の受諾により、神権天皇制は否定されたものの、天皇制そのものが廃止されるか否か
は明らかでなかった。連合国内部においても、当時のソ連やオーストラリアのように廃止論を主張す
る国と、アメリカのように改革で足りるとする国との間には意見の食い違いがあったからである。
象徴天皇制は、国民主権原理と矛盾のないかぎりにおいて天皇制を存置せしめようとする総司令部
の意向の下に、天皇制をめぐるさまざまな論議の諸矛盾を止揚するものとして、「マッカーサー草
案」にはじめて登場した。象徴天皇制に対する国民の支持は圧倒的であり、その具体的内容は、日本
国憲法第1章に明定された。
2
象徴天皇制の特徴
明治憲法と比較した場合の象徴天皇制の特徴として以下のものが挙げられる。
⑴
主権者から象徴へ
明治憲法においては、天皇は主権者であり、元首であり、統治権の総攬者であったが、日本
国憲法においては、象徴としての役割を果たすにすぎない。
⑵
神勅主権から国民主権へ
天皇の地位の根拠について、明治憲法においては、天皇はその地位を神のお告げに負うてい
たのに対し、日本国憲法においては、天皇はその地位を国民の総意に負い、天皇の神格は否定
された。
発展
明治憲法においては、天皇は神性をもつ神勅に究極の根拠をもつところから、神聖不可侵であり、生きた
人間でありながら「現人神」として同時に神勅を背負う神であるとされ、天皇は「神聖ニシテ侵スヘカラ
ス」(3条)と規定されていた(神勅主義)。
したがって、天皇の尊厳を侵す行為は、不敬罪(昭和 22 年法 124 号による改正前の旧刑法 74 条)によっ
て重く処罰された。
しかし、戦後は、天皇の「人間宣言」によって天皇の神格性が否定されるとともに、不敬罪も廃止され、
日本国憲法においては、天皇を神の子孫として特別視する態度は採られていない。
第2節
天皇制/41
◆ 最大判昭 23.5.26/百選Ⅱ〔166〕
昭和 20 年某日の事実を不敬罪で起訴された被告人を有罪と認定した上で昭和 21 年 11 月 3 日の憲法公布
に伴う大赦令により免訴の判断を下した原審に対し、最高裁は、不敬罪に該当するか否かの実体判断を回避
し、大赦令により公訴権が消滅したとして上告を棄却した。
⑶
発展
二元主義から一元主義へ
明治憲法下においては、皇室自律主義の下、宮務と国務が分離され、皇室典範と憲法の二元
主義がとられたのに対し、日本国憲法においては、皇室自律主義はもはや認められていない。
⑷
大権から名目的権能へ
明治憲法の天皇は多くの大権(実質的権限)を有したのに対し、日本国憲法では、天皇は憲
法の列挙する国事行為と呼ばれるいくつかの儀礼的行為を行うのみである。
⑸
責任政治の確立
明治憲法においては、一応、大臣助言制がとられていた。しかし、行政権の主体は天皇であ
り、大臣が天皇を拘束しうるかどうかはっきりしていなかった。また、統帥や宮務が大臣助言
制の範囲外におかれていた。したがって、内閣が政治に全責任を負いうる体制にはなっておら
ず、責任の所在がはっきりしない無責任行政の横行を許す原因となった。これに対し、日本国
憲法では、行政権は内閣に属し、天皇の国事行為には内閣の助言と承認が必要とされ、全ての
責任が内閣にあることが明示された。
二
天皇の地位
1
国家・国民統合の象徴
日本国憲法は、1条で天皇の地位について「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴で
あ」ると定める。
⑴
象徴の意味
象徴とは、抽象的・無形的・非感覚的なものを具体的・有形的・感覚的なものによって具象
化する作用ないしはその媒介物を意味する。
およそ、君主制国家では、君主は、本来、象徴としての地位と役割とを与えられてきた。明
治憲法の下でも、天皇は象徴であったということができる。しかし、そこでは、統治権の総攬
者としての地位が前面に出ていたために、象徴としての地位は背後に隠れていたと考えられる。
これに対し、日本国憲法では、統治権の総攬者としての地位が否定され国政に関する権能を
全くもたなくなった結果、象徴としての地位が前面に出てきたのである。したがって、1条の
象徴天皇制の主眼は、天皇が国の象徴たる役割をもつことを強調することにあるというよりも、
むしろ、天皇が国の象徴たる役割以外の役割をもたないことを強調することにあると考えなけ
ればならない。
発展
⑵
象徴に関連する諸問題
天皇の象徴としての地位に関連して、天皇が君主か、あるいは天皇は元首かが問題となる。この問題は、
それぞれ君主・元首の意味をどのように定義するかにかかわる。
42/第1編
憲法総論
第5章
国民主権の原理
<君主の意義>
君主の意義
天皇は君主か
君主制が民主化され君主の権力が名目化された今
日では、世襲制の独任機関であることをもって足
りる
天皇は君主である
世襲制の独任機関であることに加えて、最低限何
らかの統治権が必要
天皇には全く名目的な権力しか認められておら
ず、君主ではない
<元首の意義>
元首の意義
天皇は元首か
元首というためには国家を対外的に代表する実質
的権限が必要である
全く名目的権限しか有しない天皇は元首ではない
名目的権限だけでもよいが、対外的に国家を代表
する地位を完全なものとして有することが必要
大使・公使の信任状を発行する権限などの外交上
重要な権限を、天皇は名目的にも有してないか
ら、天皇は元首ではない
名目的権限だけでもよく、対外的に国家を代表す
る地位を部分的にもつだけでもよい
天皇は大使・公使を接受する権限を名目的には有
しており、天皇は元首たりうる
発展
⑶
天皇と裁判権
天皇の私的行為に対する法的責任に関して、刑事責任については、天皇の象徴としての地位
の特殊性、摂政について在任中刑事訴追を免除している皇室典範 21 条等を理由に、それを否定
するのが通説である。
これに対して、民事責任については特別に免除を認める理由はないと解されている。ただし、
実体法上の責任を負うとしても、象徴としての地位から、民事裁判権は及ばないものとするの
が判例である。
◆
最判平元.11.20/百選Ⅱ〔168〕
事案:
昭和天皇の病気快癒を願う記帳所の設置に関し、その費用相当額を不当利得したとし
て住民訴訟が提起された。
判旨:
「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ、天皇には民
事裁判権が及ばないものと解するのが相当である」。
2
皇位の継承
皇位とは、国家機関としての天皇の地位をいい、その継承とは、それまで天皇の地位にあった人
に代わり、新しい人がその地位につくことである。憲法2条は、皇位の継承につき世襲制をとる
ことだけを定め、詳細は「国会の議決した皇室典範の定めるところ」に委ねた。
第2節
発展
天皇制/43
⑴
皇位継承の諸原則
①皇室典範は、皇位継承の原因を、天皇の死去(崩御)に限定し、生前退位を認めていない。②天皇が崩
じたときは皇嗣すなわち皇位継承の第一順位者が法律上当然に即位(皇典4)、すなわち、何ら手続なしに
天皇の地位につく。③皇位は皇統に属する男系の男子が継承する(同1)。④皇位継承の順序は、皇長子、
皇長孫、その他皇長子の子孫などの順序で詳細に定められている(同2)。
⑵ 皇室制度
皇室とは、天皇を含めた天皇一族の集団、つまり、天皇および皇族を指す。皇族の範囲は、皇室典範5条、
6条が定める。天皇および皇族は養子をすることができず(同9)、また、立后および皇族男子の婚姻は、
発展
皇室会議の議を経ることを要する(同 10)。
三
天皇の権能
1
はじめに
憲法は、機関としての天皇の権限として、「国事に関する行為」を行うことを認めた。
この国事行為につき、憲法は、まず3条で、「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助
言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ」と定め、ついで、4条1項で「天皇は、この憲
法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」と定めた。そして、こ
の両条文の定めた基本原則の下に、6、7条は具体的な国事行為を列挙している。
2
国事行為の性質と内閣の助言・承認
⑴
国事行為の性質
天皇が、国事行為を行うことと、天皇が国政に関する権能を有しないこと(4Ⅰ)との関係
をいかに考えるべきか争いがある。
<国事行為の性質の整理>
発展
内容
A説(宮沢説)
B説(小嶋説)
国事行為はもともとは国政に関連する行為で
あるが、これらの行為には全て内閣の助言と
承認が要求され、この助言と承認には実質的
決定権が含まれるから、結果的に国事行為は
形式的・儀礼的なものとなる
4条は、天皇に単なる「行為」権のみを認
め、「国政に関する権能」を認めていないの
であって、6、7条の国事行為は本来的に形
式的・儀礼的行為にとどまる
①
国事行為の中には、国会の召集や衆議院
の解散など、それ自体としては形式的・儀
礼的なものとはいえないものが含まれてい
る
憲法は国事行為をもともと国政には関しない
ものと考えている
②
もし国事行為が最初から名目的・儀礼的
行為にすぎないのなら、内閣の助言と承認
を必要とするのは無意味なことである
理由
批判
内閣総理大臣の任命については、実質的決定
権は国会にあり、内閣の助言・承認に実質的
決定権が吸収されることはありえない
このように考えるならば、4条により国事行
為の性質が決まり、そのような性質の国事行
為につき内閣の助言と承認が要求されること
になるわけであるから、3条と4条の順序と
して4条が先にくるべきはずである
発展
44/第1編
⑵
⒜
憲法総論
第5章
国民主権の原理
内閣の助言と承認および内閣の責任
内閣の助言と承認
内閣の助言と承認に関しても、上述の争いに関連して争いがある。
発展
<「助言と承認」の整理>
A説(宮沢説)
B説(小嶋説)
「助言と承認」の意
味
「助言と承認」は国事行為の決定権を
含むものとなる
「助言と承認」は国事行為の決定権を
含むものではなく、誰かが決定した国
事行為を前提に、天皇にそれを行うよ
う指示するだけの全く形式的な行為に
すぎない
「助言と承認」は両
方必要か
「助言又は承認」と読むことはできな
いが、天皇の行動が全て内閣の意思に
基づくべきという「助言と承認」の趣
旨が確保されていれば、個別の行為と
して行わなくても、「助言と承認」と
いう1つの行為があるといってよい
憲法が助言と承認という、そもそも形
式的にすぎない行為をあえて要求した
ことからいって、事前の助言と事後の
承認の双方が必要と解すべきである
内閣以外の機関が実
質的権限を有してい
る事項(内閣総理大
臣の任命や国務大臣
の任免)について
も、内閣の助言・承
認は必要か
内閣の助言と承認を必要とするのは、
天皇のなすべき行為について内閣が決
定する余地が少しでもある場合に限る
から、内閣以外の機関が実質的権限を
有している場合は、不要である
もともと助言・承認は、国事行為の実
質的決定権と関係なく、形式的行為と
して要求されているものであるから、
当然、全ての国事行為に必要である
⒝
内閣の責任
3条は、天皇の国事行為につき、「内閣が、その責任を負ふ」と規定する。ここでいう責
任は政治責任である。内閣は国事行為の助言・承認に際して政治的な裁量を行使するので、
その点について責任を負うのである。
発展
3
国事行為の具体的内容
天皇の国事行為は、憲法に列挙されたものに限られる。国事行為は、6条の2つの任命行為、7条の 10 の
行為があり、さらに、4条2項の国事行為を委任する行為もそれに含めれば、憲法上 13 の行為がある。
⑴ 内閣総理大臣の任命(6Ⅰ)
⑵ 最高裁長官の任命(6Ⅱ)
⑶ 憲法改正、法律、政令および条約の公布(7①)
公布とは、すでに成立した法令の内容を国民に知らせることをいい、法令の効力要件である。公布の方法
を定める法律は現在制定されていないが、実際は官報によって行われており、官報による公布があったとさ
れるのは、一般の国民がその官報を見うるに至った最初の時点である、というのが判例(最大判昭 33.10.15
/百選Ⅱ〔209〕)である。
⑷ 国会の召集(7②)
召集とは、一定期日に議員を集会させると同時に会期を開始させる行為をいう。
⑸ 衆議院の解散(7③)
⇒第3編 第3章 第3節 「第3款 衆議院の解散」(p.542)
解散とは、議員の任期が満了する前に議員の身分を終了させることである。
発展
第2節
天皇制/45
⑹
国会議員の総選挙の施行の公示(7④)
ここにいう国会議員の総選挙とは、衆議院の任期満了または解散によって行われる総選挙、および、参議
院議員の通常選挙をいう。
⑺ 国務大臣その他の官吏の任免の認証および全権委任状、大使・公使の信任状の認証(7⑤)
本号の国務大臣には内閣総理大臣は含まれない。ここにいう国務大臣の任免権は内閣総理大臣にある
(68)。天皇はそれを認証するのみである。
官吏とは、公務員の中から地方公務員、国会議員、国会職員を除いたものを指す。「法律の定めるその他
の官吏」の任免の認証の例としては、最高裁判所判事(裁 39Ⅲ)、高等裁判所長官(同 40Ⅱ)、検事総
長・次長検事・検事長(検察庁 15Ⅰ)などがある。
全権委任状とは、特定の条約の締結に関し全権を委任する旨を表示する文書である。大使・公使は外交使
節の階級で、その信任状とはその者を外交使節として派遣する旨を表示する文書である。
<天皇の国事行為>
指名
任命
認証
内閣総理大臣
国会の指名(67)
天皇(6Ⅰ)
―
国務大臣
―
内閣総理大臣(68)
天皇(7⑤)
最高裁判所長官
内閣(6Ⅱ)
天皇(6Ⅱ)
―
最高裁判所裁判官
―
内閣(79Ⅰ)
天皇(7⑤)
下級裁判所裁判官
最高裁判所(80Ⅰ)
内閣(80Ⅰ)
高等裁判所長官のみ
天皇(7⑤)
⑻
恩赦の認証(7⑥)
恩赦とは、行政権が犯罪者の赦免を行うことである。憲法は、この恩赦の種類として、大赦、特赦、減刑、
刑の執行の免除、復権を定める。
⑼ 栄典の授与(7⑦)
栄典とは、その人の名誉を表彰するために与えられる位階や勲章などをいう。
なお、栄典の授与を天皇の国事行為としたことは、天皇以外に栄典の授与を禁止する趣旨ではなく、首相
や知事などが授与する栄典制度を設けることも許される。
⑽ 批准書等の外交文書の認証(7⑧)
批准書とは、署名(調印)された条約を審査し、それを承認してその効力を確定させる国家の最終的意思
表示文書をいう。「法律の定めるその他の外交文書」の例としては、大使・公使の解任状などがある。
⑾ 外国の大使・公使の接受(7⑨)
接受とは、外国の大使・公使を儀礼的に接見するという事実上の行為を意味するものと解される。外国の
外交使節にアグレマン(承認)を与えるがごとき行為は、「外交関係を処理する」内閣の権限(73②)に属
する。
⑿ 儀式を行うこと(7⑩)
「儀式を行う」とは、天皇が儀式を主宰することと解される(通説)。この場合、その儀式は私的ではな
く国家的な性格のものでなければならず、かつ、政教分離の原則(20、89)から宗教的なものであってはな
らないとされる。
4
国事行為の代行
天皇が国事行為を行いえない場合に、他の者が天皇に代わってそれを行う制度として、日本国憲法は摂政と
臨時代行の2種を定めている。
⑴ 臨時代行
4条2項は、「天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる」と
規定する。これに基づき、「国事行為の臨時代行に関する法律」が定められている。
臨時代行は、天皇が海外旅行や病気などで一時的に国事行為を行えない場合に対処するための制度である。
委任は個々の国事行為についてもなされうるし、全ての国事行為につき一時的に包括して行うことも可能で
ある。国事行為を委任すること自体も国事行為であるから、内閣の助言と承認が必要である。
46/第1編
⑵
5
憲法総論
第5章
国民主権の原理
摂政
5条は、「皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為
を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する」と定めている。
摂政は、①天皇が未成年であるとき、および、②天皇が、精神もしくは身体の重患または重大な事故によ
り、国事に関する行為を自らすることができないと皇室会議で判定されたとき(皇典 16)に置かれる、天皇
の法定代行機関である。
摂政は、臨時代行のように天皇の委任によるのではなく、皇室典範の定める原因が生ずることにより当然
に設置される。
国事行為以外の公的行為
天皇は、憲法の定める国事行為を行うほか、当然に私人としての行為(私的行為)を行うことができる。と
ころが、さらに、天皇は、例えば、国会の開会式に参列して「おことば」を述べ、外国元首と親書を交換し、
外国を公式に訪問するなど、純然たる私的行為でもなく、また国事行為にもあてはまらない行為を実際に行っ
ている。そこで、これらの公的な行為を憲法上どう評価するかが問題となる。
<天皇の公的行為>
憲法上許容されると
していかなる根拠に
よるか
「おことば」等の行
為は憲法上禁じられ
ているか
国事行為、私的行為
以外の公的行為を認
めるか
批判
①
A
説
象徴としての地位に
基づく行為として認
める
B
説
公人としての行為と
して認める
C
説
国事行為(「儀式を
行ふ」)にあたる
D
説
国事行為に密接に関
連する行為を準国事
行為として認める
E
説
「習律」となってい
る
F
説
私的行為にあたる
G
説
―
象徴に積極的意味を付与する
ことになる
② 公的行為の範囲が明確でない
認める
③
摂政や天皇の代行は公的行為
を行うことができるか疑問であ
る
公的行為の範囲が明確でない
禁じられていない
(合憲)
「儀式を行ふ」とは天皇が儀式を
主宰することであり不当である
「密接に関連する」の意味が不明
確である
認めない
憲法に反する習律を認める点で問
題
私的行為とみなすと、天皇がこれ
らの行為を自由になしうることに
なり不当である
禁じられている
(違憲)
あまりに非現実的である
発展
第2編
第2編
第1章
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論/47
基本的人権の保障
基本的人権総論
第1節 基本的人権総説
発展
第1款
人権の歴史
一
人権の歴史性
人権は元来、国家に対する不作為請求権(=自由権)であった(=自由を国家権力によって制限されないこ
とを本質とした)。
↓また
国家の意思形成に参画するための参政権も人権に含まれる(国家への自由)。
↓さらに
資本主義の矛盾が露呈した後の現代立憲主義においては、人権保障を実質化するための社会権も人権の中に
含まれる(=国家による自由)。
↓もっとも
現代においても、自由はそもそも他者の干渉を受けずに自己決定を行なう自由であるところに本質をもつ
(=国家からの自由が本質)。
二
人権思想史
1 近代人権宣言の成立
⑴ はじめに
人権宣言は、近代立憲主義的憲法の重要な部分を構成し、基本的人権の尊重は、日本国憲法においても最
も重要な基本原理とされている。基本的人権は、人類の長年にわたる自由獲得の苦闘の中で歴史的に形成さ
れ、人が生まれながらにして有する侵すことのできない権利として理解されるに至ったのである。
⑵ 人権宣言の萌芽
人権の思想は、イギリスにおいて歴史的に最も早く登場した。すなわち、1215 年のマグナ・カルタ、
1628 年の権利請願、1689 年の権利章典は、近代人権宣言の前史において大きな意義を有する。もっとも、
これらの文書において宣言された権利・自由は、イギリス人が歴史的にもっていた権利・自由であって、
「人権」というよりは、「国民権」というべきものであった。このような封建的な国民権が、近代的・個人
主義的な人権へ成長するには、ロック、ルソーなどの説いた自然権の思想及び社会契約の理論による基礎づ
けがなされる必要があったのである。
2
社会権の登場
近代的人権宣言は、自由かつ平等な自律的個人の存在を前提にして、国家からの自由という性質をもった自
由権、特に経済的自由権を中心に構成
→そこでは、レッセ・フェール(自由放任)の原則の下に社会的・経済的領域への国家の介入が排除され、こ
れらは個人の自由に委ねられた。その結果、経済的自由権は、資本主義発展の法的基礎となっていった
↓ところが
産業革命を経て資本主義の高度化・独占化
→資本家と労働者、社会的強者と弱者との間に階級ないし階層の分化が進み、自由権は、すべての人間に等し
く保障されているという建て前にもかかわらず、現実にはもてる者である社会的強者にしか価値を有しなく
なった
↓その後
20 世紀になって制定された各国の憲法は、1918 年のソビエト憲法による社会主義憲法の成立によって大きな
影響を受けながら、社会権の規定によって労働者や社会的弱者の権利を保障
発展
48/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
→その最初の典型は、1919 年に制定されたドイツのワイマール憲法(「経済生活」の章において、「経済生活
の秩序は、すべての者に人間に値する生活を保障することを目的とする正義の原則に適合しなければならな
い」(151)として、生存権の基本的な考え方を明らかにしたほか、団結権、労働力の保護、経営参加権等
各種の社会権を定めている)
* 1918 年ソビエト憲法
世界最初の社会主義憲法である 1918 年の「ロシア社会主義連邦ソビエト共和国憲法」の基本的理念の
基礎となったのは、同年1月の「勤労し搾取されている人民の権利の宣言」である。この権利宣言は「人
間による人間のあらゆる搾取の廃止、階級への社会の分裂の完全な廃絶、搾取者に対する容赦ない抑圧、
社会主義的な社会組織の確立、及びあらゆる国における社会主義の勝利」を基本的任務としている。
西欧民主政国家の人権宣言とソビエト憲法の人権宣言とでは、前者では社会化されたとはいっても、自
由権を中心とする伝統的な人権が基本とされているのに対し、後者では社会権、特に労働権が基本となっ
ている点で異なる。
3 人権の国際的保障
⑴ 人権思想の進展にともない、人権を国内的に保障するだけでなく、国際法的にも保障しようとする傾向が
強まってきた。とりわけ、第二次世界大戦におけるナチズムやファシズムの残虐な戦争による人権侵害を経
て、国際平和への動きとともに人権の国際的保障の試みが活発化した。その最初の代表的な試みが、1948 年
の世界人権宣言である。その後、1966 年に国際連合総会で国際人権規約が採択され、日本も 1979 年に批准
した。国際人権規約は、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約またはA規約)
と「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約またはB規約)、自由権規約の実施を確保する
ための選択議定書(日本未批准)からなる(なお、1989 年に死刑を廃止するための追加議定書が採択され
た)。
⑵ 日本が批准した主要な条約
① 難民の地位に関する条約(1981 年批准)
② 女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約、1985 年批准)
③ 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約、1994 年批准)
④ あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約、1995 年批准)
第1節
4
基本的人権総説
第1款
人権の歴史/49
各国の憲法史
<人権思想の歴史>
英米法
イギリス
大陸法
アメリカ
フランス
日本
ドイツ
…
1215 マグナカルタ
1628 権利請願
1688 名誉革命
1689 権利章典
1689 市民政府論
(ロック)
1748 法の精神
(モンテスキュー)
1762 社会契約論
(ルソー)
1776
ヴァージニア権
利章典
1776 独立宣言
1788 合衆国憲法
1791 修正 10 ヵ条
1803 マーシャル
判決
1789 人権宣言
1791 年憲法
1793 年憲法
1814 年憲法
1849
1859 自由論
(J・S・ミル)
フランクフル
ト憲法
1850 プロイセン
憲法
1865 修正 13 条
1868 修正 14 条
1875 第三共和制
憲法
1946 国民保険法
1948 国民扶助法
1935
オールド・コート
ニュー・コート
1871 ビスマルク
憲法
1919 ワイマール
憲法
1928 憲法学
(C・シュミット)
1946 第四共和制
憲法
1889
明治憲法
1946
日本国憲法
1949 ボン基本法
1953~
ウォーレン・コート
1958 第五共和制
憲法
⑴ 英米法
⒜ イギリス
中世ヨーロッパの封建社会の中で、1215 年にイギリスのマグナ・カルタが成立
→マグナ・カルタは、国王と封建領主との対立の中で封建領主の特権を擁護するための文書
↓その後
その趣旨はコモン・ローのなかに取り入れられていき、17 世紀に至って、
① 権利請願(1628 年): 議会の承諾なしに賦課金などを負担させることを禁止し、人身の自由と法
の適正な手続の要求などを定める
② 人身保護法(1679 年): 人身の自由の保障のための手続を整えた
50/第2編
③
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
権利章典(1689 年): 国会の同意なくして、法律の効力を停止し、課税し、常備軍をもちえない
こと、さらには、請願権、国会議員の選挙の自由、国会における言論の自由
と議事手続の自由、陪審による裁判などをイギリス人の古来の権利・自由と
して宣言
等を成立させる基盤(今日でも、②・③は、実質的意味の憲法を構成する重要な法律)となった
⒝ アメリカ
人が生まれながらにして有する侵すことのできない権利としての自然権の観念
→18 世紀後半のアメリカ・フランス革命の結果として成立した人権宣言の中に見出される
↓
1776 年のヴァージニア権利章典(アメリカにおける最初の人権宣言)
→まず自然権の観念を明らかにし、ついで国民主権、革命権の思想が謳われ、人身の自由、言論出版の自
由、宗教の自由等個別的な人権が定められている
↓
1776 年の独立宣言: 純然たる人権宣言ではないが、「すべての人は平等に造られ、造物主によって、
一定の奪いがたい天賦の権利を付与され、そのなかには生命、自由および幸福の追
求の含まれること」を宣言し、生命、自由及び幸福追求が含まれる人権が自然権を
基礎にしていることを明らかにしている
↓
1778 年の合衆国憲法: 当初、いわゆる統治機構に関する条項のみがおかれていたが、1791 年には最初の 10
の修正条項の形式で人権保障を規定(現在 26)した
⑵ 大陸法
⒜ フランス
イ 18~19 世紀
1789 年の「人及び市民の権利宣言」(フランス人権宣言)
→内容については、ルソー、モンテスキュー等からの直接的な影響がみられる
ex.① 1条は、「人は、自由かつ権利において平等なものとして出生し、存在する」と規定して、
自然権の考え方を明らかにしている
② 6条は「法律は、一般意思の表明である」とした(ルソーの影響)
③ 16 条は、「権利の保障が確保されず、権力分立が定められていないすべての社会は、憲法
をもつものではない」と規定した(モンテスキューの影響)
→フランス最初の憲法である 1791 年憲法の前文に取り入れられた
↓その後
1789 年人権宣言の本質ないし基本的要素は、それとかなり条項やトーンの異なる 93 年憲法の「人およ
び市民の権利の宣言」、95 年の共和暦三年憲法の「人および市民の権利義務の宣言」等で維持された
↓
ナポレオンの統領・帝政時代を経て、1814 年の立憲君主制憲法
→人権は「フランス人の公権」として捉えられる
→1791 年憲法も 1793 年憲法も「権利宣言」と「憲法」の部分が形式的に区分され、2つが合して憲法
を構成していたが、1814 年憲法では権利宣言は「憲法」の中に取り込まれ、そこに法の前の平等、
財産権の不可侵等の保障規定がおかれた(これらの自由は君主制国家が政治課題を遂行する上で、
やむなく認めたものにすぎず、規定の仕方は制約的で消極的)
* アメリカとフランスの相違
両国の人権宣言はその基本思想を同じくするが、以下のような違いがある。
① アメリカの人権宣言はイギリス人の伝統的な諸自由を自然法的に基礎づけ確認したものであるのに
対し、フランス人権宣言は新しい綱領的な性格をもつ人権を抽象的に描いたものであるという点。
② フランスでは立法権優位の思想によって、「立法権をも拘束する人間に固有の権利」という自然権
の思想の意味が相対化され、人権は主として行政権の恣意を抑制する原理だと考えられた点。
ロ 20 世紀
人権宣言の母国フランスは、特殊な形式によって社会国家的人権を宣言した点で注目される
→1946 年第四共和制憲法: 憲法の本文で「フランスは不可分の、非宗教的、民主的かつ社会的な共
和国である」という原則を謳うのみで、権利宣言を憲法の前文に定め
るという独特の形式
第1節
基本的人権総説
第1款
人権の歴史/51
↓もっとも
1958 年第五共和制憲法: 前文の冒頭で「フランス人民は、1789 年人権宣言により定められ、1946 年
憲法前文により確認され補完された人間の権利と国民主権の原理への愛着
を厳粛に宣言する」と定めるのみで、権利宣言にあたる規定は全くない
→しかし、第四共和制憲法制定時から、前文は裁判規範としての性格をも
つと解され、1970 年以降、右前文の規定を根拠として憲法院による違憲
審査が活発に行われている
⒝ ドイツ
イ 19 世紀
ドイツでは、フランスの人権理念が広く受け入れられた
↓しかし
それは 19 世紀を通じて、ドイツの伝統的観念によって変容され、人間の自然権としてではなく国民の
権利としてしかも法律の範囲内で保障されるにとどまる、多分にプログラム的性格の強いものとして捉
えられた(外見的人権宣言の典型は 19 世紀ドイツ諸憲法に見出される)
↓
1849 年のドイツ帝国憲法(三月革命後に制定、いわゆるフランクフルト憲法)の第六章
→「ドイツ国民の基本権」は、国民主権の立場から詳細かつ具体的に国民の権利・自由を保障したドイ
ツにはじめての権利宣言
→しかしこれは、政治的意図に基づくものであり、基本権は自然権を憲法で確認したものという思想の
現れでも、法律に対する憲法の優位の観念を基礎とするものでもなかった
↓その後
1850 年のプロイセン憲法: 旧来の法伝統の上に君主制原理を色濃く加味した憲法
→第二章「プロイセン人の権利」と題する権利宣言は外見的人権宣言の典型
↓
こうしてドイツでは、基本権は「行政法の問題になってしまった」ので、1871 年のドイツ帝国憲法
(ビスマルク憲法)には権利宣言は全く存在しない
ロ 20 世紀
1919 年ワイマール憲法: 社会権を詳細に定めた最初の憲法
→ワイマール憲法が、伝統的な自由権を保障しつつ多くの社会権規定や所有権制約条項を設けた背景に
は、ロシア革命によって成立したソビエト共和国憲法(1918 年)の影響や、それに呼応して国内に
起こった社会主義体制樹立の動向への配慮もあった
→ワイマール憲法では、基本権の重点は自由権であったが、それは、「法律の留保」を伴うものであっ
たことに加えて、社会権がプログラム規定と解された
↓その後
1920 年代の後半から 30 年代のナチズムによる革命的状況の中で実効性を失い、やがて憲法それ自体が
統合し秩序化する力を喪失
↓しかし
ワイマール憲法の社会権条項は第二次大戦後の多くの憲法にきわめて大きな影響を及ぼした
三
日本憲法史
・ 明治憲法
⑴ 明治憲法の成立
わが国には、明治時代以前は、立憲主義的な成文憲法は存在せず、近代的憲法の歴史は 1889 年の大日本
帝国憲法から始まる。
⑵ 明治憲法の特色
⒜ 万世一系の天皇による支配
明治憲法は、天皇による支配統治を基本原理とした。ここにいう天皇は、日本書紀の建国神話に由来す
る万世一系の天皇を意味し、したがって、明治憲法は、立憲主義憲法とはいうものの、神権主義的な君主
制の色彩がきわめて強い憲法であったといえる。
52/第2編
⒝
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
天皇大権中心の統治体系
イ 天皇は、憲法上統治権を総攬する地位にあり(4)、帝国議会の「協賛」の下に立法を行い(5)、
国務大臣の「輔弼」をうけて行政権を行使するものとされた(55)。司法権もまた「天皇の名にお
いて」裁判所がこれを行うものとされた(57)。
ロ 議会の権限は、天皇の権限に対応してきわめて限定されていた。
① 「皇位継承等の皇室に関する事項」と「軍の統帥や宣戦・講和等に関する事項」を議会の立法権限
の枠外に置いた(11~13)。
② 法律の制定は議会の議決だけで完結せず、天皇の「裁可」を要し(6)、しかも天皇は緊急命令や
独立命令の形式で、議会の協賛なしに立法を行うことができた(8、9)。
③ 条約締結権は天皇に帰属し(13)、天皇が締結した条約は、議会による協賛を経ることなく、直ち
に国内法的にも効力を発するものとされた。
ハ 議会の権能は、天皇との関係においてだけではなく、政府との関係においても限定されていた。
① 憲法上、衆議院の解散制度は認められていたが(7、44Ⅱ、45)、内閣の成立・存続は、議会の信
任に依存するものではなかった。
② 政府は、新年度の予算が議会で議決されない場合には、前年度の予算を施行すべきものとされた
(71)。
ニ 帝国議会は、二院制を採用し、衆議院と貴族院から構成された(33)。
・ 公選によらない議員からなる貴族院が、民選の衆議院と対等の地位にあり、衆議院の動向を牽制し
た
ホ 内閣は憲法上の機関ではなく、内閣官制により定められた憲法外の機関であった。
① 国務大臣は議会に対して責任を負うものではなく、天皇の信任に基づいて在職した。
② 内閣総理大臣は、国務大臣の同輩中の首席にすぎなかった。
ヘ 裁判所は、民事および刑事の裁判権を保持するにとどまり、行政事件は行政裁判所で取り扱われた
(61)。
⒞ 権利保護の不徹底
明治憲法はさまざまな権利・自由について規定
ex.「居住・移転の自由」(22)、「身体の自由」(23)、「裁判を受ける権利」(24)、「信書の秘
密」(26)、「所有権の保障」(27)、「信教の自由」(28)、「言論・出版・集会・結社の自
由」(29)、「請願権」(30)等。
↓しかし
それらは「人間として不可譲の基本的人権」として保障されたものではなく、天皇が臣民に対して恩恵
的に与えたものにすぎなかった
↓それゆえ
憲法上の諸権利は、臣民としての地位に反しない限りにおいてのみ、主張しうるものにすぎず、原則と
して「法律の範囲内において」保障されるにとどまった(法律の留保)
→法律によるならば、憲法上の権利・自由はいかようにも制限することができ、また、例外的に法律の
留保を受けない信教の自由(28)の場合にも、政府は神社崇拝を国民に強制
⑶ 明治憲法の展開
⒜ 超然主義と政党政治
立憲政治が開始された当時の統治スタイル
→議会とその政党に対し、「超然として……(その)外に立」つものであり、議会の影響を受けない政
府を最大限に保持し、貫徹しようとするもの
↓しかし
議会における政党勢力の伸長は、政府の超然主義を後退させ、元老自ら政党の意義を認めることを余儀
なくされた
↓そして
大正時代:元老によって支持された「超然内閣」が政党の支持を得られず、政党の反対にあって総辞職
することもまれではなくなり、1918 年には原敬が政党内閣を組織
→憲政擁護運動(立憲主義の下での政府は、議会ことに衆議院に基礎をもたなくてはならないとする)
の成果
↓その後
この民主主義運動(大正デモクラシー)は、さらに普通選挙の実施をも要求し、1925 年には男子普通
選挙法が成立し、1928 年の衆議院選挙においてはじめて実施
第1節
⒝
第2款
人権の観念および類型/53
議会政治の衰退と軍部の対等
以上のように明治憲法体制の下で議会政治への道が拓かれた
↓しかし
当時の議会政治は、軍部の抵抗にあって挫折
→その遠因として治安維持法により、議会政治の前提条件をなす市民の自由な政治活動が封じられてし
まったことが挙げられる
↓その結果
議会政治は混迷の度を加え、国民の間に議会不信、政党不信の雰囲気が醸成されていった
戦時体制の確立と議会政治の終焉
戦時色が強まる中で、1938 年、国家総動員法が施行
→この法律により、政府は議会のコントロールをうけることなく、自由に国民とその財産を戦時体制に
動員できることになった
↓さらに
1940 年、既成政党を解消して大政翼賛会が結成
→それは、明治憲法の下での議会政治の終焉であり、天皇の名において全てを指導する体制の確立であ
った
⒞
第2款
一
基本的人権総説
人権の観念および類型
人権の観念
憲法は「権利」(第3章)、「基本的人権」(11)、「権利」(12)、「基本的人権」(97)と
用語を使い分けているので、人権とはなにかが問題となる。
∵①
②
個々の人間に最高の価値を認める個人の尊厳という価値観を前提としている。
人権は憲法や国家によって与えられたものではなく、人間の価値そのものに由来する
前憲法的・前国家的権利である。
人権とは、人が人たることに基づいて当然に有する権利である。
二
人権の類型
1
人権の分類
⑴
自由権
国家が個人の自律的領域に対して権力的に介入することを排除して、個人の自由な意思決定
と活動とを保障する人権。「国家からの自由」ともいわれる。
<自由権の分類>
内面的な精神活動の自由
①
精神的自由権
②
経済的自由権
③
人身の自由
(思想の自由、信仰の自由、学問研究の自由)
外面的な精神活動の自由
(宗教的行為の自由、研究発表の自由、表現の自由)
54/第2編
⑵
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
社会権
社会的・経済的弱者を守るために保障されるに至った 20 世紀的な人権。「国家による自由」
ともいわれる。もっとも、憲法の規定のみを根拠として権利の実現を裁判所に請求できる具体
的権利ではなく、立法による裏付けが必要である。
⑶
参政権
国民の国政に参加する権利。「国家への自由」ともいわれ、自由権の確保に仕える。具体的
には、選挙権・被選挙権に代表されるが、広く憲法改正国民投票や最高裁判所裁判官の国民審
査も含まれる。
*
以上の分類を踏まえて、日本国憲法における人権を分類すると、
①包括的基本権(13)
②法の下の平等(14)
③自由権
④受益権(国務請求権)
⑤参政権
⑥社会権
の6つになる。
<国家と人権とのかかわり方>
国家からの自由
国家による自由
国家
×
国家
2
国家への自由
介入を排除
○
国家
介入を求める
国民が参加
個人
個人
個人
自由権
社会権
参政権
分類の相対性
人権の分類は、人権についての理解を深める上で有益。
↓しかし
その体系を絶対的なものと考えてはならない。
→個々の問題に応じて権利の性質を柔軟に考えるべき
ex.複合的性格を有する人権: 知る権利、社会権の自由権的側面
↓また
個人の尊厳を第一に考えるならば、社会権の過大な重視は自由権の領域にまで国家が介入する
おそれを生じる点で問題あり。
↓
現代においても「国家からの自由」の思想が基本とされなければならない。
第1節
第3款
一
基本的人権総説
第3款
人権の憲法的保障/55
人権の憲法的保障
法的権利性
人権概念は、今日、人間の尊厳に基礎をおく。そして、人権は人の人格的自律の存在性それ自体、
および、そのような存在性を支えるに必要な条件にかかわるか否かを基準に判断すべきである。
かかる判断基準に照らせば、自由権のみならず、参政権・社会権も人権に含まれる。
<人権の理念的展開>
昇格
背景的権利
実定法的権利
憲法上保障され
ているとはいえ
ないもの
憲法規定上根拠をもつ権利
及び憲法上保障されている
と解釈できる権利
をもつようになる
法規範性
(憲法上の人権となる)
裁判規範性
原則としてなし
抽象的権利
→政治部門での
救済が中心
の有無
あり
具体的権利
→裁判所(司法)
による救済
司法部門と政治部門の役割分担
政治部門(民主政の過程)と司法部門のいずれが中心となるのが当該人権の
保障にとってふさわしいか
56/第2編
基本的人権の保障
二
プログラム規定
1
はじめに
第1章
基本的人権総論
プログラム規定とは、個人に対し裁判による救済を受けうるような具体的権利を付与するもので
はなく、国家に対しその実現に努めるべき政治的・道徳的目標と指針を示すにとどまる種類の規
定をいう。この特色としては、①法規範性すらないということ(裁判規範性は当然にない)、②
国家に対して政治的・道義的な目標と指針を示すにすぎず、政治部門による救済(プログラム規
定に違反している場合、選挙で争うなどして守らせるようにする)が中心となる、ということが
あげられる。
2
抽象的権利とプログラム規定の相違
⑴
法規範性の有無(法としての意味をもつか)
プログラム規定→人権ではない(法規範性はない)
抽象的権利→人権である(法規範性はある)
↓
侵害された場合いずれも「政治部門による救済」によることになるが政治部門に対する強制
力が違う(人権であると言ったほうが影響力が大きい)
⑵
裁判規範性の有無
プログラム規定→常に裁判規範性なし
抽象的権利→具体化立法が存在すると裁判規範性をもつ(具体的権利になる)
<実定法的権利と法規範性・裁判規範性との関係>
プログラム規定
政治的権利
法規範性
×
裁判規範性
×
政治部門による
抽象的権利
単なる法規範
具体的権利
裁判規範
○
○
× 具体化立法が
存在すれば○
○
裁判所による救済が可能
救済が中心
三
制度的保障
・
はじめに
制度的保障とは、憲法が一定の既存の制度に対して立法によってもその核心ないし本質的内容を
侵害してはならないという保障を与えているものをいう。
その具体例としては、①信教の自由(20)と政教分離、②学問の自由(23)と大学の自治、③財
産権の保障(29)と私有財産制、④地方自治(92)があげられる。
*
①、④については争いがある。
第2節
人権享有主体性
第1款
外国人の人権/57
第2節 人権享有主体性
<人権享有主体性のある者は何か>
日本人
自然人
天皇・皇族→原則として肯定(その特殊性から制限あり)
(国民)
その他の自然人(未成年者・成年者)→肯定
法人→現代社会における重要な構成要素であることから、原則として
肯定(権利の性質によって判断する)
外国人(日本に在住していて日本国籍を有しないもの)→肯定(権利の性質によって判断する)
第1款
一
外国人の人権
人権享有主体性
憲法上問題となる外国人とは、日本に在住する日本国籍を有しない者をいう。
外国人に人権享有主体性を認めることができるか。第3章の標題が「国民の権利」となってい
ることから問題となる。
