...

チーム力 - 日本貿易会

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

チーム力 - 日本貿易会
巻頭言
チーム力
しもじま
まさゆき
下嶋 政幸
一般社団法人日本貿易会 常任理事
兼松株式会社 社長
この夏、4 年に 1 度のスポーツの祭典である夏季オリンピックがロンドンで開催され、熱戦
が繰り広げられました。今大会で日本が獲得したメダルの数は、金 7、銀 14、銅 17 の計 38 個。
これまでに最多だった 2004 年のアテネ大会の 37 個を超えて、史上最多を記録しました。
今大会で際立ったのは、日本の「チーム力」でした。バレーボール女子などチームスポーツ
はもちろんのこと、卓球女子団体の銀メダルでもチーム力について語られたように、個人競技
でもチームの力ということに言及されることが多かったように思います。実際、日本選手は、
個人で競うよりチームで競うときに真価を発揮し、実力以上の成果を挙げたと言ってもいいの
ではないでしょうか。
では、個人競技におけるチーム力とは何でしょうか。とりわけ、チーム力が活躍の要因として
挙げられたのが、戦後最多の 11 個のメダルを獲得した競泳でした。
「競泳は 27 人で 1 つのチーム。
27 人のリレーはまだ終わっていないです」という 200m 背泳ぎで銀メダルを獲得した後の入江
陵介選手の言葉も印象的でした。
話は少しそれますが、1976 年から 2 年間、当社の社長を務めた清川正二氏も 100m 背泳ぎの
メダリストでした。1932 年ロサンゼルス大会では、日本五輪史上初の快挙となる金メダル。
1936 年ベルリン大会でも同種目で銅メダルを獲得しました。第 2 次世界大戦直後から約7年
間にわたり日本代表ヘッドコーチを務め、また当社取締役を務める傍ら、五輪活動にも携わ
り 1969 年に IOC 委員に就任。1975 年から理事、1979 年から 4 年間は IOC 副会長も務めました。
1988 年のソウル大会で、100m 背泳ぎで自分以来の日本人金メダリストとなった鈴木大地選手
に表彰式でメダルを授与した時の感激はひとしおだったのではないかと思います。
それもそのはず、今でこそ北島選手や入江選手をはじめとしてオリンピックでのメダル獲得
が期待される日本競泳。かつては日本のお家芸といわれていたこともありましたが、1972 年
のミュンヘン大会以降、メダルがなかなか取れなくなっていました。1988 年ソウル大会では
鈴木大地選手、1992 年バルセロナ大会では岩崎恭子選手が金メダルを獲得しましたが、続く
1996 年アトランタ大会ではメダル獲得ならずという結果に終わっています。
今回、競泳日本代表は競技最終日のメドレーリレーで、男子は銀、女子は銅メダルを獲得し、
有終の美を飾りました。競泳としてはメダル計 11 個、戦後では史上最高です。この日本代表
2 日本貿易会 月報
巻頭言
の躍進のカギは、「チーム力」にあり、そしてそのチーム力は、たまたま生まれたものではな
いといわれています。2000 年のシドニー大会で 4 個、アテネでは 8 個、北京でも 5 個と、競泳
はメダルを獲得できる競技として定着してきています。
その転機は、世界上位に位置する選手が数多くそろい、史上最強と称されながらメダルなし
に終わった 1996 年のアトランタ大会だったそうです。この時の惨敗をきっかけに、
「個が勝つ
ために、チームで勝つ」方向性にかじを切る先導役となったのが、シドニー大会で競泳日本
代表のヘッドコーチを、そして北京大会・アテネ大会で競泳日本代表監督を務めた上野広治
氏です。
上野氏は、コーチ間、選手間、そして選手-コーチ間のコミュニケーションを活性化し、ス
イミングクラブ間の垣根を取り払うことに努め、情報やデータを共有化し、大会の場で得たノ
ウハウは他のコーチや選手にも伝えるなど、クラブ対抗ではなく「代表チーム」を真の意味で
形成し、競泳日本代表を躍進させました。選手同士が互いに応援する姿を会場で見られるよう
になったのもこのころからだそうです。こうして築き上げられた土台と、戦う意識と能力を持っ
た選手の結束によって「史上最強のトビウオジャパン」が生まれたのだと思います。
メドレーリレーの後、入江選手が口にした「日本代表 27 人全員でリレーしているつもりで
した」という言葉が全てを象徴しています。
チームの力は「和の力」でもあります。スポーツだけでなく、これからの日本の国造りのカギ
となるものではないでしょうか。日本人選手の活躍はわれわれを元気づけ、
同時に「日本の底力」
を感じさせてくれました。今回の結果は、低迷が続く日本経済にとっても多くの示唆を与えて
くれています。
水泳の話が長くなりましたが、その他の競技では、体操個人総合の内村航平選手とレスリング
女子の小原日登美選手の、最後まであきらめない力、ピンチを乗り越える力も感動的でした。
最後まであきらめずに、ピンチをチャンスに変える―現在の日本経済が求められているのも、
まさにこれなのではないでしょうか。長年の低迷が続く中で、震災、円高など、ピンチの連続
ですが、日本はこれを乗り越える力があるはずです。
また、今回のロンドン大会から女子ボクシングが新設され、初めて全競技で女子が参加でき
るようになったのですが、その中でもサッカーのなでしこジャパンをはじめとする日本人女子
選手の活躍は目を見張るものがあったと思います。従来は女子が活躍できる競技は比較的限ら
れていましたが、今では幅広い分野でメダルを獲得できるようになり、女子の活躍が男子にも
刺激となっていたと思います。これも、女性の力を引き出し活用することが日本経済活性化の
カギを握っていることを実感させる事象の 1 つです。
このように、さまざまな力が合わさってメダル獲得数の最多記録を達成したわけで、日本経
済もこうした力を発揮すれば元気を取り戻しさらなる成長を遂げていくことができると確信し
ます。
最後にあらためて、どの国にも勝る「チーム力」で日本国民を元気にしてくれた選手たちの
健闘に拍手を送りたいと思います。
JF
TC
2012年10月号 No.707 3
Fly UP