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セミナー発表要旨

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セミナー発表要旨
「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」
~施設園芸の競争力強化を狙って~
要旨集
日時:
2007 年 8 月 6 日
12:30~16:30
場所: (独)野菜茶業研究所 武豊研究拠点 大会議室
共催: ユビキタス環境制御システム研究会(UECS研究会)、
スーパーホルトプロジェクト協議会 ハウス環境制御部会、
日本生物環境工学会 植物工場部会、
日本農業気象学会 園芸工学研究部会
プログラム
12:30~12:40
開会挨拶
12:40~13:00
「UECSの特徴と現状」
東海大学 星 岳彦(UECS 研究会 会長)
13:00~13:15
「カーテンおよび換気窓のUECS化」
(株)誠和。 山口 浩明
13:15~13:30
「暖房のUECS化」
ネポン(株) 馬場 勝
13:30~13:50
「センサ・操作盤のUECS化および研究開発用UECS機器」
(有)エヌアイシステム 林 泰正
13:50~14:00
(休憩)
14:00~14:25
「互換性確保および高競争力ソフトウェア実現に向けての取り組み」
(有)エヌアイシステム 林 泰正(UECS 研究会 事務局)
14:25~15:00
「武豊研究拠点のモデルハウスにおけるUECSの運用経過
および応用アプリケーションの作成」
(独)野菜茶業研究所 安場 健一郎、黒崎 秀仁
15:00~15:30
15:30~16:30
(休憩・移動)
モデルハウス見学
UECS 研究会会員が中心となり、UECS についての説明を重点的に行います。
栽培状況によっては、モデルハウス入室を制限する場合がありますので御了承下
さい。
UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
UECS の特徴と現状
東海大学開発工学部
星 岳彦
1.はじめに
日本のマイコン環境制御システムの製造販売会社は、縮小の方向で急速に整理統合されている。生産者が、
これからマイコン環境制御システムを導入しようとしても、購入できる国産のシステムの選択肢は急激に狭まって
しまっている。複合環境制御をあきらめ、天窓、カーテン、暖房機など、個別の制御装置を導入する一昔前の状
態に戻ってしまう状況も見受けられる。また、企業的な大規模施設植物生産の環境制御は、外国の特定の 1 社
のシステムに寡占化されつつある。このシステムの規格は公開されていないので、今後のシステム開発は、ごく
限られた系列下の企業にすべて押さえられてしまう危険性も大である。このような状況の中で、環境制御技術シ
ステムを基盤として推進されてきた施設園芸の情報化が停滞し、日本の施設園芸産業が衰退してしまうことが危
惧される。
高度な植物生産を可能にする施設園芸設備・機器である、温室、被覆資材、換気装置、暖房機、カーテンな
ど、各種ハードウェアの研究開発と実用化は着実に進められてきた。次の段階は、施設で生産する作物の植物
生理的・経営戦略的な特性を考慮に入れ、園芸施設に導入されている各種ハードウェアを連携させてうまく運
転するための栽培・生産ソフトウェアの実用化と普及であると考える。施設園芸の競争力を向上させる、このよう
なソフトウェア的な生産技術を確立するために最も大切なのは、情報化であると考える。そして、主にコストパフ
ォーマンスの点で、情報化のためには、コンピュータを使用した情報処理が不可欠である。さまざまな栽培技術、
生産技術を活かした栽培・生産ソフトウェアを実用化するためには、施設園芸設備・機器を、コンピュータの電子
化情報に対応可能にしなくてはならない。しかし、それが今、危機的状況である。
そこで、IT 先進国である日本にふさわしい、次世代型の低コスト情報化環境制御システムとして開発したのが、
この、ユビキタス環境制御システム(UECS)である。これまでの高価な集中型温室コンピュータを廃すだけでなく、
施設園芸生産の高度化を希望する全ての企業、個人に、この規格をオープンし、誰もが参入できる自由競争の
中で、施設園芸生産、施設園芸機器製造販売の競争力を画期的に高めていこうとするものである。ここでは、こ
の UECS についての開発の経緯、特徴、今後の展開について、簡単にまとめる。
2.UECS 開発の経緯
ユビキタス(ubiquitous: 遍在する)という形容詞は、近年盛んに使われるようになったため、さまざまな機会で
耳にした人も多いであろう。1993 年にゼロックスのウェイザー氏が論文で、「ユビキタス・コンピューティング」とい
う語を使用したのが、コンピュータ関連での使用の始まりである。1989 年ごろに東大の坂村氏も同様の思想(トロ
ン)を提案したが、貿易摩擦による政治の思惑に翻弄され、大きな波にはならなかった。これらに共通する発想
は、「コンピュータの IC はもはや高いものではない、どんなものにも内蔵し、いつでもどこでも誰もがコンピュータ
を使えるようにし、便利で快適な生活をしよう」というものである。この発想を施設園芸の環境制御システムに導
入したのが、ユビキタス環境制御システム(UECS: ウエックス、Ubiquitous Environmental Control System)であ
る。
これまでのマイコンを使った施設園芸用環境制御システムは、1 個数百円程度のコンピュータ IC を 1 個だけ
使用し、それが内蔵された多数のスイッチのついた制御盤様の筐体を作り上げ、温室コンピュータとして 1 台数
十万円~百万円程度で製品化していた。このような集中型の制御システムでは、一箇所にある温室コンピュータ
に、施設の全ての機器とセンサの電力線と信号線を配線する必要がある。しかも、それら配線の電気信号の規
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UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
格はさまざまなので、広い温室内に種々雑多な種類のケーブルを配線工事し、さらに、個別設計の複雑な電力
盤やインターフェース盤の製作・設置工事を行うことが必要であった。しかも、温室コンピュータは、汎用性を高
めるために、入出力点数や制御機能が、導入可能な園芸施設に設置される全ての機器の上限仕様に合わせて
設計されているので、多くの施設ではオーバースペックになってしまっていた。しかも、その仕様で定められた接
続可能機器・センサの点数が 1 点でも超過すれば、1 ランク上の温室コンピュータに全交換するしかなかった。
コンピュータを用いた施設園芸用環境制御装置の普及が始まったのは、日本では 1980 年代の前半からであ
った。しかし、その普及面積は、20 年余が経過した 2003 年で 557ha、率にしてわずか 1.08%であった。園芸施設
のトップ 1%の導入に留まっている原因は、まず、市場規模を考えない参入企業の乱立で量産効果が得られず価
格が安くならなかったことと、ハードウェア中心の開発で生産に有益なアプリケーションソフトウェアが貧弱だった
ことである。そして、扱う情報の共通規格化を積極的に行わなかったため、栽培、労務管理、経営等の電子シス
テムと連携させて、生産性・収益性の向上に結びつけることができず、単に環境制御の面だけでコストパフォー
マンスを満足できる、大面積・重装備の施設のみの導入に留まってしまったことであろう。
欧米の園芸施設と比較して、日本の施設規模はまだ小さいのが現状である。日本における床面積 5,000 ㎡以
上のガラス室・ハウスは、僅か 1,703 棟、全棟数の 0.15%しか設置されていない。このような日本の状況で、前述
した開発実用化戦略の環境制御システムが成功することはきわめて難しかった。事実、多数あった日本の製造
会社、機種は激減しており、現状では、耐用年数経過後の買い替え需要にさえ対応することができず、一時代
前の個別の制御装置に戻してしまっているケースすら見受けられる。導入の必要性が極めて高い、1ha 以上の
施設に対応する環境制御システムについても、製造会社の体力の消耗から製品開発がほとんどなされておらず、
海外製造会社の独壇場になってしまっている。このような問題点を解消し、規格化、電子化、低コスト化に寄与
する新システムについて議論を重ねた結果、自律分散型にするしかないという結論になった。つまり、機器・セン
サにネット化マイコンと呼ばれる低価格小型のコンピュータを内蔵し、その機器・センサに固有の計測制御を行
わせる。そして、ネット化マイコンを園芸施設内コンピュータネットワーク(LAN)で相互に接続し、他の機器・セン
サに関する情報が必要であれば、これを用いて通信する。このような、機器・センサにネット化マイコンを内蔵し
た装置を、ノード(node)と名付けた。コンピュータによる環境制御システムが温室内に遍在するようになるので、こ
れをユビキタス環境制御システムと名付けたのである。
施設園芸を対象にした自律分散型の環境制御システムについては、四国総研の中西氏らが 1996 年に最初
の学会発表をした「スマート温室」という先駆的研究がある。このシステムは、農業以外の分野まで拡張されて
「オープンプラネット」という商標で製品が開発された。また、同じ頃、東芝が全く別の開発チームで「ネットビー」
という商標の同じ通信規格を持つ、施設の環境制御もターゲットに入れた製品を発表した。私も、将来の施設園
芸を支える素晴らしい技術として大いに期待した。しかし、時期尚早であったためか、自律分散型の特長を活か
せず、前者の施設園芸用環境制御システムについては、集中型のシステムに戻ってしまった。さらに、採用した
通信規格がそれほど広く普及しなかったので、付帯機器の価格が安くならず、残念ながら、システムの販売は止
まってしまった。これらのシステムと UECS の設計時点での大きな違いは、(1) ノードの自律動作を重視したこと、
(2) 通信規格をインターネットと同じにしたこと、の 2 点であると考える。
UECS の開発は、1999 年ごろから、農水省の IT 研究プロジェクト(1997~2000 年度「増殖情報ベース」、2001
~2005 年度「データベースモデル協調システム」)の研究支援を受けて基礎的な研究開発に着手し、2004 年に
論文を発表した。2004 年度に先端技術を活用した農林水産研究高度化事業に採択され、2006 年には製品化
可能な実用化技術としてほぼ完成した。愛知県武豊町にある(独) 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶
業研究所に建設された低コストモデルハウスに最初の実用化システムが設置された。2006 年には、UECS 研究
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UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
会というコンソーシアム(http://www.uecs.info/)が創設され、対応製品とアプリケーションソフトウェアの開発、園
芸施設への導入を考える企業、公的機関、個人への積極的支援を開始した。2007 年現在で、13 種類以上のノ
ードの研究開発と製品化が検討されており、農水省の低コスト植物工場成果重視事業の施設への導入も開始さ
れている。
3.UECS の特徴
UECS の技術的な 3 大特徴をあげるとすれば、(1)標準化技術、(2)自律分散技術、(3)低コスト化技術である。
3.1
標準化技術
UECS については低コストコンピュータ基板や、さまざまなノード開発などがトピックとして紹介され、UECS はハ
ードウェア寄りの技術であると考えられることが多い。しかし、その実態は、情報通信の標準化技術なのである。
園芸施設に設置される設備機器やセンサの操作や計測制御をするための情報通信の規格を統一し、どの製造
会社のどの機器でも接続でき、しかも、同じやり方で使えるようにしようというのが最も大切な点である。したがっ
て、既存の設備機器やセンサが、UECS で規定されている規格で通信できるようになってさえいれば、それがど
のような方法(USE などの低コストコンピュータ基板を使わない方法など)で実現されていても良いのである。具体
的には、UECS において、ノードの出口である LAN の通信規格だけを標準化している。このため、機器やセンサ
は、各製造会社が自由に開発することが可能であるし、低コストコンピュータ基板を取り付けるだけで既存の製
