...

(2)金属系生体材料

by user

on
Category: Documents
39

views

Report

Comments

Transcript

(2)金属系生体材料
第 3 部 物質・材料研究における今後の研究動向
第 4 章 ナノテクノロジーを使ったバイオ材料
1.生体材料
(2)金属系生体材料
丸山 典夫、山本 玲子、廣本 祥子 生体材料センター、物質・材料研究機構
1 .はじめに
分な接合に要する期間に課題が残されている。この
ため、スパッタリングやプラズマコーティング方法
金属材料は強度が高く、靱性に優れ、加工し易い
の改良や、電析やゾルゲルコーティングなどによる
などの特徴を有するため整形外科・歯科領域におい
コーティング層の改善が行われている。他に骨との
て使用されている。高強度、高耐食性、高疲労特性
強固な接合を促進する材料として、生体ガラスなど
を有する SUS316L 鋼、Co-Cr 合金、チタン合金な
が研究されている。また、生体内でのアパタイト析
ど、既存の構造材料が生体用に転用されていた。そ
出を促進するために、表面へのカルシウムイオン注
のため、生体用金属材料として使用する際の安全性、
入やアルカリ溶液処理が提案され、近年ではナノレ
生体内での反応を中心に研究開発が行われてきた。
ベルの多孔質表面に関する研究などが行われてい
近年では Ni、V などの生体毒性元素を含まない新
る。さらに、コーティング層と材料表面の機械的接
しい材料および骨に近い低ヤング率のチタン材料が
合性の改善のために、様々な手法による多孔質表面
生体用金属材料として開発がされてきた。
の改良が行われている。一方、材料表面での骨芽細
生体メカニズムの理解が深まった現在、生体用金
胞による骨再生を促進するために、表面に骨成長因
属材料は構造材料的な使用についての研究以外に、
子や抗生物質などの薬剤を徐放する性質を付与する
新たに人体の機能の再建を目的に再生医療材料とし
研究も行われている。
て認識されてきた。骨伝導性、生体親和性など金属
人工関節の摺動部の金属材料表面の耐摩耗性向上
材料に比べて優位な特徴を持つセラミックスあるい
は、人工関節の長寿命化に重要な課題である。この
は生体機能性高分子と複合化することで、新しい機
ため、カップの高分子表面の改良だけでなく、骨頭
能を持つ生体用材料の研究が行われている。さらに
やカップの金属材料表面の窒化や DLC(diamond
最近では、生体吸収性金属材料としてマグネシウム
like carbon)コーティングが研究されてきた。近年、
の研究が新たに進められている。
酸化ジルコニウムを生成させた耐摩耗性表面が開発
本稿では生体用金属材料として、最近特に活発に
第
3
部
物
質
・
材
料
研
究
に
お
け
る
今
後
の
研
究
動
向
された。
研究が行われている「表面修飾」
、
「生体吸収性・多
血管内で使用されるステントなどの表面には、タ
孔質金属材料」に分けて国内外の研究動向を紹介す
ンパク質や血球成分の接着を阻害し、血栓形成を抑
る。なお、日本は本領域の研究において世界的に見
制することが求められる。このため、ポリエチレン
て高い水準にあるため、特に国内外を分けずに紹介
グリコールや DLC による表面修飾が研究されてい
する。
る。一方、ステント周囲の血管の再狭窄を抑制する
ために、薬剤を含有する生分解性高分子を表面に固
2 .国内外の研究動向
定した薬剤徐放表面に関する研究も盛んに行われて
いる。
2.1 表面修飾の動向
現在使用されている人工関節のステム表面には、
いずれの研究も、必要な特性を示すセラミックス
や高分子を金属表面に固定するものであるため、各
骨との早期の接合を促進するために、プラズマコー
表面修飾材料の確立を待ってから行われる場合が多
ティングなどによるリン酸カルシウムコーティング
い。
や多孔質化が行われている。コーティング表面では、
コーティング層と材料界面の接合強度や、骨との十
2006年度物質材料研究アウトルック
247
第 3 部 物質・材料研究における今後の研究動向
第 4 章 ナノテクノロジーを使ったバイオ材料
2.2 生体吸収性・多孔質金属材料の研究動向
医療用金属材料の新しい研究開発動向としては、
レンとの複合体が、名古屋工業大学で純チタンとポ
リ乳酸の複合体が開発されている。いずれも、多孔
化や複合化により、既存医療用金属材料のヤング率
生体吸収性金属材料の探索があげられる。ドイツ・
を生体骨と同程度まで低下させること、また孔内へ
ハノーバー大学のグループが中心となり、2001 年
の骨形成による骨組織の再生がねらいである。従来
頃から研究が開始された。当初は生体吸収性材料と
のセラミックス骨補填材では力学特性に劣るため、
して純鉄の適用が試みられたが、動物埋入試験の結
