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特別講演記録へ - 神奈川県スキー指導員会

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特別講演記録へ - 神奈川県スキー指導員会
SIK 総会特別講演
講師プロフィール
平澤 文雄(ひらさわ ふみお)
1934年新潟県生まれ。初代デモンストレー
ター。浦佐スキー学校長時代、「バッジテスト
の浦佐」の評価を確立。
多くの有名スキーヤーを育て、デモンストレ
ーター強化コーチ、「日本スキー教程」編纂
の中心人物となる。
NHK「ベストスキー 中高年のためのスキー」講師のほか、著書 VTR 多数。現在も平澤スキー研究所代表、ベスト
スキー・アカデミー代表、NPO NA-SA 理事長として、日本のスキー界に多大な影響を与えている。
テーマ「中高年指導ひとすじ」
「無理せず」
「頑張らず」
「競い合わず」
【中高年のためのスキー術】がテーマだからといって“特別な滑り方”がある訳ではありません。
年々スキーの滑り方は進化してきています。
私達の一番運動能力が高いのが、17 歳といわれています。それからどんどん運動能力が落ちてゆきます。
運動能力が落ちるということは、体力が減退するということです。それを補うには新しい用具の性能を利
用し、それに合った合理的な滑りをすることで伸ばすことが出来ます。自分で言うのも大変おこがましい
のですが、自分の昔の滑りと較べますと今の方が上手いのです。
皆さんにレジュメを出した意図は「技術を進歩させる」ということを忘れたら、楽しいだけではスキー
は続かないよ。ということを言いたいんです。後程読んでいただければ幸いです。
今回、先輩に向かって大変失礼なことを申しあげるかも分かりませんが、私は楽しいスキーとか、楽しく
なきゃスキーは駄目だ、と言われた時分からスキーは低迷したと思っています。楽しさが先に来てしまい
ました。そうではなくて、技術がなければ楽しめないのです。技術があれば楽しみが広がるのです。
技術を忘れた楽しみは、丁度糖衣錠みたいなもので、ビールで言えば気が抜けたようなライトビールの
ようなものです。ですから幾つになっても自分の体力の衰えを、技術でカバーすることが大事なのです。
アウトドアースポーツの中で、体力よりも技術が凌駕する、つまり技が超えるスポーツはスキーしかあり
ません。その他は全て体力とともに残念ながら落ちてゆく。ゴルフを例にとれば飛距離は落ちてゆく。ス
キーはそうではありません。
今日はこういう題をいただいたのですが、実は「中高年ひとすじ」ではないのです。「スキーひとすじ」
なのです。年を取ったからといって「もういいや」と言って諦めてはいけない。そういうことを申しあげ
たくて参った次第です。
今日のテーマ「中高年指導ひとすじ」、先程申しあげましたように「スキー技術指導ひとすじ」の人生で
す。趣味が高じてスキーに関する研究が今の仕事になっています。「NHK の中高年のためのスキー術」と
いう放映がございました。1996 年 11 月から 1997 年 1 月まで放送されました。それが翌年また再放
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送されましたので、その時から「中高年の平沢」という名前が付いてしまいました。そういうことで中高
年ということになりましたけれども、決して今日のような「超高齢化社会」を見越す先見性があった訳で
はありません。
「先取りしてたいしたものだ」という、そうではないのです。ただ単純に私が年を取り中高
年の方々を指導しているだけなのです。
ご存知のように、2004 年の日本人の平均寿命は女性が 85.59 歳、男性が 78.64 歳です。前期高齢者
は 65 歳以上から 74 歳まで、後期高齢者は 75 歳以上となっていますけれども、恐れ入りますが皆様の
中で前期高齢者の方、手を挙げていただけますでしょうか。この人達は私と同世代の方々です。それから
後期高齢者の方、75 歳以上の方はどうでしょうか「おぉー大先輩」。いわゆる団塊の世代昭和 22 年~24
年に生まれた方はどれ位いますか。「はい」、それに属さない若い方は、「だいたい平均しておられますね。
でもやっぱり前期高齢者といいますか、65 歳から 75 歳までの方が一番多いようです。私と同じ世代です。
