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栄養成分の機能発現調節に関する研究

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栄養成分の機能発現調節に関する研究
生体 の科学
59(6):504-510,2008
嗣丁θRを めぐるシグナルタンノゞ
ク
麟
変異 TSC2と スモール
山本 祐 司
Gタ ンパ ク質 の活性化
田所 忠 弘
鈴木
司
結節性硬化症 とスモール Gタ ンパ ク質
との関連 につ いて
TSCl,TSC2遺 伝子 は,家 族性腫瘍 の一 つ であ
る結節性硬化症の原因遺伝子 として同定 された癌
抑市1遺 伝 子 フアミリー の一 つ で あ り,そ れぞれ
hamartin,tuberinタ ンパ ク質 を コー ドす る。複
結節性硬化症 は約 8000人 に 1人 の割合 で男女
合体 を形成 した hamartinと tuberinは スモール
Gタ ンパ ク質ファミリーの Rhebを 介 し,イ ンス
国籍 を問わず発症す る常染色体優性遺伝性 の全 身
リンシグナル経路内 の タンパ ク質合成 をつ か さど
る mTORを
負 に制御 す ることが明 らか となった
,
性多系統疾患 であ り,血 管繊維腫 ,願 病お よび精
神発達 の遅滞が本疾患 の 3徴 候 としてあげ られ
本人 のみ な らず ,そ の家族 にも重 い負担 を強 い る
,
ものの, この単 一経路 だけでは両遺伝子の機能欠
疾患 である。 1993年 に Europian chromosome 16
失に よ り認 め られる多 岐 にわたる細胞機能異常 に
つ い ての 説明が十分 とはい えな いの が現状 であ
tuberous sclerosis consortiumに よって 16番 の染
る。その ことか ら hamartinと tuberinは 多様 な
機 能 を持 つ シ グ ナ ル 因子 (multruncdonal pro
色 体 上 に結節性硬化症 の 遺伝子 の一 つ
TSC2遺
伝子 (ヒ ト染色体 16p13.3)が ,そ の後 1997年 に
TSCl(ヒ ト染色体 9q34)の 遺伝子があいついで 同
して作用す る可能性が示唆 された。
本稿 では,tuberinの 細胞遊走 へ の 関与 に着 目
定 され ,TSClに よ リコー ドされるタ ンパ ク質 を
hamartin(ハ マルチ ン)と ,TSC2に よ リコー ドさ
し,分 子 レベ ルでその メカニズムを明 らかにす る
れ るタ ンパ ク質 を tuberin(ツ ベ リ ン)と 呼 ぶ。 ま
ことによ り,結 節性硬化症 の発症機構 のみな らず
細胞遊走 の新規 シグナ ル経路 の解明につ なが るも
た,患 者 の 腫 瘍 の 解 析 結 果 か ら TSClお よび
TSC2の ヘ テ ロ接合性 欠損 (loss of heterozygosi―
の と考 えた。一般 に細胞遊走は,ス モール Gタ ン
ty:LOH)が み られ る こ とか ら,TSClお
パ ク質である RhoA,Cdc42,Raclに 代表的 され
TSC2は 癌抑制遺伝子 のひ とつ であると今 日では
定義 づ け られて い る。 また,興 味深 い ことに,本
疾病 では臨床症状 の程度にはば らつ きが多 く,親
子 ,兄 弟 間で あ って も症状の程度が同様 とは限 ら
tein)と
,
るタ ンパ ク質である Rhoフ アミリー によ リコン
トロール されるが,筆 者 らは tuberinが そ の 中で
も Raclの 活性 を制御 し,さ れ に Raclを 介 し活
性酸素種 の産生 に も寄与す る こ とを明 らか に し
たり。
よび
ない'。
TSCl,TSC2遺 伝子 の変異 は,細 胞 レベ ルにお
いて細胞サイズや周期 ,エ ン ドサイ トー シスまた
細胞遊走 な ど,多 くの機能 に影響 を及ぼす ことが
υ
報告 されて い る 。その ことか ら,tuberin,ha―
NIIutated tumor suppressor gene TSC2 and small― GTP binding prOtein activity
