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教育年数の偏り,所得不平等 および経済成長

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教育年数の偏り,所得不平等 および経済成長
教育年数の偏り,
所得不平等
および経済成長
──都道府県別データによる接近──
橋
概
本
圭
司
要
都道府県別労働者の平均学歴年数の偏りあるいは不平等を,ジニ係数,
タイル指標その他の代表的な不平等指標を用いて指標化し,教育水準と教
育不平等との関係を,いわゆる教育クズネッツ曲線として捉えている.ま
た,所得不平等の指標として年間収入に基づくジニ係数を用い,1994 年
と 1970 年の差をとって被説明変数とし,初期水準(1970 年ないし 1971
年)における所得のジニ係数,平均教育年数,教育不平等指標および実質
経済成長率を説明変数として最小二乗法によって推定を行った.推定の結
果,所得の不平等の度合いの変化に対して,平均教育年数はプラス,教育
不平等および経済成長率はそれぞれマイナスの係数値が得られた.
Abstract
This study investigates the empirical relationship between educational inequality, income inequality and economic growth using the cross-section data of
Japanese prefectures 1970 and 1994. Income inequality is captured by Gini coefficients based on household expenditure data. As an index of educational inequality or dispersion, we apply the representative inequality measures to the
schooling years of labor force. We examine whether the changes of income inequality are associate with them. It finds that the changes in income inequality
have negative associations with the educational inequality and per capita income
growth, and have positive association with the level of education. These findings are robust to the inclusion of several control variables.
Key words : income inequality, educational inequality, economic growth
JEL classification numbers : O 15, I 21
―1
3
2―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
1.は じ め に
所得分配と経済成長の関係はいかなるものか.経済成長は所得不平等を
拡大するのかあるいは縮小するのか.クロス・カントリーデータを用いた
最近の研究では,若干の例外はあるものの,負の関係,すなわち経済が成
長するにつれて所得不平等は縮小するという結果が報告されている.
いうまでもなく,所得不平等,所得格差の説明要因として,教育は重大
な影響を持つ.教育と経済発展の関係は,往々にして途上国の場合に注
目,検証されてきたが,それにともなう所得格差,所得不平等への影響に
ついては,発展途上国だけでなく,日本のような経済的先進国の場合でも
検討されるべき問題である.しかしながら,経済成長と教育および所得不
平等との関係についての分析は十全とは言えない.
そこで,本論文では,1970 年から 1994 年の日本の都道府県別データに
より,教育不平等,所得不平等と経済成長の関係を実証的視点から分析す
ることとする.
本論文の叙述構成は以下のとおりである.まず,第 2 および 3 節で各県
の労働力の学校教育年数に基づき,代表的な不平等指標を用いて教育不平
等を指標化するとともに,それらと平均教育年数との関係をみる.第 4 節
では,所得不平等をそのジニ係数で捉え,経済成長率との関係をモデル化
し,その推定結果を提示する.第 5 節で結論的覚書を与える.
2.教育年数の偏り
これまでの先行研究では,所得不平等に影響を与える分析上の主要な変
数として,所得の成長率,人口増加,教育水準および教育の偏りその他の
経済構造を表す変数が取り上げられてきた.先行の研究では,クロス・カ
―1
3
3―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
ントリーデータを用いた Ahluwalia (1976) などが,教育が所得不平等と
関連を持っていることを見出している.また,より最近の研究では,教育
の 水 準 と そ の 偏 り と 所 得 不 平 等 と の 相 関 を 検証する研究とし て Park
(1996)は,労働力の教育水準が高まるほど所得不平等は低下し,教育の
偏りが大きいほど所得不平等が拡大するとの実証結果を報告している.
本論文では,クロス・カントリーデータを用いるのではなく,1 国のデ
ータを用いて分析を行う.そこには,Ram (1991) が指摘しているよう
に,いくつかの利点がある.すなわち,クロス・カントリーデータの場合
には,経済発展の諸過程でそれぞれの国に固有の内在的な違いが無視され
るのに比べて,一国の都道府県別のデータ場合には,そのような問題を避
けることができるからである.
周知のように,所得水準と所得不平等の関係については,経済発展が所
得分布に与える影響を分析した記念碑的な Kuznets (1955) の貢献があ
る.その一方で最近の研究では,所得あるいは富の分布が所得の成長にど
のような影響を持つかという視点から分析が行われている.
そのような分析視点において,人的資本の影響は重大であると考えられ
る.人的資本にもっとも影響与える要因は,言うまでもなく,教育であ
る.教育は往々にして,所得の強力な平等化要因 equalizer である.すな
わち,所得分布は,人的資本ないし教育の分布に大きな影響を受けると考
えられる.
Schultz(1963)は,所得不平等を軽減する一つの方法は人的資本の増大
であると述べているが,もちろん両者の関係はそれほど単純ではない.た
とえば,伝統的人的資本理論の主張とは裏腹に,たとえ人的資本が増大し
たとしても,資本市場の不完全性によって,初期時点での所得格差影響を
凌駕できないことは大いに考えられる事態であろう.
さて,われわれの分析の焦点は,教育の水準およびその偏りが,経済成
長とともに,所得不平等にどのような影響を与えるかという問題である.
―1
3
4―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
教育の水準そのものに関しては,それは,労働力の平均教育年数によって
捉えることができる.すなわち,
−
EDYEAR(S )=
! LS.
(1)
i i
i
ここで Li は,第 i 番目の学歴に対応する労働者の割合であり,Si は,
第 i 番目の学歴に対応する教育年数である.日本の教育制度の場合に
は,それぞれの学歴は,(i)小学校・中学校卒,(ii)高等学校卒,(iii)
高専・短大卒および(iv)大卒以上,である.それゆえ,Si (i =1, 2, 3,
4)には,それぞれ,9, 12, 14 および 16 年をはてはめた.表 1,表 2 に
は,1971 年と 1997 年の両時点における学歴別労働者数とそのシェア,平
均教育年数が示されている.
