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地域の経済成長と産業集積 ―製造業と卸小売業・サービス業の生産性―
地域の経済成長と産業集積 ―製造業と卸小売業・サービス業の生産性― 岐阜大学 三井 栄 岐阜県 溝口 晃洋* 1 はじめに 日本の経済成長率が低迷する中、各地域経済の動向には差異が生じており、特に労働生産性の地域間格差は 拡大傾向にある。そこで本稿では、地域における製造業と卸小売業・サービス業の産業集積と生産性に注目し、 各都道府県の特徴を把握するため、 生産性の代表的な指標である全要素生産性(TFP)の計測とその構造を分析し、 1990 年代と 2000 年代の成長性の特性比較を行う。 地域の製造業については『工業統計』をはじめとするデータが入手しやすく、大塚(2005)では全国と地域の TFP 水準の現状と構造分析、近畿経済産業局(2006)による近畿地域経済の生産性実態調査、辻(2005)では都道 府県別製造業の TFP 成長率と企業集積や都市化度の要因分析など様々な分析が行われている。 一方、卸小売業およびサービス業は、宮川(2008)で指摘されているように、経済産業省の『商業統計』や総 務省の『サービス業基本調査』では有形固定資産額の調査がないため資本ストックに関する都道府県別データ の入手が困難である。財務省(2002)では 1975~1998 年、Dekle(2002)では 1975~1995 年までの卸小売業および サービス業を含む各産業の TFP を計測しており、 「季刊国民経済計算」(経済企画庁) No.121 にある「地域勘定 の民間企業資本ストックの推計」の都道府県按分値を利用している。ただし、同推計値は後続の No.129 で再計 測された 2000 年までしか利用できない。 本稿では、卸小売業は『商業統計』の販売額と『県民経済計算年報』の都道府県別経済活動別生産額を用い て都道府県別に按分したデータを代替的に利用し TFP の試算を行う。サービス業の TFP は森川(2008)で『企業 活動基本調査』の個票データを用いて地域別 TFP を計測しているが、同様のデータを時系列で入手することは 困難であるため、情報サービス業、ゴルフ場、映画館、フィットネスクラブについて、 『特定サービス産業実態 調査』の県別面積データや売上高を資本ストックとして利用し TFP 計測を試みる。 本稿の構成は以下のとおりである。まず、関東、中部、近畿の 3 地域において製造業および卸小売業、サー ビス業(情報サービス業、ゴルフ場、映画館、フィットネスクラブ)の TFP を算出する。次に、全国の TFP の 変動要因を把握するため、内部効果、シェア効果、共分散効果に分解を行い、各産業における生産性と産業集 積の関連性および 90 年代と 00 年代の変化を考察する。さらに、都道府県間における TFP 成長率の差異の要因 を検証するために資本装備率及び労働生産性と比較を行う。 2 TFP の計測 各産業の TFP の計測に用いたデータの説明および TFP の導出方法は本文を参照されたい。 関東、中部、近畿の 3 地域ブロックのパネルデータによる管内都府県値の加重平均により求めた TFP 値(対 数値)の推移を図表 2-1 に示す。 製造業は、3 地域ともに上昇傾向にあり、特に 2000 年以降の成長率は高い。中部は相対的に高水準で推移し ているものの、2008 年の下落が目立つ。近畿経済産業局(2006)における 1995~2003 年の製造業の 3 地域ブロ ック別 TFP の計測結果とほぼ同じ動向である。 卸売業は、3 地域ともに上昇傾向にあり、特に中部の成長は著しい。一方、小売業は、関東がプラス水準で 横ばい、中部はゼロ水準で横ばい、近畿がマイナス水準でかつ下降傾向が目立つ。森川(2007)の 2001~2004 年の製造業に比べて小売業 TFP の 水準は低いが、卸売業 TFP の水準は高いという結果と整合的である。 情報サービス業は、地域間で差異が見られ、近畿は最も水準が高く、90 年代後半に落込みが見られるものの、 2000 年以降も上昇傾向が目立つ。次いで中部も同様の動向が見られるがその水準は低い。一方、関東は 90 年 代に上昇がみられるが、1998 年にゼロ水準まで低下し、その後はほぼ横ばいに推移している。 その他サービス業は 3 地域で類似した動向が見られ、ゴルフ場は低下傾向、映画館は 1997 年の中部を除き横 ばい傾向、フィットネスクラブは上昇傾向がみられる。 