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ダブルルーメンカテーテルにおける ノ〝スキュラーアクセス再循環増加
ダブルルーメンカテーテルにおけるバスキュラーアクセス再循環増加因子の検討 ダブルルーメンカテーテルにおける バスキュラーアクセス再循環増加因子の検討 武蔵健裕1),焼虞益秀1,2)二宮伸治1,2)青水希功1,2) 1)広島国際大学大学院総合人間科学研究科 医療工学専攻 2)広島国際大学保健医療学部 臨床工学科 要 旨 ダブルルーメンカテーテル(DLC)使用時にはしばしば脱血不良があり、 DLCの接続を逆にする場合がある。 この逆接続ではバスキュラーアクセス再循環(再循環)が生じる。本研究では再循環率増加因子を明らかにする ため模擬循環回路を使用し、先端形状の異なる5種類のDLCを用い、再循環率の測定および流動状態を観 察した。その結果、順接続では再循環は認められず、逆接続では脱血流量増加および模擬血管内流量減少に ともない、再循環率の増加が認められた。さらに目視でも再循環している流動状態を観察できた。この結果から 先端形状、脱血流量の増加および血管内流量の減少が再循環を増加させる要因であることがわかった。特に 先端形状については送血部分と脱血部分の位置が重要であり、側面に位置する脱血部分が送血部分と同一 側に存在し、送血部分から偏った流れが生じ、脱血孔と送血孔間の距離が近い状態で再循環が発生しやすい と考えられた。 キーワード:ダブルルーメンカテーテル、バスキュラーアクセス再循環、先端形状、脱血孔、送血孔 Vascular access recirculation in double-lumen catheters Takehiro MUSASHT', Masuhide YAKEHIRO1 2), shinji NINOMIYA1 2), Kiyoshi SHIMIZU1 2) JMajor in Medical Engineering and Technology, Integrated Human Sciences Studies, Graduate School of Hiroshima International University Department of Clinical Engineering, Faculty of Health Sciences, Hiroshima International University Abstract One of the main troubles during the hemodialysis treatment with a double-lumen catheter (DLC) is dysfunction due to inflow failure (ie., the inability to obtain an adequate blood flow the arterial port). In inflow failure catheters, the lumens are frequently reversed (outflow lumen used for blood inflow) and the reversal rescues the catheters from the inflow failure. However, the reversal also causes vascular access recirculation which in turn results in the lower hemodialysis efficiency. In this study, possible factors which make the recirculation take place were investigated using five types of DLCs. The recirculation was evaluated in a simulated vessel in which DLC was inserted. Recirculation rates of DLCs with standard dialysis lines were 0%. When the dialysis lines were