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琉球列島,沖縄島北部地域の変成岩類(予報)

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琉球列島,沖縄島北部地域の変成岩類(予報)
琉球列島,沖縄島北部地域の変成岩類(予報)*
我 謝 昌
1、 はじめに
琉球列島に,緑色片岩相,藍閃片岩相に属する千枚岩右結晶片岩が露出することは,かなり古くから知
られていた。しかし,これらの島々に点在する変成岩類についての報文は,きわめて断片的な記載にとど
まっていることが多い。そのため,琉球列島の変成岩類の分布,変成相,地質構造,あるいは変成作用の
特性などについての詳細は,ほとんど知られていない。
小西(1915)は琉球列島の地質構造論的研究を行なって,琉球列島の構造を,大陸側より,甑島帯一石
垣帯一本部帯一国頭帯一島尻帯一熊毛帯の6帯に区分し,それぞれを,西南日本の地質の帯状構造,すな
わち領家帯一三波川帯一秩父帯一四万十北帯一四万十南帯一海中(四万十南帯よりも外側の位置)に対比
している。日本列島の広域変成帯は,多くの人々の研究の結果,日本の地殻の進化過程上に,かなり明確
に位置づけられている(Miyashiro,A.1961,1972)。しかし,1琉球列島の変成岩類については,これに
見合うだけの詳しい研究が欠けているので,日本列島の広域変成帯が琉球列島にまで延びていて,琉球の
変成帯は班知の広域変成帯のいずれかに対比できるものなのか,あるいは,琉球列島の変成岩類は独自の
広域変成帯をかたちづくっているものなのかは,いまのところ明らかではない。
筆者は,琉球列島に発達する変成岩類の分布,鉱物組成を詳しく調査して変成分帯を行ない,それにも
とづいて琉球列島の変成史と日本の変成史との対応関係を解明することを目的として研究を進めてきた。
本論文では,その一環として,沖縄本島北部地域に分布する黒色千枚岩,黒色片岩,石英長石質片岩,緑
色片岩などの変成岩類の野外調査の結東と顕微鏡観察の結果とを報告する。
2, 琉球列島の変成岩類の研究史
琉球列島の変成岩の研究は,脇水鉄五郎(1906),吉井政敏(1933),Foster,H(1960),種子田定勝
(1961),KKOMSHI(1963,1964),小西健二(1965),黒田吉益・宮城宏之(1967)らによって行
なわれた。
沖縄島や慶良列島の変成岩類の記載は,脇水(1906),種子田(1961),K.KOMSHI(1963)によっ
て行なわれ,脇水(1906)は,慶良間列島に分布する変成岩類は,四国の三波川層下部に類似しているこ
とを報告し,小西(1915)は,地質構造的位置や岩石学的内容から西南日本四万十累帯北帯の緑色片岩相
の変成岩熱と比較している。また,琉球列島の各帯に分布する緑色片岩類の鉱物組合せの変化を求めて,
石垣累帯は,藍閃片岩相,本部累帯は緑色片岩相,国頭累帯は,緑簾石一角閃岩相,緑色片岩棺に属する
ことを明らかにし,大局的に見て,石垣累帯から本部累帯に至る一つの変成帯と辺土構造線で本部累帯と
境される国頭累帯に別の変成帯が識別されることを指摘している。名護累層に属する変成岩類で代表され
る国頭変成帯は,四万十変成帯北帯の変成岩類に対比している。名護累層中より,緑簾石一角閃岩相が再
*この小論を1972年7月10日未明,亡くなられた日本大学助教授木曽敏行氏の霊に捧げる。
一15一
研究紀要(1973)
確認されれば地帯構造上,比較される西南日本外帯の四万十累帯北帯の変成岩の従来の記載と異なり,琉
球列島固有の変成帯を形ブくるものか否か再検討されねばならないことを述べている。緑簾石一角閃岩相
が存在することは種子田(1961)の報告で明らかではあるが,坂野の予察した結果によれば,角閃片岩とし
て取り扱うより,relictである可能性もあることを指摘している(小西1965)。K KONISHI(1964)
は,渡名喜島の調査をしたさい,渡名喜累層中の千枚岩類,緑色片岩類について報告し,渡名喜島と出沙
島の結晶片岩,千枚岩は,石垣島南部に分布する岩石に比較している。
八重山群島,石垣島,西表島の変成岩類の研究は,吉井(1933),Foster(1960)・種子田(1960)・
K.KONISHI(1963),小西(1965),黒田・宮城(1967)によって行なわれた。吉井(1933)によって
(半沢によって,西表および小浜島から採集し1た藍閃片岩)藍閃石が詳しく記載され,U・S・G・Sの
FQster(1960)女史や種子田(1961)らによって,藍閃片岩が石垣島北部に広く分布することが確認され
ている。K.KONISHl(1963)は岩石を記載し,岩石学的内容から石垣島,西表島の結晶片岩は,藍閃
