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Web - SUCRA
埼玉大学紀要
教育学部,5
7(
1
):7-2
4(
2
0
0
8)
教員養成大学 ・学部 における
絵画教育 内容の構造化 についての研究 Ⅰ
一現行の シラバス分析 による現状考察 と今後の課題小津
基弘 *
キ ー ワ ー ド :教育学 部 、 シラバ ス、絵 画 、絵 画教 育 、構 造化
序
づかない まま指導が行 われている現実が多々あ
るのではないか。各教員が 自身の研究 に裏付 け
られた専 門性 を教育の核 に据 えることは貴重で
(1)研究の動機 と目的
大学 における教育 には学校教育にみ られるよ
あるが、それはあ くまで教育内容の網羅性 を前
うな教育内容の明確 な規定はない。大学数貝は、
提 とした上で行われねばな らない。そのために
自らの研究経験や考 え方に基づ きなが ら教育内
は教育学蔀の絵画教育内容のガイ ドラインつ ま
容 を構築 し教授 している。大学の専 門教育は多
り構造化が必至であ り、本研究はそれを最終的
岐 に渡る。美術 について言 えば、
教員養成大学 ・
な目的 とす る。本研究が美術の他教科専門の教
学部 (
以下教育学部 と表記) と同時に、芸術学
育内容の構築化 を促進 し、それ らが連鎖 して美
部 もまた美術 を教授す る場であるが、決定的に
術の教科専 門教育内容の全構造が明 らかになれ
学生の出口のあ り方が異 なる。筆者が本稿で対
ば、それは確実 に学校教育における図工 ・美術
象 にする絵画は、教育学部の教科専門のなかの
教育へ と反映 されるであろう。今 日の図工 ・美
一つのジャンルである。美術 に関わる専門科 目
術教育 には小 ・中学校 9年間を通 した明確 な教
とは言え、それはあ くまで教育学部における専
育内容の構造的展 開が見 られないように筆者 に
門であ り、芸術学部のそれ とは勿論異 なる目的
は思われる。それが教科 として存在 している以
を有 した教育内容 となるはずである 教 える対
上、 また今後 も更 に強 くその存在感 をアピール
。
象 となる学生がやがて主に小 ・中学校の教師 と
するためには、 9年間で確実 に身につけ られる
なるという前提での教育内容であるか らだ。 し
教育内容の基底が赦密 に構築 されねばならない。
か し、果た して現状 は如何であろうか。教育学
本研究 はそのための発端 にな り得 るものであ り、
部で美術の教科専 門を教 える絵 画教員の殆 どは
研究の究極的な 目的は まさにそこにある。
芸大 ・美大出身者であ り、その多 くが現役の制
作者である 従 って教育内容が芸術学部に見 ら
(2)研究の方法
。
れるような作家教育 に偏向 し、それに本人が気
全国の教育学部における絵画 に関わる教育内
容 を、We
b上で公開されているシラバスに基づ
● 埼玉大学教育学部美術教育講座
きリサーチ し、そ こに見 られる特徴 的傾向を分
- 7-
析 ・整理す ることで諸々の問題 を顕在化するこ
とが、本稿の 目的である。 シラバスには教員の
授業
1. シラバ スか らの絵画教育 内容 の分析の
視点
t
j
的、学生 に獲得 させ るべ き教育内容、具
体的な授業計画等が簡潔に提示 されてお り、教
(1)分析の方法
育内容 を僻轍す るには極めて有効な手立てであ
授業 シラバ スは、それを担当す る教員がその
る。筆者 は、各都道府県にある国立大学教育学
授業内容のエ ッセ ンスを的確 にかつ簡潔に一般
部そ して同教育系単科大学の絵 画教育 に関わる
に開示 している ものであ り、その信頼性 は疑 う
授 業 シ ラバ ス を可 能 な限 りWeb上 で検 索 し、
余地はない。従 って、 シラバス分析 は教育内容
2007年 8月現在38大学21
7の授 業 シラバ スを確
の概要 を把握す るためには極めて有効 な手立て
認す ることがで きた。検索対象 とした大学は 日
であるとい う認識 に立 ち、そこか ら見 えて くる
本教育大学協会全国美術部門に所属す る国立大
現在の絵画教育の現状把握 を本研究の導入の基
学であ り、その数は全部で53校 (
北海道教育大
点に した。 まず検索 したシラバスに従 って、『
全
学の各分校 をそれぞれ 1と数え、 また筑波大学
国国立教員養成大学 ・学部 における絵画授業 シ
も含む)である。53校中の3
8校つ ま り全体の約
ラバスの要旨J(
本稿では不掲載) を作成 した.
72%の授業 シラバスの検索 と分析が可能 となっ
それは各 シラバス内容 を簡潔に筆者 自身が要約
たわけであ り、それをもって現在の国立教員養
して一覧 として まとめた ものである。そこでは
成大学 ・学部 における絵画教育内容の一般的傾
(
授業の概要の要点) (
ね らいの要点) (
授業計
向 と判断す るには必要十分 な数であろ う。
画の要点)そ して (
特徴 (
キーワー ド))の 4つ
無論 こうした単 なるWe
b上の シラバ ス分析だ
の項 目を設定 し、各授業内容 をそれぞれの観点
けでは今 日の絵画教育の現状 を正確 に理解する
か ら要約 し列記 した。 ここで特 に重要 な項 目は
には十分ではない。大学における授業の実際を
(
特徴 (
キー ワー ド))である。各授業内容やね
フ ィール ドワークを通 して確認 し、各授業者の
らいの要点 を代表す るキーワー ドをこの要 旨一
絵画教育 に対する肉声 を聞 き、その過程か らよ
覧か ら抽 出 し、その種類や額度を分類 ・分析す
りリアルな現状把握 と今後の展望 を拾 い上げる
ることで全国の大学の絵画教育内容 に対す る総
必要 もある。 この作業 については本稿 に引 き続
合的な傾向や特徴が容易 に僻轍で きる と考 えた。
き行ってい く。 また、 この研究 は、純粋 な芸術
こうした分析の結果が、添付資料 『
全国国立教
学部ではな く、あ くまで教育学部における絵画
員養成大学 ・学部 における絵画授業 シラバスか
教育内容 を軸 に してお り、やがて教師 となる学
らのキー ワー ド頻度一覧』 である。
シラバ ス分析 の結果、1
27
種類 の必要 なキー
生が学校教育の場へ と還元で きるものでなけれ
ばな らない。そのためには学校現場 、特 に小 ・
ワー ドを導 き出す ことがで きた。資料整理 にあ
中学校 における図工 ・美術教育 に対す る教育の
た り、それ らのキーワー ドを分類す るため以下
現状や現場教師の考 え方 も当然反映 されるべ き
の 7つの視点で分類項 目を立て、それぞれの語
である。つ ま り、 シラバスか らの巨視的分析 を
を位置づけた. (
絵 画 表現の手法 に関わる項 H)
基点 としつつ、実際の大学教育の場での微視的
(
題材 ・造形要素 ・造形力 ・制作 と発表 に関わ
な検証 と学校教育サイ ドの現状 とい う 3つの柱
る項 目) (
絵画の知的理解 に関わる項 目) (
個性
の絡み合いか ら、教育学部独 自の 「
生 きた絵画
や主体性 に関わる項 目) (
制作 と理論の相関・
制
教育内容」の構造化が図 り得 る と筆者 は確信す
作学 に関わる項 目)(
美術教育 に関わる項 目)(
他
る。
専門 との連携 に関わる項 目)がその視点である。
以上の手順 と考 え方に従 ってそれぞれの語の使
用頻度 を記 した ものが添付資料である。表の読
- 8-
み方であるが、例 えばある授業 内容 に 「
油彩画
画表現の ソフ トの部分、つ ま り形態や色彩、構
(
あるいは抽画)
」と記 してある場合、それを油
図等 といった造形要素 についての教授 、 また表
彩画 1とカウン トす る
。
もしその授業が油彩画
現 に際 して獲得すべ き諸 々の造形力、例 えば観
と同時 にアクリル画 も行 っている場合 には、 ア
察力や構想 ・構成力、描写力等 々についての教
クリル画のカウ ン トも 1とす る。その ように し
授 に関わる。絵画表現 は、画材 ・技法 のハー ド
て全 シラバスの内容か らキー ワー ドとその使用
の側面 と造形要素 ・能力 とい うソフ トの側面が
頻度を足 していった結果の数が、添付資料 に記
両輪 となって構築 され るので、上記 2つの事項
された使用頻度数である。次 に 「
主な細 目と頻
は、絵画教育内容の最 もベーシックな部分 と言
度数」 についてであるが、例 えば油彩画 を中心
える。 また本項 目の なか に、「
制作過程」か ら
とした授業のなかで、授業内容が 「
油彩画の材
「プ レゼ ンテー シ ョン」 まで とい う制作 プロセ