reversed, recirculation was observed in all DLCs. The average recirculation rates increased as the inflow rate became higher and the flow inside the simulated vessel became lower. The rate was higher in types ofDLCs which have both inflow and outflow holes reside in the same side of the catheter trunks. keywords: double-lumen catheter, vascular access recirculation, catheter tip shape, inflow hole, outflow hole 連絡先: 〒739-2695広島県東広島市黒瀬学図台555-36 広島国際大学大学院総合人間科学研究科医療工学専攻 e-mail:[email protected] e-mail: [email protected] 論文受付日:2007年7月30日 論文受理日:2007年10月2日 -17- 医療工学雑誌,第2号, 2008 I.緒言 ダブルルーメンカテーテル(DLC)は、慢性腎不 により再循環が増加することを示している。しかし、 この報告は1種類のDLCでの評価であるため、 全の急性増悪時緊急透析や急性血液浄化療法に 先端形状の違いによる再循環の評価は十分に検 おける一時的血液浄化用バスキュラーアクセスとし 討されていないのが現状である。 て用いられている DLCを用いた血液浄化療法 本研究では、模擬循環回路を用いることで、同 施行中に最も問題となるのは、脱血不良による血 一条件下で5種類のDLCの再循環率を比較した。 液浄化療法の中断であり、そのためDLCの交換 さらに流動状態を観察することで、送血部分およ や留置部位の変更を余儀なくされることもしばしば び脱血部分の位置と再循環との関係を比較し、再 である1)。しかし、 DLCの交換や留置部位の変更 循環が発生しやすいDLCの先端形状を検討した。 には患者-の侵襲がともなう。そのため、実際に また、脱血流量や模擬血管内流量と再循環率と はDLCの接続を逆にして治療を継続することがあ の関係についても検討することで、再循環率が増 る2)。脱血不良の主たる原因は、脱血孔の血管壁 加しやすい条件を示した。 -の-ぼりつきである3,4)この-ぼりつき現象の発 生因子として重要なのがDLCの先端形状である5)0 脱血不良の対応として逆接続することにより、 DLC Ⅱ.方法 1.循環回路 先端の送血孔および脱血孔が入替わり、血管壁 遠心ポンプ(CAPIOX;TERUMO)と遠心ポンプコ へのへばりつきを予防できる6)が、バスキュラーアク ントローラー(CAPIOX SP-101;TERUMO)および セス再循環(再循環)をきたしやすい状況になる。 塩化ビニルチューブ(MERA,内径10mm)を使用 再循環とは、一度浄化された血液の一部を再び し、模擬循環回路を作成した(図1)。キサンタン ガム(ピノア社製)水溶液を\血液の粘性を模擬す 動脈側回路に引き込むことにより、血液浄化効率 の低下をきたす現象であり、血液浄化量の低下が 問題となる。 るため3 cPに調節し潜流液として使用しだo)。また、 再循環率を測定するため、血液回路(人工腎臓 小野らは順接続および逆接続での再循環の発 用血液回路;JMS,内径:mm)の静脈側回路は港 生頻度を比較し、逆接続で再循環が発生しやす いことを示している7)。さらに逆接続において、留 流液をBromothymol Blue (BTB;和光純薬工業)に 置血管の違いによる再循環の発生頻度を比較し、 混合液(BTB溶液)はBTB濃度が0.01 g/Lとなるよ 大腿静脈、鎖骨下静脈、内項静脈では大腿静脈 で再循環が発生しやすいことを示している7)。また、 うにした。潅流液温は37 ℃に維持した。 