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主体的な読み手を育てる 国語科「読むこと」

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主体的な読み手を育てる 国語科「読むこと」
平成26年度
研究紀要
(第961号)
G1-02
主体的な読み手を育てる
国語科「読むこと」の学習指導
-書き手の思いや考え,表現の特徴をとらえ,
自分の目的達成に生かす言語活動の工夫を通して-
主体的に学習に取り組む態度を育てることは,喫緊の教育課題である。
そこで,本研究では,目的をもって文章を読み進め,「読むこと」の知識・技
能を習得・活用しながら目的達成を図っていくことのできる主体的な読み
手を育てたいと考えた。そのために,「読むこと」の学習指導において,書き
手の思いや考え,表現の特徴をとらえ,自分の目的達成に生かす言語活動を
工夫し,授業実践を行った。その結果,「単元を貫く言語活動」「各時間におけ
る言語活動」「並行読書」の効果的な位置付けの在り方が明らかになった。
福岡市教育センター
国語科教育
長期研修員
川上
昌子
第Ⅰ章
1
研究の基本的な考え方
主題について
(1) 主題設定の理由
ア
教育の動向から
現行の学習指導要領では,「児童に生きる力をはぐくむことを目指し,創意工夫を生かした特
色ある教育活動を展開する中で,基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ,これらを活
用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくむとともに,
主体的に学習に取り組む態度を養い,個性を生かす教育の充実に努めなければならない。」と述
べられている。これからの社会を生きていく力を育むためには,課題を解決するための様々な能
力とともに,主体的に学習に取り組む態度を育てていくことが求められていると言える。
また,平成23年10月に文部科学省から出された「言語活動の充実に関する指導事例集」におい
ても,各教科等において言語活動の充実を図りながら,主体的に学習に取り組む態度を育ててい
くことの重要性が述べられている。国語科においては,特に,言語の教育としての立場から,主
体的に課題解決をしていく「単元を貫く言語活動」を位置付けた指導の重要性が述べられており,
言語活動の充実を図りながら主体的に学習に取り組む態度を育てていくことが求められていると
言える。
では,本市の児童には,主体的に国語の学習に取り組む態度が育っているのであろうか。
イ
本市児童の実態から
平成25年度の福岡市生活習慣・学習定着度調査における「国語に関する意識調査の結果」(図
-1,2)を見ると,「国語は大切である」「将来役に立つと思う」という国語に対する有用性を
感じている児童の割合は高い。しかし,有用性を感じているにもかかわらず,「普段の生活に生か
そう」と考えている児童の割合は低い。また,「国語が好きである」と感じている児童の割合も同
様に低い。国語に対して漠然と「将来役に立つだろう」と思ってはいるものの,他教科の学習や普
段の生活の中で生かそうという意識が低い状況がうかがえる。これらの意識調査の結果からは,
本市児童が主体的に国語の学習に取り組んでいるとは言い難い。目的をもって主体的に学習に取
り組む態度を育てるとともに,国語の学習が実生活に生きてはたらくことを実感できるようにし
ていく指導が求められていると言える。
図-1
国語に関する意識調査の結果(小4)
図-2
国語に関する意識調査の結果(小6)
では,主体的に学習に取り組む態度を育てるための教師の指導の現状はどうであろうか。
国・長研‐1
ウ
指導の現状から
平成26年7月に,本市小学校教師 191人を対象に,日常の国語科「読むこと」の指導について実
態調査を行った。主体的に学習に取り組む態度を育てるための視点として,「教材文を読む目的」
と「知識・技能の習得と活用の状況」に着目して調査した結果,以下のような現状が見えてきた。
表-1
まず,単元導入時に,児童に教材文を読む
アンケート結果①
問:単元導入時に,児童に,教材文を読む目的をも
たせていますか。
目的をもたせている
どちらかと言えばもたせている
31.5%
39.8%
どちらかと言えばもたせていない
24.0%
あまり目的をもたせていない
4.7%
目的をもたせて指導にあたっているかを尋ね
た結果,肯定的な回答をした教師の割合は,
約70%に上っている(表-1)。しかし,「目
的をもたせている」と回答した教師に絞って
見てみると,約30%に留まっている。読む目
的を重視し,それを児童に明確に意識させて
表-2
アンケート結果②
問:児童に,文章を読むために必要な知識・技能を
習得させる指導を行っていますか。
はい
どちらかと言えばはい
14.6%
60.0%
どちらかと言えばいいえ
いいえ
20.9%
表-3
4.5%
識・技能を習得させる指導を行っているかを
尋ねた結果,肯定的な回答をした教師の割合
は,全体の約75%に上っている(表-2)。
しかし,「はい」と回答した割合に絞ると約
15%に留まっている。身に付けさせるべき力
アンケート結果③
問:児童に,文章を読むために必要な知識・技能を
活用させる指導を行っていますか。
はい
どちらかと言えばはい
7.7%
45.3%
どちらかと言えばいいえ
41.7%
いいえ
いく指導が十分に行われているとは言い難い。
次に,児童に,文章を読むために必要な知
5.3%
を児童に確実に習得させる指導が十分には行
われていない状況があると言える。
さらに,児童に,文章を読むために必要な
知識・技能を活用させる指導を行っているか
を尋ねた結果,肯定的な回答をした教師の割
合は約50%に留まり,「はい」と回答した教師
の割合は10%にも満たなかった(表-3)。身に付けた知識・技能の活用までを意識した指導が
十分には行われていない状況があると言える。
これらの現状から,児童に読む目的をもたせる指導,基礎的・基本的な知識・技能を確実に習
得させ,その活用を図っていく指導に課題があり,主体的に学習に取り組む態度を育てるために,
「読むこと」の学習指導の在り方を改善していく必要があると考えた。
以上,ア,イ,ウの理由から,主体的な読み手の育成をめざした「読むこと」の研究を行うこ
とは,喫緊の教育課題であると考え,本研究主題を設定した。
(2) 主題及び副主題の意味
ア
「主体的な読み手」とは
目的をもって文章を読み進め,「読むこと」の基礎的・基本的な知識・技能を習得したり活用した
りしながら,目的達成を図っていく児童のことである。
イ
「書き手の思いや考え,表現の特徴をとらえ,自分の目的達成に生かす」とは
読み手として書き手を意識し,書き手が文章を通して読み手に伝えようとしている思いや考えを
追求するとともに,それを表現するために工夫した文章構成や叙述の特徴をとらえ,基礎的・基本
国・長研‐2
的な知識・技能として習得し,自分の目的達成のために活用することである。
ウ
「言語活動の工夫」とは
本研究でいう「言語活動の工夫」とは,以下の二つを指す。
○
「単元を貫く言語活動」の工夫
・・・
読み手が,書き手を意識しながら主体的に文章を読み
進めていくことができる言語活動を選定し,それを単
元を貫いて位置付けること
○
「各時間における言語活動」の工夫・・・
「単元を貫く言語活動」をより活性化させるために,各
時間の授業の中に,「読むこと」の基礎的・基本的な知
識・技能を習得したり活用したりすることができる言語
活動を位置付けること
2
研究の目標
書き手の思いや考え,表現の特徴をとらえ,自分の目的達成に生かす言語活動の工夫を通して,主
体的な読み手を育てる国語科「読むこと」の学習指導の在り方を明らかにする。
3
研究の仮説
国語科
「読むこと」
の学習指導において,以下の3点から,書き手の思いや考え,表現の特徴をとらえ,
自分の目的達成に生かす言語活動を工夫すれば,主体的な読み手を育てることができるであろう。
○
書き手を意識しながら文章を読み進めていくことができる「単元を貫く言語活動」の位置付け
○
「読むこと」の基礎的・基本的な知識・技能を習得したり活用したりすることができる「各時間
における言語活動」の位置付け
○
4
目的達成に向けた,同じ書き手の他の本や資料に関する並行読書の位置付け
研究の構想
(1) 文学的文章及び説明的文章を「読むこと」の指導についての調査分析
ア
「読むこと」における書き手に着目した指導の実態調査・分析
イ
教材研究
○
書き手の思いや考え,表現の特徴に着目した教材文の分析
○
付けたい力を明確にした言語活動の分析
○
書き手に着目した並行読書についての分析
(2) 文学的文章及び説明的文章を「読むこと」の実践研究
5
ア
言語活動の工夫を位置付けた指導計画と評価計画の作成
イ
実証授業と考察
研究の検証
(1) 検証目標①「目的をもって文章を読み進めることができる」
実践において,各時間の「今日の学習で」を分析し,児童が単元を通して目的意識を持続す
ることができたかを検証する。
(2) 検証目標②「『読むこと』の基礎的・基本的な知識・技能(書き手の思いや考え,表現の特徴)
を習得することができる」
国・長研‐3
実践において,各時間の児童のノートを分析し,「読むこと」の基礎的・基本的な知識・技
能を習得することができたかを見取る。
(3) 検証目標③「『読むこと』の基礎的・基本的な知識・技能(書き手の思いや考え,表現の特徴)
を活用して,目的達成を図ることができる」
実践において,「単元を貫く言語活動」により作成した表現物から,基礎的・基本的な知識・
技能を活用することができたかを見取る。
(4) 検証目標④「目的に応じて,同じ書き手の他の本や資料を読むことができる」
実践において,同じ書き手の他の本や資料に関する読書の状況を調査する。
6
研究構想図
主体的な読み手
学習過程
第三次
学習課題追求2
読み手として
自分に生かす
目的達成を図る
・表現や交流の場の設定
・「単元を貫く言語活動」の
ふり返り
(目的の達成)
単
元
を
貫
く
言
語
活
動
第二次
基礎的・基本的な
学習課題追求1
知識・技能を
(目的達成のための
教材文の読み)
習得し,活用する
第一次
書き手を意識して読む
・「各時間における言語活動」
の工夫
・「単元を貫く言語活動」への
活用
文章を読む
学習課題設定
書き手と出会う
・「単元を貫く言語活動」の設定
・書き手に関する情報の紹介
・並行読書への喚起
目的をもつ
(目的の明確化)
○
○
「読むこと」における指導の調査分析
教材文,言語活動,読書についての分析
教育の動向
児童の実態
国・長研‐4
指導の現状
並
行
読
書
(
同
じ
書
き
手
の
他
の
本
や
資
料
)
第Ⅱ章
1
研究の実際
文学的文章及び説明的文章を「読むこと」の指導についての調査分析
(1) 「読むこと」における書き手に着目した指導の実態調査・分析
ア
国立教育政策研究所の調査結果から
平成24年9月に国立教育政策研究所から出された「全国学力・学習状況調査の4年間の調査結果
から今後の取組が期待される内容のまとめ~児童生徒への学習指導の改善・充実に向けて~(小学
校編)」には,平成19~22年度の調査結果の分析を基に,成果と課題がまとめられている。その中
で,
国語科の調査問題(B問題)には,以下のような観点を盛り込むと述べられている(資料-1)。
資料-1
国語科の調査問題(B問題)に盛り込む観点
主として「活用」に関する問題(国語B)
・ 日常生活や社会生活で必要とされる読書・鑑賞・創作などの言語活動の活用に関すること
・ 文章を読んで筆者の主張の内容やその表現方法などを評価すること
・ 伝えたい内容をまとめ表現すること
・ 様々なメディアを活用することによって課題を多角的に探究すること など (※下線は研修員による)
このように,B問題の「読むこと」においては,「文章を読んで筆者の主張の内容やその表現方
法などを評価すること」が重視されている。これらの観点を盛り込んで作成された調査問題によ
る4年間の調査結果から,今後の「読むこと」における指導のポイントが以下のように示されて
いる(資料-2)。
資料-2
これからの「読むこと」における学習指導のポイント
①
説明的な文章における情報の取り出しとそれらを関係付ける指導の充実
説明的な文章の指導においては,文章と図表,グラフなどとが複合した教材を取り上げ,目的に応じて内
容や数値などの情報を正確に捉えた上で,それらを関係付けながら書き手の意図を推論したり,自分の考え
に生かしたりする言語活動を充実することが大切である。具体的には,図表やグラフなどを含めてレイアウ
トされた文章や資料を取り上げ,数値や重要な語句などを目的に応じて的確に読み取ることができるように
指導することが大切である。
② 文学的な文章における情報の取り出しとそれらを関係付ける指導の充実
文学的な文章の指導においては,特に物語の場合,全体の展開を押さえた上で,時間の推移や場面の変化
と,主人公の心情とを関係付けて捉えるようにすることが大切である。特に,第5・6学年における指導で
は,単に内容を理解するだけでなく,表現のよさや効果などを捉え,それらに対する自分の考えをまとめる
ことが重要である。そのためにも,自ら本や文章を選び,表現に着目しながら必要な部分を繰り返し読んだ
り,優れた叙述について考えたりしたことを伝え合うなどの言語活動を単元を貫いて位置付けて指導するこ
とが重要である。
(※下線は研修員による)
「全国学力・学習状況調査の4年間の調査結果から今後の取組が期待される内容のまとめ」から
全国的に,文章の内容を理解させる指導が中心となり,書き手の思いや考え,表現の特徴まで
をとらえさせる指導が十分には行われていない実態があると考えられる。
イ
本市小学校教師へのアンケートの調査・分析から
