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境界と異人の組織論 - 香川共同リポジトリ

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境界と異人の組織論 - 香川共同リポジトリ
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
香川大学経済論叢
第7
3巻 第 3号 2
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0年 1
2月
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3
5
3
0
6
境界と異人の組織論
原因
保
1.境界と異人からの組織論への接近
我々は,普通には従来からいわゆる会社勤めというものが,まさに 1日の内
一定時聞を例えば午前 9時から午後 5時までを,特定の自分の住宅以外の場所
において,すなわち会社の事務所や工場で働くことであると理解してきた。こ
のことは,実は場と時間によって,それぞれの労働に費やされる時間的,空間
的な資源が特定されていたことを意味している。そして今までは,この切り分
け発想に立脚した時空間の捉え方が,企業側にとってもまた生活者側にとって
も十分な意味が見出されていた。
しかし,これが,昨今のインターネット革命が現出した多様な境界融合によっ
て,すなわち時間,空間,主体,原理などの融合によって効果を発揮しないば
かりか,競争戦略面の制約条件にもなってきた。また,生活者サイドにおいて
も,インターネットをトリガーとした生活の多重化や複合化が実現でき,従来
の切り分け発想による単サイクル方式のライフスタイルでは満足ができない段
階に突入し認。
このことは,インターネット時代の知識をプラットフォームとしたビジネス
スタイルやライフスタイルが従来のアナログ時代の主に工場をプラットフォー
ムとしたビジネススタイルやライフスタイルとは異なっていることを意味して
いる。したがって,このような時代には,企業が従業員や顧客を支配したり従
属させたりすることを狙った経営戦略がまったく通用しなくな
Z
。
すなわち,今後のインターネット時代には,それに相応しい企業経営のスタ
イルの獲得が要請され,併せて企業の舵取りする経営者の役割やカウンターパ
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ワーとしての労働組合の役割なども根本的に転換することが要請されている。
このような状況下では,企業の社会における存在意義を聞い直し,その社会的
1世紀に相応しい企業経営のノウハウを確立すべくビジネスモ
貢献を確認し, 2
デルやコーポレートガパ、ナンスに対するイノベーションが不可欠になる。
1世紀の企業経営に期待され
このような問題意識から,ここにおいてはまず 2
るマネジメントの枠組みを従来議論されていたコーポレートガパナンスの概念
の枠を越えたものとして捉えることとした。そして,次世代経営に相応しい企
業経営に関わるコンテキストを確立するために時間と空間を捉えた経営を追求
し,併せてこれによって次世代ビジネスモデルやコーポレートガパナンスにつ
いての方向性を探ることとした。
なお,そのため本稿においてはまず企業における時空間の位置関係の転換を
理解すべく時空間における中心と辺境・境界についての基本的な考え方を述べ,
続いてこれらの時空間の繋ぎ手が登場することで構築できる時空間の境界融合
原理について多面的な言及を試みている。そして,これによって新世紀に相応
図-1 級織デザインの基本構造
現代思想としての
組織デザイン
日常空間の
中心と
辺境"境界
×
組織デザインの
未来展望
時空間の
共創原理と
共時性
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しい企業経営を可能とする新たな組織論理について,すなわちある種の自己組
織的なコーポレートガパナンスを可能とする有機的共同体としての企業組織に
ついて未来展望を行っている(図-1)。
2.時空間の中心と辺境・境界
2
.
.
1 異能人材が活躍できる時空間
さて,時代が変わり社会を規定するパラダイムが転換すると,そこで期待さ
れる人材像や組織概念が転換してしまう。そこで,企業や人材のパワー関係の
革新が行われ,その摩擦によって新たな時代を乗り切るためのビジネスモデル
やマネジメントモデルが現出してくる。これは,また既存の価値観とは異なる
行動規範を持った異能人材が活躍できる組織フィーノレドが登場したことを意味
している。
このことは,従来のいわゆる良い企業や強い会社の概念を根本から破壊し,
エスタブリッシュメント企業がもたらす共同幻想を徹底的に払拭すべきことを
要請している。これは,すなわちいわゆるニコーカマーの登場やベンチャーの
台頭を意味しており,結果的には今後の企業経営においては,必ずしも資産や
人材を自ら保持しなくても事業創造が可能な時代が到来することを意味してい
る。言い換えれば,このことは規模の大小や産業の水準などとは全く縁のない
企業や事業のマネジメントが行われる時代が到来したことを表している。
このような時代の組織においては,実は中心よりも辺境に,そしてさらに外
部との接点を多様に保持している境界に対してこそ,価値創造を担う場として
の期待が寄せられる。こうなると,企業においては求心力よりもむしろ遠心力
の方が尊ばれるようになり,また企業に対するロイヤルティも内なる企業に向
けたものから,逆に外部との共生による価値の内部化という外部志向の強いも
のへと転換してしまう。
したがって企業経営においては,これらの変化に対して十分に適合できるよ
うな組織概念や人材像を明確に予見しておくことが重要な課題となる。そこで,
このような問題意識に立脚し,ここでは時空間の辺境と境界について多面的に
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考察を加え, 2
1世紀の企業がどのような組織や人材によって担われていくのか
1世紀において企業や個
についての提言を試みていく。これは取りも直さず, 2
人が厳しい競争を勝ち抜くための 1つの方法論の提示である(図-2)。
図 -2
辺境の異人からプロデューサーへの進化
〆〆'
j
¥
異人
斡
知の編集者
としての
プロデ、 2 ーサー
時
吋
/マ
. ージナルマン
または
l
ビジネス
プロデューサー
、
、
、
そこで,ここでは第 1に辺境や境界において異能を発揮する存在,すなわち
マージナルマンとか異人とは一体どのような存在であるのかについてデビッ
ト・リースマンや赤坂憲雄に依拠しながら考察を試みる。そして,この辺境概
念に基づいた代表的なマージナルな産業である流通業の持つ本質とその限界に
ついても言及してみる。そして最後に,この限界を乗り越えることを可能とす
ると思われる考え方であるレギュラシオンアプローチについて若干の紹介を
行っておく。
続いて,第 2に境界や辺境に作むマージナノレマンや異人の基本的特性をプロ
デユース能力であることを主張し,したがって境界の異人とはプロデューサー
であるとの仮説の提示を行っている。具体的には,この境界の異人たるプロ
デ、ユーサーはいわば知の編集のエキスパートであり,知がある特定の場におい
て創造されていることについて言及している。そして,このプロデューサーが
パワーを獲得するための内部化による方法と外部化による方法という 2つの方
法論について提示を試みている。
そして,第 3に豊富な成功事例を取り上げることによって新世紀におけるプ
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ロデューサー像の明確化が行われている。ここでは,ビジネスプロデ、ューサー
の可能性をポジティブに評価しながら,このビジネスプロデューサーとして,
具体的には,第 lにはスーパーエージェント,そして第 2にはコーディネート
ベンチャーを取り上げ,それらの特徴と優位性についても言及している。なお,
前者においては,ダイコク電気と MBK流通パートナーズ,後者においては,
ザ・スーパ}モデルプロジェクトと都市デザインシステムを,それぞれ事例とし
て取り上げている。
22 マージナルマンにみる戦略性
ド
一般的には,マージナノレであることがポジティブに捉えられる場合は少ない
が,それはマージナルという言葉に感じられる弱者とか差別された者というイ
メージに起因している。そもそも,このマージナルという概念については中心
という概念があることで初めて意味を持つものであり,したがって元来従属的
な意味合いを持った概念であるといえる。しかし,この境界とか辺境という場
は異能を保持したマージナルマンがすなわち異人が存在する時空間であること
を認識することが大切である。
また,異人が備えている異能が今やパラダイム転換へ向けたブレークスルー
を可能とするトリガーとなっているし,これによって新たなパラダイムも形成
されている。そこで,ここにおいては辺境や境界そして異人をポジティブに捉
えながら,それらの持つ戦略性について多面的な言及を行うこととした。その
理由は,このようなことを行うことでマージナルマンすなわち異人という概念
を経営戦略に適用させるためである。
具体的には,まず第 1にリースマンのいう過渡的トルコ人からマージナルマ
ンについて理解を深め,続いて第 2に境界性と周縁性という場に作む異人につ
いて,その上で第 3にマージナルな産業としての流通産業についてそれぞ、れ言
及し,最後に流通産業にも見出される課題克服のためのアプローチとしても期
待できるレギュラシオン理論についての紹介を行ってみる。
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1) リースマンのいう過渡的トルコ人
昨今,デジタルデ、パイドの問題が大きな課題になっているが,このようなこ
とは大きなメディア革新が行われた際には実はいつの時代においても生じてい
た。それは,メディアを握っている者がいつでも権力を保持でき支配権の行使
が可能だったからである。このように,メデ、ィアとはいわば場と場を繋ぐ窓の
ようなものであり,また知識の場における移転を伴うものであり,そのためメ
ディアを保持する者は自らの都合で自在に知識の編集を行うことが可能なので
ある。
このことは,まさにグーテンベルグによって印刷メディアが開発された時に
も当てはまることであったし,今回のインターネットの登場においても全く同
様と考えることができる。そして,メディアの主役の交代時にはいつでも権力
闘争が蛾烈に展開され,時代の支配者がメディアの変遷とともに交替していっ
たことは周知のとおりである。このように,メディアを制した者はすべて時代
のいかんを問わず必ずや権力の獲得に成功している。
さて,メディアの支配者の獲得する権力については,リースマンが述べてい
たマージナルマンにきわめて典型的に表されている。このリースマンの論述と
は,実は近代化の波が押し寄せた時代におけるトルコの首都アンカラ近郊の小
村パルガードで行われた著名な調査結果の報告であった。これは,具体的には
近代化における権力闘争の担い手として 2人の対立しあう人物,すなわち村長
と雑貨屋を設定することで分析を試みたものであっ足。
そこで,以下において赤坂憲男の解釈に依拠しながら,このリースマンのい
わゆる過渡的トルコ人が意味するメディアの掌握と権力の獲得についての考察
を試みる。さて,ここにおける村長とは小さな村の絶対的な独裁者であり,古
いトルコ社会の倫理やイデオロギーの体現者として村の外部からの情報や知の
唯一の,かつ巧みな管理者としてすべての村人の上に君臨していた。この村長
は,村にたった 1台あるラジオから流れるメッセージを排他的に管理すること
で外部からの情報を彼の価値観で編集し,それを村の伝統的価値体系の中に持
ち込んでいた。
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しかし,次第に村長はマージナ J
レマンたる商人である雑貨屋によって権力を
侵食されていった。さて,この雑貨屋は実は村で最も都会的な服装をしており,
また村でただ一人だけ農業に携わらない人物であり,そのため彼は村人からは
一段と低い位置にあると考えられていた。しかし,このような商人たる雑貨屋
が,実際には村の伝統的な価値体系に立脚した排他的な独裁者である村長一派
達を脅かす異質な価値規範に根差した知の担い手として登場したのであさ)。
この雑貨屋はある種のトリックスターであるが,彼においては閉ざされた共
同体の中に外部の空気を導入していることに,その存在意義が見出される。か
のリースマンは,この過渡的トルコ人である雑貨屋についてある種のオピニオ
ンリーダー的なパーソナリティを備えたマージナノレマンであったと述べてい
る。すなわち,この雑貨屋は,首都アンカラと小村ノてルガードという異質な文
化秩序の境界に位置するとともに,同時に近代化という歴史的時間の境界にも
位置するという,いわばこ重の意味においてマージナルマンなのであった。
しかし,近代化が進展しすなわち時代が変わり,その結果として小村パノレガー
ドが首都アンカラの郊外としてそこに完全に組み込まれると,たった 1つのラ
ジオを持つことで権力を持った村長は権力を喪失したのだが,同時にマージナ
ノレマンとしての雑貨屋の役割も終荒してしまった。このことは,すなわち外部
との関係において権力を持っていた存在者が,まさに外部が喪失したことでそ
の機能をまったく果たせなくなったことを表す好事例であ
Z
。
このように,メディアの権力的な価値は時代とともに変化していき,この結
果権力の保持者もまた時代とともに転換することとなる。これはすなわち,メ
ディアの転換が権力構造を根本的に転換してしまうため,例えばある時代の強
者はその時代においてのみ強者として存在できることを示している。その意味
においては,どんな時代においてもきたるべき次世代の支配的なメディアが一
体何なのかについてきめ細かく誼視することが大切である。
(
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) 境界性と周縁性に停む異人
このように,マージナルマンとは 2つ以上の異質な社会文化の境界に作む人
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聞を意味しているが,この空間的に辺境にいるマージナルマンには辺境ゆえの
特異なパワーが付与されている。なお,このマージナルマンの類似概念である
周縁人については,集団の成員としての資格や機能を十分に果たさない人聞を
指し示している。その意味においては,境界性と周縁性とは若干意味が異なっ
ており,前者については空間概念のみならず時間概念をも含んだものとして捉
えることが一般的である(図-3)。
図-3 周縁性と境界性との比較
[境界性]
[周縁性]
忍弘
忍!-
い
T
中
中心
赤坂憲雄『異人論』ちくま学芸文庫より
さて,赤坂によればこの周縁性とはある価値体系の内部における構造の揺ら
ぎであり,中心からの距離の遠さが重要な指標の lつである。また,外部から
孤立した内環の内側においては,周縁は中心に奉仕する補完項としてのみ存在
が許容されている。したがって,例えば悪場所とか祝祭という周縁的な時空に
放出されるカオスは,まさに一定水準を超えることなく中心の秩序を裏側から
補完するように方向づけられる。
また,これに対して境界性とはある価値体系の内部と外部の間にある空虚で
あり,したがってそこから湧き出すカオスの強さが重要な指標の 1つとなる。
そして,この境界とは内部の補完項ではなく内部と外部の分割という普段の運
動そのものとなる。したがって,境界については秩序の創造と崩壊が繰り返さ
れる不安定な場ということになる。したがって,例えば洞を置き杷り注連縄を
はる境界儀礼などは外部性に向けた対抗措置であると考えられる。
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しかし,この周縁性と境界性はともに社会のマージンに位置づけられる人々
の 2つの貌であることでは同類なのである。例えば,よそものとは共同体への
帰属の暖昧さという点では周縁人であるが,異質な外なる世界の価値規範を引
きずりそして新しい共同体の価値規範との狭間に位置を占めるという点、からは
典型的な境界人である。また,いず、れにしても境界性を帯びた存在は,一方で
は空間的には多かれ少なかれ周縁的な場所におかれているが,他方では時間の
経過とともにその周縁性は希薄になっていれ
さて,赤坂によればこの類似する周縁性と境界性はともに異人のカテゴリー
として位置づけられるが,図式的にみると周縁人に境界人が含まれるという考
え方が妥当であると思われる。そして,この境界性については実は 2種類に区
別することができる。すなわち,その 1つは空間構造上から抽出された悪質な
社会や文化の境界に倖む人々の帯びる境界性であり,その 2つは時間構造上か
ら抽出された通過儀礼も過渡期にある人々の帯び、る境界性であ
g
。
さて,周縁や境界という異界において誕生した代表的なものとして市場があ
げられる。これは,言い換えればどんな場合においても異人は商人として姿を
表していることを意味する。かのジンメルによれば,ものを媒介とした交通の
担い手である商人は,共同体にとっては常にすでに異人であることが宿命づけ
られている。なお,赤坂によれば商業と異人はすでにギリシアの時代からポリ
スにおいては境界と周辺に位置づけられていた。
実は,この商人とは境を横切る存在,すなわち共同体の内部と外部を限る境
界を越えて往復することのできる存在なのである。商人は,交通の志向性ゆえ
に,あるいはむしろ交通それ自体であるがゆえに孤立したミクロコスモスを形
成し,自足する共同体に対して否応のない異和を苧んだ存在となっている。そ
して,このような商人は財貨を蓄積することになるが,しかしこれによって共