て着色した BTBと3 cPキサンタンガム水溶液の 模擬血管内流量は電磁血流計(MFV-2100;冒 一大江らもDLCの接続方法および留置血管の違い 本光電)を用いて測定し、設定した流量になるよう による再循環を比較し、順接続では再循環が認め 遠心ポンプで調節した DLCはその先端部が模 られず、逆接続では上肢の血管よりも下肢の血管 擬血管の中心に位置するよう挿入し、ローラーポ において、再循環が発生しやすいことを示してい ンプ(MF-01JMS、 NCU-5;NIPRO)を用いて脱血 る8)。山本らは順接続にて2種類のDLCの再循 環を比較し、送血孔と脱血孔の位置関係が再循 流量を調節した。その際のDLC内圧(脱血圧)は ローラーポンプに内蔵の圧力モニタで測定した。 環発生因子として重要であり、その距離が近いほ 血管内血液量が少なく、流量が少ない方が再循 ど再循環が起きやすいと述べている9)。しかし、こ 環が発生しやすい5)ことから、模擬血管内流量は れらは臨床使用における報告であるため、 DLC 1000、 2000、 3000mL/minと、通常の大静脈血 以外の要因が大きく異なっており、 DLCの直接的 流量に比べ低い値に設定し、再循環が観察し な比較は困難である。大江らは1種類のDLCを やすい条件とした。また、脱血流量は50、 150、 用い、 in vitroで再循環を比較している8)。その結 250mL/minと、血液浄化療法に必要とされる脱 果、順接続では再循環が認められず、逆接続で 血流量の範囲内で設定した。 は模擬血管内流量の減少および脱血流量の増加 18- ダブルルーメンカテーテルにおけるバスキュラーアクセス再循環増加因子の検討 図1.模擬循環回路模式図 実験に用いた循環回路の模式図を示す。湾流液はシングルパス潅流とした。 b.逆接続 図2. DLC接続方法 a.順接続(動脈側回路とDLC脱血側を接続、静脈側回路とDLC送血側を接続)。 b.逆接続(動脈側回路とDLC送血 側を接続、静脈側回路とDLC脱血側を接続) 0 2. DLCの接続方法 れる場合もある(以後、逆接続時の脱血孔を脱血 血液回路とDLCの接続は、通常は動脈側回 路とDLC脱血側を接続し、静脈側回路とbLC送 部分、送血孔を送血部分) (図2)。 DLC接続方 血側を接続する順接続にて治療が行われる。しか 測定した。 法として順接続および逆接続の両方で再循環率を し、脱血不良により治療の継続が困難な場合には、 動脈側回路とDLC送血側を接続し、静脈側回路 とDLC脱血側を接続する逆接続にて治療が行わ 3.評価方法 模擬血管内流量および脱血流量の各設定条件 -19- 医療工学雑誌,第2号,・2008 において安定状態を維持し、動脈側回路から潜 を行った。 pく0.05にて統計学的に有意な差がある 流液をサンプリングした。分光光度計(Uv-1200 ; 島津製作所)を用いてサンプリングした濯流液の吸 とした。 光度を測定した。再循環率は、 BTB溶液の吸光 度およびBTB溶液を3 cPキサンタンガム水溶液 A.脱血流量と再循環率の関係 で10、 30、 50、 70、 90%に希釈したBTB希釈溶 液の吸光度と希釈率の関係をプロットし、原点を めに、脱血流量50、 150、 250 mL/min時の各DLC における順接続および逆接続での再循環率を測 通る直線に当てはめた校正曲線より求めた。 定し、 DLCタイプ別(SタイプおよびEタイプ 表1) 流動状態の観察は順接続および逆接続におい 6.検討項目 脱血流量が再循環-及ぼす影響を検討するた の再循環率を比較した。 て、脱血流量50、 150、 250mL/min、模擬血管 B.模擬血管内流量と再循環率の関係 内流量1000、 2000、 3000mL/minと設定し、 BTB 溶液がDLCから模擬血管内-送り出された後の 模擬血管内流量が再循環-及ぼす影響を検討 するために、模擬血管内流量1000、 2000、 3000 模擬血管内での流れを目視にて観察した。 mL/min時の各DLCにおける順接続および逆接続 4. DLCの種類 での再循環率を測定し、 DLCタイプ別(Sタイプ DLCの先端形状はサイドホール型とエンドホー およびEタイプ 表1)の再循環率を比較した。 ル型の2種類があり、その断面形状には隔壁二 C.各DLCの再循環率および脱血孔と送血孔間 層型と同軸二層型があり、組み合わせることで4 の距離 種類の形状がある。本研究では臨床で使用頻度 の高い隔壁二層型のDLCを使用した(表l)。 