片岩相に属し,西南日本三波川変成帯に比較している(小西1965)。黒田・宮城(1967)は,八重山群島
の変成岩類を記載し,変成分帯を試みて,地質構造的見地から石垣島の藍閃片岩は,台湾東部のTananao
変成岩地域の西北側Yuh帯と呼ばれる藍閃片岩を含む変成帯に比較し,Yuli一石垣島帯とも呼ぶべき変
成帯で,三波川変成帯とは別個のものであることを指摘している。
琉球列島の変成史を明らかにするために,放射能年代測定が計画され,石垣島北部のツムル累層中の結晶
片岩(白雲母)のK−Ar年代測定の結果,174myを示し,ジュラ紀初頭にあたることがわかった(K・
SHIBATA,K.KOMSHI,T,NOZAWA1968)。
魁.
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図1 琉球列島,沖縄島位置図
一16一
琉球列島,沖縄島北部地域の変成岩類(予報)
3, 琉球列島,沖縄島の位置
琉球列島は,太平洋西北部の地質学的特質ともいえる花繰列島をつくる代表孤で,アジア大陸の東端,
フィリピン海西縁部に位置し,九州の南端から台湾に至る約1,300kmにわたって,全体として弧を描き
ながら数多くの島々が点在する。浅い東シナ海と深い琉球海溝の間に存存し,凸面部を太平洋に向けて弧
状に連なっている。すなわち琉球弧を形づくっている。琉球弧は,太洋側から大陸に向けて,太洋深海
盆,海溝,非火山性島弧,凹みの地帯,火山性島弧,大陸側内海という典型的2重弧の地形を示してい
る。しかし,沖縄島以南では1重弧である。
琉球列島は,北から順に吐喝圓群島,奄美群島,沖縄群島,宮古群島,八重山群島に区分されている。
本研究の調査地域は,沖縄群島に属し,琉球列島中最大の沖縄島(1,220km2)である。くの字形の細長い
島で,北緯26002’∼26。52’3”,東経127。38’∼128。20’の間に位置している。北の辺土岬より南の喜屋
.武岬まで延長約118km,幅は,いちばん狭い所で石川∼仲泊間の4km,広い所でも15km内外である。
調査地域は,沖縄島北部地域の国頭村宇嘉∼大宜味村塩屋間を主対象地区とし,名護市源河∼恩納村山田
付近,本島を縦断する国道58号線に沿った地域である。
4・ 沖縄島の地形,地質概要
沖縄島の北部地域と中南部地域とは,まったく違った地形,地質を呈し,地質学上,3つの構造帯に区
・分できる(K KONISHI1963)。北部地域は,四万十累帯北帯に対比される国頭累帯と秩父累帯に対比
される本部累帯に分けられ,中南部地域は,四万十累帯南帯に対比される島尻累帯にわけられる。
国頭累帯は,北より西銘岳(420m),照首山(395m),与那覇岳(498m),伊湯岳(449m),玉辻山
(289m),津波山(235m),宇橋山(299m),多野岳(395m)・名護岳(345m),久志岳(335m),愚納
岳(362m),石川岳(204m),読谷岳(201m)などの峰が連なる台地状の山岳地帯で,多くの短い川によ
って侵食されている。これら主軸山系を構成する地層は,四万十北帯に対比される中生代のジュラ∼白亜
・紀層で西海岸部は黒色千枚岩,黒色片岩,石英長石質片岩,緑色片岩などの低度広域変成岩からなる名護
累層で構成され,東海岸部には,砂岩,粘板岩,頁岩からなる嘉陽累層が分布している。
名護断層で断ち切られた本部半島は,本部累帯に属し,本地域は,渡久地から伊豆味に至る東西に走る
・谷によって北部と南部の山岳地帯に分けることができる。北部は乙羽岳(277m)など200∼300mの山岳
地域で,南部は八重岳(453m),嘉津宇岳(451m)などからなっている。これらの山系は,古生代二畳
紀の石灰岩,チャート,粘板岩類よりなる本部累層で構成されている。これらは,秩父累帯に対比される
古生層である。最近,本部半島北西部,瀬底島から中生代の示準化石が発見された(石橋1970)。沖縄島
の主軸山系を構成する名護累層,嘉陽累層,本部累層は,沖縄島の基盤岩類である。これらの累層は,第
4紀の国頭礫層によって覆われている。
中南部地域は,200m以下の起伏のゆるやかな台地状地形を呈し高い山はない。これらは第3紀の島尻
.層群で構成され,その上位には,琉球石灰岩(第3紀の那覇石灰岩,第4紀の読谷,牧港石灰岩),国頭
礫層(中部地域に分布)や知念砂岩層(南部地域)が不整合に重なっている。知念砂岩層は,知念半島に
、小露出しているだけで,琉球石灰岩の下部,那覇石灰岩とは整合の関係にある。琉球石灰岩と国頭礫層
一17一
研究紀要(1973)
辺土岬
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ノ 佐手