料や技法 を中心 とす る」 と表記 してある場合、
スに関わる事項 も含めたが、それは制作の初段
「
材料や技法」とい うキー ワー ドを油彩画の主
におけるスケ ッチやエ スキース、制作の記録や
な細 目として抽 出 し、その数 を全て カウン トし
完成の判断、それをどの ように他者 に示すか と
てその数 を記 した。 これによ りそれぞれの事項
い うプ レゼ ンテー シ ョンに関わる事項 も同様 に
が どの ような具体 的内容 を含み どれ くらいの頻
造形力 とみな し得 るか らである。
度で教 えられてい るかが相対的 に理解で きる。
(
絵画の知的理解 に関わる項 目)では、絵画史
本章では、 この添付資料の数値 デー タに基づ き
あるいは技法史、具象絵画や抽象絵画の定義そ
現在の教育学部 における絵画教育の実態 を詳 し
して何 よ りも現代美術理解 といった、絵画 を知
く分析 した。
的に理解 させ るための教授 内容が諸 々のシラバ
スに多 々認め られたので、それ らを 1つの項 目
として設定 しそれに属す るキーワー ドを分類 し
(2)分析の 7つの視点 について
上記 7つの視点それぞれの内容 について本項
で述べ る
。
である
まず く
絵画表現の手法 に関す る項 目)
た。「
知的理解」とは、絵画史あるいは具象 と抽
象の問題 に代表 されるような絵画表現の変遷の
これは絵 画教育の根幹 に関わる もので
理解 を基底 に据 えてお り、その ような史的理解
あ り、使用す る画材 ・素材や メデ ィアによって
の果てに現代美術 の有 り様や意義が位置づけ ら
表現のあ り方や現 れ方 は異 なった表情 を得 る し、
れる。 またこの理解 をさらに進めれば、例 えば
。
また各画材 にはそれ固有の技法が存在す る。 筆
「
見ること」に関わる認知心理学等の内的問題
者 はそれ らを (
絵画表現の手法) と命名 し、そ
や存在論 を中心 とした哲学的諸問題 といった、
6
の事項 に分類 した。 「デ ッサ ン ・素描」
れ を1
深遠 な思考や思想 の問題 に行 き当たることは必
平面」「日本 画」「
油彩 画」
「ドロー イ ング」「
至である。その ような深度 を伴 う知的理解 の問
「
水彩画 (
透明水彩 ・不透明水彩 )
」「アクリル
題は、絵 画表現の根源的理解 には欠かせない も
画」「
水墨画」「
版画」「
古典技法」「
映像 メデ ィ
のであ り、それは絵画教育 に留 まらず広 く創造
模写」「
細密描写」「
写生 」「モ ダンテクニ ッ
ア」「
性 に関わる教育の根幹 を成す と筆者 は考 える
。
ク」
「
表現の多様性」である。それぞれについて
絵画の知的理解 の さらに深部 に触れ る、創造
の内容及び使用頻度数か ら見 えて くる現実分析
の根源的問題 に言及 している内容 を、
筆者 は(
刺
につ いては後に詳述す る
。
作 と理論 の相関 ・制作学 に関わる項 目) として
次 いで筆者が立てたのは (
題材 ・造形要素 ・
別 に設定 した。制作 を通 して遭遇す る諸 々の問
造形力 ・制作 と発表に関わる項 目)である 先
題 を、心理学や美学 ・芸術学そ して広 く哲学上
項 目の (
絵画表現 の手法)は、いわば絵画のハー
の理論や思索等 々と照 らし合わせつつ解決 して
ドに関わる事項だ と言 える 他方、本項 目は絵
い くこと、その成果 を再 び制作 を通 して試行す
。
。
- 9-
る とい う 「
制作 と理論の相関」 による創造の質
専門 との連携 は今後極めて重要であろ うと筆者
の ダイナ ミックな展 開を、少 なか らず大学教員
は考える。そ もそ も現在の美術の視座 に立 った
は授業内容 に据えていることが シラバ ス分析か
場合、従来型の絵画 ・彫刻 ・デザ イ ン ・工芸 と
ら知ることがで きた。「固有の表現ス タイルの探
い う教科専門の細分化 は有効 なのであろうか。
求 と制作理論の構築」、「
実践 と理論の具現化」
この項 目は、今後の大学 における美術教育、そ
あるいは 「
発想 ・構想か ら表現 に至 る論理的考
して学校教育 における図工 ・美術教育の存在の
察 」等 々の表記等か らそれ らが伺える。制作 と
あ り方の根本的見直 しに深 く関わる内容 を提示
理論 との相関に関わる教育の充実が、絵 画表現
す るものである。
の具体的手法 と同様 に教育学部の絵画教育の今
以上 シラバス分析 に基づ き 7つの視点か らの
後の質的展 開に必要であると言 えよう。制作 を
項 目分類 に筆者が至 った経緯 とそれぞれの内容
「
学」 として捉 え諸 々の創造的問題の仮説を思
について簡潔 に記 した。次章ではこれ らの視座
索 し、それ を制作 自体へ と再度 フィー ドバ ック
か ら現在の教育大学 における絵画教育の現状 を
してい く一連の手立ては 「
制作学」 と定義 され
分析 しその特徴 と今後の課題を明 らかにす る。
る。 これについては詳細 に後述す る。
(
個性 や主体性 に関わる項 目)は、例 えば 「
独
2.シ ラバ ス分 析 か らの 現 状 考 察 と今 後 の
自の表現」であるとか 「自己表現の核 」あるい
課題
は 「自己表現の可能性 」とい う表現 に代表 され
るように記述が シラバスの随所 に認め られたの
(1)く絵画表現 の手法 に関 わる項 目)の分析
主体性」と絵
で項 目として設けた。「
個性 」や 「
と考察
画表現 との関わ りは今更言 うに及ばない。学校
添付資料 「キー ワー ド頻度一覧」か ら明 らか
教育の場 では、個性の概念規定 も唆味 な ままに
なように、本項 目のキーワー ド頻度で群 を抜 い
豊かな個性」等のスローガ
「
個性 の伸長」や 「
油彩 画」「
版
ている事項は、「デ ッサ ン・
素描」「
ンの もと、個性偏重主義が一 人歩 きしている感
画」及び 「
映像 メデ ィア」である。 また、水性
がある。そ うした現実 を踏 まえ、大学の絵画教
絵の具である 「
水彩画」「アクリル画」も次 いで
育では個性 の概念規定について各教員が 自覚 し
頻度が高 く、西洋古典技法 に関わる手法 テ ンペ
認識 してお く必要がある。 We
b上の シラバス表
ラや フレスコ等 も少なか らず教授 されている
。
記か らは各教員の個性 に対す る考え方 は見えな
「日本画」に関わる内容 も少なか らず見 られる
いので、 この件 は具体的な リサーチ を必要 とす
が、広 く行われているとは言えない頻度である。
るであろ う。(
美術教育に関わる項 目)は、シラ
教育学部における絵画教育の表現手法 として、
バス表記 において 「
教育」 との関わ りへ の 自覚
まずデ ッサ ン ・素描が教 え られ、油彩 を中心 と
を学生 に促す ことを明記 した ものがい くらか認
した絵画表現がそれに続 くとい う形態が一般的
め られたので、項 目として設定 した。教育学部
と言 える。 この流れを根幹 としそれを補 うかた
の絵画教育 は、本来は全授業 において学校教育
ちでアクリル画、水彩画そ して版画が教授 され
との関わ りを学生たちに自覚 させなが ら授業展
ている。映像 メデ ィアについては、新学習指導
開 されるべ きであ り、そ こが芸術学部の絵画教
要領 において明記 され、大学 において も特 に基
育 との最大の相違点 なのである。
礎実技 において義務化 されている。映像 メデ ィ
(
他専 門 との連携 に関わる項 目)における 「
連
アの授業内容 は絵 画以外 に もデザ インに も課 さ
携 」とは、絵画以外の教科専 門 との連携授業の
れてお り、多方面か らの指導が奨励 されている
。
意味である。 この項 目に関わる ものはわずか 2
ただ し、映像 メデ ィアを主専門 とす る教員が現
つ しか シラバスか らは認め られなかったが、他
在の国立の教育学部にはまだ殆 どいないのが現
-1
0-
実であ り、教育の実質性 に対 しては疑問が残 る。
現状考察 を行 う予定である。
従 って、映像 メデ ィアに関わる事項数は資料で
絵画の基礎力はデ ッサ ンを通 した観察に基づ
は2
5
であるが、その数 に相応 しい教育が行われ
く再現描写 にあるだけではない。その ことは「ド
ているか どうかは実際の リサーチが必要であろ
ローイング」とい う語が、デ ッサ ンと同様 にシ
う
。
ラバスに頻繁 に認め られる (
1
0) とい うことか
水彩画については、 シラバス表記の中で、そ
らも分か る 近年、デ ッサ ンとい う語 を使わず
。