荷重の加わる部位の骨組織再生には用いることがで
果、生体適合性が不十分であることが判明したため、
きなかった。そのような部位についても骨組織再生
マグネシウム合金の適用が検討されている。実は、
を行うためには、やはり金属材料による荷重保持は
マグネシウム合金はヤング率が骨とほぼ同等である
必須である。整形外科用インプラント材料として長
ため、1930-40 年頃を中心に整形外科用材料として
期にわたり埋入実績を有する材料ならば、残存して
の使用が試みられた。しかしながら、水素発生によ
も生体に及ぼす悪影響は小さいことが予想される。
り埋入周辺組織に空孔が形成されること、さらに
1940 年頃から力学特性に優れたステンレス鋼の使
用が盛んになったことから、マグネシウム合金の医
第
4
章
ナ
ノ
テ
ク
ノ
ロ
ジ
ー
を
使
っ
た
バ
イ
オ
材
料
3 .NIMS における研究
療応用研究は下火になった。しかし、最近の研究は
NIMS では生体吸収性金属材料としてマグネシウ
整形外科領域ではなく循環器領域、すなわちステン
ム新合金の研究開発を、新構造材料センター・軽量
ト応用が中心である。整形外科用インプラントより
材料グループと共同で進めている。マグネシウム合
も小型なため水素発生量が少なく、また血流下では
金で試作したステントの写真を図 1 に示す。
拡散が速やかに起こり空孔形成に至らないことか
同時に、このような新しい機能を有する材料の分
ら、再び注目されている。既に欧州では臨床試験が
解性・生体性安全評価法の開発を進めている。また、
行われているが、国内でも大阪大学、九州大学のグ
これまでは疑似体液を使用して耐食性、耐久性評価
ループによる開発研究が進められている。一方、整
が行われてきたが、より生体内に近い環境として細
形外科領域への適用を考え、生体内耐食性に優れた
胞が存在する環境での金属材料の腐食特性、図 2 に
マグネシウム合金や多孔体の開発も進められてい
示すような腐食疲労特性評価法の研究開発を行って
る。
いる。さらにデバイスが使用される環境に則した評
再生医療用材料としての金属多孔体や高分子との
価手法として、例えば、流れ環境下における腐食評
複合体の開発も、近年盛んに進められている。1995
価法や生体適合性評価法の研究開発も行っている。
年頃、米国 Implex 社がポリウレタン多孔体を熱処
理しグラファイト化させた骨格に金属タンタルを蒸
着することにより、金属と高分子の複合多孔体を作
成した。高分子骨格を海綿骨と類似の構造にするこ
とにより、骨と同程度の圧縮強度を有し、またタン
タル被覆により高い生体親和性を有する点が特徴で
ある。本材料の骨格構造は、従来人工関節表面修飾
に用いられていた孔構造よりも開口径が大きいにも
拘らず、高い骨組織侵入・形成能を備えており、多
孔体構造の最適化研究に大きな衝撃を与えた。本材
料は人工関節の表面処理材として既に実用化されて
図 1 試作した Mg 合金製のステント
いる。
国内では大阪大学でロータス型チタン合金・ Ni
フリーステンレス鋼が、岩手大学で Ni レス Co-Cr
合金の多孔体および純チタンと超高分子量ポリエチ
248
2006年度物質材料研究アウトルック
第 3 部 物質・材料研究における今後の研究動向
第 4 章 ナノテクノロジーを使ったバイオ材料
図 2 細胞培養容器と疲労試験片
疲労試験中に試験片表面で増殖した L929 細胞(青色部分)
4 .まとめ
以上、近年の医療用金属材料の研究動向を表面修
飾、生体吸収性材料・多孔質材料、そして新規適用
部位や機能化表面の耐久性・信頼性評価法開発、と
いう観点から紹介してきた。今後の動向としては、
既存材料の多孔化・表面機能化による材料―生体界
面制御研究と共に、生体吸収性金属材料としてのマ
グネシウム合金の開発・適用研究が活発化すること
第
3
部
物
質
・
材
料
研
究
に
お
け
る
今
後
の
研
究
動
向
が予想される。従来の生体吸収性材料は高分子・セ
ラミックス材料に限定されていたため、適用部位は
非常に限られていた。金属製生体吸収性材料の実現
により、骨や血管など、荷重の加わる部位への生体
吸収性デバイスの適用拡大、再生医療分野への金属
材料の適用の拡大、さらには成長期を前にした小児
への金属製デバイスを用いた治療法の適用など、高
度医療サービスの提供に、大きく貢献することが期
待されている。
生体吸収性材料の適用と普及を促進するために
は、当該材料の分解性や生体安全性評価法を確立し、
標準化を進めることが重要である。既に、生分解性
高分子材料については、NEDO の支援により評価
法開発・標準化プロジェクトが進められている。生
体吸収性金属材料についても、同様の動きが必要で
ある。
2006年度物質材料研究アウトルック
249
Fly UP