Yuli Yamamoto,Tadahiro Tadokoro,Tsukasa Suzukil東
究室 (〒
京農 業 大学 応 用生物 科 学部 生物 応 用化 学科 栄養生化 学研
1568502東 京都 世 田谷 区桜 丘 1-11)
03709531/12/¥500/論 文んCLS
﹁
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59巻 6号 ・2008年
│
外部か らの シグナ
¬
、
、
\
\
劇
一
ル
ヽ
生体 の科学
h押 面
tuberin
ham・artin
ヒ IⅢ Ⅲ
細胞膜 に結合 し,複 合体を形成 して機育
tubも rin
ヒ
希
美育
細胞質画分で複合体 を形成 して機能
細胞質 で各 々別 々に機能
細胞応答
細胞周期 の調節
細胞 の分化
細胞 の成長
細胞 の遊走
の機能を持つ可能性がある
図 l tuberinと hamartinは 外部からのシグナルにより様々な形態を とることで複数
martinが 細胞内 にお いて多彩 な働 きをす るので
はないか と予想 された。発見当初 はそのア ミノ酸
配列か ら tuberinの C末 端 にス モ ール Gタ ンパ
ク質 フ ア ミリーの Raplの GTPase活 性化 因子
(GAP)ド メイ ンが存在す ると予想 されたが ,現 在
ではその可能性 はほぼ否定 され ている。
一方 ,近 年 の研究 に より,細 胞内 にお いて イ ン
ス リンシグナル経路 に存在す る P13K,Aktが tu―
berinの 939番 目のセ リ ンと 1462番 目のス レオ
ニ ン を直接 リ ン酸 化 す る とい う結 果 が示 され
たい。そ の後 の研究 か らhamartinと tuberinは 細
TSC2の 遺伝子 が変異 してい るため,tuberinも
し くは hamartinが 正常 に機 能 せ ず ,そ のため
Rhebの 活性 を制御 で きず ,細 胞 の異常 な肥大化
を起 こして過誤腫 となると考 えられ る。
しか し,上 記 に述べ た ような経路 だけでは両遺
伝子 の変異 により認め られる他 の細胞異常 につい
ては説 明 がで きず ,そ の ことか ら tuberinと ha―
martinは これ らの他 に も機能 を持 つ 多機能 シグ
ナ ル 因子 として作用 す る可能性 が考 え られ た。
Yeungら のグルー プは,エ ン ドサ イ トーシス をキ1
御 す るス モ ー ル
Gタ ンパ ク質 で あ る Rab5の
胞内で複合体 を形成 し,ス モール Gタ ンパ ク質 の
一つで あ る Rhebの GAPと して機能す る ことが
GAPと
明 らか となった。す なわち hamartinと tuberin
はイ ンス リ ンシグナ ルの下流 に位置 し, タンパ ク
質 生 合 成 の 制 御 因 子 で あ る mTORの 活 性 を
性 を示 してい る。 また,さ らに,hamartinは ア ミ
ノ酸配列 か ら膜貫通 タンパ ク質であ ると予想 され
Rhebを 介 し負 に コン トロールす る仲介 因子 とし
て機能す るもの と考 え られている。 したが つて
成 長 因 子 が 欠 乏 状 態 で は tuberinが S6Kや
mTORの 活性 を抑制す る ことで無駄 な タンパ ク
,
質合 成 を防 ぎ,一 方 ,成 長因子 が受容体 に結合 し
た ときは P13K, Aktが 活性化 され, Aktが tu―
berinを リ ン酸化す る ことに より S6Kや
mTOR
の活性 を抑制 して いた機能 が 阻害 され,S6Kや
mTORが 活性化 され て細胞 の成長へ とつ なが る
の
と報告 された 。 一方 で,tube n,hamartinが 普
段 Rhebの 活性 を阻害す ることで細胞 の大 きさを
調節 して いるが ,結 節性硬化 症 の患者 は TSCl,
﹁
一
ST0603早 早
"暑
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して作用す る rabaptinと tuberinが 結合