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赤丸岬」 与那 安田
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津波山
瀬底島
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武瀬名岬 嘉陽
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仲泊
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10㎞
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小禄
知念 6グ
喜屋武岬
図2 沖縄島地域概念図
一18一
琉球列島,沖縄島北部地域の変成岩類(予報)
とは不整合の関係にある。知念砂岩層と国頭礫層と直接の関係は見られないが,同時異相的な横の関係で
島尻層群に不整合に重なっている(福田他24名1970)。島尻層群は,上部中新統の最下部から鮮新統にま
たがる地層で上位から新里層,、与那原層,那覇層の3層に分けられる。新里層は南部一帯に分布し,砂岩
と泥岩の互層で淡黒色の細粒凝灰岩層を挾む。また,軽石の円礫を多量に含む砂岩層もある。与那原層は,
ヰ1南部地域に広範囲に分布する。灰色,帯青色,青灰色の泥岩よりなり,凝灰岩層を挾む。那覇層は,
・暗灰色のシルト質粘土,細粒砂岩からなる。地表に露出しているのは,那覇市小禄付近に見られるだけ
で,大部分,地下に発達する。最近,那覇層中に水溶性天然ガスが埋蔵されていることがわかり,開発が
待たれている。これらの島尻層群は,大局的に見ると南東方向に緩斜する単斜構造をなしている(影山,
福田,小野寺1970)。国頭累帯と島尻累帯とは,天願構造線によって境され,中南部地域は島尻累帯に属
し,四万十累帯南帯に対比される地域である。天願断層は,国頭礫層,那覇石灰岩などで覆われて,地表
で見ることはできず,米軍の水井戸資料や等重力線図より南落ちの正断層と推定されている(福田他24名
1970)。HANZAWA・S(1935)は,琉球列島の地形,地質を総括し,本調査地域は古生層の粘板岩類か
らなるとしている。小西(1965)の地質構造論的研究によると,古生層は,辺土岬,赤丸崎,本部半島な
どに分布しているだけで他の地区の古生層は,西南日本外帯の四万十累帯北帯のものに対比される中生層
である。この中生層は,複雑に摺曲した変成岩類よりなる名護累層と砂岩,頁岩からなる嘉陽累層の発達
で特徴づけられる。嘉陽累層中のシルト質マトリックスよりなる複成礫岩は,化石に富んだ石灰岩の大
礫,中礫を含んでいる。その礫岩中より白亜系の化石が見い出されている。これらを被覆する第4紀の国
頭礫層は海岸沿いの,標高80∼200mの台地に広く発達する赤色の砂礫層で,赤土からなるマトリックス
中に,石英やチャート類,変成岩の円礫が含まれている。
辺土岬や浜付近に分布する古生代の石灰岩と名護累層とは衝上断層で接する。辺土岬は,沖縄島の最北
端で,小規模なカルスト地形を呈し,辺土崎山(248m)の北方には,何段かの海岸段丘がある。辺土岬
は,灰白色の古生代石灰岩で構成されている。この石灰岩は,化石を含まないが,本部半島の古生代石灰
岩と同質である。辺土崎山は,石灰岩の岩柱が切りたって絶壁をなしている。F.S.MACNEIL(1960)
は,この辺土崎山の石灰岩をある種のKlippeとみなし,辺土衝上断層と呼んでいる。辺土衝上断層は,
宜名間の北東および辺土岬の南に沿って観察できる。辺土衝上断層の下位は,砂岩,粘板岩,黒色変成岩
類よりなる名護累層である。これらは・辺土部落や宜名間部落を通る国道58号線に沿って露出している。
5. 変成岩の分布
沖縄島北部地域における変成岩類の分布は,広域変成作用によってできた,黒色千枚岩,黒色片岩,石
英長石質片岩,緑色片岩などからなる名護累層に限られ,一部,嘉陽累層におよんでいる。これら変成岩
類は・恩納村山田付近より国頭村辺戸付近まで約160kmにわたって,西海岸線に沿って分布している。東
海岸では,石川市金武村にまたがる伊芸∼屋嘉一帯の海岸に沿って黒色片岩が露出しているだけで,ほとん
ど・嘉陽累層や国頭礫層で被覆されていて露出はよくない。変成岩類の分布の南限は,基盤岩類と島尻層
群を境する天願構造線の通る・天願∼コザ線以北である。これら変成岩類の片理面は一般に,島弧の延長
方向(北東∼南西)に一致しているが・国頭地域では・N24。E・武瀬名岬付近ではN60。E,仲泊付近では
N50。Eとなり・部分的に変化している。傾斜は・北西または西落ちで,比較的ゆるく,30∼50。の場合が
