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学び合い高め合う国語学習の創造

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学び合い高め合う国語学習の創造
第2章
1
必修教科等の研究
国語科
〈伝達〉から〈探究〉へ学習を変える工夫 ~領域別ポイントと授業事例~
─学び合い高め合う国語学習の創造 (1)─
白石 牧恵
舟橋 秀晃
*1
本論の要旨
本研究は,学習活動の工夫に中心をおき,生徒同士で〈探究〉的に知識や技能を構
成・獲得していく授業事例を開発することを通して,学び合い高め合う国語学習の成
立要件を解明しようとしたものである。
〈探究〉型学習を行うには,教えたい知識や技能を「教材」にくるんでまず生徒に
渡し,共同的活動によって生徒が自ら気づき,考え,学習内容に迫っていくよう仕組
まなければならない。しかし,これを妨げる問題が国語科においては領域ごとに存在
する。本研究では,「読むこと」(古典,説明的文章)・「言語事項」(文法)について,そ
れに対応するいくつかの具体的な工夫点を含む授業事例を開発できた。
キーワード
〈伝達〉型学習,〈探究〉型学習,社会的構成主義,交流
1.はじめに~これからの学習のあり方とは~
びのデザイナーとして,あるいはファシリテーター(促進
者)として活動している。それらの教室において教科書は
脇役であり,追求性のあるテーマや課題を中心に,多く
の資料と多彩な活動によって質の高い学びが追求されて
いる。
この静かな革命は,歴史的に見ても必然的である。私
たちになじみのある伝統的な教室の風景は19世紀の産物
であり,国民国家の統合と産業主義社会の発展に対応し
ていた。しかし,21世紀を迎えた今日,グローバリゼー
ションによって日本を含む先進諸国は,モノの生産と消
費を中心とする産業主義の社会から,高度の知識や文化
や情報や対人サービスによって経済が構成される,ポス
ト産業主義の社会へと移行している。
子どもの学習方法について,近年我が国のマスコ
ミでは,「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究
会」の実践に端を発する陰山英男氏らの学習指導法
や,脳科学の知見を子どもの教育や認知症高齢者の
治療に生かそうとする川島隆太氏らの研究成果が,
比較的多く報じられてきた。
しかしこれらの報道では共通して,さまざまある
学習の側面のうち「個々の子に知識や技能をどうす
ればより正確に効率よく伝達させられるか」という
側面ばかりを取り上げがちのように見える。このよ
このような前提のもと,佐藤氏は授業における指
うな報道に見られる学習観を,本稿では便宜的に
〈伝
導者の役割を,いい授業を求めていい発言をつなぐ
達〉型学習観と呼ぶことにする。
ことでなく,子どもの思考をいいもの・よくないも
これと全く異なる見地から授業や学習をとらえて
のに振り分けずにどの子の思考やつまずきもすばら
いるのが佐藤学氏である。「知識基盤社会」とも呼
しいと受け止め,つぶやきや沈黙に耳を傾けること
*2
ばれる 現代社会に必要な学びとは何かについて,
*3
佐藤氏は次のような考えを示している 。
*4
であるとし ,丁寧に子ども同士の発言を「つなぎ」
子どもに「もどす」ことを指導者に求めている。
黒板と教卓を中心に多数の子どもが一人ひとり一方向
に並べられた机で学ぶ教室,教科書を中心に所与の知識
や技能を習得させテストで評価する授業は,日本を含む
東アジアの国々を除けば,すでに博物館に入っていると
言っても過言ではない。欧米の多くの国々の教室を訪問
すると,20人内外の子どもたちが4,5人のグループごと
にテーブルを囲んで共同学習を展開し,教師は教室の学
以上を踏まえれば,これからの授業づくりにおい
ては,教育に携わる者は単なる〈伝達〉型学習観か
ら抜け出て,既有の知識や技能を自己の中や仲間同
士で組み合わせ試行錯誤し共に新しい知識や技能を
構成・獲得していくような,学び合い高め合う〈探
*1 本稿は,3,ならびに6(1)のうち3の授業事例にかかわる部分を白石牧恵が執筆し,他を舟橋秀晃が執筆した。
*2 例えば中教審初等中等教育分科会教育課程部会『教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ』,2007年11月,p.8。
*3 佐藤学『教師たちの挑戦―授業を創る 学びが変わる―』小学館,初版2003年,pp.8-9