4),mTOR以 外 へ の 関与 の可能
す ることを見出 し
たが ,わ れわれ の研究 か ら,tuberinと hamarin
ともに細胞膜画分 のみな らず ,細 胞質画分 にも検
り
出 された ことか ら , これ らタ ンパ ク質 は細胞 内
局在性 やそ の形態 を変 える ことによ り,複 数 の機
能 を制御 ・発揮す る多機能 シグナル因子である と
考 え られた (図 1)。 また,そ の際 われわれは,細
胞膜 ドメイ ン構 図 のひ とつ であ る caveolaeに 局
ヘ
在 し,そ の構成因子 である caveolin-1の 形質膜
の移行 を コン トロール してい ることも明 らかにし
た。Caveolaeが 多数 の シグナル因子が集積 す る
膜 ドメイ ン構造 である ことを考 える と,caveolae
を介 し tuberinの 機能 が mTOR以 外 の多数 の シ
グナ ル伝達経路 に作用す るマルチ フ アンクシ ョナ
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ル な一 面 を明 らか に した゛。本研 究 で は,TSC2
遺伝子 の変異 に よ り起 きる細胞 の変異 の 中で,特
に細胞遊走の異常 は本疾患 の大 きな特徴 で ある精
3 hamartin,tuberinの 細胞遊走へ の
関与 の解析
女性 の結節性硬化症患者 の 34-42%に
,異 常な
神発達 の遅 滞や , さらには腫瘍細胞 の転移 にも影
つ
響 を及ぼす に もかかわ らず ,詳 細 な分子 メカニ
ズムにつ い て は不明 な点が多 い ことか ら,TSC2
平滑筋様細胞 (LAM細 胞 )が ,肺 を中心 として リ
の細胞遊走へ の 関与 を分子 レベ ルで明 らかにす る
肺 リ ンパ 脈管筋腫症 Lymphangioleiomyomatosis
ことによ り,結 節性硬化症 の発症機構 のみ な らず
(LAM)を 合併症 として引 き起 こす ことが知 られ
,
ンパ 節 ,腎 臓 (血 管筋脂肪腫 )な どで増殖する疾患
細胞遊走 の新規 シグナ ル経路 の解明 につ なが るも
て い る。 LAMは 単独 で 発 生 す る孤 発性
の と考 えた。
(sporadic LAM)と
LAM
,結 節性硬化症 と伴 って発生
す る TSC― LAMの 2種 類 が存 在 す る。 また
,
°
12細 胞 遊 走 の分 子 メカ ニ ズム
sporadic LAM患 者 の LAM細 胞 における肺血管
がん細胞では増殖 の コン トロールの異常 ととも
筋脂肪腫 にお い て も,TSC2遺 伝子 の変異が確認
されて い る。 また,興 味深 い ことに,LAM患 者
に細胞間接着能 を失 い 運動性が尤進す る。すなわ
ち,が ん細胞 の転移・浸潤 は運動性 の充進 (細 胞遊
走)に 関 わる細胞 内情報伝 達が活性化 して い るこ
とによるものである。 そ もそ も細胞遊走 は器官形
子 の変異 によ り神経細胞 の遊走 にも影響 が報告 さ
め
れて い ることか ら ,tuberinが 細胞遊走 を制御す
が ダイナ ミックに制御 され るこ とに よ り行 われ
る。細胞骨格 の 中で代 表的なアクチ ンフィラメ ン
る可能性 が示 唆 されてい る。
トは,ア クチ ンが重合 お よび脱重合す ることによ
り細胞 の形 を変 える こ とで細胞運動 に寄与 してい
る。これ までに,ア クチ ンフイラメン トの局在 を
フ ァ ミ リ ー タ ンパ ク質 で あ る RhoA,Racl,
制御す る因子 として,ス モ ー ル Gタ ンパ ク質 であ
る Rhoフ アミリーが同定 された。RhoA,Cdc42,
Raclは
GDP/GTP交 換 因子 (GEF)に
よ り GTP
と結合す ると活性 を示 す ことが知 られてお り,活
性時 には細胞 内 のシグナル伝達経路 を経て,ア ク
チ ンフ ィラメ ン トの局在 をそれぞれ異 なる形態 に
させる。一 方 ,ス モー ル Gタ ンパ ク質はそれ自身
そ こで,は じめに TSC2遺 伝子 の変異 が Rho