れが学校教育の場 で主たる描画法 として使用 さ
ドロー イングとい う語 を使 って素描 を扱 う例が、
れてお り、
水彩画の能力 を獲得す ることが図工 ・
教育の場 だけでな く美術界全体 に見出 される。
美術教師 としては現実 に必須であるとい うこと
基本的にデ ッサ ンも ドローイ ングも和訳 をすれ
を授業 目的に記 してい るケースがい くらか見 ら
ば 「
素描 」であるが、実際はそれぞれの 目的は
れた。アクリル画 も近年学校教育の場で使用 さ
大 きく異 なる。 デ ッサ ンとは観察に基づ く素描
れる頻度が増 してお り、水彩画、アクリル画 と
であるが、 ドローイングは観察 を契機 としつつ、
い う水性絵の具 を用いた授業内容 は、学校現場
あ くまで内発的な表現 を求める。 美術界での ド
に即 した もの として位置づ け られる 版画 もま
ローイ ングの位置づ けは大方その ようである。
た学校教育の場で頻繁 に扱 われ る表現である。
その表れは、幼児のな ぐり描 き風の表現か ら、
版画は、大学 にお ける絵画教育のなかで も独立
それ 自体が作品 とみな し得 るような巨大な表現
した授業 として行 われているケースが多 々見 ら
まで多種多様であ り、 自己表現 に直結す る表現
れた。筆者 も集中講義 とい う形態で「
版画実技」
力の獲得がそ こで 目指 されていると判断で きる
と名 して授業 を設定 している
半期あるいは通
この視点で ドローイ ングを捉 えれば、それは学
年で凸版 と凹版に関わる多種多様な版種 を学ぶ
校教育、特 に低学年の図工教育 において大 きな
とい う内容が大学教育では一般 的であ り、図工 ・
教育的示唆 を与 え得 るであろう 大学 における
美術教育の場では、紙版画、木版画や ドライポ
素描の授 業 は、その点 を踏 まえてデ ッサ ン的な
イ ン トな どが行われてお り、その教育 は直接 的
内容 と ドローイ ング的内容 を 「
素描」 の授業の
。
。
に教師 としての能力獲得 につ なが る
。
。
なかに同時に盛 り込んでい くことが有益ではな
。
大学の絵画教育 の殆 どにみ られるデ ッサ ン ・
いだろうか。
素描 について考 える 資料 にあ るように、デ ッ
デ ッサ ンか ら油彩- とい う流れが多 くの絵画
サ ン ・素描 は主 として木炭 と鉛筆 を用いて行 わ
授業の シラバスか ら読み取れたことは前述 した
。
れ、そのモテ ィー フの多 くは石膏像、静物、人
が、「
油彩画」 について次 に考える 特 に小 ・
中
体である。 造形要素や能力等 に関わる項 目にお
学校学校 において油彩画 を授業で扱 うことはほ
いて も見 られるように、主 に観察力、描写力の
ぼ皆無である 現行の授業時間数そ して油絵の
獲得がデ ッサ ンや素描の学習 を通 して期待 され
具の扱 いの難 しさ等 に よ り現実的に教材 として
る
。
。
こうした能力の獲得 は、絵 画表現の基礎 ・
油絵の具 を使用す るこ とはほぼ不可能であろう
基本 として位置づ けることがで き、その意義 は
油彩画は教育学部の絵画教育では圧倒的多数の
絵 画の長い歴 史が証明 している と言 える
しか
頻度で教 え られている一方で、学校教育の場で
。
。
。
し、現在の図工 ・美術教育 においてはこうした
は扱 われ ることが殆 どない とい うア ンバ ランス
観察に基づ く素描力の獲得が ほ とん ど見過 ごさ
な現況があるのだ。 この現実 を、絵画 を教授す
れているのではないだろ うか。特 に図工教育 に
る大学教 員は どの ように考 えるか、今後 リサー
おいてそれが顕著である と筆者 は判断す る
チす る必要がある 油彩画は、特 に芸術学部 に
。
こ
。
の件 については、次稿以降、学校現場の教師 と
おける絵 画表現 として主 に扱 われている表現手
の共同研究 を通 して具体的な作例 に触れなが ら
法である。その起源 は、明治以降の極端 な西欧
- i
l
円-
化政策 による強制的移入であ り、百数十年 を経
スが多々あった。 しか し、昨今国立大学の法人
た今 も尚その影響 は根強い。植物か ら得 られる
化に伴い非常勤講師に当て られる予算が殆 どゼ
乾性油 をメデ ィウム とする油絵の具が、乾燥 に
ロの状態 になっているのが全国の教育学部の実
不 向 きな湿潤 な 日本の風土 にそ ぐわないことは
情である。 もしこうした シラバス分析 を1
0年前
明 らかである。 また油絵の具 によって表 される
に行っていたな らば、殆 どの大学で 日本画の授
物質的表現が、 日本人の気質や展示 される環境
業科 目を見ることがで きたであろ う。 日本画 と
に合わない ことも指摘で きる。それで も何故油
い う用語 は、明治以降油絵 を中心 とした西洋画
彩画が これほ どまでに絵画教育の中心的表現方
が 日本 に突然流入 して きた際に、それ と区別す
法 として位置づ け られ扱われているのか、その
るために従来の 日本の伝統的な絵画 を称 して使
現実 を冷静 に考 える時期 に来ている と筆者は強
われるようになった。風土の光や湿度に呼応す
く感 じる。文頭で も書いた筆者の危慎、つ ま り
る色彩 と陽を主 としたメデ ィウム、和紙 を中心
教育学部 において絵画 を教 えるとい うことは ど
と した 基 底 材 と支 持 体、伝 統 的 な主 題 や モ
うい うことなのか とい う原初的問題意識にここ
テ ィーフとい うように、 日本人 として 日本画は
で立 ち返 らねばな らない。それは芸術学部 との
ご く自然 な存在 として位置づけ られるべ きであ
教育内容の差異化が図 られているのか どうか と
る し、制作 も行われるべ きである。岩絵の具が
い う問題で もある。教育学部であるに もかかわ
油絵の具 と比較 して極 めて高価である点や、絵
らず油彩画 を根幹 に据 えたシラバス展 開が主流
の具 を一つ一つ 自ら使 う分だけ作 らねばな らな
である とい う事実 は、その差異化への不配慮の
い点等 々、学校教育の場で 日本画 を教材 として
反映であろ う
取 り入れてい くことは現実的には極めて困難で
。
シラバス分析で 目についた事項 として 「
古典
あるが、折 に触れて 日本画の魅力 については児
技法」(
使用頻度 18)がある。テ ンペ ラ画、フ レ
童 ・生徒 に対 して伝 えてい く必要があろう。そ
ス コ画及び混合技法がその主たる表現手法であ
の意味では、教育学部の絵画教育 において、 日
り、古典技法だけで独立 した一つの授業 を開講
本画に関わる授業科 目は今後前向 きに志向 され
しているシラバス も幾つか見 られた。・
大学の教
るべ きである。それはまた 「
水墨画」 も同様で
員が制作者 としての 自身の表現方法 をその まま
ある。今回シラバス分析の結果、水墨画に触れ
授業内容 として反映 している可能性がそ こには
た授業展 開例が 2つみ られた。水墨画について
見受け られる。-制作者 としての経験や絵画に
は、現在筆者が著者 として関わる中学校美術科
対する価値認識 を根幹 に据 えて教育 にあたるこ
教科書 において 「
表現」 として も 「
鑑賞」 とし
とは貴重 だ とす る考 え方 もあろうが、教育学部
て も扱 っている。それほ どに現在の学校教育の
での絵 画教育 とい う視座か らすれば、度 を過 ぎ
場では水墨画 は教材 として一般的に奨励 されて
た技法教育が果た して有効か筆者は疑念 を抱か
いる。現在の特 に中学校の美術の時間数か らす
ざるを得 ない。
れば、水墨画 とい う手法 は短時間で行 うことが
「日本画」 と 「
水墨画」についてみてい こう
で きるので、現実の運用が容易で もある 言 う
まず 日本画であるが、それを独立 した授業 とし
まで もな く日本 においては水墨画の長い歴史が
て行っている大学の数は、総数か ら比較すれば
ある。 日本画同様、水墨画 もまた学校教育の場
わずかである (
18)。 そこには 日本画の専任の教
で今後積極的に生か されるべ きであ り、大学 に
員が配置 されている場合が殆 どである。その他
おける絵画教育 において も常識的教養 として確
の大学 ・学部において も、かつては 日本画に関
実に教授 される必要があろう
。
。
。
す る授業 を開講 し、専任がいない場合 には非常
最後に 「
映像 メデ ィア」 についてである。先
勤講師があてがわれて学生の指導にあたるケ-
に述べた ように、映像 メデ ィアの教授 について
-1
2-
は、専門的にそれ を学んだ教員が決 して多 くは