この点、通説は、①人権は前国家的性格を有すること、②憲法は国際協調主義を採ること(前
文3段、98Ⅱ)を根拠に、外国人の人権享有主体性を肯定している。
<問題の所在>
外国人が人権享有主体になりうるとしても、その享有しうる人権の範囲はどこまでであろうか、
いかなる基準によって判定するかが問題となる。
<考え方のすじ道>
↓そもそも
外国人の日本国に対する関係は、日本国民の国家に対する身分上の恒久的結合関係とは性質
を異にし、場所的居住関係にすぎない
↓したがって
日本国民とは異なる取扱いを受ける
↓そして
いかなる人権がいかなる限度で外国人に保障されるかを、人権の性質や外国人の種類を考慮
して個別に決すべき
58/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
<アドヴァンス>
⑴
文言説
「何人も」という文言が使われている規定は外国人にも保障が及ぶが、「国民は」という
文言が使われている規定は、国民にその保障が限定され外国人には保障が及ばない。
(理由)
条文に素直である。
(批判)
外国人にも「国籍離脱の自由」(22Ⅱ)が保障されるという背理が生ずる。
②
憲法は「国民は」と「何人も」を厳格に区別して規定していない。
⑵
①
性質説(通説)
憲法が保障する権利の性質により、適用ないし類推適用されるものと、そうでないものを
区別する。
(理由)
*
◆
文言では割り切れない。
この立場では「国民は」と規定されている人権についても外国人への適用が可能となる。
マクリーン事件(最大判昭 53.10.4/百選Ⅰ〔1〕)
「憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上、日本国民のみをその対
象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ」。
事案は後掲(p.68)参照。
二
個別的検討
1
はじめに
外国人に人権享有主体性が認められるとしても、日本国民と日本国との身分上の恒久的結合関係
と異なり、外国人と日本国との関係は場所的居住関係にすぎない。そのため外国人は日本国民と
異なる取扱いを受ける。いかなる人権が、どの程度保障されるかは、人権の性質や外国人の種類
を考慮して個別的に決すべきである。
①
人権の性質ごとに個別的判断を行う。
ex.前国家的性質の権利か、国家の構成員であることを前提とする権利か。
②
外国人の種類ごとに個別的判断を行う。
ex.長期滞在者(日本に生活の本拠を有する人)か、一時的な滞在者か。
2
参政権
⑴
憲法上保障されるか
<問題の所在>
外国人には参政権が憲法上保障されているだろうか。国民主権との関係で、たとえば、国
政レベル・地方レベルの選挙権や被選挙権、各種の公務就任権が認められるか問題となる。
第2節
人権享有主体性
第1款
外国人の人権/59
<考え方のすじ道>
①
参政権は前国家的権利でない
②
外国人に保障することは、国民の自律的意思に基づいて運営される国民主権に反する
↓したがって
外国人には国政レベル・地方レベルを問わず、参政権は憲法上保障されない
<アドヴァンス>
⒜
否定説(通説)
(理由)
①
参政権は前国家的権利でない。
②
外国人に保障することは、国民の自律的意思に基づいて運営される国民主権に反す
る。
⒝
肯定説
定住外国人には憲法上保障される。
(理由)
①
日本に生活の本拠をおき日本で生活している外国人は、日本国民と同じように、日
本の政治のあり方に関心を持っている。
②
「国民主権」の原理の根拠にあるのは、一国の政治のあり方はそれに関心を持たざ
るをえないすべての人の意思に基づいて決定されるべきだとする考え方である。
◆
最判平 5.2.26
国会議員の選挙権を有する者を日本国民に限っている公職選挙法9条1項の規定が憲法
15 条、14 条の規定に違反するものでないことは、最大判昭 53.10.4 判決の趣旨に徴して明
らかである。
⑵
法律による保障が許容されるか
⒜
選挙権
<問題の所在>
外国人の選挙権が憲法上保障されないとして、法律によって外国人に選挙権を付与する
ことまで憲法上禁止されるのであろうか、法律による保障が許容されるか問題となる。
<考え方のすじ道>
国政レベル:憲法上許容されない
∵
国民主権に反する
↓これに対して
地方レベル
①
地方自治体の行為は法律に基づき法律の枠内で行われる以上(94)、国民主権に反
しない
②
外国人の地方レベルの選挙権はむしろ住民自治の理念に適合する(92 参照)
③
日本国憲法は、15 条1項の「国民」と 93 条2項の「住民」とを使い分けている
↓したがって
定住外国人に地方レベルでの選挙権を法律で付与することは、憲法上許容される
60/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
<アドヴァンス>
イ
国政レベル・地方レベルともに、法律による付与は憲法上禁止されるとする説。
(理由)
①
国会議員の選挙権(15Ⅰ)も地方議会の選挙権(93Ⅱ)も、同じく国民主権条項
(1)から派生する。
②
15 条1項における「国民」と 93 条2項における「住民」とは、全体と部分の関係
にあり、質的に等しいものと考えることができる。
ロ
国政レベルにおいては禁止されるが、地方レベルにおいては、法律によって定住外国
人に選挙権を保障することが許容されるとする説(判例・通説)。
(理由)
①
外国人に地方政治レベルでの選挙権を認めても、地方自治体の行為は法律に基づ
き法律の枠内で行われる以上(94)、正当性の淵源が「国民」に存するという国家
的正当性の契機が切断されてしまうわけではなく、国民主権に反しない。
②
「地方自治の本旨」(92)に基づく地方公共団体のあり方を考えると、外国人の
地方レベルでの選挙権はむしろ住民自治の理念に適合する。
③
93Ⅱは「住民」としており、住民とは、その地域内に住所を有する者をいうから、
外国人も含まれると解することができる(学説の理由であり判例は異なる)。
◆
最判平 7.2.28/百選Ⅰ〔4〕
「……93 条2項にいう『住民』とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民
を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、
地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできな
い」。
「憲法第8章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に
鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基
づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しよ
うとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等
であって、その居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認め
られるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的
事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に
対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解
するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法
政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生
ずるものではない」。
*
この判例は、上記ロ説の理由③と異なり、93 条2項の「住民」に外国人が含まれな
いとしていることに注意すること。
◆
定住外国人の国政選挙における被選挙権(最判平 10.3.13)
「国会議員の被選挙権を有する者を日本国民に限っている公職選挙法 10 条1項、これ
らを前提として立候補届出等に当たって戸籍の謄本又は抄本の添附を要求する公職選挙
第2節
人権享有主体性
第1款
外国人の人権/61
法……、公職選挙法施行令……の各規定及びこれらの規定を上告人らに適用することが
憲法 15 条に違反するものでないことは、最高裁昭和 50 年(行ツ)第 120 号同 53 年 10
月4日大法廷判決・民集 32 巻7号 1223 頁の趣旨に徴して明らかであ」る。「また、前
記各規定が市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和 54 年条約第7号)25 条に違反
するものではないとした原審の判断も、正当として是認することができ、原判決に所論
の違法はない。論旨はいずれも採用することができない」。
⒝
公務就任権
・
公務就任権に関する判例
◆
東京都管理職就任事件(最大判平 17.1.26/百選Ⅰ〔5〕)
事案:
韓国籍の特別永住者で、Yに保健婦として採用されたXは、1994(平成6)年
度および 1995(平成7)年度に実施された管理職選考試験を受験しようとした。
ところが、Xは外国人であることから、管理職選考を受験する資格はないとして、
1994 年度の選考についてはXの受験申込書の受取りを拒否し、1995 年度の選考に
ついては、Y人事委員会が受験資格の要件として日本国籍を有することを明示し
たため、Xは両年度において受験できなかった。そこで、Xは、Yを相手取り、
①1995(平成7)年度および 1996(平成8)年度の管理職選考の受験資格を有す
ることの確認、②受験を拒否されたことによる精神的苦痛に対する損害賠償を求
めて出訴した。
判旨:
(地方公務員のうち、住民の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなど
の公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは普通地方公共団体の重要な施策に
関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とするもの)を「公権力行
使等地方公務員」と定義した上で、「国民主権の原理に基づき、国及び普通地方
公共団体による統治の在り方については日本国の統治者としての国民が最終的な
責任を負うべきものであること(憲法1条、15 条1項参照)に照らし、原則とし
て日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されて
いるとみるべきであり、我が国以外の国家に帰属し、その国家との間でその国民
としての権利義務を有する外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは、
本来我が国の法体系の想定するところではないものというべきである」。そして、
この理は、「特別永住者についても異なるものではない」。したがって、管理職
の任用制度を適正に運営するために必要があると判断して職員が管理職に昇任す
るための資格要件として当該職員が日本の国籍を有する職員であることを定めた
としても、合理的な理由に基づいて日本の国籍を有する職員と在留外国人である
職員とを区別するものであり、労働基準法3条にも、憲法 14 条1項にも違反する
ものではない。
3
社会権
<問題の所在>
外国人に社会権が保障されるであろうか。例えば、日本国籍を有しないことを理由に年金の支
払を拒絶された外国人が、生存権を主張して裁判所で争うことはできるのであろうか。
62/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
<考え方のすじ道>
↓確かに
①
社会権は後国家的権利
②
国家の財政事情の影響を受ける
↓しかし
社会権は人が社会の構成員として労働し、生活を営むことに基づく権利である
↓この点
日本社会に居住し、国民と同一の法的・社会的負担を担っている定住外国人は、日本人と同
様に社会の構成員として労働し、生活を営んでおり、定住外国人には、社会権が保障される
*
なお、社会保障関係法令中の国籍要件は、1982 年に原則として撤廃された。
<アドヴァンス>
⑴
否定説
外国人に対しては、社会権は憲法上保障されない。
(理由)
①
社会権は、国家の存在を前提としており(後国家的権利)、その個人の所属する国家
によってまず保障されるべきもの。
②
*
国家の財政事情の影響をうける。
⑵
この説によっても、法律で外国人に社会権を保障することは可能。
一定の外国人に対しては、憲法上保障されるとする説
(理由)
◆
①
社会権も固有の人権である。
②
社会権は人が社会の構成員として労働し、生活を営むことに基づく権利である。
③
定住に至った歴史的沿革。
塩見訴訟(最判平元.3.2/百選Ⅰ〔6〕)
事案:
Xは国民年金法 81 条1項の障害福祉年金の受給を大阪府知事に請求したが、廃疾認
定日に日本国民でなかったことを理由に請求を却下された。そこで、Xが国民年金法
の「国籍条項」は 14 条、25 条等に違反するとして処分の取消しを求めた。
判旨:
「社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、
特別の条約の存しない限り、……その政治的判断によりこれを決定することができる
のであり、その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人
より優先的に扱うことも、許される……。したがって、……障害福祉年金の支給対象
者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量に属する事柄と見るべきである」。
◆
最判平 4.4.28/百選Ⅰ〔7〕
事案:
Xは日本国籍を有する旧軍人軍属の戦死傷者や遺族には戦傷病者戦没者遺族等援護法
(援護法)および恩給法によって保障がなされているにもかかわらず、台湾住民たる自己
には何らの保障もなされてないのは違憲として、国に対して損失補償請求をした。
第2節
判旨:
人権享有主体性
第1款
外国人の人権/63
「台湾住民である軍人軍属が援護法及び恩給法の適用から除外されたのは、台湾住
民の請求権の処理は日本国との平和条約及び日華平和条約により日本国政府と中華民
国政府との特別取極の主題とされたことから、台湾住民である軍人軍属に対する補償
問題もまた両国政府の外交交渉によって解決されることが予定されたことに基づくも
のと解されるのであり、そのことには十分な合理的根拠があるものというべきであ
る」。
◆
最判平 13.9.25
事案:
在留期間を超えて滞在中であった外国人が交通事故で重傷を負ったため、治療費等
の支払のために生活保護法に基づく生活保護の申請を行ったが、その申請が却下され
た。
判旨:
「(憲法 25 条の)趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決
定は立法府の広い裁量にゆだねられていると解すべきところ、不法残留者を保護の対
象に含めるかどうかが立法府の裁量の範囲に属することは明らかというべきである。
不法残留者が緊急に治療を要する場合についても、この理が当てはまるのであって、
立法府は、医師法 19 条1項の規定があること等を考慮して生活保護法上の保護の対象
とするかどうかの判断をすることができるものというべきである。したがって、同法
が不法残留者を保護の対象としていないことは、憲法 25 条に違反しないと解するのが
相当である。」
◆
不法在留外国人の国民健康保険被保険者資格(最判平 16.1.15/H16 重判〔行政法1〕)
「外国人が国民健康保険法5条所定の『住所を有する者』に該当するかどうかを判断する
際には、在留資格の有無、その者の有する在留資格及び在留期間が重要な考慮要素となり、
在留資格を有しない外国人がこれに該当するためには、単に保険者である市町村の区域内に
居住しているという事実だけでは足りず、少なくとも、当該外国人が当該市町村を居住地と
する外国人登録をして在留特別許可を求めており、入国の経緯、入国時の在留資格の有無及
び在留期間、その後における在留資格の更新又は変更の経緯、配偶者や子の有無及びその国
籍等を含む家族に関する事情、我が国における滞在期間、生活状況等に照らし、当該市町村
の区域内で安定した生活を継続的に営み、将来にわたってこれを維持し続ける蓋然性が高い
と認められることが必要である」。
「寄港地上陸許可を得て上陸し、上陸期間経過後も我が国に残留している外国人甲は、出
生国での永住資格を喪失し、国籍も確認されない特殊な境遇から、やむなく残留し続けたも
ので、自ら入国管理局に出頭したにもかかわらず、不法滞在状態を解消することができなか
ったこと、甲の我が国での滞在期間は約 22 年間に及んでおり、国民健康保険の被保険者証の
交付請求当時の居住地において稼働しながら、約 13 年間にわたり妻と我が国で出生した2人
の子と共に家庭生活を営んできたこと、上記請求前に外国人登録をして在留特別許可を求め
ていたことなど判示の事情の下においては、国民健康保険法5条所定の『住所を有する者』
に該当する」。
64/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
なお、近時の判例(最判平 26.7.18/H26 重判〔11〕)は、永住者の在留資格を有する外
国人であるXがした生活保護法に基づく生活保護申請に対して市福祉事務所長がした却下処
分について、「旧生活保護法は、その適用の対象につき『国民』であるか否かを区別してい
なかったのに対し、現行の生活保護法は、1条及び2条において、その適用の対象につき
『国民』と定めたものであり、このように同法の適用の対象につき定めた上記各条にいう
『国民』とは日本国民を意味するものであって、外国人はこれに含まれない」として、同処
分を適法としている。また、外国人に対する生活保護については、現行の生活保護法制定後、
各都道府県知事に宛てて発出された通知(以下「本件通知」という)等に基づいて、永住的
外国人等の一定の範囲の外国人につき、生活保護の措置が行われている。この点について、
上記判例は、「本件通知は行政庁の通達であり、それに基づく行政措置として一定範囲の外
国人に対して生活保護が事実上実施されてきたとしても、そのことによって、生活保護法1
条及び2条の規定の改正等の立法措置を経ることなく、生活保護法が一定の範囲の外国人に
適用され又は準用されるものとなると解する余地はなく、……我が国が難民条約等に加入し
た際の経緯を勘案しても、本件通知を根拠として外国人が同法に基づく保護の対象となり得
るものとは解されない。なお、本件通知は、その文言上も、生活に困窮する外国人に対し、
生活保護法が適用されずその法律上の保護の対象とならないことを前提に、それとは別に事
実上の保護を行う行政措置として、当分の間、日本国民に対する同法に基づく保護の決定実
施と同様の手続により必要と認める保護を行うことを定めたものであることは明らかであ
る」から、「外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり
得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権
を有しない」旨判示している。
4
出入国の自由
⑴
入国の自由→否定(通説)
(理由)
国際慣習法上、入国の許否は、国家の自由裁量によって決定しうる。
⑵ 出国の自由→肯定(22Ⅱ)(通説)
(理由)
◆
①
生活の本拠が他国にある場合、出国の自由は特に強く保障する必要がある。
②
国際協調主義にかなう。
最大判昭 32.12.25/百選Ⅰ〔A1〕
「憲法 22 条2項……にいう外国移住の自由は、その権利の性質上外国人に限って保障しない
という理由はない」。
⑶
再入国の自由
<問題の所在>
わが国に在留する外国人が、在留期間満了前に再び入国する意思をもって出国することを
再入国という。この再入国の自由は外国人に憲法上保障されるか。たとえば、外国人Xが、
第2節
人権享有主体性
第1款
外国人の人権/65
自国の建国祭に出席するため再入国の申請をしたところ、法務大臣が適当でないとの理由で
拒否した場合にXは再入国の自由の侵害を理由に処分の取消しを求められるのであろうか。
<考え方のすじ道>
↓この点
判例は、入国の自由と質的に同じと考え、憲法上の保障を否定する
↓しかし
定住外国人については
①
再入国の場合には、その人物の人柄、行動は日本国の既知事項であり、生活の本拠が
日本にある以上、単なる入国と質的に異なる
②
日本国民の海外旅行の自由と同視(22Ⅱで認められる)
↓
外国人の再入国の自由は原則として肯定すべきと考える
↓したがって
法務大臣が再入国を拒否することは原則として許されない
↓ただ
当該外国人の再入国を認めることが著しくかつ直接に日本国の安全と独立および日本国民
の福利を害することが明白な場合には、人権の内在的制約として、再入国を拒否しうるも
のと考える
↓あてはめ
Xは、自国の建国祭に出席するため再入国の申請をしたにすぎず、その再入国を認めるこ
とが著しくかつ直接に日本国の安全と独立および日本国民の福利を害することが明白な場
合にあたるとはいえない
↓よって
Xは、処分の取消しを求めることができる
*
反対説においても法務大臣の裁量は無制限ではなく一定の限界がある。
<アドヴァンス>
⒜
肯定説
(理由)
①
再入国の場合はその人物の人柄、行動は日本国の既知事項であり、生活の本拠が日
本にある以上、単なる入国と質的に異なる。
②
生活の本拠をわが国に有する外国人の再入国の自由は、生活の本拠たる日本への帰
国として一時的な海外旅行の自由(22Ⅱ)と同視しうる。
③
外国人には出国の自由が保障されるが、出国の自由を確保するためには再入国の自
由が保障されている必要がある。すなわち、再入国の自由がなければ、日本に生活の
本拠をおく外国人にとり、出国が事実上不可能なものとなってしまう。
⒝
否定説(判例)
(理由)
入国の自由と質的に同じである。
66/第2編
◆
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
森川キャサリーン事件(最判平 4.11.16/百選Ⅰ〔2〕)
事案:
Xは韓国に旅行するため再入国許可の申請を行ったが、法務大臣は指紋押捺拒否を
理由にこれを不許可にした。そこで、Xが処分の取消と国家賠償を求めた。
判旨:
「我が国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を憲法上保障され
ているものではない」。指紋押捺拒否を理由としてなされた法務大臣の本件不許可処
分は、社会通念に照らして著しく妥当性を欠くということはできず、裁量権を濫用し
た違法はない。
⑷
在留の自由
<問題の所在>
在留の自由とは在留期間更新の自由のことである。外国人に在留の自由は保障されている
であろうか。また、法務大臣が、当該外国人の本邦内における人権の行使を理由に在留更新
を拒絶することは許されるのであろうか(マクリーン事件参照)。
<考え方のすじ道>
在留の自由は否定すべき
∵在留更新も入国の延長であり、入国の自由と質的に同じ
↓ただし
一定の裁量の範囲内でなければ裁量権の濫用として違法となる
→それでは、本邦内における人権の行使を不利益に評価し、在留更新を拒絶することは認
められるか
↓
この点、判例は、外国人に対する基本的人権の保障は、法務大臣に広範な裁量の認められ
た外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎないとする
↓しかし
①
在留期間中の正当な人権の行使を理由として、その前提となる滞在の権利を奪うのは
背理
②
外国人はその結果、正当な人権の行使を控えざるを得なくなり、萎縮的効果を生む
↓したがって
外国人の本邦内における人権の行使を不利益に評価し、在留更新を拒絶することは裁量権
の濫用として認められない
<アドヴァンス>
◆
マクリーン事件(最大判昭 53.10.4/百選Ⅰ〔1〕)
事案は、「5
政治活動の自由」の◆参照(p.68)。
「憲法 22 条1項は、日本国内における居住、移転の自由を保障する旨を規定するにとど
まり、……憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されているものでない」。
「外国人の在留の許否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが
国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されて
いるものではない」。
第2節
5
人権享有主体性
第1款
外国人の人権/67
政治活動の自由
<問題の所在>
ⅰ政治活動の自由が憲法上の人権として保障されるであろうか。明文がないため問題となる。
また、ⅱ政治活動の自由が憲法上保障される人権であるとしても、外国人にもそれが保障され
るであろうか。
<考え方のすじ道>
ⅰについて
そもそも、表現の自由は
①
個人の人格の形成発展に不可欠(自己実現の価値)
②
立憲民主主義の維持発展に不可欠(自己統治の価値)
↓とすると
政治活動が①、②に不可欠である以上、21 条で保障
ⅱについて
そもそも、
①
政治活動の自由は前国家的権利である
②
外国人の政治活動により情報の多様性が確保され、民主主義の実現に資する
↓よって
権利の性質上外国人に保障される
↓もっとも
政治活動の自由は参政権的機能を果たす
↓よって
参政権が認められない外国人は、国民主権の見地から日本国民よりも強い制約を受ける
↓具体的には
国民の政治的意思形成に不当な影響を与えるような政治活動は認められない
ex.日本の政治に直接介入することを目的とする政治結社の組織・政府打倒の運動
<アドヴァンス>
⑴
限定保障説(判例、通説)
(理由)
政治活動の自由は参政権的機能を果たすため、国民主権の見地から特別の制約を受ける。
⑵
無限定保障説
(理由)
①
外国人の政治活動は、国民の主権的意思決定に何らかの影響を与えるものではあって
も、主権的意思決定それ自体に関与するものではない。
②
国民が多様な観点からの見解に接することは、国民の主権的意思決定にとって必要と
もいえる。
68/第2編
◆
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
マクリーン事件(最大判昭 53.10.4/百選Ⅰ〔1〕)
事案:
在留期間中のデモ参加等の政治活動を理由として在留期間更新を不許可にされた外
国人Xが、処分の取消しを求めて争った。
判旨:
「政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定またはその実施に影響を及
ぼす活動等外国人の地位にかんがみ、これを認めることが相当でないと解されるもの
を除き、その保障が及ぶ……。しかしながら……外国人に対する憲法の基本的人権の
保障は、右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎない……。すな
わち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消
極的な事実としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解する
ことはできない」。
6
その他
◆
尹秀吉事件(最判昭 51.1.26/百選Ⅰ[第5版]〔10〕)
いわゆる政治犯罪人不引渡の原則は未だ確立した一般的な国際慣習法であると認められない。
第2款
一
法人の人権
人権享有主体性
自然人とは、権利義務の主体である個人のことをいう。これに対して、法人とは、自然人以外の
もので法律上の権利義務の主体とされているものをいう。
人権は元来個人の権利として生成・発展してきたものである。そこで、人権の保障が、自然人
たる個人だけではなく、法人に対しても及ぶのであろうか。法人の人権享有主体性の肯否が問題
となる。
判例・通説は、①法人も自然人と同じく活動する社会的実体であり、構成員の個別の人権に分
解することが非現実的な場合もあること、②法人は社会における重要な構成要素であることを根
拠として、法人の人権享有主体性を肯定している。
そして、法人に保障される人権の範囲について、通説は、性質上可能なかぎり人権規定が法人
にも適用されるとする。判例も、八幡製鉄事件において、「憲法第3章に定める国民の権利およ
び義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきである」と
判示している(最大判昭 45.6.24/百選Ⅰ〔11〕)。
第2節
二
人権享有主体性
第2款
法人の人権/69
限界
<法人と外部者・内部者との関係>
法人
個人(ex.個人のプライバシー)
個人
(構成員)
1
法人とその外部との関係
⑴
一般国民との関係
たとえば法人の政治活動の自由(政治献金)は無制限には許されず、個人としての国民が国家
の政治的意思形成に参加するという国民主権の建前に矛盾しない限度で保障される。
(理由)
法人の中には、強大な経済力・社会的な影響力をもつものがあり、このような法人が無制
限に政治献金をなしうるとすれば、個人の国政に対する影響力を相対的に低下させ、国民
個々の選挙権その他参政権の行使そのものに大きな影響をおよぼす。
◆
八幡製鉄事件(最大判昭 45.6.24/百選Ⅰ〔9〕)
事案:
八幡製鉄の代表取締役が自民党に代表者として政治献金をしたことに対して、八幡
製鉄の株主が代表訴訟を起こし、会社による政治献金が許されるかが争われた。
判旨:
「会社は自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対
するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。政治資金の寄附もまさにその自
由の一環であり、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えること
があったとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請
があるものではない」。
⑵
特定私人との関係
→私人間効力の問題
2
⇒第1章
第3節
「第2款
私人間効力」(p.76)
法人とその構成員との関係
<問題の所在>
価値観の多様化にともない、精神的自由権や参政権をめぐって、法人とその構成員の自由が対
立し、ときに法人の自由が個人の自由を侵害することがある。なお、ここでも私人間効力が問題
となる。
たとえば、公益法人である税理士会が、税理士法改正運動のための政治献金として会員から特
別会費を強制的に徴収する決議を行った場合、法人の政治活動の自由(表現の自由)と会員の思
想良心の自由とが衝突する。このような決議は会員の思想良心の自由を侵害するものとして、無
効か。
70/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
<考え方のすじ道>
いかなる政治団体に政治資金を寄附するかは、本来個人が自己の政治的思想、信条に基づき
決すること
↓
Xの決議は会員の思想良心の自由を侵害するおそれあり
↓もっとも
Xは私人であるので、私人間効力がまず問題
→憲法の人権規定の趣旨を私法の一般条項にとりこんで解釈適用することにより、間接的に
私人間に人権規定を適用すべき(間接適用説)
↓
政治団体に政治資金を寄附するという決議は「目的の範囲内」(民 34)といえるか
↓
法人にも政治活動の自由が保障される
↓ただ
法人の構成員との関係において一定の制限を受ける
↓
法人の権利と構成員の権利の矛盾・衝突は、当該法人の目的・性格や問題となる権利・自由
の性質の違いに応じて、個別具体的に調整することが必要
↓そこで
「目的の範囲内」といえるか否かは、①当該法人が強制加入団体か否か、②協同組合のよう
に公的性格が強いものか否か、③問題となる人権の性質等を総合的に考慮して判断すべき
↓あてはめ
①税理士会は強制加入団体であり、会員には様々な思想・信条の者がいることが当然に予定
されている
②税理士会は公益目的の団体であり、厳格に目的を解するべき
③政治資金を寄附するか否かは、選挙における投票の自由と表裏をなすものであり、会員各
自が市民としての個人的な思想・信条に基づいて自主的に決定すべきこと
↓よって
Xの決議は、税理士にかかわる法令の制定改廃に関する要求を実現するためのものであって
も「目的の範囲内」(民 34)といえず、会員の思想良心の自由を侵害するものとして無効
*
表現の自由について、法人が強制加入である場合には、①当該法人に認められる表現は
その社会的機能と直接関連する問題に関するものであること、②当該法人の意見形成に構
成員の参加の自由が確保されていること、が要求される。
<アドヴァンス>
◆
三井美唄炭鉱事件(最大判昭 43.12.4/百選Ⅱ〔149〕)
◆
国労広島地本事件(最判昭 50.11.28/百選Ⅱ〔150〕)
⇒p.381
事案: 労働組合が選挙にあたってした社会党支持・カンパ徴収決議等の有効性が争われた。
第2節
判旨:
人権享有主体性
第2款
法人の人権/71
労働組合は、労働者の経済的地位の向上を図ることを主たる目的とする団体であるから、
組合員の協力義務も当然にその目的達成のために必要な範囲に限られる。しかし今日、
組合の活動は政治・社会・文化活動など広く組合員の生活利益の擁護と向上に直接間接に
関係する事項にも及んでおり、これらを直ちに組合の目的の範囲外であるとはいえない。
だが他方で、これによって組合の統制の範囲も拡大され、組合員の市民又は人間としての
自由や権利と矛盾衝突する場合も拡大する。それゆえ、この点に関して格別の立法上の規
制がない場合でも、「具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる
協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員
個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力
義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である」。
そして、安保反対闘争という政治活動のための臨時組合費の徴収については、「本来、
各人が国民の一人としての立場において自己の個人的かつ自主的な思想、見解、判断
等に基づいて決定すべきことであるから、それについて組合の多数決をもって組合員を
拘束し、その協力を強制することを認めるべきではない」。
しかし、労働組合が実施した安保反対闘争により民事上・刑事上の不利益処分を受けた
組合員救援費の徴収については、「労働組合が共済活動として行う救援の主眼は、組織の
維持強化を図るために、被処分者の受けている生活その他の面での不利益の回復を経済的
に援助してやることにあり、処分の原因たる行為のいかんにかかわるものではなく、もと
よりその行為を支持、助長することを直接目的とするものではないから、右援助費用を拠
出することが直ちに処分の原因たる政治的活動に積極的に協力することになるものではな
く、また、その活動のよって立つ一定の政治的立場に対する支持を表明することになるも
のでもないというべきである。したがって、その拠出を強制しても、組合員個人の政治的
思想、見解、判断等に関係する程度は極めて軽微なものであって、このような救援資金に
ついては、……政治的活動を直接の目的とする資金とは異なり、組合の徴収決議に対する
組合員の協力義務を肯定することが相当である。」とした。
また、他の労働組合の闘争支援のための炭労資金の徴収については、「労働組合の目的
とする組合員の経済的地位の向上は、当該組合かぎりの活動のみによってではなく、広く
他組合との連帯行動によってこれを実現することが予定されているのであるから、それら
の支援活動は当然に右の目的と関連性をもつものと考えるべきであり、また、労働組合に
おいてそれをすることがなんら組合員の一般的利益に反するものでもないのである。それ
ゆえ、右支援活動をするかどうかは、それが法律上許されない等特別の場合でない限り、
専ら当該組合が自主的に判断すべき政策問題であって、多数決によりそれが決定された場
合には、これに対する組合員の協力義務を否定すべき理由はない。」とした。
72/第2編
◆
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
南九州税理士会政治献金事件(最判平 8.3.19/百選Ⅰ〔39〕)
事案:
公益法人である税理士会が、会員から政治献金の目的で特別会費を強制的に徴収す
ることが許されるかが争われた。
判旨:
税理士会は強制加入団体で、会員には脱退の自由もないのであるから、「様々の思
想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されて」おり、その
ため多数決原理に基づく税理士会の活動やそのための会員への協力義務の要請にも
「おのずから限界がある」。そして、「規正法上の政治団体に対して金員の寄付をす
るかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民と
しての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄」なの
で特別会費徴収の決議は無効である。
◆ 日弁連スパイ防止法反対運動事件控訴審判決(東京高判平 4.12.21)
→最高裁も、控訴審を支持した(最判平 10.3.13)
事案: 日弁連が、当時自民党が準備中であった「防衛秘密を外国に通報する行為等の防止に関
する法律案」(スパイ防止法案)に対して反対する旨の決議を行い、ニュースの配布等の
反対運動を行っていたが、日弁連の会員である弁護士が、法律案のように個人の思想、信
条、政治的立場により大きく意見の分かれる問題について総会における多数決で意思を決
定・表明することは日弁連の目的の範囲を逸脱するものである、として反対運動の差止め
等を求めた。
判旨: 「強制加入の法人の場合においては、弁護士である限り脱退の自由がないのであり、法
人の活動が、直接あるいは間接に会員である弁護士個人に利害、影響を及ぼすことがある
ことを考えるならば……公的法人であることをも考えると、特に特定の政治的な主義、主
張や目的に出たり、中立性、公正を損なうような活動をすることは許されない」。
しかし、弁護士法1条(基本的人権を擁護し、社会正義を実現することが弁護士の使命
であるとする)の使命が重大で、「弁護士個人の活動のみによって実現するには自ずから
限界があり、特に法律制度の改善のごときは個々の弁護士の力に期待することは困難であ
ると考えられること」等を考えあわせると、日弁連が「弁護士の右使命を達成するために、
基本的人権の擁護、社会正義の実現の見地から、法律制度の改善について、会としての意
見を明らかにし、それに沿った活動をすることは日弁連の目的と密接な関係を持つものと
して、その範囲内のものと解するのが相当である」。
本件についてみると、「本件法律案が構成要件の明確性を欠き、国民の言論、表現の自由
を侵害し、知る権利をはじめとする国民の基本的人権を侵害するものであるなど、専ら法理
論上の見地から理由を明示して法案を国会に提出することに反対する旨の意見を表明したも
のであ」り、特定の政治上の主義、主張のためになされたものでなく、団体としての中立性
も損なわないとして、本件決議は目的の範囲内の行為であると判示した。
◆ 群馬司法書士会復興支援金事件(最判平 14.4.25/H14 重判〔2〕)
事案: 群馬県司法書士会は、阪神・淡路大震災の被害を受けた兵庫県司法書士会に復興支援の
寄附(3,000 万円)をするために、会員から登記申請一件あたり 50 円の特別負担金を集め
第2節
人権享有主体性
第2款
法人の人権/73
る旨、臨時総会で決議した。これに対して、会員が、同決議の違法性を主張して、決議に
基づく債務の不存在確認を求めて提訴した。
判旨: 本件拠出金は、「司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資することを目
的とする趣旨のものであった」。「司法書士会は、……その目的を遂行する上で直接又は
間接に必要な範囲で、他の司法書士会との間で業務その他について提携、協力、援助等を
することもその活動範囲に含まれる」。「三〇〇〇万円という本件拠出金の額については、
それがやや多額にすぎるのではないかという見方があり得るとしても、阪神・淡路大震災
が甚大な被害を生じさせた大災害であり、早急な支援を行う必要があったことなどの事情
を考慮すると」、本件拠出金の寄付が直ちに司法書士会の目的の範囲外ということはでき
ない。司法書士会は、「本件拠出金の調達方法についても、それが公序良俗に反するなど
会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き、多数決原理に基づき自ら決定
することができる」。本件では、司法書士会が「いわゆる強制加入団体であること……を
考慮しても、……公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情があると
は認められない」。したがって、本件決議の効力は、司法書士会の会員である原告らに対
して及ぶ。
* 本件寄付が会の目的の範囲内とするには、寄付金の額が大きすぎる等を理由とする2名の反
対意見が付されている。
発展
3
法人に保障される人権の範囲のまとめ
法人については、性質上可能な限り人権が保障されると解されている。では、具体的に、いかなる人権が法
人に保障されるのであろうか。以下、法人に保障される人権、保障されない人権、保障されるか争いがある人
権に分類し、図表にまとめる。
<法人の人権のまとめ>
法人に
保障される人権
法人には
保障されない人権
法人に保障されるか
争いがある人権
①
法の下の平等
②
経済的自由権(財産権、営業の自由、居住移転の自由)
③
国務請求権(請願権、裁判を受ける権利、国家賠償請求権)
④
刑事手続上の諸権利(法定手続の保障、住居の不可侵、証人審問権、弁護人依頼
権)
①
生命や身体に関する自由(奴隷的拘束および苦役からの自由、逮捕・抑留・拘禁に
対する保障、拷問・残虐な刑罰の禁止)
②
生存権
③
選挙権、被選挙権
④
婚姻の自由
①
生命・自由・幸福追求権
②
精神的自由権……信教の自由、学問の自由、集会・結社・表現の自由、名誉権、プ
ライバシー件、環境権などは法人にも保障されると解されている