品も UECS ノードとしての製品化が容易にできる。しかも、製造会社や機種が異なっても、全て接続可能である。
つまり、施設園芸生産者、施工業者は、これまでのような系列会社の呪縛にとらわれず、製造会社や機種を自
由に組み合わせて、環境制御システムを構成することが可能になる。そして、製造会社、販売会社の技術による
自由な競争が促進し、また新規参入のハードルも低くなる。規格は、オープン化されているので、栽培・生産ソフ
トウェアなどのさまざまなアプリケーションソフトウェアの開発が促進し、ソフトウェア開発・販売だけの参入も可能
になる。
情報通信規格はインターネットに完全に準拠しているので、UECS のアプリケーション開発に特殊な機器やソ
フトウェアは不要である。主な採用規格として、IP、UDP、TCP、XML、HTML などのプロトコルや言語があげられ
る。このため、インターネット用の安価な機器やソフトウェアが全て使用可能である点である。例えば、携帯用ゲ
ーム機や携帯電話等の Web ブラウザで UECS のノードを遠隔操作・計測が可能である。さらに、UECS のアプリ
ケーションソフトウェアの開発も、インターネットのプログラミングができるレベルの人ならば、容易に開発できる。
UECS は、オープン規格であるが故に、誰もが開発に参画することができる。例えば、モデルシステムが導入され
ている野菜茶業研究所の研究員や私の研究室の学生が UECS のアプリケーションソフトウェアを続々と開発して
いる。UECS のノードを導入した園芸施設を使うことのできる、パソコンのプログラミングが少しできる人は、とても
簡単にソフトウェア開発できることに驚き、パソコン用の簡単なソフトウェアを作るだけで、いつでもどこでも全ての
機器の監視・操作ができる可能性に気づいて感動する。続いて、自分がやりたいと思っていた施設の環境制御
のプログラムを書いてみたくなってしまうようである。しかも、開発に必要なソフトウェアは、ほとんどが無料で入手
できる。ノードがある程度普及すれば、さまざまな企業、研究機関、生産者がアプリケーションソフトウェアをどん
どん作り始め、それらは規格化されているので、パソコンにコピーすれば UECS ノードが設置された園芸施設で
汎用的に使用できる。多くの種類の作物・作型の栽培・生産ソフト等の開発と流通が急速に進展するであろう。
3.2
自律分散技術
UECS では、暖房機ノード 1 台、気温センサノード 1 台だけで動作するように、ノード単体で動作する自律動作
を重視した設計になっている。ハウスの側窓巻上げノードと気温センサノードだけを軽装備ハウスに導入して、こ
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UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
れだけで換気制御と、換気と室内気温の計測が可能になる。必要に応じて、暖房機ノード、屋外気象計測ノード
などを後で追加してシステムアップすることも可能である。つまり、段階的買い足しや、寿命に達した機器からの
UECS 化を可能にしている。ノード単体ではそれほど複雑な制御はできないので、LAN にプログラム制御ノード
やパソコンを接続すれば、ソフトウェア次第で、群制御、複合環境制御、地上部茎葉と地下部根圏の統合的環
境制御など、大規模で複雑な制御が自由自在に可能になる。温室コンピュータと比較すれば、パソコンの価格
はきわめて安く、複雑なソフトウェア開発もきわめて容易である。トップ 1%の重装備施設にしか入らなかった環
境制御システムの普及の裾野を広げ、施設園芸 LAN を核にした情報化を推進することが可能になる。このよう
に、施設の規模に応じて、組み合わせの自由度が高く、将来の規模拡大等の変化にも容易に追従できることが、
UECS の大きな特徴である。
加えて、自律分散システムは、故障が発生しても全体のシステムダウンを招くことが少なく、修繕も容易である。
ある設備機器のノードが、何らかの原因で他のノードやパソコンとの連携動作不能になった場合、少しの時間が
経過すると、自律動作に自動的に切り替えて制御運転を継続することが可能である。コンピュータはノードごとに
内蔵されているので、動作のおかしな設備機器やセンサのノードを特定することができれば、そこが故障してい
ることが明確にわかり、そのノードを交換することで修繕することができる。集中型の温室コンピュータであれば、
一部の故障により全ての設備機器やセンサの動作や計測制御が停止してしまい、その結果、作物に被害が発
生する危険性が高く、しかも、どの部分が故障したのか特定することも難しい場合が多い。
3.3
低コスト化技術
コンピュータ IC や基板は、印刷技術の一種で製造されるので、量産による低コスト化が顕著である。これまで
は、1 台の集中型温室コンピュータに暖房機やセンサなどの機器が接続されていた。このため、もともと性能の低
いマイコンに同時に多数の機器の制御をさせているので、プログラムも複雑になる。さらに、温室 1 棟ごとに 1 台
しか使われないので量産効果による低価格化もできず、パソコンが数万円で買える現在でも、温室コンピュータ
の本体価格は数十万円から百万円以上である。これに対して、UECS は、その 10 倍程度の台数のコンピュータ
を 1 棟の温室で使用する。コンピュータを沢山使用すると総額が高くなると考える人がいるかもしれない。しかし、
1 台でカバーしなければならない計測制御が簡単になる分、コンピュータや基板も簡略化でき、しかも、計測制
御ソフトウェアも簡単になる。ノードを 100 台程度量産した場合の試算では、従来のシステムを導入する場合と比
較して、6~7 割程度の初期コストで導入が可能になった。さらに量産が進めは、初期コスト半減は十分達成可
能であると考える。
加えて、これまでは、1 棟ずつ異なる機器構成の温室の電気配線と配電盤の設計と工事が必要で、人手と工
期がかかり工事費も高くなりがちであった。一方、UECS では、電源供給と、インターネットでおなじみのネットワ
ークケーブルをノードに挿し込むだけで、温室への設置は完了する。農業機械を自分で修理できるような生産
者なら、ノードの設置工事も自分でできる程度である。その配線は、インターネットの普及できわめて低価格にな
ったネットワーク機器(HUB、無線 LAN)などと、ネットワークケーブルの画一的な配線工事で済む。これによって、
さまざまな規格のセンサからの計測信号線、遠隔操作を行うための設備機器の制御信号線、リミットスイッチなど
のフィードバック用信号線などの配線工事が一切不要になる。電源工事も、電源を分配するだけでよいので、簡
単な分電盤の設置と配電工事だけでよい。このように、電気工事も低コスト化できる可能性は十分にある。将来
的には、あらかじめハウスのフレームなどに規格化されたネットワークケーブルや配線用のスペースを組み込ん
でおく、IT 化プレハブハウスができる可能性もある。
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UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
4.今後の展開
ウエックス普及の鍵は、多くの製造会社が一刻も早く、この技術を採用した製品を開発し、市販を開始してもら
うことである。展示会等でこの技術を展示し、説明を行うと、多くの生産者の方がすぐにでも自分の温室に導入し
たいという意思表示をする。つまり、どこの会社で売っていますか、いくらですか、という問い合わせが寄せられる。
現状では、このような需要に対して、供給側が追いついていない。この状態を改善しなければならない。設備機
器やセンサの各 1 品目につき、2 社以上の UECS 対応ノード製品の販売を開始できれば、機器ごとの詳細規格
の策定も進み、生産者の選択の幅が広まり、普及が一気に進むと考えている。もし、参入を希望する企業があれ
ば、UECS 研究会が積極的に製品開発の支援を行うことができると考える。また、試験研究機関、大学等にはで
きるだけ安価、かつ、早急に UECS ノードを導入可能にする方策を考えることにより、生産現場に役立つ優れた
アプリケーションソフトウェアの開発が促進すると考える。
施設園芸関連企業の体力が消耗している現状ではあるが、UECS を使ってコンピュータで一儲けという目先
の利益にとらわれることなく、今後の施設園芸の情報化と発展を目指す長期的視野に立った、ご理解とご協力を
賜れば幸いである。
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UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
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(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
参考 本稿は、UECS の技術的な概略を解説する目的で、
「農業機械学会誌、69(1)、p.8~12、2007 年」の草稿
段階の原稿をまとめたものである。
ユビキタス環境制御技術の開発
星 岳彦
Development of a ubiquitous environment control technology
Takehiko HOSHI
キーワード: インターネットプロトコル、自律分散システム、施設園芸、ユビキタ
スコンピューティング
Keywords:
Internet protocol, decentralized autonomous system, protected horticulture,
ubiquitous computing
はじめに
近年、
日本の施設園芸生産の競争力低下が認められ、
2000 年頃から設置面積が漸減傾向に転換した。わが国
で実用化されている施設園芸の各種素材・技術を個々
に評価すると、諸外国より特に劣った点は見当たらな
いので、何名かの研究者が指摘するように、技術を組
み合わせて効率的・相乗的に働かせるシステム化の優
劣に起因すると考えるのが妥当ではないか。つまり、
施設の運転・制御技術や生産ノウハウといった、ソフ
トウェア(情報)面での整備や共有化の遅れが問題とい
える。もし、その仮定が正しければ、競争力向上のた
めに、施設生産過程における各種情報をきちんと記録
し、得られた莫大な情報を効率的に処理して総合的な
生産性の向上に結びつける基盤整備が急務である。特
に、環境と植物生産等のモデリングシステム、意志決
定支援システムをはじめとする施設園芸生産の情報化
が極めて重要である。本稿では、情報化のインフラと
なり得る、比較的低コストで高性能な、施設園芸なら
びに植物工場向けの新しい環境制御システム開発の経
緯と進捗状況について述べる。
フトウェア開発までの全てのシステム開発を行ってき
たためである。その結果、
『売れない→開発費償却のた
め低機能高価格→利用者の投資額の割には利点が少な
い→利用者の裾野が広がらない→さらに売れない』と
いう市場縮小の循環が生じている。
第二に、規格が統一されていないので、環境制御シ
ステムで計測記録された情報を活用する植物生産に有
用なアプリケーションソフトウェアがほとんど開発・
利用されていないことである。コンピュータを使う利
点は大量の情報を記録・高速処理できることであり、
それが活用できず単なる制御装置としての利用だけで
あれば、高価な環境制御システムを使わなくとも、タ
イマーやサーモスタットを組み合わせた安価な制御装
置で用が足りると考えられてしまう。
この状態では、施設園芸や植物工場生産の情報化は
絶望的である。今のパソコンの価格を知れば、コンピ
ュータはもはや高いものではないことがわかる。携帯
電話、テレビ、エアコン、電子レンジなど、さまざま
な機器には、コンピュータが組み込まれている。理由
は簡単で、コンピュータを使ったほうが低価格で、高
性能になるからである。施設園芸、植物工場の環境制
御システムにも、この常識が通用するシステム開発が
必要であろうと考えた。
そこで、問題点を解消し、施設園芸、植物工場の情
報化を推進するための基盤としての今後の環境制御シ
ステムとして自律分散システムの利用を提案した(図
1)。従来の環境制御システムの核である集中制御型の
温室コンピュータを廃し、各センサや機器に小型低価
格なネット化マイコンを内蔵したノードを設置する。
各ノードは、施設の LAN を介して通信しながら内蔵
されたセンサや機器の計測制御を自律的に協調しなが
ら行う。通信における計測値、設定値、操作量などは
公開規格化されているので、製造会社の異なるノード
を混在させて LAN に接続しても連携した動作を可能