では,本市における書き手を意識した「読むこと」の指導の状況はどうであろうか。
小学校教師 191人を対象とした意識調査(平成26年7月実施)の結果,以下のような現状が見
えてきた。文学的文章において,書き手の思いや表現の特徴をとらえさせる指導を行っているかと
いう問いに対して「はい」と回答した教師の割合は,どちらも20%程度であった(表-4,5)。
説明的文章において,書き手の考えや表現の特徴をとらえさせる指導を行っているかについて尋
ねたところ,文学的文章と比較すると若干高いものの,書き手を意識した指導が十分に行われて
いるとは言い難い結果であった(表-6,7)。
国・長研‐5
表-4
表-5
アンケート結果⑤
アンケート結果⑥
問:文学的文章において,作者の思いをとらえさ
せる指導を行っていますか。
問:文学的文章において,作者の表現の特徴をと
らえさせる指導を行っていますか。
はい
20.0%
はい
22.4%
どちらかと言えばはい
どちらかと言えばいいえ
いいえ
56.0%
18.8%
5.2%
どちらかと言えばはい
どちらかと言えばいいえ
いいえ
54.6%
19.5%
3.5%
表-6
表-7
アンケート結果⑦
アンケート結果⑧
問:説明的文章において,筆者の考えをとらえさ
せる指導を行っていますか。
問:説明的文章において,筆者の表現の特徴をと
らえさせる指導を行っていますか。
はい
34.3%
はい
30.7%
どちらかと言えばはい
どちらかと言えばいいえ
いいえ
49.2%
13.6%
2.9%
どちらかと言えばはい
どちらかと言えばいいえ
いいえ
53.4%
14.2%
1.7%
また,指導の際に,児童に書き手に関する情報を与えているかについて尋ねた結果,「はい」
と回答した教師の割合は,どちらの文章においても10%程度であった(表-8,9)。書き手の
情報を生かす指導は十分には行われていない状況があると言える。
表-8
アンケート結果⑨
表-9
アンケート結果⑩
問:文学的文章を指導する際,児童に,作者について
の情報(人物像や生い立ち等)を与えていますか。
問: 説明的文章を指導する際,児童に,筆者について
の情報(人物像や経歴等)を与えていますか。
はい
14.2%
はい
10.6%
どちらかと言えばはい
どちらかと言えばいいえ
いいえ
36.0%
37.4%
12.4%
どちらかと言えばはい
どちらかと言えばいいえ
いいえ
32.0%
43.8%
13.6%
さらに,読書指導についてもアンケートを行った(表-10,11)。同じ書き手の他の本を読む
よう積極的に指導しているのは,文学的文章においては約30%,説明的文章においては約10%で
あった。一つの教材文の内容を理解することが中心となり,書き手に着目して他の本に読み広げ
ていく指導は十分には行われていない状況があると言える。
表-10
表-11
アンケート結果⑪
アンケート結果⑫
問:文学的文章を指導する際,児童が,教材文を書いた作者
の本を読む(読書する)ように指導していますか。
問:説明的文章を指導する際,児童が,教材文を書いた筆者
の本を読む(読書する)ように指導していますか。
はい
30.1%
はい
11.2%
どちらかと言えばはい
どちらかと言えばいいえ
いいえ
42.3%
19.4%
8.2%
どちらかと言えばはい
どちらかと言えばいいえ
いいえ
28.4%
40.3%
20.1%
これらの調査結果から,本市において,書き手を意識した「読むこと」の指導が十分には行われ
ていない実態が明らかになった。
(2) 教材研究
ア
書き手の思いや考え,表現の特徴に着目した教材文の分析
以上の実態を踏まえ,書き手に着目した「読むこと」の指導を構想することができるよう,書
き手の思いや考え,表現の特徴に着目して,教材文の分析を行った(表-12,13)。ここでは,
第5学年と第6学年の「読むこと」の教材,各6教材ずつについて分析を行った。
国・長研‐6
表-12
教材
のどがかわい
た
作:ウーリー
=オルレブ
(1931 年~)
訳:母袋夏生
生き物は円柱
形
著:本川達雄
(1948 年~)
大造じいさん
とガン
作:椋鳩十
(1905~
1987 年)
天気を予想す
る
著:武田康男
(1960 年~)
ゆるやかにつ
ながるインタ
ーネット
著:池田謙一
(1955 年~)
わらぐつの中
の神様
作:杉みき子
(1930 年~)
書き手に着目した「読むこと」の教材文の分析(第5学年)
書き手
思いや考え
文章構成
1931年ポーラン
気が合わないと
起承転結 の4
ド生まれ。ユダヤ 思っていた相手で 場面構成。展開
人であり,第二次 も,何かをきっか を追うごとに,
大戦中,迫害を受 けに関係が深まっ 主人公イタマル
ける。寄宿学校で て い く こ と が あ の 心 情 の 変 化
学 ん だ 経 験 を も る。物語を通して や,ミッキーと
つ。テレビの子ど 現実世界での自分 の関係が深まっ
も向けの番組制作 の見方・考え方を ていく様子が描
にも携わる。
深めてほしい。
かれている。
1948年宮城県生
生き物は多様で
「序論-本論-
まれ。生物学者。理 あり,その多様さ 結論」の構成。終
科教育を親しみや を知ることはおも 結部で筆者の考
くするため生物学 しろい。多様なも え を 述 べ た 「 尾
の歌を作り,「歌う のの中から共通性 括型」である。本
生 物 学 者 」 と し て を見い出し,なぜ 論 で は , 生 き 物
も 知 ら れ て い る 。 同じなのかを考え が円柱形である
高校生物の教科書 ることも,実にお 説明とその理由
の執筆も行う。
もしろい。
を述べている。
1905年長野県生
動物にも人間と 「前書き」の後,
まれ。幼い頃から 同じように,生き 起承転結の4場
自然や動物と親し ていくための賢さ 面構成で話が展
む 生 活 を 送 る 。 種 や,仲間を助けよ 開されている。
子 島 で 教 員 と な うとする優しさ, 山場の場面を境
る 。 児 童 文 学 を 多 勇気がある。心を に,大造じいさ
数 書 き 残 し , 図 書 もった動物と共に んの残雪に対す
館活動,文化活動 生きていくことを る心情が大きく
にも貢献する。
大切にしたい。
変化している。
1960年東京都生
天気予報の精度
終結部で筆者
まれ。気象予報士。 は年々向上してい の考えを述べた
空の写真家。高校 る。しかし,天気 「尾括型」の構成
地学の元教諭。南 予報を活用するだ である。三つの
極地域観測越冬隊 けでなく,自分で 問いがあり,二
員として観測活動 も天気に関する知 つ目・三つ目の
を行った経験をも 識をもち,空を見, 問いは,前の問
つ。本や雑誌の執筆 風を感じることを い・答えに関連
や,テレビの出演も。 大切にしたい。
している。
1955年兵庫県生
インターネット
「問題提起-事
まれ。社会心理学 のもたらした「ゆ 例(よさ)-事
者。人がコミュニ る や か な つ な が 例(あやうさ)
ケーションを通じ り」の可能性は, -結論」という
て他者とどのよう それをどのように 構成で述べられ
に関わっているの 使い,人とのつな ている。終結部
か,また,その行 がりをどのように で筆者の考えを
動の影響について 大切にしていくか 述べた「尾括型」
研究している。
にかかっている。 である。
1930年新潟県生
まれ。幼少期から,
自身の通う小学校
の先輩である小川
未明の作品に影響
を受ける。電気工
事会社に勤務した
経験をもつ。ミス
テリーが好き。
見かけではなく
心を込めることが
大切である。また,
長年それを大切に
してきた人物の生
き方には,人の心
を大きく動かすほ
どの説得力や魅力
がある。
回想場面 を中
心に,その前後
に現在の話を配
した「現在-過
去-現在」の構
成。昔話をきっ
かけに,マサエ
の心情が大きく
変化している。
国・長研‐7
表現の特徴
叙述
・常体
・句読点
・ダッシュ
・会話文
・短い文
・擬態語
・呼称
・常体
・語り掛け
・体言止め
・短い文
・倒置法
・接続語
・文末表現
・反復
・情景描写
・呼称
・比喩(直喩)
・短い文
・擬声語
・擬態語
・指示語
・類義語
・反復
・語り掛け
・接続語
・文末表現
・数値の多用
(前半は事実中心
のため数値が多
く,後半は考え中
心のため数値が少
ない)
・文末表現
「~思います。」
「~ものです。」
「~いるのです。」
・体言止め
・比喩(直喩)
・接続語
・語り掛け
・会話文
・擬態語
・擬声語
・ダッシュ
・比喩(直喩)
・反復
・接続語
・指示語
・文末表現
その他
一人称視点。
読み手が状況を
実感をもってと
らえることがで
きるよう,同年
代の子どもの話
し言葉のように
書かれている。
・「もちろん,例
外もある」・・・読
み手の反論を想
定した展開
・「仮に~とする
と」・・・仮説を立
てて理由を述べ
る展開(説得力を
もたせている)
「前書き」があ
ることで,書き
手が物語を書い
たきっかけを紹
介するとともに ,
読み手を実際に
聞いているよう
な思いにさせる
ことができる。
文章と照らし
合わせながら読
み,筆者の意図
を考えることが
できるよう,文
章以外の資料
(図・表・グラフ・
写真)を多用し
ている。
読み手が,事
例を身近な例に
置き換えながら
共感や疑問をも
って読むことが
できるよう,具
体的な事例を多
く挙げ説得力を
もたせている。
・雪国の舞台設定
・「わらぐつ」が
物語の「かぎ」
・女性三代の人
物設定
・最後の種明か
し( 「お みつさん 」
は実は「おばあち
ゃん」)
表-13
教材
カレーライス
作:重松清
(1963 年~)
生き物はつな
がりの中に
著:中村桂子
(1936 年~)
やまなし
作:宮沢賢治
(1896~
1933 年)
「鳥獣戯画」を
読む
著:高畑勲
(1935 年~)
言葉は動く
著:渡辺実
(1926 年~)
海の命
作:立松和平
(1947~
2010 年)
書き手
書き手に着目した「読むこと」の教材文の分析(第6学年)
思いや考え
文章構成
1963年岡山県生
思春期の子ども
起承転結 の4
まれ。ドラマ・映 たちの心情は,周 場面構成。展開
画のノベライズや りの人物との関係 を追うごとに,
雑誌記者など,多 の中で,揺れ動き, 父親との関わり
くの作品を手がけ 変化することが多 の中でのひろし
る。いじめや不登 い。自分と重ね合 の心の揺れ動き
校,家庭崩壊など わせながら読み, や心情の変化を
の 問 題 を 小 説 に 読む楽しさを味わ とらえることが
し,注目を浴びる。 ってほしい。
できる。
1936年東京都生
生き物は,様々
「問題提起-事
まれ。理学博士。 なつながりの中で 例①-事例②-
専門は生命科学と 生きていて,その 事 例 ③ - 結 論 」
生命誌。地球上の つながりこそが生 という構成で述
生き物は皆38億年 き物の生き物らし べられている。
の歴史をもつ仲間 いところである。 終結部で筆者の
であるということ 自分も他の人もか 考 え を 述 べ た
を基本に研究し, けがえのない大切 「尾括型」であ
表現している。
な存在である。
る。
1896年岩手県生
かわせみが魚の
「五月」と「十二
まれ。童話作家・ 命を奪う「五月」の 月 」 の 二 つ の 場
詩人。郷土岩手の 世界と,やまなし 面から成り,場
地を深く愛し,作 が喜びや幸せをも 面を比べながら
品中に登場する架 たらす「十二月」 読むことができ
空の理想郷を「イ の世界を深く読み る。「やまなし」
ーハトーヴ」と名 味わい,自分の思 が登場する「十
づけ,様々な作品 いを豊かにしてほ 二月」を後に配
を発表する。
しい。
している。
1935年三重県生
大昔にすばらし
「序論-本論-
まれ。アニメーショ い絵巻物が生まれ 結論」の構成。終
ン 映 画 監 督 ・ 文 筆 たことは驚くべき 結部で筆者の考
家。スタジオジブリ ことである。それ え を 述 べ た 「 尾
所 属 。 日 本 で 長 編 を祖先たちが大切 括型」である。本
アニメ映画の本格 に保存し伝えてく 論では,説明と,
的な制作が始まっ れたのだから,
「鳥 筆者のものの見
た頃から作品作り 獣戯画」は人類の 方が述べられて
に携わっている。
宝だと言える。
いる。
1926年京都府生
使われなくなっ
「事例①-事例
まれ。日本語学者。 た言葉は多いが, ②-事例③-結
現代日本語の共時 それらは昔の人々 論 」 と い う 構 成
体系,および平安 の暮らし方や心の で述べられてい
文学を中心とした もち方を表した言 る。三つの事例
文学史を研究して 葉である。古い言 を基に,終結部
いる。国語辞典や 葉だと言って切り で筆者の考えを
古語辞典の編集の 捨てず言葉につい 述べた「尾括型」
経験をもつ。
て考えてほしい。 である。
1947年栃木県生
様々な人物との
起承転結 の4
まれ。作家。様々 関わりを通して人 場面構成。主人
な職業を転々とし 物 は 成 長 し て い 公太一の一生を
たり,長期間イン く。物語を通して, 追う展開。山場
ド に 旅 に 出 た り 実生活におけるも を境に,太一の
と,多様な経験を のの見方や感じ方 ものの見方・考
もつ。長女で絵本 を広げ,読む楽し え方の大きな変
画家の横松桃子と さを味わってほし 化をとらえるこ
の合作も多い。
い。
とができる。
国・長研‐8
表現の特徴
叙述
・常体・倒置法
・文末表現
・会話文
・体言止め
・ダッシュ
・比喩(直喩)
・反復
・短い文
・指示語
・語り掛け
・接続語
・指示語
・文末表現
・同じ言葉の多用
(「生き物の特徴」
というキーワー
ド)
・会話文
・擬声語
・情景描写
・比喩
(直喩・隠喩)
・擬態語
・色彩表現
・体言止め
・短い文
・ダッシュ
・語り掛け
(口語表現)
・接続語
・文末表現
(結びの文「人類の
宝なのだ。」)
・語り掛け
・接続語
