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患者 50歳男性

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患者 50歳男性
ケース
患者は 50 歳男性K。街頭にて献血を行い、採血前の事前審査を受ける際、軽度
の高血圧を指摘された(150/95mmHg)。献血は予定どうり済ませたが、その後の
血液検査データにて高脂血症であることがわかった(T.Chol260mg/dl)。
もともとKは 6 年前に高血圧症との指摘を受け体重減量と低 Na 食により治療を
行った。Kは 2 年間薬物療法を行ったが、自分で中止してしまった。既往歴に
は主なものとして 30 年前の虫垂切除と 10 年前の十二指腸潰瘍がある。
Kの父親には高血圧症があり 54 歳で心筋梗塞により死亡。母親は糖尿病と高血
圧症があり、65 歳で脳血管障害で死亡した。Kは 30 年間喫煙を続けており、自
分の血圧は仕事に関するストレスによるものと信じている。近医を受診したK
は以下の処方を受けた。
Rp.
1.アダラート L10mg
1 錠 朝食後
2.メバロチン 5mg
1錠 夕食後
14 日分
Q.1 患者から「今後、降圧剤を中止できる可能性はあるか」という問に対して、
具体的にどんな情報を提供できるか。
Q.2 患者が服用の手間を省くため自身の判断でメバロチンを朝食後に降圧剤
と併せて服用しているという。患者の高脂血症の治療効果に影響は出るか。
Q.3 Ca 拮抗剤のグレープフルーツジュース(GFJ)との相互作用はどの程度注
意すべきか。① どの程度の量、濃度の GFJ を飲用すると影響が出るか、② GFJ
の影響をなくすにはどの程度服用間隔をあける必要があるか、 ③ 薬剤間の
差はどの程度か。
Q.1 患者から「今後、降圧剤を中止できる可能性はあるか」という問に対して、
具体的にどんな情報を提供できるか。
基本的には高血圧症によるさまざまな合併症を避けるべく、医師の指示どう
りに服用を続けるべきであるというのが指導方針となるが、現在まで確認され
ている降圧剤を中止する際の条件というものを以下に記した。
降圧剤療法を開始すると、一生薬を止められないと思う患者がいるが、必ず
しもそうではない。
血圧が安定した後に休薬すると、一年以上血圧が再上昇しない患者が 10∼
20%、報告によっては 30%程度というものまである。
その後、何年か経つうちには血圧が上昇し、再び降圧剤が必要になることが
多いが、一時的にしろ、降圧剤を休薬できるのは患者にとって朗報となる。で
は、どのような条件があるとき休薬が可能なのか。
①中止するときのポイント
当然のこととして、高血圧が軽症であるほど休薬成功率が高くなる。軽症高
血圧は全てが中等症、重症と進行するものではなく、長期間軽症のままに留ま
る患者、ときには血圧が自然低下する患者(高血圧の緩解)がある。血圧が自然
低下すれば、降圧剤は不要となる。
休薬できる患者のなかには、もともと降圧剤が不要であったと思われる患者
があり、最近では、軽症例に対しても早期から降圧剤療法を開始する傾向があ
るので、非薬物療法で充分に血圧コントロール可能な患者や白衣高血圧患者に
不必要な降圧剤が投与されることがあるのも事実である。しかし、降圧剤が必
要か不必要かの判断は必ずしも簡単ではない。
具体的には、降圧剤療法開始前の心電図の所見に異常がなく、一剤の降圧剤
で血圧が良好にコントロールされている患者が休薬の候補者となる。収縮期血
圧がしばしば 120mmHg 以下になることがあれば休薬のチャンスである。投与中
の降圧剤の用量を半量に減量し、減量しても血圧が上昇しないことを確かめて
から休薬にもっていくとされている。
もちろん、休薬しても高血圧が完治したわけではないので、定期的観察が必
要となる。減塩食、体重減量、運動療法など非薬物療法を行うと、降圧を維持
し易いといわれている。
若年者は休薬しやすいが、朝日生命成人病研究所での経験では、年齢による
差はないとしている。老年者でも、臓器障害がない軽症高血圧であれば休薬可
能とされている。