DLC DLCの先端形状の違いによる再循環-の影響 を検討するために、脱血流量50、 150、 250mL/ 先端形状別にはサイドホール(S)タイプ2種類(s-i: minおよび模擬血管内流量1000、 2000、 3000 mL DLU1125YKA(メディキット)、 S-2:CS-15122-E /minでの再循環率を各DLC別に比較した。 (ARROW))、エンドホール(E)タイプ3種類(E-l: D. DLC先端部における流動状態の観察 DLCの先端形状の違いにより、模擬血管内で Niagara 5577224(BARD)、 E-2:トルネードフロー 6312-20EW(日本シャーウッド)、 E-3:ジェントルキヤ の流動状態に違いがあるかを検討するため、各 ス6312-20GW(日本シャーウッド))の合計5種類 DLCにおいて順接続および逆接続でのBTB溶 を使用した。 液送血の流動状態を目視により観察した。 5.統計学的解析 2群間での平均値の比較にはStudent's t検定 表1. DLC仕様 D LC タイプ サ イ ドホ ー ル タ イ プ D LC (S ) S l1 エ ン ドホ ー ル タ イ プ S-2 Ell 外 径 * Fr 12 Fr 5 .7 × 3 .3 m m 12 Fr 長 さ * 25 cm 20 cm 24 c m 20 cm 1 .2 ′ 5 .2 c m 2 .9 ′ 〉 3 .5 c m 1 .3 ′ 〉 2 .4 c m 脱 .送 血 孔 間 の 距 離 * * 2 .0 6. cm (E ) E-2 El 3 2 Fr 20 cm 2 .5 3 .一c m . ・先 端 部 模 式 図 。O。 ∵ `声 ■ 使用したDLCはS-1 : DLU1125YKA(メディキット) 、 S-2 : CS-15122-E(ARROW)、 E-1 : Niagara5577224(BARD) 、 E-2 : トルネードフロー6312-20EW(日本シャーウッド)、 E-3 :ジェントルキヤス6312-20GW(日本シャーウッド)である。使用した DLCの素材は全て親水性ポリウレタンである。表中*はカタログ値を、 **は実測値を示す。 表中の先端部模式図に示す●は脱血孔、 ○は送血孔を表している。 -20- ダブルルーメンカテーテルにおけるバスキュラーアクセス再循環増加因子の検討 Ⅲ.結果 1000、 2000、 3000 mL/minでのDLCタイプ別(Sタ 1.脱血流量と再循環率の関係 イプおよびEタイプ 表1 )の再循環率を比較した。 模擬血管内流量1000 mL/minにおける脱血流 順接続では各模擬血管内流量において再循環率 量50、 150、 250mL/minでのDLCタイプ別(Sタ は0%だった。模擬血管内流量1000mL/minおよ イプおよびEタイプ 表1)の再循環率を比較した。 び3000 mL/minを比較すると、逆接続では模擬血 順接続では各脱血流量において再循環率は0 % だった。脱血流量50 mL/minおよび250 mL/minを 管内流量の増加にともない、 Sタイプの再循環率は 比較すると、逆接続では脱血流量の増加にともな い、 Sタイプの再循環率は8%から30%に、 Eタイ 再循環率が34%から18 %-有意に減少した(図4)0 プでは18%から34%にそれぞれ有意に上昇した (図3)。また、各脱血流量においてSタイプに比 の距離 べEタイプでは再循環率が有意に高値を示した。 2.模擬血管内流量と再循環率の関係 mL/minにおける5種類のDLCでの再循環率を比 30 %から20 %-有意に減少した。また、 Eタイプでも 3.各DLCの再循環率および脱血孔と送血孔間 模擬血管内流量1000mL/min、脱血流量150 較した(図5)。各DLCにおいて順接続および逆 脱血流量250 mL/minにおける模擬血管内流量 接続にて、それぞれ10回ずつ再循環率を測定し +Sタイプ 一書-Eタイプ 十Sタイプ 一一I Eタイプ o i n ・ * c o o (%)勝野鯉舵 o c (%)糠畔恕牡 o o o o in ^- co cm -i- < j o i - o o 50 1 50 250 1 000 2000 3000 脱血流量(mLymin) 模擬血管内流量(mL/min) o 図3.脱血流量と再循環率の関係 図4.