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11 1.はじめに 2.アフリカを知る 3.アフリカの貧困の根源

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11 1.はじめに 2.アフリカを知る 3.アフリカの貧困の根源
いきいき授業実践
(平成21年度『新詳地理B 初訂版』
)
(平成21年度『新詳高等地図 初訂版』
)
(平成21年度『新詳
資料 地理の研究』
)
アフリカの生活と文化∼動態地誌と開発教育−受験に対応できる地理スキルを身につける−
石川県立金沢桜丘高等学校 竹 中 隆 司
1.はじめに
はないユニークな特徴をつかむように質問を交えて生
平成25年度から導入される新学習指導要領・地理B
徒に考えさせる。その際、資料集p.246のアフリカ大
における一つの特徴として「地誌学習の充実」をあげ
陸の断面図や「アフリカとヨーロッパにおける高度別
ることができる。現行学習指導要領では「世界の国家
面積比較」の表を用いて考えさせることが有効である。
を事例として幾つか取り上げ」としているのに対し、
脈
ス山
アトラ
新学習指導要領では「様々な規模の地域を世界全体か
ら偏りなく取り上げるようにする」としている。また
「歴史的背景を踏まえて」地域の変容や構造を考察す
ることや、
「それらの地域にみられる地域的特色や地球
A
B
的課題について理解させる」ことが新たに加えられて
いる。かつての静態地誌中心のとらえ方ではなく、む
脈
しろ動態地誌に力点を置いた授業展開を意識的にやや
山
A
てみたい。
2.アフリカを知る
ヨーロッパやアジアの地誌学習では、生徒は系統地
標 高
グ
ー
スバ
ケン
ドラ
ドラケンスバーグ山脈
先取りし、さらに開発教育を盛り込んだ授業を実践し
B
1.0%
0.0%
2000∼3000
2.7 2.0 1000∼2000 19.5 5.0 500∼1000
28.2 15.2 200∼500
38.9 38.9
21.2 200m以下
B
A
『新詳
アフリカ ヨーロッパ
3000m以上
平均高度
9.7 52.7 750m
340m
〔理科年表 昭和33年〕
資料 地理の研究』p.246珈アフリカの地形
理的考察で多くの「予備知識」を得ているが、アフリ
気候については気候区分を思い起こさせることも大
カについては農業や工業などの産業学習でも国レベル
事であるが、それだけを強調するとアフリカ大陸をさ
で扱いが少ないため、地誌学習の重要性は大きい。
ながら仮想大陸の模式図のごとく頭の中で「色分け」
そこでひととおり自然環境や産業などを俯瞰した
し満足させてしまうことになる。そこで資料集p.246
うえでアフリカ独特の文化や生活を考察し、アフリカ
の「盪気候の成因」をもとに、アフリカ大陸の赤道か
の今日的課題につなげていく。アフリカの経済状況や
ら 高 緯 度 地 方 に 向 け て、Af → Aw → BS → BW → BS
人々の生活レベル、さらに政治情勢の混乱状況などは、
→ Csと移り変わっていくことの背景には気圧帯の変
実に深刻である。そうした現状をふまえて難民や食料
化があり、太陽の回帰との関連があることをあらため
援助などを含む貧困問題につなげていくことができる
て考えさせたい。またアフリカ大陸の広さや範囲、砂
単元でもある。ユネスコが提案した「持続可能な開発
漠の成因と中緯度高圧帯のポジションを考慮すると、
のための教育」を意識しつつ、限られた時間の中でア
フリカから世界に通じる、できるだけ多くの学びを考
Cs
BS
えていきたい。
BW
3.アフリカの貧困の根源
Aw
Am
自然環境の面からアフリカの既習事項を整理してい
く。
『新詳
資料 地理の研究』
(以下、資料集)p.246の
BS
Aw
Af
Aw
「珈アフリカの地形」や『新詳高等地図 初訂版』
(以
BS
BW
下、地図帳)p.33∼36を見ながら白地図におもな山脈
BS
Cs
や河川を書き込んでいく。ここでは細かい名称を覚え
ることを強調せず、むしろアフリカ大陸の他の大陸に
『新詳
資料 地理の研究』p.246 玳(2)
気候の成因
11
結果としてこのような気候区分になることを地図帳で
5.動態地誌と開発教育の取り組み
確認し、そのうえで気候区別面積割合においてアフリ
資料集ではアフリカを北部、中部、南部の3つに章
カの熱帯は38.6%、乾燥帯は46.7%であることを想起
立てしているが、ここではその中の「アフリカ中部の
させる。
国々」を取り上げる。サハラ砂漠以南のアフリカはサ
こうして自然地理的に見てもヨーロッパなどと比較
ブサハラ、またはブラックアフリカとよばれる。北部
して自然条件が過酷であることを押さえ、それも貧困
アフリカとは人種、民族、宗教、言語において大きく
の根源の一つであることを心に留めさせる。
異なり、一般的に生徒が「アフリカ」と一言でよぶと
4.アフリカの歴史と民族
きに想起される多くの要素がこのサブサハラにあると