図表 2-1 3 地域別 TFP(管内都府県値の加重平均・対数値)の推移 ①製造業 0.6 0.52 0.5 0.45 0.45 0.41 0.4 0.37 0.31 0.3 0.26 0.2 0.20 0.19 0.18 0.17 0.13 0.14 0.1 0.05 関東 中部 近畿 0 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 ②-1 卸売業 ②-2 小売業 0.20 0.5 0.46 0.15 0.42 0.4 0.39 0.10 0.06 0.05 0.3 0.04 0.02 0.00 0.25 0.2 0.20 0.00 0.00 0.00 ‐0.05 ‐0.10 0.1 0.09 関東 中部 ‐0.15 近畿 関東 0.0 中部 近畿 ‐0.20 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 1994 ③-1 情報サービス業 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 ③-2-1 その他サービス業:ゴルフ場 0.1 0.20 関東 中部 近畿 0.06 0.05 0.15 0.10 0 0.05 ‐0.05 ‐0.02 0.02 0.01 0.00 ‐0.03 0.03 ‐0.1 ‐0.02 ‐0.03 ‐0.05 ‐0.15 ‐0.06 ‐0.17 ‐0.07 ‐0.10 ‐0.12 関東 ‐0.14 ‐0.14 ‐0.15 ‐0.2 ‐0.11 ‐0.11 ‐0.12 中部 近畿 ‐0.23 ‐0.25 ‐0.3 ‐0.20 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 ③-2-2 その他サービス業:映画館 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 ③-2-3 その他サービス業:フィットネス 1 0.45 0.41 0.4 関東 中部 0.8 近畿 0.35 0.6 0.3 0.54 0.25 0.4 0.38 0.2 0.15 0.15 0.1 0.2 0.09 0.07 0.01 0 0.05 ‐0.05 0 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 関東 中部 近畿 ‐0.2 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 3 TFP の変動要因と都道府県の特徴 本節では全国の TFP を算出し、その変動要因を考察する。まず、47 都道府県別パネルデータの平均との乖離 をとる。次に、t 年の全国の TFP 水準は、各地域の TFP 水準の加重平均として、 47 ln TFPt = ∑θ jt ln TFPjt (*) j =1 と定義する。ただし、ln TFPjt は全国 TFP 水準の対数値、ウエイトθ jt は t 年の地域 j の付加価値額対全国比で ある。大塚(2005)と同様に、Forster, Haltiwanger and Krizan(1998)の分解方法に従い、基準年(t-τ)から比較 (*) 年(t)にかけての全国 TFP 水準の変化を、近似的に以下 3 つの効果に分解する。t 年の全国の TFP 水準は、 式を用いる。 1.内部効果は個別地域の生産性成長を基準時点の産出シェアをウエイトとして評価した効果である。 47 ∑θ j =1 jt −τ Δ ln TFPjt 2.シェア効果は基準時点において生産性が地域間平均よりも高い地域が、その後産出規模を拡大することに よって、全国の生産性を上昇させる効果である。 47 ∑Δθ( ln TFP j =1 jt -ln TFPt −τ) jt −τ 3.共分散効果は生産性を上昇させた地域が同時に産出の相対的な規模を拡大することによって、全国の生産 性を上昇させる効果である。 47 ∑Δθ j =1 jt Δ ln TFPjt シェア効果と共分散効果を足したものを再配分効果といい、特定地域の生産特化の影響で生産性が成長する 効果であることを意味し、産業集積に伴う規模の経済性を表すものとして捉えられる。 ①製造業 上記式に従って全期間 1995~2008 年および、1995~2000 年、2000~2006 年、2006~2008 年の 3 期間ごとに 要因分解した結果を図表 3-1 に示す。TFP 成長率に対する内部効果の影響が大きく、寄与率は全期間をとおし て 90%以上に達している。シェア効果は非常に小さく、共分散効果との合計である再配分効果も小さいため、 各地域の生産性成長に伴い産出規模は拡大しているが、生産性の高い地域がさらに生産規模を拡大させるとい った産業集積の影響は相対的に小さいと考えられる。また、90 年代、00 年代ともに、TFP 成長率が上昇し、内 部効果、シェア効果、共分散効果は全てが増大している。特に、内部効果の寄与率は高く、2000~2006 年の TFP 上昇は個別地域内において製造業の生産性が向上した影響が大きい。同時に、シェア効果の寄与率はマイナス からプラスに転じており、高生産性地域の産出規模がさらに拡大し、加えて共分散効果が上昇しており、生産 性を上昇させた地域が同時に相対的な産出規模も拡大したことがわかる。 大塚(2005)における 1990 年代の再配 分効果が小さく、シェア効果は TFP に対し負の効果である結果と、権・金・深尾(2008)における内部効果が 2000 年代の TFP 上昇をもたらしたという結果と整合的である。 