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Page 1 Page 2 ヌエバ・エスパーニャにおける 木工職人ギルド制度 (研究

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Page 1 Page 2 ヌエバ・エスパーニャにおける 木工職人ギルド制度 (研究
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Title
Author(s)
Citation
<麒麟> ヌエバ・エスパーニャにおける木工職人ギルド
制度(研究ノート)
加藤, 薫; KATO, Kaoru
麒麟, 15: 31-38
Date
2006-03-25
Type
Departmental Bulletin Paper
Rights
publisher
KANAGAWA University Repository
ヌエバ ・エスバーニヤにおける
木工職人ギル ド制度 (
研究 ノー ト)
加
藤
莱
はじめに
ラテ ンアメ リカにおける1
6世紀植 民地建設事業の成果は21
世紀の今 日で もかな
りの資料や現存する実物か ら確認す ることができる。 しか し、そ ういった事業 に
従事 した人間が、 どのよ うな資格制度 のもとにどのよ うな範囲の権限 と義務 をも
ち、身分は どのように保証 され、幾 らの報奨 をもらっていたか ということを確認
しよ うとすると、 とたんに暗黒の迷宮の中に入 り込んだよ うにわけがわか らな く
なる。
唯一の手掛か りとなるのが 「
ギル ド制度 (
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os
)」だが、 ラテ ンアメ リカの
うちスペイ ン語圏 となったイスパ ノアメ リカだけに限 って も、植民地の行政単位
を超 えた普遍的な制度 として機能 していたかさえ未だ確認 されていない。 また こ
のギル ド制度が 1
6世紀 に一度設定 されたか らといって以後数百年 もの間、全 く不
変であった と断 じる根拠は何 もない。
2005年の 日本で も耐震構造設計の数値偽造 問題が大 き く取 り上げ られているが、
1
6世紀のラテ ンアメ リカ植民地 において も、建造物の最低条件 として 自然災害や
使用方法、使用頻度 に対応 した構造的耐久性が求め られた と考 えるのは妥 当だろ
う。 となると当然、建築資材の特性、材質の見極 め方、工法、強度、耐用年数、
自然災害 (
害虫対策な ども含 まれる) の発生確率 と費用対効果 の計算、な どに関
す る膨大な知識 と経験な どの蓄積の差が資格や受注物件、報酬の差異 となって現
れた と類推できる。 また これ らの条件 に加えて、建築作業 には流通過程か ら複数
の人間が係わるか ら、 リーダー シップ、カ リスマ性、管理能力、説得力や コミュ
ニケー シ ョン能力な ど人間的な資質 も必要不可欠だっただろう。
本稿で確認 しよ うとしているのは、大聖堂な ど巨大建造物の総監督 として名前
や経歴、設計図面な どが残 っている幾人かの巨星の ことではない。数量的には圧
倒的に多かった地方での植民地建設 に必要な橋梁、水路、潅概な ど土木事業、個
人住宅な どの設計か ら施工 までの指揮 をとった棟梁的な人を頂点 に組 まれたビラ
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7
J
ミッ ド的縦型人材構成 と職種毎の横 の関係 を解読 してゆ くための指標である。
建築 に係わる集団組織 のうち、ギル ド制度 の確立 していた職種 には石工、左官、
装飾絵画な どがあるが、本稿では木工職人ギル ドに限定す る。 また地域的にはヌ
エバ ・エスバーニ ヤ副王領 (
現在のメキシコ領 に中米地域 とアメ リカ合衆国サ ウ
スウエス ト地域 を加 えた領土 にほぼ対応) に限定す るが、 この範囲内で も地域的
なバ リエーシ ョンはかな りあった と推察できる。ただその ことを包括的に証明で
