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論文の内容の要旨 論文題目 氏 複合材料製プロペラに関する研究 名 山磨 敏夫 世 界 の 経 済 や 物 流 を 支 え て い る の は 、海 上 輸 送 で あ る 。一 度 に 大 量 の 貨 物 や 巨 大 な 重 量 物 、そ し て 多 く の 人 を 遠 く ま で 低 コ ス ト で 運 ぶ こ と が 可 能 で あ る 。日 本 の 経 済 活 動 を 維持していくために必要なエネルギや鉱物資源そして食糧等の多くは海外に依存して お り 、そ の 大 半 を 輸 送 す る 船 舶 は 国 民 生 活 ・ 経 済 活 動 を 支 え る 極 め て 重 要 な 役 割 を 担 っ ている。また、国内輸送、漁業やレジャーにも船舶は利用されている。一方で、日本は 四方を海で囲まれ経済水域や領海を守るために防衛省の海上自衛隊や海上保安庁も多 岐にわたる艦艇や船舶を保有しており、その責任はかなり高い。 これらの船舶は多くの機器類で構成されているが、その中でも推進器は重要であり、 一 般 商 船 は 運 航 中 の 燃 料 消 費 を 抑 え る た め の 省 エ ネ 、レ ジ ャ ー 関 連 で は 加 速 性 や 乗 り 心 地等の嗜好性が求められ、特殊船については制振性や非磁性等、様々な要求がある。 そ の 中 で 舶 用 プ ロ ペ ラ の 材 料 は 、銅 系 ニ ッ ケ ル ア ル ミ ブ ロ ン ズ (NAB)が 一 般 的 で あ る 。 こ の 材 料 の 主 原 料 は 銅 で あ り 、可 採 可 能 年 数 が 約 40年 程 度 で あ り 、銅 は 投 機 対 象 と な り LMEで も 高 値 で 推 移 し 変 動 も 激 し い 。 こ の よ う な 背 景 で 、 舶 用 プ ロ ペ ラ の 代 替 材 料 が 求 められている。 そ の 代 替 材 料 と し て 、注 目 さ れ る の は 複 合 材 料 で あ る 。金 属 材 料 と 比 較 し て 比 強 度 が 高 く 、耐 腐食 性 が 高 いな ど の 利 点が あ り 、航空 機 、自 動車 、風 力 発電 の タ ー ビン な ど に 利 用 さ れ て い る 。舶 用 分 野 に お い て 、複 合 材 料 は ボ ー ト や ヨ ッ ト の 船 体 に 通 常 使 用 さ れ て い る 。一方 、大 型 船へ の 応 用 はま だ 少 な い。し か し なが ら 、複 合材 料 は 様 々な 船 の プ ロペラや舵等の付加物として将来有望な構造材料になり得ると期待される。その中で、 複 合 材 料 を 舶 用 推 進 器 に 適 用 し た 製 品 も 幾 つ か 発 表 さ れ 、複 合 材 料 を 舶 用 プ ロ ペ ラ に 適 用 す る た め の 多 く の 研 究 が 行 わ れ て い る 。し か し 、複 合 材 料 の コ ス ト は 従 来 の 金 属 材 料 に 比 べ 高 価 で あ る が 、比 較 的 高 コ ス ト が 容 認 さ れ る 艦 船 や 潜 水 艦 な ど の 特 殊 船 の プ ロ ペ ラ と し て 使 用 さ れ て い る 。近 年 、複 合 材 料 の 航 空 宇 宙 や 自 動 車 へ の 幅 広 い 普 及 や 生 産 技 術 の 進 歩 に よ り 複 合 材 料 の コ ス ト は 下 が っ て お り 、一 般 商 船 の プ ロ ペ ラ 材 料 と し て 利 用 可能な域まで達していると考えられる。 