形要素」 と 「
造形力」 は絵画だけに留 まらず美
ない とい う現実があ り、新学習指導要領の中学
術表現全体 に普遍的な事項であ り、 まず はこれ
校美術 において明示 されているがゆえに、形骸
らの分析 ・考察か ら始める。
的 にシラバスに盛 り込 まざるを得 ない とい う消
資料の 「
造形要素」 の主な細 目に列記 したよ
極的ケースが多 々ある と予想 される。 しか し漫
うに、それ らに属す るキーワー ドとして筆者は、
画表現、 アニメー シ ョン等が特 に中学校美術科
質感 ・マテ イエール ・空間表現 (
意識)・色彩 ・
において教科書 に も掲載 され教材 として も進ん
形 (
形態)・構 図 (
コ ンポ ジシ ョン)・リズム/
で扱 われている現状 を考 える と、大学 としては
バ ラ ンス/ロポー シ ョン ・調子 とヴ ァルール ・
それについて何 らかの教育 を学生に施す必要が
明暗法 ・遠近法 ・素材 (
画材) を抽出 した。使
あるだろう 文部科学省が積極 的に漫画やアニ
用頻度数 を見 ると、 これ らのキーワー ドのなか
。
メーシ ョンを日本 を代表す る独 自の文化 として
で最 も頻繁 に使 われている語 は 「
空間表現 (
意
海外 にアピール している現状 もまた考慮 に入れ
」(15)であ り、次 いで 「素材 (
画材 )
」(ll)、
識)
る必要がある。 ただ、漫画表現、アニメー シ ョ
構 図」(6)、「
形 (
形 態)
」と
「
色 彩 」(7)、「
ンを従来の美術 とい う枠組みで単純 に捉 えて よ
各 5)と続 く。空間表現以外 は、ほ
「
明暗法 」(
いか どうか、意見が分かれる ところで もある。
ぼ同 じような頻度で扱 われているとみ な して も
筆者が教科書編集 に関わった際、教科書 に掲載
よいだろ う。学校教育 の場 において も、図工 ・
す るためにある漫画家の代表作 を使用 しようと
美術教育 を通 して、造形要素の学習は必要不可
したのだが、その漫画家か らは 「自分がやって
欠なものであ り、系統 的かつ構造的に指導 され
い る こ とは美術 で はな く、あ くまでサ ブ カル
るべ き事項である。教育学部 において も、絵画
チ ャーだか ら掲載 は差 し控 えたい」旨の断 りが
教育のなかでそれ らが適切 に教授 されていると
あったことが印象的であった。 それは、サブカ
い う事実が シラバスか らも明 らか となったわけ
ルチ ャーであるが故の秘めたパ ワーを漫画表現
だが、頻度の最 も多い空間表現 (
意識) とい う
は もつのだ とい う信念であ り、確かに歴史的に
キーワー ドに関 してだけは、他 と比べ てやや異・
漫 画 の変遷 を見 た場 合、常 にそれ はサ ブ カル
なる趣 を もっているのではないか と筆者は考え
チ ャーに徹す るこ とで強烈 な批判精神 を内包 し
る。
得 た と見るべ きであろ う 他方、同時 にそれ ら
「
空間を表す こと」あ るいは 「
空間 という意識
が ファイン ・アー トの仲 間入 りを見事 なまでに
をもっ こと」 とは、一見具体的な内容 を示す よ
果 た して しまった現在の美術状 況 も考慮せ ざる
うに思われるが、その内実 は極めて抽象的で難
を得 ない。そのためには漫画や アニメー シ ョン
しい問題 を含んでいる。「
空間」とは本来何 を指
を教 える教員の専任化 は不可能 として も、それ
すのか。具象絵画における空間 とは、具体的に
を担 当で きる非常勤講師の充当は義務化 されて
は事物や人を取 り巻 きそれ らを内包 させ る空気
しかるべ きであろ う
の器であ る。それを表す術 をどの ように教授す
。
。
ることがで きるか。空気 は空虚 な存在 としてあ
(2)く題材 ・造形要素 ・造形力 ・制作 と発表 に
関わる項 目)の分析 と考察
る そ こでは Hには見 えない諸 々の事象が繰 り
。
広げ られている 具体 的な事物や人物の表 し方
。
次に (
題材 ・造形要素 ・造形力 ・制作 と発表
の術 は、それ らが具体 的存在であるが故 に様 々
に関わる項 目) について分析 と考察 を進めてい
な造形 要 素 を駆 使 した指導 が可 能 で あ る。 マ
絵画表現の手法 に関わ
く この項 目と前項 目 (
テ イエールや質感、色彩、構 図やプロポー シ ョ
る項 目) とは、絵 画表現 におけるソフ トとハー
ン等 々の視点か ら具体物 を再現す ることは困難
ドの側面 を受 け持 っている事項 である。
特 に「
造
ではない。 しか し空間には 目に明 らか に見える
。
-1
3-
そ うした具体性が ない。遠近法 と明暗法 は、空
れていない とい う実感が筆者にはある。 絵 の具
間を捉 える一つの方法ではあるが、例 えば遠近
や画材 を既 に与 え られた もの として盲 目的に受
法 を考察す る場合それは基本的に単眼視 を前提
け入れ、その成分や構造 を十分 に理解 しない ま
とする。透視図法の消失点 は単眼ゆえに存在 し
まに感覚的に使用 しているケースが、大学教員
得 る。 しか し実際の人間の視覚 は基本的には両
に もまた学校教育の現場教師に も多 々見 られる
眼視によって生 じている
この単眼視 と両眼視
ことは、筆者の経験か らの実感である 素材や
の差異 については、今 日に至 るまで教育の場で
画材 に対す る理解 を軽視す る傾向が、 日本の絵
殆 ど語 られてこなかったのではないだろ うか。
画教育 にはあるのではないか。前項 目の 「
古典
。
。
セザ ンヌの後期水彩画に典型的に見 られる輪郭
技法」に一様 に見 られた ような過度な詳説 に陥
線 のプ レが、両眼視 による忠実 な再現 を彼が志
らない程度の、素材へ の柔 らかな言及が必要で
向 していた証であることに、 どれほ どの人たち
あろう
。
が気づいているだろう この間題は単 に空間表
次いで 「
造形力」 に関わる事項 を見てい く
。
。
現 だけに留 まらず、視覚 を中心 とした認識や認
目に付 く細 目としては、観察力 (
2
4
)
、感性 (
l
l
)
、
知論 と密接 につ なが る
揺写力 (9)、構成力 (7)、思考力及び構想力
。
明暗法 に して もそ うである。 もしも明暗の認
(
各 4)である 観察力 に比例 して描写力 は向
め られない全光の場で描 くとした ら、空間表現
上す るはずなので、 この 2つは一体 として考 え
の手立て として明暗法は殆 ど役 に立たない。 ま
て もよい。 それ らを足 し合わせ ると3
3の言及が
た空間 とは、見ている自分 と見 られている事物 ・
シラバスに認め られたわけであ り、学生が習得
人物 との問の隔た りや距離で もある。それは自
すべ き造形力の要 として 「
観察力 +描写力」が
分 と事物 ・人物 との関係性 それ 自体で もあるの
筆頭 に位置づ け られる。次いで 「
感性」 に関わ
だ。 ジャコメッテ ィの試行錯誤 は、自分 と他者 ・
る内容が次 に続 く。 感性 という概念 はその定義
。
他物 との問の距離の関係性 を適切 に表す ことが
自体が唆味である。観察力や描写力 は客観的に
いかに難 しいか を示 している
それは もはや絵
測 ることがある程度可能であるが、感性が育成
画 としての空間表現 を超えて、哲学的存在論の
された という事実 を同様 に測 ることt
は難 しい。
問題へ とつ ながる。 このように空間表現 (
意識)
その唆昧 さが絵画教育 ひいては美術教育 自体の
とは複雑で困難な要素 を含 んでいるので、空間
目的を唆味にさせ ていると考え られる。特 に小
表現 を単 に絵画表現 における造形要素の 1つ と
学校の図工教育 において感性 とい う語 をどれほ
して扱 うだけでは不十分であ り、それはやがて
ど聞 くことだろ う。 観察力 ・描写力 と感性 を図
考察す る 「
制作学 に関わる項 目」 において も、
工教育 に照 らしてみてみると、現在 は感性教育
平行 して扱 われるべ きである と筆者 は考 える
が主 となっている と見受 け られ、観察力 ・描写
。
。
「
空間表現 (
意識)
」に次いで頻度が多い もの
力には殆 ど触れ られていないのが現実ではない
が 「
素材 (
画材)
」(
l
l
)である 素材 を知ると
。
だろうか。
い うことは絵画表現 において非常 に重要である
感性 とはいかなる概念 を言 うのか、それは ど
これは前項 目 「
絵画表現の手法」の中に位置づ
の ように伸ば し得 るのか、 またその伸長 を どう