多く・時に急傾斜するものもある。変成岩分布地域の地質構造の詳細は,まだ明らかではないが,非常に
一19一
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琉球列島,沖縄島北部地域の変成岩類(予報)
激しい摺曲構造の発達した地域である。
本地域の変成岩は,泥質堆積岩起源の黒色片岩,黒色千枚岩,緑色片岩,砂岩起源の石英長石質片岩よ
りなっている。黒色片岩は,石英一石墨を主成分とし,片理が著しく微摺曲を呈する。淡褐色の石英長石
質片岩は主に石英からなる淡複色部と石墨からなる黒色部と縞状組織をなす。個々の石英粒は,レンズ状
に引き伸ばされ,また波動消光を呈する。緑色片岩は淡緑黄色の緑廉石と黒緑色の緑泥石が縞状になり,
片理が著しく発達するものもある。一般に緑色角閃石を含む緑色片岩は片理が著しくなく塊状である。黒
色片岩,黒色千枚岩は,本調査地域において広範囲に分布し,恩納村山田から国頭村奥まで連続して露出
している。石英長石質片岩は,宇嘉,辺野喜,与那から安田に抜ける道路に沿って露出している。斜長石
一緑泥石一緑廉石からなる緑色片岩は,佐手北方,佐手川,まえかわ橋,与那付近,伊地付近にかけて散
点して露出している。緑色角閃石を含む緑色片岩は,宇良より奥間付近まで連続して露出する。
緑色片岩は名護以南には,まだ見出されていない。
1)北部地域の変成岩の鉱物組合せ
沖縄島の変成岩は,種子田(1961),K、KONISHI(1963)によって,絹雲母一石墨一石英千枚岩∼片
岩,石墨(一方解石)千枚岩∼片岩,緑廉石一曹長石一角閃石片岩,アクチノ閃石片岩,アクチノ閃石一緑
廉石一緑泥石片岩,アクチノ閃石一緑廉石一方解石片岩,石英一絹雲母一灰長石片岩が記載されている。
筆者は,130個の岩石を採集し検境分析を行なった。本地域で普通に見られる変成岩類の鉱物組合せを
記す。変成岩分布図とサンプル採取地点の詳しいルートマップと検境データーを,図3,図4,表1に示
す。
本地域の黒色片岩,千枚岩類は,黒色絹糸光沢を呈し石英・石墨が微摺曲をくりかえし・片理が著しく
発達した岩石である。境下では一般に,石墨が繊維状又は複雑な微摺曲を呈した組織である(図版2,3,
6)。主成分鉱物は,石英,石墨である。副成分鉱物には,緑廉石,絹雲母,斜長石,単斜ユウレン石,白
雲母,方解石,緑泥石などが含まれる。ほとんどの黒色片岩は方形の金属鉱物を含んでいる。
黒色片岩および黒色千枚岩類は,次のような鉱物組合せをもっている。
緑廉石一方解石一白雲母一斜長石一石英一石墨,緑廉石一石英一石墨
緑廉石一絹雲母一石英一石墨 石英一絹雲母一石墨,石英一石墨
緑廉石一絹雲母一斜長石一石英一石墨 斜長石一緑泥石一方解石一石墨
緑廉石一斜長石一石英一石墨 斜長石一石英一石墨
絹雲母一方解石一単斜ユウレン石一緑泥石一斜長石一石英一石墨,絹雲母一石英一石墨
石英長石賓片岩は,淡褐色から黒褐色の変成岩で,斜長石一石英の部分と石墨の縞状組織をなす。片理
は著しくない。石英一斜長石を主成分に,副成分鉱物として,緑廉石,絹雲母,緑泥石,方解石,単斜ユ
ゥレン石,石墨を含む。石英一斜長石と糸状の絹雲母,石墨が平行配列している。 (図版4,5)金属鉱
物も普通に含まれる。石英長石質片岩は・次のような鉱物組合せをもっている。
隷廉石一絹雲母一石墨一斜長石一石英 絹雲母一石墨一斜長石一石英
緑廉石一絹雲母一斜長石一石英 絹雲母一方解石一斜長石一石英
緑廉石一方解石一斜長石一石英 絹雲母一白雲母一緑泥石一石墨一斜長石一石英
緑廉石一緑泥石一白雲母一斜長石一石英 絹雲母一単斜ユウレン石一斜長石一石英
石墨一方解石一絹雲母一緑簾石一斜長石一石英 絹雲母一単斜ユウレン石一石墨一斜長石一石英
一21一
研究紀要(1973)
表1 沖縄島北部地域の変成岩の鉱物組合せ
、
mineral
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ROute MざP一’ Qu
PllChlIEp
1
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2
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3
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5
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4
6
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7
9
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11
