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光を使って 物質を観る・測る

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光を使って 物質を観る・測る
物理学実験セミナー
光を使って
物質を観る・測る
(中田研究室担当)
学生証番号
氏名
0.はじめに
本実験では光の特性を利用して種々の測定を行い、それを通して「自分で実
験し、自分で考えること」を目的とする。具体的には以下の内容を中心として
実験を行う。
1. 物質によって光はどのように影響を受けるのだろうか
(a) 屈折率の測定
透明な水やガラスをやはり透明な空気中で見ることができるのも、ガラスよ
りもダイヤモンドの方が美しく輝くのも、すべて屈折率の違いで説明するこ
とができる。それでは屈折率とはいったい何だろうか
(b) 偏光と複屈折
様々な表示に用いられている液晶ディスプレイ。これが文字や画像を表示す
る原理には光の偏り(偏光)が密接にかかわってくる。
2. 光の位相情報を検出する (干渉法によって結晶や薄膜を観察する)
中学・高校の時に学んだ様に光は波としての性質をもち、干渉や回折などの
現象を起こす。ここではこれを応用して結晶や薄膜を原子・分子に近いスケー
ルで観察しよう。
前半の三週はこちらから指定する必須課題を行う(受講者の人数に応じて 2 な
いし 3 つのグループに分けて進める)。後半では自由課題として上記の内容に関
連するテーマを自分で決め、自らの計画でそれを進める。
得られた実験結果については、最終日(第七週)に各自 OHP を使って 10~15
分ほどの発表をする。また同時にそれをまとめてレポートとして提出する(締め
切りは原則として発表の一週間後)。おおよその予定は以下のとおり。
・第一週:
・第二、三週:
・第四~六週:
・第七週:
テキスト(本紙)配布、実験の概要説明、真空蒸着実験
必須課題の実験(屈折率・偏光の観察・干渉実験)
三週目終了時に自由実験計画書を提出のこと
自由実験、発表原稿のまとめ
発表
上記はあくまで予定であり、実験の進捗状況に応じて変更されることがある
ので十分注意すること。
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1. 物質によって光はどのような影響を受けるか
屈折率の測定
1-1. 屈折率とは(定義)
右図のように光が a という物質から b とい
う物質に入射することを考える。入射角 i, 屈
折角を r とすると、
sin i
= 一定= nab
sin r
i
a
(1.1)
b
という関係が成立する。これを屈折の法則と
呼び、nab を a に対する b の(相対)屈折率と呼
ぶ。特に a が真空である場合の n を絶対屈折
率と呼ぶ。
r
図 1.1: 屈折率
1-2. 屈折率の測定法
屈折率の測定方法は無数に存在するが、本実験ではそのうち 2 種類をと
りあげる。
d
a
a.デュク・ド・ショルヌ (Duc de Chaulnes)法
精密な焦点距離測定機能を備えた光学顕微鏡を用いて屈折率を測定する
方法。
まず、適当な目印を置き、光学顕微鏡
で焦点を合わせる。次に測定しようとす
る試料を一定の厚さ d の透明な平行平板
とし、目印の上に置く。この板を通して
適当な目印をのぞくと、試料は空気(屈
折率 1.0003)とは屈折率が異なるため、
焦点が変化する。
この焦点の変化量 a は試料の屈折率 n
および d によって決まってくるため、こ
の a および d を正確に測定することによ
図 1.2: デュク・ド・ショルヌ法
って屈折率を決定することができる(顕
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微鏡の機械的精度に依存するが、一般に、小数点以下二ないし三桁程度ま
で測定可能)。たとえば図 1.2 の様に焦点距離が変化した場合、屈折率 n は
近似的に、
n=
d
d −a
(1.2)
となる。
b. アッベ(Abbe)の屈折計