・指示語
・反復
・似ている言葉
「変化する」と「動く」
・文末表現
(結びの文「~ない
でしょうか。」)
・呼称
・会話文
(それぞれの人物
像が表れている)
・擬声語
・比喩
(直喩・隠喩)
・文末表現
その他
・一人称視点で,
主人公の心の揺
れ動きを表現
・「カレーライス」
が物語の「かぎ」
・「甘口」「中辛」
に,暗示的な意
味
読み手が実感
をもって読み進
めていくことが
できるよう,「あ
なたが飼ってい
るイヌのチロ」
と具体的な例を
挙げて説明して
いる。
・「やまなし」
が物語の「かぎ」
・「かわせみ」
「やまなし」に
それぞれ暗示的
な意味
・「十二月」の「や
まなし」が題名
になっている
・絵巻物を,漫
画やアニメと比
較して説明
・絵の引用の仕
方の工夫(つな
がっている絵を
分けて提示)
・筆者が絵を評
価している表現
・読み手が興味
をもって読むこ
とができるよ
う,身近で具体
的な事例を多く
挙げている。
・「枕草子」の引
用(書き手の専
門分野)
・太一の生き方
に影響を与えた
「父」「母」「与吉
じいさ」の人物
設定
・「海の命」とい
う題名に込めら
れた意味
イ
付けたい力を明確にした言語活動の分析
(ア) 「単元を貫く言語活動」
アの分析(表-12,13)に基づき,各単元における指導事項の配列を考慮しながら,第5学
年,第6学年の教材の中で,書き手を意識した「単元を貫く言語活動」を位置付ける教材を選
定した。その上で,読み手が,書き手を意識しながら主体的に文章を読み進めていくことがで
きる言語活動を次のように考え,単元を貫いて位置付けることとした(表-14,15)。
表-14
書き手に着目した「単元を貫く言語活動」の分析(第5学年)
教材名
単元を貫く言語活動
付けたい力(指導事項)
生き物は円
柱形
本川達雄さんの
考えをとらえ,自分
の考えを討論会で
伝え合う
大造じいさ
んとガン
椋鳩十作品の魅
力を,朗読発表会で
伝え合う
天気を予想
する
武田康男さんの
資料の引用のよさ
を学び,リーフレッ
トを作る
わらぐつの
中の神様
杉みき子さんに
ならって,自分の物
語を作る
・ 自分の考えを討論会で伝え合うという目的に応じて,文章の内容を的
確に押さえて要旨をとらえたり,事実と感想,意見などとの関係を押さ
え,自分の考えを明確にしながら読んだりすること。 (読むこと ウ)
・ 文章を読んで考えたことを発表し合い,自分の考えを広げたり深めた
りすること。
(読むこと オ)
・ 椋鳩十作品の魅力について,自分の思いや考えが伝わるように朗読を
すること。
(読むこと ア)
・ 登場人物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえ,作者の優
れた叙述について自分の考えをまとめること。
(読むこと エ)
・ 作品の魅力を朗読で伝え合うという目的に応じて,同じ作者の書いた
他の物語を選んで比べて読むこと。
(読むこと カ)
・ 目的に応じて,本や文章の適読や多読など効果的な読み方を工夫する
こと。
(読むこと イ)
・ リーフレットを作るという目的に応じて,文章の内容を的確に押さえ
て要旨をとらえたり,事実と感想,意見などとの関係を押さえ,自分の
考えを明確にしながら読んだりすること。
(読むこと ウ)
・ 文章を読んで考えたことを発表し合い,自分の考えを広げたり深めた
りすること。
(読むこと オ)
・ 登場人物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえ,作者の優
れた叙述について自分の考えをまとめること。
(読むこと エ)
・ 自分の物語を作るという目的に応じて,同じ作者の書いた他の物語を
選んで比べて読むこと。
(読むこと カ)
表-15
教材名
やまなし
「鳥獣戯画」
を読む
言葉は動く
海の命
書き手に着目した「単元を貫く言語活動」の分析(第6学年)
単元を貫く言語活動
付けたい力(指導事項)
作者の考え方や
生き方と重ねて読
み,宮沢賢治作品を
ポップで推薦する
・ 目的に応じて,本や文章の比べ読みや多読など効果的な読み方を工夫
すること。
(読むこと イ)
・ 登場人物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえ,作者の優
れた叙述について自分の考えをまとめること。
(読むこと エ)
・ 宮沢賢治作品をポップで推薦するという目的に応じて,同じ作者の書
いた他の物語を選んで比べて読むこと。
(読むこと カ)
高 畑 勲 さ ん の も ・ 「オリジナル鳥獣戯画」を作るという目的に応じて,文章の内容を的確
のの見方をとらえ,
に押さえて要旨をとらえたり,事実と感想,意見などとの関係を押さえ,
「オリジナル鳥獣戯
自分の考えを明確にしながら読んだりすること。
(読むこと ウ)
画」を作る
・ 文章を読んで考えたことを発表し合い,自分の考えを広げたり深めた
りすること。
(読むこと オ)
渡 辺 実 さ ん の 考 ・ 「未来に残したい言葉辞典」を作るという目的に応じて,文章の内容を
えを受け止め,「未
的確に押さえて要旨をとらえたり,事実と感想,意見などとの関係を押
来に残したい言葉
さえ,自分の考えを明確にしながら読んだりすること。 (読むこと ウ)
辞典」を作る
・ 文章を読んで考えたことを話し合い,自分の考えを広げたり深めたり
すること。
(読むこと カ)
立 松 和 平 さ ん の ・ 登場人物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえ,作者の優
考 え る 「命 」 に つ い
れた叙述について自分の考えをまとめること。
(読むこと エ)
てとらえ,「命」につ ・ 「命」についての意見文を書くという目的に応じて,同じ作者の書いた
いての意見文を書く
他の物語を選んで比べて読むこと。
(読むこと カ)
国・長研‐9
(イ) 「各時間における言語活動」
「単元を貫く言語活動」をより活性化させるために,各時間の授業の中に,「読むこと」の基
礎的・基本的な知識・技能を習得したり活用したりすることができる「各時間における言語活動」
を取り入れていくことが大切であると考える。そこで,第5学年,第6学年の「読むこと」の指
導において,どのような力を付けるためにどのような言語活動を取り入れればよいのかを分析し,
以下の表にまとめた(表-16)。
表-16
付けたい力を明確にした「各時間における言語活動」
各時間における言語活動
付けたい力
①
音読をする
・
・
②
考えをもつ
・サイドラインを引く
・叙述をつなぐ
・
・
③
語感から,文章の内容を具体的にとらえる力
着目すべき叙述に気付く力
※ 着目させたい叙述について,全体で確認する場面で
・小見出しを付ける
・文章全体を短くまとめる
考えの根拠となる叙述を見つける力
複数の叙述を根拠として考えをつくる力
※ 文章全体に様々な叙述の工夫があることに気付かせる
・ 文章のまとまりの概要をとらえる力
・ 文章全体の概要をとらえる力
考えを話し合う
・二人組で話し合う
・
考えを伝え合い,自分の考えをより確かなものにする力
全体交流の前等,考えをより確かにする場面で
・ 互いの考えを出し合い,意見を練り上げる力
※ 全体交流で意見が分かれた場面等で
※
・小グループで話し合う
④
⑤
⑥
ウ
考えを発表する
・説明する
・紹介する
・
・
自分の考えを適切に伝える力
紹介したい内容を適切に伝える力
考えを聞く
考えを書きまとめる
・
・
メモをとる等しながら,話し手の意図を考えて聞く力
自分の考えを整理する力
書き手に着目した並行読書についての分析
目的達成に向けた,同じ書き手の他の本や資料の並行読書を,目的と内容,方法を明確にして,
次のように位置付けることとした(表-17)。
表-17
何のために
(目的)
何を
(内容)
どのように
(方法)
書き手に着目した並行読書の位置付け
・
・
・
・
読書意欲を高めるため
書き手について知り,思いや考え等をとらえ,目的達成に役立てさせるため
同じ書き手が書いた他の本
書き手についての資料(本の後書き,講演会の記録,対談の記録,生い立ちや
経歴が分かる資料,など)
※ 書き手によっては,児童の発達段階に合った他の本や資料が見つけにくい場
合もある。そのような場合は,本や資料の概要を簡単に紹介する。
・ 第一次において,読ませたい本をブックトークで紹介する。また,書き手につ
いての資料も,書き手の情報を知らせる際に紹介する。
・ 単元の学習と並行して読ませ,第二次の中で必要に応じて活用し,目的達成に
役立てさせる。
・ 単元の学習後も,興味に応じて,さらに読み広げさせる。
国・長研‐10
2
文学的文章及び説明的文章を「読むこと」の実践研究
(1) 第5学年の実践
ア
イ
単元名
杉みき子さんにならって,自分の物語を作ろう
教材名
「わらぐつの中の神様」「物語を作ろう」
単元目標
○
自分の物語を作るという目的をもち,登場人物の相互関係や心情,場面についての描写をとら
え,優れた叙述について自分の考えをもつとともに,同じ作者の書いた他の物語を選んで比べて
読むことができる。(読むこと エ,カ)
○ 作者の優れた表現にならって,文章全体の構成の効果を考えたり,叙述の効果などについて確
かめたり工夫したりして,物語を書きまとめることができる。(書くこと イ,オ)
ウ
単元の評価規準
国語への関心・意欲・態度
読む能力
書く能力
○
作 者 の思 い や表 現 の ○ 登 場 人物 の 相 互関 係
特徴をとらえ,自分の物
や心情,場面についての
語を作るという目的を
描写をとらえ,作者の優
もって,文章を読み進め
れた叙述について自分
ようとしている。
の考えをもっている。
○ 作 者 の思 い や表 現 の ○ 同 じ 作者 の 書 いた 他
特徴をとらえ,そのよさ
の物語を選んで比べて
にならって,意欲的に物
読んでいる。
語を書こうとしている。
○
言語についての知識・理解・技能
伝 え たい 内 容を 明 確
に表現するために,文章
全体の構成の効果を考
えたり,叙述の効果など
について確かめたり工
夫したりして,物語を書
いている。
○
文 や 文章 に は いろ い
ろな構成があることに
ついて理解している。
○ 擬声語,擬態語,繰り
返し,比喩などの叙述の
工夫に気付いている。
エ 「単元を貫く言語活動」の位置付け
教材文や同じ作者の他の物語から作者の思いや表現の特徴をとらえ,それにならって表現の工
夫を取り入れ,自分の物語を書きまとめる。
(ア) 言語活動としての「物語作り」
本単元における「物語作り」とは,
作者杉みき子に着目してその思いや表
現の特徴をとらえ,それらを活用して
自分の物語を作っていくものである。
教材文「わらぐつの中の神様」からと
らえた,物語の設定や人物像,文章構
第一次
作者
に出会う。
学習の見通し
をもつ。
成等における表現の特徴を各自「物語
第二次
第三次
教材文「わらぐつ
の中の神様」を読
み,自分の「物語
プラン」を書く。
「物語プラン」
を基に自分の
物語を書き上
げる。
並行読書(作者杉みき子の書いた他の物語等)
プラン」に書き溜め,その構想を基に,
自分の伝えたい内容を物語として書き
学習課題設定
学習課題追求1
学習課題追求2
まとめさせていく。
したがって,この言語活動は,本単
元のねらいとする「登場人物の相互関
図-3
係や心情,場面についての描写をとら
「単元を貫く言語活動」を位置付けた単元構想
え,作者の優れた叙述について自分の考えをもつこと」,また「自分の伝えたい内容を明確に表
現するために,文章全体の構成や叙述の仕方を工夫して,物語を書くこと」等の実現に適してい
ると考え,「単元を貫く言語活動」として位置付けた(図-3)。
(イ) 「物語プラン」の構成要素(P.15 資料-10参照)
○
伝えたいこと
○
大まかなストーリー
○
主な人物の人物像・人物の相互関係
○
設定(時・場・人物,物語の「かぎ」となる物)
○
文章構成
国・長研‐11
オ
次
単元の指導計画(13時間)
時
1・2/13
主な学習活動
◆
学習課題をつかみ,単元の見通しをもつ。
1
単元の見通しをもつ。
(1) 「わらぐつの中の神様」を読む。
第
一
次
(2) 作者杉みき子について知る。
(3) 単元全体の学習の見通しをもち,学習計画を立てる。
【単元のめあて】杉みき子さんにならって,自分の物語を作ろう。
第二次:「わらぐつの中の神様」を読み,「物語プラン」を作る。
第三次:「物語プラン」を基に,自分の物語を作る。
◆
3/13
<評価>
学習課題をつか
み,目的をもって教
材文を読み進めて
いこうという意欲
をもっている。
「物語を作る」という目的をもち,「わらぐつの中の神様」を詳しく読む。
1 「わらぐつの中の神様」の「大まかなストーリー」と「伝えたい
こと」をとらえ,自分の物語作りに生かす。
(1) 「大まかなストーリー」と「伝えたいこと」をとらえる。
(2) 自分の物語の「大まかなストーリー」と「伝えたいこと」を考
え,「物語プラン」に構想を書く。
4/13
2
「わらぐつの中の神様」の設定をとらえ,自分の物語作りに生かす。
(1) 物語の設定(時・場・人物,物語の「かぎ」)をとらえる。
(2) 自分の物語の設定を考え,「物語プラン」に構想を書く。
5/13
3
過去の話の中心人物(おみつさん)の人物像をとらえ,自分の物
語作りに生かす。
(1) おみつさんの人物像をとらえる。
<評価>
自分の物語作り
に生かすために,登
場人物の相互関係
や心情,場面につい
ての描写をとらえ,
作者の優れた叙述
について自分の考
えをもっている。
(2) 自分の物語の人物像・人物の相互関係を考え,「物語プラン」
第
二
次
に構想を書く。
6/13
4
過去の話の重要人物(大工さん)の人物像をとらえ,自分の物語
作りに生かす。
(1) 大工さんの人物像をとらえる。