一方,教育年数の偏りあるいは不平等に関しては,いくつかの代表的な
不平等指標を労働力の教育年数の場合に適用して指標化する.
まず,ジニ係数は,(2)式によって計算される.
EDGINI =
表1
北海道
青 森
岩 手
宮 城
秋 田
山 形
1−
2S
!!
i
j
∧
∧
|xi−xj|NiNj.
(2)
学歴別労働者数(千人)
(1971 年)
中学卒
高校卒
高専・短大・大卒以上
総計
平均教育年数
1322
(56.6%)
454
(67.6%)
478
(69.2%)
458
(53.7%)
403
(66.7%)
399
(64.3%)
785
(33.6%)
179
(26.6%)
167
(24.2%)
302
(35.4%)
165
(27.3%)
187
(30.1%)
228
(9.8%)
39
(5.8%)
46
(6.7%)
93
(10.9%)
36
(6.0%)
35
(5.6%)
2335
10.69
672
10.21
691
10.19
853
10.83
604
10.24
621
10.30
―1
3
5―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
表 1 (続き)
福 島
茨 城
栃 木
群 馬
埼 玉
千 葉
東 京
神奈川
新 潟
富 山
石 川
福 井
山 梨
長 野
岐 阜
静 岡
愛 知
三 重
滋 賀
京 都
大 阪
中学卒
高校卒
高専・短大・大卒以上
総計
平均教育年数
628
(66.0%)
692
(63.0%)
483
(59.1%)
513
(58.6%)
896
(48.1%)
772
(47.2%)
1735
(32.9%)
997
(37.9%)
801
(65.4%)
325
(59.3%)
310
(59.8%)
256
(63.1%)
209
(55.4%)
607
(56.7%)
569
(62.1%)
900
(56.8%)
1484
(53.6%)
491
(63.6%)
278
(59.4%)
444
(41.8%)
1462
(41.7%)
272
(28.6%)
337
(30.7%)
275
(33.7%)
299
(34.2%)
691
(37.1%)
613
(37.40%)
2224
(42.2%)
1078
(41.0%)
344
(28.1%)
178
(32.5%)
164
(31.7%)
122
(30.0%)
135
(35.8%)
388
(36.2%)
278
(30.3%)
555
(35.0%)
985
(35.6%)
223
(28.9%)
152
(32.5%)
455
(42.9%)
1543
(44.0%)
51
(5.4%)
70
(6.4%)
59
(7.2%)
63
(7.2%)
275
(14.8%)
252
(15.40%)
1315
(24.9%)
553
(21.0%)
80
(6.5%)
45
(8.2%)
44
(8.5%)
28
(6.9%)
33
(8.8%)
76
(7.1%)
69
(7.5%)
130
(8.2%)
298
(10.8%)
58
(7.5%)
38
(8.1%)
162
(15.3%)
502
(14.3%)
951
10.23
1099
10.37
817
10.52
875
10.53
1862
11.15
1637
11.20
5274
12.01
2628
11.70
1225
10.30
548
10.55
518
10.54
406
10.38
377
10.69
1071
10.58
916
10.44
1585
10.62
2767
10.82
772
10.39
468
10.54
1061
11.36
3507
11.32
―1
3
6―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
表 1 (続き)
兵 庫
奈 良
和歌山
鳥 取
島 根
岡 山
広 島
山 口
徳 島
香 川
愛 媛
高 知
福 岡
佐 賀
長 崎
熊 本
大 分
宮 崎
鹿児島
沖 縄
総 計
中学卒
高校卒
高専・短大・大卒以上
総計
平均教育年数
1035
(47.3%)
205
(48.9%)
275
(55.8%)
174
(56.9%)
264
(65.2%)
466
(51.9%)
580
(47.1%)
374
(50.6%)
249
(64.5%)
260
(53.9%)
412
(59.7%)
251
(62.1%)
761
(42.7%)
231
(58.5%)
398
(60.4%)
480
(60.2%)
292
(53.4%)
319
(63.8%)
531
(65.6%)
128
(26.9%)
853
(39.0%)
159
(37.9%)
177
(35.9%)
110
(35.9%)
116
(28.6%)
355
(39.5%)
516
(41.9%)
297
(40.2%)
111
(28.8%)
182
(37.8%)
221
(32.0%)
123
(30.4%)
782
(43.8%)
134
(33.9%)
207
(31.4%)
259
(32.5%)
206
(37.7%)
146
(29.2%)
226
(27.9%)
271
(57.1%)
300
(13.7%)
55
(13.1%)
41
(8.3%)
22
(7.2%)
25
(6.2%)
77
(8.6%)
135
(11.0%)
68
(9.2%)
26
(6.7%)
40
(8.3%)
57
(8.3%)
30
(7.4%)
241
(13.5%)
30
(7.6%)
54
(8.2%)
58
(7.3%)
49
(9.0%)
35
(7.0%)
52
(6.4%)
76
(16.0%)
2188
11.13
419
11.06
493
10.66
306
10.58
405
10.29
898
10.79
1231
11.03
739
10.85
386
10.33
482
10.71
690
10.54
404
10.43
1784
11.26
395
10.55
659
10.52
797
10.48
547
10.76
500
10.37
809
10.29
475
11.83
26051
18547
(51.3%) (36.5%)
6149
(12.1%)
50747
10.94
―1
3
7―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
表2
北海道
青 森
岩 手
宮 城
秋 田
山 形
福 島
茨 城
栃 木
群 馬
埼 玉
千 葉
東 京
神奈川
新 潟
富 山
石 川
福 井
山 梨
長 野
岐 阜
学歴別労働者数(千人)
(1997 年)
中学卒
高校卒
695
(24.4%)
225
(30.0%)
240
(31.7%)
249
(21.1%)
167
(27.2%)
174
(26.2%)
287
(26.1%)
378
(24.1%)
258
(24.2%)
266
(24.5%)
607
(16.9%)
476
(15.7%)
784
(12.3%)
572
(13.3%)