同体の規範から逸脱するような価値規範を生じさせていど。
さて,商業が営まれる場としての市とは一体どんな特徴を持っているのだろ
うか。なお,ここにおいても引き続き赤坂に依拠しながら歴史的な観点から考
察を加えてみる。実は,折口信夫以来ず、っと山人と里人との交通の場が市の起源
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をなしたと考えられている。これは,あきらかに異質な共同体が接触する場所
に古代の市が立てられたことを意味する。すなわち,市は里からみれば共同体
と外部を分かつ境界に立てられていた。
なお,この市は聖性を持っていたが,その理由は市がそれぞれの共同体に対
して中立的な無縁的な存在であったからである。我が国の中世では,市は辻,
川原,無主荒野,寺社の門前という無主や無撮の領域に設けられていた。この
ように,商交易は本質的には外部性とか無縁性を刻印されたものであった。そ
して,ここで述べた市とは,実は物の循環する結節点であり,多様な知がネッ
トワークを巡って循環する外部に向け聞かれた窓のような両義的な空間であっ
た
。
さて,あらゆる交通は概ね共同体のつきはてるところ,すなわちそれぞれの
共同体が他の共同体またはその成員達と接触する地点において芽生えている。
また,この市について大切な観点は,市において外部や他者を発見できること
であり,したがってこのことにより内部及び自己が誕生することである。すな
わち,このような市とは結論的には異人との交換すなわち交換の時空であると
考えられ
Z
。
(
3
) マージナルな産業としての流通業
以上のことから,商業がマージナルマンによる境界の市に誕生したビジネス
であると推定できる。このような観点に立脚すると,かつて堤清ごが流通産業
とはマージナ lレ産業であると喝破したことがよく理解できる。そこで,以下に
レについて若干の考察を加え
おいては,堤が述べた流通産業論にみるマージナ 1
てみる。なお,この理論については,今においても個別企業や個別産業におけ
る内部のアクティビティを超えた画期的な産業論として高く評価することがで
きる。
さて,古くは市から発生した商業は次第に産業化を押し進め,現在では流通
産業という一大産業にまで発展を遂げることとなった。しかし,流通産業は製
造業に代表される伝統的産業とは異なり,本来的にきわめて多大な矛盾を抱え
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た産業である。すなわち,流通産業を担う企業は,一方では企業主体としては
半独占的な性格を持ちながら,他方では競争していく上ではビッグビジネスを
目指さなければならない産業なのであ
g
。
堤においては,これを資本制生産様式の中における自己矛盾であるとみてい
た。このような自己矛盾を抱えているため,流通産業は産業をなすにあたって
きわめてマージナルな存在として立ち現れることとなった。このような生い立
ちの中から,流通産業はマーケットオリエンティッドな産業として発展して
いった。それは,すなわち流通産業とは市場志向の人間の論理と資本の論理と
によるマージナノレな産業であることを運命付けられていたことを意味してい
る
。
堤によれば,このように資本の論理と人間の論理の境界に立つマージナルな
存在である流通産業は常に内部に緊張関係を苧んでいる産業である。それは,
資本の論理と人間の論理は,現実社会の問題としては調和できても原理的には
調和できないし,また安易に調和させるものではないからである。そこで,流
通産業を検討する際には,社会,政治,文化など経済のシステムを含むシステ
ム全体の中で検討されることが不可避となど。
このようなマージナノレな産業としての流通産業は,我が国経済の成熟期を迎
えるにあたり,今やますますその資本の論理と人間の論理との境界性にマージ
レ性を強調したデザイン構築が期待されている。そこで,堤はこのような観
ナl
点から,消費社会の聞い直しを行うべきことを強調したのであった。そして,
このような問題意識から言及された概念が流通産業におけるかのネットワーク
論の導入なのであっ
E。
今井賢一と金子郁容がいうように,ネットワーク関係が機能するとマーケ
ティングは作ったものをどう売るかではなく情報の相互解釈のプロセスとな
る。それは,消費者とのコミュニケーション,環境とのコミュニケーションを
ベースにした企業相互間の情報交換をも可能にし,結果として情報の選択肢を
多様化する。また,ネットワーク関係はシャドウワークや従来の自由市場経済
では捨象されていたサービス労働などを実は誰にでも見えるようにすることも
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できる。
このようなネットワーク論に依拠して,堤は市場や企業組織のあり方につい
ても言及を行っている。もしもマージナノレな認識に基づけば,市場における商
人はいわばミクロ情報とマクロ情報を持ち経済的交換と社会的交換が行われる
場に立っていたといえる。したがっ、て,市場とはその意味では動的不確実性に
対応するシステムなのであった。なお,動的に情報を蓄積することとはそれを
組織の内部に溜め込むことではなく,市場における運動法則と市場法則を現実
に近づけることであ
Z
。
そして,これこそがマーケティングの本来的な役割なのであった。なお堤に
よれば,このような本来的な役割に則ってマクロレベルでのマーケティングコ
ンテクストを確立することが,ネットワーク論を流通に持ち込む戦略的な意義
になる。また,堤はこうしたわが閣においてはネットワークが新たな産業構造
ili--
を現出するのではなく,むしろ今日の支配体制と公認の秩序を追認するネット
。
。
ワークとなることを予見していた。
(
4
) レギュラシオンアプローチのマージナル性
以上のように,流通産業はマージナルなアプローチによって,最後発の産業
ながら現在では一定程度の影響力を持った産業として多大な発展をみるにい
たった。なお,このようなマージナノレな観点、を重視した経済理論としては,今
や世界的にレギュラシオンアプローチがおおいに期待されている。これは,元
来は一種のマルクス主義の流れであったといえるが,近年の共産主義の終駕を
迎えた現在でばこれが次世代型のポスト工業社会のニューパラダイムとして登
場している。
さて,このレギュラシオンアプローチは,ロベール・ボアイエなどによって
提唱されたオイルショック以後の世界経済と経済学の危機を救うために提唱さ
れた考え方である。したがって,これはマルクス主義の混迷のみならず,同時
に資本主義の課題をも問題視し,資本主義の調整(レギュラシオン)を行うこ
とで転換期の世界を乗り切るべく提唱された広汎な概念といえる。なお,これ
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における最大の特徴は世界を経済,社会,歴史の総体として捉えることである。
さて,山田鋭夫によれば,レギュラシオニストの課題は経済的社会的動態の
時間的空間的可変性を解明することであるとするボアイエの解釈が最も的を射
ている。すなわち,これによればレギラシオンアプローチとは,眼下の資本主
義をその動態性や多様性において把握することであり,また経済主義と手を切
り制度的機構などの社会的動態を有機的に包摂した理論構築を目指すことで
あった。
このレギュラシオンアプローチはアノレチェセールを越えて,すなわち構造化
された構造や調整された調整ではなしむしろ構造化する構造や調整化する調
整として社会や歴史の解明を試みる考え方として登場している。なお山田によ
れば,このようなレギュラシオニストが踏まえているのが,かの P
.
.ブりレデュー
のハビュトス論なのである。このブルデューのハビュトス論とはまさに主観主
義に陥ることなく構図主義から脱却するための概念であり,これによれば人間
の行為は以下のように定義できる。
さて,プノレデューにおいては,人間の行為とは主体的合理的計算の産物とし
てでもなく(新古典派批判),構造にすべて規定されたたんなる付帯的現象とし
てでもなく(構造主義批判),むしろ身体化された社会的なもの,すなわち社会
的に獲得された性向として,かつゲームのゼンスのような実践的な感覚そして
状況への即興的対処の中に,はっきりみられる生成的な自発性であると定義さ
ω
)
れる。
そして,ハビュトス的な実践に媒介されて構造が再生産されていくと捉える
のが,フやルデューの捉え方であると考えてさしっかえない。すなわち,彼によ
れば,ハピュトスとは構造化する構造として機能する素性を持った構造化され
た構造ということとなる。そして,構造を所与の既成体としてではなしむし
ろ諸個人の戦略的実践によるその闘争的発生の相から捉えようとするのが,ブ
ルデユ}の構築主義的な構造主義の特徴なのであ
Z
。
そして,ここでいうレギュラシオニストの調整概念は,このハビュトスと相
即する思想地平に立 っている。この調整概念はリビエッツによれば,社会的な
i
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ー
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9
8
ものを個人の行動において体現する内面化された規範や社会的手続きの総体,
すなわちハビュトスが調整様式といわれるものである。この理論においては,
歴史と切れたいわゆる純粋理論ないしは大理論を拒否する姿勢が濃厚に感じと
a~
れる。
さて,このレギュラシオンが主張している代表的な概念にポストフォーデイ
9
7
0年以降の持続的成長を支えたフォーデイズムに取って
ズムがある。それは 1
9
9
0年以降における成熟期の経済社会のニューパラダイムとして提
代わって, 1
示された概念である。これらの考え方にそって,わが国においても多様な理論
的研究と運動の展開が行われている。その中で,特に注目すべきものとして,
中村陽ーのいうポストフォーデイズムの社会運動論がある。
この運動は,フォーデイズムに代わる羅針盤としてユートピアを持ちながら,
いかなる社会的な妥協を実現していくのかという間への解答を提供するもの
だった。なお,ここにおいて大切な観点、は,生活や労働の質を問い,そして自
律と共生を求める意識が広がる事実を見据えた自由時間の増大,また協同組合,
共済組合,自主組織,多様なオルタナティブ運動,労働組合などを主体とする
自発的多様なネットワークや第 3セクターによる地域の自律的な発展に依拠し
ながら社会の組替えを志向することで、あっ症。
しかし,ここで大切な留意点は,身近な自分がその中で生きていると実感で
きる場でのやりとりに発する社会的な行動に対する準備状態としての構え,言
い換えれば行動の起動力になる精神のパネを自己の内面に作り上げ,そして漠
然とした考えを生きられる思想として具体化していく主体としての人間である
という観点の保持である。このような人間観は,人間とは生活者でもなく市民
でもない主体であるというものであれそしてこの主体としての人聞が立ち現
れるところに実は場も立ち上がることができ
E
。
23 境界の異人としてのプロデ、ユーサー
引
今後の企業経営の方向を考えるにあたり,従来型のアプローチとは全く異な
る戦略的発想が不可欠との認識から,前節においては特に場の概念としての辺
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9
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境や人間の組織に対する位置概念である異人やマージナルマンについて論述し
てきた。その理由は,このような観点を持った戦略的な対応こそが今後の企業
社会においては企業にとってもまた個人にとっても有効であると考えたからで
ある。
そこで,ここにおいては境界という場概念や異人という人間概念を企業経営
の枠組みに持ち込むことで,次世代型のビジネスモデノレやマネジメントモデル
を構築すべく考察を試みてみる。そのため,本稿では特に現代の境界に生きる
1つの異人像としてビジネスプロデューサーを位置づけ,これを踏まえながら
企業と個人との関係についての未来象を探ってみる。
それらは具体的には,まず第 1はビジネスプロデ、ユ」サーが知の編集のエキ
スパートであること,そして第 2は場があってこそ知が創造されるということ,
続いて第 3はビジネスプロデューサーの内部化によるパワー形成,第 4はビジ
ネスプロデューサーの内部化によるパワー形成についてという 4点の論述であ
る
。
(1)知の編集のエキスパート
それでは,まず前述したような時空間の境界やそこに作む異人にみられる特
異なパワーをいかに今後の企業経営を考える基本的枠組みに組み込むべきかを
考察する。さて,異人とか辺境という概念は元来対抗的な概念で,当然ながら
権力者や普通の人にとっては中心が望ましい場であり,したがって異人や辺境
はそれらよりも一段と低いものと考えられている。しかしこれについては,例
えば以下のように若干視点を変えてみるならば幾分様子が異なってくることが
理解できる。
さて,既存の権力と程遠い位置にいる存在である異人が,すなわち現在にお
いては時代のニューカマーが既存のパワーにより支配される社会で多大なパ
ワーを発揮するには,一体どのような対応が必要なのかについて考えてみる。
そのためにはまさに逆転の発想が不可欠となってくるし,例えば異人にとって
は類稀なる編集能力を発揮して価値創造の実現を志向することも lつの方法で
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ある。このようなアプローチを採用することで,確かにいわゆる持たざる者が
持つ者に対して完全な支配権を確立することも可能となってくる。
このことは,企業においても必ずや知の編集に秀でたエキスパートの存在が
不可欠であることを意味している。そして,この役割を担うべく期待されるの
が実は企業における知の編集者なのである。しかし,この優れた知の編集者を
企業の内部,特に権力の中心に見出すことが困難なことが企業の支配者にとっ
ては深刻なガパナンス面の課題となっている。だからこそ,企業においては外
部から知の編集者を積極的に導入することが不可欠となる。
それでは,以下において知の編集者に期待される編集行為とは一体何なのか
について松岡正剛に依拠して考えてみる。さて,特に異人たるマージナノレマン
やニューカマーにとっては,もしも優れた編集能力を保持していないならば,
既存のパワー関係を崩すことで自らが権力を奪取することがきわめて困難であ
る。したがって編集能力については,彼らが既存のパワー保持者に対してパワー
関係の逆転を可能とするものとしておおいに期待が寄せられる。
松岡によれば,この編集行為については誰にでもできるし,また遊びから生
まれるものである。しかし,この編集能力を一度体得するならば,それはきわ
めて多大なパワーの獲得を確実なものとする。すなわち,編集とは自らが資源
をほとんど保持することなしに自らの付加価値を高めるパワーなのである。そ
のため,もしもこの編集技法を体得するならば必ずや他者に対する競争優位が
容易に実現でき
Z
。
もちろん,松岡のいう編集とは知を対象としたものだが,これは必ずしも知
に限定する必要もないようである。特に企業社会においては,どのように外的
には他社との競争そして内的には他者との競争に勝ち抜いていくかが,実は個
別企業の生き残るための原則となっている。そうなると,知も含めたすべての
パワー要素を編集行為の対象として,これらのパワー要素を自分や自社にとっ
ての最大のパワーへと変換することが大切となる。そして,この際にはマージ
ナノレマンの存在が意味を持つこととなる。それは,辺境に位置するマージナノレ
な存在としての異人であるマージナルマンにはこのような能力が元来装備され
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1
境界と異人の組織論
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ω
ているからである。
そこで,以下において,この異人が保持する編集能力について松岡に依拠し
ながら概括的な要約を試みてみる。松岡によれば,この編集術とは我々自身気
がつかなかった方法に気づくための方法なのである。すなわち,松岡にいわせ
れば編集術とは,世界をすべからく情報世界であるとみなし,その上でその情
報を既に編集されている部分と編集されなかった部分に分け,それらを串刺し
にして通観する方法なのであ
Z
。
さて,知をベースとした経営すなわち知識経営を展開するには,この知に対
する編集能力すなわち知識編集能力の獲得が重要な鍵となる。また企業経営に
おいては,この知の創造を行うための特別な場の設定が不可欠な条件になると
考えられる。その意味において,知識編集を行う際にはたんに人聞にだけでは
なし同時に人聞が集う場においても知の編集を担う機能が期待されてい
Z
。
また,この場には野中郁次郎と紺野登によれば,共有化された文脈,あるい
は知識創造や活用,さらには知識資産の記憶についての基盤となる物理的,仮
想的,心的な場所を母体とする関係性が現れている。すなわち,彼らの理論は,
組織的な編集が組織的な知を生むわけだから,その母体こそが不可欠なもので
あるとの認識に立脚している。もちろん,この場を実際に活用するのは人間で
あるため,例えば野中のいうナレッジプロデューサーのような人間の存在が不
可欠にな
2
。
(
2
) 場における知の創造
さて,場はある種の柑塙になるため,そこにおいて知は櫨過されるように現
出するが,この場についての関わり方あるいは場についての認識の方法には 2
とおりが考えられる。前者の 1つ目が限りなく場に求心力を持たせる考え方に
立脚した行動であり,後者の 2つ目が可能な限り遠心力を持たせる考え方に立
脚した行動である。これは言い換えれば,前者が農耕型行動であり農耕型の知