にしている。コンピュータが施設内に遍在するこのシ
ステムをユビキタス環境制御システム(Ubiquitous
1.自律分散システム導入の必要性
施設園芸の環境制御でマイクロコンピュータを用い
た環境制御システムの 2003 年の普及率は、
重装備の施
設を中心として面積ベースでわずか 1.08%である(農
水省、2005)。植物生産の中では技術革新が比較的進ん
できた分野にもかかわらず、施設の約 1%にしか導入
されていないということは、
大多数(99%)の園芸施設の
環境制御は情報化されていないことを意味する。
その理由は大きく 2 つ考えられる。第一に、価格が
高いということである。ルームエアコンに内蔵されて
いる程度のマイクロコンピュータを搭載した装置が、
一台 30 万円~150 万円程度する。これは、200 台程度
販売できればヒット機種という小さなマーケットの中
で、何社もの製造会社が互換性のない独自規格のシス
テムのハードウェア設計から接続するパソコン用のソ
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UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
Environment Control System: UECS)と命名した。
この方式のメリットとして、 (1)ネット化マイコン
は従来の温室コンピュータに比べて 1 棟の施設で複数
使用されるので量産効果が得られ、さらなるコストダ
ウンが期待できる、(2)ノードの通信、接続は公開規格
化されているので、ソフトウェアの共用化、開発の分
業化が可能で、高性能低価格な応用ソフトウェアの普
及が期待できる、また、 センサや機器に接続するため
の多種多様でしかも長距離の配線工事や接続盤工事が
軽減され工期と工費が節約可能である、(3)分散制御な
ので、投資額を抑えた段階的導入も可能で、ノードの
組み合わせだけで新規開発の必要なく大規模から小規
模の施設まで対応できる、
が挙げられる。
最終的には、
同規模の環境制御システムを従来の約半分のコストで
導入可能にすることを目指している。
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
帯用ゲーム機で施設の機器の監視・制御が可能であり、
インターネットに接続して PPTP、PacketiX (SoftEther)
などの VPN 技術を利用したノードの遠隔保守なども
容易に実現できた。残された規格の問題点としては、
有線での接続は 10Base-T を用い、トポロジーがスター
型のため、ノード増設時に HUB や新たな配線が必要
になることである。これに対して、カスケード接続可
能なように、ネット化マイコンにネットワークを 2 ポ
ート用意することも検討している。
ノード間の計測制御にかかわる通信は、XML と
UDP・TCP/IP という一般的な通信プロトコルを使用し
た共用通信子(Common Corresponding Message: CCM)
を使って行う。本規格を採用した有用性が最も実感で
きたのは、ネットワーク規格について詳細な説明をし
ていないにもかかわらず、実証試験システムを導入し
た野菜茶業研究所の研究員が、UECS のパソコン用ア
プリケーションソフトウェアを容易に開発できてしま
った点である。本規格の仕様書とインターネット用の
ネットワークプログラミングの入門書だけで、携帯電
話でのトレンドグラフ表示、警報のメール送信、予測
制御などのソフトウェアが続々と開発されつつある。
オープン規格の威力を実感することができた。
2.ネットワーク規格に Ethernet を採用した理由
施設園芸の分野では、四国総研の中西氏らが
OpenPlanet と名づけた、ビル空調の分散制御などで一
定程度普及している LonWorks をベースにした分散型
制御システムの先駆的研究があった。筆者らも
LonWorks の開発システムを導入して検討を進めたが、
トランシーバの技術が非公開で導入コストが高いこと
と、最大の特色であるフリートポロジの接続が可能な
ネットワークの通信速度が 78kbps と、将来ネットワー
クカメラなどとの併用を考えるには小さすぎることを
理由に断念した。また、農業機械分野で利用が提唱さ
れている乗用車系の Can や、計測制御で使用される
DeviceNet、FieldBus なども検討した。最終的に、規格
がオープンであり、極めて小さな投資で開発可能な規
格として、インターネットで広く使われる Ethernet
(IEEE 802.3)が、規格のオープン性、対応部品の価格、
規格の継続性、通信速度などの点で、今回の開発目的
と最も良く合致していると考え、この規格の採用を最
有力として検討した。開発に着手した時点で、
「パケッ
ト制御に CSMA/CD を使用していて制御に使うには即
時性・信頼性が低い」
、
「プロトコルやソフトウェアツ
ールが公開されていて安全性に問題がある」などの異
論が共同研究企業から続出し、激論を重ねた。
ネットワークの負荷試験、数ヶ月の長期動作試験な
どを実施し、UECS の通信規格として大きな問題が出
なかったので、結局、私が押し切る形で、Ethernet を
採用した。後述する野菜茶業研究所での実証試験シス
テムでは、市販の安価なネットワークカメラや農業セ
ンサーグリッドとして注目されているフィールドサー
バなどもネットワークに接続して共存でき、また、連
携した動作も可能など、デファクトスタンダードにな
っている Ethernet を採用したことによって、結果的に
大きなアドバンテージがあったと考えている。また、
無線 LAN ルータを接続すれば、2 万円以下の安価な携
3.UECS のハードウェアとソフトウェア
開発で最も苦労した点は、小型低価格なネット化マ
イコン基板(Ubiquitous-control System Engine: USE)と、
UECS 対応ノードの基本動作を実現するミドルウェア
(Embedded Operating Library for Ubiquitous-control
System: EOLUS)の開発であった。USE の価格が安くな
ければ低コストにできない。Ethernet の高度な機能を
使用するためにはRISCのMPUを使用するのが普通で
あるが、価格と MPU の乗せ替えを考慮して、
H8/3048F-ONE (Renesas)と RTL8019AS (Realtek)の組み
合わせになった。施設での利用を考え、3 段のサージ
保護回路や PoE 拡張回路などを備えた 70mm×110mm
の 4 層 PCB による USE が完成した(図 2)。100 枚生産
時の販売価格を税別で 11,300 円にすることができた。
EOLUS は、オープンソースのライブラリである
openTCP を採用し、ライセンスフリーの統合開発環境
である eclipse と CDT による C 言語での開発を前提に
した。これにより、EOLUS を入手すれば、製造会社
はシリアル通信ポートを備えたパソコン以外の投資の
必要無しで UECS 対応ノードの製品開発が可能になっ
た。USE と EOLUS は、エヌアイシステムの林氏によ
る精力的な開発成果である。
UECS は、表 1 に示した通信プロトコルを使用して
自律分散動作を行う。現場での設置工事において、パ
ソコン等を使ったノードの関連付け作業は、煩雑で手
間もかかるのでできるだけ避けたい。そこで、UDP の
ブロードキャストパケットを多用するとともに、USE
10
UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
に DIP スイッチを設け、メカニカルなスイッチの設定
だけで、小規模な施設での複数ノードの系統割付作業
等がパソコン無しで実施できるようにした。しかし、
ブロードキャストパケットは、ネットワークのセグメ
ント(サブネット)を越えて伝達できない欠点があるの
で、多棟の大規模施設で屋外気象ノードからの CCM
を共有する場合などに使用するための、CCM のゲー
トウェイやブルータなどの開発にも着手している。ま
た、ノードの監視、設定は HTTP を採用したので、一
般の Web ブラウザを使用するだけで、特別なソフトウ
ェアは不要である。CCM も電文は XML であるので、
通信パケットはテキストデータで可読性は高い。
各ノードの自律分散動作は、次の(1)~(3)の優先順位
で階層的に設定されている。
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
能になる。この結果、高性能低価格なソフトウェアが
さまざまな組織で開発される可能性が高まる。
4.実証試験とノード開発状況
2000 年に研究着手した UECS は、数多くの基礎的な
実験を経て、2005 年 9 月に、愛知県知多郡武豊町にあ
る独立行政法人野菜茶業研究所の床面積 972m2 低コス
ト耐侯性ハウスに実証試験システムとして設置された。
図 3 に示したノード構成で、トマトの栽培試験を開始
して 1 年余が経過した。UECS は大きな問題無く制御
を実施しており、実証試験はほぼ成功したと考える。
現時点での主要なノードの開発状況と対象機器の製
造会社を表2 に示した。
2006 年7 月25 日から27 日に、
千葉県の幕張メッセで開催された第 12 回国際園芸技
術展(IHE JAPAN 2006)の主催者展示企画の一つとして、
UECS の各種ノードの展示とデモンストレーション、
インターネットによる野菜茶業研究所での実証試験の
リアルタイム中継を実施した。3 日間で 35,844 人が来
場した。生産者、生産組合関係者の関心は特に高く、
「すぐに導入したい」
「いつ販売を開始するのか」
、
「販
、
売価格を教えてほしい」という質問が数多く寄せられ
た。製品化に向けた最終仕上げなどの細部の課題がま
だあるものの、参画企業による製品発売が急務である
と強く感じられた。このような大きな興味と需要に応
えるため、2006 年 7 月、関係有識者を発起人として
UECS 研究会(http://www.uecs.info/)を設立した。企業・
団体・個人の会員を募り、ネット化マイコン基板や基
本ソフトウェアの提供、通信規格の開示、開発技術の
援助などの積極的な支援を開始した。
(1)強制制御: この CCM を受信すると指定された強制
動作を行う。受信後 3 秒を経過すると解除される。
手動自動切換えスイッチノードや遠隔操作などで使
用する。
(2)上位制御: この CCM を受信すると指定された強制
動作を行う。受信後 3 分を経過すると解除される。
パソコンによる複合環境制御ソフトウェアによる分
散動作などで使用する。
(3)自律制御: (1)(2)の CCM を受信していない場合は、
ノードに内蔵されたソフトウェアによって制御を実
施する。
この仕組みにより、軽装備施設では、(3)の動作でノ
ードの組み合わせだけでパソコン不要の自律制御が低
コストで可能である。一方、多数の機器を協調させた
植物工場などの高度な生産施設における複合環境制御
の実現は、パソコンで制御アルゴリズムに基づいて(2)
の CCM を送出するソフトウェアを開発するだけでよ
い。このため、安価なパソコンが一台あれば複合環境
制御の専用ハードウェアは不要で、単なるパソコンの
アプリケーションソフトウェアとして開発、流通が可
能である。さらに、利用者は、施設内の任意の場所で、
携帯している手動自動切換えスイッチノードを LAN
に接続し、(1)の CCM を送出するだけで任意のノード
を遠隔操作することができる。これは、機器の設置調
整などに威力を発揮する。さらに、タイムアウトによ
り、
何らかの障害によって上位制御が不能になっても、
自律制御に自動的に戻って最低限の制御が継続される
ので、安全性が高い。
パソコンを使って CCM を送受信する Java 用のクラ
スライブラリの開発にも着手している。完成すれば、
パソコン用ソフトウェア開発の初心者でも、UECS の
アプリケーションソフトウェアが極めて簡単に開発可
参考文献
1) Hoshi, T., Hayashi, Y. and Uchino, H. 2004. Development
of a decentralized, autonomous greenhouse environment
control system in a ubiquitous computing and Internet
environment. Proc. of 2004 AFITA/WCCA Joint
Congress on IT in Agriculture. pp.490-495.