模擬血管内流量と再循環率の関係 逆接続において模擬血管内流量をIOOOmL/minに維持 したときの再循環率である(Sタイプn-20、 Eタイプn-30) c *はSタイプ、 **はEタイプにおいて再循環率が有意に高 いことを示す。 逆接続において脱血流量を250mL/minに維持したときの 再循環率である(Sタイプn-20、 Eタイプn三こ30)c はSタ イプ、 **はEタイプにおいて再循環率が有意に高いことを 示す。 a co cm (%)糠哲紬帝壮 a a in -*t o S-l - E-1 - E-3 図5. DLCの再循環率 逆接続において模擬血管内流量IOOOmL/min、脱血流量150mL/minに維持したときの再循環率である(各DLCn-10)。 グラフ中の縦の点線はSタイプおよびEタイプの分類境界を表す。 -21- 医療工学雑誌,第2号, 2008 た。前に示したように、順接続では全てのDLC において再循環率は0%だった。逆接続ではSタ 形状の違いにより、模擬血管内での流動状態に 違いがあるかを比較した(図6)。 S-1では上流に イプの再循環率はS-1、 S-2でそれぞれ25、 12 %と 位置する9箇所の送血部分からBTB溶液が送り出 同じタイプ内で有意差を認めた。また、 Eタイプに され、下流に位置する2箇所の脱血部分におい おいてもE-1、 E-2、 E-3でそれぞれ31、 43、 25% てBTB溶液の流入を確認した S-2では上流に の再循環率を示し有意差を認めた。 位置する送血部分から送り出されたBTB溶液が 各DLCの脱血孔と送血孔間の距離はSタイプの 模擬血管の片側に偏って流れていることが観察さ S-1およびS-2でそれぞれ2.0-6.1、 1.2-5.2cm れた。さらに下流に位置する2箇所の脱血部分に であるo また、 EタイプにおいてもE-1、 E-2、 E-3 おいては、先端の脱血部分ではBTB溶液の流入 でそれぞれ2.9-3.5、 1.3-2.4、 2.5-3.1 cmであ を確認できるが、送血部分の反対側に位置する り、距離についても各DLCで差が認められた(表1)0 脱血部分ではBTB溶液の流入は確認できなかっ 4. DLC先端部における流動状態の観察 た E-1およびE-2では上流に位置する送血部 分から送り出されたBTB溶液が、下流に位置する 全てのDLCにおいて、 BTB溶液送血の流動 状態を目視により観察した。順接続では再循環の 先端の脱血部分-流入していることを確認した。 様子は観察されなかったが、逆接続では送血部 E-3では上流に位置する送血部分がDLC側面の 分から送り出されたBTB溶液が脱血部分-流入 左右に開孔しているため、模擬血管内全体にBTB する様子が確認できた。さらに、模擬血管内流量 溶液が送り出されていることが観察された。さらに 1000 mL/min、脱血流量250 mL/minと再循環率 下流に位置する脱血部分においてBTB溶液の流 が最も高値を示した条件において、 DLCの先端 入を確認した。 <- - -・模擬血管内流れ方向 ○脱血部分 (⊃送血部分 - BTB溶液の流れ 図6. DLC別流動状態 逆接続におけるDLC別の流動状態である a. DLC留置時の状態。 b.循環時の状態(逆接続において模擬血管内流 量IOOOmL/min、脱血流量250mL/minに維持したときの模擬血管内での流動状態)。図中bに示す○印赤は逆接続時で の脱血部分を、 ○印青は逆接続時での送血部分を示す。図中の矢印は送血部分から送り出されたBTB溶液の流れを示 す。 22 ダブルルーメンカテーテルにおけるバスキュラーアクセス再循環増加因子の検討 Ⅳ.考察 ら送り出されたBTB溶液はさらに下流-流れるため、 本研究では、模擬循環回路を用いて5種類の DLCについて再循環率を測定し、 DLCの先端形 再循環が認められなかったと考えられる。 状、脱血流量および模擬血管内流量の各因子と およびEタイプの再循環率を比較すると、 Sタイプ 再循環との関係を検討した。以下に再循環が認 められた逆接続を中心に、再循環増加因子につ において再循環率が有意に低値を示した。これは Sタイプにおいて側面に位置する脱血部分- BTB いて示した。 溶液が流入しにくいからだと考えられる(図6)。し 1.脱血流量 かし、同じタイプ内のDLCにおいて、再循環率 逆接続では脱血流量の増加にともない、再循 環率が増加した(図3)。