きるほどの資料 の蓄積はない。 また時代的には1
6世紀のギル ド制度確立時の区分
を考察するが、現在 アメ リカ合衆国領 に属す る旧エル ・ヌエボ ・メヒコ総督領で
は1
6
80年および 1
692年の二回に渡 って発生 した先住民の抵抗運動 「
プエプ ロの反
乱」(
ノ
王)によって 1
7世紀以前の文献資料は一切消滅 してお り、 この地域では 1
8世
紀 になって適用 されたギル ド制度 の区分 を参照す る こととなる。 この時間差 もま
た地域差の要因である。従 って本稿で採 りあげ る職種や職掌内容 も、各地域、各
現場での実際の運用内容 と異なる場合 も多か った ことを前提 としなければな らな
い。
1.ギル ド制度の階級
ヌエバ ・エスバーニ ヤ副王領 にお いて、 1
6世紀 中に60に及ぶ様 々な専門職 のギ
ル ドがスペイ ン王室 (
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a)に認可 された。 このうち大工な ど木工職
ギル ドが認可 されたのは 1
5
68年 1
0月26日の ことであった。(
注2
)木工作業 に従事す
る職人は一括 して一つのギル ドにまとめ られたわけだが、その職種の範囲は村落
一つを建設す る土木事業か ら片手で持てるほど小 さな室内装飾工芸品まで とひろ
い。 いずれ にせよ規則では厳格な階級制度 とそれぞれのランクに対応 した職域 の
範囲が決め られた。以下、上位 の階級か らわか りえた事 を記述 してゆ く。なお上
位 の資格 を持つ職人は、選択的に下位 の階位 の仕事 を全て受注 ・施工す ることが
できた。
(
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)カル ピンテ ロス ・デ ・口 ・プ リエ ト (
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木工大工の階級 というよ りは土木工学あるいは機械工学の専門家 といった職種
に思える。共同体 の存続 に不可欠な公共性の高い建設事業 の設計か ら製造、設置、
施工 まで トータル に指揮す る ことのできる資格である。馬や牛 といった動物、 あ
3
2
るいは水力を利用 した小麦や トウモ ロコシな ど各種穀物の製粉装置 とそれ を機能
的に納める小屋、料理や夜間照明な どに使 う植物油あるいはラー ドな ど動物油の
製油装置、 ワイ ン作 りに必要な搾 り装置か ら樽 の貯蔵施設 までの建設、農業や 日
常生活 に不可欠な潅概設備で使用す る水車、各種ポンプ、貯水槽な ど、 また鉱 山
においては坑道づ くり、掘削工具か ら精錬 に至 るまでの一連のシステム装置な ど、
こういったものの設計か ら施工 を、規模 の大小 に関係な く、実施できる資格であ
る。技能的には正確で狂 いのない大小歯車や螺子式溝 の製作が資格審査 の課題 と
なった。(
注3)
(
2
)カル ピンテ ロス ・デ ・口 ・ブランコ (
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カルピンテ ロス ・デ ・ロ ・プ リエ トの次 にランキ ングされる資格であ り、 この
中でさ らに四つの階位があった。(注4) 下記のへオメ トラス までは機密性の高い軍
事施設 にも従事出来た。
<1> ヘオメ トラス (
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)
建築現場での複雑、かつ時 には高 さ数十 メー トル にも達す ることのある足場の
設計か ら施工 まで、 また上下 に石や材木な ど重量物 を運搬す るための滑車装置の
設計、製造、設置な どまで手がけることのできる資格である。独立 した単体建造
物では通行 ・運搬用 の平橋か ら吊橋な ども請け負 うことができた。 また教会堂建
築 においては切石 を積んで造 る曲面 となったヴォール ト天井や 円蓋、 あるいは半
円筒型天井の施工の際に、完成時 まで下か ら曲面 に沿 って支える支持木材構造体