アフリカの歴史の流れを知ることは、現在のアフ
言ってよい。しかしそれだけに一元的で偏狭な知識で
リカの状況を知るうえで大変重要である。まず資料集
ある場合が多い。
p.247の「珈アフリカの歴史」の年表でヨーロッパ列
強の進出から奴隷貿易、アパルトヘイト、アフリカ独
立の年などのポイントを押さえる。そのうえで地図帳
p.37の「漓アフリカの独立国、滷おもな使用言語と航
空路の結びつき、潺アフリカの言語分布と紛争・難民」
を見て、わかったことをグループごとに考えさせる。
ヨーロッパ列強により民族分布を無視して分断されて
スーダン
いることが、これまで履修した様々な民族問題の原因
エチオピア
ソマリア
になっていることや、言語や宗教もヨーロッパからも
ケニア
たらされたものであることを確認する。
タンザニア
年
事 項
15世紀
16∼19世紀
1847
19世紀末
『新詳
1910
1948
資料 地理の研究』p.250 珎 アフリカ中部の整理
ここでは具体的な地図をもとにいくつかの国を取り
1955
1960
上げて、掛地図に書き込みながら白地図にまとめさせ
1963
ていく。その中で1か国を挙げ、その生活レベルの現
1967
1970
1970
用 語
∼80年代
1990
状にまで掘り下げていくことで生徒の興味・関心を引
きつけたい。
1991
1992
2002
まず資料集p.250のコラム「変化する農業形態」に
2003
あるようにケニアでは近年、国営や欧米企業による大
『新詳
資料 地理の研究』p.247 珈 アフリカの歴史
農園が増えており、現地の人々は会社勤めの形で労働
さらにこうしたことが過去のことではなく、教科書
『新詳地理B 初訂版』
(以下、教科書)p.262にあるよ
うに現在も一次産品供給国としてモノカルチャー経済
コラム
に依存しており、航空路の結びつきにおいても、また
現在のODA実績においてもヨーロッパとの結びつき
が強いことを考察させる。アジア・アフリカ会議(バ
ンドン会議、1955年)以来、アジアとアフリカは第3
勢力としてまとめて扱われることがあるが、アジアと
アフリカはその歴史や社会が異なり、そのことが現状
の違いを生んでいることを確認しておきたい。
12
『新詳
資料 地理の研究』p.250 コラム
していることや、花卉の栽培も盛んで重要な輸出品目
であることを、スライドを交えて説明していく。
ここでは私が2003年にJICA(国際協力機構)の教
ンティアグループ)
澆それぞれのせりふを書いた用紙をもとにその役に
なりきってせりふを言う。
潺ひととおりせりふを言い合ったあと、お互いに追
師海外研修プログラムでケニアを訪れたときの写真を
究したいことを話し合い、できるだけその役の立
もとに行う。粗放的定住農業からプランテーションま
場で答えを考える。
で多くの農業形態を紹介しながら人々の表情を伝えて
いく。
潸最後にこのゲームの底にある現実について考えた
ことを言い合う。
粗放的定住農業を行っている村の子ども
たち(竹中撮影)
JICAが専門家を派遣している園芸公社で
輸出野菜の梱包作業の様子(竹中撮影)
ケニアではプライメートシティとして知られる首都
ナイロビと農村部との間に存在する生活レベルのギャ
ロールプレイングゲームのプリント
ップから犯罪が多発しており、ストリートチルドレン
6.おわりに
などの社会問題についても既習事項の整理として取り
教科書p.108「技能をみがく」の衣食住についての
扱うことは可能である。さらに時間が許せば体験型学
写真教材やユニセフのフォトランゲージキットなどを
習を取り入れてみることも有効である。できるだけデ
利用して授業の導入に使うこともできる。そこに描か
ータとしての地誌だけではなく、
「顔が見える」地誌
れているのは何か。なぜそのような生活が行われるの
を実感させることが、大学入試に対応する力にもつな
かを考察させたい。大学入試センター試験にも写真を
がっていくものと考えている。
題材としたものが多く見られる。答えが一つではない
以下に私がケニアの現状をもとに作成したロールプ
発問にもできるだけ時間をかけていきたい。
レイングゲームによる開発教育教材を紹介する。
さて、アジアと比較してアフリカの歩みは決して速
1:テーマ ナイロビのストリートチルドレンをめぐ
る問題
2:教材 作成プリント
3:実施方法
いようには見えない。しかし着実に変化しているアフ
リカをいかにとらえ、生徒に伝えていくかを私は毎年
考える。TVCFでも知られるWFP
(国連世界食糧計画)
漓5人単位のグループに分かれる。
の活動を私が実感として「知った」のはナイロビにお
滷グループごとに5人分の役割を決める。
いてであった。生徒個々人がアフリカにおける開発途
(ストリートチルドレンのピーター、その父マタ
タ、警察官のムズリ、ブローカーのハクナ、ボラ
上国の現状を学び、そこから日本や世界に通じる何か
を考え、行動してくれれば、と考えている。
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