都道府県別にみると、1995 年時点の労働生産性は関東、中部、近畿地域および山口、岡山、広島、愛媛、大 分が非常に高く、3 地域以外の 5 県では資本整備率も高いことが特徴である。1995 年時点の水準は高くはない が、2000 年以降に成長率の高い県は青森、次いで和歌山、岡山、秋田、徳島、愛媛である。また、労働生産性 の向上が目立つ青森、和歌山、徳島では TFP の成長も著しい。 図表 3-1 年度別製造業 TFP 上昇率(固定基準年方式)分解結果(%) 期間 TFP成長率 1995-2008 寄与率 1995-2000 寄与率 2000-2006 寄与率 2006-2008 寄与率 1.986 100.00 0.212 100.00 1.115 100.00 0.659 100.00 内部効果 (合計) 0.137 6.88 0.012 5.72 0.080 7.14 0.045 6.80 1.850 93.12 0.200 94.28 1.035 92.86 0.614 93.20 再配分効果 シェア効果 共分散効果 0.004 0.133 0.20 6.67 -0.001 0.013 -0.25 5.97 0.003 0.077 0.28 6.86 0.001 0.043 0.22 6.58 ②卸小売業 全期間 1994~2007 年を 90 年代(1994~1999)と 00 年代(1999~2007)に分けて変動要因を探るため、卸売 業および小売業の TFP 上昇率の分解結果を図表 3-4 に示す。 卸売業については、内部効果、シェア効果、共分散効果いずれも上昇している。内部効果の寄与は90%を超 えており、各地域において卸売業の生産性が向上した。わずかながらシェア効果、共分散効果ともに上昇した ことより、生産性の高い地域の産出規模が若干高まり、産業集積に伴う効果がみられる。また、90年代、00年 代ともに類似した動向である。都道府県別の特徴を見ると、1994年時点の労働生産性は秋田、千葉、東京、神 奈川、兵庫、奈良、広島が高く、資本整備率は宮城、東京、愛知、大阪が相対的に高い。TFPが伸びた地域は、 三重、愛知、熊本、大阪、東京、京都、次いで神奈川をはじめとする関東や京都、政令指定都市を有する福岡、 北海道、広島、宮城も比較的伸びており、大都市圏において成長が見られる。中でも、1994年のTFP水準が高い 東京、愛知においては生産性がさらに上昇し、生産性の高い地域の産出規模が拡大したという要因分解の結果 と整合的である。全期間を通して労働生産性が伸びた三重、愛知、熊本、大阪ではTFP成長率は高く、90年代後 半に生産性が向上した地域において00年代も継続して生産性が向上する傾向がみられる。 小売業については、全期間を通して TFP 成長率が低く、TFP 成長に最も寄与した要因は、共分散効果である 一方、内部効果が極めて小さく、内部効果の寄与率が高い製造業や卸売業とは異なる。ただし、90 年代は内部 効果が高く、各地域の生産性上昇が TFP 成長率に寄与しており、製造業や卸売業と類似した動向が見られる。 しかし、00 年代になると、シェア効果、共分散効果が上昇するが、逆に内部効果が大きく低下し、その下落幅 が大きいため TFP 成長はマイナスとなり、00 年代には各地域における小売業の生産性が大きく低下したと推察 される。同時に、わずかながらシェア効果が減少しており、生産性の低い地域において集中度が高まったこと が示唆される。都道府県別の特徴を見ると、1994 年時点の労働生産性は製造業や卸売業に比較し非常に低く、 資本整備率は千葉、神奈川、滋賀、奈良が高い。また、全期間において TFP が高い三重、東京、沖縄、愛知、 熊本、大阪、神奈川、青森、愛媛において、1994~2007 年の TFP 値と、資本装備率および労働生産性の関連性 を見ると両変数とも高い相関がみられる。一方、鳥取、福井、高知、兵庫、岡山等の TFP 成長率が低い地域は、 資本装備率と労働生産性との間にほとんど相関が見られない。森川(2007)における小売業は生産性上昇率自体 が低く、生産性上昇に対する内部効果が製造業に比べて著しく小さいという結果と整合的である。 