の設計か ら施工 も可能な資格だった。 またムデハル式の寄木組格子天井 の製作 に
も従事できた。(
注5)
<2> ラセ ロス (
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)
定義はややあいまいだが、かな り大規模、 あるいは複雑な構造プ ランを持つ建
造物での垂直壁や フラッ トな天井 といった、 曲面のない構造物 の設計か ら施工 ま
で実施可能な資格だったようだ。
<3> マエス トロス ・デ ・オブ ラス (
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)
名称は極めて抽象的かつ一般的であるが、ギル ド制度 の中でのランキ ングでは、
壁や天井な どの平面構造体 に強度 を損な うことな く機能性 に富んだ窓や扉 をつけ
る設計か ら施工 までを請け負 うことが出来 る資格である。 また建造物の構造体か
33
らは独立 した大型固定設備類、例えば教会堂 ア トリオ境界 に設置 され る門、教会
堂内部 に置かれるプルピ ト (
説教壇)や夕べルナクル (
天蓋)、コンフェソナ リオ
(
告解用小部屋)、それ にレレ ド (
レタブ ロとも言 う-祭壇後方衝立)構造体の設
計か ら施工 まで実施できる資格である。
<4> テ ンデ ロス (
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)
この階位か ら下は作業形態が前述 までの上位階位 と大 き く異なる。原則的に屋
外での現場作業は上位階位 の監督者がいない限 り実施す る ことはできず、工房で
の作業のみ許 され る。門、扉、窓、枢、衣料や貴重品を格納す る長持ち、数か月
分の穀物食料 を貯蔵する台所用貯蔵庫な ど重量のあるものの設計か ら装飾加工、
開閉に必要な ヒンジや鍵 な どの金属接続器具の取 り付 けな どを全て 自作できる こ
とが条件 となる資格である。よ り大 きな構造体 にはめ こむ部分であるか ら、 当然
建造物の設計図を解読す る能力、標準化 された部品規格 に精通 してなければな ら
ず、 また装飾図像 については聖書、神話 に基ず く図像学的規範の知識 も必要だ し
表現様式の事例 も研究 していなければ な らない。審査課題 には ローマ起源 の建築
用装飾モール ドの製作があった。
(
3
)エ ンセ ンブラ ドール (
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このランクか らは工芸職人的色彩が強 くなる。 さ らに後述す る下位 ランクのエ
ンタ リヤ ドール との区分は、技術能力や知識 の深 さの違 いに加 え、制作す る作品
のジャンルの違 いとも考 え られる。エ ンセ ンブ ラ ドールは上記テ ンデ ロスの扱 う
長持ちや拒、貯蔵庫 といった重量物 の金属接合器具を除 く本体 まで製作できる こ
とが条件だったが、表面 に施 された装飾 の技巧や表面仕上げの精微 さな どの技能
が資格審査では重視 された。 どこの地域で も共通課題 として設定 された ものか ど
うかまだ確定的な ことは言 えないが、資格審査 には机面 に棚 と鍵付きの蓋がつい
た ライテ ィング ・デ ス クの製作が必修 だ ったよ うだ。主 に生活 家具、す なわ ち
ベ ッ ド、椅子、机、食器格納庫、本箱、収納箱な どまでが、 この資格で制作可能
な木工品である。
(
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)エ ンク リヤ ドール (
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)
使用頻度が高 く、耐久性が求め られ るものや、重量があ り複雑な強度計算な ど
34
が必要 とされるものを除 く、相対的に小 さく持 ち運び可能な装飾的美術工芸品の
製作が認め られる資格である。教会堂 レレ ドの構造枠 の中に設置す る彫像や後付
けの装飾物、額縁、家屋 を飾 る装飾パネルや家庭用祭壇、小彫像な どが受注可能