一 般 商 船 に 使 用 す る た め の 課 題 と し て 、キ ャ ビ テ ー シ ョ ン ・ エ ロ ー ジ ョ ン の 問 題 が 挙 げ ら れ る が 、舶 用 プ ロ ペ ラ を 対 象 と し た 複 合 材 料 に 関 す る キ ャ ビ テ ー シ ョ ン ・ エ ロ ー ジ ョ ン の 研 究 は 僅 か し か 発 表 さ れ て い な い 。ま た 、舶 用 プ ロ ペ ラ で 重 要 な 疲 労 強 度 、弾 性 変 形 を 利 用 し た プ ロ ペ ラ 設 計 法 を 確 立 す る た め の 系 統 的 な 水 槽 試 験 評 価 、な ら び に 実 船 試験による性能評価および耐久性評価が、ほとんど行われていないのが実情である。 そこで、本研究では以下の項目について研究を行った。 1) 複 合 材 料 の 材 料 特 性 試 験 舶 用 プ ロ ペ ラ の 代 替 材 料 と し て 複 合 材 料 を 選 定 し た 。材 料 特 性 試 験 と し て 、引 張 、 曲 げ 、層 間 せ ん 断 お よ び ア イ ゾ ッ ト 衝 撃 試 験 を 行 い 、炭 素 繊 維 の FRPは 舶 用 プ ロ ペ ラ の 一 般 的 な 材 料 で あ る ニ ッ ケ ル ア ル ミ ブ ロ ン ズ( NAB)と 同 等 以 上 の 強 度 を 有 す る こ - 1 - と が 分 か っ た 。 ま た 、 弾 性 率 が 1/5~ 1/3程 度 と 低 く 同 荷 重 で も 大 き な 変 形 が 生 じ る ことが分かった。 次 に 、2種 類 の CFRPに つ い て イ オ ン 交 換 水 お よ び 3% NaCl水 に 1年 以 上 に 亘 り 浸 漬 さ せ、膨潤による強度劣化およびプロペラ材料として重要な疲労強度について、材料 特性試験ならびに疲労試験を行った。材料強度の低下はほとんど見られず、劣化は 確 認 さ れ な か っ た 。ま た 、疲 労 試 験 を 3%NaCl水 に 浸 漬 状 態 で 行 い 、疲 労 強 度 は 約 10% 程 度 低 下 し た が 、 NABよ り 4倍 以 上 の 疲 労 強 度 を 有 す る 結 果 を 示 し た 。 2) 複 合 材 料 の キ ャ ビ テ ー シ ョ ン ・ エ ロ ー ジ ョ ン 試 験 舶用プロペラは、作動状況にもよるが一般的に翼面上にキャビテーションが発生 しエロージョンを引き起こし、表面悪化や損傷等を受ける。 数種類の複合材料やフィラー材について、磁歪式超音波キャビテーション試験を 実施した。 先ず、数種類の複合材料についてキャビテーション試験を行い、アラミド繊維の FRPが エ ロ ー ジ ョ ン 耐 性 が 高 か っ た 。ま た 複 合 材 料 の キ ャ ビ テ ー シ ョ ン・エ ロ ー ジ ョ ンのメカニズムも得た。 次に、繊維と樹脂との界面強度がキャビテーション・エロージョンにどのように 影 響 を 与 え る か 確 認 す る た め に ガ ラ ス 繊 維 の FRPに つ い て 、樹 脂 と 繊 維 の サ イ ジ ン グ を変更した。界面強度の計測にはマイクロドロップレット試験を行い、本材料では 樹脂による影響が大きく、不飽和ポリエルステルが高かった。しかし、キャビテー ション試験結果は、エポキシ樹脂の方がエロージョン耐性が高かった。この結果か ら、母材である樹脂の特性を変更することでエロージョン耐性が向上することが推 定された。 さらに母材特性変更するために数種のフィラー材を用い、キャビテーション試験 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 ガ ラ ス の マ イ ク ロ バ ブ ル ズ を 混 ぜ た フ ィ ラ ー 材 が 、 AFRPよ り もエロージョン耐性が高かった。 