(2) 自分の物語の人物像・人物の相互関係を考え,「物語プラン」
に構想を書く。
7/13
5
主人公(マサエ)の変容をとらえ,自分の物語作りに生かす。
(1) マサエの心の変容をとらえる。
(2)「物語プラン」を見直し,自分の物語の構想を練り直す。
8/13
6
<評価>
物語に込められ
た作者の思いをと
らえている。
「わらぐつの中の神様」の文章構成の特徴をとらえ,自分の物語
作りに生かす。
(1) 作者の文章構成の意図をとらえる。
(2) 自分の物語の文章構成を考え,「物語プラン」に構想を書く。
第
三
次
◆
「物語プラン」を基に,自分の物語を作る。
9~12/13
1
物語を書き上げる。
13/13
2
書いた物語を読み合う。
国・長研‐12
<評価>
自分の伝えたい
内容を伝えるため
に,文章全体の構成
や叙述の仕方等を
工夫し,物語を書い
ている。
カ
指導の実際
(ア) 第一次<学習課題をつかみ,単元の見通しをもつ>
〔1・2/13時〕教材文を読み,作者杉みき子につ
いて知り,単元の見通しをもつ。
○
題名に着目させ,どのような話かを想像
させた上で「わらぐつの中の神様」に出会
わせた。読後,よさを中心に初発の感想を
資料-3
児童が出し合った初発の感想
・
・
・
大工さんはかっこいいと思った。
おみつさんはいい人だと思った。頑張り屋さん。
おみつさんと大工さんが,実はおばあちゃんとお
じいちゃんだったのでびっくりした。おもしろい。
・ 「神様」の意味は,心の中にいる神様ということ
だと思った。
交流させた(資料-3)。
○
児童の感想をもとに「わらぐつの中の神
様」のよさに着目させた上で,この物語を
資料-4
杉みき子
書いた作者「杉みき子」に出会わせた(資
料-4)。
・
・
・
作者について紹介した内容
1930年,新潟県(雪国)生まれ
児童文学作家
同郷 (同じ小学校卒業)の作家「小川
未明」に影響を受ける
○ 「杉みき子さんにならって,自分の物語を
作ろう」という学習課題を生み出し,単元
資料-5
の学習の見通しをもたせた。また,学習課
題における目的意識と相手意識を確かめさ
学習課題の目的意識と相手意識
目的意識:読み手の心を動かす物語を作る。
相手意識:学級の友達,他のクラスの友達
せた(資料-5)。
○
物語作りに役立てさせたい同作者の他の物語(表-18)についてブックトークを行い,並行
読書を促した。紹介した物語以外にも同作者の書いた物語がたくさんあることを知らせ,単元
を通して,様々な物語に自由に触れることができる環境を整えた(資料-6,7)。
表-18
紹介した物語
かくまきの歌
電柱ものがたり
おばあさんの花火
春さきのひょう
おばあちゃんの雪段
※との様の茶わん
(小川未明作)
資料-6
ブックトークで紹介した物語と選定理由
選定理由
物語の基本設定(時・場・人物)に加え,物語の「かぎ」となる物(ここでは「かく
まき」)も登場するため
主人公の人物像がはっきりと表れているため
物語に込められた思いにつながる言葉(台詞)から人物像がとらえられるため
「現在-過去-現在」の構成で書かれているため
また,最後に読み手を驚かせる「種明かし」があるため
物語の基本構成(起承転結)で書かれているため
作者が幼少期から強く影響を受けた作家の書いた物語であり,「わらぐつの中の神
様」における作者の伝えたい思いと通じるところがあるため
作者について紹介した掲示物
国・長研‐13
資料-7
教室内に設置した「杉みき子コーナー」
○
学習計画を立て,次時からの見通しをもたせた上で,本時の学習の感想を書きまとめさせた
(資料-8)。
資料-8
第一次の「今日の学習で」
・
やることが分かったので,物語を作っていきたいです。みんなが楽しめるような物語を作りたいです。杉
みき子さんの気を付けているところや,表現の仕方などに気を付けながら読みたいです。
・ 杉みき子さんがどんな作品を作って,どんな表現をしているのかを知りたいです。他の作品を読んで,杉
みき子さんの作品をたくさん知りたいです。
【第一次の考察】
○
表-19は,第一次における児童の
ふり返りの状況を表したものである。
ア〜エの4段階(ア:よくできた
イ:できた
ウ:あまりできなかった
エ:できなかった)
で自己評価をさせ
表-19
第一次における児童のふり返りの状況(チェック式)
ふり返りの視点
①これからの学習の見通しをも
つことができましたか。
②自分の物語作りに生かすために,「わ
らぐつの中の神様」や他の物語をしっか
り読んでいきたいと思いましたか。
ア
イ
ウ
エ
22 人
12 人
0人
0人
22 人
10 人
2人
0人
た結果,多くの児童が,単元の学習
の見通しをもち,意欲をもつことが
できた様子がうかがえる。また,表
-20の記述によるふり返りの状況か
らも,並行読書や物語作りへの意欲,
作者への関心の高さがうかがえる。
「自分の物語を作る」という「単元を
貫く言語活動」
を位置付けたことで,
その目的達成のために「わらぐつの
(34 人中)
表-20
第一次における児童のふり返りの状況(記述式)
記述の内容(複数観点記述者あり)
①
杉みき子の他の物語の並行読書についての意欲を書
きまとめている。
② 自分の物語を作っていきたいという意欲を書きまと
めている。
③ 作者杉みき子に触れて,「わらぐつの中の神様」の
よさを書きまとめている。
●
人数
20 人
16 人
11 人
その他(どれにも当てはまらないことを書いている) 0人
中の神様」を読んでいくという読む目的をもつことができ,単元の学習の見通しをもつ結果に
つながったと考える。また,教材文のよさの交流から作者に着目させていく学習の流れは,並
行読書への興味にもつながったと考える。しかし,表-19の②の項目については,ウと回答し
た児童もいたため,次時以降も,掲示物を使って「物語作りのために文章を読み進めていく」
という単元の学習の見通しを確認していく等の支援を行うこととした。
(イ) 第二次<教材文「わらぐつの中の神様」を読み,自分の物語作りの構想を練る>
〔3/13時〕「わらぐつの中の神様」の大まかなストーリーと作者の伝えたいことをとらえ,自分の
物語の構想を練る。
○
資料-9
学習計画を書いた掲示物(資料
-9)をもとに前時の学習を想起
させ,第二次,第三次での学習の
見通しを確認させた。「物語プラ
ン」の構成要素もあわせて確認さ
せた(資料-10)。
○
自分の物語で伝えたいことを
伝えるために,どのような内容に
するかを考えていく,という本時
の学習の見通しを確認させた。
国・長研‐14
学習計画をまとめた掲示物
資料-10
「物語プラン」の構成要素
③設定(時・場・人物,物語の「かぎ」となる物)
④主な人物の人物像・人物の相互関係
①伝えたいこと
②大まかなストーリー
⑤文章構成
○
「わらぐつの中の神様」の大まかなストーリーをとらえさせた。必ず入れる言葉「キーワー
ド」を確認した上で,物語の大まかなストーリーを決められた字数で書きまとめさせた(※各
時間における言語活動)(資料-12)。
○
現段階で各自が考える「わらぐつの中の
神様」における作者の「伝えたいこと」を書
きまとめさせた(資料-11)。さらに,各自
がとらえた「伝えたいこと」を小グループで
交流させた(※各時間における言語活動)。
資料-11
児童が書きまとめた「伝えたいこと」の例
・ 使う人の身になって心をこめて作ったものには
神様が入っていること
・ 「いい仕事ってのは見かけで決まるもんじゃな
い」ということ
・ 物を大切にすること ・頑張る心
・ 何にでも神様はいる
・ 一つ一つを頑張ればいいことがある
この段階ではまだ不十分であるので,読み進
めた後,再度考える時間をとることとした。
資料-12
キーワードと「大まかなストーリー」の例
必ず入れる言葉「キーワード」
「マサエ」
・・・主人公
「おばあちゃん」
・・・主人公に影響を与える重要な人物
「わらぐつ」「神様」 ・・・題名にも使われ,作者の思いにつながる言葉
大まかなストーリーの例(40字前後)
マサエが,おばあちゃんからわらぐつの中に神様がいる話を聞いて,心を動かされる話
○ 「物語プラン」に,自分が作る物語の「伝えたいこと」と「大まかなストーリー」の構想を書
きまとめさせた(表-21)。
国・長研‐15
表-21
伝えたいこと
友達と仲良くしよう
家族は大切だ
食べ物 の好き きら い
をやめよう
児童が考えた自分の物語の「伝えたいこと」と「大まかなストーリー」
大まかなストーリー
友達はいらないと思っていた女の子が,転校してきた女の子とどんどん仲良くなっ
ていく話。
女の子が家族とケンカし,家出しておばあちゃんの家に行き,家族の大切さを知っ
て家に帰る話。
野菜が大きらいな幼稚園児の男の子。今日もごはんに野菜がたくさん出てきて困っ
ていると,野菜が動き出して…,最後には食べられるようになる話。
〔4/13時〕「わらぐつの中の神様」の物語の設定をとらえ,自分の物語作りの構想を練る。
○
叙述に即して必要な箇所にサイドラインを
資料-13
引いたり,叙述をつないだりさせながら(※
見方の違いをまとめたノート
各時間における言語活動),物語の設定「時」
「場」「人物」をとらえさせた。
○
マサエとおばあちゃんのわらぐつに対す
る見方の違いをとらえさせ,作者の人物設定
の工夫に気付かせた(資料-13)。また,「わ
らぐつ」が物語の「かぎ」となっていること
に気付かせた。
○
並行読書で「かくまきの歌」を読んだ児童
資料―○
第3時の「今日の学習で」
に,物語の設定を中心に,大まかな内容を紹
介させ(資料-14),聞いている児童にはメ
モをとらせた(※各時間における言語活動)。その際,「わらぐつ」のように,物語の「かぎ」
となる物(ここでは「かくまき」)が本物語にもあることを補足した。
○
自分が作る物語の設定を考えさせ,「物語プラン」に構想を書きまとめさせた。
資料-14
児童による「かくまきの歌」の紹介
「雪国の真冬の話です。主人公はちや子で,お
母さん,二人のお兄さん,お姉さん,道で出会う
おばあさんが出てきます。ちや子のおばあちゃん
が若い頃に買った真っ赤なかくまきを,お母さん
が着るようになります。ある日,ちや子もそれを
着て出かけることになって,赤いかくまきのおば
あさんに出会う話です。」
資料-15
第4時の「今日の学習で」
・
今日は「わらぐつの中の神様」の設定を考えま
した。自分の物語も,好きな物が正反対の兄弟を主
人公にしてみたら,物語がもう思いつきました。
・ 今日勉強して,杉みき子さんはわらぐつをもと
にして,物語がおもしろくなるように物語を作っ
ていたので,ぼくも物語のかぎとなる物をもとに
して,物語を作りたいです。
〔5/13時〕過去の話の中心人物(おみつさん)の人物像をとらえ,自分の物語作りの構想を練る。
○
叙述に即して必要な箇所にサイドライン
を引いたり,叙述をつないだりさせながら
(※各時間における言語活動),おみつさん
の人物像をとらえさせた(資料-16)。
○
並行読書で「電柱ものがたり」を読んだ児
童に,人物像を中心に物語の大まかな内容を
紹介させ(資料-17),聞いている児童にはメ
資料-16
本時でとらえたおみつさんの人物像
・働き者
・気持ちよく働く ・がまんできる
・頑張り屋 ・あきらめない
・自分のことは後回し
・自分のことは自分でする
(⇔マサエとはちがう)
・・・家族思いな人
・見かけより使う人のことを考えられる
・・・相手を大切にできる人
モをとらせた(※各時間における言語活動)。
国・長研‐16
○
自分が作る物語の人物像を考えさせ,「物語プラン」に構想を書きまとめさせた。
資料-17
資料-18
児童による「電柱ものがたり」の紹介
「電気会社に勤める五作じいさんが主人公です。自分の
立てた電柱たちがかわいくて仕方なくて,電柱と会話も
できます。山三という電柱を修理するときに振り落とさ
れてけがをして足を悪くするけど,電柱のせいにしない
で,最後までかわいがる話です。」
・
第5時の「今日の学習で」
ぼくは,性格などが細かく文にかく
されていることを知って,すごいなあ
と思いました。これをお手本にして,
自分の物語がうまく作れたらいいなあ
と思いました。
〔6/13時〕過去の話の重要人物(大工さん)の人物像をとらえ,自分の物語作りの構想を練る。
○
叙述に即して必要な箇所にサイドライ
ンを引いたり,叙述をつないだりさせなが
ら(※各時間における言語活動),大工さ
んの人物像をとらえさせた(資料-19)。
○
並行読書で「おばあさんの花火」を読ん
資料-19
本時でとらえた大工さんの人物像
・優しい ・仕事熱心 ・やる気がある
・自分の考えをもっている
・おみつさんのわらぐつのよさを見抜いている
・見た目ではなく使う人のことを大切にしている
・・・おみつさんと考え方が似ている
だ児童に,人物像を中心に物語の大まかな
内容を紹介させ(資料-20),聞いている児童にはメモをとらせた(※各時間における言語活
動)。その際,大工さんの台詞のように,物語の内容の中核となる言葉が本物語にもあること
を補足した。
資料―20
児童による「おばあさんの花火」の紹介
「毎年同じ場所で一人で花火をしているおばあさんがいて,良一はずっと不思議に思っていました。ある
とき,子ども会のキャンプでその場所に行くことになって,おばあさんと話をしました。おばあさんは,戦
争で死んだ自分の息子のマサオのことを思って,迎え火の代わりにずっと花火をしていました。」
※ 「子どもをなくした親の悲しみはね,三十年たとうが,五十年たとうが,けっして消えるものじゃない
んだよ。」というおばあさんの言葉に,作者の思いが表されていることを教師が補足し確認する。
○
自分の物語の人物像・人物の相互関係の設定を考えさせ,「物語プラン」に構想を書きまと
めさせた(資料-21)。
資料-21
児童が考えた自分の物語の人物像・人物の相互関係
「わらぐつの中
の神様」でとらえ
た人物像・人物の
相互関係を生か
して,自分の物語
の人物設定をし