Cdc42の 活性 に変化 をもた らすか否か調べ るため
に,TSC2遺 伝子 の変異 によ り Rhoフ アミリー タ
ンパ ク質の活性 に影響 を与 えるか否か検討 した。
TSC2遺
[EEF 4細 胞 株
われ われ は次 に示 す 4種 類 の TSClや
伝 子 が 変 異 ,欠 損 し た 細 胞
(TSCl+/+,TSC2+/+);結 節性硬化症 モ デ ル ラッ
9,EEF―
トである Ekerラ ッ トの線維芽細胞 由来
8細 胞株 (TSCl+/+,TSC2/);Ekerラ ツ トの線維
9,LEF-8細
芽 細 胞 由 来
胞 株 (TSCl+/+,
が GTPase活 性 を有す るものの GAPに よ り不活
性型へ と移行 し,他 の タ ンパ ク性 因子 によりその
H);Ekerラ ッ トの腎細胞 がん由来9,
TSC2Y5■
CACL― I― Ⅲ 細 胞 株 (TSC1/,TSC2+/+);
活性が維持 ,制 御 されて い る。活性型の RhoAは
アクチ ンフイラメ ン トを束 に したス トレスファイ
TSCl+/マ ウスの腎細胞がん由来0]を 用 い, これ
らの細胞 内 におけるアクチ ンフィラメ ン トの形態
バー を形成 ,Cdc42は アクチ ンフィラメ ン トが突
の観察 を行 った。その結果,TSC2遺 伝子 に変異
起状構造 を示す フイロ ポデ イア,そ して,Raclは
を有す る LEF
形質膜 にアクチ ンフ イラメ ン トを集積 した ラメリ
ポディアを形成す る。 したがって,細 胞 のアクチ
Raclに よ り誘導 されるアクチ ンフ ィラメ ン ト形
8細 胞 (TSC2・ 57Ш )の み,活 性化
ンフ イラメ ン トを染色 す ることにより間接 的では
態 の一つで あるラメリポデ イアが観察 されたこと
か ら, この細胞 内 にお い て Raclが 活性化 して い
あるが, どの Rhoフ アミリー タ ンパ ク質が活性
るもの と推察 した (図
化 してい るかがわかる。
︱十1
成 のプ ロセス に重要で あ り,細 胞骨格や細胞接着
で肺移植 の後 に再 び LAMを 発症 した との報告が
あ り, レシピエ ン ト細胞が ドナーの肺 に転移 した
との考 えが提 唱 されて い る°。 また,TSC2遺 伝
2)。
次に,生 化学的手法 によ り上記細胞株内 におけ
一F
﹁
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生体 の科学
EEF4(TSC2+/十 ))
図
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EEF8(TSC2 / )
2 TSC2+/+,TSC2/ 細
12月
CACL2(TSCli/ )
507
LEF8(TSC2Y1571H)
H細
胞 はラメデ ィポアを形成する
胞はス トレスファイバーを,TSC2n5■
る Raclの 活 性 化 状 態 を解 析 した。本 実 験 で は
Raclの 活 ′
性 を測 定 す るた め に,EZ― Detect Racl
activation kit(PIERCE,Rockford,IL)を
用 い た。
EEF-4, EEF-8, LEF-8, CACL― I― Ⅲ細胞株 中
の活 性 型 Raclの 発 現 量 を測 定 した結果 ,前 述 の
ア クチ ンフ ィラメ ン トの結果 と同様 に,LEF 8細
胞 株 にお い て 活性 型 Raclの 発 現量 が 多 い こ とが
示 され た。 LEF 8細 胞 株 が 他 の細 胞 株 と比 較 し
て高 い Raclの 活 性 を有 す る こ とが認 め られ た。
一 方 ,興 味深 い 結 果 と して TSC2遺 伝 子 が欠損 し
て い る細 胞 株 で は Raclの 活性 が低 か った こ とか
Racl活 性 は 上 昇
して い た。 次 に,tuberinと
Raclの タ ンパ ク質相 互作 用 を解 析 す る 目的 で
,
抗 TSC2抗 体 を用 い た 免 疫 沈 降 法 に よ る解 析 を
行 った。 そ の結 果 ,複 合 体 中 に Raclが 含 まれ て