→博多駅TVフィルム提出命令事件(最大決昭 44.11.26)は、法人たる報道機関に報
道の自由の保障が及ぶとし、八幡製鉄事件(最大判昭 45.6.24)は、会社も自然人
同様、政治資金の寄付の自由を有するとした
発展
発展
74/第2編
基本的人権の保障
第1章
第3款
天皇・皇族の人権
基本的人権総論
発展
一
はじめに
天皇・皇族も日本の国籍を有する日本国民であるから、人権享有主体性が肯定される。ただし、皇位の世襲と
職務の特殊性から、必要最小限の特例が認められる。
この点、どのような人権がどの程度保障されるかについては、個別的な検討が必要である。たとえば、国政に
関する権能を有しない天皇には、選挙権・被選挙権等の参政権は認められないと解されるし、その他に、婚姻の
自由、財産権、表現の自由などに対する一定の制約も、天皇の地位の世襲制と職務の特殊性からして、合理的で
あると考えられている。
二
天皇・皇族の人権享有主体性の有無
天皇および皇族が、憲法第3章の人権享有主体としての「国民」に含まれるかどうかについては、以下のよう
な争いがある。
<天皇・皇族は第三章「国民」に含まれるか>
学説
内容
肯定説
(芦部説)
天皇・皇族ともに「国民」に含まれる
が、一般の国民と異なった扱いを受け
うる。天皇と皇族とでは、人権保障の
範囲に若干の違いがあることは当然で
ある
折衷説
(伊藤)
天皇と皇族とを分けて天皇は一般的に
は「国民」には入らないが、可能な限
り人権規定が適用される。皇族は当然
「国民」に入るが、皇位継承に関係の
ある限りで多少の変容を受ける
否定説
(佐藤幸)
天皇および皇族ともに「門地」によっ
て国民から区別された特別の存在であ
って、「国民」に含まれないが、世襲
の天皇制の維持にとって必要最小限度
のものを除き、一般国民とできるだけ
同様に扱われるべきである
理由
①
*
三
日本国憲法下では、明治憲法下のような皇族と臣
民との区別は存在しないはずである
② 「天皇は国民に含まれない」とすると、天皇につ
いての特別扱いを必要以上に大きくすることにな
り、妥当でない
③ 天皇が一般国民と異なった扱いを受けるのは、憲
法自身が認めている天皇の地位の世襲制ないし天皇
の象徴たる地位によるものである
① 天皇が国民として一般に人権を享有できるという
考え方は、天皇と他の公職との差異をあいまいに
し、立法によってその地位と矛盾する権利を与える
可能性を大きくする
② 皇族は、皇位継承の可能性をもつため人権に若干
の制約を受けるが、その制約はその限度でのみ区別
が認められるにすぎない
憲法は、近代人権思想の中核をなす平等理念とは異
質の、世襲の「天皇」を存続せしめているのであっ
て、現行法上、天皇・皇族に認められている特権・制
約は、憲法 14 条の合理的差別論では説明できない
上記学説は、理論構成においては異なるが、帰結については大きな差異はない。
保障される人権の範囲
具体的にいかなる人権が天皇・皇族に保障されるかについても、学説上争いがある。もっとも、ここでの学説
の結論は、天皇・皇族の人権享有主体性の有無に関する学説の結論とは論理必然ではない。
例えば、選挙権については、現行法上何ら規定はないが、多数説は天皇・皇族の選挙権は認められていないと
解している。そして、法律によって天皇に選挙権を認めることが憲法上許されるか否かについては、天皇が政治
から中立であるべき象徴であること(伊藤)、あるいは「国政に関する権能を有しない」(4)という天皇の地
位に反すること(佐藤功)を根拠に消極に解するのが多数説である。もっとも、「天皇が『象徴』であるのは天
皇の公の職務についてであって、天皇が国民の一人として選挙権をもつことと原理的に矛盾するものではない」
とする見解(宮沢)もある。
また、皇族に選挙権が認められていない点についても、合憲と解するのが一般である。もっとも、皇族は「た
だ皇位継承者の予備隊ないし天皇の親族として、一般国民と多かれ少なかれ違った取扱いを受けるに過ぎないか
ら、皇族に対しては、選挙権を認めることが憲法上是認されるばかりでなく、むしろ皇族に対して選挙権を与え
ないのは、法の下の平等に反する」という見解(宮沢)もある。
第2節
人権享有主体性
第4款
未成年者の人権/75
その他、特定の政党に加入する自由(21)、外国移住の自由・国籍離脱の自由(22)、職業選択の自由(22
Ⅰ)は天皇の象徴たる地位から認められず、また、学問の自由(23)や表現の自由(21)も一定の制約を受ける
ものと解されている。また、皇族男子の婚姻は皇室会議の議を経ることを要し(典 10)、一定の場合を除き財産
の授受に国会の議決を必要とする(8、皇経2)等の制約もある。
第4款
未成年者の人権
未成年者も人間である以上、当然に人権享有主体性を有する。ただし、未成年者は心身ともに
未だ発達の途上にあり、成年者に比べて判断能力も未熟であるため、一定の特別な制約に服する
ものと解されている。
⇒第4節
「第2款
パターナリスティックな制約」(p.107)
第3節 人権の妥当範囲
第1款
人権の妥当範囲総説
「人権の妥当範囲」とは、憲法の人権規定が「適用される範囲」のことである。ここでは人権の
享有主体性が肯定される者について、さらに憲法の人権規定の適用範囲が問題となる。
具体的には、個人と個人の間で、憲法が適用されるのか否かを決する「私人間効力」と呼ばれる
問題と、公務員等、一般国民とは異なった特別の法律関係に入ったときに人権規定の適用が変更さ
れるのか否かという「特殊的法律関係」と呼ばれる問題がある。
<人権の妥当範囲>
国
家
↑
《特殊的法律関係》
↓
公務員
↑
本来、人権はこの国家対個人(私人)の間で
↓
問題となった
個
個
人
人
←〈私人間効力〉→
76/第2編
基本的人権の保障
第2款
私人間効力
一
第1章
基本的人権総論
総論
たとえば、特定の思想をもつ社員を会社が解雇した場合に、憲法 19 条違反を理由として解雇の
無効、損害賠償を請求できるか。国家と個人の間を規律する憲法の規定を私人間に適用すべきかが
問題となる。
この点、憲法の人権保障の趣旨を全うするため、何らかの形で人権規定の価値を私人間にも及ぼ
す必要があるが、憲法を私人間に直接適用すると私的自治の原則を害することから、私法の一般条
項(民 34、90、709 等)を媒介として人権規定の価値を私人間にも及ぼすべきである(間接適用
説)とするのが、判例・通説である。
もっとも、私法の一般条項に人権規定の価値を充填して解釈する間接適用説は、その意味充填の
振幅が大きく、意味充填の程度によっては、人権規定の価値を私人間に全く及ぼさなかったり、あ
るいは人権規定の価値を私人間に直接適用するような結果を生じさせることもありうる。そこで、
制限されている人権の性質、当事者間の関係、人権制限の理由等を総合的に考慮して判断すべきで
ある。
冒頭の事例では、会社が特定の思想をもつことを理由に当該社員を解雇しているところ、社員に
は思想・良心の自由(19)が保障されており、当該思想が内心にとどまっている限りは絶対的に保
障されなければ個人の尊厳(13)を確保することができない。そして、これらの人権規定の価値を
公序良俗(民 90)・違法性(民 709)に充填すると、会社による社員の解雇は、憲法 19 条・13 条
の趣旨に反し、公序良俗違反かつ違法なものと認められる。よって、社員の公序良俗違反に基づく
解雇無効の主張、不法行為に基づく損害賠償請求は認められる。
*
近代憲法の伝統的概念によると、憲法によって保障される人権は専ら国家権力に対して国民の権
利・自由を守るものであると考えられていた。特に自由権は、「国家からの自由」として、国家に
対する防御権であると解するのが通例であった。
ところが、近代憲法における人権の観念は、新しい社会的事実の発生によって変遷をとげるので
ある。すなわち、資本主義の高度化に伴い、社会の中に、企業、労働組合、経済団体等の巨大な力
をもった公権力類似の私的団体が数多く生まれ、一般国民の人権が脅かされるという事態が生じた
のである。そこで、20 世紀の社会国家的憲法の先頭を切った 1919 年のワイマール憲法は、団結権が
私人間にも適用される旨規定し(159)、また、表現の自由が「労働関係または雇用関係」にも適用
されることを明らかにした(118)のである。
日本国憲法においても、15 条4項で投票の秘密に関して、私人間への適用を明文で認めている。
しかし、私人間への適用を明文で認めた規定は、これだけであるので、憲法の人権を私人間に実
質的に保障するために、立法府によって立法措置がとられることが重要である。例えば、労働基準
法は、使用者による労働者の人権侵害を禁止するために、憲法 14 条の法の下の平等を具体化する、
国籍、信条または社会的身分による差別的取扱いの禁止(労基3)および男女同一賃金の原則(労
基4)を規定する。また、憲法 15 条の選挙権を具体化する、労働時間中における選挙権その他公民
権行使の保障(労基7)や、憲法 18 条を具体化する、強制労働の禁止(労基5)も規定している。
第3節
*
人権の妥当範囲
第2款
私人間効力/77
なお、本文では私人間への適用を明文で認めたものは 15 条4項のみとなっているが、これは、性
質上、憲法の他の規定が直接適用されることを排除するものではない。佐藤幸治先生によれば、た
とえ無効力説に立ったとしても、15 条4項以外に、16 条、18 条、27 条3項、28 条などが直接適用
されるし、間接適用説に立っても、28 条、27 条3項、18 条、24 条は直接適用されるとしている。
また、芦部先生も、28 条・18 条などは、その趣旨・目的からして直接適用されるとしている。
◆
三菱樹脂事件(最大判昭 48.12.12/百選Ⅰ〔10〕)
事案:
私企業が労働者を雇い入れる際、思想信条に関する事項の申告を求め、申告内容が虚偽
であったことを理由として試用期間終了後の雇傭を拒否することが許されるかが争われた。
判旨:
憲法第3章の規定は、「もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであ
り、私人相互の関係を直接規律することを予定」せず、私的な人権侵害の態様、態度が社
会的許容限度を超えるときは、「場合によっては私的自治に対する一般的制限規定である
民法1条、90 条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、一面で私的自治の原
則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の
利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存する」。
二
私人間効力の具体例
1
女子若年定年制
◆
女子若年定年制事件(最判昭 56.3.24/百選Ⅰ〔12〕)
事案:
男子 55 歳、女子 50 歳を定年とする就業規則が憲法 14 条、民法 90 条に違反しないかが
争われた。
判旨:
「少なくとも 60 歳前後までは、男女とも、通常の職務であれば企業経営上要求される
職務遂行能力に欠けるところはなく、各個人の労働能力の差異に応じた取扱がされるのは
格別、一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないこと」から考
えると、「性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法 90 条の規定により無効
であると解するのが相当である」。
*
本事案において企業側は定年に男女差を設けることの合理性について、以下の主張をした。
①
女子従業員はおおむね単純業務に従事するから短期間で労働能率が頂点に達してそれ
以後向上しないのに、年功序列型賃金体系のために賃金は向上するから、賃金と労働能
率との不均衡が男子従業員よりも早く生ずる。
②
生理的機能水準が一般に女子は男子に劣り、同一機能水準に対応する年齢に開きがあ
って、水準低下が男子よりも早い。
③
他企業でも男女別定年制を設けている。
しかし、第1審判決・控訴審判決は、男女の平等が基本的な社会秩序をなしていること等
の事情に鑑み、定年における男女差別についてはその合理性の検討が強く求められるとして、
上記主張に対して以下のように判示した。
78/第2編
基本的人権の保障
①
第1章
基本的人権総論
男子従業員も単純作業や女子従業員と同種の作業に従事する者も多いし、女子の担当
職務の中には高度の技能・経験を要するものもあって、一概に女子は企業貢献度の低い
従業員とは断定できず、また賃金は男子よりも女子が低くおさえられているから賃金と
労働能率の不均衡が男子よりも早期に生ずるという根拠はない。
②
労働能率の対比を生理的機能だけで行うのは一面的で、本件では原告を含め大半の女
子従業員は生理的機能の影響の少ない業務に従事し、中・高年女子にも十分適応できる
仕事が数多くある。
③
他企業の男女別定年制の存在はその合理化理由とは無関係で、また統計上男女同一定
年制をとる企業が圧倒的に多数である。
最高裁も、第1審・控訴審の合理性判断を肯認したものである。
2
思想信条を理由とした採用の許否
◆
三菱樹脂事件(最大判昭 48.12.12/百選Ⅰ〔10〕)
事案:
私企業が労働者を雇い入れる際、思想信条に関する事項の申告を求め、申告内容が虚偽
であったことを理由として試用期間終了後の雇傭を拒否することが許されるかが争われた。
判旨:
憲法は、思想良心の自由、法の下の平等と同時に、「22 条、29 条等において、財産権
の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している」。よって、
企業者は、経済活動の一環として契約締結の自由を有し、営業のためいかなる者をいかな
る条件で雇うかにつき原則として自由である。従って、「企業者が特定の思想、信条を有
する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでもそれを当然に違法とすることはで
き」ないし、「労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその
者からこれに関連する事項についての申告を求めることも」違法ではない。
*
この判旨は、以下のように批判されている。
①
私的自治を重視しすぎるものであり、個人の精神的・人格的最低限の自由として重要
である思想良心の自由の保障に関して「無効力説」と変わらない。
②
企業者の「経済活動の自由」と「雇い入れの自由」の強調は、「直接適用」である。
③
憲法の社会・福祉国家観による勤労・生存権への配慮を欠くものであり、少なくとも、
使用者のなしうる労働者の思想信条に対する質問・調査は、労働者の職業的適格性や態
度に関するものを限度とすべきである。
このように、本判決は、人権価値を強調すれば直接適用説に近くなり、人身売買のような極
端な場合のみを公序違反とすれば無効力説に近くなるという間接適用説の振幅の問題が端的に
現れたものといえる。
3
政治活動を理由とした退学処分
◆
昭和女子大事件(最判昭 49.7.19/百選Ⅰ〔11〕)
事案:
大学の許可なくして政治活動を行ったことを理由として退学処分になった学生が、政治
活動に大学の許可が必要とする学則の適否を争った。
第3節
判旨:
人権の妥当範囲
第2款
私人間効力/79
大学は国、公、私立を問わず、教育と研究のための「公共的な施設」であり、特に私立
大学は、その独自性により「社会通念に照らして合理的」とみられる範囲で、学生の政治
活動に対して「かなり広範な規律を及ぼす」としても、直ちに社会通念上、不合理な制限
であるということはできない。
よって、実社会の政治活動を理由として退学処分を行うことが、「直ちに学生の学問
の自由および教育を受ける権利を侵害し公序良俗に違反するものではない」。
学生に対する懲戒処分は、教育上の見地から認められる学長の権限で、「学内の事情
に通暁し直接教育の衝にあたるものの合理的な裁量に任すのでなければ、適切な結果を
期しがたい」。本件退学処分は「冷静、寛容、及び忍耐を欠いたうらみ」があるが、な
お懲戒権の裁量の範囲内にあるものとして、その効力を是認すべきである。
*1
大学側の事情:①
私立大学の場合には、建学の精神、独自の校風を維持する必要があり、
学生はそれを承認して入学を希望していると推定される。
②
大学は研究、教育という目的を達成するための公共的な施設であり、
その設置目的達成のために大学側は学則を定めて、学生の行動を規制す
ることができる権能を有している。
③
学生に対する処分は、企業の職員、公務員の勤務関係の場合の懲戒と異
なり、教育的な意味をもつものであるから、訓戒から停学などの範囲にお
いては、大学当局者の自由な裁量が比較的、広範に認められる。
学生側の事情:志望者は建学精神よりも入学試験の難易度、将来性等を基準として大学
を選択している。
*2
本件判決は、憲法の私人間効力の問題のほかに、教育関係の法理も重視されるべきである。
そのうえで、退学処分は学生、生徒の身分を喪失させるものであるから、特に慎重な手続が
必要であり、少なくとも関係者の弁明の機会が確保されるべきことが必要である。
4
傾向企業
◆
日中旅行社事件(大阪地判昭 44.12.26/百選Ⅰ[第4版]〔33〕)
事案:
政治的傾向を有する企業Xにおいて、従業員Yらの政治的信条を理由とする解雇が許さ
れるかが争われた。
判旨:
憲法 14 条・労基法3条は、イデオロギーによる差別的取扱とイデオロギーを雇用契約
の要素とすることを禁ずるが、憲法 22 条によると傾向企業を営むことも認められるので、
この2つの憲法上の要請を充たすためには、「その事業が特定のイデオロギーと本質的に
不可分であり、その承認、支持を存立の条件とし、しかも労働者に対してそのイデオロギ
ーの承認、支持を求めることが事業の本質からみて客観的に妥当である場合に限って、そ
の存在を認められているものと解すべきである」。この場合、Xにはそういう本質的不可
分性が認められない。
したがって、政治的意見を理由とするYらの解雇は、事業に明白かつ現在の危害を及ぼ
す具体的危険が発生したと認められる場合は格別、そうでないかぎり憲法 14 条・労基法3
条に違反し、ひいては公序に反するものであるから民法 90 条によって無効である。
80/第2編
*
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
多数説は、いわゆる「傾向経営」を認めるのに批判的であり、特定の政治、宗教、慈善等の
精神的、理念的目的に奉仕する非営利団体、組織、事業等に限定し、イデオロギーが企業の
存立基盤であり、業務内容がイデオロギーと一体的関係をなす場合にのみ認められるとする。
それゆえ、本判決が傾向経営性を否定した姿勢は正当と評価されている。
発展
三
国家同視説(state action 理論)について
公権としての基本権は直ちに民法 709 条の「権利」とはいえないため、間接適用説によると、純然たる事実
行為に基づく私的な人権侵害行為が憲法による抑制の範囲外におかれてしまう場合がある。そこで、このよう
な事実行為に基づく人権侵害を憲法的に救済する方法として、アメリカ憲法判例で確立した国家同視説と呼ば
れる解釈理論が参考になる。
国家同視説とは、具体的な私的行為による人権侵害を、一定の場合に国家権力によるものと同視して憲法を
適用する理論である。例えば、公共施設の内部で食堂を経営している私人が黒人差別を行った場合や、一定の
独占的な特許を受けた公共事業的な企業が社員の権利を過度に制約した場合に憲法の適用があるとされる。連
邦最高裁の判例を大別すると、次のような場合に認められる。
⑴ 具体的な私的行為による人権侵害に、国家権力が、①公共施設等の国有財産の貸与、②財政・免税措置等
の援助、③特権または特別の権限の付与等を通じて、もしくは、④司法の介入により積極的に実現すること
を通じて、「きわめて重要な程度にまでかかわり合いになった」場合。
⑵ 当該私的行為の主体が高度に公的な機能を行使する団体である場合。
* ⑴を①国有財産の理論、②国家援助の理論、③特権付与の理論と類型化することも可能であるが、それぞ
れについていくつかの要件が重なり合ってステイト・アクションを構成すると考えられている。
四
国家・地方公共団体との関係が私人間効力の問題となる場合
1
国家と私人間効力
◆
百里基地訴訟(最判平元.6.20/百選Ⅱ〔172〕)
事案:
自衛隊百里基地建設のために土地を国が買い取る行為が、憲法に違反するか争われた。
(争点)
①
98 条1項の「国務に関するその他の行為」には私法上の行為も含まれるか。す
なわち、国が行った売買契約も、国務に関する売買契約であるから、9条に反す
るものとして、無効になるのか。
②
国との売買契約を仮に私人間で行われた私法上の行為と同視しうるものである
としても、憲法の平和主義ないし平和的生存権や憲法9条が直接適用されるので
はないか(私人間効力の問題)。
③
9条の平和主義、戦争放棄・戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範
は民法 90 条の「公ノ秩序」の内容の一部を形成するのではないか(間接適用され
るか)。
⑴
①について
判旨:
憲法 98 条1項にいう「『国務に関するその他の行為』とは」、「公権力を行使して
法規範を定立する国の行為を意味し」、したがって国の行為であっても「私人と対等
の立場で行う国の行為は、右のような法規範の定立を伴わないから」、憲法 98 条1項
にいう「国務に関するその他の行為」に該当しないものと解すべきである。
発展
第3節
*
人権の妥当範囲
第2款
私人間効力/81
判旨に対しては、次のような批判がある。
①
国の私法上の行為について 98 条1項の適用がないとすると、例えば、人種差別を含
む国の契約も、私人間適用の問題は残るにしても、本来の憲法の拘束外にあると捉え
ることになろうが、それでよいか。
②
公的行為と私法的行為の区別の基礎にある私的自治の原則は、自由権を保障する憲
法に根拠を有するが、国は自由権その他の人権の主体ではなく、私的自治を主張でき
る立場にない。
⑵
②について
判旨:
「平和とは、理念ないし目的としての抽象的概念であって、それ自体が独立として、
具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準になるといえず、また憲法9条は、
その憲法規範として有する性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的と
した規定ではなく、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるもので
はない」。よって、「実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないとい
えるような特段の事情がない限り、憲法9条の直接適用をうけず、私人間の利害関係
の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎない」。
*
判旨に対しては、次のような批判がある。
統治規定と人権規定の一般的関係がどうであれ、特定の憲法規定(18・28 等)は私法関
係において直接効力を有する。9条は、私法関係であっても、国の行為には直接適用され
ると考えられてきたのではないか。戦争・戦力にかかわる国の一切の行為が禁止されてい
るのであり、例えば、武器購入契約は私法的行為だから許されるというような理解はなか
ったものと思われる。本件で問題にされているのは、戦力の不可欠の構成要素である基地
のための土地売買契約である。
⑶
③について
判旨:
「憲法9条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治
活動に対する規範は、私法的な価値秩序とは本来関係のない優れて公法的な性格を有
する規範であるから、私法的な価値秩序において、右規範がそのままの内容で民法 90
条にいう『公ノ秩序』の内容を形成し、それに反する私法上の行為の効力を一律に否
定する法的作用を営むということはない」。「右の規範は、私法的な価値秩序のもと
で確立された私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範に
よって相対化され、民法 90 条にいう『公ノ秩序』の内容の一部を形成する」。
「したがって私法的な価値秩序のもとにおいて、社会的に許容されない反社会的な
行為であるとの認識が、社会の一般的な観念として確立しているか否かが、私法上の
行為の効力の有無を判断する基準になるものというべきである」。
82/第2編
基本的人権の保障
*
第1章
基本的人権総論
判旨に対しては、次のような批判がある。
判旨は「公の秩序」の判断基準として行為の反社会性に対する「社会の一般的な観念」
を要求するが、従来、「公の秩序」に関する判断においてこのようなことは要求されてこ
なかったのではないか。女子若年定年制事件における最判昭 56.3.24 では、女子若年定年
制が反社会的であるとの「社会の一般的な観念」が確立していなかったからこそ、裁判所
の責任で判断を下していたはずである。社会的観念を問題にするにしても、それは「ある
観念」と「あるべき観念」の複合体でなければならない。
2
地方公共団体と私人間効力
◆
とらわれの聴衆(最判昭 63.12.20/百選Ⅰ〔23〕)
事案:
大阪市営地下鉄車内における商業宣伝放送が乗客の人格権を侵害するものであるとして、
乗客が商業宣伝放送の差止めと慰謝料の支払を求めた。
判旨:
「大阪市営高速鉄道(地下鉄)の列車内における本件商業宣伝放送を違法ということは
でき」ない。
伊藤補足意見:
「本来、プライバシーは公共の場所においてはその保護が希薄とならざるをえ
ず……したがって、一般の公共の場所にあっては、本件のような放送はプライバ
シーの侵害の問題を生ずるものとは考えられない」。
「問題は、本件商業宣伝放送が……地下鉄の車内という乗客にとって目的地に
到達するため利用せざるをえない交通機関のなかでの放送であり、これを聞く
ことを事実上強制されるという事実をどう考えるかという点である」。「およ
そ表現の自由が憲法上強い保障を受けるのは、受け手の多くの表現のうちから
自由に特定の表現を選んで受けとることができ、また受けとりたくない表現を
自己の意思で受けとることを拒むことのできる場を前提としていると考えられ
る……。したがって、特定の表現のみが受け手に強制的に伝達されるところで
は表現の自由の保障は典型的に機能するものではなく、その制約を受ける範囲
が大きいとされざるをえない」。「このような聞き手の状況はプライバシーの
利益との調整を考える場合に考慮される一つの要素となる」。
「以上のような観点に立って本件をみてみると……なお……受忍の範囲をこえ
たプライバシーの侵害であるということはでき」ない。
*
公共交通機関が車内放送を行うとき、その利用者は、聞くことを拒否する自由を事実上有
しないという意味で、「とらわれの聴衆」と呼ばれる。
本事案における第一の問題点として「聞きたくない自由」の憲法上の根拠が問題となる。
①13 条の幸福追求権の一内容たる「静穏のプライバシー権」として保障する説
②19 条の思想・良心の自由で保障する説
→信条説(⇒第3章
第1節
「二
「思想及び良心」の意味」 p.173)に立つと、商
業宣伝放送が 19 条違反といえるかは疑問
③21 条の消極的情報受領権で保障する説
第二の問題点としては、本件に憲法が直接適用されるかである。
第3節
人権の妥当範囲
第3款
特殊的法律関係/83
すなわち、本件車内放送は市営地下鉄という公権力によるものであるが、前述の百里基地
訴訟判決は、国の行為であっても私人と対等の立場で行うものは憲法 98 条1項の「国務に関
するその他の行為」に該当しないとしており、このような立場による限り、地下鉄事業の私
企業性を強調すれば、本件車内放送に関して 13 条、19 条ないし 21 条を直接適用することは
できなくなる(もっとも、百里基地訴訟判決の射程範囲は必ずしも明らかでない)。
なお、いずれにせよ市営地下鉄は憲法上の人権享有主体ではありえないことに注意する必
要がある。
第3款
発展
一
特殊的法律関係
特別権力関係理論
1 はじめに
人は、国民たる地位に基づいて国または地方公共団体の統治権に服し、かつ人権を享有する「一般権力関
係」に立つ。これに対し、特定の国民が特別の原因(法律の規定またはその私人の同意)に基づいて国または
地方公共団体と特別の関係に立つ場合を「特別権力関係」と呼び、その「特別権力関係」においては、「一般
権力関係」とは異なった原則が支配すると説く理論を特別権力関係理論という。
その内容は、①法治主義が排除され、包括的支配権が認められる、②一般国民として保障される人権を法律
なくして制限することができる、③特別権力関係内部の行為については司法審査は及ばない、ということにあ
る。その具体例としては、在監者(便宜上、「刑事収容施設」に在る者のことをいう。以下同じ。)、公務員、
国立大学の学生、伝染病にかかって隔離入院されている者があげられる。
2
特別権力関係理論の肯否
現行憲法の下で特別権力関係理論はとりうるか。たとえば、公務員の政治活動の自由や労働基本権の制約が
法律なくして可能であり、それに対して司法審査が及ばないと解することはできるのであろうか。肯定する説
は、特別権力関係の下では包括的支配が可能であり、人権制限は法律なくして可能であり、司法審査は及ばな
いとする。しかし①人権は永久不可侵であり、②憲法は法の支配を採用しており、③公務員関係、在学関係、
在監関係など特別権力関係にある者の人権制限の根拠・目的・程度等はそれぞれ全く異なるので、それぞれの
法律関係において、いかなる人権が、いかなる根拠から、どの程度制約されるのかを具体的に明らかにするこ
とこそが重視されなければならず、全く異なる法律関係にある者を全て「公権力に服従している」という形式
的なカテゴリーによって同じ性質のものと一括して捉えるべきではない。よってこの理論は採用できないとす
るのが今日の通説である。
3
特別権力関係理論の修正
従来の特別権力関係理論においては、特別権力の主体は①法治主義の原則が排除され、命令権・懲戒権など
の包括的支配権を付与される。また、②それに服する者に対して法律の根拠なくして一般国民として保障され
る権利・自由を制限できる。さらに③特別権力関係内部の行為には原則として司法審査権は及ばないものとさ
れていた。
しかし、このような理論が、国民主権を基盤に、徹底した人権尊重と法治主義を採る日本国憲法の下で、そ
のままの形で妥当するものとは到底解し得ない。
そこで、特別権力関係という概念を維持しつつ、かかる権力関係においても基本的人権の保障が原則として
及び、その制限はかかる権力関係設定の目的を達成するため必要かつ合理的なものでなければならないと解す
る説も存在する。
このような説を、修正特別権力関係の理論という。
この説に対しても、通常の特別権力関係理論と同様に、特別権力関係とされる公務員関係・在学関係・在監
関係は全く性質の異なる法律関係であるから、これらを全て「公権力に服従している」という形式的なカテゴ
リーによって同じ性質のものと一括して捉えるべきではないとの批判があてはまる。
発展
84/第2編
二
1
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
公務員の人権
公務員の人権の制約根拠(公務員の人権総論)
<問題の所在>
特別権力関係を否定した場合、公務員の人権は何を根拠にどの程度制約されるのかを具体的に
検討しなければならない。
現行法においては、公務員の政治活動の自由や労働基本権につき、一般の国民とは異なる制限
が加えられているが、このような制限は憲法に反するか。反しないとすれば、いかなる根拠に
基づいて正当化できるのであろうか。
<考え方のすじ道>
↓この点
古い判例には、「全体の奉仕者」(15Ⅱ)を根拠とするものもある
↓しかし
不明確であり、抽象的な「公共の福祉」論と変わりがない
↓そこで
憲法が公務員関係の存在と自律性を憲法秩序の構成要素として認めている(15、73④)こと
に正当性を求めるべき
→公務員関係の存在と自律性の確保を図るために必要最小限度の範囲で一般国民の場合と異
なる制限が認められる
2
政治活動の自由の制約(公務員の人権各論1)
<問題の所在>
公務員の政治活動の自由はいかなる根拠によりどの程度制約されるか。たとえば、郵便局員
(民営化するまで国家公務員であった)による、選挙用ポスターの配布を禁止することは許さ
れるのであろうか(猿払事件参照)。
<考え方のすじ道>~猿払事件判例
公務員も「国民」(第三章)である以上、政治活動の自由を有する
↓もっとも
①
憲法が公務員関係の存在と自律性を憲法秩序の構成要素として認めている(15、73④)
②
公務員は国会の制定した法律に忠実に従って職務を執行せねばならず、このような職務
の中立性を確保する必要性は大きい
↓
一般国民とは異なった制約あり
↓すなわち
公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが
合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところ
第3節
人権の妥当範囲
第3款
特殊的法律関係/85
↓そこで
公務員に対する政治的行為の禁止が右の合理的で必要やむをえない限度にとどまるものか否
かを判断するにあたっては、①禁止の目的、②この目的と禁止される政治的行為との関連性、
③政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均
衡の3点から検討すべき
↓あてはめ
①
行政の中立運営とこれに対する国民の信頼を確保するため、公務員の政治的中立性を損
うおそれのある政治的行為を禁止することは、その目的は正当である
②
弊害の発生を防止するため、公務員の政治的中立性を損うおそれのある政治的行為を禁
止することは、禁止目的との間に合理的関連性があって、禁止が公務員の職種・職務権限、
勤務時間内外、国の施設の利用の有無等を区別することなく、あるいは行政の中立的運営
を直接具体的に損う行為に限定されていないとしても、合理的な関連性は失われない
③
その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、意見表明の自由が制約
されるが、単に行動の禁止に伴う限度で間接的、付随的な制約にすぎず、他面、禁止によ
り得られる利益は、公務員の政治的中立性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国
民の信頼を確保するという国民全体の共同利益なのであるから、得られる利益は、失われ
る利益に比してさらに重要なものであり、その禁止は利益の均衡を失うものではない
↓よって
選挙用ポスターの配布を禁止することは、合憲である
<考え方のすじ道>~反判例
公務員も「国民」(第三章)である以上、政治活動の自由を有する
↓もっとも
①
憲法が公務員関係の存在と自律性を憲法秩序の構成要素として認めている(15、73④)
②
公務員は国会の制定した法律に忠実に従って職務を執行せねばならず、かかる職務の中
立性を確保する必要性は大きい
↓
一般国民とは異なった制約あり
↓この点
判例(猿払事件)
①
禁止の目的(職務の中立性とこれに対する国民の信頼)の正当性
②
中立性確保という目的と制約の合理的関連性
③
制約によって保護される利益と侵害される利益の比較衡量
によって制約の許される範囲を決すべきとする
↓しかし
①
政治活動の自由は自己実現、自己統治の基礎となる重要な権利
②
民主政の過程の瑕疵は自己回復困難
86/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
↓とするならば
政治活動に対する制約は必要最小限であることが必要であり、LRAの基準を使うべき
↓しかも
その判断は公務員の職務が多様なことに考慮して、職務の種類、態様ごとに個別、具体的に
考えるべき
↓
国公法 110 条1項 19 号は、公務員の政治活動(同 102Ⅰ)について刑事罰を加えうることを
定めるが、懲戒処分など、より制限的ではない規制によっても十分に公務の中立性を確保す
ることができるので、選挙用ポスターの配布を刑事罰をもって禁止することは違憲である
<アドヴァンス>
◆
猿払事件(最大判昭49.11.6/百選Ⅰ〔13〕)
事案:
Xは、猿払村に勤務する郵政事務官であり、その職務には全くの裁量の余地がなか
った。昭和42年の衆議院議員選挙に際し、Xが、勤務時間外に国の施設を利用するこ
となく、自ら選挙用ポスターを掲示したり、選挙ポスターの掲示を依頼して選挙ポス
ターを配布したところ、国家公務員法102条及び人事院規則14-7に違反するとして同
法110条1項19号に基づき起訴された。
本件においては、公務員の政治活動を禁止する国家公務員法102条1項、人事院規則
14-7第5項3号・6項13号の規定が憲法21条に反するか、本件行為を処罰するのは違
憲かが争われた。
判旨:
「国公法102条1項及び規則による公務員に対する政治的行為の禁止が右の合理的で
必要やむをえない限度にとどまるものか否かを判断するにあたつては、禁止の目的、
この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得ら
れる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の3点から検討することが必要
である。そこで、まず、禁止の目的及びこの目的と禁止される行為との関連性につい
て考えると、もし公務員の政治的行為のすべてが自由に放任されるときは、おのずか
ら公務員の政治的中立性が損われ、ためにその職務の遂行ひいてはその属する行政機
関の公務の運営に党派的偏向を招くおそれがあり、行政の中立的運営に対する国民の
信頼が損われることを免れない。また、公務員の右のような党派的偏向は、逆に政治
的党派の行政への不当な介入を容易にし、行政の中立的運営が歪められる可能性が一
層増大するばかりでなく、そのような傾向が拡大すれば、本来政治的中立を保ちつつ
一体となつて国民全体に奉仕すべき責務を負う行政組織の内部に深刻な政治的対立を
醸成し、そのため行政の能率的で安定した運営は阻害され、ひいては議会制民主主義
の政治過程を経て決定された国の政策の忠実な遂行にも重大な支障をきたすおそれが
あり、このようなおそれは行政組織の規模の大きさに比例して拡大すべく、かくては、
もはや組織の内部規律のみによつてはその弊害を防止することができない事態に立ち
至るのである。したがつて、このような弊害の発生を防止し、行政の中立的運営とこ
れに対する国民の信頼を確保するため、公務員の政治的中立性を損うおそれのある政
第3節
人権の妥当範囲
第3款
特殊的法律関係/87
治的行為を禁止することは、まさしく憲法の要請に応え、公務員を含む国民全体の共
同利益を擁護するための措置にほかならないのであつて、その目的は正当なものとい
うべきである。
また、右のような弊害の発生を防止するため、公務員の政治的中立性を損うおそれ
があると認められる政治的行為を禁止することは、禁止目的との間に合理的な関連性
があるものと認められるのであつて、たとえその禁止が、公務員の職種・職務権限、
勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等を区別することなく、あるいは行政の中立
的運営を直接、具体的に損う行為のみに限定されていないとしても、右の合理的な関
連性が失われるものではない。
次に、利益の均衡の点について考えてみると、民主主義国家においては、できる限
り多数の国民の参加によつて政治が行われることが国民全体にとつて重要な利益であ
ることはいうまでもないのであるから、公務員が全体の奉仕者であることの一面のみ
を強調するあまり、ひとしく国民の一員である公務員の政治的行為を禁止することに
よつて右の利益が失われることとなる消極面を軽視することがあつてはならない。し
かしながら、公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為
を、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動の
もたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自
由が制約されることにはなるが、それは、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付
随的な制約に過ぎず、かつ、国公法102条1項及び規則の定める行動類型以外の行為に
より意見を表明する自由までをも制約するものではなく、他面、禁止により得られる
利益は、公務員の政治的中立性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信
頼を確保するという国民全体の共同利益なのであるから、得られる利益は、失われる
利益に比してさらに重要なものというべきであり、その禁止は利益の均衡を失するも
のではない。
以上の観点から……規則5項3号、6項13号の政治的行為をみると、その行為は、
特定の政党を支持する政治的目的を有する文書を掲示し又は配布する行為であつて、
政治的偏向の強い行動類型に属するものにほかならず、政治的行為の中でも、公務員
の政治的中立性の維持を損うおそれが強いと認められるものであり、政治的行為の禁
止目的との間に合理的な関連性をもつものであることは明白である。また、その行為
の禁止は、もとよりそれに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしたもので
はなく、行動のもたらす弊害の防止をねらいとしたものであつて、国民全体の共同利
益を擁護するためのものであるから、その禁止により得られる利益とこれにより失わ
れる利益との間に均衡を失するところがあるものとは、認められない。したがつて、
国公法102条1項及び規則5項3号、6項13号は、合理的で必要やむをえない限度を超
えるものとは認められず、憲法21条に違反するものということはできない」。
88/第2編
◆
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
プラカード事件(最判昭55.12.23/百選Ⅰ〔A2〕)
勤務時間外に職務または国の施設を利用することなく、メーデーにおける集団示威行進に
際して約 30 分間にわたり、特定の内閣に反対する政治目的を有するスローガンを記載した横
断幕を掲げて行進したことについて戒告の懲戒処分をなしても、憲法 21 条に違反するもので