(補足) 本年度の国際高血圧学会においてオーストラリアで行われた 65∼84 歳
の高齢高血圧患者を対象とした成績を発表しており背景因子の比較から、薬を
止められた人には1.年齢、2.収縮期血圧、3.服薬薬剤数
ることがわかっている。
の三つに特徴があ
Q.2 患者が服用の手間を省くため自身の判断でメバロチンを朝食後に降圧剤
と併せて服用しているという。患者の高脂血症の治療効果に影響は出るか。
血液中のコレステロール、特に LDL-コレステロールの高値は、冠動脈硬化症
の最大のリスクファクターとして臨床上重要な病態である。日本、アメリカ、
ヨーロッパなど、世界各国で高コレステロール血症診療のガイドラインが提示
されているが、そのすべてが LDL−コレステロール値を重要視している。
高脂血症治療の中心は薬物療法である。特に、強力なコレステロール低下剤
として HMG−CoA 還元酵素阻害剤(HMG-CoA 剤)が登場したことが特筆される。
本薬剤を用いたコレステロール低下療法により、冠動脈硬化症の 1 次予防(初
発予防)、さらには 2 次予防(再発予防)が可能であることが実証され、冠動脈
硬化症にとって LDL−コレステロールは低ければ低いほど好ましいことが確立
されてきた。本薬剤のコレステロール低下作用は投与開始後速やかに発現し、
投与継続により 10 年以上安定して発揮されることも確認されている。
これらの薬剤は、長期投与される場合が多いことから、服薬コンプライアン
スを保つことも重要な課題となる。近年、降圧剤など長期投与を必要とする薬
剤は、コンプライアンスの問題から 1 日 2 回、さらには 1 日 1 回投与で十分な
効果発現を達成するように薬剤設計されることが多くなっており、このような
流れはコレステロール低下剤である HMG-CoA 剤においても該当する。
生体内でのコレステロール生合成には日内変動が存在し、夜間に合成亢進が
みられるとの知見が得られたことから、コレステロール生合成を拮抗阻害する
HMG-CoA 剤は、朝 1 回投与よりも夕 1 回投与のほうがコレステロール低下効果が
大きいのではないかとの仮説が提唱され、これを検証すべく複数の臨床試験が
行われた。
表には日本人を対象とした試験成績を示しているが、朝 1 回投与と夕 1 回投
与の問で LDL−コレステロール低下率に統計学的有意差を認めたのはリポバス
のみである。しかし、ローコールでも夕 1 回投与で大きな低下率を認めている。
メバロチンでは両投与法とも同程度の低下率を示していることも合わせると、
朝 1 回投与と夕 1 回投与の LDL−コレステロール低下作用はほぼ同等ないしは若
干夕 1 回投与が勝る可能性があると考えるのが適切であろう。
「患者指導」
朝と夕のどちらに服用すると良好なコンプライアンスが得られやすいかは、
個々人の生活習慣と深く関係している。服薬の意義をきちんと説明した上で、
患者とよく相談しながら決めていくのが最も重要なポイントになる。
表)HMG-CoA 剤の朝 1 回投与と夕 1 回投与の比較
薬剤名
メバロチン
リポバス
ローコール
バイコール
1 日投与
投与
量(10mg)
時間
LDL-C
低下率(%)
10
朝食後
-21.0
10
夕食後
-22.0
2.5
朝食後
-15.2
2.5
夕食後
-22.2
5.0
朝食後
-19.3
5.0
夕食後
-28.5
10
朝食後
-14.9
10
夕食後
-23.6
0.2
夕食後
-29.4
0.2
就寝前
-30.4
有意差
(朝 対 夕)
なし
なし
あり
なし
*
*バイコールのみ米国の試験成績で夕食後と就寝前投与の比較が行われた
Q.3 Ca 拮抗剤のグレープフルーツジュース(GFJ)との相互作用はどの程度注意
すべきか。① どの程度の量、濃度の GFJ を飲用すると影響が出るか、② GFJ
の影響をなくすにはどの程度服用間隔をあける必要があるか、③ 薬剤間の差は
どの程度か。
Ca 拮抗薬と GFJ との相互作用はここ数年、臨床現場で話題になっており、実
際 Ca 拮抗薬が処方された場合、この相互作用について患者に説明する機会も少
なくない。では、実際この相互作用の特徴や実態はどのようなものか?