い る こ とが 明 らか とな り,さ らに,変 異 型 TSC2
にお い て そ の傾 向 が 強 い こ とか ら,tuberinと
Raclが 複 合 体 を形 成 し,相 互 作 用 して い る可 能
性 を見 出 した。
さ らに,変 異 型
TSC2に
よる Racl活 性 上 昇 が
ラメ リポ デ ィア の形 成 のみ な らず 細 胞 の 移 動 (細
胞 遊 走 )0こ 影 響 を与 え るか 否 か 検 討 す る た め
,
ら,Racl活 性 の上 昇 に は tuberinが 必要 で あ る こ
wound healing assayを 行 っ た。 そ の 結 果 ,野 生
とが 示 唆 され た。
型
LEF
8細 胞 株 は TSC2遺 伝 子 に変 異 が あ り
TSC2と
比 較 して変 異 型
TSC2を 強 制 発 現 さ
せ た細 胞 は,細 胞 の移動 度が有 意 に上 昇 して い た。
,
TSC2は Raclと 結 合 し活性
そ の 変 異 遺伝 子 か らは 1571番 目の ア ミノ酸 で あ
したが って ,変 異 型
るチ ロ シ ンが ヒス チ ジ ンに変 化 した tuberinが 転
を上 昇 させ ,細 胞 遊走 を誘 導 す る もの と推 察 した。
写 さ れ る。 そ の た め ,LEF-8細
胞 株 にお け る
Racl活 性 の上 昇 は,変 異 tuberin(Y1571H)に よ
る もので あ る と推 察 した。 しか しなが ら,LEF
8
4活 性型 Raclに おける活性酸素種の
解析
細 部株 と比 較 した他 の 細胞株 は 由来 が異 な る こ と
か ら,厳 密 に は Racl活 性 の上 昇 が 変 異 tuberin
(Y1571H)に よ る もの と断 定 で きな い。 そ こで
nH遺
,
活性酸素種 (ROS)は 細胞膜 に局在す る NADPH
オキ シダーゼ を介 して生産 される ことが知 られて
伝 子 を作 製 して他 の細胞株 に導 入 し
い る。好 中球 な どで生 産 された ROSバ クテ リア
再 び Raclの 活 性 を測 定 した。 また ,変 異 tuber_
な どの異物 を攻撃す ることで生体 の防御 を行 って
in(Y1571H)が hamartinと の複合体形 成 能 を欠損
して い た こ とか ら,同 様 な表現系 を有す る ヒ ト結
い る。近 年 ,Raclは 細胞遊走 を制御 す るのみな
らず ,NADPHオ キシダーゼ の活性 を上昇 させ る
節性 硬 化 症 の腫 瘍 か ら同定 された 611番 目の ア ミ
ノ酸 で あ る ア ル ギ ニ ンが グ ル タ ミ ン に変 異 した
役割 もあ る こ とが 報告 された'D。 これ らの ROS
は細胞内の タンパ ク質を酸化す ることによ り,細
TSC2Ran遺 伝 子 に つ い て も,同 様 に Raclの 活性
胞内 シグナ ル伝達機構 に関与 す ることが報告 され
を測 定 した。 TSC2Y1571H遺 伝子 と TSC2R61lQ
てい る 。
TSC2Yも
,
遺 伝 子 を培 養 細 胞 内 で 強 制 発 現 させ ,Raclの 活
性 を測 定 した結 果 ,野 生型
て ,変 異 型
TSC2遺 伝 子 と比 較 し
TSC2遺 伝 子 を発 現 す る 細 胞 内 の
1°
そ こで,変 異体 tube
nに よる Racl活 性 の上
昇が NADPHオ キシダーゼ を介す ることにより
ROSの 上昇 に 関与す るか どうか検 討す るこ とに
,
一F
一
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12月
制 した うえで,wound healing assayを 行 った。
それぞれ野生型 ,変 異型 TSC2遺 伝子 を導入 した
HEK293T cell
♂
ゞ
ギ
か った ことか ら,変 異体 tuberinに よる ROSの
上昇 は細胞移動度 に影響 を及 ぼしてい ない もの と
pTSC2(S939)
pTSC2(S1254)
半」断 した。 したがつて, この活性酸素種 が他の シ