はないことは、猿払事件最判の趣旨に徴して明らかである。
◆
東京高判平22.3.29/H22重判〔7〕
事案:
一般職公務員Xが休日に自宅周辺で政党ビラ配布行為をしたところ、政治的行為を
禁止する国家公務員法違反として起訴された。原審は有罪としたうえで、勤務時間外
の休日に職務と関係なく行った行為であって直ちに行政の中立性と国民の信頼を侵害
するものではなかったとして執行猶予付きの罰金 10 万円の刑を科したところ、Xは、
法令違憲、仮に法令は違憲でなくても適用違憲として無罪を主張して控訴した。
判旨:
「表現の自由は、民主主義国家の政治的基盤を提供し、国民の基本的人権の中でも重
要なものであるから、上記自由の一形態としての政治的活動ないし政治的行為をする自
由は国民の一員である国家公務員に対しても、可能な限り保障される必要がある。(国
家公務員法及び人事院規則による国家)公務員の政治活動の禁止は、対象とされる公務
員の職種や職務権限、勤務時間の内外等を区別することなく定められている上、政治的
行為の態様についても……過度に広範な規制とみられる面があることや、現在の国民の
法意識を前提とすると、公務員の政治的行為による累積的、波及的影響を基礎に据え、
上記禁止規定が予防的規制であることを強調する論理にはやや無理があると思われる面
があり、本件罰則規定を全面的に合憲とした猿払事件最高裁大法廷判決の審査基準であ
る、いわゆる『合理的関連性』の基準によっても全く問題がないとはいえないものがあ
る。(しかし、)過度の広範性ゆえに問題のある事例については、本件罰則規定の具体
的適用の場面で適正に対応することが可能であること等を考えると、本件罰則規定それ
自体が、直ちに、憲法 21 条1項及び 31 条に違反した無効なものと解するのは合理的で
ない」として法令違憲の主張を斥けた(適用違憲の主張については⇒第3編
第6章
第3節 第3款 四 「1 法令違憲と適用違憲」 p.666)。
◆
公務員による政党機関紙配布―堀越事件(最判平24.12.7/百選Ⅰ〔14〕)
事案:
社会保険庁の年金審査官として勤務していた管理職的地位にないXは、平成 15 年 11
月9日施行の衆議院議員総選挙に際し、日本共産党を支持する目的をもって、同党の
機関紙等を配布した。この機関紙等の配布行為が、国家公務員法 102 条1項等、人事
院規則 14-7等(以下、これらの規定を合わせて「本件罰則規定」という。)に当た
るとして起訴された。
原審は、Xの配布行為が本件罰則規定の保護法益である国の行政の中立的運営及び
これに対する国民の信頼の確保を侵害する危険性はまったく肯認できないため、本件
配布行為に本件罰則規定を適用することは、憲法 21 条1項及び 31 条に違反するとし
て、Xを無罪とした。
第3節
判旨:
人権の妥当範囲
第3款
特殊的法律関係/89
上告棄却(Xの無罪確定)
国家公務員法 102 条1項は、「公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することに
よって行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持することを目的と
する。」他方、「表現の自由(21 条1項)としての政治活動の自由」は、「立憲民主政
の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって、民主主義社会を基礎付ける重要な
権利である」。そのため、「公務員に対する政治的行為の禁止は、国民としての政治活
動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきものである。」
このような国家公務員法 102 条1項の目的や規制される政治活動の自由の重要性に
加え、同項の規定が刑罰法規の構成要件となることを考慮すると、「同項にいう『政
治的行為』とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なも
のにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し、同
項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが
相当」である。そして、その委任に基づいて定められた人事院規則 14-7第6項7号、
13 号(5項3号)も、「公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的
に認められるものを当該各号の禁止の対象となる政治的行為と規定したもの」である。
公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるかどうかは、
「当該公務員の地位、その職務の内容や権限等、当該公務員がした行為の性質、態様、
目的、内容等の諸般の事情を総合して判断する」。
そして、本件罰則規定が 21 条1項、31 条に違反するかは、「本件罰則規定の目的の
ために規制が必要とされる程度と、規制される自由の内容及び性質、具体的な規制の
態様及び程度等」を較量して判断される。
本件罰則規定の目的である「公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することに
よって行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持すること」は、
「議会制民主主義に基づく統治機構の仕組みを定める憲法の要請にかなう国民全体の
重要な利益」である。そして、「公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれ
が実質的に認められる政治的行為を禁止することは、国民全体の上記利益の保護のた
めであって、その規制の目的は合理的であり正当なものといえる。」他方、「本件罰
則規定により禁止されるのは、民主主義社会において重要な意義を有する表現の自由
としての政治活動の自由ではある」が、禁止の対象とされるのが「公務員の職務の遂
行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為に限られ、このよ
うなおそれが認められない政治的行為」が禁止されるものではないから、その「制限
は必要やむを得ない限度」にとどまる。したがって、「本件罰則規定は、不明確なも
のとも、過度に広汎な規制であるともいえない」。よって、本件罰則規定は 21 条1項、
31 条に違反しない。
90/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
本件配布行為が本件罰則規定の構成要件に該当するかを検討するに、Xによる本件
配布行為は、「管理職的地位になく、その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務
員によって、職務と全く無関係に、公務員により組織される団体の活動としての性格
もなく行われたものであり、公務員による行為と認識し得る態様で行われたものでも
ないから、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる
ものとはいえない。そうすると、本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当しな
い」。
<問題の所在>
管理職的地位にない公務員Xが、衆議院議員総選挙に際し、政党の機関紙を配布したと
ころ、同行為を禁止している国家公務員法、人事院規則(以下「本件罰則規定」とい
う。)に違反するとして起訴された。本件配布行為を禁止することは許されるのであろう
か。
<考え方のすじ道>~堀越事件判例
⑴
本件罰則規定は、公務員の政治活動の自由に対する過度に広汎な規制であり、かつ、
規制の目的手段も相当でないことから、21 条1項、31 条に違反するか
↓
①国家公務員法 102 条 1 項は、行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼
を維持することを目的とし、②他方、表現の自由(21Ⅰ)としての政治活動の自由は、
民主主義社会を基礎付ける重要な権利である
↓よって
公務員に対する政治的行為の禁止は、必要やむを得ない限度にその範囲が画される。
↓すなわち
国家公務員法 102 条 1 項の「政治的行為」とは、公務員の職務遂行の政治的中立性を損
なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認
められるものを指し、同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任
したもの
↓そうすると
本件罰則規定に係る当該規則は、公務員の職務遂行の政治的中立性を損なうおそれが実
質的に認められるものを禁止対象となる政治的行為と規定したものと解される
↓ところで
本件罰則規定が 21 条1項、31 条に違反するか否かは、本件罰則規定の目的のために規
制が必要とされる程度と、規制される自由の内容及び性質、具体的な規制の態様及び程
度等を較量して判断される
↓あてはめ
①
本件罰則規定の目的は、前記のとおり行政の中立的運営を確保し、これに対する
国民の信頼を維持することであり、規制目的は合理的であり正当といえる
第3節
②
人権の妥当範囲
第3款
特殊的法律関係/91
他方、禁止されるのは、民主主義社会において重要な意義を有する表現の自由と
しての政治活動の自由であるが、禁止対象は上記のとおり限定されているから、そ
の制限は必要やむを得ない限度にとどまり、目的達成のために必要かつ合理的な範
囲といえる
③
上記解釈によれば、本件罰則規定が不明確とも、過度に広汎な規制ともいえない
④
禁止行為に対して、懲戒処分のみでなく、刑罰を科すことも制度として予定され
ているが、これをもって直ちに必要かつ合理的なものであることが否定されるもの
ではない
↓よって
本件罰則規定は、憲法 21 条1項、31 条に違反しない
↓では
⑵
本件配布行為が、本件罰則規定の構成要件に該当するか
↓あてはめ
本件配布行為は、管理職的地位になく、裁量の余地のない公務員によって、職務と無
関係に団体としての活動としての性格もなく行われたもので、公務員による行為と認
識し得る態様で行われたものではなく、政治的中立性を損なうおそれが実質的に認め
られるものとはいえない
↓したがって
本件配布行為は、構成要件に該当せず、無罪である
◆
寺西判事補事件(最決平 10.12.1/百選Ⅱ〔183〕)
事案:
裁判官Xは、ある法案に反対する政治集会にパネリストとして招かれた。Aは、当
該集会において、会場の一般席から、自分の身分を明らかにした上で、「当初、この
集会にパネリストとして参加する予定であったが、事前に裁判所長から警告を受けた
ため、パネリストとしての参加は取りやめた。自分としては、仮に法案に反対の立場
で発言しても、裁判所法 52 条1号に定める『積極的に政治運動をすること』にあたる
とは考えないが、パネリストとしての発言は辞退する。」旨、公言した。そこで、Y
高等裁判所は、Xの集会における発言が裁判所法 52 条1号の禁止する「積極的に政治
運動をすること」にあたることを理由として、Xを懲戒処分にした。
決旨:
三権分立主義のもとでは、司法権を担う裁判官に中立性・公正性が要請され、私人
としての行為であっても、政治的な勢力にくみするなら、「当該裁判官に中立・公正
な裁判を期待することはできないと国民から見られるのは、避けられない」。「身分
を保障され政治的責任を負わない裁判官が政治の方向に影響を与えるような行動に及
ぶことは……裁判の存立する基礎を害し……立法権や行政権に対する不当な干渉、侵
害にもつながる」。
92/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
「『積極的に政治運動をすること』とは、組織的、計画的又は継続的な政治上の活
動を能動的に行う行為であって、裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがある
ものが、これに該当すると解され、具体的行為の該当性を判断するに当たっては、そ
の行為の内容、その行為の行われるに至った経緯、行われた場所等の客観的な事情の
ほか、その行為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決するの
が相当である」。
たしかに、積極的な政治運動の禁止は、意見表明の自由を制約するが、「それは単
に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎず、かつ、積極的に政治運
動をすること以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではない」。
裁判官Xの言動は、本件法案を廃案に追い込むことを目的とした反対運動を積極的に
支援するものであり、「裁判官の職にある者として厳に避けなければならない行為と
いうべきであって、裁判所法 52 条1号が禁止している『積極的に政治運動をするこ
と』に該当する」。
3
労働基本権の制約(公務員の人権各論2)
<問題の所在>
公務員の労働基本権はいかなる根拠によりどの程度制約されるか。たとえば、国家公務員から
なる労働組合が争議行為を指示した場合に、公務員の争議行為を一律に禁止し、違反した場合
に刑罰を科す法律の合憲性が問題となる(全農林警職法事件参照)。
<考え方のすじ道>~全農林警職法事件判例
憲法 28 条の労働基本権の保障は公務員にも及ぶ
↓他方
公務員の使用者は国民全体であり、公務提供義務は国民全体に対して負うため、①公務員の
地位の特殊性と②職務の公共性を有する
↓そこで
公務員の労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由
がある
↓
①
勤務条件は法律、予算により決定されるので、政府に対する争議行為は議会制民主主義
に背馳する
②
私企業と異なり、ロックアウトで争議行為に対抗できず、市場抑制が働かない
③
人事院といった代償措置が存在している
↓よって
公務員の争議行為を一律禁止していることは、合憲である
第3節
人権の妥当範囲
第3款
特殊的法律関係/93
<考え方のすじ道>~反判例
公務員も、労務を提供して賃金を得る者だから「勤労者」(28)にあたる
↓
憲法 28 条の労働基本権の保障は公務員にも及ぶ
↓もっとも
憲法が公務員関係の存在と自立性を憲法秩序の構成要素として認めている(15、73④)こと
から、一般国民と異なった取扱いをすること自体は認められる
↓この点
判例(全農林警職法事件)
①
職務の公共性、特殊性
②
勤務条件法定主義=議会制民主主義
③
団体交渉における市場の抑制欠如論
④
代償措置論
から、公務員の争議行為を一律に禁止し、違反した場合に刑罰を科す法律を合憲とする
↓しかし
①
職務の公共性は広義の公務員一般の職務遂行の指導理念にすぎない
②
議会による決定のプロセスにおける利害関係人の介入を排除するのは妥当でない
③
世論による抑止力がはたらく
④
代償措置あれば制限しうるとするのは妥当でない
↓確かに
公務員の労働基本権は、職務の公共性(職務の停滞により国民生活に重大な支障をもたらさ
ないようにすること)により、一般国民の場合と異なる一定の制限を受けざるを得ない
↓しかし
労働基本権は、勤労者を使用者と対等の立場に立たせ、その生活基盤を強固にするために不
可欠の権利
↓とすれば
その制約の合憲性は、目的が重要で、かつ、目的と手段との間に実質的関連性がある場合に
合憲であるという基準(厳格な合理性の基準)によって判断すべき
↓あてはめ
目的:職務の公共性→重要
手段:一律に禁止する必要はなく、公務員の職種、争議行為の時間等に応じた制約は可能
↓
目的と手段との間に実質的関連性はなし
↓よって
公務員の争議行為を一律に禁止し、これに違反した場合に刑罰を科す法律は違憲
94/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
<アドヴァンス>
◆
全逓東京中郵事件(最大判昭 41.10.26/百選Ⅱ〔144〕)
労働基本権は、公務員も原則その保障を受けることができる。憲法 15 条に基づく「全体の
奉仕者」論に立脚して公務員の労働基本権を「すべて否定するようなことは許されない」。
ただし、労働基本権の保障も絶対無制約ではなく国民生活全体の利益の保障という見地か
らの内在的制約を受ける。そして、その制限は、
①「合理性の認められる必要最小限のものにとどめなければなら」ず、
②
職務の停廃が「国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを
避けるために必要やむを得ない場合に限られるべきであ」る。
③
また、「違反者に対して課せられる不利益については、必要な限度をこえ」てはなら
ず、刑罰は「必要やむを得ない場合に限られるべきであ」る。
④
さらに、労働基本権を制限することがやむを得ない場合には「これに見合う代償措
置」が必要である。
◆
都教組事件(最大判昭 44.4.2/百選Ⅱ〔145〕)
地公法 37 条1項、61 条4号を文字どおり解釈し一切の争議を禁止するものとすれば必要や
むを得ない限度の制約を超えるものとして「違憲の疑を免れない」。しかし、「法律の規定
は、可能なかぎり、憲法の精神にそくし、これと調和しうるよう、合理的に解釈されるべき
もの」である。そのように考えた場合、違法性の弱い争議行為については地公法にいう「争
議行為に該当しないと判断すべき」である。また、刑罰が科されるあおり行為についても
「争議行為に通常随伴して行われる行為のごときは、処罰の対象とされるべきものではな
い」。
*
合憲限定解釈による二重の絞り論(都教組事件)の説明。
⇒「4
労働基本権の制約に
関する諸判例」(p.95)
◆
全農林警職法事件(最大判昭 48.4.25/百選Ⅱ〔146〕)
「公務員は、公共の利益のために勤務するものであり、公務の円滑な運営のためには、そ
の担当する職務内容の別なく、それぞれの職場においてその職責を果たすことが必要不可欠
であって、公務員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性および職務の公共性と相容れ
ないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃は勤労者を含めた国民
全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはその虞がある」。よって、公務員の「労働
基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由がある」。
公務員の勤務条件は国会の制定した法律、予算によって定められるから公務員が政府に対
して争議行為を行うことは「憲法の基本原則である議会制民主主義に背馳し、国会の議決権
を侵す虞れすらなしとしない」。また、私企業においては過大な要求は企業そのものの存立
を危殆ならしめるから労働者の要求は制約をうけるが、公務員の場合にはそのような制約は
ない。さらに、公務員の「労働基本権を制限するにあたっては、これに代わる相応の措置が
講じられなければならない」が、現行法による諸制度は十分といえる。よって、公務員の争
議行為を一切禁止した国家公務員法 98 条5項(改正前)、及び、同法 110 条1項 17 号は合
憲である。
第3節
◆
人権の妥当範囲
第3款
特殊的法律関係/95
全逓名古屋中郵事件(最大判昭 52.5.4/百選Ⅱ〔147〕)
公務員についての全農林警職法事件(最大判昭 48.4.25)の考え方を公共企業体の職員につ
いても及ぼした。
◆
岩教組学テ事件(最大判昭 51.5.21/百選Ⅱ〔148〕)
国家公務員についての全農林警職法事件(最大判昭 48.4.25)の考え方を地方公務員につい
ても及ぼした。
発展
4
労働基本権の制約に関する諸判例
⑴ 二重の絞り論(都教組事件判例)の紹介
<二重の絞り論>
争議行為の違法性
あおり
行為の
違法性
弱
強
弱
A
B
強
C
D
争議行為と「あおり行為」をした者を処罰する規定がある
↓
文言をそのまま適用すれば本来ABCD(上記表参照)いずれかの行為をした者はすべて処罰されるはず
↓しかし
これではあまりにも広い範囲で憲法 28 条の保障する労働基本権を制限し、必要最小限とはいえなくなり、
その結果当該法律は違憲となってしまう
↓そこで
その法律を合憲としながら被告人の人権を保障する方法を考えた
=合憲限定解釈:形式的にはABCDすべて処罰する法律のように見えるが、法はDのみを処罰する趣旨で
あると限定的に解釈する
→このように解釈してはじめてその法は合憲といえる
↓そして
被告人の行為はBにあたり、限定解釈した構成要件であるDにはあたらないから無罪とした
96/第2編
⑵
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
判例の変遷
<公務員の労働基本権の制約に関する判例の変遷>
判例
特徴
学説の批評
政令 201 号事件
労働基本権の制限として、13 条の文
言をほとんどそのまま引用して、28 条
によって保障される権利が「公共の福
祉」のために制限されると判示。
この時期の最高裁判例は、内容が不明確
で抽象的な公共の福祉論によって、労働基
本権の制限を合憲と判断している。このよ
うな立場では、人権と公共の福祉との衡量
といっても、つねに人権より公共の福祉が
優先するという一方的な合憲の論理のみが
抽出されることになり、比較衡量の名に値
しないものである。
(最大判昭 28.4.8)
政令 201 号事件を踏襲。
国鉄三鷹事件
(最大判昭 30.6.22)
国鉄檜山丸事件
(最判昭 38.3.15)
和教組事件
(最大判昭 40.7.14)
全逓東京中郵事件
(最大判昭 41.10.26/
百選Ⅱ〔144〕)
政令 201 号事件を引用して公共の福
祉による労働基本権の制限を認めなが
ら、他方で、「制限の程度は勤労者の
団結権等を尊重すべき必要と公共の福
祉を確保する必要とを比較衡量して、
両者が適正な均衡を保つことを目的と
して決定されるべきである」として比
較衡量論を採用。
昭和 40 年代にはいって、最高裁は、憲
法 12 条・13 条を根拠とした「公共の福祉
論」から、人権保障によって得られる利益
と、それを制約することによって確保され
る利益を衡量して結論を引き出そうとす
る、「比較衡量論」ないし「利益衡量論」
の立場を採るようになる。
もっとも、和教組事件については、この
判決の比較衡量論が立法裁量論と結びつい
て、立法府の裁量を広く認めたことは、公
共の福祉論と同質的であると批判されてい
る。
公共の福祉を根拠にすることなく、
内在的制約にその根拠を求める。その
うえで労働基本権の違憲審査基準とし
て、必要最小限度の原則を採用し、代
替措置等を要求する。
左のように、必要最小限度の原則を用い
つつ、代替措置等を要求することによって
必要最小限度の原則を実効性ある基準にし
たことによって、学説から高い評価を受け
た。
都教組事件
全逓東京中郵事件を基本的に踏襲。
(最大判昭 44.4.2/百
選Ⅱ〔145〕)
全司法仙台事件
(最大判昭 44.4.2)
①
全農林警職法事件
(最大判昭 48.4.25/百
選Ⅱ〔146〕)
再び制限の根拠として 13 条の公共
の福祉論を用いる。
「労働基本権は、『勤労者の経済
的地位向上のための手段として認め
られたものであって、それ自体が目
的とされる絶対的なものではないか
ら、おのずから勤労者を含めた国民
全体の共同利益の見地からする制約
を免れないものであり、このことは
憲法 13 条の規定の趣旨に徴しても疑
のないところである』」。
② 他方、労働基本権の保障と、「国
民全体の共同利益」との均衡を図る
ことが憲法上の要請であるとして、
比較衡量論そのものの放棄はしてい
ない。
一応比較衡量論の立場を採ることによっ
て全逓東京中郵事件判決を維持する外見を
採りながら、それ以前の公共の福祉論と実
質的にほとんど異ならない。
発展
第3節
人権の妥当範囲
三
在監者(刑事収容施設被収容者)の人権
1
はじめに
第3款
特殊的法律関係/97
①特別権力関係を否定する以上、在監者(*)に対する人権制限には具体的な法律の根拠が必要
となる。また②刑務所内の内部規律維持のための管理者の裁量行為も、その限度を超える場合に
は司法救済を求められる。さらに③在監者の人権を何を根拠にどの程度制約しうるのかは具体的
に検討しなければならない。
*
「監獄法」は、平成 17 年に改正され、「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」となり、
さらに平成 18 年に改正され、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」となった
(以下、「刑事収容法」という)。したがって、「監獄」はなくなったのであるから、厳密に
は「在監者」という言葉は適切ではない。しかし、議論の内容に影響はないので、判例紹介等
の便宜上、以下では、従来の用語法に従う。
<在監者の分類>
未決勾留
起訴前(被疑者)
起訴後(被告人)
在監者
判決確定後
自由刑
死刑
2
在監者の人権制約の根拠(在監者の人権総論)
<問題の所在>
現行法は、在監者の人権につき、一般の国民とは異なる制限を加えているが、このような制限
は、いかなる根拠に基づいて正当化できるのであろうか。
例えば、後記よど号ハイジャック記事抹消事件(最大判昭 58.6.22/百選Ⅰ〔16〕)では、新
聞を定期購読していた被疑者に対し拘置所長が特定の記事を墨で塗りつぶして配布することが
許されるのかが問題となった。
98/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
<考え方のすじ道>
憲法自体が在監関係の存在とその自律性を認めていること(18、31)から、在監者について
一般国民とは異なる制限を加えることが認められる
↓そして
在監関係を維持し、その目的を達成するために合理的にして必要最小限の範囲で、一般国民
の場合と異なる人権制約を憲法は許容していると考えられる
↓
必要最小限の制約か否かは、制限の必要性の程度と、制限される基本的人権の内容、これに
加えられる具体的制限の態様を考慮して決することになる
<アドヴァンス>
◆
よど号ハイジャック記事抹消事件(最大判昭 58.6.22/百選Ⅰ〔16〕)
事案:
勾留されている在監者Xは私費で新聞を定期購読していたところ、東京拘置所の所
長は「よど号」乗っ取り事件に関する記事を墨で塗りつぶしてXに配布した。そこで
Xが処分の違法性を主張し国家賠償を求めた。
判旨:
未決勾留されている者は、「当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては、原則と
して一般市民としての自由を保障される」ので、「監獄内の規律及び秩序の維持のた
めにこれら被拘禁者の新聞紙、図書等の閲読の自由を制限する場合においても」、
「右の目的を達するために真に必要と認められる限度にとどめられるべき」である。
したがって、「右の制限が許されるためには、当該閲読を許すことにより右の規律及
び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、被拘禁者の
性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該新聞紙、図書等の内容その他の具体的
事情のもとにおいて、その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置
することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要
であり、かつ、その場合においても、右の制限の程度は、右の障害発生の防止のため
に必要かつ合理的な範囲にとどまるべき」である。
3
在監者に対する閲読自由制限の合憲性(在監者の人権各論1)
<問題の所在>
在監者の人権制限はどこまで許されるであろうか。例えば、前記よど号ハイジャック記事抹消
事件(最大判昭 58.6.22/百選Ⅰ〔16〕)では、未決拘禁者の新聞紙・図書等の閲読の自由を制
限する監獄法 31 条2項、同施行規則 86 条1項(法律・規則ともに現在では廃止)の合憲性が
問題となった。
*
刑事収容法においても書籍等(書籍、雑誌、新聞紙その他の文書図画(信書を除く))の
閲覧を禁止することが認められているため(33Ⅰ⑤、70Ⅰ)、在監者の閲読の自由は現在でも
問題になると考えられる。
第3節
人権の妥当範囲
第3款
特殊的法律関係/99
<考え方のすじ道>~よど号ハイジャック記事抹消事件判例
未決勾留者には原則として一般市民としての自由が保障されるため、制約は、監獄内の規律及
び秩序維持という目的達成のため真に必要な限度にとどめるべきである
↓
具体的には、閲読を許すことにより監獄内の規律および秩序の維持にとって障害が生じる相当
の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ制限の程度は、障害発生防止のために必
要かつ合理的な範囲にとどまるべき
↓
⑴
処分の根拠規定の合憲性
上記制約の根拠規定は、上記範囲内でのみ閲読の制限を許す旨を定めたものと解されるた
め憲法に反しない
⑵
処分の合憲性
相当な蓋然性が存するかどうか、防止するためにどのような内容、程度の制限措置が必
要かについては、監獄長の裁量的判断による
↓
在監者Xに対し、新聞記事の閲読を許した場合、拘置所内の静穏が攪乱され、所内の規律及び
秩序の維持の放置することができない程度の障害が生ずる相当な蓋然性があるとした所長の判
断に裁量の逸脱濫用はない
<考え方のすじ道>~反判例
制約の根拠については、憲法自体が在監関係の存在とその自律性を認めているところ(18、
31)に求めるべきである
↓すなわち
在監関係を維持し、その目的を達成するために合理的にして必要最小限の範囲で、一般国民
の場合と異なる人権制約を憲法は許容していると考えられる
↓
必要最小限の制約か否かは、制限の必要性の程度と、制限される基本的人権の内容、これに
加えられる具体的制限の態様を考慮して決することになる
↓この点
判例は、「監獄内の規律及び秩序の維持のためにこれら被拘禁者の新聞紙、図書等の閲読の
自由を制限する場合においても」、「右の目的を達するために真に必要と認められる限度に
とどめられるべき」であって、「具体的事情のもとにおいて、その閲読を許すことにより監
獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があ
ると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、右の制限の程度は、右の障
害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべき」とする
↓しかし
本件で問題とされる閲読の自由は、表現の自由として 21 条1項によって保障されている
100/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
↓
①表現の自由は、自己実現・自己統治の基礎となる重要な権利
②民主政の過程の瑕疵は自己回復困難
↓とするならば
閲読の自由に対する制約の合憲性は、①目的が正当か、②より制限的でない他の選びうる手
段があるか、というLRAの基準を用いて判断すべき
↓あてはめ
目的:罪証隠滅、逃亡防止という目的は正当
手段:監獄法施行規則等は、包括的に一律制限するかのような文理となっているが、在監目
的達成のために必要やむをえないと認められる場合にのみ制限を許す旨を規定したも
のと解するのが相当
→より制限的でない他の選びうる手段はなく、当該規定自体は 21 条1項に違反するも
のではない
*
よど号ハイジャック記事抹消事件のような事案では、処分の根拠規定たる法律・規則の
合憲性と処分それ自体の合憲性双方が問題となりうることに注意すること。
<アドヴァンス>
⑴
明白かつ現在の危険の基準を用いる見解(大阪地判昭 33.8.20)
拘置所からの逃亡の防止と拘置所の規律及び秩序の維持に明白かつ現在の危険が生ずるこ
とが予見される場合に限り、制限が認められる。
⑵
相当の具体的蓋然性の基準を用いる見解(判例)
拘置所内における規律・秩序が放置できない程度に害される相当の具体的蓋然性が予見さ
れる場合に限り、制限が認められる。
(理由)
逃亡と罪証隠滅の防止・監獄内の紀律及び秩序が害される抽象的なおそれでは足りない
が、明白かつ現在の危険までは要求すべきでない。
⑶
LRAの基準を用いる見解(芦部)
人権制約の目的が合理的であり、かつその目的を達成するために「より制限的でない他の
選びうる手段」(LRA)が認められない場合に、制限が認められる。
(理由)
監獄の特殊性を考慮に入れる必要がある。しかし他方で、表現の自由のような精神的自
由権の制限については、その優越的地位から、取締の便宜が不当に重視されるのを防ぐた
め、必要最小限度性を強調すべきである。
*
前記よど号ハイジャック記事抹消事件判決(最大判昭 58.6.22/百選Ⅰ〔16〕)は⑵の見解
を採ったものと考えられるが、同判決のいう「相当の蓋然性」は、「かなり厳格な基準」で、
⑶の「より制限的でない他の選びうる手段」の基準と実質的に同趣旨といえる(芦部・憲法
学Ⅱ・276 頁)。
第3節
4
人権の妥当範囲
第3款
特殊的法律関係/101
喫煙を禁止する処分の合憲性(在監者の人権各論2)
<問題の所在>
拘置所長が未決拘禁者Yに対し拘置所内における喫煙を禁止した。このような拘置所長の処分
は許されるか。
<考え方のすじ道>
喫煙の自由:13 条の自己決定権として保障される
↓
在監者については、一般国民と異なる制約を受ける
∵
憲法自体が在監関係の存在とその自律性を認めている(18、31)
↓
在監関係を維持し、その目的を達成するために合理的にして必要最小限の範囲で、一般国民
の場合と異なる人権制約を憲法は許容していると考えられる
↓
必要最小限の制約か否かは、制限の必要性の程度と、制限される基本的人権の内容、これに
加えられる具体的制限の態様を考慮して決することになる
↓
喫煙の自由は自己決定権という重要な権利
↓
LRAの基準によるべき
↓あてはめ
目的:火災発生による逃亡防止等にあり正当
手段:時間と場所を制限し、監視の下で喫煙を認めるというより制限的でない他に選びうる
手段がある
↓
拘置所長の処分は違憲
*
後記最大判昭 45.9.16(百選Ⅰ〔15〕)の事案では、喫煙禁止の根拠が監獄法施行規則であっ
て、法律の根拠を欠くことも問題となったが、刑事収容法では、酒類を除く嗜好品の支給(40
Ⅱ)及び使用許可(41Ⅰ④)について明文で規定されているため、現在ではこの点については
問題とならない。
なお、同法は、「受刑者以外の被収容者(未決拘禁者)」については、嗜好品の使用を許可
することを原則としている(41Ⅱ)。
<アドヴァンス>
◆
被拘禁者の喫煙禁止(最大判昭 45.9.16/百選Ⅰ〔15〕)
事案:
勾留されている在監者に対して喫煙を禁止する監獄法施行規則 96 条(現在では廃
止)が違憲であるかが争われた。
102/第2編
基本的人権の保障
判旨:
第1章
基本的人権総論
未決勾留は「逃走または罪証隠滅の防止を目的として」行われるが、監獄内におい
ては「その秩序を維持し、正常な状態を保持するよう配慮する必要がある。」このた
めには「必要な限度において、被拘禁者の……自由に対し、合理的制限を加えること
もやむをえない」。「そして、右の制限が必要かつ合理的なものであるかどうかは、
制限の必要性の程度と制限される基本的人権の内容、これに加えられる具体的制限の
態様との較量のうえに立って決せられるべき」である。監獄の現在の管理態勢のもと
においては、喫煙に伴う火災発生や通謀のおそれがあり、監獄内の秩序の維持にも支
障をきたすことになる。
よって、喫煙を許すと罪証隠滅や被拘禁者の逃走のおそれがあり、「直接拘禁の本
質的目的を達することができないことは明らかである。」他面、煙草は「嗜好品にす
ぎず、喫煙の禁止は、煙草の愛好者に対しては相当の精神的苦痛を感ぜしめるとして
も、それが人体に直接障害を与えるものではない」。よって「喫煙の自由は、憲法 13
条の保障する基本的人権の一に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障され
なければならないものではな」く、「このような拘禁の目的と制限される基本的人権
の内容、制限の必要性などの関係を総合考察すると、前記の喫煙禁止という程度の自
由の制限は、必要かつ合理的なものであると解するのが相当である」。
5
在監者に対する「検閲」(在監者の人権各論3)
<問題の所在>
受刑者Aは、刑務所内の処遇改善を訴えたいと考え、その旨の文書を作成して新聞社に投書し
ようとした。刑務所長は、Aの投書が新聞に掲載されることは刑務所内の秩序維持の上で不相
当であると判断して、監獄法 50 条、同規則 130 条に基づき、文書の発信を不許可とした。この
ような措置は、「検閲」(21Ⅱ)にあたるか。
*
刑事収容法においても、受刑者が発受する信書について、①検査を行うこと(127Ⅰ)、②
検査の結果によっては、発受を差し止め、又は一部箇所の削除・抹消を行うこと(129Ⅰ柱
書)が認められていることから(未決拘禁者、死刑確定者等についても同様(135Ⅰ、136、
140Ⅰ、141、144、145))、在監者に対する「検閲」は現在でも問題になると考えられる。
<考え方のすじ道>
「検閲」の問題として別に検討する
⇒第3章
第4節
「第4款
検閲の禁止」(p.268)
<アドヴァンス>
◆
受刑者の信書の発受(最判平 10.4.24)
事案:
原告Xは、爆発物取締罰則違反等の罪により、昭和 57 年4月東京地裁において懲役
7年の刑を受け、新潟刑務所に在監していたが、同刑務所が監獄内の規律及び秩序の
維持に障害を生ずること並びに受刑者の教化を妨げることを理由として新聞記事、機
関誌の記事、Xの受信した信書及びXの発信した信書の一部を抹消した行為が違法で
あるとして、国家賠償法に基づき国に対して慰謝料の支払を請求した。
第4節
判旨:
人権保障の限界
第1款
公共の福祉/103
「右事実関係の下においては、監獄内の規律及び秩序の維持に障害を生ずること並
びに受刑者の教化を妨げることを理由とする新聞記事、機関紙の記事、上告人〔受刑
者〕の受信した信書及び上告人の発信した信書の一部抹消が違法なものとはいえない
とした原審の判断は、是認することができ」る。「右のような理由でされた新聞記事
及び機関紙の記事の一部抹消が憲法 21 条に違反するものでないことは、最高裁昭和…
…58 年6月 22 日大法廷判決〔よど号ハイジャック記事抹消事件〕の趣旨に徴して明ら
かであり(最判平 5.9.10 参照)、右のような理由でされた上告人の受信した信書及び
上告人の発信した信書の一部抹消が憲法 21 条に違反するものでないことも、当裁判所
大法廷判決(最大判昭 45.9.16〔被拘禁者の喫煙の禁止〕、前示昭和 58 年6月 22 日判
決)の趣旨に徴して明らかである(最判平 6.10.27 参照)……。」
*
本判決が参照として付記する判例(最判平 6.10.27)は、在監者の信書の点検審査を認め
ている監獄法 50 条及び同法施行規則 130 条の合憲性が争われた事案で、在監者の信書の点
検審査が憲法にいう検閲には当たらず、憲法 21 条に違反するものではないと判示するもの
である。表現の自由との関係だけではなく、通信の秘密(21Ⅱ後段)との関係でも、それ
は必要かつ合理的な制限の範囲内にあるとするものと解される。
第4節 人権保障の限界
<人権保障とその制約根拠>
絶対的保障(無制約)
ex.19 条・36 条
制約される
ほとんどの人権
制約根拠
「公共の福祉」との関連で争いあり
一元的外在的制約説
内在・外在二元的制約説
一元的内在的制約説(通説)
パターナリスティックな制約
第1款
公共の福祉
一
公共の福祉総説
1
はじめに
人間にとって、人権は重要であるが、社会においては多くの人間が共同体を作って生活している。
したがって、自分の人権と他人の人権がぶつかり合うときがある。
そこで、憲法は 12 条、13 条、22 条、29 条で「公共の福祉」による人権の制約を認めている。
104/第2編
2
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
公共の福祉の内容
<問題の所在>
人権の保障は、永久不可侵的であることを本質とするが、人権の観念も、社会においては多く
の人間が共同体を作って生活していることを前提に成り立っている。したがって、自分の人権
と他人の人権がぶつかり合うときがある。そこで、憲法は人権に対して一定の制約を加える場
合の一般的根拠として、12 条、13 条、22 条、29 条で「公共の福祉」の規定をおいている。そ
れでは、「公共の福祉」とはどういう意味であろうか。
<考え方のすじ道>
↓そもそも
人権は人間の社会共同生活を前提に保障されるものであるから、絶対無制約ではなく、他の
人権との調整のため一定の限界がある
↓そこで
12、13 条の「公共の福祉」は人権相互の矛盾・衝突を調整する実質的公平の原理としてすべ
ての人権に必然的に内在するものであると考えるべき(一元的内在制約説)
↓
この「公共の福祉」には、人権を各人に公平に保障するために加えられる制約(自由国家的
公共の福祉)と社会権を実質的に保障するために経済的自由権に対して加えられる制約(社
会国家的公共の福祉)が含まれる
∵①25 条以下の存在、②22 条1項・29 条2項で再言
<アドヴァンス>
⑴
一元的外在制約説(初期の判例、美濃部)
人権は全て 12、13 条の「公共の福祉」によって政策的(外在的)に制約することができる。
→「公共の福祉」を最高概念ととらえる
→22、29 条の「公共の福祉」は 12、13 条の再言であり特別な意味をもたない
(批判)
⑵
①
法律による人権制限が容易に肯定される。
②
「法律の留保」のついた人権保障と同じことになってしまう。
内在・外在二元的制約説
人権を「公共の福祉」によって制約できるのは個別の人権規定で制約を認めている場合
(22Ⅰ、29Ⅱ)だけである。
→12、13 条の「公共の福祉」は訓示規定であり、人権制限の根拠にならない
→22、29 条の「公共の福祉」は政策的(外在的)制約を定めたもの