nab<1 のとき、ある適当な角度 ic 以上では、sin r >1 となり、これに対応
する屈折角 r が存在しなくなる(図 1.1, 式 1.1 参照)。このとき、光は物質 b
の中には入り込めなくなるため、すべての光は反射することになる。この
現象を全反射と呼び、角度 ic を臨界角と呼ぶ。
アッベの屈折計はこれを応用したものである。まず、下の図のように屈
折率が既知の半球状プリズムとプレートの間に屈折率を測定したい液体を
はさむ(プリズムの屈折率>液体の屈折率)。この状態で図の左下側から光を
入れ、右側から反射光を顕微鏡で観察すると、ちょうど臨界角に対応する
ところで(b)のような明暗の境目が観察される。この方法の測定精度は高く、
適当な較正および温度制御を行えば屈折率を小数点 4 桁目まで決定するこ
液体試料
ガラスプレート
半球プリズム
入射光
反射光
臨界角
顕微鏡
図 1.3: アッベ屈折計の原理図
ともできる。
この装置は機構的に簡単で、測定にも熟練を必要としないことから、糖
分・塩分を測定する装置などに広く応用されている。
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偏光と複屈折
1-3. 偏光とは
光(可視光)、すなわち波長が
400-800nm の電磁波は、電磁気学
の帰結からもわかるように横波で
ある。言い換えれば、光はその進
行方向に対して垂直方向に振動す
る成分(電場、磁場)をもっている。
したがって、本来光は等方的では
なく、異方性をもっている、とい
える。
図 1-4 偏光と偏光子
しかし、自然に存在する光はあ
らゆる方向に振動する光がまざり
あっており、異方性はみられない。
この任意の方向に振動している光を偏光子と呼ばれる特別なフィルターを
用いると、ある特定の方向に振動している光を取り出すことができる。こ
のような特定の方向にのみ振動している光を偏光(直線偏光)と呼ぶ。
また多くの場合、自然界に存在する光は、あらゆる方向への振動を含むも
のの、それらは完全に等方的ではなく、その振動の振幅に異方性があるこ
とが多い。これを部分偏光と呼ぶ。
1-4. 複屈折
高校でも学んだように、結晶は原子や分子が規則的に配列してできてい
る。このため、液体や気体とは異なり、結晶には「向き」が存在する。例
えば天然の水晶が独特の形状をもっていること、塩の結晶は直方体になり
やすいことなどはその現れの一つである。
結晶の形に異方性があるのと同様に、結晶は様々な物性に対してもまた
異方性をもっている。例えば、結晶の屈折率は一つであるとは限らず、光
の振動方向に対する結晶の向きによって異なる屈折率を示すことが知られ
ている。このため、ある種の結晶に入射した光は必ずしも一方向には進ま
ず、二つにわかれて進む様子が観測されることがある。これを複屈折と呼
ぶ。
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1-5. 液晶
液体においては、分子は互いに自由に動くことができる。したがって、
上に書いたような異方性は一般的に示さない。しかし、ある種の液体は光
学的な異方性をもつことが 19 世紀の末に明らかとなった。このような異方
性をもつ液状物質を液晶(liquid crystal)と呼ぶ。これは、分子の並び方の
秩序(配列)は乱れており、自由に動くことができるものの、分子の並ぶ向き
(配向)についてはその秩序が保たれているものであり、ちょうど固体(結晶)
と液体の中間的な性質をもつ「第4の状態」であると考えられている。
1-6. 必須課題
a. デュク・ド・シュルヌ法を用いて与えられた固体の屈折率を測定せよ。
b. Abbe の屈折計を用いて水溶液の屈折率を測定し、濃度に対する屈折率の
変化をグラフに表わせ。また、これを用いて未知濃度の溶液の濃度を推
定せよ。
c. 偏光フィルターを用いて様々な光を観察するとともに、偏光の性質につ
いて調べよ。また、さまざまな物質(結晶、ガラス、水、液晶等)を通った
ときの光の変化を観察し、その理由を考察せよ。
d. (1.2)式を導け。
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2.光の位相情報を捕らえる(光の干渉)