一般的には高齢者というとイメージが悪いので、シニアとか中高年とか熟年とかサードエージとかセカン
ドエージとか隠しおりますが、結局は高齢者なんです。
私が中高年といったのは、平均寿命を 80 年としてそのマラソンの折り返し地点が 40 歳です。41 歳か
ら 60 歳までを中年、61 歳から高年、あわせて中高年という。この区分けも平均寿命が上がれば、私の中
高年の区分けの基準が変わるかもしれません。
中高年のスキー指導では、何を一番注意しなければならないかといいますと、まず「体力差」、若者と体
力が違うということです。つまり体力がそんなに高くないということです。それが一つ。それから、社会
体験が豊富ですので知識、教養が非常に高いということです。これが大変なのです。
「人のふり見て我がふり直せ」という言葉がありますが、私は「自分のふり見て他人のふりを見る」。
中高年者を指導の場合にはいろいろ大変なことがあるのですが、年を取りますと体力が落ちるだけではな
く性格も変わるのです。つまり本性が出てくるのです。東京国際大学の宅摩武俊教授の著書「これからの
老い」の中で、老人の性格は「好ましい性格の方向」と「好ましくない性格の方向」があるのだそうです。
「好ましい性格」は、大変物分りが良くなり、淡白になり、温和になり、寛大になるということが好まし
い方向に変わった老人だそうです。でも概してそうではない方が圧倒的に多いそうです。まず保守的、頑
固、猜疑心が強い、柔軟性の欠如、愚痴っぽい、嫉妬深い、我がまま、短気その上拗ねる、僻む、怨む。
体力は自分でも分かりますが、このことを配慮しないで指導したらとんでもないことになります。怨まれ
る訳です。
「あの先生はちっとも褒めてくれない。あの人には褒めたけれども、私には駄目だ、駄目だ、違
うと言うだけ」
「あの人は先生とばかりリフトに乗っている、私は一回だけ」こういうことは、長く忘れな
いで覚えているものです。三日間くらいの講習会でも「三日間くらいだから相部屋でもいいじゃないか」
といっても「先がないのだから嫌いな奴と一緒に居られない」
「煙草は吸わない、酒も飲まない、鼾がうる
さい、時間が合わない」本音なのです。こういう事が中高年の指導で配慮する一番大切なことです。21 年
間指導しての実感です。
褒め方だって大変なのですよ。こっそり褒めたって駄目なのです。黙っていてくれればいいのですが後
で「先生に褒められたわ」とすぐ言ってしまう。
「貴女だけだ」と言っているのに。リフトに乗るときも確
実に順番を決めて必ずローティションをすることです。平均に乗せてやる。
ケガをするというより、精神的な環境つくりの方が大事なのです。人はそれぞれ性格が違いますし、まし
て生い立ちから変わってきますので、全部が同じではないのです。出来れば若い子供達の方がいいなと思
うことがあります。
いいところを見つけて褒めてあげたいけれど、それがないのです。青年期、壮年期につくられた性格が
徐々に変化するのだそうです。宅摩教授によりますと、好ましい方向への変化は、短気から円満になる。
内気から外交的になることは好ましいのだそうです。好ましくない方向への変化は、几帳面が頑固になり、
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倹約がけちんぼうになり、のんきが鈍感になり、そういうことに変わるそうですので、ゆめゆめ中高年の
指導は技術もありますが、そちらの方をどうやって、おもてなしの心で上手くその場を凌ぐかが大事だと
思っております。
もう一つは、今のことと関係がありますけれども、まずは中高年者のスキー指導は、先程も言いました
けれども、体力を考慮して無理をさせないことです。
「無理するな」というと駄目なのです。こちらで配慮
して無理をさせないところを滑らせる。「あんた年寄りだからゆっくり」といっては駄目なのです。「安全
に」それ駄目なのです。
「年寄り扱いにするな」と文句言うのです。ですから厳しい斜面を滑らせないとい
うことです。それが無理させないということです。それにトイレ休憩にも配慮してあげることです。
「トイ
レ」というと抵抗があるのですが、
「はい、10 分間休憩」それなら抵抗がないのです。中高年は若者?と
違って、そのような環境作りにすごく神経を使う。配慮しなければなりません。それは自分を見ればそう
だなと思います。
