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身近な屈折現象を利用した屈折率測定用分度器の開発
高 校 物 理 身近な屈折現象を利用した屈折率測定用分度器の開発 沖縄県立豊見城南高等学校 目 的 濱 川 武 司* 入射角測定棒 屈折は波動現象の基本的な性質であり、光が波で あることを確認できるだけでなく、レンズによる光 の進み方や光の回折、干渉にも関わってくるため、 屈折について学習することは、特に重要であるとい える。 その学習において光の屈折を取り扱う実験の多く は、大型水槽で光の屈折現象を確かめる演示実験やプ リズムを通した光の経路について幾何光学的に屈折の 法則を確かめる方法などがある。 しかしながら、これらの実験で使用する器具は高価 な装置が多く、生徒一人ひとりが直接観察、実験を行 うことが容易でなかった。さらに、レーザー光線等の 特殊な装置を用いるため、実験によって得たことを身 近な現象と結びつけて考察させたり、屈折率が物質の 特性を表すものであることや社会でどのように役立っ ているかなど発展的考察をさせることが難しいと感じ ていた。 以上のことをふまえ、「光の屈折」について身近に おこる屈折現象を利用して手軽に観察、実験が行える 簡易屈折率測定用分度器の開発を行い、それを使って いくつかの液体の屈折率を測定させることで、日常生 活と光の性質のかかわりについて興味・関心を持たせ るとともに光の屈折および屈折率に対する理解を深め ることをねらった。 角度測定板 水準線 屈折角測定棒 写真 1 外観図と各部の名称 写真 2 コップにセットしたようす Ⅱ.測定原理 概 要 Ⅰ.測定器の概要 写真 1 に簡易屈折率測定器の外観図および各部の 名称を示す。構造は単純で、角度測定用の分度器を 印刷した角度測定板と入射角および屈折角の測定に 使用する 2 本の測定棒を組み合わせたものになって いる。この測定器を写真 2 のように屈折率を測定す る液体の入ったコップにセットして入射角および屈 折角を直接測定し、公式により屈折率を求める。 * はまかわ たけし 水の入ったコップにストローを入れると、水中部分か ら折れ曲がって見える(図 1 の写真) 。これは、光の経 路が図のように水中から出る光(図1①)は、本来なら ば直進するが(図 1 ②) 、実際には水と空気との境界面 で屈折し、空気中へ出て行く(図 1 ③) 。その光が目に 入るためストローが曲がって見える(図1④) 。 このとき、水中部の∠ r と空気中での∠ i が測定でき れば、屈折率を求めることができることになる。しかし、 ∠ r は水中にあるため直接測定できないが∠ r'と対頂角 の関係にあり互いに等しい。よって∠ i および∠ r'を測 定すればよいことになる(図2) 。 沖縄県立豊見城南高等学校 教諭 〒 901-0223 沖縄県豊見城市翁長 520 蕁 (098) 850-1950 E-mail [email protected] 31 47mm 分度器をはりつける 50mm 20mm 15mm 10mm 穴あけ3φ キリトリ 25mm キリトリ 15mm 6mm 8mm 8mm 90mm 図 1 光の経路と折れ曲がって見えるストロー 対頂角により等しい r’ =r 屈折率= 図 3 寸法図 (1)シートの製作 市販の分度器をコピーし、図 3 に貼り付け、これを 型紙原図とする。さらに型紙原図を OHP シートにコ ピーし、透明両面テープを貼り付けたアクリル板に気 泡やゴミが残らないように貼り合わせる。このとき、 OHP シートの印刷面を貼り合わせるようにすると、 こすれたり、水に入れたときに印刷されたものが消え るのを防げる(図 4)。 sin i sin r アクリル板 図 2 入射角、屈折角、対頂角と公式 印刷面を 貼り合わせ 教材・教具の製作方法 OHPシ ー ト に印刷したもの Ⅰ.材料 器具の製作に必要な材料のほとんどは 100 円ショッ プで手に入るものばかりである。 アクリル板(厚さ 0.5 ∼ 1mm 程度のもの。A4 の硬 質クリアファイルでもよい)、透明両面テープ(幅広 タイプがよい。アクリル系粘着剤使用のものがアクリ ル板となじみやすく透明になる)、ハトメ(径 3 ∼ 4mm)、ハトメパンチ、分度器、OHP シート Ⅱ.製作の手順 一人分のキットの寸法図を図 3 に示す。この大きさ だと、A4 用紙に 8 名分のキットを作ることができる が、実験の用途に応じて拡大・縮小してもよい。また、 分度器はコピーしたものをそのまま使用してもよい が、本作品では入射角と屈折角の定義通りに角度を測 定しやすくするため、鉛直方向を 0 とし、水平方向を 90 °と目盛りを書き直した。また、角度測定板のきり とり部分は、使用するコップにあわせて大きさを調節 してもよい。 32 図 4 OHP シートを貼り付ける (2)組み立て 寸法図の測定器キットから各パーツを切り離しそれ ぞれ、指定の場所にハトメパンチで穴を開ける。つぎ に、入射角測定棒①、角度測定板②、屈折角測定棒③ の順に重ねハトメで固定する。このとき、各測定棒が 手を離してもぐらつかない程度にしっかりとめる。 Ⅲ.