ている。
資料-22
第6時の「今日の学習で」
・
杉みき子さんは,マサエとおばあちゃんを反対の考え方にしたり,大工さんとおみつさんを気が合うよ
うにしたりして,人物像を工夫して物語をおもしろくしていると思いました。
・ それぞれの人の似ているところ,ちがっているところを設定して,人の性格,特ちょうを出していると
いうところが工夫されていると思いました。
・ 「使う人の身になって・・・」という決めゼリフを入れているのも,人物像が分かっていいなと思いました。
国・長研‐17
〔7/13 時〕主人公(マサエ)の心の変容をとらえ,自分の物語作りの構想を練る。
○
物語冒頭の,マサエとおばあちゃんのわら
資料-23
ぐつに対する見方の違いを想起させ,叙述に
本時でとらえたマサエの変容
即して必要な箇所にサイドラインを引いたり, わらぐつに対して
叙述をつないだりさせながら(※各時間にお
ける言語活動),マサエの変容を読み取らせ
た(資料-23)。
○
第3時で書いた「作者の伝えたいこと」の
見直しをさせ,各自がとらえた作者の思いを
自分の言葉で書きまとめさせた(資料-24)。
○
・わらぐつの中には神様がいる(おばあちゃんの心)
⇔やだあ,みったぐない,迷信でしょ
・雪げたの中にも神様がいる(おじいちゃんの心)
おばあちゃんやおじいちゃんに対して
・すごいな ・優しいな ・信頼できる
・前よりも好きになった
・二人とも見かけよりも心を大切にして生きてきた
→何十年も,ずっと,今でも
→
→マサエが感動
並行読書で「との様の茶わん(小川未明作)」を読んだ児童に,物語の大まかな内容を紹介さ
せ(資料-25),聞いている児童にはメモをとらせた(※各時間における言語活動)。その後,
教師が,作者の講演会記録から,この物語に対する作者の思いを紹介し,長年心に留めていた
強い思いが「わらぐつの中の神様」に込められた思いに結び付いていることに気付かせた。
資料-24
児童がとらえた作者の「伝えたいこと」
・ 使う人の身になって心をこめて作ったものには
神様が入っているのと同じで,大事にしているも
のにも神様がいるということ。
・ 心をこめて作ったものには何にでも神様が入っ
ていて,昔も今も変わっていない考えがあったか
らずっと幸せに暮らしてこられたということ。
○
資料-25
児童による「との様の茶わん」の紹介
「との様は,いつも薄くて軽い上等の茶わんを使
っていたけど,食べるときにすごく手が熱くて本
当は困っていました。ある日,との様は旅に出て,
お百姓さんの家に泊まることになりました。そこ
で厚くて重い粗末な茶わんを使うと,熱くなくて
食べやすくて感動したという話です。」
これまで「物語プラン」に書いてきた構想が,自分が伝えたい内容を伝えるためにふさわし
いものになっているか見直しをさせ,友達同士で助言し合わせた(資料-26)。
資料-26
助言し合う児童
資料-27
第7時の「今日の学習で」
・
杉みき子さんが伝えたいことが分かったから,よかった
です。自分の物語の伝えたいことが,みんなに分かるとい
いなと思いました。
・ 今日,マサエのわらぐつに対する見方がすごく変わって
いて,もっと知りたいと思えるようになっていたと思いま
した。自分の物語も,見方が変わって,いい物語にしたい
と思いました。おじいちゃんとおばあちゃんの考え方が昔
も今も続いていて,すごいと思います。
・ 今日,杉みき子さんの伝えたいことと,物語の人物の変
化がわかりました。ぼくの物語の中にも,主人公が最後に
気持ちが変化することを書いているのでよかったです。
〔8/13時〕「わらぐつの中の神様」の文章構成の特徴をとらえ,自分の物語作りの構想を練る。
○
「現在-過去-現在」の構成で物語を書いた作者の意図を考えさせた。さらに,起承転結型の
物語の基本構成についてもその特徴を考えさせ,小グループで互いの考えを交流させた(※各
時間における言語活動)(資料-28,29)。
○
杉みき子の書いた,教材文と同じ構成の物語,違う構成の物語について知るために,並行読
書で「春さきのひょう」「おばあちゃんの雪段」を読んだ児童に,物語の大まかな内容を紹介
させ(資料-30),聞いている児童にはメモをとらせた(※各時間における言語活動)。その
上で,それぞれの物語が,二つの文章構成のどちらに当てはまるかを考えさせた。
国・長研‐18
資料-28
本時でとらえた文章構成の特徴
「現在-過去-現在」の構成
・ マサエの心の変化を伝えたかった
・ 読んでいる人が状況を理解しやすい
・ 最後におどろかせることもできる(楽しい,ひき付けられる)
・ 真ん中の部分は,「数日前の出来事」「手紙」「夢」「別の世界」など,いろいろ工夫できる
「設定-展開-山場-結末」の起承転結型の基本構成
・ だんだん話が盛り上がる
・ 読んでいる人が早く先を読みたくなる
・ 始めと終わりで変化が分かる
・ 時間の順に進むので書きやすい
資料-29
資料-30
本時でとらえた文章構成の特徴(板書)
児童による「春さきのひょう」「おばあちゃんの雪段」の紹介
「春さきのひょう」・・・「現在-過去-現在」の構成
お母さんが,二人の息子に自分の昔の話をします。戦争中にお母さんが病院で看護婦をしていたとき,夏に
氷がなくて熱が出た患者さんがいたから困っていました。そこへ,ひょうが降ってきたので,あわてて洗面器
を持って取りに行ったら,山崎さんという男の人のきゅうりの畑をめちゃくちゃにしてしまって,怒らせてし
まいました。その夜,空襲があって,お母さんは山崎さんに助けてもらって仲直りしました。その山崎さんが,
実は,二人の男の子のお父さんだったという話です。
「おばあちゃんの雪段」・・・起承転結型の基本構成
おばあちゃんは,雪の道つけをするのが仕事だったけど,遠くにいた息子たちが帰ってきて,道つけをしな
くてよくなったので喜んでいました。だけど,嫁の道つけはあまり上手ではなくて,ついにまたやりたくなっ
てやり直しをしました。そして嫁にほめられて,いろいろ考えて,だれも見ていなくても自分の気の済むため
に仕事をすればよい,と考えるようになって,道つけはまたおばあちゃんの仕事になりました。
○
自分が作る物語の文章構成を考えさせ,
「物語プラン」に構想を書きまとめさせた(資料-31)。
資料-31
児童が考えた自分の物語の文章構成
【「現在-過去-現在」の構成】
「わらぐつの中の神様」「春さきのひょう」の文章構成にならい,自分の物語の構成を考えている。
国・長研‐19
【起承転結型の基本構成】「おばあちゃんの雪段」の文章構成にならい,自分の物語の構成を考えている。
資料-32
第8時の「今日の学習で」
・
杉みき子さんは,すごく考えて話を作ったんだと思いました。なので「わらぐつの中の神様」は,よくそ
の話を思いついたと思いました。なので,杉みき子さんはすごいです。
・ 今日,構成のいいところがたくさん見つかりました。タイプもあって,たくさん楽しめるからいいなあと
思いました。友だちも構成のタイプがちがうと思うので,読むのが楽しみです。
・ ぼくは,「おばあちゃんの雪段」の話の構成がおもしろいと思いました。「おばあちゃんの雪段」も読ん
でみたいと思いました。
・ 今日は杉みき子さんが頭をひねったところがすごく伝わってきました。あとすごく変化が分かりました。
・ 構成を決めると,まだよく決まらないところやなやんでいたことが,全部決まってよかったです。あとも
うちょっとで構成が書けそうだから,がんばりたいです。
・ 今日勉強して,自分の物語の構成を考えたので,読み手がこの先どうなっていくか,おもしろくなる話を
作りたいです。
【第二次の考察】
○
表-22は,第二次における,各時間の学習終了時の児童のふり返りの状況である。ア〜エの
4段階(ア:よくできた イ:できた ウ:あまりできなかった エ:できなかった)で自己評価をさ
せた。第二次を通してアまたはイとふり返っている児童が多く,「作者にならって物語を作る」
という「単元を貫く言語活動を」位置付けたことは,各時間,「わらぐつの中の神様」を読んで
とらえた作者の思いや表現の特徴を,自分の物語プランの構想に生かしていく学習につなげる
ことができたと考える。しかし,ウまたはエとふり返っている児童も,各時間4~7人いた結
果からは,課題も見えてきた。特にウまたはエが多かった第5時,第6時(おみつさんや大工さ
んの人物像や人物の相互関係をとらえ,自分の物語作りに生かす時間)では,教材文からとら
えた内容と物語作りをつなぐために,人物の設定を工夫することのよさを確実に理解させる必
要があったと考える。
表-22
第二次における児童のふり返りの状況(チェック式)
「わらぐつの中の神様」を読んでとらえたこと(設定,人物像,人物の変容,文章構成)を,自分の「物語プ
ラン」に生かすことができましたか。
第3時
第4時
第5時
第6時
第7時
第8時
ア
イ
22 人
8人
21 人
9人
16 人
11 人
20 人
7人
23 人
6人
22 人
7人
ウ
エ
3人
1人
1人
3人
2人
5人
6人
1人
2人
3人
1人
4人
表-23
(34 人中)
第7時の「作者の伝えたいこと」の評価
評価
評価基準
34 人中
A
作者の伝えたいことを,作品全体から読み取ったこ
とを基に,自分の言葉で書きまとめている。
7人
B
作者の伝えたいことを,物語の中心となる叙述を基
に書きまとめている。
24 人
C
作者の伝えたいことをとらえて表現することが不
十分。
3人
国・長研‐20
○
表-23は,第7時に児童が
記述した「作者の伝えたいこ
と」の評価の結果である。第
二次では「各時間における言
語活動」を工夫しながら,作
者の思いや表現の特徴を読み
取ってきた。これらの積み重ねにより,第7時には,多くの児童が作者の伝えたい思いをとら
え,書きまとめることができた。しかし,作者の伝えたいことをとらえ表現することが不十分
であった児童が3人いたことから,「各時間における言語活動」を工夫した上で,個に応じた
支援を行う必要があったと考える。
(ウ) 第三次<「物語プラン」をもとに,自分の物語を書き上げる>
〔9〜13/13 時〕
○
第二次で各時間に書き溜めていった「物語プラン」(資料-33)の構想をもとに,自分の物語
を書かせた(資料-34)。
資料-33
完成した「物語プラン」の例
○
書き上げた物語を交換し,助言し合わせ,自分の物語の見直しをさせた(資料-35)。
○
前時で見直したことをもとに,物語を完成させた(資料-36)。
資料-34
物語を書きまとめる児童
資料-35
国・長研‐21
互いに助言し合う児童
国・長研‐22
いている。
の相互関係を考えながら書
る主人公の心の動きを,人物
ト(犬)に対する見方が変わ
成で,父親の話を聞いてペッ
「現在-過去-現在」の構
資料-36
児童が作った物語の実際
題名「いいところだってある」(資料-33 の「物語プラン」を作った児童の作品)
【第三次の考察】
○
表-24は,第三次で児童が書いた物
語の文章構成について評価した結果で
ある。これを見ると,多くの児童がA
表-24
評価
またはB評価であり,文章構成を考え
A
て物語を書くことができている様子が
B
分かる。第二次で,教材文「わらぐつ
児童が書いた物語の教師による評価「文章構成」
C
の中の神様」と,並行読書をした「お
評価基準
自分の伝えたい内容を伝えるために,文
章構成を工夫して物語を書いている。
文章構成を考えて物語を書いている。
文章構成を考えて物語を書くことが不十
分
34人中
7人
26 人
1人
ばあちゃんの雪段」の文章構成の意図をとらえ,物語を書く作者の思いを考えることができた
結果だと言える。自分が伝えたい内容を伝えるための,文章構成の工夫の必要性を学び,物語
作りに生かす学習ができたと考える。
C評価の児童は,自分が伝えたい内容を表現するための文章構成を「物語プラン」の段階で
は考えることができていたが,それに沿って文章を書き進めることができずにいた。「現在-
過去-現在」の構成で,人物の心の変容を書きたいという思いをもっていたので,特に「過去」
の部分にどのような話をもってくるか,話の長さ(文章全体の比重)をどのくらいにするか,
という具体的な助言を行った。
○
表-25は,児童が書いた物語の人物
表-25
児童が書いた物語の教師による評価「人物の設定」
像・人物の相互関係の設定の工夫につ
いて評価した結果である。約3割の児
童は,自分の伝えたい内容を伝えるた
評価
A
めに人物の相互関係を工夫して物語を
書くことができている。第二次で,
「各
時間における言語活動」を工夫しなが
B
C
ら,作者の思いに着目させて人物像と
評価基準
自分の伝えたい内容を読み手に伝えるた
めに,人物の相互関係の設定を工夫して
物語を書いている。
人物の相互関係を考えて物語を書いてい
る。
人物の相互関係を考えて物語を書くこと
が不十分
34人中
8人
26 人
0人
人物の相互関係をとらえさせ,人物像の設定にも作者の意図があることに気付かせた結果だと
考える。
B評価の児童は,「物語プラン」の段階では,人物の相互関係を考えていたものの,下書き
の段階では,話の展開の中でそれを十分に生かせていない部分も見られた。下書き後に,互い
に読み合って助言したり,自分で推敲したりする時間を確保し,見直しをさせた。
○
表-26は,児童が書いた物語の叙述
の工夫について評価した結果である。
約3割の児童が,伝えたい内容を伝え
るために叙述の工夫を随所に取り入れ
表-26
評価
A
て,物語を書くことができている。約
7割の児童は,第二次で学習した叙述
の工夫にならい,自分の物語にも取り
入れることができた。
児童が書いた物語の教師による評価「叙述の工夫」
B
C
評価基準
自分の伝えたい内容を読み手に伝えるた
めに,様々な叙述の工夫を取り入れて物
語を作っている。
自分の伝えたい内容を読み手に伝えるた
めに,叙述の工夫を取り入れている。
叙述の工夫を取り入れて物語を書くこと
が不十分。
