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世界で年間100万台売る勘所は

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世界で年間100万台売る勘所は
トヨタ自動車 ハイブリッド車
世界で年間100万台売る勘所は
エコカーはエゴからエコへ。そしてエゴとエコの両立へ。
広告の強烈なインパクトで、ハイブリッドの新しい価値を提示。
CASE 1
テレビ画面に浮き上がるEGO とい
う文字。これをワイパーがなぞると、
真ん中のG がだんだんと消えていく。
そしてしばらくすると C が浮かび上
がり、ECO が完成――。ナレーショ
ンが
「乗る人だけにうれしいクルマじ
ゃいけない」
と語りかける。
EGO から ECO へ。このテレビコ
マーシャルは、1997 年にトヨタ自動
車が放映したものだ。この年の1月
上は、97 年に始まった「トヨタ エコプロジェクト」の第 1
弾。
「あすのために、いまやろう。
」
の文字。左は
「ハリアー/
クルーガー ハイブリッド」
の 2005 年 4 月の広告
から同社は、
「トヨタ エコプロジェ
クト」
を展開。年末に開催された地球
エンジンを搭載する
「カローラ」
より
温暖化防止京都会議
(COP3)
の直前
も悪かった。
「今にして思えば、我慢
に、世界初のハイブリッド乗用車
「プ
のエコカーといわれても仕方がない」
リウス」
を発売した。
と、宣伝部の平野義孝オールトヨタ
リッド システム)
」
。2003 年9 月発売
グループ係長は振り返る。
の2代目プリウスから
「THS-Ⅱ」
に変
技術革新でエゴとエコを両立
ところが、その後の技術開発で走
初代
「プリウス」
は、ハイブリッド
わった。システムの基本構成は同じ
だが、小型軽量化に加え、燃費と中
りの弱点は一掃された。
技術の先進性と、既存ガソリン車の
トヨタのハイブリッド車は、技術
高速域のパワーを大幅に向上させて
2倍の燃費
(28km/o)
で、世界の車好
の進歩でエコ商品の競争力を高めた
いる。
「THS-Ⅱ」
は2代目プリウスだ
きと自動車メーカーに衝撃を与えた。
典型例である。技術面での最大のト
けでなく、
「ハリアーハイブリッド」
だが、課題もあった。走行性能だ。
ピックは、ハイブリッドシステムの
などにも搭載した。
特に高速道路での追い越しなどの際、
世代交代だ。初代プリウスが搭載し
加速性能が見劣りした。加速は 1.5o
たシステムは、
「THS
(トヨタ ハイブ
まず、走りのイメージを改善
こうした技術進歩を得て広告表現
も変わる。ハイブリッドシステムの
●ハリアーはカローラ並みの燃費で4.5l 並みの加速
燃費(km/l、10・15 モード)
18
を打ち出した。エンジンとモーター
ハリアーハイブリッド
クルーガーハイブリッド
カローラ
(1.5l)
14
12
国産 B 車(3.5l)
国産 C 車(3.5l)
10
独 A 車(4.5l)
9
10
服した。だが、ハイブリッド車は走
11
12
0 −100km/h 発進加速(秒)
日経エコロジー/ 2006 年 1 月号
らないというイメージが消費者の間
に、依然として残っていたためだ。
トヨタの資料を基に本誌が作成
32
と環境性能をともに飛躍させるとい
技術的には、走行性能の弱点を克
独 D 車(3.0l)
8
のシナジー
(相乗)
効果で、走行性能
うコンセプトだ。
ハリアー(3.0l)
8
7
世代交代に合わせるように、トヨタ
は
「ハイブリッド シナジー ドライブ」
★
16
トヨタによる測定
特集 環境は「かっこいい」で売る
走行性能は車の基本。走らないと
いうイメージを残したままでは本格
的な普及は望めない。このイメージ
一掃を強烈にアピールしたのが、
2005
年3月に発売した「ハリアーハイブリ
初代プリウス(上)と 2 代目プリウス
(左)
。2 代目は装備など考慮すると、
価格をほぼ同等の約 230 万円に保ち