の創造方法であり,後者が狩猟型行動であり狩猟型の知の創造方法であるとい
える。
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~252ー
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2
かのテニンエスによれば,前者の場に求心力を働かせる農耕型にはゲ、マイン
シャフト型社会が形成されている。すなわち,このゲマインシャフトとは内及
び外に対して統一的に働く存在であり,まさに物である結合体が実在的,かっ
有機的な生命体なのである。また,後者の場に遠心力を働かせる狩猟型行動に
おいてはゲゼルシャフト型社会が形成されている。すなわち,ゲゼノレシャフト
とは観念的,かつ機械的な形成物なのであ
Z
。
これを具体的にいえば,すべてが信頼に満ちた親密な水いらずである共同生
活はゲマインシャフトの生活であり,他方のゲゼノレシャフトは公共生活であり
世間であることとなる。すなわち,人は皆家族と共にゲマインシャフト的生活
を送りあらゆる幸不幸をともにして暮らし,また人は見知らぬ国へ行くように
ゲゼ、ノレシャフトの中に入っていく。そこでは,例えば言語ゲマインシャフトや
慣習ゲマインシャフト,そして営利ゲゼルシャフトや旅行ゲゼルシャフトとい
うような使い分けが行われている3
)
。
このように,人間には場の持つ性格により異なる行動が期待されるし,本来
λ聞はこれらの双方の特徴を併せ持つ存在として生きてきた。それほど,実は
人間の生活にとって場という概念が人間の行動を規定する重要な条件になって
いる。そこで以下において,この場あるいは場の理論が持つ特徴について概括
的な理解を試みてみる。
この場という概念は,今では諸科学に広く用いられているが,元来は物理学
において言及されたものである。さて,伊丹敬之によればこの場とは人々が参
加し,意識,無意識のうちに相互に観察しコミュニケーションを行い,相互に
理化,相互に働きかけ合い,共通の体験をする,まさにそのような状況の枠組
みを意味している。そして,その枠組みとは実は人々の聞における情報的相互
(3~
作用の容器なのである。
さて,伊丹によれば,この情報処理相互作用を通じて,組織の中や組織の聞
に協働を可能にする基盤が確立する。そして,このような共通理解があると,
個々の意思、決定がバラバラにならず整合性のあるものになるため調整作業もス
ムーズとなる。その上さらに,これが深まってくると心理的エネルギーの高ま
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3
境界と異人の組織論
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りによる共振化が実現してくる。こうして,従来では考えられないようなパワー
ω
の現出が可能となってくる。
さて,清水博によれば,生き物がどのように生きていくかにはシナリオがあ
るわけではなく,そこにはリアノレタイムの創出知が働いているだけである。そ
れは複雑な環境の中で即興的に決まるもので,したがって生き物の生き方の本
質は自己表現の創出であるという。これは,言い換えれば創出知が生命知であ
ることを物語っており,このような観点から場の論理を追求することが大切で
あるという主張なので、ぁ
2
。
こう考えると,伊丹のいう場の設定による創発すなわち生成のマネジメント
はきわめて理解しやすい考え方となる。これについては,要約すれば場が組織
の中に生まれるかどうかが組織の経営プロセスを左右することが多いことを捉
えた場の生成が大切な経営現象であるという理論なのである。したがって,た
とえ組織構造を全く変えなくとも,その構造の中に新たに場をつくる努力を行
えば,あるいは既に生まれている場を少し変えるならば,組織現象において多
ω
大な変化を現出させることができる。
(
3
) 外部化志向のパワー進化
そこで,このような知の編集や場の持つ戦略特性を踏まえ,昨今の新たなワー
クスタイノレやワークプレイスの潮流である SOHOやテレワークと,新たなビ
ジネスモデルやガパナンスモデノレであるアウトソーサーやエージェントについ
て,以下において若干の考察を加えてみる。この 2つの潮流は,いわばもう 1
つの流れ,すなわちアナザーストリームという傍流的な現象ではなしまさに
人間の未来におけるライフスタイノレを規定する多大な影響力を持った現象とし
て捉えられる。
さて,昨今におけるインターネットの登場は新たな時代の到来を確実に予見
している。それは,これにより仕事や生活を規定していた従来型の規範は根本
的に崩れ去り,そのため新たにデジタルスタイルというライフスタイルが定着
されるからであ
g
。しかし,このような状況下で,現在,国家をあげて鋭意推
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ー
進中の
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香川大学経済論議
SOHOやテレワークについては,今までの延長線上のコンテキストで
対応を行うことはきわめて困難であると思われる。それは,これらの現象がま
1世紀に相応しいニューパラダイムの登場を要請していると考えられる
さに 2
からである。
現在では,企業という絶対的なパワーを持った閉鎖空間とそこで働く支配さ
れた個人の関係は大きく 3段階の段階を踏んで進化することが予見できる。こ
れらの 3つの関係形態は元来それぞれ別個の存在であり平行して存在しうる
が,それでも第 1の段階から第 2の段階へそして第 3の段階へというように次
第に進化をみせる発展段階として捉えるべきである(図-4)。
図-4 外部化パワーの進化
[パワー関係]
Eコ
この個人と企業との関係は,第 1に主体としての個人,第 2に客体としての
企業,第 3に境界という場の存在,第 4に境界に発揮されるパワー関係という
四つの要素から説明できる概念である。まず,第 1段階の関係は現在の延長線
上の位置関係を踏襲したものである。これには一般的には外部志向性を持った
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境界と異人の組織論
255-
テレワーカーが位置づけられる。このテレワーカーとは,テレワークオフィス
やサテライトオフィスにおいて限定されたレスポンシビリティに基づいた業務
執行を行う存在なのである。
これらは,未だ企業という閉鎖空間の輪の中である辺境に存在しているが,
同時に異人化へ向けた第一歩を踏み出した初期の段階であるといえる。しかし,
彼らは辺境に居ることで次第に外部とのネットワーク力を強め,そしてこれら
を活用した内部業務の遂行を通じて次第に外部企業のエージェント的な役割を
担うこととなる。こうして,求心力を強めようとする企業においてテレワーカー
は次第に外部に聞いた窓としての役割を担うこととなり,結果として彼らは企
業の辺境において独自のパワーを獲得していく。
そして第 2段階に進化すると個人は終に社員としての身分を喪失し,まさに
契約ベースで業務遂行を行うこととなる。これは,すなわち今まで個人が所属
していた企業の出資を仰ぎながら会社を設立したり,または会社と全く関係な
く自ら会社を設立したりする,すなわち個人がスピンナウトすることでアウト
ソーサーとしての位置を確立していく段階である。この段階になると,ようや
く個人はいわば押しも押されもせぬ一人の経営者ということになるが,多くの
場合に以前に勤めていた会社から仕事を回して貰うため,未だ紐つきの状態で
はあ
gには違いない。
もちろん,実際には紐のつき方はきわめて多彩であるが,これについては,
第 1には業務を委託する企業側の事情,そして第 2には委託されるアウトソー
サー側の事情の双方のそれに依拠している。しかし,このことは実際にはきわ
めて重要な意味を持っている。それはすなわち,企業のビジネスモデルが自社
のみならず外部の会社まで包摂した形態で編み上げられていくことを示してい
る。このことは,すなわち企業経営における基本スタンスが,次第に内部資源
の効率化追求から自社の枠を越えたビジネス総体を対象とした価値創造を追求
したものへと転換することを意味している。
また,個人のサイドに立ってみると,このことは個人が個人のエクスパティー
ズに依拠して企業からは独立して存在する可能性を示しており,このことは個
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香川大学経済論議.
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人が企業に雇われている身であってもそれなりに企業の頚木を離れて自律的な
活動が行える可能性があることを示している。こうなると,個人と企業という
組織との関係形態がまさに大が小を包摂するとか,組織が個人を支配するとか
という,いわば一方的なパワー関係からの転換が行われていく。しかも,アウ
トソーサーとして自立するにあたっては,多くの場合にはスタート時に一定程
度は元の企業から仕事量が保障されているため,個人にとっても境界を越えて
外に踏み出すことは,おおいに歓迎されるべきことである。
さて,その後に個人が独立後アウトソーサーとして実力をつけていけば,自
ず、と業務の拡大と質の向上が可能となる。すなわち,それなりに新たな顧客の
獲得と新たな業務の開発による業容の拡大が図れ,そのため特定の専門領域に
おいて他社と比較して圧倒的に優位な位置を獲得することも可能となる。こう
なると,次第に個人あるいは個人がイニシアチフ、を持った小規模企業が規模の
大小に関わることなく強力な交渉力を保持することが可能となり,結果として
専門力を保持したアウトソーサーとして付加価値の高いビジネスを展開してい
くことができる。
そして,いよいよ第 3段階にまで進化してくると,企業から外部化されるこ
とからスタートしたアウトソーサーはたんなる業務の受託者からピジネスモデ
ルの中核的な役割を担うまでにそのパワーを増大させてくる。こうなると,も
はやアウトソーサーは請負型のビシネス主体から大企業とも対等に渡り合える
付加価値創造型のビジネスプロデューサーへと進化している。そして,このビ
ジネスプロデューサーが多重的なアライアンスの中核的な位置を獲得し,ネッ
トワークそのものを支配しえるほどの多大なパワーの行使が可能となる。こう
して,たとえ個人であっても小規模企業であっても,彼らはハリウッドのいわ
ゆるメジャーを平伏させるほどの敏腕プロデ、ユーサーのような存在へと進化し
てい!。
(
4
) 内部化志向のパワー進化
それでは,続いて前項とは逆に企業の外部から企業に接近し,そこで実質的
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-
境界と異人の組織論
な権力を獲得できるような関係を構築できる可能性について追求する。これは
言い換えれば,企業の外部からの内部化によるパワー奪取の方法論ともいえる。
これについては,前項とは逆にきわめて特異なエクスパティーズを保持したビ
ジネスプロデューサーが自らの専門能力を背景にして企業の内部に入り込み,
そして実質的にオーナー経営者のようなパワーを発揮するような地位を獲得す
る方法なのである。
前項の外部化志向のパワー進化が,企業に働く従業員のプロデューサーへの
進化過程であったのに対し,ここで述べる内部化志向のパワー進化は外部のビ
ジネスプロデューサーの企業オーナーへの変身過程である。しかしどちらにし
ても,ともに当事者に比類なきほど卓越した能力があれば,外部からでも元い
た企業を自在に操れるし,また外部から企業の内部に入り込んで実権を獲得す
ることもできる。その意味で,ある種経営においてもいよいよ実力だけがもの
をいうような時代が本格的に到来したと考えることができる(図-5)。
図 -5 内部化パワーの進化
ι
i
i
ZL
ノ
[fワ一関係]
亡ごコ
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8
さて,最初の第 I段階については,企業と企業の外部にいるビジネスプロ
デューサーである個人との関係はたんなるコンサルタントや業務委託によるア
ウトソーサー的な関係である。これは,当然ながら企業の外部の人間として当
該企業との聞の契約ベースでの仕事となるが,この段階においてはビジネスプ
ロデューサーは当該企業のトップから信頼を獲得するか,または自身の高度な
エクパティーズで高度な!成果を現出することが大切である。例えば,前者は従
来型の著名なコンサルタントに多く見受けられるような幾分政治的な匂いが強
い人であり,後者は ITに代表されるグローパルに適用する技術をパックグラ
ウンドに持った専門家であるといえる。
これが第 2段階になると,外部のビジネスプロテゃユーサーは企業において幹
部社員や役員というフォーマノレなポジションを獲得することなしまたフルタ
イムでコミットすることなししかし固定的な契約関係で当該企業の社内にお
いていわゆる先生と呼ばれるようなポジション,すなわちアドパイザ、リース
タッフ的な地位を獲得する。従来から,多くの企業において何だかよくわから
ないけれども,社内の多くの人聞に先生と呼ばれる人が会社に出入りしている
ことはすでに周知のとおりである。しかし,このような先生という人種は,従
来では概ね裏側の仕事の担当が中心であるいわばダーティワークのフィクサー
のような存在であっ怠。しかし,今やこのような企業の外部にいる人聞に対す
る評価を全く払拭することが必要となっている。
昨今では,いかなる産業の企業においてもきわめて高度な専門能力やこれを
ネットワークするパワーが必要とされている。しかし多くの場合には,普通の
企業における時間感覚での対応では,企業が自らの能力で高度な専門能力や
ネットワークパワーを獲得することはきわめて困難である。そこで企業として
は,何としてでも時代の流れの中についていげる先進的な人聞を,すなわち卓
越したビジネスプロデューサーを自社の外部に求めざるをえないのである。こ
のため,元来外部にいたビジネスプロデ、ユーサーへの第 3段階への進化,すな
わち内部化が期待されることとなる。
現在では,企業に最も必要とされる人材とは,いわばビジネスの急流や荒波
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の中に日常的に位置していながらも,必要に応じてクローズなまさに蛸査のよ
うな企業や組織に頻繁に訪れるような人材である。これには,前述したような
ネットエイジにおけるいわば過渡的トルコ人である雑貨商のような役割が期待
される。彼らの能力は,時代をみる目が優れていることや課題に的確にフィッ
トする完壁なソリューションを提供しうるチームを編成する能力である。企業
においては,このようないわゆるネットワーカーでありプロデューサーである
人材が確実に必要とされている:
このようなビジネスプロデューサーとは,企業にとってもまた個人にとって
も今後においては最も期待できる人材像と考えられる。今後の企業の課題は限
りなく高度になるのだが,現実問題としてこれへの対応能力をトップ自身以外
が社内に獲得してはトップ自身の社内における権力が揺らぐため,
トップとし
てはたとえいかに高額な経費を払ったとしても外部の人聞を活用する方が望ま
しいことと考える。その理由は,たとえどんなトップも企業の発展を願って多
くの高度な課題に果敢に取り組んでいても,同時に彼らは実は企業の内部にお
いて自らの権力を守るためにも誰にも増して必死に努力しているからである。
さて,このような段階になって外部のプロデ、ユーサーが企業の内部に食い込
んでくると,これはある意味では外部人材が内部組織に寄生しているとしかい
いようのない状況が現出してくる。しかし見方を変えれば,この寄生とはそん
なにネガティブな関係ではなく,企業にとっても個人にとっても実に都合よい
関係なのである。この寄生したビジネスプロデューサーは,たとえ企業の内部
に固い込まれながらも別の生態系として存在でき,そしてそれゆえに企業の
トップとイコールパートナーとしてコラボレーションを形成することができて
いる。これは外見的には寄生に見えるのだが,しかしこの本質は両者の利害が
一致した納得づくの共生関係の確立であると考えることができ
Z
。
このように,企業の外部から企業の内部に積極的にポジションを獲得するこ
とを可能にするのが,ここでいう今後において期待ができるビジネスプロ
デューサーの内部化戦略である。しかし,このビジネスプロデューサーにとっ
て大切なことは,ビジネスの急流や荒波にいる時間が半分を切ってはならない
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ということである。それは,もしもそうでないと,ビジネスプロデューサー自
身がアジルな時代の流れの中で生きていくパワーを喪失してしまう恐れが生じ
るからである。なお,このビジネスプロデ、ューサーとは,例えば砂漠の中のオ
アシスのような居心地のよい企業には長い間ずっと逗留しでもいけない存在で
ある。それは,いつにおいてもビジネスプロデ、ューサーにとっては時代のノマ
ドであることが,言い換えれば狩猟民族であり続けることが不可欠な条件だか
らである。
ただし,もしもビジネスプロデューサーが自らに完全にフィットした企業が
'sノマドをやめ,そこの企業に入り込んで次なるトップマネジメ
みつかればントの地位を狙うことは十分可能である。元来,このような事例はアメリカで
はよく見受けられることであるし,アメリカの企業で定着した CEO (最高経営
責任者)などは,そのような典型的な事例であると考えるべき存在である。す
なわち,この CEOとはまさに経済社会のノマドとして企業の再建や発展に成
果を実現させるプロのビジネスプロデューサーである。なお,我が国において
も企業経営においては,このような考え方を正当なものとして評価しかっ認知
する時代がいよいよ到来したものと考えられる。
2,.