*4 例えば注2と同書,p.140。
国語1
- 13 -
*5
究〉型学習観 を重視すべきであるといえる。なお
何を子どもに委ね何を指導者が主導するのか,また
本県でも1990年代以降,生徒指導上の困難を経験し
子どもに委ねる場合は指導者がどのような手立てで
た学校では「荒れ」を克服する過程で,指導者が一
学習を導くのかを,これからの授業開発における大
律に管理を強めるのでなく,逆にむしろ行事を大幅
きな課題の一つとして認識しておきたい。
に子どもの手に委ね,校内で起きる非行等の問題が
そこで本校国語科においては,この課題を踏まえ,
あるたびに子どもに問いかけるなど,生徒会を通し
一昨年度や昨年度における教材の工夫を中心とした
て子どもに議論や提案や行動をさせるよう導く手法
研究を一歩進めて,考察対象を,教材開発を含む学
が広く導入された。ゆえに,すでに行事や生徒会活
習活動全体に広げたい。それにより,〈探究〉型学
動など特別活動の分野では,〈探究〉型学習観と同
習を進めるときに適した教材やその与え方,活動へ
じ発想が教育現場に浸透しつつあるともいえよう。
の取り組ませ方などを工夫した授業事例を開発する
ただし,〈探究〉型学習の先駆として国語科「単
ことを通して,学び合い高め合う国語学習の成立要
元学習」を確立した大村はま氏が,〈探究〉型学習
件を解明していきたい。
*6
への留意点として次の指摘 を残しているのは注目
に値する。
(下線は引用者)
2.実践への構想
Mのことば(引用者注:文法の授業をうまく単元学習に
仕立てて授業し終えた大村氏に生徒Mの言った「先生,ス
トレートに教えてください。」)は,まさに「新しい」学習
指導(引用者注:「単元学習」)の盲点をついていた。工夫に
工夫を重ねているうちに,工夫が工夫を生んで,一人歩
きしていく。そして,子どもの影がうすくなってしまう。
目標をみつめ,子どもをみつめ,わが指導力を計り,時
間を数えて「省略する」といくことを忘れる。
(中略)長
いあいだ苦しんだ文法,そして,
「今度こそ」という子ど
もっぽい興奮で意気込んでいた私は,ストレートに扱っ
てこそよいところまで工夫に包んでしまったのである。
〈伝達〉型学習においては,教えるべき知識や技
能はあくまでも指導者の手の中にある。しかし〈探
究〉型学習においては,教えたい知識や技能を「教
材」にくるんでまず生徒に渡してしまってから,共
同的活動によって生徒自ら気づき,考え,学習内容
に迫っていくよう仕組まなければならない。
ところが,教えたい知識や技能を「教材」にくる
んで生徒に渡すことへの妨げとなる問題が国語科に
おいては領域ごとに存在する。本校国語科では,今
そういうふうな(引用者注:机間巡視で作文への助言を
求める子どもの質問に「それはね,このいい頭が考える
のよ」と返したような)授業が「子どもに考えさせる」「子
どもを生かす」「子どもの力で遂げさせる」といったよう
な美しい言葉で,戦後は喜ばれました。でも,そんなこ
とをしていて,子ども達に言葉の力がついていくなんて
ことはないと思います。考える焦点ぐらいは示さなきゃ,
ヒントぐらいは出さなきゃ。
のところ経験的には,その問題を解決するために以
この大村氏の指摘を佐藤氏の言になぞらえると,
る。また機器を用いない場合は,どのようなも
“教えれば済むことまで子どもの「共同学習」に委
のを教材として生徒に渡すか,またどのような
ねる必要はなく,またどれだけ丁寧に生徒の発言を
仕掛け(または仕組み)を用意するのか,工夫
「つなぐ」・「もどす」ことを重ねたところで,考え
が求められる。
下の工夫が国語科授業に求められると考えている。
(1)「話すこと・聞くこと」領域
音声は一過性のものであり,即座に消えてい
く。そのため,教材として生徒の手に渡すには,
録音・再生機器の確保が必要になるときもあ
る焦点やヒントを示さないことには言葉の力がつか
ない”と言い換えられよう。本校が取り組んで四半
(2)「書くこと」領域
世紀を越える総合学習「BIWAKO TIME」(以下 BT)
思春期のただ中にいる生徒らには,自分の書
にもそのまま当てはまる指摘であるだけに,大村氏
いた文章を級友に読まれることを恥ずかしがる
の言には深くうなずかざるを得ない。
者が多い。また相互批正では互いの人間関係の
この指摘を受け,教科学習の分野においては,
〈探
悪化を恐れ,必要な指摘をしないまま相手の作
究〉的学習を多く取り入れることを基本としつつも,
品をとりあえず褒めてその場を済ませる者が多