2-1. 光の干渉とニュートンリング
高校でも学んだように、光は波としての性質を持つため、山と山、谷と
谷が重なれば強め合い、山と谷とが重なれば弱め合う。図 2.1 のニュート
ンリングはすでにおなじみだろう。
λ/2
図 2.1: ニュートンリング
図 2.1(b)のように平坦な物体の上に半球状のガラスをおくと、物体表面
とガラス下面で反射した光が干渉して、(a)に示すような明暗の模様ができ
る。ここで隣り合う暗い(明るい)線における高さの違いは、光の波長をλと
するとλ/2 に対応する。これは見方を変えると、半球状のガラスにλ/2 間
隔の等高線を描くことに相当する。
この手法を応用すると、物体の凹凸を精密に測定することができる。下
の図は、この方法を用いてダイヤモンドの表面に等高線を描いた例である。
(b)
参照板
試料
図 2.2: ダイヤモンド表面に描いた高さ 273 nm 間隔の等高線(a)と測定法の模式図(b)
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ここでは図 2.1 とは逆に、凹凸のある試料の上に平坦なガラス(参照板と
よばれる)を置き、これで反射した光と、試料表面から反射した光を干渉さ
せることにより、干渉縞を作っている(図 2.2(b))。一見平坦に見えるダイヤ
モンドの表面が意外に大きな凹凸をもっていることが見て取れる。
2-2. 二光束干渉計
2-1 で示した方法は簡単で、精度も
鏡(参照板) M
高い。しかし、測定する物質によっ
ては、他の物質が試料に直接触れる
ことが好ましくない場合がある。し
たがって、ガラス等を試料表面に接
触させずに干渉縞を観察する装置
(干渉計)が必要となる。このために工
試料 S
夫された干渉装置の例を右図に示す。
光源 L から出た光は半透明板 A で
光源 L
二つに分けられ、そのひとつは鏡(参
図 2.3: マイケルソン型二光束干渉計
照板)M で、もうひとつは高さや傾き
を変えられるステージに乗せられた
試料 S で反射される。この反射された二種類の光は A で合成され、おたが
いに干渉し合って干渉縞を作る。この方法を用いて結晶の凹凸を観察した
例が図 2.4 である。
(a)
(b)
200µm
図 2.4: 二光束干渉計を用いて撮影された SiC 表面の微細な凹凸
電子顕微鏡でも容易には判別できない約 15 nm 高さ(原子約 100 個分!)
の段差からなる渦巻き模様が、(a)では、明暗の違いとして、(b)では干渉縞
のずれ(曲がり)として明瞭に分解視されている様子が見える。
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2-3. 必須課題 (項目 c.については時間に余裕のある時のみ行う)
a. 二光束干渉計では、入射光に対して試料を傾けると、図 2.4(b)のように
ほぼ平行に並んだ干渉縞が観察される。このとき、試料表面に段差があ
ると、図 2.5 に示すように干渉縞にずれが観察される。この干渉縞の間
隔を l、縞のずれ量をΔx、光の波長をλとしたとき、この段差の高さ h
をあらわす式を導け。
b. 上式を用いて金属結晶薄膜の厚さを測定し、質量から見積もった値と比
較・検討せよ。
c. 二光束干渉計を用いて結晶の表面を観察し、その異方性等について考察
せよ。
l
Δx
図 2.5: 段差による干渉縞のずれ
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3.自由課題研究
3-1. テーマ(自由課題)の決め方
自由課題のテーマは本テキストに記載されている事柄に関係していれば、
特に制限はない(ただし危険な実験はしないこと)。以下にいくつかのヒント
を示す。
a. 本テキストに記載されている測定方法を身の回りのものに応用して
みる。(例: 合成樹脂の屈折率にはどのようなものがあるか測定する)
b. 本実験で測定した物質をさらに精密に測定したり、別の方法で測定し
てみる。(例: 測定した液体の屈折率を別の方法で測定してみる)