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12
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18
19
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22
23
24
辺野喜橋
BENOKI
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佐 手 橋
SATE
25、L
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26
27
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31
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33
佐 手 川
SATE
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
一22一
Clz
HO
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Mus
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Gra
琉球列島,沖縄島北部地域の変成岩類(予報)
∼一∼︳一 mineral
Route Ma企\
Sample No、\\1
Qu
Pl
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Ep
46
471
まえかわ橋 472
48
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与 那 橋 50
YONA 51
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与 那 橋 57
YONA 58
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1 60
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SHINSA 62
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76
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辺土名橋 85
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87
88
89
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一23一
Clz
HO
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研究紀要(1973)
蔽面一聖響i軌
Samle No \
辺 土 名
HENTONA
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大 宜 味
101
102
103
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105
106
107
108
199
110
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112
源 河
113
114
115
116
OGIMI
NEROME
GENGA
Ch1
Ep
Clz
HO
Act
Mus
91
92
93
94
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97
98
99
100
JANA
Pl
Qu 石英
Act アクチノ閃石
Pl 斜長石
Mus:白雲母
Chl 緑泥石
Ser 絹雲母
Ep 緑簾石
Ca1 方解石
Clz
Gra 石墨
単斜ユウレン石
HO 緑色角閃石
一24一
Ser
Cal
Gra
琉球列島,沖縄島北部地域の変成岩類(予報)
石墨一絹雲母一白雲母一斜長石一石英 絹雲母一緑廉石一緑泥石一石墨一斜長石一石英
石墨一緑泥石一緑廉石一斜長石一石英 単斜ユゥレン石一石英一石墨一斜長石
緑色片岩は,淡緑の緑簾石と濃緑の緑泥石が縞状構造をなし,片理が著しく発達するものと,塊状で片
理が著しくないものがある。一般に片状組織が発達している(図版7,10)。微榴曲を呈するのもある(図
版9,12)。主成分鉱物は緑廉石,緑泥石,緑色角閃石,アクチノ閃石,斜長石である。副成分鉱物には.
