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ウナギの種苗生産に関する基礎研究 その2
ウナギの種苗生産に関する基礎研究 その2 水産科3年 笠井 直樹 河田 純 高橋 元晴 屋代 和希 1.はじめに ウ ナ ギ の 種 苗 生 産 に 関 す る 研 究 は 、 1960 年 頃 か ら 、 東 京 大 学 を 中 心 に 、 各 研 究 機 関 で 行 わ れ て き ま し た 。1973 年 に は 北 海 道 大 学 で 、世 界 で 初 め て ウ ナ ギ の 人 工 ふ 化 に 成 功 し 、5 日間の生存の成果がみられましたが、その後は大きな進展がみられませんでした。 し か し 、 1993 年 養 殖 ウ ナ ギ を ホ ル モ ン 剤 を 用 い て 雌 化 し た 親 魚 の 作 出 技 術 の 開 発 に よ り、種苗生産に関する研究は飛躍的に進化してきました。 そ の 後 、 サ メ 卵 を ふ 化 仔 魚 の 初 期 餌 料 に 用 い る こ と に よ り 、 1999 年 に は 世 界 で 初 め て 人為的にレプトケファルスの作出に成功しました。 私 た ち が 研 究 に 着 手 し た ば か り の 2003 年 7 月 9 日 に 独 立 行 政 法 人 水 産 総 合 セ ン タ ー 養 殖研究所においてシラスウナギの飼育に成功したことは、私たちを大変驚かせました。 この成果をもとに、私たちは、前年度からホルモン添加により、ウナギ稚魚(シラスウ ナギ期∼クロコ期まで)の雌化を図る研究と、雄の成熟化の研究に着手してきました。 2.前年度の研究成果 (1)シラスウナギの雌化試験について 【供試魚】 平 成 15 年 5 月 17 日 千 葉 県 立 銚 子 水 産 高 校 か ら シ ラ ス ウ ナ ギ 100 尾 を 入 手 【飼育水槽】 FRP 2 ト ン 水 槽 に ヒ ー タ ー を 入 れ 飼 育 【ホルモン剤の投与方法】 「 エ ス ト ロ ン 」 0.1g を エ タ ノ ー ル 10cc で 溶 解 、 週 2 回 飼 料 10g に 対 し 、 0.1cc の割合で添加し4ヶ月給餌 【試験期間】 平 成 15 年 6 月 10 日 ∼ 10 月 10 日 【結果および考察】 9 月 12 日 に 大 き く 成 長 し た 稚 魚 2 尾 を 解 剖 し 、 生 殖 腺 の 観 察 を 行 い ま し た 。 個体が小さいためか、本校の3年魚でみられたような雄の生殖腺の特徴である半円状の小 葉は確認できませんでした。 また、雌の特徴であるカーテン状のひだを持つ卵巣も確認できませんでした。 しかし、実体顕微鏡で観察すると、卵巣らしい形をした生殖腺をみることが出来ました。 そこで、水産試験場に組織切片による検証をお願いすることにしました。 その結果雌化されていることが検証されました。 このことからシラスウナギ期の餌にエストロンを4ヶ月添加することにより、ウナギの 雌化ができることがわかりました。 (2)3年魚における「ゴナトロピン」注射による成熟試験 【供試魚】 試験魚 対照魚 本 校 養 成 ウ ナ ギ 3 年 魚 5 尾 ( 平 均 体 重 575g ) 5 尾 本 校 養 成 ウ ナ ギ 3 年 魚 10 尾 ( 平 均 体 重 575g ) 10 尾 -1- 【方法】 対 象 魚 と 区 別 す る た め に 試 験 魚 の 親 魚 の 背 鰭 基 部 に 赤 、黄 、オ レ ン ジ 、白 、 緑の釣り用の目印を釣り針に結び付け標識 1週間に1回ホルモン剤「ゴナトロピン」を体重1 g あたり1単位を腹腔 注 射 し 、 10 週 間 実 施 【試験期間】 平 成 15 年 6 月 13 日 ∼ 8 月 22 日 【結果および考察】 6 月 13 日 ∼ 8 月 22 日 ま で ホ ル モ ン 注 射 を お こ な い ま し た が 、 ホ ル モ ン 注 射 区 で は 、 明 ら か に ホ ル モ ン の 効 果 が 認 め ら れ 、 早 い も の で 注 射 後 42 日 目 の 7 月 25 日 に 2 尾 か ら 精 液 が で る の を 確 認 で き ま し た 。 試 験 後 70 日 目 す べ て の 個 体 か ら 精 液 が 出 ま し た 。 ことからゴナトロピンを雄に注射することにより、人工採卵の親魚に用いることが可能 で あ る こ と が わ か り ま し た 。ま た 、養 成 し た ウ ナ ギ は す べ て 雄 で あ る こ と も わ か り ま し た 。 (3)サケの脳下垂体を解剖で摘出する技術の研修 平 成 15 年 12 月 10 日 日 光 の 養 殖 研 究 所 に お い て 脳 下 垂 体 摘 出 の 技 術 を 研 修 し 、 ニ ジ マ ス を用いて私たちの手で容易に摘出することができました。また、摘出した脳下垂体の保存 のしかた、使用するときの処理方法についても研修することができました。 3.本年度の研究目的 雌における卵巣の発育状況観察をし、人工採卵に親魚として用いることができるかを検討 すること、そして脳下垂体注射により雌親魚の成熟を図り、人工採卵を行うことを目的に 本年度は研究に取り組みました。 (1)雌における卵巣の発達状況観察 飼 育 後 8 ヶ 月 目 に 雌 化 魚 体 重 250g ( 食 用 サ イ ズ に 成 長 し た も の ) を 解 剖 し た と こ ろ 、 小さいもののはっきりと肉眼で卵巣が確認されました。 さ ら に 、 12 ヶ 月 後 の 雌 化 魚 体 重 500g を 解 剖 し た と こ ろ 、 か な り 成 長 し た 卵 巣 が 確 認 で きました。摘出し肉眼でよく見ると卵巣特有のカーテン状のヒダが確認されました。 当初の研究では私たちは3∼4年養成してから、後輩に託して成熟試験を行わなければ ならないと考えていましたが、何とか成熟試験に使えそうなので、脳下垂体注射を行うこ とにしました。 摘出した卵巣の状態 雌化魚における卵巣の変化 (2)脳下垂体注射による雌親魚の成熟試験 【供試魚】 本来ならば4年魚が適切であるとされているのですが、卵巣の発育状況か ら判断し、前年度エストロン処理により雌化したウナギのうちもっとも成 長 の 良 い 1 年 魚 2 尾 ( 700 g 、 800 g ) を 用 い 成 熟 試 験 を 試 み ま し た 。 【 脳 下 垂 体 】 中 禅 寺 湖 漁 業 協 同 組 合 よ り 購 入 し た ヒ メ マ ス 90 尾 か ら 脳 下 垂 体 を 摘 出 し -2- 試験瓶に入れ冷凍保存したものを使用 【方法】 1 ) 脳 下 垂 体 重 量 が 1 尾 当 り 20 ∼ 40mg に な る よ う 5 粒 を 目 安 に 生 理 食 塩 水液中で溶解し、腹控注射 2 ) こ の 注 射 を 週 1 回 15 ∼ 18 週 実 施 (体重変化を調べ、急激な体重増 加が起こるまで注射) 3)この間人工海水へ馴致し、飼育 【 試 験 期 間 】 平 成 16 年 10 月 1 日 ∼ 平 成 17 年 1 月 28 日 【結果および考察】 12 月 25 日 現 在 、 750g の 雌 ( A ) に お い て 背 部 か ら 見 て 腹 部 が 成 熟 の た め に や や 肥 大 し て い る の が 確 認 で き ま し た 。 予 定 日 の 12 月 31 日 に は 採 卵 が で き な か っ た も の の 、 脳 下 垂 体 注 射 を 予 定 の 回 数 よ り 多 め に 行 な っ て い っ た と こ ろ 、 18 週 目 の 1 月 21 日 に 、 体 重 が 900g へ 20 % 増 加 し ま し た 。 増 加 し な い 650g の 個 体 ( B ) は 、 15 週 目 に 解 剖 し た と こ ろ 、 卵 巣 が十分に成熟していませんでした。脳下垂体を投与開始するのに魚体が未熟すぎたものと 思 わ れ ま す 。 個 体 ( A )か ら 採 卵 が 可 能 に な る と 思 わ れ ま す 。 脳下垂体摘出 雌成熟におけるホルモンの影響 脳下垂体溶解液の腹腔注射 -3- 脳下垂体投与にともなう体重の変化 体重増加が見られた雌親魚 (3)ゴナトロピン注射による雄親魚の成熟 【供試魚】 雄親魚 2 尾(4年魚) 【方法】 前年度の成果により、ゴナトロピン(生殖腺刺激ホルモン)を雄親魚 体 重 1 g あ た り 1 単 位 腹 腔 注 射 を 週 1 回 13 週 実 施 【試験期間】 平 成 16 年 10 月 29 日 ∼ 平 成 17 年 1 月 31 日 【結果】 前 年 度 の 研 究 結 果 で は 、 6 週 目 に 精 液 が 確 認 さ れ ま し た が 、 今 回 は 13 週 目 に お い て 腹 部 を 押 し て も 、 精 液 が で ま せ ん で し た 。 1 月 31 日 に 精 液 が で な い の で 、 2 尾 と も 解 剖 し た ところ、卵巣がみられ雄と思って用いていた親魚は、雌でありました。養殖魚はすべて雄 であるとの昨年の研究成果に疑問も残りました。 -4- 排 卵 誘 発 ホ ル モ ン (DHP) 排卵誘発剤 DHP の腹腔注射 排卵誘発ホルモン(DHP) (4)人工採卵 【方法】 1 ) 脳 下 垂 体 注 射 後 、 急 激 な 体 重 増 加 ( 20 % 増 ) を 確 認 2 )排 卵 誘 発 ホ ル モ ン ( DHP )を 10mg を 50 % ア ル コ ー ル に 溶 解 し 、0.45ml を 注 射 器 に 取 り 、 生 理 食 塩 水 で 0.9ml に 希 釈 し 雌 に 注 射 3 ) 15 ∼ 18 時 間 後 、 排 卵 を 確 認 4)搾出法により受精 「 水 を 飲 み 」 体 重 40% 増 に な っ た 親 魚 排卵が起こらなかった親魚の解剖 「水を飲み」体重 40 %増になった親魚 排卵が起こらなかった親魚の解剖 【結果および考察】 DHP を 1 月 20 日 15 時 30 分 頃 注 射 し ま し た が 、 18 時 間 後 排 卵 は 確 認 で き ま せ ん で し た 。 2 回 目 は 、 1 月 24 日 16 時 頃 注 射 し 、 17 時 間 後 に 様 子 を 見 た と こ ろ 、 卵 巣 の 一 部 と 脾 臓 が肛門より突出していましたが、排卵は見られませんでした。 3 回 目 は 、 1 月 27 日 15 時 頃 OHP ( DHP が な く な っ た の で 購 入 し た そ の 前 駆 体 物 質 ) と ゴ ナ ト ロ ピ ン を 注 射 し ま し た が 18 時 間 後 に 排 卵 は 確 認 で き ま せ ん で し た 。 し か し 、 そ の 2 日 後 体 重 が 1,100 g ( 約 40 % 増 ) に な り 、 腹 部 が 急 激 に 膨 ら み 風 船 が 大 き く な っ た よ う に 腹 部 が 固 く な り 、「 水 を 飲 ん だ 状 態 」 が 確 認 さ れ ま し た 。 高 圧 な 環 境 で 行 う 天 然 ウ ナ ギ の深海での産卵を考えれば、圧力のかからない本校の状態では、腹部が破裂しそうに固く なり、圧迫した内臓が肛門から、突出してしまうことは、十分考えられます。 4 回 目 は 1 月 30 日 15 時 30 分 頃 OHP を 注 射 し ま し た 。 し か し 、 18 時 間 後 に 排 卵 は 確 認 -5- できず、親魚の衰弱が激しく、実験が続けられそうもないので、解剖により卵巣の状態を 観 察 し ま し た 。 排 卵 が 起 こ ら な い 原 因 と し て は 、 DHP を 何 度 も 使 用 し た こ と 。 OHP の 効 果が不十分であったこと。親魚の衰弱が激しかったことなどが考えられます。 4.まとめ 1 )シ ラ ス ウ ナ ギ 期 か ら 4 ヶ 月 間 エ ス ト ロ ン を 餌 料 添 加 す る こ と で 雌 化 が 認 め ら れ ま し た 。 2 ) 雄 親 魚 に お い て 週 1 回 10 週 ゴ ナ ト ロ ピ ン を 腹 腔 注 射 す る こ と で 採 精 を 行 う こ と が で きました。また、この実験に用いた全ての個体から採精できたことから実験で養成し たウナギはすべて雄であることもわかりました。 し か し 、 本 年 度 の 実 験 で は 、 13 週 ゴ ナ ト ロ ピ ン を 注 射 し て も 精 液 が み ら れ ず 、 養 成 したウナギは雌でした。 3)雌親魚にゴナトロピンを注射しても成熟しない理由について、水産試験場の方の説明 によりよく理解することができました。そして脳下垂体が雌親魚にあたえる影響につ いて理解することができました。 4)多の研究機関の報告によると雌親魚は4年魚が適切であるとされていますが、1年魚 でも脳下垂体を雌親魚に投与することにより卵を成熟させることができることがわか りました。 5 ) 魚 体 重 が 20% 増 加 し た と き 排 卵 誘 発 ホ ル モ ン ( DHP )を 成 熟 親 魚 に 投 与 し て も 排 卵 が 起 こ ら ず 、 ま た 40 % 増 加 し た と き も 排 卵 が 起 こ ら ず 、 排 卵 誘 発 ホ ル モ ン ( DHP )を 成 熟親魚に投与するタイミングが難しかったです。 また、天然ウナギの産卵行動が深海での高圧に適応している理由も、本校の実験か ら納得することができました。 6)雌雄の差異は外見からは、判断が難しく、解剖してみなければわかりませんでした。 5.今後の課題 人工種苗生産を成功させ、稚魚を親魚まで育成することを目的とし、ウナギの養殖に貢 献することです。 〔参考文献 -6- 廣瀬 慶二著 ウナギを増やす〕