グナ ル経路 に関与す る可能性が考 え られる。 この
pTSC2(T1462)
ことは,tuberinが 活性酸素種 を介 して他 のシグ
ナ ルに関与す ることを示唆 してい る。 しか し,変
TSC2
TSCl
図
3
細胞 にアポ シニ ンを添加 し wound healing assay
を行 った。両者 間 には大 きな違 い が認 め られな
変異 tuberinは 939と 1254が 脱 リン酸化 され
ている
異体 tuberinで は活性酸素種 の生 産 が異常 に多 く
゛
な り,ゲ ノムを不安定 にす ることによって ,結
節性硬化症 の腫瘍形成 に関与する ことも推察 され
た。 したが って,結 節性硬化症患者 が抗酸化物質
した。本実験 では,細 胞 内 の ROSを 測定す るに
あた り DCF― DAを 用 いた。DCF― DAは 細胞 内
を摂取す ることが有効性 である可能性が示唆 され
た。
15変 異型 TSC2の 性状解析
基が細胞 内 エ ステ ラー ゼ に よ り切 断 され,ROS
が存在す ると還元 された色素 が酸化 され蛍光 を発
変異型
す る。Cos l細 胞 株 に 変 異 型 TSC2遺 伝 子
Ю
(TSC2R“ ,TsC2Y571H)を 導入 し,細 胞内 ROSを
浪1定 した結果 ,野 生型 TSC2遺 伝子 を導入 した細
TSC2が Raclの 活性 を上 昇 させ た こ と
か ら,次 にそ の メ カニ ズ ム につ い て検討 した。 ま
ず始 めに,野 生型 ,変 異型 TSC2の TSClと の結
合能 ,な らびに細胞内 における局在性 を調べ た。
胞 の細胞 内 ROSと 比較 して優位 に上昇す ること
が示 された。 これによ り,変 異体 tuberinが Racl
を介す ることにより活性酸素種 の上昇 に関与す る
共焦 点 顕 微 鏡 を用 い た 解 析 結 果 か ら,野 生 型
TSC2と 比較 して変異型 TSC2は TSClと の共局
在が減少 し, さらに形質膜付近へ の TSC2の 局在
ことが示唆 された。変異体 tuberinの 発現 により
Raclを 介す る ことで ROSの 生産が上昇 した。 こ
が観察 された。 また,生 化学的手法 を用 いて解析
した ところ,変 異型 TSC2の TSClと の結合能 は
れまでに tuberinの
C末 端が欠損 した細胞株 にお
いて活性酸素種 が上昇 す る報告が あ つた こ とか
3,C末 端 に存在す る GAPド メイ ンが Racl活
ら
性 に影響 を与 える可能性 も考 え られる。
上 に も記 した よ うに,ROSは 細胞 内 シグナ ル
伝達機構 に幅広 く関与 す るこ とが 報告 され てお
り,本 研究 の対象 であ る細胞遊走 にも関与す るこ
1°
とが示 され つつ あ る 。そ こで 次 に,変 異体 tu_
berinに よる ROSの 上昇が細胞 の移動 度 に影響
して い るか ど うか検討 した。ROSは NADPHオ
キシダーゼによ り産生 され てい ることはす でに記
したが,本 実験 では変具体 tuberinを 発現 させ た
細胞 に NADPHオ キ シダーゼの 阻害剤 であ るア
ポシエ ンを添加す る こ とに より ROSの 生産 を抑
︱上︱︱
透過性 を持ち,酸 化 され る ことによ り蛍光 を発す
る色素であ る。細胞内 に取 り込 まれる と,二 酢酸
減少 して いた。 このことか ら,変 異型 TSC2は 形
質膜 に局在す ることによ り Raclの 活性 に寄与 し
てい るもの と推察 した。一般 に, タ ンパ ク質はリ
ン酸化 ,脱 リン酸化 により機能 の制御調節が行 わ
れる ことか ら,野 生型 ,変 異型 TSC2に おけるリ
ン酸化状態 に違 いがあるか否かを解析 した。そ の
結果 ,TSC2の リ ン酸化部位 である 939番 目のセ
リン,1254番 目のセ リン,1462番 目のス レオニ ン
が脱 リ ン酸化 され てい る状態である ことが確認 さ
れた。 したが って,TSC2の リン酸化状態 の違 い
が Raclの 活性 に影響 を及 ぼす可能性 が示唆 され
た (図