これは、送血部分から送 にばらつきが認められた(図5)。このことより、先 端形状(SタイプおよびEタイプ)という大きな分類 り出されたBTB溶液が、その先端の脱血部分から よりも、各DLCの送血部分と脱血部分の位置が 脱血されるため、脱血流量の増加にともない、 BTB 溶液が脱血される量が増加したためだと考えられ る。大江ら8)のエンドホールタイプを用いたin vitro 再循環率を増加させる重要な要因であることが示 での報告では、逆接続において脱血流量の増加 とともに再循環率が増加することを示しており、我々 と同様の結果であった。 2.模擬血管内流量 逆接続では模擬血管内流量の増加にともない、 再循環率が低下した(図4)。これは、送り出され たBTB溶液が増加した模擬血管内流量によって希 再循環が認められた逆接続において、 Sタイプ 唆される。 4.逆接続における送血部分と脱血部分の位置 関係 逆接続において脱血部分がDLC先端と側面に 複数存在するSタイプ(S-1およびS-2)では、 表1に示すように脱血孔と送血孔間の距離はS-1 に比べS-2の方が短い傾向にあり、 S-2で再循環 が増加すると思われた。しかし再循環率を比較す ると、 S-1で有意に高値を認めた(図5)。側面の 釈され、 BTB溶液が脱血される量が減少したため だと考えられるO 大江ら8)のin vitroでの報告では、 脱血部分が送血部分と同一側にあるS-1では、送 り出されたBTB溶液がすぐ下流の脱血部分-疏 逆接続において模擬血管内流量の増加とともに再 入しやすい状態になっている(図6)。また、側面 の脱血部分が送血部分の反対側にあるS-2では、 循環率が減少することを示しており、我々と同様 の結果であった。また、小野ら7)は逆接続におい て、留置血管の違いによる再循環の発生頻度を 比較し、大腿静脈、鎖骨下静脈、内項静脈では 送り出されたBTB溶液が反対側-流れにくいため、 脱血部分-流入しにくい状態になっている(図6)0 大腿静脈で再循環が発生しやすいと述べているが、 このことからSタイプでは、側面に位置する脱血 部分が送血部分の同一側か反対側にあるかによっ その理由までは示していない。小野らの報告から、 て、再循環率に有意差が生じることが考えられる。 再循環率の増加には血管の太さが重要な因子で 脱血部分が1箇所のEタイプにおいてもE-1、 E-2、 E-3の間で再循環率に有意差が認められた。 あることが示唆された。我々の結果から考えると、 血管内流量が再循環率の増加に影響を与える重 要な因子であると考えられる。血管径が大きい静 脈では血管内流量も多いと考えられるため、小野 El1およびE-3では、脱血部分において模擬血 管内全体にBTB溶液が認められた。特にE-3で らの臨床報告と同様な結果が得られたと思われる。 は送血部分が左右に開孔しているため、 BTB溶 液が送り出された直後に模擬血管内全体に広がっ つまり上大静脈や下大静脈、中心静脈のような血 て流れている(図6)。一方E-2では、 BTB溶液 管内流量が多い血管- DLCを留置した方が、脱 の模擬血管内全体-の流れは認められず、送血 部分から送り出された後そのまま脱血部分-流れ 血不良によりDLCを逆接続した場合でも、再循 環率を低くすることができると考えられる。 ている(図6)。 E-1およびE-3の様に、脱血部 分において模擬血管内全体にBTB溶液が認めら 3. DLCの先端形状(SタイプおよびEタイプ) 順接続では模擬血管内血流の上流に脱血孔が れる場合は再循環も認められるが、 E-2の様に送 位置し、下流に送血孔が位置しており、送血孔か 血部分からBTB溶液がそのまま脱血部分-流入 -231 医療工学雑誌,第2号, 2008 する場合よりも再循環率は低値を示す。これはE-1 およびE-3では模擬血管内全体にBTB溶液が 流れるため、 BTB溶液が希釈されたためだと考え 参考文献 1)米川元樹,久木田和丘,目黒順一,也:血 液浄化におけるDouble Lumenカテーテル の形状の検討.薬理と臨床. 4, 1405-1408, られる。このことよりEタイプでは、送血部分から の流れが偏って脱血部分-流入することによって、 1994. 再循環率に有意差が生じることが考えられる。