2) 林 泰正, 星 岳彦, 高市益行, 山口浩明, 相原祐輔,
2004. 施設園芸におけるユビキタス環境制御システ
ムの提案. 農業および園芸, 79(8), 845-853.
3) 星 岳彦, 林 泰正. 2005. 効率化・低コスト化を達成
するユビキタス施設環境制御システム. 施設と園芸,
131, 22-26.
4) 星 岳彦, 2006a. 施設園芸生産のためのユビキタス
環境制御システムの開発. 研究ジャーナル, 29(8),
15-19.
5) 星 岳彦, 2006b. 自律分散型環境制御技術(ユビキタ
ス環境制御)の現状, フレッシュフードシステム,
35(4), 13-17.
6) 星 岳彦, 2006c. 自律分散型植物生産管理システム
11
UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
の自己組織化に関する研究. 東海大学研究奨励補助
計画報告書, 30, 67-70
7)星 岳彦, 2006d. 自律分散環境計測制御システムの
施設園芸生産への展望. 農業環境工学関連学会 2006
年合同大会講演要旨集(CD-ROM), /PDF/S011209.pdf.
従来の環境制御システム
換気窓
センサ信号線
カーテン
出力信号線
動力線 または
動力信号+電源線
気温センサ
動力盤
インター
フェース盤
暖房機
図 2 開発した小型低価格のネット化マイコン基板
(USE) (星、2006b)
温室コンピュータ
新システム
遠隔研究用温室LAN
南西暖房機ノード1
(ネポン㈱製)
換気窓
情報信号線
電力線
カーテン
ネット化マイコン
天窓ノード東向1
(㈱誠和製)
インターネットへ
天窓ノード東向3
(㈱誠和製)
天窓ノード西向2
(㈱誠和製)
気温センサ
暖房機
手動操作SW
電力盤
カーテンノード
(㈱誠和製)
設定端末
北側側窓ノード2
(㈱誠和製)
図 1 提案した自律分散環境制御システムと従来シス
テムとの比較(林ほか、2004)
可搬型ノード
北東暖房機ノード2
(ネポン㈱製)
簡易コンソールノード
(㈲エヌアイシステム製)
天窓ノード東向2
(㈱誠和製)
スイッチノード
(㈲エヌアイシステム製)
天窓ノード西向1
(㈱誠和製)
室内気温・湿度ノード1
(㈲エヌアイシステム製)
天窓ノード西向3
(㈱誠和製)
室内気温・湿度ノード2
(㈲エヌアイシステム製)
室外気象ノード1(気温・湿度・感雨・
日射)
(㈲エヌアイシステム製)
南側側窓ノード1
(㈱誠和製)
室外気象ノード2(風向・風速)
(㈲エヌアイシステム製)
フィールドサーバーII
(イーラボエクスペリエンス製)
遠隔監視・管理実験用パソコン
ネットワークカメラ
(松下電器製)
無線ルーター
インターネットへ
図3 野菜茶業研究所に設置したUECS 実証試験シス
テムのノード構成(星、2006b)
表 1 ユビキタス環境制御システム(UECS)のノードが使用する通信プロトコル(星、2006c)
プレゼンテーション層
セッション層
トランスポート層
ネットワーク層
内
CCM レベル A(XML)
データ送信 CCM
UDP Port:16520
IP ブロードキャスト
定時 CCM 通信
データリクエスト CCM
UDP Port:16520
IP ブロードキャスト
データ送信 CCM
UDP Port:16520
IP ブロードキャスト
データリクエスト CCM
UDP Port:16520
IP ユニキャスト
データ送信 CCM
UDP Port:16520
IP ユニキャスト
データ受け取り CCM
UDP Port:16520
IP ユニキャスト
提供者サーチ
UDP Port:16521
IP ブロードキャスト
提供者応答
UDP Port:16521
IP ブロードキャスト
ノードスキャン要求
UDP Port:16529
IP ブロードキャスト
ノードスキャン応答
UDP Port:16529
IP ユニキャスト
要素スキャン要求
UDP Port:16529
IP ユニキャスト
要素スキャン応答
UDP Port:16529
IP ユニキャスト
HTTP
TCP Port:80
IP ユニキャスト
CCM レベル B(XML)
CCM レベル C(XML)
必要時 CCM 通信
CCM サーチ(XML)
必要時特定ノード CCM 通信
CCM 提供者検索
ノードスキャン(XML)
存在ノード検索
要素スキャン(XML)
Web ページ(HTML,CGI)
容
特定ノード送信 CCM 一覧
12
ノードの設定、動作監視
UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
表2
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
2006 年 11 月現在の UECS ノードの開発状況と対象機器製造会社の一覧
ノードの種類
ノード開発組織
対象機器製造会社
暖房機ノード
ネポン
開発レベル
製品化可能
天窓ノード
製品化可能
誠和
カーテンノード
側窓ノード
試作
手動自動スイッチノード
簡易コンソールノード
エヌアイシステム
屋内気象ノード
製品化可能
屋外気象ノード
汎用入出力ノード
ファン一体型細霧冷房ノード
フルタ電機・松下ナベック
試作
養液供給ノード
太洋興業
東海大学
養液栽培ベッドノード
設計
補光ノード
未定
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(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
ノード外観(カーテン)
カーテンおよび換気窓の
UECS化
環境研究課
呼吸
アグリベスト様設置品
寸法
200×350×160
山口
高生産性システムの提供により人と植物の快適環境を拡げます。
Sincerity&Harmony
ノードの問題点
UECS化によるメリット
① 情報の精度が不十分
開度
② 情報の種類が不足
異常
③ 従来品と変わらない
コスト、大きさ
カーテン・換気装置
① 情報の共有化
温度、光、雨等
② 異常・状態情報の提供
過負荷、開度等
開発目標
① 情報精度の向上
② 情報内容の充実
③ コンパクト化
15
1
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(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
暖房の UECS 化
ネポン株式会社
営業技術部
馬場
勝
1. はじめに
暖房は、施設園芸において基本的な栽培管理技術のひとつである。そこで、施設園芸における
ユビキタス環境制御システム(UECS)開発の中で、国内で広く普及している施設園芸用温風暖房
機の UECS 対応機(以下、暖房機ノードという)の研究開発を行った。施設園芸用温風暖房機は夜
間無人状態の施設内で運転されることが多く、自動化だけでなく安全管理も重要なポイントであ
る。研究では、システム上の共通機能を活用することと合わせて、信頼性の確保についても重視
した。ここでは、その研究の概要と課題について紹介したい。
2. 研究内容
図-1 に研究開発の中で、野菜茶業研究所武豊野菜研究拠点の研究ハウスに導入された暖房機ノ
ードの外観、および図-2 はその制御盤を示す。
図-1 暖房機ノード外観
図-2 制御盤
暖房機ノードは、バーナ、燃焼炉(缶体)、送風装置、制御装置などから構成され、制御盤が全
体の運転を統括している。無駄なコスト増を避けるため、できるだけ通常製品との部品の共通化
を図りながら UECS 対応を実施した。UECS 対応の主要な部分となる制御装置では、自動運転や安
全管理の基本部分は従来型の制御装置である HK コントローラを流用して改造し、新たに UECS の
機能実現の主体となるユビキタスエンジン用ユーザプログラムを開発して搭載した。
2.1 制御装置
制御装置の基本的な構成を図-3 に示す。概要
運転操作
としては、HK コントローラが自動運転や安全管
理を担い、ユビキタスエンジンが外部との通信
センサ類
窓口を担う構成となっている。このように機能 安全装置
自動運転
・バーナ
・送風装置
HKコントローラ
安全管理
通信
を分割化することにより、従来品の高い運転信
暖房機ノードプログラム
頼性を保ったまま新技術を組み入れることが
可能となった。なお、本システム用のコンピュ
ユビキタスエンジン
通信
ータ基板(USE)は、図-2 右側のユビキタスエ
ネットワーク
ンジンブロック内に組み込んだ。
図-3 制御装置構成
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UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
2.2 機能
UECS 上の暖房機ノードとして、下記の機能を搭載した。
●外部内気温選択(外部の内気温ノードを暖房制御用監視室温として選択が可能)
●外部設定室温制御(外部から配信された暖房設定室温値による制御が可能)
●外部強制運転(外部配信により暖房または送風の手動運転が可能)
●機器異常時のエラー発信(エラーの重みにより 4 段階に分類)
●UECS システム停止時(UECS 通信ライン切断時)の応急運転
UECS としての設定や確認は、パソコンのブラウザ画面上からできるようになっている。図-4 に
状態表示画面例を示す。
また、HK コントローラが本来持っている機能(普通の
暖房を行う機能)はそのまま利用可能な構成とし、SW 切
替により UECS とは関係なく単独でも運転できるように
した。さらに、UECS 上の暖房機ノードとして機能する際
も、万一の通信トラブル時には自動的に応急運転に移行
するようにした。コスト面では不利になるが、制御構成
で機能を分割化したことでトラブル時の対応が比較的容
易になった。ここでは、トラブルによる一晩の機器停止
で作物が全滅する可能性を持つ暖房機ノードでは、信頼
性確保を優先すべきと考えた。
図-4 状態表示画面例
3.課題
暖房機ノードは 2006~2007 年の暖房シーズンに稼動し、暖房機ノードとして問題にすべきトラ
ブルは発生しなかった。ただし期待される機能を考慮すれば、十分なレベルに達しているとはい
い難い。UECS 自体の完成度を高めることとは別の課題として、暖房機ノード自体の課題としては
以下が挙げられる。
●さらなるシステム内での動作検証
●ハード的な信頼性の向上(ノイズ耐性等)
●他の機器との制御干渉に関する取り決め
(例えば、換気扇運転時はハウス内が負圧になるため暖房機は運転してはならない。UECS 上
の分散制御で実現するなら、どちらの機器からどのようにその指示をだすか?)