それから社会体験が豊富ですので心理面に配慮するということですね、今申したとおり、気分を損ねな
いように言葉使いに気をつけるように、
「これは駄目だ」といったらいけないのです。言葉使いは相手の気
にさわらないように、自分ではそういうつもりがなくとも、相手がそのように受け取ってしまうから本当
に気を使って言葉使いに気をつけることです。
今も言いましたように体力的なことより精神的な面の方が指導には大切です。私は皆さんに先程も申し
あげましたけれども、皆さんは私達と一緒にいわゆる指導員を目指して寝食を忘れ、家庭に迷惑を掛け、
会社にも迷惑を掛け、そして頑張ってきた訳ですけども、技術はその時代から変遷しています。当時のこ
とをやっていたら体力の減退とともに落ちてゆく。技術を変えればいいのです。新しい技術要領を習得し
て滑ることです。その意味では、指導員という誇りはいいのですが、技術的な自信は持ってはいけない。
「俺は指導員だ」と思って技術的な自信を持ったらそこでストップします。教わった人が迷惑です。これ
は子供達でもそうです。今では、荷重移動をする指導はあまりやりません。私達が一生懸命やっていたそ
のときのやり方は、指導法、滑り方も通用しません。過去の技術は捨てて、一人のスキーを趣味とした人
間として、前向きにスキーに挑戦する。そうしたら少なくても 80 歳までは上達します。
ご存知のようにスキーは自力でなくエネルギーは重力ですね、落下の法則ですから体力ではなく技が大
切です。用具がよくなりました。良い用具を使って新しい滑り方をすればどんどん上手になります。私の
クラブにも 80 歳を越えた方がおりますが、
「先生 80 歳を越えた方がいますが、もう 80 歳を越えている
ので私は駄目なのでしょうか」と言われ、はっと気づき「いや、そうじゃないです。貴方は 90 歳まで上
手になる」と話しをします。何歳になっても上達を目指してスキーに取組む、これでスキーヤーにはパワ
ーが生まれるのです。
楽しみだけの人は、そこで終わってしまうのです。それは何故かといいますと、楽しみというだけでは
嫌な人と一緒に行きません。グループが段々こまかくなって行ってしまいます。指導員会のこのようなイ
ベンントがあるといっても、そこには参加しないで何処かへグループと行ってしまう。それは技術がそこ
にないからです。楽しみだったら自分の好きな者同士で勝手に好きな場所へ好きなように行き滑ったらい
いでしょう。それを押し詰めてゆくとコミュニケーションですよね。コミュニケーションを求めるように
なれば、スキー場へ行かなくて用はたります。それがスキーの元気をなくした一面でもある訳です。コミ
ュニケーションに楽しさをもとめるようになると、そこに行ったって面白くない。だからちょっと雪が降
ったりまた悪くなると「おい、上がって一杯」お風呂に入って一杯になってしまう。それはコミュニケー
ションが仲間の楽しみだからです。滑りの楽しみとちょっと違いますよね。スキー連盟も楽しいスキーと
か、楽しくなければスキーではないとか全面に出すようになってから、ちょっとおかしくなったのだと私
は思います。楽しさの誤解です。
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今登山がはやっていますが、まさか登るときが楽しいということは余りないと思います。頂上を極めて
あの達成感、あの爽快感、あの充足感が結局楽しかった、ということに結果としてなるのでしょう。楽し
みが全面に出ないで結果として楽しさをかみ締めることになるのではないでしょうか。楽しくない趣味な
んてありませんからそれをいわない方が私はいいと思っています。
もう一つ、同世代の仲間とともに時代を生きる。これが大切です。私はそれを徹底しています。同世代
の人達とともにその時代を生きる。ですから若い人は関係ないのです。私の世代ではない。今申しあげま
した前期高齢者の世界です。そのグループは何時でも若いわけです。同じ世代ですから。年取ったとか自
分が老いたとか自分が自覚するのは、若い人と一緒に居たときでしょう。同世代だったらそのようなこと
はありません。その時代の人と生きるということは何時でも若く、若い気持ちで生きることが出来ます。
指導員であっても指導を受ける機会を持つということです。そうすれば自分のスキーが、がらりと変わ
ります。今までの既成概念にこだわらないことが大事です。そして、あらためて自分の趣味は何であるか