測定方法 ①入射角測定棒と屈折角測定棒(緑に着色)の中心線が 一直線になるようにそろえ、測定する入射角にセッ トする。 ②もし、屈折角測定棒を動かしたとき、入射角測定棒 も一緒に動いてしまうような場合には、入射角測定 棒をセロテープなどで動かないように固定し、液体 中に入れる。 ③屈折により液体部分の測定棒が曲がって見える(写 真 3)。そこで屈折角測定棒を動かし、入射角測定棒 と一直線になるように調整する(写真 4)。 このときできるだけ入射角測定棒からの目線であわ せるようにする。 ④測定器を取り出し、屈折角測定棒の示す角度を読み取 り、記録用紙に記録し、公式により屈折率を求める。 ⑤異なる入射角についても測定実験を行い、屈折率を 求め、屈折率の値がほぼ等しくなっていることを確 認する。 表 1 水および砂糖水の測定結果 入射角 sin I 水 屈折角 sin r 1.333 屈折率 15 0.259 11.0 0.191 1.356 20 0.342 14.5 0.250 1.366 30 0.500 21.0 0.358 1.395 40 0.643 27.5 0.462 1.392 測定結果の平均値 1. 377 誤差 3. 3% 10% 砂 糖 水 1.348 入射角 15 sinθ1 0.259 屈折角 11.0 sinθ2 0.191 屈折率 1.356 誤差率 3. 3% 20 0.342 14.0 0.242 1.414 30 0.500 20.5 0.350 1.428 40 0.643 28.0 0.470 1.369 20% 砂 糖 水 1.364 15 入射角 sinθ1 0.259 10.5 屈折角 sinθ2 0.182 屈折率 1.420 誤差率 0. 1% 20 0.342 15.0 0.259 1.322 30 0.500 21.0 0.358 1.395 40 0.643 29.0 0.485 1.326 学習指導方法 写真 3 測定棒(着色部分)が屈折している 授業では、測定器キットを生徒に配布し、作製から 測定実験まで行った。生徒自ら測定器を作ることで実 験に対する興味関心を引き出すことをねらった。また、 水、10 %砂糖水、20 %砂糖水、サラダ油などの液体 を用意し、それぞれについて屈折率を測定させること で屈折の法則および公式の理解と定着をはかり、さら に屈折率が糖度や液体の性質を調べるのに利用できる ことに気づかせることをねらった。 写真 5 生徒実験の様子 写真 4 中心線が一直線になるように調整した Ⅳ.測定器の精度について(予備実験) 予備実験の結果を表 1 に示す。測定器の精度を確か めるため、4 つの入射角に対する屈折角を 5 回測定し、 その平均値を使って屈折率を求めた。その結果、通常 使われている水の屈折率 1.333 と比較して測定結果の 平均値が 1.378(誤差 3.4 %)という値が得られた。 厳密には屈折率の水温変化を考慮しなければならな いが、簡易的に測定を行う上ではある程度の信頼性が あり、測定実験に対し十分な実用性があるといえる。 また、濃度を変えた砂糖水についても同様の測定を行っ た結果、濃度による屈折率の違いも測定できることがわ かった。 実践効果 Ⅰ.測定器の実用性について 生徒が測定器を使って正しく測定できているかどう か生徒の測定結果より分析した(図 5 上)。その結果、 76 %の生徒が正しく測定できていることが分かった。 また、測定できている生徒のデータより、水の屈折 率は 1.361 となり、誤差が約 2 %程度にとどまった。 Ⅱ.屈折の法則の理解について 「測定器を使うと屈折の法則がわかりやすいか」と いう問いに対し、全体で 95 %の生徒が「わかりやす い」と答えていることから法則を理解させるのに効果 があることがわかった(図 5 下) 。 33 測定できな かった 24% 概ね測定できた 76% 少しわかりにくい 5% わかりやすい 24% 0% 20% まあまあわかりやすい 64% 40% 60% 80% 100% 図 5 測定器の実用性と法則の理解のしやすさ Ⅲ.光の屈折現象への興味・関心について 「光の屈折から連想すること」という問いに対する 記述内容を、主に関係する現象ごとにまとめた。 その結果「屈折」が関係する現象を記述した生徒が 16 人から 25 人に増えていた。さらに、その具体的内 容について特に注目したのが、単に「光が曲がる」と 表現するのではなく「水の中のものがゆがんで見え る」、「蜃気楼」というように、光の屈折と身近に見ら れる自然現象を結びつけて表現した生徒の数が増えて いた。 また、ワークシートの感想より、光の屈折現象につ いて興味・関心を持つ生徒が出てきたことがわかった。 以上のことより、本作品で行った測定実験を通して、 光の屈折現象に対し興味・関心を持ち、身近な自然現 象と結びつけて考察させることができたといえる。 その他補遺事項 この屈折率測定用分度器は、液体以外にも屈折境 界面に水準線を合わせ、各測定棒の中心線を入射方 向や屈折方向、または反射方向に向ければ水面波や ガラスなど固体の屈折率の測定や、反射角の測定な どが可能である。実験の目的に合わせて大きさを自 由に変えるなどいろいろな工夫をして利用いただけ ればと思う。 34