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出雲流庭園を救え –イエローブック出雲流庭園- 写真 1

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出雲流庭園を救え –イエローブック出雲流庭園- 写真 1
出雲流庭園を救え –イエローブック出雲流庭園- 林 秀 樹 1、出雲流庭園の危機 日本で名園と言われるものは、かつての大
名庭園や寺院などの庭園が多い。寺院の庭園
は、今でも各地に残されており、多くの鑑賞
者で賑わっている。大名庭園は、大政奉還の
後、そのほとんどが県や市に寄贈され公共庭
園となった。広島県には縮景園、岡山県には
後楽園(写真 1)、香川県の栗林公園など枚挙
にいとまがない。 写真 1 出雲の庭園は、個人所有のものが
多い。豪農や豪商が、競って出雲流
庭園を作庭し、庭師たちはその腕を
奮った。近隣の農民や商人も規模は
小さいながら、それぞれの家の表座
敷の前に出雲の風土にあった庭園を
造っていった。また、出雲地方の寺
写真 2 院の庭園についても、京都の大きな
寺院の庭のように広く豪華なものは
ほとんどないが、小さいながら趣向の凝った庭園となっている。 この 3 年間の研究活動で、多くの庭園を調査してきたが、出雲地方の庭園はその存続が危機に瀕
しているものが多いと感じられた。 庭を維持管理するには、庭木の剪定をはじめ、垣根の修繕など毎年多くの資金が必要となる。適
切に管理できなくなったときには、荒れ果てた庭に
なっていく。 個人の庭として維持できなくなったが、公共の手
で守られている例もある。写真 2 の出雲市文化伝承
館(出雲市浜町)にある出雲流庭園は、出雲市斐川町
の豪農であった江角家のものを屋敷と共に移築した
ものである。同じように、豪商として出雲市平田町
で君臨した木佐家の庭園は、出雲市平田本陣記念館
に移築保存されている。 写真 3 個人の庭では昭和の頃の書籍に出雲流庭園として紹介されているところでも、調査に訪れると、
樹木の剪定が疎かになっていたり、壊れている箇所が見受けられた。今、竹垣を直せば、今からマ
ツやツツジを剪定すれば、また、美しい庭が復活できると思われるところも少なくなかった。 写真 3 は、松江市宍道町の八雲本陣庭園である。かつては、名物料理を出す割烹旅館として多く
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のお客が訪れていた。しかし、施設が古くなり、現在は割烹旅館を廃業し、展示館となっていた。
残念ながら、宣伝もうまくいっていないようで来館者も少なく、観覧料だけでは、庭園の管理費の
捻出もできないのではと思われた。庭木の剪定回数も少なく、樹木が生い茂りつつあった。典型的
な出雲流庭園をして紹介されていた庭であるが、庭園内
にはスツールが置かれていたりしており、庭のデザイン
が崩れつつあった。 写真 4 の蓮乗院庭園の竹垣も久しく補修されておらず、
茶色に変色し、下の部分は腐蝕している。この安来市清
水寺の庭は、拝観料を取っている庭園であるが、現在の
見学者の数では、これらの補修ができないようである。
奥の茶室は、由緒あるものとの説明であるが、茶会を開
写真 4 くには、老朽化が著しい。公共庭園であれば、予算も付
けられるであろうが、個人の所有では、それも困難である。 写真 4 2,出雲流庭園の経済学 庭園を維持管理するということはどういうこ
とか考えてみる。 普段は、家族で楽しむ庭である、来客があれ
ば庭を愛でる時もあろうが、昨今はこのような
機会も減っており、ステータスとしての庭の価
値は落ちている。 個人が庭園を維持するためには、多大な経費
が必要である。庭木の整枝、剪定作業や除草、
散水などの費用だけでなく、市街地では土地の
固定資産税なども大きい負担である。管理の行
写真 5 き届いた庭園として維持できるか否かは、庭園
の持ち主の支払い意志額で、決まると言わざるを
写真 6 得ない。 庭園で収入を得て、美しい庭として管理する方
法はないだろうか。 写真 4 は、足立美術館庭園である。2200 円の入
館料であっても、全国からの来館者は引きも切ら
ない。庭園の管理する専門の部署もあり、専従の
庭師が日々手入れをしている。 写真 5 は出雲市島村町の松翠園庭園である。現
在は、1 日一組限定のお客をもてなし、約 1,000
平方メートルの庭園を有する料亭である。もともとは、出雲文化伝承館に移築した江角家と同様な
豪農屋敷(本高見家)であり、現在まで続いている。 しかし、出雲流庭園を守るために、施設を有料化したり、ストランを経営するなどは、容易な話
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ではない。事実、先に述べた出雲文化伝承館は、当初は有料であったが、利用者の減少もあって現
在は無料である。出雲市斐川町の原鹿豪農屋敷は、出雲流庭園で名高いが、拝観料は無料である。
拝観料を取っている庭園は他にもあるが、足立美術館や松江市八束町の由志園庭園を除くと、来園