けた方が相応 しいか もしれないが、筆者 はあえ
測るのか とい う疑 問に対 して、一体 どれ くらい
て造形要素の大 きなファクター としてここに位
の現場の教師が明確 な答 えを持 ち得ているのだ
置づけた。 1
1とい う数 をどう見 るかだが、決 し
ろう。観察力や描写力 を度外視 し感性 のみに重
て多い数 とは言えないのではないだろ うか。絵
きを置 く教育の根拠 を、彼 らは明示で きるのか。
。
の具の組成やその他の画材の組成 と役割 に対す
シラバス分析 の結果、大学教員 については観察
る教育は、その重要性 にも関わ らず十分 に行わ
力 と描写力の獲得 を造形力の筆頭 に位置づ けて
-1
4-
い る傾向が見 られたわけであ るが、その考 え方
うした 自己分析 は、同 じ細 目内の 「デ ィス カ ッ
を学 んだ大学生がやが て教 師 になった際 に、現
シ ョン」 や 「プ レゼ ンテー シ ョン」の課題 に も
場 の実態 と自 らが学 ん だ 内容 との 間 に大 きな
つ なが る。 最終段 階 と して 自作 のプ レゼ ンテー
ギ ャップを感 じるのは必至 であ る。 この食い違
シ ョンを課 してい る授 業が少 な くとも 8つ認め
い を正すため には感性 の意味 とそれ を どう測 る
られたが、おそ ら くそれ以上 の数の授業 におい
かの方策 をある程 度明確化 しなければな らない。
て、最終講評 の際 に学生各 自に 自作 について語
そのために大学側 にで きるこ とは、その語 をシ
らせ てい るので はないか と筆者 は推察す る
。
自
ラバス上で使用 してい る絵 画教 員 に対 して、感
分が何 を描 こうとしたか、そのため に どう工夫
性 の定義 を リサーチ し彼 らがそれ を どの ように
を したか、 どの ような問題 に制作過程 で遭遇 し
捉 えているか を知 るこ とである。 この作業 は急
たか、それ を どう克服 したか等 々を、順序立て
務 である。 そ して現場教 師の感性 に対す る考 え
て 自らの言葉 で適切 に語 り得 る力 もまた、描 く
方 もまた リサーチ し、二者 を刷 り合わせ なが ら
ことと同様 に大学教育 においては求め られ るべ
教育 における感性 の育成 の明快 なガイ ドライ ン
きである。 こう したプ レゼ ンテー シ ョンの際 に、
を作成す ることが筆者 の本研 究 の課題 の一つで
制作記録 及 びそれ に基づ いた反省 を軸 に自作 を
あ る。
語 るな らば、更 にそれ は説得力 をもつ もの とな
次 いで 「
制作過程 」に関わ る事項 を考察す る。
るであろ う。 それ はまた教 師 となる学生 たちに
この事項 は大 き く 3つ の細 目内容 に分 け られ る。
とってやがて学校教育 の場 での児童 ・生徒主体
1つ は、 スケ ッチやエスキース、原寸大下 図や
による相互 の作 品鑑賞指導 の際 に、あ るいは授
大作等 の語 に見 られ る ような制作過程の諸段 階
業記録 とそれ に基づ く授業反省 の習慣 的意識の
で実際 に行 われる表現方法 に関 わる もの、 2つ
育成 に結 びつ くに違 い ない。
目は発想や想像力 、試行錯誤、 イメー ジの変容
最後 に 「
描 かれ る題材 (
モテ ィー フ)
」につ い
あ るいは発見す る喜 び と感動等 の制作過程 での
て分析 ・考察す る。 措 かれ るモテ ィー フに触 れ
内的な思考性 に関わる もの、そ して 3つ 目はそ
ているシラバ スは多数見 られた。最 も目に付 い
れ ら全 て を記録 し全過程 を僻轍 した制作 の反省
17) で あ り、次 いで
たモ テ ィー フは 「
静物 」(
に関わる ものであ る。 この事項 で一番注 目すべ
「
人体や人物 (
ヌー ド及 び着衣)
」(
1
5)、「
風景」
完成 (
仕上 げ)
」
き点 は、「
制作記録 」(8) と 「
(7)、「自画像 」(5)と続 く なか には心象世
。
(4)である。制作 の過程 を写真 あるいはスケ ッ
罪 (1) や象徴 (1) とい う内面的主題 をテー
チ等で記録 させ、 それ らを最後 にポー トフ ォリ
マ に掲 げた授業 も見 られた。 この事項 につ いて
オ形式で提 出 させ る とい う課題 を出 している絵
は、ある程度予想可能 な ものであ り、特筆す る
反省」とい う目的 をシ
画授業が 8件見 られた。「
べ き点 はない。 ただ、添付資料の細 目に記 した
ラバ スではっ き り記 してあ ったのは 1つのみで
が、人体 の制作 に際 して美術解剖学 を きちん と
あ ったが、制作 を記録す る 目的 は、学生各 自に
学習 させ ている授業が 3つ見 られた こ と、 また
よる主体的な 自己制作 の全過程 の反省 を促す た
静物画の制作 に際 して 「
モテ ィー フ相互の関係
めであろ う それ は同時 に 自分 が どの ようなプ
性 を表す」 とい う但 し書 きのつ いた シラバスが
。
ロセスの果てに作 品 を完成 と判 断 したのか を問
6つ見 られた こ とに触 れたい。極端 な専 門性 は
うこ とに もなる。 制作 記 録 に よる反省 は、「イ
不必要 とは思 われ るが、あ る程度の人体の構造
メー ジの変容」や 「
発見 の喜 び」の時 を振 り返 っ
の 解 剖 学 的 知 識 は 有 益 で あ ろ う し、 ま た モ
て 自覚す ることを可能 に し、 また どの ような経
テ ィー フ相互の関係 とい う考 え方 は構 成力 に も
緯 でそれが完成 に至 ったのか を意識化 させ る、
つ なが る問題であ る と同時 に、 ものの位置や配
創造の意味 を知 るための重要 な活動である。 こ
置 とい う哲学 的テーマ ともな り得 る。単 に教員
-1
5-
が配置 したモテ ィー フをその まま描 くのではな
向が強い。筆者 は大学以外 に現場教員のスキル
く、モテ ィー フの配置 自体か ら学生各 自が試行
ア ップ教育や、教育実習の研究授業、あるいは
錯誤す るこ との意味は極めて大 きい。
授業研究会等 での講師の機会が多 々あ り、学校
教育の現場教 員の実態 をある程度把握 している
(3)く絵画 の知 的理解 に関 わ る項 目)の分 析
と考察
つ もりである。様 々な機会で筆者 は彼 らに対 し
て 「ジャクソ ン ・ポロ ックとい う画家 を知 って
絵画の知的理解の側面については、様 々な事
い ますか」と訊ね ることに している。言 うまで
項が想定 され得 るが、本項 目においては シラバ
もな くポ ロックは現代美術 の方向性 に極めて大
ス表記 のなかである程度の頻度で認め られた事
きな貢献 を した画家であ り、ポ ロ ック風 の アク
項 について分類 した。最 も頻度の高い事項 は「
現
シ ョン ・ペ イ ンテ ィングは、図工 ・美術教育で
代美術 (
現代絵画)
」に関わる ものであ る (
2
2
)
。現
は頻繁 に扱 われている手法である。 しか し、筆
代美術 に言及 した授業 シラバスにおいて、何 よ
者の個人的な記憶 では、知 っている と答 えた教
りもまず現代美術 の概念や考 え方の教授 を前提
師は小学校 においてはほぼ皆無であ り、中学校
と して い る様子 が殆 どの場 合 で見 て取 れた。
において も3
0%程度であった (ここ1
5
年の筆者
デュシャン、ジャスパー ・ジ ョー ンズ、ポロ ッ
自身の経験か らの判断である)。ポ ロ ックを知 ら
ク、 コ ンセプチ ュアル ・アー ト等の具体的作家
ない とい うこ とは、それ以降現在 に至 るまでの
名や イズムをシラバス上で明記 しているケース
美術動 向 を系統 的 に理解 していない ことは明 ら
もあった。 これ らの授業は全 て絵画の制作 を主
かである。現在 の学校教育の場が、いかに現代
体 とす る授業であるが、現代美術 を課題 とす る
美術 の動 向に対 して 目を閉 ざしてい るかがわか
場合、 この ように前提講義が確実 に必要であ り、
る。 しか し、実際の図工 ・美術教育では、素材
それが唐突 に歴 史上 に現れた ものではないこと
に触れてその感触 を確 かめる活動や廃材 を利用
を考慮すれば、現代美術以前の絵画の変遷、つ
した制作 あるいは様 々な素材 を張 り合 わせ るコ
ま り絵 画史への言及 も同時 に必要 になることは
ンバ イ ン ・ペ イ ンティング風の題材、 アクシ ョ
言 うまで もない。現代美術以外 の事項、つ ま り
ン ・ペ インテ ィング風 の題材等 を課 しているの