石墨,方解石,白雲母,単斜ユウレン石を含む。緑色片岩は,次のような鉱物組合せをもっている。
単斜ユウレン石一緑色角閃石一アクチノ閃石一緑廉石一緑泥石一斜長石
単斜ユウレン石一緑色角閃石一斜長石一緑廉石一緑泥石
斜長石一単斜ユウレン石一方解石一緑廉石一アクチノ閃石
斜長石一石墨一絹雲母一方解石一単斜ユウレン石一緑泥石
斜長石一緑色角閃石一単斜ユウレン石一緑廉石一緑泥石
斜長石一緑色角閃石一単斜ユウレン石一緑泥石一アクチノ閃石
斜長石一緑廉石一アクチノ閃石 『 。
斜長石一白雲母一緑廉石一緑色角閃石一単斜ユウレン石一アクチノ閃石
斜長石一緑泥石一石墨一緑廉石一アクチノ閃石
斜長石一緑廉石一緑泥石一方解石一アクチノ閃石 斜長石一緑廉石一アクチノ閃石
斜長石一アクチノ閃石一緑廉石一緑泥石 斜長石一白雲母一緑廉石一緑泥石
斜長石一石墨一緑廉石一緑泥石 斜長石一緑廉石一緑泥石
緑泥石一斜長石一単斜ユウレン石一アクチノ閃石
緑泥石一緑廉石一斜長石一単斜ユウレン石一アクチノ閃石
緑色角閃石一緑廉石一斜長石一アクチノ閃石
緑石角閃石一斜長石一緑廉石一単斜ユゥレン石一アクチノ閃石一緑泥石
緑色角閃石一単斜ユウレン石一アクチノ閃石一斜長石
白雲母一緑廉石一単斜ユウレン石一斜長石一緑泥石一アクチノ閃石
方解石一緑廉石一石墨一緑泥石一斜長石,方解石一緑廉石一緑泥石一斜長石
2) 変成岩の分布
宇嘉北方,宜名間部落南より座津武トンネル間は,嘉陽累層に属する青灰色∼褐色で硬い緻密な,節理
が発達している砂岩が露出している。宇嘉川における岩石は,2mmぐらいの針状の石墨を含んだ青灰色
の硬砂岩で約70。くらいに急傾斜している。石墨は伸長方向に配列している。境下においては,砕せつ構
造を呈し,石英一斜長石を主成分に,緑廉石や金属鉱物を含む。石英は波動消光を呈し,マトリックスは
炭質物,微粒結晶でうめられている(図版1)。
宇嘉橋∼辺野喜橋における変成岩類は,黒色絹糸光沢をもつ黒色片岩で石英一石墨を主成分とし絹雲母
を含む千枚岩ないし片岩で海岸に沿った地域は辺野喜まで連続して露出する。走向はN30。E∼N500Eで
島軸に沿い,傾斜は300∼45。Wである。片理が著しく複雑な微摺曲をくりかえす石英脈が発達している。
境下で石墨は,繊維状で,石英は細粒で石墨中にレンズ状に入っている。辺野喜橋北方,400mの地点に
は,塊状の硬砂岩と石英,長石がレンズ状に引き伸ばされ,石墨が片状方向にのび,マトリックスは炭質
物,微粒結晶からなる岩石が接触している。石英は波動消光が著しく,圧砕された礫岩状の岩石である。
一25一
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! (1973)
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- 26 -
琉球列島,沖縄島北部地域の変成岩類(予報)
これらは一般に,名護累層と嘉陽累層の接触部付近に見られる。
辺野喜川地域には,粘板岩,石英長石質片岩,黒色片岩などが分布する。石英長石質片岩は褐色部と黒
