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組織登録からみた広島県における前立腺腫瘍登録数の推移

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組織登録からみた広島県における前立腺腫瘍登録数の推移
JACR Monograph No. 11
組織登録からみた広島県における前立腺腫瘍登録数の推移
Numerical changes in prostate tumor registration in Hiroshima Prefecture,
as seen from tissue registry
西
1.
信雄*
杉山 裕美
桑原 正雄
笠置 文善
有田 健一
はじめに
片山 博昭
安井 弥
児玉和紀
万件)の届出がある。
広島県腫瘍登録事業(いわゆる組織登録)は
今回我々は前立腺癌の登録例について、登録
広島県医師会を実施主体として 1973 年から実
数・登録率の年次推移について検討した。また
施されてきた。2005 年4月の個人情報保護法
発見動機、生検・手術割合、組織型分類、転移
の全面施行にあわせて、広島県が実施主体であ
部位についても検討した。前立腺癌の発見動機
る広島県地域がん登録事業と一体化した。今回
については、臨床癌 clinical carcinoma(臨床的
我々は、近年増加が指摘されている前立腺腫瘍
に前立腺癌と診断され、組織診でも前立腺癌が
について、広島県腫瘍登録における 1973 年か
確認された症例)、オカルト癌 occult carcinoma
ら 2000 年のデータをもとに解析を行ったので
(諸臓器転移巣による臨床症状が先行するた
報告する。
めに原発巣を検索したが発見されず、その後、
それらの原発巣として前立腺癌が発見された
2.
症例)、偶発癌 incidental carcinoma(非悪性疾患
対象と方法
広島県腫瘍登録は 1973 年に開始し、広島県
として切除あるいは摘出された前立腺組織に、
内の医療機関 60 施設の協力を得て、良性腫
顕微鏡的検索により発見された癌)
、ラテント
瘍・悪性腫瘍(血液疾患も含む)の病理組織に
癌 latent carcinoma(生前臨床的に前立腺癌の徴
関する資料を収集している。良性腫瘍について
候が認められず、死後の剖検によりはじめて前
は病理診断依頼箋と病理診断報告書の写しが、
立腺癌の存在を確認した症例)の 4 種類に分類
また悪性腫瘍については病理診断依頼箋と病
した。広島県腫瘍登録は診断されたすべてのが
理診断報告書の写しと病理標本が届け出られ
んが届け出られているわけではなく、組織診断
ている。届け出られた情報は広島県医師会が受
を行った腫瘍について届け出られている。この
け付け、病理診断は病理医が症例を再確認して、
点が一般の地域がん登録とは異なるため、届け
国際疾病分類腫瘍学第3版をもとに部位と組
出られた腫瘍の集計においては、
「登録数」、
「登
織診断をコード化している。また同一腫瘍で複
録率(人口 10 万対)」と表現した。
数の届出をまとめる総括診断(代表診という)
も病理医が行っている。登録された症例の同一
3.
人物照合とデータ管理については、㈶放射線影
(1) 新規に登録された前立腺悪性腫瘍登録数
の年次推移
響研究所が業務を委託されている。現在で年間
1973 年から 2000 年の間に新規に登録された
約 4 万件(良性腫瘍と悪性腫瘍それぞれ約 2
*㈶放射線影響研究所 疫学部
〒732-0815
結果と考察
広島市南区比治山公園 5-2
60
JACR Monograph No. 11
400
700
新規登録数︵
件︶
600
︵
新
規 500
登
録 400
数
70-79 歳
200
80 歳−
︶
個 300
/
年 200
300
100
100
0
1985
1990
1995
60-69 歳
2000
年
−59 歳
図 1. 新規に登録された前立腺悪性腫瘍登録数の
年次推移
99
97
93
95
19
89
91
19
19
87
19
19
83
85
19
79
77
73
81
19
19
19
19
19
19
75
0
19
1980
19
1973 1975
年
図 3. 年齢階級別にみた前立腺悪性腫瘍登録数の
年次推移
700
600
登 500
録
数 400
(生検後、手術を施行された症例は手術例に分
総登録数
︵
類)。手術症例数の増加が 2.6 倍であるのに比
件
/ 300
年
し、生検症例数の増加が 3.5 倍であり、大きな
︶
生検例
差を認めた。これは PSA によってまず発見さ
200
手術例
れる症例数が増加し、生検例の増加、診断例の
100
増加につながったと考えられる。また手術例の
0
1973 1975
1980
1985
1990
1995
2000
年
図 2. 生検・手術の別にみた前立腺悪性腫瘍登録数と
総登録数の年次推移
増加が生検例の増加より小さいことについて
は、臨床癌で生検によって前立腺悪性腫瘍と診
断されても、手術以外の治療、例えばホルモン
前立腺悪性腫瘍は 6,088 例であった。同期間に
療法、放射線療法を受ける症例や、偶発癌であ
登録された良性腫瘍は 5 例であった。前立腺悪
ることから経過観察される症例が多いためと
性腫瘍登録数を年代別にみると、登録数は増加
考えられる。
の一途をたどっており、とりわけ 1990 年頃を
境に増加傾向が顕著であった(図 1)。血清中
(3) 年齢階級別にみた前立腺悪性腫瘍登録数
の値を測定することで前立腺癌のマーカーと
の年次推移
して広く使用されている PSA(prostate-specific
1973 年から 2000 年の間に新規に登録された
antigen)は 1980 年代半ば以降に臨床的に利用