絵 画表現 の基礎、絵画史 (
絵画表現の変遷)、技
である。 これ ら全 て極 めて現代美術 的内容 を含
法 史、具象絵画、抽象絵画及び近代絵画への言
む ものである。他方、小学校で観察力や描写力
及 は、総数で3
8にのぼる。近代絵画 までの考 え
を育成す るような具象 的表現 は殆 ど行 われてい
方で授業展 開を しているケースが シラバス全体
ない ことは前述 の通 りである。 この事実は矛盾
の多数 を占めてはいるが、そ こか ら現代美術へ
を露呈 してい る。実際 には現代美術 的 な手法の
と更につ なげて授業展 開を試みているケースが
題材 を多 く取 り入れているにも関わ らず、現代
2
2ある とい う結果である。本項 目での考察の焦
美術の動 向や作家作品 についての教師の知識が
点 はここにあるだろう。
皆無 に近い とい うことは、そ うした活動の本質
つ ま り、現代 とい う時代 の反映である現代美
術が、現在の教育学部の絵画教育の なかで どの
なわれている と危快 されて当然であろ う。 教科
ように扱 われるべ きか とい う問題である。現代
書の参考題材 に合 わせ た感覚的で場 当た り的 な
2は、決 して多 く
美術の シラバス上での頻度数2
授業では、教科 としての図工 ・美術教育の存在
ない数字である。筆者がこの点 を危倶す る理 由
意義が問われ るのは必至 であろ う。
は、学校教育の現場教師の殆 どが印象派以降の
定義や考 え方 に各教員の相違 はあろうが、現
絵画表現の動向を殆 ど知 らない とい う悲 しむべ
代美術 を大学の絵画教育のなかに位置づけ、同
き事実 ゆえである。特 に小学校の教師はその傾
時 に現代美術以前 の絵 画史を理解 し、その流 れ
-1
6-
の果てに現在の美術が位置 しているとい うこと
も含めて、 日本人 として伝統的な美意識 とは何
を学生たちに伝 える必要がある。そ うした教育
か、それ を踏 まえた制作 はいかにあるべ きかを、
が大学で活性化すれば、制作 と知的理解が絡み
欧米の絵画概念 に比す るまでに教育の中で高め
合 った、現在 を射程 に据 えた生 きた絵画教育 を
てい くためには、今後かな りの時間を要す るだ
彼 らは享受することがで きるだろう それが図
ろう。長期的展望 に立 ちなが ら、絵画教育のな
工 ・美術教育 に見 られる現代美術 に対す る無理
かに占める日本美術の伝統や精神 に対する言及
解 の壁 を打破することを可能 とするだろうし、
を、 自然 なかたちで取 り入れてい くための方策
。
学校教育において図工 ・
美術教育 を通 して児童 ・
と意識 を、今後特 に教育学部に属する絵画教員
生徒 に何 を教育すべ きか、その正 しい判断を可
は持たねばな らない。
能 にするだろう
。
最後に 「日本の美術」 に関す る事項が 2つ し
(4)く個性 や主体性 に関 わる項 目)の分析 と
考察
かなかった点に着 日したい。 日本画の実技 に関
わる事項 を除外 して、純粋 に 日本美術 を絵画の
絵画表現 における 「
個性」や 「
主体性」の問
授業の中で取 り上 げているシラバス例 は 2つ し
題は、い まさら分析す るまで もな く、近代以降
か なかった。 これ まで筆者が絵画史や技法史 と
美術表現全体のテーマ として主張 されて きてい
して語 って きた絵 画の全ては西洋画である。 シ
る。 シラバ スの分析 か らも、「
個性」 あるいは
ラバス上で も絵画史 -西洋絵画史が暗黙の前提
「
個のイメージ」 とい う語が 8つ認め られ、 ま
になっている場合が全てである。 もちろん美術
た 「
独 自の表現」「自己表現」 とい う語が 6つ、
理論 ・美術史の授業 においては、 日本美術史は
その他個性や主体性 に関わる用語の頻度数は、
教育 されているはずであ り、学生の知的理解 と
7の数にのぼった。 この数 は相対的
少な くとも2
しては不足 はないか もしれない。 しか し、現在
には決 して多 くはないが、平均的にこの類の語
の教育学部の絵画教育がいかに西洋画に偏重 し
が使用 されている様子が うかがえる。 では個性
ているか、この間題 は本稿 の初段で述べ た よう
的表現あるいは自分だけの独 自の表現 とは、い
に熟慮せねばな らない根源的問題である。 同 じ
かなるものを言 うのか。 こうした表現 に伴 う極
絵画 とは言 え、西洋画 と日本の絵画はそのあ り
端 な認識 と して、奇 をて らうような強烈 なイ
方 も変遷の経緯 も極端 に異 な り、その 2つ を同
メージを安易に独創性や個性 とみな して しまう
等 に同 じ絵画の授業のなかで展 開することは不
傾向が、大学教育の場 で もまた学校教育の場で
可能ではある 既 に現在の 日本人は、明治以降
も強 く見受け られるように感 じるのは筆者だけ
約1
40年間、欧米の文化や考 え方 を幼少期 よ り教
であろうか。それはまた美術界全体の傾向で も
育 され、その価値観 も自然 に欧米型 になって し
あるように思われる。大学教育 においてこうし
まっている。 一般の人々はそれがいかに日本人
た個性表現 をそれぞれの教員が どの ような尺度
として不 自然なことか全 く気づかないままに欧
で判断 しているのか、 シラバスか らは具体的な
米美術 を受け入れ、それ らの価値 を偏重す るの
概念が見 えてこないので、 この点 もリサーチが
。
である
。
こうした状況 を憂 い 日本における 「
近
必要である
。
代」 を考察するなかで、 日本人が忘れて しまっ
シラバ スのなかで個性 の探求 を 「自己表現の
た 日本人独 自の美意識 を取 り戻 そ うとす る動 き
核」 を探 ることと言い換 えているものがあった。
が、最近の美術界 に少 しずつ見 られる。 そ うし
あるいは 「自己の奥底 を見つめる」 とい う言い
た動 きに随行 しようとす る兆候 は、 こと教育学
方でそれ を表 している もの も見 られた。 この 2
部の絵画教育においてはまだ殆 どみ られないこ
つの表現 に共通することは、闇雲に個性表現 を
とが、 シラバス分析か ら伺 えた。 日本画の教育
求めるのでな く、 まず は自己 自身の奥底 を見つ
-1
7-
め 自分が何 を表 したいのか、その核心 を静かに
的考察」、「
発想 ・構想か ら表現 に至 る論理的考
探 る思索 のプロセスの方に力点 を置いているこ
察」、「固有の表現 ス タイルの探求 と制作理論の
とである。その結果、鮮烈で奇抜 なイメージと
構築」、 「
2
0世紀 の美術理論の理解 ・方法論の理
は正反対の、はかなげで一見弱 々 しいイメージ
解 とそれを踏 まえた制作」、「
実践 と理論の具体
が立 ち現 れて きた として も、それ も正真正銘の
化」、「
講義 と実技 の両面」、「
技法 と理論の研究」、
個性表現 とみなされる。個性表現あるいは独 自
「
制作 と研究」、「
理論 と技術の習得」、「
作家の
の表現 とは、表現者が正直 に自分 自身の表現の
ス タイル ・技法の理論的実践的研究」等 々にみ
核心 を探 り出 し、それをどう表 した らよいか試
られる表記か ら、制作実践 と理論の絡み合 いを
行錯誤す るなかで、必然的に現れ出て くるもの
授業展 開の主 目的 としていることが分かる。そ
だか らである。そこには、表現者の数だけ表現
の他の事項 において も、「
制作行為その ものの考
の多様性が存在す るはずであ り、その探求へ学
察」、「
素材 と自己表現 の必然的関わ り合い」、「
抽
生 をどう導 くべ きかその方策が大学教員 には求
象の発生の必然性」、「
様 々な文脈の理論的解説」、
め られる。筆者の場合 には、 ドローイ ングとい
「
絵画表現の平面性の理解」とい う内容や、「ニ
う手法 を用い、 日記 として毎 日 ドローイングを
コライ ・ハル トマ ンの二層説」 を取 り上げ彼の
描 くことの中か ら、 自ず と自分が何 を表 したい
理論 に基づいて授業展 開を試みている特殊 な例
のか、それ をどの ように表すべ きなのか、 自問
も見 られた。
理論 を基調 に した授業内容は、先述の絵画の
自答 を繰 り返 しなが ら学生が主体的にそれ らに
気づいていけるような方法 を授業のなかに導入
知的理解 に関わる項 目とも重なる
している。 これは一例 に過 ぎないが、他の大学
に属す る知的理解 とは、先の絵画史や技法 史等
教員が どの ような手立てで、学生の個性 の発現
にみ られる絵画 に直接 関わる基礎的内容 を超 え
を喚起 しようとしているのか、今後 リサーチ を