色部の縞状組織を示し,片理は黒色片岩に比べて著しくない。石英長石質片岩は緑廉石一絹雲母一石墨一
石英一斜長石からなる。これらの走向は一般にN20Q∼30。Eで30∼60。に傾斜している。
辺野喜橋∼佐手橋間には,黒色片岩,石英長石質片岩,緑色片岩など分布し,石英長石質片岩は緑泥石
を含んでいる。硬砂岩と黒色片岩∼千枚岩の接触面が見られ,複雑に摺曲している。
佐手川地域には,黒色片岩,石英長石質片岩,斜長石一緑泥石一緑廉石一方解石からなる緑色片岩が露
出する。これらは,佐手部落,まえかわ橋付近の海岸に露出する緑色片岩と同じものである。変成岩類の
一般的走向はN20。E,50。Wである。
謝敷から与那橋間では,与那橋の北,約700mの地点の黒色片岩中に幅約20mの赤茶褐色の風化された
石英斑岩の岩脈が貫入している。本地域には黒色片岩の露出は少なく,片理が著しい斜長石一単斜ユウレ
ン石一緑廉石一アクチノ閃石一緑色角閃石からなる緑色片岩が2カ所で露出している。
与那部落より安田∼安波に抜ける道路には,粘板岩,石英長石質片岩,および石英一斜長石一緑泥石一緑
廉石一絹雲母一単斜ユウレン石一白雲母を含む変成岩が分布している。新又橋付近には嘉陽累層に属する
硬砂岩が露出する。岩相は宇嘉川における岩石と同じである。嘉陽累層と名護累層の接触面には・石英長
石質片岩と砂岩に挾まれて圧砕された礫岩状の岩石が存在する。この圧砕岩中の石英は,レンズ状に引き
伸ばされ,波動消光が著しい。走向傾斜は一般にN40。E,20∼500Wである。
与那∼辺土名橋間の変成岩類は,塊状の緑色片岩と片理の発達した緑色片岩,泥質岩起源の黒色片岩・
黒色千枚岩などである。伊地から宇良橋付近に露出する塊状の緑色片岩は斜長石一緑泥石一緑廉石一単斜
ユウレン石一アクチノ閃石一緑色角閃石一方解石などを含む。片状組織の発達した緑色片岩は・斜長石一
緑泥石一緑廉石一単斜ユウレン石一緑色角閃石一方解石一石墨を含み,与那大橋付近の道路に沿った地域
に分布し,黒色片岩を挾んでいるこれらの緑色片岩は与那部落より伊地,宇良,辺土名,奥間,浜・謝名
城,大宜味,根路銘,安根,源河,稲嶺東方まで分布し,数多くの断層によって切られている。
部瀬名岬から伊武部付近に見られる黒色片岩類は,世富慶,幸喜,瀬良垣にも露出し,赤褐色の国頭礫
層に被覆されていて,海岸部をのぞいて露出が悪い。これらの黒色片岩類は宇嘉付近に分布するものと同
種で,片理が著しく石英脈が微摺曲をくりかえした複雑な構造を示す。走向は一般にN30∼600E・傾斜
は急傾斜する部分もあるがだいたいにおいて400NWである。一部,石英片岩を挾んでいる部分もある。
読谷村喜名北方には,名護累層の分布の南端にあたり,固結度の弱い赤色粘板岩が分布している。それ
より北方1kmの地点では,黒色片岩が分布し,上部には,砂岩,チや一ト質の細礫および・石英・変成岩
の礫が堆積している。走向はN−Sで傾斜は20・Wである。俗称タコー山は,熱帯性樹林が繁茂し・岩石の.