だが、図像学的知識、建築様式や装飾様式の知識、木彫 に使 う様 々な木の特性 に
関す る知識,製材か ら製作 に必要な木質部分 を得 るまでの一貫 した知識 と技能、
様々な工具、道具の製作能力や使用法の知識が審査 される。 また金粉 の塗布や彩
色 に必要な下塗 りか ら最終仕上げ までの工程の技能や塗料 に関す る知識 も問われ
た。
(
5) ビオ レロ (
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楽器制作の専門職で、ハープ、各種ギター、 リュー ト、 クラビコー ド、オルガ
ン、大小 ドラムな ど西洋音楽楽器の製作 に従事できる資格である。素材への知識
と細密作業が可能な技能 に加えて音程調節可能な聴力や、制作する楽器 の基礎的
な演奏能力も問われたよ うだ。問題は教会堂 に設置 されたパイプオルガ ンで、重
く大きい金属パイプを使 うのだが、 これ もビオ レロの受注範囲のものなのか判然
としない。発注か ら納入 に至 る何 らかの記録な どが残 っている教会堂 の事例はま
だ一部調べただけで、それ も導入時期 もば らば らだが、総 じて西欧か らの輸入品
であることが多かった。 もしか した ら制作はできなかったけれ ども組み立てや音
程調整作業には従事 した とも考 え られ る。金管楽器は、金属加工 の分野であ り、
それ もまたもっぱ ら輸入品のみだった らしくギル ドの資格審査 の項 目には入 らな
かった。
2. マエス トロ制度
上記 1. (1) か ら (5)の区分 に関係な く、其 々の分野で資格 を得、ギル ドの
正会員 となった職人は独立 した工房やオ フィス を構 えた人は 「
マエス トロ」 の称
号で呼ばれ、従業員 を雇 うことも許可 された。ギル ドは相互互助組織的な側面 も
あ り、仕事や従業員の融通、 さ らには資金融資な どが会員同士 の了承の元 にお こ
なわれた。従業員 システム としては、各マエス トロの下 に、マエス トロの資格は
取得 したが資金がな くて独立できない職人や、マエス トロ審査 を受 けるために研
鏡 を重ねている人な どがアシスタン ト的な立場で働 き、給料制、 あるいは契約制
3
5
で一定期間助っ人 として働 く自由職人 (
旅職人 とも呼ばれた)、さらにその下 に雑
役業務 に従事す る人、徒弟 として年少時か ら工房 に出入 りす る少年な どがいる。
資格取得が大前提 となるがマエス トロの称号は世襲制度で、男子兄弟は幼少時
か ら必要な知識の習得 と技能訓練が父親や先輩職人か ら施 され る。一般 に長男が
跡を継 ぐが能力や素行の問題が顕著であれば この限 りでない。次男以下は、マエ
ス トロの会員資格 を取得 して独立す るか、養子 に入 る、 自由職人 として好 きな場
所で働 く、 あるいは別の仕事 に就 く、 とい う選択肢が与 え られた。 もし子供が女
の子ばか りだった り、跡 を継 ぐに十分な能力のある男子がいなければ養子 を迎え、
既得権の存続 を図るるのが普通だった。不慮の事故や突然の病死で準備 の無いま
まマエス トロが逝去 した場合、暫定的な措置 として短期間マエス トロの妻が工房
の運営 にあたることはあったが、ギル ド制度は女性 の資格 を認めていなかった し、
現場にでて くることは縁起が悪 い ということでタブーであった。
ヌエバ ・エスバーニ ヤ副王領 に限 らず、アメリカ大陸のスペイ ン植民地領 に共
通する西洋にはないギル ド制度 の特徴 は、先住 民,白人 と先住民の間の混血であ
るメスティーソ、 また白人 とアフロ系人種 の混血ム ラー ト、 あるいは純粋なアフ
ロ系出身者のギル ド加入 を積極的に推進 した ことだ。技術力をもつ職人の絶対数
が不足 しているという植民地社会の事情の他 に、やは り西欧的技術 の普及が結果
として非西欧の血 を持つ人々への西欧文化への同化 を促進 し、植民地の西欧化 を
達成できるという政治的願望 もあった と思われ る。 しか し人種差別は明 らかで、
身分的にはいかに能力や経験があろうとも、マエス トロになることは許 されず、