を確かめてみる。やはりスキーですよね。俺の趣味はスキーなのだ、ということを確かめていただきたい
と思います。
繰り返しますけども同世代の人と時代の移り変わりとともに生きる。私はそれが一番と思っています。
正直いって年齢が上がりますと年輪と同じように年齢が詰まってきます。ですから同世代の幅が広がって
きます。お亡くなりになった三浦敬三さんと 30 歳違いますが、101 歳になられた方でも私達と話が通じ
ます。それは年輪が詰まってくるからです。若いときは駄目ですよね。
幸福な一般的な条件は、3つあるといわれております。一つは、健康です。もう一つは、お金です。経
済的なある程度のゆとり。それから 3 番目は趣味です。夢中になれる趣味を持つということです。技術が
高まれば夢中になれます。ただ滑るだけでは夢中にはなれません。パチンコだって出るときは毎日行きた
くなるらしいじゃないですか。反対に出なくなったら嫌になっちゃう。ですからスキーはするだけでは駄
目なのです。上手になるという思いがあると、そこに希望と自信が湧きます。このことで生きる張り合い
とパワーが生まれます。その意味では、その核となる健康もそうですが、私は夢中になれる趣味を持つこ
とだと思います。趣味には文科系と体育系があります。出来れば文科系の趣味、体育系の趣味、両方を持
った方がいいと思います。いずれ体力が段々減退してときに絵を描いたり短歌を詠んだり、書道、読書、
映画、音楽、スポーツ鑑賞それぞれ文科系の趣味を必ず一つ持った方がいいのです。それだけですと立っ
て歩けなくなりますから体育系の趣味を必ず持つ。夢中になれる趣味、それは皆さんスキーがあるのです
からスキーが一番です。ほかのスポーツは殆んどトーナメントスポーツが多いのです。要するに競い合う
のです。スキーはそうではありません。自分が競う対象であって、相手と競い合う訳ではないから、その
意味ではスキーが一番老人の趣味としては最高だと思っております。第一重力ですから最後は立って歩い
て自分の足で移動しなければなりませんので、それは抗重力筋といって立って重力に対する筋力ですよね。
下手であればあるほどスキーは重力筋が養成されるのです。スキーは重力に逆らうスポーツですから立っ
て歩く、いわゆる抗重力筋が育つスポーツです。いろいろな要素がありますけれども今日は細かなことは
省きますが、そのように素晴らしいスキーを皆様趣味にお持ちですから、今日を境にしてもう一度夢中に
なって欲しいのです。もう会社に遠慮することはないですし、家族も別に当てにしない。お金の問題だけ
です。お金を使わず上手になることをおやりになればよろしいのです。
自分が同世代とともにその時代を生きるということは、例えば 40 歳になったとき下は大体 30 歳から
上が 55 歳。今 60 歳だとしたら下の階層が 50 歳で上が 70 歳。ここが大体対象です。自分の年齢が上
がるとそのグループの対象をそのグループ年代に絞ってゆく。大変失礼で気に障る方もおいでかもわかり
ませんが、クラブに所属していますと意外と年を取ると若い人と一緒に行きたくなるのです。これが悪い
のです。実は若い人には迷惑なのです。出来れば若い人は若い人同士の方がいいのです。年を取った人は
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若い人と一緒に居ると自分も若い気でいられるような気になるんです。それは嘘ですよ。それがいけない
と私は思っています。ですからある世代で区切って若い人に任せてその人達がやる。そうすると下のグル
ープはまたその人達がやればいいんです、と私は思っています。
私が 70 歳だと上は 85 歳くらいの方も対象になります。なぜかといいますと自分が育ってきたときの
世相があります。スキー技術の指導は勿論滑りを見せることも大切ですが、言葉に介して相手に伝えます
よね。例えば、地下水を汲み上げるポンプがありましたよね。浦佐時代の事ですが手こぎポンプで水を汲
み上げる要領で上下動のリズムを説明すると、同世代の方であれば伝わります。しかし今の若い人には分
からない「はーあ、なんですか」ということでしょう。また歌にしてもリズムにしても、そのときに流行
った歌があります、それは若い人には全くわからない。その世代に育った方には理解されるのです。つま
り同世代の人たちであれば言葉のイメージを共有出来ますが、世代が違うと通じません。指導は言葉で説