者が少なく、拝観料だけでは維持できないのが現状である。 3,イエローブック イギリスでは毎年3月に黄色い表紙の庭園紹介の本が出版される。かつては、「Gardens of England and Wales」という書名で、表紙の色から通称「イエロ
ーブック」と呼ばれていた。近年は「THE YELLOW BOOK 2012 Gardens open for charity」などと書名そのものを通称名に代え、
例年、ベストセラーになるという。 イエローブックは、NGS (The National Gardens Scheme)とい
う庭園福祉活動の団体がチャリティのために、
公開する協力を得
た庭園のガイドブックである。この活動の歴史は古く、1927
年に「女王陛下の看護協会」を支える基金を集めるために始まっ
たと言われる。現在は、3500以上の個人や教会などの大小
様々な庭園が参加しており、その最も美しい時期に限り「ガーデ
ンオープンデー」とし、入園料を取って公開している。 庭園を楽しみたい人々は、このイエローブックを参考に季節季節のオープンガーデンを楽しみ、
喜んでチャリティとしての寄付をしている。また、庭園でお茶を楽しみ、小物を買うなどして、オ
ーナーもそれなりの収入を得、更に美しいガーデンづくりをしているという。 最近は、日本国内でも個人の庭園をオープン
ガーデンとして、楽しむ活動が盛んになってき
ている。 岡山県には、
「イエローブック岡山」という
グループができており、200 以上の庭園が参加
している。しかし、オープンガーデンの開設の
方法や見学者のルールやマナーも確立されて
おらず、うまく運営できず手探り状態ではある。
今後、このようなオープンガーデンの活動が定
着すれば、長い年月を掛けて庭を手入れた庭を、
その最も美しい時期に限って開放し、来訪者と
共に楽しむことができる。庭園の観覧者はその
庭の美しさに満足し、庭園の持ち主は見せる喜
びを感じるウインウインの活動になるであろ
う。高齢化社会を迎えた我が国の新しい文化に
なるかもかも知れない。 インターネットで検索すると、このようなオ
ープンガーデンの活動は、市が支援を始めてい
るところも見られるなど、徐々にではあるが市
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民権を得ているように思われる。 この活動が、庭のオーナーの満足度を高め、よりよい庭の維持ができるなら、緑豊かな地域環境
の保全にも大いに貢献できるのではないだろうか。 4,出雲流庭園をオープンガーデンに 庭園文化研究会の現地視察では、現在残っている個人庭園や寺院庭園を中心に現地調査を行った。
現地では、それぞれの庭の持
写真 7 ち主の皆様の大歓迎を受けた。
自分たちが大切に守ってきた庭
を見学したいとの依頼を受けて、
庭を掃除されたであろう。草も
抜いてあり、庭を見る表座敷も
綺麗に片付けられていた。
写真 7
のように椅子を外に並べ、茶菓
まで用意していただいた家もあ
った。 ツツジの花が綺麗なときにも
う一度いらっしゃいとか、紅葉
の紅葉が綺麗ですよと、楽しそ
うに話しておられた。案内をお願いした庭師の皆さんも自分たちが管理している庭園を、多くの人
に見てもらっているよろこびにあふれた解説をしていただき、作庭時の苦労や庭木の剪定のおもし
ろさの説明が続いた。 出雲流庭園を一生懸命に維持管理しておられるのは、高齢者が多い。我々が、現地を見学したと
きも庭園の説明を楽しそうにお話し下さるのは、個人の庭でも寺院庭園でも高齢の皆さんであった。
出雲流庭園はこの人たちの努力によって維持保全されていることをあらためて感じた。持ち主の庭
園に対する思い、愛着のおかげで今の美しい庭園があるのである。この美しく管理された庭を次の
世代が引き続き管理しなければ、出雲流庭園は、消滅して行くであろう。出雲流庭園と密接な関わ
りのある出雲平野の築地松についても同じである。マツクイムシの危機にあっても、何とかしなく
てはという、その持ち主の思い、愛着によって維持されている。 しかし、その維持管理費は、大きな負担になっているに違いない。檀家の数が減るなどし、収入
が減っている寺院の庭園でも同じである。出雲流庭園を島根の宝として残したい。 庭園が一番美しいときだけ、庭をオープンガーデンにして、観覧者から庭園管理のための寄付を
いただけないだろうか。出雲流庭園の作庭や樹木の剪定などの専門的管理を行っている庭師さんの
解説があればもっとおもしろい。 庭園の持ち主の皆さんは、自分の庭をほめられることは、大きな喜びであろう。しかし、年中開
園していると、いつ来るかわからないお客のために、家も空けられない。花も咲かない季節などは
お客が来てもうれしくないであろう。イギリスのようなチャリティのためのオープンガーデンでは
なく、出雲流庭園を維持するための費用捻出のための庭園公開ができないだろうか。 出雲流庭園のイエローブックを編集して、参加者を募り、多くの観覧者が出雲流庭園の魅力を満喫
できる方策をこれから考えていきたい。 以上 -84-
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