エロージョン耐性を向上させるために、ポリプロピレン樹脂についてもキャビテ ーション試験を行い、今回試験した樹脂材の中で一番高いエロージョン耐性を示し た 。 ま た 、 CFRPに 軟 質 の シ リ コ ン 系 樹 脂 を 塗 装 し た も の は 、 か な り エ ロ ー ジ ョ ン 耐 性が向上した。 以上のように、複合材料の母材である樹脂の特性を変更することや軟質のコーテ ィングを実施することでエロージョン耐性が向上することが分かった。しかし、舶 用 プ ロ ペ ラ の 一 般 材 料 で あ る NABよ り も エ ロ ー ジ ョ ン 耐 性 は 劣 っ て い た 。 3) 複 合 材 料 製 プ ロ ペ ラ の 設 計 法 お よ び 水 槽 試 験 複 合 材 料 の 材 料 特 性 試 験 か ら 、塩 水 中 で の 疲 労 強 度 が NABよ り 高 い こ と 、お よ び 弾 性率が低いことを利用したプロペラの設計法について、水槽試験で性能および設計 法の確認を行った。 複合材料の疲労強度を考慮して、ハンディーバルクキャリアを対象船とし、ブレ ードを薄肉化および小翼面積化したモデルプロペラを設計・製作した。プロペラ単 独 性 能 試 験 を 行 い 、 効 率 は 最 大 で 2.4%向 上 し た 。 こ の 効 率 向 上 で 大 き く 影 響 し た の は小翼面積化で支配的であった。 次 に 、 弾 性 プ ロ ペ ラ 設 計 の た め に 対 象 船 を 3.3G/T遊 漁 船 と し て 複 合 材 料 プ ロ ペ ラ の変位率を相似にしたポリ塩化ビニル製のモデルプロペラを設計・製作した。プロ ペ ラ の 設 計 に は 、 揚 力 面 理 論 (LST)と 構 造 解 析 ( FEM) と を 繰 り 返 し 計 算 す る 双 方 向 - 2 - 連 成 計 算 を 用 い た 。 こ の 連 成 計 算 法 を LST-FEM法 と 呼 ぶ こ と と し た 。 LST-FEM法 で 設 計 し た モ デ ル プ ロ ペ ラ を プ ロ ペ ラ 単 独 性 試 験 を 実 施 し 、プ ロ ペ ラ の 輪 郭 形 状 で ピ ッ チ の 増 減 方 向 が 変 化 す る こ と を 確 認 し た 。こ の 傾 向 は 、LST-FEM法 で も確認しており、良い一致を示していた。 プロペラ作動時の変位を計測するためにキャビテーション水槽でブレードの前後 縁位置をレーザで変位計測を行った。その結果、計測した前後縁端の変位は、計測 誤 差 を 考 慮 す る と 設 計 点 付 近 で は LST-FEM法 で 推 定 し た 変 位 と 合 致 す る こ と が 分 か った。しかし、設計点から外れてくると推定値と計測値の誤差が大きくなることが 分 か っ た 。こ れ は 、LSTの 計 算 保 証 範 囲 を 超 え て い る か ら で あ る 。と こ ろ が 、前 後 縁 の 位 置 か ら ピ ッ チ に 換 算 す る と 、 設 計 点 か ら 外 れ て い て も 推 定 と 計 測 で 5%未 満 で あ り、傾向を十分捉えていることが分かった。 以 上 か ら 、本 研 究 で 提 案 し た LST-FEM法 で プ ロ ペ ラ 性 能 を 推 定 す る に は 完 全 で は な いが、ブレードのピッチ変化は推定と計測である程度合致しており、プロペラ設計 に 使 用 可 能 で あ る 。 今 後 、 設 計 点 を 外 れ た 箇 所 に つ い て も 設 計 を 行 う た め に は LST だ け で は な く 、 CFDの 適 用 も 考 え て 行 き た い 。 4) 実 船 試 験 3.3G/T遊 漁 船 の プ ロ ペ ラ を LST-FEM法 に よ り 複 合 材 料 で 設 計 ・ 製 作 し た 。 