4 新世紀の主役はビジネスプロデューサー
さて,前述したように,境界や辺境において異能を発揮するマージナルマン
や異人の現代的表出がプロデューサーであるが,このプロデューサーが活躍で
きる領域が拡大し,今ではビジネスの世界においても不可欠な存在となってい
る。これこそがまさにここで言及するビジネスプロデ、ユーサーの一般的なイ
メージであり,特に組織と組織を繋ぐプラグアビリティやコネクタビリティに
おいて特異なエクスパティーズを保持する存在である。
そして,このような特質を持ってアイデンティティを確立したベンチャーや
個人が多様に現出している。このビジネス界における境界の異人たるビジネス
プロデ、ューサーはすでに確固たる地位を築くことに成功している。ここにおい
ては,ビジネスプロデ、ユーサー的な要素を持って社会的な存在感を強烈に表し
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1
図- 6 ビジネスプロデューサーの類型
仁
三J
;
:コ
長豆沼
〈
三
三
コ
[
忍
二
割
ファ y ンヨン
プランドビジネス
[ザスーパー
モデルプロジェクト]
ノtーチャル
コーポレーンヨン
[ダイコク電気]
3PL企業
コーポラスハウス
デザイン
[都市デザイン研究所]
[MBK流通
パートナーズ]
¥
t
;
ネ
ユ
ム
司
く訴訟〉
起業化の
パーソナリテイ
、
、
、一
ー
ピジネスプロデ、ューサー
ている 2つの組織概念についての紹介を行う。これらは,言い換えれば著者が
長い間主張しているビジネスプロデューサーの 2つの類型であるといえる(図
-6)。
前者についてはスーパーエージェントというビジネスプロデューサーであ
る。これはいわばネット時代のエージェントで特に情報通信技術に精通してい
ることに特徴があり,これによって企業の壁を越えたビジネスモデルの確立に
貢献できるプロデューサーである。ここでは,このスーパーエージェントとし
(
t
h
i
r
d
てはバーチャルコーポレーションを志向するダイコク電気と 3P L
party l
o
g
i
s
t
i
c
s
)企業を志向する MBK流通パートナーズを取り上げながら考
察を行う。
後者についてはコーディネートベンチャーというビジネスプロデューサーで
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ー
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1
2
ある。これは,個人が大企業に対する競争戦略において闘えるような異能を保
持したいわばキャラクター勝負のプロデューサーである。このタイプのプロ
デューサーは,前述した内部化することで外部から企業を支配するほどのパ
ワーを獲得できる存在になる可能性が高いようである。このコーディネートベ
ンチャーとしては,ファッションプランドビジネスのザ・スーパーモデルプロ
ジェクトとコーポラティブハウスデザインの都市デザインシステムを取り上げ
ながら考察を行う。
(
1) バーチャルコーポレーション
H
ダイコク電気
さて,インターネット時代のマージナルマンである第 1のビジネスプロ
デ、ューサーとしては,ネットワークを活用して企業聞の壁を取り除くことに成
功したスーパーエージェントとしてのバーチャルコーポレーションをあげられ
る。ここでいうバーチャルコーポレーションは,全ての事業活動を自社だけで
賄おうという発想からではなく,最も効果的な成果を追求すべく多くの外部企
業と協働のビジネスモデルを構築しようとする戦略的な組織である。
このバーチャノレコーポレーション型のスーパーエージェントはそのリソース
を他者に依存するため,その主体となる企業が自社の情報を積極的に公開して
他者をリードしていくことが必須条件となる。なお,このバーチャルコーポレー
ション型ビジネスについては,そのビジネス特性から大きく水平分散ネット
)
。
ワーク志向と垂直ネツトワーク志向とに分けることができる5
前者の水平分散ネットワークは相互に独立した形態でそれぞれのコアコンピ
タンスを有効活用し,相互の不足資源を補完し合いながらあたかも lつの組織
であるかのような行動を行う組織である。後者の垂直統合ネットワークは製品
の流れに対応し,相互が密接に 1つのサプライチェーンを確立している組織で
ある。さて,ここで紹介する事例はこれらの双方のバーチャ Jレコーポレーショ
ン,すなわち水平分散ネットワークと垂直統合ネットワークを巧みにビジネス
モデル化したダイコク電気という企業であ Z)(図一7)。
さて,このダイコク電気はパチンコ台のコントロール基盤を扱っているメー
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7
1
3
-263
ー
境界と異人の組織論
図-7 ダイコク電気のビジネスモデル
心
。
喧
気
6
1
訓弘同竺
協力工場
4
\--一一~.
カーであるが,実際にはその 90%以上を外部の協力工場に委託しているファプ
レスメーカーといえる。なお,この企業の特徴はたんにその製造を委託してい
ることではなくその仕組みの独自性に見いだせる。すなわち,その特徴とは協
力工場をエクストラネットでネットワーク化し,そのネットワーク上で発注を
公募して決定するという方法に見出せ
Z
)
。
その方法とは,まずあらかじめ登録しである協力工場に向けて Web上に受
注情報を配信することから始まっている。なお,この受注情報には仕様,価格,
数量などの情報が含まれており,その製造方法をビデオで紹介するなど Web
上を介して製造に必要な情報が協力工場に伝達できる。そして,続けてこの情
報を受けた協力工場は自工場の稼動状況を考慮した上で受注希望を出してい
る。なお,ダイコク電気ではもしも受注希望が重複したような場合には,これ
g
までの実績は負荷状況を考慮した決定が行われ 。
夕、イコク電気が,このような仕組みすなわちバーチャルコーポレーションを
採用している理由は,実はパチンコ業界固有の特徴に適合させるためである。
パチンコ業界は 1年のうちゴールデンウィークとお盆休みそしてお正月休みの
直前に新装開庄が多く,そのためその時期にパチンコ台の製造が一気に急増し
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1
4
てしまう。しかし,法律面の制約があって部品を事前に製造できないため,受
注してから製造を行わざるをえない状況にある。しかも,納期が極端に短いこ
ともあり
ω
1社ですべてを賄うにはそれ相応の設備と人員を抱え込むことが前
提となる。
しかし,それでは繁忙期以外には設備も人員も過剰となるため,経営的には
採算を越えることは困難となる。だからこそ,ダイコク電気ではバーチヤノレコー
ポレーションという仕掛けをセットすべく社外の協力工場をネットワークした
0社あり,これらの協力工場とダ
わけである。現在では,外部の協力工場が約 5
イコク電気との聞にはすでに強い信頼関係が樹立されている。これこそが,ま
さにコラボレーシヨン型のスーパーエージエントの典型的な事例なのであど。
さて,ダイコク電気では,登録された限定メンパーに対してエクストラネッ
トという Webシステムを効果的に活用することで,自社の製造を協力工場に
バランスよく委託できる体制を確立した事業展開が行れている。同時に,この
夕、イコク電気では協力工場を対等のパートナーとして位置づけ,いわば双方が
最大の満足を獲得できる関係が模索されてい
2。すなわち,ダイコク電気のバー
チャルコーポレーションにおいては,まさに Win-Win志向の創発的なコラボ、
レーション関係がほぽ完全な形態で確立している。
(
2
) サードパーティーロジステイクス企業:MBK流通パートナーズ
また,自ら設備投資を行ったりオペレーション体制の整備を行うことなく,
自らがデマンドサイドとサプライサイドの聞に立つことで先進的な情報通信を
利用し,結果として両者にとって最も効率的なマッチングサービスに存在意義
を見出す企業がスーパーエージェントなのである。そして,このスーパーエー
ジェントが活躍できる代表的な事業としては特に 3PLという業態があげられ
る
。
そこで,この昨今注目されている 3PL業者として,ここでは商社系の物流
企業である MBK流通パートナーズを紹介する。これは,実は元三井物産にい
た小田切園博によって設立された企業である。これも,また大企業のマージナ
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
715
境界と異人の組織論
265
図 - 8 MBK流通パートナーズのビジネスモデル
(
立
コ
I 三井物産の
三井物産 75%
ソフトウェア
の支援
加藤物産 10%
三井物産と関係
の深い卸業者との
コラボレーション
三友食品 8%
也7%
その f
•
商担としての海外
における食品の
I輸出入経験
ルマンであった小田切が元勤めていた三井物産などの資本参加を受けながら
も,食品業界における本格的な
3PL業態の確立を志向したマルチな商社ネッ
トワークノードとしての位置を獲得した企業であ
g(図-8)。
したがって,この食品の製造,配送,販売のサプライチェーン全体を対象と
した物流業者である
MBK流通パートナーズは,現実には未だアウトソーサー
的なポジションにいるのだが,しかしそれでも次第にプロテ恥ユーサー的な位置
への転換を強力に図っている。その意味においては,この
MBK流通パート
ナーズは物流業界におけるビジネスプロデューサー的企業としておおいに期待
が持てど。
このことは,すなわち現在のようなサプライチェーンが模索される状況下,
かつては下請け的な位置づけにあった系列的色彩の強い物流会社がビジネスプ
ロデ、ユーサ}へと転換するまで進化したことを表している。このような事例の
3PL業者としての地位を確立した MBK
流通パートナーズが位置づけられる。 そして,この 3PLに取り組むことで,
MBK流通パートナーズは結果として食品業界の製,配,販が抱える課題を一気
代表的な企業としては,このすでに
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
-266-
7
1
6
香川大学経済論叢
ω
に解決するソリューションプロパイダーへと進化した。
さて,この MBK流通パートナーズの持つ強みは,第 1に三井物産のソフト
ウェアの支援が受けられること,第 2に三井物産と関係が深い卸業者とのコラ
ボレーションが可能なこと,第 3に商社として海外での食品の輸出入や販売の
経験があることという 3点、である。 MBK流通パートナーズではこれらの優位
点を活用しながら, 3PL業者としてのビジネスモデノレの構築を主にロジス
ω
ティクス支援と情報システムによるサービス支援の領域で行っている。
なお,前者のロジスティクス支援については,以下のような 4点に整理する
ことができる。第 1は,量販店の専用物流センターの設立と運営についての提
案である。第 2は,フルラインでのロジスティクス,例えばピツキングなど倉
庫内作業の提案である。第 3は,物流コスト分析やコンサ 1レテーションなどの
物流効率化や合理化の提案である。第 4は,地図ソフトや敗者シミユレーシヨ
ω
ンの活用である。
また,後者の情報システム・サービス支援については以下のような 3点に整
理することができる。第 1は受発注や販売実績データなどの EDI化促進の提案
である。第 2は POSデータ活用によるマーケテイングやマーチャンダイジン
グなどの提案である。第 3は三井物産情報ネットワーク (
MRS)の活用であ
Z
)
。
なお,実際にはこのようなビジネスモデ、ノレに基づいて地域単位に共同物流が
展開されている。例えば, MBK流通パートナーズでは中部地区においては,か
どや製油と三井農林に対して共同配送の取り組みを行っている。この際,一方
のパートナーの愛知陸運は倉庫業務と配送業務を担当し,他方の MBK流通
ノfートナーズは初期品メーカーと愛知陸運の聞に入り,情報ネットワークを駆
側)
使することによってコラボレーター的な役割を担っている。
(
3
) ファッションブランドビジネス:ザ・スーパーモデルプロジェクト
続いて,第 3にインターネット時代のマージナノレマンであるビジネスプロ
デューサーとして,我が固においても次第に姿を明確にしてきた関係編集によ
る価値創造の追求を行うベンチャーを取り上げる。これについては,代表的な
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
1
7
-267-
境界と異人の組織論
事例としてファッション、プロデューサーである吉田勝彦が立ち上げたザ・スー
ノf
ーモデルプロジェクトがあげられる。これは,著者が提言するプロデューサー
型のコーディネートベンチャーとして位置づけられるビジネスモデルの代表的
ω
なものである。
なお,ここで紹介する吉田勝彦とはまさにマージナルマンや異人というに相
応しい経歴を持った異能人材である。彼は,まず大学卒業後数年でアメリカへ
行き,映像ビジネスの勉強を行うべく徒弟制のような方式でハリウッドにおい
てビジネスプロデューサーとしての勉強を重ねた。彼は,その総験を通じてい
わゆるオンリーワン的なビジネスモデルの構築が大切でトあることを認識するに
いたり,その上でザ・スーパーモデノレプロジェクトへの挑戦を行うこととなっ
2(図-9)。
図- 9
ザ・スーパーモデルプロジェクトのビジネスモデル
ヱクスペリエンス
商標権
オンリーワン
プログラム
r
つ二二ル
r--;:ス十モデル
このザ・スーパーモデルプロジェクトの事業スタイルは,かの著名なスーパー
モデルをブランドとして捉え,これの商標権を獲得することでライセンシーピ
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
268-
香川大学経済論叢
7
1
8
ジネスを展開することである。ここでは,一方では商品開発においてはスーパー
モデルをコーディネートし,他方で商品販売においてはライセンシーをコー
ディネートする重層的なコーディネート機能を担っている。
このザ・スーパーモデルプロジェクトとは,話題にスーパーモデ、ノレの協力を
えながら商品開発を行うことで,ファッション業界でのブランドビジネスにお
いて新たな流れを確立したファッションの新興勢力でる。そしてここにおいて
は,すでにスーパーモデルがコミットした日常着としてのファッションの提供
を行うためのビジネスモデルが確立している。したがって,このザ・スーパー
0
モデルプロジェクトにおいては単価も数千円程度のものが多く,また顧客も 2
仰)
歳代の前半を中心に設定が行われている。
さて,このザ・スーパーモデルプロジェクトのビジネスモデノレは概ね以下の
ように説明できる。すなわち,戦略リソースについては要約すればコンテンツ,
ネットワーク,プラットフォームの 3つから構成されている。第 1のコンテン
ツは,吉田のビジネススキルとブランドそのものである。第 2のネットワーク
は,人脈ネットワークであり,具体的にはハリウッドの大物俳優やスーパーモ
デルである。第 3のプラットフォームは多様なサポート機能であり,具体的に
は吉田の経験や前述のオンリーワンプログラム,そして商標権やライセンシー
制)
さらにはスーパーモデルショップである。
しかし,このビジネスモデルにおいて最も大切なことは,実は吉田の多大な
エクスパティーズを保持している,そして結果としてマージナルな存在であっ
た彼がザ・スーパーモデルプロジェクトというビジネス空間の真ん中に位置し
ていることである。このように,吉田が確固たる信頼関係をスーパーモデルと
の聞に確立したことが,まさにスーパーモデ Jレプランドに対して揺るぎ無い価
ω
{直を与えている。
したがって,このビジネスにおける成功の秘訣は,吉田が個々のスーパーモ
デルとの良好な関係を築き上げ,それを積み重ねていく過程で,同時にスーパー
モデル同士の連繋が実現したことにある。このように,吉田によってスーパー
モデルの強固なネットワークが構築されたのだが,それはしかし元来裏方的存
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
1
9
269
境界と異人の組織論
在であった吉田が完全に掌握してしまったわけである。すなわち,これについ
ては一人の名もない人聞がネットワークによる自己組織化と新たな秩序の形成
をまさに計算づくで、行つた秀逸な事例なので、ぁ
Z
。
また,このザ・スーパーモデノレプロジェクトは,今ではすでに売上高で 1
0
0億
円を超えるまで規模も拡大しているが,しかしその事務局機能については少数
精鋭によるきわめて小さな組織による運営が貫かれている。具体的には,吉田
以外のメンバーはきわめて高度なエクスパティーズを保持した専門家,すなわ
ち弁護士,アートディレクター,クリエイティブデザ、イン,へアー,メイクアッ
プ,フォトグラファーなどであり,これらの約 1
0名程の人数で運営が行われて
闘
いる。
(
4
) コーポラティブハウスデザイン:都市デザインシステム
さらに,第 4にビジネスプロデコーサーとしてコミュニティークリエイター
型のコーディネートベンチャーとしてコーポラティブハウスを企画するコンサ
ノレテイング業を取り上げる。さて,このコーポラティブハウスとは,昨今注目
されている住宅の共同購入による購入者の主体性を尊重したマンション建設の
新しい潮流の 1つである。これは,参加者達が主体となって協働作業によって
マンションを作るという,いわば住み手による住み手のためのマンションであ
る
。
このコーポラティブハウスについては,現在のところ以下のような 3つのパ
ターンを想定することが考えられる。第 1は自主建設型である。これは自分達
で仲間を集めて組合を結成し,土地探しから建設の発注まですべてをこなして
しまう方式である。第 2はコーディネーター主導型である。これはコーディネー
ターと呼ばれる人が土地を特定した上でプロジェクトを計画し,参加者はコー
ディネーターの協力を得ながら自分達の希望に合わせたマンションを建設する
方式である。第 3が公的機関主導型である。これは公団や大きな都市の住宅供
給会社などによる居住者参加型分譲住宅の建設方式であ
Z
。
さて,昨今民間企業が独自のノウハウを持ってコーディネーターになる事例
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
270
ー
7
2
0
香川大学経済論叢
が増加しており,実際には第 2のコーディネーター主導型であるコーポラテイ
ブハウスのプロジェクトがほとんどである。そこで,コーディネーター主導型
のコーポラティブハウスの仕組みについて考えてみる。ここでいうコーデイ
ネーターとは,一般的に物件の企画,地主との協議,参加者の募集や決定を行
自
由
う他,建設組合の運営支援なども行っている。
このコーディネーターが行うコーディネート業務は概ね以下のとおりであ
る。第 1は,建設組合運営全般の補助,竣工後の管理組合設立までの補助など
を行う運営補助業務である。第 2は,建設組合の会計補助,出入金のチェック
や収支報告書の作成などを行う会計業務である。第 3は,登記手続や官公庁と
の折衝などを行う事務手続き業務である。第 4は,住宅金融公庫やその他の金
融機関との融資手続きの補助などを行う業務である。
これらの業務を期待されるコーディネーターとして昨今実績をあげているの
が,昨今控目度が高まりつつある梶原文生が設立した都市デザインシステムで
ある。ここでは,すでに 1
0件以上もコミュニティークリエイターとしてコーポ
ラティブハウスのプロジェクトを手がけており,これはきわめて高い評価を獲
得している。なおこのビジネスモデノレについては特に創発の場の形成とそれに
続く収穫逓増の場という場作りに最大の特徴を持ってい
g
。
前段の創発段階は,土地の選定や企画の検討から参加者の募集,参加者の決
定になるまでのモデルである。この段階では,第 1に土地をどのように購入す
るか,第 2にコーディネーターが参加者をいかに誘導できるか,第 3に参加希
望者をどのように募集するか,第 4に参加者をいかに決定するかが主なポイン
トとなる。この中では,特にコーディネーターの誘導がプロジェクトを成功さ
せられるかどうかの鍵になってい
g(図-10)。
それは,コーディネーターは土地の購入の目処がつき次第,基本計画をそれ
ぞれの参加者に提示しなければならないからである。その際ある程度多くの人
が魅力を感じるような基本計画でなければ,参加者決定後に大きなプラン変更
を伴うことになる。したがって,基本計画の立案力が重要な要素となるし,そ
ω
してこれに失敗すると事業計画自体が頓挫する可能性が高くなる。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
2
1
271-
境界と異人の組織論
図ー 1
0 都市デザインシステムのビジネスモデル
創発の場
巨窪Z図
住宅作りに
こだわりを持つ人
コーポティブハウス
に協力してくれる
建築士や建築会社
く
五
ー
コ
~羽
他社との
コミュニケーション
のできる参加者
l
参加者によって
形成される
ネ y トワークコミュニティ
~、ー一一一ー~一一『戸一一一一一ー一一ー一一~
可 二 三 ス 物
参加希望者に対する
施設計画や資金計画
へのサポート
参加者や専門家を含めた
創造的コミュニティ形成
へのサポート
後段の収穫逓増段階は,建設組合の結成から工事請負契約そして入居までの
モデルであり,ここで必要とされる業務は以下のとおりである。それは,第 1
は参加者同士のミーティングをいかに円滑に推進できるか,第 2は参加者の住
宅へのこだわりをいかに実現させうるか,第 3は安くて質の良い工事を請け
負ってくれる建設業者にいかに発注するかを考え実行するのかということであ
る
。
このように,コーポラティブハウスにおいてはコーディネーターの存在が不
可欠であるが,しかしそれでもたんなるコーディネーターでは競争に打ち勝つ
ことはできない。そこで,都市デザインシステムが志向しているようなコミュ
ニティークリエイターに特徴的な,いわばハードからのアプローチではなくソ
フトからのアプローチがきわめて大切となる。昨今では,大手マンションメー
カーもコーポラティブ、ハウスへの参入を本格的に行っているが,このコーディ
ネーターの領域はまさに組織の限界を越えた個人の感覚や思想が大きな影響を
持っているため,今後とも比較的小規模なコミュニティークリエイターが優位
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
-27
2
ー
香川大学経済論叢
な位置を占め続けるものと想定され
7
2
2
g
。
2
.
