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さつまいもの貯蔵(PDF)
さつまいもの貯蔵について Ⅰ 貯蔵用さつまいもの取り扱い 特に加工用さつまいもは取り扱いが雑になりがちなので,収穫から貯 蔵庫への搬入までに以下のことに留意する。 (1)前作がさつまいもの貯蔵性に影響する。 例)前作:キャベツ→貯蔵性を低下。麦,落花生→貯蔵性を向上。 (2)収穫の時点で,2∼3個でも病斑芋がみられたほ場のさつまいもは 貯蔵しない。特に潰瘍病(黒色斑点)であった場合,高温処理(後 述)を行う。 (3)収穫直後のさつまいもは呼吸量が高いので,1∼2日予措を行う。 (4)収穫時及び搬送中の過激な衝撃はさつまいもの貯蔵性を低下させ る。 ア 小型ハーベスター収穫の芋は貯蔵性に向くが,汎用型(大型)ハ ーベスターでの収穫法には改良が必要である。 イ 麻袋,フレコン詰めで輸送されたさつまいもは貯蔵に向かない。 (5)降霜後収穫したさつまいもは貯蔵しない。 Ⅱ 貯蔵性を向上させるための前処理法 (1)キュアリング処理 さつまいもの傷を癒し,腐敗の進行を防止する為に行う。高温(31∼ 33℃),高湿度(100%)下に7日間おき,さつまいもの傷口部にコル ク層を作る。処理後は12∼24時間以内に13℃前後まで放熱する。キュ アリング処理は傷口部のコルク層形成を早める処理であり,病原菌を死 滅させるものではない。病原菌に汚染されたさつまいもに対して通常の キュアリング処理を施すと,腐敗が促進される場合がある。青果用さつ まいもに対しては果皮色の低下を伴うためにキュアリングは行っていな い。 −66− (2)高温処理 特定の病原菌を死滅させ,かつコルク層形成を促進するために行う。 処理温度40℃,湿度100%で1.5日間処理する。この処理によって,黒 斑病,潰瘍病菌は死滅し,さつまいもの生菌数は約1/2に減少する。か つ傷口にはコルク層が2∼3層形成される。処理後は,高温処理庫から 出し,室温まで放冷した後貯蔵庫に搬入する。加工用のさつまいもの貯 蔵に対する生産者の認識が薄く,その栽培前歴がまちまちである現状を 考慮すると,高温処理は貯蔵性を大幅に向上させる効果がある。ただし, 品種によっては高温による内部黒変が発生する場合もあるので,事前の チェックが必要である。 写真1:さつまいもの腐敗部組織 をホモジナイズした後ガーゼでこし た濾液を爪楊枝でコガネセンガン の表皮部(マジックで○印)に接 種。保温室に3ヶ月貯蔵したとき の,接種部の腐敗状態。40℃処理 区では菌の繁殖がみられない。 無処理 キュアリング処理 高温処理 図1:さつまいもの腐敗部をホモ ジナイズした後ガーゼで漉した濾液 を,長さ1㎜と5㎜長さの針でコ ガネセンガンに接種。保温室に2 ヶ月貯蔵した時のさつまいもの腐 敗率(個数%)。棒上数値はコルク 層の数。通常のキュアリング処理 は組織深部に接種した菌に対して 腐敗抑止効果がない。40℃高温処 理は深部に接種した菌の繁殖を抑 え,かつコルク層が厚い。 (コガネセンガン:2ヶ月貯蔵) −67− Ⅲ.貯蔵条件 (1)貯蔵温度 さつまいもの貯蔵適温は13℃といわれているが,厳密には品種によっ て貯蔵適温は異なる。一般的に,貯蔵性が無いと言われる品種の貯蔵適 温は15℃付近にあり,貯蔵性のある品種では13℃が貯蔵適温である。前 者にはコガネセンガン,シロユタカ,ベニアズマ,ベニハヤト,後者に は高系14号,サツマヒカリ,シロサツマといったものがある。10℃以下 の低温では低温障害が発生し,活力が弱まってくるが,その組織は軟腐 病の発生源となる。低温に強い品種としては蒸し切り干しの原料となる タマユタカがあり,この品種は低温に遭遇しないと品質の良い粉ふき蒸 し切り干しができないと言われる。粉の成分はマルトースで,低温に遭 遇することで,でん粉から糖への変換が促進される。吊しサツマイモも 同じように低温に遭遇させ,でん粉から糖への変換を促進させるが,低 温に遭遇させる期間が限定される。 (2)湿 度 文献によると適正湿度は85∼90%とあるが,貯蔵温度が適正であれ ば100%が好ましい。湿度が低いとさつまいもの先端部が柔らかくなり (萎び)これが進行すると組織の活力が無くなり,病原菌の侵入をうけ る。