3)。
また,デ ー タは示 さないが,わ れわれは変異型
tuberinが 細胞膜 に局在す ることを示すデー タを
一F
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12月
十 腎目 ︾
脱 リン酸化状態
細胞遊走
細胞障害 ・遺伝子発現
図 4
脱 リン酸化状態にある tuberinは Raclを 介 して細胞遊走および ROSを 産生する
され るの で は な く, リ ン酸 化 tuberinを 介 して行
得 てい る。
ha―
われ る Raclの 制御 経 路 を示 した。 また ,tuberin
martinに よ り Raclの 活性 に影響 を与 え,特 に遊
変異 体 にお い て tuberin,hamartinの 両 者 が ヘ テ
RhoAを 活性化 し,Raclの
。
る
と
報 告 した 。 しか しなが ら,本
活性 を抑 制 す
ロ 複 合 体 を形 成 で きな い こ とか ら,遊 離 状 態 の
tuberinが Raclの 活 性 を制 御 す る可 能性 を初 め
研 究 で は hamartinが 欠損 して い る細胞 株 にお い
て示 した。興 味深 い こ とに,結 節性 硬 化 症 の腫瘍
て も Raclの 活 性 は他 の 細胞 株 と比 較 してあ ま り
にお け る tuberin,hamartinに お い て も複合体 を
上 昇 傾 向 は 見 られ ず ,一 方 ,tuberinの 変 異 体
形成できないとい う特徴 は報告されてい る"(図
こGoncharovaら は, tuberinと
これ まで セ
離状 態 の hamartinが
(TSC2R61lQ, TSC2“
71H)に
よ り Raclの 活 性 が 上
昇す る こ とを初 め て示 し, また ,免 疫沈 降法 の 実
験 結 果 よ り tuberinが Raclと 複 合体 を形 成す る
こ とを明 らか に した。 また,Henskeら の グル ー
プ は,MDCK細 胞 を用 い た実験系 か ら tuberinを
過剰 発 現 させ る と Rhoが 活 性 化 す る こ とを報 告
0。
してお り,わ れ われ と異 な る結 論 を得 て い る
そ の一 方 で ,細 胞 移 動 は Rhoフ ァ ミリー が 順 次
活性化 しなが ら進行 す るこ とが わかってお り
庄化 され る。 ま
Cdc42→ Racl→ Rhoの 順 に活 ′
,
た,NIH3T3細 胞 や MDCK細 胞 を用 いた実験 か
4)。
おわ りに
tuberinお よび hamartinは 多様 なイ ンス リ ン
シグナルを負 に制 御す る因子 として機能す ること
が徐 々 に明 らかにされつつ あ り,結 節性硬化症 の
みな らず生活習慣病 に代表 されるイ ンス リン抵抗
性 の分子 メカニズムの理解 の観点か らも興味深 い
ター ゲ ッ トで あ る。mTORClの 阻害剤 で あ る
Rapamycinは Raclの 活性 に影響 を与 えないこ と
°
が報告 されてい た力■ ,tube nが Raclの 活性 を
ら Raclの 活性 が Rhoの 活性 を負 に制御す ること
が明 らか となって い ることか ら,Henskeら のグ
制御 す るメカ ニ ズ ム を研 究す るなかで,変 異体
ループの実験系 では,過 剰発現 による大量 のリン
加 した ところ,Raclの 活性 が低下 す る結果が得
酸化 tuberinの 存在下 で Raclの 活性化が抑制 さ
れ,そ の結果 として Rhoが 活性化 した もの と推
られ,活 性 型 Raclに よ り誘 導 され る ラ メ リポ
デ ィア も減少 す る こ とが示 され た (未 発 表 デ ー
察 される。 一 方 ,hamartinは tuberinの 正常なリ
タ)。
ン酸化 に必須 であるとわれわれは考 えてお り,同
様 に,hamartinの 欠損 により tuberinの リン酸化
が正常 に行 われなかった結果,tuberinが Raclを
tuberinを 発現 させた細胞株 に Rapamycinを 添