前立腺悪性腫瘍を年齢階級別にみると、1990
1)
されはじめたとされており 、1990 年からの前
年頃を境に 60 歳以上の症例の増加傾向が著し
立腺悪性腫瘍登録数の急激な増加と時期的に
かった。特に 70−79 歳の年齢階級の増加が顕
一致していた。
著であった(図 3)。
(2) 生検・手術の別にみた前立腺悪性腫瘍登録
(4) 年齢階級別にみた生検・手術別前立腺悪性
数と総登録数の年次推移
腫瘍登録数および登録割合
1988 年から 2000 年の間に新規に登録された
年齢階級別に生検・手術別前立腺悪性腫瘍登
前立腺悪性腫瘍は、188 例から 606 例に 3.2 倍
録数をみると、70−79 歳の年齢階級の登録数
の増加を示した(図 2)
。生検・手術で区別す
が多かった(図 4)。また年齢階級別に生検・
ると、生検例は 138 例から 477 例に増加してお
手術別の前立腺悪性腫瘍登録割合をみると、高
り、手術例は 49 例から 128 例に増加していた
齢になるにしたがって手術症例の割合が減少
61
JACR Monograph No. 11
2500
登
録
割
合
1000
︶
件
︵
︵
2000
登
録
1500
数
する傾向がみられた。高齢者
100%
生検
手術
︶
%
500
0
80%
では臨床癌が生検によって前
60%
立腺悪性腫瘍と診断されても、
40%
手術以外の治療、たとえばホ
20%
ルモン療法、放射線療法を受
0%
-59
60-69
70-79
-59
80-
60-69
70-79
80-
年齢(歳)
年齢(歳)
ける症例や、偶発癌であるこ
とから経過観察される症例が
図 4. 年齢階級別にみた生検・手術別前立腺悪性腫瘍登録数および登録割合
多いためと考えられる。
(5) 前立腺悪性腫瘍の年次別にみた年齢階級
400
登録率︵人口十万対︶
別登録数および登録率
1998-2000
300
いずれの年齢階級でも年次別に登録率の増
1993-1997
1988-1992
加がみられるが、1988 年以降の登録率の増加
200
1983-1987
PSA の臨床応用の広まりによると考えられる。
1978-1982
100
が著しかった(図 5)。これは前述したように、
なお 85 歳以上を一つの年齢階級で扱っている
1973-1977
ため比較が困難であるが、登録率が最高となる
0
40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70-74 75-79 80-84
年齢(歳)
85+
年齢階級が 85 歳以上から 80−84 歳の年齢階級
に、経年的に移行している可能性がある。
図 5. 前立腺悪性腫瘍の年次別年齢階級別登録率
(6) 年齢階級別年次別にみた前立腺悪性腫瘍
1000
の生検・手術別登録数および登録割合
生検
いずれの年齢階級でも年次別に登録数の増
手術
600
加がみられ、70−79 歳の年齢階級において後
期
期
次別に増加する傾向があり、80 歳以上の年齢
後
期
70 歳代
中
前
期
期
後
期
60 歳代
中
前
後
中
前
後
前
59 歳以下
期
の年齢階級では手術されない症例の割合が年
期
0
期
生検・手術別にみると、70−79 歳、80 歳以上
期
200
期
期(1997−2000 年)の増加が著しかった(図 6)
。
期
400
中
登録数︵件︶
800
80 歳以上
階級ではその傾向が顕著であった。
100%
80%
登録割合︵
%︶
(7) 前立腺腫瘍(良性および悪性)の組織型分
60%
類割合
良性腫瘍は 5 例あり、その内訳は平滑筋腫 3
40%
例、神経線維腫 1 例、線維腫 1 例であった(表
20%
1)。悪性腫瘍は 6,088 例あり、腺癌 6,015 例
(98.8%)、腺癌の特殊型である粘液腺癌 4 例
期
中
期
後
期
、浸潤性導管癌 1 例(0.0%)と腺癌の
(0.1%)
前
後
期
期
期
中
前
後
期
期
期
中
前
前
期
中
期
後
期
0%
59 歳以下
60 歳代
70 歳代
80 歳以上
前期:1988-1992 年、中期:1993-1996 年、後期:1997-2000 年
特殊型がごく少数しか見られないのは、特殊型
図 6. 年齢階級別年次別にみた前立腺悪性腫瘍の
生検・手術別登録数および登録割合
として登録されず、腺癌のなかに含まれて登録
されている可能性が高い。
62
JACR Monograph No. 11
表 1. 前立腺腫瘍(良性および悪性)の組織型分類割合
登録数(件) 割合(%)
良性腫瘍
平滑筋腫
神経線維腫
線維腫
小計
悪性腫瘍
腺癌
粘液腺癌
浸潤性導管癌
小細胞癌
移行上皮癌
扁平上皮癌
腺扁平上皮癌
カルチノイド
肉腫,NOS
平滑筋肉腫
横紋筋肉腫
癌肉腫
悪性リンパ腫
その他
小計
総計
中枢神経
(1.1%)
3
1
1
5
6,015
4
1
12
4
2
2
4
2
4
1
1
2
34
6,088
6,093
98.8
0.1
0.0
0.2
0.1
0.0
0.0
0.1
0.0
0.1
0.0
0.0
0.0
0.6
100.0
前縦隔
(1.1%)
後腹膜
(1.1%)
その他の男性
性器
肺
(1.1%)
(1.1%)
皮膚
(1.1%)
尿道
(3.4%)
結腸
(1.1%)
肝
(1.1%)
骨
(36.8%)
軟部組織
(5.7%)
直腸
(10.3%)
膀胱
(14.9%)
リンパ節
(19.5%)
図 7. 前立腺腫瘍の転移部位の割合(n=87)
た。前立腺腫瘍の登録数は増加傾向にあり、
特に 1990 年代以降に顕著であった。生検・手
(8) 前立腺癌の転移部位(オカルト癌)
術の別に推移をみると、生検例の増加がその要
骨転移から前立腺癌が発見された症例が 32
因と考えられた。