→すべての人権は明文なき内在的制約に服するが、これは「公共の福祉」によるものでは
ない
(批判)
①
公共の福祉の概念を国の政策的考慮に基づいて公益のために外から加える制約という
意味に限定して考えるのが妥当かは疑問である。
第4節
②
人権保障の限界
第1款
公共の福祉/105
13 条を倫理的・訓示規定としてしまうと、「新しい人権」を基礎づける根拠を失わせ
ることになる。
⑶
一元的内在制約説(従来の通説)
12、13 条の「公共の福祉」は人権相互の矛盾、衝突を調整する実質的公平の原理であり、
全ての人権に必然的に内在するものである。
→公共の福祉には、自由権を公平に保障するために加えられる必要最小限度の制約(自由
国家的公共の福祉)と社会権を実質的に保障するために経済的自由権に加える必要な限
度の制約(社会国家的公共の福祉)が含まれる
→22、29 条の「公共の福祉」は社会国家的公共の福祉を含む
(批判)
何が「必要最小限度」ないし「必要な限度」の制約なのかを明らかにしないと「公共の
福祉」の名の下に不当な人権侵害が引き起こされることになり、結局、一元的外在制約説
と変わらなくなってしまう。
⑷
今日の有力説(一元的内在的制約説の修正)(高橋 117 頁以下)
人権を制約する根拠は必ず他の人権でなければならないわけではなく、「公共の福祉」と
は、すべての国民を平等に個人として尊重するために必要となる調整原理である。
「公共の福祉」の主要な内容は、①人権と人権との衝突の調整措置②他人の人権を侵害す
る行為の禁止措置③他人の利益のために人権を制限する措置④本人の利益のために本人の人
権を制限する措置として理解することができる。
(理由)
①
町の美観維持のために表現の自由を制約することは認められるべきだが、町の美観を
他人の人権と構成することには無理がある。
②
他人の利益のための人権制限も「公共の福祉」によるものと構成すべきである。
③
パターナリスティックな制約も「公共の福祉」によるものと構成すべきである。
二
公共の福祉の具体化
1
はじめに
一元的内在制約説に立ったとしても、「公共の福祉」の内容は不明確であるため、これのみでは
具体的な事件を解決する基準とはなり得ない。そこで、「公共の福祉」の内容を具体的に明らか
にするとともに、人権制約法令の違憲審査基準を具体化することが必要となってくる。
詳しくは⇒第3編
2
第6章
第2節
「第1款
違憲審査制総説」(p.632)
比較衡量論
「公共の福祉」を理由として国民の基本的人権を制約することができるのは、人権を制約するこ
とによって得られる社会的利益と、それを制限しないことにより確保される利益とを比較衡量し
て、前者の利益が高いと判断された場合に限られるとする、違憲審査基準についての考え方。
106/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
(批判)
①
2つの異質の価値を衡量することは困難である。
②
比較の基準が明確でないため裁判所の恣意的判断の危険がある。
③
憲法の場合は国家権力と国民との関係でそれぞれの利益の衡量が行われる場合が多いので、
どうしても国家的価値が優先されがちとなる。
このように、比較衡量論に対してはそもそも否定的な見解もあるが、一般論としていえば、人
権の限界問題は結局矛盾対立する諸価値・諸利益のいずれを優先させるかという価値選択にほか
ならないし、また、「公共の福祉」という抽象的な原理によって人権制限の合憲性を判定するよ
りは比較衡量の方法の方が優れているといえる。
もっとも、この理論は、一般的に比較の準則が必ずしも明確でなく、特に国家権力と国民との
利益衡量が行われる憲法の分野においては、概して、国家的価値が優先される可能性が強いとい
う問題がある。そこで、例えば、芦部先生は、「この基準は、同じ程度に重要な二つの人権を調
節するため、裁判所が仲裁者としてはたらくような場合に原則として限定して用いるのが妥当で
あろう」と述べている。また、その他の場合においても、学説は、比較衡量を枠づける基準とし
て各種の違憲審査基準を用意することにより、合憲性判断の恣意性を排除しようとしている。
比較衡量論は、利益衡量論の中で、定義衡量論(性表現について、利益衡量の結果わいせつ概念
を厳密に定義づけてその定義に該当しない行為はすべて自由とする)とは異なり、個別の事例ごと
に利益を衡量するものである。
判例は、昭和 40 年代に、それまでの抽象的な公共の福祉論から比較衡量論の立場に移行したが、
その後の判例が採用した比較衡量論の態様は一様ではない。例えば、比較衡量論と必要最小限度の
原則を結びつけた全逓東京中郵事件(最大判昭 41.10.26)、限定解釈の手段として比較衡量論を
用いた都教組事件(最大判昭 44.4.2)、比較衡量が不十分で「国民全体の共同利益」を優先させ
た全農林警職法事件(最大判昭 48.4.25)など、さまざまである。ほかにも、博多駅 TV フィルム
提出命令事件(最大決昭 44.11.26)、北方ジャーナル事件(最大判昭 61.6.11)、薬事法距離制限
違憲判決(最大判昭 50.4.30)、森林法共有林違憲判決(最大判昭 62.4.22)などが比較衡量論の
立場を採っている。
3
二重の基準の理論
精神的自由権を制約する立法の合憲性は、経済的自由権を制約する立法の合憲性よりも厳格に審
査されなければならないとする、違憲審査方法と違憲審査基準についての考え方。
(理由)
①
精神的自由は個人の人格形成・発展に直接かかわる重要な権利である。
②
経済的自由に対して不当な規制をなす法律が制定された場合には、民主政の過程を通じて
それを排除することができる。これに対して、精神的自由を不当に制約する立法がなされる
と、民主政の過程による自己回復を期待できない以上、裁判所による積極的な介入が要請さ
れる。
③
社会・経済政策的理由に基づく経済的自由の制約立法の合憲性については、裁判所よりも
資料収集能力に優れた政治部門の判断を裁判所は尊重すべきである。
第4節
第2款
一
人権保障の限界
第2款
パターナリスティックな制約/107
パターナリスティックな制約
総論(高橋・116 頁)
<問題の所在>
未成年者は、成年者と違って未だ成熟した判断能力を有しないので、成年者と異なる制約を受け
るのではないか。すなわち、他者加害を防止するための制約(「公共の福祉」による制約)だけ
でなく、自己加害を防止するための制約も認められるのではないかが問題となる。
<考え方のすじ道>
↓そもそも
未成年者も、日本国民である以上、当然に人権享有の主体となるので、人権の不当な制限は許さ
れない
↓したがって
自己加害の防止を理由とする公権力による介入は原則として許されない
↓しかし
①
憲法は成年制度を採用している(15Ⅲ)
②
未成年者保護の必要性が高い
↓そこで
未成年者の人格的自律の助長・促進にとって必要やむを得ないと認められる場合には、例外的に
介入が許される(限定されたパターナリスティックな制約)
ex.結婚の自由、堕胎の自由、表現の自由、服装・髪型の自由
↓具体的には
①
年齢面での発達段階
②
人格的自律にとっての核に関わるものか、周辺的なものか
③
制約の課される場あるいは文脈
等を考慮に入れて個別的に判断すべき
二
未成年者に対する制約の具体例
1
校則による髪型の規制
⑴
髪型の自由は自己決定権(13)の一内容として憲法上保障されるか(自己決定権について、
詳しくは
⒜
⇒第2章
第1節
第2款
「六
自己決定権(新しい人権各論4)」 p.125)
自己決定権を人格的生存に不可欠な場合に限るとする見解(人格的利益説)から
イ
否定説
髪型の自由は人によっては大事なものであるが、それ自体が正面きって人権かと問われ
ると、肯定するのは困難である。
108/第2編
基本的人権の保障
*
第1章
基本的人権総論
もっとも、この説も、身なり等の事柄が人格の核を取り囲み、全体としてそれぞれの
人のその人らしさを形成しているので、こうした事柄についても人格的自律を全うさせ
るために手段的に一定の憲法上の保護を及ぼす場合があると解している(ただし、厳格
な審査基準ではなく、緩やかな審査基準が適用されることになる)。
ロ
肯定説(芦部)
髪型や服装などの身じまいを通じて自己の個性を実現させ人格を形成する自由は、精神
的形成期にある青少年にとって成人と同じくらい重要な自由である。
⒝
自己決定権を、個人の人格に関わる決定から単なる嗜好・好奇心に基づく決定までをも含む
広い自由として捉える見解(一般的自由説)から
髪型の自由は自己決定権の一内容として憲法上保障される。
*
このように、学説上、髪型規制について、憲法上の保護が及ぶべきであるとする点では一
致している。
⑵
丸刈を定めた校則に合理性はあるのか
⒜
規制目的
非行化の防止、中学生らしさを保ち人間関係を円滑にすること、清潔さの維持等。
⒝
規制手段の合理性
①
頭髪は簡単に変えることができない
②
公立学校では学校選択の余地が乏しい
③
子供の個性を損ねる
④
髪型と非行は関係ない
⑤
丸刈りが中学生らしいという社会的合意はない
⑥
長髪が不潔であるということにはならない
→規制手段の合理性なし
◆
熊本地判昭 60.11.13/百選Ⅰ〔22〕
事案:
男子生徒の髪型について丸刈を定めた校則が憲法 14 条・31 条・21 条に違反しないか
が争われた。
判旨:
「男性と女性とでは髪型について異なる慣習があり、いわゆる坊主刈については、男
子にのみその習慣があることは公知の事実であるから、髪型につき男子生徒と女子生徒
で異なる規定をおいたとしても、合理的な差別であって、憲法 14 条には違反しない」。
「本件校則には、本件校則に従わない場合に強制的に頭髪を切除する旨の規定はなく、
かつ、本件校則に従わないからといって強制的に切除することは予定していなかったの
であるから」、本件校則は憲法 31 条に違反しない。
「髪型が思想等の表現であるとは特殊な場合を除き、見ることはできず、特に中学生
において髪型が思想等の表現であると見られる場合は極めて希有であるから、本件校則
は、憲法 21 条に違反しない」(本判決は、13 条の問題ではなく 21 条の問題とした)。
*
本判決では校長の裁量権の逸脱についても争われた。その内容は以下のとおりである。
中学校長は、教育の実現のため、生徒を規律する校則を定める包括的権能を有する。そし
て、教育上の措置に関するものは必ずしも画一的に決することはできないから、校則が「教
第4節
人権保障の限界
第2款
パターナリスティックな制約/109
育を目的として定められたものである場合には、その内容が著しく不合理でない限り、右校
則は違法とはならないというべきである」。
本件校則の制定目的は、非行化の防止、中学生らしさを保ち人間関係を円滑にすること、
質実剛健の気風の養成、清潔さの維持、スポーツの便宜等であり、「校長は、本件校則を教
育目的で制定したものと認めうる」。
そして、①丸刈は、今なお男子児童生徒の髪型のひとつとして社会的に承認され、特異な髪型
とは言えないこと、②本件中学において創立以来の慣行であった丸刈を昭和 56 年に校則という
形で定めたこと、③本件校則に違反した場合には、校則を守るよう繰り返し指導し、あくまで指
導に応じない場合に懲戒処分として訓告の措置をとるにとどまっていたこと等からすると、「丸
刈を定めた本件校則の内容が著しく不合理であると断定することはできない」。
◆
修徳学園高校パーマ事件(東京地判平 3.6.21/H3重判〔5〕②)
事案:
パーマ禁止を定める校則が、憲法 13 条に反しないか争われた。
判旨:
「髪型決定の自由が個人の人格価値に直結することは明らかであり、個人が頭髪につ
いて髪型を自由に決定しうる権利は、個人が一定の私的事柄について、公権力から干渉
されることなく自ら決定することができる権利の一内容として憲法 13 条により保障され
ている」としつつも、本件校則は特定の髪型を強制するものではない点で制約の度合い
は低く、原告は入学時にパーマ禁止を知っていたことも考慮して、髪型決定の自由を不
当に制限するものではないとした。
2
校則によるバイク規制(免許を取らない、乗らない、買わない)
⑴
バイクに乗る等の自由は自己決定権(13)の一内容として憲法上保障されるか
一般的自由説からはバイクに乗る等の自由も自己決定権の一内容となるが、人格的利益説か
らは自己決定権に含まれるとする説はない。もっとも、人格的利益説に立ったとしても、法律
によって満 16 歳以上の者はバイクの免許を取得できるとされている以上、不合理な制約は裁量
権を逸脱することになる。
⑵
バイク規制を定めた校則に合理性はあるか
⒜
規制目的
生徒の生命・身体の安全の保障、非行化防止、勉強への集中等。
⒝
規制手段の合理性
①
免許を取ることが法律で認められているのに、校則で乗車を禁止するのは校則の守備
範囲の逸脱である。
②
非行化とバイク規制との間には合理的関連性があるかは疑問であるし、仮に関連性が
あったとしても非行化と無関係な生徒にまで規制を及ぼすのは妥当でない。
③
バイクに乗っているからといって勉強に集中できなくなるわけではない。
④
事故防止目的は、そもそも学校の権限外の事項である。
→登下校の禁止はともかく、免許の取得や学校とは無関係に乗ることまでも規制する
合理性があるかは疑問
→規制手段の合理性なし
110/第2編
◆
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
修徳学園高校バイク事件(東京地判平 3.5.27/H3重判〔5〕①)
事案:
バイクの免許の取得を禁止し、違反者に退学勧告をなすという生徒指導を行っていた
高校の生徒がバイクに乗車し、退学処分を受けた。
判旨:
学則は、「在学関係を設定する目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして
合理的なものであることを要する」が、その限りにおいては、生徒の校外での活動につ
いても規律することができる。そして「校外におけるバイクの乗車といえども、事故に
より自他の死傷の結果を招来した場合には、学校の教育活動に支障をもたらすことは明
らかであるし、生徒がバイクに熱中して学業を疎かにするときは、学内における教育環
境を乱し、本人及び他の生徒に対する教育目的の達成を妨げるおそれもある」。また、
バイク規制は全国的に行われており、多くの父母の支持を得ていること等をあわせ考え
ると、バイクを規制する学則は社会通念上十分合理性を有している。
→本判決は、校則に基づくバイク規制の合理性を認めた
◆
最判平 3.9.3/百選Ⅰ〔25〕
事案:
バイクの「三ない原則」に反して免許を取得、バイクを購入したところ、そのバイク
を転借した別の生徒が無免許で人身事故を起こし逃走した。その後、事情が明らかにな
り、これに関連した生徒が退学勧告を受け退学となったが、この措置が違憲・違法な校
則に基づく違法なものとして損害賠償請求訴訟が提起された。
判旨:
「憲法上のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、……専ら国又は公共団体と個人と
の関係を規律するものであり、私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用さ
れるものでない。したがって、本件自主退学勧告について、それが直接憲法の基本権保
障規定に違反するかどうかを論ずる余地はないものというべきである」。本件校則の法
的評価については、「本件校則が社会通念上不合理であるとはいえない」。自主退学勧
告の違法性の主張については、「上告人の行為の態様、反省の状況及び上告人の指導に
ついての家庭の協力の有無・程度など、原審の確定した事実関係の下においては、上告
人に対してされた本件自主退学勧告が違法とはいえないとした原審の判断は、正当とし
て是認することができる」。
3
内申書の不利益記載
高校入試選抜に際して中学校から高等学校へ内申書が送付されるが、内申書に、当該生徒にとっ
て不利益と思われる記載がなされた場合に、「思想及び良心の自由」を侵害することになるか、仮
に侵害することになるとしてパターナリスティックな制約として容認できるか、問題となる。
参考となる事案として麹町中学内申書事件(最判昭 63.7.15/百選Ⅰ〔37〕)があるが、判例は、
この点については触れていない。(⇒第3章
第1節「五
内申書の不利益記載」p.176)
第4節
三
人権保障の限界
第2款
パターナリスティックな制約/111
未成年者と選挙運動の自由
<問題の所在>
公職選挙法は、未成年者の選挙運動を一切禁止し(137 の2)、違反者を処罰するものとしている
(239)。このような、公職選挙法による未成年者の選挙運動の禁止は憲法上正当化されるか。
<考え方のすじ道>~有力学説
⑴
まず、内在的制約として許されるか
↓そもそも
選挙運動の自由は表現の自由(21)の一形態として保障される重要な人権
↓とすれば
その規制立法については厳格な基準で合憲性を判定
→具体的には、①立法目的の正当性、②それを達成するためより制限的でない他の選びうる手
段の有無を審査すべき(LRAの基準)
↓あてはめ
①
判断能力の十分でない未成年者が様々な選挙違反行為を行うことにより、選挙過程が害さ
れることを防止するという目的の正当性は一応認められる。しかし、
②
立法目的を達成するためには、選挙運動を一切禁止するよりも制限的でない個別的違反行
為についての対応で足りる
→内在的制約としては許されない
↓
⑵
では、パターナリスティックな制約として許されるか
↓確かに
選挙運動はかなり激しい政治的抗争の場面であり、未成年者を保護する必要はある
↓しかし
パターナリスティックな制約は、問題となっている人権の性質・未成年者の年齢を考慮して必
要最小限度で認められるもの
↓あてはめ
①
公開討論の場への参加という意味において未成年者にとって選挙運動の自由は重要
②
未成年といっても成年者とほぼ同様の判断能力を持つ者もおり、この者まで含めて、一般
的に選挙運動の自由を規制し、しかも違反者に刑罰を科すというのは、行き過ぎ
→規制は必要最小限度の規制とはいえず、パターナリスティックな制約としても許されない
↓以上より
⑶
公職選挙法の規制は、未成年者の選挙運動の自由(21)を侵害するものとして違憲
112/第2編
基本的人権の保障
第1章
基本的人権総論
<アドヴァンス>
一般に、人権の制約として、①内在的制約(狭義)と、②社会・経済政策的制約が認められるこ
とは承認されている。そこで、これらの制約として正当化されるのかを検討する必要がある。さ
らに、③未成年者については未成年者の心身の健全な発展を図るための制約が認められるとする
のが一般的となっている。そこで、①②の通常の制約根拠によって正当化されない場合には、か
かるパターナリスティックな制約として正当化されるのかを検討する必要がある。
なお、本件では、②は、およそ、考えられないので、検討するまでもない。
⑴
まず、内在的制約として正当化されるか
事情もよく知らず、判断能力も十分でない未成年者がいろいろな選挙違反行為を行う危険と
いう他害性故に制約されるとするならば、成年者と同じく個別的違反行為について対処すべき
で、およそ選挙運動一切を禁止してしまうのは取締りとして安易にすぎる。また、未成年者に
よる選挙運動それ自体が醸し出す心理的効果という他害性故に制約されるというのではあまり
に漠然とした理由であり論外であろう。
とすれば、内在的制約として正当化されるとはいい難い。
⑵
では、未成年者の心身の健全な発展を図るための制約として正当化されるのか
もちろん、年少の者が事情のよくわからないままに具体的な政治活動に関係することの是非
については、各種の考え方がありうるであろう。とりわけ、選挙運動はかなり激しい政治的抗
争の場面である。しかし、そうした活動の是非といった事柄は、まず何よりも未成年者が育つ
それぞれの家庭環境の中で自律的に解決されるべき課題であって、少なくとも刑罰をもって一
般的に規制すべき事柄ではないというべきである。
さらに、未成年者の年齢等も考慮して必要最小限の制約かどうかを検討するのであれば、成
年者に近い未成年者まで規制対象とするのは過度に広凡な規制であり許されないということに
なるのではないだろうか。
発展
第5節 国民の義務
一
一般的義務(12)
精神的指針として、国民には、人権擁護のために、人権の保持や濫用の禁止が要請される。しかし、本条は
国民の義務を公権的に強制しうるという法的意味をもつものではない。
二
具体的義務
1 納税の義務(30)
⑴ 国民主権の下では、主権者たる国民が自律的に国家を構成すべきであり、したがって国民は財政を支える
義務を負う。
⑵ 法律によって納税義務を具体化させることにより、租税法律主義(84)の意味をもたせている。
2
教育の義務(26)
⑴ 幸福追求権(13)実現のため、教育を受ける権利(26Ⅰ)を保障するとともに、子女に対し教育を受けさ
せるのが保護者の義務であることを明らかにする。
⑵ この義務は形式的には国家に対するものであるが、実質的にはその保護する子女に対するものである。
発展
第2編
3
三
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等/113
勤労の義務(27)
⑴ 勤労能力ある者は自らの勤労により生活を維持すべきであるという精神的な意義をもつにすぎず、強制労
働の可能性を認めるものではない。
⑵ 社会国家においても、勤労能力を有しながら勤労の意思のない者には、社会国家的給付は与えられない。
憲法尊重擁護義務(99)
国民は義務を負う者として明記されておらず、高度の価値相対主義の根拠となる。
第2章 包括的基本権と法の下の平等
第1節 生命、自由および幸福追求権
第1款 個人の尊厳
個人の尊厳:個人の平等かつ独立な人格価値を承認すること。
13 条前段は、国家が国民個人の人格価値を承認する(=個人は立法その他国政のあらゆる場に
おいて尊重される)という個人主義原理を表明したもの。
→国家は、個人を、他のなにものよりも最高の価値あるものとして扱わなければならない
→この個人の尊厳の原理は、憲法の根本的原理であり、すべての法秩序に対する原則規範として
の意味をもつ
ex.民法2条を通じて私法の解釈基準になる。
第2款
発展
生命、自由および幸福追求権
一
はじめに
1 歴史的系譜
ジョン・ロックの自然権論が「生命、自由、及び財産」の権利を主張したことに淵源を有する。また、アメ
リカ独立宣言は「生命、自由および幸福の追求」の権利が天賦の人権であると宣言している。
→日本国憲法に受け継がれた
2 意義
個人が自律的に決定した幸福を実現する諸条件や手段を保障。
発展
114/第2編
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
二
新しい人権の包括規定(新しい人権総論)
1
憲法上規定のない人権が認められるか
憲法は、14 条以下において具体的な人権規定を列挙しているが、これ以外の新しい人権が認め
られるであろうか。社会の変化により、憲法制定当初は予定されていなかった権利を人権として
認める必要性が生じてきたため、問題となる。この点、①13 条の内容が包括的であることは、内
容の漠然性と必ずしも結びつかず、②憲法制定当時、将来生じうるあらゆる権利を個別的に明文
で定めることは不可能であり、③同一規定中にも客観的規範と主観的権利は両立しえ、④社会の
変化に伴い個人の尊厳を達成するために必要な権利を憲法上保障する必要があることを理由に、
判例・通説は、13 条の幸福追求権は新しい人権を含む実体的権利であること、すなわち 13 条の法
規範性を肯定する。ただし、プライバシー権の請求権的側面など具体的権利ではなく抽象的権利
にとどまるものもある。
◆
最大判昭 25.11.22/百選Ⅰ〔17〕
憲法 13 条は国民の一般的行為の自由を保障したものであるとの前提に賭博開帳図利行為は娯
楽の自由の範囲に属するものとの被告人の主張を、「賭博に関する行為は……公益に関する犯
罪中の風俗を害する罪であり…公共の福祉に反するものといわなければならない」として退け
た。
◆
京都府学連事件(最大判昭 44.12.24/百選Ⅰ〔18〕)
「憲法 13 条は、……国民の私生活上の自由が、警察権などの国家権力の行使に対しても保護
されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一
つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう、姿態を撮影されない自由を有する
ものというべきである」。
→13 条の具体的権利性を認めている
2
新しい人権創設の基準
<問題の所在>
新しい人権が認められるとしても、あらゆる利益に憲法上の保障が及ぶと解することが妥当
であろうか。妥当でないとすると、いかなる基準によって新しい人権が認められるかが問題と
なる。
<考え方のすじ道>
↓この点
新しい人権を無制限に認めていくと
ⅰ
既存の人権の価値が相対的に低下する(人権のインフレ化)
ⅱ
新しい人権が他の既存の人権の制約根拠として使用されることになり、多くの場合に人
権の制約が許容されることになって、既存の人権の保障が低下するおそれあり
ⅲ
裁判所の主観的な価値判断によって権利が創設され、三権分立に反するおそれあり
第1節
生命、自由および幸福追求権
第2款
生命、自由および幸福追求権/115
↓そもそも
新しい人権の根拠である 13 条後段の「幸福追求権」は、前段の個人の尊厳の原理と結びつい
て理解されるものである
↓そこで
人格的生存に不可欠かどうかで決すべき
*
この他の学説として、
A
個人の人格的生存に不可欠であること
B
その権利が長期間国民生活に基本的なものであること
C
多数の国民がしばしば行使しもしくは行使できるものであること
D
他人の基本権を侵害するおそれがないこと
等、種々の要素を考慮すべきとする見解(芦部)もある
<アドヴァンス>
⑴
人格的利益説:限定説中の多数説
新しい人権は個人の人格的生存に不可欠な権利に限られる。
(理由)
①
新しい人権を無制限に認めていくと既存の人権の価値が相対的に低下する(人権のイ
ンフレ化)ことになる。
②
新しい人権が他の既存の人権の制約根拠として使用されることになり、多くの場合に
人権の制約が許容されることになって既存の人権保障が低下するおそれがある。
③
裁判所の主観的な価値判断によって権利が創設され、三権分立に反するおそれあり。
(批判)
①
人権保障の範囲が狭くなりすぎるおそれがある。
②
この説においても人権でない自由に対する制約に対しては、必要性・合理性の有無が
判断されることになるが、その根拠が明らかでない。
③
⑵
いかなる人権が人格的生存に不可欠かが明確ではない。
一般的自由説:無限定説
幸福追求権は、あらゆる生活領域に関する行為の自由を内容とする。
→憲法は個人の自由な行動を広く保障している
(理由)
人権保障の強化に資する。
(批判)
人権制限の許容性も広く解されるおそれがある。
三
プライバシー権(新しい人権各論1)
1
定義
A説:私生活をみだりに公開されない権利
→公開されるとはじめてプライバシー権侵害となる
116/第2編
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
B説:自己に関する情報をコントロールする権利
→情報収集段階でもプライバシー権侵害となりうる
→この見解に立つとプライバシー権には自由権的側面と社会権(請求権)的側面が生じ
ることになる
C説:放っておいてもらう権利
2
憲法上の根拠
<問題の所在>
ある権利が「新しい人権」として 13 条によって保障されるためには、人格的生存に不可欠な
権利であることが必要である。では、プライバシー権は人格的生存に不可欠な権利と言えるの
であろうか、その意味をいかに捉えるかと関連して問題となる。
<考え方のすじ道>
高度情報化社会の現代においては、企業や国が個人情報を収集しており、そのために個人の
自律的領域たる個人の秘密が脅威にさらされるという状況が発生している
↓このことから考えると
自己に関する情報をコントロールする権利としてのプライバシー権の保護は、人格的生存に
不可欠
↓よって
13 条で保障される
<アドヴァンス>
◆
「宴のあと」事件(東京地判昭 39.9.28/百選Ⅰ〔65〕)
「近代法の根本理念の一つであり、また日本国憲法のよって立つところでもある個人の尊
厳という思想は、相互の人格が尊重され、不当な干渉から自我が保護されることによっては
じめて確実なものとなる……。いわゆるプライバシ-権は私生活をみだりに公開されないと
いう法的保障ないし権利として理解される」。
→本件では、プライバシ-権の根拠が個人の尊厳に求められている
◆
「エロス+虐殺」事件(東京高決昭 45.4.13/百選Ⅰ[第4版]〔69〕)
「人格的利益を侵害された被害者は、また、加害者に対して、現に行われている侵害行為
の排除を求め、或は将来生ずべき侵害の予防を求める請求権をも有する」。
→本判決は、名誉権やプライバシー権といった人格的利益の侵害に対して、妨害排除や妨
害予防の請求権が認められるとした。しかしこの点につき、妨害予防という事前差止め
がいわゆる 21 条2項の検閲にあたるかどうかという重要な問題がある。
◆
⇒p.274
前科照会事件(最判昭 56.4.14/百選Ⅰ〔19〕)
事案:
区役所が弁護士からの前科及び犯罪歴の照会に応じたことがプライバシー権侵害に
ならないか争われた。
判旨:
「前科および犯罪経歴は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のあ
る者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」。
第1節
*
生命、自由および幸福追求権
第2款
生命、自由および幸福追求権/117
本件で問題となるのは、第一に、公権力がその保有する個人についての情報を不当に開
示することがプライバシー権の侵害になりうること、第二に、プライバシー権を優越させ
ることが、結局公務員の守秘義務の根拠を提供することになる点である。なお、本件はプ
ライバシー権との文言およびの憲法上の根拠については直接触れていない。
◆
最判平 7.12.15/百選Ⅰ〔3〕
事案:
指紋押捺を拒否したため起訴された外国人が、外国人に対して指紋押捺を義務づけ
る制度は 13 条に反すると争った。
判旨:
「指紋は……それ自体では個人の私生活や人格、思想、信条、良心等個人の内心に
関する情報となるものではないが、性質上万人不同性、終生不変性をもつので、採取
された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険
性がある。このような意味で、指紋の押なつ制度は、国民の私生活上の自由と密接な
関連をもつものと考えられる」。
「憲法 13 条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきこ
とを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだ
りに指紋の押なつを強制されない自由を有するものというべきであり、国家機関が正
当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、同条の趣旨に反し許されない。」と
した上で、指紋押なつ制度は正当な行政目的達成のために戸籍のない外国人の特定に
最も確実な制度として制定されたもので、立法目的に十分な合理性・必要性があると
する。また、押なつ義務がしだいに緩和され、対象も一指のみであり、強制も間接強
制にとどまるため、方法としても一般的に許容される限度を超えない相当なものであ
るとした。
◆
最判平 9.11.17/H9重判〔1〕
事案:
外国人登録証明書の切替えを失念したことにより確認申請義務に違反したとして起
訴された外国人が、登録事項確認制度がプライバシー権を侵害するものとして 13 条に
違反するかを争った。
判旨:
在留外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめこれを公正に管理するという登
録事項確認制度の「立法目的には十分な合理性があり、その必要性も肯定でき」、確
認事項も「内心に関わる情報とはいえず、申請者に過度の負担を強いるものではなく、
憲法 13 条に違反しない」とした。
3
法的性格
複合的性格の人権である。
⑴
自由権的側面
国家が個人の意思に反して接触を強要し、みだりにその人に関する情報を収集し利用するこ
とが禁止される
→個人の人格的生存には直接かかわりのない外的事項に関する情報についても、国家がみだ
りにこれを集積し又は公開することは禁止される
①
国家に保有されることのない情報→思想など
118/第2編
基本的人権の保障
②
⑵
第2章
包括的基本権と法の下の平等
みだりに公開されない情報→生年月日、住所、犯罪歴など
社会権(請求権)的側面
国家機関の保有する自己についての情報の開示や訂正・削除を請求できる。
4
裁判規範性
⑴
自由権的側面
→肯定
(理由)
⑵
権利内容が明確で、裁判所の判断が容易である。
社会権(請求権)的側面
→争いあり
<問題の所在>
プライバシー権の請求権的側面に裁判規範性は認められるのであろうか。たとえば、国家
が自己に関する誤った情報を保有している場合、法律がないのにプライバシー権を直接の根
拠として情報の抹消・訂正を求めることはできるのであろうか。
<考え方のすじ道>~否定説基調の折衷説
プライバシー権の請求権的側面は、権利内容が不明確であり(請求権者、開示・訂正・削除
の範囲、要件など)裁判所の判断になじまない
↓よって
原則として、プライバシー権の請求権的側面には裁判規範性が認められない
↓しかし
国家は正しい情報を保有すべき義務があり、これに対応して個人には正しい情報を保有され
る権利がある(必要性)
↓また
権利内容が明確であり、裁判所の判断が可能であるならばプライバシー権の請求権的側面に
裁判規範性を認めてもよい(許容性)
↓よって
①自己の重大な事柄に関する②明らかな誤情報の③抹消・訂正を求める場合には、例外的に
裁判規範性を認めてよい
cf.「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」
<アドヴァンス>
⒜
否定説
個人は、具体的な法律の定めがない場合には、国家に対して、自己についての情報の開
示や訂正・削除を請求することはできない。
(理由)
①
憲法だけでは権利内容が不明確で、裁判の基準となる法律の制定が必要。
②
具体的な基準なしに開示や訂正・削除を認めたのでは、かえって、国民のプライバ
シー権が侵害されるおそれがある。
第1節
③
生命、自由および幸福追求権
第2款
生命、自由および幸福追求権/119
請求の対象は、開示や訂正・削除という国の作為であり、「法律による行政」(73
①)という観点からは具体的な法律が必要である。
⒝
限定的肯定説
個人は、具体的な法律の定めがない場合でも、国家に対して、自己についての情報の開
示や訂正・削除を請求することができる。
(理由)
①
個人の情報はその個人にとっては人格的生存に不可欠のものである以上、本来、国
は適正な行政を行うために正しい情報を保有すべき義務を負う。
②
◆
情報の正誤自体は裁判所の判断になじむものである。
在日台湾人調査票訴訟(東京高判昭 63.3.24)
事案:
上官の許可を得て離隊した者が、国の作成した身上調査書に「逃亡」と記載され
ているのを発見し、「逃亡」の記載の抹消を求めた。
判旨:
「他人の保有する個人の情報が、真実に反して不当であって、その程度が社会的
受忍限度を超え、そのため個人が社会的受忍限度を超えて損害を蒙るときには、そ
の個人は、名誉権ないし人格権に基づき、当該他人に対し不真実、不当なその情報
の訂正ないし抹消……を請求しうる場合がある」。
◆
レセプト情報公開請求事件控訴審判決(大阪高判平 8.9.27/百選Ⅰ[第4版]〔84〕)
事案:
Xは医師に対して医療過誤訴訟を提起したが、医療過誤を立証しうる資料として、
国の機関である社会保険事務所に保管されている自己のレセプト(医療機関が、健
康保険から診療報酬を得るためにカルテとは別に作成する「診療報酬明細書」)に
目を付けた。そこでXは、H県の文書公開条例に基づいて当該自己のレセプトの開
示を請求した。
しかし、H県は、本件レセプトは当該条例8条1号で非公開が規定されている
「個人の……健康状態……等に関する情報……であって、特定の個人が識別されう
るもののうち、通常他人に知られたくないと認められるもの」にあたることを根拠
に、本件レセプトの非公開を決定した。
そこでXは、当該非公開決定の取消を求める行政訴訟を提起した(なお、第一審
ではXの請求は棄却された)。
判旨:
本件条例8条は、あくまで例外的に非公開とされる公文書を定めたものであるか
ら、「できる限り狭く」解釈されなければならない。8条1号「の規定は、そこに
記載されている個人情報が当該本人以外の者に公開されることによって当該本人の
プライバシーが侵害されるのを防止することをもってその趣旨とするものであり、
その趣旨からすれば、公開を請求する当該本人の個人情報を記載した公文書は同号
所定の公文書には含まれない」。
*
本件は「知る権利」の問題も含み、上告審である最判平 13.12.18/百選Ⅰ〔84〕は原
審を支持した。
⇒p.224
120/第2編
◆
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
早稲田大学講演会名簿提出事件(最判平 15.9.12/百選Ⅰ〔20〕)
事案:
早稲田大学(Y)が、江沢民中国国家主席の講演会に先立ち参加希望者の氏名等
の記入をした名簿の写しを警備のため警視庁に提出したため、Xらは、本件名簿の
写しの提出によりプライバシー権を侵害されたとして、Yに対し損害賠償を求めた。
判旨:
「学籍番号、氏名、住所、及び電話番号は、Yが個人識別等を行うための単純な
情報であって」、「秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない」が、「こ
のような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開
示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護される
べきものであるから」、「Xらのプライバシーにかかわる情報として法的保護の対
象となる」。
「このようなプライバシーにかかる情報は、取り扱い方によっては、個人の人格
的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから、慎重に取り扱われる必要が
あ」り、「YはXらの意思に基づかずにみだりにこれを他者に開示することは許さ
れない」。
本件では、「Yが開示について承諾を求めることは容易であったものと考えられ、
それが困難であった特別の事情はうかがわれない」ことから、「本件個人情報を開
示することについてXらの同意を得る手続を執ることなく、Xらに無断で本件個人
情報を警察に開示したYの行為は、Xらが任意に提供したプライバシーにかかる情
報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり、Xらのプライバシー
を侵害するものとして不法行為を構成する」。
◆
最判平20.3.6/百選Ⅰ〔21〕
事案:
住基ネットは、『氏名・生年月日・性別・住所』の4情報及び住民票コード、
その変更情報(以上、本人確認情報)を管理・利用等する。Xらは、住基ネット
への本人確認情報の提供とその利用により、プライバシーの権利等の人格権を侵
害され精神的苦痛を受けたとしてその居住する市に対して国家賠償請求をした。
判旨:
「憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべ
きことを規定しているものであり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、
個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと
解される(最大判昭44.12.24:京都府学連事件参照)」。
しかし、4情報は、「一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されて
いる個人識別情報であり」、変更情報・住民票コードも「秘匿性の高い情報とは
いえない」。また、「本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政
目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じていると
いうこともできない」。更に、「住基ネットを利用したデータ・マッチングや名
寄せの具体的危険性も認定できない」。そうすると、同意なき住基ネットへの情
報利用は個人に関する情報をみだりに第三者に開示・公表されない自由を侵害す
るものではない。
第1節
◆
生命、自由および幸福追求権
第2款
生命、自由および幸福追求権/121
自衛隊情報保全隊による情報収集とプライバシー権(仙台地判平24.3.26/H24重判〔5〕)
自衛隊のイラク派遣に反対する活動等を自衛隊情報保全隊(以下、「情報保全隊」と
いう。)によって監視され情報を収集されたことにより、精神的苦痛を受けたとして、
原告らが国に対して人格権に基づく今後の一切の表現活動に対する情報保全隊による監
視等の差止め及び国家賠償法1条1項に基づく慰謝料等を請求した事案において、裁判
所は、「自己の個人情報を正当な目的や必要性によらず収集あるいは保有されないとい
う意味での自己の個人情報をコントロールする権利は、法的に保護に値する利益として
確立し、これが行政機関によって違法に侵害された場合には、国(被告)は、そのこと
により個人に生じた損害を賠償すべき」であるとした。
そして、情報保全隊が原告らの氏名、職業に加え、所属政党等の思想信条に直結する
個人情報を収集していたことについて、「情報保全隊が……個人情報を収集して保有し
たことに関し、行政上の目的、必要性その他の適法性を基礎付ける具体的な事由(換言
すれば、上記各原告がこれを甘受すべき根拠となる具体的な事由)が存在するか否かを
判断する」とした上で、「行政機関がする情報収集等につき一律に個々の法律上の明文
規定が必要とまでは解されないが、組織規範は、情報収集等が可能な範囲を画するもの
にすぎず、積極的に情報収集等の目的、必要性等を基礎付けるものではないから、情報
収集等の目的、必要性等に関して被告から何ら具体的な主張のない本件においては、…
…情報保全隊がした情報収集等は、違法とみるほかない」とした。
5