最高位で も自由職人までだった。
自由職人はいわば フリーの仕事請負人で、その身分 を獲得 したギル ド組織の地
理的範囲を超 えて、他 のギル ドの管轄範囲に移動できる。そ して一定期間、雇用
契約 を結んだマエス トロの元で働 く。資格 を与 えたギル ドで会員登録 した ことを
証明する身分書 を携帯 し、移動 した先のギル ドで も期間限定の会員登録 をしなけ
ればな らないのが建前だったO 自由職人は、雇用調整のバ ッファー的存在 とも分
析できるが、マエス トロの教育方針で技能 と経験 を積むために子弟 を武者修行 に
出す意味合いもあれば、拘束や管理 を嫌 い、腕一本で 自ら旅か ら旅 の生活 に身を
投 じたケース もある。 自由職人の身分 の職人がまた弟子 を連れて仕事 を請け負 う
例 もあったよ うだ。(
注6
)また 自由職人の身分 にまで到達 した非 白人系職人がその
タ
グ
身分 を息子 に継承する事は認め られず、あくまで一代だけのものだった。
ギル ドは基本的にベニ ンスラル (
スペイ ン生まれのスペイ ン人)やクリオ- リョ
(
ヌエバ ・エスバーニヤ副王領生まれのスペイ ン人)の支配する世界で、いくら
技能に秀で、経験 もあ り人格的に優れた職人で合 って も、出自がメスティーソ、
ムラー ト、先住民な ど非白人系の血が混ざっている人は 自由職人以上の身分には
なれなかった。 当然、制度への不満はあったわけだが、それを移動の自由と高い
報酬 を獲得する機会の提供 という形で解消 したとも理解できる。待遇のよいマエ
ス トロの所 には非白人系の職人が集 まりやす く、長期 に渡って滞在する。結果 と
して人種の壁を越えた男女関係や、工房のある共同体内外での人種的対立が発生
しやす くなる。 自由職人であれば 口実を作って排除す るのも簡単だ という安全対
策面 も理由に挙げ られるだろう。
まとめ
ギル ド制度内のランキ ングは、基本的に重厚長大な事業 を指揮できる職人はど
上位 に位置づけ られている。 またラセ ロス以上の階位では軍事施設や公共建造物
建設 と多分 に結びついた ものだった。ギル ド設立の 目的 としてはヌエバ ・エス
バーニ ヤを技術面か ら西洋化すること、ヌエバ ・エスバーニ ヤに移住 してきた白
人職人の仕事や権益 と収入 を確実に確保すると同時に技術水準 を維持 し次世代に
継承 してゆくこと、先住民など非 白人系人種で も技術力のある人材の確保 と有効
利用な どが挙げ られる。徒弟奉公 を基礎 としギル ド制度は西洋輸入のシステムだ
が、ヌエバ ・エスバーニ ヤ独 自の制度 として非 白人系の職人にもギル ド加入の道
が開かれていた こと、 しか しその身分は 自由職人までに抑え られ、その身分 も一
代限 りのものだった。
ギル ド組織は 1
6世紀のスペイ ン王室の政策 に対処する面をもっていた。スペイ
ン王室はスペイ ン国内産業の保護の目的でアメリカ大陸植民地内での鉄鋼業の発
展を抑制 し、スペイ ン本国か らの鉄器輸入 に頼 らざるを得ない状況をつ くりだ し
た。その輸入状況 も年に数回しかない貿易船の往来、重量制限、高値維持 という
ことか ら慢性的に不足 していた。ギル ド制度の確立は職人たちがハ ンマーや シャ
ベルな ど鉄の工具か ら釘な どの消耗品に至るまでの鉄製品を優先的に確保する組
織的な対応だった。
37
今後 の課題 としては、土木 ・木工分野以外 のギル ドの実態解 明、地域毎 に設定
されたギル ドの権 限 と地域的裁量 の幅 と実践例 の蒐集、 ヌエバ ・エスバーニ ヤ副
王領以外 のラテ ンアメ リカ各地 にお けるギル ドの成立か ら機能 の解 明 と比較考察
な どが挙げ られ る。美術 の社会史的考察 は まだほ とん ど未 開拓 の分野だが、 これ
まで政治 ・経済 といった上層面か ら語 られてきた ラテ ンアメ リカの歴史 の再 コー
ド化 とい う企て に加担す る もの として深化 させなければ いけないだ ろう。
<脚注>
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