例 ( 36.8% ) と 最 も 多 く 、 つ い で リ ン パ 節
(19.5%)、膀胱(14.9%)、直腸(10.3%)の順
本論文の内容は、広島県腫瘍登録報告書
であった(図 7)。これらは転移部位において
(No.28)の特定臓器解析として集計した結果
組織が採取されたものの割合であって、純粋な
をもとに作成した。広島県腫瘍登録実務委員会
前立腺癌の転移部位の割合を表すものではな
の関係者に深く感謝申し上げます。
いが、前立腺癌がどの部位へ転移するのかを示
文献
している重要な資料と考える。
1. Hernandez J, Thompson IM. Prostate-specific
4.
antigen: a review of the validation of the most
結語
commonly used cancer biomarker. Cancer 2004;
広島県腫瘍登録の資料をもとに、1973 年か
101: 894-904.
ら 2000 年の前立腺腫瘍の症例について解析し
Summary
[Introduction]
Prostate tumor is reportedly increasing in recent years, for which we report the results of analysis based on
1973–2003 data obtained through the Hiroshima Prefecture Tumor Registry project.
[Subjects and methods]
We reviewed changes over time in the number/rate of the registered prostate cancer cases.
The issues of
motive leading to diagnosis, the ratio of biopsy number to surgery number, histological pattern-based
classification, and metastasis sites were also reviewed.
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JACR Monograph No. 11
[Results and discussion]
A total of 6,088 malignant prostate tumor cases were newly registered during the 1973-2000 period, along
with five benign tumor cases.
A rapid increase in number of malignant prostate tumors registered started
around 1990, coinciding with the 1990 introduction for clinical purposes of PSA, one prostate cancer marker.
Age-group-specific observations revealed that the number of prostate cancer cases markedly increased around
1990 among those at ages over 60 years, specifically among the age group of 70-79 years.
Between 1988 and 2000, the increase in the rate of biopsy cases was remarkably high.
This is likely
because patients clinically diagnosed by biopsy as having malignant prostate tumor frequently underwent
non-surgical therapies, including hormone-therapy or radiotherapy, and because many such incidentally
detected cases were followed up.
Age-group-specific observation showed a remarkable increase in the group of 70-79 years of age during the
1997-2000 period.
With regard to biopsy/surgery status, the rate of non-surgery cases had a tendency to
increase over time for the age groups of 70-79 years and of 80 years and older, with such a trend more obvious
for the latter group.
[Conclusions]
A number of prostate cancer cases increased during the 1973-2000 period, and a rapid increase started
around 1990. This rapid increase seems to be attributable to the increase in a number of biopsy cases.
64
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