*5 PISA 調査を契機として,フィンランド等で教育現場に浸透している「社会(的)構成主義(または社会構築主義)」にもとづく
学習概念が,近年我が国でもよく紹介されるようになった。その学習概念とここで言う〈探究〉的学習観とは同義である。な
お「社会(的)構成主義(または社会構築主義)」の用語は,訳語も原語もまだ定まっていない(social constructionism / social
constructivism / socio ‐ constructivism)ので,本稿ではこの用語の使用を避け,便宜的に〈探究〉型学習と呼んでいる。
*6
前者は大村はま『大村はま・教室で学ぶ』小学館,初版1990年,pp.11-12。後者は同氏『教師 大村はま96歳の仕事』同社,初
版2003年,p.15。
国語2
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い。さらに,せっかく書いたものが直されるこ
3.授業事例「読むこと」(古典)の実際
とに自尊心を傷つけられる思いを抱く者もい
(1)単元名・対象・授業担当者・時期
る。そのため,どのようにすれば互いの書いた
「古典の世界を味わおう~春はあけぼの,うつくし
ものを見せ合い,考えを述べ合ってよい表現へ
きもの~」(2年生,白石牧恵,2007年10月)
高め合うか,教材やその与え方,取り組ませ方
の工夫が求められる。
(2)教材
・清少納言「枕草子」第1段〈春はあけぼの〉,第145
(3)「読むこと」領域
段〈うつくしきもの〉(三省堂2年)
説明的文章については,近年は時数削減のあ
・浜島書店編集部編『国語便覧』浜島書店,2005年
おりから,教科書では以前は同一単元に教材が
複数あったのに削られて一つになっていること
(3)単元目標
*7
が多く ,そのままでは生徒が内容や書きぶり
[関心・意欲・態度]現代語訳だけに頼らず古文を読も
を比較しづらくなっている。ゆえに,教科書教
うとする姿勢をもつことができる。
材と組み合わせる他の説明的文章教材を指導者
[読むこと]語句の意味を文脈から想像してとらえた
が用意することが生徒の気づきを誘う上では有
り,現代の生活や感覚と比較したりしながら,古
効となる。そこでどのような教材を用意し,ど
文を読み味わうことができる。
のように比べさせるか,工夫が求められる。
古典教材については,理解の前提として欠か
(4)学習指導計画[5時間]
せない知識が多く,いきおい解釈を伝達的に伝
第1時 「秋を感じるとき」はどんなときか話し合
える授業に陥りやすいので,古典の知識の乏し
う。/「枕草子」の第1段を通読して清少納言が
い生徒が自ら考え,教材に迫るような教材とそ
「秋を感じた」のはどんなときか読み取り,現代
の与え方の工夫が求められる。
の感覚との共通点について意見を述べ合う。
文学作品については従来,共同的に読み深め
第2時
声に出して第1段を読む。歴史的仮名遣い
る実践が多く蓄積されているものの,いつの学
やいくつかの語句の意味を学ぶ。/『国語便覧』
年のどの教材においても,作品の主題や登場人
を見ながら平安貴族の生活や服装がどのようなも
物の心情把握といった内容の読み取りが重視さ
のであったか知る。
れる傾向にあり,どの表現(技法や効果)から
第3時 第1段に書かれている「春」
「夏」
「秋」
「冬」
読み取らせるのかや,どの技法や効果は何年生
の内容にふさわしい色を考えて折り紙を組み合わ
で重点的に扱うのかは,現在もなお多くの部分
せる。/どの言葉から色をイメージしたのか解説
で個々の指導者に委ねられている。ゆえに,い
をノートにまとめた後,グループで交流する。
つ,どの表現に目を向けさせ気づかせるのか,
第4時
語注を頼りに第1段を訳してみる。/描か
それにふさわしい教材として与えるべきものは
れた情景や季節の感覚と現代との共通点や相違点
何か,といった点の洗い出しと系統化が必要で
について考える。
ある。
第5時 第145段を読んで書かれた内容を整理する。
/「うつくしきもの」の書きぶりをまねてグルー
(4)「言語事項」
プで「現代版枕草子~うつくしきもの~」を書く。
文法の学習は知識理解が主であり解釈型・伝
達型の授業に陥りやすいので,文法の知識がな
(5)学習活動で工夫を試みた点
い生徒が気づき考える過程で知識を獲得できる
・教師が古文の内容を解説するのではなく,生徒自
ような教材とその与え方の工夫が求められる。
身が内容をとらえようとする活動を設けた。
・折り紙という「もの」を使って,読み取った内容を
以上のうち,本年度は特に(3)・(4)に沿っ
視覚的に表せるようにした。