●コスト
暖房機ノードとしては、実用化の前提にまず信頼性の確保があり、その上でさまざまな機能と
低コスト化を実現することが必要だと考えている。
4.おわりに
UECS は、ハウス内の機器をネットワーク化して統合的に管理できる環境を、高機能を実現しな
がら低コストで提供できる可能性のある新技術である。現時点でもパソコンや携帯端末による状
態確認や運転管理などは実現できているものの、まだ熟成度は高いとはいえない。最終的な実用
化のためには、思い描く機能を高い信頼性を確保しつつ低いコストの中で実現していかなくては
ならない。そのためには、さらなる取り組みが必要である。今後も、暖房機ノードとして期待さ
れる部分の完成度を高めていきたい。
18
UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
センサ・操作盤のUECS化および研究開発用UECS機器
有限会社エヌアイシステム
開発部 林 泰正
1. はじめに
温室・ハウス・植物工場において、施設の環境制御自動化を構成する要素には、環境調整機器、センシング機器、操作機
器などが含まれる。環境調整機器とは、換気窓開閉装置、カーテン装置、暖房装置、換気扇、攪拌扇などの、施設内の環
境に影響を与える装置類であり、センシング機器は、気温、湿度、降雨、日射などを計測装置類である。施設の状態を把
握・自動制御目標の設定を行い、必要に応じて機器を手動操作する手動操作盤などは、施設使用者(栽培管理者など)と
環境制御自動化設備(環境制御システム)との橋渡しの役割を担うのが、操作機器である。
本稿では、UECS 対応のセンシング機器と操作機器について述べる。また、研究開発や試作に貢献可能な機器について
も述べる。
なお、本稿において自動化とは、装置やシステムの自己判断によって制御が行われていることとし、環境調節機器を単に
動力化した状態を指さない。つまり、例えば天窓減速機と手動操作盤の組合せにより、使用者の判断により窓の開閉を行
う状態は、施設が自動化されたとしない。
2. センシング機器
2.1. センサの役割とノード
施設の自動化において、タイマ制御でない限り何らかのセンサを使用している(タイマも、時間を計測するセンサとも言
える)。センサは環境制御システムにおいて、環境状況把握の一手段であり、制御システムはセンサの情報を元に動作判
断を行っている。また、センサによって環境状態を定量化・客観視できるようになり、ヒトの主観的かつ個体差のある感
覚と異なり、異なる圃場間および異なる時間における環境状況の比較が容易になる。もっともメジャーなセンサが屋内気
温センサであり、価格も安価である。
栽培施設において現在用いられる計測項目には、屋内では温湿度、屋外では風向風速、日射や降雨の有無などとなる。環
境制御では室内温度の計測値に基づくフィードバック制御が最も基本的な管理手法だが、屋外の気象計測も環境制御だけ
でなく施設の保護という意味では重要な役割を持っている。例えば、雨センサは換気窓から侵入する雨の水滴から作物を
守るだけでなく、施設内の装置や施設を雨の水滴から防ぐ目的でも使用されるし、風の情報は換気窓や屋外カーテンを強
風から守るためにも用いられる。
これら計測の役割についてはUECSでも同じで、この役割を担うノード群をエヌアイシステムでは用意している。施設
室内の気温や湿度測定の役割を担うのが、屋内温湿度ノードとなる。また、屋外気象の計測を担うのが、屋外気象関係の
ノードの役割となる。
計測関係のノードは、現在、表1の種類を用意している。
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UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
表 1-1 エヌアイシステムで用意している計測関係のノード
品名
4 点データロガノード
内容
状況
4 点のセンサ入力可能なノードです。
備考
ソフト開発中
課題終了後に開発
ソフト開発中
課題終了後に開発
計測した値は、CCM 発信可能です。
4 点データロガノード
4 点のセンサ入力可能なノードです。
液晶付
20 字×4 行のカタカナ液晶表示付です。
計測した値は、CCM 発信可能です。
屋内温湿度ノード
自然通風タイプの温湿度センサ付。
生産可能
武豊版より小型
屋内温度ノード
自然通風タイプの温度センサ付。
生産可能
武豊版より小型
温湿度感雨ノード
自然通風タイプの温湿度センサと、基板式感雨センサ付。
生産可能
生産可能
温湿度感雨ノード
自然通風タイプの温湿度センサと、基板式感雨センサ付。
液晶付
20 字×4 行のカタカナ液晶表示付です。
風向風速日射ノード
三杯風速計+風向計と、日射センサ付。
生産可能
風向風速日射ノード
三杯風速計+風向計と、日射センサ付。
生産可能
液晶付
20 字×4 行のカタカナ液晶表示付です。
外気象基本ノード
自然通風タイプの温湿度センサと、基板式感雨センサ、三杯
生産可能
風速計+風向計と、日射センサ付。一通りの気象計測が可能。
外気象基本ノード
自然通風タイプの温湿度センサと、基板式感雨センサ、三杯
液晶付
風速計+風向計と、日射センサ付。一通りの気象計測が可能
生産可能
です。20 字×4 行のカタカナ液晶表示付です。
※上記以外に、計測項目のリクエストがあれば対応可能。
表中、
「外気象基本ノード」は、
「温湿度感雨ノード」と「風向風速日射ノード」の両方の計測項目を内包している。屋外
気象の測定項目を 2 ノードで分割している版と、1 台でまかなう版と 2 パターンのラインナップとしている。2 ノードで
分割している理由として、高所取付の計測項目と低所取付の計測項目とを分けておくことで、設置コストの低減を狙おう
としての事だが、現状は従来のような「計測器とセンサを、セット販売してるだけ」の状態で、決して目的を達成してい
ない。これを実現する為には、センサ形状や計測方式、商品のパッケージ化方法を工夫しなければならないと考えている。
写真 1-1: 屋外気象計測関係
左が「風向風速日射ノード」、右が「温湿度感雨ノード」
写真 1-2: 屋内温湿度ノード
左が武豊版、右が改良版。武豊版は液晶付で将来の拡張を考慮して余裕
ある筐体を用いた。改良版は武豊版より小型になった。屋内日射計を付加
する計画もある。
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2.2.計測系のノードを共通基板化
施設園芸や植物生産で従来使われてきた測定項目は、気温、湿度、照度、日射、光量子束密度、風向、風速、雨量、感雨、
地温、土壌水分(含水率、pF)、EC、pHなどがあり、またセンサ素子やセンサモジュールから出力される信号も、
電圧出力、電流出力、接点出力、交流パルス出力、直流抵抗値、交流抵抗値など種類がある。これらに対応するために、
測定項目や信号種別に基板を設計しては、ハードウェア開発費だけで高額になってしまう。そこで、ある程度の信号種を
扱える様に回路を設計し、計測関係の基板を共通で使用できるようにした。信号種別や測定項目の差異に対しては、基板
に実装する部品の種別や実装内容を変化させることで対応可能とした。
2.3.UECS 化による新機能
計測機器を単に UECS するのでは、従来の制御装置となんら変わりがない。UECS は各センサまたは計測ポイントにマ
イコンが搭載されている格好であるから、プログラム次第で機能を増強できる。これまで実施してきた UECS ならでは
機能増強の例を以下に示す。
2.3.1.演算による数値算出
屋内温湿度ノードなど、温湿度を計測しているノードには、演算によって絶対湿度および露点温度を求めさせ、表示させ
た。露点温度は病害抑制を考慮するうえで、結露防止の参考値となる。
2.3.2.測定ポイントでの数値表示
従来だと、計測値を知るには、環境制御コンピュータや操作盤まで移動する必要があり、センサの測定ポイントで知るこ
とは出来なかった。UECS では無線 LAN と無線 LAN 対応端末によって、ホットスポット内ですぐに確認可能ではある
が、ノードに液晶表示モジュールを装備させることで、測定ポイントにおいても、すぐに測定値を参照可能となった。な
お、液晶モジュールを搭載させると、その分コストアップにつながる為、オプション扱いとしている。
2.3.3.計測値の記録
計測値の日平均値や日最高値、日最低値を演算させ、過去数日分の結果を保持、参照可能とした。
2.3.4.メンテナンス時期の通知
温度センサは測定原理上劣化しにくいが、湿度センサは劣化し測定値が狂ってくる事がある。また、湿度検出素子もメー
カによって環境耐性の優劣がある。よって、劣化有無の確認を含めたメンテナンスは、半年~1 年に一度は行ったほうが
良いが、日々の生産作業に追われていると、その時期を失念してしまう場合がある。そこで、メンテナンス時期を使用者
に知らせる機能を設けた。
この機能は、湿度以外の劣化やメンテナンスを必要とする機器、例えば、pH、EC 計測、土壌水分計などの計測ノード
には設けたほうが良いと考える。
2.4.今後の課題
まず、コストダウンまたは付加価値増強を考える必要がある。センサは環境調整機器に比べて機器単価が安いため、UECS
化を行うと、どうしても割高感が出てしまう。逆に、UECS では従来用いれなかった素子や検出方式を利用できる可能
性がある。検出方式が異なっていても、同じ測定項目であれば、同一の CCM で測定値を伝達可能なため、新しいセンサ
素子や検出方法が見つかった場合でも、従来より早い段階で制御システムへの組み入れが可能である。
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UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
3. 操作機器
UECS は、各機器に目標値を保持させたり、ノード内蔵の Web 画面を使用して動作指示を与えることが出来る。よって、
設定値や測定値を参照する為の表示部や設定操作部、手動操作スイッチは必須ではない。しかし、施設の操作性を良くす
るには、これら操作部分を UECS 機器としてラインナップさせておくべきと考えた。なお、これらのノードは小型であ
り、制御システムとの接続はネットワークケーブル 1 本であるため、電源が受給できネットワークコネクタが設置して
ある所であれば、施設内外の何処でも利用できる。
UECS
この部分を
ノード化
コンソールノード
手動操作盤ノード