.
5 プラットフォームとしての場への期待
さて,時代はいよいよビジネスプロデューサーの時代であるが,実は彼らの
類稀なる成果は独自なビジネスモデノレに依拠している。これは,すなわち既存
の経営学では語ることのできない事業創造の仕組みであると考えられる。この
ビジネスモデルについては,戦略リソースとしては,第 1はコンテンツ,第 2は
ネットワーク,第 3はプラットフォームの 3点から構成されてい
Z
。なお,こ
れについては日高幹生によれば以下のように要約することができる(図-11)。
図 一1
1 ビジネスプロテ'ューサーのビジネスモデル体系
第 1のコンテンツとはビジネスの計画に持ち込まれるものややってくるもの
を意味しており,例えば事業構想、やアイディア,新技術,有効活用されていな
い設備や人材,ベンチャー,ニーズやウォンツがあげられる。これらが,ビジ
ネスプロデ、ユーサーによって有効活用されたリソース群として,まさに資金,
人材,設備,事業ノウハウ,機能というぐあいにビジネスモデル化されていれ
第 2のネットワークとはビジネスの計画につられていくものを意味してお
り,例えば会員組織,役割分担,新たなテーマニーズやテーマウォンツ,そし
て事業のヴィーキル(乗り物)があげられる。これらが,ビジネスプロデュー
サーによって,テーマに応じた新たなコミットメント主体の形成,新たな役割
分担の設定,実行のための組織の編成などが秩序だ、ってビジネスモデル化され
ていく。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
2
3
境界と異人の組織論
273
第 3のプラットフォームとはビジネスの計画にあらかじめ用意されるものや
あらかじめ用意してあったものを意味しており,例えば求心力のあるテーマや
人,各分野のビジネスのプロ,リアルやバーチャルな集める場所,リアルとパー
チャノレの告知メディア, そして目利きができる人聞などがあげられる。 これら
が,ビジネスプロデ、ューサーによって,評価と評判を作る仕組み,ブランドネー
ムのコミットメント, 告知機能を持つた仕組へと進化してい札
このように, ビジネスプロデ、ューサーによって事業創造が進展するのだが,
大切なことはビジネスプロデューサーが価値を創造するための編集行為が行わ
れるためには,彼らが依って立つプラットフォームの存在, すなわちビジネス
が形成される場の存在が不可欠なことである。 このように,人間であるビジネ
スプロデューサーとビジネスプラットフォームは不可分な関係にあることがよ
く理解できる。
したがって,今後のビジネスモデノレを支えるビジネスプロデューサーが生き
るも死ぬも実はプラットフォーム知何にかかっている。それほど, 今後の事業
創造においては,場というものが大切な要素になってくる。 これは, 言い換え
れば今後の経営において場こそが中核的な位置を占めることが予見されること
を表している。そして, この場にいかにダイナミズムを付与できるかが今後の
経営戦略の要諦となる。
このような方向性を捉え,現在では経営学という学聞においてさえ場からの
アプローチが多様に行われており, すでに場を活かす企業の創造へ向けた場の
ダイナミズムをいかに創造するかについて多様に本格的な言及が行われる。 し
たがって今後においては, この場の持つ多様性の研究と, これを踏まえた場に
生命を持たせるべく知の創造に向けたオートポイエーシス的プログラム構築が
おおいに期待される。
3.時空間の共創原理と共時性
3
.
.
1 生命知にみる関係表現
さて,前述した清水によれば場の持つ価値とは関係を表現していることにあ
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
-274-
7
2
4
香川大学経済論議.
ると思われる。これを生き物の原理でみるならば,生命がその存在を主張する
のは秩序のない所に秩序を創りだすことに見出される。そして,この秩序が作
りだされる性質がかの自己組織性であると考えられる。このことは,言い換え
れば生き物が共働性を持った関係子の集まりであることを意味す
2
)
。
そして,この関係子が重要な意味を持つのは科学技術の常識的なアプローチ
であるボトムアップ型の思考様式とは異なるアプローチが不可欠たるからであ
る。その意味で,このシステムや組織を関係子の集まりとみる考え方は,経済
社会の広汎な領域で従来のヒエラルキ一発想の組織論や工業社会の管理論を超
えた枠組みとして期待されている。それは,関係子が元来の性質を完全に限定
曲
目
しえない性格である自己限定不能性を持っているからである。
そして,この関係子の集まりである場において自己表出が行われることとな
り,そのため個々の関係子聞の関係は刻々と変化していく。すなわち,場によっ
て関係が創出され,また関係の変化によって場が創出されるというフィード
パックが行われている。これが実は場のダイナミズムを創造しているわけで,
だからこそ経営戦略においてアナロジカルに場を適用することの意味が見出さ
れる(図-12)。
また,清水博は即興劇を捉えて劇団という組織の人々である役者が状況に応
じて適切な役を分担しながら一斉に活動する場合をとりあげ,これが関係子に
よる典型的な経済社会における事例として紹介している。また,彼はこのよう
な劇団という場において複数の人聞によって行われる創造的な活動は共創とい
われおおいに注目できるとも述べている。しかし,ここで大切なことは,多く
の役者が一緒に即興劇を始めるためにはそれぞれが無限定な状態をとり,そこ
から他の役者と整合的な関係を作るよう自在に自己表現が行えることであ
E
。
さて,この自己表現を可能とする前提条件として拘束条件と場の即興表現が
ある。前者の拘束条件とは自在な関係を追求するには,それぞれの関係子の聞
に相互向調を可能とする作業仮説の共有が不可欠なことを示している。また,
後者の場の即興表現とは相互に同調するコヒーレントな関係が即興的に自己言
ω
及的にされることが必要であることを示している。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
2
5
境界と異人の組織論
-275
図-12 場と関係子のフィードパック
このような場の即興表現を行うためにはある種のシナリオが不可欠である
が,しかしこれを有効に活用するためには場所全体を見渡せる観点を保持する
ことが大切である。これは,言い換えれば場とは見渡すことのできる範囲であ
ると規定できる。そして,場の中には自己が含まれていることが前提になるか
ら,結果として自己を超越的な観点、から眺めることを意味している。そのため,
即興表現の場を考えるにあたっては,特にこのような自己言及の方法が必要と
ω
なる。
そこで以下において,このような生命知としての関係表現を参考にして経済
社会のシステムにおける共創モデ、ルの構築を試みる。それは,個の時代のビジ
ネスモデルに関わる重要性の認識であるし,また関係を基盤とした組織戦略を
考えることを意味する。そのためには関係が価値を創出する場の創造が不可欠
であるし,これを主体的に推進する人材すなわちプロデユース能力を持った人
材の登場がおおいに期待される。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
276~
香川大学経済論叢
7
2
6
このような観点から,以下において,第 1に共同体としての場と共創原理,
第 2に非連続的連結原理としての共時性の 2点についての概念提示と企業経営
への展開事例についての紹介を行う。なお,前者においては生物的な有機的ア
プローチとこれらが多様な関係を実現しうる場について,後者においてはシン
クロニティという因果律を超えた考え方とこれに基づく組織連結について,そ
れぞれ言及を行っている。
3
.
.
2 共同体としての場と共創原理
さて,このような場においてはまさに共創が実現することになるのだが,そ
の背景には実は共創を可能にする原理の存在が読み取れる。それこそが,ここ
で言及する共同体としての場と共創原理なのである。この共創原理とは,いわ
ゆる生命的なコミュニケーションの原理に立脚していることに大きな特徴を見
出すことができる。そうなると,後述するようなエントレインメントがきわめ
て大事な要素となるし,またそこでは無意識な行為の同調というものに対して
多大な期待が寄せられる。
そして,コミュニカビリティの獲得による生物的なコミュニケーションが実
現できるとなると,これらをアナロジーとした場の形成とそこにおける繋ぎ手
としてのプロデ、ューサーの登場がおおいに期待される。こうして,知の創造を
知の活用による価値創造が可能な時空聞が創出され,ここにおいて新たな事業
創造や企業組織の誕生が行われることとなる。そのため,結果として共同する
ことで個では実現できない次元へ突入することが可能となり,そこにおいては
新たな組織戦略のデザインも確立することとなる。
このような考え方に立脚すると,場の創造性を多様に獲得させる機能的な存
在としては,以前から著者が唱えている,例えば第 Iには個人の持つエクスパ
ティーズに依拠したプロデ、ューサー的な機能としてのス}パーエージェント,
そして第 2にはベンチャー的の組織化された中小企業においては持たざる企業
としてのコーディネートベンチャーが典型的な事例であることが理解できる。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
2
7
境界と異人の組織論
2
7
7
三一
(
1
) 生命的コミュニケーションによる共創
さて,ここにおいて場と共創について理解を深めるため,三輪敬之がいう共
創の生命的コミュニケーションについて言及を試みる。この共創には生命的な
コミュニケーションが不可欠で、あり,それは「今,ここ」が共有されることを
意味する。したがって,共創を実現するにはたんに物理的な時間や空間が共有
されているだけでは不十分であり,同時に自己の内面が映し出された空間が共
有されることが不可欠とな
E
。
三輪によれば,この自己の内面が映し出されている空間が実は場ということ
であり,また歴史的な空間から生まれることを意味している。このように,ま
さに時空間とは自己の内に生成されるものであるから,多くの人聞はメディア
からは伝わらない気分や雰囲気を享受するためにライブな時空間に浸るわけで
(
附
ある。
なお,このように生命的な社会においては,自己と切り離された情報によっ
てコミュニケーションが行われているのではない。そのため,三輪はこのよう
に人間の存在が前提となるコミュニケーションは自他非分離型コミュニケー
ションモデ、ルの構築であるとの見解を採っている。三輪はさらに続けて,自他
非分離型コミュニケーションにおいては意識の生成や無意識の働きがきわめて
重要な役割を担っているとも述べてい
Z
。
さて,ここで共創を定義するならば,背景の異なる人物が目標や夢を共有し
一緒になってそれらを実現していく創造的な活動ということとなり,広くは遊
びの現場や癒しの現場なども含まれる概念と考えてもよい。そこにおいては,
相互の主体性や独自性を侵犯することなく相互にコンテキストを共有し合うと
いう相矛盾した状態を自己の内に整合することが必要とされる。すなわち,こ
こで言及する共創とは実は自他非分離的な状態からの集団的な創造であると規
定で、き
Z
)
。
したがって,共創におけるコミュニケーションにおいては相互の場の交流が
基本となり,したがって場とは自己の内に身体を介して直接的に映し出される
暗在的な空間となる。そして,場のいわゆる暗在的な働きが相互の心の繋がり
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
-278
香川大学経済論叢
7
2
8
を可能とし,これによってコンテキストの共有が行われる。またこのことから,
このようなダイナミクスの探求が人間主体から出発せざるをえないことを表し
側
ていることが理解できる。
また,さらに三輪は生命的なコミュニケーションにとってはエントレイメン
トが大事であると述べている。また,このエントレイメントとはコンドンなど
が発見したもので,これはコミュニケーションの現場において相互の身体的な
動作が同調する現象を意味している。このことは,例えば家族で食事をしなが
g
ら国籍している場合や新生児と母親との交流において典型的に見出され 。
このエントレイメントはコミュニケーションにおけるコンテキストの生成や
共有を探るための有力な手がかりを与えてくれる。その場合に,このエントレ
イメントは,一方では対面している時に起きやすししかし他方では非対面で
は表れにくいという特徴を持っている。これによって,コミュニケーションが
円滑に行われている時にはいわゆる引き込みが行われていることもよく理解で
きる。また,エントレイメントは無意識的な行為の向調を意味しているから,
エントレイメントによって他者との関わりの中で起きている現象が自己の内面
における心の変化とどう関わりを持っているのかを論ずることが不可欠とな
目
的
る
。
さらに続けて三輪は,非言語的な身体的認識が無意識的なレベルで行われて
おり,そのためにその{動きによってダイナミカノレコヒーレンスが現出するとも
述べている。そして,彼はこのダイナミックコヒーレンスについては自己が自
己中心的領域と場所的領域から構成されるという考え方に立脚している。この
ことは,実は視線にコヒーレントは関係が生成されている時には,仮説の生成
サイクルが同調していることを表しており,そしてこのようなサイクルが共創
サイクルと捉えられてい
2
。
このように,生命的なコミュニケーションにおいては共創が求められている
が,このことはまた企業始め多くの経済社会的な組織や個人のコミュニケー
ションにおいても追求されるべき課題である。そして,この共創を可能とする
エントレインメント形成が容易に行える関係形態の確立が強く求められる。そ
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
2
9
境界と異人の組織論
-279
ー
こで今後においては,このような観点に立脚することで場における共創につい
ての研究を深めることが大切となる。
(
2
) 共生成のためのコミュニカビリティ
以上において,生物的コミュニケーションは共創が実現できることに特徴が
見出せたが,以下においては,これらを踏まえて人と人との繋がりの世界にお
いて必要とされるまさにともに創り上げる関係に基盤を置いたコミュニケー
ションが多大な力を持っていることについて言及する。なお,この力がコミュ
ニカビリティというものであり,これに基づいて三宅美博の主張する自己の共
生成についての言及を試み
Z
。
さて,自己とは内質と外質という 2つの領域から構成されているが,この時
内質ゾノレにはリズムの引き込みが見られることから,これは身体を介する潜在
的な働きに対応させられている。一方では異質ゲルは各部分で独立しており,
しかも一種の記憶として働くことから,これは自己意識を生成させる潜在的な
働きによって対応が行われることが理解できる。そして,このような観点に立
脚することで自己の共生成に関する仮説的なモデルが形成されてい
F
。
この時の自己とは包摂的な関係にある二重の領域から構成されておれこれ
においてはその中心領域が顕在的な働きに対応し他方の周縁領域が潜在的な働
きに対応している。また,ここに示される顕在的な働きは私自身の自己意識と
対応し,潜在的な働きはそのような意識化される世界の外側に対応している。
したがって,後者の潜在的な働きのモデノレについては心理学的には粘菌の内質
との対応を捉えてリズムを用いて表現されることとなり,またリズムの引き込
みを介して無限定な環境との聞で潜在的な繋がりとしての場が生み出されてい
く
。
この潜在的な繋がりとしての場が生み出されたが,これについては身体を介
する空間的な関係生成であり身体的なコヒーレンスであるといえる。なお,こ
のようなコヒーレンスの生成は母子関係における引き込みなどと対応する現象
であるが,それ自体は意識化される顕在的な状態ではない。すなわち,この現
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-280
ー
7
3
0
香川大学経済論議.