367
(27.4%)
142
(22.5%)
147
(22.8%)
118
(26.0%)
95
(19.7%)
246
(20.0%)
306
(26.4%)
1450
(50.9%)
393
(52.5%)
371
(49.0%)
632
(53.5%)
332
(54.1%)
360
(54.1%)
591
(53.7%)
794
(50.6%)
551
(51.6%)
551
(50.8%)
1679
(46.8%)
1405
(46.4%)
2611
(41.1%)
1825
(42.3%)
702
(52.5%)
318
(50.4%)
313
(48.5%)
230
(50.7%)
249
(51.6%)
657
(53.4%)
557
(48.1%)
高専・短大卒 大卒以上
総計
平均教育年数
340
(11.9%)
66
(8.8%)
72
(9.5%)
122
(10.3%)
54
(8.8%)
59
(8.9%)
109
(9.9%)
167
(10.7%)
123
(11.5%)
133
(12.3%)
533
(14.9%)
444
(14.7%)
1000
(15.7%)
672
(15.6%)
127
(9.5%)
81
(12.8%)
83
(12.9%)
46
(10.1%)
66
(13.7%)
164
(13.3%)
132
(11.4%)
2846
12.01
749
11.62
757
11.63
1181
12.18
614
11.76
665
11.83
1101
11.83
1568
12.07
1067
12.01
1085
12.01
3587
12.65
3027
12.75
6350
13.18
4312
13.07
1338
11.79
631
12.15
645
12.21
454
11.95
483
12.29
1231
12.20
1158
12.00
―1
3
8―
361
(12.7%)
65
(8.7%)
74
(9.8%)
178
(15.1%)
61
(9.9%)
72
(10.8%)
114
(10.4%)
229
(14.6%)
135
(12.7%)
135
(12.4%)
768
(21.4%)
702
(23.2%)
1955
(30.8%)
1243
(28.8%)
142
(10.6%)
90
(14.3%)
102
(15.8%)
60
(13.2%)
73
(15.1%)
164
(13.3%)
163
(14.1%)
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
表 2 (続き)
静 岡
愛 知
三 重
滋 賀
京 都
大 阪
兵 庫
奈 良
和歌山
鳥 取
島 根
岡 山
広 島
山 口
徳 島
香 川
愛 媛
高 知
福 岡
佐 賀
長 崎
熊 本
中学卒
高校卒
516
(24.8%)
883
(23.4%)
255
(26.0%)
142
(21.1%)
225
(17.2%)
745
(17.0%)
484
(18.1%)
92
(13.5%)
133
(24.8%)
69
(21.1%)
122
(30.6%)
182
(17.9%)
227
(15.3%)
146
(19.0%)
104
(25.1%)
103
(19.0%)
186
(24.6%)
122
(29.0%)
377
(15.8%)
113
(25.1%)
191
(26.2%)
214
(23.3%)
1029
(49.4%)
1721
(45.6%)
484
(49.4%)
319
(47.5%)
635
(48.7%)
2102
(47.9%)
1263
(47.1%)
311
(45.7%)
273
(50.9%)
182
(55.7%)
194
(48.6%)
551
(54.2%)
751
(50.5%)
432
(56.1%)
200
(48.3%)
285
(52.7%)
364
(48.2%)
202
(48.1%)
1249
(52.3%)
238
(52.8%)
376
(51.6%)
482
(52.4%)
高専・短大卒 大卒以上
総計
平均教育年数
243
(11.7%)
476
(12.6%)
102
(10.4%)
89
(13.2%)
177
(13.6%)
596
(13.6%)
341
(12.7%)
101
(14.8%)
56
(10.4%)
33
(10.1%)
37
(9.3%)
126
(12.4%)
228
(15.3%)
82
(10.6%)
46
(11.1%)
67
(12.4%)
92
(12.2%)
47
(11.2%)
323
(13.5%)
46
(10.2%)
74
(10.2%)
105
(11.4%)
2083
12.06
3775
12.29
979
11.99
672
12.36
1305
12.58
4387
12.62
2680
12.60
681
12.93
536
12.02
327
12.09
399
11.73
1017
12.33
1487
12.60
770
12.22
414
12.09
541
12.31
755
12.10
420
11.82
2389
12.53
451
11.93
728
11.89
920
12.05
―1
3
9―
295
(14.2%)
695
(18.4%)
138
(14.1%)
122
(18.2%)
268
(20.5%)
944
(21.5%)
592
(22.1%)
177
(26.0%)
74
(13.8%)
43
(13.1%)
46
(11.5%)
158
(15.5%)
281
(18.9%)
110
(14.3%)
64
(15.5%)
86
(15.9%)
113
(15.0%)
49
(11.7%)
440
(18.4%)
54
(12.0%)
87
(12.0%)
119
(12.9%)
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
表 2 (続き)
中学卒
117
(18.9%)
162
宮 崎
(27.4%)
206
鹿児島
(23.9%)
128
沖 縄
(23.0%)
363
(58.6%)
301
(50.9%)
468
(54.3%)
271
(48.7%)
高専・短大卒 大卒以上
62
(10.0%)
58
(9.8%)
89
(10.3%)
76
(13.7%)
総計
平均教育年数
77
(12.4%)
70
(11.8%)
99
(11.5%)
81
(14.6%)
619
12.13
591
11.85
862
11.95
556
12.17
13043
31617
8365
12168
(20.0%) (48.5%) (12.8%) (18.7%)
65193
12.40
大 分
総 計
高校卒
∧
ここで i と j は,学歴をあらわし,Ni はそれに対応する労働者数,xi(i
=1, 2, 3, 4 であり,日本の学歴制度の場合には x1=9, x2=3, x3=2, x4=4 である)
は,それぞれの学歴の場合の累積教育年数をあらわしている.すなわち,
それぞれの値は,以下のとおりである.