ながら、燃費の向上と 2l 車並みの走
行性能を実現。スタイルも走りを意識
させる 5 ドアハッチバックに変わった
ッド」
だった。
ガソリン車のハリアーは、3o エ
ンジンを搭載しているが、ハイブリ
ッド版はモーターが追加された効果
う結論に落ち着いた。
で、4.5o エンジン車並みの発進加速
性能と、カローラ並みの燃費を実現
トヨタは、広告宣伝戦略の決定に
どんな理由でハイブリッド車に乗っ
している
(トヨタ測定値)
。トヨタは
際しては、宣伝部だけでなく、技術
ているかをリアルに語れる人が条件
これを、ハイブリッド シナジー ド
部門や、時に広報部門を巻き込んで
だった」
(平野係長)
ライブより直接的でわかりやすい
「ツ
徹底的に議論する。特に、環境性能
実際にどんなメッセージにするか
インパワー」
と表現した。
をアピールする広告宣伝は、慎重な
は、インタビューを通じて本人と相
議論を展開するという。
談し、その中で決めていったものだ
エンジンのパワーは炎をイメージ
させるオレンジの輪。モーターは稲
「環境の分野で誤解があってはいけ
妻をイメージさせる青い輪。この2
ない。それでブランドを大きく損な
つの輪が重なり合って、卓越した走
う恐れもあるからだ」
(平野係長)
行性能を引き出すというアピールだ。
こうした議論を通じてハイブリッ
という。
トヨタが、こうしたメッセージを
通じて伝えたいことは、ハイブリッ
ド車の新しい価値だ。その価値とは、
この際、社内では大きな議論があ
ド車の販売 100 万台に向けて、トヨ
単純に CO2 排出量が少ないとか、燃
ったという。本来は環境負荷が少な
タが選択したのが、この特集の冒頭
費がいいとかというように分解可能
いことが最大の特徴であるハイブリ
で紹介したレオナルド・ディカプリオ
なスペックではない。低 CO2、静け
ッド車で、大パワーと走行性能をウ
氏が登場する一連の広告だった。
さ、加速性能、クリーン性を統合・一
リにしていいのか、という疑問が呈
ハイブリッドの価値とは?
された。
「ハリアーハイブリッド」
の
体化したものがトヨタのアピールす
る新しい価値だ。
ディカプリオは新聞や雑誌などの
「楽しく走れて環境にも気を配る。
1.5o エンジンのカローラを若干上回
広告で電子メールをイメージさせる
この新しい価値を享受している人が、
るが、2代目プリウスの35.5km/o に
画面でこう語りかける。
ヘッドコピーにある『あたらしいヒ
ひとつ聞いてもいい?
ト』
の意味。多くの人がハイブリッド
自分が気持ちいいことと、
技術の仕組みや環境性能の詳しい説
リアー」
に卓越した走行性能を求めて
環境に気を配ること。
明を聞いて理解すると、購買意欲が
いる。この種の車種では、走りをウ
両立するには、どうすればいいと
大きく高まる。そこで、あたらしい
リにしてもいいのではないか、とい
思う?
ヒトの広告で、消費者の心のシャッ
ぼくの答えは、このハイブリッド。
ターを開けることで、まずはハイブ
日本語の下には、英語の原文が付
リッドに関心を持ってもらいたい」
と
燃費は 17.8km/o(10・15 モード)
と、
は遠く及ばない。
この点に関しては、ユーザーは
「ハ
写
真
/
木
村
輝
もらうというよりも、その人自身が
されている。この原文は、ディカプ
リオの言葉なのだという。ちなみに
ディカプリオの愛車はプリウスだ。
「今回の広告は、俳優として演じて
平野係長は力を込める。
心のシャッターを開けること。こ
れが今回の広告の主な目的だ。そし
てシャッターを開けられれば、ハイ
ブリッド車 100 万台の販売に向けて
2005 秋の東京モーターショーで公開されたレク
サス最高級セダンのコンセプトモデル。V 型 8 気
筒エンジンとモーターを積んだハイブリッド車だ
大きく前進すると、トヨタの宣伝部
は考えている。
日経エコロジー/ 2006 年 1 月号
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