て,探究的に学ばせていく学習活動の工夫を具体化
・グループ活動を行い,互いの読みを交流させるこ
した事例を開発することとする。
とで,生徒が自ら教材を読み深められるよう導いた。
・古文に書かれた内容と現代の生活や感覚とを比較
*7
詳細は以下の論考で述べた。舟橋秀晃「指導の系統を意識した教材配列を─『話題』にとどまらせることなく─」,日本国語
教育学会編『月刊国語教育研究』通巻404号,2005年12月,pp.16-21。
国語3
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させることで,ものの見方や感じ方に現代との共通
って重ね合わせ,各自ノートに貼るよう指示した。
点を生徒が見いだせるよう導いた。
その際,ノートには,文章中のどの言葉を頼りに色
の組み合わせを考えたのか書かせ,グループ内で交
(6)授業の様子から
流するようにさせた。生徒たちは多くの色の中から,
第1時では,まず,いがに入ったままの栗を見せ,
2種類3種類と自分のとらえたイメージにふさわしい
秋の深まりを想起させた。その後,「秋を感じると
色を探し出しては組み合わせ,「紫はもっと赤の強
きはどんなときだろう」と尋ねると,「夜が長いと感
い色だ」とか「秋は2種類できそう」などと話しながら
じたとき」「彼岸花を見たとき」「鈴虫の声を聞いたと
大変活発に活動していた。自分の考えた組み合わせ
き」「稲に穂がついているのを見たとき」など様々な
はどの言葉に由来するのか解説する必要があるた
声が上がった。秋の訪れを感じている時期だったこ
め,懸命に教科書を読んで書かれている内容をとら
ともあり,「最近風が冷たくて秋らしい」とか「昨日
えようとする姿が見られた(資料)。
の晩は月がきれいに見えた」といった実感のこもっ
第4時では,教科書の語注と前時に読み取った内
た声もあった。すぐに「枕草子」の「秋は夕暮れ」の部
容をもとに第1段を現代語訳させた。現代語に直し
分を教師が音読して,解説は一切せず,「筆者が秋
づらいところは,どのような言葉で前後をつなげば
を感じたときはどんなときだったかな」と問いかけ
よいのか考えを出し合わせたり,教師が解説をした
てみると「夕暮れに寝どころへ帰る数羽のカラスを
りしながら,学級全体で一つの訳をつくった。現代
見たとき」「夕日がさしているのを見たとき」「日が沈
語訳する中で,自ずと現代と似通った季節感に気づ
んだ後に聞こえる風や虫の音を聞いたとき」「かりな
くことができていたようである。
どが列を作っているのが小さく見えたとき」という
第5時では,第145段から清少納言が「うつくし」
答えが返ってきた。板書すると自分たち
が感じていた秋の訪れと似通ったものが
あることに気づいた生徒が多くいた。
第2時では,前時に読んだ「秋は夕暮
れ」の前後を全員で音読できるようにし
ようという目標を示し,まずは声に出し
て読む練習をさせた。2人でペアをつく
って交互に読んで読み方を確認する時間
をとった後,40人全員で大きな声で音読
させた。読めるようになってから,歴史
的仮名遣いが使われている部分について
は確認させた。語句については,「あけ
ぼの」「つとめて」「をかし」「あはれ」など
のいくつかだけを板書にまとめた。『国
語便覧』で平安貴族の服装や住まいのつ
くりを確認して,生活ぶりを想像させた。
かさ
いろめ
『国語便覧』に「襲ね色目」(p.13)とい
う衣の配色についての資料があるので,
「桃」なら薄紅と萌黄の組み合わせ,「花
橘」なら朽葉と青の組み合わせ,といっ
たようにその配色や命名の美しさを知る
ことができた。
第3時では,前時の「襲ね色目」になら
って,「春はあけぼの」「夏は夜」「秋は夕
暮れ」「冬はつとめて」の四種類の配色を
決めようという目標を示し,折り紙を配
布した。色の種類がたくさんある折り紙
を6~7人のグループに1セットずつ渡し
て,着物の襟に見立てた三角形に切り取
▲資料 生徒の学習記録帳より(2名分,第3時)
国語4
- 16 -
と感じたものが何であったかあげさせた。板書で,
提で,「モアイは語る」を読む。
「瓜に書きたるちごの顔」「すずめの子の,ねず鳴き
第2時 前時に読んで分かったことを述べ合う。/
するに躍り来る」などの「うつくしきもの」を整理
同じ題材を取り上げた「イースター島にはなぜ森
し,「うつくし」は「かわいらしい」という意味で
林がないのか」や『ウィキペディア』を読んで,
使われているということに気づかせた。また,古文
「モアイ(を作る風習)が滅びた理由」を探し,述