図表 3-4 年度別卸小売業 TFP 上昇率(固定基準年方式)分解結果(%) 卸売業 期間 1994-2007 寄与率 1994-1999 寄与率 1999-2007 寄与率 TFP成長率 内部効果 0.948 100.00 0.271 100.00 0.677 100.00 0.893 94.15 0.254 93.62 0.639 94.36 (合計) 0.056 5.94 0.018 6.50 0.039 5.71 小売業 再配分効果 TFP成長率 内部効果 シェア効果 共分散効果 0.013 1.39 0.003 1.26 0.010 1.44 0.043 4.55 0.014 5.25 0.029 4.27 0.074 100.00 0.084 100.00 -0.010 100.00 0.002 2.53 0.063 74.96 -0.061 630.38 (合計) 0.073 97.69 0.021 25.12 0.051 -531.38 再配分効果 シェア効果 共分散効果 0.011 14.84 0.004 4.53 0.007 -74.54 0.062 82.85 0.017 20.59 0.044 -456.84 ③-1 情報サービス業 全期間 1991~2004 年を 90 年代(1991~2000)と 00 年代(2000~2004)に分けて変動要因を探るため、情報 サービス業の TFP 上昇率の分解結果を図表 3-9 に示す。TFP 成長に対する内部効果の寄与率が高く、全期間を とおして約 95%であるが、シェア効果はわずかながらマイナスで、TFP 成長に負の影響を及ぼしている。90 年 代と 00 年代で比較すると、シェア効果がマイナスからプラスに転じたものの、内部効果、共分散効果が低下し ている。00 年代に入り TFP 成長の減速(-0.526 ポイント)の要因は地域内における生産性の低下であり、加えて 生産性が高い地域で生産性はより向上するものの、産出規模は縮小している。大塚・人見(2005)では対事業所 サービス業を中心としたサービス業の地域生産性格差について分析を行っており、サービス業の中でも情報サ ービス・調査の集積効果は突出して大きく、その格差はさらに拡大すると指摘している。都道府県別の特徴を 見ると、愛媛、福岡、大阪、和歌山をはじめとする西日本、とりわけ瀬戸内海近県で TFP の成長率が相対的に 高い。関東は 1991 年時点の TFP 水準が比較的高い地域が多いが、その後の成長率は低い。また、00 年代には 秋田、奈良、愛媛、佐賀、徳島、大分、三重において TFP 成長率が伸びている。1991 年時点の労働生産性は奈 良で非常に高く、伸び率は愛媛や福岡が高い。ただし、奈良県は情報サービス業に従事している人数が非常に 少ないことの影響が大きいと考えられると同時に、都道府県別に第 3 次産業に占める情報サービス業のウエイ トは異なるが生産性に反映できていない点にも注意を要する。 図表 3-9 年度別情報サービス TFP 上昇率(固定基準年方式)分解結果(%) 期間 1991-2004 寄与率 1991-2000 寄与率 2000-2004 寄与率 TFP成長率 0.844 100.00 0.685 100.00 0.159 100.00 内部効果 0.795 94.17 0.655 95.61 0.140 87.96 (合計) 0.049 5.78 0.030 4.35 0.019 11.95 再配分効果 シェア効果 -0.002 -0.22 -0.003 -0.51 0.002 1.05 共分散効果 0.051 6.00 0.033 4.86 0.017 10.90 ③-2 その他サービス業: 「ゴルフ場」 、 「映画館」 、 「フィットネスクラブ」 ゴルフ場について、全期間 1994~2004 年、90 年代(1994~2001) 、00 年代(2001~2004)の TFP 上昇率の分 解結果を図表 3-12 に示す。全期間おいて TFP はマイナス成長となっており、再配分効果が TFP 成長を引き上げ る一方で、内部効果のマイナス幅が大きい。90 年代から 00 年代にかけて、内部効果の減速幅は拡大しており、 各地域において生産性が低下している。一方で、シェア効果は変わらないものの共分散効果が減少しているた めこれまで生産性が上昇した地域において相対的な産出規模が縮小していると考えられる。 映画館について、全期間 1994~2004 年、90 年代(1994~2001) 、00 年代(2001~2004)の TFP 上昇率の分解 結果を図表 3-14 に示す。TFP はプラス成長しているが、製造業や他のサービス業とは異なり、再配分効果、な かでも共分散効果の寄与が大きく、内部効果はマイナスであることが特徴といえる。観測期間をとおしてみる と、内部効果は一貫して TFP の減速要因である一方、再配分効果は TFP の加速要因となっており、両者で相殺 された結果、TFP 成長率は小さい。各地域において TFP 成長が減速している中、生産性が上昇した地域では産 出規模が拡大したと推察される。 90 年代、 00 年代ともに内部効果は一貫してマイナス要因となっているものの、 その減速幅は小さくなっている。 フィットネスについて、全期間 1995~05 年、1995~1998 年と 1998~2005 年の TFP 上昇率の分解結果を図表 3-16 に示す。TFP はプラス成長しており、内部効果の寄与率は約 92%と大きいが、シェア効果はマイナスとな っているため、各地域で生産性が上昇しているものの生産性が平均より高い地域では産出規模が縮小したと考 えられる。一方、共分散効果の寄与率は約 19%であり、生産性が上昇している地域では相対的に産出規模を拡 大させ、全国の生産性向上に寄与した可能性が高い。