湿度100%で空気の流れの無い雰囲気下では貯蔵でさつまいもを生 き生きした状態に保つことができる。冷却装置付きの大型冷蔵庫では庫 内空気が激しく撹拌されており,湿度は高いようでもさつまいもが萎び がちになるので注意する。 (3)ガス組成 さつまいもが貯蔵されている周りの雰囲気のガス組成もその貯蔵性に 大きな影響を及ぼす。さつまいもは収穫した後も呼吸しており,空気中 の酸素を吸収して炭酸ガスを排出する。そのために,密閉された貯蔵庫 の中の空気は低酸素,高炭酸ガス状態となる。貯蔵庫内の炭酸ガス濃度 が3%以上にならないように換気しなければならない。酸素濃度3∼ −68− 5%,炭酸ガス濃度が0%に近い雰囲気下ではCA貯蔵効果が発揮され, 普通空気中で貯蔵するより品質は良好に保たれる。さつまいもの品質劣 化に対しては,低酸素より高炭酸ガスの影響が大きい。 Ⅳ 貯蔵の方法 どのような貯蔵方式をとるかはその目的によって選択する必要がある。自 家消費用に少量貯蔵する場合は丸穴式(丸壺式) ,中規模,大量貯蔵の場 合は溝式貯蔵,横穴式貯蔵庫,定温貯蔵庫及び保温貯蔵庫が用いられて いる。丸穴式,溝式貯蔵,横穴式貯蔵,保温貯蔵庫はさつまいもの呼吸 熱を利用してさつまいもの貯蔵適温を保持するもので,外気温が高くな る4月以降は発芽によって品質が低下するので,貯蔵の限界は4月一杯 である。4月以降貯蔵する場合は,定温貯蔵庫が用いられる。代表的な 貯蔵法の概要を以下に記す。 (1)丸穴式貯蔵 一時は種子用,自家消費用のさつまいもを貯蔵するのに用いられてい たが,現在では少なくなった。模式図は図2に示すが,設置する場所は さつまいもを栽培した畑の一部で,地下水が低く,日当たりの良い南面 がよい。掘りとったさつまいもは傷をつけないように丁寧に扱う。 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 地面 気抜竹 いも わら覆(約15㎝) もみ殻またはムギ桿(約15㎝) わら蓋(約6㎝) 坂井健吉著「さつまいも」より抜粋 図2 丸穴式貯蔵模式図 (2)定温(低温)貯蔵庫 貯蔵温度,湿度が制御できるため,周年出荷が可能となる。本県にお いても大型貯蔵庫が普及しており,青果用さつまいもの有利販売に貢献 している。定温貯蔵の管理上で留意しなければならない事項を以下に記 −69− す。 ア 定温貯蔵庫では温度分布を均一にするため,強制的に送風するが, 風通りを良好にするため荷積みを工夫する(隙間無く詰め込まない ようにする) 。 イ 庫内空気が激しく攪拌されているので,湿度は高いようでもさつ まいもが乾燥しやすい条件下にある。外気温が低い冬場は冷凍機を 止め,出来る限り保温貯蔵につとめる(電気代の節約にもなる)。 ウ 温度センサー,湿度センサーの性能チェックは年1回必ず行う。 特に湿度センサーは万能といえるものがないので注意する。乾湿度 計を貯蔵庫内の数カ所にセットし,正常に作動しているかを把握す る(計器に頼りすぎているのは危険) 。 エ 最近の貯蔵庫に使う保温材は性能が高く,気密度も高い,反面炭 酸ガスが蓄積しやすいため,炭酸ガスが3%以上蓄積することがな いよう定期的に換気する。 (3)パイプハウス貯蔵庫 低コストで貯蔵できる方法として鹿児島県酒造組合と鹿児島県農産物 加工研究指導センターの共同で開発された。パイプハウス貯蔵庫の構造 は,図3に示すが,約1.5mの深さの穴を掘り,パイプハウスを組み立 てる。ハウス内が異常な高温にならないように丈夫な(台風にも耐える) アルミ蒸着フィルムを張る。さつまいもはコンテナに入れ,ほぼ満杯に なるように積み込み,保温シートを被せる。保温シートでの被覆がポイ ントで,これによってさつまいもの呼吸熱が蓄積され,冬場でも13℃前 後を保持できる。外気温が高くなる時期は,タイマーで外気導入ファン を作動させ,深夜の冷気を貯蔵室内に導入し,庫内の冷却を行う。この 貯蔵庫による貯蔵の限界は5月中旬までである。 −70− 図 3 写真2 写真3 写真4 図 3:パイプハウス貯蔵庫の模式図(15トン収容) 写真2:パイプハウス貯蔵庫の全景 写真3:パイプハウス貯蔵室に積み込まれたさつまいも 写真4:保温シートで被覆されたさつまいも 〔執筆担当機関:農産物加工研究指導センター〕 −71−