34人中
8人
25 人
1人
C評価の児童は,下書きの段階で叙述の工夫を取り入れることができずにいたので,教師に
よる個別指導や,グループ交流での友達からの助言を基に,少しずつ見直しをさせていった。
国・長研‐23
(2) 第5学年における実証授業の考察
ア
主体的に文章を読み進めていくための「単元を貫く言語活動」の位置付け
第一次の考察(表-19,20),第二次の考察(表-22)でも述べたように,「杉みき子さんに
ならって,自分の物語を作ろう」という書き手に着目させた「単元を貫く言語活動」を位置付け
たことは,児童が目的達成に向けて主体的に文章を読み進めていく上で,有効であったと考える。
しかし,実証授業を通して,「単元を貫く言語活動」の位置付け方について,課題も見えてき
た。ある児童に着目して,本単元を通しての学習感想を見てみたい。表-27は,A児(資料-36の
物語を書いた児童)の学習感想を一覧にしたものである。
表-27
次・時
第一次
(1・2 時)
学習内容
単元の
見通し
第二次
伝えたいこと
(3時) 大まかな
ストーリー
第二次
設定
(4時)
第二次
(5時)
第二次
(6時)
第二次
(7時)
人物像
人物の相互関係
人物像
人物の相互関係
人物の
変容
第二次
文章構成
(8時)
第三次
終了後
A児の本単元を通しての学習感想
「今日の学習で」の記述内容
杉みき子さんのお話はいいと思いました。杉みき子さんのあこがれの人の小川未
明さんのお話は,どんなのだろうと思いました。ぼくも感動するようなお話を作り
たいです。今,自分が決めてる「おばあさんの花火」がどんなお話かわくわくします。
今日ぼくは,物語で,ダメな人だっていいところはあるということを伝えたいと
思いました。感動するお話です。子犬とある男の子の物語です。みんなにちゃんと
伝えられたらいいと思います。
子犬の名前と男の子の名前が全然思いつかないのでがんばりたいです。けっこう
物語を作るのは,はじめからむずかしいと思いました。あと,ねこも出そうと思い
ました。この全然言うことをきかない犬の,いいところだってあるということを伝
えたいです。
(時間の都合で記述なし)
それぞれの人の似ているところ,ちがっているところを設定して,人の性格,特
ちょうを出しているというところが,杉みき子さんが工夫していると思いました。
ぼくも時々,見かけで決めることが多かったけど,この杉みき子さんのお話を読
んで,使う人の身になって物を選ぶようにしたいと思いました。杉みき子さんの伝
えたかったことは伝わりました。
物語の構成で,ぼくはAパターン(現在-過去-現在)にしました。主人公のじ
ゅん太の気持ちの変わり方をよく伝えるためにがんばりたいです。それにならって,
自分の物語も完成させたいです。
自分の物語を作ってとてもいいのができたのでよかったです。杉みき子さんのお
話の工夫などはすごいと思いました。まだまだいろんな物語を書くときもこの勉強
を生かし,また工夫していきたいです。とても楽しかったです。
(※下線は研修員による)
二重線部を見ると,A児は目的達成に向けて意欲的に学習を進めてきた様子がうかがえる。し
かし,波線部からは,「単元を貫く言語活動」の位置付け方の課題も見えてきた。
第4時では,A児のように「物語プラン」を考える際,人物の名前を何にするか等に時間をとられ
ている児童が数人見られた。本時では,前時に考えた「伝えたい内容」を伝えるために,物語の設定
の工夫を考える必要性があったことを,児童に確実に理解させる必要があったと考える。
また,第7時は,人物の変容から作者の伝えたいことをとらえ直し,自分のこれまでに書いて
きた「物語プラン」を見直す,という展開で授業を進めたが,物語の読みが言語活動に直接つな
がりにくかったことが原因で,A児のように,本時の目的から離れてしまっている児童の姿も見
られた。教材文から人物の変容をとらえさせた後は,自分の物語における人物の変容を考えさせ
る時間とする等,「物語を作る」という目的に向かった1時間の流れにすべきであったと考える。
各時間の中で,教材文の読みを自分の目的達成に生かすことができるよう,第二次における「単
元を貫く言語活動」の位置付け方を再度見直していく必要がある。
国・長研‐24
イ
「読むこと」の基礎的・基本的な知識・技能を習得したり活用したりことができる「各時間に
おける言語活動」の位置付け
表-28
児童が書いた物語の教師による評価一覧
児童
文章構成
人物の設定
叙述の工夫
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
B
A
A
B
B
B
A
B
B
C
B
A
B
A
B
B
B
A
B
B
B
B
B
B
B
B
B
A
B
B
B
B
B
B
B
A
A
B
B
B
B
B
A
B
B
A
B
A
B
B
B
A
B
B
B
B
B
B
A
B
B
A
B
B
B
B
B
B
B
A
A
B
B
B
B
B
A
C
A
A
B
A
B
B
B
A
B
B
B
B
B
B
B
B
B
A
B
B
B
B
B
B
人数
A: 7 人
B:26 人
C: 1 人
A: 8 人
B:26 人
C: 0 人
A: 8 人
B:25 人
C: 1 人
表-28は,表-24,25,26の評価基準を基に,
第三次において児童が書いた物語を,教師が評
価した結果の一覧である。多くの児童が,第二
次でとらえた作者の思いや表現の特徴を,「文
章構成」「人物の設定」「叙述の工夫」に活用
して物語を作ることができている。第二次で「各
時間における言語活動」を積み重ねながら読み
進めてきた学習が,基礎的・基本的な知識・技能
の習得につながったと考える。
では,児童自身による第二次のふり返りの状
況はどうであろうか。表-29は,第二次におけ
る児童の各時間のふり返りの状況である。ア〜
エの4段階(ア:よくできた イ:できた ウ:あま
りできなかった エ:できなかった)で自己評価
をさせた。
表-29
児童による第二次の各時間のふり返り
「わらぐつの中の神様」を読み,自分の物語作りのた
めに必要な内容(設定,人物像,人物の変容,文章構成)
をとらえることができましたか。
第3時 第4時
第5時
第6時
第7時
第8時
ア 23 人
24 人
17 人
18 人
20 人
21 人
イ
8人
6人
15 人
12 人
9人
11 人
ウ
2人
2人
0人
1人
3人
1人
エ
1人
2人
2人
3人
2人
1人
(34人中)
毎時間,物語作りに必要な内容をとらえるこ
とができた(アまたはイ)とふり返っている児
童が全体の多くを占めている。しかし,ウまた
はエとふり返っている児童もおり,「各時間に
おける言語活動」にさらなる工夫が必要だった
と考える。
最もウまたはエが多かった第7時では,人物
の変容をとらえさせるために,前時までと同じように,叙述に即して必要な箇所にサイドライ
ンを引いたり,叙述をつないだりするよう指示を出したが,児童に戸惑いが見られた。二つの
「現在」の場面を比較しながら変容に気付かせるためには,比べさせる叙述を見つけるために,
音読を取り入れたり,少人数で確かめ合ったりさせる等,自分で考えるための共通の土台作り
を工夫する必要があったと考える。
「各時間における言語活動」の位置付けについて,より児童の実態を考慮しながら改善してい
く必要があると考える。
国・長研‐25
ウ
目的達成に向けた,同じ書き手の他の本や資料の並行読書の位置付け
本学級の児童は,本単元を通した並行読書として,全員が教材文以外の杉みき子作品を1作品
以上読むことができた。2作品読んだ児童が3人,3作品読んだ児童が1人,また単元の学習を
終えた後も読んでみたい杉みき子作品があると考えている児童は30人にのぼった。
また,単元終了後の記述式の学習感想には,資料-37のように,杉みき子作品の読書に対する
意欲を書きまとめた児童が9人見られた。資料-38のように,本単元での学習を通して,他の作
者への関心をもった児童も見られ,読書への関心は高まったと言える。
資料-37
単元終了後の学習感想①
資料-38
単元終了後の学習感想②
では,児童は,この並行読書が「自分の物語を作る」という目的達成のためにどの程度役に立
ったととらえているであろうか。単元の学習終了後に児童に実施したアンケートからは次のよう
な実態が見えてきた(表-30)。
表-30
①
②
③
④
⑤
単元終了後のアンケートより(選択式)
問:学習した内容の中で,何が自分の物語作りに役に立ちましたか。
(※複数選択可)
人物像など物語の設定が工夫されていることがわかったこと
物語の「かぎ」となる物が,重要な役割をはたしていることがわかったこと
「現在-過去-現在」という構成で,マサエの変化がよくわかったこと
杉みき子さんの書いた他の物語を読んだり,友達が読んだ物語の発表を聞いたりし
て,杉みき子さんの考え方や工夫がわかったこと
その他(記述式)
・物語の始めと終わりを工夫していること
・物語の始まり方の工夫
・出てこない人物の名前だけ出すこと(例:お父さん)
人数
14 人
13 人
13 人
6人
3人
児童は,第二次で学習した様々な内容が,物語作りの役に立ったととらえている様子が分かる。
しかし,物語作りにおいて並行読書が役に立ったと実感している児童は6人であり,全体の約2
割弱であった。「もっと読みたい」という読書自体への意欲は高まったと言えるが,「目的達成
のために読む」という意識には十分につなげることができなかった。各時間における杉みき子作
品の紹介の際に,「書き手の思いや表現の特徴をとらえ,自分の目的達成のための並行読書であ
る」という意識を明確にもたせる必要があったと考える。
国・長研‐26
(3) 第6学年の実践
ア
イ
単元名
渡辺実さんの考えを受け止め,「未来に残したい言葉辞典」を作ろう
教材名
「言葉は動く」
単元目標
「未来に残したい言葉辞典」を作るという目的をもち,文章の内容を的確に押さえて要旨をとら
えたり,文章を読んで考えたことを話し合い,自分の考えを広げたり深めたりすることができる。
(読むこと ウ,カ)
ウ
単元の評価規準
国語への関心・意欲・態度
筆者の考えを受け止め,言葉が
変化していくことについて考えよ
うという目的をもって文章を読も
うとしている。
○ 自分の立場から考えをもち,
「未
来に残したい言葉辞典」を進んで
作ろうとしている。
○
読む能力
文章の内容を的確に押さえて要
旨をとらえ,言葉が変化していく
事実に対して,自分の考えを明確
にしながら読んでいる。
○ 言葉の変化について考えたこと
を話し合い,自分の考えを広げた
り深めたりしている。
○
○
言語についての知識・理解・技能
時間の経過による言葉の変化や
世代による言葉の違いに気付いて
いる。
・ 過去の言葉は現代の言葉と連
続したものであること
・ それぞれの世代に特有の言葉
遣いがあること
エ 「単元を貫く言語活動」の位置付け
筆者の考えを受け止め,変化していく言葉に対する自分の考えを「未来に残したい言葉辞典」
に書きまとめる。
(ア) 言語活動としての「未来に残したい言葉辞典」作り
「未来に残したい言葉辞典」とは,筆
者の考えを受け止め,変化していく言
葉についての自分の立場からの考えを,
「辞典」という形に表現していくもので
ある。教材文「言葉は動く」から,変
化していく様々な言葉をとらえ,未来
第一次
第二次
第三次
筆者「渡辺実」
について知る。
学習の見通し
をもつ。
教材文「言葉は動
く」を読み,「未
来に残したい言葉
辞典」を書く。
「未来に残した
い言葉辞典」を
仕上げる。
に残したい言葉とその用例,残したい
並行読書(筆者渡辺実の書いた他の本や資料)
理由等,自分の立場から考えたことを
書きまとめ,学級で一冊の辞典として
まとめていく。
学習課題設定
学習課題追求1
学習課題追求2
したがって,本単元のねらいとする
「文章の内容を的確に押さえて要旨を
図-4
とらえ,言葉が変化していくことに対
言語活動を位置付けた単元構想
して,自分の考えを明確にしながら読むこと」,また「言葉の変化について考えたことを発表し
合い,自分の考えを広げたり深めたりすること」の実現に適していると考え,「単元を貫く言語活
動」として位置付けた(図-4)。
(イ)「未来に残したい言葉辞典」の構成要素(P.29 資料-42参照)
本単元における「未来に残したい言葉辞典」の構成要素を,次のように考えた。
○
事例①タイプ:現在使われている言葉と意味,元々使っていた言葉と意味,変化した理由
事例②タイプ:現在よく使われている呼び名と意味,古くからあり今も使っている呼び名と意味・用例
事例③タイプ:意味が変わってきている言葉の元々の意味と用例,新しい意味と用例
○
未来に残したい理由
○
自分にできること
国・長研‐27
オ
次
単元の指導計画(6時間)
時
1/6
主な学習活動
◆
学習課題をつかみ,単元の見通しをもつ。
1
単元の見通しをもつ。
(1) 言葉の変化に興味をもち,「言葉は動く」を読む。
(2) 筆者渡辺実について知る。
(3) 「未来に残したい言葉辞典」について知る。
第
一
次
【単元のめあて】 渡辺実さんの考えを受け止め,
「未来に残したい言葉辞典」を作ろう。
(4) 学習計画を立てる。
第二次:「言葉は動く」の三つの事例をとらえ,「未来に残し
たい言葉辞典」を作る。
<評価>
学習課題をつか
み,目的をもって
教材文を読み進め
ていこうという意
欲をもっている。
第三次:「未来に残したい言葉辞典」を仕上げる。
◆ 「未来に残したい言葉辞典」を作るという目的をもち,「言葉
は動く」を詳しく読む。
2/6
1
一つ目の事例を読み,「未来に残したい言葉」について考える。
(1) 「こよみ」から「カレンダー」への変化の事例を読み取る。
(2) 事例に当てはまる言葉を各自で探し,言葉が変化した理由
を考える。
(3) グループで話し合い,事例①タイプの未来に残したい言葉
について原稿を書く。
