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要旨(PDF形式 23 KB)
February 16, 2004 13:30-14:40 東京大学「技術革新、不確実性と経済政策」 議長:ペンシルヴァニア大学 報告者:東京大学 コメンテーター1 :東京大学 オリビア・ミッチェル教授 西村清彦教授、一橋大学 齊藤誠教授 元橋一之助教授 ・ 論文においては生産性を決定する重要な3要素として、モジュラー化、規模の経済、組 織形態が指摘されている。 ・ 情報サービス業の TFP 上昇率は3∼4%程度であり、経済全体の TFP の成長率は高く ても1%程度であることからは、IT 産業における TFP の高さが分かる。ただし、コン ピュータ産業、ハードウェアでは 20%∼30%以上であることを鑑みると、まだ遅れて いる。サービス産業として考えると、収益性や生産性を上げることは困難である。 ・ アウトソーシングの変数がマイナスになった原因をお伺いしたい。 ・ 規模の経済についても確認されたが、他に使える代理変数はないのか。例えば、ソフト ウェア産業は規模の経済が働く代表的な産業と言われているが、売上規模や製品あたり の売上データを得ることは困難である。パッケージソフトのシェア等、プロダクトミッ クスの情報をより使えば、規模の経済性の核心に迫れるのではないか。 ・ プリパッケージに特化した事業所の TFP の方が高い結果が出ており、これは規模の経 済性の表れではないか。 ・ TFP を求めるときのデフレータの問題も重要である。感度が高く、推計値も変わりうる からである。公式な日本のソフトウェア統計は日銀の CSPI であるが、これは労働生産 性の伸びをゼロと仮定している。米国ではカスタムもプリパッケージも両方価格を出し ており、それを基準にした調整価格を Jorgenson 氏との論文では使用している。例えば、 事業所のプロダクトミックスによりデフレータを変えることにより、プリパッケージに 特化しているところは TFP がより高くなるであろう。 ・ 製造業に関しては多くの分析事例が従来もあったが、サービス産業に関する分析は非常 に貴重な事例である。 コメンテーター 2 :一橋大学 岩本康志教授 ・ 後半部分にコメントをしたい。現在の日本では、投資需要が弱く、債券需要が強い。つ まり安全な資産を好みリスクを好まない。しかし、この論文においては、安全な資産が 求められているのではなく、流動性が求められているとみなしている。つまり流動性の ない資産を安全資産とは区別しなければならない。政府の大量な流動性の供給は、生産 的な非流動的資産への投資を妨げている。この点からは、日銀の政策が間違っているこ とが示唆される。 ・ モデルの設定について。ライフサイクルは三期となっており、中年と高齢時に消費が行 1 われる。資産は流動的な資産である貨幣と、非流動的な資産がある。貨幣は第二期、第 三期で使うことができる。非流動的な資産への投資リターンは第三期のみに得ることが できる。なお、実質利子率は安全であり、資産も安全と仮定されている。ここで問題と なるのは安全性ではなく、流動性である。 ・ Dutta and Kupor (1998)では、定額の移転が通貨発行権によりファイナンスされる。イ ンフレ下においては、非流動的な実物資産はトービン効果もあり魅力のあるものとなる が、流動性の制約は厳しくなる。 ・ この論文では基本的には二つの政策を考慮している。一つは定額の補助金であり、定額 税によりファイナンスされる。税は二種類あり、一つは中年にかかる税であり、リカー ドの中立命題が成立するとしているこれは理論的には、驚くべき結果であり、通常はこ の政策ではリカードの中立命題は成り立たない。これはサミュエルソンの賦存経済であ り、通貨は世代間の所得移転として機能する。中年から若い人への定額の移転は、通常 の世代間移転の方向と逆であり、この政策は通貨の機能を完全に相殺するものとなる。 通貨への需要が減ると、経済への効果は中立的となる。もう一つは高齢者にかかる税に より、定額移転分をファイナンスするものである。この場合は、厚生を改善させ、イン フレ政策よりも良いと論文は指摘する。 ・ 他の政策オプションとして、2種類の政策について考えたい。最初のものは、政府が国 債を発行し、非流動的な資産に投資をするというものである。しかしこの政策の目的は、 非流動的な資産への投資は流動性制約のない機関、つまり政府、によりなされることに ある。よく知られている財政投融資のような仕組みである。しかしこの政策には、副作 用がある。現実には政府の投資は非効率になる可能性がある。二点目の政策オプション としては、中年の消費者に政府が補助金を与えるというものである。流動性の制約に直 面しているのは中年の消費者である。この政策では流動性の制約のある人は高齢期から 中年期に資源を移転できない問題がある。この論文では補助金は若年層のみを対象とし ている。なぜ中年は対象となっていないのか。 ・ 次のコメントは現実における実効性の問題についてである。論文では、流動性の問題は 消費者のことか、企業のことか明確ではない。その際、補助金の対象を決めなければな らない。補助金が企業に行くのか、消費者に行くのかという点は非常に重要な点である。 ・ 企業へ補助金が行くと考えると、移転は消費者からの税により賄われているので、配分 の問題が生じる可能性がある。消費者から企業への所得の移転は政治的にも問題がある。 ・ 家計への補助金にも問題がある。どのようにして定額の補助金を行うのか。この政策で は、日本の若年層は、理由もなく補助金をもらうことを意味しているように思われる。 なぜ、このような補助金が実行されるのかという理由を考える必要がある。 ・ モデルにおける流動性制約は、一般の日本人にとっても関連しているのであろうか。こ のモデルでは、経済主体は多額の資金を非流動的な資産に投資する。これを担保にする なり、売買することはできないのか。非流動的な資産とは現実の世界ではどのようなも 2 のであろうか。著者は何がそれに相当すると考えているのか。中年層は実際に借入を受 けることはできないのであろうか。持家であれば、これを市場で売却することは容易で ある。このようにモデルを現実の世界で理解するには難しい点が何点かある。 ・ この論文では、問題が流動性であり、リスクテーキングではないということを証明して いないのではないか。単に実物資産が安全であるということを仮定しているだけである。 しかし現実では、実物資産にはリスクがあり、流動的ではない。リスクテークの問題と 流動性の問題を区別することは非常に難しい。問題がリスクテーキングにあるとするな らば、適切な政策はどのようなものになるであろうか。この二つの問題に対し適切な政 策が異なっているならば、われわれはどちらの世界に住んでいるのか、ということをま ず決定しなければならない。 内閣府経済社会総合研究所 香西泰所長 ・ 西村教授に質問がある。ここで得られた結果は、情報サービス業界一般の特徴なのか、 日本の情報サービス業界の特徴なのか。例えば、Linux については低い情報のコストに より規模の経済があるとしている。規模の不経済が見られたということは、日本の企業 間では情報コストが高いということを意味しているのか。 イェール大学 浜田宏一教授 ・ IT はレオンチェフのマトリクスに入れられるような性質を持つものではないか。 IT の特 徴はネットワークと外部経済である。この点は部分的に西村教授の論文で扱われていた。 需要に関する質問がある。あるファッション業のインド人学生によると、IT 化の進展に よりイメージ化がしやすくなり利益幅が小さくなったとの話もある。ホテルの予約を東 京ですると、170 ドルのものが、IT を使うと 100 ドルになってしまう。このような点が 西村教授の論文には入っていなかった。斉藤教授の論文については、日本は現在デフレ 下にあるということを認識する必要がある。モデルは理論的には非常に興味深いが、岩 本教授が指摘する通り、モデルの現実対応性に問題がある。例えば、日本では保険を利 用する事もできる。 ペンシルヴァニア大学 オリビア・ミッチェル教授 ・ ソフトウェア産業の規模の不経済は経済研究には関連のないことではないか。この論文 には 12 人の共同研究者が入っており、ネットワーキングはすばらしいものである。 インペリアル大学 デイヴィッド・マイルズ教授 ・ 2 つ目の論文について、金融市場は不完全であるというよりも、存在しないと仮定した ほうがモデル上では意味があるのではないか。このモデルでは、株式についても社債に ついても二次市場が存在しないとみなしても良いのであろうか。 3 東京大学 西村清彦教授 ・ 最初のペーパーに関し、なぜアウトソーシングの項がマイナスなのかという元橋教授の 指摘について。ソフトウェア産業は大手企業により支配されており、主たる顧客は政府 および大企業である。大手の顧客は特定の供給者と長期的な関係を持つ傾向にある。下 請け、孫請け的な業者の固定的な結びつきは、顧客の特定企業への過度の依存をもたら し、ソフトウェア開発に非効率をもたらす。これがアウトソーシングに関する問題の原 因である。効果的な競争が行われるのであれば、この問題は素早く解決するはずである。 ・ 規模の経済の測定については、プロダクトミックスと調整価格を使うことも検討したい。 ・ 今回の調査規模に匹敵する他国の調査がないので、推計結果が情報サービス産業特有の ものなのか、日本の情報サービス産業の特徴なのかという点については回答できない。 しかし、フィンランドでは事情が異なるように思われる。産業構造は生産性を決定する のに重要な役割を持つ。なお、需要側の問題については十分な情報がない。 一橋大学 齊藤誠教授 ・ 現実との距離という点について。確かにモデルは抽象的であるが、資本市場の機能不全 の下での流動性需要の高まりという,重要な政策課題に対応していると思う。このモデ ルでは,金融市場は全く機能していないが、たとえ,高度な金融的手段を導入したとし ても,情報の非対称性等から生じる深刻な問題が解消するわけではなく,このモデルの インプリケーションは,多くの場合,いぜんとして妥当である.流動的資産と非流動的 資産の間の選択のみを考えているという、岩本教授の指摘に同意する。しかし、現在の 政策論議においては、安全性とリスクの問題のみが考察対象となっており、流動的/非 流動的な資産間の選択に関する議論はなされていない。この論文により、政策論議に後 者の次元を導入したいと考えた。 4