従来の温室コンピュータ
図 3-1 操作系ノードの役割
3.1.コンソールノード
コンソールノードは、天窓ノードやカーテンノード、暖房ノードなどに、ユーザが設定した目標値を送信し、各センシン
グ機器のノードからの情報を取得しユーザに示す。また、変温管理機能を備え、時刻によって目標値を変動させる機能も
持たせた。変温管理の設定値は、Web 画面からも変更可能とした。
現在稼動しているコンソールノードは、最も低機能な機種と位置づけており、
「簡易コンソールノード C 型」としている。
3.2.手動操作盤ノード
手動操作盤ノードは Ethernet を経由して、各環境調整機器の動作に指示を与える役割を持つ。従来の接点信号・有電圧
信号とは異なり、ネットワークケーブル 1 本でコンピュータ通信により動作指示を伝達する「フライ・バイ・ワイヤ」
方式となる。本ノードは 4 点のスイッチ群を備え、1 ノードあたり、開閉機器の場合は 4 種類、ON/OFF 機器の場合は 8
種類の機器に割当できるようにした。各割当別に区分子を設定可能にし、手動操作指示の指示範囲を設定可能にした。ま
た、将来、新しい機器が UECS 対応したときの事を考慮し、手動指示用 CCM 文字列を任意に入力可能とした。
写真 3-1 コンソールノード(左)と手動操作盤ノード(右)
22
UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
4. 研究開発用機器
4.1.データロガーノード
研究者や栽培担当者が、任意のセンサを施設内に設置し、その測定値を UECS のインフラである Ethernet を通じて取
得したり、他の UECS 機器に配信可能なように、UECS 対応のデータロガーを用意する。ハードウェアは上記のセンシ
ング機器用の基板を用いる。ソフトウェアを開発中であり、今秋には提供可能になる見込みである。
写真 4-1: データロガーノード
4 点の入力チャンネルを持ち、各チャンネルにはサーミスタ付加抵抗の ON/OFF 切替スイッチを持つ。電圧入力の場合、
0-5V レンジが通常であるが、4 点中 2 点のチャンネルはアンプを備え、切替可能としている。
4.2.汎用入出力基板
UECS の開発を容易にするために、CPU カード USE を用意してあるが、USE を使って何かの装置を作成するには、大
抵は何らかのインタフェース回路を作らな
ければならない。気軽に試作したり、実験
に用いるには、このインタフェース回路の
作成がネックとなる。また、小ロット生産
品を生産する場合、いちいち基板を起こし
ていたのでは、基板開発費と生産イニシャ
ルコストが膨大になり、製品生産数の関係
から、製品単価に大きく影響を与える。そ
こ で 汎 用 の USE 用 の 入 出 力 基 板
GPIO-1208 を開発し提供することとした。
この基板の開発によって、先ほどの問題を
解決するだけでなく、特殊な装置を UECS
対応にする際に作成せねばならない、特注
品の対応も簡単になる。
写真 4-2: GPIO-1208 外見(オプションの液晶モジュールを付けた状態)
4.2.1.GPIO-1208 の仕様 -PLC の様に、絶縁入力と絶縁出力を備える-
GPIO-1208 は次の特徴を備えている。
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Ø 8点のアナログ/デジタル兼用入力
Ø 緊急用の手動操作スイッチ
Ø 4点の絶縁接点入力
Ø 8点の千鳥配置の状態表示ランプ
Ø 8点の絶縁オープンコレクタ出力
Ø RTC(時計IC)の搭載可能
基板型名の GPIO-1208 の意味は、「汎用入出力(General Purpose I/O)12 点入力 08 点入力」基板 の略である。仕様
を下表に示す。
表 4-1: GPIO-1208 の仕様
入力
アナログ/デジタル入力
最大 8 点
ソフトウェアによって、アナログ入力/デジタル入力の切替可能。
8 点中 2 点は、OP-Amp 実装可能。
サージ保護回路付。
絶縁接点入力
最大 4 点
DC5~24V 接点入力
出力仕様
最大 8 点
絶縁型オープンコレクタ出力。
ドライブ能力: DC5~24V Ic=最大 0.8A
出力状態表示 LED 付
過電圧保護回路付
出力手動操作スイッチ
出力監視回路付手動操作スイッチ
出力
その他
状態表示 LED
ソフトウェアによって ON/OFF 可能な LED ランプ 8 点
電源状態 LED ランプ 1 点
DIP スイッチ
4 点 ソフトウェアで読み込み可能
電源供給コネクタ
センサ電源用に、+5V 電源供給コネクタ用意
時計
クリスタル時計(オプション)
蓄電素子(電気二重層コンデンサ)によるバックアップ付
電源 OFF 時バックアップ期間:15~20 日程度(環境条件によります)
電源
AC 入力オンボード電源と、DC 入力オンボード電源、外付け電源の 3 種類から選べます。
電源サージ保護回路付
AC 入力オンボード電源版: AC85-264V 50/60Hz 入力、消費電力 Max 7W
DC 入力オンボード電源版: DC8-32V 入力、消費電力 Max 12W
外付け電源版: DC5V 5W(Min.)出力を備える電源をご用意下さい。
一次側入力耐圧 220V まで。
基板側コネクタ:Input(一次側)B3P-VH-FB-B(JST 社)
Output(二次側)B4B-XH-A(JST 社)
サイズ
200(W)×130(D)×25(H) mm
(USE 搭載時)
4.2.2.今後の計画
GPIO-1208 については、出力をオープンコレクタではなくリレーにした版の製作を検討している。また、GPIO-1208 で
はオーバースペックな場合もあるので、より小規模な GPIO-0604 を計画しており、回路設計を終えている。
GPIO-1208 は現在のところ、C 言語でソフトウェアを作らないとならない。より手軽に、独自の出力機器や計測制御機
器を構築可能なように、データロガーノードの様に簡単設定で目標を達成できるような商品を検討している。
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互換性確保および高競争力ソフトウェア実現に向けての取り組み
ユビキタス環境制御システム研究会
事務局長 林 泰正
1. はじめに
日本の環境制御コンピュータは、様々な機能を有した機種が、複数のメーカにより開発され供給されてきた。これら制
御機は、換気窓コントローラに機能を追加したものから、入出力点数の増減ができるものまで存在し、温度管理だけでは
なく、湿度管理や CO2、気流や光、の管理のほか、1 台で水耕制御も行える機種も存在した。中には、蓄熱や地中熱を
制御可能な機種まであった。これら国産機種の特徴は、多種多様な施設形状・設備や敷設面積に対応できる機能又は設定
値を有しており、現在、海外から日本に輸入されている制御機には、あまり無い特徴でもある。
ところが日本の施設制御機メーカは、ほとんど消えてしまった。つい先月末にも、日本では歴史のある温室制御機メー
カの名前が無くなってしまった。10 年前は、主要なものだけでも 8 社程度は存在したが、現在は 3・4 社しか残っていな
い。この要因としては、開発コストの割りに販売数が多くなく、またアフターサービスに手間がかかることが挙げられる。
また、これら制御機は機能的にも 20 年前からあまり変わっておらず、ここ最近注目されている、細霧冷房などには対応
しきれていない。
温室コンピュータの特徴の一つに、計測値の蓄積と利用、および遠隔監視がある。しかし、これら機能を利用するため
には、制御機メーカが作った専用の温室管理ソフトウェアを購入する必要があった。しかし、これら温室管理ソフトウェ
アも 10 万~60 万と高価で、さらに遠隔監視するには専用規格の制御専用ネットワークと専用通信機器を導入する必要が
あり、生産者に温室管理ソフトウェア導入を躊躇させる一因でもあった。温室管理ソフトウェアを導入したほうが、施設
管理や把握が容易になり、生産者は利便性を感じることができる。しかし、導入コストが高いために生産現場で導入され
る機会は少ない。統計データが無いので正確には判らないが、温室管理ソフトウェアは温室制御コンピュータの普及率(面
積ベースで 1%)に比べて、さらに低いものと推測される。このため、温室管理ソフトウェアでは収益を上げることがで
きず、近年 Windows 版になったものの、基本的機能はやはり 20 年前から変化が少ない。
各研究機関で生育モデルや生育解析、先進的な制御モデルなどが研究され、多数発表されてきている。しかし、これら
の成果は生産現場にほとんど反映されることが無かった。これは、各制御機メーカが通信文の書式を公開していない事も
要因として挙げられるが、最も大きな要因は、メーカ間で通信文の互換性が全く無かったためであろう。ソフトウェア作
成には多大な労力(=コスト)がかかるため、導入本数が多いほど良いが、制御機の通信文に互換性が無ければ導入見込
み本数も伸びない。これを打開するために、温室制御機の操作通信文の規格化を目的とした研究が行われ(星ら 1999)、
規格も完成されたが普及には至らなかった。これは、従来の温室コンピュータとの接続に PC 上で動作するソフトウェア
などの通信文変換機構が必要だったこと、この時すでに各メーカは、この規格に対応したソフトウェアを製作する体力が
残っていなかった事、たとえソフトウェアが整備されていても、普及範囲は温室コンピュータ 1%の枠を超えることがで
きないため、対応クライアントソフトが開発されなかった事が挙げられる。
1.1.互換性確保の必要性
言うまでもなくコンピュータやソフトウェアにおいて互換性は重要である。パソコンにおいても複数のアーキテクチャ
が存在し、OS も Windows や MacOS、UNIX(互換含む)などが普及している。しかし、これらの違いを超えた互換性
を確保した html 言語(および派生言語)、いわゆる Web は、その高い互換性によって、今や様々なデータ表現に利用さ
れ、携帯電話でも参照でき、今やネット社会では必要不可欠となっている。html 言語の派生系である XML 言語は、様々
なデータ処理ソフトウェアに利用されてきている。高い互換性はそれを利用したソフトウェア開発を促進し、産業の発展
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に寄与することとなる。