明して相手にイメージを与えて滑ってもらう訳ですから同世代の方がよろしいかと思います。
先程水島会長からお話がありました、私がデモに出た頃はジャンプ系の技術、ジャンプ・クリスチャニ
アと昔いいました。今ではジャンプ・ターンという言葉もなくなりましたよね。今はなんていうのですか、
ストレッチング・ターンとかいうのでしょうか。そのような時代だったのです。ジャンプ・ターン技術は
1954 年から 1964 年くらいまで続いたのです。ウェーデルンでもジャンプしたのです。つまり立ち上が
り抜重です。それから 40 歳の頃は 1974 年ピボット系抱え込み送り出しの全盛時代です。北海道では藤
本進とか浦佐では関健太郎、あるいは山口正広とか相田芳男とか、その方々が活躍し抱え込み送り出し時
代です。私が 50 歳になった 1980 年はステップ系ステンマルクが 86 勝して踏み換え技術、この技術は
長く続きました。60 歳になった 1994 年はステップ系とベンデンク系とストレッチング系を3つ、いわ
ゆる状況対応技術というのがそのときの一つの目標の技術でした。ですからその世代の方々はそのことを
知っています。ですから説明するときに、「それはジャンプ系だよ」「ジャンプ・ターンだよ」といえば分
かりますが、今の若い人から習うとしますと「それは違う」といわれるだけです。それがどう違うかとい
うところまではわからないです。若い人には経験がないからです。ですから若い人に習っても上達しませ
ん。レッスンでも体力がつづきません。また技術用語等自分の身体の中にある知識と違いまして、もうプ
ログラムされた記憶が入っているのです。ご存知のように記憶にはエピソード記憶と手続き記憶があって、
電話番号とかはエピソード記憶、身体で覚えるのは手続き記憶で何回も何回の繰り返し行って覚えるもの
で、頭でわかっても出来ないのです。でも私ならその世代で一緒ですから、
「それはピボットターンでは駄
目なのだよ」
「交互だよ」と言えるのです。そうすれば説得力があり分かってもらえるのです。そのような
ことが大事かと思います。
先程、団塊の世代で手を挙げてもらいました昭和 22 年~24 年生まれの 2007 年問題があります。3
年間に生まれた人は平成 19 年には 679 万人が定年になるそうです。全部合わせると 1902 万人の定年
が出て人口の9%になるそうです。ここが私は勝負だと思っています。今その世代の人達を取り込んでも
う一度リーダーシップを取っていただきたい。その人達は決して新しい滑りをしていません。古い時代を
滑ってきた人達です。その人達を引っ張って指導していただきたいと思っています。繰り返しになります
が、スキーにしても水泳にしてもアウトドアースポーツでは技術がなければ泳ぐことも、技術がなければ
滑って止めることも出来ません。楽しいという言葉は 大変心地よい言葉ですけれども、技術の習得が楽し
さを広げるのです。楽しさだけが全面にでてしまい、最も基礎的な技が抜けてしまいそれが大きな問題だ
と思います。やはり上達することによって、楽しさは広がる。私自身毎年ビデオ撮影をしていますが、去
年より今年の方が上手くなっています。来年はもっと上手くなると思います。間違いないです。ですから
楽しいのです。
今までは湿雪の深い悪雪の新雪は滑れなかったのですが、これだったら滑れるという技術があるのです。
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長い経験の中で技は合理的になったのです。そういうものを身に付けてゆけば、皆さんは何時までたって
も青春でしょう。だって一生懸命やっているのですから。スキーを続けることで健康になるのです。健康
のために健康が大切なのではなく趣味をもう少し楽しくするために健康でありたいと願うのです。私はト
レーニングをやってまで上手になろうとは思ってはいない怠慢な人間でしたが、今はトレーニングをして
います。みんなと一緒にやれば自分もしなければならないので、トレーニング教室を継続して指導してい
ます。
私の原点は「歩き方」が全てだと思っています。立ち姿と歩き方です。元気な老人はいっぱいいます。
石を投げれば元気な老人に当たります。ですが颯爽としたかっこいい老人がいないんです。それは私達の
講習会の生徒さん達に「それではいけないよ、老人になったら義務として、おじいちゃんおばあちゃんの
姿を子供が見て、