ま たE-2において、送血部分から送り出されたBTB 2) Rachel C. Carson, Mercedeh Kian, Jennifer M. 溶液がそのまま脱血部分-流入するのは、表1 に示すようにEタイプ内でE-2が脱血孔と送血孔 Catheters Is Improved by Reversing the Line Position Despite Increased Access Recirculation. 間の距離が最も近いことが影響していると考えられ American Journal of Kidney Diseases. 45(5), る。つまり、側面に位置する脱血部分と送血部分 の位置関係、送血部分からの偏った流れ、送血 883-890, 2005. 部分と脱血部分の間の琵巨雛が再循環率増加に関 係する園子であると考えられる。 本研究により逆接続にて血液浄化を施行する場 合は、側面の脱血部分が送血部分の反対側に位 置し、脱血孔と送血孔間の距離が長いDLCを用 いることが再循環率を低く保つために有効であると MacRae : Urea Clearance in Dysfunctional 3)天野泉:テンポラリーブラッドアクセス. 臨休透析. 12, 871-880, 1996. 4)久木田和丘,米川元軋本望聡,他:カテー テルの応用と問題点.腎と透析 58, 426-429, 2005. 5)武蔵健裕,焼康益秀,二宮伸治,他:ダブ ルルーメンカテーテル(DLC)の血管壁-ぼ りつき現象に関する実験的検討.日本透析 考えられる。再循環率を低く保つことにより、血液 浄化効率の低下を防ぎ、生存率向上-とつなが る可能性が示唆される。本研究では主にDLCの 医学会雑誌. 40(Supplement 1), 658, 2007. 6) Zbylut J. Twardowski, John C. Van Stone, 先端形状に着目し再循環を比較したため、 DLC の留置血管径や血管内流速についての検討は行っ Michael E. Jones, at al. : Blood Recirculation ていない。しかし、これらは再循環に関係する因 Journal of 也e American Society of 子であると考えられ、今後これらの視点からの研 究も必要であると思われる。 Nephrology. 3(12), 1978-1981, 1993. in Intravenous Catheters for Hemodialysis. 7)小野淳一,佐々木慣理,戸梶めぐみ: Continuous Renal replacement therapyにおけるBlood Ⅴ.結論 Access再循環の検討. ICUとCCU. 29別冊 本研究では、順接続における再循環は認めら れなかった。このことからも、 DLCは逆接続するこ となく、順接続にて血液浄化療法を施行すること 号, S161-S163, 2005. 8)大江祥,前中則武,南由浩,他:ダブルルー メンカテーテル(FDL)における再循環の検 討.日本臨床工学技士会会誌. 25, 57-58, が望ましい。しかし、脱血不良によりやむを得ず 逆接続する場合には、再循環を考慮する必要が ある。逆接続における再循環率増加には3つの 因子がある。すなわち、 ①脱血流量の増加、 ② 血管内流量の減少および③送血部分と脱血部分 の位置関係である。 ③については、側面に位置 する脱血部分が送血部分と同一側に存在し、送 2005. 9)山本敏明,島田一馬,大場英明,他:クリッ トラインモニターによるダブルルーメンカテー テルのリサキュレーション測定の比較検討. 日本臨床工学技士会会誌. 15, 75-76, 2001. 10) Masami Oda, Sanehiro Hokama, Kimio Sugaya, 血部分からの流れが偏った流れになり、脱血孔と at al.: New Blood Volume Monitoring Method 送血孔間の距離が近い状態が再循環を発生させ やすいDLCの先端形状だと考えられた。 for Hemodialysis : A-V Pressure Gradient Measurement by Synchronized One-point Reading. Artificial Organs. 28(7), 683-689, 2004. -24-