の書きぶりをまねて,グループで「現代版枕草子~
べ合う。
うつくしきもの~」を考えさせた。まず,「かわい
第3時
「紙」(現地へ赴かずに図書などの資料を
らしいもの」をお互いにあげさせ,それをつないで
通して間接的に情報を得る場合)から事実を拾う
一つのまとまった文章にさせた。「かわいらしいも
ための留意点を考え話し合う。
の,散歩途中の子犬。小さい鳥が落下し,床を必死
に歩こうとする。小さい子の作った不格好な雪だる
(5)学習活動で工夫を試みた点
ま,とてもかわいい。写真に写った赤い木の実はと
・他教科の教材としても話題になっていたモアイに
てもかわいい。」「かわいらしもの。スヤスヤ眠る赤
ついて,同じテーマでありながら推論やその証拠の
ちゃんの寝顔。赤ちゃんがぎこちなく歩いている。
異なる教材を教科書教材と組み合わせて提示した。
コンクリートに咲く小さな花がとてもかわいい。あ
・読む時間をあまりかけずに,生徒に内容の比較吟
りの行列をみつめる子がとてもかわいい。」などの
味に集中させるよう,小学校教材を組み合わせた。
作品ができあがった。最後に,作った作品を画用紙
・「分かりやすさを吟味する観点」を指導者が提示
にペンで書かせて黒板に貼りだし,互いのグループ
して吟味させるのでなく,複数の教材を読み比べさ
の作品を鑑賞させて単元を終えた。
せて生徒が自然と観点に気づくよう導いた。
4.授業事例「読むこと」(説明的文章)の実際
(6)授業の様子から
(1)単元名・対象・授業担当者・時期
第1時では,6月から週4時間ペース(半年で計40
「紙から事実を拾うには~説明文を読む~」
(2年生,
舟橋秀晃,2007年6月)
*8
時間程度)で研究調査が本格的に開始したBTで困
っていることを,まず率直に述べさせた。生徒から
は「余裕をもって調べられない」といった時間数の
(2)教材
問題,「先輩の方針が不明」「研究をまとめるのが大
・安田喜憲「モアイは語る―地球の未来―」(光村2
変」といった異学年グループによる共同研究体制へ
年)
の不安,「図書室の本が古い」といった情報源の問
・鷲谷いづみ「イースター島にはなぜ森林がないの
か」(東書小6上)
題が挙げられたが,実際の調査方法への迷いや不安
は提起されなかった。そこで,
「モアイ(を作る風習)
・Web 上のフリー百科事典『ウィキペディア』の「モ
が滅びた理由を調べるという課題が出たら,どうや
ア イ 」 の 項 ( http://ja. wikipedia. org/wiki/%E3 %8 3
って調べるか」と問うて,教材「モアイは語る」を
%A2%E3%82%A2%E3%82%A4)
印刷配布し読ませ,気づいたことをノートにメモさ
せた。なお,当時生徒たちは数学や英語の教材とし
(3)単元目標
てたまたまモアイに触れていたところで,おもしろ
[関心・意欲・態度]文章を鵜呑みにせず,文章を吟味
がって読みふける生徒が多くいた。
しながら読もうとする姿勢をもつことができる。
第2時では,まず前時のノートのメモを発表させ
[読むこと]その章立てや柱立てで事が足りているか
た。生徒からは「人口増加」「ヤシの森の減少」「土壌
どうかや,挙げられた事物は根拠になり得ている
流出」「(木の船が造れず)魚がとれない」「食料不足」
かどうかを検討しながら読むことができる。
「人口減」といった要因がランダムに挙げられたの
マ
マ
で,それらを発生時間の順に並べ替えさせ,それぞ
(4)学習指導計画[3時間]
れの因果関係を整理した。次に,「もしもう1冊こん
第1時 BTなどで困っていることを話し合う。/
な本を見つけたらどうする?」と問うて,教材「イ
「モアイ(を作る風習)が滅びた理由を調べる」前
ースター島には……」を配布し読ませた。本学附属
*8
この事例は,国語科で扱うべき「読むこと」指導内容を再考する観点から,以下の論考でも取り上げた。舟橋秀晃「『読むこ
と』の授業づくり① 中学校 『分かりやすさ』を吟味する読みをこそ──『分かりやすさ』が『正しさ』をゆがめていないか
──」,『日本語学』第26巻第14号,明治書院,2007年12月
国語5
- 17 -
・B 河路勝
▼写真1 第3時終了時の板書(☆のあと5点が生徒の気づいた「教訓」)
『敬語の極
意』祥伝社,
1992年
・C 萩野貞
樹『みなさ
んこれが敬
語ですよ』
リヨン社,
2001年
・D 小林作
都子『その
小の出身者は初読になるが,学級に数名いる他の小
バイト語はやめなさい プロが教える社会人の正
学校出身者にはこの教材を学習済みの者がいて「知
しい話し方』日本経済新聞社,2004年