象については自に見える物理的な身体運動などではないと考えられる。しかも,
これについては潜在的働きにとっての環境を積極的に明示しないことで潜在的
な働きが無限定な状況に聞かれる可能性としての不完結性を表現してい
8
。
一方,顕在的な働きにおいて生成される顕在的な自己は,粘菌の外質の空間
的独立性との対比から閉じた空間としてモデル化されている。これが共空間で
あり,この共空間の内部においては自己とその環境の関係が表現される。そし
て,これにより自己は無限定な状況に対する予測を行うことが可能となる。こ
のように,自己の共生成については潜在的な働きと顕在的な働きの交互拘束を
介して実現されてい
E
。
このようなことは,実は身体的なコヒーレンスと顕在的な自己が交互に生成
し相互に拘束し合うことに対応している。このような交互拘束サイクルについ
ては,潜在的な働きにおいて身体的コヒーレンスが生成されることを契機とし
た顕在的な自己生成が行われる。そして,この自己の共空間において身体的コ
ヒーレンスが解釈され自他の夫々の状態とその変化が探索され
Z
。
さて,この自己の共生成という在り方では最初は一体誰が誰なのかさえわか
らない状態となる。なお,この状態は無限定なのであるが,しかし,これが次
第に場の雰囲気と呼びうるものに変化していき,結果として潜在的働きにおい
ては身体的なコヒーレンスの生成した状態が現出する。そして,この漠然とし
た情報を基にすることで人間関係に関して仮説的な共空間が構成され,まさに
ここにおいては状況の解釈が試みられることとな
2
。
(
3
) 知の創造を行う場の動態
さて,以上のような場の持つ共創との関係を経営において捉えた概念として
は,知識創造の実現拠点として場を捉えた野中郁次郎の考え方が特に注目に値
する。そこで,場の共創理論を踏まえた野中のいう場の動態と知識創造につい
て若干の考察を加えてみる。それは,野中がいう知識にとっては特に場という
問題が常に大きな意味を持つからである。とりわけある特定の経験や身体感覚
や心的経験を通じて獲得された暗黙知については場と固く結びついていると考
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
3
1
-281ー
境界と異人の組織論
えられる。
すなわち,かの野中のいう知識創造の 4つの局面において,すなわち共同化,
表出化,連結化,内面化のなかでは特に共同化と内面化については場における
経験が不可欠な条件になっている。すなわち,もしも個人間の関係でみれば,
一方の共同化とは場を通じた暗黙知の共有や伝授であり,他方の内面化は場を
共有しつつ形式知を暗黙知として獲得することを表してい
E
。
このように,知識創造を可能とする暗黙知の役割を重視すればするほど,実
は場の必要性が強くなってくる。その理由は,一方の形式知は他方の暗黙知に
より表出されるのだが,このことが行われるには知識の転換が行われる場の存
在なくしては実現しえないからである。また,この知の創造が行われる場は必
ずしも企業の内部に限ることなく,昨今では多くの社外のパートナーや顧客ま
で含んだ知識創造の場の広汎な設定が期待されている。
また,野中の知識創造論によれば人間と環境の関係性からなる場自体が知識
であるといえる。その理由は,自己と他者という関係あるいは当事者が関係し
合う場そのものが実はダイナミックな知識であるからである。したがって,ダ
イナミックな知識の場から異なる知的方法論が生まれるというダイナミックナ
レツジを前提とすれば,必ずや仮説の設定こそ不可欠な条件とな
g(図-13)。
このような考え方に立脚して,昨今では野中らは知の転換局面を場の概念を
利用した説明を試みている。そして,知識創造論に立脚した場については以下
のような定義が行われている。すなわち,野中によれば場とはオフィスや分散
した業空間などの物理的空間,仮想空間,特定の目的を共有している人間関係
など,人間同士の共有している共通経験や思いや理想のメンタルベースを総括
した概念であ
g
。
そこで,必然的に場においても知識変換モードに合ったコンテキストである
べく,具体的には 4つの場の設定が行われる。それは,第 1は共同化が行われ
る場としての創発場,第 2は表出化が行われる対話場,第 3は連結化が行われ
るシステム場,第 4は内面化が行われる実践場という 4つの場の設定である。
そして,これらの場については究極的には自己超越のプロセスを通じて新たな
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282
香川大学経済論叢
7
3
2
図ー1
3 場による知識創造
創造する場
客体
主体
ー
ー
一
一
一
一
一
一
-
場の創造へと向かっていれ
このように,今や知識創造論は我々の前にまさに場の理論として登場してお
り,ここにおいては場の理論が経営学の理論として確固たる地位を獲得したと
考えてよい。すなわち,今後においては場を通じた知識ベースの自己超越を思
考した経営が模索され,そのため限定的な境界を持った場は組織的知識創造の
プロセスを通過することで境界の拡大や境界の融合が挑戦的に行われる。
(
4
) 境界という場における魔術師の登場
さて,ここまでにおいて概ね場が事業創造や知識創造に決定的な役割を担っ
ていることが理解できたと思われるので,以下において組織と組織との境界に
共創の場を生成する機能であるスーパーエージェントの概念化を試みる。この
スーパーエージェントとは,実は不安定な場において未知なる可能性を追求し
て創造的価値の実現を追求する機能を担っている。
言い換えれば,ここでいうスーパ、ーエージェントには,境界の縁に場を生成
し異なる世界を融合させることで空間を創造すること,すなわち境界融合を実
現する手段としておおいに期待が寄せられる。なお,このスーパーエージェン
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
3
3
境界と異人の組織論
283
トの特徴は組織を越えて境界線に場を創造することに見出される。すなわち,
スーパーエージェントは相反する世界を融合するスペースを築いて,そこにお
いて多様な人々を呼び込み高度な協働作業による共創を追求してい
g(図
-14)。
図-14 スーパーエージェント l
ニよる場の創造
これが追求される理由は,昨今では事業価値を増大させるためには協働が不
可欠であり,そのためにはそこに参加するビジネスゲームのプレイヤーの認識
基盤として場の存在が重要な要素だからである。すなわち,場とは人々が参加
し意識的,無意識的の内に相互に観察することでコミュニケーションを行う枠
組みであると考えられる。したがって,優れた場においてはプレイヤーの持つ
情報,ノウハウ,精神的なエネルギーなどが交流する共振現象が生じることと
なり,これが組織の生み出す付加価値の増大に大きく寄与するわけであ
8
。
したがって,スーパーエージェントにとっては境界に場を創造し,そこに向
けて多様な人々を呼び込みながら高度な協働による共創が追求されている。こ
のような場としては,消費者と供給者の融合の場である市場などが古くからあ
る典型的な事例としてあげられる。この市場においては,たんに商品の売買を
効率的に行う存在に留まらず新しい消費スタイルや創造的な商品開発のアイ
ディアを生んでいる。そのため,スーパーエージェントはいわば知のプラット
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
-284-
香川大学経済論叢
7
3
4
プオーム的な役割が似合っており,また事業価値の排出機能を保有する空間の
(
川
デザ、イナー的な存在であるといえる。
そこで,このような認識に基づくと,スーパーエージェントには価値創造の
可能性を高めるようなよい場の形成が期待されることとなる。このいわばよい
場である条件としては,第 1に境界の縁での存在,第 2に繋がりの自由の確保,
第 3に相互にプロであるという信頼感の保持,第 4にリアルタイムなコミュニ
岬
。
ケーションの実践の 4点があげられる。
第 1の境界の縁での存在はまさに主体者の境界線を有効に規定した上での場
レールを維持しなが
の設定である。第 2の繋がりの自由は場における最低限の l
ら自発的に自立的な繋がりを歓迎する雰囲気である。第 3の相互にプロである
という信頼感は境界の縁という不安定な場における求心力となっている。第 4
のリアルタイムなコミュニケーションは主体者と客体者との間で情報の相互性
を高めることであ
g
。
(
5
) 地域ボランティアコーデイネーター:TAMA産業活性化協議会
さて,以上において,スーパーエージェントとは,コーディネートパワーに
特に秀でており,また異種混合の連結を可能とする場作りの名人であることが
理解できたはずである。そこで,このような機能を巧みに果たしている事例と
して地域を捉えたプロデユース組織として期待されるボランティアである
TAMA (
t
e
c
h
n
o
l
o
g
yadvancedm
e
t
r
o
p
o
l
i
t
a
na
r
e
a:技術先進首都圏地域)と,
その推進組織である TAMA産業活性化協議会について紹介を行ってみる。
さて,例えば秋葉原に代表される地区あるいはシリコンパレーに代表される
地域には,まさに場としてのアイデンティティを持った事業創出の仕掛けが確
立されていることは周知のとおりである。これらこそ,場の論理で説明すべき
価値創造の事例としておおいに価値がある。したがって,このような地域とい
う場作りに挑戦している TAMAについては注目すべき事例であると想定でき
る
。
この TAMAとは,埼玉県西部,東京都多摩地区,神奈川県央部に広がる国道
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
3
5
境界と異人の組織論
-285-
1
6号線沿線地域を中心とする広大な産業地域を対象とした地域である。そし
て
, TAMA産業活性化協議会とは,地域の持つポテンシャノレを新製品,新事業
創出のためのプラットフォームとして統合し,参加意欲があり能力があるもの
が従来の慣習に囚われない自在な活躍ができる舞台を構築しようということか
ら設定された組織であ
E
。
そこで,ここにおいては地域としての新産業創出力を育成すべく,製造業を
中心とした企業,大学などの研究機関,商工団体,公益法人,都県,政府関係
機関などを巻き込んだ広汎な組織化が行われている。そして,これらの組織の
協力により地域のプラットフォーム形成が行われている。それは,第 1には地
域における各産業支援機関,立地企業,地域企業との聞に有機的なネットワー
クを構築する,第 2には地域において挑戦的に取り組むべき方向性やビジョン
などを設定する,第 3には構築されたネットワークを活用しつつテーマごとに
コンソーシアムを組織化し地域における新産業創造を総合的な支援やコーディ
ネートを行うとするものであ
g
。
なお,この TAMAにおいて展開されている事業は,情報ネットワーク事業,
産学連繋・研究開発促進事業,イベント事業,新規事業支援事業,交際交流事
業などときわめて広汎なものとなっている。そのため,情報インフラの整備に
ついては意を払った対応が行われており,情報ネットワークシステムとしては
コーディネーション支援システム,リサーチ支援システム,コラボレーション
システムの整備が行われている。また,この TAMAの活動をビジネスモデル面
から特徴づけている要素を要約するならば概ね以下のとおりとな
g(図ー15)。
ここにおいては,何よりもまず会員の自発性の重視と能力控除への挑戦が重
視されている。そして,このことを前提としながら以下のような地域プラット
フ ォ ー ム の 構 築 が 強 力 に 志 向 さ れ て い る 。 第 lはリエゾンネットワーク
TAMAの設立である。これは会員企業の経営者や大学教授が個人の立場で共
同出資して設立されたものであり,個別企業の新規事業進出にあたり人,物,
資金,情報,技術などあらゆる面を支援する起業化のコンシュエルジェを目指
している。第 2は大学からの技術シーズの提供である。これについては産学連
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
286
香川大学経済論叢
7
3
6
図15 TAMA産業活性化協議会のビジネスモデル
携事業として展開されているものであり,実際には産学交流会という形態での
運営が行われてい
この
8
。
TAMAにおいて最も盛んに活動している事例として相模原のコラボ
レーションがあげられる。これこそがまさにコラボレーションの場としての地
域という目標が典型的に追求されている成功事例である。ここにおいてはコラ
ボレーションを実現する場として
R&D研究会(工業系), TAMA-ITの会(情
報系),新農業を考える会(農業系)という 3つの勉強会が組織化され,同時に
事業化段階にまで深めていくプロセスも確立している。なお,この相模原にお
けるコラボレーションの成功要因としては,特に優秀なコラボレーターの存在
が大きいものと考えられている。なお,このようなことからも場の活性には場
に価値を付与できるプロデューサーの存在が不可欠であることが理解で、きど。
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7
3
7
境界と異人の組織論
28界一
3
.
.
3 非因果的連結原理としての共時性
(
1
) 非連続的連結原理の重視
さて,ここまでの説明で共創が共同体としての場の形成において実現するこ
とが理解できたはずである。そこで,以下においては,この共創原理を時間概
念から言及し新たな連結原理についての仮説構築に向けた挑戦を行ってみる。
ここで取りあげる共時性,すなわちシンクロニシティとは実は心理学者のカー
ノレ・ユングと物理学者のヴオルブガング・パウリにより確立した概念であ
E
。
しかし,一般の人にとってシンクロニシティという言葉の響きから連想され
ることは,概ねシンクロナイズドスイミングにみる華麗な水中ダンスである。
また,著者においては,それは旧いアフリカにその源流を見いだせるキング・
サニー・アデが歌うアフリカのジュジュ音楽であった。このジュジュ音楽は,
かつてアデによってアフリカのフィーリングを最新テクノロジーにより世界を
揺るがすほどに仕上げられた。
9
8
3年に初めて日
このアデの 2枚目のレコードであるシンクロシステムは 1
本で発売なったが,これこそシンクロニシティのエッセンスがポピュラー
ミュージックという器の中に表現されたレコードであった。これはアフリカに
根付くジュジュミュージックをアデの考え方で発展させたものであり,そのた
め新しいテクニックをふんだんに使いながらもアフリカミュージックのルーツ
に深く根差しており,これこそがまさに時間融合の音楽であるといえる。また,
これは同時にアフリカ音楽を基盤にしながらもヨーロッパの音楽を被せていく
ことにおいて空間融合を志向した音楽ともいえ
E
。
このアデ音楽はすなわち結合を促進する音楽であり,これこそがアデのいう
世界を繋ぐシンクロシステムなのであった。このような音楽が辺境であるアフ
リカに誕生し全世界を揺るがしたところに,このシンクロシステムの多大な意
義が見出される。そして,これによってアデの演奏する音楽は世界中を 1つに
結合できる音楽であるといわれることとなった。このような体験が実は著者に
シンクロニシティに対しておおいなる注意を引かせることとなっ札
.D..ピートによればシンクロニシティという言葉は意味のある同時生
さて, F
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288
7
3
8
香川大学経済論議
起(コインシデシス) であり, また意味を持つかのように結び合わされた偶然
のパターンである。 このシンクロニシティとは, これまで我々が信じ込んでき
た時間と因果関係という概念を越えて自然が繰り広げる広大なパターンやすべ
ての事物を結びつける, まさに秘められたダンスや内的宇宙と外的宇宙との間
に宙吊りになった鏡を垣間見せてくれる。すなわち, シンクロニシティを出発
点とすることで心の世界と物の世界を結ぶ橋や物理学と精神を結ぶ橋の建設が
可能となっ迎。
さてユングにおいては, このシンクロニシティは因果関係の対極にあるもの
と位置づけられている。 そこ、でパウリーはこれをペースにして物理学の客観的
思考態度,すなわち結果によるコンスタントな連結がより主観的な諸価値すな
わち接触,透過性,意味による連結と統合されうる道を示唆したわけである。
そして, この示唆が伝統的な考え方である,いわゆる系列性を超えた新たな道
を切り開いていっ忠(図16)。
このような特徴を持つシンクロニシティを考えるためには,因果律や時間の
矢や客観性といった概念や心と物の分割や特異で唯一のできごとよりも複製可
能性を強調する態度などを伴う,いわば現在の我々が持つ世界観の限界を認識
図 -16 シンクロニシティと因果律
﹁
lili-
i
因果律
,
-eEE-----------
時
間
,
,
,
a,
・ ,
,
.
,,
,
.
, ,
.
,
,
.
目,
,
.
,
・
•
クb
ニ
L
問
t
.
.
.