3/6
2
<評価>
叙述を基に事例
を補いながら教材
文を読み,「未来
に残したい言葉辞
典」作りに生かし
ている。
二つ目の事例を読み,「未来に残したい言葉」について考える。
(1) 「かしら」から「あたま」への変化の事例を読み取る。
(2) 事例に当てはまる他の言葉とその用例について調べる。
第
二
次
(3) グループで話し合い,事例②タイプの未来に残したい言葉
について原稿を書く。
4/6
3
三つ目の事例を読み,「未来に残したい言葉」について考える。
(1) 「うつくし」の意味の変化について読み取る。
(2) 事例に当てはまる言葉の意味の変化について調べる。
(3) グループで話し合い,事例③タイプの未来に残したい言葉
について原稿を書く。
5/6
4
要旨をとらえ,筆者の考えを受けて,自分の考えをもつ。
(1) 筆者の考えをとらえる。
(2) 筆者の考えを受け,「自分にできること」を考える。
<評価>
三つの事例を基
に筆者の考え(要
旨)をとらえてい
る。
(3) 「自分にできること」について意見交換し,付加修正する。
第
三
次
◆ 「未来に残したい言葉辞典」を仕上げる。
6/6
1
「未来に残したい言葉辞典」を各自書きまとめる。
2
全体で交流する。
国・長研‐28
<評価>
言葉について自
分の考えをもち,
「未来に残したい
言葉辞典」に書き
まとめている。
カ
指導の実際
(ア) 第一次<学習課題をつかみ,単元の見通しをもつ>
〔1/6 時〕言葉の変化に興味をもって教材文を読み,単元の見通しをもつ。
○
言葉の変化に興味をもつことができるよう,文化庁の「国語世論調査」の結果について書か
れた新聞記事を紹介し,新しく生まれた言葉が次第に定着していっている事実があることを実
感させた上で,教材文「言葉は動く」に出会わせた。
○
資料-39
筆者の経歴等をまとめた掲示物
筆者「渡辺実」に出会わせた。経歴等を紹介し,
筆者は国語学者として長年言葉について研究し
てきた立場から,自らの考えを伝えようとしてい
ることをとらえさせた(資料-39)。その上で,
読み手である児童は,自分の立場から何を考えど
う行動すべきかを考えさせた。また,筆者の書い
た他の本や資料(資料-40)も紹介し,筆者の立
場をより明確に意識させた。
○
筆者の考えを受け止め,自分たちの立場からで
きることとして「『未来に残したい言葉辞典』を
作ろう」という学習課題を生み出した。
資料-40
児童に紹介した渡辺実の他の本や資料
・ 「外来語と日本文化」(過去教科書掲載文章)
・ 「言葉を選ぶ」(過去教科書掲載文章)
・ 小学館「日本国語大辞典 第二版」の編集委員
としてのメッセージ
・ 教科書会社ホームページに掲載されている対
談の資料
・ 「枕草子」(岩波セミナーブックス-古典読破
シリーズ)
・ 「日本古典のすすめ」(岩波ジュニア新書)
資料-42
○
「未来に残したい言葉辞典」のモデルを提示し
(資料-42),目的意識と相手意識を確かめ(資
料-41),単元の学習の見通しをもたせた(資料
-43)。
資料-41
学習課題の目的意識と相手意識
目的意識:言葉について考えたことを,「未来に残し
たい言葉辞典」にまとめる。
相手意識:学級の友達,他のクラスの友達
提示したモデル
資料-43
国・長研‐29
学習計画をまとめた掲示物
【第一次の考察】
表-31
第一次の児童のふり返りの状況(チェック式)
ふり返りの視点
①これからの学習の見通しを
もつことができましたか。
②言葉について考えていこう
という意欲がわきましたか。
ウ
エ
21 人
12 人
0人
0人
エの4段階(ア:はい
20 人
13 人
0人
0人
言えばはい
第一次の児童のふり返りの状況(記述式)
記述の内容(複数観点記述者あり)
①
筆者渡辺実に触れて,これからの学習への
意欲を書きまとめている。
② 「未来に残したい言葉辞典」を作っていきた
いという思いを書きまとめている。
③ 言葉の変化についてもっと考えていきたい
という意欲を書きまとめている。
●
表-31,32,資料-44は,第一次終了
イ
(33 人中)
表-32
○
ア
その他(どれにも当てはまらないことを書
いている児童)
時の児童のふり返りの結果である。ア〜
え
イ:どちらかと
ウ:どちらかと言えばいい
エ:いいえ)で自己評価をさせた結
果,今後の学習への見通しをもち,言葉
について考えていこうという意欲をもつ
人数
ことができた様子がうかがえる。「未来に
9人
残したい言葉辞典を作ろう」という「単元
11 人
を貫く言語活動」の設定により,単元全
体の見通しと意欲をもつ結果につながっ
17 人
1人
たと言える。
また,筆者の経歴を書いた資料を紹介
し,筆者が国語学者として長年言葉につ
いて研究してきた立場にあるという事実を児童が知ることは,「読み手である自分たちも,言
葉について考えていかなければいけない」という必要感につながったと考える。
資料-44
児童が書いたふり返りの実際
②
③
②
①
③
(イ) 第二次<教材文「言葉は動く」を読み,「未来に残したい言葉辞典」を作る>
〔2/6 時〕一つ目の事例「暮らし方の変化による言葉の変化」の内容をとらえ,「未来に残した
い言葉辞典」に載せる言葉について検討する。
国・長研‐30
表-33
児童が考えた事例①に当てはまる言葉
元々使っていた言葉
ホテル
前掛け
エプロン
えり巻き
マフラー
帳面
ノート
下駄箱
靴箱
手ぬぐい
タオル
「こよみ」と「カレンダー」の違いと,言葉が変化した
理由を読み取らせた。その際,「各時間における言語活
現在よく使われている言葉
宿
○
○
動」として,サイドラインを引く,言葉と説明をつなぐ,
意味段落に小見出しを付ける等の言語活動を取り入れ,
叙述を基に,確かに読み取ることができるようにした。
○
一つ目の事例「暮らし方の変化による言葉の変化」に
当てはまる言葉を探し(表-33),国語辞典を引かせな
がら,その言葉の意味や変化した理由を考えさせた。
一つ目の事例に当てはまる言葉の中から「未来に残したい言葉辞典」に入れたい言葉につい
て考えさせた。グループで「編集会議」を開いて話し合わせ,言葉が変化した理由や残したい理
由について検討させ,原稿の下書きを書かせた(表-34)。
表-34
現在使われ
ている言葉
リビング
元々使われ
ていた言葉
茶の間
キッチン
台所
服
着物
「未来に残したい言葉辞典」の原稿の内容
変化した理由
未来に残したい(伝えたい)理由
たたみが フロー リ
茶の間という言葉は,昔のちゃぶ台などを思い出さ
ングになり,家具が洋 せる言葉だと思うからです。
風になってきたから。
台所の中 身が洋 風
昔は,台所でおかまやまきを使ってごはんをたいて
になったから。
いたけど,今は,ガスコンロやIHで料理をしている
から,キッチンと台所のちがいを分かってほしいし,
貴重な言葉だと思うからです。
日本人の生活が,和
今は,スカートやTシャツ,ズボンなどを洋服とい
服から洋服を着る生 いますが,昔は,和服のようなものを着物といってい
活に変わったから。
たそうです。このことから,昔はちがう服を着ていた
ことが分かるからです。
〔3/6 時〕二つ目の事例「長い年月によるよび名の変化」の内容をとらえ,「未来に残したい言葉
辞典」に載せる言葉について検討する。
○
「かしら」と「あたま」の違いと,言葉が変化した理由を読み取らせた。その際,「各時間に
おける言語活動」として,サイドラインを引く,言葉と説明をつなぐ,意味段落に小見出しを
付ける等の言語活動を取り入れ,叙述を基に,確かに読み取ることができるようにした。
○
二つ目の事例「長い年月によるよび名の変化」に当て
はまる言葉について調べさせ(資料-45),国語辞典を
引かせながら,その意味や今も残る使い方(複合語や用
資料-45
児童が調べた事例②に当てはまる言葉
はち,かぶり,こうべ,つら,おも,
まなこ,
等
例)を考えさせた。
○
二つ目の事例に当てはまる言葉の中から「未来に残したい言葉辞典」に入れたい言葉につい
て考えさせた。グループで「編集会議」を開いて話し合わせ,用例や残したい理由について検
討させた上で,原稿の下書きを書かせた(表-35)。その際,筆者渡辺実が,国語辞典の編集
者としての経験をもっているという経歴を想起させ,言葉の意味の微妙な違いをとらえている
事実をおさえ,辞典に取り入れていくことができるようにした。
国・長研‐31
表-35
現在よく使われ
ている呼び名
あたま
古くからあり,今も
残っている呼び名
こうべ
あたま
はち
「未来に残したい言葉辞典」の原稿の内容
複合語・用例
未来に残したい(伝えたい)理由
こうべを垂れる
しゃれこうべ
なぜ「こうべ」を選んだかというと,今の時代では
「こうべ」はほとんど使われていないので,まだ残っ
ている使い方を伝えたくなったからです。
最近はみんな使わなくなってきたけど,
「はちまき」
とか「はち合わせ」とかはまだ残っているので,昔の
言葉も使っていったら面白いと思ったからです。
はちまき
はち合わせ
〔4/6 時〕三つ目の事例「長い年月による心のもち方を表す言葉の変化」の内容をとらえ,「未来
に残したい言葉辞典」に載せる言葉について検討する。
○
小さくてかわいらしいものを表す言葉が「うつくし」から「めでたし」,「かわいい」へと移
り変わっていった事例を読み取らせた。その際,「各時間における言語活動」として,サイドラ
インを引く,言葉と説明をつなぐ,意味段落に小見出しを付ける等の言語活動を取り入れ,叙
述を基に,確かに読み取ることができるようにした。また,筆者が平安時代の言葉の研究を専門
的に行ってきているという経歴を想起させ,昔からの言葉の移り変わりについて詳しく知って
いる立場であることを確かめた。
○
三つ目の事例「長い年月による心のもち方を表す言葉の変化」に当てはまる言葉について調
べさせ(資料-46),国語辞典を引かせながら,その意味や用例を考えさせた。
○
三つ目の事例に当てはまる言葉の中から「未来に残し
たい言葉辞典」に入れたい言葉について考えさせた。グ
ループで「編集会議」を開いて話し合うことで,用例や
残したい理由について検討させ,原稿の下書きを書かせ
資料-46
児童が調べた事例③に当てはまる言葉
おかしい(をかし),あやしい(あや
し),におう,はまる,こだわる,び
みょう,かわいい,
等
た(表-36)。
表-36
意味が変わってきて
いる言葉
におう
はまる
元々の意味
「未来に残したい言葉辞典」の原稿の内容
まとめる観点
新しい意味
美しく輝くこと
香りを感じるこ
と
今まで普通に,香りを感じることを「におう」と
使っていたけど,調べてみると聞いたことがない意
味がのっていておどろいたので,面白いなと思って
未来に伝えたいと思いました。
おさまる
あてはまる
落ち込む
熱中する
「はまる」という言葉は元々の意味がだんだん消
えていて「熱中する」の方がよく使われるようにな
ってきていると思うので,前の意味もなくなってい
かないように残していきたいと思いました。
資料-47
〔5/6 時〕<要旨をとらえ,自分の
考えをもつ>
○
筆者渡辺実の立場を想起した
上で,筆者の考えが書かれてあ
る最後の意味段落を読み,要旨
をまとめさせた。
○
未来に残したい(伝えたい)理由
筆者の考えを受け止め,「未
来に残したい言葉辞典」の構成
児童が考えた「自分にできること」
まとめる観点
<使う,伝える>
・ 古い言葉も使ってみる
・ 小さい子に教える,未来に伝えていく
・ 昔の言葉を使ったカレンダーを作る
<聞く,学ぶ>
・ 古い言葉を覚える,知る
・ おじいちゃん,おばあちゃんに聞く
・ 新しい言葉が出てきたら,元はどう使われていたかを質問する
・ 国語で「古い言葉」の学習を増やし,勉強する
・ 小中学校の教科書に,古い言葉をたくさんのせてもらう
・ 昔使われていた言葉を自分で調べる
・ 聞いたり,知ったりした古い言葉をメモする
等
国・長研‐32
要素の一つである「自分にできること」を考え,書きまとめさせた(資料-47)。
【第二次の考察】
○
表-37は,第二次における各時間の学習終了時の児童のふり返りの結果である。ア〜エの4
段階(ア:よくできた イ:できた ウ:あまりできなかった エ:できなかった)で自己評価をさせ
た。アまたはイとふり返っている児童が多く,各時間「言葉は動く」を読んでとらえた筆者の
考えや表現の特徴を基に,「未来に残したい言葉辞典」を書いていく活動は,児童が目的に向
かって意欲的に学習に取り組む上で効果的であったと考える。
○
表-38は,第二次の最終時に児童がまとめた要旨の内容を分析したものである。多くの児童
が,筆者の考えを受け止め,要旨を書きまとめることができている。書き手に着目させ,「各
時間における言語活動」を取り入れ,事例を補いながら読む学習の積み重ねにより,各事例に
ついて読み取ることができたと考える。しかし,自力で要旨をとらえる力が不十分な児童もお
り,各事例から読み取った内容と要旨をつなぐための手だてが必要であったと考える。
表-37
第二次の各時間の児童によるふり返り
「未来に残したい言葉辞典」を作るために,
言葉について考えることができたか。
第2時
第3時
第4時
第5時
ア
15 人
14 人
21 人
19 人
イ
16 人
18 人
11 人
14 人
ウ
2人
0人
1人
0人
エ
0人
1人
0人
0人
表-38
児童がとらえた「要旨」の教師による評価
評
価
まとめる観点
評価基準
33 人中
A
三つの事例を踏まえて,筆者の考えをと
らえ,自分の言葉で書きまとめている。
17人
B
筆者の考えを,最終段落の中心となる叙
述を基に書きまとめている。
14人
C
筆者の考えをとらえて表現することが
不十分。
2人
(33 人中)
(ウ) 第三次〔6/6 時〕<「未来に残したい言葉辞典」を仕上げる>
○
第二次で書いた原稿の下書きを基に,各自「未来に残したい言葉辞典」を書き上げた(資料
-48,49,50)。