た更 に深 い絵画 に対す る考 え方や思想 ・哲学 に
。
しか し本項
す る予定である。学生が個性表現 をこの認識の
入 り込んだ内容 と言える。先に造形要素の事項
下 に把握す るな らば、彼 らが教 師になった場合、
で空間表現 について述べ た ように、遠近法や明
児童 ・生徒それぞれに応 じた個性表現 を導 き出
暗法 とい う表面的な再現方法 を超 えて、空間 と
す指導 を適切 に行 うことがで きるであろうし、
い う概念 は難解 な哲学的 とも言 える命題 を抱 え
てお り、それは例 えば本項 目に分類 した 「開か
評価で きる表現の幅 も広 くなるはずである。
れた絵画空間」とい う記述や「
実存 的所与の様 々
(5) く制作 と理論の相関 ・制作学 に関わる項
な表情」 とい う記述のなかにも、空間の哲学的
側面への関わ りをうかがわせ るものがある。 ま
目)の分析 と考察
本項 目は、筆者が このシラバ ス分析のなかで
たセザ ンヌらが捉起 した 「
見ること」 に関わる
最 も注 目した内容 を含んでいる。本項 目に含 ま
諸概念 について も、それは単に造形力 に関わる
れる事項数は5
1
であ り、特別 に分類 を しない ま
だけでな く、見 る とい う行為 自体 の意味 を考 え
ま添付資料 にあるように事項 を列記 した。「
絵画
る論理的認識や思考 を促す内容 を含 んでいる
。
12)、「
素材 と自己表現 との必然
表現 とは何か」(
「ものの見方 と考 え方」、「
思考 された対象」、「
外
的関わ り合 い」一
(
3)、「
画家研究」(2)以外の
「
認識論的転換」、「
見ること・
的理解 ・
知的認知」、
事項は、 シラバス上でそれぞれ 1つ しか記 され
描 くこと ・絵があること」等の シラバス表記か
ていない ものばか りである。 これ らの事項は表
らは、そ うした認識論- の思考の誘いが授業 目
現の仕方 こそ異 なるが、実 は共通す る考 え方が
的の一つ として見て取れるのである。創造行為
認め られる。それは制作 と理論の相関 という考
その ものの意味 を問 う内容の事項 もまたこの項
え方である。 例 えば、「
主題 と表現の関係の論理
発想 ・
構想か ら表現 に至 る論
目に分類 される。 「
-1
8-
理的考察」 とは創造 プロセスその ものの考察 を
再び制作へ とフィー ドバ ック し、創造過程 をさ
意味す る し、「
制作行為その ものの考察」、「
真の
らに活性 化 してい く可能性がおおいに考 えられ
創造性 」を問 う記述や、「
発想か ら実現 までのプ
る 筆者が本項 日において強調す る制作 と理論
ロセスの意識化」、「
絵 画制作 とい う出来事」、「
抽
の相関 とは、 まさにこうしたスパ イラルな相補
象の発生の必然性」、「
創造の発展的解釈」に着
的作用 を意味す るのである。制作過程 を見直 し
眼 した記述 は、いずれ も絵画制作 とい う創造行
てい くためには、前述 の項 目 (
題材 ・
造形要素 ・
為それ 1
1体 を冷静 に見つめ思考す ることを奨励
造形 力 ・制作 と発 表 に関 わ る項 目) にお ける
。
「
制作過程」の事項の中で、筆者がその意義 を
す る内容である。
以上に列記 した教育内容 は、従来か ら主張 さ
強調 した 「
制作記録 に基づ く反省」が、大 きな
れている 「
制作学 」の内容 に全 てが一致す る
意味 を持つ。制作過程の反省 は、学生 たちが 自
美学の- ジャンル として、芸術作品をそのプロ
らの様 々な創造上の諸 問題 を熟考す る契機 とな
。
セス も含めて創造す る側の視点か ら捉 え直す こ
り得 る。 その熟考 を漠然 とした もの に留めるの
とを声高に提唱 したのは、フラ ンスの画家 ルネ・
でな く、制作学的視点 によって論理化 しようと
パ スロンであった。従来の美学が、常 に作品 を
す る姿勢が同時 に求め られるべ きであ り、論理
その外側か ら完成 された事物 として捉 え解釈 し
化 とは普遍性へのアプローチであるので、その
ていたことに疑念 を里 したパス ロンは、 自らが
結果は制作へ の還元 と同時に教育へ の還元に も
主催す る 『
制作学研究』において、画家である
つ なが るのである。
とい う自らの立場 に基づ き、創造過程の内側か
以上の点か ら見れば、絵画制作 と絵画の制作
ら作品を捉 える美学 を提唱 した。パ スロンに先
学 とは絵 画教育 を形成す る 2つの相 関す る軸で
行す ること5
0年 ほ ど前に、 フラ ンスの詩人ポー
あ り、その相関のなかか ら教育 につ なが る様 々
p
o
e
t
i
q
u
e
)とい
ル ・ヴ ァレリーが既 に制作学 (
な学 びが学生のなかで 自然に立 ち現 れ、それ ら
う考 え方 を提唱 してお り、それ を踏 まえてパ ス
がやがて彼 らに教師 としての力量 を もた らす と
ロ ンは美学の 1つのかたち として再提唱 したわ
い う関係構造が想定で きる。今 日の教育学部に
けである パス ロ ンの制作学 については、圃学
おける絵画教育 は、前者つ ま り絵画制作 に関わ
。
院大学教授谷川渥氏が初めて 日本 に紹介 し、谷
ることに比重 を開いた教育内容が主 に設定 され
川氏そ して美術評論家藤枝晃雄氏が中心 となっ
ているわけであるが、少 しずつ後者つ まり絵画
て『
絵画の制作学 』(日本文教出版、2
0
07年)と
の制作学 に視座 をおいた教育内容 も見 られ始め
題 した著作が刊 行 され、筆者 も編者の 1人 とし
ている とい う現実が、今回の シラバス分析の結
て参画 した。 したが って、絵画の制作学の内容
果明 らかになった。 この傾向は歓迎 されるべ き
については同書 を参照 されたい。そ こで提唱 さ
である と同時 に今後 ます ます絵画教育の中に導
れている問題 は、本項 日に記載 された事項 にそ
入 されてい くべ きであろう。
の まま重なるものである。つ ま り、今 日の教育
学部の絵画教育 において、制作学的視点 に基づ
(6)く美術教育 )及び く他専門 との連携 )につ
く教育内容がか な りの頻度で見 られる とい うこ
いての分析 と考察
最後 に、 (
美術教育)及び (
他専 門 との連携)
と(
全65)が、シラバス分析の結果明 らか となっ
についての分析 と考察 を行 う 絵 画に関す るシ
たのである
。
。
制作つ ま り創造 をその内側か ら捉 え、そ こで
ラバスの殆 どは実技 中心の授業内容であるが、
遭遇す る諸問題 を論理的に解明 してい くとい う
シラバ ス表記 において学校教育 における図工 ・
姿勢 を制作学 と定義 して もよいだろ う その論
美術教育 との関 りを指導内容 に明記 しているシ
理的解明か ら導 き出 される仮説 あるいは答 えが、
ラバスが総数で26見 られた。素描 を中心 とした
。
-1
9-
実技授業のね らいの 1つ として、
「
教育の場で素
この ような統合的な新 たな教科内容学の研究が
描表現 をどう伝 えるか も同時に考える」 旨をシ
奨励 されてお り、そのための研究プロジェク ト
ラバスに明記 している例、 また 「
教育実習にお
の一環 を筆者 も現在担 っているところである。
ける教材 を中心 にその教科内容 を理解 し、指導
筆者の研究に関 しては、先述 した制作学的視点
上求め られる基礎的な造形能力を養 う」 ことを
に立脚 した新 たな美術教科専門内容学の構築 を
ね らい としている絵画基礎の授業、あるいは「
小
試みて、
いる。 本稿の研究 もその一貫 と位置づけ
学校児童の発育段 階を制作や工作の過程 に反映
ることがで きる。 この研究については、ある程
した授業計画がで きる能力の習得」や 「
初等教
度の研究成果が まとまった時点で提示する予定
育 における絵画制作の意味」 を考察 し 「
指導法
である。
を考えることで教育に関す る意識 を高める」こ
以上でシラバス分析 と考察を主眼 とした本章
とを目指 した絵画の基礎実技等、全 シラバスの
を閉 じるが、本節 をまとめるにあたって再度前
約 1割 に過 ぎないが、単なる絵画の実技や絵画
述 したシラバスに見 られた授業のね らい、つ ま
の専門的知識の教授 に留 まらず、教育学部であ
り 「自らが美術 を学び教 えることへの根拠の発
ることを踏 まえた絵画教育の指導が、少ないな
見」 こそが、教育学部の絵画教育に貫かれねば
が らもなされている現実をまず は歓迎 したい。
ならない教育内容の原点であ り目的であること