∧
∧
∧
∧
x1≡x1, x2≡x1+x2, x3≡x1+x2+x3, x4≡x1+x2+x3+x4.
(3)
(2)式で算定される教育ジニ係数あるいは人的資本ジニ係数は,Castello
and Domenech(2000)が指摘しているように,人的資本の分布を異なる地
域あるいは時点での比較を可能にする新しい指標である.また,従来人的
資本の偏りの指標として用いられてきた標準偏差と比較してみると,標準
偏差の場合には,分布の平均の差を考慮していないという欠点を持つのに
対して,ジニ係数の場合にはそのような問題が生じないという利点をもっ
ている.
また,他にも二つの代表的な不平等指標を計測することにしよう.
その第一は,Bourguignon の“L ”指標である.これは,その取り扱い
の容易さから Ram(1991)が推奨しているものである.
―1
4
0―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
!
!
i=1
i=1
n
n
EDL=ln[(1/n) xi]−(1/n) lnxi
(4)
ここで n と xi は,それぞれ,労働者数と彼らの教育年数をあらわして
いる.ln は自然対数である.
もう一つの指標は,タイル指標である.それは以下の式で計算される.
!
n
ETHEIL=(1/n) (xi / µ )ln(xi / µ ).
(5)
i=1
ここで µ は(1)式で示された,労働者の平均教育年数をあらわしてい
る.
表 3 では,ここで示された 3 つの不平等指標の計測値が,それぞれ 1971
年と 1997 年の場合について,その差とともに示されている.
表3
北海道
青 森
岩 手
宮 城
秋 田
山 形
福 島
茨 城
栃 木
群 馬
埼 玉
千 葉
東京都
神奈川
新 潟
富 山
石 川
教育不平等指標
1971 年,1997 年
ジニ係数
Bourguignon’s L
タイル指標
EDGINI
EDL
ETHEIL
1971
1997
差
1971
1997
差
1971
1997
差
0.1019
0.0859
0.0872
0.1048
0.0870
0.0876
0.0856
0.0905
0.0944
0.0945
0.1124
0.1133
0.1175
0.1171
0.0896
0.0972
0.0979
0.0954
0.0927
0.0978
0.0931
0.0916
0.0921
0.0919
0.0974
0.0947
0.0954
0.0965
0.0960
0.0948
0.0956
0.0940
0.0957
0.0986
−0.0064
0.0069
0.0106
−0.0117
0.0047
0.0045
0.0063
0.0069
0.0003
0.0009
−0.0158
−0.0172
−0.0227
−0.0215
0.0044
−0.0015
0.0007
0.0194
0.0157
0.0165
0.0201
0.0159
0.0157
0.0153
0.0164
0.0172
0.0172
0.0222
0.0225
0.0238
0.0236
0.0165
0.0181
0.0184
0.0165
0.0159
0.0171
0.0160
0.0157
0.0158
0.0157
0.0171
0.0163
0.0165
0.0166
0.0165
0.0162
0.0164
0.0162
0.0165
0.0173
−0.0029
0.0002
0.0007
−0.0041
−0.0002
0.0001
0.0004
0.0006
−0.0009
−0.0007
−0.0056
−0.0060
−0.0076
−0.0072
−0.0003
−0.0016
−0.0011
0.0203
0.0168
0.0177
0.0210
0.0170
0.0166
0.0163
0.0174
0.0181
0.0181
0.0229
0.0232
0.0238
0.0238
0.0176
0.0191
0.0194
0.0163
0.0158
0.0171
0.0158
0.0156
0.0157
0.0156
0.0169
0.0161
0.0163
0.0162
0.0161
0.0156
0.0158
0.0161
0.0163
0.0170
−0.0041
−0.0010
−0.0007
−0.0051
−0.0014
−0.0009
−0.0007
−0.0005
−0.0020
−0.0018
−0.0067
−0.0071
−0.0082
−0.0080
−0.0015
−0.0028
−0.0024
―1
4
1―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
表 3 (続き)
ジニ係数
EDGINI
福 井
山 梨
長 野
岐 阜
静 岡
愛 知
三 重
滋 賀
京都府
大阪府
兵 庫
奈 良
和歌山
鳥 取
島 根
岡 山
広 島
山 口
徳 島
香 川
愛 媛
高 知
福 岡
佐 賀
長 崎
熊 本
大 分
宮 崎
鹿児島
沖 縄
タイル指標
Bourguignon’s L
EDL
ETHEIL
1971
1997
差
1971
1997
差
1971
1997
差
0.0920
0.0992
0.0945
0.0943
0.0976
0.1045
0.0936
0.0969
0.1099
0.1077
0.1097
0.1090
0.0980
0.0948
0.0887
0.0985
0.1032
0.0999
0.0908
0.0980
0.0972
0.0940
0.1067
0.0957
0.0969
0.0943
0.0997
0.0920
0.0892
0.0954
0.0974
0.0928
0.0903
0.1004
0.0983
0.1030
0.0993
0.0994
0.0957
0.0964
0.0986
0.0942
0.0970
0.0897
0.0998
0.0897
0.0908
0.0884
0.1006
0.0922
0.0997
0.0996
0.0905
0.0938
0.0955
0.0937
0.0846
0.0967
0.0912
0.0975
0.0054
−0.0064
−0.0042
0.0061
0.0007
−0.0014
0.0057
0.0024
−0.0141
−0.0114
−0.0111
−0.0148
−0.0011
−0.0051
0.0111
−0.0088
−0.0124
−0.0115
0.0098
−0.0058
0.0025
0.0056
−0.0162
−0.0019
−0.0014
−0.0006
−0.0152
0.0047