ってる!」とか「読んだことある」という声も出た。
・E 浅田秀子『ことばの探検Ⅵ敬語 日本語にはど
読むうちに静かになり,そのうち「あれ?」と近所
うして敬語が多いの?』アリス館,1997年
どうしでささやき合う者も出てきたので,早く読め
た生徒には,末尾に印刷した「ウィキペディア」も
(3)単元目標
読んで比べておくよう指示し,全体が読み終えるの
[関心・意欲・態度]敬語の多様さをとらえ,自分のこ
を待って発言を求めた。生徒らがモアイの滅びた理
とばに対するものの見方や考え方を広げることが
由として最初に挙げたのは,「モアイは語る」には
できる。
書かれていない「ラットがヤシのみを食べ,木が減
[言語事項]敬語の特性に気づき,敬語についての問
少した」という点であった。また「ポリネシア人と
題意識をもつことができる。/身近な「マニュア
マ
マ
ともにラットも来た」「人口が減り食糧が減って文化
ル敬語」の適否を,図書を参考に自分なりに考え
や人心も荒れた」といった点も「モアイは語る」に
ることができる。
書かれていない要因として挙げることができた。
第3時では,まず「現地へは行かずに新聞,雑誌
(4)学習指導計画[5時間]
や本から『事実』を拾うにはどうしたらよいのだろ
第1時 「教えろ」の多様な表現を丁寧な順に並べ
う」と問うた。2,3の生徒が挙手し,文末が「だ」
て,敬語の表現は様々あり,相手との心理的距離
なら事実で「だろう」なら筆者の意見だと述べた者
や,筆者が証拠としている出来事を探し出すとよい
に応じて長くなる傾向にある点に気づく。
第2時 通学途上や店内での社員や店員のことばを
と述べた者がいた。次に,前時の学習の概略を復習
した後,「調べ物をするときに今後生かせる教訓(ま
想起し,敬語についての問題意識をもつ。
第3時
敬語についての自分の問題意識に沿って3
たは工夫)は何か」と問い,自分の考えをノートに
~4人のグループに分かれ,図書を選び合う。
書かせて,よい考えは黒板に書きに行かせた(写真
第4時 3~4人グループで,選んだ図書からの抜粋
1)。最後に,複数の文献を重ねて読む場合,共通
を分担して読み合う。
点は常識・定説として信頼できる可能性が高いし,
第5時 グループ内で学んだことを報告し合い,そ
相違点は新説や仮説の可能性があろうが,いずれも
の内容を全体に紹介し合う。また第1時で集めた
どんな事物が証拠として取り上げられているかを丁
敬語の修正案を考え,交流し合う。
寧に点検することが大切だ,と説明し授業を終えた。
(5)学習活動で工夫を試みた点
5.授業事例「言語事項」の実際
・選択課題別の小グループを組んで,敬語について
(1)単元名・対象・授業担当者・時期
自ら図書で調べ考える形態をとった。ともすれば受
「探ろう!『敬語の達人』への道~本を読み合って
け身的なルール習得にとどまりがちな文法学習から
~」(1年生,舟橋秀晃,2007年12月)
脱し,生徒の関心を広げる学習をねらった。
・選択課題を三つ程度に絞り,敬語について異なる
(2)教材
観点のある五つの図書を用意し,課題別グループ内
・A 南不二男『敬語』岩波新書,1987年
で手分けして調べさせ,自分の意見を添えて話し合
国語6
- 18 -
徒の指摘が相次ぎ,「こんなのはおかしい」と次の
▼写真2 より丁寧に聞こえるのはどれ?(第1時)
言葉を挙げてきた。
・
「千円からお預かりします」/・
「ではご注文を繰り
返させていただきます」/・
「こちらが○○になりま
す」/・
「メニューは以上でよろしかったでしょうか」
/・
「鉄板の方,お熱くなっております」
そこで,敬語についてここまでの二つの学習活動
を重ねてみて感じる疑問,質問,調べたいことを問
うた。しばらく待つと,「丁寧にするために店員さ
んはたくさん敬語を使うのかな」「敬語ってどう話せ
ばよいのだろう」「敬語はこれからどうなっていくの
だろう」「どんな敬語が正しいのだろう」などの声が
得られた。これらを,次の三つの選択課題「えらぼ
わせた。本校生徒にはふだんの他教科やBT等の調
うQ(クエスチョン)」としてまとめて提示した。
べ学習においても図書を丸写しして中身を検討しな
① 敬語って何だろう!~歴史,種類,うまく
い傾向があるため,グループごとに話し合うテーマ
使うには
を定めて意見交流の必然性をつくり,各図書の内容
② 敬語の実際を考えよう~街の敬語の間違い
や各生徒の考えの適否を自ずと検討し合うよう導い
を正せ!
た。
③ 敬語の未来はどうなる?~増える・減る?
(6)授業の様子から
必要・不要?
