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紅藻サンゴモ類の光合成および石灰化関連遺伝子の同定と
(様式2)若手研究者支援研究費 平成23年 2月23日 琉球大学 学長 岩 政 輝 男 殿 所属部局・職 熱帯生物圏研究センター 瀬底研究施設・産学官連携研究員 氏 名 加 藤 亜 記 平成22年度研究プロジェクト支援事業(若手研究者支援研究費)研究実績報告書 このことについて、以下のとおり報告いたします。 ➀研究課題 紅藻サンゴモ類の光合成および石灰化関連遺伝子の同定と発現解析 紅藻サンゴモ類は,体に炭酸カルシウムを硬く沈着する,サンゴ礁では主要な造礁生 物の1つであるが,近年の地球環境変動の影響による衰退が懸念されている。サンゴモ ➁研究の概要 類の成長には,光合成と石灰化の共役が推定されるため,これらに関わる遺伝子をマー カーとして用いれば,サンゴモ類の環境ストレスの影響評価につながると期待できる。 そこで,本研究では,光合成や石灰化に関与する遺伝子の同定ならびに,水温,光量, pH を制御した水槽実験を行い,目的の遺伝子の発現解析を行う。 ➂研究成果の概要 <研究材料の種同定> ・研究に用いた紅藻サンゴモを同定するため,組織切片を作成して観察し,DNA 塩基配列の決定を行い, 既存の配列と比較して,それぞれ,ミナミイシモ Lithophyllum kotschyanum とサモアイシモ Hydrolithon samoense に同定した。 <予備実験> ・紅藻サンゴモ類は,成長速度が遅いことが知られている。そこで,予定している実験期間で成長量を計測 可能なサンプル重量を把握するため,予備実験を行った。予備実験では,約 0.5gの塊状サンプルと,藻体 の枝やイボの先端を切り取った 50~100mg のサンプルについて,濾過天然海水を用いて,自然光のもと,2 週間と 4 週間育成を行った。そして,サンプル重量の計測については,電子天秤(0.1mg まで計量可能)によ る水中重量とマイクロ電子天秤 (0.001mg まで計量可能。Shimazu LIBROR AEM-5200)で湿重量を計測し た。湿重量計測は,計量中にサンプルの乾燥が進んで,重量が変化するので,計量台にサンプルをのせてか ら,30 秒後の値を計測した。その結果,電子天秤による水中重量については,いずれの期間とサンプル重量 の育成でも,計測値から成長量を把握できなかった。一方,マイクロ電子天秤による湿重量については, 50~100mg のサンプルを用いた 4 週間の育成期間で,成長量は,400ppm(コントロール)で,2.8~9.1mg, 1000ppm で,−1.7~8.0mg と把握可能だったので,サンプル重量と計測方法については,この条件を利用し, 育成期間も 4 週間以上が適当と判断した。 1/4 <水槽実験> ・紅藻サンゴモの 2 種,ミナミイシモとサモア イシモについて,水温 27 度,照度 40-60 µmol photon –m2 -s の条件下で,300, 400, 1000ppm の 3 段階の pCO2 ストレスを与えて,2 ヶ月間, 同じ水槽で育成した。サンプルの重量は,1 ヶ 月おきに計量した。その結果,いずれの場合も, 産業革命前レベルとされる 300ppm と現在の 400ppm の成長率には有意な差が見られなかっ たが,1000ppm においては,顕著に下がった。これは,複数の先行研究 の結果を支持する結果ではあるが, Rise ら (2009)のように,600, 800ppm で成長が促進される例も報告されていることから,400 から 1000ppm までの間の成長率についても確認する必要がある。 ・また,ミナミイシモの方が,サモアイシモよりも成長率が高かった。 しかし,ミナミイシモは,実験後半の 1 ヶ月で成長率が大きく下がった が,サモアイシモは,実験期間を通して一定の成長率であった。これは, 今回の実験条件が,ミナミイシモの長期の育成実験には不適であるため と言える。 <分子生物学的実験> ・水槽実験に用いた上記の紅藻サンゴモの 2 種について,ストレスを与 える前のサンプルから RNA 抽出を行い,cDNA を生成した。RNA 抽出 の際は,水槽で養生していたサンプルを直ちに液体窒素で凍結して粉砕 し,RNA 抽出キットを用いて,その方法に沿って抽出した。 ・抽出した RNA を使って,紅藻スサビノリの炭酸脱水素酵素 (carbonic anhydrase, CA)のプライマーを用 いて,PCR を行い,目的の遺伝子と推定される 1000bp 程度の DNA 断片の増幅を確認した。スサビノリの CA の全長は,1153bp(RT-PCR 産物は 743bp)で (Zhang et al. 2010), 紅藻カザシグサ Grifficia japonica では,全長 876bp (AY123054)と,分 類群によって配列長が少し異なるが, 概ね 1000bp と判断した。 その DNA 断片を電気泳動後のゲルから切り出して生成し,クローニングを試みた が,配列決定には至っていない。 ・そして,各 pCO2 条件下において育成したサンプルは,RNA 抽出の ため,実験終了後,ただちに液体窒素で凍結させ, 80℃で保存した。今 − 後,これらのサンプルについて cDNA を作製し,それぞれの条件下での CA の発現量をリアルタイム PCR で調べる予定である。 ・分子生物学的実験と合わせて,SEM による表面と断面の観察を行うため,サンプルの一部は,水洗し, シリカゲルで乾燥させた。 