0.0021
0.0021
0.0169
0.0184
0.0170
0.0176
0.0180
0.0200
0.0175
0.0181
0.0212
0.0206
0.0213
0.0212
0.0181
0.0171
0.0162
0.0180
0.0193
0.0184
0.0168
0.0179
0.0182
0.0175
0.0203
0.0175
0.0182
0.0173
0.0184
0.0170
0.0164
0.0174
0.0171
0.0157
0.0151
0.0178
0.0172
0.0185
0.0176
0.0175
0.0165
0.0166
0.0173
0.0159
0.0170
0.0152
0.0177
0.0150
0.0151
0.0148
0.0179
0.0156
0.0176
0.0176
0.0151
0.0162
0.0166
0.0161
0.0140
0.0169
0.0155
0.0169
0.0001
−0.0027
−0.0019
0.0003
−0.0008
−0.0015
0.0000
−0.0006
−0.0048
−0.0040
−0.0040
−0.0052
−0.0011
−0.0019
0.0015
−0.0030
−0.0042
−0.0035
0.0011
−0.0023
−0.0006
0.0001
−0.0052
−0.0014
−0.0016
−0.0012
−0.0044
−0.0001
−0.0009
−0.0004
0.0180
0.0193
0.0178
0.0186
0.0189
0.0208
0.0186
0.0190
0.0217
0.0210
0.0220
0.0219
0.0189
0.0179
0.0172
0.0187
0.0199
0.0190
0.0178
0.0187
0.0192
0.0185
0.0207
0.0184
0.0192
0.0182
0.0192
0.0181
0.0175
0.0675
0.0169
0.0155
0.0149
0.0176
0.0170
0.0182
0.0174
0.0172
0.0161
0.0162
0.0169
0.0155
0.0168
0.0150
0.0176
0.0148
0.0147
0.0146
0.0177
0.0154
0.0174
0.0174
0.0148
0.0160
0.0164
0.0159
0.0138
0.0168
0.0154
0.0167
−0.0010
−0.0038
−0.0029
−0.0010
−0.0019
−0.0026
−0.0013
−0.0019
−0.0056
−0.0048
−0.0051
−0.0064
−0.0021
−0.0029
0.0004
−0.0039
−0.0051
−0.0044
−0.0002
−0.0033
−0.0018
−0.0011
−0.0059
−0.0024
−0.0028
−0.0024
−0.0054
−0.0013
−0.0021
−0.0509
3.教育拡大と教育不平等:教育クズネッツ曲線
所得不平等と所得水準の関係については,Kuznets の記念碑的な研究が
あるが,ここで,教育水準と教育不平等の関係について,Ram(1990)の
―1
4
2―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
手法に倣い,いわゆる教育クズネッツ曲線の存在について,検討する.
教育拡大と教育不平等の関係について,回帰分析による推定を行う.推
定式は以下のようなものである.
EDINEQ = α EDYEAR + β EDYEAR 2+z.
(6)
ここで,EDINEQ は教育不平等の指標であり,また,EDYEAR は平均
教育年数であり,前節の(1)式で算定された EDYEAR と同じである.
α , β は,それぞれ推定係数であり,z は撹乱項である.定数項を含んで
いないのは,Ram(1990)が指摘しているように,平均教育年数は非負の
値しかとらず,かつそれがゼロの場合には不平等の指標もゼロとなること
を考慮してのことである.
なお,(6)式のような,2 次項を含んだ関数形は,教育不平等の度合い
が平均教育年数の増大とともに,増加,減少あるいは一定となる可能性を
考慮したものである.
推定にあたっては,教育不平等の指標として,前節で算定した教育ジニ
係数,Bourguignon の L,およびタイル指標の 3 つの場合について推定を
行う.1971 年のデータによる推定結果は,表 4 に示されている.
表 4 からあきらかなように,平均教育年数との関係では,不平等指標
表4
教育不平等と平均教育年数(1971)
EDYEAR
EDYEAR 2
R2
F
教育ジニ係数
−5.64 E−04
(−0.622)
9.11 E−04
(10.770)
0.904
423.42
Bourguignon’s L
−1.28 E−03
(−5.099)
2.80 E−04
(11.991)
0.885
346.53
タイル指標
−5.63 E−04
(−2.055)
2.21 E−04
(8.642)
0.832
224.48
教育不平等指標
注:括弧内は t 値.
―1
4
3―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
を,教育ジニ係数,Bourgiginon の L およびタイル指標とした場合すべて
において,EDYEAR 2 の係数推定値がマイナスであり,逆 U 字型の形状を
もつことが示されている.
図 1,図 2 および図 3 は,不平等指標を,それぞれ,教育ジニ係数,Bourguignon の L およびタイル指標とし,(6)式を推定した場合の推定値をプ
図1
図2
平均教育年数と教育不平等(教育ジニ係数)1971 年
平均教育年数と教育不平等(Bourguignon’s L)1971 年
―1
4
4―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
図3
平均教育年数と教育不平等(タイル指標)1971 年
表5
教育不平等と平均教育年数(1997)
EDYEAR
EDYEAR 2
R2
F
教育ジニ係数
0.015869
(10.478)
−6.61 E−04
(−5.329)
−0.022
−−−−
Bourgiginon の L
3.01 E−03
(7.926)
−1.36 E−04
(−4.376)
−5.67 E−03
0.738
タイル指標
3.28 E−03
(8.791)
−1.60 E−04
(−5.232)
0.042
2.995
教育不平等指標
注:括弧内は t 値.