第1時では,まず「“教えろ”の表現」カード20
枚(図書E132~133ページの表から作成)を黒板に
次に小さい付箋紙を配り,名前を書かせて黒板に
提示した。生徒に問いかけながら,丁寧に聞こえる
用意した台紙に貼らせた。これにより各課題を選択
順に三枚ほど並べてみせた後,座席の近い4人で机
した人数が生徒に見え,迷う生徒の参考になった。
を寄せさせ,黒板と同じカード20枚(縮小版)を配布
(指導者も付箋紙を並べ替えることで簡単にグルー
し並べ替えさせて,気づいたことを言わせた(写真
プを編成し提示できる。)
2)。すると「言葉が長くなるほど丁寧に聞こえる」
最後に次時の準備として,教材として本単元で取
「丁寧なほど漢字が多い」
「言い切るより語尾に『か』
り上げる5点の図書の目次を,各A4版1枚ずつに納
をつけて尋ねた方が丁寧に聞こえる」「相手に不快に
めて印刷したものを配布しノートに貼らせて,「自
ならない表現は,よそよそしくも感じる」「最も丁寧
分の調べたいテーマと関わりのありそうなところに
な言い方のカード5枚は,手紙では使えるけれど口
印をつけておこう」と指示しておいた。
なお,敬語に関する出版点数は非常に多く,大型
では言わない」という感想が出された。
そこで次に,「では,学校のすぐ外の社会では,
中古書店やインターネット通販の古書店等で100円
大人はどんな表現で話しているだろう」と問いかけ,
~500円程度で多種多様の図書がそろうので,本来
電車で通学する者には駅や車内での社員のアナウン
なら生徒には図書そのものになるべく触れさせたい
スを,徒歩で通学する者にはコンビニエンスストア
ところだが,反面,図書が多岐にわたると紹介が行
やレストランでの店員のことばを,それぞれ思い起
き届かず,選択や吟味が不十分になろう。かといっ
こさせると,生徒らはわいわい話し始めた。手始め
て図書を絞りすぎると話し合いで報告し合い交流す
に電車のアナウンスについて発表させ,途中,「先
生がおや?と感じるものは黒板に書きます」と言い
つつ,次の言葉は取り上げて板書した。
・
「電車が近づいて参りました」/・
「○○カードはご
利用できません。
」
宿題として,身の回りの敬語に注意し,変だと思
うものを探しておくようにと指示し,続きは次時に
持ち越した。
▲写真3 POP風の拡大カード(第3時)
第2時では冒頭から,店員のことばについては生
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る必然性がなくなる。そこで,事前に図書をいろい
▼写真5 資料を読み合って調査中(第4時)
*9
ろ取り寄せた上で,(2)に挙げた5冊 に絞って読ま
せることにした。
第3時ではまず,①~③の選択別に指導者側で3
~4人の異性混合の班を組んで示し,座席を指示し
て移動させた。次に,前時に配布した目次を参照さ
せながら,A~Eの各図書の内容情報(インターネ
ット通販で図書を検索すると得られる内容紹介情報
による)を記したPOP風拡大カード(写真3)を
掲示し,指導者による簡単なブックトークを聞かせ
て,自分に必要な図書がどれであるかを選ばせた。
なお,図書やPOPカードは教室の前方や後方に展
示して,席を立って見に行かせることで生徒たちの
選び方の状況や傾向が互いに見えるようにした(写
った生徒たちは,真剣に読んでいた。後半は分かっ
真4)。
たことだけでなく自分で気づいたことや考えたこと
次に,各班で一人あたり一箇所20ページ程度まで
もノートに書くよう求め,相談を許した。すると分
複写希望を出せることにし,各班から希望を聞いた。
からない点の尋ね合いや,早く読み終わった者同士
なお,20ページまでとしたのは,一時間程度で生徒
の資料の交換が一部であったが,それ以外の声はな
の力で読み込める分量と複写枚数を考えてのことで
く,静かに読む姿が時間いっぱいまでつづいた(写
ある。希望箇所の複写は授業時間内だけ各班に一組
真5)。
ずつ貸し出して,緊張感をもって読ませるとともに
第5時では,冒頭15分で1人3分程度ずつ,グルー
各組共用で複写の手間を省き,併せて著作権にも配
プ内で気づいたことと考えたことを報告させ合っ
慮した。なお,A・Eは概説的,B・C・Dはハウ・ツ
た。次に全体に,選択課題①~③について順に,例
ー的である。また,敬語についての学説や言説の大
えば①であれば「歴史を調べた人はいる?」「種類は
勢にA・B・D・Eは肯定的だがCは否定的で,グル
分かった?」「うまく使うにはどうすればいい?」な
ープ内で手分けして読むことで互いの交流が促進さ
どと指導者の司会で順に問いかけていき,調べた者
れるだろうと期待できる。
の発表を求めた。お互い他人の資料の内容は未読な
第4時の前半25分はまず話や相談を一切せずに黙
ので,興味を持って聞き入る姿が多く見られた。最
って各自担当の資料を読み,分かったことの概要を
後に第1~2時で話題にのぼった妙な敬語の修正案
ノートに書き出すよう指示した。コピーは次時も借
を募ったところ,「ご利用になれません,にしない
りられるので丸写ししなくてよいことも言い添え
と変だ」「千円お預かりいたします,でよい」「鉄板は
た。自分で注文したページ数が案外多いものだと知
熱いのでお気をつけください,とあっさり言う方が
きれいだ」など,各自の印象や根拠付けとともに発
言する生徒が相次いだので,これらをまとめ,「電
車やお店のことばから,敬語のよりよい使い方が見
えてきましたね」と説いて単元を終えた。
6.研究の成果と課題
(1)各授業事例について
3の授業事例「読むこと」(古典)については,折
り紙を使用して色を組み合わせることで,古文の内
容を読み取り理解したことを言語表現に頼らずとも