もし、栽培施設の通信互換性が確保されたらどうなるであろう。現在の施設棟数は約 100 万棟である。温室コンピュ
ータ普及率 1%という数値は面積ベースの話であるが、仮に棟数ベースの普及率とイコールと仮定する。すると、既設の
温室コンピュータと仮に互換性が確保できたら、1万棟のソフトウェアマーケットが存在する。UECS は通信互換性を
確保可能な規格である。自動天側窓開閉装置の 50%が UECS 機器になったら、同装置の普及率が約 7%であるから、3.5
万棟がマーケット対象となる。同様にして暖房機(普及率 41%)の 25%が UECS 機器になったら、10 万棟がマーケッ
ト対象となる計算となる。
2. UECS における互換性確保
ユビキタス環境制御システム(UECS)は基礎的な通信方法が 2005 年に開発され、それに合わせたミドルウェア
(EOLUS)や CPU カード(USE)も開発された。UECS はオープンシステムであるため、複数の企業や研究機関で、各々の
考えに基づいた対応製品開発が可能である。これにより、従来 1 社で行っていたシステム開発を同時並行で複数機関が
取り組むことが出来、また従来では達成しにくかった栽培・生産管理システムとの連携が容易になる。現在、施設園芸分
野では、国際競争力を高める技術開発が求められつつあるが、これらの特性により UECS はこの目的に十分に対応可能
な能力を有していると我々は考えている。UECS は従来ではアナログ信号や接点信号でやり取りしていた情報を、英数
字で表現される識別子を含めた通信文で流通させる。この通信文を共用通信子(CCM:Common Corresponding
Message)と呼称した。この CCM により、従来数本~数十本のケーブルにより授受していた情報を、1 本の Ethernet
ケーブルでやりとり可能となる。CCM 基本規格には配信範囲や通信頻度、基本文体の規定を設けてあるものの、これま
では CCM 基本規格の妥当性を検証していたため、識別子の記述規定は行っていない。UECS 関連品開発の普及と発展を
より順調にかつ加速させるためには、識別子の規格化を行う必要がある。
<?xml version="1.0"?>
<UECS>
<DATA type="inAirTemp" room="1" region="1" order="1" priority="1">23.5</DATA>
</UECS>
図 2-1 CCM の通信文例
太字の部分が識別子。room:棟の識別番号、region:系統の識別番号、order:通し番号の識別番号、priority:
この情報の重要性、
なお、room、region、order はノードの設置部位を示し、区分子と呼んでいる。
2.1.ガイドラインの策定
UECS の規格は、図 2-2 に示す階層に分類できると考えた。図中、一番下層の CCM 基本規格は基本的な文体やルール
が定められている。CCM 基本規格は検証及び策定が終わりつつある。今後、基本規格を元に各ノードが有するべき情報
受発信内容が確定され(図 2-2 の最上層)、メーカを超えた互換性を得られる。しかし、UECS 機器を複数機関が独自に
開発出来ると言う性質は、各機関が独自の識別子を用い、識別子が乱立して、同義異語や類似義異語、同音異語を発生さ
せる危険があり、これでは情報の互換性を維持できなくなる。また、問題が
生じたときに、通信内容の持つ意味を判別しにくいと、障害解決が迅速に行
応用
えない。研究会などの中立機関が、全ての機器の CCM を一括で規定する方
法もあるが、中立機関に多大な労力が必要になること、策定にかかる時間が
基本
各ノード CCM 規格
← 策定中
CCM ガイドライン
← 今回 策定
CCM 基本規格
← 策定済み
各メーカのビジネス進行に悪影響を与えかねないこと、装置を熟知した技術
者が装置の CCM を策定したほうが技術革新の上で相応しい事、などにより、
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図 2-2 規格のレベル
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今回はトップダウン型の規格策定方法は用いない事としている。また、先の 1998 年に行われた操作通信文の規格化にお
ける経験からも、トップダウン式の策定法には限界があることが判っている。よって、今回は同時多発的に検討を行い、
逐次規格を決めて RFC タイプの規定公開を行う。
識別子は長い文字列を許すほど、多様な内容を表現できるが、長い識別子は文字処理の負担増を招くため、短い文字列
が求められる。そこで識別子を、機械または機能の種別、および情報の意味、の大きく 2 つの部分に分ける事とした。
さらに、前者については、分類識別文字1文字と種別名2文字の全3文字で表現することとした。
UECS のノードは PC 等と連携した動作を行える。この連係を容易にするには、ノードに最低限設けるべき CCM とそ
の内容を規定したほうが良い。UECS 機器の試作で組み入れた CCM および動作結果を参考に、規定案を作成した(表1)。
表1 ノードが最低限備えるべき CCM
種類
内容
機器動作状態
全てのノードに実装
定期的に動作状態を配信
全ての制御機器系ノードに実装
対象機器がどの様に動作しているかを配信
全ての制御機器系ノードに実装
PC などからの強制指示受け口
全ての制御機器系ノードに実装
手動操作盤ノード等からの強制指示受け口
制御機器運転状態
遠隔強制制御指示
遠隔強制動作指示
3. 互換性確保によって生まれる競争力強化の可能性
仮定の話ではあるが、競争力強化につながる可能性について述べてみる。
3.1.他システムとの連携
例えば、作業管理システムとの連携を考えてみよう。作業員が施設内で作業する際、作業員の労働環境を考慮し、遮光
カーテンを転調するなどして、植物生育の理想環境とは異なる条件にする場合がある。作業員の有無が判れば、自動的に
作業用環境と生育用環境とを切り替えられるだろう。また、UECS の設置は Ethernet という通信インフラを施設内に整
備する。これにより、作業管理システムなど通信インフラを用いる機器・システム導入が行いやすくなり、導入コストも
抑えられる。なお、作業管理システムは海外メーカの方が進んでいるが、国内でも開発・使用が始まっている。
スーパーホルトプロジェクト(SHP)の総合システム部会において、圃場運営ソフトウェアの規格化が検討されている。
栽培施設とのインタフェースは、UECS 規格が現状では有効であるため、SHP の規格ソフトウェアは、UECS との連携
が可能となる見込みである。
3.2.研究機関で作成されたソフトウェアがすぐに利用可能に
前述通り、UECS はオープン規格で、かつインフラにはポピュラーな Ethernet を用いている。通信文も文字列を用い
た XML 文体を使用している。このため、応用ソフトウェアは大学や研究機関でも作成可能である。
実際に、モデルハウスがある野菜茶業研究所では、何本かのソフトウェアが作成されている。
これは、従来は、単一メーカが行ってきたソフトウェア開発を、複数機関が同時並行で作成可能であるということで、
複数人、複数機関の英知を投入・集結できる。従来は、研究目的で作成したソフトウェアは、現場用に移植しないと生産
者は利用できなかったが、UECS 用に作成しておけば、改造することなく(多少の堅牢性向上が必要かもしれないが)
生産現場に用いることができる。
将来は、
「窓の杜」の様に「植楠(UECS)の杜」といった、ソフトウェアダウンロードサイトが出来るかもしれない。
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参考資料:EOLUS 説明書より抜粋
11. 共用通信子の概要
11.1. 共用通信子とは
共用通信子(CCM)とは、異なるノード間で同じ情報を共有するためのしくみです。
同一ネットワーク内に、情報の発信するノードがあり、他方、その情報をネットワーク経由で得て利
用したいノードがあったとします。これを通信で実現する方法として CCM があり、CCM を自動的
に受発信するためのしくみが、EOLUS に内蔵されている共用通信子マネージャです。
20℃なんだ
20℃ね
20℃だね
受信側
ノード
20℃だよ!
送信側
ノード
受信側
ノード
受信側
ノード
図 CCM によるノード間情報伝達の模式図
11.1.1. 識別子
CCM の内容が何であるかを示す文字列です。
識別子には命名規則があります。規格はこの識別子を統一したものです。
識別子は大小文字の区別をします。
EOLUS の共用通信子マネージャは、識別子の管理も行います。
11.1.2. 区分子
例えば、内気温を計測するノードが2台、同じネットワーク中に存在するとしましょう。これが、双
方とも内気温の情報を CCM で発信していたらどうなるでしょうか?受信側は異なる値の”内気温”の
CCM を受け取り、混乱をきたします。ですから、同一ネットワーク上には、同じ内容の CCM を発
信するノードは 1 台しか存在してはならない事になります。
20℃だよ!
送信側
ノード
20℃?
受信側
ノード
送信側
ノード
25℃?
どっち?
25℃だよ!
図 同じ CCM を発信するノードが2つ以上あると、混乱してしまう
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ですが、実際の温室ではどうでしょうか?
たとえば、1棟につき、温度センサを2点、天窓を6点、カーテンを2点、暖房を2点といった具合
に、1棟につき同じ種類の装置を複数つけることは良くあります。複数棟を一つのネットワークで管
理したいとなったら、1ネットワークに複数の同一種装置が接続されるのは確実です。
これに対応するために、区分子は存在します。
区分子は、「部屋番号、系統番号、通し番号」の3種類の番号で表されています。
部屋番号
系統番号
通し番号
温室の棟と棟を区別するための番号
温室内の系統を区別するための番号
同じ温室、同じ系統内に、複数の同一種の装置を付ける時に用いる識別番号
これにより、同一ネットワーク内に同じ装置が何台あっても対応できますし、どの棟のどの部分の装
置として動作させるかも設定できるわけです。
EOLUS の共用通信子マネージャは、区分子の管理も自動的に行います。
自分は系統1だから
20℃だね
自分は系統2
今 25℃です
自分は系統2だから
25℃!