プライバシ-権侵害とその救済方法の整理
⑴
国家権力による場合
・自由権的側面→裁判所による救済
・請求権的側面→政治部門(国会)による救済(一定の場合には裁判所による救済)
⑵
私人(マス・メディア)による場合
・自由権的側面
→裁判所による救済
<報道の自由とプライバシー権の関係>
⒜
基準
〈個別的検討〉
表現の自由
対立
(21Ⅰ)
プライバシー権(13 後段)
報道の自由
原則として等価的利益衡量
(理由)ともに精神的自由権
⒝
⒞
視点
公共性の有無
救済の方法
①
主体:公人(または公的存在)か私人か
②
公表された事柄:公的事項か私的事項か
裁判所による事前差止めが許されるか
=21 条2項前段「検閲」に該当しないか
⇒第3章 第4節 第4款 二「3 裁判所による事前差止め」(p.274)
122/第2編
⑶
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
比較的新しい今日的具体例
今日、日常生活の中で多数の防犯カメラもしくは監視カメラ(以下、監視カメラ)を目に
する。駅構内、街頭、コンビニ、マンションの共有部分、Nシステム(ナンバープレート道
路上読取装置)などあらゆる場所に監視カメラが設置されている。このように監視カメラを
用いて私たちの容姿を撮影、録画することは憲法 13 条で保障されたプライバシーの権利の制
約となるであろうか。
監視カメラは一般に公道上など公共の場所に設置されており、このような場所では自らの
容貌を他人に見られることが当然に予定されており、そこに保護すべきプライバシーの利益
はもともと存在しないとも思える。しかし、撮影、録画されると事後的に録画データを利用
できることとなり、この点において、通行人に裸眼で見られることとは明らかな違いがある
ともいえる。また、公道とコンビニ等私人の店舗内との違いもあろう。
一方で、監視カメラがプライバシーの権利を制約するとしても、監視カメラが犯罪の抑止、
犯人の検挙、治安維持に役立つことは否定できない。いかなる場合に監視カメラの設置が許
容されるのか、プライバシーの権利の制約についての合憲性判定基準としてどのような基準
がふさわしいかなど、監視カメラ規制のあり方について自らの考え方を確立しておくべきで
あろう。
四
名誉権(新しい人権各論2)
名誉:人に対する社会的評価=外部的名誉(名誉の法律用語の一般用例)
→人の生活は他人の評価の上に成り立っているので、人格的生存を達成するためには人の評価を
保護することが必要
◆
北方ジャーナル事件(最大判昭 61.6.11/百選Ⅰ〔72〕)
「名誉を違法に侵害された者は、……人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行
われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求
めることができるものと解するのが相当である」。
五
環境権(新しい人権各論3)
1
定義(内容について学説上対立あり)
⇒「4
環境権の内容」(p.123)
環境権とは、良い環境を享受し、かつこれを支配する権利である。
2
環境権が認められる背景
人間の生活・生存は本質的に環境に依存しているが、近年において世界的規模で顕著な公害は、
自然の環境循環系の平衡を破壊し、生命・健康の安全を脅かすに至っている。しかし、従来の法律
制度は、公害問題を解決するために、無力である。すなわち、
①
民事訴訟による救済は日時を要する
②
立証が困難であり、また、不法行為法の不備のため救済が不十分である
第1節
生命、自由および幸福追求権
第2款
生命、自由および幸福追求権/123
③
個人的被害(個々の権利)が、事後的救済では到底防ぎきれないほど拡大している
④
加害者に刑罰を科すことも、公害の事前予防策としてはあまり期待することができない
そこで、環境権が主張されるようになった。
3
憲法上の根拠
<問題の所在>
環境権について憲法上明文はない。しかし、環境権について今日人権として保障すべきこと
は学説上異論はない。そこで、環境権の憲法上の位置づけが問題となる。
<考え方のすじ道>
↓そもそも
環境権とは良好な自然(ないし人工的)環境を享有する権利であるが、このような環境権は
13 条の幸福追求権の一内容として保障されると解する
↓なぜなら
13 条は人格的生存に不可欠な権利を包括的に保障
↓そして
良好な環境を享有することは人格的生存に不可欠
↓更に
社会権の総則的規定である 25 条の生存権によっても保障されていると解する
↓なぜなら
環境権は環境を保全することによって人の生命と健康を保持し、人間らしい生活を営むこと
を可能にすることを要求する社会権的側面をも有する権利であるから
↓したがって
環境権は、13 条と 25 条によって二重に保障されている
<アドヴァンス>
⑴
25 条によって保障されるとする説
健康で文化的な最低限度の生活を可能にするためには、何よりも健康が確保されるに足り
る生活環境が必要である以上、環境権は生存権の一つの形態であるから、直接の根拠は 25 条
に求めれば足りる。
⑵
13 条と 25 条によって保障されるとする説(芦部)
環境破壊を、個人の生命・身体の安全など人間の人格的生存にとってもっとも基本的なも
のへの侵害として人格権の問題と捉える場合は、憲法とのかかわり合いは 13 条が中心となる。
*
いずれの説も、社会権としての生存権にも自由権的側面があるとすることを前提としている
点に注意すること。
4
環境権の内容
「自然環境」のみならず、「歴史的文化的環境」や「社会的人工的環境」も含まれるのかについ
ては学説が対立している。
124/第2編
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
A説:人間生活を豊かにする価値ある資源という意味で、歴史的環境や社会的環境も含むとする
見解
B説:歴史的・社会的環境まで含めると環境権が茫漠としたものとなり、内部に矛盾撞着を抱え
るおそれがあること、自然環境の保持という環境権登場の背景を理由に、自然環境に限ら
れるとする見解(多数説)
5
法的性格
<問題の所在>
環境権に基づいて、裁判において損害賠償や差止めを求めることができるか。環境権が具体
的権利といえるかが問題となる。
<考え方のすじ道>
↓そもそも
環境権の概念(主体・内容)は未だ不明確で抽象的にすぎ、これは、該権利を基礎づける根
拠条文からも明らかである
↓すなわち
憲法 25 条に含まれる権利として位置づけた場合、これを具体的権利として位置づけることは
困難であり、13 条によって位置づけた場合であっても、それだけでは権利内容は不明確であ
る
↓したがって
環境権を裁判において具体的権利として主張するのは性急であり、具体的権利性は認められ
ない
<アドヴァンス>
⑴
学説
⒜
具体的権利性肯定説
(理由)
環境権は、所有権や人格権とならぶ具体的私権であり、裁判において損害賠償や差止
めを求める根拠になる権利である。
⒝
具体的権利性否定説(伊藤)
(理由)
環境権の概念はいまだ不明確で茫漠にすぎ、環境権の主体、内容を具体的に明確にし、
かつそれが憲法上の具体的権利として保障されているということの論証は、十分になさ
れていない。具体的権利性を論証するのは、憲法 25 条に含まれる権利として位置づけた
場合、同条の性格からみてかなりの困難を伴うし、それはまた憲法 13 条についてもいえ
ることである。
⑵
判例
判例においては、環境権について具体的権利性を認めたものはない。下記の大阪空港公害
訴訟控訴審判決も、環境権の保護法益のうち、人格権の部分に限り具体的権利性を認めたも
のである。
第1節
◆
生命、自由および幸福追求権
第2款
生命、自由および幸福追求権/125
大阪空港公害訴訟控訴審判決(大阪高判昭 50.11.27)
「およそ個人の生命・身体の安全、精神的自由は、人間の生存に最も基本的なことがらで
あって、法律上絶対的に保護されるべきものであることは疑いがなく、また、人間として生
存する以上、平穏、自由で人間たる尊厳にふさわしい生活を営むことも、最大限尊重される
べきものであって、憲法 13 条はその趣旨に立脚するものであり、同 25 条も反面からこれを
裏付けているものと解することができる。このような、個人の生命、身体、精神および生活
に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体を人格権ということができ、
このような人格権は何人もみだりにこれを侵害することは許されず、その侵害に対してはこ
れを排除する機能が認められなければならない」。として、飛行差止請求を認容した。
◆
大阪空港公害訴訟上告審判決(最大判昭 56.12.16/百選Ⅰ〔27〕)
飛行差止請求と将来の損害賠償請求は棄却したが、過去の損害賠償請求を認容した。
◆
厚木基地公害訴訟(最判平 5.2.25/百選Ⅰ[第5版]〔29〕)
飛行差止請求と将来の損害賠償請求を却下した原審の判断を支持したが、過去の損害賠償
請求については、受忍限度の範囲内か否かの判断のための検討に不足があるとして、法理の
解釈適用を誤った違法があるとして、原審の請求棄却判決を破棄して差し戻した。
◆
伊達火力発電所建設等差止請求訴訟事件(札幌地判昭 55.10.14)
環境は「一定地域の自然的社会的常態であるが、その要素は、それ自体不確実、かつ流動
的なものというべく、また、それは現にある状態を指すものか、それともあるべき状態を指
すものか、更に、その認識及び評価において住民個々に差異があるのが普通であり、これを
普遍的に一定の質をもったものとして、地域住民が共通の内容の排他的支配権を共有すると
考えることは困難であって、立法による定めがない現状においては、それが直ちに私権の対
象となりうるだけの明確かつ強固な内容及び範囲をもったものであるかどうか、また裁判所
において法を適用するにあたり、国民の承認を得た私法上の権利として現に存在しているも
のと認識解釈すべきものかどうか甚だ疑問なしとしない」。
六
自己決定権(新しい人権各論4)
個人は、一定の重要な私的事項について、公権力から干渉されることなく、自ら決定することが
できる権利を有し、それは「幸福追求権」の一部を構成する(例えば、治療拒否、自殺、家族の形
成、避妊や堕胎、服装、髪型、喫煙、趣味等であるが、個々の事柄については争いがある)。
1
自己決定権に関する学説
幸福追求権の意義をめぐっては、一般的自由説と人格的利益説とが対立している(⇒二
「2
新しい人権創設の基準」 p.114)が、この対立は当然のことながら、自己決定権をめぐる議論に
反映している。
126/第2編
⑴
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
幸福追求権における人格的利益説(芦部)
自己決定権の保障対象は個人の人格的生存に不可欠な権利に限られるとする。
芦部先生は、髪型の自由につき、身じまいを通じて自己の個性を実現させ人格を形成する自
由であり、精神的形成期にある青少年にとっては成人と同じくらい重要であるとして積極説に
立つ。また、未決拘留者の喫煙の制限に関し、喫煙の自由が憲法の自己決定権に含まれないと
しても、一般国民に許されている自由が奪われる場合には実質的な合理的根拠が必要であると
し、緩やかな審査基準(規制目的が一応正当で、規制目的と規制手段との間に合理的関連性が
認められること)が適用されることを認めている。
佐藤先生は髪型の自由について消極説に立つが、正面から人権といえない事柄でも、それら
が人格の核を取り囲み全体としてその人のその人らしさを形成しているため、そのような事柄
にも人格的自律を全うさせるために手段的に一定の憲法上の保護を及ぼす必要性があるとする。
(批判)
⑵
①
人権保障の範囲が狭くなりすぎるおそれがある。
②
自己決定権に含まれない権利についても保護が及ぶとする根拠が不明確である。
幸福追求権における一般的自由説
自己決定権は個人の自由な行動を広く保障しているとする。
戸波先生は、ビラを貼る権利を独自の憲法上の人権と解さずに、表現の自由の行使の一形態
として憲法上保護されると解すれば足りるように、自己決定権についても、規範レベルでの自
己決定権とその保護する行為を区別すべきとする。すなわち、規範レベルでの自己決定権は個
人の自由な自己決定全般を保障しており、髪型やオートバイに乗る自由は独自の憲法上の権利
と解されるのではなく自己決定権の行使の一態様として保護されると考える。その上で、人格
的生存に不可欠な権利の制限の合憲性審査は厳格になし、それにかかわらない権利・自由につ
いては、その制限の必要性・合理性を緩やかに審査すべきとする。
(批判)
①
人権のインフレ化が生じるおそれがある。
②
人権制限の許容性も広く解されるおそれがある。
<自己決定権に関する学説の帰結>
佐藤(幸)説
芦部説
戸波説
オートバイの運転の自由
×
×
○
髪型の自由
×
○
○
○:認める
2
×:認めない
具体例
◆
どぶろく裁判(最判平元.12.14/百選Ⅰ〔24〕)
事案:
無免許で酒類を製造した者を処罰する酒税法の規定は、自己消費目的の酒類製造も制約
するので 13 条に違反するものではないかを争った。
第1節
判旨:
生命、自由および幸福追求権
第2款
生命、自由および幸福追求権/127
「自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少な
ど酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入であ
る酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象
とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することとしたものであり……これ
により自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の
裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえず、憲法 31 条、13 条に
違反するものではない」。
*
このように、判例は、「どぶろく作り」が私事に関する自己決定権の行使として、幸福追
求権の一部を構成していることを認めている。
◆
宗教的理由による輸血拒否(最判平 12.2.29/百選Ⅰ〔26〕)
事案:
Xは、昭和4年生まれで、昭和 38 年からエホバの証人の信者であり、その教義上の理
由から輸血を拒否する意思を有していた。平成4年6月に、悪性肝臓血管腫の診断を受
け、Xは絶対的無輸血による手術を希望したが、診断を受けた病院では断られた。その
後、Xは、Yが開設するA病院が無輸血手術を行っていると聞き、A病院の医師に絶対
的無輸血の意思を示した上で入院した。その際に、医師らは本人の意思を尊重する旨回
答したが、A病院では、外科手術を受ける患者がエホバの証人の信者である場合、信者
の意思を尊重しできる限り輸血をしないことにするが、輸血以外に救命手段がない場合
には輸血をするという方針を採用していた。もっとも、Xの主治医Bらは、Xの手術の
際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識していたが、Xに対して上
記方針を説明せず、輸血する可能性があることを告げなかった。その後の手術で、Bら
はX救命のためやむを得ず輸血した。
上記事案において、Xは本件手術を含む診療契約には絶対的無輸血の特約が成立して
おり、これに反して輸血したことが債務不履行に当たると主張し、仮に前記主張が通ら
なくても、Bら医師が治療方針について説明しなかったことが不法行為に当たるとして、
Y及びBらを相手に、損害賠償を求めて提訴した。
判旨:
裁判所は、債務不履行責任を否定した上で、不法行為責任について次のように判示した。
「本件において、B医師らが、Xの肝臓の腫瘍を摘出するために、医療水準に従った
相当な手術をしようとすることは、人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者と
して当然のことであるということができる。しかし、患者が、輸血を受けることは自己
の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有し
ている場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなけれ
ばならない。そして、Xが、宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒
否するとの固い意思を有しており、輸血を伴わない手術を受けることができると期待し
てA病院に入院したことをB医師らが知っていたなど本件の事実関係の下では、B医師
らは、手術の際に輸血以外には救命手段がない事態が生ずる可能性を否定し難いと判断
した場合には、Xに対し、A病院としてはそのような事態に至ったときには輸血すると
の方針を採っていることを説明して、A病院への入院を継続した上、B医師らの下で本
件手術を受けるか否かをX自身の意思決定にゆだねるべきであったと解するのが相当で
ある。
128/第2編
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
ところが、医師らは、本件手術に至るまでの約1ヶ月の間に、手術の際に輸血を必要
とする事態が生ずる可能性があことを認識したにもかかわらず、Xに対してA病院が採
用していた右方針を説明せず、同人及び被上告人らに対して輸血する可能性があること
を告げないまま本件手術を施行し、右方針に従って輸血をしたのである。そうすると、
本件においては、B医師らは、右説明を怠ったことにより、Xが輸血を伴う可能性のあ
った本件手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪ったものといわざるを得
ず、この点において同人の人格権を侵害したものとして、同人がこれによって被った精
神的苦痛を慰謝すべき責任を負うものというべきである」。
*
最高裁判決として、患者の自己決定権(意思決定する権利)を人格権として認め、その結
果、その機会を失わせたこと自体をもって不法行為にあたると判示した点が、画期的である。
なお、本判決は、医師が輸血なしの手術のリスクにつき患者に明確かつ十分に説明したが、
患者が輸血を拒否した場合に、①医師に輸血なしの手術を行う義務を課すものではないとい
うこと、及び②医師がそれにかかわらず輸血なしの手術を行い、不幸にも患者が死亡した場
合、医師の刑事責任及び民事責任を免責するという趣旨を含んでいる
◆ 弁護士の所属団体・政党を記載した捜査報告書の提出(東京高判平 12.10.25/H12 重判〔2〕)
事案:
原告Xは東京弁護士会に所属する弁護士であり、傷害事件を起こしたAの弁護人を勤め
ていた。上記傷害事件の捜査を担当した北海道警察警部のB(東京地検での捜査実務の研
修期間中であった)は、当初Aに黙秘されたため、研修指導担当の東京地検のC検事の指
示を受けて、将来の公判請求に備え本件捜査報告書を作成することにした。その際に、B
は、弁護人Xに関心をもち、研修中に知り合った警察庁のE警視から得た情報を基にXの
所属団体や政党につき、「所属する法律事務所が日本共産党系であり、Xも青年法律家協
会所属でかつ日本共産党員として把握されている」旨の記載事項を含んだ捜査報告書を作
成し、これをCに提出した。のちに東京区検のD副検事が、Aを傷害罪として東京簡裁に
略式請求した際に、同捜査報告書を証拠として提出したため、事件が確定後も訴訟記録と
して保管され、その後民事事件の弁護のために訴訟記録を取り寄せたXに、その存在が知
られるところになった。そこで、Xは、①B警部の上記調査、報告書作成行為は、Xの思
想・良心の自由及びプライバシー権を侵害し、また、XとAとの信頼関係を破壊すること
でAを自供に追い込むための違法なものであり、Xの弁護権の重大な侵害行為である、②
C検事のBに対する捜査上の指導には過失があった、③D副検事の本件報告書の提出行為
はXのプライバシー権、思想・良心の自由を侵害したとして、国・東京都・北海道に対し
て損害賠償を請求した。
第1審は、Bの当該訴訟行為について、思想・良心の自由の侵害の点は、認めなかっ
たが、プライバシー権侵害の点は認めた。また、CにもDにも過失があったとして、
国・東京都・北海道に対して損害賠償を命じた。原告・被告双方が控訴した。
第1節
判旨:
生命、自由および幸福追求権
第2款
生命、自由および幸福追求権/129
東京高裁は、中心論点の本件報告書の作成・利用を伴うXのプライバシー侵害について
次のように判示した。B警部の行為については、「捜査担当者が、関係者のプライバシー
に関するような事項について調査を行い、その調査結果を捜査報告書等の書面に作成する
という行為自体は、本件におけるように、それがおよそ調査対象者の私生活の平穏を始め
とする権利、利益を違法、不当に侵害するといったおそれのない方法によって行われるも
のである限り、それが調査対象者のプライバシーを違法、不当に侵害するものとして、直
ちにその職務上の義務に違反する違法な行為とされるということも、原則としてあり得な
いところというべきである。B警部による本件捜査報告書の作成行為自体を、原告のプラ
イバシーを違法、不当に侵害する違法な行為に該当するものとすることができないことは
明らかなものというべきであ」る。
これに対し、D副検事の行為については、本件においてDが裁判のためには必要では
ない「本件捜査報告書を裁判所に証拠資料として提出したことについては、軽率であっ
たとのそしりを免れないものというべきであり、その結果、前記のとおり、本件捜査報
告書が何人においてもこれを閲覧できるという状態に置かれることとなり、原告のプラ
イバシーが侵害されるという結果が生じた以上、D副検事の右の行為は、職務上の義務
に違背した違法行為とされることとなるものというべきである」と判示した。
◆
少年犯罪の実名報道と表現の自由(大阪高判平 12.2.29/H12 重判〔4〕)
事案:
被控訴人は、平成 10 年に発生した、いわゆる境通り魔殺人事件の被告人である。被控
訴人は事件当時 19 歳の少年であり、殺人罪等で起訴された。この事件について、月刊雑
誌『新潮 45』は、この少年の実名、顔写真等により本人であることが特定される内容の
「ルポルタージュ『幼稚園児』虐殺犯人の起臥」と題する記事を掲載した。この記事に対
して、少年は、プライバシー権、氏名肖像権、名誉権等の人格権ないし実名で報道されな
い権利が侵害されたとして、同記事の執筆者、雑誌の編集長及び発行所に対して、不法行
為による損害賠償と謝罪広告を求めて出訴した。
一審の大阪地裁判決(平成 11.6.9)は、実名・顔写真等の「公表が、公共的利害に関
する事実の報道として公益を図る目的の下に行われたものか否か、手段・方法が右目的
からみて必要性・相当性を有するか否かという観点から検討し」、公表されない利益が
優越する場合には、それらの公表は不法行為を構成する、という考え方を採用した。そ
の上、本件では、公表されない法的利益を「上廻る公益上の特段の必要性があったとし
ても、公益を図る目的の下で必要かつ相当な公表の手段・方法において行われたものと
認めることができない」として、損害賠償を認めた。
判旨:
「表現の自由とプライバシー権等の侵害との調整においては、表現行為が社会の正当な
関心事であり、かつその表現内容・方法が不当なものでない場合には、その表現行為は違
法性を欠き、違法なプライバシー権等の侵害とはならないと解するのが相当である」。
130/第2編
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
「人格権ないしプライバシーの侵害とは別に、みだりに実名を公開されない人格的利
益が法的保護に値する利益として認められるのは、その報道の対象となる当該個人につ
いて、社会生活上特別保護されるべき事情がある場合に限られるのであって、そうでな
い限り、実名報道は違法性のない行為として認容されるというべきである」。少年法 61
条は、公益目的や刑事政策的配慮に根拠を置く規定であるから、「同条が少年時に罪を
犯した少年に対し実名で報道されない権利を付与していると解することはできないし、
仮に実名で報道されない権利を付与しているものと解する余地があるとしても、少年法
がその違反者に対して何らの罰則も規定していないことにもかんがみると、表現の自由
との関係において、同条が当然に優先するものと解することもできない」。
本件記事の表現内容・方法が不当なものでないか否かについては、一般に、「犯罪事
実の報道においては、匿名であることが望ましいことは明らかであ」るが、「他方、社
会一般の意識としては、右報道における被疑者等の特定は、犯罪ニュースの基本的要素
であって犯罪事実と並んで重要な関心事であると解されるから、犯罪事実の態様、程度
及び被疑者ないし被告人の地位、特質あるいは被害者側の心情等からみて、実名報道が
許容されることはあり」、本件の実名報道は直ちに権利侵害とはならない。
表現の自由とプライバシー権・肖像権との調整においては、「表現行為が社会の正当
な関心事であり、かつその表現内容・方法が不当なものでない場合には、その表現行為
の違法性を欠」くが、本記事における私生活上の事実の記述や肖像写真の掲載は、こう
した要件を満たしており、違法な権利侵害とならない。
◆
最判平 15.3.14/百選Ⅰ〔71〕
事案:
犯行当時 18 歳のXは、平成6年9月頃、他の少年らと共謀の上、連続して犯した殺人、
強盗殺人、死体遺棄等の4事件により起訴された。Y出版社は、平成9年7月 31 日発売
の「週刊文春」誌上に、「『少年犯』残虐」「法廷メモ独占公開」などという表題の下に
記事を掲載したが、その中に、Xについて、仮名を用いて、法廷での様子、犯行態様の一
部、経歴や交友関係等を記載した部分があった。Xは本件記事により名誉を毀損され、プ
ライバシーを侵害されたとしてYに対し不法行為に基づく損害賠償を請求した。
判旨:⑴
少年法 61 条に違反する推知報道かどうかは、その記事等により、不特定多数の一般
人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断
すべきところ、本件記事は、Xと特定するに足りる事項の記載はないから、不特定多数
の一般人が、本件記事により、Xが当該事件の本人であることを推知することができる
とはいえない。したがって、本件記事は、少年法 61 条の規定に違反するものではない。
⑵
本件記事がXの名誉を毀損し、プライバシーを侵害する内容を含むものとしても、
本件記事の掲載によってYに不法行為が成立するか否かは、「被侵害利益ごとに違法
性阻却事由の有無等を審理し、個別具体的に判断すべきものである」。「また、プラ
イバシーの侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由
に関する諸事情を個別具体的に審理し、これらを比較衡量して判断することが必要で
ある」とした上で、原審の、記事が少年法 61 条に違反すると認めた上で、個別具体的
な事情をなんら審理判断することなく、直ちに、Yの、名誉又はプライバシーの侵害
による損害賠償責任を肯定した判断には違法があると判示した。
第1節
◆
生命、自由および幸福追求権
第2款
生命、自由および幸福追求権/131
ストーカー行為等の規制等に関する法律の合憲性(最判平 15.12.11/H15 重判〔4〕)
「ストーカー規制法は、……ストーカー行為等について必要な規制を行うとともに、その相手
方に対する援助の措置等を定めることにより、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を
防止し……国民の生活の安全と平穏に資することを目的としており、この目的は、もとより正当
である」。そして、同法は「上記目的を達成するため、恋愛感情その他好意の感情等を表明する
などの行為のうち、相手方の身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由
が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる社会的に逸脱したつきまとい等の
行為を規制の対象とした上で、その中でも相手方に対する法益侵害が重大で、刑罰による抑制が
必要な場合に限って、相手方の処罰意思に基づき刑罰を科すこととしたものであり、しかも、こ
れに違反した者に対する法定刑は、刑法、軽犯罪法等の関係法令と比較しても特に過酷ではない
から、ストーカー規制法による規制の内容は、合理的で相当なものである」。以上のストーカー
規制法の目的の正当性、規制の内容の合理性、相当性にかんがみれば、同法2条1項、2項、13
条1項は、憲法 13 条、21 条1項に違反しない。
◆
国籍留保制度と憲法 14 条1項(東京地判平 24.3.23/H24 重判〔6〕)
日本国籍を有する父とフィリピン国籍を有する母との間の嫡出子としてフィリピン国内で出
生しフィリピン国籍を取得したXらは、出生後3か月以内に父母等による日本国籍留保の意思
表示がされなかったため国籍法 12 条により出生のときに遡って日本国籍を失った。そこで、X
らは、法 12 条は憲法 14 条1項および 13 条に違反し無効であると主張して、日本国籍を有する
ことの確認を求めた。
この事案において、裁判所は、まず、国籍法 12 条の立法目的は、①実効性のない形骸化した
日本国籍の発生防止及び②重国籍の発生防止・解消であり、それらにはいずれも合理性が認め
られるとした。
次に、裁判所は、出生地という地縁的要素を我が国との結合関係の指標とすることは合理性
があり、国籍法 12 条が、類型的に実効性のない形骸化した日本国籍を有する重国籍者の発生を
できる限り防止するという目的のために、日本国外で生まれた重国籍者については、日本国籍
を生来的に取得するためには父母等がその意思を表示することが必要として、日本国内で出生
した者とは異なる扱いをすることは、目的との間に合理的な関連性があると認められるとした。
また、裁判所は、類型的に実効性のない形骸的な日本国籍を有する重国籍者の発生を防止する
という立法目的を達成するために、親が子の国籍を留保する旨の意思表示をした者とこれをし
なかった者との間で差異を設けることは不合理ではないとし、父母等による国籍留保の意思表
示がされなかったために日本国籍を生来的に取得できなかった者についても、国籍法 17 条1項
によって、その者が 20 歳未満であり、日本に住所を有していれば、届出という簡易な方法によ
って日本国籍を取得することができる制度が設けられていることも併せ考えるならば、立法目
的との合理的関連性があるとした。
なお、裁判所は、仮にその意に反し国籍を奪われない権利ないし利益(国籍保持権)が憲法
13 条によって保障されているとしても、国籍法 12 条は国籍を奪う規定ということはできないか
ら、国籍保持権を侵害するものということはできないとした。
132/第2編
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
七
肖像権(新しい人権各論5)
1
肖像権の意義
肖像権とは、自己の容ぼう等をみだりに撮影されたり、公表されたりすることがないことを内容
とする権利である。肖像権は、プライバシー権、人格権の一類型として考えることもできる。
2
捜査目的の写真撮影と肖像権
◆
京都府学連事件(最大判昭 44.12.24/百選Ⅰ〔18〕)
事案:
デモ行進の際に警察官が被告人の同意なくして被告人を写真撮影した行為(現場写真撮
影)が肖像権侵害にならないかが争われた。
判旨:
「憲法 13 条は、……国民の私生活上の自由、警察権等の国家権力の行使に対しても保
護されるべきことを規定している……。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何
人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう、姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影
されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、
少なくとも、警察官が正当な理由もないのに、個人の容ぼうを撮影することは、憲法 13
条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない」。
しかし、個人の自由も公共の福祉による制限を受けるから警察官が犯人もしくは第三
者の容ぼうを撮影しても「許容される場合がありうる」。そして、許容されるのは「現
に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠
保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない
相当な方法をもって行われるときである」。かかる基準に徴すると、本件写真撮影は適
法である。
*1
本件判決は「これを肖像権と称するかどうかは別として」とことわり書きしているが、示
された自由の内容は肖像権であるといってよい。
*2
肖像権と捜査目的の写真撮影との調和の基準として、本件判決は以下の基準を示した。
①
現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であること
②
証拠保全の必要性および緊急性があること
③
撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われたこと
かかる最高裁の立場は、肖像権およびプライバシーの国家権力による侵害の可能性とい
う今日的問題の解決に一つの指針を与えたものとして評価されている。
第2節
法の下の平等
第1款
法の下の平等総説/133
第2節 法の下の平等
第1款
法の下の平等総説
一
法の下の平等の位置づけ
1
絶対的平等と相対的平等
⑴
絶対的平等
絶対的平等とは、各人の事実上の相違を度外視して、全く同じに扱うことをいう。
⑵
相対的平等
相対的平等とは、各人の出生・性・資質・年齢・財産・職業などの事実的・実質的差異を前
提に異なった取扱いを認めることをいう。
2
形式的平等と実質的平等
⑴
形式的平等
形式的平等とは、人の現実のさまざまな差異を一切捨象して原則的に一律平等に取り扱うこ
と、すなわち基本的に機会均等を意味する。
⑵
実質的平等
実質的平等とは、形骸化した「機会の平等」を実質的に確保するための基盤形成という意味
での「条件の平等」を指す。
*
⑶
実質的平等という概念は多義的であり、実質的平等を「結果の平等」と考える立場もある。
両者の関係
両者は、一応は対立概念であり、同一次元で両者の要求を同時に充たすことはできない。
しかし、両者は微妙な相関関係にある。
ex.入学試験で身体の不自由な人に特別の計らいをすることは、一面では実質的平等の要
求に沿うものであるが、一面では受験機会の均等という形式的平等の要求を充たすもの
と考えることもできる。
⑷
日本国憲法における「平等」
日本国憲法には形式的平等と実質的平等の両方の要請が含まれていると解されている。しか
し、14 条の規定は、なによりも形式的平等を保障したものと解するのが妥当である。なぜなら、
結果の平等を完全に解消することは、少なくとも自由の理念と両立しないが、近代立憲主義の
延長線にある日本国憲法は自由の理念と調和する平等の理念に基づいていると考えられるから
である。その意味で実質的平等の要求は相対的限度内のものにとどまる。
134/第2編
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
したがって、その実現は、なにが実質的平等と呼ばれるにふさわしいかという問題を含めて、
第一義的には社会権条項に託された課題であり、結局は立法によって実現されるべきものであ
ろう。すなわち、それは少なくとも裁判規範の意味においては、14 条の規定から直接に導かれ
る性質のものではないといわなければならない。実質的平等の要求と形式的平等の要求は同一
次元では両立しないから、そのように解さないと、形式的平等の要求が、不明確な内容の要求
によって相対化され、かえって無内容なものにおちいるおそれがある。結論的にいうと、14 条
は第一義的に形式的平等を保障しており、ただ実質的平等の理念からくるこの相対化の要請を
相当の程度まで受容することを予定した規定だと解される。
<法の下の平等と国家との関係>
形式的平等
本来平等
↓
国家の差別的介入を排除
自由権的
実質的平等
事実上不平等
↓
強者の人権制約
国家の介入を要求
社会権的
弱者の人権保障
(社会権)
二
問題点
条件の平等の実現には国家の積極的作為が必要不可欠の要素である。しかし、国家行為が機会の
平等実現のための基盤形成を超えて過度にわたる場合には個人の自由や平等が侵害される危険性が
ある。よって、現代において要請される条件の平等(実質的平等)は、近代立憲主義における機会
の平等や形式的平等に完全にとってかわったとみることは出来ない。また、現代立憲主義の平等は、
別異取扱いの禁止という近代立憲主義の延長線上にあって機会の平等、形式的平等を実現するため
の前提条件創出のために要請されているとみるべきである。したがって、完全に結果的事実関係が
均一になることを求める徹底した結果の平等は、能力主義や自由を否定することになり、許されな
い。
発展
三
四
明治憲法における平等原則
明治憲法には平等原則に関する一般的な規定がなく、わずかに公務就任に関して「日本臣民ハ法律命令ノ定ム
ル所ノ資格ニ応シ均ク文武官ニ任セラレ及其ノ他ノ公務ニ就クコトヲ得」(明憲 19)という規定が置かれるにと
どまっていた。
日本国憲法における平等原則
14 条(平等原則の一般的規定)
24 条(家庭生活における男女平等について)
26 条(ひとしく教育を受ける権利について)
15 条3項、44 条(参政権の平等について)
第2節
法の下の平等
第2款
14 条1項の法的性格/135
こうして、象徴天皇制に伴う天皇ならびに皇族の身分上の例外を除けば、日本国憲法は近代的意味の平等を徹
底して保障しようとしている。しかしそれと同時に 25 条を初めとして、いわゆる社会権の規定を設け、実質的平
等の保障をも志向している。
五
貴族制度の廃止と栄典の授与
1 貴族制度の廃止
14 条2項は、「華族その他の貴族の制度は、これを認めない」と定めている。
貴族とは、一般国民から区別された特権を伴う世襲の身分である。
2 栄典と特権
14 条3項は、栄誉、勲章、その他の栄典の授与には、どのような特権も伴ってはならず、またその効力は一
代限りであり世襲されてはならないことを定めている。
第2款
一
発展
14 条1項の法的性格
はじめに
14 条1項は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地
により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と規定する。
→14 条1項は、平等原則という国政全般を直接拘束する客観的原理と同時に、平等権という具
体的権利(裁判規範性をもつ)を定めている
<平等原則と平等権の状況>
A
B
下
上
水準
C
→ABCの状態は、平等原則違反だが平等権侵害で争えるのはCグループのみと解される(Aグ
ループ、Bグループは争えない)
*
平等原則=国家は国民を不合理に差別してはならないという原則。
平等権=国家から平等に扱われる権利ないし不合理な差別をされない権利。
二
平等原則と平等権との関係
1
平等原則と平等権
憲法 14 条の規定は、国家は国民を不合理に差別してはならないという原則を定めたものであり、
その原則は直接的な法規範として、立法・行政・司法の全ての国家行為を拘束するものである。
そしてそれは同時に、個々の国民に対しては、平等権すなわち法的に平等に扱われる権利ないし
不合理な差別をされない権利を保障したものだと一般に解されている。違憲審査制が採用され、
裁判を受ける権利が保障されている今日、平等権は、裁判において救済を求めることができる権
136/第2編
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
利である。しかし平等権は他の人権とは異なり、常に他者との比較においてのみ問題となるもの
で、その意味では相対的な権利であり、あるいはそれ自体としては無内容ないし無定形の権利で
ある。そのような性質は、裁判的救済方法にも他の人権の場合と異なる独自の問題を生じさせる。
2
違憲主張の範囲
国民は「平等権」の侵害に対しては、最終的には裁判所による違憲審査を求めることができる。
しかし平等は常に他との比較において問題となる性質のものであり、通常は「平等権」以外の実
体的な権利・自由ないし法的利益にかかわって他との区別の合理性が問題となる。そして平等に
取り扱われるべき権利・自由ないし法的利益が不平等に取り扱われたときには、憲法 14 条1項違
反になるのであって、平等権か平等原則かの違いにこだわる実益はないというべきであろう。
この点、「平等権」を標準的処遇を求めるまでの権利と解する有力な見解がある。仮に法律が国
民の中のAグループに対しては優遇的に、Bグループに対しては標準的に、Cグループに対して
は劣遇的に処遇しており、そこに合理的理由がない場合に、平等権侵害を主張できるのはCだけ
だという考え方である。
しかし、他者への優遇処置は、何らかの形で標準的処遇自体に影響を与えているはずであるし、
平等が問題になるのは、常に相対的な他との取扱いの違いであって、絶対的な標準的処遇という
ものは存在しないのではないかという疑問が提起されている。
3
違憲判断の方式
特定の法律条項や具体的処分が平等原則違反と判断された場合、その判断の方式が問題となる。
平等原則違反の救済は、差別を解消することによってなされるが、それをどのように具体化する
かは、平等原則自体からはでてこない。自由権に関しての平等原則違反は、通常その規定や処分
を違憲・無効とすることでよい。しかし、社会権や国務請求権のような分野では、違憲・無効と
するのではかえって実質的な救済にならない場合がある。真の救済のためには国による立法措置
が必要であり、それは立法府の判断に委ねられる事項だからである。このような場合の判決のあ
り方については、まだ学説の対応は不十分であるが、一般的にいえば、裁判所としては違憲の確
認にとどめ、後は立法府の賢明な措置に期待すべきということになろうが、最近は、法令の部分
無効という判断手法によって真の救済を図ることも為されている(ex.