ロットしたものである.いずれの指標の場合にも,平均教育年数の増大と
ともに,それぞれの値は増大しているという傾向が見て取れる.すなわ
ち,平均教育年数の増大とともに,教育年数の偏りが増大していることを
示唆している.
以上の分析は,1971 年のデータに基づくものであったが,さらに,1997
年のデータを用いて教育クズネッツ曲線の推定を行うと,それは以下のよ
うなものとなった.
表 5 では推定結果を示し,図 4 から図 6 は,図 1 から図 3 と同様に,実
際の値と推定値をプロットしたものである.1971 年の場合と比較する
―1
4
5―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
図4
図5
平均教育年数と教育不平等(教育ジニ係数)1997 年
平均教育年数と教育不平等(Bourguignon’s L)1997 年
と,(6)式の推定結果ははるかに悪化している.EDYEAR 2 の係数推定値
がマイナスであることから逆 U 字の形状を類推させるものの,この推定
結果の検討は今後の課題としておこう.
図 7 は,その手がかりとして,教育ジニ係数の場合について,1971 年
と 1997 年のデータを結合し,時点ダミーを用いて推定した結果をプロッ
トしたものである.
―1
4
6―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
図6
図7
平均教育年数と教育不平等(タイル指標)1997 年
平均教育年数と教育不平等(教育ジニ係数)1971, 1997 年
4.推定モデルと推定結果
所得不平等,教育年数の偏りあるいは不平等および経済成長の関係を以
下の式で特定化する.
―1
4
7―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
GINIY = α 1EDYEAR + α 2EDINEQ + α 3GROWTH + α 4X +u.
(7)
ここで,GINIY はジニ係数で捉えられた所得不平等であり,EDYEAR
と EDINEQ は,それぞれ,労働力の平均教育年数とその偏りあるいは不
平等である.また,GROWTH は所得の年成長率である.X には,定数項
および他のコントロール変数が含まれ,u は撹乱項である.
教育不平等の指標としては,前節で示した,労働者の教育年数に関す
る,ジニ係数,Bourguignon の L そしてタイル指標をあてはめる.
コントロール変数の選択に関しては,先行の研究では,人口の変化や政
府の政策に関する変数が選ばれている.
推定の過程では,Sylwester(2000, 2003)が,クロス・セクションデータ
を用いて教育の水準および偏りと所得不平等との相関を検証する場合の問
題点を指摘している.すなわち,平均教育年数が低い場合には偏りが大き
いことが予想され,それにともなって所得の不平等も大きくなる,あるい
は所得の不平等が大きいと教育の偏りも大きくなる,ということが起こり
うるということである.それゆえ,Sylwester(2000, 2003)は,被説明変数
として,1 時点での所得不平等指標ではなく,2 時点間での所得不平等の
変化を用いることを提唱している.われわれのデータの場合には,1970
年 と 1994 年 の 両 時 点 で の 所 得 の ジ ニ 係 数 が 得られる た め , Sylwester
(2000, 2003)の方法を適用することができる.それにより,先行の多くの
研究では考慮されなかった,時間の時限の要因を考慮することができる.
したがって,われわれの推定式は(8)式のように特定化される.
CHINEQ =C + β 1GINIY0+ β 2EDYEAR0+ β 3EDINEQ0+ β 4GROWTH + β 5X0+v.
(8)
ここで,CHINEQ は 1970 と 1994 の間の所得のジニ係数の変化(差)で
―1
4
8―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
表6
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
所得不平等:年間収入によるジニ係数(全世帯)
都道府県
1970
1994
差
北 海
青 森
岩 手
宮 城
秋 田
山 形
福 島
茨 城
栃 木
群 馬
埼 玉
千 葉
東京都
神奈川
新 潟
富 山
石 川
福 井
山 梨
長 野
岐 阜
静 岡
愛 知
三 重
滋 賀
京 都
大 阪
兵 庫
奈 良
和歌山
鳥 取
島 根
岡 山
広 島
山 口
徳 島
香 川
愛 媛
高 知
福 岡
佐 賀
長 崎
熊 本
大 分
宮 崎
鹿児島
0.326
0.418
0.345
0.332
0.441
0.322
0.299
0.327
0.391
0.351
0.337
0.357
0.402
0.359
0.355
0.347
0.326
0.340
0.339
0.330
0.328
0.360
0.340
0.375
0.367
0.451
0.385
0.370
0.337
0.325
0.329
0.281
0.334
0.346
0.284
0.344
0.346
0.347
0.366
0.345
0.267
0.378
0.389
0.428
0.347
0.297
0.273
0.298
0.272
0.279
0.274
0.273
0.299
0.276
0.296
0.287
0.274
0.283
0.301
0.291
0.279
0.294
0.281
0.273
0.278
0.280
0.273
0.288
0.296
0.289
0.266
0.294
0.308
0.287
0.292
0.309
0.289
0.292
0.282
0.286
0.282
0.294
0.294
0.300
0.330
0.311
0.296
0.289
0.313
0.291
0.294
0.302
−0.053
−0.120
−0.073
−0.053
−0.167
−0.049
0.000
−0.051
−0.095
−0.064
−0.063
−0.074
−0.101
−0.068
−0.076
−0.053
−0.045
−0.067
−0.061
−0.050
−0.055
−0.072
−0.044
−0.086
−0.101
−0.157
−0.077
−0.083
−0.045
−0.016
−0.040
0.011
−0.052
−0.060
−0.002
−0.050
−0.052
−0.047
−0.036
−0.034
0.029
−0.089
−0.076
−0.137
−0.053
0.005
注:沖縄県の場合は 1970 年のデータが得られないため除いている.