1995~1998 年の TFP 成長率はわずかながらマイナスとな っており、そのほとんどが再配分効果、中でもシェア効果の影響であり、生産性が平均より高い地域において そのシェアが拡大しなったことが影響している。 しかし、 その後 2005 年にかけて、 共分散効果はプラスに転じ、 TFP 成長率も上昇する。 図表 3-12 年度別ゴルフ場 TFP 上昇率(固定基準年方式)分解結果(%) 期間 1994-2004 寄与率 1994-2001 寄与率 2001-2004 寄与率 TFP成長率 -0.494 100.00 -0.239 100.00 -0.254 100.00 内部効果 -0.514 104.10 -0.251 104.97 -0.262 103.28 (合計) 0.020 -4.10 0.012 -4.97 0.008 -3.28 再配分効果 シェア効果 共分散効果 -0.016 0.037 3.30 -7.40 -0.008 0.020 3.32 -8.29 0.017 -0.008 3.28 -6.56 図表 3-14 年度別映画館 TFP 上昇率(固定基準年方式)分解結果(%) 期間 1994-2004 寄与率 1994-2001 寄与率 2001-2004 寄与率 TFP成長率 0.011 100.00 -0.014 100.00 0.025 100.00 内部効果 -0.217 -2003.12 -0.169 1210.67 -0.048 -193.17 (合計) 0.228 2103.12 0.155 -1110.67 0.073 293.17 再配分効果 シェア効果 共分散効果 -0.004 0.232 -38.07 2141.18 -0.007 0.162 47.17 -1157.84 0.002 0.070 9.94 283.23 図表 3-16 年度別フィットネス TFP 上昇率(固定基準年方式)分解結果(%) 期間 1995-2005 寄与率 1995-1998 寄与率 1998-2005 寄与率 TFP成長率 0.952 100.00 -0.020 100.00 0.972 100.00 内部効果 0.877 92.17 0.000 0.00 0.877 90.28 (合計) 0.070 7.34 -0.017 87.29 0.087 8.98 再配分効果 シェア効果 共分散効果 -0.110 0.180 -11.55 18.89 -0.017 0.000 87.29 0.00 -0.093 0.180 -9.52 18.50 参考文献 大塚章弘、“地域製造業の全要素生産性に関する計量分析-生産性収束に関する統計的検討-”『電力経済研究』2005 、第 53 号. 大塚章弘、『産業集積の経済分析-産業集積効果に関する実証研究』 大学教育出版、2008 大塚章弘・人見和美、 “サービス業の地域生産性格差に関する構造分析-対事業所サービス・医療福祉サービスを中心に-”『電力 中央研究所報告』2005 近畿経済産業局、“近畿地域経済の生産性実態調査 調査報告書” 2006 是友修二・新家誠憲・阿部宏史、“バブル経済期前後における雇用増加率の地域間格差に関する産業連関分析”『日本地域学会地域学 研究』2009、第39巻、第3号、pp.709-725. 権 赫旭・金 榮愨、“企業活動基本調査の個票データによる商業の TFP 実測と正の退出効果の詳細分析” 、2008 権 赫旭・金 榮愨・深尾 京司、“日本の TFP 上昇率はなぜ回復したのか: 『企業活動基本調査』に基づく実証分析”、 2008 財務省財務総合政策研究所、“都道府県の経済活性化における政府の役割-生産効率・雇用創出からの考察-”、2002 辻 隆司、 “立地環境と技術進歩―都道府県別製造業の TFP の計測とその要因分析”『国民経済雑誌』191、2005、pp.1-20. 中島隆信、 『日本経済の生産性分析―データによる実証的接近―』日本経済新聞社、2001 峰滝和典、“日本の情報サービス産業の生産性分析:アウトソーシング・開発規模の経済性・参入退出構造・クラスターの視点” 2005. 宮川 努、 “経済統計をどのように再構築するか――JIP データベース作成の経験をもとに”『NIRA 研究報告書』2008、pp.17-28. 森川正之、“サービス産業の生産性は低いのか?―企業データによる生産性の分布・動態の分析―” 、2007 森川正之、“サービス産業の生産性と密度の経済学 ―事業所データによる対個人サービス業の分析―”、 2008 Dekle, R., “Industrial Concentration and Regional Growth: Evidence from the Prefectures,” Review of Economics Statistics, Vol. 84, No. 2, 2002. 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