表出できるよう工夫した。また,グループ活動も取
▲写真4 ただいま本を確認中(第3時)
*9
り入れたので,自分の考えを述べることや古文の学
次に挙げる数字は,A~Eの図書における選択課題①~③に関連する記述の多いページである。これは困っている生徒を導
くための目安であり,全体には示さなかった。A①1-58②188-195③197-210,B①11-26②134-138②134-138,C①43-64②11-42③
101-148,D①45-69②9-44,E①7-56③139-149。
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習を苦手とする生徒にとっては周囲からのサポート
くこと」・
「書くこと」領域の授業事例を示せてはい
を得ながら内容を理解できた。このことにより解釈
ない。引き続き授業事例の開発の積み重ねにより,
中心の〈伝達〉型学習から脱し,自ら古文の表現と
2に示した工夫点のさらなる検証が必要である。ま
向き合うよう導くことができた。ただし,古典によ
た,本研究は数例の授業事例を示したに過ぎず,何
っては,より丁寧な解釈をすることで深い部分まで
は子どもに委ね何は指導者が主導するのか,また子
読み取れるものやより深い知識なしには読み進めら
どもに委ねる場合は指導者がどのような手立てで学
れないものもあるから,今後他の古典と出会ったと
習を導くのかについて,一般原則や領域ごとの問題
きに,工夫しながら読みを進めることができるかど
を示せたわけではない。今後は実践開発と共に理論
うか検証が必要であろう。
面での整理検討も一層押し進める必要がある。
4の授業事例「読むこと」(説明的文章)につい
ては,今回は,他教科の教材としても話題になって
いたモアイについて,同じテーマでありながら推論
やその証拠の異なる教材を発掘できたため,一般的
には教科書教材は問題点の少ない(あるいは問題点
が修正された)ものが多く検討が難しくなりがちで
あるが,学習が容易になった。しかも一つは小学校
教材であったため,読む時間がさほどかからずに,
生徒は内容の比較吟味に集中できた。また,文章の
吟味に必要な「分かりやすさを吟味する観点」を指
導者が提示するのでなく,複数の文献を読み比べさ
せて生徒が自然と観点に気づくよう導くことができ
た。指導者が提示するだけで済ませるよりも生徒が
自ら気づき共有する方法のほうが,手間や時間は増
えるが,学習内容のより確実な定着が期待できる。
5の授業事例「言語事項」については,身の回り
の敬語の妙な点に気がつくようになったこと,また,
どう言えばより適切な表現になるかを自ら考えよう
とし始めたことから,受け身的なルール習得にとど
まりがちな文法学習から脱し,生徒の関心を広げる
というねらいは充分果たされたといえる。ただし図
②互いの多様な学習活動を生かした交流を促進
3事例とも,4人程度の小グループ活動を導入し,
生徒同士の交流を促そうとした。グループのメンバ
ーが共同して製作や話し合いをした結果,同じ作業
であっても多様な言語活動が行われ,自他の思考や
活動が比較できた結果,互いの学びの「よい点」が
模範的なモデルとなったり,「つまずき」が次の学
習課題となったりして,互いのさらなる学びを導く
ことができた。
、、
このことから,小グループの共同活動の中で一つ
の結果や答えに学習を集約させることのみにこだわ
らるのでなく,同じ課題について各々が考え取り組
、、、、、、、
んだことの違いを出し合い知り合わせ,一つの知識
をめぐってもさまざまなとらえ方があることや,一
つの技能であってもさまざまな使い方があることを
交流させることも重視するほうがよいことが分か
る。今後はこのような交流を促進することで,互い
の学びを広げる実践開発を意識して行っていきた
い。
③指導内容とその配列の検討が必要
書には諸説あって互いに食い違い定まらないところ
〈探究〉型学習は,共同的活動によって生徒自ら
もある。また,すっきりとは解消されない疑問も生
気づき,考え,学習内容に迫っていくよう仕組まれ
徒にはいくつか残っているはずである。実質2時間
る。知識や技能のより確実な定着が見込まれ,実社
で図書を読み話し合っただけでは,敬語そのものを
会での活用もその分期待できる。
正確に理解できたとはいえまい。3年生で一度に教
しかしその反面,〈伝達〉型学習よりは効率が悪
科書教材を中心にルール習得の学習をするのでな
いため,総授業時数が一定の枠にある中では,学習
く,何度かに小分けして言葉への関心を掘り下げる
指導の重点を定め,できる限り重複を避けることが
単元を今後も重ねる必要がある。
必要である。また,生徒に気づかせていくのだから,
一度に学習内容を欲張らず,焦点化することも必要
(2)全体を通して
である。そうなれば自ずと,一つの授業事例の成否
①探究的に学ばせる学習活動の工夫点を明示
を論ずるだけでなく,3年間の年間学習指導計画を
三つの授業事例を通して,単なる学習活動の個々
どのように設定するかが,従来以上に問題になって
の工夫にとどまらず,他の実践にも生かせる,探究
くる。決定版的な学習指導計画を作成するというよ
的に学ばせていくための学習活動の工夫点を示すこ
りはむしろ,どのような内容をどのような配列で並
とができた。これにより,学び合い高め合う国語学
べることが肝要なのかを解明するよう,今後努めた
習の成立要件解明をめざす研究の基本的観点が整っ
い。
たのは,今後の研究にとって大きな進展である。
ただし今回は,2(1)に挙げた「話すこと・聞
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