―1
4
9―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
ある.添字の 0 は,初期時点をあらわしている.表 6 では,1970 年と 1994
年の,年間収入(全世帯) によるジニ係数とその差が示されているが,4
つの県を除くすべての県でマイナスの値となっている.これは,所得のジ
ニ係数の値が小さくなっているということであり,所得不平等の観点から
は平等化が進んでいるということになる.
それぞれの変数の基本等計量は表 7 に示されている.なお,初期時点は
1970 年であるが,教育年数に関するデータは,1971 年のもので代用して
いる.また,コントロール変数群については,各県の公教育費・県民所得
比率,公的資本投資・県民所得比率および人口密度ダミーを用いている.
(8)式の推定結果が表 8, 9 および 10 で示されている.3 つの教育不平等
の指標それぞれの場合についてほぼ同様の結果が得られている.すべての
場合で,平均教育年数 EDYEAR0 の推定係数は正で有意となっているが,
これは,より高い平均教育年数あるいは人的資本をもつ県では,所得不平
表7
GINIY 94 GINIY 70 CHINEQ EDGINI
GINIY 94 1.000
GINIY 70 0.130
CHINEQ 0.203
EDGINI 0.094
EDL
0.079
ETHEIL 0.060
EDYEAR 0.163
GROWTH −0.284
RPY
0.029
PUBED 0.004
PUBINV 0.007
DUMPOP 0.164
平均
0.289
S.D.
0.013
最小値
0.266
最大値
0.330
1.000
−0.944
0.194
0.217
0.211
0.241
−0.172
0.215
−0.218
−0.314
0.141
0.350
0.038
0.267
0.451
1.000
−0.161
−0.188
−0.188
−0.184
0.076
−0.203
0.217
0.313
−0.085
−0.061
0.039
−0.167
0.029
1.000
0.990
0.982
0.957
−0.769
0.753
−0.771
−0.455
0.732
0.098
0.008
0.086
0.117
相関係数と基本統計量
EDL
1.000
0.997
0.945
−0.761
0.739
−0.747
−0.428
0.758
0.018
0.002
0.015
0.024
ETHEIL EDYEAR GROWTH
1.000
0.918
−0.750
0.718
−0.733
−0.399
0.751
0.019
0.002
0.016
0.024
1.000
−0.768
0.781
−0.755
−0.530
0.738
10.681
0.404
10.191
12.010
1.000
−0.825
0.802
0.591
−0.594
2.614
0.531
1.384
3.650
RPY
1.000
−0.957
−0.739
0.650
2.708
0.207
2.245
3.291
PUBED PUBINV DUMPOP
1.000
0.772
−0.612
5.410
1.557
2.534
9.323
1.000
−0.394
15.134
3.573
8.526
22.788
1.000
0.174
0.383
0.000
1.000
GINIY 94 : 1994 年の収入ジニ係数(全世帯),GINIY 70 : 1970 年の収入ジニ係数(全世帯)
,CHINEQ :GINIY
94 と GINIY 70 の差,GROWTH :一人あたり実質県民所得成長率(1970−1994,年平均),RPY :1970 年の実
質一人当たり県民所得(対数変換),PUBINV :県内総固定資本形成・県民所得比率(%,1970 年),PUBED :公教育費・県民所得比率(%,1970 年),EDYEAR :平均教育年数(1971 年),EDGINI :教育年数の
ジニ係数(1971 年),EDL : 教育年数の Bourguignon’s“L”
(1971 年),ETHEIL:教育年数のタイル指標(1971
年),DUMPOP :人口密度ダミー(1 km2 あたり 500 人以上=1,500 人未満=0).
―1
5
0―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
表8
所得不平等の変化(教育不平等が教育ジニ係数 EDGINI の場合)
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
C
−0.197
−0.178
−0.346
−0.079
−0.296
−0.085
−0.201
−0.195
(−0.559)(−0.506)(−0.937)(−0.226)(−0.771)(−0.240)(−0.532)(−0.503)
GINIY −0.957*** −0.960*** −0.948*** −0.949*** −0.952*** −0.951*** −0.943*** −0.944***
(−20.00)(−20.08)(−19.69)(−20.17)(−19.36)(−19.91)(−19.80)(−19.22)
EDYEAR 0.362**
0.282* 0.403*** 0.342**
0.345*
0.310* 0.374*** 0.364**
(1.980) (1.436) (2.181) (1.909) (1.619) (1.571) (2.037) (1.717)
EDGINI −1.453*** −1.182* −1.812*** −1.613*** −1.559* −1.465** −1.848*** −1.800**
(−1.866)(−1.450)(−2.194)(−2.103)(−1.641)(−1.758)(−2.266)(−1.876)
GROWTH −0.024*** −0.021*** −0.022*** −0.027*** −0.022*** −0.025*** −0.026*** −0.025***
(−3.202)(−2.810)(−3.039)(−3.592)(−2.802)(−3.132)(−3.355)(−3.104)
RPY
−0.054*** −0.019
−0.034 −0.069*** −0.019
−0.051 −0.053** −0.050
(−2.389)(−0.488)(−1.232)(−2.903)(−0.481)(−1.123)(−1.747)(−1.091)
PUBED
0.004
0.002
0.002
0.000
(1.104)
(0.555) (0.482)
(0.099)
PUBINV
0.001
0.001
0.001
0.001
(1.241)
(0.784)
(0.869) (0.719)
DUMPOP
0.012**
0.011*
0.011*
0.010
(1.698)
(1.347) (1.429) (1.297)
―
R2
0.909
0.910
0.910
0.913
0.909
0.912
0.913
0.910
注:括弧内は t 値.***1% 水準,**5% 水準,*10% 水準で有意.サンプル数 46.