寸
ー
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7
3
9
-289
ー
境界と奥人の組織論
することが大切となる。これはすなわち,連続的連結よりも非連続的連結を重
視しようという連結観を持つことが大切であることを意味す
4
0
0
(
2
) 共時性から超共時性への進化
このように定義づけられるシンクロニシティとは,ピートによればできごと
の同時生起に横たわっている普遍的な物と個別的な物との統一性により特徴づ
けられる。普遍的な物が持つこの本質は,また多くの個別のできごとがパター
ン,対称性,数学的法則で相互連結されている科学の内において見出される。
この科学においては,従来から伝統的に科学法則を純粋に記述的な性格を持つ
ものとして受け入れてきたが,しかし一方では,物質世界の現象の背後には実
は目的知性と呼ばれる発生的かっ形成的秩序が横たわっている可能性も存在す
る
。
さらに続けてピートによれば,意識の層とフロイト流の個人的な無意識の下
には心の集合的かつ普遍的レベルがあり,この心はまさに心と物質の両者の彼
方に横たわる夕、イナミクスによって維持されている。したがって,心と物質の
彼方においては物事を生成させ活性化させるようなパターンと対称性が存在し
ている。したがって,シンクロニシティ現象が起こる際においては,このよう
な領域に一瞬の間だけ触れることが可能とな
Z
。
さて,ユングの共同研究者の Iプロゴフによれば,かのユングはシンクロニ
シティという概念はたんに時間的な現象のみを言及しており,そのため関連し
ているかもしれない他のあらゆる類の事象や経験を切り捨てるため不適切な表
現であると述べていたそうである。すなわち,ユングにとっては,このシンク
ロニシティについては空間的な透視といった空間的現象も同時に指し示す概念
として捉えられていた。このことは,共時性の本質がまさに時空を超えた因果
関係を問題にしない宇宙のなかに生まれる秩序原理を持っていることを表して
いる。
このようなユングのシンクロニシティの本質について,プロゴフは以下のよ
うな論述を行っている。それはすなわち,意味というものは個人の情緒の無意
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
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ー
7
4
0
香川大学経済論叢
識な水準,あるいはそれを超えた元型的な深みにおいて経験されるという見解
である。この元型的要因がある状況に関わる地点においては,観察者の意識よ
りも何かもっと活力のある物が関与してくる。それこそが,実は無意識的な情
緒の出現よりもさらに活力のある要因なのであ
g
。
さて,元型的要素はその状況において有力な要因となっている。その理由は,
これがまさに全体としての状況を再結晶化させ再構成する役割を果たすからで
ある。すなわち,この元型的要因がその有力な要因として新たな状況の創造を
行っている。また,それは時間軸を横切って存在するため新しい状況を貫き特
徴づける秩序づけのための新たな特質の中心となってい
g
。
元型的要素のある状況内におけるこの作用は,因果律に対する普通の定義の
どれにも包摂されえないものである。そうなると,これはまさに因果律的では
なくむしろ再結晶化と再構成化であると考えられる。元来,元型的要素は,そ
の内部の因果的連関にも空間の境界にも,また意識的精神のいかなる直接要因
にも関わらない時間軸を横切る状況を再構成する。すなわち,この元型的要素
は因果律を超えて働きその効力は因果律を超えている。したがって,この限り
において,時間軸を横切る状況の統一を再結品化する元型的要素は超因果的な
要因なのである。
なお,プロゴフによれば,ユング自身は超因果的などとはいっていないが,
もしもシンクロニシティについてのユングの持つ考えの深みに達すれば,この
ことがユングの中心概念であることを理解できるとも述べている。このことは,
すなわちシンクロニシティ原理の作用は因果律を横切り越えて働く要因によっ
ているという見解なのである。また,これが起こる時その要因はその時を構成
する要素を再コンステレートし新たな意味のある事象を生じることなのであ
る。このように,超因果的要因の概念はシンクロニシティ原理において本来的
に備わっているものと考えても差しっかえな♂。
(
3
) 創造的源泉への窓
さて,リードによれば今ではユングとパウリによって提唱されたシンクロニ
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4
1
-291
境界と異人の組織論
シティは次第に新たな次元を切り開いている。このことは,すなわち心と物質
を 2つの分離された実質であると捉える因果律的かつ決定論的世界の代わり
に,機械よりははるかに創造的な生きた有機体に近い無限の微妙さを持つ宇宙
が出現することを意味している。そして,この秩序の深い所からシンクロニシ
ティは自然全体の本質的な統合体を暗示する物として働く意味があるパターン
や結合という形をとり,結果として心的,物質的領域に跨って広がる調和が展
閲されることとな
E
。
このようなシンクロニシティについて,ユングにおいては特に彼の宇宙論の
中にその萌芽を読み取ることができる。すなわち,このことは特に彼の唱えた
プレローマという概念の中に端的に表現される。このプレローマとはグノーシ
ス派の創生神話の起源を持つ旧い用語であり,これについてはすべての実在を
生む基底つまり神性を意味してい
g
。
このプレローマとは同時に空でもあれば完全に充満しでもおり,宇宙はその
中のあらゆる位点に織り込まれている。そして,このいわば無限の形を持たな
い無限の基底から,まさに秩序と区別の世界である被造物の世界であるクレア
トゥーラが出現する。このようなユングの心と物質の宇宙に関する理論によれ
ば,あらゆる実在はクレアトゥーラにありクレアトゥーラはその基底をプレ
ローマの充満に持っている。すなわち,空でもあれば充満しでもいるプレロー
マの世界においてはどのような区別も存在していない。むしろ,区別すなわち
光と闇や,空と充満や,善と悪や,ーと多などの対立はいわば無前提的知覚行
為とでも呼べるものによりクレアトゥーラにおいて出現してい
g
。
これと同様に,多様な二元性も恒常的にあるものではなく極性がそうである
ようにすべての区別が解消され,ある神秘的な結合において lつになる。した
がって結合において,二元性はプレローマの無と解消の内に帰って行くことと
なる。そして,区別という創造的な行為によりニ元性は再びクレアトゥーラへ
と生まれていく。すなわち,あらゆる創造は純粋なポテンシャルへと分かれて
は再び結合して形のないエネルギーと不動性を生み出してい
g
。
このようなことから,心と物質の宇宙全体はすぐれた交響曲の運動のように
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
292
ー
香川大学経済論叢
7
4
2
絶えず変化してゆく意味を持っており,そして意味は常にそれ自身に対して創
造的に働き返している。シンクロニシティとはこの基本的運動から流れ出して
くるものであり,それはそれを体験する主体に対して宇宙が持つ深い意味への
感覚と,その創造的源泉から流れ出してくる運動に対する直感を持たせ
g
。
このように,シンクロニシティという概念は無限の潜在力を持つ創造的源泉,
宇宙そのものが湧き出してくる泉への窓を聞いてくれる。そして,心と物質が
いかに自然の区別され分離された 2つの局面はなく,実在のより深い秩序から
生じることを見せている。そして,シンクロニシティは我々が自身のみならず
あらゆる実在の起源である創造的,無前提的な源泉との間で新たに接触し直せ
自
由
ることを教えてくれる。
こうなると,リードによればシンクロニシティとは人間の創造力の限界にま
で私たちを誘ってきた lつの旅の出発点となる。これから結論を導くならば,
我々がシンクロニシティから学ぶべき点は,我々の意識には限界がないことを
自覚することであり,これによって社会や人生の創造的な変換に取り組めるこ
とである。しかもリードによれば,このシンクロニシティにおいては,亀甲や
盤竹に頼ることなく叡智と理解とともに生られることを示している。
(
4
) スーパーエージェント型モデル
さて,我々はシンクロニシティを理解することで創造的源泉の窓を入手した
のだが,以下においてはシンクロニシティに触発されたビジネスモデルについ
ての紹介を試みる。ここでは,特に佐藤茂幸の唱えるスーパーエージェントビ
ジネスモデ、ルについて言及する。これは,有機的なブレインとして存在するスー
ノT
ーエージェントのシンクロニシティを持つ特性を駆使したビジネスモデルで
ある。それは,以下に述べるような企業において中核能力を獲得するための経
営を実現するためのビジネスモデルである。
さて,中核能力の獲得が企業の競争力を強めることを確実なものとし,その
ためには外部との効果的な連繋が求められる。したがって,内部と外部とを結
ぶアライアンスの場を形成するスーパーエージェントの存在が意味を持つわけ
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
4
3
-293-
境界と異人の組織論
である。そこで,このスーパーエージェントの活動領域を明確にすべく経営資
源のストックとフローの 2軸からスーパーヱージェントビジネスモデルの説明
を行う。
まず、,縦軸には経営資源のストックとして組織内に保有する資源と組織外に
保有する資源に分類する。そして,横軸には経営資源のフローとして組織内部
に進化させる資源と外部へ発散する資源とに分類する。このモデルにおいては,
深化させるべき中核能力の領域と連繋すべき外部資源との聞のエージェントの
活動領域がある。そして,ここではスーパーエージェントの活動領域について
は 3つの領域が設定され
g(図一17)。
図ー1
7 スーパーエージエントの戦略モデル
組織内部
内的深化
組織外部ー¥
ーターーヘ¥
〆一一一人一一一¥.r-
組織外部に保有
組織内部に保有
経営資源のスト yク軸
ノ
ノ
/
〆
外部資源
エージェントの
活動フィールド
、
¥
ノ
ノ
〆
外的追究
・一一-ー各エージエント
│経営資源の利用軸│
の動き
それらは,第 1はアウトバウンドのスーパーエージェントであり,これは組
織内にあって外部との連繋を志向している。第 2はインバウンドのエージェン
トであり,これは組織外にあって組織内の中核能力にアプローチしていく。こ
のモデノレにおいては,アウトノ Tウンドとインバウンドのエージェントをあたか
も振り子のように組織内外を動態的,有機的に活動させることに特徴を見出せ
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
-294
ー
香川大学経済論叢
7
4
4
る。また,第 3は組織内外の中立者すなわち第 3者としてのサードパーティの
役割を担うスーパーエージエントであ
g
。
第 1のスーパーエージェントであるアウトバウンドスーパーエージェント
は,本体から経営資源を分離した戦略部門を設置し,その組織や人の自立性や
流動性を高め外部との連繋を求めていく。なお,アウトバウンドスーパーエー
ジェントには,車島織内の中核能力との親和性が高い部門や人が選ばれている。
そのため,組織外での活躍を促すことで企業としては外部資源との戦略的な連
結能力の獲得が可能とな
g
。
第 2のスーパーエージェントであるインバウンドスーパーエージェントは,
外部との連携性から中核能力を高めていく。具体的には,外部のエージ、ェント
機能を有する人や組織に対して内部化を勧め境界内に経営資源や価値を引き込
むのである。そして,スーパーエージェントが持つスーパーブレインと組織内
の中核能力の融合を図ることで,実は自社の知識の深化による価値創出機能の
高度化を狙うこととな
g
。
第 3のスーパーエージェントであるサードパーティスーパーエージヱント
は,企業がこれを活用する視点と企業自身がサードパーティ化する視点とがあ
る。前者は,客観性の高いスーパーエージェントを活用することで外的組織と
の廉潔性や親和性を高めている。後者は,スーパーエージェント機能自体を自
社の中核能力とし企業と企業のパイプ役となる完全な持たざる企業へアプロー
チを行ってい
g
。
(
5
) トライアスロン型モデル
さて,ここにおいてはもう 1つの場の形成を共創的に追求するビジネスモデ
ルとして山下正幸が提唱するトライアスロンビジネスモデルについて紹介を
行ってみる。これは,きたるべき社会を多元的経済社会と規定した上で,これ
に適合的なモデルとして考えられたものである。また,この背景には今や世界
を席巻しているアメリカ型のビジネスモデノレとは異なる日本型のビジネスモデ
ルを構築したいとの願いが込められている。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
4
5
-295-
境界と異人の組織論
これは,宮古島で行われるトライアスロン大会をモデルとすることで多元的
経済社会に相応しい新たなビジネスモデルである。しかし,一体なぜトライア
スロンがビジネスモデルに適用できるのだろうか。それは山下にいわせれば,
じつはトライスロンにおいては参加選手の個としての真の強さや意志が最も端
的に象徴されているからである。このトライアスロンというスポーツが他のス
ポーツと異なる点は以下の 3点に要約できる。なお,これらがビジネスモデル
としてトライアスロンを捉えた特徴であるともいえ
第 lの特徴は,
g
。
トライアスロン大会には,ポピュラーなスポーツであるマラ
ソンとは異なり,十分なスタップが周辺にいなければ成立しないことである。
このトライアスロンには,スイム,バイク,ランとそれぞれ専門のスタッフに
加え,同時に過激なスポーツであるがゆえに備えるべき多くのスタップの配置
が不可欠である。その意味で,このトライアスロンの大会の開催はきわめてコ
ストがかかるビジネスモデルであり,また高度なマネジメントが要請されるビ
ジネスモデルであ
第 2の特徴は,
Z
。
トライアスロン大会には,地域住民,企業,その他の団体と
の絶対的な信頼や協力関係が不可欠な条件となることである。このトライアス
ロンはある特定の競技場で開催されるわけではないし,住民の生活の場や企業
活動の舞台である地域全体を活用するスポーツである。実際に,宮古島では 6
万人の住民が準備や片付けに 1週間を費やし,その聞は地域活動は全く麻痔し
てしまっている。したがって,このことからは効率性や収益性を超えた何らか
の価値が認められることが前提条件となど。
第 3の特徴は,
トライアスロン大会には,産官学,地域とのパートナーシツ
プが構築されており,あくまで lつの大会における顧客の効用を最大にする
サービスの供給を行っているシステムが確立している。すなわち,ここでは第
1のカテゴリーである公的機関,第 2のカテゴリーである営利企業,第 3のカ
テゴリーである非営利組織や協同組織的金融機関の 3つのセクターによる共創
が行われる。なお,これこそが実はトライアスロンモデルのまさにトライアス
ω
ロンたる所以である(図-18)。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
296
7
4
6
香川大学経済論叢
関ー1
8 トライアスロンモデルの基本原理
第 3カテゴリー
(地域,コミュニティ機能)
〉
一
さて,そこでトライアスロンモデルを構成する 3つのカテゴリーについて比
較検討すると以下のとおりとなる。第 1の公的機関は長期的な視野から公共政
策実現を追求する。第 2の営利企業は短期的な視野から収益最大化を実現する。
第 3の非営利組織や協同組織的金融機関は中・短期的視野から公共利益の確保
を実現する。そして,このような 3つのセクターのコラボレーションにより多
元的経済社会に不可欠な場の形成が可能とな
E
。
言い換えれば,このトライアスロンモデルにおいては, ドライビングコアの
民間セクターと安定した豊かな社会の市民セクター,そしてそれを調整する公
セクタ}などから構成されている。なお,このトライアスロンモデルにおいて
は 3つのセクターの何れかが中心的なマネジメントを担うこととなるが,いず
れにしてもそれに対してはまさにプロデューサー的な役割が期待される。そし
て,これを可能とするものがある強力な意志の存在であり,その意志を支える
相互扶助の精神の存在であると考えられど。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
4
7
297
境界と異人の組織論
34 原始共同体型の時空コンセプト
“
以上の論述によって,第 lに共同体としての場において共創が実現され,ま
た第 2に共時性が非因果的連結を実現されることが理解できたはずである。こ
れは,すなわち境界という場がもたらす創造力や共時性という時のもたらす創
造力についての言及でもあった。このように,異次元レベルでの創造性を実現
するには場や時の持つ常識を超えた発想を取り入れることが有効であり,ビジ
ネスモデノレにおいても既にこのような考え方に依拠して構築されているものが
登場している。
これは,すべて時空間における新たな原理として語ることができることであ
り,時間と空間の謎を解き明かすことでもあった。見田宗介によれば,我々の
持っている現代的な時間感覚や空間感覚の基礎的な変数は,第 1に一切の事象
をそこに定位し測定することのできる尺度としての時間・空間コンセプトの明
確な抽出の有無,第 2に時間的なものと空間的なものとの原的な異質性への鋭
敏な感覚の有無であど。
この考え方によると,以下のような 4つの型を導出することができる。これ
は,縦軸には時間・空間の異質性の相への照準,横軸には世界を通約する尺度
としての時間と空間の観念形成で捉えたものである。なお,これによれば大き
く4つの時空間の類型へと整理することができ
g(図-19)。
第 1象限の時空とは無限・均質・不可逆の時空であり,これは近代社会に特
徴的な時空である。第 2象限の時空とは創造・終末論的な時空であり,これは
へブ'ライズムに特徴的な時空である。第 3象限の時空とは反復・交替としての
時空であり,これは原始共同体に特徴的な時空である。第 4象限の時空とは幾
何学化された時空であれヘレニズムの特徴的な時空であ
g。
第 4象限のヘレニズムは,質的に異なったものを通約する力を持った抽象的
に数量化された時間・空間の観念を早熟に展開した世界だけれども,同時に不
可逆性としての時間の空間との原的な異質性についてはヘブライズムのように
ω
鋭敏ではなかった世界として設定できる。
第 2象限のへフ、ライズムは,時空の質的な還元不能性,代替不可能性に照準
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298-
7
4
8
香川大学経済論叢
図ー 1
9 時間と空間のコンセプト体系
時間・空間の異質性の相への照準
[時間・空間の付加逆性の相への照準]
世
界;
的
通 世
諸
界
の
尺
度 を
不質
可的
と
し通
約
す
[ヘプライズム]
[近代性]
[原始共同体]
[ヘレニズム]
能な
性
J¥
てる
の量
時
問
と 的
な
の
準
照
二
クE
恒
間
時間・~聞の同質性の相への照準
[時間の反復性の相への照準]
見回宋介「時間と空間の社会学」井上俊他編『時間と空間の社会学』岩波書庖より
を置くと同時に,この通約不可能性つまりアルケーからテロスに向けて,そし
て創造から終末に向けて方向を持つ時間というものの不可逆性,つまり空間と
の原的異質性ということに早熟に敏感であった世界として設定され
g
。
第 3象限の原始的な共同体は,体験される世界の事象の時間的な様相を捉え
るコンセプトを,空間的な様相を捉えるコンセプトから原的に異質の不可逆性
として分離して表象することのなかった世界であると同時に,昼・夜,夏・冬,
生・死などは端的に異質の諸世界として表象され,それはたとえ時間であれ空
間であれこれらを通約する共通の尺度というようなものを抽出して実体化する
吊
。