今後 ,本 研 究が細胞遊走 にお ける Rapamycin
の,さ らには,ROSの 活性 を押 さえる抗酸化作用
活性化 で きなかった もの と考えた。 したがって本
物質 の有効性 が検証 され ることによ り結節性硬化
症 のみ な らず ,生 活習慣病へ の治療法 の確 立の一
研 究 では hamartinを 介 して Raclの 活性が制御
助 となれば幸 いで ある。
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﹁
一
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畢 mCd
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生体 の科学
59巻 6号 ・2008年
12月
7)Henske EP:Gι ″ι
ε
″ 381376s C力 η%ο sο ″′
S Cα π
謝辞 本研 究 の遂行 のため に貴重 な細胞 を供与 してい た
だ き ま した順 天 堂 大 学 樋 野 興 夫教 授 ,ワ シ ン トン大 学
Rab7mOnd S Yeung教 授 に心 よ り感謝 いた します。
また,本 研 究 は東京農業大学先端 プ ロジェク ト研究お よ
び科学研 究貴補助金 ・基盤研 究 (C)の 助成 に よ り行 われ ま
した。
381,2003
8)Evers EE,Zondag GCM,Malliri A et al:Eurノ
Cα″ε
′
/36
1 1269-1274,2000
9)Aicher LD,Campbell」 S,Yeung RS:ノ
Bグ ο
′C力 ι
π
276: 21017-21021,2001
10)Kobayashi T,Minowa O,Sugitani Y:P/ο
ε,ν ♭″
Иθ
αa scグ しB498:8762-8767,2001
11)Nimnual AS,Taylor LJ,Bar Saj D:ハ し′C′ ′
′
Bガ ο
ノ
●文
5 : 236-241,2003
献
12)POli G,Leonarduzzi G,Biasi F et al:C%//M● ご
1)Suzuki T,Das SK,Inoue H et al:β BRC 368:132137,2008
2)Mak BC,Yeung RS:Cα πε´/ル υ′s′ 22:588-603,
2004
3)Mannlllg BD,Tee AR,Logsdon MN et ali拗 ′
C`′ ′10: 151-162,2002
4)Xiao GH,Shoarinejad F,」 in
′θ力′
″
F et al:ノ Bグ ο
281 : 38519-38528,2006
:
272:6097-6100,1997
5)Yamamoto Y,」 oneS KA,Mak BC et aliス
Bグ ο
ε
λ′
,π
Rι s 295 : 512-524,2004
16)Goncharova EA,Goncharov DA,Eszterhas A et
al:ノ
/ε
βグ
ρ
タカνs 404 :210-217,2002
6)Jones KA,」 iang X,Yamamoto Y et al:E″
′
″
C力 ′
ιll : 1163-1182,2004
13)Govindarttan B,Brat D」 ,Csete M et al:ノ Bグ ο′
C力 ′
夕
η280 : 5870-5874,2005
14)Wu WSiC“ ειrMetts′ ぉおRι υ25:695-705,2006
15)Debidda M,Williams DA,Zheng Y:ノ βグ
ο′ε力′
″
gι
C′ ′
′
Bグ ο
′C/2ι
%277:30958-30967,2002
17)Astrinidis A,Cash TP,Hunter DS et al:0″ ε
ο
″ι21 :8470-8476,2002
18)」 acinto E,Loewith R,Schmidt A et al:AZ`ε
Bグ ο
′6
″′
1 1122-1128 2004
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