表9
所得不平等の変化(教育不平等が Bouguignon’s“L”EDL の場合)
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
C
(8)
−0.147
−0.229
−0.360
−0.078
−0.356
−0.134
−0.254
−0.260
(−0.456)(−0.714)(−1.044)(−0.251)(−1.033)(−0.421)(−0.752)(−0.759)
GINIY −0.949*** −0.955*** −0.934*** −0.937*** −0.943*** −0.943*** −0.927*** −0.931***
(−20.02)(−20.39)(−19.66)(−20.51)(−19.47)(−20.32)(−20.10)(−19.43)
EDYEAR 0.318*** 0.272** 0.3746*** 0.330*** 0.326** 0.303** 0.373*** 0.355***
(2.002) (1.713) (2.334) (2.169) (1.944) (1.935) (2.410) (2.155)
EDL
−5.085** −4.820** −7.070*** −6.695*** −6.321*** −6.301*** −8.116*** −7.764***
(−1.932)(−1.857)(−2.448)(−2.547)(−2.110)(−2.346)(−2.853)(−2.543)
GROWTH −0.023*** −0.021*** −0.022*** −0.028*** −0.021*** −0.026*** −0.024*** −0.025***
(−3.185)(−2.808)(−3.006)(−3.775)(−2.767)(−3.282)(−3.529)(−3.239)
RPY
−0.053*** −0.008
−0.027 −0.072*** −0.003
−0.044 −0.049** −0.039
(−2.350)(−0.209)(−0.964)(−3.084)(−0.077)(−1.038)(−1.679)(−0.912)
PUBED
0.001*
0.004
0.003
0.001
(1.514)
(0.957) (0.800)
(0.346)
PUBINV
0.001*
0.001
0.001
0.001
(1.546)
(1.004)
(1.254) (1.008)
DUMPOP
0.016***
0.013** 0.014** 0.013**
(2.149)
(1.679) (1.925) (1.667)
―
R2
0.910
0.913
0.913
0.917
0.913
0.916
0.918
0.917
注:括弧内は t 値.***1% 水準,**5% 水準,*10% 水準で有意.サンプル数 46.
―1
5
1―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
表 10
所得不平等の変化(教育不平等が Theil 指標 ETHEIL の場合)
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
C
−0.017
−0.107
−0.1811
0.093
−0.197
0.025
−0.048
−0.064
(−0.064)(−0.393)(−0.632) (0.351) (−0.686) (0.090) (−0.170)(−0.218)
GINIY −0.948*** −0.955*** −0.933*** −0.937*** −0.942*** −0.942*** −0.926*** −0.930***
(−20.00)(−20.38)(−19.62)(−20.48)(−19.44)(−20.29)(−20.05)(−19.38)
EDYEAR 0.261** 0.219** 0.295*** 0.255** 0.256** 0.232** 0.283*** 0.269**
(1.920) (1.602) (2.181) (1.959) (1.810) (1.736) (2.158) (1.939)
ETHEIL −4.584** −4.351** −6.384*** −6.026*** −5.707*** −5.672*** −7.315*** −6.990***
(−1.927)(−1.855)(−2.444)(−2.536)(−2.108)(−2.338)(−2.843)(−2.534)
GROWTH −0.024*** −0.021*** −0.022*** −0.028*** −0.021*** −0.026*** −0.026*** −0.025***
(−3.197)(−2.819)(−3.027)(−3.787)(−2.784)(−3.290)(−3.547)(−3.251)
RPY
−0.053*** −0.008
−0.027 −0.072*** −0.003
−0.044
−0.049*
−0.039
(−2.355)(−0.209)(−0.970)(−3.086)(−0.077)(−1.033)(−1.682)(−0.907)
PUBED
0.005*
0.004
0.003
0.001
(1.518)
(0.962) (0.809)
(0.357)
PUBINV
0.001*
0.001
0.001
0.001
(1.547)
(1.003)
(1.254) (1.005)
DUMPOP
0.016***
0.013*
0.014**
0.013*
(2.142)
(1.670) (1.916) (1.658)
―
R2
0.910
0.913
0.913
0.917
0.913
0.916
0.918
0.916
注:括弧内は t 値.***1% 水準,**5% 水準,*10% 水準で有意.サンプル数 46.
等の縮小という視点からは,好ましくないという結果になっている.教育
不平等指標の係数に関しては,それは負となっており,所得不平等の縮小
に貢献しているという結果になっている.経済成長率の場合にも同様の結
果となっている.
以上の推定結果は,Sylwester(2003)がクロス・カントリーデータを用
いて,所得不平等の変化を被説明変数とし,高等教育機関への入学率を説
明変数として用いた分析結果と似かよった結果となっている.
5.結
び
本論文では,日本の都道府県別データを用いて,所得不平等の変化が,
経済成長率とともに,教育水準およびその偏りとどのように関連するか,
という問題について実証的視点から分析を行った.Sylwester(2000, 2003)
―1
5
2―
教育年数の偏り,所得不平等および経済成長
の方法に従い,所得不平等の指標そのものではなく,その変化を被説明変
数として用いて推定を行った.それにより,先行の多くの研究では考慮さ
れなかった,時間を通じての変化を分析に取り込んだ.
その結果,二つの時点での所得のジニ係数の変化 (本研究の場合低下)
が,労働者の教育水準と正の関係を,また,教育年数の偏りとは,負の関
係をもつことが明らかとなった.一方,所得のジニ係数の低下は一人あた
り県民所得の成長率とは負の関係をもつことが明らかとなった.
参考文献
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総務庁統計局『就業構造基本調査報告』日本統計協会(各年版).
総務庁統計局『社会生活統計指標』日本統計協会(各年版)
.
(2006 年 12 月 20 日受理)
―1
5
4―
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