最大判平 20.6.4/百選Ⅰ〔35〕
第3款
一
後掲国籍法違憲判決:
⇒p.141)。
「法の下の平等」の意味
「法の下」の意味
14 条1項は法適用の平等のみを意味するか、それとも法内容の平等までをも意味するか。つまり、
14 条1項が立法者を拘束するかどうかが、「法の下」の解釈として問題となる。
かつては、「法の下の平等」とは、法適用の平等のみを意味し、14 条1項は立法者を拘束しな
いとする見解もみられた(立法者非拘束説)。
第2節
法の下の平等
第3款
「法の下の平等」の意味/137
しかし、いかに法を平等に適用しても、その内容が不平等であっては、平等の保障は実現され
ず、個人の尊厳原理は無意味に帰する。また、日本国憲法は立法権をも含めたすべての国家権力
が、正義の法たる憲法に拘束されるという法の支配の原理を採用している(98Ⅰ、81、76 等)。
そこで、今日においては、「法の下の平等」とは、法適用の平等のみならず、法内容の平等をも意味
し、14 条1項は立法者も拘束すると解する点で、ほとんど争いがない(立法者拘束説)。
二
「平等」の意味
「平等であって」とは、国家は、個人を人格的価値において等しいものとして取り扱うべきであ
る(根源的平等)という点において、今日、争いはない。もっとも、「平等」とは一切の差別的取
扱いを禁止するものか、条文上明らかでなく、問題となる。
この点、「平等」とは、全ての者を全く同一に取り扱うことを要求する絶対的平等ではなく、各
個人の特質に応じて合理的差別を許す相対的平等を意味すると解するのが判例・通説である。人格
を支える生活環境などには個人差があり、それにもかかわらず、これを無視して形式的に同一の取
扱いをすることは、かえって人格価値の不平等を招くことになるからである。
◆
尊属殺重罰規定違憲判決(最大判昭 48.4.4/百選Ⅰ〔28〕)
事案:
長年実父から苛酷な性的虐待を受けてきた女性が実父を絞殺し、改正前刑法 200 条の尊
属殺人罪で起訴された。そこで、刑法 200 条が 14 条1項に反しないかが争われた。
判旨:
刑法 200 条の立法目的は「尊属を卑属またはその配偶者が殺害することをもって一般に
高度の社会的道義的非難に値するものとし、かかる所為を通常の殺人の場合より厳重に処
罰し、もって特にこれを禁圧」することにあり、「尊属に対する尊重報恩は、社会生活上
の基本的道義というべ」きであるから、「刑法上の保護に値する」ということができ、
「かかる差別的取扱いをもってただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはでき」な
い。
しかし「加重の程度が極端であって……立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、
これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なもの」とし
て違憲となる。
「刑法 200 条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限っている点において
……立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え……199 条の法定刑に比し著しく不合理な
差別的取扱いをするものと認められ、憲法 14 条1項に違反して無効である」。
*
違憲の理由について、多数意見は尊属に対する尊重報恩という道義を保護するという立法目
的は合理的であるが、刑の加重の程度が極端であって、立法目的達成手段として不合理である
とした。これに対して、少数意見は尊属殺重罰規定が違憲であるという結論自体は異ならない
が、理由として立法目的自体が違憲であるとしており、この点で異なっている。
なお、平成7年の刑法改正によって尊属殺人についての刑法 200 条、尊属傷害致死罪につい
ての刑法 205 条2項は削除された。
138/第2編
◆
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
サラリーマン税金訴訟(最大判昭 60.3.27/百選Ⅰ〔32〕)
事案:
給与所得者にだけ「必要経費」の実額控除を認めない旧所得税法9条1項5号は、事業
所得者に比して給与所得者に重い所得税を課しており、14 条1項に違反するのではないか
が争われた。
判旨:
「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態につい
ての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判
所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうであ
るとすれば、租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、そ
の立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様
が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定する
ことができず、これを憲法 14 条1項の規定に違反するものということはできない」。
→給与所得者にだけ「必要経費」の実額控除を認めない旧所得税法9条1項5号は違憲で
はない
◆
女子若年定年制事件(最判昭 56.3.24/百選Ⅰ〔12〕)
事案:
女子の定年年齢を男子よりも5歳若くした就業規則が、14 条1項の趣旨から、民法 90 条
に反しないかが争われた。
判旨:
「(当該就業規則は)専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するも
のであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法 90 条の規定により無効で
ある」。
◆
堀木訴訟最高裁判決(最大判昭 57.7.7/百選Ⅱ〔137〕)
⇒第7章
事案:
第2節
第2款
「二
具体的な救済方法」(p.387)
Xは全盲の視力障害者として障害福祉年金を受給していたが、昭和 23 年に夫と離婚して
以来、寡婦として子供を養育していた。昭和 45 年に、XはYに対し児童扶養手当の受給資
格についての認定の請求を申請したところ、Yはこれを却下した。そこで、XはYに対し
て異議申立てを行ったが、Xが障害福祉年金を受給していることから、児童扶養手当法4
条3項3号の併給禁止規定に該当するとの理由で、Yは上記異議申し立てを棄却する旨の
裁決をした。
このような状況において、Xは、本件条項は、母が障害年金を受給している児童と障害
年金を受けていない児童とを差別している点及び二重の生活上の負担を負っている者の保
護を考慮していない点において 14 条1項、25 条2項、13 条に反すると主張して、本件却
下処分の取消しと、受給資格の認定を求めて出訴した。
判旨:
「憲法 25 条の規定の要請にこたえて制定された法令において、受給者の範囲、支給要件、
支給金額等につきなんら合理的理由のない不当な差別的取扱をしたり、あるいは個人の尊
厳を毀損するような内容の定めを設けているときは、別に所論指摘の憲法 14 条及び 13 条
違反の問題を生じうることは否定しえないところである」。しかし、「なんら合理的理由
のない不当なものであるとはいえない」ので、本件規定は、14 条1項に違反しない。
第2節
◆
法の下の平等
第3款
「法の下の平等」の意味/139
東京都青年の家事件(東京高判平 9.9.16/百選Ⅰ〔31〕)
事案:
Xは同性愛者相互のネットワーク作り、同性愛に関する正確な知識と情報の普及、同性
愛者に対する社会的な差別や偏見の解消等を目的として活動している団体である。Xが東
京都府中青少年の家に対し1泊2日の宿泊使用を申し込んだところ、同所長は申込書を受
理せず、その後受理された申込に対して、東京都教育委員会は青年の家における「男女別
室の原則」を同性愛者同士にもあてはめ、Xの宿泊利用を不承認とした。この不承認に対
し、Xは府中青年の家の設置管理者に対し損害賠償を求めた。
判旨:
「都教育委員会が、青年の家利用の承認不承認にあたって男女別室宿泊の原則を考慮す
ることは相当であるとしても、右は異性愛者を前提とする社会的慣習であり、同性愛者の
使用申込に対しては、同性愛者の特殊性、すなわち右原則をそのまま適用した場合の重大
な不利益に十分配慮すべきであるのに、……同性愛者の宿泊利用を一切拒否したものであ
って、その際には、一定の条件を付する等して、より制限的でない方法により、同性愛者
の利用権との調整を図ろうと検討した形跡もうかがえない」。したがって本件不承認処分
は、「結果的、実質的に不当な差別的取扱いをしたものであり」「裁量権の範囲を逸脱し
た」「違法なものというべきである」。
*
本件においては、青年の家の処分が 14 条の禁止する「差別的取扱」にあたるとされた。男女
別室原則という手段を同性愛者団体にも異性愛者団体と「同じように」適用した結果、異性愛
者については宿泊を許可した上で男女別室であるのに対し、同性愛者については宿泊拒否とい
う著しい別扱い・不均衡が生じた。成年の家という宿泊施設において、宿泊拒否は最終手段で
あり、同性愛者にとって著しい不利益扱いとなっていることが重視された。
◆
戦没者遺族等援護法の国籍・戸籍条項の合憲性(大阪高判平 11.9.10/H11 重判〔2〕)
事案:
在日韓国人たるXは厚生大臣に対して戦傷病者戦没者遺族等援護法(以下、援護法)に
基づく障害年金請求をしたが、援護を受けるために日本国籍を有することや戸籍法の適用
を受けることを要件としていたため、請求は却下され、異議申立ても棄却された。そこで、
このような国籍条項、戸籍条項は憲法 14 条に反するとして、国に対して援護法の援護を受
ける地位の確認、慰謝料 1000 万円の支払等を求めた。
判旨:
援護法は、戦争損害・犠牲に対する保障という国家補償的性格と、軍人・軍属であった
者またはその遺族の生活支援という社会保障的性格を併有する。国家補償の側面について
いえば、「国がいかなる範囲の者にいかなる範囲の補償を行うかは……立法政策に属する
問題であるし」、社会保障の側面については、それは「当該保障対象者が属する国家の責
任」である。また援護法の立法に際しては、朝鮮半島等出身者の軍人・軍属等に対する補
償問題は、「各地域施政当局との間で、特別取極の主題とし、外交交渉により解決すべき
ことが予定されていた」こと等を考慮すると、「これらの地域出身者については、戸籍条
項を設けて……援護の対象外としたことには合理性があった」。
140/第2編
◆
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
退職手当条例の合憲性(最判平 12.12.19/H12 重判〔3〕)
事案:
Y県の中学教諭であったXは、土曜の午後授業を終えて車で昼食に行く途中交通事故を起
こし、相手車両の運転者と同乗者傷害を負わせたとして、業務上過失致傷罪で起訴され、有
罪判決が確定した。Y県は、上記有罪判決が確定したことにより、Xが地方公務員法 28 条
4項及び 16 条2号に基づき当然失職になったとして、Xに対し失職の通知を行った。Y県
職員退職手当条例6条1項2号が、失職の場合には退職金を支給しない旨を定めていたため、
Xは退職金を受けることができなかった。Xは、⑴自動失職を規定している地方公務員法
16 条2号、28 条4項は憲法 13 条、14 条に違反する、また⑵退職手当条例6条1項2号は
憲法 13 条、14 条、29 条1項に違反するとして、退職金手当を請求した。
判旨:⑴
地方公務員法8条4項、16 条2号の合憲性について
「地方公務員法 28 条4項、16 条2号は、禁錮以上の刑に処せられた者が地方公務員と
して公務に従事する場合には、その者の公務に対する住民の信頼が損なわれるのみなら
ず、当該地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼も損なわれるおそれがあるため、
このような者を公務の執行から排除することにより公務に対する住民の信頼を確保する
ことを目的としているものである。地方公務員は、……その地位の特殊性や職務の公共
性があることに加え、我が国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の実情の下における
禁錮以上の刑に処せられたことに対する一般人の感覚などに照らせば、地方公務員法 28
条4項、16 条2号の前記目的には合理性があり、地方公務員を法律上右のような制度が
設けられていない私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえず、右各規定は憲
法 13 条、14 条1項に違反するものではない」。
⑵
退職手当条例6条1項2号の合憲性について
「禁錮以上の刑に処せられたため地方公務員法 28 条4項の規定により失職した者に対
して一般の退職手当を支給しない旨を定めた条例6条1項2号は、禁錮以上の刑に処せ
られた者は、その者の公務のみならず当該地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼
を損なう行為をしたものであるから、勤続報償の対象となるだけの公務への貢献を行わ
なかったものとみなして、一般の退職手当を支給しないものとすることにより、退職手
当制度の適正かつ円滑な実施を維持し、もって公務に対する住民の信頼を確保すること
を目的としているものである。前記のような地方公務員の地位の特殊性や職務の公共性、
我が国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の実情の下における禁錮以上の刑に処せら
れたことに対する一般人の感覚などに加え、条例に基づき支給される一般の退職手当が
地方公務員が退職した場合にその勤続を報償する趣旨を有するものであることに照らせ
ば、条例6条1項2号の前記目的には合理性があり、同号所定の退職手当の支給制限は
右目的に照らして必要かつ合理的なものというべきであって、地方公務員を私企業労働
者に比べて不当に差別したものとはいえないから、同号が憲法 13 条、14 条1項、29 条
1項に違反するものでない」。
第2節
◆
法の下の平等
第3款
「法の下の平等」の意味/141
東京高判平 13.8.20/H13 重判〔3〕
事案:
交通事故で死亡したA女(当時 10 歳)の父Xは、加害者Yに対し不法行為に基づく損害
賠償を請求した際、Aの逸失利益算定にあたって、Xは全労働者の平均賃金を基礎とする
よう主張し、Yは女子の平均賃金を基礎とするように主張し、争った。
判旨:
「賃金センサスによる平均賃金には男女間で相当の格差が生じているが……本来有する労
働能力については、個人による差はあっても、性別に由来する差は存在しない……法制度や
社会環境、女子の就労環境をめぐる近時の動向等も勘案すると、年少者の将来の就労可能性
の幅に男女差はもはや存在しないに等しい状況にあると考えられる。……そもそも、性別は
個々の年少者の備える多くの属性の一つにすぎない。にもかかわらず他の属性をすべて無視
して、統計的数値の得られやすい性別という属性のみを採り上げることは、収入という点で
の年少者の将来の可能性を予測する方法として合理的であるとは到底考えられず、性別によ
る合理的な理由のない差別であるというほかはない。」として、「男女を併せた全労働者の
平均賃金を用いるのが合理的」と判示した。
*
ほぼ同時期に福岡高裁(福岡高判平 13.3.7)は、同様の事案において、女子の平均賃金を基
礎として用いることを「合理性を欠くものとはいえない」として認めており、下級審において
結論は一致していない。
◆
東京高判昭 57.6.23/百選Ⅰ[第5版]〔36〕
事案:
旧旧国籍法は、「出生の時に母が日本国民であるとき」との条項を欠いていた。
判旨:
「立法政策上複数の選択肢が考えられる場合には、そのいずれを選択するかは立法者に
任せられるべきであり、条理の名によって裁判所が選択決定することは許されないものと
いうべきである。(この点、)憲法は国籍付与の基準として何ら特定の主義を採るべきこ
とを指示していないのである」。従って、旧旧国籍法2条1号の「父が日本国民であると
き」を「父又は母が日本国民であるとき」(現国籍法)と類推解釈することはできない。
*
旧旧国籍法は、日本国籍付与の要件として、「父が日本国民であるとき」とする父系優先主
義を採用していた。しかし、女子差別撤廃条約を日本が批准したことに伴い、国籍法が改正さ
れ、父又は母が日本国民であるときには国籍付与されることとなった(昭和 59 年改正)。改正
前に出生した子についても遡及適用されたため、原告は上告を取り下げた。
◆
旧国籍法違憲判決(最大判平 20.6.4/百選Ⅰ〔35〕)
事案:
Xは、法律上の婚姻関係にない日本国籍を有するАと在留期間を超過してわが国に在留し
ていたフィリピン国籍を有するBとの間に出生した者である。Xの親権者であるBは、Xの
出生後、XがАから認知を受けたことを理由にして法務大臣に国籍取得届を提出したところ、
国籍取得の要件を満たしていないとの通知を受けた。なお、旧国籍法3条1項は、「父母の
婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で 20 歳未満のもの(日本国民であつ
た者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、
その父又は母が現に日本国民であるとき、又は死亡の時に日本国民であつたときは、法務大
臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる」と定めていた。
142/第2編
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
そこで、Xは、準正要件を定めた国籍法(平成 20 年法律第 88 号による改正前のもの。
以下同じ)3条1項の規定のために生じた、父母が法律上の婚姻をしていない非嫡出子は、
日本国民である父から認知された子でありながら、その他の同項所定の要件を満たしても
日本国籍を取得することができないという区別は憲法 14 条1項に違反するとして、国に対
して、Xが日本国籍を有することの確認を求める訴えを提起した。
判旨:1
国籍法3条1項の合憲性について
⑴
「憲法 10 条の規定は、……国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれ
の国の歴史的事情、伝統、政治的、社会的及び経済的環境等、種々の要因を考慮する
必要があることから、……、立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解される。
しかしながら、このようにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によっ
て生じた区別が、合理的理由のない差別的取扱いとなるときは、憲法 14 条1項違反の
問題を生ずる……。すなわち、立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、
なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合、又は
その具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には、
当該区別は、合理的な理由のない差別として、同項に違反する……」。
「日本国籍は、我が国の構成員としての資格であるとともに、我が国において基本
的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位
でもある。一方、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは、
子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係
る事柄である」から「日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な
理由があるか否かについては、慎重に検討することが必要である」。
⑵
「国籍法3条の規定する届出による国籍取得の制度は、……、同法の基本的な原則
である血統主義を補完するものとして……昭和 59 年……改正において新たに設けられ
たものである。そして、国籍法3条1項……が設けられた主な理由は、日本国民であ
る父が出生後に認知した子については、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得する
ことによって、日本国民である父との生活の一体化が生じ、家族生活を通じた我が国
社会との密接な結びつきが生ずることから、日本国籍の取得を認めることが相当であ
るという点にある……。また、上記国籍法改正の当時には、父母両系血統主義を採用
する国には、自国民である父の子について認知だけでなく準正のあった場合に限り自
国籍の取得を認める国が多かったことも、本件区別が合理的なものとして設けられた
理由であると解される。国籍法3条1項は、同法の基本的な原則である血統主義を基
調としつつ、日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付き
の指標となる一定の要件を設けて、これらを満たす場合に限り出生後における日本国
籍の取得を認めることとしたものと解される。このような目的を達成するため準正そ
の他の要件が設けられ、これにより本件区別が生じたのであるが、本件区別を生じさ
せた立法目的自体には、合理的な根拠がある……。また、……当時の社会通念や社会
的状況の下においては、日本国民である父と日本国民でない母との間の子について、
父母が法律上の婚姻をしたことをもって日本国民である父との家族生活を通じた我が
第2節
法の下の平等
第3款
「法の下の平等」の意味/143
国との密接な結び付きの存在を示すものとみることには相応の理由があったものとみ
られ、当時の諸外国における前記のような国籍法制の傾向にかんがみても、同項の規
定が認知に加えて準正を日本国籍取得の要件としたことには、上記の立法目的との間
に一定の合理的関連性があったものということができる」。
「しかしながら、その後、我が国における社会的、経済的環境等の変化に伴って、
夫婦共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなくなって
きており、今日では、出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど、家族生活や親
子関係の実態も変化し多様化してきている。このような社会通念及び社会的状況の変
化に加えて、近年、我が国の国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより、
日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加しているところ、両
親の一方のみが日本国民である場合には、同居の有無など家族生活の実態においても、
法律上の婚姻やそれを背景とした親子関係の在り方についての認識においても、両親
が日本国民である場合と比べてより複雑多様な面があり、その子と我が国との結び付
きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない。
これらのことを考慮すれば、日本国民である父が日本国民でない母と法律上の婚姻を
したことをもって、初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの我が国との密接な結
び付きが認められるものとすることは、今日では必ずしも家族生活等の実態に適合す
るものということはできない。
また、諸外国においては、非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向に
あることがうかがわれ、……さらに、国籍法3条1項の規定が設けられた後、自国民
である父の非嫡出子について準正を国籍取得の要件としていた多くの国において、今
日までに、認知等により自国民との父子関係の成立が認められた場合にはそれだけで
自国籍の取得を認める旨の法改正が行われている。
以上のような我が国を取り巻く国内的、国際的な社会的環境等の変化に照らしてみ
ると、準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて、
前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっているとい
うべきである。
一方、国籍法は、……、出生の時に父又は母のいずれかが日本国民であるときには
子が日本国籍を取得するものとしている(2条1号)。その結果、……日本国民であ
る父から胎児認知された非嫡出子及び日本国民である母の非嫡出子も、生来的に日本
国籍を取得することとなるところ、同じく日本国民を血統上の親として出生し、法律
上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず、日本国民である父から出生後に認知
された子のうち準正により嫡出子たる身分を取得しないものに限っては、生来的に日
本国籍を取得しないのみならず、同法3条1項所定の届出により日本国籍を取得する
こともできないことになる。このような区別の結果、日本国民である父から出生後に
認知されたにとどまる非嫡出子のみが、日本国籍の取得について著しい差別的取扱い
を受けているものといわざるを得ない。
144/第2編
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
日本国籍の取得が、前記のとおり、我が国において基本的人権の保障等を受ける上
で重大な意味を持つものであることにかんがみれば、以上のような差別的取扱いによ
って子の被る不利益は看過し難いものというべきであり、このような差別的取扱いに
ついては、前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだし難いといわざるを得ない。
とりわけ、日本国民である父から胎児認知された子と出生後に認知された子との間に
おいては、日本国民である父との家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度に
一般的な差異が存するとは考え難く、日本国籍の取得に関して上記の区別を設けるこ
との合理性を我が国社会との結び付きの程度という観点から説明することは困難であ
る。また、父母両系血統主義を採用する国籍法の下で、日本国民である母の非嫡出子
が出生により日本国籍を取得するにもかかわらず、日本国民である父から出生後に認
知されたにとどまる非嫡出子が届出による日本国籍の取得すら認められないことには、
両性の平等という観点からみてその基本的立場に沿わないところがあるというべきで
ある」。
「国籍法が、同じく日本国民との間に法律上の親子関係を生じた子であるにもかか
わらず、上記のような非嫡出子についてのみ、父母の婚姻という、子にはどうするこ
ともできない父母の身分行為が行われない限り、生来的にも届出によっても日本国籍
の取得を認めないとしている点は、今日においては、立法府に与えられた裁量権を考
慮しても、我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立
法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用しているものと
いうほかなく、その結果、不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない」。
「以上によれば、本件区別については、これを生じさせた立法目的自体に合理的な
根拠は認められるものの、立法目的との間における合理的関連性は、我が国の内外に
おける社会的環境の変化等によって失われており、今日において、国籍法3条1項の
規定は、日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっている
というべきである。しかも、本件区別については、……日本国民である父から出生後
に認知されたにとどまる非嫡出子に対して、日本国籍の取得において著しく不利益な
差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ず、国籍取得の要件を定めるに当たっ
て立法府に与えられた裁量権を考慮しても、この結果について、上記の立法目的との
間において合理的関連性があるものということはもはやできない。そうすると、本件
区別は、遅くともXらが法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には、立法府に与
えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間において合理的関連性を欠くも
のとなっていたと解される。
したがって、上記時点において、本件区別は合理的な理由のない差別となっていた
といわざるを得ず、国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは、憲法
14条1項に違反するものであったというべきである」。
第2節
2
法の下の平等
第3款
「法の下の平等」の意味/145
Xの日本国籍取得の可否について
そして、国籍法3条1項による本件区別が違憲であることを前提として、「国籍法3条
1項が日本国籍の取得について過剰な要件を課したことにより本件区別が生じたからとい
って、本件区別による違憲の状態を解消するために同項の規定自体を全部無効として、準
正のあった子(以下『準正子』という。)の届出による日本国籍の取得をもすべて否定す
ることは、血統主義を補完するために出生後の国籍取得の制度を設けた同法の趣旨を没却
するものであり、立法者の合理的意思として想定し難いものであって、採り得ない解釈で
あるといわざるを得ない。そうすると、準正子について届出による日本国籍の取得を認め
る同項の存在を前提として、本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済
を図り、本件区別による違憲の状態を是正する必要があることになる。このような見地に
立って是正の方法を検討すると憲法 14 条1項に基づく平等取扱いの要請と国籍法の採用し
た基本的な原則である父母両系血統主義とを踏まえれば、日本国民である父と日本国民で
ない母との間に出生し、父から出生後に認知されたにとどまる子についても、血統主義を
基調として出生後における日本国籍の取得を認めた同法3条1項の規定の趣旨・内容を等
しく及ぼすほかはない。
すなわち、このような子についても、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したこと
という部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に、届出により日本国籍を取得する
ことが認められるものとすることによって、同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能
となるものということができ、この解釈は、本件区別による不合理な差別的取扱いを受け
ている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも、相当性を有するものとい
うべきである。……したがって、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し、
父から出生後に認知された子は、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分
を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは、同項に基づいて日本国籍を取得
することが認められるというべきである。」として、Xの日本国籍取得を認めた。
*
上記多数意見に対しては、①本件規定による本件区別は立法政策の選択の範囲内にとどまり憲
法 14 条に違反しない、②非準正子が届出により日本国籍を取得できないのは、これを認める規
定がないからであって、国籍法3条1項の有無にかかわるものではない(違憲とすべきは立法
不作為の状態)、③多数意見の採用する解釈は「法律にない新たな国籍取得の要件を創設する
ものであって、実質的には司法による立法に等しい」などの反対意見がある。
*
法務省は、国籍法3条1項を改正し、出生後に認知された子について、両親が結婚していな
くても日本国籍が取得できるようにする方針を明らかにした。その後、改正法が、平成 20 年 12
月 12 日に公布され、平成 21 年1月1日に施行された。
146/第2編
◆
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
大阪地判平 25.11.25/H25 重判〔6〕
事案:
Xの妻(地方公務員)は、公務に因り精神障害を発症し自殺した。そこで、Xは、Y(地
方公務員災害補償基金大阪支部長)に対し、地方公務員災害補償法(以下「地公災法」とい
う。)に基づき、遺族補償年金等の支給請求をしたところ、地公災法 32 条1項ただし書1
号が遺族補償年金の受給要件として、配偶者のうち夫についてのみ「60 歳以上」との要件
(以下「本件年齢要件」という。)を付加していたため、当時 51 歳であったXは不支給処
分を受けた。そこで、Xは、本件年齢要件が憲法 14 条1項に違反するとして、処分の取消
しを求めて提訴した。
なお、妻ではなく夫が死亡した場合、妻は年齢にかかわらず遺族補償年金を受給するこ
とができる(以下「本件区別」という。)。
判旨:
「憲法 14 条1項は、法の下の平等を定めており、この規定は、事柄の性質に応じた合理
的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものである」。
「遺族補償年金は、地方公務員が公務上死亡したことによる遺族の被扶養利益の喪失を補
てんしようとしたものである。」そして、「地方公務員災害補償制度は、損害賠償との調整
規定が置かれている上……、同一の事由により他の社会保障給付をも受給できる場合におい
ても、併給が禁止されて」いないことなどに照らすと、「一種の損害賠償制度の性格を有し
ており、純然たる社会保障制度とは一線を画するものである」。もっとも、「遺族補償年金
は、定額が支給される遺族補償一時金とは異なり、……社会保障的性質をも有することは否
定できない」。「そのような性質を有する遺族補償年金制度につき具体的にどのような立法
措置を講じるかの選択決定は、上記制度の性格を踏まえた立法府の合理的な裁量に委ねられ
ており、本件区別が立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、そのような区別
をすることに合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は、合理的な理由のない差別
として、憲法 14 条1項に違反する」。
「いわゆる専業主婦世帯を想定し、その働き手である夫が死亡した場合に……妻について
は、年齢や障害の有無に関わらず類型的に生計自立の能力のない者として、年齢要件等を設
けずに……遺族補償年金の受給権者としたことには、地公災法が立法された当時においては、
一定の合理性があった」。しかし、「女性の社会進出が進み、男性と比べれば依然不利な状
況にあるとはいうものの、相応の就業の機会を得ることができるようになった結果、専業主
婦世帯の数と共働き世帯の数が逆転し、共働き世帯が一般的な家庭モデルとなっている今日
においては、配偶者の性別において受給権の有無を分けるような差別的取扱いはもはや立法
目的との間に合理的関連性を有しないというべきであり、……遺族補償年金の第一順位の受
給権者である配偶者のうち、夫についてのみ 60 歳以上……との本件年齢要件を定める地公
災法 32 条1項ただし書……の規定は、憲法 14 条1項に違反する不合理な差別的取扱いとし
て違憲・無効であるといわざるを得ない。」
第2節
三
法の下の平等
第3款
「法の下の平等」の意味/147
14 条1項前段と後段との関係
<問題の所在>
14 条1項前段の「法の下の平等」の一般原則と後段の人種・信条等による差別の禁止との関係
をどのように考えるべきか、違憲審査基準と関連して問題となる。
<考え方のすじ道>
↓まず
後段列挙事由は例示列挙であると解すべき
↓なぜなら
平等の内容は時代の流れにより変化を要するから、立法上の差別禁止事由を限定的に解したの
では平等が実現されなくなるおそれがあり妥当ではない
↓ただ
後段列挙事由に基づく差別は原則として法の下の平等に反し許されないと解する
↓なぜなら
①
後段列挙事由は歴史的に特に問題となってきた差別を列挙したもの
②
条文上わざわざ列挙してある以上、特別な意味を与えるべき
<アドヴァンス>
1
限定列挙説
後段は限定列挙である。
→立法者非拘束説・絶対的平等説はこの説に結びつく
(批判)
①
平等の内容は社会の展開の過程で変容するものであるから、立法上の差別禁止事項を全
く限定的に解することは適当ではない。
②
限定列挙説・絶対的平等説を採ると今日一般に支持されている女性の労働保護規定など
が説明困難になる。
2
単なる例示列挙説(判例)
後段は、不合理な差別事由の例示ではなく、単なる差別事由の例示であるとする説(最大判
昭 48.4.4)。
→後段の規定には格別の存在意義が認められない
3
限定的例示列挙説
⑴
後段は、前段の重要な場合を具体的に列挙したものであるとする説
⑵
後段は、不合理な差別事由の代表的なものを列挙したものであって、それらを理由とする差
別は原則として法の下の平等に反するという意味で特に列挙したものであるとする説
⑶
後段は、民主制の下では本来許されない不合理な差別を列挙したものであり、合憲とする側
が合理的差別であることの挙証責任を負うという意味で裁判規範として意義をもつとする説
*
⑴から⑶が、判例と異なり、後段列挙事由を特別扱いする理由
148/第2編
①
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
後段列挙事由のうち、人種、性別、社会的身分、門地は(社会的身分については争いあ
るも)人の出生によって決定される条件であって自己のコントロールの及ばない事項であ
り、こうした「うまれ」による差別を認めないことこそが、そもそも平等思想の根源であ
り、民主政の一つの核心である。
②
信条は、民主政の基本に関わる価値として、絶対的にその自由が保障されるべきもので
ある。
<14 条1項の解釈における立法者拘束説と立法者非拘束説の相違点>
発展
「法の下」の意味
立法者拘束説
立法者非拘束説
法の下の平等とは、法の内容について
の平等を意味し、法の適用のみならず法の
定立をも規律して、不平等な内容の法律を
立法者が定立することを禁止する。
法の下の平等が妥当しない法律域ないし
事項の存在を認められない。
法の下の平等とは、法の内容についての
平等ではなく法の適用における平等を意味
する。
したがって、法適用機関である行政権・
司法権のみを拘束し、立法権を拘束しな
い。
1説
1項後段列挙事由の
意味
: 後段は不合理な差別事由の例示
ではなく、単なる差別事由の例
示である(判例)。
2⑴説: 後段は前段の重要な場合を具体
的に列挙したものである。
2⑵説: 後段は不合理な差別事由の代表
的なものを列挙したものであっ
て、それらを理由とする差別は
原則として法の下の平等に反す
るという意味で特に列挙したも
のである。
2⑶説: 後段は、民主政の下では本来許
されない不合理な差別を列挙し
たものであり、合憲とする側が
合理的差別であることの挙証責
任を負うという意味で裁判規範
として意義をもつ。
後段列挙事由は立法者を含む全ての国家
機関が国民を差別してはならないことを規
定するものである。
立法者は列挙事由以外の事由に着目し
て、差別を行うことを憲法上禁止されてい
ないが、列挙事由については立法者を拘束
し差別的取扱いが絶対的に禁止されるとい
う意味で限定列挙である。
「平等」の意味
各人の事実上の差異に応じた別異取扱い
を行うことも合理的な理由があれば許され
る。
後段列挙事由やそれ以外の事由であって
も個人的特性に基づく差異があるときは、
事物の本質に基づく区別は立法においても
顧慮されなければならない。
後段列挙事由については、個人の事実上
の差異はいかなる法律上の取扱いにも対応
せしめられてはならない。
前段については立法者が差別的取扱いを
行うことも許されるが、後段列挙事由につ
いては、立法者も絶対的平等を定めなけれ
ばならない。
発展
第2節
第4款
一
法の下の平等
第4款
違憲判断の基準/149
違憲判断の基準
14 条1項の合憲性判定基準
<問題の所在>
絶対的平等説に立つならば 14 条に反するか否かは明確に判断することができる。しかし、相対
的平等説に立った場合、事実上の差異があるときにその差異に応じて異なった取扱をすることは、
その区別が合理的である限り許容される。では、区別が合理的か否かを、どのような基準で判断
すべきなのか。差別的取扱いの合理性を安易に認めてしまうことがないように、14 条1項の合憲
性判定基準を類型化し明確にしていく必要がある。
<考え方のすじ道>~有力学説
⑴
まず、14 条1項後段の列挙事由による差別は民主主義の理念の下では本来許されない差別
↓したがって
違憲性の推定が働き、厳格な審査基準
①立法目的が重要であり、かつ、②目的と手段との間に実質的な関連性があることが必要で
ある(厳格な合理性の基準)
↓これに対し
⑵
14 条1項後段の列挙事由以外の事由による差別
↓
合憲性の推定が働き、緩やかな審査基準
→立法目的が正当であり、立法目的と差別的取扱いとの間に合理的関連性があれば合理的差
別といえる(合理性の基準)
↓もっとも
⑶
14 条1項後段列挙事由以外の事由による差別であっても、民主政の過程に不可欠な人権に
おける差別は⑴と同様に、民主主義の理念に照らし本来許されない差別
ex.精神的自由権、選挙権の差別
↓したがって
二重の基準論の趣旨に基づき、厳格な合理性の基準
*
二
14 条の審査基準は、併給禁止規定でも問題となる。→生存権:堀木訴訟
積極的差別是正措置の場合
<問題の所在>
例えば、女性の雇用促進のために、法律で企業に一定数以上の女性の採用を義務付けた場合、14
条1項に反し違憲といえないか。「アファーマティブ・アクション」(積極的差別是正措置:人
種や性等を考慮した一定数の枠を設け、教育や雇用の機会等を優先的に与える措置)に対する合
憲性判定基準が問題となる。
150/第2編
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
<考え方のすじ道>
確かに、性別による差別は後段列挙事由に基づく差別
→合理的差別か否かは厳格な基準を用いて判断すべきとも思える
↓しかし
かかる基準を用いると、多くの積極的差別是正措置が違憲とされてしまう
↓そもそも
14 条1項には、社会国家(25)の理念に基づき形式的平等のみならず実質的平等の確保の要請
も含まれている
↓そして
積極的差別是正措置はこのような実質的平等の要請を充足するもの
↓よって
積極的差別是正措置の合憲性判定基準はある程度緩和して考えるべき
↓しかし
あまりにこれを緩和することは、かえって逆差別の問題を招来するから妥当でない
↓そこで
厳格な合理性の基準(立法目的が重要で、手段との間に実質的な合理的関連性があること)を
やや緩和して適用すべきである
↓あてはめ
目的:雇用機会における男女格差の事実から、実質的平等(14)の趣旨に照らし重要
手段:男性の権利を過度に侵害しない割合比率であれば実質的な合理的関連性あり
↓したがって
男性の権利を過度に侵害しない割合比率であれば、合憲
<アドヴァンス>
1
積極的差別是正措置の合憲性判定基準を緩和する見解
積極的差別是正措置は、差別を是正し実質的平等を実現することを目的としながら、そのた
めの手段として社会的強者の集団に属する人々の機会の形式的平等を損なうという矛盾した性
格を有する。そのため、人種や性が「疑わしい差別」であるという一般論を機械的にあてはめ
ると、人種や性に関する積極的差別是正措置が一律に違憲とされてしまい、不都合である。そ
こで、積極的差別是正措置の合憲性判定基準は、通常の場合より緩和すべきである、とする。
ただ上記見解の中でも、具体的にどの基準を用いるのかについては考え方に違いがある。
⑴
「合理性の基準」を使う見解
定型的差別とは異なることから、むしろ通常の積極的政策的立法に随伴する不平等と同様
に、合理性の基準で審査されるべきとする。
*
この見解は、例えば身障者の優先処遇について、合理性のテストを用い、目的と無関係
な程の割合でなされている等の例外的場合を除けば合憲である、とする。
第2節
⑵
法の下の平等
第4款
違憲判断の基準/151
「厳格な合理性の基準」を使う見解
①当該優遇措置が性という集団的属性を強調するため、個人主義の憲法理念に反し、むし
ろ、②女性は優遇措置がなければ雇用されないという劣等のスティグマ(偏見)や固定観念
を生み助長するおそれがある等、逆差別のおそれがあるので、「合理性の基準」よりはやや
厳しい基準を採るべきとする。
*
この見解に立つと、法律で企業に一定数以上の女性の採用を義務付けた場合は、女性に
雇用の機会を付与するという立法目的は、憲法の保障する勤労の権利と実質的平等の趣旨
に照らし重要であるといえる。そして、具体的内容が、暫定的で、男性の権利を過度に侵
害しない割当比率で、免責の考慮がある等であれば、目的との間に実質的関連性があり、
全体として合憲ということになる。
2
通常の差別事件と同一基準とする見解
積極的差別是正措置に消極的な見解は、同措置によって直接に不利益を被る人は、本来であれば
自分たちが属する集団全体で負担すべきものを一部の者で負担していることになり、マジョリティ
内部での不公平が生じることを問題とする。特に、人種や性に関する積極的差別是正措置において
は、特定個人に対し「人種差別・男女差別是正に要する全負担を課す」ものとして、是非とも必要
な最小限度のものといえるかは疑問であり、違憲の疑いが強いと主張している。
三
個別的差別禁止事項
憲法 14 条1項後段に挙げられている個別的事項は、歴史的にみて不合理な差別が行われてきた
代表的な事項である。
1
人種
人種とは、皮膚、毛髪、目、体型等の身体的特徴によって区別される人類学上の種類である。
2
信条
信条とは、歴史的には主に宗教や信仰を意味したが、今日ではさらに広く思想・世界観等を含む
と解するのが一般である。
3
性別
4
社会的身分
⑴
問題点
本事由にあたるのはどのようなものか、特に嫡出子・非嫡出子という立場や特定の地域の出
身者であることなどが「社会的身分」にあたるか、が問題となる。
⑵
⒜
学説
人が社会において継続的に占めている地位で、自分の力ではそれから脱却できず、それにつ
いてある種の社会的評価が伴っているものとする説
152/第2編
⒝
基本的人権の保障
第2章
包括的基本権と法の下の平等
広義説(判例)
人が社会においてある程度継続的に占める地位または身分とする説
(批判)
各種職業や居住地域なども含まれることになって、憲法が何のためにとくに「社会的身
分」による差別を禁止しているかの理由が疑わしくなる。
⒞ 狭義説
人の生まれによって決定される社会的な地位または身分
(批判)
「門地」と類似することになる。
(反論)
「門地」は、家柄といった家族的身分である点で、社会的身分とはニュアンスを異にす
るものである。
⑶
検討
判例は、 14 条1項後段列挙事由を単なる例 示と見つつ、⒝説を採って いる(最大判昭
39.5.27)。このように 14 条1項後段列挙事由を単なる例示に解すれば、社会的身分の意義や
非嫡出子という地位の社会的身分該当性を検討することの実益は乏しい。
一方、東京高決平 5.6.23 は、⒞説を採り、かつ非嫡出子という地位を「社会的身分」にあた
るとした。これは、本決定が後段に特別な意味を認め、民法 900 条4号ただし書が社会的身分
による差別的取扱いで違憲かどうかに関して、より厳格な審査態度を採るための立論上の伏線
である。
5
門地
門地とは、家系・血統等の家柄を指す。
第5款
一
家族生活における平等
総説
14 条→法の下の平等を保障するとともに、「性別」を差別禁止事項の一つとする
24 条→家族生活における「両性の本質的平等」を規定
↓したがって
家族生活における男女平等は、規定上は、14 条および 24 条によって二重に保障される
*
従来、現行法上の男女の異なる取扱い(ex.女子の再婚禁止期間・民 733)は、男女の肉体
的・生理的条件の差異によるものであり、法の下の平等に反しないとされてきた。
→近時、男女の肉体的構造の差異を根拠にして男女の異なる取扱いを正当化する考え方に対し
て、女性に対する固定観念に基づく役割分担や特性論であるとの批判がなされている
→このような取扱いの正当性を再検討する必要がある
事項索引/あ-け
事項索引
※
分冊科目のセブンサミットテキストには、通し番号による頁数を付しており、事項索引及び判例索引は、当該頁数を記載した全
分冊共通のものとなっている(憲法Ⅰ・1頁~416 頁、憲法Ⅱ・417 頁~688 頁)。
あ
愛知大学事件 ............................... 214
秋田市国民健康保険税条例事件 ............... 586
アクセス権 ................................. 236
「悪徳の栄え」事件 ......................... 261
上尾市福祉会館事件 ......................... 294
旭川学力テスト事件 .................... 403, 405
朝日訴訟 ......................... 386, 390, 603
新しい人権 ................................. 114
い
家永訴訟 ................................... 407
違憲審査制 ................................. 632
違憲判決の効力 ............................. 680
石井記者事件 ............................... 228
「石に泳ぐ魚」事件 ......................... 276
「板まんだら」事件 ......................... 597
一事不再議の原則 ........................... 494
イニシアティブ ............................. 488
委任命令 .............................. 536, 478
委任立法 .............................. 478, 554
岩手靖国訴訟 ............................... 196
う
ヴァージニア権利章典 ........................ 50
「宴のあと」事件 ...................... 116, 256
浦和事件 ................................... 515
上乗せ条例 ................................. 591
運用違憲 ................................... 670
え
営業の自由 ................................. 297
営利広告の自由 ............................. 252
恵庭事件 ................................... 662
愛媛玉串料訴訟 ............................. 197
LRAの基準 ............................... 216
「エロス+虐殺」事件 .................. 116, 276
お
大阪空港公害訴訟控訴審判決 ................. 125
大牟田市電気税訴訟 ......................... 574
沖縄代理署名訴訟 ........................... 637
か
海外旅行の自由 ............................. 315
会期制度 ................................... 493
会計検査院 ................................. 572
外国移住の自由 ............................. 315
外国人の人権 ................................ 57
解散権 ..................................... 547
会派 ....................................... 460
外務省秘密漏洩事件 ......................... 232
閣議 ....................................... 527
学習権 ..................................... 396
学問の自由 ................................. 207
課税要件法定主義 ........................... 551
課税要件明確主義 ........................... 551
河川付近地制限令違反事件 ................... 335
過度の広汎性故に無効の法理 ................. 216
川崎民商事件 ............................... 659
環境権 ..................................... 122
間接選挙 ................................... 427
間接選挙制 ................................. 427
間接民主制 ................................. 418
完全連記制 ................................. 431
き
議院規則制定権 ............................. 509
議員定数不均衡 ............................. 438
議院内閣制 ................................. 540
議員の資格争訟裁判権 ....................... 509
議院の自律権 .......................... 508, 600
議院の懲罰権 ............................... 512
機関訴訟 .............................. 596, 634
岐阜県青少年保護育成条例事件 ................ 278
義務教育の無償 ............................. 411
客観訴訟 ................................... 634
客観訴訟 ................................... 596
教育の自由 ................................. 401
教育を受ける権利 ........................... 396
教科書検定違憲訴訟 ......................... 407
共産党袴田事件 ............................. 609
教授の自由 ................................. 208
行政 ....................................... 521
行政監督権 ................................. 518
行政機関による終審裁判の禁止 ............... 612
行政国家現象 ............................ 9, 418
行政庁の裁量 ............................... 603
強制投票制度 ............................... 429
京都市古都保存協力税条例事件 ............... 183
許可制 ................................ 285, 307
居住移転の自由 ............................. 314
緊急集会 ................................... 496
緊急勅令 ................................... 478
近代的意味の憲法 ............................. 1
欽定憲法 ..................................... 3
勤労権 ..................................... 416
勤労の義務 ................................. 113
く
具体的権利 .................................. 55
繰越明許費 ................................. 559
け
傾向企業 .................................... 79
警察法改正無効事件 ......................... 601
警察予備隊違憲訴訟 .................... 596, 634
形式的意味の憲法 ............................. 1
形式的平等 ................................. 133
刑事補償請求権 ............................. 377
継続費 ..................................... 559
刑罰不遡及の原則 ........................... 362
月刊ペン事件 ............................... 255
決算 ....................................... 571
検閲 ....................................... 268
こ-し/事項索引
厳格な合理性の基準 ......................... 299
現代型憲法 ................................... 3
現代立憲主義 ................................. 8
憲法改正 .................................... 25
憲法改正権の限界 ............................ 32
憲法改正の限界 .............................. 27
憲法慣習 ..................................... 2
憲法裁判所 .................................. 11
憲法裁判所型 ............................... 632
憲法訴訟 ................................... 653
憲法尊重擁護義務 ............................. 4
憲法の意義 ................................... 1
憲法の変遷 .................................. 28
憲法の法源 ................................... 2
憲法判断の方法 ............................. 660
憲法判例 ................................ 3, 685
憲法保障 .................................... 29
憲法保障型 ................................. 632
権利章典 ............................. 5, 47, 50
権利請願 ................................ 47, 49
権利説と二元説の対比 ....................... 379
権力分立 ..................... 1, 8, 10, 29, 417
こ
公安条例 ................................... 277
公開裁判 ................................... 360
公共の福祉 ................................. 103
皇居前広場事件 ............................. 290
拘禁 ....................................... 363
公金支出の禁止 ............................. 565
合憲限定解釈 ............................... 663
皇室財産 ................................... 571
麹町中学内申書事件 .................... 110, 177
公衆浴場距離制限 ........................... 310
公衆浴場距離制限事件 ....................... 672
硬性憲法 ................................. 3, 29
公正取引委員会 ............................. 523
交戦権 ...................................... 20
校則による髪型の規制 ....................... 107
校則によるバイク規制 ....................... 109
拘束名簿式 ................................. 466
幸福追求権 ................................. 113
公平な裁判所 ............................... 358
公務員の人権 ................................ 84
公務就任権 .................................. 61
小売市場距離制限事件 ....................... 304
合理的期間論 ............................... 440
国際人権規約 ................................ 48
国事行為 .................................... 43
国政調査権 ................................. 514
告知・弁解・防御の機会 ..................... 346
国費支出 ................................... 569
国民主権 ................................ 37, 38
国民審査制 ................................. 624
国民投票 .................................... 40
国民投票法案不受理違憲訴訟 ................. 513
国民発案 ................................... 488
国民表決 ................................... 488
国務請求権 ................................. 365
国務大臣 ................................... 530
国労広島地本事件 ............................ 70
個人の尊厳 .......................... 4, 12, 113
国会単独立法の原則 .................... 478, 485
国会中心立法の原則 ......................... 478
国会の活動 ................................. 493
国会の権能 ................................. 503
国会の召集 ............................ 536, 539
国会の組織 ................................. 490
国家機密 ................................... 231
国家同視説 .................................. 80
国庫債務負担行為 ........................... 569
戸別訪問の禁止 ............................. 245
固有の意味の憲法 ............................. 1
固有の意味の租税 ........................... 551
婚姻適齢 ................................... 153
さ
裁可 ....................................... 478
罪刑法定主義 ............................... 342
最高機関 ................................... 472
最高裁判所規則 ............................. 620
最高裁判所規則制定権 ....................... 623
最高裁判所の法律案提出権 ................... 487
最高法規性 ............................... 4, 29
再婚禁止期間 ............................... 153
財政 ....................................... 550
財政状況の報告 ............................. 571
財政民主主義 ............................... 551
在宅投票制廃止違憲訴訟 ........... 425, 642, 651
再入国の自由 ................................ 64
裁判員制度 ................................. 614
裁判官の独立 ............................... 615
裁判所 ................................ 367, 595
裁判所の独立 ............................... 615
裁判の公開 ................................. 627
裁判を受ける権利 ........................... 367
歳費を受ける権利 ........................... 496
雑誌「諸君!」反論文掲載請求事件 ........... 238
差別的表現 ................................. 249
サラリーマン税金訴訟 .................. 138, 388
猿払事件 ................................... 667
参議院 ..................................... 490
サンケイ新聞事件 ...................... 238, 257
三権分立 .................................... 13
参審制 ..................................... 614
参政権 ............................. 54, 58, 378
三段階審査 ................................. 679
暫定予算 ................................... 560
し
自衛権 ...................................... 18
自衛力 ...................................... 19
塩見訴訟 .................................... 62
事件性 ..................................... 596
私権保障型 ................................. 632
自己決定権 ................................. 125
事後法の禁止 ............................... 362
事情判決の法理 ............................. 441
私人間効力 .................................. 76
事前抑制 ................................... 216
思想良心の自由 ............................. 173
自治事務 .............................. 582, 584
執行命令 ................................... 478
実質的意味の憲法 ............................. 1
実質的証拠法則 ............................. 612
実質的平等 ................................. 133
事項索引/す-た
司法 ....................................... 595
司法権 ..................................... 595
司法権の独立 ............................... 615
司法国家現象 ........................... 11, 418
司法裁判所型 ............................... 632
指紋押捺 ................................... 117
社会学的代表 ............................... 464
社会権 ............................. 54, 61, 383
社会国家的公共の福祉 ....................... 105
社会的身分 ................................. 151
謝罪広告 ................................... 175
自由委任 ................................... 464
集会・結社の自由 ........................... 283
衆議院 ..................................... 490
衆議院議員定数不均衡違憲判決
................ 437, 439, 441, 442, 670, 683
衆議院の解散 .......................... 536, 542
衆議院の優越 ............................... 492
宗教上の組織若しくは団体 ................... 195
宗教的人格権 ............................... 183
宗教法人オウム真理教解散命令事件 ........... 183
自由権 ...................................... 53
自由国家的公共の福祉 ....................... 105
私有財産制度 ............................... 320
衆参同日選挙事件 ........................... 550
自由主義 .................................... 13
自由選挙 ................................... 428
集団的自衛権 ................................ 21
住民自治 ................................... 574
受益権 ..................................... 365
主権 ........................................ 37
授権規範性 ................................... 4
取材源の秘匿 ............................... 228
取材の自由 ................................. 226