系統1は 20℃だよ!
受信側
ノード
送信側
ノード
受信側
ノード
送信側
ノード
受信側
ノード
系統2は 25℃だよ!
図 区分子で送信側ノードを複数置けるし、設置部位も表現可能
系統番号とは
換気窓などは、「東側の側窓に2モータ設置し同一系統として制御」と言った具合に、温室内で装置
をグルーピングして動作させるといったこともします。この系統を表すための番号です。
“0”は特別な番号
区分子で”0”は特別な番号です。0 は、ワイルドカードを意味し、設定してある区分子に関係なく全
ての区分子に宛てた情報を意味します。
例えば、部屋番号、系統番号、通し番号を全て”0”にして”SampleData”という識別子の CCM を発信
したとすると、この識別子を使用する受信側ノードは、設定してある区分子に無関係に、この CCM
を受信します。
また、このワイルドカードは別の使い方もあり、例えば部屋番号=1、系統番号=3に属するすべて
のノードに、ある情報を渡したいときは、通し番号=0 にすればよい訳です。
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11.1.3. レベル
異なるノード間で情報をやりとりする場合、情報授受の通信頻度を上げておけば、ノード間での情報
の一致性は向上します。ですが、通信頻度が高いと、ネットワークの負荷や各ノードの通信文の処理
に負担がかかります。また、CCM でやり取りする情報には、1日に数回程度情報が回れば良い物も
あり、その様な情報は通信頻度を下げておいたほうが良い事になります。
そこで、CCM の通信にレベルを設けて、その情報が必要な通信頻度に応じて使い分けるようにしま
す。
レベル A
定期的に CCM を発信する。送信サイクルは、1秒、10 秒、1 分の中から選ぶ。
ブロードキャスト通信。
CCM の受信側ノードから要求があったときに、CCM を送信する。
ブロードキャスト通信。
CCM の受信側ノードから要求があったときに、CCM を送信する。
PtoP 通信。
レベル B
レベル C
全てのレベルには、送信側で値が変化した時に自動で CCM 発信(自動発信)するオプションを用意
してあります。
レベル
表記
送信周期
自動発信
備考
A
A-1S-0
A-1S-1
A-10S-0
A-10S-1
A-1M-0
A-1M-1
B-0
B-1
C-0
C-1
1秒
1秒
10 秒
10 秒
1分
1分
しない
する
しない
する
しない
する
しない
する
しない
する
“A-1S”と省略可能
B
C
“A-10S”と省略可能
“A-1M”と省略可能
“B”と省略可能
“C”と省略可能
EOLUS の共用通信子マネージャは、レベルの管理から、レベル A の周期発信、自動発信の管理も
自動的に行います。
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11.1.4. 優先順位
優先順位は、故障時のバックアップなどを実現する為のものです。
区分子の所で説明したように、同じ区分子で同じ CCM のノードが、同一ネットワーク上に存在する
と混乱がおきます。ですが、バックアップを設定しておくには、同じ CCM を発信するノードを、同
一の区分子に設定しておく必要があります。
そこで、優先順位が登場します。
バックアップ側ノードの CCM の優先順位を下げておくと、通常動作用のノードの CCM が途絶える
までバックアップ側ノードは CCM の発信を控えます。
同じように、受信側ノードも、今受信している CCM よりも優先順位の高い CCM を受信した場合は、
優先順位の高い CCM の値を用いるようになります。
20℃だよ!
20℃だね
今は 20℃
20℃!
受信側
ノード
優先順位 高
送信側
ノード
優先順位 低
受信側
ノード
送信側
ノード
受信側
ノード
21℃だけど、
待機中・・
故障発生
故障!!!
21℃だね
今は 21℃
21℃!
受信側
ノード
送信側
ノード
受信側
ノード
送信側
ノード
受信側
ノード
21℃だよ!
図 優先順位を付ける事で、バックアップや一時的な CCM の乗っ取りが可能になる。
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優先順位の表記
優先順位は 0-29 の数値で表します。値が低いほど優先順位が高くなります。
代替
標準
優先
各数値の優先順位の意味は、次の様にしています。
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
和名
最優先
高優先+
高優先
高優先-
優先+
優先
優先-
低優先+
低優先
低優先-
通常最優先
標準高+
標準高
標準高-
標準+
標準
標準-
標準低+
標準低
標準低-
代替最優先
代替高+
代替高
代替高-
代替+
代替
代替-
代替低+
代替低
代替低-
英名
top priolity
high priolity+
high priolity
high priolitypriolity+
priolity
priolitylow priolity+
low priolity
low priolitystandard top
high standard+
high standard
high standardstandard+
standard
standardlow standard+
low standard
low standardbackup top
high backup+
high backup
high backupbackup+
backup
backuplow backup+
low backup
low backup-
通常は、15 の「標準」を使用します。
優先順位を「優先」にした場合でも「代替」にした場合でも細かな優先順位の位置を設定できるよう
にしてあります。「優先」「標準」「代替」それに高、通常、低が設けられ、さらに”+”、”-”で”チョ
イ調整”が出来る様にしてあります。
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武豊研究拠点のモデルハウスにおけるUECSの運用経過および応用アプリケーションの作成
野菜茶業研究所
高収益施設野菜研究チーム
安場健一郎・黒崎秀仁
1.モデルハウスのUECS環境の概要および運用経過
愛知県武豊町にあるユニット工法ハウスに設
置している環境制御機器は, UECS 環境を利用
して運用しており,合計 18 個のノードが作動し
ている.現在,これらの機器は一元的にして管
理を行うのではなく,各ノードが発する通信文
をノード自身が判断して自立的に作動する自律
分散型の制御で作動させている.特殊な制御を
実施する必要性があったときには,PC から制御
用の通信文を LAN 内に送信し,各 UECS 機器
の設定値を変更したが,このようなケースにお
いても,強制的に各機器を作動させるのではな
野茶研(武豊)の UECS モデルハウス
く,自律分散機能を活用して制御を実施してい
る.通常の管理時には,簡易コンソールノードを接続して各機器をコントロールするか,もしくは,PC
から時間を示す通信文を LAN 内に定期的にブロードキャストして,時間だけをコントロールして管
理を行っている.
15 機以上の機器が常時稼働する状態から1年以上経過しているが,システム自体には停電時など
以外に問題は生じていない.
2.通信文モニターソフトウェアの開発
UECS 環境下では送信される通信文によって各ノードの状態が把握で
きる.そこで,温室環境や各機器の作動状況を把握する目的で,これ
らの通信文をモニターするソフトウェアを開発した.開発したソフト
ウェアは通信文を全て傍受し,1分ごとの通信文の値を保存し,日報
を作成する機能を有している.日報はインターネットに接続可能な環
境下では E-mail を利用して任意のアドレスに添付ファイルとして送信
する機能を有している.また,異常値を観測した場合には,その状況
を知らせる警報メールを送信する機能を有している.また,現在時か
ら 24 時間さかのぼった時点までの温度等のノードの値を FTP を通じて
インターネットスペース上にアップロードする機能も実装しており,
UECS 環境の LAN 外からモデル温室の各ノードの作動状況を把握する
ことが可能である.
警報メールの受信画面
現在,UECS 環境でトラブル(ハブの電源を誤って抜いた等)が発生した場合には,開発ソフトウ
ェアーを利用して温室の状況を把握しており,当モデルハウスのように多くの UECS 対応機器を作
動させる場合には,必要不可欠なソフトウェアではないかと考えている.
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UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
3.パーソナルコンピュータを利用したUECS機器の制御
研究実施上,複雑な制御を実施する必要性が生じたときには,PC から通信文を送信して各機器を
制御している.これらに対応するために xml で記述したタイムスケジュールのファイルを解釈し,
定期的に環境制御機器の設定値を変更する通信文を送信するソフトウェアーを作成している.このソ
フトウェアーを作動させる必要があったのは,モデル温室の南北で異なる温度管理を実施する必要が
あった場合,ハウスの結露を低減する調湿動作を行う場合,および近未来の温室環境を予測して環境
制御機器を作動させる試験を実施した場合の3回である.これらの制御を行う際に PC に特別な機器
を接続する必要はなく,UECS の LAN に接続し,ブロードキャスト通信を利用して簡単に環境制御
機器を制御可能である.これらのことを通じ
て,UECS 環境の高機能性と汎用性の高さを実
感できた.
調湿動作を実施した場合においては,暖房
機を稼働して,天窓を空ける必要性があった
がこれらの作動に関しても,強制的に機器を
稼働させるのではなく,暖房目標設定温度等
を変更し,動作自体は自律分散機能を活用し
て作動させている.この方法を用いると,温
室内の温度環境をある一定の範囲に維持しな
がら,除湿動作を実施することが可能である.
xmlで記述したUECS制御用設定ファイル
予測動作に関しては,UECS の LAN をインタ
ーネットに接続することを想定し,天気予報の
情報に応じて温室の換気目標値を設定する手法を試行した.現在,xml を利用した情報配信等が注目
されており,農業生産に有益な情報をインターネット上から受信することが今後容易になるであろう.
インターネットで流通する情報を加工して UECS 機器の環境制御に反映するノードや,有益な情報
を配信するサーバー等の開発も今後視野に入れていくことで,UECS の汎用性の高いフォーマットを
さらに有効活用できるのではないだろうか.
4.今後の野茶研(武豊)でのUECS に対する取り組み
今年度,新たにユニット工法ハウスを建設する予定にしており,建設予定ハウスの環境制御機器に
は UECS 環境を導入する予定にしている.現在のモデルハウスになかった給液管理,炭酸ガス施用,
細霧冷房等に関するノードの導入を予定しており,これらのノードの効率的運用に関して試験を実施
していく予定である.
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UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
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(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
UECS研究会セミナ「国際競争力を備えた環境制御システム実現に向けて」講演要旨
http://www.uecs.info
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(2007.8.6野菜茶業研究所武豊研究拠点)
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