資料-48
児童が書いた原稿(事例①タイプ)
国・長研‐33
資料-49
児童が書いた原稿(事例②タイプ)
資料-50
児童が書いた原稿(事例③タイプ)
事例①タイプ
「暮らし方の変化によって変わった言葉」
【さじ】→【スプーン】
食べる物が,和食から洋食に変わったから
事例②タイプ
「長い年月の間に変わった言葉(呼び名)」
【は ち】頭の横回り(例:鉢巻,鉢合わせ)
【あたま】首から上の部分
事例③タイプ
「長い年月の間に変わった言葉(心のもち方を
表す言葉)」
【におう】美しく輝くこと
→ 香りを感じること
【第三次の考察】
表-39
評価
教師による評価「言葉の選定,用例」
評価基準
それぞれの事例に合った言葉を選び,
様々な用例を調べて書いている。
それぞれの事例にあった言葉とその用
例を書いている。
A
B
事例に合った言葉を選ぶことができて
いない。
C
○
表-39は,第三次でそれぞれ書いた「未
来に残したい言葉辞典」に取り上げた言葉
33 人中
や用例について評価した結果である。多く
5人
の児童が事例に合った言葉を選び,用例を
27 人
書くことができている。第二次で「各時間
における言語活動」として少人数での話し
1人
合いを取り入れ,互いの考えを出し合い,
擦り合わせることができた結果だと考え
表-40
評価
教師による評価「未来に残したい理由」
評価基準
選んだ言葉を「未来に残したい」と考
えた理由を,自分の考えを取り入れて
書いている。
選んだ言葉を「未来に残したい」と考
えた理由を書いている。
A
B
C
言葉を選んだ理由を書いていない。
33 人中
る。
○
表-40は,「未来に残したい理由」を評
価した結果である。多くの児童が,自分の
7人
考えを取り入れて,
「未来に残したい理由」
を書くことができている。第二次で,教材
26 人
文から事例の内容を正しく読み取り,それ
0人
を踏まえて言葉に着目することができた
結果だと考える。
表-41
評価
A
B
C
教師による評価「自分にできること」
評価基準
筆者の考えを受け止め,自分の立場から
できることを考えて書いている。
自分の立場からできることを考えて書
いている。
自分の立場からできることを考えて書
いていない。
33 人中
○
表-41は,「自分にできること」につい
て評価した結果である。多くの児童が,筆
者の考えを受け止め,自分の立場からでき
7人
ることを考え,書きまとめることができて
25 人
いる。筆者渡辺実に着目して文章を読み進
1人
国・長研‐34
め,読み手としての立場から言葉について
考えた結果だと考える。筆者の経歴を紹介
したり,筆者が書いた他の本や資料に触れさせたりしたことは,有効であったと考える。
(4) 第6学年における実証授業の考察
ア
主体的に文章を読み進めていくための「単元を貫く言語活動」の位置付け
第一次の考察(表-31,32),第二次の考察(表-37)でも述べたように,第一次での「渡辺
実さんの考えを受け止め,『未来に残したい言葉辞典を作ろう』」という書き手に着目させた「単
元を貫く言語活動」の設定は,児童が主体的に文章を読み進めていく上で効果的であったと考え
る。また,第二次で,各事例の内容をとらえ,その事例に合った言葉を探したり調べたりするこ
とができるよう,各時間の終末に「未来に残したい言葉辞典」を書く活動を位置付けことも,効
果的であったと考える。
表-42
「未来に残したい言葉辞典」の教師による評価一覧
児童
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
人数
言葉の選定,
残したい
用例
理由
B
B
B
B
A
B
B
B
B
B
A
A
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
A
B
A
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
A
B
B
A
B
B
B
B
B
B
A
B
B
B
B
B
A
B
A
C
B
B
A
B
A
B
B
A: 5 人
A: 7 人
B:27 人
B:26 人
C: 1 人
C: 0 人
自分に
できること
A
B
B
B
B
A
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
B
A
B
B
A
B
B
B
B
A
A
C
A
B
B
A: 7 人
B:25 人
C: 1 人
イ
「読むこと」の基礎的・基本的な知識・技能を
習得したり活用したりすることができる「各時
間における言語活動」の位置付け
表-42は,表-39,40,41の評価基準を基
に,第三次において児童が書き上げた「未来
に残したい言葉辞典」を教師が評価した結果
の一覧である。多くの児童が,筆者の考えを
とらえ,自分の立場から考えを書きまとめる
ことができている。第二次で教材文を読み進
める際の,「各時間における言語活動」の積み
重ねにより,「読むこと」の基礎的・基本的な
知識・技能を習得することができたからだと
考える。
では,児童自身による第二次のふり返りの
状況はどうであろうか。表-43は,第二次にお
ける児童の各時間のふり返りの結果である。
ア〜エの4段階(ア:よくできた イ:できた
ウ:あまりできなかった エ:できなかった)
で自己評価をさせた。
表-43
児童による第二次の各時間のふり返り
「言葉は動く」を読み,「未来に残したい言葉辞典」
を作るために必要な内容(事例の内容,筆者の考え)を
とらえることができたか。
第2時
第3時
第4時
第5時
ア
19 人
18 人
20 人
22 人
イ
12 人
11 人
12 人
11 人
ウ
2人
4人
1人
0人
エ
0人
0人
0人
0人
(33 人中)
国・長研‐35
「未来に残したい言葉辞典」を作るために必要な内容をとらえることができた(アまたはイ)と
ふり返っている児童が多い。しかし,ウまたはエとふり返っている児童もおり,「各時間におけ
る言語活動」に,さらなる工夫が必要であったと考える。
最もウまたはエが多かった第3時は,前時と比べ,用例を自ら探したり調べたりするのが難し
い事例であったため,児童に戸惑いが見られた。児童自身が「事例の内容をとらえることができ
た」とより実感できるためには,さらなる手だてが必要であったと考える。
「各時間における言語活動」の位置付けについて見直し,より児童の実態を考慮しながら改善し
ていく必要があると考える。
ウ
目的達成に向けた,同じ書き手の他の本や資料の並行読書の位置付け
実証授業後に児童に,筆者の考えをとらえること
ができたかを,アンケートで調査した(表-44)。「は
い」または「どちらかと言えばはい」と回答した児
童にその理由を尋ねたところ,表-45のような結果
であった。①②③の結果を見ると,児童が言語活動
を通して筆者の考えや表現の特徴をとらえることが
表-44
実証授業後のアンケート結果①
問:学習を通して,渡辺実さんの考えが伝わっ
てきましたか。
はい
14 人
どちらかと言えばはい
17 人
どちらかと言えばいいえ
2人
いいえ
0人
できた様子がうかがえる。
(33 人中)
表-45
①
②
③
④
⑤
実証授業後のアンケート結果②
問:「はい」または「どちらかといえばはい」と答えた人にたずねます。それはなぜ
ですか。(※複数選択可)
教科書に事例がたくさんのっていて,分かりやすかったから。
「事例①-事例②-事例③-筆者の考え」という構成で,分かりやすかったから。
自分で調べたり,グループで話し合ったりしたから。
渡辺実さんが,言葉について長く研究してきた人だと分かったから。
前の教科書にのっていた「外来語と日本文化」や「言葉を選ぶ」も読んで,渡辺実さん
の言葉に対する考え方が伝わってきたから。
人数
18 人
12 人
16 人
14 人
4人
では,並行読書についてはどうであろうか。④の結果を見てみると,筆者についての情報を知
ったり,様々な本や資料を目にしたりする活動は,筆者の立場を意識させることにつながったと
考える。しかし,⑤の人数が少なかった結果からは,課題が見えてくる。時間の都合で十分に読
ませられなかったこと,また,何のために読ませるのか視点を明確にとらえさせる指導ができな
かったことなどの課題が挙げられる。並行読書のさせ方について見直し,さらに工夫改善してい
く必要がある。
国・長研‐36
第Ⅲ章
1
研究のまとめ
研究の成果
(1) 文学的文章及び説明的文章を「読むこと」の指導についての調査分析から
国立教育政策研究所の全国学力・学習状況調査についての調査結果の分析から,書き手に着目し
た指導について改善・充実が求められている現状が明らかになった。また,本市の小学校教師への
アンケート調査の分析からも,書き手に着目した「読むこと」の指導が不十分な実態が明らかにな
った。
こうした調査分析から,書き手の思いや考え,表現の特徴に着目した教材文の分析や言語活動の
工夫の必要性を明らかにすることができた。
(2) 文学的文章及び説明的文章を「読むこと」の実践研究から
ア 「単元を貫く言語活動」の位置付け
書き手を意識しながら読み進めていくことのできる「単元を貫く言語活動」の位置付けは,児
童が目的をもち主体的に文章を読み進めていく学習につながった。その中で,児童に,文章の背
景には書き手の思いや考えがあり,それを様々な表現の工夫をしながら読み手に伝えようとして
いる書き手の意図をとらえさせることができた。また,教材文を読み進めるための意欲だけでな
く,同じ書き手の他の本や資料の読書への意欲も高めることができた。
イ 「各時間における言語活動」の位置付け
各時間に細やかに言語活動を位置付けたことは,
「読むこと」の基礎的・基本的な知識・技能(書
き手の思いや考え,表現の特徴)を習得させる上で有効であった。また,そのことは,「読むこ
と」の基礎的・基本的な知識・技能を活用させる上でも有効であり,「単元を貫く言語活動」の
活性化につながった。児童は,「話す」「聞く」「書く」「読む」の様々な言語活動により,第二次にお
いて教材文を確かに読み,自分の目的達成に生かすことができた。
「単元を貫く言語活動」を活性化させるために,各時間に細やかに言語活動を位置付けていくこ
との大切さを実感した。
ウ
並行読書の位置付け
同じ書き手の他の本や資料に関する並行読書の位置付けは,児童の読書意欲を高めたり,書き
手の思いや考え,表現の特徴をとらえさせたりする上で有効であった。
第5学年における実践では,児童が,並行読書を通して書き手の思いや表現の特徴を確かにと
らえ,それを自分の目的達成(物語作り)に生かすことができた。同じ書き手の他の本や資料に
関する並行読書の位置付けは,自分の目的達成にも有効であることが明らかになった。
2
研究の課題
(1) 説明的文章を「読むこと」の単元における並行読書の工夫改善
説明的文章を「読むこと」の単元における並行読書の在り方について,さらなる工夫改善が必要
である。
児童が筆者についての情報を知ったり様々な本や資料を目にしたりする活動は,筆者の考えや表
現の特徴,その意図を意識することにつながった。しかし,どのような本や資料を読ませるのが効
果的なのか,その収集や選定の在り方に課題が残った。説明的文章を「読むこと」の単元における,
ねらいに応じた並行読書の位置付け方について検討していく必要がある。
国・長研‐37
(2) 6か年の系統性の明確化
本研究では,第5学年と第6学年で,書き手の思いや考え,表現の特徴をとらえ,自分の目的達
成に生かす言語活動の工夫を取り入れ,研究実践を行った。その研究実践においては,前述のよう
な成果が見られたが,第3,4学年,第1,2学年ではその考え方がどう具現化できるのか,その可
能性を探っていく必要がある。また,第5,6学年につなぐためには,第1学年から第4学年までに
どのような指導が必要であるのか,その系統性を明らかにしていくことも必要である。
今後,主体的な読み手を育てるための書き手に着目した指導について,6か年の系統性を明らか
にしていきたい。
資料等
引用文献
1
文部科学省
小学校学習指導要領
P.13
2
国立教育政策研究所
全国学力・学習状況調査の4年間の調査結果から
(平成20年)
今後の取組が期待される内容のまとめ~児童生徒
への学習指導の改善・充実に向けて~(小学校編)
P.1,P.11(平成24年)
参考文献
1
文部科学省
小学校学習指導要領
国語編
(平成20年)
2
文部科学省
言語活動の充実に関する指導事例集
~思考力,判断力,表現力等の育成に向けて~
3
福岡市教育委員会
新しいふくおかの教育計画
4
福岡市教育委員会
新しいふくおかの教育計画
5
水戸部修治
小学校国語科
(平成21年)
後期実施計画
言語活動パーフェクトガイド5・6年
6
水戸部修治
水戸部修治
言語活動
ベストモデル
8
樺山敏郎
実践ナビ!言語活動のススメ
9
福岡こくごの会
確かな国語科教育をめざして
10
市毛勝雄
新国語科の重点指導第6巻
モデル30
音読・朗読・暗唱の育て方
11
杉みき子
杉みき子選集1
12
杉みき子
小さな町の物語
13
北川幸比古
小川未明童話集
鬼塚りつ子
わらぐつの中の神様
-心に残るロングセラー名作10話-
研修員
上
昌
子
(七隈小学校教諭)
好
民
(研修支援課
研究指導者
楢
尾
明治図書
(平成23年)
明治図書
(平成26年)
明治図書
(平成24年)
明治図書
(平成25年)
「領域組み合わせ」で言葉の力を育てる!
小学校国語
川
(平成26年)
小学校国語科
学習指導案パーフェクトガイド5・6年
7
(平成23年)
研究支援係長)
国・長研‐38
(平成21年)
明治図書
(平成21年)
新潟日報事業社 (平成17年)
童心社
(昭和47年)
世界文化社
(平成16年)
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