『あっ、あのような老人になりたい』と思わせる老人像を作ることが私達老人の責任です
よ」と伝えています。上手になるためには歩く姿勢が肝心です。滑るよりは陸上でまず上手になることで
す。
用具が違うのです。スキーが板ではなくなりました。繰り返しますがスキーの楽しさとは、技術を身に
付け上達するための技術指導抜きにしてはありません。技術のない楽しさはアルコールのないライトビー
ルのようなものです。ちっとも本物ではないのです。技術の習得のないスキーは、スキーへの情熱を消失
させてしまいスキーへの魅力をなくさせてしまいます。つまり夢中になれないのです。結果として何回も
繰り返しますけどもコミュニケーション・スキーになってしまいます。コミュニケーションになりますと
わざわざ寒くて遠くて金のかかるところまで行かなくても、近くでの一杯で十分となります。その結果多
くのスキーヤーはスキー場から遠のきスキー界は元気を失ったのだと私は思います。
幸せの実感というのは、勿論生活に余裕があって健康であれは申し分のないことですが、夢中になれる
趣味や仕事を持つことがより大切ではないかと思います。夢中になれる、我を忘れて没頭するということ
が出来る。我を忘れて何でも没頭することができれば多少生活が苦しくとも我慢できるのです。そして健
康にしても体力がベースであるスポーツをするために健康に注意して体力を維持するためのトレーニング
をする意思を持つことが出来るからです。つまり好きな趣味を続けることによって結果として健康になり
充実した幸せな人生を送ることができると考えます。私はそうやって生きていますので、今最高です。
大学のサークルを 28 年程指導していますが、何時も大学生に向かって「好きなことに夢中になれない
者は、何をやったって駄目だよ」といっています。
「そうでしょう、嫌いな仕事が夢中になれるわけがない
のです」そのように思っています。そんな風に考えますとスキーは先程もいいましたが、80 歳以上まで上
手になれます。それは 20 数年の私のスキー指導からの経験からです。
私のクラブの平均年齢が 68 歳になりました。350 人います。上の人は 83~4歳になります。長年見
ていますので高齢者でも上手になれるのです。それは指導力、先程言いましたように言葉使いや指導態度
とかで上手になれるのです。指導法も昔スタイルでは駄目ですね。楽しく教える指導法を考えて、気分良
く上手になるスキーを教えてあげる。そうすれば 80 歳以上まで上手になれます。そうなるとまず夢・希
望が持てます。そして自信が持てます。
「私だってまだやれるのではないか」という希望です。これが一番
いきいきと輝く人生の精神的な支えであります。ですからその面で技術のことも、もう少し私達は一人の
スキーヤーになって勉強しようではないでしょうか、と考えております。
去年私は平沢スキー塾を開設しました。中高年世代の人達が遠慮なく話し合える場は、その時代を生き
てきた人達だからこそコミュニケーションが取れるのです。そこが大事だと私は思うのです。それで塾を
作って「シニア層の方」でクラブでも行き場のない人達は私のところにお越し下さい。クラブで活躍でき
る人はクラブで活躍してもらえばよろしいのです。そんなことから去年からスタートさせました。現在
100 人近くになりました。もう一度指導員会も「技術部」を作って技術の研鑽をされることを期待してお
-6-
ります。スキーをレジャーとして捉えている若者達よりも、中高年に最も相応しいスポーツであることを
理解して頂きたいのです。
最後に「中高年のためのスキー」10 ヶ条を披露して私の講演を終わりとします。本日は、大変失礼なこと
を申しあげましたがお許しください。貴重なお時間をありがとうございました。
※ 参考
1
あの美しい冬山がスキーヤーを迎えるフィールドである。
2
運動の自由度の高さがある。
3
自分の年齢、体力にあわせて運動量を加減出来る。
4
沢山の新しい友人を作るチャンスが多い。
5
面白いという点で群をぬいている。
6
技能レベルに、年齢や体力差のハンディがない。
7
健康であれば、いくつになっても上達する事が出来る。
8
年齢の枠を越えて、若さを思う存分表現出来る。
9
緊張をほぐし、ストレスを解放してくれる。
10
宅配便サービスの普及によって、身軽にスキー場に行かれる。
終わり
-7-
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