露出は非常に悪い。さらに北方1.5kmの久良波部落から真江田岬では第3紀の那覇石灰岩からなる約10・
mの尖塔がある。山田ドラィブィン付近に露出する黒色片岩は,北部宇嘉付近に分布する黒色片岩類と同
種である。これら黒色片岩は,複雑に微摺曲した内部構造をもつ片理の著しい変成岩類である。国道58号
線に沿った海岸付近の岩石は,ほとんど黒色片岩,黒色千枚岩,赤色粘板岩類である。これら黒色片岩は山
田から辺土岬まで帯状に連続して露出し,与那北方,津波,後原,世富慶の南東,轟滝・名嘉真の西方に
は石英斑岩の貫入が見られる。世富慶の南東,轟滝,名嘉真の西方の石英斑岩は灰白色で,6角板状の黒
雲母,石英の斑晶が見られ,節理が発達する。瀬良垣でも黒色片岩中に安山岩質の岩脈が貫入している。
一27一
研究紀要(1973)
6。むすぴ
1。 本地域の変成岩は泥質堆積岩起源の黒色片岩,黒色千枚岩,緑色片岩,砂岩質起源の石英長石質片岩
からなる。黒色片岩,黒色千枚岩は宇嘉付近においてよく露出し,本調査地域全般にわたって分布し
ている。石英長石質片岩は嘉陽累層に漸移する付近に見られる。緑色片岩は片状組織の発達するもの
と,塊状で片理は著しくないものとあり,塊状の緑色片岩には緑色角閃石が普通に含まれている。
2・緑色角閃石を含む緑色片岩は宇良付近から辺土名,奥間付近にかけて連続して露出している。与那大
橋,浜,源河付近にも散点して分布している。もし,この緑色角閃石が普通角閃石であれば,緑廉石
一角閃岩相の変成相に属し,小西も指摘しているように地帯構造上比較される四万十北帯の変成帯と
は違った変成帯に対比されるものである。
3・ 本研究で明らかになった辺土名付近に広範囲に分布する緑色片岩の緑色角閃石の化学組成を決定し,
本調査地域を含めた沖縄島の地質構造的位置を明らかにしなければならない。
謝辞
本論文作成にあたり有益な助言と種々御検討下さった日本大学応用地学教室の皆様方に感謝いたしま
す。
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一28一
琉球列島,沖縄島北部地域の変成岩類(予報)
METAMORPHIC ROCKS IN THE NORTHERN PAPT OF
OKINAWA ISLAND,RYUKYU ISLANDS
Schoichi GAJA
The Kunigami belt bordered by the Hedo and Tengan tectonic lines in Okinawa−jima con−
sists of phyllite,schist,slate and shale。 The metamorphic rocks develop regionally in the
westem coast having a general trend of NE−SW with minor variations・In the eastem coast・
the metamorphic rocks are covered by the marine fomations and crop out merely sporadically・
The metamorphic rocks are composed of black phyllite,black schisちand green schist drived
from pelitic sediments, and quartzo−feldspathic schist of sandstone origin・ The black
phyllite and black schist distribute widely,and the other two occur only in restricted areas。
More than130thin sections of tbese rocks were observed under the microscope・ The results of
these observations,considered in terms of mineral paragenesis,suggest that tLe rocks in the
surveyed area are low grade regional matamorphic rocks wich belong to the green schist facies.
At present,however,Held and laboratory evidence is not su伍cent for correlating the metamorphic
belt in Okinawa−jima to any of the well established regional metamorphic belts in Japan or
Formosa.
一29一
図 版 説 明
1.
硬砂岩 (Sample 54)下方偏光板のみ,
x20
2.
黒色千枚岩 (Sample 17)下方偏光板のみ,
×20
黒色片岩 (Sample126)下方偏光板のみ,
×20 恩納村山田
3,
4.
石英長石質片岩(Sample20)下方偏光板のみ・ ×20
石英長石質片岩(Sample62)下方偏光板のみ・
×20
6.
黒色千枚岩 (Sample 10)下方偏光板のみ,
×20
7.
5.
緑色片岩
(Sample
80)上下偏光板 ,
×20
8,
緑色片岩
(Sample
46)下方偏光板のみ,
×20
9,
緑色片岩
(Sample
66)上下偏光板,
×20
10.
緑色片岩
(Sample
82)上下偏光板,
×20
11,
緑色片岩
(Sample
49)上下偏光板,
×20
12.
緑色片岩
(Sample
74)下方偏光板のみ,
×20
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