先 ず 、 複 合 材 料 プ ロ ペ ラ の 制 振 性 を 評 価 す る た め に 2種 類 の CFRPと NABに つ い て 振 動 試 験 を 行 っ た 。 材 料 単 体 で は 、 CFRPは NABの 4倍 以 上 の 減 衰 比 を 示 し た 。 実 機 プ ロ ペ ラ に つ い て は 、CFRPプ ロ ペ ラ は NABプ ロ ペ ラ に 比 べ 減 衰 率 が 1次 曲 げ で 10倍 以 上 、1 次 ね じ り で 5倍 以 上 以 高 く な っ て お り 、 複 合 材 料 の 特 徴 で あ る 高 い 制 振 性 を 示 し た 。 次 に 、3種 類 CFRP製 と 2種 類 の 金 属 製 の プ ロ ペ ラ に つ い て 実 船 試 験 を 行 っ た 。そ の 結 果 、 1つ の CFRPプ ロ ペ ラ が 、 到 達 船 速 や 加 速 性 が 高 く 、 振 動 も 低 か っ た 。 複 合 材 料プロペラの持つ幅広い運転状態への適合性の可能性が見出せた。 水槽試験と実船試験との結果に関して、キャビテーションを考慮することで良い 一致を示し、水槽試験のモデルプロペラの剛性相似則が成り立っていることを証明 するものであった。 LST-FEM法 に よ る 推 定 ト ル ク と 実 船 試 験 を 比 較 す る と 、LST-FEM法 に お い て も キ ャビテーションを考慮した計算を行うことで実験値に良い一致を示した。 本 研 究 で 考 案 し た LST-FEM 法 で 完 全 に プ ロ ペ ラ 性 能 を 推 定 す る こ と は で き な か ったが、十分に複合材料プロペラの設計が行える領域にある。 一方で、プロペラとして問題となるキャビテーション・エロージョンがルート部 に発生していた。今後、実船において上記のエロージョン耐性向上技術を研究し、 適用したい。 上 記 の 通 り 、複 合 材 料 プ ロ ペ ラ を 実 用 化 す る た め に 、材 料 強 度 評 価 か ら 水 槽 試 験 、実 船 試 験 ま で 一 通 り の 研 究 を 行 っ た 。そ の 中 で 複 合 材 料 の 弾 性 を 利 用 し た プ ロ ぺ ラ の 設 計 が 行 え る LST-FEM法 を 考 案 し 、あ る 程 度 の 精 度 で プ ロ ペ ラ 設 計 で き る よ う に な っ た 。し か し 、 CFRPプ ロ ペ ラ の 実 船 試 験 で ル ー ト ・ キ ャ ビ テ ー シ ョ ン ・ エ ロ ー ジ ョ ン が 発 生 し て し ま っ た 。今 後 も 取 り 組 ま な け れ ば な ら な い 大 き な 課 題 で あ る が 、本 研 究 に お い て そ の解決策の糸口を得たものと考える。 現 段 階 で は 、制 振 性 も あ り キ ャ ビ テ ー シ ョ ン の 発 生 し な い 条 件 で 運 転 さ れ る 特 殊 船 等 に は 十 分 適 用 の 可 能 性 が あ る 。ま た 、一 般 商 船 に つ い て は 、チ ッ プ 部 の キ ャ ビ テ ー シ ョ - 3 - ン ・ エ ロ ー ジ ョ ン が 問 題 に な る が 、複 合 材 料 の 弾 性 お よ び テ ー ラ リ ン グ を 利 用 し て チ ッ プ 部 の キ ャ ビ テ ー シ ョ ン を 抑 制 さ せ る こ と も 可 能 で あ る 。ル ー ト エ ロ ー ジ ョ ン を 解 決 す る こ と で 、嗜 好 性 の 高 い レ ジ ャ ー ボ ー ト に も 加 速 性 や 静 寂 性 も あ り 広 が っ て 行 く と 期 待 できる。 - 4 -