ことのない世界であった。
第 1象限の近代性は,我々が日常常識であると受容しているコンセプトであ
る。ここでは,前述したように無限・均質な時空であることに特徴が見出され
るが,最大の特徴は不可逆の時空であるという認識に基づいた時空間の捉え方
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7
4
9
境界と異人の組織論
299-
を千子っていることである。
我々が,次世代の社会経済モデルを考えるにあたって大切な観点は,この 2
軸で捉えた時空の体系において第 1象限以外の 3つの象限の考え方を持つこと
である。そして,本章においては,特に第 3象限の原始共同体の持つ時空,す
なわち反復・交替としての時空にマージナルマンやシンクロニシティの概念を
読み取ることができる。これによって,相互に関係することや関係から剥離す
ることの意味を問い直すことが可能となる。
4.組織デザインの未来展望
さて,昨今のインターネットを契機としたデジタ lレエコノミーの到来や NPO
を契機としたエコロジカルエコノミーの到来と,我々の住む地球環境は大きく
様変わりしつつある。したがって,企業の存在意義,そこで働く人間の意義や
一人ひとりの人聞が生活する家庭やコミュニティのあり方も大きく転換してい
る。そうなると,人間一人ひとりを何らかの方法で組織化している人間の結合
原理についても従来のものとは異なる考え方を持つことが不可欠となる。
それは,組織をクローズドなものとして捉え,そして無機的な存在として捉
える機能主義一辺倒の捉え方から,組織自体の持つ有機性に注目し自己組織的
に多様に形態を変えて深化する生命論的な捉え方を導入することへの転換であ
る。すなわち,これはバイオロジカルな存在として組織を捉える考え方なので
ある。そこで,今やこのような新たな時代の到来に相応しい組織デザインの構
20)。
築が期待される(図第 1は,事業創造や起業活動が期待される容器が例えば個別企業というスタ
ティックな経済単位としての組織から,もっと多重複合的な動態的な組織へと
転換することである。元来,組織の発生は仕事の単位を取りまとめていく必要
から誕生したが,結果として考案された階層的な組織はすでに過去のものと
なっている。そして今後においては,この仕事単位に組織を編集していく作業
が企業を超えてアメーパ的に現出し,いわばそれらの多様な場の創出とそこに
集まる人間の創発的なインタラクションが重視される。このことは,すなわち
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-30
βー
7
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0
香川!大学経済論叢
図-20 組織デザインの戦略比較
容器形成
行為転換
高級官僚
マージナルマン
収奪価値
付加価値
プログラム
モデル
因呆律
シンクロニンティ
組織デザインが行われるべき狙いが「容器形成」から「行為転換」へと転換す
ることを意味する。
第 2は,パラダイム転換やブレイクスルーは概して組織における中心や権力
の近傍に現出するのではなく中心から遠く離れた辺境から現出することであ
る。これはすなわち,根本的な変革が行われるのは求心力からではなく遠心力
からであることを表している。したがって,求心力を働かせるマネジメントは
管理の精度が改善されることによる利点が見出せるが,未来に向けた夕、イナ
ミックな組織創造を実現することは不可能である。そこで,境界における遠心
力と求心力のバランスのなかから生まれてくる知や理が不可欠となるため,内
と外を融合する辺境に作む人聞が保持するパワーが尊重されることとなる。こ
れはすなわち,企業においても期待される人材像が「高級官僚」よりは「マー
ジナルマン」が望まれていることを意味する。
第 3は,企業活動によってもたらされる価値創造が支配と依存の関係による
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7
5
1
境界と異人の組織論
301ー
階層的な関係から現出されるのではなしむしろ企業の内外を問わずすべての
関与者の水平的な関係から現出される。これはすなわち,インタラクションか
らもたらされる創発的な関係の重視と,これによってもたらされる有機的な結
合の重視を意味している。こうなると,企業と企業そして組織と組織における
価値創造の方法については,従来の奪うことによる利益の獲得ではなしむし
ろ与えることによる利益の獲得が期待される。こうして,次第に企業において
創造されることが期待される価値が,次第に「収奪価値」から「付加価値」へ
と転換することを意味する。
第 4は,企業において価値を現出する組織的方法論が従来からの部門単位の
集約ではなく,事業の基本コンセプトとビジネスシステムから構成されるビジ
ネスモデルへと転換することである。なお,ここでいうビジネスモデ、ノレについ
ては価値創造の中核概念に価値創造のための仕組みゃ仕掛けを掛け合わせたも
のである。このことは,すなわち事業活動を推進するエンジンとそして期待さ
れるものがまさに価値を継続的に創出する組織的な活動であることを意味す
る。こうして,企業において価値創造を可能とする組織的な対応方法について
は,次第に従来の「プログラム」から「モデル」へと転換していくこととなる。
第 5は,企業において共創が追求されるために依拠する時間概念が,従来の
非可逆的な捉え方から脱却し自在に時を駈けられる可逆的な捉え方へと転換す
ることである。これは,創発とは空間だけではなく時聞においても追求される
べきであり,時空間の全体を捉えた目的知性を重視した形成的秩序を導入すべ
きであることを意味している。このことは,無意識的な価値観あるいは原始的
な価値観を重視することであり,また,これに近づこうという努力を尊重する
という考え方に立脚している。そして,このような考え方から, *J1織連結の方
法論が「因果律」から「シンクロニシティ」へと転換することによる非連続的
な結合が追求されることとなる。
このように,組織デザ、インの未来展望は以上のような新たなパラダイムに
よって現出することとなり,まさに境界と異人にスポットを当てた組織論の展
開が期待されることとなる。このように,新たな世紀に向けたグローパルでエ
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
302-
香川大学経済論叢
7
5
2
コロジカルな経済社会においては,組織戦略やこれを基盤とした経営戦略にお
いても根本的な革新が行われることが期待されている。その意味においては,
今や時代は超感覚的な領域までも含んだ、総合的なアプローチが,すなわち科学
的なアプローチと神秘的なアプローチの統合的な観点、の導入がおおいに期待さ
れる。
参考文献
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) 堤(19
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1
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),向上番。
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(
1
9
) 堤(19
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6
),前掲書。
(
2
0
) 堤 (
1
9
9
6
),前掲書。
) ロベール・ボアイエ(山田鋭夫訳) (
1
9
9
0
) I新版レギュラシオン理論』藤原欝庖
(
21
(
2
2
) ボアイエ(山田訳) (
1
9
9
0
),向上書。
(
2
3
) ボアイエ(山田訳) (
1
9
9
0
),向上脅。
(
2
4
) ボアイエ(山田訳) (
1
9
9
0
),向上番。
) ,ポスト・フォーデイズムと新しい社会運動」山田鋭夫,須藤修編著
(
2
5
) 中村陽一 (
1
9
91
『ポストフォーデイズム』大村書庖。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7
5
3
境界と異人の組織論
303
(
2
6
) 中村 (
1
9
9
1
),向上稿。
(
2
7
) 松岡正剛 (
2
0
0
0
) I知の編集術』講談社現代新書。
(
2
8
) 松岡 (
2
0
0
0
),同上書。
(
2
9
) 松岡 (
2
0
0
0
),同上書。
(
3
0
) 野中郁次郎,紺野登 (
1
9
9
9
) I知識経営のすすめ』ちくま新書。
(
31
) 野中,紺野 (
1
9
9
9
),同上書。
(
3
2
) F
.
.テニンエス(杉之原寿一訳) (
1
9
5
7
) Iゲマインシャフトとゲゼルシャフト』岩波文
庫
(
3
3
) テニンエス(杉之原訳)(
1
9
5
7
),同上書。
(
3
4
) 伊丹敬之(19
9
9
) I場のマネジメント A NTT出版。
(
3
5
) 伊丹 (
1
9
9
9
),向上書。
(
3
6
) 清水博 (
1
9
9
6
) I生命知としての場の論理』中公新書。
(
3
7
) 伊丹 (
1
9
9
9
),前掲書。
(
3
8
) 原田保 (
1
9
9
9
) ~デジタルスタイル』英治出版。
(
3
9
) 原因保 (
1
9
9
9
) rデジタルワークスタイル革命」原因保,松岡輝美編著『実践
SOHO.
テレワーク』日科技連出版社。
(
4
0
) 原田保 (
1
9
9
8
) rアウトソーシングからコラボレーションへ」島田達巳,原田保編著『笑
践アウトソーシング』日科技連出版社。
(
41
) 原田 (
2
0
0
0
),前掲稿。
(
4
2
) 原因 (
2
0
0
0
),前掲稿。
(
4
3
) 原因 (
2
0
0
0
),前掲稿。
(
4
4
) 原因 (
2
0
0
0
),前掲稿。
(
4
5
) 佐堀大輔 (
2
0
0
0
) rWeb ビジネスのスーパーヱージェント」原田保編著 Eスーパーエー
ジェント』文民室。
(
4
6
) 佐堀 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
4
7
) 佐堀 (
2
0
0
0
),同上稿。
(
4
8
) 佐堀 (
2
0
0
0
),同上稿。
(
4
9
) 佐堀 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
5
0
) 佐堀 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
51
) 佐堀 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
5
2
) 山崎康夫 (
1
9
9
9
)r
物流のコラボレーション」原因保,山崎康夫編『実践コラボレーショ
ン経営』日科技連出版社。
(
5
3
) 山崎 (
1
9
9
9
),向上稿。
(
5
4
) 山崎 (
1
9
9
9
),向上稿。
(
5
5
) 山崎 (
1
9
9
9
),同上稿。
(
5
6
) 山崎 (
1
9
9
9
),同上稿。
(
5
7
) 山崎 (
1
9
9
9
),同上稿。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
3
0
4
-
香川!大学経済論叢
7
5
4
1
9
9
9
),同上稿。
(
5
8
) 山崎 (
(
5
9
) 上笹恵、 (
2
0
0
0
) ,ザ・スーパーモデルプロジェクト」原回保編著『コーディネートベン
チャー』同友館。
(
6
0
) 上笹 (
2
0
0
0
),同上稿。
(
6
1
) 上笹 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
6
2
) 上笹 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
6
3
) 上笹 (
2
0
0
0
),同上稿。
(
6
4
) 上笹 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
6
5
) 上笹 (
2
0
0
0
),同上稿。
(
6
6
) 上笹 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
6
7
) 笠原博 (
2
0
0
0
) ,都市デザインシステム」原田保編著『コーディネートベンチャー』同
友館。
(
6
8
) 笠原 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
6
9
) 笠原 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
7
0
) 笠原 (
2
0
0
0
),同上稿。
(
71
) 笠原 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
7
2
) 笠原 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
7
3
) 笠原 (
2
0
0
0
),同上稿。
(
7
4
) 笠原 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
7
5
) 原因保 (
2
0
0
0
),前掲稿。
(
7
6
) 日高幹生 (
2
0
0
0
) ,パドックプロジェクト」原因保編著『コーディネートベンチャー』
同友館。
(
7
7
) 日高 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
7
8
) 日高 (
2
0
0
0
),同上稿。
(
7
9
) 清水 (
1
9
9
6
),前掲番。
(
8
0
) 清水 (
1
9
9
6
),前掲書。
(
81
) 清水 (
1
9
9
6
),前掲書。
(
8
2
) 清水 (
1
9
9
6
),前掲書。
(
8
3
) 清水(19
9
6
),前掲書。
(
8
4
) 三輪敬之 (
2
0
0
0
) ,共創における生命的コミュニケーション」清水博,久米是志,三輪
敬之,三宅美博著『場と共倉山 NTT出版。
(
8
5
) 三輪 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
8
6
) 三輪 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
8
7
) 三輪 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
8
8
) 三輪 (
2
0
0
0
),同上稿。
(
8
9
) 三輪 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
9
0
) 三輪 (
2
0
0
0
),向上稿。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
755
境界と異人の組織論
305
(
91
) 三輪 (2000),同上稿。
(
9
2
) 三宅美博 (
2
0
0
0
) ,コミュニカビリティと共生成」清水博,久米是宏、,三輪敬之,三宅
美博著 Z場と共倉山 N T T出版。
(
9
3
) 三宅 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
9
4
) 三宅 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
9
5
) 三宅 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
9
6
) 三宅 (
2
0
0
0
),同上稿。
(
9
7
) 三宅 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
9
8
) 三宅 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
9
9
) 野中郁次郎,紺野登 (
2
0
0
0
),場の動態と知識創造:夕、イナミックな組J
織知」伊丹敬之,
西口敏宏,野中郁次郎編著『場のダイナミズムと企業』東洋経済新報社。
(
100) 野中,紺野 (2000),向上稿。
) 野中,紺野 (2000),向上稿。
(
101
(
1
0
2
) 佐藤茂幸 (
2
0
0
0
) ,スーパーエージェントのビジネスモデル」原因保編著『スーパーエー
ジェント』同友館。
(
103) 佐藤 (2000),悶上稿。
(
1
0
4
) 佐藤 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
1
0
5
) 佐藤 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
1
0
6
) 佐藤 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
1
0
7
) 奥山浩道 (
2
0
0
0
) 'TAMA産官学による産業創出」原田保編著『コーディネートベン
チャー』同友館。
(
1
0
8
) 奥山 (
2
0
0
0
),同上稿。
(
109) 奥山 (2000),向上稿。
(
1
1
0
) 奥山 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
l
l
l
) 奥山 (
2
0
0
0
),向上稿。
(
1
1
2
) F.
.
D リード(菅啓次郎訳) (
1
9
8
9
) Iシンクロニシティ』朝日出版社。
(
1
1
3
) 中村とうよう『シンクロシステム(キング・サニー・アデ)のライナノーツ』ポリス
ター。
(
1
1
4
) 中村(1983),向上稿。
(
1
1
5
) リード(菅訳) (1989),前掲書。
(
1
1
6
)
リード(菅訳) (1989),前掲書。
(
1
1
7
)
リード(菅訳) (1989),前掲書。
(
1
1
8
)
リード(菅訳) (
1989),前掲脅。
(
1
1
9
)
リード(菅訳) (1989),前掲響。
1
1
.
1創元社。
(
120) 1プロゴフ(河合隼雄,河合幹雄訳) (1987) wユングと共時'
(
1
21
) プロゴフ(河合訳) (1987),向上書。
(
1
2
2
) プロゴフ(河合訳) (
1
9
8
7
),向上書。
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
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也。
義底
本書
寺波
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(
1
3
5
) 佐藤 (
2
0
0
0
),前掲稿。
7
5
6
香川大学経済論叢
306-
1
9
8
7
),向上書。
(
1
2
3
) プロゴフ(河合訳) (
(
1
2
4
) リード(菅訳) (
1
9
8
9
),前掲書。
(
1
2
5
) リード(菅訳) (
1
9
8
9
),前掲書。
(
1
2
6
) リード(菅訳) (
1
9
8
9
),前掲響。
(
1
2
7
) リード(菅訳) (
1
9
8
9
),前掲害。
(
1
2
8
) リード(菅訳) (
1
9
8
9
),前掲書。
(
13
0
) 佐藤 (
2
0
0
0
),前掲稿。
(
1
2
9
) リード(菅訳) (
1
9
8
9
),前掲書。
(
1
31
) 佐藤 (
2
0
0
0
),前掲稿。
(
1
3
3
) 佐藤 (
2
0
0
0
),前掲稿。
2
) 佐藤 (
2
0
0
0
),前掲稿。
(
13
(
1
3
4
) 佐藤 (
2
0
0
0
),前掲稿。
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