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特集
A
制度改正
~制度と執行の架け橋として~
誠実な対応に徹する
国際的な経済活動に対し複数の国が課税すると、投資・経済交流が阻害さ
れかねません。各国はこれを未然に防止するため、部分的な課税権の放棄
等を定めた租税条約を二国間で締結しています。租税条約交渉における日
本としての対処方針を考えることが私の仕事です。
租税条約にはOECD(経済協力開発機構)等が作成した基本モデルが存
より良き納税環境を目指して
在しており、各国はそれに独自の変更を加えた自身のモデルを有してい
ます。実際の交渉場面では、両国モデルの食い違いを議論する中でひとつ
の条文に収斂させることを目指すことになります。事前の準備では、相手
国はなぜこの変更を必要としているのか、日本案とどちらが理論上・執行
上優れているか、受入余地はあるか等を、両国の税制・条約例の調査等か
ら推理することで相手国の出方をシミュレートし、日本として望ましい条
文を採用するために有効な議論・反論を準備しておきます。とは言うもの
●納税環境整備とは
の、実際の交渉はなかなか想定どおりには進まず、予想もしなかった理由が
私は、主税局税制第一課で、国税通則法や国税徴収法など、「納税環
示されたり、思い至らなかったことを反省したりすることも多々あります。
境の整備」に関する税制の企画・立案を担当しています。納税環境の整
相手国の主張に理があれば日本案に拘らず受け入れ、場合によっては相
備の具体的な内容としては、電子申告の推進や納付手段の多様化を通じ
財務省 主税局 参事官付
た納税者利便の向上、税務調査や徴収に関する手続の整備、自発的に義
長内 泰祐
務を履行しない場合のペナルティの適正化が挙げられます。これらは課
税の対象や税率など、納税者の税負担そのものに直結するものではない
手国の意図をより的確に実現するための対案を提示することを通じて、交
渉担当者同士の信頼が構築されていくと感じています。小手先のテクニッ
クに走らず誠実な対応に徹することはプロフェッショナルたちの基本ルー
ルであり、制度改正の場面でも執行の場面でも普遍です。条約交渉に半年
ものの、いずれもコンプライアンス費用の軽減や税務執行の適正化・効
平成22年入庁。東京国税局、米国留学などを経て、
間従事した所感は以上のとおり。この続きを今このパンフレットを読んで
率化を通じて、適正・公平な課税の実現を縁の下から支えるという重要
平成27年より現職。
いるあなたと議論できる日を楽しみにしています。
な位置づけを占めています。
●職務において求められるもの
あるべき所得税の姿を求めて
税制は、政治プロセスを通じて有権者の多様な意見が集約され、合意
された内容が、最終的には税法として国会で可決されることにより制定・
改正されます。主税局の役割は、こうした一連の過程を事務当局として
支えることにありますが、その役割を果たすためには、行政官としての
私が担当している所得税の基本的な枠組みは、戦後間もなくから昭和
識見や行動力が要求されます。例えば、対処すべき課題は何かというこ
40年代にかけて、当時の経済社会の構造を前提として形作られたもので
とを見定めるためには、政府全体の方針や経済社会の状況も踏まえつつ
す。その後、少子高齢化に伴う労働力人口の減少、男性正社員中心の日
アンテナを高くして情報を幅広く収集することが必要ですし、最適な対
本型雇用システムの機能不全、共働き世帯の増加等々、世の中は大きく
応案に辿り着くためには、多数の当事者・関係者からの意見を踏まえつ
変わりました。「構造的な変化を遂げた経済社会に対して、現在の所得
税はもはやフィットしていないのではないか。」ーそうした問題意識を
つ、理論・実務の両面から熟慮しなくてはなりません。さらに、その対
胸に刻みながら、所得税改革に向けて税制のあるべき姿を追い求めてい
応案について納得を得るためには、往々にして難解になりがちな内容を
くことが私の仕事です。
明快に説明することが極めて重要です。私自身は、自らの力量不足に悩
まされることも度々ですが、それ以上に、税制改正というダイナミック
かつスピード感あふれる過程に関与できることの喜びを感じています。
●国税庁総合職採用者としての役割
主税局で勤務する国税庁総合職採用者には、財務省主税局と国税庁と
財務省 主税局 企画官
菅 哲人
Akihito Kan
の緊密な関係を担う役割も期待されています。主税局が税法を企画・立
案する際には、国税庁における税務行政の実務的側面の考慮は欠かせま
せんし、国税庁がその税法を適正に執行するためには、税法の趣旨目的
今の仕事では、税制の一つひとつの仕組みだけでなく、そうした仕組
平成3年入庁。島根県警警務部長、
の理解や主税局への的確なフィードバックが重要です。私も、この点を
札幌国税局調査査察部長などを経
十分意識しながら、より良き納税環境の実現に向けて努力していきたい
て、平成27年より現職。
みが形作られた時代背景や関連制度にも精通していることが求められま
す。例えば、配偶者控除の見直しの議論は、上述の「少子高齢化」、
「雇
用システム」、
「共働き」といった切り口から捉えることができますが、
財務省 主税局 税制第一課 課長補佐
神谷 信
平成13年入庁。在中国大使館勤務、防府税務署長
などを経て、平成27年より現職。
その際には、人口動態や産業構造、社会保障政策や労働政策など、実に
様々な知見が求められます。いい意味で人使いの荒い職場において探求
の日々が続いています。
私は学生時代、「税を知ることは世の中を知ること。これほど自身の
知的好奇心を満たしてくれる職場はない。」と信じて、国税庁を志望し
ました。そんな昔の志望動機に改めて思いを致しているところです。
と考えています。
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National Tax Agency 2016
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