この内容 を明記 したシラバスの中で 「自らが美
を強調 して本章の結論 とする。
術 を学び教 えることの根拠の発見」 を学生 に促
そ うとす る授業内容が 1件見 られた。 これは単
おわりに
なる教育に対するスキルの伝授 に終わるのでは
な く、教育 自体の本質、そ して教育者 としての
本稿で筆者 は、現行の教育学部における絵画
自身の根拠 に対する、絵画 を手立て とした強い
に関る授業 シラバスの分析のなかか ら、その現
自覚の喚起であ り、それは絵画教育 に留 まらず
状 と今後の課題 を探 った。第二章における分析
美術の全専 門教育 に対 して 目指 されるべ き理念
と考察において、筆者が シラバスか ら抽出 した
学校教育 における図工 ・
であろう 大学教員が、
キーワー ドの分類 に基づ き、それぞれの項 目を
美術教育 との審なるリンクのなかで大学 におけ
検証 し現状 と課題 を導 き出 した。繰 り返 しにな
る絵画教育 を考え指導することは、教育学部に
るが、そ こか ら今後の大学 における絵画教育の
おいては絵画に限 らず どの専 門の授業 において
課題 に関るもの を再度抜粋することで本稿の結
も必至であ り、芸術学部のそれ とは異 なる前提
語 とす る。
。
に立たねばな らない。 しか し、現実はシラバス
分析 に見 られるようにその ような意識は総 じて
まだ希薄であると判断する しかない。 この現実
は今後確実 にかつ性急 に改善 されていかねばな
らない。
・油彩画に関す る授業の位置付 けの再検討の
必要性。
・素描 におけるデ ッサ ン的側面 と ドローイン
グ的側面 との融合の検討。
・日本画や水墨画の扱 いの更なる必要性及び
他教科専 門 との授業連携の可能性 も、今後の
課題 として残 される。 シラバス上は 2件のみの
言及 しか見 られなかったが、今後の教育学部の
教科専門の 目指 されるべ き方向性 として、教育
内容 を統合す る新たな教科内容学の構築研究が
自国の絵画の歴史や美質について時間をか
けて取 り入れてい く必要性。
・漫画やアニ メーシ ョン等の映像 メデ ィアを
実質的に教育する方法の検討。
・感性の定義や捉 え方に対する大学教員への
現在奨励 されている。筆者が所属する東京学芸
リサーチ。学校現場 における感性の育成 と
大学連合大学院学校教育学研究科 において も、
観察力や描写力の獲得 との相関の現状 に対
-2
0-
・教科専 門相互の連携 と統合的教科 内容学へ
す る リサーチ と考察。
の志 向。
・現代美術 に までつ なが る絵 画の変遷 に対す
以上の課題のそれぞれについて、今後 リサー
る知的理解 の重要性。
・個性や独 自性 を どの ように捉 えるか、 また
チ に基づ き考察 して い く。
それ をどう喚起 させ るのか、具体的な方策
についての大学教員へ の リサーチ。
付記 :本研究 は平成 1
9
年度科学研究費補助金 (
基盤研究
・制作学的視点 に立 った絵画教育の推進の必
(C)) を受 け行われた ものである。
要性。
・学校教育 にお ける図工 ・美術教育 との密接
(
2
0
0
7年 9月2
8日提 出)
なリンクの下 での大学 の絵 画教育展 開の必
(
2
0
0
7
年1
0月1
9日受理)
要性。
- 21-
漆付 資料 r
全 国図立 教 員養成大学 ・学部 にお ける絵画授 業 シラバ ス か らの キー ワー ド頻度一覧』
事
項目
項
使 用頻度数
平面
3
1
8 :基礎 1、材料 .技 法 6
日本 画
油彩 画
59
水彩 画 (
透 明水彩 .不透 明水彩)
2
2
ア ク リル画
1
2l
の
法
辛
に
デ画
ッサ ン .素描
版
古 典技
(
木炭 .鉛筆 )
3
3 銅版画
石膏像
8
1、
人物
1
1
9
版
画 とは何
1
9、静物
(
か
エ ッチ
6凸版
ング
:
木版
1
0、
画ドラ
8luイポ
l
f
坂: 版 画制作 にお け るア クシデ ン
1
8
法
項
わ
関
る
一
一
25
映像 メデ ィア
メデ ィア 3、 フ レス コ 6
料 4、 メデ ィウム 5、豚 2
写真
メデ
C
シ
トゲー
G
ョン
1
ィア
l
5、コピー
、
ム
2、絵本
コ
1
.、チ
アー
ンピュー
1
ャ
1
ト
、ッ
1
漫、
タ
ト
画2
Ⅰ
1
1
、
、映像
T
、イ
アニ
l、
ンネ
メー
ター
6、
ッ
細密描写
5 l
5
1
2
3
フロ
1、 コラー
ッター ジュ 2
1、 デ カル コマ ニ ー
5、静物 1
7、風景画 7、青葉 5、心 象
互 の関係 6、現 地 の 自然 や人
描 かれ る題材 (
モ テ ィー フ)
55
世界
1
、象 徴
、自然
4、生
活の像
中
人物 .
人体
(
裸2
婦
.着 衣)
1
5、自画
との接 触 1、異
なテ
る環境
で
美術解剖学
3、 モ
ィー 化
フ相
造形 要素
61
識)
明暗法
質感
プロポーション
ンポ1
5
ジシ
2
、
、
5
色
マテ
、
ョン
彩
遠近法
7
イエール
)6
、
2
形
3
、
、リズム.
、
調子
(
形態)
素材
4
とヴアルール
、(
空間表現
画材)
5
バ
、構
ラl
図
ンス
l(
意
コ
1
.
、
モ ダ ンテ クニ ック
形
衣
に
トの積極的導入 1
支持 体 .基底材 .下地 5、顔
:
5 l
表現 の多様性
材
追
●
莱
形
追
要
力
制
作
発
項
関
わ
る
と
H
●
イ
リン
トグラフ
ト6、 アクアチ
7
ン ト3)平版
テ ンペ ラ 8、混合技 法 4、ミクス ト
模写
写生
過
ラ
グ リザ
ツシ)
イユ
4、
5、
白色
グ浮
レーズ
出 1 (グ
基礎 6、材料 .技 法 36
2l
I
水墨 画
絵
その他 の細 目
1
0
ドロー イング
現
衣
画
主 な細 目と頃度数
制
造形
作力
過程 (描 き
始
め
か ら完
成
ま
で) 5
69
8
作
大作
試行錯誤
エスキース
感性
力1
由な構想
1、判断力
3
9
、制作記録
4
、描写力
1
1
、見ること
、構
4
1、スケッチ、クロッキー
、原寸大の下図
4
想力
1
、テーマ
、表現
9、思
8、完成
4
5、構
、楽
1
考力
力
1
、想像力
しく
成力
1
(
仕上げ)
2
、計
4、
描
、継続的制
7
く
、観
集
画3
4
性
中力
、l
、発
4
1
察
2
、
:
1
の美 1、日常生活 1、生活廃 棄物 1 制作す る度量 1
見する喜びと感動
反省
1、ディスカッション
1、イメージの変容
3、プレゼ ン
1、
-2
2-
項
目
事
項
使 用額度数
絵 画技 法 史
5
絵 画表現 の変遷
7:
具 象絵 画 .リア リズ ム
6
抽 象絵 画
4
近代絵 画
7
知
項
的
l
絵
理
解
両
の
関
わ
に
る
絵 画表現 の基礎
現代美術 .現代絵 画
人 間性
性
個
や
主
主体性
独
自の表現
個性
1 ;
(自己表現)
(
「個 」のイ
メ ー ジ)
1
3
自己 の 奥 底 を 見 つ め る
1I
l
自己の適正 に合 った表現 の深 ま り
2
1 l
I
発想 .構想 か ら表現 に至 る論 理 的考察
1
画家研 究
2
研 究活動
1 I
l
固有の表現 ス タイルの探 求 と制作 理論 の構 築
1
実践 と理論 の具現化
項
関
わ
に
目
1
2
主題 と表現 の関係 の論理 的考 察
2
%
0
芸警 冨誓警 害悪完 理解.
方法論の理解と
理的な作品
解説
理
作
毒
刺
と
(
∼論
ものの見方
と考
え方
作
学
る
8
自己表現 の核
絵 画表現 とは何 か
冊
5
6;
自己表現 の可 能性
性
体
項
関
る
に
わ
目
9
2
0 題
コ
ジ
シャ
(
キ
ャスパ
ンセ
と題材
ャ
ンプチ
ンヴ
1、
ー
1ユア
.
シェ
ァス)
ジ ョー
ル
イプ
2
.アー
ンズ
、現
ト .1
代
パ
ト
、デ
的主
ネル
2、
ュ
2
日本の美術
棉
p
刺
の
関
●
主 な細 目 と頻 度 数
I
1
1l
1
I
l
1
講義 と実技 の両 面
1
思 考 された対 象
1
技 法 と理論 の さ らなる探 求
1
制作 と研 究
1
理論 と技術 の習得
1
技法理
論 の研 究
技法
と理論
1l
I
1l
I
l
制作 行為 その ものの考 察
1
真 の創造性
1
新 しい感性 と創 造力
1l
I
素材 と自己表現 との必 然 的 関 わ り合 い
3
物 質 と変化 との 関係
1
発想 か ら実現 までの プ ロセ スの 意識化
1
-2
3-
そ の他 の細 目
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