GFJの相互作用には、大きな個体差が存在することが特徴の一つである。抑制
作用の強さは個体間で大きく異なり、GFJによる影響を受けにくい人から、血漿
中フェロジピンのAUCとCmax が水で服薬した場合の 8 倍になる人までいる。反復
投与してもこの現象は個人内で再現し、個人固有の因子に依仔する。
しかしながら GFJ を 1 回だけ飲用した時に、たとえ副作用が現れない患者が
いたとしても、GFJ の種類(メーカー、産地などの違い)、GFJ の飲用回数の違
い、飲用間隔の違いによって、相互作用が発現する可能性も十分考えられる(後
述)。例えば、GFJ の飲用回数が多くなれば、相互作用も強く出ることが報告さ
れている。
①どの程度の量、濃度のGFJを飲用すると影響が出るか。
GFJの種類と量は重要な因子で、市敗のGFJ(冷凍濃縮、濃縮希釈、新鮮冷凍)
でフェロジピンとの相互作用が証明されている。しかし、その程度は含有され
る阻害活性成分量に依存し、相互作用の原因成分と考えられるフラノクマリン
類の含有量には、同一のメーカー・銘柄のジュースですらロット間で少なくと
も 3 倍程度の差違が認められている。
2 倍濃縮GFJを使用した報告が多いが、通常のGFJコップー杯(200∼250mL)で
もフェロジピンのAUCやCmax が数倍上昇するという報告がある。GFJの摂取量と時
間、薬物の種類によっては、相互作用により重大な副作用が惹起されることも
十分考えられる。とくに、長期間、Ca拮抗薬を服用しており薬物血中濃度が定
常状態に達している状態でGFJを飲用すると、問題が起こりやすい。
② GFJの影響をなくすにはどの程度服用間隔をあける必要があるか
GFJの阻害作用の持続時間は、臨床的に重要な問題である。GFJ飲用およびフ
ェロジピン服用時刻と阻害作用の強さとの関連性を検討した報告によると、コ
ップー杯(220mL)のGFJでAUCとCmaxの増加率が最大になるのは、服薬 4 時間前∼
服薬直前にGFJを飲用した場合であった。相互作用の強さはGFJ飲用とフェロジ
ピン服薬との間隔が長くなるにつれて徐々に弱くなるが、服薬 24 時間前にGFJ
を飲用した時でさえ、フェロジピンのCmaxは明らかに高値を示した。しかしなが
ら、服薬 1 時間後にGFJを飲用しても、薬物動態に大きな変動はみられない。
GFJ の阻害作用の半減期は数時間∼12 時間前後だと推定され、1 回の GFJ 飲用
による阻害作用は 24 時間後でも認められ、これ以降は持続しないようである。
これは、小腸の上皮細胞の再生が速やかなため CYP3A4 活性が回復するからであ
る。
③ 薬剤間の差はどの程度か
表).各種 Ca 拮抗薬の生物学的利用率と GFJ
商品名
一般名
の影響
生物学的利用率
相互作用の強さ 添付文書の評価
(%)
バイミガード
ニソルジピン
8
ムノバール
フェロジピン
16
コニール
ベニジピン
?
カルスロット
マニジピン
?
ペルジピン
ニカルジピン
15∼38
バイロテンシン ニトレンジピン
16
アダラート
ニフェジピン
45
ワソラン
ベラパミル
24
ニバジール
ニルバジピン
14
ヒポカ
バルニジピン
?
ランデル
エホニジピン
?
アテレック
シルニジピン
?
ヘルベッサー
ジルチアゼム
39
ノルバスク
アムロジピン
64
極めて強い
併用注意 同時
服用避ける
強い
併用注意
やや強い
併用注意
??
併用注意
弱い
特になし
Ca 拮抗薬の血中濃度上昇の原因は GFJ と併用すると、グレ−プフル−ツ中の
フラボノイドなどによって、肝臓と小腸の CYP3A4 の活性が阻害されるためと考
えられている(小腸の方が影響が大きい?)。これはフラボノイド(ナリンジ
ン、ケルセチン、カンプフェロ−ル)が、グレ−プフル−ツに含まれているこ
とによる。ナリンジンが、経口服用後、消化管で腸内細菌でナリンゲニン(糖が
はずれたアグリコン)となって、肝のミクロソ−ムの基質の酸化を競合的に阻害
する。従って、GFJ で服用すると初回通過効果が、グレ−プフル−ツ中のナリン
ゲニンによって阻害されるため、体循環への移行量、生物学的利用率が増加し、
結果として薬効と副作用が増強する。
ほとんどのジヒドロピリジン(DHP)系 Ca 拮抗剤は、小腸や肝で初回通過効
果を受けるが、その第 1 ステップは、DHP 環の酸化で、これには P450(CYP3A4、
1A2)が関与する。初回通過効果の大きい DHP 系 Ca 拮抗剤ほど、この相互作用
の影響を受ける。例えば、バイロテンシン、バイミカ−ドの利用率は、それぞ
れ 16%、 8%である。バイロテンシンは初回通過効果で 84%が失われているこ
とになる。酵素でこれを阻害して 50%にすればそれだけで利用率は 2.5 倍にな
る。
反対にアダラ−トの利用率は 45%であって、初回通過効果がそれほど大きく
ないため、影響はさほど大きくはない。ノルバスクも GFJ に影響されない。
薬物相互作用の臨床的意義を考える時、複数の要因を念頭に置く必要がある。
まず、薬物動態の変動幅である。GFJ によって①血漿中薬物濃度が 2 倍以上にな
ると、薬物作用が増強され過剰反応や有害作用が起こる危険性がある。また②
急勾配の濃度(用量)反応関係を持つ薬物や、③治療域が狭い薬物では、たと
え血漿中濃度の上昇があまり大きくなくても作用増強や有害作用が起こりやす
くなるので、臨床的には注意すべきである。ベラパミルなどがこの例である。
「対応・服薬指導」
患者には、GFJ と本薬の相互作用について説明し、本薬を服用する時には GFJ の
飲用を原則として禁止するように指示する。
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