出国の自由 .................................. 64
種徳寺事件 ................................. 597
酒類販売業免許拒否処分取消請求事件 ......... 308
殉職自衛官合祀訴訟 ......................... 185
純粋代表 ................................... 464
常会 ....................................... 493
消極国家 ..................................... 7
消極目的規制 .......................... 299, 322
少数代表法 ................................. 431
小選挙区 ................................... 430
肖像権 ..................................... 132
条約 ............................. 503, 535, 638
条約修正権 ................................. 507
条例 ....................................... 584
昭和女子大事件 .............................. 78
職業選択の自由 ............................. 297
食糧管理法違反事件 ......................... 330
女子若年定年制事件 ..................... 77, 138
処分的法律 ................................. 475
私立高校超過学費返還請求訴訟 ............... 398
知る権利 ................................... 219
白タク営業事件 ............................. 305
信教の自由 ................................. 181
人権享有主体性 .............................. 74
人権の類型 .................................. 53
人事院 ..................................... 522
人種 ....................................... 151
信条 ....................................... 151
心身障害児の教育を受ける権利 ............... 399
迅速な裁判 ................................. 359
森林法共有林事件 ...................... 322, 323
森林法共有林違憲判決 .................. 670, 683
す
砂川事件 .......................... 21, 606, 641
せ
請願権 ..................................... 365
税関検査 ................................... 271
税関検査事件 ..................... 268, 269, 665
政教分離原則 ............................... 186
制限規範性 ................................... 4
制限選挙 ................................... 419
政見放送の削除 ............................. 280
制限連記制 ................................. 431
政治活動の自由 .......................... 67, 84
政治的代表 ................................. 464
青少年保護育成条例事件 ................. 278, 347
精神的自由 ................................. 173
生存権 ..................................... 384
政党 ....................................... 459
政党国家 ..................................... 9
政党国家現象 ............................ 9, 418
正当な補償 ................................. 332
制度的保障 .................................. 56
成文憲法 ..................................... 3
性別 ....................................... 151
政令 ....................................... 536
世界人権宣言 ................................ 48
積極国家 ..................................... 8
積極的差別是正措置 ......................... 149
積極目的規制 .......................... 299, 322
絶対的平等 ................................. 133
前科照会事件 ............................... 116
選挙 ....................................... 419
選挙争訟 ................................... 436
選挙運動の自由 ............................. 242
選挙権 ..................................... 378
全国民の「代表」 ........................... 463
煽動処罰規定の合憲性 ....................... 261
全農林警職法事件 ................... 94, 95, 665
前文の裁判規範性 ............................ 35
戦力 ........................................ 19
そ
争議行為 ................................... 413
争訟性 ..................................... 596
造船汚職事件 ............................... 519
相対的平等 ................................. 133
訴訟要件 ................................... 657
租税法律主義 ............................... 551
措置法 ..................................... 475
尊属殺重罰規定違憲判決 ........... 137, 670, 683
た
第一次家永教科書事件 ....................... 274
大学の自治 ................................. 210
第三者所有物没収事件 .................. 659, 682
対審 ....................................... 628
大選挙区 ................................... 430
大統領制 ................................... 540
第二次家永訴訟第1審判決 ......... 405, 668, 670
代表民主制 ................................. 418
ち-ひ/事項索引
逮捕 ....................................... 363
高田事件 ................................... 359
多数代表法 ................................. 431
闘う民主制 ................................. 461
弾劾裁判所 ................................. 619
単記移譲式 ................................. 431
単記投票法 ................................. 430
団結権 ..................................... 412
団体交渉権 ................................. 412
団体行動権 ................................. 412
団体自治 ................................... 574
ち
地方公共団体 .......................... 576, 578
地方自治 ................................... 573
地方自治特別法 ............................. 583
地方自治の本旨 ........................ 573, 574
嫡出子と非嫡出子 ........................... 155
チャタレイ事件 ............................. 260
抽象的違憲審査制 ........................... 632
抽象的権利 .................................. 55
直接請求 ................................... 583
直接選挙 ................................... 427
直接民主制 ............................ 418, 581
沈黙の自由 ................................. 174
つ
通信の秘密 ................................. 295
通達課税 ................................... 555
て
定足数 ..................................... 494
TBSビデオテープ押収事件 ................. 230
適正手続の保障 ............................. 342
適用違憲 ................................... 666
適用審査 ................................... 671
デモ行進(集団示威運動)の自由 ............. 283
天皇 ........................................ 40
天皇・皇族の人権 ............................ 74
と
党議拘束 ................................... 465
等級選挙 ................................... 424
東京都公安条例事件 .................... 286, 672
東京都青年の家事件 ......................... 139
当選訴訟 ................................... 437
東大ポポロ事件 ............................. 213
統治行為 ................................... 604
党内民主主義 ............................... 461
投票価値の平等 ............................. 438
投票自書制 ................................. 428
都教組事件 ................................. 664
徳島市公安条例事件 ......................... 216
特別会 ..................................... 493
特別権力関係 ................................ 83
特別裁判所 ................................. 619
特別裁判所の禁止 ........................... 611
独立行政委員会 ............................. 522
独立宣言 .................................... 50
独立命令 ................................... 478
届出制 ................................ 285, 307
どぶろく裁判 ............................... 126
苫米地事件 ............................ 545, 605
富山大学事件 ............................... 609
とらわれの聴衆 .............................. 82
な
内閣 ....................................... 527
内閣総理大臣 ............................... 529
内閣総理大臣公式参拝訴訟.................... 199
内閣総理大臣の異議 ......................... 610
内閣の責任 ................................. 537
内閣の総辞職 ............................... 538
内閣の組織 ................................. 526
内閣の法律案提出権 ......................... 486
内申書の不利益記載 ......................... 110
内面的精神活動の自由 ....................... 173
内容規制 ................................... 218
内容中立規制 ............................... 218
長沼事件 ........................... 16, 36, 663
ナシオン .................................... 39
奈良県ため池条例事件 ....................... 328
軟性憲法 ..................................... 3
に
二院制 ................................ 490, 491
西陣ネクタイ訴訟 ........................... 311
二重煙突事件 ............................... 517
25 条1項と2項との関係 .................... 393
二重の基準 ............................ 106, 215
二段階制 ................................... 578
日米安全保障条約 ............................ 20
日弁連スパイ防止法反対運動事件 ............... 72
日曜日授業参観事件 ......................... 206
日中旅行社事件 .............................. 79
日本テレビビデオテープ押収事件 ............. 230
入国の自由 .................................. 64
ぬ
抜き打ち解散事件 ........................... 545
の
納税の義務 ................................. 112
農地改革事件 ............................... 334
ノンフィクション「逆転」事件 ................ 257
は
陪審制 ..................................... 613
博多駅TVフィルム提出命令事件 ........ 227, 229
漠然性故に無効の法理 ....................... 216
パターナリスティックな制約 ................. 107
八月革命説 .................................. 32
パチンコ球遊器通達課税事件 ................. 555
パブリックフォーラム論 ..................... 287
判決 ....................................... 628
判決理由 ................................... 685
半代表 ..................................... 464
反論権 ..................................... 237
ひ
比較衡量論 ................................. 105
批准 ....................................... 505
被選挙権 ................................... 381
1人1票の原則 ............................. 424
秘密選挙 ................................... 428
秘密投票 ................................... 428
百里基地訴訟 ........................ 16, 37, 80
平等 ....................................... 133
事項索引/ふ-れ
平等原則と平等権 ........................... 135
平等主義 .................................... 14
平等選挙 ................................... 424
比例原則 ................................... 671
比例代表制 ................................. 430
比例代表制の合憲性 ......................... 432
比例代表法 ................................. 431
ふ
プープル .................................... 39
福岡県青少年保護育成条例事件 .......... 347, 665
福祉主義 .................................... 15
複数選挙 ................................... 424
複選制 ..................................... 427
付随的違憲審査制 ........................... 632
不逮捕特権 ................................. 496
普通選挙 ................................... 419
不文憲法 ..................................... 3
部分社会の法理 ............................. 606
プライバシー権 ............................. 115
プラカード事件 ............................. 668
フランス人権宣言 .................. 1, 6, 14, 50
ブランデンバーグ・テスト.................... 262
プログラム規定 .............................. 56
文民 ....................................... 528
文面上無効 ................................. 216
文面審査 ................................... 671
へ
併給禁止規定 ............................... 395
平和的生存権 ............................ 16, 36
弁護人依頼権 ............................... 361
ほ
帆足計事件 ................................. 318
包括的基本権 ............................... 113
法人の人権 .................................. 68
放送法 ..................................... 238
法治主義 .................................... 21
法定受託事務 ............................... 582
報道の自由 ................................. 226
法の支配 .................................... 22
法律上の争訟 ............................... 596
法律の留保 .............................. 22, 52
法令違憲 ................................... 666
補償の要否 ................................. 330
ポストノーティス命令 ....................... 178
補正予算 ................................... 559
牧会活動事件 ............................... 182
北海タイムス事件 ........................... 235
ポツダム宣言 ................................ 31
北方ジャーナル事件 ......................... 275
堀木訴訟 .............................. 393, 602
本門寺事件 ................................. 598
ま
マグナ・カルタ ....................... 5, 47, 49
マクリーン事件 ...................... 58, 66, 68
マッカーサー草案 ............................ 31
み
未成年者と選挙運動の自由 ................... 111
未成年者の人権 .............................. 75
三井美唄炭鉱事件 ....................... 70, 381
三菱樹脂事件 ....................... 77, 78, 173
南九州税理士会政治献金事件 .................. 72
箕面忠魂碑・慰霊祭訴訟 ..................... 194
宮本判事補再任拒否事件 ..................... 627
民衆訴訟 .............................. 596, 634
民主主義 .................................... 14
民主制 ..................................... 418
民定憲法 ..................................... 3
め
明確性の原則 .......................... 216, 346
明治憲法 .................................... 51
名城大学紛争調停事件 ....................... 477
明白かつ現在の危険 ......................... 216
明白性の原則 ............................... 299
名簿式 ..................................... 431
名誉権 ..................................... 122
メモ採取の自由 ............................. 233
免責特権 .............................. 497, 498
も
目的・効果基準 ............................. 192
目的・手段審査 ............................. 671
森川キャサリーン事件 ........................ 66
門地 ....................................... 152
や
薬事法距離制限規定違憲判決 .. 302, 670, 672, 683
八幡製鉄事件 ........................... 69, 461
ゆ
唯一の立法機関 ............................. 473
夕刊和歌山時事事件 ......................... 254
郵便法違憲判決 ........................ 670, 683
よ
幼児教室公的助成違憲訴訟 .............. 565, 569
抑留 ....................................... 363
横出し条例 ................................. 591
予算 .................................. 536, 559
予算と法律の不一致 ......................... 563
予算の修正とその限界 ....................... 561
予算の法的性質 ............................. 560
「四畳半襖の下張」事件 ..................... 260
よど号ハイジャック記事抹消事件 .............. 98
米内山事件 ................................. 512
予備費 ................................ 537, 569
予防接種禍 ................................. 338
より制限的でない他の選びうる手段の基準 ..... 216
り
立憲主義 ..................................... 5
立憲的意味の憲法 ............................. 1
立憲民主主義 ................................ 14
立法 ....................................... 473
立法裁量 ................................... 602
「立法」の意味 ............................. 473
立法不作為 ............................ 385, 642
両院協議会 ................................. 495
臨時会 ..................................... 493
れ
レイシオ・デシデンダイ ..................... 685
レセプト情報公開請求事件 ................... 119
ろ-わ/事項索引
レファレンダム ............................. 488
レペタ事件 ............................ 235, 629
連記投票法 ................................. 430
蓮華寺事件 ................................. 598
連座制 ..................................... 437
ろ
労働基本権 ............................. 92, 412
わ
わいせつの意義 ............................. 260
ワイマール憲法 .......................... 48, 51
判例索引/最高裁判所
判例索引
※
分冊科目のセブンサミットテキストには、通し番号による頁数を付しており、事項索引及び判例索引は、当該頁数を記載した全
分冊共通のものとなっている(憲法Ⅰ・1頁~416 頁、憲法Ⅱ・417 頁~688 頁)。なお同一年月日のものについては、特に、登
載判例集等を記して、特定した。
最高裁判所
最大判昭 23.3.12 ........................... 364
最大判昭 23.5.26 ....................... 41, 358
最大判昭 23.7.8 ............................ 371
最大決昭 23.7.29 ........................... 372
最大判昭 23.7.29 ...................... 354, 361
最大判昭 23.11.17 .......................... 616
最大判昭 23.12.15 .......................... 616
最大判昭 24.3.23 ........................... 368
最大判昭 24.4.6 ............................ 428
最大判昭 24.5.18 ...................... 262, 372
最大判昭 24.12.21 .......................... 364
最大判昭 25.2.1 ............................ 638
最大判昭 25.9.27 ........................... 362
最判昭 25.11.9 ............................. 428
最大判昭 25.11.15 .......................... 416
最大判昭 25.11.22 .......................... 114
最判昭 26.3.1 .............................. 485
最大判昭 27.1.9 ............................ 330
最大判昭 27.2.20 ........................... 625
最大判昭 27.8.6 ............................ 228
最大判昭 27.10.8 ...................... 596, 634
最大判昭 27.12.24 ....................... 4, 372
最大決昭 28.1.16 ...................... 512, 611
最大判昭 28.4.8 ............................. 96
最大判昭 28.12.23 民集 7・13・1523 ....... 321, 334
最大判昭 28.12.23 民集 7・13・1561 ....... 290, 658
最判昭 29.1.22 ............................. 330
最大決昭 29.4.26 ........................... 364
最判昭 29.7.16 ............................. 355
最大判昭 29.11.24 .......................... 285
最大判昭 30.1.26 ...................... 310, 672
最大判昭 30.2.9 ............................ 379
最大判昭 30.3.30 ........................... 244
最判昭 30.4.22 ............................. 622
最大判昭 30.4.27 ........................... 353
最大判昭 30.6.22 ............................ 96
最大判昭 30.12.14 .......................... 364
最大判昭 31.5.30 ........................... 611
最大判昭 31.7.4 ....................... 176, 259
最大決昭 31.12.24 .......................... 378
最大判昭 32.2.20 ........................... 360
最大判昭 32.3.13 ...................... 260, 261
最大判昭 32.12.25 ........................... 64
最大判昭 32.12.28 .......................... 485
最大決昭 33.2.17 ........................... 235
最判昭 33.3.28 ............................. 555
最大判昭 33.4.30 ........................... 362
最判昭 33.5.1 .............................. 480
最大判昭 33.7.9 ............................ 480
最大判昭 33.9.10 ........................... 318
最大決昭 33.10.15 .......................... 365
最大判昭 33.10.15 ................. 44, 485, 585
最大判昭 33.12.24 .......................... 566
最大判昭 34.12.16 ................. 21, 606, 641
最大判昭 35.1.27 ........................... 305
最判昭 35.3.3 .............................. 262
最大判昭 35.6.8 ....................... 527, 605
最判昭 35.6.17 ............................. 637
最大決昭 35.7.6 ............................ 371
最大判昭 35.7.20 ...................... 286, 672
最大判昭 35.10.10 .......................... 335
最大判昭 35.10.19 .......................... 608
最大判昭 35.12.7 ........................... 372
最大判昭 36.2.15 ........................... 254
最大判昭 36.9.6 ............................ 172
最大判昭 37.3.7 ............................ 601
最大判昭 37.5.2 ....................... 355, 664
最大判昭 37.5.30 ...................... 585, 588
最大判昭 37.11.28 ................ 346, 659, 682
最判昭 38.3.15 .............................. 96
最大判昭 38.3.27 ........................... 577
最大判昭 38.5.15 ........................... 182
最大判昭 38.5.22 ...................... 210, 213
最大判昭 38.6.26 ........................... 328
最大判昭 38.12.4 ........................... 305
最大判昭 39.2.26 ........................... 412
最大判昭 39.5.27 ........................... 152
最大決昭 40.6.30 ........................... 371
最大判昭 40.7.14 ............................ 96
最判昭 41.2.8 .............................. 597
最大判昭 41.10.26 .................. 94, 96, 106
最大決昭 41.12.27 .......................... 372
最大判昭 42.5.24 ............ 386, 390, 603, 658
最判昭 42.5.24 ............................. 581
最大判昭 42.7.5 ............................ 361
最大判昭 43.11.27 刑集 22・12・1402 ......... 335
最大判昭 43.11.27 民集 22・12・2808 ......... 335
最大判昭 43.12.4 .................. 70, 381, 414
最大判昭 43.12.18 .......................... 263
最大判昭 44.4.2 刑集 23・5・305
............................ 94, 96, 106, 664
最大判昭 44.4.2 刑集 23・5・685 ................ 96
最大判昭 44.4.23 ...................... 243, 244
最判昭 44.6.11 ............................. 361
最大判昭 44.6.25 ........................... 254
最大判昭 44.10.15 .......................... 261
最大決昭 44.11.26 ................ 106, 227, 229
最大決昭 44.12.3 ........................... 372
最大判昭 44.12.24 ..................... 114, 132
最大判昭 45.6.17 ........................... 265
最大判昭 45.6.24 ................... 68, 69, 461
最大判昭 45.9.16 ........................... 101
最大判昭 47.11.22 刑集 26・9・554 ... 354, 356, 659
最大判昭 47.11.22 刑集 26・9・586 ............. 304
最大判昭 47.12.20 .......................... 359
最大判昭 48.4.4 ............. 137, 147, 670, 683
最大判昭 48.4.25 ..... 94, 95, 96, 106, 415, 665
最判昭 48.10.18 ............................ 334
最大判昭 48.12.12 .................. 77, 78, 173
最高裁判所/判例索引
最判昭 49.7.19 .............................. 78
最大判昭 49.11.6 ........ 86, 217, 248, 349, 668
最大判昭 50.4.30
................ 106, 298, 302, 670, 672, 683
最大判昭 50.9.10 ................. 216, 346, 589
最判昭 50.11.28 ............................. 70
最判昭 51.1.26 .............................. 68
最大判昭 51.4.14
...... 437, 439, 441, 442, 602, 637, 670, 683
最大判昭 51.5.21 刑集 30・5・1178 .............. 95
最大判昭 51.5.21 刑集 30・5・615 .............. 405
最判昭 52.3.15 ............................. 609
最大判昭 52.5.4 ............................. 95
最大判昭 52.7.13 ........................... 193
最決昭 53.5.31 ............................. 232
最大判昭 53.7.12 ........................... 326
最大判昭 53.10.4 .................... 58, 66, 68
最判昭 54.12.20 ............................ 245
最判昭 55.1.11 ............................. 597
最判昭 55.4.10 ............................. 598
最判昭 55.11.28 ............................ 260
最判昭 55.12.23 ........................ 88, 668
最判昭 56.3.24 ......................... 77, 138
最判昭 56.4.7 .............................. 597
最判昭 56.4.14 ............................. 116
最判昭 56.4.16 ............................. 255
最判昭 56.6.15 ........................ 217, 247
最判昭 56.7.21 ............................. 247
最大判昭 56.12.16 .......................... 125
最大判昭 57.7.7 .................. 138, 387, 602
最判昭 57.9.9 ............................... 37
最判昭 57.11.16 ............................ 287
最大判昭 58.4.27 ........................... 443
最大判昭 58.6.22 ....................... 98, 217
最大判昭 58.11.7 ........................... 449
最判昭 59.3.27 ............................. 356
最判昭 59.5.17 ............................. 448
最大判昭 59.12.12 ........... 268, 269, 272, 665
最判昭 59.12.18 ............................ 288
最大判昭 60.3.27 ........................... 138
最大判昭 60.7.17 ................. 449, 643, 670
最大判昭 60.10.23 ..................... 347, 665
最判昭 60.11.21 .................. 426, 646, 651
最大判昭 61.6.11 ................. 106, 122, 275
最判昭 62.3.3 .............................. 289
最大判昭 62.4.22 ....... 106, 322, 323, 670, 683
最判昭 62.4.24 ........................ 238, 257
最判昭 63.2.5 .............................. 177
最大判昭 63.6.1 ............................ 185
最判昭 63.7.15 ........................ 110, 177
最判昭 63.12.20 ........................ 82, 609
最判平元.1.20.............................. 310
最決平元.1.30.............................. 230
最判平元.2.7............................... 388
最判平元.3.2................................ 62
最判平元.3.7............................... 311
最大判平元.3.8........................ 235, 629
最判平元.6.20........................... 16, 80
最判平元.9.8............................... 598
最判平元.9.19.............................. 278
最判平元.11.20.............................. 42
最判平元.12.14............................. 126
最判平元.12.21............................. 258
最判平 2.1.18 .............................. 407
最大判平 2.2.1 ............................. 482
最判平 2.2.6 ............................... 311
最決平 2.2.16 .............................. 628
最判平 2.3.6 ............................... 178
最判平 2.4.17 .............................. 280
最決平 2.7.9 ............................... 230
最判平 2.9.28 .............................. 262
最決平 3.3.29 .............................. 378
最判平 3.7.9 ............................... 482
最判平 3.9.3 ............................... 110
最判平 4.4.28 ............................... 62
最大判平 4.7.1 ........................ 350, 352
最判平 4.11.16 裁判集民 166・575 .............. 66
最判平 4.11.16 判時 1441・57 ................. 195
最判平 4.12.15 ............................. 308
最判平 5.2.16 ......................... 194, 566
最判平 5.2.25 .............................. 125
最判平 5.2.26 ............................... 59
最判平 5.3.16 ......................... 274, 407
最判平 5.9.7 ............................... 598
最判平 6.1.27 .............................. 221
最判平 6.2.8 ............................... 257
最判平 6.10.27 ............................. 103
最大判平 7.2.22 ............................ 532
最判平 7.2.23 .............................. 178
最判平 7.2.28 ............................... 60
最判平 7.3.7 ............................... 291
最判平 7.5.25 .............................. 470
最大決平 7.7.5 ........................ 158, 668
最判平 7.12.5 .............................. 154
最判平 7.12.15 ............................. 117
最決平 8.1.30 .............................. 183
最判平 8.3.8 ............................... 206
最判平 8.3.15 .............................. 294
最判平 8.3.19 ............................... 72
最大判平 8.8.28 ............................ 637
最大判平 8.9.11 ............................ 445
最判平 8.11.8 .............................. 362
最判平 9.1.30 .............................. 361
最判平 9.3.13 ......................... 382, 437
最判平 9.3.28 .............................. 428
最大判平 9.4.2 ............................. 197
最判平 9.8.29 .............................. 409
最判平 9.9.9 ............................... 501
最判平 9.11.17 ............................. 117
最判平 10.3.13 裁時 1215・5 ................... 60
最判平 10.3.13 判例集未登載 .................. 72
最判平 10.3.24 ............................. 309
最判平 10.4.24 ............................. 102
最判平 10.7.16 ............................. 310
最大判平 10.9.2 ............................ 445
最判平 10.11.17 ............................ 437
最決平 10.12.1 .............................. 91
最大判平 10.12.1 ........................... 217
最判平 11.3.24 ............................. 362
最判平 11.9.28 ............................. 599
最判平 11.10.21 ............................ 566
最大判平 11.11.10 .......................... 433
最判平 11.12.1 ............................. 279
最決平 11.12.16 ............................ 296
最判平 12.2.8 .............................. 314
最判平 12.2.29 ............................. 127
判例索引/高等裁判所・地方裁判所
最大判平 12.9.6 ............................ 446
最判平 12.12.19 ............................ 140
最判平 13.2.13 ............................. 372
最判平 13.9.25 .............................. 63
最判平 13.12.18 ....................... 119, 224
最判平 14.1.31 ........................ 172, 483
最大判平 14.2.13 ........................... 325
最判平 14.4.25 .............................. 72
最判平 14.7.11 ............................. 195
最大判平 14.9.11 ................. 374, 670, 683
最判平 14.9.24 ............................. 276
最判平 15.3.14 ............................. 130
最判平 15.6.26 ............................. 320
最判平 15.9.12 ............................. 120
最判平 15.11.11 判時 1846・3 ................. 225
最判平 15.11.11 民集 57・10・1387 ............. 225
最判平 15.11.21 ............................ 226
最判平 15.12.11 ............................ 131
最大判平 16.1.14 ........................... 435
最判平 16.1.15 .............................. 63
最判平 16.6.28 ............................. 196
最決平 16.9.17 ............................. 683
最判平 16.11.25 ............................ 241
最判平 16.11.29 ............................ 377
最大判平 17.1.26 ............................ 61
最判平 17.4.14 ............................. 361
最判平 17.7.14 ............................. 281
最大判平 17.9.14 ....... 420, 425, 647, 670, 683
最大判平 18.3.1 ............................ 558
最判平 18.3.28 ............................. 390
最判平 18.6.23 ............................. 199
最判平 18.7.13 ........................ 374, 649
最判平 18.10.3 ............................. 229
最大判平 18.10.4 ........................... 444
最判平 19.2.27 ............................. 178
最判平 19.7.13 ............................. 208
最判平 19.9.18 ........................ 217, 665
最判平 19.9.28 ........................ 389, 646
最判平 20.2.19 ............................. 273
最決平 20.3.5 .............................. 360
最判平 20.3.6 .............................. 120
最判平 20.4.11 ............................. 266
最大判平 20.6.4 ............. 136, 141, 670, 683
最決平 20.7.17 ............................. 348
最判平 21.3.9 .............................. 279
最判平 21.4.23 ............................. 326
最判平 21.7.14 ............................. 372
最大判平 21.9.30 ........................... 446
最判平 21.11.30 ............................ 266
最大判平 22.1.20 民集 64・1・1 ........... 189, 200
最大判平 22.1.20 民集 64・1・128 .............. 203
最決平 22.2.23 ............................. 332
最判平 22.2.23 ............................. 336
最決平 22.3.15 ............................. 255
最判平 22.7.22 ............................. 204
最大判平 23.3.23 ................. 434, 441, 449
最判平 23.5.30 ............................. 179
最大決平 23.5.31 ........................... 358
最判平 23.6.6 .............................. 180
最判平 23.7.7 .............................. 267
最判平 23.9.22 ............................. 327
最大判平 23.11.16 .......................... 614
最判平 24.1.16 ............................. 180
最判平 24.2.16 ............................. 202
最判平 24.2.28 ............................. 391
最大判平 24.10.17 ..................... 450, 458
最判平 24.12.7 .............................. 88
最判平 25.1.11 ............................. 484
最判平 25.3.21 ............................. 553
最大決平 25.9.4 ....................... 159, 684
最判平 25.9.26 ............................. 170
最大判平 25.11.20 .......................... 451
最判平 26.1.16 ............................. 280
最判平 26.5.27 ............................. 312
最決平 26.7.9 .............................. 660
最判平 26.7.18 .............................. 64
最決平 26.8.19 ............................. 351
最大判平 26.11.26 .......................... 453
最判平 27.1.15 ............................. 448
高等裁判所・地方裁判所
福井地判昭 27.9.6 .......................... 525
東京地判昭 28.10.19 ........................ 545
東京地決昭 29.3.6 .......................... 497
東京高判昭 29.9.22 ......................... 545
札幌高判昭 30.8.23 ......................... 516
東京地判昭 31.7.23 ......................... 517
大阪地判昭 33.8.20 ......................... 100
東京高判昭 34.12.26 ........................ 531
東京地判昭 37.1.22 ......................... 498
東京地判昭 38.11.12 ........................ 477
東京地判昭 39.9.28 .................... 116, 256
札幌地判昭 42.3.29 ......................... 662
東京地決昭 42.6.9 .......................... 287
旭川地判昭 43.3.25 ......................... 667
東京地判昭 44.9.26 ......................... 611
大阪地判昭 44.12.26 ......................... 79
東京高決昭 45.4.13 .................... 116, 276
東京地判昭 45.7.17 .................... 410, 668
名古屋高判昭 45.8.25 ....................... 214
名古屋高判昭 46.5.14 .................. 181, 189
仙台高判昭 46.5.28 ......................... 212
東京地判昭 46.11.1 ......................... 668
東京地判昭 48.5.1 .......................... 210
札幌地判昭 48.9.7 .................. 16, 36, 663
札幌地小樽支判昭 49.12.9 ......... 425, 429, 642
神戸簡判昭 50.2.20 ......................... 182
大阪高判昭 50.11.10 ........................ 394
大阪高判昭 50.11.27 ........................ 125
札幌高判昭 51.8.5 ....................... 16, 36
東京地判昭 54.4.12 ......................... 308
広島高松江支判昭 55.4.28 ................... 243
岐阜地判昭 55.2.25 ......................... 341
大阪地判昭 55.5.14 ......................... 398
福岡地判昭 55.6.5 .......................... 574
東京地判昭 55.7.24 ......................... 520
札幌地判昭 55.10.14 ........................ 125
東京高判昭 57.6.23 ......................... 141
仙台高秋田支判昭 57.7.23 ................... 586
京都地判昭 59.3.30 ......................... 183
東京地判昭 59.5.18 ......................... 339
東京高判昭 59.10.19 ........................ 548
東京高判昭 60.8.26 ......................... 645
熊本地判昭 60.11.13 ........................ 108
高等裁判所・地方裁判所/判例索引
東京地判昭 61.3.17 ......................... 335
東京地判昭 61.3.20 ......................... 206
名古屋高判昭 62.3.25 ....................... 550
東京高判昭 62.11.26 ........................ 308
東京高判昭 63.3.24 ......................... 119
東京高判平 2.1.29 ..................... 565, 569
京都地決平 2.2.20 .......................... 291
東京地判平 2.3.29 .......................... 311
仙台高判平 3.1.10 .......................... 196
東京地判平 3.5.27 .......................... 110
東京地判平 3.6.21 .......................... 109
広島高判平 3.11.28 ......................... 154
東京地判平 4.2.25 ..................... 238, 260
神戸地判平 4.3.13 .......................... 400
大阪高判平 4.7.30 .......................... 199
大阪高判平 4.9.11 .......................... 428
東京高判平 4.12.18 ......................... 339
東京高判平 4.12.21 .......................... 72
東京高決平 5.6.23 .......................... 157
福岡高判平 5.8.10 .......................... 339
札幌高判平 6.3.15 .......................... 502
大阪高判平 6.3.16 .......................... 339
札幌高判平 6.5.24 .......................... 400
東京高判平 6.11.29 ......................... 471
東京地判平 7.5.19 .......................... 257
東京高判平 7.8.10 .......................... 236
大阪地判平 7.10.17 ......................... 325
大阪高判平 7.11.21 ......................... 171
東京高判平 7.11.28 ......................... 554
東京地判平 8.1.19 .......................... 513
大阪高判平 8.9.27 ..................... 119, 224
東京地判平 9.5.26 .......................... 259
東京高判平 9.9.16 .......................... 139
旭川地判平 10.4.21 ......................... 557
大阪高判平 11.9.10 ......................... 139
大阪高判平 11.11.25 ........................ 224
名古屋高金沢支判平 12.2.16 ................. 281
大阪高判平 12.2.29 ......................... 129
那覇地判平 12.5.9 .......................... 583
東京高判平 12.10.25 ........................ 128
東京高判平 13.2.15 ......................... 276
福岡高判平 13.3.7 .......................... 141
熊本地判平 13.5.11 ......................... 645
東京高判平 13.8.20 ......................... 141
東京高判平 15.1.30 ......................... 552
東京地判平 15.4.24 ......................... 377
東京高決平 16.3.31 ......................... 277
大阪高決平 16.5.10 ......................... 683
岡山地判平 22.1.14 ......................... 154
東京高判平 22.3.10 .................... 171, 668
東京高判平 22.3.29 ..................... 88, 669
東京高判平 22.5.27 ......................... 391
福岡高判平 22.6.14 ......................... 391
岐阜地判平 22.11.10 ........................ 365
東京高判平 22.11.17 判時 2098・24①事件 ..... 458
東京高判平 22.11.17 判時 2098・24②事件 ..... 458
東京高判平 22.11.25 ........................ 295
札幌高判平 22.12.6 ......................... 202
大阪高判平 22.12.21 ........................ 186
東京地判平 23.4.26 ......................... 648
大阪高決平 23.8.24 ......................... 158
東京地判平 24.3.23 ......................... 131
仙台地判平 24.3.26 ......................... 121
名古屋高判平 24.4.27 .......................
名古屋高判平 24.5.11 .......................
東京高判平 25.1.16 .........................
東京地判平 25.3.14 .........................
大阪高判平 25.5.9 ..........................
東京地判平 25.5.29 .........................
大阪高判平 25.9.27 .........................
京都地判平 25.10.7 .........................
大阪地判平 25.11.25 ........................
366
608
264
420
502
650
421
251
146
Fly UP