c. 本テキストに記載されている原理や概念が応用されている様々な測定
を行って見る(干渉法を応用したホログラフィーを撮影してみる)
d. 本テキストに記載されている様々な概念や測定方法及びその原理を
より詳しく文献・書籍等で調べてみる。(例: 干渉計にはどのような種
類があり、その原理はどのようなもので、どのような形で応用されて
いるか調べる)
以上はあくまでどうしたらいいのかを間接的に示したに過ぎない。具体
的にどのように実験を進めていくか、どうやっていろいろなことを調べた
ら良いのか、等々については TA に相談してみることを勧める。
3-2. 実験を進める上での注意点
・実験はグループごとに行う。他のメンバーに迷惑がかかるので、無断で
遅刻、欠席をしないこと。
・装置類に異常があった場合、使い方がわからないときは、自分だけで判
断せずに必ず担当教員や TA に相談すること。
・ガラス器具などを破損したときは、速やかに申し出ること。
・装置、器具類は使用後必ずきれいにして、所定の場所に戻すこと。
・実験で出た廃液、ごみはきちんと分類して出すこと。
3-3. 自由研究計画書
自由研究を行うにあたって、第三週の実験が終わるまでのあいだに別紙
の「自由研究計画書」を担当教員まで提出すること。なお、担当教員に提
出する前に必ず TA の諮問を受け、了承を得ること。
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4.プレゼンテーションとレポート
最終日(第七週)に OHP を使って一人あたり 15 分ほどの実験結果の発表を行
う(全員必須)。詳細は第六週目に説明するが、A4 サイズの紙 5~6 枚程度の原稿
を目的、実験方法、結果、考察等各項目ごとにまとめ、それを OHP 用透明シー
トにコピーして用いる。
また同時に発表原稿をまとめてレポートとして提出する(全員必須)。提出期限
は発表後一週間以内。A4 用紙を用い、発表と同様に目的、実験方法、結果、考
察等各項目ごとに整理してまとめること。それ以外の形式は自由(手書き、ワー
プロいずれも可。図や表などは発表用に作成したものをそのまま用いてもよい)。
必修課題については、写真、グラフなどをすべて添付の上、自由課題レポー
トと同時に提出すること。
注意: 集合時間、レポート締切日は厳守のこと。厳重チェックします。
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付録
・測定のしかた(平均、分散、標準偏差)
実験でなんらかの測定を行うときにはかならず「誤差」が伴う。ゆえに、
実験では通常何回か測定を繰り返し、その平均値を測定値とする。一般に
この測定値の「確かさ」は測定を繰り返し、データの数を増やすほど高く
なる。
このデータの「ばらつき」をあらわす指標として分散、標準偏差が知ら
れている。いま n 個のデータがあるとき、n 番目の値を xk、その平均値を
<x>とすると、分散σ2 は、
n
σ2 =
∑ (x
k =1
k
− < x >) 2
n
となる。
標準偏差σは、σ = σ 2 であり、データの「ばらつき」の二乗平均に対応
する。したがってこの値が小さいということは、データのばらつきが小さ
いことになり、結果としてデータがより「確からしい」ことを意味する。
より厳密には誤差論について書かれた教科書が多数存在するので、それを
調べるとよい(下の参考文献も参考にすると良い)。
参考文献
・光学顕微鏡の基礎と応用:小松 啓、応用物理 第 60 巻 第 8 号-12 号
・物理学 One Point 14 屈折率:山口重雄、共立出版
・光学技術ハンドブック:久保田広、浮田祐吉、曾田軍太夫編、朝倉書店
・光工学ハンドブック:小瀬輝次、斎藤弘義、田中俊一、辻内順平、波岡武、
朝倉書店
・結晶成長: 大川章哉、裳華房
・化学 One Point 10 液晶: 岩柳茂夫、共立出版
・計測における誤差解析入門:J. Taylor 著、林茂雄・馬場涼訳、東京化学同
人
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