2/4 ➃研究成果の公表、あるいはその準備状況 <学会発表等> ポスター発表 タイトル:Effects of ocean acidification on crustose coralline algae Pre-workshop event of IPCC Workshop on ‘Impacts of ocean acidification on marine biology and ecosystems’(海洋酸性化の海洋生物と生態系への影響 IPCC 会合プレワークショップイベント 2011 年 1 月 16 日 名護市 万国津梁館) <今後の学会発表、論文発表の予定、ならびにその準備状況> 2011 年 10 月に韓国で開催される,アジア太平洋藻類学会議(APPF2011)での発表を予定しているので, 水槽実験のデータ考察と,追加の分子実験とサンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行う予定で ある。論文については,学会発表準備と同時に草稿作成を進める。 ➄科学研究費等の申請に向けた準備状況 <申請した科学研究費> 平成 23 年度 若手研究(B) 研究課題名:遺伝子マーカーを利用した石灰紅藻サンゴモの生育特性の解明 *若手研究者支援研究費の内容を踏まえ,検討種と遺伝子の数を増やした内容で申請中 平成 23 年度 新学術領域研究 サンゴ礁学 研究課題名:沖縄島のサンゴ礁域における紅藻無節サンゴモの種多様性と分布構造の解明 *今後,機能遺伝子によるサンゴモの種分化の解明を視野に入れているので,フィールドでのサンゴモの垂 直分布の実態を調査し,環境条件との相関を検証する内容で申請中。 上記 2 件の研究課題が採択されない場合は,他の研究助成に申請する予定である。 ➅今後の研究の展開、展望 本研究の成果は,1)紅藻サンゴモを用いた水槽実験 のための,サンプル調整方法や計量法,実験期間などの 基本的な条件と,2)サンゴモ 2 種の酸性条件に対する 応答の共通点と種間差,3)サンゴモから RNA 抽出を し,cDNA から炭酸脱水素酵素の遺伝子と推定できるバ ンドを得るまでの具体的な条件と方法について把握し たことである。今後は,本研究で得た実践的な研究方法 をもとに,機能遺伝子についての解析を行い,1)光合成−石灰化機構解明,2)環境モニタリングへの応 用,3)とくに機能遺伝子をマーカーとした種間比較を行う系統分類的研究へと展開する予定である。とく に,1)については,2)や3)の研究を進めるために,重点的に進めたい。 サンゴモ類の光合成では,石灰化も光合成に CO2 を供給する CCM と考えられているが,現在のところ, 3/4 その光合成戦略を遺伝子レベルで明らかにした研究は報告されていない。紅藻 では,CCM を持たない種も報告されており,こうした種は,水中の pCO2 濃度 が成長量に直接的に影響しやすいと推定されている(Hurd et al. 2009) 。実際, pCO2 を上昇させた場合,非石灰藻類では成長が良くなる場合が報告されている (Kuffner et al. 2008,Diaz-Pulido et al. 2010) 。先行研究では,有節サンゴモで石 灰化を阻害して培養した場合,成長中の枝の先端の第一節では光合成が阻害さ れるが,それ以下の成長を終えた節では影響を受けないことが報告されている (岡崎 2008) 。そのため,枝の第一節では,CA と石灰化の両方が CCM として働き,それ以外では CA のみ が働いているか,そもそもサンゴモ類では,石灰化のみが CCM で,CA による CCM はないのかもしれない。 そこで,石灰化と光合成の機構解明には,有節サンゴモを用い,水槽実験や溶存酸素量を計測する FiBox3 やクロロフィル蛍光を測定する Imaging-PAM 等を用いた光合成活性測定などを,分子生物学実験と合わせて 行うことを検討している。 <参考文献> Diaz-Pulido, G., Gouezo, M., Tilbrook, B., Dove, S. & Anthony, K. R. N. 2010. High CO2 enhances the competitive strength of seaweeds over corals. Ecology Letters 14:156-62 Hurd, C. L., Hepburn, C. D., Currie, K. I., Raven, J. A. & Hunter, K. A. 2009. Testing the effects of ocean acidification on algal metabolism: considerations for experimental designs. J. Phycol. 45: 1236-51. Kuffner, I. B., Andersson, A. J., Jokiel, P. L., Rodgers, K. S. & Mackenzie, F. T. 2008. Decreased abundance of crustose coralline algae due to ocean acidification. Nat. Geosci. 1: 114-17. 岡崎惠視 2008. 藻類の炭酸カルシウム形成−その機構と大気 CO2 循環への貢献−. 藻類 Jpn. J. Phycol. (Sorui) 56: 185-205. Zhang, B. Y., Yang, F., Wang, G. C. & Peng, G. 2010. Cloning and quantitative analysis of the carbonic anhydrase gene from Porphyra yezoensis. J. Phycol. 46: 290-96. * 上記について、概ね4ページ程度にまとめること。また、別途関連する資料類(論文別刷など)があれ ば添付すること。 ⑤費目別収支決算表 合計 申請書に 記載した経費 物品費 円 1,000,000 旅費 円 600,000 謝金等 円 100,000 その他 円 70,000 円 230,000 の使用内訳 決定通知書に 記載された 円 1,000,000 円 600,000 円 100,000 円 70,000 円 230,000 支給額内訳 実支出額の 使用内訳 円 1,000,000 円 813,835 円 1,709 4/4 円 91,200 円 93,256